恋次元ゲイムネプテューヌ LOVE&HEART   作:カスケード

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第三十二話 ユニユニDay's

「―――着いたぞピーシェ! ここがラステイションだ!!」

 

「ほぉぉおお!! すごーい!!」

 

 

あくる日、少年少女達が重厚なる黒の大地、ラステイションへと降り立った。

最近この世界にやってきた黄色い少女ピーシェ、そして彼女を肩車している少年、黒原白斗。

傍から見れば親子にしか見えないやり取りである。

今までプラネテューヌで過ごしていたピーシェも、新しい光景に目を輝かせていた。

彼らと一緒に着いてきたネプギアも、自分の知る景色と差異があったのか色々見比べている。

 

 

「でもお兄ちゃん、前来た時よりも更に綺麗になったって感じだよね」

 

「ああ。 あれからも清掃活動は続けてくれているし、参加人数もかなり増えたんだってよ」

 

「お姉ちゃんもそう言うの実施すれば……いや無理かなぁ……」

 

「無理だって」

 

 

物珍しい、というよりも羨ましがっている様子だ。

ラステイションと言えば工業が盛んである故にあまり衛生環境がよろしくないイメージがあったが、それも徐々に払拭されている。

提案した甲斐もあったと、白斗は誇らしげに頷いていた。

 

 

「どうだピーシェ。 これがノワールの国だ、良い国だろ?」

 

「のわるのくに、すごい! ねぇ、ねぷてぬのくにとどっちがすごいの?」

 

「ははは、そんなの決められないよ。 どっちもいい国だからな」

 

「なんできめられないの?」

 

 

まだまだ幼いピーシェには、何がどう凄いのか分からないが、とにかく凄いと感じてくれている。

ただ、優劣や甲乙を付けられるようなものであるかと言えばそうでもない。

 

 

「例えばだ。 ピーシェは元気なのがいい所だ」

 

「うん! ぴぃ、げんきいっぱい!」

 

「で、ネプテューヌは一緒にいるのが楽しいだろ? そこがいい所だ」

 

「うん! ねぷてぬとあそぶの、たのしい!!」

 

 

幼さゆえに直感的に捉えてくれる。

今はまだたどたどしいだけで、ピーシェは物分かりがいい方だ。ちゃんと教えれば、ちゃんと理解してくれる。

白斗も彼女のとの会話を楽しみながら、どんどん教えていく。

 

 

「な? 他人には違ったいい所があるんだ。 だから比べることなんてできないんだよ」

 

「おぉー! ぴぃ、わかった!」

 

「いい子だなピーシェは」

 

 

言葉自体は難しいかもしれないが、何を言いたいのかは大体理解してくれる。

白斗も無理に吸収させるつもりはなく、今はただ頭の片隅にでも置いてもらえればそれでよかった。

ピーシェはそれを積極的にしてくれていると、白斗は頭を撫でてあげる。

 

 

「じゃ、ねぷぎあやのわるはどんなところがいいの?」

 

「ネプギアは素直な所だな。 そこがまた可愛い」

 

「ちょ、お兄ちゃんってばぁ……」

 

 

すると他の子達のいい所に興味を持ったらしい、ピーシェがそんな質問をしてきた。

そして白斗はサラリと答える。迷うことなどない、これが彼女のいい所だと自信を持って言えるから。

一方大好きな兄から、そして大好きな男の人から褒められてネプギアはうっとりする。

 

 

「のわるは?」

 

「真面目な所だ。 何に対しても真剣な所があの子の魅力だな」

 

「ねぷてぬ、よくふまじめっていわれるけどあれは?」

 

「あいつに真面目は無理だ。 ま、そこがいい所でもあるんだけど」

 

「だめなところなのに、いいの?」

 

「ふふ。 ピーシェにはちょっと難しいかもしれないけど、いつか分かるさ」

 

 

ノワールは何に対しても真面目。それは何に対して全力で向き合ってくれること。それも何にも代えがたい魅力である。

一方ネプテューヌはそれが出来ないが、だからと言って真剣に向き合えないかと言われればそれも違う。彼女は真面目とは違った方向で、その人の内面を見ることに長けていた。

その辺りの理解はさすがに難しいが、きっといつか理解してくれるだろうと白斗も敢えて詳しくは語らなかった。

 

 

「じゃー、おにーちゃんのいいところは?」

 

「俺ェ? ンなの、あるのかねぇ……って何だネプギア!?」

 

 

一方、自己評価に関しては極端に低い白斗。

自画自賛ならぬ自己嫌悪が激しいこの男だが、そんな彼に膨れっ面になりながら抱き着く少女が一人。

 

 

「お兄ちゃんのいい所はね! 何よりも優しいところだよっ♪」

 

「お、おいおい……ネプギア、言い過ぎだって」

 

「言い過ぎなんかじゃないもん! お兄ちゃんの優しさで、どれだけ救われたか!」

 

 

ふんす、と鼻息を立てて熱弁するネプギア。

ここまで捲し立てられると白斗は照れ臭くなってしまう。ノワールはツンデレと言うのはこの世界の常識ではあるが、案外この男にも当てはまるかもしれない。

 

 

「ぴぃ、わかるっ! おにーちゃん、やさしくてだいすきっ!」

 

「私も大好きー♪」

 

「うおおおおおっ!! 引っ付くなってー!!」

 

 

更にはピーシェまで抱き着いてくる。

可愛らしい少女二人に抱きつかれて嬉しくない男がいるだろうか。因みに周りにいた男達は当然、嫉妬の目を向けている。

そんな嫉妬の視線を居心地悪さを、しかし美少女二人からの抱擁に心地よさを感じながら白斗は移動を決意する。

 

 

「そ、そろそろ行こうぜ! 早くしないとノワール達が待ちくたびれちまう!」

 

「うん! 今日はお食事に呼ばれたんだよね?」

 

「ああ、そんなに料理がしたかったのかねぇ」

 

(いや、お兄ちゃんに食べてもらいたくして仕方がないんだよ……)

 

 

そう、今日彼らがこのラステイションを訪れた理由は食事に招待されたからだ。

基本白斗の住まいがプラネタワーであるため、ノワール達がプラネテューヌに赴くことが殆どだが毎回それでは申し訳ないと白斗の方から出向くことにした。

そこへ着いていきたいと駄々を捏ねだしたピーシェには勝てず、更には何故かネプギアまでもが同行することに。

 

 

「ねぷてぬもこれたらよかったのに……」

 

「ま、仕事が溜まってたからしゃーないわな」

 

 

そしてネプテューヌはこの場に居ない。

理由は言わずもがな、いつものサボり癖によって仕事が溜まりに溜まったからである。

当然イストワールの怒りも溜まりに溜まり、それはもう堪ったものではなく。

 

 

『ネプテューヌさん、こっちにキナサイ』

 

『ねぷぅう~~~!? は、白斗ぉ―――!!』

 

『夜には戻るからー』

 

 

これが朝の一幕だった。

因みに今回のネプテューヌさんの出番、ここで終了である。

そんな彼女に哀悼の意を捧げつつ、白斗たちが歩き続けると一際大きな建物に行きつく。

 

 

「うわー! おおきいー! あれがのわるのいえ?」

 

「そうだぞ。 スゲーだろ?」

 

「何でお兄ちゃんが得意げなんだろう……」

 

 

幾つもの素材が組み合わさって出来た、秘密基地のような教会。

黒と鉄の国であるラステイションを象徴するような建物だ。

ピーシェも目を輝かせているので、これ以上の前置きは無用とネプギアがインターホンを鳴らした。その直後。

 

 

「白斗、いらっしゃい!!」

 

「うぉう!? よ、よぉノワール……今日は呼んでくれてありがとな」

 

 

待ちきれなかった、と言わんばかりにノワールが飛び出してきた。

これには白斗も驚いたが、何とか持ちこたえて挨拶する。

 

 

「のわるっ! きたよー!!」

 

「あら、ピーシェ。 それにネプギアも来ちゃったの?」

 

「すみません。 お兄ちゃんが心配で……」

 

(……やっぱり、この子も白斗に惚れてるのね……)

 

 

そこに彼女からすれば予定外の来客、ピーシェとネプギアも挨拶してくる。

勿論ノワールからすれば白斗と二人きりが良かったのだが、だからと言って追い返すような無粋な真似もしたくない。

ふぅ、とため息を付くがすぐに気持ちを切り替えた。

 

 

「まぁいいわ。 ディナーは腕によりをかけるから楽しみにしててね」

 

「ああ! 実はお昼軽めにしてあるから、既にペコペコなんだなコレが」

 

「あらあら。 なら、急いで作らないとね」

 

 

普段はお堅い印象のあるノワールだが、白斗相手だとどこか柔らかくなる。

一方の白斗も、飄々としていて尚且つ常に自らが責を負うような張り詰めた雰囲気を纏わせているのだがノワールと接しているとそれも緩んでいた。

気心許したような関係性にネプギアは面白くないものを感じる。だからつい、口を挟んでしまった。

 

 

「あ、あの! ユニちゃんはどうしてますか?」

 

 

そう、ノワールの妹であるユニが姿を見せていないのだ。

彼女も白斗の妹分、真っ先に来て挨拶してきそうなものだが。疑問に答えたのはノワールだった。

 

 

「ユニだったらこの時間帯、訓練してるわ」

 

「訓練……ユニの事だから、ノルマ達成するまで顔を見せないだろうな」

 

「ええ。 しかも今回は内容が内容だから私が手出しできなくて……」

 

 

姉として愛する妹のスケジュール把握は完璧である。

そして兄としても白斗も大体ではあるが、掴めるようになってきた。彼女が一体何をしているのか。

努力家であるユニは、中途半端な結果は望まない。故にしっかりとした成果が出るまで決して特訓は止めないだろう。

 

 

「……なら俺の出番だな。 お任せアモーレ」

 

「任せたわ。 ……白斗、“あの件”もお願いね」

 

「おう。 行くぞネプギア、ピーシェ」

 

「え? あ、うん」

 

「ぴぃもいくー!!」

 

 

彼女の面倒を引き受けた白斗が、颯爽と訓練所へと向かう。その後をネプギアとピーシェが急いでついていった。

訓練所は安全を考慮して、教会から少し離れた場所に設置されている。何故なら発砲音が今も轟いているのだから。

―――そう、ユニは今。狙撃訓練を行っている。

 

 

「―――くぅ! このぉっ!!」

 

 

500ヤード離れた先にある的に照準を定め、引き金を引く。

派手な音と共に飛んでいった弾丸は、しかし的の芯を捉えることなく大きく外れた位置に風穴を開ける。

 

 

「あーあ……やっぱり、ちょっと距離が離れただけで命中率がガタ落ちね……。 銃使いとしてこの結果は看過できないわ……」

 

 

訓練を始めてからどれほど立ったのだろうか。

彼女の足元には無数の薬莢が転がっている。硝煙の臭いが立ち込めており、ユニは既に汗を掻き、肩で息をしていた。

狙撃というものは存外集中力と精神力との闘い。故に体力の消耗にも繋がるのだ。

 

 

「はぁ……何でお姉ちゃん、よりによって急に白兄ぃを今日呼んじゃったのかな……。 白兄ぃに会いたいけど、訓練投げだすわけにはいかないし……」

 

 

そして焦りの原因として白斗の来訪にある。

彼を兄と慕うユニとしては今すぐにでも会いに行きたいのだが、日々自らに課しているノルマがそれを許さない。

向上心が強い彼女にとって、訓練とは外してはならないものなのだ。

 

 

「えぇい! ノルマ達成すればいいだけよ!! さっさと500ヤードなんかクリアして……」

 

 

気持ちを切り替えようとして、再びライフルを構えた。

けれども乱れに乱れた息と震える手が、中々照準を合わせてくれない。尚更焦りを感じていると。

 

 

「おーい、そんなんじゃいつまで経っても当たらねーぞ」

 

「ひゃあああああああああああ!? は、白兄ぃ!!?」

 

 

ぬっ、と知った顔と声が彼女の耳元に近寄ってきた。

思わず飛び上がって振り返る。

そこには彼女が兄と慕う少年、白斗がいた。彼だけではない、親友であるネプギアも同席していた。

 

 

「ユニちゃーん! 来たよー!!」

 

「ネプギア! ……と、そこにいる子は?」

 

 

すると、彼女の足元に視線が映った。

見慣れない小さな女の子がいたからだ。今日彼女をここに連れてきたのは駄々を捏ねられたからでもあるが、ユニに紹介するためでもあった。

 

 

「ユニは初対面だったな。 この子はピーシェ、ウチで預かることになった子だ。 ピーシェ、ご挨拶」

 

「こんにちはっ! ぴぃがぴーしぇだよ!」

 

「ああ、この子が件の……改めてアタシはユニ。 ノワールお姉ちゃんの妹よ」

 

 

ノワールを通じてある程度聞かされていたらしく、すぐに飲み込めた。

元気いっぱいな挨拶を交わしてくれるピーシェに対し、ユニはどこかしっかりした雰囲気で挨拶した。

年下であることから、姉のように振る舞おうとしているのだろうか。

 

 

「でも白兄ぃ、なんでこっちに? 夕食に呼ばれたんじゃないの?」

 

「お前が訓練をしてるって聞いてな。 ユニの事だから、ノルマ達成するまで顔を見せてくれないだろうなーって思って」

 

「わざわざありがとう。 ……でも見ての通り悪戦苦闘中。 正直、へこむわ……」

 

 

はぁ、と思い切り思い溜め息を吐いてしまうユニ。

銃をこよなく愛する彼女にとって、この結果は重く響いているらしい。

 

 

「ゆ、ユニちゃん。 今日は調子が悪いだけなんじゃないかな? またの日に……」

 

「ダメよ。 白兄ぃのおかげで完璧を目指さなくてもいいって知ったけど、だからと言って訓練を怠っていいわけじゃないもの」

 

 

向上心が高いユニからすれば、日々の訓練は決して欠かせないもの。

常に自らにノルマを課し、高みへと押し上げようとする。

白斗のアドバイスで心の重荷は軽くなったが、それでも生真面目さから譲れないものもあった。

彼女の言うことは正しい、ならば白斗に出来るのは彼女を助けてあげること。

 

 

「ユニ」

 

「ん? な……何、白兄ぃ……?」

 

 

急に彼の声色が変わった。

先程まで見せていた飄々とした雰囲気が鳴りを潜める。何やらただならぬ気配を感じ、ユニが恐る恐る訊ねてみると。

 

 

「―――気を付けェ!!!」

 

「「「はっ、はいいいいいいいいいっ!!?」」」

 

 

迫力のある声が、響き渡った。

鋭さと力強さを兼ね備えたその声は、否応なしに起立させられる。ユニだけではない、白斗の声に当てられてネプギアとピーシェもピシッと直立不動に立ってしまう。

 

 

「ライフル、構えッ!!!」

 

「は、はいいぃぃぃぃっ!!?」

 

 

すっかり迫力ある白斗の声に畏怖し、ユニは逆らうことが出来ない。

指示通りにライフルを構え、引き金を―――。

 

 

「そのまま待機ッ!! ……照準がブレる原因は、肘が上がり過ぎてるんだ」

 

 

白斗はどうやら、あの短時間でユニの姿勢に関する粗を探し当てたらしい。

その間違った狙撃フォームを矯正するべく、実際に彼女の腕や腰に触れて姿勢を正させる。

だが当然、彼の温もりが直にユニに伝わるわけで。

 

 

 

「え? ひゃっ!? ち、ちょっと白兄ぃ!!?」

 

「お、お兄ちゃん!? そんな大胆な……!!」

 

「動くな! それから腰も浮かせすぎ、肩の力は抜いてこの位置に……」

 

「ひゃんっ……!?」

 

 

女の子としては気が気ではない状況。当然、ネプギアも嫉妬交じりになった声色で半ば叫んでしまう。

それでも白斗はその手を止めない。

やがて一通り矯正し終えたらしく、その姿勢を保たせたまま白斗は距離を取る。

 

 

「その姿勢を維持! 撃て!!」

 

「は、はいっ!!」

 

 

彼の言われたままに、引き金を引いた。特に照準は合わせず、勢いに任せて。

―――すると、あれだけ当たる気配のなかった的の芯に、鋭い音を立てて風穴が空いた。

百点満点、見事的の中央を射抜いたのだ。

 

 

「え……嘘……?」

 

「ボサッとするな! 姿勢を維持したまま、次!!」

 

「は、はい!」

 

 

思わず呆けてしまうユニ。だが、そんな暇も与えず白斗の指示が飛んでくる。

それに従い、次の的に銃口を向けて照準を合わせる。

姿勢は変えないまま、スコープから見える的に狙いを定めて引き金を引く。するとまたもや銃弾は中央を綺麗に射貫く。

 

 

「次!」

 

「はい!」

 

「次っ!!」

 

「はいっ!!」

 

 

白斗の指示の感覚が、徐々に短くなってくる。けれども、外れる気がしなかった。

当たる、当たる、当たる当たる。あれだけ外れまくっていた距離の的が、的確に撃ち抜けるようになっていたのだ。

照準のブレも無くなっている。心の焦りも消えていた。

的確に射抜けることが楽しくなって、全ての的を撃ち抜いた時にはユニはすっかり笑顔になっていた。

 

 

「―――コンプリート、お疲れさん。 今の姿勢、忘れんなよ」

 

「……はいっ!! ありがとう、白兄ぃ!!」

 

 

ずっと課題だった距離の狙撃が、容易くこなせるようになっていた。

あんな少ない指示と姿勢の矯正だけでユニの狙撃能力は格段に向上していた。ユニは笑顔になって白斗に感謝を述べる。

 

 

「お兄ちゃん、本当に凄い……! あれだけで撃てるようにしちゃうなんて……」

 

「ユニは元々素質があるし、努力の下地があった。 ただ、変なクセがついてたんだよ。 ユニの周りに銃を扱う人がいなかったから指摘してくれる人もいなかったってだけで」

 

「そうなのよねー……お姉ちゃんは銃扱えないから、こればっかりは……」

 

 

特訓に当たって一番怖いのは、知らず知らずの内に変な癖がついてしまうこと。

特にユニは、女神達の中で唯一の銃使い。そのため銃の扱いに関して教えてくれる人もおらず、ほぼ独学なのだ。

だからこそ、彼女には必要だったのだ。白斗のような銃の扱いに長け、尚且つ指摘と指示を下してくれる人が。

 

 

「これからは俺で良ければ特訓付き合うぞ」

 

「お願いします! また教えてね、白兄ぃ!!」

 

「ははは、可愛い妹のためなら東奔西走ってね」

 

 

力強くて、指示も的確で、何より優しい。そんな白斗に教えを乞いたいと、ユニは真摯に頭を下げた。

そんな彼女が可愛らしくて、白斗はユニの頭を撫でてあげる。

もう最初の頃のような意地を張った拒否は無い。ユニは嬉しそうにそれを受けて、目を細めていた。

 

 

(あ~……いいなぁ、これ……。 これからは白兄ぃと一緒に特訓出来て、ちゃんとできたら褒めてもらえるんだ……! ふふふ……頑張らなくちゃ!)

 

 

白斗に褒めてもらえることが相当嬉しかったらしい、ユニはすっかり上機嫌だ。

一方のネプギアはぷくーっと頬を膨らませていた。主に嫉妬を詰め込んで。

 

 

「ゆ、ユニちゃん! これで今日のノルマは達成したよね? だったら遊ぼうよ!」

 

「え? そ、そうね……ならアタシの部屋にご招待するわ」

 

「おー! ゆにのへや、たのしみっ!」

 

「う……ピーシェが想像してるのとは全然違うんだけど……」

 

 

ネプギアに急かされて、部屋に案内することに。

教会内へと移動し、扉を開けた先に広がるのは壁に掛けられた銃や関連パーツ、置かれている雑誌も漫画に加えて銃関連のものばかり。

詰まれているゲームも、FPSを始めとした銃を扱うものが多かった。

 

 

「おぉー! ゆにのへや、かっこいい!」

 

「そ、そう? ピーシェはよく分かってるわね!」

 

 

中々ロマンと言うものを理解してくれているピーシェ。

褒められたユニはちょっと嬉しそうだった。いや、ちょっとどころではない。

白斗らが遊びに来てくれたことに加えて、彼のアドバイスのお蔭で狙撃能力が向上し、更には今後の特訓の約束も付けて貰ったのだ。ユニとしてはもう、嬉しいことこの上ない。

 

 

「そーいえば、のわるのいもうとっていうけど、ゆにもめがみなの?」

 

「そうよ。 と言ってもまだ未熟……女神化も出来ないんだけどね」

 

「あはは……私も同じだよ」

 

「はーぁ。 ……いつになったら女神になれるのかなぁ、アタシ達……」

 

 

幼いだけに好奇心旺盛なピーシェが質問を投げかけてきた。

そう、ユニもネプギアも女神候補生。いつかは女神化を会得し、新しい女神になる。

ただ現在の彼女達は女神化が出来ない。それが目下の悩み。

―――その話題を聞いた途端、淹れてくれたコーヒーを啜った白斗がカップを置く。

 

 

「……さて、諸々落ち着いたところでユニに聞きたいことがあるんだ」

 

「え? 聞きたいこと?」

 

 

何だろう、とユニは首を傾げる。

兄妹の関係を結んでからは、白斗とは気兼ねなく話せる間柄だ。姉であるノワールよりも相談に乗ってもらっているかもしれない。

それだけにまだ何か疑問点があるのだろうか、と話題についてあれこれ考えていると。

 

 

「スヴァリ……お前が守護女神の座を乗っ取った後の話だ」

 

「のっ!? 乗っ取るなんて言わないでよ人聞きの悪い!!」

 

「じゃぁ簒奪?」

 

「意味同じだから!!」

 

「え? ゆに……めがみのざをのっとるの? わるいこなの?」

 

「ホラー! ピーシェがあらぬ誤解をしてるー!!」

 

 

とんでもないことを言いだした。しかも素直なピーシェがそのまま吸収してしまっている。

無論白斗としては冗談に近い。曲がりなりにも女神至上主義であるこの男がこんな冗談を言うようになったとは、とネプギアとユニも息を荒げる。

 

 

「ははは、ゴメンゴメン。 でも、実際問題いつかは女神の座を引き継ぐんだろ? そうなったらユニはどんな国を作るのかなーって」

 

 

白斗が聞きたい部分はそこだった。

このゲイムギョウ界において女神とは国を作り、そしてその国を治めていくトップたち。故に国政に関する最終決定権は女神にあるのはどこの国も同じだ。

そして現在は女神候補生であるネプギアとユニも、やがてはその座を継ぎ、国を導いていかなくてはならない。

 

 

「な、なんでそんな質問を……?」

 

「いや、前にネプギアに同じ質問をしてみたんだけどな」

 

「わ、私はお姉ちゃんが治めるプラネテューヌが大好きだし……お姉ちゃんは最高の女神だって思ってるから……お姉ちゃんが女神を辞めちゃうなんて実感が無くて……」

 

「って答えが返ってきてさ。 ユニはどうなのかなーって」

 

 

ネプギアに至っては、全くのノープランだった。というよりも、女神の座を引き継ぐビジョンがまだ見えていなかったらしい。

姉であるネプテューヌが大好きな彼女にとって、女神の座を引き継ぐということはネプテューヌが女神でなくなるということ。

それを想像しただけで悲しくなってしまう、故に考えないようにしてきたのだ。

 

 

「……ちょっと考えていることはあるけど、大体はネプギアと同じ……。 お姉ちゃんは、最高の女神だから、アタシなんて継ぐ余地あるのかなって……」

 

 

こちらはノープランでは無さそうだが、考え方は似たり寄ったりだ。

どちらも姉が大好きで、そして彼女達にとって至上の存在なのだ。ネプテューヌは普段はまさに駄女神かもしれないが、慈愛の心と時折である女神らしさは他の通髄を許さない。

そしてノワールは常日頃女神としての自覚を持ち、何事にも女神として真剣に取り組む。故に人々から女神として常に意識されている。

そんな偉大な存在は、彼女達にとって最大の壁になっていた。

 

 

「……でもさ。 それって裏を返せば『継ぎたくない』って言ってるようなものじゃないか?」

 

「「え?」」

 

 

思わず二人して声が出てしまった。

今まで考えてもみなかった、いや考えないようにしてきたことを言い当てられてしまったからだ。

 

 

「女神の座を継いだら、ノワール達は女神でいられない。 大好きな姉を蔑ろにしてしまう……姉の威光を過去の物にしてしまう。 ……って、ところじゃないか?」

 

「う……」

 

 

ユニは思わず目を逸らしてしまった。

これだけは、素直に他人に話すことが出来なかった。そう、過去のゲイムギョウ界にも多数の女神がいたという。

しかし、現存する女神はネプテューヌ達四人と、ユニ達女神候補生が四人だけ。残る女神は、今は存在していなかったのだ。

 

 

「……そうだよ。 アタシ達が女神の座を継いだら……お姉ちゃんは、女神でなくなっちゃう……。 大好きなお姉ちゃんを、アタシの手で終わらせちゃう……それが、イヤなの……」

 

「ゆに……?」

 

 

女神でなくなった者達の末路は様々だとイストワールから聞かされている。

だが、確実に人々の関心は新しい女神へと移り、過去の女神など目を向けなくなる。それは「死」と同義だ。

自らの手で大好きな姉を終わらせてしまうことに、ユニは不安―――いや恐怖を抱えていた。

ネプギアも同じ気持ちだと目を伏せており、そんな彼女達をピーシェが心配そうに見つめる。

 

 

「終わらないよ」

 

「……は、白兄ぃ……?」

 

 

けれども、温かい声が光となって差した。白斗の声だ。

彼は、終わらないとはっきり言ってくれたのだ。

 

 

「……確かに女神でいられなくなるかもしれないけど、そんなお前達を守り、育ててくれたのは……その大好きなお姉ちゃん達、だろ?」

 

「う、うん……」

 

 

しっかりとした視線が、ユニとネプギアの視線を捉えて離さない。

言葉だけではない、目で語り掛けてきた。二人の肩に手を置くことで温もりも伝える。

すると、白斗の頭が二人の脳内に優しく響き渡ってきた。

 

 

「お前達が受け継ぐのは単純な女神という肩書じゃない。 姉達が守り、育ててきた『女神としての生き方』なんだ。 そしてお前達がそれを実践する限り、姉達の想いは終わらない。 そして今度はお前達が、それを次へと受け継がせる……ホラ、終わらないだろ?」

 

 

―――想いを受け継ぐ。姉のようになりたいと執着してきたユニにとって、それは金槌で頭を殴られたかのような衝撃だった。

今まで思ってもみなかった新しい視点を与えられたことで、一気に世界に光が灯ったかのようにさえ感じる。

 

 

「お前達がちゃんと力と覚悟を以てノワール達の想いを受け継げば、誰もがずっとノワール達の事を意識してくれる。 その上で、お前達という女神を信仰してくれるさ」

 

「……で、でも……今はまだアタシ達女神化も出来なくて……」

 

「限界も、格上も、そして憧れも超えるためにあるんだ。 ……超えたいと願わなきゃ、いつまで経っても女神になれるワケないだろ?」

 

 

最大の悩みである女神化がまだできないこと。

その原因は心のどこかでブレーキを掛けているからだと白斗は見抜いていた。そしてそのブレーキとは、「姉を超えること」。

その事実と向き合わせようと、白斗は更に言葉を重ねた。

 

 

 

「大丈夫。 お前達なら絶対出来るし、俺も何だって手伝うさ。 ……俺の大好きな女神様になれるって信じてるから」

 

 

 

―――その言葉にネプギアは勿論だが、ユニの脳内にも響いた。

どこまでも深く、どこまでも大きく、どこまでも温かく。ユニの中で、幸せな鼓動が胸を打つ。

 

 

 

 

(……白兄ぃ……本当に、アタシ達の事を信じてくれているんだ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……今は無理でも、いつか……いつかで良い……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……白兄ぃの期待に応えたい。 そして………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大好きな白兄ぃの、大好きな女神様に……なりたい!! なるんだ!!!)

 

 

 

―――そこにはもう、将来への不安を抱える少女はいなかった。

なりたいものになるべく、そして―――大好きな人の想いに応えたいと覚悟を決めた一人の女神候補生が、そこにいた。

 

 

「……ねぇ、白兄ぃ」

 

「ん?」

 

 

声色も、先程とは打って変わって、明るいものになっている。

それを耳にした白斗も不安など一切なく、同じく明るい声色と口調で聞き返した。

 

 

 

 

「もし、もしだよ? ……いつか、アタシがお姉ちゃん以上の、最高の女神になったら……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……ずっと、アタシを支えて……くれますか……?」

 

 

 

 

―――聞きようによっては、告白とも受け取れる言葉。

事実、ユニの心臓は爆発しそうなくらいに脈打っており、ネプギアに至っては衝撃で呆けてしまっている。

女心に疎い白斗はそこまでは分からないだろう。ただ、彼女の願いに対し。

 

 

 

 

 

「―――ああ」

 

 

 

 

 

短くも、力強い言葉で応えた。

 

 

「……約束だよっ!! 契約成立、もう離さないんだからっ!!」

 

「うおっ!? ちょ、引っ付き過ぎ……」

 

 

嬉しさ極まってユニが抱き着いてくる。

その顔は幸せに溢れ、胸には未来への希望でいっぱいだった。

だが当然、こんな状況を見せられて黙ってられない乙女が約一名。

 

 

「あーっ!! ユニちゃんずるーい!! 私だってお兄ちゃんに支えてもらうんだからー!!」

 

「ね、ネプギアまで!! 暑い狭い苦しいーっ!!!」

 

「ぴぃもおにいちゃんにぎゅーっ!!」

 

「グホァ!? ぴ、ピーシェまでぇぇえ………」

 

 

更にはネプギアとピーシェまでもが抱き着いてきた。

女の子に抱きつかれて嬉しくないわけがないが、だからと言って困らないわけでもない。

 

 

 

 

 

(―――ありがとう、白兄ぃ。 こんなアタシを助けてくれて……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もう、ただのお兄ちゃんじゃいられない………大好き!! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………だから絶対!! アタシの傍に置いて見せるんだからね!!)

 

 

 

 

 

恥ずかしくて言葉に出来なかったが、溢れ出す白斗への想いを胸にユニは彼の胸に顔を埋める。もう単にある兄ではない、恋心を寄せる異性として白斗に

彼女達の抱擁を受けていた白斗はやれやれと浅く息をついて、僅かに開いていたドアの隙間に目を向けた。

 

 

(―――ノワール、これでいいか?)

 

(ええ。 ……ユニの悩みを解決してくれて、本当にありがとう。 それにしても、あの子が女神になることに不安を覚えていたとはね……)

 

 

そこにいたのは、ノワールだった。

実は彼女は姉として、ユニがここ最近何らかの悩みを抱えていることは見抜いていた。だが雰囲気からして、どうしても自分に相談してくれなさそうだったのだ。

そこで夕食を口実に白斗を招き入れ、相談役になってもらおうとしたのだが悩みを引き出すどころか解決してしまった。

 

 

(さすが白斗ね、あっという間に解決しちゃうんだから。 ……でも、ユニにまでフラグを立てるのはどうかと思うのよねぇ……)

 

 

ただ、姉としては喜ばしい反面、女としてはどうしても看過できなかった。

ノワールもまた、白斗に想いを寄せる乙女の一人なのだから。

 

 

「そうだ、白兄ぃ! アタシ、実は女神になった時にラステイション再生プランってのを考えていてね……このノートに纏めてあるんだけど」

 

「ほうほう……中々いいアイデアだが、こういった制度を盛り込んでみるのはどうだ?」

 

 

するとテンションが上がってきたらしく、ユニは机から秘蔵のノートを取り出した。

そこには自分が女神の座に就いた時、ラステイションをどう導いていくかの計画が書き込まれている。

それを見せてもらった白斗とネプギア、ピーシェはあれこれ意見を出してユニの夢を確かなものにさせていく。

 

 

(どっちもダメよ。 長期的に見れば大問題を引き起こしかねないわ。 ……やれやれ、何だかんだいってあの二人もまだまだなんだから。 これは当分、女神の座は明け渡せないわね)

 

 

それを耳にしていたノワールがすぐさま粗に気付く。

ユニはまだまだ浅慮で、白斗の場合は政治に精通していないがための手落ちだ。

これでは及第点は上げられないと、ノワールも肩を竦める。

 

 

(でもね、ユニ……貴女なら必ず私を超える女神になれるわ。 頑張りなさい。 ……白斗は絶対に渡さないけどね!!)

 

 

それでも、ノワールは認めていた。

愛する妹は必ず自分を超える最高の女神になれると。同時に彼女もまた白斗を巡る恋のライバルであることを。

案外最強のライバルは自分の妹かもしれないと思いつつ、ノワールはもう少しだけヒートアップするこの語り合いを聞いていた。

 

 

 

 

 

 

―――皆で楽しい夕食を迎えるまで、後五分。




今回はラステイション姉妹、特にユニちゃんに焦点を当てたお話でした。
努力家だけども、お姉ちゃん大好きなユニやネプギアにとって将来女神になることは不安なのではないかと思い、今回のお話を書きました。
努力家で真面目で、ちょっと素直じゃないけどもそこが可愛いユニちゃんを描写出来れていれば幸いです。
原作ゲームでもうずめやウラヌスは出てきましたが、その他の国の先代女神とかは白昼夢イベントくらいでしか触れられてないのでいつか出てきて欲しいなぁ。
次回はルウィーに行きます。勇者ネプテューヌであったあのイベントにもちょっと触れたお話です。お楽しみに!
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