恋次元ゲイムネプテューヌ LOVE&HEART   作:カスケード

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第三十三話 文豪ぶらんどっぐす!

―――雪国、ルウィー。

年中通して雪が降り積もるこの国は気候的には厳しいものの、メルヘンチックかつのんびりとした雰囲気、そしてゲイムギョウ界の中で唯一雪が降る領域ということもあって観光地として賑わっていた。

そんな国に、足を踏み入れた三人の少年少女達がいる。

 

 

「わはーっ!! ゆきだ、ゆきだーっ!!!」

 

「もー、ピー子ってばはしゃぎすぎー!!」

 

「と、言いつつもテンションが上がっているネプテューヌなのであった」

 

「あはは! さすが白斗、分かってるー!!」

 

 

白斗とネプテューヌ、そしてピーシェであった。

特にピーシェは初めて目にした雪に大興奮。子供は風の子と言わんばかりに冷たい雪に手や足を突っ込んでは大喜びしている。

そんな微笑ましい彼女を見て、ほっこりしている白斗とネプテューヌ。まるで夫婦のようだ、とは周りで見ていた人々談。

 

 

「それにしても白斗、今度はブランに呼ばれたらしいけどどうしたの?」

 

「さぁ? 何だか凄く重々しい感じだったから話はブランから直接聞くことにする」

 

「……さては白斗、あのことがバレちゃったんだね……」

 

「何もしてないのに何かしたようなその言い方やめろォ! ドキッとするだろうがぁ!!」

 

 

心当たりはないはずなのに、ざわついてしまう。

特にキレたブランは止める手立てがないのだ。

 

 

「ゴメンゴメン。 ささ、早く教会に行っちゃおう。 ピー子、行くよー」

 

「えー、もうちょっとゆきであそびたいー!」

 

「まずはブランの所にご挨拶だ。 大丈夫、この後で雪遊びは幾らでも出来るからな」

 

 

何はともあれ、こんな氷点下の世界でいつまでも突っ立ってるわけにはいかない。

まだまだ遊び足りないピーシェを何とか宥め、二人はルウィーの教会へと歩を進めた。

ルウィーの教会はメルヘンチックな雰囲気に合わせ、西洋の城に近い造りとなっている。それを見たピーシェは目を奪われていた。

 

 

「わー! きれい! おしろ?」

 

「あれがブランの教会だよピー子」

 

「ぶらんのいえ? ぶらんて、おひめさまだったの!?」

 

「はは、お姫様みたいに可愛いけどな」

 

「………………」

 

「ネプテューヌさん、何でしょうかその不満タラタラな視線は」

 

「別にー。 私の騎士様は浮気性だなと思いましてー」

 

「浮気性って何だよ!? 変なコト言ってないで入るぞ!」

 

 

白斗に想いを寄せるネプテューヌからすれば、他の女の子を褒めるような彼の言葉は実に面白くない。

ぷぅ、と頬を膨らませるその姿は可愛いが視線が痛い。

タジタジになりながらも教会の扉を開けると。

 

 

「「お兄ちゃ~~~~~ん!!!」」

 

 

小さな可愛らしい影が二つ、こちらへと飛び込んできた。

 

 

「あらよっとぉ!! ははは、今回は予測済みだったからしっかり受け止められたぜ。 ロムちゃん、ラムちゃん、元気してたか?」

 

「うん! わたし達はいつも元気いっぱいよ!」

 

「元気がいちばん……♪(るんるん)」

 

 

小さな影こと、ロムとラムの突撃を予想していた白斗は二人を受け止めて抱え上げた。

所謂高い高い状態ではあったが、二人とも嬉しそうだ。

 

 

「ねぷてぬ、あのふたりが?」

 

「うん。 ロムちゃんとラムちゃん、ブランの妹だよ」

 

 

背丈で言えば、ピーシェとそこまで変わりない二人。

目をパチクリさせなながらネプテューヌに訊ねた。幼さで言えばピーシェの方が上だが、好奇心旺盛な所はちびっ子らしく、既に二人に興味を持っている。

当然、ピーシェの姿はロムとラムの目にも入るわけで。

 

 

「あれ? お兄ちゃん、その子って……?(はてな)」

 

「では恒例の自己紹介タイムだ。 この子がピーシェ。 ブランから聞いてるよな?」

 

「ああ、あなたがピーシェね! わたしはラム! よろしくね!」

 

「あ、あの……わたしはロム……(おどおど)」

 

「ぴーしぇだよ! ろむ、らむ! よろしくねっ!」

 

 

さすがちびっ子、すぐに仲良くなれた。

和やかかつ姦しく、元気いっぱいで心温まる光景が展開されていると。

 

 

「ふふ、やっぱり貴方達が来ると騒がしくなるわね」

 

「ブラン! おっす」

 

「いらっしゃい白斗、ネプテューヌ、ピーシェ」

 

 

そこへ現れた小柄な白の少女。この国の女神ホワイトハートことブランだ。

本人は至って普通にしているつもりだが、白斗とあった瞬間物凄く幸せそうな顔をしている。

ブランもまた、白斗に惚れてしまった一人なのだから。

そんな彼に向けた雪のよう柔らかくて美しい微笑みに白斗も嬉しくなる。

 

 

「それでブラン、白斗は兎も角私が呼ばれたワケって?」

 

「ああ、それはね……」

 

 

そう、今回は白斗だけではない。ネプテューヌも呼ばれていたのだ。

白斗だけならばまだ分かる。他の女の子達も考えるように白斗との一時が欲しいと思うだけだ。

ただそこにネプテューヌまでもが加わるとなると解せなくなる。

と、ブランが何か言いかけたその時、ネプテューヌの手を引く小さな存在が。

 

 

「さ、ネプテューヌちゃん! わたし達と一緒に遊びましょ!」

 

「え?」

 

「お兄ちゃんとお姉ちゃんは忙しいからネプテューヌちゃんと遊ぶんだよね……♪(わくわく)」

 

「ゑ?」

 

「ねぷてぬとあそんでいいの!? やったーっ!!」

 

「絵?」

 

 

ちびっ子集団だった。当然ネプテューヌは初耳だ。

ギギギと油が切れた機械のように首を何とかブランに向ける。ブランは物凄い笑顔で。

 

 

「……お願いね、ネプテューヌ」

 

「おのれぇブランンンンンン!! 謀ったなぁぁぁああああああああ!!?」

 

 

そう、妹達の相手をするためにネプテューヌが指名されたらしい。

まるで悪役のようなセリフを吐きながら紫の女神様はちびっ子集団によって連行されていく。

相手が幼いため力尽くの抵抗も出来ず、寧ろ幼さ故のパワーで引っ張られるばかり。

あっという間にネプテューヌはロムとラムの部屋へと連れ去られてしまった。

 

 

「……デコイだったか」

 

「サクリファイスでも可。 ネプテューヌ、貴女の犠牲は無駄にはしないわ。 ……三秒ほど」

 

「もう少し粘ってやれ」

 

 

白斗のツッコミは冷たい。そんなルウィーの一時。

 

 

「……で、ブラン。 俺が呼ばれたワケは?」

 

 

そう、問題はここなのだ。

大抵の女神達は白斗との時間を作っては色んなシチュエーションで彼と一時を過ごす。

その際の空気と言えば甘ったるいことこの上ない。のだが、今日のブランは白斗と会ったにも関わらず重々しい。

 

 

「……白斗、私はこれから戦場へ行かなくてはならないの」

 

「せ、戦場!?」

 

 

そしてその小さな唇から紡がれた真実は、とんでもないものだった。

こんなほのぼのとした国からは想像ができない単語、戦場。一気に周りの空気が張り詰めた。

 

 

「こんな危険な戦いにあの子達は巻き込めない……だからネプテューヌを呼んだの。 でも、私一人じゃ……望みは叶えられない」

 

「……そこで俺、か」

 

「ごめんなさい……白斗を、こんなことに巻き込んで……」

 

 

その小さな胸を握り締めるブラン。

己の事情に白斗を巻き込むことに苦悩しているのは明らかだ。戦場、と言うからには身の危険さえ覚悟しなければならない。

だが、白斗の目に悲壮感など一切なかった。

 

 

「ブラン。 ……お前の力になれるなら、こんなに嬉しいことは無い」

 

「………はく、と………」

 

「だから気にする必要はない。 ……お前の力に、なりたいんだ」

 

 

寧ろ、彼女の力になれることに喜びを感じていた。

大切なもののためなら命さえ懸けられる強さ。それが黒原白斗という男。

ブランの重かった表情は、嬉しさで緩んでしまう。

 

 

「……ありがとう、白斗……。 一緒に、戦ってくれる……?」

 

「ああ」

 

 

伸ばされたその小さな手を、力強く取った。

決して離さない。それが白斗の覚悟。そしてブランの想い。

 

 

 

 

「なら、行きましょう。 私達の戦いへ―――」

 

 

 

 

もうブランに苦悩は無い。あるのは覚悟のみ。

最も頼れ、そして最も愛する者を伴った今のブランの目には勝利のビジョンしか映っていない。

強き思いと決心と共に、白斗とブランは戦場へと向かった―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『それではこれより………第37回コミックなマーケットを開催しまーす!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さぁ、白斗……私達の戦いを始めるわよ!」

 

「帰っていいッスか」

 

 

アホらしくなって、白斗は身を翻した。

 

 

「ま、待って!! 一緒に戦ってくれるって約束したじゃない!!」

 

「じゃあかしいわぁ!! 何やねん同人誌即売会って!!」

 

 

先程までのシリアスな空気は完全にブチ壊された。もう怒りしか湧いてこないがそれも無理もない話。

ただならぬ雰囲気を纏い、重々しい表情と声色で連れてこられた先がこの同人イベント。色々覚悟完了していた白斗にとっては肩透かしなことこの上ない。

 

 

「甘いわ白斗。 確かにこれはイベントだけど……戦争でもあるのよ」

 

「はぁ? 何を言って……―――ッ!!?」

 

 

こんなお楽しみイベントのどこに戦争要素があるのか。

訝しさを感じて眉を顰めた、その直後だった。無数の客たちが一斉に会場へと雪崩れ込んだ。

 

 

『どけどけぇーっ!! 俺が一番乗りだァ!!!』

 

『アアン!? 割り込むなやァ!! ぶっ殺すぞ!!』

 

『キルゼムオール!! イェァアアアアアアアアアアアア!!!』

 

 

我先にと、脇目も振らず、何もかもを蹴散らして。列整理の声に耳も貸さず、人々は己の求めるものを手に入れようと突き進んでいく。

それこそまさに戦場のような地獄絵図だった。

 

 

「な、何じゃこりゃ!?」

 

「ね? ……状況によっては死人すら出たと聞くわ」

 

「見境なさすぎだろ!? 危険すぎるって!! ヤバいってコレ!?」

 

 

これにはさすがに白斗も震え上がった。

楽しく和やかに行われて然るべきの同人誌即売会で死人が出るということは、それだけ人々が我を失っているということだ。

幾ら何でも異常だと思っている白斗だが、それでもとブランは首を振る。

 

 

「……それでも、ここには無数の可能性と夢がある。 薄い冊子の、あの少ないページの中に無数の文字と夢と世界が詰まっている。 私は……それが見たいの」

 

 

同人誌即売会とは言ったが、何も売られているのは18歳未満は買えない路線の本だけではない。

個人が趣味で研究してきたワインの飲み方講座なり、グルメエッセイなり、そしてブランの愛する純文学も取り扱っているのだ。

本を愛する彼女からすれば、絶対に外すことが出来ないイベント。まだ見ぬ世界へ思いを馳せているブランの姿は―――本当に可愛らしかった。

 

 

「……はぁーあ。 最初からそう言ってくれりゃいいのに……分かった、男に二言は無い。 何なりとご命令を、女神様」

 

「……! ありがとう、白斗!!」

 

 

そんなブランの笑顔が見たい。覚悟を決めて、白斗は頷いた。

すると女神様は飛び切りの笑顔を見せてくれる。欲しい本が手に入る嬉しさもあるのだが、何より白斗の理解を得られたことが嬉しかったのだ。

 

 

「なら私は西側のブースを回るから、白斗は東側に行ってこのメモに掛かれた番号のブースで本を買ってきてくれる?」

 

「おう。 ……うぉ、結構細かい上に時間で区切りとかもあるのな……」

 

「全部とは言わないけど、三冊は欲しいわ」

 

「分かった。 ブラン、気をつけてな」

 

「白斗こそ。 それじゃっ!」

 

 

極上の笑顔のまま、ブランは勢いに任せて西側ブースへと突撃していく。

いつもは物静かなブランも、大好きなものの前では女の子になる。

そんな彼女をもっと喜ばせてあげたいと、渡されたメモに視線を落とし、白斗は拳を力強く握りしめる。

 

 

「……そんじゃ、俺も行きますかね。 この荒れ狂う戦場の中へ」

 

 

覚悟を決めて、白斗は客の中へと突っ込んでいった――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ……。 今回は豊作ね、いい本がたくさん手に入ったわ。 ほくほく」

 

 

2時間後、マイバッグに多くの本を詰めたブランが待ち合わせ場所へと姿を現した。

緩んだ頬が、彼女の成果を物語っている。

 

 

「まぁ、取り逃したのも多いけど仕方ないわ……。 西側はR-18ブース、白斗の目に触れさせるわけにはいかない……。 それに将来、白斗とそう言う時が来たらこの本は役に立つ……」

 

 

そして西側を担当した事にも理由があった。

所謂R-18な場所だったからだ。白斗に想いを寄せる身としては、他の女の体などに目移りしてほしくない。例え文章のみの世界であったとしても、だ。

更に彼女の脳内では、いつか白斗と「そういう時」が来るのは確定事項らしい。

因みにブランがどうやってそんな場所で本を買えたかは永遠の謎である。

 

 

「さて、後は白斗ね……無事だと良いんだけど」

 

 

最初こそは本目当てで白斗をこのイベントに誘ったのだが、今となっては純粋に彼の事が心配になってきた。

白斗は本の趣味こそ自分と似通っているのだが、ブランほど本の虫かと言われたらそうではない。故に嫌々このイベントに参加しているのではないか、という不安もあった。

何よりあれだけの客の数だ、白斗が無事でいられるかどうかも怪しい。と、そこへ。

 

 

「お、お待たせブラン……買って……来たぜ……グフッ」

 

「は、白斗ー!?」

 

 

案の定、ボロボロになった白斗が姿を現した。

ブラン以上に本を詰め込んだバッグを手にしていたのだが、彼女を視界に入れた途端崩れ落ちる。

慌てて抱き起すブランだが、白斗のダメージは想像以上だった。

 

 

「は、ははは……正直舐めてたわ……。 戦争なんてお行儀のいいモンじゃねぇなコレ……。 殺し合いの奪い合いだったわ……」

 

「白斗! そんな……こんなに、ボロボロになって……」

 

「おいおい……ンな顔するなって……。 お前のために、本買ってきたんだからな……」

 

 

そう言って、震える手で突き出されたのは本が詰め込まれたバッグと渡されたメモ。

メモに掛かれた要望リストには、すべてチェックマークが付けられていた。

 

 

「も、もしかして……全部買ってきてくれたの!?」

 

「あぁ……スゲェだろ? 俺……」

 

「……ありがとう……白斗、本当にありがとう……!」

 

 

これだけ競争率の高いイベントだ。

小規模、中堅、大手サークルとラインナップ自体は目白押しだがどれもこれもと欲張る人間はいる。故に、欲しいものを求めての小競り合いからリアルファイトすらあるのだ。

白斗はブランのために本当の戦いに挑み、そして手に入れてくれたのだ。

そんな事実にブランは涙を流さざるを得ない。

 

 

「喜んでくれたのなら……何よりだ……う、くっ……」

 

「は、白斗! 傷は浅いわ……しっかりして白斗!」

 

「お、俺は……もう、ダメだ……。 俺の遺灰は……プラネテューヌの風に流して……」

 

「そ、そんな……! イヤよ……イヤぁ!!」

 

 

だが、白斗の体力は今尽きようとしている。

全てを出し尽くした白斗はまさに燃え尽きた灰のように真っ白で、その瞳を閉じ―――。

 

 

 

 

 

 

「誰か……誰か助けてくださぁい!!!」

 

 

 

 

 

 

イベント会場の中心で、ブランは愛を叫んだ―――。

 

 

「You love forever~♪」

 

「瞳を閉じて~君を描くよ~♪」

 

「それだけで~いい~♪」

 

 

イベントに参加していた客たちは、存外ノリが良かった。

そんなルウィーの一幕―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――とまぁ、そんなギャグ然とした雰囲気だったものの実際白斗はボロボロだった上に目当ての物はコンプリート出来た。

そのためさっさとルウィーの教会へと戻ってきた二人。通されたのは客間ではなくブランの部屋だった。

 

 

「白斗、今日は本当にありがとう。 貴方のお蔭で欲しい本が全部手に入ったわ……」

 

「うんうん。 喜んでくれたのなら何よりだ」

 

「それで、お礼なんだけど……是非とも白斗に読んで欲しい本があってね」

 

「お、何だ何だ?」

 

するとブランは何かのスイッチを押した。

グルン、と壁に掛けられていた絵がどんでん返しのようにひっくり返り、そこから隠し金庫が現れる。

そして暗証番号を素早く入力すると、その中からやたら古ぼけた一冊の本を取り出した。

 

 

「ん? 『女神と守護騎士 その二』……ってコレ!? あの本の続編か!?」

 

 

手渡されたのは、白斗の愛読書である「女神と守護騎士」の続編と思われる本だった。

本の素材と言い、その古ぼけ方と言い、何より少し目を通しただけでも伝わる文体。間違いなくあの本の続編だ。

彼の興奮した顔を見て、ブランも尚更嬉しくなった。

 

 

「らしいわ。 ルウィー中駆けずり回って、やっと見つけたの……ダンジョンの中で」

 

「何でダンジョンにこんなものが封印されてるんだ……。 でも、いいのか!?」

 

「いいの。 白斗、そのシリーズ大好きでしょ? 白斗の幸せな顔を見るのが、私の幸せだから……」

 

 

白斗に喜んでもらえるものは何が良いのか、考えに考えて、この本の続編があればと思い、あらゆるネットワークを駆使して探し当てた。

当然相当の苦労はしたのだが、大好きな人の笑顔を見られただけでブランは本当に幸せな気持ちになれる。

一方の白斗はまるで宝物を貰ったかのような、少年そのものと言うべき興奮と輝かしい笑顔を浮かべていた。

 

 

「ありがとなブラン! 大切にするよ!!」

 

「ふふ……喜んでくれて嬉しいわ。 後で感想聞かせてね。 それから晩御飯も最高のものを作らせてるからそれまでの間、その本でも読んでて」

 

「サンキュー! ……って、ブランは?」

 

「私は……その、ちょっとやることがあるから」

 

「ふーん……?」

 

 

どうやらパソコンを使って何か作業をするらしい。

手伝おうか、と声を掛けようとしたが彼女が目で拒否してきた。お節介も押し付けは迷惑となる。

ならばここはお言葉に甘えてこの本を読んだ方がいいと椅子に腰を掛けようとする。

 

 

「あ、何なら私のベッドの上で読んでくれていいわ」

 

「えっ!? い、いやさすがにそれは……」

 

「白斗だからいいの。 椅子に長いこと座ってると、腰痛めちゃうわよ」

 

「………なら、お言葉に甘えて………」

 

 

女の子のベッドの上で、など背徳的なことこの上ない。

だがブランは特に気にすることなく許可を出してくれた。いや、本当は気にしている。自分のベッドの上に大好きな人を上がらせるのが、謎の高揚感を齎しているのだから。

白斗も謎の興奮を感じながら、ベッドの上で腰を掛けた。

 

 

(……何だかブランの匂いがする……って変態チック過ぎるだろ俺ェ!! さ、さっさと本読んじまおう!!)

 

 

常日頃ブランがその身を沈めているベッド。当然、彼女の匂いが漂ってくる。

とても優しくて甘い匂いに白斗は酔いしれそうになったが、そんなことを表情に出してはブランに嫌われてしまう。

忘れようと必死に本を開き、そしてその世界に入り込んだ。

 

 

(ふふ……白斗が私のベッドの上で本を読んでくれてる……。 ちょっと特別な距離感を感じるわ。 さて、私は執筆活動再開と行きますか)

 

 

一方のブランはそんな白斗の姿に嬉しさを感じながらキーボードを叩き始める。

カタカタと心地よい音が、まるでピアノのように部屋の中に流れ始めた―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(―――守護騎士のその誠実な姿と想いに心惹かれた者達がいた。 女神達は同じ女として守護騎士と添い遂げることを認め、そして同じ時を過ごすために守護騎士から力を授かり、“眷属”として生きた……か。 おおう、とんだスケコマシだこと)

 

 

一度本を開けば、白斗はその世界に夢中になっていた。

物語の展開の面白さもさることながら、描写の一つ一つの丁寧さでその場面が容易に頭の中に思い起こされてしまうのだ。

その丁寧さや力の使い方を詳細に記している辺り、寧ろ「指南書」のように思えてしまう。

何より、この主人公であり守護騎士となった少年の存在がどうしても頭から離れない。

 

 

(でも凄ぇよな……こんな風に、俺も……愛されて……って、ンなこと許されるかってーの)

 

 

一瞬、そんな願いが浮かんだがすぐに振り払った。

自分はそんなことなど許される存在ではないと思っているから。

 

 

(……でも、やっぱりこんな凄い奴みたいに……皆と一緒にいたいって願うくらいは……)

 

 

でも、そんな存在でも守りたいものがある。一緒に居たい人がいる。

思えば初めて「女神と守護騎士」という本を手に取った時もブランが傍に居た。

彼女もまた、命を懸けて守りたい人だ。そんな彼女に目をやると―――。

 

 

「………すぅ………すぅ…………」

 

(……あれ、ブラン? 寝ちゃってるのか?)

 

 

彼女は机の上に覆いかぶさるようにして、安らかな寝息を立てていた。

あの体勢は以前、スルイウ病に掛かってしまった時と同じであり一瞬だけ嫌な予感が過ったが、顔色は良好。ただ寝ているだけだとすぐに分かった。

今回は単なる寝落ちである。

 

 

「やれやれ、これじゃまた風邪を引いちまいますぜっと」

 

 

毛布を掛けても良かったが、このままでは体を痛めかねない。

白斗は読んでいた本に栞を挟んで閉じ、ブランの体をお姫様抱っこで抱え上げた。

そのまま彼女のベッドに寝かせ、毛布を優しくかけてあげる。

寝ているブランの表情はあどけなさと美しさが合わさり、一瞬だけ白斗に固唾を飲ませるほどの魅力があった。

 

 

「くぅ………すぅ………」

 

「おやすみ、ブラン。 ……さて、パソコンでなんか作業してたっぽいし、ファイル保存して電源落としとくか」

 

 

寝落ち、ということは開かれていたファイルなどはそのままの状態ということだ。

万が一パソコンが再起動したりすればデータが失われてしまうかもしれない。

上書き保存して閉じるため、白斗は悪いと思いつつもパソコンの画面に目を向けた。すると―――。

 

 

(……ん? 何だこの文章? 仕事の書類……にしては文体崩しすぎてるな……)

 

 

何かの文書ファイルだったが、よく見れば報告書の類などではない。

台詞と思わしき文やそれこそゲームなどでしか見ないような単語、擬音語などが随所に書き込まれている。

 

 

(……ひょっとしてコレ……ブランが書いてる小説か!? してた作業って執筆作業だったのかよ!?)

 

 

思わずずっこけそうになったが、何とか持ち直した。

けれどもよくよく思えば、執筆することは何もおかしいことではない。

 

 

(そういや以前、5pb.のラジオに脚本家として起用しないかって言ってたっけ……さすがはブラン。 読むのも書くのも好きなんだな)

 

 

本を読みたいという欲求は時に、本を書きたいという欲求にもなるらしい。

多くの活字に触れて、自分もそんな世界を生み出したいという願望が出来てしまうことはよくあることだ。

ただ、ブランの性格から考えればもし彼女が現役の作家であれば何かしら自慢してきそうなものだがそれが無いとなるとまだ目指しているというところなのだろう。

 

 

(ってことはこれは応募用の原稿かな? 見るからにラノベっぽい感じだがどれどれ……? この白斗編集長が見てやろう)

 

 

申し訳ない、とは思いつつも興味が優先してしまった。

ブランが書いている小説がどのようなものなのか、しっかりと読み込んでいく。

そしてメモ用紙とペンを取り出し――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ん………あれ……わたし………?」

 

 

あれからどれくらいの時間が経ったのだろうか、ようやくブランが目を覚ました。

重かった意識も徐々に軽くなり、体を起こす。

目を擦って視界を正し、辺りを見回すと自分がベッドに寝かされていたことに気付く。逆に自分が座っていた机には白斗が座っていて、パソコンを眺めて―――。

 

 

「って白斗ッ!? 何やってんだテメェ!!?」

 

「うお!? 起きたのか!!?」

 

「そりゃいずれは起きるわ!! ってかテメェ何人のパソコン勝手に見てんだぁ!!」

 

 

素の口調を出しながらブランは白斗を突き飛ばすようにしてパソコンから離れさせた。

が、既に自分が今まで書いていた部分までをバッチリと見られていたらしい。

それを知った途端、彼女の白い肌が真っ赤に染まり―――。

 

 

「ぅ……うわああああああああああっ!!? 見られたぁああああああああああ!!?」

 

「ご、ゴメン! 最初はファイル保存してあげようかなと思ってたんだけど……」

 

「だったらそのまま閉じてろやぁ!! 普通乙女のパソコンガン見する奴が……あ」

 

 

と、白斗を叱りつけている最中だった。

机の上に置かれたメモに目が行く。そこには彼が纏めたらしい、ブランの小説の要点がビッシリと書き込まれていた。

面白かった点、改善した方が良い点、人物像や相関図、そのキャラクターの魅力などがこれでもかというくらいに。それだけ白斗は真面目に、しっかりと読み込んでくれていたのである。

 

 

「……白斗……こんなにも私の小説を……?」

 

「余計なお世話かなって思ったけど……ちょっとでもブランの助けになればいいなって思って」

 

 

苦笑いで、でもしっかりとそう答えてくれた。

一行一行おざなりにせずに、寧ろ大切に読み込んでくれた結果がこのメモだ。

これまでの新人賞では評価シートすら貰えなかったため何が悪いのかすら分からなかった。しかし周りに見せられる勇気もなかった。

でもこれからは違う。こんな自分の趣味にも真剣に向き合ってくれる人―――白斗がいるのだから。

 

 

「……ありがとう……」

 

「いや、ゴメンな。 勝手に小説読んじゃって」

 

「まぁ、それは反省すべきところだけど……もういいわ。 ……折角だから白斗も私の創作に付き合ってくれない?」

 

 

二人で一つの趣味を共有できるだけではない、二人で一つの作品を作り上げていく楽しさと嬉しさがここにある。

ブランはまた柔らかい微笑みを向けてそうお願いすると。

 

 

「ああ」

 

 

迷いのない白斗の、力強い返事が返ってきた。

 

 

「ありがとう……。 それじゃ、まずは白斗の指摘のあった点から見ていきましょう」

 

「ああ。 まぁ、何にしても擬音語が多すぎて分からないという点がだな……」

 

「むぅ……ならどうやって表現すればいいのかしら」

 

「述語や形容詞で音を表現しよう。 例えばだな……」

 

 

物語の軸はあくまでブランのもの、だから白斗がすべきことはその軸を崩さないようにして如何に読み手に伝わりやすくするか、そのための方法を模索すること。

白斗も物語を書いたことは無いため、意見を出しながらブランが実践し、そしてしっくりあったものを採用していくという流れになった。

 

 

 

―――それを繰り返して、どれほど時間が経っただろうか。ブランがカタタン、とキーボードを叩き終える。

 

 

 

「……ふぅ。 私から見ても素晴らしい出来になったわ……」

 

「ああ。 大分読みやすくなったし、これなら一次選考通過は固いだろうな」

 

「貴方にそう言ってもらえると、尚更自信が出てきたわ。 ふふっ……♪」

 

 

正直な所、あのメモに書かれていた指摘点は多く、評価自体は散々だったのだが一度文章を直せばあら不思議、とても完成されたものとなっていた。

今まで新人賞に送り続けた作品は数知れず、しかし今回完成させた文章はその中でも最も楽しく、最も自信のあるものとなった。

 

 

「そう言えば白斗、今回の本はどうだった? 面白い?」

 

「ああ。 今回もやたらリアルでな、力の使い方まで丁寧に描写されていて実話を超えて指南書のようにも思えるんだ」

 

「もし、実在した事実を記録したものなら本当の掘り出し物ね」

 

「だな、ブランに感謝! だけどこの主人公が今回とんでもないスケコマシぶりでな……」

 

 

今回の本の感想を言う白斗。

彼にとっての愛読書を語る時の彼は相応の少年らしさがある。特に主人公に関しては本人は肯定しないものの、口ぶりからして明らかに憧れている。

と、言うのもその主人公に関してブランが感じている点があった。

 

 

「ふふっ……やっぱりその主人公、まんま白斗ね」

 

「はぁ? 俺、あいつみたいに立派でもスケコマシでもねーよ」

 

「そう思ってるのは貴方だけよ。 唐変木な騎士様」

 

「ほぇ?」

 

 

詳しくは語らないブラン。やはり、鈍いこの男にはこのくらいでは伝わらない。

 

 

「……あ、騎士様で思い出した。 白斗、ネプテューヌから騎士様って呼ばれてるけど……あれは一体何なのかしら……?」

 

「すみません、後半に行くにつれてトーン落とさないでください。 怖いんですけど」

 

 

ブランが何気に気になっていたことを訊ねてみた。

そう、彼女からすればいつの間にかネプテューヌが白斗の事を騎士様と呼んでいたのである。しかも白斗は嫌がるどころかそれを誇りにしているかのような、特別な関係性を窺わせた。

それこそまるで、「女神と守護騎士」のような。恋する乙女として見過ごすことは出来ない。

 

 

「あー……まぁ、あの本の真似事でな。 ネプテューヌが再現してくれたんだよ。 ごっこ遊びみたいなモンだけどな」

 

「へぇー……」

 

「あの……何でしょうか、その不満全開な表情は……」

 

 

当然、ブランからしたら面白いワケが無い。

あの本における女神と守護騎士という関係は単なる仕事の関係などではない。互いが互いを想うが故の特別な絆なのだ。

例え正式なものでなくとも、ネプテューヌからすれば告白に近いものだろう。白斗も「ごっこ遊び」とは言いつつも、全身全霊でそれを全うしようとしている。

 

 

「……私には無いのかしら?」

 

「へ?」

 

「……私だって、女神なのに……白斗の事が何よりも大切なのに……。 私には、そう言うのしてくれないのかしら?」

 

 

ブランは嫉妬していた。当然だ、大好きな人が他の女の子とは特別な関係を結んでおいてこちらには何もないというのだから。

怒りの声から、徐々に悲しい声色になってしまう。

 

 

「例えそういう誓いが無くても、俺にとってはブランも命を懸けて守りたい人だよ」

 

「……でも、ちゃんと言ってくれなきゃ伝わらないわ。 もし貴方がそう思ってくれるのなら……」

 

 

例え二番煎じでもいい。単なる真似事でもいい。彼との特別な繋がりがあればそれでいい。

ブランはその一心で、その小さな手を伸ばした。

大好きな人に届かせようと、精一杯、力の限り、綺麗な指先を向ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……白斗、私の守護騎士に……なってください……。 ずっと、傍に居て―――」

 

 

 

 

 

 

 

もし、手元に指輪があれば、その綺麗な指先に嵌めてしまいたくなるほどの美しさ。

何よりもブランもまた、あの本の内容は知っている。故に例え真似事であろうとも、守護騎士になってくれと願うことが何を意味するのか。

全幅の信頼を白斗に預けている以上、彼がすべきことはその想いに応えることだけ。

 

 

「……はい。 貴女の守護騎士として、お傍に―――」

 

 

その小さな手を取り、口づけを一つ。

手にとは言え、キスをされたブランは全身に快感が駆け巡った。これが、幸せの感覚。

ネプテューヌはこんな思いを味わっていたのかと尚更羨ましくなったが、それすらもどうでもよくなるくらいにブランは幸せだった。

 

 

「……ふふっ! これで貴方も私の守護騎士ね」

 

「ああ。 ……守るものが多いと、大変だ」

 

「その分、幸せにしてあげるわ。 ……絶対に」

 

 

そしてこの誓いは、白斗からブランに対するものだけではない。ブランもまた、白斗に対して尽くすという誓いでもあった。

だからこそブランは幸せを感じている。彼女にとって白斗とはあの本に出てきた主人公―――いや、それ以上の守護騎士だった。

 

 

「……そろそろ時間ね。 夕食も出来る頃だし、行きましょう。 騎士様♪」

 

「はいよ。 女神様」

 

 

二人は手を繋いだ。互いに伸ばした手が、自然に絡み合う。

あんな些細な誓いで、二人の距離は益々縮まったと言えるだろう。これをネプテューヌが知ったらどうなるだろうか。

それを考えると少し怖くなる白斗で―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ……ネプテューヌ……忘れてた………」

 

「あっ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

二人は、固まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ネプテューヌちゃん! 次お絵かきしよ~!」

 

「それからこの絵本、読んで欲しいな……(わくわく)」

 

「ねぷてぬーっ! まだまだあそぼー!!」

 

 

あれからもずっと遊んでいたらしい。

未だに元気かつ遊び足りないちびっ子たちは大はしゃぎだった。

だがそれをずっと相手にしていた我らが主人公、ネプテューヌ様はと言うと。

 

 

「も、もう……ネプ子さんのライフはゼロよ……。 白斗、カムバック……バタッ」

 

 

力尽きていた。南無。

その後、白斗の手によってようやく救出されるも今度はブランとの距離感が縮まったことを目敏くも見抜き、あの誓いをブランにもしたとして嫉妬に狂うネプテューヌ様がいたそうな。




サブタイの元ネタ「文豪ストレイドッグス」


今回はコミケとブランの執筆活動のお話でした。
勇者ネプテューヌでとうとうコミケのイベントが出てきたので、これは是非とも取り入れねばと今回のお話を書きました。
私は去年の夏コミで初めて客として参加したのですが、マジで死にそうだった……。その時の大変さも思い出しながら執筆していました。
ルウィーでの描写は何だかほのぼのとして心温まるお話になる傾向が多いですね。さすがブラン様と言ったところでしょうか。
さて、次回のお話ですがここまで来たらリーンボックスのお話、当然やりますとも。
そしてサブタイも発表しちゃいます。ズヴァリ、「Shall We Dance?」。お楽しみに!
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