恋次元ゲイムネプテューヌ LOVE&HEART   作:カスケード

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第三十六話 俺とネプ子とピーシェと

ある日のプラネテューヌ。今日も気持ちの良い快晴だった。

 

 

「―――よいしょっと、これで午前中の仕事終わりっと!」

 

「私も終わった~!」

 

 

その国のシンボル、国政の中心として立つプラネタワー。

とある一室では二人の少年少女が書類仕事をこなしている。片やネプテューヌ、この国の女神。片や黒原白斗、その女神の下で暮らす少年。

二人は息の合ったコンビネーションで溜まりに溜まった書類を片付け終えてしまった。それもお昼時までに。

 

 

「おー、あれだけあった書類がスッキリ」

 

「ふっふーん! 私に掛かればこのくらいチョロいチョロい!」

 

「だったら最初からやってくれよと思う白斗君であった」

 

「ざ~んねん! 主人公の真の力は遅れて発揮されるものなんだよー!」

 

「いや仕事はさっさと片付けちまえよ」

 

 

普段はサボり魔であるネプテューヌ、しかし本気を出せば仕事は早いのだ。

有能なのだからもっと真面目にやってくれたらいいのに、とは白斗も思うところだがこれもまた彼女の魅力の一つかと肩を竦めた。

 

 

「ま、お蔭で早めに昼飯にありつけるんだ。 どっか飯食いに行くか!」

 

「おー! だったらネプ子さんと回るラーメン店でどうですか!」

 

「そういう名前の番組一本出来そうだな……テレビ局に売り込んでみたらどうよ?」

 

「いいかも! 絶対視聴率独占しちゃうもんねー!」

 

 

この国の女神であるネプテューヌ直々に美味しい店を紹介する番組を提案してみると案外悪くないのでは思い始めている二人。

美少女でもある彼女ならばルックス的人気も集められ、何より女神様から宣伝してもらえるというこれ以上ない集客効果。テレビ局も首を縦に振ってきそうだ。

シェア上昇のためにも根回ししておこうかな、と白斗が考えていた矢先。

 

 

「あれ、ピーシェ? お昼寝中か?」

 

 

ピーシェがソファで寝ていた。

近くには散乱した積み木や人形が転がっている。どうやら遊び疲れて寝ていたらしい。

 

 

「もー、しょーがないなピー子は」

 

「だな。 さっさと片付けちゃいますか」

 

「うん! でもお昼どうしようか……」

 

 

二人は転がっている玩具を片付けながら今後の相談をする。

先程までラーメンの話をしていたのだ。ここまで来たら何としてもそのラーメン屋には行ってみたい。

けれどもピーシェを一人残していくのは出来ない。どうしようかとあれこれ悩んでいると。

 

 

「………ぷるる、と………」

 

 

そんな寂し気なピーシェの寝言が、二人の耳に突き刺さった。

 

 

「え? ピー子……?」

 

「ぷるると、ってピーシェと一緒に住んでた人の名前だよな……?」

 

 

最近一緒に居るのが当たり前のように感じていたのだが、ピーシェは元々この恋次元の人間ではないらしく、別の世界でのアイエフやコンパ、イストワール、そして「ぷるると」という人物と一緒に住んでいたらしい。

既にピーシェがここに来て二ヶ月が経とうとしているのだ、寂しがるのも無理もない。

白斗とネプテューヌは顔を見合わせ、もう一度ピーシェに視線を落としてみる。

―――その目尻からは少しだけ涙が浮かんでいた。

 

 

「……お昼、適当に出前でも取るか」

 

「うん。 ラーメンはまた今度だね」

 

 

今一番寂しい思いをしているのはピーシェだ。だが、自分達は彼女の愛する「ぷるると」ではない。

ならばそんな自分たちに出来ることは、少しでも一緒に居てあげて寂しさを紛らわせてあげることだ。例え気休めでも、ピーシェのためになればと静かに微笑み合う白斗とネプテューヌだった。

 

 

「あら、白斗さんとネプテューヌさん。 もう書類仕事は終わったのですか?」

 

「あ、いーすん! 丁度良かった!」

 

「私に何か用でしょうか?」

 

 

そこへ通りかかった、浮かぶ本に座った小さな少女イストワール。

この国の教祖にして女神の補佐役。彼女が仕事を割り振りしているという、仕事面における事実上のトップ。

彼女にはどうしても話を通しておかなければならない。

 

 

「あのね……午後からの仕事休みにしてくれないかな?」

 

「……ピーシェさんのことですね?」

 

「あれ? 何でそのことを?」

 

「最近、こうやって一人で遊んでは一人で寝て……寂しそうな姿が多くなっていたので」

 

 

ズバリ言い当てられた。どうやら、今日に限った話ではないらしい。

ここ最近、彼女の事を放置してしまっていたと感じた二人は尚更顔を俯かせる。でも、イストワールはそれを否定するかのように頭を横に振った。

 

 

「ですが、お二人の所為ではありません。 私がもっと早く他次元と通信できていれば……」

 

「まー、仕事が遅いのがウチのいーすんだからねー」 

 

「ネプテューヌさん!? そこは貴女も慰めてくれるところでは!?」

 

 

しかし、白斗には分かっていた。ネプテューヌは無理にボケようとしていることを。

シリアスな空気が苦手と言い張る彼女だが、何とかして皆のために空気を明るくしようとしてくれている。

その意思を汲んで、イストワールもそこまで怒ってはいなかった。

 

 

「とにかく、今はピーシェさんのことです。 午後からと言わず二、三日くらい一緒に遊んであげてください」

 

「いいんですか? そんなに長く……」

 

 

頼んでおいて何だが、白斗が聞き返してしまった。

真面目で仕事熱心なイストワールであれば「明日からまたよろしくお願いしますね」くらいは言いそうなものだったが。

 

 

「ええ、ここ最近はツネミさんの一件やあの映画のお蔭でプラネテューヌのシェアが大幅に上昇しています。 少しの間でしたら大丈夫です」

 

「おぉー! さすが私と白斗のゴールデンコンビ!!」

 

 

ここ最近のイストワールの機嫌の良さはここにある。

以前行ったツネミのライブ、そしてネプテューヌ主導の映画。どちらも無料で公開された上にクオリティが高かったために国民からの支持が得られた。

娯楽好きが集まるプラネテューヌの傾向とも好相性で結果、シェアにも余裕が生まれたのだという。

 

 

「ネプテューヌさんも、正直なところ頑張っていますし羽を伸ばす意味でもしっかりピーシェさんと過ごしてあげてくださいね」

 

「了解ー! 白斗、午後から何してあげよっか!」

 

「そうだな……あ! じゃぁこんなのとか……」

 

 

こうしてイストワールから快く許可を得られた白斗とネプテューヌはピーシェを楽しませるための作戦会議に取り掛かる。

彼らとて嫌々ではない、ピーシェと共に過ごすためのプランをあれこれ立てているこの一時ですら楽しく感じていた。

そんな二人を微笑ましく見つめながら、イストワールは出前を注文するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「というワケでピー子! しばらくお休みになったから私達と遊ぼっか!」

 

「ホント!? ねぷてぬとおにーちゃんとあそびほーだい!?」

 

 

お昼に出前として注文したカレーを皆で食べていると、ネプテューヌから発せられたその一言にピーシェは目を輝かせた。

懐いている二人と遊べる、それだけで彼女は夢見心地のようだ。

 

 

「おう、やりたい放題よ! でな、お昼食べたらピーシェの行きたいところに連れていってやるよ」

 

「ぴぃのいきたいところ?」

 

「他にもしたいこととかあったら遠慮なく言ってきていいよ! ピー子、すっごくいい子にしてたからね! ご褒美だよ!!」

 

 

ねー、と微笑み合う白斗とネプテューヌ。まるで夫婦のようだ。

一方のピーシェは自分の態度を褒められて「やったー!」とバンザイしながら大喜びだ。

だが、いざ行きたいところ、したいことと言われても急に出てこないらしく、人差し指を加えては唸っている。

 

 

「うーん…………あ! そうだ! ぴぃ、おそとにいきたい!」

 

「どこかで遊びたいの?」

 

「ねぷてぬやおにーちゃんといっしょならどこでも! ふたりとあそびたいの!」

 

 

天真爛漫な彼女らしいリクエストだ。

思えばピーシェは幼い故に一人で街中に出られない。だから急に行きたいところと言われてもピンと来ないだろう。

であれば懐いている二人が一緒についていってあげれば、楽しい話題などが見つかるかもしれない。

 

 

「お安い御用だ。 決まったな」

 

「うん! い~っぱい街を見て回ろうねピー子!」

 

「やったーっ!!!」

 

「グホォ!? う、嬉しいのは分かったからタックルはや、やめ……グフッ」

 

 

兎にも角にも遊べることになったピーシェは大騒ぎ。

お決まりのようにネプテューヌに華麗なタックルを食らわせ、スリーカウントを奪ったのだった。

その後、何とか起き上がったネプテューヌはイストワールの見送りを受けながら外へと繰り出していく。

 

 

「わーい! おでかけだー!!」

 

「わーい!!!」

 

「何故ネプテューヌの方が騒いでるんだ……」

 

 

やれやれと肩を竦めながらも白斗は二人の後をついていく。

元気なピーシェではあるが、本当にネプテューヌとは仲がいい。二人とも精神的には子供っぽい分、衝突も多いが気も合いやすく実の姉妹のようにすら見えていた。

だからこそ白斗にとっては何よりも尊く映ってしまう。

 

 

「あー! ぴぃたちのえいがやってるっ!」

 

「ん? おお、ホントだ。 金取ってねーってのに凄い話題性」

 

 

するとあらゆるスクリーンに映されていた映像、先日皆で作り上げた「勇者ネプテューヌ」の紹介映像にピーシェは目が釘付けだ。

当然ピーシェが活躍しているシーンもあり、自分の活躍が華々しく取り上げられているというだけでピーシェは嬉しそうだ。

 

 

「こうしてみるとホントにやってよかったよね! 映画!」

 

「ああ。 ネプテューヌ様様だよ、本当に」

 

 

自分のシーンに大喜びなピーシェ、それを見つめている白斗とネプテューヌも嬉しそうだ。

プラネテューヌのシェア上昇にも繋がったことがそうだが、何よりも多くの人に楽しんで貰えたことが彼女にとって嬉しい。

その楽しんで貰えた一人にピーシェがいることも。

 

 

「あ……」

 

「ん?」

 

 

しかし子供の興味とは移ろいやすいもの。

ピーシェの視線はふと、街中を歩いている自分と同じくらいの少女に向けられていた。

少女は自分とは違って快活さは無いが、随分と可愛らしい服に身を包んでいる。それをじっと羨ましそうに見つめていて―――。

 

 

「……ピー子、服買いに行こっか!」

 

「いいのっ!?」

 

「うん! 言ったでしょ、ご褒美って!」

 

 

するとネプテューヌがお財布を取り出してそんな提案をしてきた。

彼女の言葉に目を輝かせるピーシェ。姉妹を超えてすっかり親子のようにも見える。

ご機嫌なピーシェに連れられる形で向かったデパート、そこの子供用の服売り場でピーシェとネプテューヌはあれこれとおめかしをしていた。

 

 

「ねぷてぬ! おにーちゃん! これかわいい!?」

 

 

ジャラッ、と試着室のカーテンを開け放ったピーシェ。

動きやすさ重視に普段着ではなく、フリルが存分にあしらわれたワンピースだ。

ふんわりと印象を与え、元気なイメージを押さえて可愛らしさを引き出している。

 

 

「おー! 似合ってるー!」

 

「いいじゃん、馬子にも衣裳って感じで」

 

「白斗ー! それ褒め言葉じゃないよ!!」

 

「かっかっか、冗談冗談。 可愛いぞピーシェ」

 

「うん! でも、まご? おにーちゃん、ぴぃのおじいちゃんだったの?」

 

「あー、いや違うんだ……言葉ってムズカシイネー」

 

 

ネプテューヌはべた褒め、白斗は冗談を零しながらも頭を撫でてそう評した。

ちょっとした誤解は生まれそうになったものの、こんな他愛もない会話で笑い声が溢れてくる。

服に加えて踏むと音の出る靴も購入、白斗に買い物袋を持たせ、次なる店へと向かう三人。

 

 

「さて、次はどこに行こうか?」

 

「ぴぃ、おなかへったー」

 

「私も減ったー!」

 

「やれやれ、んじゃ甘味処で一休みしますか。 晩御飯あるんだから食べ過ぎるなよ」

 

「「やったー!!」」

 

 

甘いものが食べられると聞けば喜ぶのが女の子。

手を繋ぎ合わせてはしゃぐネプテューヌとピーシェの周りにハートマークが溢れているようだ。

そんな二人を微笑ましく思いながらもデパート内の喫茶店に立ち寄る。娯楽に力を入れているプラネテューヌの喫茶店だけあって、どの料理の写真も美味しそうに見えてしまった。

 

 

「わ~! 私どのプリンにしようかな~?」

 

「やっぱプリンありきなのね……。 俺はロールケーキのコーヒーセットで」

 

「白斗もコーヒーありきだね……。 ピー子はどうする?」

 

「ぴぃ、ねぷてぬとおなじの!」

 

 

皆自分の好きなものを注文し、そして運ばれたそれに舌鼓を打つ。

特にネプテューヌとピーシェは女の子、甘いものを口にすればそれはもう可愛らしく蕩けている。

 

 

「んー! たまには抹茶プリンもいいね~」

 

「ねぷてぬ! そっちもたべさせてー!」

 

「いいよ! それじゃ私もピー子の食べていいかな?」

 

「うん! じゃ、いっしょに!」

 

「「あーん!」」

 

 

それぞれが注文したプリンをスプーンで一掬い、匙の上でぷるるんと揺れるそれをお互いに食べさせあう。

仲良きことは美しきかな、まさにそうとしか思えないような微笑ましい光景に白斗は勿論、周りの客たちもほっこりとしていた。

 

 

「……そーだ! 白斗にも……はい、あーん♪」

 

「ぶっ!? ちょ、ここ公衆の面前……!!」

 

 

するとネプテューヌがプリンを一口差し出してくる。

思わずコーヒーを吹きそうになった白斗だが、何とか堪えた。

しかしそんなことはネプテューヌにも予測済み、少し瞳を潤ませて、切なそうな声で呟く。

 

 

「私のプリン……食べてくれないの……?」

 

「やめろ、その攻撃は俺に効く……やめてくれ……! ……あ、あーん……」

 

「はい、あーん!」

 

 

必殺、泣き落とし。

白斗にはこれが面白い位に効くのだ。例え演技と分かっていても、相手がネプテューヌであれば。

はぁ、と溜息を付きながらも声を震わせながら口を開ける。するとネプテューヌは嬉々としてプリンをその口の中に運んだ。

 

 

「ふふっ♪ どう、美味しい?」

 

「……ん、ま、まぁ……イケるな……」

 

「でしょー?」

 

(……ホントは恥ずかしさと……嬉しさで味なんて分かんなかったけど、な……)

 

 

 

プリンを食べるとネプテューヌは満面の笑顔だ。

そんな顔をされては白斗も尚更この本心を晒すわけにはいかない。けれども、恥ずかしがりながらも笑顔で返した。

と、そんな彼の様子が気になったのかピーシェも同じようにプリンを一掬い。

 

 

「おにーちゃん! ぴぃのもあげる!」

 

「お、ありがとな。 あーん」

 

 

こうすれば白斗に喜んでもらえるという健気な想いから出た行動。これを無碍にするほど、白斗は子供ではない。

素直に口を開け、ピーシェからのプリンを有難くいただいた。今度はしっかりと味を感じ取れる。

 

 

「私にピー子と両手に花ですなー、白斗♪」

 

「……だな。 幸せ者だよ、俺は」

 

 

こんなに可愛い女の子二人を連れていける幸せ、そしてその幸せを感じ取れる幸せ。

元の世界では本当に味わえなかったこの感覚に、白斗は深く感謝した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――さて、服などを買っていった白斗たちはデパートを後にした。

次はどこへ遊ぼうかという話になったが、まだ幼いピーシェにゲームセンターなどは早い。

悩んでいるとピーシェが行きたいと言い出した場所があった。それはどこかと言えば。

 

 

「わー! すべりだいー!」

 

 

何の変哲もない公園だった。

程よく広く、砂場やブランコ、滑り台にジャングルジムと言った遊具が備え付けられた、どこにでもあるような公園。

元気っ子なピーシェは体を動かして遊べるとなると目を輝かせて色んな遊具に取りつく。

 

 

「科学技術の発展したプラネテューヌにもこんな場所があったんだなー」

 

「まーね。 ゲームばっかりだと不健康になっちゃうから、こういう場所も必要になると思うわけなのだよ、ネプ子さんは」

 

「オメーが言えた義理じゃねーな。 後これ絶対イストワールさんの発案だろ」

 

 

苦笑いしながらも白斗は遊んでいるピーシェを見守った。

子供用の遊具とは言え、遊び方を誤れば大怪我をしかねないからだ。寧ろ白斗の世界ではそれが問題となり、名の知れた遊具と言う遊具が撤去されているという現実。

だからこそ、こんな光景すらも尊く思えてしまう。

と、ここでピーシェはブランコに乗り込み、持ち前のパワーで大きく漕ぎ始めた。

 

 

「おにーちゃーん! ねぷてぬーっ! みてみてー、すっごいゆれてるー!!」

 

「お、おい! あんまり揺らしすぎると危ないぞ!?」

 

「だいじょーぶだいじょーぶ!! ぴぃ、まだまだいけ………あっ!?」

 

「「あッ!!?」」

 

 

だが、その時。汗で手が滑ったのか、ピーシェの手がブランコの鎖から離れてしまった。

元々大きく勢いをつけていたブランコだ、当然ピーシェの小さな体は空中へと放り出される。

勢いと合わさって大きく飛ばされたピーシェに白斗とネプテューヌは血の気が引いた。

 

 

「言わんこっちゃないっ!! クソッ、間に合……っ!?」

 

 

白斗が落下地点を予測し、そこへ滑り込もうとする。

だが彼よりも早く飛び出し、ピーシェを受け止めた人物が一人。

 

 

「……間一髪、ね!」

 

「わっ! おっきいねぷてぬだ!」

 

「な、ナイスだネプテューヌ! 怪我も無いみたいだな……良かった……!」

 

 

大きくなったネプテューヌ、そう女神化した姿であるパープルハートだ。

女神化すれば身体能力も大幅に向上する。あの距離、あの瞬間であろうともピーシェを助けるのは容易だ。

兎にも角にも二人には怪我はないようで、白斗もホッと胸を撫で下ろした。

 

 

「……ピー子っ! 危ないって言ったでしょう!?」

 

「ぴっ……! ご、ごめんなさい……」

 

 

そしてパープルハート様によるお叱りが飛んできた。

女神化した彼女の声は凛としており、迫力もある。これにはピーシェも恐怖に震えあがり、涙を浮かべながらも頭を下げた。

反省している、そう感じ取ったネプテューヌは険しくなった顔を緩め、ピーシェの小さな頭を撫でてあげる。

 

 

「……もうこんなこと、しちゃダメよ?」

 

「……はい」

 

「分かればいいのよ。 さて……」

 

 

厳しく叱り、けれども反省しているのならば優しく許す。

まさに女神様としか言いようがない美しい光景に白斗は言葉を奪われていた。

だがそれも長くは続かない。目を閉じたパープルハートは光を纏うとすぐに女神化を解除した。本人曰く「疲れる」とのことだが。

 

 

「ピー子には私がついてないとダメだね。 ……一緒に遊ぼう!」

 

「……! うん!」

 

「ほらほらー! 白斗も早くー!!」

 

「しゃーねーな。 今行くー!」

 

 

今度はネプテューヌや白斗と一緒に遊ぶことになった。

この年で公園で遊ぶというのも正直恥ずかしくはあったが、それよりもピーシェの喜ぶ顔が見たかった白斗は悩むことなく遊びに加わる。

 

 

「ピー子、行っくよー! それーっ!!」

 

「わーっ!!」

 

 

ネプテューヌがピーシェを抱えながら一緒に滑り台で遊んだり。

 

 

「ピーシェ! 待てー!!」

 

「おにーちゃんこっちこっちー!!」

 

 

白斗がジャングルジムでピーシェを追いかけたり。

 

 

「ではこれより、この砂場にプラネタワーを建設します!!」

 

「しまーす!!」

 

「よーし、俺らの手で最高のタワーを作ってやろうぜ!!」

 

「「「おー!!」」」

 

 

砂場でプラネタワーを作ったりなど、まさに童心に帰ったかのように遊びつくした。

それこそ、日が暮れるまで―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――日が暮れ、カラスが鳴く。

それは即ち、一日の終わりが訪れようとしている合図。他に遊んでいた子供達も姿を消し、街中も仕事帰りの人々で溢れ返ってくる。

 

 

「ふーっ! 遊んだな~」

 

「だね。 ピー子、今日は楽しかった?」

 

「うん! ぴぃ、だいまんぞくっ!」

 

 

最後まで公園に残って遊んでいた白斗とネプテューヌ、そしてピーシェ。

三人も遊び疲れたものの、とても晴れやかな笑顔だった。

特にピーシェは大好きな二人と遊べたことで満面の笑顔を向けてくれている。もう寂しさなど忘れてしまったかのように。

 

 

「そりゃ良かった。 んじゃ、そろそろ帰るか」

 

「もうお腹ペコペコ! そういや、今日の晩御飯ははネプギアが作ってくれるってさ」

 

「ほー。 ネプギアがどんなの作ってくれるのか楽しみだなー」

 

 

遊んだ後の楽しみと言えば晩御飯。

特に腹ペコの三人にはよりそれが待ち遠しくなる。ネプギアがどんなものを作ってくれるのか思いを馳せていると、くいくいと白斗が着込むコートの裾を引っ張るピーシェが。

 

 

「ん? どうしたピーシェ?」

 

「あ……あのね。 ぴぃ、お願いがあるんだけど……」

 

「なぁに? ピー子?」

 

 

二人が屈んで出来るだけピーシェと同じ目線で話す。

こうすることで少しでもピーシェへの圧迫感を減らし、話しやすくできる。そして向けられた笑顔でより緊張感を解かせる。

ピーシェは珍しくもじもじしながらも、口を開いた。

 

 

「そのね。 ぴぃ、してほしいことがあるの」

 

 

そんなピーシェのお願いとは―――。

 

 

「……ホントにこれだけでいいのか? 三人で手を繋いで帰るだけで」

 

「うん! ぴぃ、してみたかったの!!」

 

「でも確かにこれは悪くない……寧ろイイね!!」

 

 

夕日に照らされた帰り道、ピーシェを間に挟んで白斗とネプテューヌが手を繋いでいた。

三人で繋がれたその様子は、まるで家族のよう。

元気いっぱいながらもまだ幼いピーシェにとって必要なもの。それは温かい家族。彼女にとって白斗とネプテューヌとは、その温かい家族なのだ。

 

 

「こうしてみるとピー子が私の子供で、白斗がお父さんみたいだよね!」

 

「……っ!? そ、そうかもなー……」

 

「あーっ、白斗ってば照れてるー!!」

 

「おにーちゃんかわいいー! きゃははー!」

 

「か、からかうなってーの!!」

 

 

そう、まさに家族。

些細なからかいも、温かく感じれる一時。三人の繋がりは夕日に映し出され、一つに繋がれた影が物語っていた―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、それから時間は経ち、プラネタワーのキッチン。

ここでは本日の夕食当番に名乗りを上げたネプギアが調理をしていた。

コトコトと煮込まれている鍋。蓋を取ると、実に食欲をそそる匂いが辺りに広がる。

 

 

「―――うん、いい感じ!」

 

「今日の夕食はポトフですか。 お洒落ですねネプギアさん」

 

 

ポトフ。それは肉や野菜、ジャガイモなどを入れて煮込んだ鍋料理の一つ。洋風おでんと言えば分かりやすいだろうか。

イストワールは見ただけでも分かる。これは絶品だと。

 

 

「さーて、それじゃ盛り付け……って、あー!! 炊飯器仕掛けるの忘れてたー!!」

 

「あらあら……」

 

 

しかしここで凡ミス発生。

炊飯器のスイッチを入れ忘れていたのだ。当然米は炊き上がっていない。

ネプギアはがっくりと肩を落とすとスイッチを入れた。

 

 

「いーすんさん、お姉ちゃん達はどこですか?」

 

「確か白斗さんの部屋で遊ぶ、と言っていましたが」

 

「でしたら悪いんですけど、もう少しだけ時間掛かるって伝えて貰えますか?」

 

「分かりました」

 

 

あの三人は帰ってきて早々、夕食が出来るまでの間、白斗の部屋で遊ぼうという話をしていたはずだ。

一言添えて置かないとネプテューヌ辺りが不機嫌になってしまうかもしれない。そう思い、イストワールが白斗の部屋を訪れる。

ところが遊んでいたにしてはやたら静かだ。首を傾げながらもイストワールはドアを開ける。

 

 

「皆さん、いらっしゃいますか? 晩御飯ですけれどもう少しだけ……あら?」

 

 

空けた途端、イストワールは驚いてしまった。

確かに、白斗もネプテューヌも、そしてピーシェもいる。

 

 

「Zzz……Zzz……」

 

「すー……すー……えへへ、はくとぉ~~~……」

 

「くかー……くこー……」

 

 

―――だが、全員眠ってしまっていたのだ。絵本の読み聞かせの最中だったのか、白斗が本を開き、彼の膝の上にピーシェが乗り、そんな彼に寄り添うようにネプテューヌが座っている。

その姿勢のまま、三人は寝息を立てていた。まるで家族が遊び疲れてしまっていたかのような光景に、イストワールは優しい笑みを向ける。

 

 

「……もう少し寝かせてあげましょうか。 ふふっ」

 

 

イストワールはその小さな体で何とか近くの毛布を運び、三人に掛けてあげる。

優しい温もりで三人の寝顔はより一層穏やかになる。

 

 

 

(―――こんな穏やかな時間が、ずっと続いてほしいですね)

 

 

 

もう少し寝かせてあげよう。

そう思い、イストワールは三人の頭を優しく撫でてあげた。

仕事は不真面目だが心優しい女神に、こんな小さな体でも異世界で暮らす少女に、そして常に誰かのために戦う少年に。

当たり前の幸せを、当たり前のように感じ取れる、こんな時間が続くことを願って―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――某国某所。

機械やらパイプやらが複雑に入り組んだ研究所。

今ここに一人の女性と一匹のネズミがパソコンである動画を見ていた。

 

 

「ふぉ~っ! コンパちゃん可愛いっちゅよ~~~!」

 

「うっせーな! 映画くらい静かに見ろってーの!!」

 

「可愛いコンパちゃんの前にこのエクスタシーを押さえるなんて無理っちゅ~~~!!」

 

「ダメだこりゃ……。 にしてもこの映画、意外と面白いじゃネェの。 まぁ、アタイに赤っ恥かかせたあの男が主演ってのは気に食わネェけど」

 

 

今、二人が見ている動画。それは映画だ。

先日ネプテューヌ主導で製作し、ゲイムギョウ界全域に無料配信された映画。話題作ということで偵察目的で視聴していたのだがこれが案外面白い。

ネズミことワレチューはコンパにメロメロ、女性こと下っ端リンダも何だかんだで映画を楽しんでいた。

だが、それに対して面白くない表情を向ける魔女が一人。

 

 

「……貴様ら、何をやっている!? 女神が作った映画などに現を抜かしおって!!」

 

 

彼らの(一応の)上司、マジェコンヌだ。

女神を目の仇とする彼女からすれば女神が制作した映画など憎しみの対象でしかない。

 

 

「いいじゃないっちゅかオバハン。 面白いものは面白い、認めなきゃダメっちゅよ」

 

「アタイだってこの男は気に食わネェけど、出来は中々ッスよ!」

 

「全く……」

 

 

青筋を浮かべながらも怒りを何とか堪えようとするマジェコンヌ。

そんな中、リンダは主演を務める少年を指差した。

リンダはどちらかと言えば最近は女神ではなく、この少年に敵意を向けている。彼こそ以前、アンチモンスターを使った作戦を阻み、そして彼女を失神まで追い詰めた恐怖の対象―――。

 

 

 

 

「………白斗………だと………?」

 

 

 

 

その名を呟いたのはリンダでもワレチューでも、増してやマジェコンヌでもなかった。

振り返るとそこには白衣を着こんだ、初老の男性が立っていた。

彼こそマジェコンヌと手を組んでいる狂気の科学者。しかし、その瞳は狂気と言うよりも憎悪に溢れ返っている。

 

 

「何故だ……何故この小僧がこの世界に来ているゥッ!!? 香澄を………私を裏切ったこのクズがあああああああああああああああああああああああああああッ!!?」

 

「「ひいぃぃぃぃぃいいいいいいいッ!!?」」

 

 

力任せに近くの計器を殴りつけ、その衝撃と剣幕でリンダとワレチューが震え上がった。

この男はたまにこうなる。自身の研究が上手くいかないと反省点自体は見つけ、改めるものの溜まったストレスを近くの何かにぶつける。

力の差があるためさすがにマジェコンヌには暴力など振るえなかったが、だからと言って物に当たる姿勢はマジェコンヌも不愉快に感じていた。

 

 

「……知っているのか? 黒原才蔵よ」

 

 

苛立ちを露にしながらもマジェコンヌは訊ねた。

目の前の狂気の科学者―――黒原才蔵に。

 

 

 

 

 

「知っているも何も……この私の息子だッ………!!」

 

 

 

 

 

その口から放たれた衝撃の事実。

目の前の狂気に歪んだこの男と、映像の中で楽しそうに演じているこの少年が―――親子であるというこの事実をマジェコンヌ達は信じられなかった。

 

 

「何だと……!?」

 

「そうか……あの時、殺す直前……どのようにして消えたのかと思っていたのだがこの世界に転移していたのかッ!!! ……クク、クカハハハハハハハハハハ!!!!!」

 

 

しかし、息子と言い放ちながらもそこに愛情など欠片も無かった。

あるのはただ憎悪の身。自身を裏切ったと言い放つその男は、少年こと白斗に殺意すら向けていた。

何があったのかはマジェコンヌも知るところではないが、ロクでもない過去があったのだろうなとは想像がつく。

 

 

 

 

「……奴の所為で、香澄は……私は苦しみ続けた……!! なのに、奴はこの世界で、のうのうと生きているッ……これが許せるかぁぁぁあああああああああああ!!! 思い知らせてやる……奴に生きる資格など無いことをォォオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!」

 

 

 

 

男は狂気に吠える。

愛する娘の事も忘れ、ただ自身を傷つけたという身勝手な理由で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――少年たちの穏やかな一時。それは、嵐の前の静けさに過ぎなかった。




大変お待たせしました、今回はピーシェに焦点を当てたお話でした。
ピーシェは元気で一緒に遊んであげたくなるような魅力がいいですよね~。そんな雰囲気を少しでもお届けできたら幸いです。
さて、物語自体は緩い感じでしたがこれこそ嵐の前の静けさ。即ち次回、嵐来る。お楽しみに。
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