恋次元ゲイムネプテューヌ LOVE&HEART   作:カスケード

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第三話 守れ、女神を

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「誰に手を出してんだ、って聞いてんだよ……クソ野郎が」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――そこにいたのは、ただの少年のはずだった。

だが窓から差し込む月光を背に、影を纏った少年の怒気と殺気。それはネプテューヌを暗殺するために忍び込んだ男が、少年―――黒原白斗を暗殺者と認めるほどだった。

 

 

「いいか、その人は……ネプテューヌはな……。 俺の恩人で……大切な女神様なんだよ」

 

 

一歩、踏み出す。

音も無く踏み出したはずなのに、衝撃波が巻き起こるような力強さ。

 

 

「ネプテューヌは……おバカで、サボりがちで、無邪気で、そのクセ健気で、明るくて、優しくて、温かくて、人の事ばかり考えて………こんな俺すらも、救ってくれた……」

 

 

今日と言う一日を思い起こしながら、白斗が呟く。

長所も、欠点も、何もかもが彼女の魅力だ。優しい長所も、おバカな欠点も、全てが彼女を創りだしている要素。

何一つ、欠けてはならない。だから、それを奪おうとしているこの男達は憎かった。

―――殺したいほどに。

 

 

「だから、テメェら如きが手を出していい人じゃねぇんだ……」

 

 

重く、暗く、焼き尽くすような声色。

汗が止まらない、息も荒くなる。

何よりも、少年の瞳が、まるで血のように赤く染まり切り―――

 

 

 

 

 

「失せろ」

 

 

 

 

 

深き殺気と怒りが、男を包み込む。

怒りの原因は言われるまでも無い。自分に新しい人生を与えてくれたネプテューヌを殺そうとする男達に対するものだ。

いつの間にかネプテューヌに突き立てようとしていた刃を握る手は、カタカタと震えていた。恐怖故に。

男の中で、既にこの少年が脅威だと認めてしまっている。

 

 

「な、な……何だこのガキ……!? チィィイイイイイッ!!!」

 

 

一瞬、恐怖で我を忘れてしまったが白斗がネプテューヌ暗殺を阻止しようとしていることだけは確かだ。

任務を遂行するため、障害となる白斗を殺すべく手を振り払い、彼に向かって白刃を振るう。

 

 

(殺ししか能のない俺だが、逆を言えば殺しは熟知している。 ……お前ら如きの殺しで、女神様に触れようなんざ……尚更殺したくなる)

 

(ぜ、全然当たらねぇ!? こいつ……何者だ!? 何なんだよぉ!!?)

 

 

鋭い斬撃、しかし白斗はそれらを次々と掻い潜る。

全く当たる気配のない白斗の動きに痺れを切らしたのか、男が突きで一気に殺しに掛かろうとするが。

 

 

「ほいっと」

 

「あっ……!?」

 

 

あっさりと見切られ、避けられた。

それどころか足を引っかけられ、うつ伏せに転んでしまう。即座に起き上がろうとしたが、それよりも早く。

 

 

「テメェが……寝てろやッ!」

 

「がああああああああッ!!?」

 

 

その脳天に、白斗の拳が振り下ろされた。

凄まじく鈍い音を響かせ、男は意識を失う。

男の気絶を確認し、白斗が一息をついているとベッドの方からもぞもぞと音がした。

 

 

「………んにゅ………? はくと……?」

 

「ね、ネプテューヌ!? 起きちまったのか……!?」

 

 

さすがに大暴れした影響か、ネプテューヌが目を覚ましたのだ。

寝ぼけ眼で白斗の姿を捉える。初めはただ彼だと認識しただけでまさしく寝ぼけているだけだったが、徐々に意識が覚醒してくると―――

 

 

「……え……? ……き、きゃあああああっ!? 何で白斗がここに!? 夜這い!? 夜這いなのコレ!?」

 

「ち、違うから!! これには色々と事情がですね!!?」

 

「夜の女の子の部屋に忍び込む事情ってなんなの!? ゲームならエッチなCG回収イベントに発展しちゃってるよコレ!!?」

 

 

悲鳴を上げた。当然である。起きてみれば、年頃の少年が寝込みを襲うとしている光景にしか見えないからだ。

思わず弁明する白斗だが、言い訳のしようがない。と、そこへ―――。

 

 

「女神、覚悟ぉぉぉぉ!!」

 

「ねぷ?」

 

(な!? もう一人!?)

 

 

天井から暗殺者がもう一人舞い降りてきた。その手にはやはりナイフ、そして真下にはネプテューヌ。

降りてくる勢いを利用して、そのまま刺し殺そうとしている。

 

 

「ネプテューヌっ!!」

 

「え? ひゃぁっ!?」

 

 

間一髪、白斗がワイヤーをネプテューヌの腕に巻き付けて、無理矢理引き寄せた。

お蔭で切っ先はネプテューヌの代わりに真下にあった枕に食い込み、彼女は白斗の背後へと回される。

 

 

「チィ! 邪魔をするな、クソガキがあああああああッ!!」

 

「ぐッ!?」

 

 

すぐさま枕から刃を引き抜き、そして再び振りかざす暗殺者。

今右手はネプテューヌを引っ張るためにワイヤーを伸ばしており使うことが出来ない、ならば左腕で防御するしかない。

盾にした左腕に、男の凶刃が深々と突き刺さる。

 

 

「は、白斗!?」

 

「大丈夫だ! それよりもッ……!」

 

 

目の前で、親しい少年が刺された。

余りのショッキングな光景に、さすがのネプテューヌも意識が覚醒してしまう。

だが白斗は痛みに顔を歪めながらも決して退こうとはしない。

 

 

 

 

 

「ネプテューヌにッ………手を出すんじゃねぇぇえええええええええッ!!!!!」

 

「がぼぉッ!?」

 

 

 

 

 

強烈なハイキックが、男の顎に打ち込まれた。

その威力は男の体を浮かせ、天井に叩きつけるほどだ。当然男の意識は刈り取られ、床へと落ちていく。

意識を失った暗殺者二人、白斗はコートからロープを取り出して縛り上げる。

 

 

「よっと、これで良し」

 

「は、白斗……」

 

 

少し怯えたような声を出すネプテューヌ。

無理もない、今まで通りの生活をしていたはずなのに、理不尽に殺されそうになったのだから。

だからこそ、あんな明るい笑顔が失われてはならないと白斗は心から願う。

願うから、こんなことが出来た。

 

 

「ネプテューヌ、怪我はないか!?」

 

「わ、私は大丈夫だけど……白斗が……」

 

「そっか、大丈夫なのか……良かった……!」

 

「え!? わひゃぁ!?」

 

 

彼女の無事を確認するや否や、白斗が抱き着いてしまった。

突然の抱擁に驚くネプテューヌだが、彼の体が震えていたことに気づく。

ネプテューヌが死んでしまうことに恐怖した、そして彼女が無事でいてくれて安心した―――そんな彼の思いが、伝わってくる。

 

 

 

 

 

「もう大丈夫だ、ネプテューヌ。 ……俺が、守るから」

 

 

 

 

 

白斗は、先程と違い穏やかな笑顔を向けてくれた。

優しい声、穏やかな笑顔、腕から伝わる温もり。白斗から伝わるもの一つ一つが、ネプテューヌの心に、優しく深く沁み込んでいく。

 

 

(………白斗………。 何だろ、この温かい気持ち……)

 

 

ネプテューヌを守って戦う白斗の姿が凛々しく映った。

電気の無い部屋、月光を身に浴びて戦う彼の姿が、ネプテューヌの瞳に深く焼き付く。そして彼の姿を、声を、笑顔、体温を感じる度に心臓が跳ねる。トクン、トクンと心地よく。

だが、彼の傷ついた腕を見た瞬間、そんな気持ちは吹き飛んでしまう。

 

 

「って! そ、それよりも! 白斗、腕……腕が……!」

 

「ん? こんなモン、お前の命に比べたら安い安い」

 

 

暗殺者が捕縛されるや否や、ネプテューヌが駆け寄ってくれた。

殺されそうになったのは彼女の筈なのに、刃が突き刺さっている白斗の心配をしてくれている。それこそ、泣きそうな表情で。

こそばゆい感情を感じつつも、白斗は何事も無かったかのように腕に刺さったナイフを引き抜く。血の垂れる音が、ネプテューヌから血の気を引かせた。

 

 

「安くなんか無いよ! 早く治療! 回復!! 手術!!!」

 

「んな大袈裟な……」

 

 

夜中であるにも関わらず、殺されそうになったにも関わらず、未だに白斗の身を案じる余り大騒ぎするネプテューヌ。

どう宥めたものかと思案していると、部屋のドアが凄まじい音を立てて開けられた。

 

 

「お姉ちゃん、今の音……って何この映画みたいな状況!?」

 

「白斗まで!? ホントに一体何が……!?」

 

 

駆けつけてくれたのはネプギアと、教会に泊まっていたアイエフだった。

二人ともネプテューヌを心配して駆けつけてくれたらしい。

彼女達の目に飛び込んできた光景。倒れている不審者が二人、ネプテューヌは心配そうに白斗の裾を掴み、そして当の白斗は腕から血を垂れ流している。

 

 

「アイエフ! 丁度良かった、警察呼んでこの二人を引き渡してくれ」

 

「け、警察!?」

 

「それとこの件に関しては緘口令を敷かせてくれ。 ネプテューヌ、女神権限でそれくらい出来るだろ?」

 

「で、出来なくはないけど……」

 

「なら良し! ネプギアは二人の傍に。 いいか、絶対に二人から離れるんじゃないぞ!」

 

「わ、分かりました……って、白斗さん!? どこへ行くんですか!?」

 

 

三人に迅速かつ的確、簡潔な指示を与える白斗。

終えるや否や、部屋を飛び出そうとする。慌ててネプギアが引き留めようとするが、振り返った彼の表情からは鬼気迫るものがあった。

 

 

「周辺の警戒だ。 まだ賊が潜んでいるかもしれない、絶対に不用意な行動するなよ!」

 

「だから! 白斗だって危ないよ!」

 

「俺の心配より自分の心配をしろ。 大丈夫だって、すぐに戻ってくる!」

 

「ちょっと、白斗!?」

 

 

まだ暗殺者が潜んでいる可能性を考慮し、白斗が飛び出していく。

ネプテューヌやアイエフの声をも振り切ってしまい、結局は行ってしまった。

後に残されたネプテューヌは恐怖からか、それとも疲れからか床にへたり込んでしまう。アイエフはそんな彼女を慰めつつ、警察に連絡。

そしてネプテューヌやイストワールの指示の下、暗殺者二人は秘密裏に警察に引き渡され、緘口令が敷かれることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……白斗、大丈夫かな……」

 

「お姉ちゃん……」

 

 

それから数十分後、ネプギアの部屋へと場所は移されていた。

先程の騒動で少し部屋が荒らされてしまったためである。

だが、殺されそうになったことよりも白斗の安否の方が気になってしまい、ネプテューヌは未だに眠ることが出来なかった。

 

 

「大丈夫よネプ子。 今日の戦いを見て分かったでしょ? 白斗は強いんだから」

 

「あいちゃん……」

 

 

何とかして元気づけようとしているアイエフ。

彼女が気遣ってくれていることは分かっていたのだが、それでもやはり心配なのだ。

と、そこへ扉をノックする音。

 

 

「おーい。 お前ら、まだ起きてるのか~?」

 

「っ! 白斗!」

 

 

飛び跳ねるようにネプテューヌがドアを開ける。

そこにいたのは、トレーにホットミルクを乗せた白斗だった。

先程以上に飄々とした姿勢と言動からして、また敵が出てきたとか怪我を負ったという様子はない。

 

 

「白斗―――! よがっだぁ~~~!」

 

「うお!? 抱き着くなネプテューヌ! 恥ずかしい……あああ、零れる零れる!」

 

「でも、心配だったんだも~~~~~ん!!」

 

「ってか、顔を摺り寄せるな! ちょ、左胸は止めてマジで!!」

 

 

抱き着くや否や、ネプテューヌが泣き出した。

突然の事態に白斗は慌てだす。トレーを持っているため抱きしめることもできず、とりあえず彼女の頭を左胸から遠ざける。

 

 

「でも私も心配だったんですよ白斗さん!」

 

「そうよ! ネプ子から聞いたわよ! 腕を刺されたって……」

 

「ああ、こんなの平気。 さっきコンパに手当てしてもらったから」

 

「平気なわけないです!」

 

 

同じく心配の余り、駆け寄ってくれるネプギアとアイエフ。

ネプテューヌ程ではないが、腕にナイフを刺されたという話を聞いて同じく血の気が引いたのだ。

そんな彼女達を安心させようと、包帯が巻かれた手を見せつけるがその後ろから叱りつけるような声。

同じく教会に泊まっていたコンパだった。

 

 

「白斗さん! 安静にしていないとダメです! 腕が使えなくなっちゃうかもしれないんですから!」

 

「ネプテューヌ達を守れない腕なんて使えなくなった方がマシだ。 それよりも皆さっさと寝なきゃダメだろ」

 

「寝られるワケ無いよ! 白斗があんな目に遭ったっていうのに!」

 

 

自分の事よりも、白斗の事がやはり心配なネプテューヌ。

思わず白斗は嬉しくなってしまうが、それで彼女達が寝られなくなってしまっては元も子もない。

そこで白斗は持ってきたホットミルクを差し出す。

 

 

「騒ぐなって、カルシウムが足りてない証拠だぞ~? ってなワケでホットミルク、どーぞ」

 

「それで持ってきてくれたの? 気を利かせてくれるのは嬉しいけど、無理しちゃダメでしょ」

 

「無理なんかしてないっての。 用意してくれたのイストワールさんだしな」

 

 

この展開を見越してか、そのためにホットミルクを持って来たらしい。

呆れと関心を織り交ぜながらアイエフはカップを受け取る。ネプテューヌやネプギア、コンパにも一個ずつ行き渡る。

 

 

「とりあえずは飲んで飲んで。 カルシウムには心を落ち着ける作用があるんだからな」

 

「確かにありますけど、白斗さんも落ち着かなきゃダメですぅ!」

 

「お説教は飲み終えてから聞くから、まずは飲めっての」

 

 

差し出されたホットミルクを受け取らないわけにもいかず、全員が渋々ながらもそれを口にする。

多少砂糖も加えてあるらしく、甘い味が口の中に広がり、温かさが心を解きほぐしていく。

 

 

「……ところで白斗。 警戒するって言ってたけどどうだったの?」

 

「今の所、賊はあの二名だけだ。 奴らは?」

 

「さっき引き渡してきたわ。 ちゃんと口止めもしてあるから安心しなさい」

 

「おう、安心した」

 

 

冷静なアイエフは手際も良かった。

これでひとまずはネプテューヌ達の安全を確保した上で情報漏洩も防げる。聞けば、もうすぐ四か国の間で友好条約が結ばれるという。

そんな大事な時期に、こんな騒動を報道されるわけにはいかない。

 

 

「でも、また襲ってくる可能性はゼロじゃない。 引き続き周辺を見回るさ」

 

「えぇ!? それじゃ白斗の身が保たないよ!?」

 

「慣れてるから安心してくれ。 んで、お前らはちゃんと寝ろよ」

 

「寝られるワケないでよ! 白斗が無茶するなら私、だっ……て……ねぷ……?」

 

 

だが、引き続き白斗は夜通し警護をするつもりらしい。

それは止めなくてはとネプテューヌが立ち上がろうとするが、突如彼女の視界が歪む。脳内にずしりと眠気が襲い掛かってきたのだ。

 

 

「あ、れ……? あいちゃん……こんぱ……ネプ、ギア……まで……?」

 

 

しかも良く見ると、ネプギア達は既に寝息を立てていた。

ただ一人、白斗だけが立ち上がっている。

やがてネプテューヌの脳内が睡魔に支配され、眠りへと誘った。

 

 

「………ねぷぅ………」

 

「おっと。 ……おやすみ、ネプテューヌ」

 

 

倒れそうになる彼女を優しく抱きとめた。

白斗の腕の中でネプテューヌは可愛らしい寝息を立てて眠っている。

眠った女神姉妹をベッドに寝かせ、アイエフとコンパには毛布を掛けてあげた。後は部屋の電気を落として外に出ると。

 

 

「……皆さん、眠られましたか?」

 

「イストワールさん。 はい、それはもうぐっすりと」

 

 

イストワールがそこにいた。

しかし、白斗の行為を咎めるどころか申し訳なさそうに、悲しそうに眼を伏せていたのだ。

 

 

「……すみません。 白斗さんに嫌なことをお願いしてしまって……」

 

「いいですよ。 お願いしたの俺ですし、夜更かしは女の子の大敵って聞きましたから」

 

 

彼女達をしっかりと寝かせてあげたい。

苦肉の策としてホットミルクに睡眠薬を混ぜていた。罪悪感が湧かないと言えば嘘になるが、それでも皆のためならと白斗は実行に移したのだ。

 

 

「白斗さんも……この世界に来たばかりなのに、こんなことに巻き込んでしまって……」

 

「謝るのなんてナシですよ。 ……働かざる者食うべからず、これくらいお役に立たないと俺自身が許せないんです」

 

「……白斗さん……」

 

 

からからと笑う少年に、尚もイストワールの表情は晴れない。

確かに白斗からは嫌々という態度は全くない、寧ろ進んでやっているのだ。しかも言動からしてこういった経験を何度もしているようだ。

だからこそイストワールは心配なのだ。白斗くらいの少年が、そんな経験をしているなんて普通はあり得ないのだから。

 

 

「イストワールさんもちゃんと寝てくださいね。 お肌に悪くなりますよ」

 

「……白斗さんこそ……」

 

「俺、男なんで。 それじゃ」

 

 

そう言って白斗は部屋の中へと戻っていく。

これから彼は寝ずの番で彼女達の身辺警護をするのだろう。

モンスターを知らないはずなのに少年離れした戦闘、暗殺者の襲撃にも臆しない胆力、そして警護をする際の手際の良さ。

 

 

 

「…………白斗さん、あなたは一体…………」

 

 

 

少年を警戒しているのではない。寧ろその逆で心配していたのだ。

ひょっとしたら、彼は少年らしいことが出来なかったのではないか。だから、あんな少年離れしたことが出来てしまうのではないか。

―――結局、イストワールも心配のあまり殆ど寝ることは出来なかったという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――日が昇り、午前9時。

 

 

「ネプテューヌっ! 無事なの!?」

 

 

プラネテューヌの教会に颯爽と乗り込んできた人物が一人。ノワールだった。

荒い息遣いと大量の汗から、かなりネプテューヌを心配してくれていることが分かる。

そんな彼女の視界に飛び込んできた光景は―――。

 

 

「こらー! 白斗! 聞いてるの!?」

 

「聞いてる聞いてる。 ちゃんと安心できるように完璧な護衛計画をだな……」

 

「そーじゃなくて! 白斗がちゃんと休まないとダメって言ってるの!!」

 

 

白斗に対し、説教しているネプテューヌの姿だった。

 

 

「な、何この悪夢のような光景は……!? ネプテューヌが白斗に説教……!? あのぐーたらで不真面目で駄女神なネプテューヌが……!! やはり事態は緊急を要するのね!!」

 

「……色々酷いです、ノワールさん……」

 

 

傍で控えていたネプギア。とは言え、彼女の言いたいことも分かるらしく複雑そうな顔をしている。

隣に立っているアイエフとコンパも、同じらしい。

 

 

「アイエフ、この状況は何なのかしら……?」

 

「ええとですね。 実は昨日の夜、白斗のお蔭で事なきを得たんですけどその後の白斗の無茶ぶりが露呈してですね……」

 

 

アイエフが知る限りの情報をノワールに渡した。

暗殺者がネプテューヌを殺そうとしたこと、白斗がその身を挺してまでネプテューヌを守ったこと、結果怪我を負ってしまったこと、しかも睡眠薬で彼女達を眠らせた挙句自身は夜通しで警護をしていたこと。

 

 

「……なるほど、それでネプテューヌが怒ってるのね……納得」

 

「納得じゃないですよー! ノワールさんもネプテューヌを説得してくださーい!」

 

「ダメよ。 全く、白斗がここまで無茶する人とは思わなかったわ」

 

 

呆れたように溜め息をつくノワール。

しかし、その内心では彼に対する評価が変わりつつあった。

 

 

(でも聞く限りでは凄い手際の良さ……それにモンスターを知らないのに、多少だけど戦闘慣れしていた……白斗って、元の世界で何をしていたのかしら?)

 

 

心配と少しの警戒。

彼に失礼だとは思いつつも、どうしてもその疑問が湧いてしまう。

そんなノワールの心配を他所に、コンパはいつものマイペースさで話しかけてきた。

 

 

「それでノワール様はお一人です?」

 

「いや、今日はもう一人……あ、来た来た」

 

「お、お姉ちゃん……速過ぎだよぉ……」

 

 

振り返った背後には息を切らせながら追いついたらしい、ノワールに似た少女がいた。

黒のツインテールに服装。そして彼女を「姉」と呼ぶ存在。

 

 

「ユニちゃん! いらっしゃい!」

 

「あ、ネプギア! 良かった、無事みたいね」

 

 

その名はユニ。以前ノワールが語っていた妹にして次期女神候補生。

どうやらネプギアとは親友らしく、真っ先に挨拶を交わし、互いの無事を喜びあっている。

白斗も新しい来訪者が来たことでネプテューヌを宥めてノワールの下へ向かう。

 

 

「ノワールさん。 彼女が件の……?」

 

「そ、私の妹。 あの事件を聞いちゃったもんだから、ネプギアが心配だーついていくーって聞いてくれなかったのよ」

 

「緘口令しいてたはずなんだけど……?」

 

「さすがに女神には話が伝わるわよ。 それよりユニ、折角来たんだから挨拶していきなさい」

 

 

ノワールに諭されて、ユニが一歩前に出る。

初対面ということもあって白斗も緊張したが、柔らかい微笑みを作ることで彼女の緊張を解かせた。

 

 

「あ、アタシはユニ! お姉ちゃんの妹です!」

 

「黒原白斗。 話には聞いていると思うけど、昨日からここに世話になることなった。 よろしくな、ユニちゃん」

 

「よろしくです! ……ところで、なんでちゃん付け?」

 

「何となく」

 

 

ぽんぽん、と頭を撫でた。

子供扱いされることが我慢ならないらしく、ぷくーと頬を膨らませる。と、白斗が何やら彼女が背負っているライフルに目が行ってしまった。

 

 

「ところでユニちゃん、その背負ってるものは……ライフル?」

 

「お、分かりますか? この前、ネプギアと一緒に作った最新作なんですよ!」

 

 

どうやら彼女は所謂ミリオタらしく、銃を語るその姿は少女そのものだ。内容が銃というのがこれまたシュールだが。

そしてメカヲタであるネプギアも手伝ってくれているらしい。白斗も、興味が湧いてしまった。

 

 

「凄いな! ちょっと触ってもいいか?」

 

「いいですよ! でも誤射しないでくださいね?」

 

「了解っと。 おお、ボルトアクションとは分かってるな……!」

 

「でしょう!? 白斗さんて、ひょっとしてこういうの行けるクチですか!?」

 

「行けるも何も使ってたからね。 しかしこの造りからして……800ヤード行けるのか?」

 

「そうです! 今回は威力は無いけど、飛距離と精密射撃に拘ったんですよ!」

 

「凄いな! 素材もいい……重厚感あふれるフォルムでありながら、狙撃に適した設計と重さ! ユニちゃん達の想いの結晶だな!」

 

「白斗さんありがとうございます! それとですね……!」

 

 

同志が出来てしまったことからすっかり意気投合してしまう二人だった。

 

 

「……着いていけないわ」

 

「右に同じく。 ……でも白斗ーっ! 自己紹介終わったんだからお説教タイムリスタートだよ!」

 

「げぇっ!? 勘弁してくれぇ……」

 

 

まだ話足りないこと、そしてまだ警護を続けなければならない状況でもネプテューヌのお説教は止まらない。

首根っこを掴まれ、床に叩きつけられるように正座させられる。

 

 

「全く、何やってるのよ貴方達は……」

 

「ええ、心配で来てみれば……損した気分ですわ」

 

「あ、ベール様にブラン様。 いらっしゃい」

 

 

すると今度はブランとベールまでもがやってきた。

ノワール同様、昨夜の事件を聞きつけて駆けつけてくれたのだろう。

 

 

「あらましはさっき、イストワールから聞いたわ。 それに白斗が怒られている理由も」

 

「ええ、腕を刺されたと聞いた時は正直驚きましたけど」

 

「本人は大丈夫って言って、今ネプテューヌから説教を受けてるけど……どうもこのままにはしておけないのよね」

 

 

そこにノワールも加わり、やれやれと肩を竦めている。

と、ここでコンパが何やら気になったらしく声をかけてきた。

 

 

「あの、ブラン様。 ロムちゃんとラムちゃんは一緒じゃないんですか?」

 

「こんな事態に連れてこれないわ。 今は教会でお留守番してもらってる」

 

「ですよね……」

 

 

それも当然か、とコンパは納得した。

まだまだ見た目も中身も幼い二人だ。仮にも暗殺されそうになったネプテューヌの教会へ連れて行くわけにもいかない。

二人を思いやる姉の気持ちが、ひしひしと伝わってきた。

 

 

「それよりも、まずは犯人をきっちり搾り上げないと! こんな事態を引き起こした奴には徹底的に女神の恐ろしさを思い知らせてやる……!!」

 

「の、ノワールさん!? どこに行くんですか!?」

 

「止めないでネプギア! 警察署へ行って、私直々に尋問してやるんだから!!」

 

 

一方のノワールはネプテューヌを害そうとした連中に大層ご立腹の様子。

普段は表に出さないものの、何だかんだで彼女の事を友達と認めているからこその怒りだ。

とは言えこのまま行かせるわけには、とネプギアが必死になって止めている。

 

 

「ま、まぁまぁ! お姉ちゃんも落ち着いて! ネプテューヌさんもお説教はそれくらいにして、ね?」

 

「おお! ユニちゃんナイスぅ! な、ネプテューヌもその辺にしてくれよな?」

 

「むー……本当はまだ言い足りたいんだけど……」

 

 

案件が案件だけに殺伐とした空気になってきた。

まずは当人達を落ち着かせようとノワールとネプテューヌを宥めるユニ。

二人とも頬を膨らませつつも、とりあえず彼女の進言を受け入れて一旦矛を収めることに。

 

 

「こういう時は切り替えです! まずは空気を入れ替えして雰囲気リフレッシュ―――」

 

 

どうやら換気をするつもりらしく、カーテンに手を掛けるユニ。

瞬間、白斗が吠えた。

 

 

「ッ!? 開けるなっ!!!」

 

「え?」

 

 

ユニには何が何だか分からないらしい。

だが白斗には戸惑っている暇はない。窓までは遠い、ならばと振り返ったその先に居たのはノワール。

 

 

 

 

彼女の顔には―――“赤い斑点”があった。

 

 

 

 

「ッ!? ノワールさんッ!!!」

 

「え? きゃぁっ!?」

 

 

咄嗟に動いた白斗。

ノワールに飛びつき、床に押し倒した。当然顔を赤くするラステイションの女神だったが、その顔はすぐに青くなる。

 

 

「な、何を……って白斗!?」

 

 

―――白斗の肩から、血が少し飛び出していたからだ。

壁を見てみると、弾痕が出来ていた。どうやら、狙撃されたらしい。

白斗が庇っていなければ、今頃この部屋で惨劇が起きていたことだろう。だがそれ以上に、白斗の容体が心配だとノワールが泣きそうな表情になる。

 

 

「だ、大丈夫……!?」

 

「ノープロブレム! それよりユニちゃん! これ借りる!」

 

「え!?」

 

 

今度はユニが持ってきたライフルを半ばひったくるようにして手に取る。

即座に構え、スコープから照準を合わせる。

プラネテューヌの科学力だけあって高性能のスコープはあっという間に狙撃手と思わしき人物の補足に成功した。

狙撃手も、昨晩の襲撃者と同じ赤いフードを着ている。

 

 

「夜討ちの次は狙撃とか……いい加減にしやがれッ!」

 

 

狙いを定め、白斗が引き金を引いた。

スコープからは、狙撃手の男が吹き飛ばされる光景がしっかりと映っている。

 

 

「―――制圧完了」

 

「は、白斗さん!? 殺しちゃった……んですか……?」

 

「俺、そんな下手っぴじゃないから。 動きを封じる程度だよ」

 

 

余裕の表情で言ってのけた。

あくまで吹き飛ばしただけで、急所を打ち抜いてはいなかった。尤も激痛から逃走は不可能でもある。

 

 

「そ、それより白斗!? 貴方は大丈夫なの!?」

 

「大丈V」

 

「ネタが古い! って血が出てるじゃない! こんぱ!」

 

「は、はいですぅ!」

 

 

まだノワールは泣きそうな表情で慌てふためく。

白斗本人は掠り傷程度にしか思っていないのだが、他の皆はそうは思っていない。コンパも慌てて止血に入る。

ネプテューヌやノワールまで治療に加わり、てんてこ舞いな状況に。

 

 

「ご、ごめんなさい! アタシがカーテン開けたばっかりに……」

 

「いや、言い忘れてたこっちのミスだ。 寧ろ狙撃手は制圧できたし、これで向こうも狙撃なんてしてこないだろう。 ここで制圧出来たのは好都合だな」

 

 

肩に包帯を巻かれていると、今度は泣きそうな顔をしたユニが謝ってくる。

不用意にカーテンを開けてしまったことで狙撃を許してしまったことへの謝罪、そして結果白斗とノワールを危険に晒してしまった罪悪感。

だが、白斗は全く気にしてない様子でユニの頭をまた撫でる。

 

 

「で、でも白斗さんに怪我を……」

 

「こんなの掠り傷だって。 それに、このライフルのお蔭で大助かりだ。 ありがとなユニちゃん」

 

 

優しい微笑みで彼女を落ち着かせた。

逆に感謝までされては、ユニも謝ることが出来ない。顔を赤くしながらも、ユニは無言で頷いた。

 

 

「何より、敵の狙いが分かったことの方がデカい」

 

「え? 敵の狙いって……?」

 

 

きょとんとした顔で、ブランがカーテンを再び閉めながら訊ねてくる。

白斗の顔は苦悩と焦燥で染まり切っていた。それだけ事態は逼迫していることに他ならない。

さすがにネプテューヌもこの状況では冗談を言う気分になれず、白斗の言葉を黙って聞いている。

 

 

「さっきの狙撃、標的になったのはネプテューヌではなくノワールさんだった。 つまり敵は女神なら誰でも良いってことです」

 

「女神ならということは、ブランや私も標的に……?」

 

「可能性はあります。 そしてこの時期にそれを実行に移す目的はただ一つ」

 

 

ベールも不安の顔色になる。

今後暗殺される可能性が浮上してくれば、大抵は穏やかでいられないものだ。そしてそれ以上に白斗が警戒しなければならないこと。

それは今の狙撃から導き出された答え。

 

 

 

 

 

「―――今度結ばれる友好条約、それを快く思わない何者かの犯行です」

 

「「「「っ!?」」」」

 

 

 

 

 

全員に衝撃が走った。だが、同時に納得もしてしまった。

あと数日で友好条約が結ばれるこの時期に、女神が暗殺、最悪でも傷が負わされる事態になってしまえば当然次はその犯人を追及することになる。

万が一、その犯人が「女神に指示された」などと嘯けば忽ち友好条約など嫌でも破棄されてしまうだろう。

 

 

「そ、そんな……!」

 

「だから一刻も早くあの暗殺者共をとっちめて、指示した何者かを秘密裏に捕らえる必要があります」

 

「だから昨日、わざわざ緘口令なんて布かせたのね」

 

「はい。 でも昨日既に二名捕らえています。 ここに居ればもう安全……―――ッ!?」

 

 

白斗が言いかけた、その時だ。彼は自分の言葉に疑問を持ってしまった。

一瞬、電流のように迸る嫌な予感。

脳内で白斗は、その予感を少しずつ形にしようとしている。

 

 

(……待てよ。 今、ここに居るのは誰だ? ここに……“居ない”のは誰だ?)

 

 

周りを見返してみる。今、この部屋にいるのはネプテューヌ。そして彼女達の親友であるアイエフとコンパ。

 

 

 

 

 

ラステイションの女神、ノワールは先程狙撃から守った。

 

 

 

 

 

ルウィーの女神であるブランと、リーンボックスの女神であるベールもここにいる。

 

 

 

 

 

そして女神候補生にして妹であるネプギアとユニもちゃんとこの部屋に―――

 

 

 

 

「―――ッ!? そう言うことか……!! ブランさんッ!!!」

 

「え!!?」

 

 

今度はブランの肩を掴んで訊ねてきた。

突然の急接近にブランは驚き、顔を赤くしている。けれども白斗の焦りに満ちた表情で、すぐに甘酸っぱい空気は吹き飛んでしまった。

 

 

「確か、妹がいるって話でしたよね!?」

 

「え、ええ……ロムとラム。 今はルウィーの教会でお留守番……って、まさか!?」

 

 

口に出した途端、ブランもそれに気づいてしまった。

今までの冷静さが嘘のように取り乱し、顔は青ざめ、息が荒くなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい。 ……ロムちゃんとラムちゃんが、狙われてるかもしれません!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――最悪の事態は、まだ止まらない。




私の中の男論理としまして、「男は女を命懸けで守るもの」と言うものがあります。
黒原白斗はそれを体現してくれるキャラになればと思って、書き起こしたキャラです。
そんな彼の無理無茶はまだまだ続く!女神様の危機コンティニュー!そして早くもフラグ成立!?
一体どうなってしまうのかこの物語、次回へ続く!
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