恋次元ゲイムネプテューヌ LOVE&HEART   作:カスケード

41 / 69
第三十八話 死神の矜持

「女神を排し、この世界全てを統べる支配者になるこのマジェコンヌに歯向かって……タダで済むと思うなよ……小僧」

 

 

―――突如現れた謎の魔女、マジェコンヌ。口ぶりからも察するに女神に対する敵意が尋常ではない。

宙に受けるだけの力があるらしく、まずそこらのモンスターなどよりも強いことは確かだ。

 

 

「うぅ……! 抜け、出せない……!」

 

「このっ……! 離しなさいよっ!!」

 

「くそっ、早くしないと白斗が……!」

 

「白ちゃん!! いざとなったらお逃げなさい!!」

 

 

肝心の女神達は皆、アンチモンスター『コード・テンタクル』に巻き付かれて女神化できないどころか身動きが取れない状況。

皆が白斗の下に駆けつけようと必死だが、外れる気配は一切ない。

そんな彼女達を守るため、白斗は刃を構えながら目の前の魔女を睨む。

 

 

「女神を排除……ねぇ。 女神様がお前に何したって言うよ?」

 

「何も。 不幸も、幸福も与えられない。 女神は生まれただけで国を支配し、世界の行く末すら決めることが出来る……実に不公平な話ではないか」

 

 

白斗は少し突いてみることにした。

時間稼ぎの意味もあるが、このマジェコンヌがどんな人物なのか。それを知るだけでも突破口になり得る。

女神達を助けるため、白斗はありとあらゆる情報を聞き逃さない。

 

 

「しかし、世界には女神などよりも支配者に相応しい器などごまんといる。 そんな者達が女神の存在で日の目を見ることすらない……何と愚かな話だ。 シェアに左右され、人々から支持されなくなっただけでただの小娘と変わりない存在に成り果てる……今のようにな」

 

 

マジェコンヌが指を差した先には触手に巻き付かれ、動けない女神達の姿が。

あの触手はシェアエネルギーの供給を遮断する効果があるらしい。確かにあの状態ではネプテューヌ達はそれこそ普通の少女と変わりない存在なのかもしれない。

 

 

「で? それってお前が支配者になりたいってだけだろ」

 

「フン。 仮に私より強く、優れた者が統べるならそれでもいい。 それもまた、私が望んだ世界の在り方なのだからな。 だが、女神がいてはそれが出来ない!!」

 

「あっそ。 ……今時の子供達の方が、もっとマシな夢を語れるな」

 

 

白斗は何一つ、目の前の魔女に共感できなかった。

女神に対する敵愾心が特段高いだけで、白斗が愛する女神達のような気高い信念も理想も何もない。

ただの切り捨てるべき小悪党にしか過ぎない。静かにナイフの切っ先を突き付ける。

 

 

「フン、所詮は女神に毒された小僧か……ネズミ! 下っ端!」

 

「はいはい、全く人使いが荒いオバハンっちゅ。 それとオイラはワレチューっちゅ!」

 

「アタイにもリンダっつー立派な名前があるって……」

 

 

尚更白斗の事が気に食わなくなったらしい、指を鳴らしたマジェコンヌ。

その呼びかけに応じ、仲間らしき人物が二人姿を現す。

一人はぬいぐるみくらいの大きさはありそうなネズミ。もう一人は以前アンチモンスターを引き連れ、そしてネプテューヌを襲った女。

 

 

「テメェ……あの時の……。 そうか、性懲りもなくまたネプテューヌ達を傷つけようってのか……」

 

 

最早白斗は下っ端と呼ばれる女の名前など憶えていない。覚える必要など無かった。

一度目は見逃したが、二度目は無い。この女は生かしておけば女神の害にしかならない。

完全にその芽を摘み取るつもりで、殺気に満ちた視線をぶつけた。

 

 

「ヒィッ!? ……へ、へっ!! あ、あ、あの時とは状況が違うんだよ!!」

 

「そんな冷や汗ダラダラ、膝ガクガク、腰ブルブルで言われても説得力ないっちゅよ」

 

「貴様らぁ!! 漫才してないでとっとと用意しろぉ!!!」

 

「へ、へいっ!! さぁ、覚悟しやがれ女神共!!!」

 

 

一瞬緊張感のないやり取りがあったが、白斗は全く耳に入れてなかった。

そんな彼の視線を受けて及び腰になりつつも、リンダが手を鳴らせば辺りの茂みが揺れ出す。

そこから飛び出すは、モンスターも群れ、群れ、群れ。

 

 

「なっ!? こ、これ全部モンスター!!?」

 

「しかもこの赤黒さ……アンチモンスターですの!?」

 

「ひのふの……ご、50体以上はいる……!!」

 

「そ、そんな……!! 白斗、逃げて!!!」

 

 

森の茂みから、木陰から、岩の傍から。現れたのはウルフや虫型、鳥型、果てはオーク。

あらゆる種類のアンチモンスターがそこにいた。しかも数で言えば50体以上。

女神達ですら死を覚悟しなければならない強さと数。当然一般人より上程度しかない白斗が正面戦闘した所で勝てるわけがない。

悲鳴に近い声でネプテューヌが逃げるように促すのだが―――。

 

 

「ヤダね。 ―――女神様を置いて逃げられるかよ」

 

「白斗……!!」

 

 

既に白斗は覚悟を決めていた。

あの穏やかで、心優しい少年はそこにはいない。女神を守るため、その手を血で汚す覚悟を。

さしものネプテューヌも顔を青ざめてしまった。白斗が―――大好きな人が傷つく姿が、見えてしまったから。

 

 

「ふ……度胸だけは一人前だな。 ……女神などと与した事、後悔するがいいッ!!」

 

 

一斉攻撃を仕掛けようとマジェコンヌが手を上げた。

あれを下ろせば、50体以上の魔物が一斉に雪崩れ込んでくる。理に適った攻撃だ。戦闘力に関しては一般人でしかない白斗にはそれだけで事足りる。

 

 

「みんな、目を瞑れ」

 

「「「「っ!?」」」」

 

 

―――だが、白斗は慌てることなく懐から一個の玉を取り出して空中へ放り投げた。

その瞬間、女神達だけに聞こえるよう呟いた白斗の一言で一斉にネプテューヌが目を瞑る。

直後、白斗が放り投げた玉は―――眩い閃光となって弾けた。

 

 

「ぐあっ!? せ、閃光弾!?」

 

「ま、眩しいっちゅ~~~!!」

 

 

白斗が取り出したのは閃光弾だった。

当然、眩い閃光はそれを受けたモンスターやマジェコンヌ達の視界を奪う。接近すれば接近するほど不意打ちの目晦ましは避けようがなく、尚且つ強烈にその光を浴びることになる。

幸い、離れていたマジェコンヌらは失明するほどではなく、数秒で持ち直した。

 

 

「く……! これで出鼻を挫いたつもりか!! その程度……………は?」

 

 

しかし、そこで言葉に詰まってしまった。信じられない光景を見たからだ。

―――それは白斗のすぐ近くに横たわっている、ゴブリンを始めとした8体のモンスターの死骸。

それを確認した途端、モンスターの死骸は電子の塵となって消え失せた。

 

 

「き……貴様……何をした……!?」

 

「無防備になってるモンスターどもの急所にナイフを突き立てただけだ。 ……数秒ありゃ、俺のナイフで十数回は刺し殺せる」

 

 

先程の閃光弾はただ動きを鈍らせるためでだけではなく、それによって動きを止めた魔物たちを仕留めるためでもあったのだ。

産み出したその一瞬の隙で、白斗は一気に8体ものモンスターを倒して―――否、「殺して」いる。

 

 

「つまりだ。 今みたいな“殺す作業”を40回近く繰り返せばいいワケだ……簡単だろ?」

 

「「「―――――――ッ!!?」」」

 

 

先程の様な鮮やかな“暗殺”ですら「作業」。彼にとっては単なる作業でしかない。

マジェコンヌは寒気を感じた。ワレチューも恐れ慄き、リンダに至ってはいつぞやの恐怖が蘇ったのか完全に恐怖している。

女神達ですら、一瞬だけ戦慄を覚えてしまったほどだ。それほどまでに白斗の目は―――殺気に満ちている。

 

 

「どうした? 俺を後悔させるんじゃないのかよ、オバサン?」

 

「オバッ……!? ぐ、ぐぎぎぎ………!! いいだろうッ!! 嬲り殺………」

 

 

また指示を繰り出そうとした時、鋭い発砲音が響き渡った。それも三発。

見渡せば、彼女が指示を下そうとしていた鳥型のモンスターの脳天に風穴が一発ずつ、綺麗に開けられている。

脳天に鉛玉を食らった鳥たちは地に落ち、消え失せた。

 

 

「……さぁ、次はどうする?」

 

「………ッ!!」 

 

 

白斗が構えていた銃からは、硝煙が立ち上っていた。

あの一瞬で銃を取り出し、狙いをつけ、引き金を引き、三体のモンスターを絶命させたのだ。

最早少年と呼ぶにはおこがましいその腕前に、いよいよマジェコンヌも戦慄する。

 

 

「一つだけ言っておく。 ……みんなに指一本触れられると思うなよォ!!?」

 

 

右手にはナイフ、左手には銃、袖口からはワイヤー、そして何よりも鋭い視線。ありとあらゆる暗器、武器で身を固めた白斗。

その気迫がまるで―――まさに死神のようにさえ見えた。ワレチューやリンダは怯えて声も出せない。辛うじて動けるのはマジェコンヌだけだった。

 

 

 

「……こ、小僧がッ……!! ち、調子に乗るなぁぁぁああああああああッ!!!」

 

 

 

マジェコンヌの叫びに呼応して、魔物たちが吠えた。

だが先程の鮮やかささえ感じさせる殺しに一斉に突っ込んでくる愚か者はいなかった。そんなモンスターの軍勢を見据えながら、白斗はこの間も脳内で作戦を練っている。

モンスターを殺せるかどうかではない、「女神達を守るための作戦」を。

 

 

 

(……頼む、“みんな”。 気付いてくれ……! ネプテューヌ達を助けてくれ……!!)

 

 

 

その間、既に打った“布石”の成就を祈っていた―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――それから数分前の事。

 

 

「ユニちゃーん! こっち準備終わったよー!」

 

「ネプギアご苦労様。 マベちゃんさんはどうですか?」

 

「マベちゃんでいいよ……。 こっちもバッチリ!」

 

 

見晴らしのいい丘で昼食の準備を進めていたネプギア達。

全ての準備も終わり、後は白斗たちが今日の仕事を終え、ここに来るのを待つのみ。

誰もが心に傷を負っているであろう白斗に会いたい一心でここに集っている。愛する者の心配をしながら、ふと山の方へと目を向けると。

 

 

「……あれ? あいちゃん、一瞬光らなかったですか?」

 

「え、えぇ……。 あの光は………まさかっ!?」

 

 

コンパとアイエフが、謎の発光を目撃した。

一瞬だけの事だったが凄まじい強い光だ。こんな山の中で突然の発光など、自然現象ではありえない。

そしてアイエフはその正体に心当たりがあるらしく、一気に青ざめてしまう。

 

 

「アイエフさん? さっきの光は……」

 

「白斗が言ってたのよ! 緊急時には閃光弾使うことがあるからもし見かけたら今すぐ応援に来てくれって!!」

 

「そ、それじゃネプテューヌ様達は……白斗さんは!?」

 

「非常事態ってことよ! 戦える人は私に着いてきて! 戦えない人はここで待機!!」

 

 

5pb.とツネミも慌てだした。だが、こういう時のために白斗はアイエフと打ち合わせていたのだ。

それが功を奏し、すぐに救援の準備が整う。ネプギアとユニも急いで各々の武器をコールする中、ロムとラムも杖を持ちだしてきた。

 

 

「ね、ネプギアちゃん! わたし達も……」

 

「お兄ちゃんとお姉ちゃんを……助けなきゃ……(あわあわ)」

 

「ダメだよ! ロムちゃんとラムちゃんはここで待機してて!!」

 

「悪いけど、なんだかさっきから嫌な予感がするの!! お願いだからここで待ってて!!」

 

 

珍しくネプギアとユニも怒鳴りに近い声色だった。

思わず怯えてしまうロムとラムだったが、今回は素直に従う。この余裕のなさから危機的状況にあることは嫌でも分かってしまうからだ。

そして戦えない5pb.とツネミもこの場に残ることになり、その他のメンバーで救援へと向かった。

 

 

「皆さん、白斗さんを……お願いします!!」

 

「白斗君達を……絶対に助けてね!!」

 

「ええ!! 行くわよ、皆!!」

 

 

5pb.とツネミの声を受け、救援メンバーは一気に駆け抜ける。

ここから山の中腹までは緩やかではあるか距離自体はある。だからこそ、例え一秒たりともロスは許されない。

 

 

「アイエフちゃん! 白斗君達に連絡は!?」

 

「ダメ!! さっきから掛けてるけど誰も出てくれない!! きっと出られないほど事態が逼迫してるんだわ!!」

 

 

マーベラスも焦っていた。もしかしたら、また大好きな人が傷ついているかもしれないと思うと今にも心臓が張り裂けそうになる。

少しでも情報をと思い電話を掛けるアイエフだったが案の定というべきか誰も出てくれなかった。

 

 

「お姉ちゃん達までそんな状況になってるなんて……一体何が……!?」

 

「分からない……分からないけど……早く白兄ぃの所に行かなきゃ!!」

 

「白斗さん……ねぷねぷ……無事でいてくださいです~~~!!」

 

 

少女達は走る。愛する人を助けるために―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、山の中腹では―――見ようによっては悪夢としか思えない光景が展開されていた。

 

 

「ば、馬鹿な………っ!?」

 

 

驚愕しているのはマジェコンヌ。そして傍らに控えるワレチューとリンダも同様だった。

今日、このために進めていた作戦。女神達を排するために用意された50体以上ものアンチモンスターの軍勢。

 

 

 

―――それらが、たった一人の少年によって刈り取られようとしていた。

 

 

 

「うおおおぉぉぉぉぉっ!!!」

 

 

 

少年は特別なことをしているわけではない。

ただ刃を閃かせ、引き金を引き、ワイヤーを振るっている。ただ、一瞬の状況判断能力と精確性が異常なのだ。

刃を閃かせれば確実に敵の頸動脈を切り裂き、引き金を引けば敵の脳天に風穴を確実に開け、ワイヤーを振るえば敵の首を確実に跳ねる。

 

 

「あ、あいつ……あんなに強かったのかよ!? バケモノかよ!?」

 

「そ、そんなワケないっちゅ!! 現に……今ボロボロっちゅよ!?」

 

 

だが、無敵かと言われるとそうでは無かった。

既に体中には幾つも傷跡を作り血塗れ、打撲痕も出来ており、肩で息をしていた。

 

 

(……あいつ……わざと自分への攻撃を誘い、攻撃を敢えて受けて、その瞬間に必殺の一撃を叩き込むことでモンスターを殺している……!!)

 

 

そう、白斗の作戦はまさに受け身の捨て身。

攻撃を受けて、例え一瞬でも無防備になった瞬間に急所目掛けて一撃。その一瞬を見逃さず、更には誘い出す状況判断と冷徹さがここまでの状況を生み出していた。

無論、直撃は避けてはいる。けれどもダメージを負わないはずもなく、徐々にだが瀕死に追い込まれていた。

 

 

「白斗……!! 白斗ぉ……!!!」

 

 

満身創痍とでもいうしかないその姿に、ネプテューヌはもう泣きそうになっていた。

彼女だけではない、ノワールも、ブランも、ベールも。愛する人が傷つく様に、震えも涙も止まらなかった。

 

 

「くううううぅぅっ!! このっ!! このおおおぉぉっ!!!」

 

「離せぇ!! 離せっつってんだろおぉおおおおおおおおお!!!」

 

「早く……早くしないと白ちゃんが……!!」

 

 

誰もが自分を縛る触手を引き剥がそうと必死だ。

だがこのコード・テンタクルはアンチモンスターの一種、その体に流れるアンチエネルギーの所為で思うように力が入らない。

 

 

「チィッ……!! ならば女神を先に狙え!!」

 

「「「ギギッ!!」」」

 

「きゃ……!?」

 

 

そんな女神達に目を付けたマジェコンヌが、数体のゴブリンに指示を出す。

自由な動きが出来る白斗より、身動きの取れない女神達を四方八方から襲う方が確かに合理的である。

その方が安全でもあると踏んだゴブリン達は何の疑いもなくその指示に従い、まずはノワールを襲った。のだが―――。

 

 

「女神様に触れるなってのが……分かんねぇのかこのクズ共がああああああッ!!!!!」

 

 

その手にした刃で女神を切り裂こうとする魔物に白斗が怒り、何も握っていない左手を振るった。

かと思った次の瞬間―――バラバラに切り裂かれたのはゴブリン達の方だった。

 

 

「な……何ィイイイイイイイッ!!?」

 

(こ、これ……ピアノ線!? 白斗、いつの間にこんなものを……!?)

 

 

突然の瞬殺にマジェコンヌがとうとう慌てふためいた。だがこれは魔術でも何でもない、タネも仕掛けもある暗殺だ。

ノワールは一瞬にして見抜いた。ゴブリン達を切り裂いた凶刃の正体が、木々の間に張り巡らされたピアノ線であることに。更に指を少し動かすだけでピアノ線が移動し、それが他の魔物の首を跳ねていく。微細なコントロールもお手の物らしい。

 

 

「で、でもこんなことしたら白斗の身動きが―――!!」

 

「「「グルォォオオオオオッ!!」

 

 

だが、糸を張り巡らせている間は当然白斗の動きが無防備になる。

ブランの心配も時遅し、今度はウルフ三体が白斗の体をその爪で切り裂いていた。

 

 

「がふっ……!! 待っ……てましたよっとォ!!」

 

「「「ギャィン!!?」」」

 

 

攻撃時に無防備になるのは、モンスターとて同じだった。

その肌に爪を立たれた瞬間、白斗は刃を閃かせウルフの喉笛を切り裂いた。急所を切られた獣は力を失い、横たわって消滅する。

しかし今の爪攻撃で、張り巡らされていたピアノ線が切られてしまった。

 

 

「今だ!! やってしまえ!!」

 

「ピイイイィィィッ!!!」

 

 

その隙を見逃さず、今度は鳥型のモンスターに指示を下す。

上空からの急降下攻撃、普通であれば常人が追い付くことは不可能な速度で突進してくる。

あの速度で、あの鋭い嘴で突撃されたらまず命はない。その標的はベール。

 

 

「ベールっ!! クソッ、オーバーロード・ハート起動ッ!!!」

 

 

白斗は迷いなく機械の心臓を異常稼働させた。

身体能力を極限まで引き上げることで瞬発力と脚力を高める。その甲斐あって一気にベールの前に飛び出し、彼女に代わってその突進を受け止める。

 

 

「白ちゃん!?」

 

「ぐぐぐッ……!! 手ェ出すなって言ってるだろうがああああああッ!!!」

 

「グゲェエエエエエ!!?」

 

 

鋭い嘴がズブリと嫌な音を立てて白斗の肩に食い込む。しかし白斗は負けじと引き抜き、逆にモンスターを地面に叩きつけた。

首の骨が折れたらしく、モンスターの首はあらぬ方向を向いており、そのまま絶命する。

 

 

「まだだ!! オークっ!!」

 

「ウウォォォオオ!!」

 

「あ…………」

 

 

今度は巨大な棍棒を携えたオークが歩いていく。動くこそ鈍いが、その巨体から繰り出される一撃は女神であろうとなかろうと一撃で粉砕してくる。

その標的はブラン。小さな体の前に、大きな死の一撃が振り下ろされ―――。

 

 

「ブラン―――――ッッ!!! ぐッ、オォォォオオオオオオ!!!」

 

「白斗!?」

 

 

ズン、と地響きすら渡る重い一撃を白斗は受け止めた。

口から血が吹き出すが、決して折れることなく逆に拳を振り上げ。

 

 

「何回言やぁ理解できるんだクソがあああああああああああああああああッ!!!」

 

「ガボォ!!?」

 

 

棍棒ごと、オークの顔面を砕いた。

だがそれだけの一撃は当然負荷も凄まじく、逆に白斗の腕から亀裂が走ったかのように血が吹き出す。

血が吹き出る度、白斗が傷つく度、ネプテューヌの恐怖は煽られる。

 

 

「白斗……やめて……!!」

 

「やめられるワケねぇだろォがぁ!! 自分の心配でもしてやがれぇえええええ!!!!!」

 

 

尚も迫りくるウルフ。既にモンスターの数は半分を切っており、その中でも焦った一体が突出してきたのだ。

ネプテューヌの心配をも振り切り白斗はウルフの眉間に刃を減り込ませる。が―――。

 

 

(ッ!? 刃が……!!)

 

 

これまでの負荷に耐え切れなかったのか、白斗のナイフが折れてしまったのだ。

脳天を貫くに至らず、逆にウルフが痛みを糧に白斗の腕に食らいつく。

 

 

「ガルルルルルルッ!!!」

 

「があああああああああああ!!! クッ……ソがァ!!!」

 

 

噛み砕かれる右腕。だが、やはり攻撃中モンスターは一番の隙を晒す。

その瞬間、白斗は銃を取り出してウルフの眉間目掛けて鉛玉を撃ち込んだ。

急所に風穴を開けられたウルフはすぐに死に絶え、消滅する。一方の白斗の右腕は完全に折れてしまったらしく、有り得ない方向を向いていた。

 

 

「そ、そんな……白斗……腕……腕が……!!」

 

「腕くらい折れたって死にゃぁしねぇ!! こうすりゃまだ使いモンにならァ!!!」

 

 

余りにも壮絶な光景。この間にも白斗には激痛が走っている。

しかし、白斗はそれをおくびにも出さず、袖口からワイヤーを伸ばし、それを折れた腕に巻き付けた無理矢理矯正した。

 

 

「よし……まだナイフ握れ…………ッ!!?」

 

「「キシャアアアアアアアアッ!!!」」

 

 

だが、矯正している間はどうしても隙が生じる。

リザードマン2体が刃を携えて白斗に接近し―――わき腹を切り裂いた。

 

 

「い、や……いやあああ……!! 白斗ぉ!!!」

 

「ぐぶっ……!! ご……のぉぉおおおおおおおおお!!!!!」

 

「ガビャッ!?」

「ゲギャァ!!」

 

 

致命傷にすらなり得るその傷に、ノワールが悲鳴を上げた。

白斗の口からも、わき腹からも、血が漏れ出す。

けれども倒れている暇などでない。攻撃し終えて隙だらけのリザードマンの後頭部に弾丸を撃ち込んで、殺した。

 

 

「ガボッ、げぶぅ……!! あ、後……20体……がぶっ!!」

 

 

(な、何なんちゅかコイツは……!?)

 

 

とても人間業とは思えない技術と精神力。

ここまでモンスターに対する攻撃は一発ずつのみ。その一発で、確実にモンスターを殺しているこの技術。何より死にかけの体でまだ抗おうとする精神力。

ワレチューだけではない、リンダも、マジェコンヌも。この少年は最早ただの一般人と捨て置くことなど出来なくなってしまった。

 

 

「もう……やめて……やめてよ……!!」

 

「白斗!! もういい……頼むから逃げてくれ……逃げてくれよぉ!!」

 

「このままでは……貴方が死んでしまいますわ!! ですから……ですからっ!!」

 

 

だが、このままでは間違いなく白斗の命はない。

ノワールも、ブランも、ベールまでもが。泣きながら逃げるように促す。

愛する人を目の前で死なせたくない一心で言葉を掛けた。マジェコンヌの敵愾心の対象は女神、ならば今逃げても必要以上の追撃はしないはず。

それでも白斗は首を頑なに横へと振る。

 

 

 

「―――大好きな人を見捨てるくらいなら、死んだ方がマシだ」

 

 

 

一切振り返ることなく、しかし揺らぎのない言葉でそう返すのみだった。

 

 

「……は、ハッ! 何が大切な人か……貴様はただ、女神に依存しているだけだ小僧!!」

 

「……依存……?」

 

「そうだ……貴様はただ、一人が怖いだけだ!! 女神のためなどと宣っておきながら、ただ自分が満足できればいい!! そのために女神を寄生対象にして生きているだけだ、この偽善者がぁ!!!」

 

 

間違いなく、戦況は白斗に傾いていた。彼からすれば戦闘でも何でもない、ただ“殺す作業”を繰り返しているだけ。そんな状況を生み出しているのは、彼の冷静さからだ。

少しでも心を乱そうと、マジェコンヌは非道な言葉を投げかける。

 

 

「挙句、先日に人を殺しておきながらのうのうと生きて、尚暗殺の技を使う……貴様は人間を名乗るのもおこがましい!! 悪魔だ!!! 人殺しだぁ!!!!!」

 

「この……っ!! 白斗を……悪く言うなああああああああっ!!!!!」

 

 

白斗を罵り続けるマジェコンヌ。

愛する人への中傷に、寧ろ女神達の方が看過できなくなった。ノワールが叫ぶが、それは彼女だけではない、女神全員の言葉でもあった。

けれども白斗は、至って冷静だ。

 

 

「あらら~? 俺の殺人は緘口令敷かれてたはずなんだけどなァ? なーんでアンタが知ってるのかねぇ?」

 

「ハッ……!?」

 

「アンタがあの男にモンスター化を施したってコトか。 自爆ご苦労さん」

 

「オバハン!! 何自白してるっちゅかぁ!!!」

 

 

それどころか、ちょっとした言葉から先日のノルス幹部がモンスターに変異した事件にマジェコンヌが関わっていることも見抜いた。

追い詰めるつもりが、逆に追い詰められている。ワレチューからの諫言もあって尚更眉間に皺を寄せる魔女。

 

 

「テメェが……! テメェの所為で白斗が……!!」

 

「やはりあの事件は白ちゃんの所為などではありませんわ……全部貴女の所為ですのね!!」

 

「オバサン……!! 白斗をこんなにも傷つけて……絶対に許さないよ!!!」

 

「黙れ黙れ黙れぇ!! この小僧が手を下したことに変わりはないだろうがぁ!!」

 

 

逆に女神から罵詈雑言の嵐が飛んでくる。

憎んでいる女神からの正論が飛んできただけによりマジェコンヌの怒りを煽る。そして肝心の白斗はと言えば。

 

 

「―――悪魔、人殺し……その通りだよ」

 

「は?」

 

 

寧ろ肯定してしまった。逆に唖然となってしまうマジェコンヌ。

今の彼女に冷静な判断など出来はしない。

 

 

「……どう取り繕おうが、俺の罪は消えやしない。 俺は女神様の傍に置くには相応しくない、最低の人間だ」

 

「ち、違う!! 白斗はそんな人じゃない!! 少なくとも私達にとってそんな人じゃない!!」

 

 

ネプテューヌが必死に否定する。

彼女だけではない、彼を愛する少女達は皆知っているからだ。白斗は口で言うような非道な人物ではない。

だが、白斗は自分で自分を否定してしまっている。

 

 

 

「だったらよぉ……最低なモン同士、地獄に行こうや」

 

 

 

―――女神を傷つける者同士の、相打ちを望んでいた。

 

 

(こ、こいつ……自分の生存を考えていない!!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………いや、違う……!! こいつは………この小僧は………っ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――自分の“死”すら……勝算に組み込んでいる………!!?)

 

 

白斗の瞳に、生への執着は無かった。あるのは女神を守るという確固たる意志のみ。

そのためなら、何であろうと犠牲にするつもりだった。自らの命さえも。

それを悟ったマジェコンヌらは寒気を超えた命の危機を感じ取り、堪らず一歩下がってしまう。何よりも、女神達もそれを感じ取った瞬間、泣き叫んだ。

 

 

「や、やめて!! 嫌だ……一緒に居てくれなきゃ嫌だよ白斗ぉ!!!」

 

「そうよ!! 貴方の罪なんて、もうどうだっていい!! 一緒に居てよぉ!!」

 

「私達がいるっつってんだろぉがぁ!! だから……やめてくれよぉ……!!」

 

「白ちゃん……お願いですから……やめて……!!!」

 

 

この戦いが終わった時、白斗の命はない。

大好きな人を死なせたくないとネプテューヌ達は涙と共に叫ぶ。だが、そんな彼女達に白斗は振り返って―――。

 

 

 

「……ありがとな、皆。 だから……守りたくなるんだよ」

 

 

 

優しく、しかし悲しそうに微笑んだ。

そして対峙する魔物たちとマジェコンヌらに対しては―――。

 

 

「……このクソカス共がああああああああ!!! こんな体力数ドットの鼻垂れ小僧すら殺せねぇってのかァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!?」

 

「「「――――ッ!!?」」」

 

「こんな俺すら殺せねぇで女神様殺すとか妄想抜かしてんじゃねぇぞクズ共ォ!! 女神様を殺したきゃなぁ!!! まずは俺くらい殺してからにしやがれぇえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!」

 

 

まるで地獄からの咆哮。

凄まじい叫びが、辺りを揺らしたかのような、そんな錯覚すら覚える。

モンスター達は勿論の事、リンダやワレチュー、更にはマジェコンヌですら怯んだ。

満身創痍で、尚も血を吐きながら、だが力の限り白斗は吠える。

 

 

 

 

 

「女神様には指一本……触れさせやしねええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええッ!!!!!」

 

 

 

 

 

女神を守る―――絶対不変のその覚悟を、全ての者に示した

守られている女神達は泣き、敵対する魔物達は恐れ慄く。

 

 

「………ッ!! つ、潰せ………潰せぇええええええええええええええええッ!!!!!」

 

「「「「「グ………グルゥァアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」」」」」

 

 

彼の叫びに、そして折れない意志に恐怖したのかマジェコンヌが焦りに満ちた命令を下す。

モンスター達は恐れながらも、死にかけ同然の白斗に襲い掛かっていく。

 

 

「オーバーロード・ハート!! 第二段階起動ォッッッ!!!!!」

 

「なッ……!?」

 

 

まだ上があった、心臓の異常稼働。

第二段階、その名を聞いた瞬間マジェコンヌが驚き慄く。服の上からでも分かるくらいに左胸に埋め込まれた機械の心臓が異様な輝きを放つ。

次の瞬間、白斗の体が消え――――。

 

 

「ギェッ!?」

「グッ!?」

「ガ……!!」

「ゲバッ!!」

 

「な、何ィ!?」

 

 

モンスター四体の首が、掻き切られていた。

消えたと思われた白斗はいつの間にかモンスターのすぐ近くに現れている。その手には、血が滴る刃を握っていた。

つまり、目にも止まらぬ速さで移動し、切り裂いたということに他ならない。

 

 

「がぶっ!! ゴボッ、ゲブ………!!」

 

「白斗!!?」

 

 

だが、それだけの速さを手に入れるには当然代償もある。

今まで以上に心臓に負担を掛けるらしく、少し移動しただけで白斗の口からは血が吹き出し、機械の心臓からは鋭い破裂音が飛ぶ。

 

 

「ッガアアアアアアアア!!! こなくそがああああああああああああ!!!!!」

 

「ギェ!!?」

「ギャッ!?」

「グァ!!」

 

 

血が吹き出し、機械の心臓が壊れていく。その度に激痛が走るが、寧ろそれを機動力にして体を、武器を振るう。

ナイフだけではない、銃も持ちだしては引き金を引き、モンスターの脳天に風穴を開ける。

 

 

「ギギギッ!!」

 

(がッ……! アイエフから貰った銃が……!!)

 

 

蜂の姿をしたモンスターが腹部から針を発射し、白斗の銃を弾き飛ばしてしまった。

アイエフから貰ったお守りの銃、出来れば拾い直したがったが今はそうしている暇はない。

ならばと今度は袖口からワイヤーを引き延ばし、オーバーロード・ハートの速度で振るった。鋭く細く、長いワイヤーは刃となって一気に3体ものモンスターの首を跳ねる。

 

 

「オオォォォオオオオ!!!」

 

 

最早魔物と何ら変わりない声を上げながら白斗はワイヤーを振るい続けた。

自在に伸びるワイヤーは伸縮自在の刃、例え一歩も動かずともあらゆる範囲のモンスターの首を跳ねることが出来る。

―――だが、それだけモンスターの血を浴びるということでもあり、ワイヤーはやがて血錆に塗れ、脆くなり―――。

 

 

「グゥッ!? ―――ォォオオオオオオッ!!」

 

「ぐッ……!!」

 

 

モンスターによって引きちぎられてしまった。

これでもう白斗に武器は―――。

 

 

「まだだァアアアアアアアアアアアアアア!!!」

 

「グベェ!!」

 

(な……!? 今度は自らの手で首を折りに来た!?)

 

 

まだあった。自らの握力だ。

オーバーロード・ハートによって極限まで高めた身体能力を用い、モンスターの首を折るという原始的な方法で殺しに掛かった。

その素早さと力強さによって一気に接近しては折り、また次のモンスターへと肉迫しては首を折る。

 

 

「ガルルルルッ!!」

 

「チッ……!!」

 

 

しかしそんな無茶苦茶な方法などいつまでも通用はしない。

やがて速度は否応なしに落ちてくる。その一瞬を狙ってリザードマンが白斗の背後から襲い掛かる。

 

 

「くぅ……ッ!! 白斗ぉ!! これ使ってぇ!!!」

 

「っ!! 剣……サンキュな、ノワール!! うおおおぉおぉっ!!!」

 

「ゲバァ!!?」

 

 

そこへ飛来してきたもの。それはノワールが投げつけた片手剣だった。

辛うじて動いた手首を用いて白斗へと投げ渡したのだ。寸での所でそれを受け取り、逆に襲い掛かってきたリザードマンの首を切り裂く。

 

 

「あっ、がぶぅ……!! ごぼ……ォ……ォォオオオオオオオオオ!!!!!」

 

「ゲグア!!?」

 

「ギャブッ!?」

 

 

その間もオーバーロード・ハートは解除していない。寧ろフルスロットルだ。

凄まじい反動は、吐血の夥しい量からも分かってしまう。だが白斗は寧ろその痛みを原動力として刃を振るい続けた。

圧倒的速度から振るわれる太刀筋を見れるはずもなく、モンスター達は次々と死んでいく。

 

 

「ォォオオオオオオ!! アアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」

 

「な………何なんだよこいつ……!! マジモンのバケモンじゃねぇかああああ!!?」

 

 

モンスターの如く恐ろしい声を出しながら、白斗は尚もモンスターを切り殺していく。

時には首の骨を折り、目玉を抉り、頭を蹴り砕いた。余りにも人間とは思えないその殺し方にとうとうリンダが恐怖で泣き始める。

 

 

(……ああ、バケモンか……そりゃそうだよな……自分でも醜いって思うよ……。 ……女神様は何て思うのかな……怖い? 醜い? 汚らわしい? ……はは、ホントに自分で自分が嫌になる……こんな俺が、女神の傍にいたなんて……)

 

 

そんな声も、白斗は聞き取っていた。

何よりも今、彼が一番嫌っていたもの。それは白斗自身だった。女神を傷つける者を嫌う彼にとって、女神を汚すことになるであろう自分を激しく嫌悪していた。

それでも刃を振るう手は止まらない。止められない。

 

 

 

―――でも、女神達には違って見えていた。

 

 

 

(……白斗……泣いてる……)

 

 

 

ネプテューヌには、流れ出る血が、白斗の涙のように見えた。いや、今泣けない彼にとっての涙なのだろう。

だからこそ、その姿に心を痛めていた。

ノワールにも、ブランにも、ベールにも。白斗の事を怖いとも、醜いとも、増してや汚らわしいとも思えなかった。

 

 

 

「違う……やっぱり貴方は優しい人だよ……優しすぎるんだよ……!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だって……こんなにも泣いてるじゃない……!! 優しくない人は泣けないんだよ!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だから白斗……もうやめて………やめてよおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

 

 

ネプテューヌは、白斗を拒絶などしていなかった。寧ろ受け入れて―――愛していた。

だから、これ以上白斗が傷つくことが耐えられなくて―――涙しながら訴えかけるしかなかった。

彼女だけではない、ノワール達もその気持ちは同じだ。

 

 

「そうよ!! ……これ以上は、白斗が死んじゃう……!!」

 

「白斗!! 本当にお前がいてくれて、私達は幸せだったんだ!! だから……死なないで……死なないでくれよぉ……!!!」

 

「白ちゃん……白ちゃん……!! お願いですから……もうやめて……!!!」

 

 

皆、白斗のために泣いている。必死に叫んでいる。

この世界を第一に考えなければならない女神達が、今たった一人の少年、愛する白斗の命を助けようと必死になっていた。

―――そんな彼女達の想いに、白斗は足を止めて。

 

 

 

「……こんな俺のために泣いてくれる皆の方が……優しすぎるんだよ。 だから……そんな女神様を、死なせたく……ないんだ……」

 

 

 

一筋の、綺麗な涙を流して微笑んだ。

 

 

 

「―――オーバーロード・ハート、第三段階起動オオオオオオッッッ!!!」

 

「なああああああああ!!?」

 

 

 

まだ、上があった。まだ隠している力があった。まだ―――自分を傷つけていた。

止める間もなく更に心臓を稼働させた。リミッターなど当の昔に振り切っている。今も尚、火花が弾けていた。下手をすれば心臓が爆発するかもしれない。

そんな彼は、まさに閃光のように弾けて――――。

 

 

 

 

 

「――――ゥォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

―――刹那、残りのモンスターの首を全てを切り裂いた。

 

 

「…………は? おい……ウソ、だろ………!? ウソだろおおおおおおおおおお!!?」

 

 

全く目で追えなかったリンダからすれば、気が付けばモンスターの首が全て飛んでいて、一斉にボトボトと落ちてくる。

そんな地獄絵図と呼ぶのも生温い恐ろしい光景が、目の前に広がっていた。

 

 

「ヒ、イィィィ……!! ほ、本当に……50体以上のアンチモンスター全てを……殺し切ったっちゅぅううううううううううううう!!?」

 

 

恐怖の余り、ワレチューは取り乱している。

アンチモンスター、対女神用と銘打ってはいるが普通のモンスターよりも強化されている。何より、その数は50体以上もいたのだ。

それらが全て、殺された。目の前のたった一人の少年―――黒原白斗の手によって。

 

 

 

「がぶ……ごひゅ……げぼっ……ハァー……ハァ………後は……ババア一人と……ネズミ、一匹………ごほっ……」

 

 

 

白斗はもう、泥塗れ、傷だらけ、血塗れの死に体だった。

致命傷に近い傷も多く負っている、失血も夥しい、機械の心臓も駆使し過ぎていつ機能を停止するかもわからない。

そんな死に掛けの体であるにも拘らず、白斗はまだ立っていた。どこまで冷たく、鋭い視線をマジェコンヌらに向けている。

血を吐きながらも、まだ殺すべき対象がいる。静かに片手剣の切っ先を向けた。

 

 

「ってオイ!! アタイはノーカウントかよ!!?」

 

「……あ゛? するわけねぇだろ……ごふっ! 失せろ……雑魚が……」

 

「ざ……雑魚ォ!? このッ……死に損ないがああああああああああああああ!!!!!」

 

 

一方、戦力としてすら数えられなかったリンダが憤った。

こんな死に掛けの相手に雑魚と見なされた。無駄に高いプライドが傷つけられ、青筋を浮かべた。

怒りのまま愛用の鉄パイプを手に突撃するが。

 

 

「ふん」

 

「がっ!?」

 

 

無造作な足払いでリンダを地面に転ばせる。

その隙に刃を振りかぶり――――。

 

 

「ま……待て待て待て待てえええええええええええええええええええええ!!?」

 

 

殺される―――またあの時の恐怖が蘇ったリンダは悲鳴を上げた。次の瞬間、刃の切っ先はリンダの顔の、すぐ真横に突き刺さる。

亀裂が蜘蛛の目のように広がり、僅かに切られた頬から一筋の血が流れ落ちた。リンダの目の前には、覆い被さるように顔を近づける白斗がいる。

殺気に満ちたその目で、リンダを睨み付け。

 

 

 

「―――次は、殺す」

 

 

 

底冷えするかのような、恐ろしい声色と目付きでそう呟いた。

 

 

 

「ひ――――ひいいえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!?」

 

 

 

恐ろしくなったリンダは堪らず泣き叫び、白斗を押しのけて逃げ出した。

どこまでも無様に、どこまでも醜く、どこまでも情けなく。

仕えるべきマジェコンヌも、苦楽を共にしたワレチューも、無駄に高かったプライドも何もかもを捨て去って、命惜しさに逃げ出した。あっという間にリンダの姿は見えなくなる。

 

 

「……そうだ。 とっとと逃げやがれ」

 

(……白斗、やっぱり殺したくなかったんだ……だから、わざと逃がして……)

 

 

ネプテューヌは、いや彼女だけではない。女神達には分かっていた。

魔物こそ殺せど、白斗は人を殺したくなかったことに。彼の腕なら、あんな無防備な背中など余裕で切り裂けたはずだ。

そうしなかったのは、彼が優しい人であったからだと。

 

 

「―――さぁ、次はどうする……? そのネズミが来るか……?」

 

「ヒイイィィィィッ!? お、オイラは無理っちゅよ~~~!!!」

 

 

ギロリ、と血塗れの目で睨み付ける。

まるで蛇に睨まれた蛙のようにワレチューは恐怖に震えあがる。リンダのように情けなく逃げはしなかった、いや恐怖で足が竦み逃げられなくなっている。

ここまでの、余りの事態に息を飲むしかなかったマジェコンヌもいよいよ覚悟を決めた。

 

 

「……いいだろう。 このマジェコンヌ様が相手をしてやる」

 

「望む、っ……ところだ……がぶっ……」

 

 

尚も血を吐き続ける白斗。だが、もう揺らぎはしない。

彼にとって、もう後はマジェコンヌが死ぬか、白斗自身が死ぬかのどちらかのみ。ただどちらに転ぼうとも、愛する女神達を守る。

―――それしか頭に無かった。

 

 

「行くぞぉぉおおおおおおおおおッ!!!」

 

「来いっ!!!」

 

 

刃を手にした白斗と杖を握るマジェコンヌが、一気に詰め寄った。

白斗は剣を振り抜くことで魔女を殺そうとし、マジェコンヌはその杖に集めた光を放とうとする。

どちらにとっても必殺にして致命の一撃。―――だが、互いにそれを放とうとする直前。魔女は不敵に微笑んだ。

 

 

 

「……ところで、貴様も一人で死ぬのは寂しかろう? そんなに女神が好きなら……惚れた女共と一緒に死ねたら……文句はあるまい?」

 

「なッ!?」

 

 

 

そこで初めて、白斗が焦った。このマジェコンヌの台詞が意味するもの。

攻撃を放つその直前、何とか後ろを振り返る。するとネプテューヌの足元の地面が膨れ上がり―――。

 

 

「グォバアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」

 

「え………」

 

 

ワーム型のアンチモンスターが、大口を開けて地面を突き破ってきた。

その気持ちの悪い大口でネプテューヌを丸呑みにしようと―――。

 

 

 

「――――ッ!!! ネプテューヌ――――――――ッッッ!!!!!」

 

 

 

白斗に迷いはなかった。

手にした片手剣を逆手に持ち替え、体をネプテューヌの方へと向き直し、刃を大きく振りかぶる。

槍投げの要領で片手剣を投げ、空を駆け抜けたそれは大口を開けていたワームの脳幹事貫き、絶命させた。

 

 

「は……白斗!? こんなことしたら――――!!」

 

「そうだ!! 隙だらけだぁぁああああああああああああああ!!!!!」

 

 

ネプテューヌには、何が起こったのか一瞬分からなかった。

気が付けば目の前のモンスターは死んでいて、いつの間にか命が救われていて、そして白斗が一瞬にして危険に晒されていて。

声を上げるも時既に遅し、マジェコンヌが光の塊を振り上げて―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

(………みん、な―――――――――)

 

 

 

 

 

 

 

 

白斗は、光の塊に飲み込まれた。

凄まじい衝撃波と爆風、眩い光が辺りに広がる。

 

 

 

「白斗……白斗ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

 

 

 

ネプテューヌが叫ぶ。悲痛な叫びと共に溢れ出た涙は衝撃波によって飛び散ってしまう。

女神達も絶望をその顔に刻み付けながら叫んだ。白斗の名を呼びながら。

やがて、光も衝撃波も収まり土煙が晴れた時―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――白斗は、地に伏せていた。

 

 

 

 

 

 

「いや………いやあぁぁああああああああ――――!!!!!」

 

「そ……そんな……白斗……あ、あああぁぁ……!!!」

 

「白……ちゃ……あああぁ……ああああああああああああああ!!!!!」

 

 

 

ノワール達の涙も、震えも、絶望も止まらない。

余りにもボロボロで、余りにも血塗れで、余りにも焼け爛れたその姿。生きていると思える方が無理な話だ。

しかし、そんな白斗を見下ろしているマジェコンヌは彼を一瞥すると。

 

 

「喚くな女神共。 ……手加減はした、辛うじてだが死んではいない」

 

「え………!?」

 

 

その言葉に僅かながら希望を取り戻し、必死に目を凝らしてみる。

確かに僅かにだが身動ぎしていた。虫の息ではあったが、呼吸もある。

白斗はまだ生きていた。だが、危険な状態であることに変わりはなく、いつ死んでもおかしくない状態でもあった。

 

 

「さてネズミ……女神共の無様な姿、キチンと録画出来たのだろうな?」

 

「も、勿論っちゅよ。 この通りカメラにバッチリ……ッヂュ――――――っ!!?」

 

 

勝利を確信したマジェコンヌが傍に控えていたワレチューに声を掛ける。

彼の手には一台のカメラが握られていた。どうやら今までの様子を撮影していたらしい。もし、こんな光景がゲイムギョウ界中に放送されれば彼女達のシェアがどうなるのか、想像に難くない。

―――そんな卑劣な野望は、一本の投擲されたナイフによって文字通り砕かれた。

 

 

 

 

「………誰……が………ンなこと…………させ、るか……よ………」

 

「小僧!? 貴様まだ………!!?」

 

 

 

 

白斗だった。隠し持っていた最後のナイフ、そして最後の力でワレチューのカメラを砕いたのである。

けれども、正真正銘の最後だったらしく伸ばした左手は力なく地面へと落ちる。

顔すらも上げられない、何とか血塗れの顔を女神達に向けると。

 

 

 

 

 

 

 

 

「………みん、な……たすけら、れなくて………ごめ……んな……ごめん……な……」

 

 

 

 

 

 

 

 

涙ながらに謝り―――静かに目を伏せた。

 

 

 

「あ、あぁあ……白斗……白斗ぉお………!!!」

 

「いや……いやああああ………!!!」

 

「はく、と……白斗……あああああああああああああああああああああ!!!!!」

 

「白ちゃん……!! 白ちゃああああああああああああん!!!」

 

 

 

今度こそ力尽きてしまった白斗に、女神達は泣き叫んだ。

自分の命よりも大切な人の悲壮な姿に、彼女達の絶望は止まらない。後悔、怒り、悲しみ、罪悪感。ありとあらゆる負の感情が女神達を覆った。

 

 

「……小僧、貴様は立派だよ。 あの男よりも……何より女神共よりもな」

 

「……マジェ……コンヌ……!!!」

 

「てめぇ……絶対……絶対に許さねぇ……!! よくも白斗をぉおおおおおおお!!!」

 

 

マジェコンヌは戦い抜いた白斗に、彼女なりの賛辞を贈る。

しかし、ここまで彼を追い詰め、傷つけたのは他ならぬこの魔女だ。ノワールとブランが殺気と怒りを込めた視線をぶつけるが、一切マジェコンヌは動じない。

 

 

「ふん、許されないのは貴様らだ。 この小僧はこんなにもボロボロになって貴様らを守ったというのに、貴様は一切傷も負わずにこの男を救えなかったのだからな……」

 

「………っ!!!」

 

 

言い返せなかった。

ベールはらしくもなく歯軋りをし、また涙を流す。

 

 

「だが安心しろ。 貴様らはこの後殺される身、その死を以て贖わせて……」

 

 

杖を手にしたマジェコンヌが、不敵に笑いながら女神達に近づく。

今も尚コード・テンタクルによって縛られ身動き一つすら取れない。アンチエネルギーで力も入らず、何よりも愛する白斗を救えなかったという絶望感に囚われた女神にもう、抵抗の意思はない。

これから起こる残虐な展開を思い起こし、マジェコンヌが舌なめずりをした―――次の瞬間。

 

 

 

「お姉ちゃんから―――離れろぉおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

 

「ぬっ!?」

 

 

 

威勢のいい声と共に発砲音が轟いた。

咄嗟に障壁を張ることで飛んできた弾丸を防ぐ。銃弾は眉間や心臓を的確に狙っていた。

もし気付くのが遅ければ急所に風穴が空いていたことだろう。

すぐに飛びのき距離を開ける。すると奥の方から複数の足音が聞こえてきた。

 

 

「お姉ちゃ――――ん!!! 大丈夫―――――!!?」

 

「ネプギア……!! それにあいちゃん達も!!」

 

「女神候補生とその取り巻きか……チッ、あの閃光弾は合図でもあったわけか……」

 

 

ネプギア達だった。そして先程の弾丸はユニが撃ったものである。

個々の戦闘力は女神には遠く及ばないものの、何より数が多い。忌々しそうに舌打ちをしながら、ここまでの状況を生み出した立役者である白斗を睨み付けるマジェコンヌ。

 

 

「私達の事はいいから!! 早く……早く白斗を助けてぇえええええええええ!!!!!」

 

「白斗!? あ………そんな………!!!」

 

 

アイエフらが目の当たりにした光景。

それは触手に縛られて動けない女神達、こんな事態を引き起こしたであろうマジェコンヌの姿、何よりも地面に倒れてピクリとも動かない満身創痍の白斗の姿。

想い人の無残な姿に、誰もが血の気を引かせる。

 

 

「――――マジェコンヌっ!!! アンタが……アンタが白斗君を……!! よくも………よくもおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!」

 

「何だオレンジの小娘。 貴様は私を知っているようだが、私は貴様など知らぬ」

 

 

その中でも、一番早く怒りに吠えた少女がいた。マーベラスだ。

どうやらマジェコンヌの事を知っているらしいが、当の本人は空っとぼけている。いや、本当に知らないらしい。

 

 

「……アンタらの事情なんてどうでもいいわ……でも、白斗を傷つけたことだけは……絶対に、許さないッッッ!!!!」

 

「私も同じよ……よくも白兄ぃをおおおおおおおおおおおお!!!!!」

 

「お兄ちゃんを………よくも……っ!!!」

 

「白斗さん……今助けるです!!!」

 

 

アイエフらも武器を構えて、元凶であるマジェコンヌを睨み付ける。

戦闘力では女神に劣ると言えども、一般人と比べればそれこそすさまじい戦闘力を持つ面々だ。

錚々たる顔ぶれに、マジェコンヌも面白くなさそうな顔つきになる。

 

 

「お、おぉー!! コンパちゃんもいるっちゅか!! 会いたかったっちゅけど……こんな殺気立った面々とは会いたくなかったっちゅ……!!!」

 

「……だな。 これ以上は面倒、付き合う気にもなれん」

 

「賛成っちゅ!! ……でも下っ端はどうするっちゅか?」

 

「放っておけ、あんな様子では使い物にもならんだろう。 それよりも………」

 

 

多勢に無勢とはこのことだ。

アンチモンスターを全て倒された今、勝ち目こそあるかもしれないが面倒であることは間違いない。

無駄な労力を消費したくないマジェコンヌらは撤退を選んだようだ。ただし、その前に手を伸ばす。その先には―――。

 

 

 

 

「―――この小僧だけでも回収して、撤退するぞ」

 

「「「「「――――ッッッ!!!?」」」」」

 

 

 

 

なんと、倒れている白斗を抱え上げたのだ。

マジェコンヌの目的、それはネプテューヌら女神だけではなく白斗の誘拐もその一つだったらしい。

浮遊を始めるマジェコンヌの足にワレチューがしがみ付き、二人と一匹は空へと舞い上がる。

 

 

「ま、待って!! 白兄ぃを置いていけぇ!!!」

 

「白斗君を離さないってなら……!!!」

 

 

咄嗟にユニとマーベラスが武器を構える。銃とクナイ、どちらも空中に居る相手に攻撃可能な武器だ。

二人の腕前なら、急所にさえ当たればマジェコンヌも仕留めることが可能だろう。

だが――――。

 

 

「ほう……? なら、この男がどうなってもいいというのだな?」

 

「「な……っ!!?」」

 

 

ずいっと突き出された白斗の体を盾にしてくるマジェコンヌ。

既に白斗の意識はなく、今も尚血が流れ続けている。そんな彼に攻撃でもしてしまえば、急所に出なくとも死んでしまうかもしれない。

それ以前に、大好きな人を攻撃できるはずもなくユニとマーベラスは恐怖に震え、手を提げてしまった。

 

 

「ふん、取り返したいなら女神化すればいいだろうに……ああ。 女神化すらも出来ぬのか。 候補生とは名ばかりの、役立たずだな」

 

「う……うぅ……!!」

 

 

確かに女神化すればウィングを展開し、飛行できる。けれどもユニとネプギアにはまだそれが出来ない。

こんな時にまで白斗を助けに行けない不甲斐なさに、ネプギアは俯いてしまう。

 

 

「……させ……ない……」

 

「ね、ねぷねぷ……」

 

 

すると、ネプテューヌが体を震わせていた。

顔に陰りがあったため表情は読み取れなかったが、いつもの明るい声色では無かった。

 

 

「……白斗は……白斗は!! 私が守るんだからぁあああああああ!!!!」

 

 

するとネプテューヌの体が、眩い光に包まれた。

―――光が収まると、そこにはプラネテューヌを守護する女神パープルハートがそこにいた。

そう、彼女は女神化を果たしたのだ。

 

 

「ぢゅ、ぢゅぢゅぢゅ――――っ!? な、なんで女神化したっちゅか!? アンチモンスターに絡まれていたはずなのに!!!」

 

「……まさか、小僧のナイフでコード・テンタクルにもダメージが……!? それで女神化を許したとでもいうのか!?」

 

 

細かい理由も理屈も分からない。しかし、今この場において白斗を助けられるのはネプテューヌ以外に居ない。

今も触手に絡まれている彼女だったが、シェアエネルギーの限りを尽くし、手足に力を込める。

 

 

 

「白斗を………私の大好きな人を……返しなさいッッッ!!!!!」

 

 

 

そしてコード・テンタクルは、鈍い音を立てて引きちぎられた。

全てのシェアエネルギーをつぎ込み、アンチモンスターの束縛をも打ち破ったのだ。その勢いのままネプテューヌはウィングを展開し、一気に飛び上がる。

 

 

 

「白斗ぉおおおおお―――――――――――っ!!!!!」

 

 

 

愛する白斗へと手を伸ばす。

その手が届くまで、後数センチ―――。

 

 

 

 

 

「無駄だ」

 

「え――――きゃああああああぁぁぁぁぁっ!!!?」

 

 

 

 

 

だが、そんな彼女の想いは―――無情なるマジェコンヌの一撃によって阻まれた。

強烈な光弾がネプテューヌを撃ち落とし、地面へと叩き落す。

 

 

 

「あ……うっ……!! げほっ……!!」

 

「コード・テンタクルから逃れるために全エネルギーを使い切ったようだな。 そんな状態の女神など赤子の手をひねるようなものだ」

 

 

 

そう、今のネプテューヌは戦える状態では無かったのだ。

空っぽになってしまった自分の体を無理矢理動かしてまで救出に向かったのだが、それではマジェコンヌに勝てる道理など無い。

 

 

「離してっ!! 離してよおおおおおおおおっ!!!」

 

「くそぉおおおおおお!!! 白斗が……白斗が!!!」

 

「お願いですから離れてぇ!! 白ちゃん……白ちゃんっ!!!」

 

 

ならばとノワール達も必死にもがき始める。だが、こちらに絡みついているコード・テンタクルは無傷だ。

どれだけ暴れようとも効果が無かった。

余りにも無力な自分達に涙が止まらない。怒りの対象が自分達へと変わる。

けれども、もうマジェコンヌは地上からでは豆粒程度にしか見えないほどの高さへと上がっており。

 

 

 

 

 

 

「ではな女神共。 この小僧は頂いていくぞ」

 

 

 

 

 

 

 

―――虚空へと、消え去ってしまった。白斗と共に。

 

 

 

 

「あ…………あぁ…………」

 

 

 

 

白斗が消えてしまった空に、ネプテューヌは虚ろな目で手を伸ばす。

手も声も体も、何もかもを震わせて。

彼女だけではない、ノワール達も皆、茫然と空を見上げていた。やがて瞳から漏れだす涙。

 

 

 

 

 

 

「…………はく……と…………あぁ……………ぁ………」

 

 

 

 

 

 

―――ネプテューヌの意識は、そこで真っ暗になった。




怒涛の第三十八話、閲覧ありがとうございます。
白斗は誘拐されてしまい、残された女神達は己の無力さに打ちのめされる……。一体どうなってしまうのか。
次回、「絶望、そして“絶暴”」。
……と言いたいのですが次回更新は3月14日予定です。そう、ホワイトデー!!ということで一足先にホワイトデー記念小説の方を先に投稿する予定です。
私、鬱回苦手なのでここでちょっと箸休めという意味でも明るいお話を投稿したいと思います。
それではお楽しみに!!感想ご意見、お待ちしております!!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。