恋次元ゲイムネプテューヌ LOVE&HEART   作:カスケード

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第四十話 Will Be Venus

「―――これが絶望、そして“絶暴”だ。 女神共」

 

 

勝利を確信したかのような不敵な笑みを浮かべるマジェコンヌ。

だが、事実女神達は絶望に屈していた。

必死に助けたいと願い、そして何よりも愛していた少年、黒原白斗。

 

 

 

 

彼は今―――巨人のようなモンスターとなって、ネプテューヌ達の前に立ちはだかっていた。

 

 

 

「そ、んな……それ、じゃ……わた、私……い、や……イヤアアアアアアアアアア!!?」

 

「白ちゃんを……この……手で……っ!? あ……あぁああぁ……!!」

 

 

正体を知らずして、白斗に攻撃してしまったノワールとベールが絶望に囚われた。

手は震え、呼吸は乱れ、涙は流れる。

今になって鮮明に蘇る、愛する人の肉を切り裂き、穿ったその感触。女神化した姿であるにも関わらず、最早その取り乱しぶりはただの少女同然だった。

 

 

「さぁ、女神共。 愛しい小僧をこれ以上傷つけることが出来るか? まだ戦えるのか?」

 

「………あ、ああぁぁあ………」

 

「そん、なの……無理………無理だよぉ………」

 

 

ブランも恐怖の余りアックスを手放してしまう。そして、膝をついていたネプテューヌはただ絶望した表情で見上げることしか出来なかった。

四女神だけではない、ようやく女神化出来るようになった女神候補生達も。

 

 

「クックック……いい顔だ。 その顔、もっと歪めてやろう……やれ!!」

 

「ヴグォオオオオオオオオ!!?」

 

 

マジェコンヌが杖を掲げる。

するとその先端がまた光り出し、白斗へと降り注いだ。それが合図であったかのように巨人となった白斗は苦しむような声と共にその剛腕を振り上げ。

 

 

「ヴ……ヴァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」

 

「「「「きゃあああああああああああああああああああ!!!?」」」」」

 

 

地面へと、叩きつけた。

その拳は直接彼女達には触れてはいない。けれども叩きつけられた地面から衝撃波が膨れ上がり、女神達を盛大に吹き飛ばしたのだ。

これ程のパワーはブランでもそう簡単には出せない。吹き飛ばされた体を起こすと、大地が叩き割れられているという壮絶な光景を目の当たりにする。

 

 

「クックック……素晴らしいパワーだ。 さしもの女神も、こいつの一撃を受ければカエルのようにペシャンコ……お茶の間にお見せ出来ない光景になりそうだなぁ!?」

 

「ぅ………はく、と……」

 

 

パワーだけなら女神をも圧倒する力。何より、白斗は自らの意思で女神を傷つけるようなことは絶対にしなかった。

けれども彼は今、攻撃した。もう人間としての意識など残っていないのかとネプテューヌは更に絶望へと叩き落されたような声を上げる。

今も尚、苦しみに呻いている白斗の顔を、救うことが出来ずに―――。

 

 

『皆さん、諦めないでくださいっ!!』

 

 

そこに必死になって呼びかける声。

女神達の目の前に浮かぶディスプレイ、そこに映されていたのはイストワールだった。

彼女の言葉に女神達が一瞬だけ希望を取り戻す。女神補佐として悠久の時を生きている彼女なら、この状況を打開できる知識があるかもしれない。

しかし、尚もマジェコンヌはそれをあざ笑う。

 

 

「プラネテューヌの教祖だな? やめておけ、絶望は最早慈悲だ。 これ以上余計な希望を持たせ、絶望させるのは酷と言うものだぞ」

 

『そんなことはありません!! 貴女が先日、モンスター化事件の犯人なら……そのカラクリは“絶暴草”にあるはずです!!』

 

「……ほう、さすがは生きた化石。 よくご存じだ」

 

 

イストワールは見抜いていた。マジェコンヌの暗躍と合わせて、白斗が一体何をされたのかを。

一方のマジェコンヌも否定するつもりは無いらしい。

 

 

「いーすんさん……! その絶暴草って何ですか!?」

 

『ゲイムギョウ界に生えていると言われる禁忌の薬草です。 服用者の心の傷に反応して、その苦しみから逃れるための力を与えると言われています』

 

「その通り。 絶望の末に暴走する薬草……だから絶暴草なのだ」

 

 

ありとあらゆる陰気な意味を込めた薬草、それが「絶暴草」。

どうやら白斗はそれを投与させられたらしいのだ。

 

 

「それで白斗をモンスターに……!? だとしたら、どれだけブチ込まれたんだ!?」

 

「こんな姿になるまで、薬物投与なんて……!!」

 

「……絶対に、許しませんわっ……!!」

 

 

これだけの姿、そしてパワー。それが薬物投与によるものだと知るや否や、ブランとノワール、そしてベールも今度は怒りを込めて立ち上がる。

 

 

「確かに大量の絶暴草を投与したらしいが……これは貴様らの所為でもあるのだぞ?」

 

「どういう……ことよっ!?」

 

 

だが、この白斗の姿が女神達の所為だと宣うマジェコンヌ。

そんな彼女に苛立ちしか感じず、ユニがブラスターの銃口を差し向ける。何かのきっかけさえあれば、今すぐにでも眉間に風穴を開けられるほどに引き金に掛かっている指は、限界寸前を迎えている。

 

 

「言ったはずだ……これは絶望の末に暴走する薬草だと……なぁ? イストワールとやら」

 

『…………………』

 

「いー……すん………?」

 

 

どうやら、イストワールは図星らしい。

答えることを躊躇っている様子だが、ネプテューヌからの呼びかけに応じ、ようやっと口を開いた。

 

 

『……絶暴草は大量投与されても効果自体は変わりません。 情緒不安定などの副作用も引き起こしますが……変わるのは効果の持続時間だけなのです』

 

「え……?」

 

『普通は五分も保てばいい方です。 それを超えて尚モンスター化しているということは、それだけ常軌を逸する量を投与されたということ……ですが、問題はそこではありません』

 

 

効果の持続時間、確かにそれも厄介だが大量投与だけではあそこのまでの力と姿は手に入らないという。

ならば、あの常軌を逸するパワーは一体何なのか。

 

 

『……絶暴草は、服用した人間の絶望に応じて力を与える薬草………つまり、その人が抱える絶望が深ければ深いほど……効力を齎します』

 

「絶望……って、ことは……!?」

 

『はい……白斗さんは、それだけ深い絶望をずっと抱えていたことになります……! ですが、女神様をも圧倒できるほどだなんて……一体、どれだけ苦しい思いを……!?』

 

 

ネプテューヌが見上げた。あの苦し気な表情は、モンスター化した影響などではなく、自分の絶望に苦しめられているということに。

そしてそれだけの絶望を―――今の今まで、ネプテューヌ達と過ごしている間も、ずっと抱えていたということに、ようやく気付いてしまった。

 

 

「そうだ。 ……時間だけはあったのだ、貴様らが少しでもこの小僧の絶望を理解していればこんなことにならずに済んだのになぁ?」

 

「あ……あぁ……そん、な……!!」

 

 

―――そうだ、思い返せば白斗は時折辛そうにしていた。

過去に何かあったのだと誰もが分かってはいた。深追いしなかったのは、彼を傷つけたくなかったからだと、そう言い訳していたのかもしれない。

本当は向き合ってあげるべきだったと悟った時、女神達は屈し―――。

 

 

『で、ですが!! まだ可能性はあります!!!』

 

「ほう、可能性だと? ない希望に縋るつもりか?」

 

『薬草である以上、それに対抗するための特効薬もあるはずです! 絶対に私が探し出して見せます! ですから皆さんはアンチモンスター、そしてマジェコンヌを倒しつつ白斗さんを押さえてください!! 傷つける必要なんてありません!!!』

 

 

そんなイストワールの言葉に、僅かにだが瞳に光を取り戻した女神達。

薬物に寄って狂わされているのなら、その薬物を除去してしまえばいい。このゲイムギョウ界にならば、きっとそれが存在する。

それが唯一の希望だと信じて。

 

 

「……そう、だよ……お兄ちゃんを助け、なきゃ……!!」

 

「そのために……女神に、なったんだから……!」

 

「……もう、泣かない……! そして、諦めない……!!」

 

「お兄ちゃん……待ってて……! 今、助けるから……!」

 

 

真っ先に立ち上がったのは、女神候補生達だった。

今までは姉や兄に守られているだけの彼女達ではない。寧ろその逆、愛する人を守るために戦う、立派な女神の姿だった。

 

 

「……そう、ですわ……! ここで愛する人を守れずして……何が、女神ですの……何が女、ですかっ……!!」

 

「ええ……ユニ達が、頑張るってのに……私達がやらない、なんて……!!」

 

「……それこそ、白斗の傍に居る資格……ねぇじゃねぇか!!」

 

 

そんな妹達の姿に触発されて、守護女神達も立ち上がる。

衝撃波だけで体は引きちぎれそうなほどの激痛を受けている。だが、引きちぎれている場合などではない。

白斗はもっと苦しい思いをしているのだ。ならば音を上げている場合などではない。

守護女神として、何よりも女として―――。

 

 

 

「……私、だって………白斗のためにっ!!!」

 

 

 

ネプテューヌも、痛みや悲しみを堪え、愛刀を握り直した。

いつものおふざけな雰囲気など微塵もない。白斗の―――愛する人のために全てを賭す、少女がそこにあった。

 

 

「ふふ……さて、本当にこの小僧を救えるのかな……? お前達も殺れ!!!」

 

『『『『『グゥォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!』』』』』

 

 

今まで待機していたアンチモンスターが盛大な雄たけびを上げる。

女神を倒すためだけに生み出された魔物達にとって、女神と戦えないのは死よりも辛い苦痛だった。

けれども女神達は怯みはしない。己が武器と想いを手に、モンスター達に、マジェコンヌに、そして白斗に立ち向かっていく―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――その頃、プラネタワー内ではもう一つの戦いが幕を開けていた。

 

 

 

「お願いします、皆さん!! 急いで絶暴草並びにそれの関連資料を!!」

 

「「「「はいっ!!」」」」

 

 

 

科学技術の粋を集めた国、プラネテューヌ。

その中心であるプラネタワー内ともなれば、その存在そのものが究極のスパコンとも言える。

更にはその心臓部とも言える情報室内に、五人の少女が駆け込んでいた。

ツネミ、5pb.、コンパとアイエフ、そして教祖イストワール。

 

 

「早く……早く白斗君を元に戻してあげないと……!!」

 

「白斗さん……絶対に、助けて見せますからっ!!」

 

 

5pb.とツネミが早速近くの席に座り、供えられたパソコンで情報検索を始める。

プラネテューヌ内全ての情報が詰められたこの部屋は、最高機密と言ってもいい。そんな重要な部屋に少女達を招き入れたのは、必要だからである。

白斗を救い出すための情報を得るために、人手はどうしても必要だったのだ。

 

 

「絶暴草……どこの病院でも扱ってない情報みたいですぅ……」

 

「だったら現代の情報ではなく、古代の情報で検索を掛けてみましょう」

 

「それがよさそうですね……白斗、お願い……もう少しの我慢だから……!!」

 

 

絶暴草―――その単語を口にする度、耳にする度、通信で入ってきたあの悲痛な光景が蘇る。

白斗の変わり果てた姿に、一度はアイエフ達も気を失いかねないほどの絶望を覚えた。

だが、イストワールの呼びかけで辛うじてだが意識を繋ぎ止め、絶暴草への対抗手段を探すことを提案したのだ。

 

 

「そもそもイストワール様はご存じないんですか!?」

 

「過去の女神様が、その情報を伝えてくれただけで私自身は目の当たりにしたことがありません。 そもそも効果が効果なので絶暴草自体が禁忌になり、歴史の闇に葬られるようになりました」

 

 

名を広く知らしめればそれに手を伸ばしてしまう輩が出てきてしまう。

それを防ぐため、敢えて存在そのものを闇に葬られたらしい。

 

 

「ただ、情報はどこかに記録されていると思います。 それを探しましょう」

 

「なんでイストワールさん自身は覚えてないんです?」

 

「過去数万年ともなる情報を記憶するとキャパオーバーとなってしまうので……」

 

 

どうやらそこからが彼女の口癖である「三日かかりますよ?」の起源らしい。確かに数万年にも及ぶデータを検索するには相応の時間が必要なのだろう。

中には、イストワール自身が生まれる前の情報になるのかも知れない。

だが、今は三日も掛けている場合ではない。一刻も早く絶暴草に関する情報が必要なのだ。

 

 

「……ありました! 絶暴草の情報! 科学者さんの論文データみたいですけど……」

 

「ほ、本当ですか!? 見せてください!!」

 

 

すると論文に絞って検索を掛けていたらしい、ツネミがとある論文を見つけてきた。

タイトルは「精神作用の薬物」について。薬学を専攻する研究者が纏めたものらしい。

鬱病治療や、麻薬対策などのためにモルモットを使ってどんな作用が起こるか、その作用の原因などが事細かに記されている。

その中に―――あった。「絶暴草」を用いた実験について。

 

 

「……ストレスを与えたスライヌに対して投与するとどうなるか、という実験ですね」

 

「酷い……でも白斗君のため、今は我慢……!」

 

 

実験には必ず被験体が存在する。その実験に選ばれたのは非力で尚且つ死んでも文句を言われないモンスター、スライヌ。

勿論、薬物を投与することになる上に絶暴草ともなれば悲惨な結末しか見えず、5pb.も嫌悪感を露にするが今は白斗のために堪えることにした。

 

 

「……! ありました、絶暴草の効力を抑制するための成分!」

 

「本当ですか!? どんな薬品を!?」

 

「いえ、薬品ではなくこれもとある薬草を使ったものらしいのですが……でも薬草ともなれば、それを探し出して投与できれば白斗さんを元に戻せるかもしれません!」

 

 

一気に希望が見えてきた。

この科学者でも見つけられたともなれば現存するものに違いない。例え草の根を掻き分けてでも、必ず見つけ出すという覚悟が少女達にはある。

 

 

「それでイストワール様! どんな薬草を探せば!?」

 

「薬草……ああ、この花ですか。 これはかなり貴重な花ですが、自生地は確か……え?」

 

 

―――だが、その薬草の在処を探った途端。一気に絶望へと叩き落されることになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やあああああぁぁぁぁっ!!!」

 

 

―――バーチャフォレストの奥深く。

そこでネプテューヌが鋭い掛け声とともに放った一閃が、アンチモンスターの体を切り裂いた。

女神の攻撃が効きづらいアンチモンスターも女神化を解けば攻撃が通りやすくなる。

 

 

「だが、プラネテューヌの女神一人でアンチモンスター全てを退治できるものか!」

 

「これくらい……なんてことないっ!! 白斗はもっと! 苦しい思いをしたんだから!!」

 

 

アンチモンスター討伐で盛大な成果を上げているのは女神化が出来ないネプテューヌだった。

今の彼女は白斗を救うため、どんな苦しみだろうと乗り越えていく覚悟がある

だが、彼女だけが討伐しているわけではない。

 

 

「そうです!! 私だって、お兄ちゃんのために!! ミラージュ・ダンス!!」

 

「ギャアオォォォオオオオオ!!?」

 

 

ネプギアが刃を振るう。

華麗な剣舞はアンチモンスターの体を滅多切りにしていった。

やがて受けきれなくなったのか、アンチモンスターはついに倒れ、消滅する。

 

 

「馬鹿め!! そうやって突っ込んでいく辺りはやはり半人前だな!!?」

 

「させない!! アイスキューブ!!」

 

 

前に出過ぎてしまったネプギアを仕留めようとマジェコンヌがウルフのようなアンチモンスターに指令を下すべく杖を掲げた。

その指示に従い、アンチモンスターはその鋭き牙をネプギアに突き立てようと襲い掛かってくる。が、その横顔に幾つもの立方体の氷塊が襲い掛かった。

ロムが放ったものだ。

 

 

「ロムちゃんナイス!! そのまま凍りなさい!! アイスコフィン!!」

 

「グア………!!?」

 

 

更に崩れ切ったその態勢から、氷の中に閉じ込められる。ラムが放った魔法だ。

氷は予想以上に頑強らしく、そもそも体温自体を下げられてはさすがのアンチモンスターと言えども動きが鈍る。

 

 

「そこよっ!! ブレイブカノン!!」

 

「オ、ァァァアアアアアア………!!」

 

 

動きが完全に止められたその隙を逃さず、ユニが飛びあがった。

巨大な銃口から放たれる光線が、アンチモンスターの頭部を消し去る。頭が千切れて生きていられる生物などいない、アンチモンスターはそのまま消滅した。

女神候補生らによる見事な連携が、少しずつだが敵勢力を削っている。

 

 

「チッ……小僧!! やれ!!」

 

「グ……ゥ、ァ、ァアアアアアアアアアアア!!!」

 

「「「「きゃああああああああああああっ!!?」」」」

 

 

そこへ襲い掛かる、白斗の剛腕。

地面に叩きつけられるだけで広がる衝撃波が、女神達を薙ぎ払った。

ブランですら受けきれないその力を他の女神達が耐えきれるはずもなく、全員が地面を転がる。

 

 

「ヴァ……ヴァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」

 

「う、ううっ……!! ……く、白斗……!!」

 

「クソッ、やっぱ……止まってくれねぇ、か!!」

 

「あのパワーも厄介ですけれど……それ以上に、自分自身に苦しんでいますわ……!! 早く何とかしなれば!!」

 

 

マジェコンヌから与えられた指令に応じ、苦しみの末に拳を振るう白斗。

普段の技術もへったくれもない動きだが、その動き一つ一つが凄まじい威力の衝撃波を生み出している。

言うなれば歩く暴風雨。だが、それを振るう度に白斗は苦しみの悲鳴を上げていた。

女神達の焦りも顕著になる。

 

 

「み、皆さん……聞いて、くだ……さい!!」

 

「ネプ……ギア……?」

 

 

まだ地面を這いつくばっていたネプギア、その声に反応したネプテューヌが顔を上げる。

女神化が未だにできないネプテューヌのダメージはかなりのものだが、ネプギアはまだ戦えると言った様子で語り掛けてきた。

 

 

「あの、マジェコンヌが持ってる杖……多分あれがアンチモンスターを……そして、お兄ちゃんを操ってるコントローラーです!!」

 

 

全員がハッとなって、今までを思い返した。

思えば白斗は自ら攻撃することは無い。攻撃する時は、必ずマジェコンヌが命令と共に杖を掲げ、そこから発せられた光を受けて攻撃しているのだ。

ネプギアの言う通り、あれが白斗を操っていると考える方が妥当だろう。

 

 

「と、いうことは……! あの杖を壊したら、白兄ぃは助かるの……!?」

 

「モンスター化はともかく、少なくとも自分から攻撃を仕掛けてこないはず……!」

 

「なら、真っ先に狙うは……あのクソババア、だなっ!!」

 

 

白斗の動きを止められるのならば、十分に狙う価値はある。

真っ先に立ち上がったブランが目の前に光の塊を生み出し―――。

 

 

「ぶっ飛べクソババア!! ゲフェーアリヒシュテルン!!」

 

 

その光の弾を、アックスで撃ち飛ばした。

ブランのパワーが乗せられて迫る光、それを魔女は。

 

 

「チィッ!! 小僧、私を守れっ!!!」

 

「なッ……!?」

 

 

白斗に指令を与え、白斗の剛腕が盾となった。

光の塊は白斗の腕に突き刺さり、弾け飛ばす。だが次の瞬間からは再生が始まっている。

煙を上げていく腕にブランは、愛する人を傷つけてしまった罪悪感で胸が苦しむ。

 

 

「ふぅ……やはり女神は残酷だな、愛する者を平気で攻撃するとは……」

 

「ッ!! アンタがっ!! アンタがお兄ちゃんにさせてるんでしょっ!!!」

 

「だとしても貴様らが傷つけていることに変わりあるまい!!」

 

「……絶対に、許さない……っ!!」

 

 

女神の心を徹底的に破壊しようとマジェコンヌが非道な言葉を言葉を投げかける。

その言葉に今、初めて怒りを感じているホワイトシスターが揃って魔女を睨みつけた。

一方の白斗は、更に苦しみの悲鳴を上げている。

 

 

「グ、ヴ………ゥォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」

 

「っ……!! 白斗………もうやめてぇ!!!」

 

「やめるな小僧!! ここでやめれば、あの男にもっと酷いようにされるのだぞ!?」

 

「ヴ、ォ、ア………アアアアァァアアアアアアアアアア!!!!!」

 

 

余りにも苦し気なその姿に居ても立っても居られなくて、ネプテューヌが悲痛な声を上げた。

けれども、マジェコンヌの一言が煽る恐怖でそれが掻き消されてしまったかのように、白斗は暴れ狂っている。

 

 

「酷いことをしてるのはアンタでしょ!!? もういい加減白斗を解放しなさいよッ!!!」

 

「なら何故この小僧の絶望を理解してやれなかった!!? 貴様らが近くに居ながら、こいつの過去と向き合おうとしなかった!!? それが出来ぬ女神の方が酷いではないか!!」

 

「………ッ!!」

 

 

激昂するノワール、しかしマジェコンヌの一言で歯軋りを隠せなくなってしまう。

今はそんな挑発に乗っている場合ではない、頭では理解できても―――どうしても心が、悲鳴を上げずにはいられない。

あの楽しかった時間、それを少しでも白斗のために費やしていれば結果は違っていたのだろうかと。

 

 

 

(………白斗………っ! 助けてあげられなくて……ごめん、ごめんねっ……!!)

 

 

 

特に一番彼の近くにいたネプテューヌの後悔は深まるばかりだ。

思い当たる節自体は幾らでもあったのに、声を掛けようと思ったことだって何度もあったのに、それをしてこなかった。

白斗に対する罪悪感、自分に対する怒り。それらがネプテューヌの心を掻き乱す。

 

 

「っ!! お姉ちゃん、後ろっ!!」

 

「え………きゃああぁぁぁぁっ!!?」

 

 

だが、その懺悔が命取りとなった。

背後から迫ってくるアンチモンスターに気を配れなかったのだ。ネプギアの叫びも遅く、モンスターの振り下ろされた一撃がネプテューヌの背中を打ち、彼女を盛大に転ばせる。

 

 

「「「ネプテューヌっ!!?」」」

 

「う……げほ、ごほっ……………、っ……!?」

 

 

女神達が思わず声を上げてしまう。

痛みと苦しみでネプテューヌは上手く立ち上がれず、呼吸も困難になった。だがそこへ近づく足音と衝撃、そして大きな影。

寒気を感じ、痛みも忘れて顔を上げるとそこには―――。

 

 

 

「はく、と…………」

 

 

 

モンスター化した白斗が、迫っていた。相も変わらず―――いや、より苦しそうな顔をしてネプテューヌの前に立っていた。

その拳は既に握り締められていて。

 

 

「いい機会だ、小僧!! その女神……いや小娘をその手で潰してやれ!! そうすれば貴様の留飲も多少は下がるだろうなぁ!!?」

 

 

白斗が、彼女に―――ネプテューヌに不快感を覚えているというのか。

でも、思い当たる節だらけだ。こんなにも守ってもらったのに、助けてくれたのに、白斗には何一つしてやれなくて。

―――知らずの内に怒りを覚えていても、寧ろ当然というものだ。

 

 

 

(……私が、死んじゃったら……白斗の気も………少しは晴れる、のかな……?)

 

 

 

ネプテューヌは回避も防御もしない。呆然と、白斗が振り上げる剛腕をただ見つめていた。

ネプギアが、ノワールが、女神達が悲鳴を上げる。急いでネプテューヌを助けようとしているが、アンチモンスターに阻まれてしまっている。

更には彼女にトドメを刺そうと鳥型のアンチモンスターが二体、ネプテューヌの下へと迫っていた。

―――もう、逃げ場はない。逃げようともしない。

 

 

 

「終わりだあああああああああああああああああああああああああッ!!!!!」

 

「ヴァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」

 

 

 

マジェコンヌの一言と共に、白斗が剛腕を振り下ろした。

ゴウ、と風を無理矢理突っ切るその一撃は受ければ女神と言えども跡形も残らない。

全てを砕くその剛腕を、ネプテューヌは見つめていた。

―――ゆっくりとすら感じられる、腕が届くまでの刹那の時間。ネプテューヌは涙ながらに微笑み。

 

 

 

 

 

 

「……白斗、最後まで苦しい思いをさせてゴメンね……。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………でも……大好き、だよ―――」

 

 

 

 

 

 

―――聞こえるか聞こえないかの声で告げられた想い、それは衝撃波と共に広がった轟音に、ネプテューヌ諸共飲み込まれていった。

 

 

 

「お、ねえ、ちゃん………お姉ちゃああああああああああああああああああああん!!?」

 

 

 

衝撃波によって巻き起こる砂塵、そしてその中に消えていったネプテューヌ。突然の悲劇に、ネプギアは泣き叫んだ。

大好きな兄と、大好きな姉が失われた絶望が一気に襲い掛かり、彼女から立ち上がる力を奪い去る。

女神達も現実を受け入れられず、呆けている。

 

 

「……クッ、ククク……アーッハッハッハッハ!! よくやったぞ小僧、これであの男も満足するだろう……さぁ、残る女神共もその手で………―――っ!!?」

 

 

―――マジェコンヌの高笑いは止まった。

やがて晴れ行く砂煙の中、確かに見たのだ。白斗の剛腕は振り下ろされている。そして、砕いている。

大地を、その下敷きになっている―――二体のアンチモンスターを。

 

 

「………は……く……と………?」

 

 

ネプテューヌは、無事だった。

白斗の腕の間でただ座り込み、悲しみに染まっている白斗の顔を見つめていた。

間違いない。彼は、マジェコンヌの命令を振り払い、ネプテューヌをアンチモンスターから守ったのだ。

苦しそうに唸る白斗の顔。彼は、自らの顔を近づけて。

 

 

 

 

 

 

「………ネ、プ……テュ………………ヌ…………」

 

 

 

 

 

―――苦しみの中、微かにその名を呼んだ。

 

 

「は……白斗っ!? ………元に戻っ―――白斗!!?」

 

「グ、ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!?」

 

 

しっかりと彼女の目を見て、彼女の名を呼んだ白斗。

意識が戻った―――ネプテューヌが手を伸ばそうとした時、白斗の機械の心臓から突然電流が溢れ出し、白斗が苦しみだした。

口からはこの世のものとは思えない悲鳴、目からは滝のような涙を流す白斗。

 

 

「小僧ッ、あれほど言っただろう!? 私の命令に背くようなことがあれば心臓から電流が流れると!! 貴様、あの男の仕掛けた玩具で死ぬつもりか!!?」

 

 

どうやら、白斗がマジェコンヌに逆らえないカラクリの仕組みらしい。

命令に背く度に死ぬほどの電流を浴びせられ続けたら、嫌でも従うしかない。

一瞬、そう言い聞かせるマジェコンヌの言葉に妙な“心配”を感じたが、すぐにどうでもよくなった。

今も電流を浴び続ける白斗は、アンチモンスターへと近寄ると―――。

 

 

「グォオオオオ!! オオオオオオオオオオオアアアアアアアアアアアアア!!!!!」

 

「「「「「グギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!?」」」」」

 

 

本来、今の彼にとって味方側であるはずのアンチモンスターを次々と滅多打ちにし始めた。

剛腕で砕き、剛腕でへし折り、剛腕で引きちぎる。

恐ろしくもあった光景だが、ネプテューヌ達にはそれが違って見えた。

 

 

「白斗……まさか、私達を………」

 

「助けようと、してくれてるの……!? お兄ちゃん!!」

 

 

ネプギアからの呼びかけには応じない。いや、応じれない。

当然こんな行動がマジェコンヌの意にそぐうわけもなく、白斗の心臓からはどす黒い電流が未だに迸っていた。

それでも白斗は叫びながらアンチモンスターを屠り続ける。

 

 

「ええい、やめんか!! クソッ、アレを使うしかないのか………!!?」

 

 

このままでは優秀な手駒であるアンチモンスターが全て倒される。

そうなれば戦況は女神達の優位に傾いてしまう。それだけは避けたいとマジェコンヌは己が握る杖を見つめた。

その先に仕込まれた機械、それによってある命令を下すことが出来る―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

『―――いいか、マジェコンヌ。 万が一の場合はこの小僧の心臓を自爆させろ』

 

『は? 自爆……だと……?』

 

 

この作戦に出撃する前、黒原才蔵から告げられたその一言。

渡された杖を眺めていると、自爆などと言う物騒な言葉が飛んできた。さすがのマジェコンヌも目を白黒させる。

 

 

『ああ、このガキの心臓に爆弾を仕込んでおいた。 いざとなれば半径50メートルを巻き込む大爆発を引き起こせられるように、なぁ?』

 

『……仮にも貴様の息子だろう。 いいのか、それで』

 

『親を裏切ったクズなど息子ではない! そんな最低な奴には最低な死に様がお似合いだ』

 

(……そっくりそのまま貴様に返ってきそうだがな)

 

 

一体何度この男に嘆息すればいいのだろうか。

だが、それも今日限りだ。マジェコンヌとワレチューは決めている。例え成功しようが失敗しようが、この男に戻るつもりはもうないと。

 

 

『そういう訳だ。 これで貴様の望みも叶う、私はこの研究データで引き続き香澄の再生実験を行える……素晴らしい助け合いではないか』

 

『…………ああ、そうだな』

 

 

元よりこれが上辺だけでしかないことは、互いが承知している。

黒原才蔵という男は娘である香澄の再生のためだけに全てを費やしてきた。これまでのモンスターを生み出す実験も、娘のための肉体づくりだという。

マジェコンヌも確かにアンチモンスターというこれ以上ない戦力を手に入れられた。もう、互いに気にすることではないだろう。

 

 

 

『しっかしこれはこれでワシの慈悲なのかもしれんな……白斗は幸せだろう、死ぬ時は女神と一緒なのだからな……クヒャーッヒャッハッヒャッヒャァ!!!』

 

 

 

そんな下卑た笑い声が、今もマジェコンヌの脳内にこびりついていた―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………………」

 

 

マジェコンヌは考えていた。

この杖を掲げ、コマンドを下せば白斗の心臓は爆発する。爆発の範囲からして少なくとも四女神は巻き込めるだろう。自身に被害はない。

そして、魔女は―――。

 

 

 

「………好きにしろ」

 

 

 

白斗の行動を、見逃した。

電流までは解除されなかったが、白斗の行動を特に止めるようなこともしない。

まるで暴風雨のように暴れ狂う白斗は、やがて全てのアンチモンスターを撃滅させたのであった。

 

 

「ふん、アンチモンスターが全て死んだか……だが随分お疲れのようだな、女神共?」

 

「……マジェ、コンヌ……!」

 

 

女神達からすれば、知る由もない。ただ、この魔女が許し難い存在であることだけは確か。

マジェコンヌもまた、女神達に対する敵意を解いてはいない。寧ろ増している。

 

 

「些細な戯れもここまでだ。 無力な女神共よ……ここで果てるがいい!!」

 

「黙りなさい!! 早く……早く白兄ぃを返しなさいよッ!!!」

 

「ならば貴様らがさっさと死ねばいいだけだ。 それに返したところで、こいつの絶望を理解してやれなかった無力な女神に、この小僧は救えぬ!!」

 

 

ユニの言葉に耳を貸さず、マジェコンヌが睨み付ける。

一暴れし終えた白斗も、また意識が絶望草に飲み込まれてしまったのかマジェコンヌの下に戻ってしまっている。

今の彼はとにかく心が苦しい状態なのだ。そして投与されたという「絶暴草」をどうにかしない限り―――。

 

 

 

『皆さん、大変お待たせしました!!』

 

 

 

そこへ割り込んできた、待ちに待った声。イストワールだ。

緊急用の回線を開けば、彼女の顔でディスプレイいっぱいになって映し出される。

 

 

『白斗さんを救う方法が見つかりました!!』

 

「いーすん!! それホント!!?」

 

『はい、絶暴草を打ち消す薬草がありました! それを摂取させれば解決します!!』

 

「なるほど……目には目を、薬草には薬草をというワケですわね!! それでどんな薬草を探せばいいんですの!?」

 

 

しかも、白斗を救うための薬草が分かったというのだ。

これを聞いて希望を抱かずにはいられるだろうか。

ベールも愛槍を握る力を込め、今までよりもしっかりとその切っ先を向けていた。だが問題は探すべき薬草が何なのかだ。

 

 

『はい、それは“希望の花・フリージア”です!!』

 

「ねぷっ!? 何なのその名前!? 団長が死んじゃったりしない!!?」

 

『死にません。 他の世界でも咲いている花らしいのですが、このゲイムギョウ界に咲くフリージアは特別で絶暴草を打ち消すことが出来る薬草でもあるのです!!』

 

 

我々の世界に咲くフリージアと、この世界のフリージアが違う辺りさすがはゲイムギョウ界だろうか。

兎にも角にも、薬草の名前も判明している。これで後はそれを採取さえ出来れば、白斗を救うことが出来る。居てもたってもいられず、ノワールとブランが問いかけてきた。

 

 

「それでイストワール!! そのフリージアはどこに咲いてるの!?」

 

「私達が今すぐにでも見つけ出してやらぁ!!」

 

 

希望を見つけともなれば、先程までの重苦しい空気も吹き飛んでいる。

幾らでも武器を振るえる、幾らでも攻撃を受けられる、幾らでも飛んでいける。

そんな高揚感の中、返ってきた答えは。

 

 

『このフリージアですが、どうやらリーンボックスのノドカーナ山に生えているらしいのです』

 

「……え?」

 

 

その言葉に、真っ先に反応したのはベールだ。

だがその顔には希望はない。―――絶望が刻まれていた。

 

 

「お、お待ちください……まし……。 ノドカーナ山、は……先日、山火事に……あって……」

 

「「「「あっ!?」」」」

 

 

そう、それは三日前の事。ベールから齎された情報でもあった。

以前白斗達と共にキャンプしたノドカーナ山が、大規模な山火事にあったのだと。放火の可能性も疑われたため、白斗の心の整理も兼ねて三日前に女神達全員で近隣の山にまで向かった。

それがあの悲劇の引き金になってしまったのだ。

 

 

「ちょ、ちょっと待ってよ……それじゃ、そのお花は……燃え、ちゃった……ってコト……?」

 

「お兄ちゃん……助け、られない……の………?」

 

 

あの希望に湧きたつ雰囲気が、一瞬にして消し飛ばされてしまった。

ロムとラムも、思わず瞳から涙が流れてしまう。

 

 

「―――ッ!! ってことは……あの山火事はッ!!?」

 

「今頃気付いてももう遅い。 絶暴草を用いるのに、その対策もしていないとでも思ったのか」

 

 

ようやく、気づいた。気付いてしまった。

振り返ってノワールが睨み付けるが、明らかに愚か者を見るような目で見返してきたマジェコンヌ。

あの山火事も、全ては対抗策となるフリージアを焼き払うために行われたものなのだ。近隣の山を焼いたのも、念のためという意味合いもあったのだろう。

 

 

「分かったか!! 貴様らに咲く希望などありはしない!! お前達はどうやっても、小僧一人救うどころか絶望に叩き落すことしか出来ない、最低の女神共だ!!!」

 

 

女神達は茫然自失となってしまう。黙って、その言葉を受け入れていた。

一人、また一人がガクリと膝を付く。顔面蒼白で、静かに涙を流しながら。

白斗を救う手段は、もう無い――――。

 

 

 

 

 

『―――そう思っていたのでしょうね。 でも、たった一輪だけ……希望があったんですよ』

 

「……なんだと?」

 

 

 

 

すると、イストワールだけは慌てていなかった。

怪訝そうに眉を顰めるマジェコンヌ。見ようによっては得意げにも見える。

そうだ、思えばイストワールならばノドカーナ山の山火事くらい知っていたはずだ。にも拘らず、何故のこのことそれを伝えてきたのか。

―――さらにその絶望的雰囲気を切り裂くような、タイヤのスキール音がこの森の中に響き渡る。

 

 

「ネプ子ぉおおおおお――――――っ!!」

 

「ねぷねぷ!! 女神さん達!! 大丈夫ですか~~~~~!!?」

 

「あいちゃん………こんぱ………?」

 

 

それはバイクでここまで駆けつけてきた、ネプテューヌの親友。アイエフとコンパだ。

何かあった時のために待機しているといった二人が、何故ここに来ているのか。

まさに、何かあったのだろう。コンパの手には、ネプテューヌにとって見覚えのあるものが抱えられていた。

 

 

 

 

 

―――それは、白斗から贈られ、そして今日まで大切に育ててきた、名もなき一輪の花。

 

 

 

 

 

 

 

『そう、ネプテューヌさんが育てていたその花こそ………フリージアなんです!!』

 

「な、な、な………何だとォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!?」

 

 

 

 

 

 

―――咲いていた。希望の花は、今日も元気に、凛と咲いていた。

ネプテューヌが、女神達が顔を見上げる。

綺麗な紫色の花が、綺麗な花弁を咲かせて輝いていた。女神達を―――そして白斗を救うために。

 

 

「ば、馬鹿なッ!? 何故その花が……まだ咲いているッ!!?」

 

『これはあの山火事が起こる前、白斗さんがリーンボックスで見つけ、そしてネプテューヌさんのためにと思って取ってきた花……だから無事だったんですっ!!』

 

 

マジェコンヌが焦るのも無理もない。こうならないために山火事を起こしたのだから。

しかし、この花は白斗が各国へ旅行に行った際に見つけたもの。

ベールも思い返す、あの一幕。あんなさり気ないやり取りが、白斗の想いが、今―――花開いたのだ。

 

 

「こ、こんな………こんな……ご都合主義があってたまるかあああああああああああッ!!?」

 

『ご都合主義などではありません!! これは白斗さんがネプテューヌさんのためを思って贈り……ネプテューヌさんが白斗さんのためを思って育て続けてきた花!! その二人の想いが成し得た“奇跡”なんです!!!』

 

 

そう、まさに奇跡。

―――もし白斗がこの花を見つけていなかったら?もしネプテューヌがこの花の世話を怠っていたら?もし二人がこの花を気に入っていなかったら?

どれか一つでもあれば、きっとこの奇跡は無かっただろう。それだけは、確かだ。

 

 

『ネプテューヌさん。 このフリージアですが……ゲイムギョウ界では“希望”ともう一つ、花言葉をがあるのをご存じですか?』

 

「花……言葉……?」

 

『―――“あなたのために”、です』

 

 

―――それを聞いた瞬間、ネプテューヌが一筋の涙を流した。

温かな想いが、心を縛る絶望を溶かしていく。

 

 

『白斗さんは貴女のためを想ってこの花を贈ってくれました。 ……今度は、ネプテューヌさんの番です。 ネプテューヌさんが、白斗さんのためにこの花を届ける番です!!』

 

 

きっと、白斗は花言葉なんて知らなかったのだろう。

だというのに、彼があの日見つけてきた花がこんな奇跡を生み出してくれた。白斗の想いがあったから、彼を助けられる。

そして、その花を今日まで育ててきたのは他ならぬ彼女―――ネプテューヌだと知った時、彼女の中で光が巻き起こる。

 

 

 

 

(……そうだ。 白斗のために……大好きな人のために!! 私がやらなきゃ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………なるんだ、白斗のために。 私が、大好きな人の―――白斗の女神様に………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――Will Be Venus(女神になる )!!!)

 

 

 

 

 

 

 

―――温かく、優しい光がネプテューヌを包み込んだ。

この世界に流れる信仰心、シェアエネルギー。それはこのゲイムギョウ界を守るため、女神の力と源となるもの。

その光が晴れた時、一人の女神が降臨した。

 

 

 

 

「―――女神パープルハート、降臨」

 

「お、お姉ちゃん……女神化できるようになったんだね!!」

 

 

 

 

 

女神化を果たしたネプテューヌだった。

今日まで、白斗を救えなかったトラウマで女神化を恐れていた彼女が今、白斗の想いに触れ、そのトラウマを振り切って見せたのだ。

凛とした佇まい、どこまでも透き通った青い瞳、優しい紫色の髪、万人を虜にする美貌。

誰もが認める女神様だった。

 

 

「……ごめんなさい、白斗。 今までずっと、苦しい思いをさせてしまって………」

 

「グ、ゥウウウウウウウウウウウウウウウウウウ…………」

 

 

仲間達に声を掛けるまでもなく、マジェコンヌを睨むでもなく、真っ先に愛する人に声を掛けた。

どこまでも真っ直ぐな瞳で見つめれば、巨人と化してしまった白斗もたじろぐ。

彼はまだ苦しそうだ。だからこそ、助け出さなければならない。

 

 

 

 

「でも、もう大丈夫よ。 ―――私が、私達が!! ずっと一緒だから!!!」

 

 

 

 

―――ウィングを展開し、戦闘態勢に入った。

白斗を救うために覚悟を決めた守護女神、パープルハートの言葉と眼差しはどこまでも真っ直ぐで、どこまでも力強い。

マジェコンヌすらも、一瞬だけ恐れ、怯んでしまった。

 

 

「―――ッ!! な、ならば……先にその花を焼き尽くすまでだッ!!」

 

「きゃ……!?」

 

 

こうなれば、マジェコンヌのやることなど一つしかない。

白斗を元に戻し得るフリージアを排除する、そのために杖を掲げ、光弾を打ち出した。それを抱えているのはコンパ、そしてアイエフ。

当然彼女達が攻撃の標的となり―――。

 

 

「させないわ!! でやああああああああああああああああああああっ!!!」

 

「なッ……!?」

 

 

パープルハートの一閃が、光弾を切り裂いた。

分かたれた光弾は二人にも、フリージアにも当たることなく飛び続け、遥か後方で大爆発を起こす。

あの日、もしシェアエネルギーが万全ならこうなっていた。白斗を助けられた。

後悔もあるが、確信もある。―――今なら、白斗を助けられると。

 

 

「……こんぱ、あいちゃん。 本当にありがとう。 後は任せて頂戴」

 

「―――ええ!! 白斗の事、頼んだわよネプ子!!」

 

「今のねぷねぷなら大丈夫です! だから……お願いするです!!」

 

 

二人からの激励、そしてコンパからフリージアの花を受け取る。

今日まで咲いてくれて、本当にありがとう―――。多大な感謝と、少しばかりの惜別を込めて、ネプテューヌは鉢植えからフリージアの花を引き抜いた。

 

 

「ふん!! 例えフリージアの花が渡ろうとも、それだけで本当にこの小僧を救えると思っているのか!?」

 

「………どういうことかしら?」

 

「そのフリージアを1とするなら……この小僧に投与された絶暴草の量は100!! 圧倒的に量が足りないのだ!! それで救えるわけがないだろう!!!」

 

 

なるほど、確かにその通りかもしれない。

量だけならば、たった一本のフリージアではどうすることも出来ないかもしれない。

突き付けられたその事実に、女神達は押し黙りそうになってしまう。―――ネプテューヌを除いては。

 

 

「―――でも、希望はあるわ」

 

「何だと……!?」

 

「白斗をあんな姿に変えているのは彼の心の中に絶望があるから。 例え一瞬だけでもいい、フリージアの効力が効いている間に……絶望を打ち消せばいい!!」

 

 

力強き女神の言葉が、他の女神達に希望を取り戻させた。

イストワールが言っていた、絶暴草を大量に投与しても基本変わるのは持続時間だけだと。白斗があんな姿になってしまったのは、それだけ強い絶望を抱えているからだと。

―――だからこそ、その絶望を打ち消す。ネプテューヌは、そのつもりだった。

 

 

「簡単に言うなよ小娘がァ!! そんな事出来るわけがないだろうがぁ!!!」

 

「出来る出来ないの問題じゃない、やるの。 ―――私は、白斗の女神だから!!!」 

 

 

どれほどの絶望を抱えているのか、確かにネプテューヌは知らない。だがそれが出来ないという理由にもならない。

今の彼女は、“成し遂げる”―――それしか頭になかった。白斗のために、幾らだって奇跡を成し遂げる覚悟。それが女神パープルハートだった。

 

 

「………白斗の女神? 貴女だけ勝手なコト、言わないで欲しいわね……!」

 

「全くだ。 ……私だって、白斗の女神なんだ……」

 

「愛する人を守るのは貴女だけではありませんわ。 ……私達全員で、お助けします!!」

 

 

そして、そんな彼女に触発されてノワール、ブラン、ベールも立ち上がる。

彼女達もまた女神。何より白斗を愛する少女達なのだ。

だから、ネプテューヌに負けない覚悟を見せる。全員で、何度でも奇跡を起こす覚悟を。

 

 

(……やっぱり、凄いよお姉ちゃんは……。 私なんかじゃ、まだまだ追いつけない……最高の女神様だよ!!)

 

 

一気に絶望を振り払い、仲間達にも希望を与えた。

その光景を目の当たりにしたネプギアは、近かった姉が一気に天高く飛び上がってしまったような気がした。でも、誇らしかった。

希望と言う名の大空に舞い上がっている彼女は神々しくて、美しく見える。それがネプギアにとっての誇り。

 

 

「……だったら、私は……私に出来ることをします!! スラッシュウェーブ!!」

 

「何ッ!?」

 

 

同時にもう、ただ見つめているだけの少女でもなかった。

そんな姉に追いつきたい、そして白斗を守りたい。そのために出来ることを全力でする。

今の彼女にできること、それはこれ以上マジェコンヌの横槍を許さないこと。

鋭く振り払った刃が、地を這う斬撃を見舞った。

彼女の意図を察してか、女神候補生達が一斉にマジェコンヌを取り囲む。

 

 

「お姉ちゃん!! マジェコンヌは私達が引き受けます!!」

 

「だからその間に白兄ぃをお願い!!」

 

「それに……お兄ちゃんをイジメた奴には、てんちゅーを下さなきゃ!!」

 

「……お兄ちゃんのために!! あなたを……倒す!!」

 

 

もう邪魔をするアンチモンスターもいない。

幾ら候補生という肩書があれど、それはもう肩書のみの話。その力は、そして覚悟は。誰もが認める女神だった。

 

 

「キサマら……ッ!! 候補生の分際で……私を愚弄するなああああああああっ!!!」

 

 

現役守護女神でもない彼女達に相手どられるというのが、マジェコンヌにとっては屈辱だったらしい。

怒りで魔力を漲らせ、辺りの空気を震わせる。例えアンチモンスターや白斗の手を借りずとも、マジェコンヌ自身にはそれだけの力があった。

けれども、女神候補生達は揺らがない。恐れもしなかった。

 

 

「ネプギア……ユニちゃん……ロムちゃんにラムちゃんも……。 ええ、任せて!!」

 

 

フリージアを手に、ネプテューヌが飛び上がる。

巨人化した白斗は攻撃力こそ一撃必殺だが、反応速度や動きそのものは鈍いの一言。今のネプテューヌならば、一気に接近できる。

 

 

「舐めるなああああああああ!!! コード・テンタクルぅううううううううううッ!!!!!」

 

「っ!? まだいたの!!?」

 

 

するとマジェコンヌの呼びかけに応じ、地面から何十本と言うコード状の触手が地面を突き破ってきた。

あの時、ネプテューヌ達を捕らえた忌々しきアンチモンスター。だがその数は以前ほどの比ではない。触手が群がって白斗への道を塞ぐ。このままでは近づけない。

 

 

「……ユニ達ったら頼もしくなっちゃって。 なら、私達は!!」

 

「妹達の信頼に……何より、白斗の想いに応えなきゃなぁッ!!!」

 

「ですわね!! ネプテューヌ、私達が道を切り開きますわ!!」

 

「おっと、私も忘れないで!! ……ネプ子、バッチリ決めてきなさい!!」

 

「私だって……白斗さんをお助けするです~~~~!!」

 

 

ノワール達三女神、そしてアイエフとコンパが名乗りを上げてくれた。

各々の武器を手に、コード・テンタクルへと立ち向かう。

ならば、ネプテューヌが掛けるべき言葉は心配の言葉などではなく。

 

 

「―――皆、ありがとう!! さぁ、行くわよ!!!」

 

「「「「「「「「「おう!!!」」」」」」」」」

 

 

感謝と、信頼の言葉だった。

それを皮切りに、女神達が立ち向かっていく。

触手に、魔女に、そして白斗を飲み込もうとしている絶望に。

 

 

「邪魔よっ!! トルネードソード!!!」

 

 

漆黒の女神による竜巻の如き斬撃が、道を阻む触手を切り裂いていく。

 

 

「テンツェリントロンベ!! はあぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 

巨大な斧を手にした純白の女神による怒涛の舞が、触手を刈り取る。

 

 

「お退きなさい!! レイニーラトナピュラ!!!」

 

 

深緑の女神にによる、美しき槍舞が触手の壁に次々と穴をあけていく。

コード・テンタクルはアンチモンスターだ。女神の攻撃に対して抵抗があり、何よりも女神の力を削ぎ落としていく。

そのはずなのに―――今の女神達の攻撃には、まるで無力だった。

 

 

「な……何だ!? 何が起こっているのだ!!?」

 

「よそ見してるんじゃないわよ!! アイスハンマー!!!」

 

「うおおおぉぉぉっ!!?」

 

 

以前、女神を完全に封じたコード・テンタクルが全く障害として役に立っていない。

マジェコンヌが思わず目を向けた隙にラムが飛びかかってきた。ステッキの先に巨大な氷塊を纏わせ、相手を殴りつける大技。その姿はまさに、大好きな姉そのもの。

さすがに受けられはしないと急いでマジェコンヌは飛びのく。

 

 

「く………小僧ッ!! こっちへ援護――――」

 

 

マジェコンヌは想像以上の苦戦を強いられていた。

四対一であることは勿論だが、何より一人一人の力量が凄まじいのだ。彼女達を完全に侮っていた。

ならばと白斗を呼び寄せようと杖を掲げ―――。

 

 

 

(―――今だっ!! 白兄ぃ……アタシに、力を!!!)

 

 

 

その瞬間を見逃さなかった者が一人。ブラックシスター・ユニだ。

彼女がブラスターを構え、照準を定める。この間、一秒にも満たない刹那の時。

絶対に外せないという像絶なる重圧が掛かっている―――そのはずなのに、ユニは不思議と落ち着いていた。

 

 

 

―――……照準がブレる原因は、肘が上がり過ぎてるんだ―――

 

 

 

何故なら、今彼女の体を支えてくれているのは他ならぬ白斗だから。

あの日、白斗から教えて貰った全てが彼女の中で生きている。彼女の力になっている。

その力で大好きな人を―――白斗を助けられる。

 

 

 

―――動くな! それから腰も浮かせすぎ、肩の力は抜いてこの位置に……―――

 

 

 

あの日の言葉が、あの日の感触が、あの日の温もりが。

ユニの姿勢を正していく。呼吸は安定し、銃口のブレも無くなる。

気を練り合わせ、最も充実した瞬間―――。

 

 

 

―――その姿勢を維持! 撃て!!―――

 

「はいっ!! ―――やああぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 

 

引き金を、引いた。

狙撃モードとなったブラスターから撃ち出されたのは、鋭く細いエネルギー弾。貫通力と弾速を極限まで引き上げた、必殺必中の一撃。

それは鋭く空を掛けぬて行き―――。

 

 

「ぐ、アッ!!?」

 

(……当たった。 白兄ぃ……当たったよ……!!)

 

 

マジェコンヌの杖を、弾き飛ばした。

これでもう、白斗に指令は下せない。白斗を苦しめさせない。

確かな成長と、そして白斗への確かな想いを感じられたユニは戦いの最中であるにも拘らず、涙を零した。

 

 

「く―――!!」

 

 

あの杖が無ければ、白斗を操ることが出来ない。

何とか手中に取り戻そうとマジェコンヌが手を伸ばすが。

 

 

「逃がさない!! お姉ちゃん直伝……エターナルフォースブリザード!!!」

 

「ぐオ………!!?」

 

 

ロムが放った氷結魔法が、マジェコンヌを縛った。

一瞬にして空中の水分を氷結させ、巨大な氷塊の中にマジェコンヌの下半身と左腕を閉じ込めたのだ。

マジェコンヌが見下ろした先にいたのは、誰かに守られるだけの幼い少女ではない。誰かを守れる女神、ホワイトシスター・ロムだった。

 

 

 

「く、そっ……!! 私が……この、私が―――――ッ!!!」

 

「そう。 ―――貴女の負けです」

 

 

 

それを待っていたかのように、ネプギアが静かに剣の切っ先を向けていた。

剣は彼女の意思に応え、銃口へと変形する。

持てるだけのシェアエネルギーが全て集まり――――。

 

 

 

 

「これが、私達女神の力!! ―――M・P・B・L(マルチプルビームランチャー)!!!」

 

 

 

 

 

―――極限の光となって、マジェコンヌを飲み込み、ゲイムギョウ界の空を貫いた。

 

 

 

 

 

「こ、こんな……馬鹿なああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ……………!!!」

 

 

 

 

 

マジェコンヌの姿と絶叫は、光の奔流に飲み込まれ、消えていった―――。

 

 

 

 

 

 

「……お姉ちゃん、お兄ちゃん。 私達……やったよ……!!」

 

 

 

 

 

今ので全てを使い果たしてしまったのか、女神化は解け、力なく座り込む。

ネプギアだけではない。ユニも、ロムも、ラムも。

けれども仇敵をこの手で倒した、確かな実感がその手と胸の中にある。

一つの決着を背に、ネプギア達女神候補生は女神として、新たな一歩を踏み出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――そして、魔女との決着がつく、ほんの少し前。

 

 

 

 

 

 

「じゃ、邪魔しないでくださいです~~~~!! 白斗さ~~~~~ん!!!」

 

 

 

 

必死になって注射器を振るうコンパ。彼女は決して前衛職では無かった。寧ろ後方支援担当である。

だが、例え接近戦が振りであろうと、アンチモンスターが相手であろうと、恐怖が沸き上がろうとコンパは止まることだけはしなかった。

何故ならその先にはあの日、助けられなかった大好きな人がいるのだから。

 

 

「切り裂くッ!! 天魔流星斬ッッッ!!」

 

 

アイエフによる美しくも激しい斬撃の嵐が、コード・テンタクルを引き裂いていく。

向こうで苦しんでいる、愛する人目掛けてひたすらに刃を振るう、振るう、振るう。

彼女達だけではない、女神達も己の全てを振り絞り、力に変えてコード・テンタクルを切り裂き、刈り取り、貫いていく。

 

 

「ぜえええええええいっ!! ……よし、見えた!! ネプ子!!!」

 

「行くです~~~!!」

 

「ええ、任せてっ!!!」

 

 

ついに粗方のコード・テンタクルを切り払い、白斗への道が開けた。

もう止まる理由など無い、親友二人の声を受け、ネプテューヌが今度こそウィングを展開し、白斗目掛けて飛んでいく。

 

 

 

(白斗……白斗!! 白斗ぉ!!!)

 

 

 

高速で空を駆け抜け、まだ伸びてくる触手はきりもみしながら回避し、時には太刀で切り裂く。

美しき紫の流星を止めることは誰にもできない。

そしてとうとう目の前にまで迫った白斗の顔。ネプテューヌは手にしたフリージアを“自らの口に”含むと―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――白斗の頬に優しく手を添え、唇を重ねた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「んっ…………」

 

「………………ッッッ!!?」

 

 

 

 

 

 

一瞬何をされたのか、白斗は分からなかった。

ただ、優しくて柔らかいその唇を拒むことが出来なかった。やがてフリージアの花が、口移しで白斗の口へと流し込まれる。

ごくり、と勢いのまま飲み込んだ。すると―――。

 

 

 

 

「ォ、ァ……ぁ………………お、れ―――――」

 

 

 

 

今までと違う反応が、返ってきた。

苦しみに呻いた、化け物の声などではない。済んだ人間の声色に戻っている。

濁り切った瞳も徐々に透き通っていき、ハッキリとネプテューヌの姿を捉えた。

 

 

 

「…………白斗、ずっと傍に居るわ。 だからもう、怖がらないで―――」

 

 

 

そしてネプテューヌが優しく抱きしめてくれた。

彼女の想いが伝わってくる。それが、絶望に囚われた白斗の心を溶かしていく。

 

 

 

 

 

 

 

(……………ぁ………お、れ……俺―――…………。 ……ネプテューヌ………こんな俺でも……受け入れて、くれるのか……? それに、皆も……俺を………)

 

 

 

 

 

 

心からの優しい微笑みが、白斗の脳裏に焼き付いていく。手を差し伸べてくれる。

その手に引き上げられて、ようやく心の奥底から浮き上がってくる、“本来の白斗”。彼がその目で周りを見渡せば、皆が白斗の帰りを心から望んでいた。

 

 

「白斗!! お願い……戻ってきて!!」

 

「お前がいてくれなきゃイヤなんだ……お前じゃなきゃダメなんだ!!」

 

「白ちゃん……お願い、戻ってきて!! ずっと一緒に居てください!!!」

 

 

三女神達の、熱い想い。

 

 

「お兄ちゃん! お兄ちゃんっ!! 私達もいるよ!!」

 

「見て白兄ぃ!! 白兄ぃのお蔭で女神になれたのよ!! なのに白兄ぃがいてくれなきゃ……イヤなの……!!」

 

「お兄ちゃん!! これからわたし達が、お兄ちゃんを守るよ!! だから……!!」

 

「ずっと……ずっと一緒にいて、お兄ちゃん……!!」

 

 

女神候補生達の、温かな眼差し。

 

 

「白斗!! 私だっているわ!! もうアンタは一人じゃないの!!!」

 

「ずっと、ず~~~っと支えるです!!」

 

『ボクもだよ!! まだ、まだ白斗君と歌っていたい……これからもずっと!!」

 

『白斗さん……私達は貴方を……絶対に離しません!!』

 

『白斗君、もう苦しまなくていいよ!! 今度は私達が、貴方の苦しみを受け止めるから!!』

 

 

アイエフにコンパ、ツネミと5pb.、そして居てもたってもいられず回線を開いていたマーベラス達の必死の声。

皆、白斗を愛している者達だ。そんな彼女達の全てが、白斗の心に確かな温もりを齎した。

どくん、どくんと胸が熱くなり、その瞳からは一筋の温かい涙が零れ落ち―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………あり………が、と―――……………」

 

 

 

 

 

 

 

 

苦しげな表情は和らぎ、白斗はようやく笑顔を見せてくれた。

瞬間、体中から緑色の煙が吹き上がり、白斗の体が縮んでいく。その間もネプテューヌは白斗を抱きしめ続け、決して離さなかった。

やがて、白斗の体は元の体に戻り―――愛しい女神の腕の中で、安らかに眠っていた。

 

 

 

「…………お帰り、白斗…………お帰りなさい………!!」

 

 

 

そしてネプテューヌもまた、その腕の中で愛しい人を抱きしめていた。

腕の中にいたのは戦い疲れて眠っている、一人の少年。

やっと取り戻せたその愛しい姿に、ネプテューヌの瞳から涙が溢れ出し、白斗へと滴り落ちていく。

 

 

「は、く……と………白斗おおぉぉぉ――――っ!!!」

 

「ったく……心配……掛け、させるんじゃ………ねぇよぉ!!!」

 

「もう……離れちゃダメですわよ、白ちゃん……白ちゃんっ……!!!」

 

 

三女神達も感極まって白斗へと飛びついていく。

余りにも傷つき、余りにも疲れ切った愛しい人を労わるかのように誰もが涙しながらも心からの笑顔を向けている。

女神達もまた、彼の姿を見て救われた気持ちになっていた。

 

 

「お兄ちゃん……お兄ちゃあああああああああああん!!!」

 

「白、兄ぃ……う、うあああああああああああああん!! 白兄ぃぃいいいいいいいい!!!」

 

「お兄ちゃんっ!!! もう、離れちゃ……ダメ、なんだからあああああああああああ!!!」

 

「お兄ちゃん……良かった………うええぇぇ~~~ん……!!」

 

 

彼を兄として慕う女神候補生達も一気に抱き着いた。

ようやく女神化を果たしたとはいえ、まだまだ精神的には幼い少女達。愛する人の帰還に、とうとう涙腺が崩壊した。

この数日間、何度泣いた分からない。でも、今までで一番温かい涙だった。

 

 

「ぐすっ……白斗さん……良がっだでずぅ~~~~」

 

「うん……うんっ!!」

 

『白斗君……白斗君っ……!! う、うわああああああああああん!!!』

 

『はくと……さんっ……!! お帰りなさい……!!!』

 

『良かった……良かったよぉ……!! ボク……ボク……!!』

 

 

コンパとアイエフ、そして通信からその様子を見ていたマーベラスにツネミ、5pb.も泣き出してしまう。

つい先程まで感じていた絶望も、白斗がいるだけで吹き飛ばされる。

皆、それだけ白斗の事を愛していたのだ。傍に居ないだけで絶望するほどに、傍に居るだけで幸せになれるほどに。

 

 

「って言うかネプテューヌゥ!!! アンタ何どさくさに紛れて白斗にキスしてるのよぉ!!?」

 

「私の想いなら白斗の絶望を消せるかなって。 事実そうだったんだし……これはもう両想い、私のルートで確定ね」

 

「確定って何ですの!? この白ちゃん争奪戦は私のルートで固定されてますのよ!!?」

 

「馬鹿なこと言ってんじゃねぇ!! とにかくこのままじゃ白斗が心配だ、ルウィーへ連れて帰るぞ!!」

 

「ってブランさん何さり気なく自国へ持ち帰ろうとしてるんですかー!!?」

 

「……全く、ネプ子達ったら……。 後、白斗は渡さないんだから―――っ!!!」

 

「あいちゃんまで!? まずは白斗さんを治療しなきゃです~~~!!!」

 

 

そしていつの間にか、白斗争奪戦が巻き起こっている。

呆れるアイエフ達だが、これでようやくあの愛しかった日常が戻る―――誰もがそう確信した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――だが、まだ終わっていなかった。白斗の“絶望”は―――。




サブタイの元ネタ「新次元ゲイムネプテューヌVⅡ」より女神化BGM「Will Be Venus」


大変お待たせしました。そしてここまで読んでいただきありがとうございます。
ついに白斗救出。本当に長かった……。
今回の話はこのLOVE&HEARTの中でも盛り上げるべき部分なので頑張りました。作中やタイトルにもある通り、あのBGMを流してもう一度ご覧いただけるときっと私の執筆中のテンションが分かっていただけるかと。
因みに「Will Be Venus」は私が一番好きなBGMです。イヤ、これ流れると毎度鳥肌たまらない……今後のねぷのゲームにも是非使っていただきたいですね。
ですが、まだ終わりではない。次回からある意味本番。―――次回、白斗の過去のお話になります。お楽しみに。
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