恋次元ゲイムネプテューヌ LOVE&HEART   作:カスケード

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第四十二話 ぽやぽや女神と復讐の果実

(………んん? ここは……そっか、病院か……)

 

 

夢から覚めた白斗がまず見たもの、それは清潔感溢れる部屋の天井だ。

温かな日差しと柔らかな風が窓から心地よさとなって入ってくる。

つい昨日、精神世界にダイブしてきたネプテューヌ達の手によって白斗は己の絶望からようやく抜け出し、喜ばれたものの気疲れから再び眠ってしまっていた。

 

 

(―――ああ、心が軽いなぁ……これも皆のお蔭……)

 

 

夢の中で白斗は、この上ない開放感に包まれていた。

今まで眠れば高確率で悪夢を見ていた白斗。だが、それももう無い。

自分を縛る絶望から解き放たれた白斗は、重い鎧を脱ぎ捨てたかのような軽さを覚え―――

 

 

 

―――ずしっ。

 

 

 

 

(……いや待て。 何だか妙な重量感が……何かが俺の上に乗ってる?)

 

 

 

 

と、思いきや。腹部辺りに何かが乗っているような感触が。

しかも可愛らしい寝息が二つも。何とか上半身を起こしてみると、その正体が分かった。

 

 

「くー……すー……」

 

「何だ、ピーシェか。 ……まぁ、この子はいいとして」

 

 

一人はピーシェ。もう一緒に暮らすようになってから二ヶ月以上は立つ、黄色と元気が特徴の幼き少女。

そしてもう一人は―――。

 

 

 

 

 

 

 

「すや~………すぴ~………」

 

「………Who are you?」

 

 

 

 

 

 

 

見知らぬ、紫色の少女だった。

何とも緩い雰囲気と柔らかな寝息、そして可愛らしい顔。三つ編みポニーテールでありながらふんわりとした紫色の髪。

服装も緩く、極めつけは履物がスリッパ。病院指定のものではないということは、ここまでそのスリッパで歩いてきたということ。

―――可愛らしい美少女、しかし白斗にはとんと覚えのない美少女、どこから来たのかも分からない美少女。

 

 

「……そうか、俺が部屋を間違えたんだな。 そうなんだな? でないとバレた瞬間社会的な死を迎えちまうぞ!? 早く脱出せねば……!!」

 

 

病人が何をほざいているのだろうか。久々に自由になれてタガが外れてしまったのだろうか。

とにかく余計な誤解を生まないためにもいち早く離脱を選択―――。

 

 

「白斗~!! ネプ子さんがお見舞いにログインしましたよ……って、ねぷっ!!?」

 

「あ、詰んだ」

 

 

フラグは回収されてナンボ。

ばーん、と勢いよく開け放たれたドアの向こうにプラネテューヌの女神様、ネプテューヌが今日も元気な笑顔を見せてくれた。

―――のだが、自分の上で寝ている紫の少女を見た瞬間、空気が凍り付く。白斗はここで彼の冒険が終わってしまったことを悟り。

 

 

「んもーっ!! ぷるるんってば何白斗の上でお昼寝しちゃってるのー!!?」

 

「え? ぷるるん? 知り合い?」

 

 

かと思えば女神様は見放していなかった。

怒りは白斗にではなく、その上で眠る少女に向けられていた。しかもしっかりと名前を呼んでいる辺り、どうやら知り合いらしい。

 

 

 

 

「ん~………んん~………? ……あ~、ねぷちゃんだ~。 おはよ~」

 

 

 

 

そんな彼女の騒がしさに起こされたらしい、少女が眠たげな眼をこすりながら起き上がった。

やはり緩い言葉遣いと雰囲気のまま、気の抜けた挨拶をする。

白斗は声を聴いているだけで毒気を抜かれてしまうような、そんな緩さと魅力を感じていた。

 

 

「おはよー、じゃなーい! ピー子はともかく何羨ましいことしちゃってるのさー!!」

 

「ごめんね~。 急に眠くなっちゃったし、温かそうだったからつい~」

 

「つい、じゃありませーん! 人のものをとったらドロボウ! ポシェモンの常識だよ!」

 

「ほぇ~? 白くんって、ねぷちゃんのポシェモンだったんだ~」

 

「いや俺人間ですから。 ってか白くんって……」

 

 

つい先日まで絶望だの何だので凄まじく重い雰囲気を纏っていたというのに、そんなものなど無かったと言わんばかりのこの雰囲気。

ぷるるん、と呼ばれた少女はドのつく天然だったらしく、ネプテューヌのボケを真に受けてしまっていた。

そんな彼女にツッコミを入れてしまう辺り、白斗も相当毒されている。

 

 

「あ~、白くんも起きてたんだね~。 おはよ~ございま~す」

 

「お、おはようございます……。 で…………どちら様ですか?」

 

 

余りの緩さについつい流されてしまっていたが、何度も言うように白斗はこの少女に覚えがない。

にも拘らず、少女はこちらの事を知っているようであり、しかも「白くん」と愛称で呼んでいた。ネプテューヌのことも「ねぷちゃん」と呼んでいることから彼女特有の愛称らしいが、そこまで親密な関係なのだろうか。

とりあえず何もかも解せないでいると、ようやく騒ぎに気付いたピーシェも起きて。

 

 

「ん、んー……ふぁ~……あ! おにーちゃん、ねぷてぬ、ぷるると! おはよー!!」

 

「お、おうピーシェ。 おはようさ………ん? “ぷるると”……?」

 

 

目覚めて一番にピーシェは元気よく挨拶をしてくれる。

いい子だと頭を撫でようとした時、とある一部分に引っかかりを覚えた。「ぷるると」、それはどこかで聞いたことのあるフレーズ。

というよりも、ピーシェ本人が嘗て言っていた―――。

 

 

 

 

 

「あ~、自己紹介がまだだったね~。 あたしはプルルート~。 プラネテューヌっていう国の女神なんだ~。 よろしくね~」

 

 

 

 

 

緩い喋り方と、ふんわりとした笑顔を向けてくれる少女、プルルート。

その包み込むような柔らかさはまさに女神のようだった。

白斗もその雰囲気に包まれて一瞬思考が停止してしまう。が、更にあるワンフレーズに衝撃を覚えた。

 

 

「……ちょっと待て。 プラネテューヌの女神って……まさか俺の居ない間に次代の女神が生まれてしまっていたのか!!? ネプテューヌが引退!!!? クソッ、俺がしっかりと躾けてなかったばっかりに……ネプテューヌが…………クッソオオオォォ―――ッ!!!」

 

「ねぷぅ―――っ!? 違うから!! 女神辞めてないから!! 後ガチ泣きやめてよ!!? 本気の後悔しないでよぉ――――っ!!!」

 

 

目の前のプルルートと言う少女はプラネテューヌの女神と名乗っている。

普段の駄女神ぶりが災いし、ネプテューヌに成り代わり彼女が新しいプラネテューヌの女神となってしまったのか。

本気で悲しんでくれているのがまた逆に悲しくなるネプテューヌ。あっという間に病室はてんやわんやの大騒ぎに。

ようやく戻ってきた、騒がしくも楽しいプラネテューヌの日常に後から入ってきた女神の親友二人―――アイエフとコンパも苦笑いだ。

 

 

「はぁ~……白斗、そんなワケないで……いやワンチャンあるか」

 

「ねぷぅーっ!? あいちゃんまで!?」

 

「白斗さん、お見舞いにきたです!! 後、ねぷねぷはもう少し頑張らない本当にぷるちゃんに取って代わられちゃうですよ?」

 

「こんぱまで!? うわーん、グレてやるー!!!」

 

 

そして親友二人も、同情など欠片もなく。

プルルートに代替わりされる可能性がちらつかされると慌てふためくネプテューヌであった。

因みに当の本人は何を言っているのか分からないらしく、可愛らしく首を傾げている。

 

 

「……白斗、おはよう。 もう大丈夫そうね」

 

「ああ。 不思議と心も軽くてな、体も痛くないし」

 

「ぷるちゃんが持ってきてくれたフリージアのお蔭です!」

 

「フリージア? 昨日聞かされてたけど、もうこの世界に無いかもって花だよな? プルルート……さんが持ってきてくれたのか?」

 

 

昨日、白斗が目覚めてすぐの事。

容態が落ち着いた後、現状を聞かされた。女神達のお蔭で白斗の精神状態は安定していること、しかし投与された絶暴草の量が多すぎてまだ中和出来ていないこと、しかしフリージアの花については既に調達手段があるということ。

そしてコンパの発言から鑑みるに、どうやらフリージアの花を持ってきてくれたのはこのプルルートらしいのだが。

 

 

「プルルートでいいよ~。 でも、持ってきたのはあたしだよ~。 100本分~」

 

「100本!? そ、そんな大量に!? どうやって調達したんだ?」

 

「どうやっても何も、あたしの世界だとそんなに珍しくないんだよ~」

 

「え? “あたしの世界”………? あ、まさか……!」

 

 

そこで白斗はネプテューヌとプルルートの間で嬉しそうにしている少女、ピーシェを見た。

以前、イストワールが推測した話だとどうやら彼女は平行世界の住人らしい。そしてそんな彼女が、プルルートと一緒に暮らしていたという。

と、いうことはそこから導き出される結論。それは―――。

 

 

 

「その通り! 何とぷるるんは『神次元』っていう別世界からやってきたのだー!!」

 

「え……ええええぇぇぇ!!?」

 

 

 

ババーン、と謎のSEを発生させて語るネプテューヌ。

ある程度予想してはいたが、それでも驚きの方が勝っており白斗が病人らしくない大声で絶叫する。

その話題の中心たる女神様は―――「えへへ~」と柔らかく微笑むだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――それは昨日の夜でのこと。

プラネタワーの中でも情報管理室、女神の住居に並ぶほどの最高機密とされる場所があった。

それは国力の源となるシェアエナジー、それの結晶たる存在、シェアクリスタルの間。言うなればこの国の心臓とも言える部屋。

そこでは教祖イストワールが端末を手に、それこそ必死の形相で操作していた。

 

 

(……お願いします、繋がってください……! これ以上、私の力不足で……白斗さんを苦しませたくありません……!)

 

 

祈りながら通信を試みている。

やがてノイズだらけの画面にうっすらと、何かが映り込んでいく。

 

 

『お、お待たせしてすみませんー! 別次元からの通信なんて初めてでして(-_-;)』

 

 

映り込んだ何か―――それは形容するなら、更に小さく、そして可愛らしくなったイストワール。

けれども落ち着きのなさと言うか、相応のあどけなさも見受けられる。

間違いない―――別次元のイストワールだ。この次元のイストワールは、別世界の彼女と交信することがやっとできたのだ。

 

 

「あ、良かった! 初めまして、私は恋次元という世界のイストワールです」

 

『恋次元……聞き慣れない次元ですね。 で、本日はどういったご用件でしょうか? すみませんが実は今、こちらも慌ただしくなっていまして(・ω・;)』

 

「実はそちらにお願いしたいことがありまして……」

 

 

イストワールは包み隠さず話した。

こちらの世界で起こった事件、その事件に白斗が苦しめられたこと、そして絶暴草から逃れるためにはフリージアの花が必要なこと、そして調達のために別次元から輸送してもらえないかということを。

 

 

『なるほど、そういうことでしたか。 確かにこちらの世界にもフリージアはあって、どこにでも生えているものですから探すこと自体は難しくないんですが……(´・ω・)』

 

「何か問題でも?」

 

『実は私達と一緒に住んでいた子が数日前から行方不明になっていまして……その捜索に追われている最中なんです(;´・ω・)』

 

「ゆ、行方不明ですか!?」

 

 

想像以上の大事にさすがの教祖イストワールも驚いてしまう。

「あの子」というからには年齢はそう高くない。寧ろ幼いであろうことが予測される。

しかも何日も帰ってこない―――家族であれば、気が気ではないだろう。切羽詰まっているとは言え、さすがにこんな状況で交渉を続けるのは酷だと口を噤んだその時。

 

 

「いすとわるっ! ごはんだってー!」

 

「ぴ、ピーシェさん!? どうやってここに……と、とにかく後で行きますから!」

 

 

なんと背後からピーシェが現れたのだ。

ここは一応最高機密の部屋であるはずなのだが、とりあえず彼女をここから追い出さなくては。

 

 

『え!? ピーシェさん!!?Σ(゚Д゚ノ)ノ』

 

「ん? あー! ぴぃのいすとわるだーっ!!」

 

「えええええええっ!!?」

 

 

―――しかし、事実はゲームよりも希なり。

なんと通信相手だった神次元側のイストワールが、ピーシェに反応したのだ。

ピーシェも彼女が、自分と一緒に暮らしていた相手だと認識している。つまり、彼女が探していた行方不明の子とはピーシェのことだったのだ。

 

 

『ぷ、プルルートさん大変ですっ!! ピーシェさんが見つかりましたっ!!(゚Д゚;)』

 

『え~!? ピーシェちゃんが~!!?』

 

 

とにかく、探し人が見つかったことで神次元側は大騒ぎだ。

同居人らしい、プルルートなる人物を呼び寄せると、パタパタとスリッパの音を響かせながらやってきた。

やたら遅い足取りだったがその表情と息遣いだけで、どれだけ心配したのか伝わってくる。

 

 

『もー!! ピーシェちゃん~!! 心配したんだよ~~~!!!』

 

「ぷ、ぷるると……ごめんなさい……」

 

 

通信機を覗き込むなり叱りだしたプルルートという少女。

けれどもその表情は怒りよりも、心配で溢れていた。それが伝わっているからこそ、ピーシェも素直に項垂れて謝っている。

 

 

『……ホントに……無事で良かったよぉ~~~~!!!』

 

 

しかし、次の瞬間。

大喜びで、大泣きして、プルルートはピーシェの無事に安心していた。

心優しい少女であると、どちらのイストワールも優しい微笑みを向ける。

 

 

「しかしそちらでは行方不明になって数日ですよね? こちらでは二ヶ月以上経っているのですが……」

 

『どうもそちら側とこちら側では時差があるようですね。 しかも不規則で、こちらにとっての一日がそちらにとっての数週間にもなれば、そちらにとっての一日がこちらにとっての一年にもなり得る様です。(・ω・)』

 

「なるほど……それで通信が繋がりにくかったのですね」

 

 

どうも、次元間の通信も楽では無いようだ。

何にせよ早期発見が出来て本当に良かった。下手をすれば二度と会えなくなったのかもしれないのだから。

 

 

『とにかくピーシェさんの保護、ありがとうございます!(*^▽^*)』

 

「いえいえ、保護してきてくださったのは白斗さんですから」

 

『はくとさん~? 誰~?』

 

「ああ、失礼。 現在こちらで住んでいる少年です。 彼が偶然、ピーシェさんを見つけてくださったんですよ」

 

『そ~なんだ~。 またその人にもお礼しないとね~』

 

「ええ、そのためにも白斗さんには元気に……ってそうでした! こうしてる場合ではありません!」

 

『え~? 何々~? いすとわ~る、どういうことなの~?』

 

『ああ、それがですね……(; ・`д・´)』

 

 

と、ここでようやくイストワールが神次元へとコンタクトを取った本当の理由を思い出し、説明した。

白斗を救うために、もうこちらの世界では存在しないかもしれないフリージアの花を調達するためであると。

聞けば神次元側ではそう珍しいものではないらしい。

 

 

『それならあたしが取ってくるよ~』

 

「本当ですか!?」

 

『うん~。 ピーシェちゃんも迎えに行かないといけないし~、その白くんって人にもちゃんとお礼しなきゃいけないしね~』

 

「ぷるるときてくれるの!? わーい!!」

 

『そうですね。 でしたら互いのシェアエネルギーを使って次元移動の通路を作りましょう。 一回きりの上にこちらのシェアはどん底なんですが……(ノД`)・゜・。』

 

「奇遇ですね。 こちらもです(キリキリ)」

 

 

互いに涙が溢れ、胃が痛みだす。

どうやらプラネテューヌの女神様は全世界共通でシェアには無頓着らしい。が、今はそんなことを気にしている場合ではない。

こうして二人のイストワールは「橋」を作るための作業に取り掛かる―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――で、こっちに来てくれたってワケか」

 

「そうだよ~。 もうフリージアの蜜は注射されてるんだって~」

 

「道理で体が楽に感じるワケだ。 ありがとな、プルルート」

 

「こっちこそ、ピーシェちゃんを助けてくれてありがとね白くん~」

 

 

 

こうしてプルルートがこの世界に来た経緯は知ることが出来た。

お蔭で白斗も絶暴草から解放され、ピーシェも家族と再会、全てが上手く収まって万々歳だろう。

 

 

「……ってことは、近々ピーシェと一緒に帰っちゃうのか」

 

 

ただ、一つだけ。ピーシェとの別れが迫ってくると思うと寂しさが込み上げてくる。

プルルートはこの次元には、フリージアの花を届けるため、そしてピーシェを迎えに来るためでもあったのだ。

それは分かっている。ネプテューヌも、アイエフも、コンパも。しかし今まで一緒に暮らしてきたピーシェは最早家族同然。そんな彼女がいなくなることに誰もが寂しさを覚えた。

 

 

「でもね~、い~すんが言うにはもう一度道を作るのに時間がかかるからしばらくはこっちにお世話になるの~」

 

「あ、そうか。 ならしばらくは一緒だな」

 

「うん。 改めてよろしくね~」

 

 

杞憂―――とまでは行かないが、まだまだそれは先延ばしになるとのこと。

折角知り合えたプルルートとも友好を深めずしてお別れなど、寂しい。

互いにそう思えたからこそ安心し、そしてお互いに微笑み合った。

―――しかし、それがネプテューヌ達にとってはあまり面白くない光景である。何せ白斗が自分以外の、初対面の女の子と嬉しそうに話をしているのだから。

 

 

「そ、それより白斗っ!! お見舞い持って来たよ!! 私は秘蔵のプリン!!」

 

「お、おう……。 予想通りというかなんというか……でもありがとな、ネプテューヌ」

 

「えへへー」

 

 

真っ先に袋からプリンを取り出してきたネプテューヌ。

彼女と言えばプリン、彼女と言えばこの騒がしさ、そして彼女と言えばこの笑顔。

ネプテューヌの何もかもに救われて白斗は今、生きている。それを実感しながら感謝の言葉と共に温かな手を、彼女の頭に乗せた。

 

 

「わ、私は白斗の装備一式揃え直して来たわ!! コートもほら!!」

 

「マジか!? 俺のワイヤーとか面倒だったろうに………あ、銃も……」

 

「お守り替わりだって言ったでしょ。 ……もう無くしちゃダメよ」

 

「…………ああ」

 

 

アイエフが差し出してきたのは、新しい白斗のコートだった。

今まで使ってきたものではない、彼女自ら選んで購入し、仕立てて貰ったものだ。元のデザインを踏襲しつつ、それでいて全体的に格好良く仕上がっている。

袖口からはワイヤーが伸びるギミックも搭載されており、更にはあの戦いで弾き飛ばされてしまったアイエフの銃もあった。

彼女の想いを感じながら、白斗は再びそれを手に取る。さすがに今、着込みはしなかったが温もりが伝わってきた。

 

 

「私は白斗さんのために特製病院食を作ってきたです!! 私手作りですぅ!!」

 

「お、それは有難い。 病院食って味気ないからなー」

 

 

負けじと繰り出したコンパの差し入れ。

それは保温効果で温かさが保たれた弁当だった。病院における不満点、それは何よりも病院食の味気無さにある。

栄養バランス重視なのは理解できるが、白斗も育ち盛り。量や味を求めてしまうものだ。

そこに料理上手で尚且つ現役ナース見習いのコンパであれば、味、量、栄養バランスと三拍子そろった食事となる。

 

 

「じゃじゃーん! 白斗さんの好物を詰め込んだコンパスペシャルです~!!」

 

「おお、美味そう!!」

 

「わぁ~! こっちのコンパちゃんも料理上手なんだね~」

 

 

パカッ、と耳障りの良い音と共に開けられた弁当。

そこには肉、魚、野菜、米、フルーツと色取り取りの食材が敷き詰められたラインナップ。

入院していた白斗ではあるが、幸か不幸か絶暴草の影響で治癒力が高まっていたため体調自体は万全で、既に腹ペコだった。

この料理のラインナップに、プルルートも目を輝かせている。

 

 

「むむ……白斗! 明日は私が弁当を作っ………おうぇっ!? ナスゥウウウウウウ!!?」

 

 

対抗心を燃やしていたネプテューヌ。しかしその直後、まるで毒でも仰いだかのように口を押さえてしまう。

理由は何を隠そう、その弁当の中で光る紫色の物体。

 

 

「何よネプ子ったら。 匂いでもダメなの?」

 

「ダメなものはダメなのっ!! ってかこんぱ!! そんな劇物を白斗に食べさせる気!?」

 

「謝れ、全国のナス農家に謝れ」

 

 

今、彼らはどんな思いで炎天下の中、農業をしているのか。

皆さんも好き嫌いはやめましょう。

 

 

「白斗さんの栄養バランスや好みに合わせた結果ですぅ!! 第一ねぷねぷが食べるわけじゃないんですから……」

 

「ねぷてぬ、なすおいしいよ? ぴぃ、だいすきー!!」

 

「ダメだよピー子!! ナスはね、ゲイムギョウ界を滅ぼしちゃうんだから!!」

 

「寧ろ滅んじまえそんな世界」

 

 

ここに来て白斗もツッコミのキレを取り戻しつつあった。

 

 

「う、うぷぇ……わ、私……ちょっと席を外すね……ぐぷっ」

 

「あわわ~。 ねぷちゃん大丈夫~?」

 

 

いい加減ナスが耐え難くなったらしい、ネプテューヌがおふざけ無しに顔色を悪くし、不穏な声が漏れ出る口元を押さえながら席を立つ。

咄嗟に付き添いとしてプルルートが同行してくれた。プラネテューヌの女神様はナス嫌いこそ共通ではないが、優しさは全世界共通らしい。

 

 

「全くネプ子は……白斗、ネプ子のことはほっといて食べちゃいなさい」

 

「それもそうだな。 頂きま………っ?」

 

「あれ? 白斗さんどうしたんですか? 白斗さんもナス嫌いになったんですか?」

 

「い、いや……湿っぽい視線を感じたような……でも気のせいか……?」

 

 

弁当にありつこうとしたところで白斗が動きを止めた。

廊下から何か嫌な視線を感じとったと言う。過去の経験からこういった察知能力だけは培ってきたのだ、アイエフとコンパも無視できるものではない。

けれども誰もいない上に病院を物騒にするわけにもいかないので、首を傾げつつもその場は捨て置くことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――ククク。 なるほどな………」

 

「まさかの弱点露呈っちゅね」

 

 

 

 

 

 

 

 

―――そこに通りかかった看護婦……否、魔女とネズミはほくそ笑んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――それから小一時間、病室で白斗たちは他愛もない話を続けた。

白斗の過去については触れないでおこう、としていたものの意外なことに白斗が昔の事を少し切りだしてきた。

それだけ彼が過去に怯えるだけではなくなったということ。プルルートもおっとりしながら、それでいて真剣に耳を傾けてくれた。涙ぐんだりと、白斗の過去をしっかりと受け止めてくれたのである。

 

 

「……と、もう時間ね。 そろそろ行かないと」

 

「あ。 私も用事があるので行かなきゃです……」

 

 

ここでアイエフとコンパが立ち上がった。

何やら予定があるらしく、それでいて合間を縫って白斗の見舞いにきてくれたらしい。

 

 

「そうだったのか? 悪いな、わざわざ」

 

「いいのよ、私がしたかったんだから。 それじゃネプ子、プルルート。 白斗のこと、お願いね」

 

「何かあったらすぐ呼んでくださいです!」

 

「おっけー! こんぱにあいちゃんもまたねー!」

 

「うん~。 今度二人のぬいぐるみも作っておくね~」

 

 

柔らかな微笑みを見せてアイエフとコンパは立ち去った。

きっとこの後も面会時間が終わるまで、ネプテューヌとプルルートは話し続けるのだろう。思いを寄せるあの人と、楽しそうに。

それを思うとぐぬぬと渋面を作ってしまうが、だからと言ってやるべきことを投げ出すような人間にはなりたくないと二人は駐輪場へと歩を進める。そこにはアイエフの愛車が止められていた。

 

 

「さて、それじゃ送っていくわコンパ。 デパートで買い出しだっけ?」

 

「はいです! 送ってくれてありがとうです、あいちゃん!」

 

「いいのよこれくらい。 えーと鍵は………」

 

 

バイクに跨りながら起動するための鍵を探すべくポケットをまさぐる。

と、その時背後から一筋の影がぬっ、と伸びてきて―――。

 

 

「ダメじゃないか小娘共。 ……常在戦場という言葉を知らぬのか?」

 

「え………?」

 

「――――っ!? その声は………!!?」

 

 

アイエフが振り返った直後、魔女は不敵に微笑んだ。

しかし、それはもう手遅れの合図でもあった――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………おい、ネプテューヌ。 そんなじゃれついてきて楽しいか?」

 

「当然~! それなりに結構無茶苦茶楽しい~♪」

 

 

アイエフとコンパが去ってからというもの、ネプテューヌは猫のようにじゃれついていた。

これではネプテューヌならぬネコテューヌだ。

白斗が動けない分、そして今まで離れ離れだった分存分に甘えてきているらしく、ただ白斗に頬を擦り寄せているだけなのに大層幸せそうである。

 

 

「ねぷてぬずるいー! ぴぃもおにーちゃんにじゃれつきたいー!!」

 

「じゃぁ、あたしもごしょーばんに預かろうかな~?」

 

「勘弁してください……」

 

 

ただでさえネコテューヌ一匹でドギマギしている中、更にピーシェやプルルートまで加わってはさぁ大変。きっと理性が崩壊することだろう。

 

 

「そ、それよりさ! 悪いんだけど喉乾いてきたから何か飲み物頼む!!」

 

「それじゃ~下のお店で何か買おうか~」

 

「ねぷのぷりんある!?」

 

「ねぷちゃんのぷりん~? なにそれ~?」

 

「ねぷのぷりんはねー! ねぷのぷりんなんだよー!!」

 

 

ここは病人の特権で適当なものを買いに行ってもらうことにした。

素直な性格であるプルルートとピーシェは手を繋ぎながら売店へと向かっていく。元の世界の家族なだけあって、とても微笑ましい光景だった。

 

 

「……プルルート、いい子だな」

 

「うん。 ……でも白斗、フラグ立てちゃダメだからね?」

 

「はい? 何の事か知らんが立てんぞ」

 

「………………………」

 

「やめろ。 その手遅れみたいなものを見る目はやめろ」

 

 

つい、いつものように軽快なリズムでボケとツッコミが入る。

ネプテューヌの一言一句に反応し、鋭く的確な言葉を入れる。そんな茶々の入れ合いが楽しくて。

二人は自然と笑みを零した。

 

 

「………あはは!! やっと……白斗が戻ってきてくれたって感じる~……」

 

「……俺もだよ」

 

 

あの時はなんてことない、ただの言い合い。

単なる日常の一部だったのに、今となってはそれすらも幸せなものだったと感じる。

一度失ってしまったからこそ分かる尊さ。もう二度と手放したくないという想い。二人はその体全てを使って、それを実感していた。

 

 

 

「……白斗、もう離れちゃダメだよ。 白斗は私の守護騎士なんだから!」

 

「仰せのままに。 ……俺の女神様」

 

 

口調こそは軽かったものの、その目と、手から伝わる温もりは真剣そのもの。

それを受け取ったネプテューヌは幸せそうに目を細めた。

―――と、その時。賑やかな音楽がその甘い空間をぶち壊した。

 

 

「もー!! 誰かなこの一時を邪魔する不届き者はー……って、ネプギア?」

 

 

渋々と言った様子で携帯電話を取り出すネプテューヌ。

その相手は「ネプギア」。彼女の妹にして、次期女神候補生。そしてつい先日、ようやく念願の女神化も会得した。文句なく、次のプラネテューヌの女神。

そんな子が不届き者なわけもなく、とりあえず事情を窺うことに。

 

 

「もしもし? どしたのネプギア?」

 

『おっ、お姉ちゃん!! お、おおおおおおお落ち着いて聞いてねっ!!?』

 

「うん。 まずはそっちが落ち着こうねネプギア」

 

 

どうやらやたら切羽詰まった話らしいが、妹の慌ただしさのお蔭で冷静になれる。

やれやれと溜め息を尽きつつも、白斗に聞かれてはいけないと直感で思い当たり、彼に「ごめん」と断りを入れてから病室を後にした。

念のため辺りに人気がないか、左右に首を振って確認してから通話を再開する。

 

 

「……で、何? どうしたのネプギア?」

 

『あっ、アイエフさんとコンパさんが……攫われちゃったんだよ!!』

 

「ええ!? こんぱはともかく、あいちゃんがまたぁ!!? これもう攫われ属性つきヒロイン枠狙ってるよね!? 〇〇チ姫ポジ狙ってるよねあいちゃん!!?」

 

『お姉ちゃん、それ以上はいけないよ』

 

 

これにはさすがのネプテューヌも吃驚仰天だ。

何しろプラネテューヌ勢では(比較的)しっかり者で、真面目で、諜報員という職業柄周囲にも気を配れる人物なのに。

しかもアイエフはこれで2回目の誘拐である。

 

 

「……で、犯人からの要求はあるの!? 事件は病院じゃない、現場で起こってるんだよ!!」

 

『お姉ちゃんそれ言いたいだけだよね……。 えーと、地図に記載されている場所までプラネテューヌの女神が来るべし、だって……』

 

「主人公は辛いなぁ、もー!! 絶対に誘拐犯はねっぷねぷにしてやんよー!!」

 

 

 

腰に手を当てて怒り心頭のネプテューヌ。

白斗との一時を邪魔され、更には親友まで誘拐された。幾ら温厚な彼女と言えど怒るなと言う方が土台無理な話だ。

 

 

「地図ってことはネプギアの方に転送されてるよね? こっちにも送って!!」

 

『うん!! 私もすぐに向かうから、お姉ちゃんも!!』

 

「おっけー! 後は白斗にメールしておいて……これで良し!!」

 

 

急いで携帯電話を取り出し、白斗にメールしておく。

「急用ができた、すぐ戻る」という内容だ。これならば白斗も安心してくれるはず。

ネプギアから地図が送られてくるとと急いで外へと飛び出し、女神化を果たして大空へと舞い上がった。

やがて指定された場所の近くへと降り立つ。何かの畑らしく、段々状の台地に緑が一面に広がっていた。

 

 

「ネプギア! 随分早く来れるようになったじゃない」

 

「うん! これでも次期プラネテューヌの女神なんだから!」

 

「自信がつくのは良いけど油断しないでね」

 

 

既にネプギアも到着していた。

女神化した彼女は見た目こそ殆ど変わらないが、少し好戦的になる。自信の表れと言えば聞こえはいいが、冷静沈着なパープルハートからすれば油断のようにも見えてしまう。

少し危なっかしい面が残る妹を、姉が支える。女神化すれば、立場が逆転するような姉妹であった。

 

 

「さぁ、あいちゃんとこんぱを助けに行くわよ。 ここからは慎重に進みましょう」

 

「うん!」

 

 

ガサガサと耳障りのいい音を立てながら草を掻き分け、突き進んでいく女神姉妹。

やがて広々とした場所へと辿り着く。その先に―――いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おー? やっと来たか女神共、遅すぎて退屈死するところだったぞ」

 

「貴女は……マジェコンヌ!!? 生きていたの!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

―――憎き魔女、マジェコンヌがいた。

あの戦いでネプギアが放った光線に飲み込まれたはずだがどうやら生き延びていたらしい。

更にその傍らには縛り付けられたアイエフもいる。彼女はぐったりとしている様子だ。目立った外傷こそはなく、意識もある様子だが、それでも目は虚ろだ。

 

 

「……ネプ、子……う、うぅっ……」

 

「マジェコンヌ!! あいちゃんに何をしたの!? それにこんぱは……」

 

「ああ、コンパという小娘は今ネズミが丁重にもてなしている。 それにこの小娘とて別に乱暴を働いたつもりは無いぞ? ただご馳走してやっただけだ。 ……コイツを、な」

 

 

するとマジェコンヌは懐から何かを取り出した。

それは紫色に輝く悪魔の物体。何であるかを認識した瞬間、ネプテューヌは悲鳴にも近い声を上げた。

 

 

「ま、まさかそれは……ナス!!?」

 

「そうだ!! ポリフェノールたっぷりのこいつを食わせてやったのだ。 ……こんな風に!」

 

「むぐっ!!? んん~~~~~~!!?」

 

 

悪魔の果実、ナスを無理矢理アイエフの口に突っ込ませた。

意識が薄れていたアイエフはもう何度目になるかも分からないナスの挿入に意識を覚醒させてしまう。

口に入れられたナスが前後する度にアイエフの瞳から涙が漏れ出る。

 

 

「やめなさいっ!! なんて恐ろしいことをっ!!!」

 

「え、そんなに恐ろしいの?」

 

 

ネプギアは こんらん している!

 

 

「恐ろしいことか……貴様にとっては恐ろしいことだろう!! 何せ貴様の弱点!! そしてここは貴様の弱点の宝庫、ナス畑なのだからなぁ!!!」

 

「何ですってッ!!?」

 

 

慌てて周りを見渡した。

確かに緑に紛れて怪しく光る、あの存在してはならない紫色が光っている。ナスだ。

思わず戦慄してしまったネプテューヌ、そしてネプギアは苦笑いを強くしていた。

 

 

「だがそれだけではない……出でよ、アンチナスモンスター!!!」

 

「ええっ!!?」

 

 

マジェコンヌが指をパチンと鳴らす。

するとそれを合図として、一斉に茂みが揺れ出した。バッと姿を現したのは、ちょっと大きくなったナスに、目と口を模した穴がくりぬかれ、手足となるように箸が突き刺さった……というよく分からない物体。それが何十言う数になっている。

 

 

「驚いたか!! 私はナス畑を買い占め、アンチモンスター製造技術を使い、ナスをアンチモンスター化させることに成功したのだ!!」

 

「なんて無駄な努力!?」

 

 

すっかりネプギアがツッコミ役に回っている。

一方のネプテューヌは愛刀を構えながらも、すっかり及び腰になっていた。大嫌いなナスがアンチモンスターの力と命を得た上に、それが凄まじい数となって襲い掛かってくる。

彼女にとってまさに悪夢のような光景だった。

 

 

 

 

 

「どうだ、恐ろしいだろう!! この絶望に包まれて死ぬのだ!! あの小僧が味わった絶望……それを貴様も味わって死ねぇ!! フハハハハハ――――」

 

 

 

 

 

勝利を確信し、高笑いを上げたマジェコンヌ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――瞬間、彼女の真横の台地が、一直線に切り裂かれた。

 

 

 

「…………は?」

 

 

 

思わず呆けた声を出してしまうマジェコンヌ。

自分の、僅か数センチ横に深々と、それでいて綺麗な切れ目が遥か後方まで伸びていた。

その切れ目を入れたのは外でもない―――女神パープルハートだった。

彼女は愛刀を振り上げた姿勢のまま、目元を陰で覆い、その向こうから鋭い眼光を覗かせる。

 

 

「……マジェコンヌ。 貴女がどういった思想を持とうが構わない。 支配者になりたいだとか、私が憎いだとか、好きに考えたらいい」

 

 

自身に対する侮辱も、敵意も、ネプテューヌにとってはどうでもよかった。

いや、実のところ悲しくはあったが怒りはしなかった。プラネテューヌでも彼女に対する批判は少なからず存在するし、ネプテューヌも全てが受け入れられるとは思っていない。

だから、マジェコンヌのような敵が出てきてしまっても普通に敵対するのみで留めていた。

 

 

「……でも、貴女は……自分の欲のためにあいちゃんを……こんぱを……何より白斗を!! 散々傷つけた!! 絶対に………許さないッッッ!!!!!」

 

 

―――ネプテューヌのそれは、最早殺意に近かった。

あれだけ温厚で、冷静で、怒りこそすれどどんな相手にも殺意だけは向けなかったネプテューヌが、初めて殺意を抱いている。

親友を、何より愛する人を傷つけた魔女に。

 

 

「貴女の所為で……白斗が、どれほど酷い目にあったか……っ!! 白斗の絶望……? あの人の過去も知らない貴女が………ヘラヘラと口にするなッッッ!!!!!」

 

 

元はと言えば、マジェコンヌの所為だ。

白斗が人殺しをすることになってしまったのも、白斗が攫われてしまったのも、白斗が魔物化してしまったことも、嫌な過去を思い起こさせてしまったのも。

愛する人を傷つけてきたマジェコンヌが憎くてたまらない。それがネプテューヌに殺意を抱かせていた。

 

 

「お姉ちゃんだけじゃありません!! 私だって………お兄ちゃんを傷つけた貴女は!! 絶対に許せないのっ!!!」

 

 

ネプギアも、姉程では無かったが温厚な彼女からは想像できないほどの激昂を見せていた。

女神化したからではない。彼女にとって、何よりも大切な人を傷つけ、痛めつけ、苦しめたから。

もうどこか頼り無いだの、ただの候補生だのと言わせない。

 

 

「そういうことよマジェコンヌ!! 覚悟するのは貴女の方よ!! 懺悔の用意は―――」

 

「行け、アンチナスモンスター」

 

「きゃああああああああああああああああっ!!? ナスぅぅうううううううううう!!?」

 

「えぇっ!? お姉ちゃんさっきのカッコよくて苛烈な姿どうしたの!!?」

 

 

―――先程の裂帛した空気はどこへやら、ナスが歩いてくるというシュールな光景でただ一人、パープルハート様が絶叫なされた。

無理もあるまい、人類にとって不俱戴天の仇であるナスが命を得て、あろうことか歩いてくるという女神に唾吐く恐ろしき所業をしているのである。声を上げるなと言う方が無理だ。

 

 

「どうしたどうしたぁ!? あの小僧の仇を討つんじゃないのかぁ!?」

 

「は、白斗はまだ死んでないわよ!! それにナスなんかで私を倒せると……」

 

「ナスナスー」

 

「キェェェェェェアァァァァァァシャァベッタァァァァァァァ!!!」

 

「倒されてる!! お姉ちゃん倒されてるよー!!!」

 

 

なんと、アンチナスモンスターは声まで発してきたのだ。

言葉とは神が人間に与えし奇跡。それをナス風情が獲得するなど、最早許しがたい愚行。

だが、人類にとって天敵とでもいう存在が襲い掛かってくる。女神様にも苦手なものがある以上、気圧されるのも無理はないことなのだ。

 

 

「アッハハハハ!! 何と無様で滑稽なことか!!! やはりナスは最高だな!!!」

 

「挙句ナスまで拝むとは堕ちるところまで堕ちたわねマジェコンヌ!! 絶対に……」

 

「ほぉ~れ、出来立てほやほやの麻婆茄子だぞ~。 いい香りだろぉ~?」

 

「うぐぅぅぅぅぅっ!!? ど、毒ガス攻撃とは卑怯な………っ!!!」

 

「……お姉ちゃん、これ何の戦いだっけ?」

 

 

果てにはナスを調理して匂いを放つという卑怯な攻撃までしてきた。

こんな卑怯者に負けたくないと己を奮い立たせるネプテューヌだが、悪魔の果実から漏れ出る香りが女神の力を確実に奪っていく。

限界が訪れるのも時間の問題だった。

―――尚、全く効果がないネプギアは最早呆れ果てたような表情になっている。解せない。

 

 

「と、とにかくナスさんなんか切り裂いちゃいます!! ミラージュ・ダンス!!」

 

「ナスススッ!!?」

 

 

このままでは埒が明かない。

手にした刃でネプギアが近くにいたナスモンスターに切りかかる。しかし、有機野菜にあるまじき固い音が響き渡り、完全に切り裂くには至らなかった。

 

 

「か、固い……!?」

 

「言ったはずだ、これはナスでもありアンチモンスターでもある!! 貴様ら女神の攻撃など通じぬのだ!! 私の力とナス、そしてアンチモンスター……これほど融和性が高かったとは、神など信じはしないが、まさに天啓!! 今こそ女神打倒の時!!!」

 

「そ、そんなー!! こんなギャグな場面で大ピンチになっちゃうのー!!?」

 

 

こんな形で追い込まれるのは色々イヤだった。精神衛生的にも。

 

 

「さぁ行くのだ、我が愛しきナス達よ!! 手始めに女神達を血祭り……否!! ナス祭りにしてやるのだああああああああああああああああああ!!!」

 

「「きゃあああああああああああああ!!?」」

 

 

ナス畑の大決戦。

魔女の下した号令の下、女神達に紫の悪魔が大群となって襲い掛かった―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――一方、その頃プラネテューヌ綜合病院では三人の女神がそれぞれお見舞いの品を抱えながら廊下を静かに歩いていた。

 

 

「ネプテューヌ、大丈夫かしら……」

 

「というかアイエフ、本当に攫われまくりね……その筋でヒロイン狙ってるのかしら」

 

「確かに攫われ属性は王道にして不動……私もそんな属性を獲得するべきでしょうか……」

 

 

それぞれノワール、ブラン、ベール。

このゲイムギョウ界を守護する女神達だ。この錚々たる顔ぶれを知っている者も多く、病院内はちょっとした混乱に包まれていたが彼女達には気に留める由もない。

ここに来た目的はただ一つ。白斗の見舞いのためである。

 

 

「そう言えば今、誰が傍についているんだっけ?」

 

「確かイストワールからの連絡によればピーシェちゃんとプルルートがいる、とのことでしたが」

 

「……急いで白斗の見舞いに行った方が良さそうね。 というワケでお先に」

 

「ちょっ!? ブラン、抜け駆けは許さないわよ!!!」

 

「そうですわ!! 白ちゃん協定に則り、正々堂々と看病するという約束ですわよ!?」

 

「人命第一、もしかしたら白斗の容態が悪化しているかもしれない。 道徳よりも白斗の身が大事。 よってこれは抜け駆けに非ず、迅速な看病が出来る私が―――」

 

「「させるかあああああああああっ!!!」」

 

 

※公共施設内では静かにしましょう。

 

 

「白斗っ!! 無事!!?」

 

「私、飛び切り美味しいお菓子焼いてきたの!! これ食べて!!」

 

「白ちゃん、入院生活は退屈ですわよね!? 私とオススメのゲームをしませう!!」

 

 

三者三様に一斉に白斗の病室へと飛び込む。因みに「しませう」は誤字ではない。

女神様とも思えぬちょっぴり迷惑な光景に苦笑いしながらも、快く迎えてくれる白斗がそこにいる―――はずだったのだが。

 

 

「……あれ? 白斗……?」

 

 

ノワールが思わず呆けた声を出してしまう。

そう、そこはまさに「もぬけの殻」という他無い、誰もいないベッドのみだった―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ま……負けないっ……!! ナス、なんかに………」

 

「ナスナスー」

 

「いやああああああああっ!!! やっぱり来ないでぇええええええっ!!!」

 

 

そして舞台は戻り、ナス畑。

相変わらずと言うべきか、ナスモンスターに追いかけ回されるネプテューヌがいた。

恐怖の余り女神化すらも解けてしまっており、逃げ回ることしか出来ない。一方のネプギアはナスこそ苦手ではなかったものの、アンチモンスター故に攻撃が通じにくいこともあり押されていた。

 

 

「く、うっ!! ……はぁ、はぁ……ダメ、全然倒せない……!!」

 

「フハハハハ!! 無駄無駄無駄ぁ!! ナスにアンチエネルギー、そして私の力が合わさることにより最強となる!!! この世界は私のもの……否、ナスのものになるのだ!!!」

 

「ナスに意識乗っ取られてるー!!?」

 

 

あろうことかマジェコンヌすらも、当初の目的である自身による世界征服ではなく、ナスのための世界征服へと目的が置き換わっている。

ナスの底知れぬ恐ろしさに、さすがのネプギアも少し恐怖していた。

 

 

「けほけほっ……! や、やめなさいよ……!!」

 

「ん~? 小娘、貴様はまだナスの魅力を味わい尽くしておらんな? 遠慮することは無い……もっとナス色に染まってその魅力に取りつかれるがいい!! そらそらそぉらぁ!!!」

 

「んぐっ!? んぅっ、んん~~~~~~っっ!!!」

 

 

何とか意識を取り戻し、静止を呼びかけるアイエフ。

だがナス色に染まってしまったマジェコンヌにその言葉は届くはずもない。再びその小さな口にナスをねじ込まれ、苦しさの余り涙が零れ落ちる。

右を向いても左を向いても後ろを振り向いても地獄、ナス地獄。こんなどうしようもない状況に、少女達の声は重なった。

 

 

 

 

 

「「「誰か……誰か助けてぇえええ~~~~~~~!!!!!」」」

 

 

 

 

 

割と情けない状況で、誰もが情けない悲鳴を上げた―――その時だった。

 

 

「はいよー」

 

「え?」

 

 

ネプテューヌ達にとって聞き覚えのある、というよりもある意味一番聞きたくなくて、でもやはり一番聞きたい声が届いた。

聞きたくない理由は簡単、こんな情けない状況を見られたくなかったから。

けれども、聞きたい理由は―――大好きな人の声だったから。

 

 

「そらっ!!」

 

「ぐ、ッ!? え、煙幕だと!!? ゴホゴホッ……!!」

 

 

その人物は茂みから飛び出し、腕を鋭く振り払う。

飛ばされたのは一本のナイフ。それがマジェコンヌの足元に突き刺さった―――と思いきや、それが破裂し辺り一面を白い煙幕で覆い尽くした。

突然の事で防御も出来なかったマジェコンヌは目と口元を覆うしかなく、視界も動きも封じられる。すると、その瞬間鋭い斬撃音が幾重にも閃く。

 

 

「な、なんだ一体……って小娘がいない!!?」

 

 

やがて煙幕も風に流される。

しかし、辺りの視界がクリアになるとマジェコンヌは驚愕した。何故なら、つい先程までそこで縛っていたはずのアイエフが忽然と姿を消していたからだ。

杭に結んでいた縄が切り裂かれ、空しく地面に落ちてる。

それだけではない、その進行方向上に存在していたナスモンスターも数体切り裂かれていた。

 

 

 

 

一体誰がやってのけたのか―――それはその先を見れば、すぐに分かった。

 

 

 

 

「………大丈夫かアイエフ、みんな」

 

「………はく、と………?」

 

 

 

黒いコートを身に纏ったあの少年―――黒原白斗だった。

彼がアイエフを抱えて、守るように優しい微笑みを覗かせてくれていた。

はためくコートは、先程アイエフが手渡したばかりの、白斗のために新調したもの。けれどもこんなに早く出番が来るとは、彼女自身も思っていなかったことだろう。

―――けれども。

 

 

(………やっぱり、白斗はそのコートが似合うね)

 

 

彼が、本当の意味で帰ってきた―――それを実感すると嬉しくて涙が出てきた。

アイエフは先程までの苦しさを忘れ、白斗に負けないくらいに優しく微笑む。

 

 

「白斗!? なんでここに……」

 

「いやー、嫌な予感がしたんでネプテューヌの後をつけさせて貰ってんだ。 ついでにアイエフのバイク借りてな」

 

「アンタ、また………でも白斗だから許してあげる」

 

 

一方のネプテューヌは驚くばかりだ。

何しろ白斗を巻き込まないように細心の注意を払っていたはず―――なのだが、隠密技術は白斗の方が一枚上手だったらしい。

過去の経験から培われたスキルは伊達ではないということだろう。

 

 

「こ、小僧っ!? 貴様………何故ここに!!?」

 

「んー? 聞こえなかったのか、マジェコンヌ。 だから後をつけてだな……」

 

「違うッ!! あれだけ痛めつけられたというのに、何故また戦場に赴く!? 何故武器を手に取る!? 小娘など見捨てれば楽になれるというのに……!!」

 

 

マジェコンヌは、信じられないというような声を上げていた。

白斗の尾行スキルがではない、精神的にも、肉体的にも散々甚振られたはずの白斗がまだ戦おうとしているこの現実に驚いている。

何せ、目の前でその様子を目の当たりにしてきたのだから。

 

 

「怖いに決まってんだろ。 ……でも、みんなが受け止めてくれるって約束したから。 そんな大切な人達を……失いたくないから。 ―――それじゃダメかね?」

 

 

口調こそは軽かったが、紛れもない白斗の決意の証だった。

ただ恩に報いるだけではない。彼にとっての想いが、そこにある。

ネプテューヌ達こそ、白斗の想いの全て。だから全身全霊を賭してでも守る。そんな彼の言葉に、マジェコンヌは汗を一筋垂らす。

 

 

「……余りにも哀れだから、矢面に立たなければ見逃してやるつもりだったのだが……もう容赦は出来んぞ!!」

 

「そりゃこっちの台詞だ。 アンタにゃ“貸し”があるけど……皆を傷つけた以上、見逃してられるかっての!!!」

 

 

互いに思うところがあるらしいが、それでも全く譲るつもりは無い。

この勝負、少しでも怯んだ方が負け――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――ドッゴオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「………………は?」」

 

 

 

 

突然の凄まじい破壊音に、双方が怯んだ。両方の負けである。

そう、この二人は負けたのだ。

茄子畑の中央でその破壊音を生み出したであろうクレーター、その中心に立つこの“少女”に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……マジェコンヌさん~? なんで~、“また~”アイエフちゃんを~……イジメてるのかなぁ?」

 

「ぷ………ぷるるん………?」

 

 

 

 

 

 

 

そこにいたのは、つい先程までぽやぽやと緩く、柔らかく、人畜無害そうな空気を放っていた少女。

別次元のプラネテューヌの女神様ことプルルートである。

本来病院にいるはずの彼女がここにいることも驚きだが―――彼女が振り下ろしたぬいぐるみ、その一撃で周りが陥没していたのである。

因みに振り下ろされたぬいぐるみは、ネプテューヌを模したものである。

 

 

「お、お兄ちゃん!? なんでプルルートさんがここに!?」

 

「い、いや……病院抜け出したのがバレちまって、仕方なく事の詳細を説明したらついていくって聞かなくて………で、でも……え? え………?」

 

 

全員が信じられないという表情で見ていた。

見るからに小柄で華奢、動きも緩慢、明らかに戦闘向けではない肉体―――そのはずなのに、細腕による一撃でクレーターを生み出したのである。

―――ヤバい、何かがヤバい。白斗も、ネプギアも、ネプテューヌも……そしてマジェコンヌも。

戦慄で、恐怖で、力の差で震えていた。

 

 

「……あっちの世界で、あれだけオシオキしたのに~……ま~たオイタするんだぁ~……」

 

 

彼女お手製であろう、ネプテューヌのぬいぐるみをそのままズン、と踏みつける。地鳴りがする。

また苛立ちをぶつけるかのようにズンズンと踏みつける、踏みつける。

震動が響き渡る度に、アンチナスモンスターも、マジェコンヌも、恐怖で青ざめていた。

 

 

「ひ………ヒィッ!? き、ききききき……貴様は……まさかぁぁああああああああっ!?」

 

「え? まさかのお知り合いですか?」

 

 

思わず敬語で聞き返してしまう白斗。

本来、マジェコンヌとプルルートはそれぞれ別次元の住人の筈―――かと思えばそうではなく、顔見知りらしい。

尤も、プルルートのあの怒りようを見れば決して親しい間柄ではないことだけは確か。

 

 

 

 

 

 

「ふ………ふふふ……もうダメだぁ~……!! あたし~……我慢できない~……!!」

 

 

 

 

 

―――ズン!! ズン!!! ズン!!!!!

踏みつける力が更に強まり、クレーターに亀裂が走る。あの柔らかかった、天使のような笑顔は何処へやら、陰が覆われ―――怪しげな微笑を湛えていた。

 

 

 

 

 

 

「………変身~~~~~!!!!」

 

 

 

 

プルルートの体が、光に包まれた。

眩き光に包まれ、三つ編みだった髪が解かれる。ふんわりとしたヘアースタイルから艶の良いロングヘア―へ。

背も伸び、胸がぷるるんと音を立てて膨らんでいく。すらりとした体格、露出の高いボンテージ、突き刺すような怜悧な瞳。

 

 

 

 

 

「さぁ……あたしの怒り……受け止めてもらおうかしらねぇ!!? アーッハッハッハ!!!」

 

「「「「ど、どちら様ですかあああああああああああああああああああああ!!!?」」」」

 

 

 

 

 

 

―――何より、言動が凄まじいことになっていた。

あの緩やかな口調ではなく、言うなれば女王様口調。口調に合わせて、顔も嗜虐心溢れる表情となる。

空中に魔法陣を展開してそれを椅子代わりに腰かけ、足を組んで薄ら笑いと共に高いところから見下す女王様スタイル。

まさに劇的ビフォーアフターである。

 

 

「そう言えばこちらの姿では初めましてだったわねぇ。 あたしはアイリスハートよ。 よろしくね、皆。 うふふふ………」

 

「………よ、ヨロシクオネガイシマス………」

 

 

ぽかーんと開いた口が塞がらない白斗であった。

彼女だけではない。ネプギアも、アイエフも、変身後のギャップで有名なネプテューヌすらもだ。

だが何よりも一番のリアクションを見せている者。それは敵対しているマジェコンヌだった。

 

 

「な、なななな………何故貴様がここにィ!!?」

 

「それはこっちの台詞よぉ。 無謀にもあたしに挑んで、無様に負けて、情けなく逃げ出した貴女がどうしてこっちの世界にいるのかしらねぇ?」

 

「だ、誰が貴様なんかに!! こ、この私に逆らららららららら…………!!!」

 

(……マジェコンヌの女神に対する敵意って、全部プルルートに負けたからなのね……)

 

 

どうやらまとめると、元々マジェコンヌはプルルートのいた神次元出身らしいが、そこでも悪さをしたことが原因でプルルートことアイリスハートにとっちめられたらしい。

それもあの怯え方を見るに、一方的に、かつ手酷く。一体どれだけの負け方をすればあんなにも恐怖が刻まれるのだろうか。

 

 

 

 

「まぁ、そこはどーでもいいんだけどぉ……アイエフちゃんもぉ、ねぷちゃんもぉ、白くんもぉ、あたしの大事なオトモダチなのよねぇ……。 ……あたしの大事なモノに手を出したらどうなるか……もう一度、そのカラダに、じっっっくりと……教えてあげようかしらねぇ!!?」

 

 

 

 

そして手にしていた刃を振るった。

蛇腹剣だったらしく、それが鞭のようにしなって地面を鋭く切り裂く。それを合図にして一気に飛び上がり、マジェコンヌの真上を取ると―――。

 

 

 

「そぉれぇ!!!」

 

「グハァ!!?」

 

「…………つ、強ぇぇ…………」

 

 

剣をただ、振り下ろした。

何とか防御したマジェコンヌだったが、力負けして地面に叩きつけられてしまう。

その一幕だけで、パワーバランスが決まってしまった。

 

 

「うっふふふ、とぉってもステキな姿よぉ。 やっぱりアナタには惨めな姿がお似合いだわぁ」

 

「ぐっ、ううぅぅ……!! 調子に乗るなよ!! こっちには貴様らにとっての天敵、アンチナスモンスターがいるのだ!!」

 

「アンチナスモンスタぁー? そんなのが何だって言うのかしら……ねぇっ!!」

 

 

マジェコンヌが何とか立ち上がり、手をかざすと一斉にナスモンスターがアイリスハートへと襲い掛かる。

有象無象相手と言わんばかりに無造作に蛇腹剣を振るうアイリスハート。しかし、その斬撃はナスにあるまじき固い音と共に弾き返されてしまった。

 

 

「……あら? 固い……」

 

「これぞ対女神用生物兵器、アンチモンスター! シェアエネルギーと対を成すアンチエネルギーを注ぎ込んだモンスターだ!! 女神の攻撃など効かぬわ!!」

 

 

さすがにアンチモンスターというだけあって、女神化した姿の攻撃であればそう簡単に通してくれない。

これにはさすがのアイリスハートも苦い顔をしてしまう。その隙に背後に槍を携えたナスモンスターが飛びかかった―――かと思えば、空中で突如切り裂かれてしまった。

 

 

「んなっ!?」

 

「女神の攻撃が通りづらいってなら、それ以外の攻撃なら通じるってことだろ。 まだまだ品種改良が必要だねぇ、こりゃ」

 

「ありがと、白くん。 助けられちゃったわね」

 

 

白斗が放ったワイヤーだった。

鉄線を伸ばし、それを鋭く振り払うことで一閃。アンチナスモンスターを綺麗に切り裂いたのである。

アンチエネルギーが働かなければそれこそ動くナスと変わりない。

 

 

「ち、ちょっと白斗!! 病み上がりなんだから無茶しないで!?」

 

「大丈夫だってのネプテューヌ。 体調はもうバッチリ、リハビリがてらプルルートを援護しますよっと!!」

 

「お、お兄ちゃん!? ……仕方ないなぁ、もう……」

 

 

存外やんちゃになったらしい、ナイフに銃、そしてワイヤーとあらゆる武器を携えて白斗が戦場へと踏み込む。

動きこそまだどこか重さがあったものの、自在に暗器を使い分けるその戦い方には、以前よりもさらに鋭く―――というよりも迷いが感じられなかった。

 

 

「あら、白くんって情熱的なのね。 ステキだわ~」

 

「そりゃー私の自慢の騎士様ですから!! ドヤァ!!」

 

「何たってお兄ちゃんだもんね!!」

 

「………へぇ、二人って白くんのコト………ふふっ、可愛いわね」

 

「「うっ!? う~…………」」

 

 

正直に言えば無茶はやめて欲しかったが、同時に誰かのために戦う彼の姿はネプテューヌとネプギアにとって愛してやまない姿でもあった。

そんな彼を誇らしく語る様子から、彼に抱いている恋慕を見抜かれたらしく二人は顔を赤く染めてもじもじとしていた。

 

 

「貴様らァ!! 戦場のド真ん中で何を唐突な女子会始めているのだぁ!?」

 

「そっちこそ、花の女子会を邪魔しないで欲しいわぁ。 少しくらい空気読んだら……どうかしらねぇっ!!?」

 

「ぐあああああああああっ!!?」

 

 

戦いの真っ最中に恋バナに花を咲かせている三人を見て憤りを隠せないマジェコンヌ。

しかし、そんな彼女を歯牙にもかけずアイリスハートが容赦のない攻撃を繰り出していく。

蛇腹剣による距離感を掴ませない立ち回りに加え、魔法も織り交ぜた嵐のような激しく、一切の反撃も許さない攻めにマジェコンヌは成す術がない。ナスだけに。

 

 

「……白斗やぷるるんが頑張ってるんだ……私だって、負けない!! ナスなんかに!!」

 

 

友達の、そして大好きな人が賢明に戦う姿を見て黙っていられるネプテューヌでは無かった。

決意を新たにシェアエネルギーを身に纏い、女神化を再び果たす。

 

 

「あらぁ。 ねぷちゃん、その姿も素敵ねぇ。 今度、ぎあちゃんと一緒に可愛がってあげようかしらぁ?」

 

「ええっ!? 私もですか!?」

 

「ふふっ、謹んで遠慮するわ。 私を可愛がっていいのは……白斗だけだものっ!!」

 

 

覚悟を決めたネプテューヌの一閃が、ナスモンスターを切り裂いた。

攻撃の効きにくいはずのアンチモンスターも、全力を伴った女神の一撃に耐えられるはずもなく切り裂かれる。

その間、ナスの匂いが広がりネプテューヌは苦悶の顔を浮かべたがそれでも負けじと刃を振るい続けた。

 

 

「さっすがねぷちゃん、それじゃあたしもこっちを終わらせてあげようかしら……ねぇっ!?」

 

「ぐっ、が、あああああああああああああ!!?」

 

 

同じ女神として、アイリスハートは素直にネプテューヌの実力に感心した。同時にそろそろ面倒になってきたのか、決着をつけるべくハイヒールによる一撃でマジェコンヌを地へ叩き落とす。

地表では最初の威勢の良さは何処へやら、ずるずると這いまわっているマジェコンヌがいた。

 

 

「ふふふ、お似合いよぉ。 まさに時代の敗北者ねぇ」

 

「ハァ……ハァ……敗北者……?」

 

「「「「…………………………」」」」

 

「誰か取り消せよ今の言葉ぁ!!(泣)」

 

 

しかし、誰もいなかった。孤独は罪である。

 

 

「でも誰がどうみても敗北者でしょぉ? あたし一人に無様で無力で無双されているんですものねぇ。 さぁ立ちなさぁい……まだオシオキはこれからよぉ!!」

 

 

空中で展開された魔法陣に腰かけ、見下しているアイリスハート。

嗜虐心に満ちたその表情から、まだ攻め足りないようだ。

彼女だけは怒らせないようにしよう……そう誓う白斗たちだった。そしてそうこうしている間にも何十にもいたナスモンスターは数を減らしつつある。このままでは全滅も時間の問題だった。

 

 

「ち……調子に乗るなよ女神風情がぁ!! 私にはまだ奥の手がある!!!」

 

「奥の手ですって!?」

 

「そうだ!! 集え、ナス達よ!!!」

 

 

するとナスモンスター達が戦闘を取りやめ、マジェコンヌの下へと集まる。

一瞬彼らを使って周りを固めて防御、かと思えばそうではない。

ナス達が一斉に溶け始め、マジェコンヌの周りで渦巻く。

 

 

「見るがいい!! 私とナス、そしてアンチエネルギーの力を!! オオオオオオオッ!!!」

 

 

マジェコンヌは紫色の液体をその身に取り込んだ。

異様な光景にさすがのアイリスハートも警戒態勢を強め、白斗も静かに刃と銃を構える。

やがて彼女を包んでいた紫色の液体は塊、一つの巨大な姿となった。

―――言うなれば、巨大化したナスに。

 

 

『ふっはっはっは!! どうだ、ナスとアンチエネルギーをこの身に取り込んだ姿は!? 今の私はそう……マジェコンヌ改めナスコンヌ!! 女神を滅ぼす者だぁ!!!』

 

 

高らかに声を上げるマジェコンヌ改めナスコンヌ。

巨大なナスから溢れる覇気が、女神達に戦慄を―――。

 

 

「「「「「……………………………」」」」」

 

『おい、何だその反応は!? もっと怖がれよ!!?』

 

 

全然動じていなかった。寧ろ白けていた。

 

 

「そこまで大きいと全然ナスの気がしないわ。 ただの紫色の物体ね」

 

「それ以前にあたし、ナス嫌いでも無いしぃ」

 

「第一、ナスコンヌって……」

 

「そもそもネプ子倒すためだけにナス畑購入って……なんで私、こんなのに捕まったのよ……末代までの恥だわ……」

 

「敗北者じゃけぇ」

 

『ボロクソ!!?』

 

 

そう、その姿はアンチナスモンスターがただ巨大化して翼を付けたような、手抜きとしか思えないデザインだった。

それを大真面目にやるものだから、却ってネプテューヌ達も冷静になってしまっている。

 

 

『えぇい!! ナリはこうでも力は本物だ!! 第一、女神の攻撃などアンチエネルギーの前には無力同然!!!』

 

「なら見せてあげるわ。 アンチエネルギーをも超える……私達の想いを!!!」

 

 

今更相手が誰であろうと怯みはしない。

元よりこの魔女を許すつもりなどさらさらないのだ。このナスコンヌは自分の私利私欲のために親友を―――そして大好きな人を傷つけた。

その怒りを込め、ネプテューヌ達は刃を輝かせる。

 

 

 

 

 

「「「はああぁぁぁぁぁぁ――――――ッッッ!!!!!」」」

 

 

 

 

 

蛇腹剣が、電光の剣が、そして女神の刃が。

歪みに歪んだ、復讐の果実を綺麗に切り裂いた。ナスの力など、魔女の力など、アンチエネルギーなど歯牙にもかけずに。

 

 

『ぐ、アアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァッ!!? さ、作戦が……台ナスだぁあああぁあぁぁあぁぁぁぁ…………』

 

 

バラバラに切り裂かれたナスコンヌは、そのまま地上へと落ちていく。

凄まじい粉塵を上げて堕ちていく果実の破片。

やがて煙が晴れると、最早立てずに地面に這いつくばっているマジェコンヌの姿があった。

どうやらすべての力を使い果たしてしまったようだ。

 

 

「どうやらここまでみたいねぇ?」

 

「ぐ、ぐぐぐっ……!! 何故だ……何故、勝てんっ………!!?」

 

「あなたには永久に分からないわねぇ。 だって、あたしのオシオキで全然反省してないんだもの。 反省もしない人が、進歩なんてあるワケないでしょぉ?」

 

 

ゆっくりとマジェコンヌの下まで降り立ったアイリスハートが刃を構える。

元の世界でも、この世界でも悪事を重ね続けてきた。何も変わらずに。

嗜虐心とはまた別に、この魔女に対する怒りで見下していた。冷たく光る剣光に、マジェコンヌも喉を鳴らす。

 

 

「待ってぷるるん。 ………こいつだけは、私が葬るわ」

 

「ねぷちゃん……? どうしたのよ、可愛い顔を怖くしちゃって」

 

「……こいつは、マジェコンヌは……白斗を散々傷つけてきた!! 白斗がどれだけ苦しんだことか……っ!!! こいつだけは……絶対に、許さないッ!!!」

 

 

―――怒りを超えた憎悪を滾らせていた。

ネプテューヌは今まで見たことが無いような、殺意に溢れた顔になっている。目は鋭くぎらつき、歯は食い縛られ、刃を握る手が怒りで震えている。

その怒りはネプギアとアイエフも同じで、止める気配が全くなかった。

 

 

「貴女があんなことをしなければ、お兄ちゃんはあんな苦しいを思いをしなかった……!! 貴女の所為でっ!!!」

 

「白斗を傷つけ、苦しめ、悲しませたアンタにはもう生きる資格なんてない!! ―――あの世で白斗に詫び続けろっ!! それがアンタの罪よっ!!!」

 

 

寧ろ、その刃を魔女に突き立てたくて仕方がないと言わんばかりの殺意だ。

確かにこの魔女は許せない。しかし、ここまで漲る殺意にさすがのアイリスハートも、初めて冷や汗を流した。

 

 

「マジェコンヌ!!! 覚悟おおおおおおおおおおおおッ!!!!!」

 

「――――――ッッッ!!?」

 

 

無情にも振り下ろされる女神の凶刃に、マジェコンヌは目を瞑って―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――やめてくれ、ネプテューヌ」

 

「っ、え………? はく、と………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時、ネプテューヌの背後から力強く、けれども愛してやまない感触が包み込んできた。

―――白斗が抱きしめてくれているのだと、すぐに気づけた。

 

 

「そんな気持ちで刃を振るっちゃダメだ。 ……お前達に、俺と同じコトなんてさせたくない」

 

「で、でも白斗!! こいつは……マジェコンヌは!!」

 

「分かってる。 許さなくていい。 ……だから、殺しちゃダメだ」

 

 

人を殺すことが、どれだけ愚かで、空しくて、苦しいことか。

それは白斗が一番よく知っている。

耳元で囁きながら、ゆっくりと、氷を解かすかのような温かさと優しで白斗はネプテューヌを落ち着かせていく。

 

 

「アイエフとネプギアも頼む。 ……この通りだ」

 

「………お、お兄ちゃん………」

 

「……分かってる……分かってるわよ……。 でも……っ」

 

 

やりきれない怒りが、二人の顔を歪ませる。

けれども白斗の言葉もしっかりと届いていた。だからこそ、怒りで振り上げた手が静かに下ろされていった。

 

 

「な、何のつもりだ小僧!! 情けのつもりか!!? とんだ偽善者だなぁ!!?」

 

「ッ!! マジェコンヌっっっ!!!」

 

 

一方のマジェコンヌはプライドを傷つけられたと受け取ったのか、泥まみれの顔を上げながら吠えた。

白斗の思いを踏みにじるようなその言葉にネプテューヌはまた怒りを再燃させる。

咄嗟に前に立った白斗がそれを手で制し、しかし代わりに怒号を吐きかけた。

 

 

「勘違いするなッ!! 正直、俺に対するあれこれはどうでもいいがネプテューヌ達を傷つけたことは俺に取っちゃ何よりも許せねぇんだよっ!!!」

 

「――――っ!!?」

 

 

ズン、と一歩踏み出して顔を近づけてくる。

文字通り、一歩間違えればその顔を踏み砕いていたかもしれない。それほどまでに彼の顔は怒りで満ちていた。

ただ、その理由がネプテューヌ達を傷つけたことだというのは良くも悪くも白斗らしい理由だったが。

 

 

「ただ、その所為でネプテューヌ達に苦しい思いをして欲しくない。 それに……借りもある」

 

「借り、だと……一体何の……」

 

「惚けるな。 俺の体に絶暴草をブチ込んだのはアンタじゃない第三者だろ? それにアンタ、あの時絶暴草の投与量を少し緩めてくれた」

 

「………っ!? 貴様、どうしてそれを……!?」

 

 

白斗の言に、マジェコンヌが、そしてネプテューヌ達が目を剥いた。

そう、あの時。捕らわれた白斗がカプセルに浮かべられていた時、マジェコンヌは端末を操作し、絶暴草の投与量を押さえてくれていたのだ。

もし、それがなかったらあの時のフリージアの花では間に合わなかったかもしれない―――白斗はそう考えていた。

 

 

「それに俺の心臓に仕掛けられていた爆弾。 いつでも使えたはずなのに爆発させなかった」

 

「そ、それは私が巻き込まれるかもしれないからで……!!」

 

「もういい。 形はどうあれ、一応アンタによって俺の命は繋ぎ止められたんだ。 だから今回だけ、俺の命を助けてくれたアンタの命を助ける。 ……許しはしないけどな」

 

 

そう言いつつも、白斗の顔は怒りを忘れて緩く微笑んでいた。

―――父親のあの狂気を目の当たりにしてきた彼だからこそ、怒りや狂気に身を任せる愚かさを心得ている。

だから彼は誰よりも早く、それから脱せられたのだ。

 

 

「だけどこれだけは言っておく。 形はどうあれ、その命はもうアンタだけのものじゃないんだ。 ……無駄には、しないでくれ」

 

 

「――――っ!! …………そう、だな…………」

 

 

―――そんな彼の姿に、言葉に、マジェコンヌは何かを見た。

やがて耐え切れなくなったのか、顔を俯かせる。先程までのような悪意も、覇気も、敵意も無い。

今の彼女に、もう悪事など働けはしない―――誰もがそう悟らざるを得なかった。

 

 

「ネプテューヌ、それにみんなもありがとな。 俺のために怒ってくれて。 だから―――」

 

「もういいわ。 ……正直、全然納得していないし今でも冷静ではいたくないけど……白斗の想いを踏みにじるのは、もっとイヤだもの」

 

「うん。 ……お兄ちゃんが止めてくれなかったら、私達はきっと後悔してた」

 

「……そうね。 こいつは許せないけど……私は白斗を信じてるから」

 

 

そう言ってネプテューヌは、ようやく微笑んでくれた。ネプギアも、アイエフも然り。

きっと心ではまだマジェコンヌに対する怒りは収まっていないだろう。だが、それ以上に白斗への想いが、それを上回っていた。

だから誰もが刃を収めてくれる。白斗とも安心したかのように微笑んだ。が、アイリスハートはどこか不満気である。

 

 

「え~? あたしとしてはもうちょっと体に教えてあげたいトコロなんだけどぉ~……」

 

「プルルート。 ………頼む」

 

「う………し、仕方ないわねぇ。 なら、この埋め合わせは白くんにしてもらおうかしら?」

 

 

プルルートも嘗てはマジェコンヌに迷惑を掛けられた身。

故に彼女を許せない気持ちも理解できる。それでも白斗は頭を真摯に下げて頼み込んだ。

そんな彼の迷いない姿にさすがのアイリスハートも気圧されたらしく、素直に引き下がってくれる。

全員の同意を得たことで、皆を代表してネプテューヌが改めて刃を突き付けた。

 

 

「―――マジェコンヌ! 今回は白斗に免じて命だけは助けてあげる。 ……けれどもこれは許しではない、罰よ。 貴女はその屈辱と罪を背負っていきなさい。 そして……その罪と向き合うの」

 

「………向き合う………か……」

 

「ええ。 私達に対してじゃない、白斗に対して償いなさい。 方法は任せるわ。 でももし、次こそ白斗を裏切ったのなら……私が止めるから」

 

「……………………」

 

 

今回のネプテューヌ達の怒りの原因は白斗に対する暴虐だ。

だから、彼に対する償いを求めた。これからどう生き、どう償うかはマジェコンヌ自身が決めること。

女神様らしい采配に、白斗も満足げだった。

 

 

「さっすが、俺の女神様」

 

「……良かった。 貴方の女神になれて」

 

「ちょっとそこ! 何甘い空気作っちゃってんの!? 今回の攫われヒロインポジションは私達なんだから……ってそうだ!! コンパは!!?」

 

 

何やらメインヒロインの座を頂いているネプテューヌに対して猛抗議の声を上げるアイエフ。

と、ここでようやく気付いた。コンパがいないのだ。

 

 

「……さっきも言った通り、あの娘ならネズミに預けてある。 奴はあの娘を気に入っていたようだからな、手荒な真似だけはしていないはずだ」

 

「ならちゃっちゃと迎えに行きますかね」

 

 

話しぶりからして、コンパにだけは危害を加えるつもりはないらしい。それに傍についているのはあのワレチューという特に戦力にもならないネズミ。

ひとまず安心したが、早く安心させてあげるに越したことは無い。マジェコンヌが指を差した先は、一軒の家。一同は早速そこへと向かっていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……う、う~ん………?」

 

「お、お目覚めっちゅかコンパちゃん!!」

 

 

―――激闘に決着がつく少し前、温かな陽気に誘われて眠っていたコンパがようやく目を覚ます。

するとそんな彼女の顔を覗き込むようにして一匹のネズミが顔を近づけた。

その名はワレチュー、マジェコンヌの仲間の一人である。

 

 

「……ネズミさん……? あれ、あいちゃんは……!?」

 

「あ、あの女の子なら……その……向こうでお昼寝してるっちゅ!!」

 

「そ、そうなんですか? で、ネズミさん……その、顔が近いんですけど……」

 

 

柔らかい雰囲気を持つが故にあどけなさを感じるコンパの顔。

ワレチューにとってそれは天使の寝顔も同然だった。そんな天使にお近づきになりたいと思うのは男として当然の性。

 

 

「コンパちゃん……オイラは悟ったっちゅよ。 どんなことをしたって、愛がなきゃ空しいって……」

 

「ネズミさん……? きゃっ!?」

 

 

わなわなと震えるワレチュー。それはまるで、覚悟を決めた男の姿。

意を決してコンパに更に顔を近づける。

緊張の余り顔を赤くして、息を荒くしているワレチューに温厚なコンパもさすがに引き気味であった。

 

 

「コンパちゃん!! オイラ、リーンボックスで君を見た時から好きだったっちゅ!! さぁ、今こそ誓いのキスを交わすっちゅよ!! ん~~~~っ」

 

 

唇を尖らせて、コンパの柔らかそうな唇へと触れようとするワレチュー。

しかしコンパは今までの緩そうな表情を少し引き締め、しっかりとした手でそれを押しのけた。

 

 

「……ダメです、ネズミさん。 それは……出来ません」

 

「っちゅ!? な、なんでっちゅか……!?」

 

 

柔らかく、優しい雰囲気を持つコンパからは考えられないハッキリとした拒絶だった。

押しに弱い彼女だと思って想像もしていなかったらしい、ワレチューの表情が驚愕に満ちる。

それに構わずコンパは、力強い瞳で応えた。

 

 

「……私、好きな人がいるんです。 そしてその人に酷いことをした貴方は……どうしても、好きになれないんです」

 

「が………ガッガーン!!? そ、そんなっちゅ―――――っっっ!!!!?」

 

 

ワレチューはこの世の終わりとも思える声を高らかに上げた。某ム〇クの叫びのようだった。

大好きな子から拒絶され、しかもその女の子には既に好きな人がいて、挙句嫌われる要員を作ってしまっていたのだから。

 

 

「はぁい、そこまで~」

 

「っちゅ? ………って、お前はアイリスハートっちゅか――――!!?」

 

 

絶望に打ちひしがれているところ、その尻尾が掴まれて宙ぶらりんとなるワレチュー。

天使の顔の次は、女王様の顔だった。

神次元出身であるワレチューは知っている。嘗て自分達にトラウマを植え付けた存在、アイリスハートであることを。

 

 

「お久しぶりねぇ、ネズミさん? ……でも、薄汚いげっ歯類風情がコンパちゃんに触れようだなんて……100年早いのよぉ!!」

 

「ッヂュ―――――!!?」

 

「あはははは!! あーっはっはっはっはっは!!!!!」

 

 

溜まったうっぷんをぶつけるかのように、アイリスハートはワレチューを容赦なく地面に叩きつけた。

何度も何度も何度も何度も。

余りもの凄惨な光景に、コンパは勿論白斗たちも、そしてマジェコンヌも改めてアイリスハートことプルルートの恐怖が刻み込まれることになるのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――そして、二日後。

 

 

「ふぅ……これでこっちは耕せたな。 おい、ネズミ! そっちはどうだ?」

 

「ひぃ……ひぃ……こ、こっちも終わりっちゅよ。 あー……手がマメだらけっちゅ……」

 

 

あのナス畑でマジェコンヌとワレチューは畑を耕していた。

マジェコンヌはあの魔女帽子から麦わら帽子を被り、背中には籠を背負って、杖の代わりに鍬を携えるなど完全な農家スタイル。

ワレチューも似たような装いとなっており、二人で力を合わせて炎天下の中、今日もせっせとナスの栽培に勤しむ。

 

 

「けれどもオバハン、本当にこのままナス農家になるつもりっちゅか?」

 

「今はこれしか思いつかんだけだ。 何しろ有り金はたいてまで買ったのだからな。 ……こうでもしないと勿体なかろう」

 

「今思えば、ナスに拘ったのが敗因だったっちゅかね……」

 

「そうだな……こんなにも私を虜にさせるとは、罪深いナスだよ……」

 

「違う、そうじゃないっちゅ」

 

 

どうやらこのマジェコンヌは、ナスによって運命を狂わされてしまったのかもしれない。

 

 

「……それに、一応私の命は最早一人だけのものではないらしいからな。 無下には出来ん」

 

「……あの小僧っちゅか。 オバハンも変わったっちゅね」

 

「フン。 借りを返すだけだ」

 

 

言いながらも鍬を振るう手は止めない。

耕した土に種を撒き、水を掛ける。誰がどう見ても立派なナス農家へと転身していた。

 

 

「しかしネズミ、貴様まで手伝ってくれるとはな。 貴様こそどういう風の吹き回しだ?」

 

「……今のままのオイラじゃコンパちゃんは振り向かせられないっちゅ。 だからまずはオバハンの償いを手伝っていい男になるっちゅ!! そうすればコンパちゃんもあの小僧からオイラに乗り換えるはずっちゅ!!!」

 

「………まぁ、頑張れ」

 

 

到底成功するとは思えないが、言わぬが花だった。因みにナスも花は咲きます。

やれやれと溜め息をついていると、一人の少年が黒コートを翻しながら近づいてくる。

 

 

「お、精が出てるねーお二人さん」

 

「げーっ!? 白斗っちゅか! 何故ここに来たっちゅ!?」

 

「……ああ、今日が退院の日だったのか」

 

 

白斗だった。

あの日、一応入院中に抜け出してきたので戦いが終わった後再び病院内へと逆戻りされ、更には女神のお説教と言うフルコンボを食らっていたため入院が伸びてしまった。

そのため今日から改めて退院だったのだが、その足でここまで来たらしい。

 

 

「ま、俺が言い出したことだからな。 責任もって定期的に監視することになったんだよ」

 

「随分な暇人っちゅね。 でもオイラは真面目に仕事してるっちゅ! ちゃんとコンパちゃんに報告するっちゅよ」

 

「前向きに検討いたします」

 

「的確かつ無難な答えだな。 他の奴らは来ていないのか?」

 

「んー? 畑の入り口にノワールとプルルートが待機してくれてるけど」

 

「我々は随分信用されてないな。 まぁ、当然と言えば当然か」

 

 

本来、監視役には白斗以外が就く予定だったらしい。けれどもこうして白斗自らが赴いたのは、彼なりの責任なのだろう。

ただ、昨日今日で殺し合った仲だ。すぐに信頼が置けるはずもなく、有事の際の備えとして誰かが傍についているようだ。マジェコンヌは嫌悪感を露にすることもなく、一息つく。

 

 

「にも関わらず一人で来たということは……聞かれたくない話でもあるのか?」

 

「ああ。 ……マジェコンヌ、アンタは魔力こそ絶大だがアンチモンスターを生み出せるだけの技術は無い。 となるとそれらを生み出し、更に俺に絶暴草を投与したのは―――誰だ?」

 

 

どうやらそれが聞きたかったことらしい。

しかし、その質問をするだけなら別にノワール達が席を外す必要もない。つまり、彼には見当がついているのだ。

一体誰が、マジェコンヌに手を貸したのか。

 

 

「―――分かっているのだろう? 黒原才蔵……貴様の父親だ」

 

「……やっぱり、か……」

 

「やっぱりって……どうして分かったっちゅか?」

 

「俺の心臓の調整が完璧だったからな。 これを弄れるのは俺と……製作者である親父しかいない。 それに、作戦の一つ一つが俺に対する悪意に満ちてたし」

 

「嫌な推測の仕方だな……」

 

 

と、言いつつもマジェコンヌも同情の色を見せていた。

余りにも行き過ぎた才蔵の行動にほとほと嫌気が差したため、彼との縁を切った。

今にして思えば最善手だったと確実に言える。

 

 

「それと………姉さんも、いたのか……?」

 

 

だが、彼にとって本当に聞きたいこと。それは父親のことなどではなく、姉の事だった。

もし父親がこちらに来ているのなら、姉も来ているのかもしれない。

白斗にとって姉とは嘗ての生きる意味であり、全てだった。この世界に来た直後はもう会えないものと思っていたのだが、可能性が出てきたのなら無視はできない。

 

 

「姉……黒原香澄のことか。 カプセルに入れられていたが、あの男には大事にされていたよ」

 

「そっ、か……。 でも、生きてくれているんだな……なら、まだ助けられるかもしれない……」

 

 

一縷の望みをかけるには、十分すぎる情報だった。

同時に白斗にとって、生きる意味がもう一つ出来たとも言える。

姉を、今度こそ救い出す。この世界の技術なら―――女神達の力があれば、それが出来るかもしれない。

 

 

「すまんが私はもう奴とは縁を切った。 雲隠れしているようだし、もう居場所など見当もつかんぞ」

 

「良いって。 分かっただけでも……俺に取っちゃ希望だ。 ありがとな、マジェコンヌ!」

 

 

一応詫びるものの、白斗は寧ろお礼を言ってきた。

屈託のない笑顔で。それがマジェコンヌにとっては、眩しく見えて仕方がない。

 

 

「……女神共が、貴様を大切にする理由が分かった気がするよ」

 

「ん? 何か言ったか?」

 

「何でもない。 これ以上は作業の邪魔だ。 それに、女神共も呼んでいるようだぞ」

 

「あ、ホントだ。 それじゃ頑張ってなー」

 

 

監視は十分できたとして、白斗は手をひらひらさせながら歩いていく。

何とも軽い、けれども確かにして奇妙な繋がりが今ここにできた。

最早敵とは呼べない、でも単なる知り合いでもない、しかし友達と呼ぶにはおこがましい。

この距離感には、どういった名前が付けられるのだろうか。何ともむず痒い感情に、マジェコンヌは溜め息を付きながら今日も鍬を振るうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――因みにこの後、プラネタワーで白斗の退院祝いとプルルートの歓迎会を兼ねたパーティーが開かれるのだが。

 

 

「「きゃあああああああああああああ!!! ナスぅううううううううううううう!!?」」

 

「え!? ネプテューヌはともかく、アイエフまで!!? 一体何事!?」

 

「あはは~。 どうもアイエフちゃん~、あれからナス嫌いになっちゃったみたいで~」

 

「ねぷねぷはともかく、あいちゃんまで……」

 

 

ナスの犠牲者がまた一人、誕生してしまったとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――こうして、白斗は戻り、そしてプルルートという新しい客人を迎えて、ゲイムギョウ界は更に慌ただしい日々となるのだった。




大変長らくお待たせして申し訳ありませんでしたああああああ!!!
ということでとうとうみんな大好きプルルート登場です!!長かった……。
当然ヒロインの一人なのでこれからも大活躍&2828シーン満載のご予定です。
そしてマジェコンヌとも本当の意味で決着。ねぷ二次ではある意味お約束だったかもしれませんが、王道は王道でいいよね。ってかナスコンヌの下りは絶対に外したくなかった。Vでもアニメでも好きなシーンだし(欲望
さて、次回からはぷるるんも織り交ぜての日常回でお送りしたいと思います。お楽しみに!!
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