恋次元ゲイムネプテューヌ LOVE&HEART   作:カスケード

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第四十四話 私を無人島に連れてって!

―――どうも皆! お久しぶり、マベちゃんだよ!

つい先日白斗君が退院して諸々が落ち着いたから、そろそろ白斗君をデートに誘っちゃおうかなー……なんて考えていた矢先になんと神次元からぷるちゃん襲来だよ!?

しかも何だか白斗君と良い雰囲気になっちゃってるし!? もう、どれだけフラグ建築士なのかな白斗君は!? 有り得ないよ!!

ただでさえ女神様とかアイドル達とかに白斗君取られ気味なのにそこにぷるちゃんまで加わったら余計に私の立つ瀬が無くなっちゃう!!

 

 

ああー……いっその事、白斗君と一緒に人気のない南の島まで逃避行出来たらなー……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………なんて考えていたのが、いけなかったんでしょうか………。

 

 

 

 

 

 

 

ザザーン……ザザーン……そんな音を立てて、波が砕け散ります。

 

 

 

 

「…………………………」

 

「…………………………」

 

 

 

 

―――今、私と白斗君はとある光景を目の当たりにして茫然としている。

見渡す限りの水平線、澄み切った青い空、美しい砂浜、背後には密林やら峻険な山がそびえている雄大な自然。

……もう、お分かりですよね……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………私達、今……無人島に来ちゃっています……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――さて、ナレーションはここからいつもの通りに戻る。

何故こうなったかは遡ること約30分前、リーンボックスの教会にて。

 

 

「お邪魔しまーす!」

 

「あら、マベちゃんじゃありませんの。 いらっしゃい」

 

「お、ベール様が仕事なんて珍しい。 明日のリーンボックスは雪が降っちゃうのかなー」

 

「こーら。 失礼ですわよ」

 

 

執務室のドアを開いたのはマーベラスAQL。元気を信条とする忍者娘である。

そこでは珍しくベールが政務をこなしていた。いつもならばゲーム三昧で仕事など何のそのという彼女だが、さすがに目に余ったチカに命じられたらしい。

少しばかり辟易とした様子で書類を片付けていた。

 

 

「えへへ、ごめんなさい。 実はラ・ピュセルの限定ミルクシュークリームが手に入ったのでお裾分けに来ました!」

 

「あら、これはありがとうございます。 根を詰めすぎるのも良くないですしティータイムにしましょうか」

 

「やったー! ベール様の紅茶と一緒に食べたかったんですよねコレ!」

 

「ふふ、そう言うことなら張り切って準備しますわ。 少々お待ちくださいな」

 

 

如何にも疲れたと言わんばかりに肩を揉み、椅子から立ち上がるベール。

因みに仕事に手を付けてなんともう一時間も経過してしまっている。一時間も重労働したのだから、休憩しなければ過労で倒れてしまうだろう。

それに折角来てくれた客人を待たせるのは忍びないと、張り切って紅茶の準備に取り掛かる。

 

 

「うーす、姉さん……って何だ、マーベラスまでいたのか」

 

「あら、白ちゃん!?」

 

「あ、ヤッホー!! 白斗君もこっちに来たんだ!!」

 

 

更にそこへ現れたのは白斗だ。

想い人の到来に思わず心臓が跳ね上がり、破顔一笑になる。

ただ顔を見せてくれただけなのに、それだけで元気が出るものだから本当に分からないものだ、恋と言う感情は。

 

 

「それにしてもアポなしで来てくださるなんて珍しいですわね。 いつもなら私が連絡を入れてから来るのに」

 

「たまにはいいでしょ。 これ差し入れのクッキー……だけどもっと美味しそうなのがあるな」

 

「私の差し入れ! 白斗君も一緒に食べよ!」

 

「いいのか? んじゃお言葉に甘えて」

 

 

今回は珍しく、白斗のアポなし突撃のようだ。

けれどもベールとしては何ら問題はないどころかウェルカムだ。何せベールからすれば白斗は弟にして想いを寄せる人。

いつでも気兼ねなく訪ねてくれる関係になれて嬉しいというものだ。

一方のマーベラスは紅茶を啜りながらも少し寂しさを覗かせる。

 

 

(白斗君に会えて嬉しけど……ベール様に会いに来たんだよね……。 はぁーあ……もうちょっと白斗君に意識されたいなぁ……)

 

 

決して蔑ろにされているわけではないのだが、それでも寂しさを感じてしまうのは女の性。

白斗お手製のクッキーを齧りながらため息を付いていると執務室のドアが更にノックされる。

 

 

「あらあら、今日はやけにノックされる日ですわね……何用ですの?」

 

『すみませんベール様。 チカ様より転移装置の試運転を行うので至急いらして欲しいと』

 

「転移装置……ああ、そう言えば今日でしたわね! すっかり忘れてましたわ!」

 

 

思わず立ち上がってしまうベール。

転移装置とは、シェアエネルギーを用いることにより各国間の瞬間移動を可能にする装置の事である。

以前白斗も使用したことがあるが、その時使用できたのはルウィーのみ。ラステイションとここ、リーンボックスにおいてはまだ実験段階だった。

 

 

「あれ動かせるの?」

 

「それを動かすための試運転ですわ。 折角ですからお二人も見学なさいます?」

 

「うーん、じゃぁ折角ですし! 白斗君は?」

 

「俺も興味あるから、見に行くとしますか」

 

 

マーベラスは機械などにはロマンを感じない派だが、手持ち無沙汰になるのも嫌だったのでついていくことに。

白斗は純粋に興味があったらしく、多少大人びていてもやはりこういうところは「男の子」なのだなとベールが微笑んだ。

そうして案内された先にはあの時と同型の機械が設置された、計器だらけの物々しい部屋。

 

 

「あ、お姉様。 お待ちしておりました」

 

「どうもーチカさん」

 

「アンタはお待ちしてないわよ黒原白斗ォオオオオオオオオオオオオ!!!」

 

 

そして試運転の指揮を執っていたのは箱崎チカ。

この国の教祖にしてベールをお姉様と慕う少女……なのだが、心酔する余り自分の敬愛するベールを取られることに関しては人一倍敏感だ。

彼女の弟分にして想いを寄せられている白斗などまさに目の仇。早速噛みついてくるのだが。

 

 

「へいへい。 あ、これお土産のクッキーっす」

 

「要らないわよ………はぐっ!?」

 

「自信作ッス。 悪くはないでしょ?」

 

「もぐもぐ……ま、まぁ味は良いけど……」

 

「後で姉さんの紅茶と合わせるとサイコーっすよ。 実験終わったらご褒美に淹れてくれるかもですよ~?」

 

「……そ、そうね。 さっさと実験を終わらせるとするわ」

 

 

もう慣れたもの、と言わんばかりに白斗によって丸め込まれてしまうのだった。

 

 

「……チカさんもある意味チョロいですね」

 

「しかもその口実が私なのですから、何だか複雑ですわ……」

 

 

苦笑いのマーベラス、溜め息のベール。

兎にも角にも張り切って調整を進めていくチカと技術者達。やがてデータの打ち込みなどが終わったのか、一人の技術者が準備完了と報告する。

調整に関してはほぼ見ているだけのベールだったが、この国の女神として音頭を取らないわけにはいかない。

 

 

「……それでは転移装置、起動!」

 

 

ベールの一言に合わせてレバーが上げられる。

―――その時、床にキラリと光る“それ”を、白斗は見つけてしまった。

 

 

「ん? ……おい、ネジ一本落ちてんぞ!?」

 

「え!?」

 

 

切羽詰まった白斗の声に慌てて振り返るチカ。

たかがネジ一本、と思うかもしれないがこれ程精密機器が詰められた部屋に転がっているネジの方が余程危険なのだ。

何故ならネジの締め忘れで何かしらの事故に繋がることなど珍しくないからだ。

 

 

「い、急いで停止させなさ――――きゃぁっ!!?」

 

 

チカが停止の命令を繰り出すも、手遅れだった。

ネジ一本の喪失で機械が大混乱を招いたらしく、転移装置から光がまるでレーザーのように溢れ出す。

そしてそのうち一本が、マーベラスの下へと向かい―――。

 

 

「きゃ………!?」

 

「マーベラス―――――――ッッッ!!!」

 

「白ちゃん!? ダメ―――………」

 

 

彼女を守るため、白斗が飛びついた。

しかしその光の奔流は想像以上に大きく、二人して呆気なく飲み込まれてしまうのだった―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――で、気が付いたら絶海の孤島……完璧に遭難だよね……」

 

「そうなんですよ」

 

「……………………………………」

 

「すいませんッス!! だから絶対零度の視線やめてくださいッス!!!」

 

 

―――などとふざけていないとやってられない状況だった。

そう、これにて冒頭に至るのである。

 

 

「改めて白斗君……これって……」

 

「……転移装置の暴走でここまで飛ばされたってことだろうな。 見た所リーンボックスも見えないし……多分各国も未発見の島……じゃないかなぁ……」

 

 

手をかざして辺りを見回す。

まだ反対側を見て回ったわけではないが、少なくとも見える範囲は水平線が広がり、島一つも見えない。

船でも方向を誤れば陸地に辿り着くのは不可能だろう。

 

 

「携帯電話も案の定圏外……で、でもベール様達見つけてくれるよね!?」

 

「捜索隊を編成してはくれるだろうが……この場所自体来たのは偶然みたいなモンだから場所の特定には時間がかかるだろうなぁ……」

 

 

はぁ、と溜息を付きながら白斗が額を叩く。

もう少し希望的観点を持ちたかったが、無いものねだりをしても仕方がないのだ。

ガックリと肩を落とすマーベラスと白斗。だが次の瞬間には顔を上げて。

 

 

「……だったらやるべきことは」

 

「サバイバルの準備、だな」

 

 

―――そこから先は早かった。

片や忍者、片や様々な訓練を受けさせられた元暗殺者。互いに知識と技術を持っていることもあって、迅速かつ鮮やかな手際だった。

白斗は寝床の準備及び飲み水の調達と言った力仕事、マーベラスは身軽さや器用さを用いて食料や道具作りに取り掛かる。

 

 

「食べられる木の実見つけたよ! これとか焼いて食べると案外美味しいの!」

 

「こっちも飲み水と寝床は確保した。 簡素だけど」

 

 

互いに集めた成果を報告する。

雨が降った際の氾濫を考慮して川の近くに寝床は作れなかったが、柔らかい草を敷き詰め、上部で大きめの葉で屋根を作ることで質素かつ簡素ながらも小屋にも満たない、まさに寝床を作った白斗。

対するマーベラスは忍者としての知識や経験から木の実、そして魚などを取ってきた。

 

 

「それじゃ後は火を起こすね。 忍!」

 

「おぉ! 火遁の術だ! 忍者すげぇ!!」

 

 

マーベラスが巻物を口に加えて印を結ぶとボッと火が付いた。

火はくべられた薪に燃え移り、恵みの炎となる。後はそれに取ってきた魚や木の実を枝に刺して炙るように焼いていく。

香ばしい匂いと共に焼き上げられたそれにかぶりついた。自然の恵みが口の中いっぱいに広がる。

 

 

「うんうん、魚も木の実も味はピカイチ。 これならしばらくサバイバルしても大丈夫だな」

 

「そーだね! ………って、ん?」

 

 

ふと、マーベラスが悟った。

ここは無人島、誰もいない。 携帯電話は圏外、誰にも繋がらない。絶海の孤島、すぐに助けも来ない。

―――即ち今、この世界には二人だけなのだ。白斗とマーベラスというアダムとイヴがいるだけなのだ。

 

 

(……こ、これって……これって!? 思っていたことと違ったけど……本当に、白斗君と二人っきり……!?)

 

 

自覚するや否や、心臓の鼓動が痛い位に早まる。

ここには便利な生活用品やゲームはない―――でも、誰よりも一緒にいたかった人が、一番近くにいる。

そんな彼女の熱っぽい視線に気付いたのか、白斗が詰め寄ってきた。

 

 

「どうした? そんなに顔を赤くして……熱でもあるのか!? って熱っ!!」

 

「ひゃ……!? あ、当たり前だよ!! そんなに顔を付き合わせたら!!」

 

 

額同士を合わせて熱を測る。

当然、顔は近い。白斗の息がマーベラスの頬を撫でてくる。そんな状況で血液が沸騰しない乙女がいるだろうか。

願わくば、この鼓動がバレませんように―――緊張で手を震わせながらもマーベラスはそう祈った。

 

 

「え……ああ、ゴメンゴメン! そういやブランにも同じこと言われたな……って殺気ッ!?」

 

「……白斗君……ブラン様にも同じことしたんだ……へぇ~~~~~~~?」

 

 

ブランの名前が出た瞬間、マーベラスは不機嫌になった。

無理もない。こんな行動を自分だけではなく他の女の子、それも女神様にしていたのだから。

女誑しと言われても仕方のない行動である。

 

 

「な、何か知らないけどごめんなさい!!」

 

「許してほしかったらそうだねぇ……まずお風呂用意して欲しいな~?」

 

「すぐにご用意いたしますッ!!!」

 

 

相手が女神様だから仕方ないと言えば仕方ないのかもしれない。だからと言って引き下がったままではいられない。

ならば自分はより親密―――いや濃密な関係になるまで。まずは白斗に風呂を用意させる。

無人島で無茶な、と思うかもしれないが運よく砂浜に流れ着いた大き目のドラム缶があった。これならばドラム缶風呂が出来る。

 

 

「ふーっ、ふーっ……マーベラス、どうだ?」

 

「ん……これだったら水で埋めて……うん、いい湯加減!」

 

 

ドラム缶に水を張り、その真下に火をつけ、そして竹を使って空気を送り込む。

この一連の流れだけでも結構な重労働だが、白斗は苦とも思わずにそれを用意した。湯加減の方は別に用意した水で温度を調節すれば問題ない。

 

 

「そ、それじゃ俺は目隠しするからマーベラスが先に……」

 

「おっと、これくらいで先程の失言を許せると思ってるのかな~?」

 

「へ? まだ何か?」

 

「ありますとも。 ……い、一緒に……入ろ……?」

 

「………What!?」

 

 

なんと、混浴をご所望してきたのだ。

まだ風呂に入っていないにもかかわらず今度は白斗の血液が一気に沸騰する。如何に女心に疎い彼であっても、混浴が如何なるものか理解しているつもりだ。

 

 

「な、何戸惑ってるの!? 一度やったじゃない!!」

 

「あ、あん時ゃ仕方なくだろーがっ!!」

 

「ここには誰も咎める人はいないからモーマンタイ!! それともさっきの謝罪は上辺だけなのかな~?」

 

「う、ぐぐぐ………ッ!!」

 

 

今にも白斗の顔は緊張で爆発しそうになっている。

こんな無人島で女の子と二人きり、しかも二人は入れるサイズとは言え狭いドラム缶風呂で混浴、意識するなと言う方が無理である。

けれども、こんな状況が功を奏したのか―――白斗もどこか理性が緩くなってきてしまったのだろうか。

 

 

「……わ、分かった……」

 

「う、うん……よろしく、ね……?」

 

 

顔を赤らめて、目を逸らしたまま、しかし頷く。

受け入れてくれた―――そう思うだけで今度はマーベラスの心臓が飛び跳ねそうになる。

 

 

「……そ、それじゃ先に入るから……白斗君は後から入ってね?」

 

「お、おう……」

 

 

さすがに着替えまで除かれるのは恥ずかしいので茂みの裏で服を脱ぐ。

しゅる、と布と肌がこすれ合う音が静寂の夜に聞こえてくる。それすらも淫靡な音色だ。

続いて裸足のまま土を踏み、そして静かに湯加減を確かめながらちゃぷ、と湯に浸かる。

念のため背後を向きながら、しかも目を瞑っているとはいえ―――いやだからこそ、頭の中で「そんな光景」が嫌でも浮かんでくる。

 

 

「い、いいよ……」

 

「……それじゃ、失礼します……」

 

 

白斗も服を脱いでドラム缶風呂へと向かう。

面と向かって入浴はまだ色々と早すぎたのでお互いに背中合わせで入ることで同意を得た。

だがその白く柔らかそうな背中だけでも生唾ものだ。それを悟られないように必死に心の中で念仏を唱えながら、湯に浸かり、背中を合わせる。

 

 

(ひ、ひゃああぁぁあぁぁ~~~!? つ、つい勢いで混浴お願いしちゃったけど……は、白斗君の背中が私に……~~~~~っっっ!!?)

 

(色即是空空即是色難妙法蓮華経……!!!)

 

 

ここで互いがとんでもない状況になっていることを自覚する。

以前、混浴した時はタオルを巻いていたのだが今回はそれがない。だからこそ、お互いの肌の感触が直に伝わる。

 

 

(……でも、白斗君の背中……大きくて、逞しくて……安心できる……)

 

(……マーベラスの背中……柔らかくて、綺麗で……ドキドキするな……)

 

 

背中越しに伝わる感触、温もり、そして鼓動。

お互いのそれを共有していると、尚更緊張もするが、どこか心が溶け合うような、そんな不思議な気持ちで満たされていく。

―――まだ、この時間を共有していたい。そんな気持ちで。

 

 

「……あ。 見て白斗君! 星が綺麗だよ!」

 

「ん……? あ……ホントだ! すげぇ……!!」

 

 

ふと空を見上げたマーベラスの言葉に合わせて顔を上げる。

そこには燦然と煌く星々が、まるで夜空に散りばめられた宝石のように輝いていた。

澄み切った空の下、ここにはネオンの光も、排気ガスなどもない。だからこうして星本来の輝きが何物にも阻まれることなく煌いているのだ。

 

 

「……旅してるとさ、こんな素敵な景色に会えたりするんだよね……」

 

「そっか。 マーベラスは色んな世界を旅してるんだっけな」

 

「うん。 今もこの世界を見て回ってるけど……でもそろそろ腰を落ち着けようかなーって」

 

「そうなのか? そりゃまた何でだ?」

 

「なんででしょうねー?」

 

 

そう言いながら、マーベラスは白斗に体重を預けた。

少し驚いた様子だが、彼はいつも受け止めてくれる。そんな彼と出会ってしまったから、この世界から離れたくない。

まだ他の世界を旅するつもりはないし、もうそのつもりも無かった。白斗こそ、彼女が全てを捧げられる主だと信じているから。

 

 

「お、おい? 逆上せたのか?」

 

「違うって……ううん、そうかも。 そろそろ出ようか」

 

「じ、じゃぁ俺から……」

 

 

もう少し星空を見たくもあったが、逆上せそうなのも事実。

素直に受け入れて上がることにした二人。その後、火照った体を冷ますべく草のベッドに寝転がりながら星空を見上げる。

 

 

「……本当に、綺麗だな」

 

「うん……」

 

 

風呂から出て以降、あまり多くは語らなかった二人。

でも、今この瞬間も満たされているから。

白斗は未だ緊張で、マーベラスは幸せで。心が満たされていた。

 

 

「……そういやさ、この世界に北極星ってあるのか?」

 

「ホッキョクセイ?」

 

「あー……ないのか。 俺の世界では常に北の空で輝いている星でな、目立つから方角を知るのに適してるんだ」

 

「北極星じゃないけど、南に光る星ならあるよ。 ホラ、あれ!」

 

 

彼女の指に同調して視線を向ける。

南の空に、一段と煌く美しい星があった。白斗の居た世界とは真逆の方向だが、それでも方角の目印となる星があるのだから有難い話だ。

いや、そんな無粋なことは抜きにして。

 

 

「………綺麗だな」

 

「でしょ? で、そこからあの星とこの星を繋げていくと剣座になるんだよ!」

 

「剣座? こっちにも星座ってあるんだな」

 

 

白斗が目を輝かせて食らいついた。

今までこの世界ではゲームや漫画と言った娯楽に触れてきたが、大自然に浸る機会は少なかった。

リーンボックスでベールに案内されたくらいだ。だからこそ、こうして何もない自然の中、女の子と共に星空を見上げるなどまさに夢みたいな光景だった。

 

 

「勿論あるよ! それでね、あっちの星とこっちの星を繋げるとナス座!」

 

「ネプテューヌ吐くぞ」

 

「吐いたって」

 

「プッ! 手遅れかよ、はははは!!」

 

「あっはははは! ホンットーにネプちゃんって感じで安心するよねー!!」

 

 

笑いのネタにされているネプテューヌには申し訳ないが、こうして些細な話題だけでも楽しい。

家電製品も、公共施設も、ゲームも無いこの無人島。

でも周りに雄大な自然があって、その自然の恵みがあって、こんな綺麗な星空がいて―――隣に素敵な女の子がいてくれる。

これ以上、何が要るというのだろうか。

 

 

「……白斗君。 何だかね……私、幸せって感じがする……」

 

「……奇遇だな。 俺もだ」

 

 

二人は、微笑み合った。

その後も色んな星や星座、その成り立ちなどについて語り合う。気が付けばサバイバル初日ということもあり、いつのまにか寝てしまっていた。

けれども、不思議と次の日を迎えるのが楽しみになっているのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日の朝。

 

 

「……なぁ、マーベラス。 本当に巻物咥えるだけで忍法使えるの?」

 

 

焚火の煙で救助信号を出しつつ、ある程度の食料と飲み水を確保した二人は運動も兼ねて戦闘訓練を行うことに。

今回はマーベラスが用いる忍法を白斗もマスターしてみようというもので、手渡された巻物を訝しげに見つめている。

 

 

「才能次第かなー。 でも白斗君だったら大丈夫だよ! ネプちゃんでも使えるんだし!」

 

「そっか、なら大丈夫だな! ネプテューヌが使えるなら!」

 

「うん! ネプちゃんが大丈夫なんだから白斗君も大丈夫!!」

 

 

二人は一体ネプテューヌを何だと思っているのだろうか。

 

 

「改めて説明すると口に巻物を咥えて、印を結びながら出したい忍法をイメージするの。 今回は火遁の術の巻物だから、火を起こすイメージで!」

 

「おお、焚火を起こす時に使った奴だな。 では……」

 

 

何事もにもチャレンジ、白斗は早速巻物を加えて印を結ぶ。

マーベラス曰く、本人の素質やイメージ、印の結び方によって出力や効果範囲、また出る術の形そのものが違うのだという。

とりあえず白斗は昨日マーベラスが焚火を起こした時の姿をそのままコピーするイメージで念じてみる、すると、枯れ草の山に火が灯った。

 

 

「わぁ、一発クリア!! 凄いよ白斗君!! ひょっとしたら忍者の才能あるんじゃない!?」

 

「そ、そうか? しかし忍者か……悪くないな……!」

 

 

年頃の男の子としましては、やはりそういったものに憧れを持ってしまうもの。

白斗は想像した。闇夜を切り裂く一筋の影となり、あらゆる任務をこなす自身の姿に。

そしてマーベラスもそんな彼と肩を並べ、世界を股に掛ける姿を思い浮かべる。余りもの夢見心地に口からいけない筋が垂れそうになる。

 

 

「っしゃ! こうなったらこの間、ゲームで見た忍術でも……ん? 何か焦げ臭……うぅぉわちゃああああああああああああああああああああああああああああああああ!!?」

 

「ひゃああああああっ!? 白斗君に燃え移っちゃったぁ!!?」

 

 

調子に乗って少し出力を上げてみた。

ところがイメージというか、火力が強すぎたらしい。火が白斗の服に燃え移ってしまう。

大慌てでそのまま海に飛び込み消火。濡れた髪がまるでワカメのようにへばりつき、更には頭に何故かタコをのっけて白斗は戻ってきた。

 

 

「……何故こうなったし……」

 

「あー……白斗君の場合は精密な制御には優れるけど、出力を上げると押さえが効かなくなるって感じだね。 小技や搦め手で攪乱って感じがピッタリなんじゃないかなー?」

 

「それ普段の俺のスタイルと大差ねぇええええええええええええええええ!!!!!」

 

 

結論、白斗君に急激なパワーアップは無理のようです。

―――その数十分後。

 

 

「獲ったどおおおおおおお!! 大物獲ったどおおおおおおおおおお!!!」

 

「うーん。 さっきの引きずってるね……」

 

 

海面を突き破って、銛に刺さった大きな魚をこれ見よがしに掲げる白斗。

因みに銛はつい先程、木の枝を削って作ったものである。余程先程の醜態が堪えたらしい、白斗は魚相手に鬱憤をぶつけていた。

その後、余りにも捕らえすぎて処理しきれず無暗な漁はいけないとマーベラスにこっぴどく叱られる白斗であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、次の夜。

 

 

「このキノコもーらいっ!! これ美味しいんだよねー」

 

「あ! 大事そうに焼いてたのはそう言う理由か!」

 

 

今日も今日とて自然の恵みを味わう二人。

サバイバル生活も三日目ともなればだいぶ慣れてくるというもの。白斗とマーベラスはいつの間にか当たり前のように朝起きて食料や飲み水の調達、煙などで救助信号を送る、そして時間が出来れば島の探検など、時間をフル活用して過ごしていた。

 

 

「ふーっ、ご馳走様。 ありがとなマーベラス、美味かったよ!」

 

「ありがとう。 といっても焼いただけなんだけどね」

 

 

串を片付けながらも、マーベラスは嬉しそうに頬を緩める。

些細であっても想い人から称賛の声を受けると気分が良くなってしまう。そして、今日も今日とて寝転がりながら星空を見上げる。パチパチと火の粉が弾ける音を耳にしながら。

 

 

「はぁー……今日も救助は来なかったなー……」

 

「うん……」

 

 

この星空とも三度目の邂逅になるが、いつ見ても飽きない。

少しひんやりとした空気の中、この無限の星空が二人だけのものだと思うとそれだけでぜいたくな気分に浸れる。

救助が来なかったというのに、全然残念という気分すら湧いてこない。

 

 

「……このまま救助が来なかったら、俺達永遠にここに閉じ込められるのかなー……なんて」

 

「……………………」

 

 

白斗が漏らしてしまったそれは、ほんの少しの弱音だったのだろうか、それとも淡い期待なのだろうか。

マーベラスからすれば、それはどちらにも当てはまる。確かにこのまま帰れなくなるのは正直嫌である。しかし、白斗と二人きりの生活が終わってしまうことに寂しさを感じているのも事実。

 

 

「っと、悪い。 俺としたことが……」

 

「いいよ。 私も同じこと、考えてたから」

 

「……そっか」

 

 

彼女を不安にさせてしまったことに即座に詫びるも、マーベラスは許してくれた。

それで安心したらしい、再び白斗が穏やかな表情で星空を見上げる。彼の一挙一動、表情の一つ一つにマーベラスは夢中だ。

白斗の顔を見るだけで、本当に顔が熱く―――。

 

 

「………どうした? 顔が赤いが」

 

「……逆に白斗君は顔赤くならないんだ?」

 

「へ?」

 

 

一方で、この三日間で仲良く離れたが男女としての関係に発展しているかと言われればNOである。

白斗はマーベラスを女の子として大切にしてくれているが、だからこそ一線を引き過ぎて決して踏み込み過ぎないようにしているのだ。

故に割と大胆なアピールをしても白斗が「餌」に食らいつくことは無かった。それがマーベラスにとっては面白くない。

 

 

(……私はいつもいつも、ドキドキされっぱなしだってのに……)

 

「何だよ、急に口を尖らせた上に黙って」

 

「自分の胸に聞いてみれば?」

 

「おい、俺の胸。 何かしたのか?」

 

「ナニモシテナイヨー」(ハクトウラゴエ)

 

「…………………………」

 

「だーかーらぁ! 白い目やめてくれよ!! ああもう、どうすりゃいいんだよぉ!?」

 

 

本気で怒っているわけではない、本気でしらけているわけではない。

ただ単純に白斗の困った顔を見たいだけ。そんな彼の表情を独り占めしたいだけ。

だから悪戯っ子のような笑みを浮かべながら、また一つおねだりしてみる。

 

 

「それじゃぁ……女の子をドキッとさせるような一言をお願いしまーす」

 

「ドキッとぉ? まーたレベルの高い要求してくるな……」

 

(いつもやってるくせに。 ……はぁ……何を、言ってくれるのかな……)

 

 

とは思いつつも、どんな甘い言葉を掛けてくれるのか期待しているマーベラスがいた。

何故かそれを思うだけで鼓動が早まってくる。体温が上昇する。息が乱れてくる。

先程からどうも、本当に熱っぽいのかもしれない―――だが白斗は考えて込んでいてその変化を見逃してしまっていた。

 

 

(つっても俺、全然知らねーぞ……この世界に来てからも恋愛ゲーなんてやったこと無いし……あ、でも有名なフレーズがあったっけ)

 

 

過酷な幼少期を過ごしていたため、娯楽という娯楽に触れられず、学校にすら通えなかったので世俗にも疎い。

唯一あるとすれば、家に置かれていた小説を勉強がてら読むくらいだ。

その中にあった。告白ともとれるフレーズを。

 

 

(……そうだな。 こんな時、こんなマーベラスだからこそ……この台詞がしっくりくる)

 

 

今、自分の隣にいる少女マーベラスはとても美しかった。

いつもの活発的な雰囲気は鳴りを潜め、静かにこちらを、熱っぽい視線と共に見つめている。

月光に濡れた髪や肌がとても美しい。そう、今は満天の星空と満月が優しく彼らを包み込んでいる。

きっと雰囲気に酔いしれていたのだろう。白斗は月を見上げながら、こう告げた。

 

 

 

 

 

 

「月が、綺麗ですね」

 

 

 

 

 

―――きっと意味など伝わらないだろう。まだ彼女が男女の中でいう「好き」なのかも分からない。

でも、持てる限りの情感を込めて、白斗は言った。

しばらくの間、二人の間に静寂が訪れる。焚火の音、漣の音、風で草木が揺れる音。

白斗とマーベラスは静かで、しかし神秘的な空気に包まれた。

 

 

「……は、はは。 まぁ、俺じゃスベるわなー……」

 

 

耐えくれなくなって白斗が頭を掻き始める。

マーベラスが何も言ってこないものだから、伝わらなかったか、それとも白けさせてしまったか。

そう思っていたのだが。

 

 

「………白斗君………初めて聞くフレーズだけど……意味は、なんとなく伝わったよ……」

 

「え?」

 

 

艶やかな声で、白斗は顔を上げる。

そこには先程よりもとろんと目を蕩けさせたマーベラスが。どうした事かさらに熱っぽく―――を通り越して色っぽい。

 

 

「……そんなコト……言われ、たら……私……わたし………!」

 

「ま、マジで大丈夫か………うおっ!?」

 

 

明らかに様子がおかしい。

とりあえず彼女を寝かせようと近寄った―――のが命取りだった。

白斗をも上回る身のこなしで飛びついてくるマーベラス。白斗は砂浜に寝転がされ、その上をマーベラスが覆い被さっている。少し胸元を開けさせながら。

 

 

「お、おいマーベラスさんや!? 何やってはるんや!!?」

 

「もう、ガマン……できない、よ………はぁ……はぁ……!」

 

 

その表情も、口調も、息遣いも。何もかもが艶めかしい。

爆乳とも称されるその胸が白斗の胸元をくすぐっている。それだけで白斗の意識が別次元へとリップしてしまいそうなほどの快楽だったが、鉄壁の理性で何とか繋ぎ止めている。

しかし、豹変したマーベラスの猛攻を凌ぎ切る自信はない。

 

 

「本当にどうした!? なんか変なものでも食ったのか……ってまさかお前、あのキノコで狂ったんじゃねーだろうなぁ!?」

 

 

原因はすぐに思い当たった。

彼女の様子がおかしくなったのは夕食後。だが殆ど同じものを食べた白斗には特に異変はない。あのキノコを除いては。

以前食べたことのあるキノコと言っていたが、結局取り間違えてしまったのだろう。その結果、淫靡な姿を晒して白斗に迫っているらしい。

 

 

「ねぇ……白斗くぅん……私ね……このまま……はぁ……はぁ……。 ここで、暮らしても……いいかなって……」

 

「な、何だよ!?」

 

「だって……こんな、二人きりの…………ああ……! もう、ダメぇ……!!」

 

 

キノコが齎した快感に阻まれ、最後まで紡ぐことが出来ない。

しかし、マーベラスは焦っていた。白斗と二人きりの生活を謳歌したことで、いつ終わるやもしれぬこの遭難生活にピリオドが打たれることを恐れていた。

大好きな人を独り占めできるこの一時が永遠に続いてほしい―――続かないのならば、終わる前に“全て”を終わらせるまで。

 

 

 

 

 

 

 

「はく、と……くんっ………!! 私……わたし、ね――――――――」

 

「………………ッッッ!!!」

 

 

 

 

 

 

その柔らかな手が、白斗の頬に添えられる。

力で抜け出すことは容易だ。―――そのはずなのに、何故か抜け出せない。

マーベラスの吐息が、顔が、唇が近づいてくる。

もう、逃げられない。白斗は何が何だか分からないまま、うるさく鳴り響く鼓動を押さえられずに、そのまま―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

「天誅―――――――――――――ッッッ!!!!!」

 

「「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああ!!?」」

 

 

 

 

 

 

 

 

―――そこへ突き刺さる巨大な槍。

直撃こそしなかったものの吹き上がる衝撃波で白斗とマーベラスは吹き飛ばされる。

寸での所で白斗は受け身を取ったものの、マーベラスは正気を失っていたこともありそのまま倒れ込んで気絶してしまった。

あの巨大な「槍」、そして声。こんなことが出来る人物は―――否、「女神様」は一人しかいない。

 

 

「う、うふふ……白ちゃぁん……? 必死に探して、ようやく見つけたというのに……何とふしだらで淫らで爛れた光景を……ッ!!!」

 

「げぇっ!? 姉さん!!?

 

 

リーンボックスの女神、グリーンハート様ことベールだった。

当然女神化をしており、素敵な笑顔を湛えていた―――のだが絶対零度の如き冷たさを纏っている。

どうやらあの後、転移装置などを用いて必死に捜索してくれたらしく、今になってようやく駆けつけてくれたらしい。

 

 

「あら白斗……三日ぶりに会えたというのに、そのリアクションは酷いんじゃない……?」

 

「ね、ネプ……テューヌ……」

 

「ホントよねぇ……私達がどんな想いで探し回っていたことか……」

 

「ノワー……ル……」

 

「はっ、ははは……すげぇな……。 怒りが一周回って、笑いが収まらねぇ……」

 

「……ブラ、ン……」

 

 

ベールだけではない。各国の女神様大集合。

だが、誰もが恐ろしい笑みを張り付けて、その手には得物を握って、じわりじわりと砂を踏みながら近づいてくる。

愛する人を必死に探して駆けつけてみれば、別の女と一線超える一歩手前という状況。

どうして冷静になれなどと言えようか。

 

 

「白斗……もうパラダイスの時間はオシマイよ……」

 

「ここから先が本番……生と死の狭間をしっかり彷徨いなさい……」

 

「おっと、理不尽だなんて抜かすんじゃねぇぞ……? 鼻の下伸ばしてたクセによぉ……」

 

「ひ、ヒイイイイィィィィ……………!!!」

 

 

 

事実上の死刑宣告。予測可能、回避不可能。

どう足掻いても言い訳が立たない。白斗はすっかり腰を抜かして、ただただ迫りくる恐怖に抗うことも出来なかった。

 

 

 

 

 

「さぁ、白ちゃん………覚悟はよろしくて………?」

 

 

 

 

 

―――最後に見た、ベールの薄く開いた瞳。その眼光の冷たさが、脳裏に焼き付けられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、それから数日後。

経過を書くだけなら簡単だが、実に色々大変だった。

あの後女神達によってリーンボックスの教会に連れてこられたものの、白斗とマーベラスは制裁を加えられた。

そのマーベラスは“あの時”の記憶が残っていたらしく、戻ってくるなり泣き出して、羞恥の余り部屋に引き込まってしまった。

お蔭様でその後の事後処理などが諸々完了するのに、更に数日の時間を要したのである。

 

 

 

 

―――そんなこんなでマーベラスに会えず仕舞いの日々が続いた、とある日。

 

 

 

 

「ふぅ……たまには高速艇での船旅もいいもんだ」

 

 

 

 

白斗は潮風を一身に浴びながら、船による定期便でリーンボックスを目指していた。

いつもなら飛行艇で現地まで駆けつけるのだが、毎度毎度それでは金も掛かりすぎる。

海に囲まれた島国ということもあり、流通を発展させようとベールが独自のシステムや関税を設定、船での行き来をし易いようにした。

そのため白斗もたまにはということで船を選んだのである。

 

 

「……にしてもリーンボックス、かぁ……。 マーベラス、まだ気にしてんのかな……」

 

 

あれ以来、リーンボックスに向かうのは久々になる。

それ故にどうしてもマーベラスの事が気がかりで仕方なかった。メールでのやり取りはしているものの、以前「会えない」の一点張りだ。

思い返すとまた気分が重くなってくる、一旦船内の自販機で何か飲み物でも買おうかと歩いていったその時、考え事をしていた所為で角から歩いてくる“少女”とぶつかってしまった。

 

 

「きゃっ!?」

 

「あ、すみません! って……マーベラス!?」

 

「は、白斗君!!?」

 

 

ぶつかった少女を抱き留めて、怪我がないか覗き込んだ―――はいいのだが。

相手がなんとマーベラスだったのだ。

彼女も驚きの後、顔が徐々に赤く染まっていく。

 

 

「あ、ご、ゴメ……私……、………っ!!」

 

「おっと!! 逃がさねぇぞ!!」

 

「ひゃ!? ……うう、今日の白斗君は強引だよぉ……」

 

「強引グマイウェイ、ってね。 ま、そこらで話そうぜ」

 

 

白斗の顔を見るなりまだあの日の事を思い出してしまったのか、いたたまれなくなりマーベラスが逃げ出そうとする。

しかし今度は逃がさない。痛いくらいに握り、彼女を留める。

普段の白斗であれば傷つけないようにある程度加減するのだが、今回はそうしてでも彼女を離したくないという意思が現れていた。

 

 

「ほら、オレンジジュース。 お前これ好きだろ?」

 

「え? あ……あり、がと……」

 

「どういたしまして」

 

 

逃げられないと悟ったので、マーベラスはベンチで座っている。

その間白斗は自販機でドリンクを購入してそれを手渡した。良く冷えたオレンジジュースが、熱くなった顔を幾らか冷ましてくれる。

 

 

「そういや、なんでこの船に乗ってたんだ?」

 

「……た、たまたまだよ。 皆と一緒に……」

 

「へー、MAGES.達もいるのか」

 

「な、何人か別行動の子もいるけどね……」

 

 

少したどたどしい口調のマーベラスだ。やはりあの一件が尾を引いているのだろう。

ならば白斗は何でもなかったと言うように、普段通りに話すだけ。

 

 

「俺はこの間の一件で姉さんに呼ばれてな。 諸々落ち着いたし、正式に謝罪したいからって。 俺は気にしてないってのに、姉さんは律儀だよなー」

 

「……白斗君も、人のこと言えないんじゃないかな……」

 

「そうか? ……そうかもな」

 

 

ぐいっと、缶に残ったジュースを飲み干す。

未だにマーベラスの脳内にはあの恥ずかしい思い出が残っている。けれども、徐々に羞恥の心は薄れていく。

代わりに―――白斗を避けていた本当の原因が浮き彫りになってきた。

 

 

 

 

「ま、こんな俺だからさ。 ……あの時の事、気にしてないから」

 

 

 

 

そう、結局のところ白斗に嫌われてないか―――それだけが一番の気掛かりだったのだ。

本人の同意もなく迫ってしまったのだ、普通なら嫌われる、良くてドン引きが関の山。

だが白斗はそんな彼女の胸中を察してか知らずか、特に気にしていない素振りを見せてくれた。

 

 

「……ありがとう……。 でもそれって……私に魅力が無いってこと……?」

 

「んなっ!? な、ななななな何言ってんだ!?」

 

 

少し元気が出てきた。だから、少しからからかってみた。

相変わらず女性の扱いは不器用な白斗、故に色めき立った話題に対する耐性が面白いほど低い。

大慌てであたふたしている彼の姿が面白くて、マーベラスは笑みを漏らした。

 

 

「ゴメンゴメン。 ……でも、もしだよ? また……私が迫ったら、白斗君はどうするのかな?」

 

 

蒸し返すつもりは無かったが、このまま引き下がるのも面白くはない。

意地悪な表情を張り付けたまま、そんなことを聞いてみた。

―――すると、白斗は頬を赤くしながらも。

 

 

「……据え膳食わぬは男の恥って言葉、知ってるか?」

 

「……………………へっ!?」

 

 

一瞬、言葉の意味が分からなかった。

いや意味は分かったのだが、白斗が本当に「それ」を言ったのかと理解するまでに時間を要した。

やっと理解出来た時、今度はマーベラスの顔が爆発したかのように赤く染まる。

 

 

「そういう訳だ。 ……次はねぇぞ?」

 

 

 

 

意識されてる―――嫌われていない、寧ろそうなっても構わない。

みるみる内にマーベラスの顔は、幸せそうに赤くなってしまう。やはり彼なのだ。

自分を暗くさせるのも、明るくさせるのも、白斗なのだ。彼しか、いないのだと―――そう思い知らされたのであった。

 

 

 

 

 

「………ふ、ふーんだ! その気にさせてあげるんだから! 覚悟してよね、私の主様♪」

 

 

 

 

 

振り返ったマーベラスの笑顔は、とても眩しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次回に続く

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――にはまだ早い。今回のお話にはまだ、もう一波乱があるのだ。

 

 

「あ、マーベラスに白斗! 偶然だね、こんなところで会うなんて!」

 

「ん? ファルコムじゃん! 久しぶり!」

 

 

そこへ気さくに話しかけてきた女性。ショートカットにへそ出しスタイルと快活な雰囲気を見せつけてくる少女、ファルコムだ。

マーベラスの旅仲間で世界各地を股に掛ける冒険家でもある。

 

 

「ファルコムはまた冒険に?」

 

「まぁね。 そのためにも一旦リーンボックスに行こうかと」

 

「相変わらずだなぁ……ってどうしたマーベラス?」

 

 

親しい友人と気さくに話す。これ自体はごく自然なことだ。

―――にも関わらず、彼女の仲間であるはずのマーベラスは青ざめてガタガタと震えていた。

まるで出会ってはならないものに出会ってしまった、そんな表情だ。

 

 

「だ、大丈夫だよマーベラス! あたしだって毎度毎度巻き込まれるワケじゃないんだよ?」

 

「そういって前回大変だったじゃん!! 白斗君、早く逃げよう!?」

 

「おいおいマーベラス、それはあんまりにもファルコムに失礼じゃないか?」

 

 

身内に対するものとは思えない言葉と態度である。

けれどもマーベラスは理由もなくこんな態度をとるような少女ではない。

 

 

「白斗君は聞いたことあるでしょ!? ファルコムが大冒険できるのはよく船が難破するからだって!!」

 

「ああ、それが原因で毎度スリル満点の大冒険が………ハッ!?」

 

 

そこで、白斗はようやく気付いた。

今、ここはどこだ? ―――逃げ場のない、船の上だ。

今、目の前にいるのは誰だ? ―――冒険家のファルコムだ。

今、マーベラスは何と言った? ―――ファルコムは、“よく船が難破して冒険が始まる”。

 

 

「し、失礼だよ白斗まで!! そんな顔面蒼白に!!」

 

「だったらこの怪しい雲行き!! 強くなった風!! 荒れる波にご説明頂きたい!!」

 

「え、えーと……その……まぁ……ゴメンね☆」

 

「船長ぉーっ!! 今すぐ引き返……きゃああああああ!? 何か竜巻が来たー!!?」

 

「ま、マーベラス!! 俺に掴ま―――うわあああああああああああああぁぁぁぁっ!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザザーン……ザザーン……そんな音を立てて、波が砕け散ります。

 

 

 

 

「…………………………」

 

「…………………………」

 

 

 

 

―――今、私と白斗君はとある光景を目の当たりにして茫然としている。

見渡す限りの水平線、澄み切った青い空、美しい砂浜、背後には密林やら峻険な山がそびえている雄大な自然。

……もう、お分かりですよね……? 二度目ですもんね……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………私達、また……無人島に来ちゃいました……。

 

 

 

 

 

 

 

 

FIN




サブタイの元ネタ「私をスキーに連れてって!」


大変お待たせしました!!
というワケで意外と王道かもしれない無人島漂流ネタでした。
一度はやってみたいラブコメシチュエーション、ということでサバイバル適正もあり、久々の出番でもあるマベちゃんにお鉢が回ることに。
実際この子だと技術や知識はもちろん、その明るさで無人島生活も苦にならないかと思います。
女神様の誰かにしようかなと思ったのですがよくよく考えなくても「飛べるじゃん」ってことで今回は断念。
しかしマベちゃんが絡むお話はどうしてこう、肉感的な描写が出ちまうのか。私の心が穢れているのか!?そうなんだな!!ああ、女神様!この作者の穢れをその美しいお身体で浄化してー!!

ということで次回に続きます。今回がギャグよりなお話だったので、次回は少ししんみりするお話にしようかと。
では次回もお楽しみに!!感想ご意見、お待ちしています!!!
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