恋次元ゲイムネプテューヌ LOVE&HEART   作:カスケード

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第四十五話 眠れない夜は

―――それは、とあるクエスト中での出来事が発端だった。

 

 

「白斗! そっちに行ったわ!!」

 

「おう、任せ――――………ッ!?」

 

 

パープルハートの焦りに満ちた声が戦いの舞台である洞窟内に響き渡る。討ち漏らしたウルフが一体、彼女の脇を通り抜け、白斗へと向かってきたのだ。

白斗は油断せず、冷静にナイフを構えて迎撃態勢に入る。のだが、突然足に力が入らず、体勢が崩れてしまった。

 

 

(し、しまっ………!!)

 

 

悔いるも、間に合わない。

迎撃は諦め、多少のダメージを覚悟して防御へと移行する。そんな彼の皮膚に牙を突き立てようと、オオカミが大口を開け、鋭い牙を光らせて―――。

 

 

「せやあああぁぁぁぁっ!!」

 

「ギャゥッ!?」

 

 

そんなオオカミの喉元を、一本の大太刀が貫いた。

ネプテューヌが投げつけた愛刀だ。突き刺さった箇所から夥しい血が溢れ、見る見るうちにウルフから血の気が引いていき、やがて絶命する。

だがそんなモンスターの末路など見届けもせず、ネプテューヌが大慌てで白斗に駆け寄った。

 

 

「白斗!! 大丈夫!?」

 

「あ、ああ……すまん。 助かったよネプテューヌ……って何触りまくってんの!? ちょ、近い近い近いって!!」

 

「貴方がいつもそうやって怪我とか隠してるからでしょ! ……良かった、本当に無事ね」

 

 

詰め寄るなり彼の肩を掴みながらネプテューヌは必死に白斗の体を調べ始める。

余程心配だったらしく、少し泣きそうな目だった。どうやら以前の白斗誘拐がトラウマになっているらしく、そんな顔をされては白斗も無碍に出来なかった。

 

 

「にしても白斗、どうしたの? さっき急に体勢が崩れたけど……」

 

「……急に足元から力が抜けてな」

 

 

一瞬、「何でもない」と誤魔化しそうになったが何かあったからさっきの事態に陥ったのだ。

誤魔化すのを諦め、素直に訳を話す。

 

 

「……やっぱり、今朝も元気が無さそうだったけど……ごめんなさい。 気付いてたならちゃんと言ってあげるべきだったわ……」

 

「いや、体調管理がなってなかった俺自身の問題だ。 こっちこそゴメン」

 

 

実を言えば、今朝朝食の席で微妙に元気がなかったことに気付いていた。だがそれは微かな違和感程度。

すぐにいつもの調子を見せたので、気に掛ける程度にしておこうと思ったのが裏目に出た。

 

 

「何かあったの?」

 

「……嫌な夢を見ちまってな、ここ最近ロクに眠れなかったんだ」

 

 

嫌な夢、とぼかした表現だったが彼の過去を見たことがあるネプテューヌにはすぐに察しがついた。

幼少の頃から続いた父親の虐待や姉との離別、犯罪組織に無理矢理加入させられ、挙句人殺しまで強要された。そのトラウマは一朝一夕で拭えるものではない。

 

 

「その夢……同じ内容なの?」

 

「……ああ。 全く情けねー話だよな……いつまでも引きずるなんて……」

 

「そんなこと無い! ……心の傷は、捨てていいものでも、忘れていいものでもないわ。 白斗は過去を『引きずれる人』……だから、優しいのよ」

 

「……そうなのかな」

 

「ええ。 それに……私達だっているから。 遠慮なんかしないで」

 

 

過去を引きずる、とは過去を気にしすぎることではない。過去を受け止めて、背負い、それでも歩いていくということだ。

逃げるでも、気にしないでもない。白斗はそれが出来る人、だから支えたい。ネプテューヌは手袋越しながらも、白斗の手を取り、自らの手を重ねた。

 

 

「とにかくこれでモンスターは討伐したし、クエストは完了。 引き上げましょう。 そうだ、今日は皆で外に食べに行かない? パーッと派手に!」

 

「……だな、んじゃパーッと行きますか!」

 

 

ネプテューヌの提案に白斗も笑顔で応える。

その後、ネプギアやイストワールらと一緒にレストランで楽しく食事をした。その頃には白斗もクエスト中の出来事を引きずっている様子はなく、極めて明るい雰囲気だった。

―――けれども、明るければ明るいほど、影が濃くなっていくような感覚をネプテューヌは覚えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――それから数時間後、真夜中であるにも関わらずネプテューヌは各国の女神達に召集を掛けた。

誰もが眠そうだったが、「白斗に関して相談がある」と打診されては誰もが進んで参加する辺り、愛が深いというべきが白斗の業が深いというべきか。

 

 

『―――そう、そんなことがあったのね』

 

「うん。 白斗を元気づけてあげたい……だからみんなに相談したの」

 

 

目の前でディスプレイが三つ分展開され、そこに映し出される各国の女神。

ノワール、ブラン、ベール。それぞれが楽な格好をしていたが、表情自体はどれも真剣で、雰囲気も重かった。

 

 

『それでネプテューヌ。 具体的な相談って?』

 

「白斗って最近、プラネテューヌに籠ってること多いから別の国でしばらく泊まってリフレッシュ……とかどうかな?」

 

『いいアイデアですわね! では我がリーンボックスに……と言いたいのですけど、こちらで大きな政策が入ってしまってしばらく身動きが取れませんの』

 

『ルウィーも同じ……本当にごめんなさい』

 

 

ネプテューヌのアイデア自体に反対意見は出なかった。

しかし、受け入れ先候補のリーンボックスもルウィーも何やら大掛かりな仕事が入っているらしく、女神であるベールとブランも相手できそうにないとのことだった。

となると残る候補はただ一人。

 

 

『オッケー! そう言うことなら私に任せなさい!』

 

 

ドン、と勇ましく胸を叩く少女が一人。

黒髪ツインテールが今日も美しいラステイションの女神、ノワールであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ラステイションへ来るのも久しぶりだな」

 

 

次の日、白斗はラステイションを訪れていた。

今回はノワールからの招待なので交通費などは向こう持ちであり、男から情けない話だが財布が助かるお話だ。

 

 

「さて、教会へ向かう前に。 ラステイションと来たらやっぱココだよな」

 

 

相手は友達とは言え女神様、しかも今回は招待を受けた身。手ぶらで訪れるのは礼を失するというもの、親しき中にも礼儀あり。

手土産でも持っていこうと、ある場所へ立ち寄った。それは今や思い出となっているあのベーカリー。

 

 

「よー、お前ら。 頑張ってるな」

 

「お!! アニキじゃないッスか!! 久しぶりッス!!」

 

 

白斗が声を掛けた店員、それは嘗ての不良達だった。

最初はラステイションで5pb.相手に誘拐寸前のナンパを仕掛けていたところ、白斗が彼女を助けたのが始まり。

それから二転三転して、このバイトにありつけた彼らはキッカケとなった白斗を「アニキ」と呼び敬っているのである。

 

 

「久しぶりってメールでのやり取りは結構やってるだろ?」

 

「メールであった気になるのはいけない事ッス! アニキは無茶しがちだってノワール様も愚痴ってたッスから」

 

「アイツ……人のいねーところで余計なことを余計な奴らに……」

 

「それだけノワール様に愛されてるって事ッスよー!! このこのー!!」

 

「はは……そりゃ……嬉しいな。 んじゃそろそろパン買うか、いつも奴頼む」

 

「「「毎度ありーッス!!」」」

 

 

からかわれたのでわざとらしく悪態を付くが、実はそれほど嫌ではない。寧ろ嬉しかった。

親しくしてくれる人がいることの有難さを最近になって身に染みるほど感じていたのだから。

こうして白斗は気持ちの良い挨拶を受けながらパンを買い込み、教会へと向かう。

やがて街から少し離れて自然が見える地域に、ノワールの住まいでもある教会は見えてきた。

 

 

「さて……たのもーう!!」

 

「……なんだい、その掛け声は」

 

 

呆れたような声と顔で出迎えてくれたのは銀髪と中性的な顔立ちが特徴の少女、この教会の教祖でもある神宮寺ケイだった。

 

 

「……いや、久々に来る教会だから緊張するといいますか何といいますか、それを誤魔化すためといいますか何といいますか」

 

「何を畏まってるんだ。 ……ここは君の家でもあるんだ、難しく考える必要なんかない」

 

 

実は白斗がラステイションへ来るのは本当に久々なのだ。

以前、マジェコンヌにより誘拐されて以来、それから一度も立ち寄れていなかった。けれども、ケイからすれば白斗も立派なこの教会の一員。

だから遠慮などする必要もない。そんな温かい言葉を受けて、白斗も心を軽くした。

 

 

「それじゃ……た、ただいまー」

 

「うん、お帰り。 ……ノワールやユニもお待ちかねだよ」

 

 

家族、そう考えると少しむず痒いものを感じる。けれども悪い気はしなかった。

白斗は挨拶の一言ともに扉を潜って、ノワール達が待つであろう執務室へと歩を進める。

と、そこへ元気よくもあり、可愛らしくもある足音が近づいてくる。

 

 

「白兄ぃ―――――!!!」

 

「ん? おお、ユニ。 久しぶ………ぐほぉ―――――っ!!?」

 

 

ラステイションの女神候補生、ユニだった。

今日も黒髪ツインテールが可愛らしく揺れている……のだが白斗の顔を見るなり一気に突撃、その胸元へと抱き着いた。

華奢とは言え候補生として鍛え上げたその飛びつきに白斗も大ダメージ。

 

 

「もう白兄ぃってば!! どれだけアタシ達をほったらかしにするのかな!?」

 

「は、ははは……ゴメン。 お、お詫びって程じゃないがお土産あるぜ」

 

 

激痛で悶えそうになるが、そこは男の意地。

我慢して先程購入したパンの袋を差し出す。今回は女の子受けするような甘い菓子パン多めのチョイスである。

 

 

「さっすが白兄ぃ! 気が利く!! それじゃ少しアタシに付き合って♪」

 

「あれ、ノワールは? 挨拶したいんだけど」

 

「……今、お姉ちゃんに会うのはやめといた方がいいよ」

 

「え? 何で―――」

 

 

と、その時。向こう側にあるノワールの執務室から声が聞こえた。

扉は閉め切ってあるにも拘らず漏れ出る、その声色は―――。

 

 

『うおりやあああああああああああああああああ!!! 仕事がナンボのものよぉ!! 白斗との一時を邪魔するんじゃないわよおおおおおおおおおおおおあああああ!!!』

 

 

―――到底女神様でも、女の子でも、出していい声では無かった。

 

 

「ああ、うん。 理解した」

 

「お姉ちゃん、今朝になって大量の仕事が入って、もうヤケになっちゃって……正直、人様にお見せできるものじゃなくなっちゃった」

 

「最近、ユニが別の方向で逞しくなってる。 お兄ちゃんは心配です」

 

 

ノワールの事が大好きで尊敬してやまないユニですらこの反応、将来が心配である。

ただ、今のノワールに会いに行くのは確かに危険だと判断し心の中で手を合わせながらUターンした。

彼女の手伝いもあるとのことなのでケイとはその場で分かれ、白斗はユニに連れられて外へ出る。

 

 

「それじゃ白兄ぃ!! 今日も射撃の指導、よろしくお願いします!!」

 

「おう。 つっても、自力じゃユニの方が断然上だけどな」

 

 

連れてこられた先にあったのはほぼユニ専用と言っても差し支えの無い射撃訓練場。

ユニはほぼ毎日のようにここで銃の訓練を行い、命中精度や充填速度、フォーメーションなどの訓練を行っている。

そこに嘗て暗殺者でもあった白斗の指導が加わり、訓練の質そのものも上がるようになった。

尤もユニにしてみれば、好きな人と一緒に過ごせる貴重な時間と言う方が大きいのだが。

 

 

「でもアタシ、咄嗟に銃を構えて、照準を合わせて撃つってのがまだ安定しないんだ」

 

「ふむ……瞬時に中距離狙撃が必要になる場面も、モンスターとの戦闘ではあるかもな」

 

「だから今回はそこを鍛えて欲しいの!」

 

 

ユニの方が地力が上というのはお世辞でも何でもない、燦然たる事実だ。

彼女は銃に関しての才能と努力は間違いなく白斗より上だ。おまけに先日、念願である女神化も会得し高出力の技を放てるようになった。

だが、それだけで彼女は満足しない。常に課題を見つけてはそれをクリアしようとするハングリー精神があった。

 

 

「オーケー。 なら今日からは動体視力と判断力を鍛える方向で行こう」

 

「うん! で、どうやるの?」

 

「動体視力と言うのは眼力も勿論だが、脳にも左右される。 瞬時に見て、瞬時に理解し、瞬時に動く。 一瞬の間にこの三工程をクリアして、動体視力が良いと言われるな」

 

「う……言葉だけ聞くと難しい……」

 

「しかし動体視力に限らず目と言うのは使わなければどんどん衰えていくんだ。 逆を言えばトレーニングを続けることで向上が可能になる。 今回は丁度いいアプリがあるからそれで練習、それから実践稽古の反復でやっていこう」

 

「アプリ?」

 

 

白斗が見せたのは、一瞬だけ文字が表示され、それが何なのかを当てるというクイズ。

分かりやすく言えば「フラッシュ暗算」が近いだろうか。

 

 

「これを10問連続でクリア出来たら実践稽古に移ろう。 クリアするまで次のメニューに移れないしリタイアもさせないぞー」

 

「えぇーっ!? 白兄ぃスパルタ過ぎだよー!!」

 

「その代わり、これをクリアしたら今度パフェ作るよ。 前ノワール達にも大好評だった奴な」

 

「死んでもクリアしてやるわ」

 

 

アメとムチのつもりだったが、彼女は存外アメで死力を尽くせるタイプらしい。

その後凄まじい形相で画面をのぞき込んでは、怒涛の勢いで問題をクリアしていく。

 

 

「よっしゃぁ!! クリアーっ!!!」

 

「……甘いものに対する女の子の執着は物理法則をも捻じ曲げるのか。 んじゃパフェは確約として、実践稽古に移るか」

 

「おっしゃあ!! 何でも来い!!!」

 

 

普段のユニのキャラとしてありえない発言を連発中である。

しかし、それだけ嬉しかったのだろう。大好きな人から、大好物を貰えることがどんなに幸せなことか。

 

 

「こっからはこの銃を使ってくれ」

 

「? これ……ペイント弾?」

 

「そ。 相手は俺。 この障害物の隙間を出たり隠れたりするからユニは俺を撃つんだ。 10発当たるまで終わらないぞー」

 

「へー? 白兄ぃ……そんなに動けるのかな~?」

 

「ふっ、今まで地獄を見てきた俺の底力……甘く見てくれちゃぁ困る、ぜっ!!」

 

 

どうやら白斗自身が的になり、ユニから逃げ回るという鬼ごっこにも近い射撃訓練らしい。

ユニ自身、最近は腕前に自信がついており更には相手は分類としては一般人にしか過ぎない白斗。

だが彼は凄惨な過去を逆に血肉として、危機察知能力と回避力、そして判断力を持ち合わせている。

軽やかな身のこなしで障害物や生えている茂み、木陰などに潜り込む。

 

 

「え? あ、あれっ!? は、速い……っていうかこのっ!! ちょこまかと……!!」

 

「そーれ隙ありっ!!」

 

「きゃっ!? み、水鉄砲!?」

 

 

白斗の動きは想像以上に機敏で、尚且つ惑わせてくるような動き。

それでいて更に腹立たしいのが、顔を出す時は必ず三秒間は顔を出している。つまりちゃんとユニにも狙撃のチャンスを与えているのだ。

だが、白斗の動きについていけず引き金を引くどころか銃を構えることすら出来ていないユニに水鉄砲の一撃が見舞われる。

 

 

「んもーっ!! 白兄ぃ酷いー!!」

 

「はっはっは、反撃しないとは言ってねーぞ? 悔しかったら俺を撃ってみせなっ!!」

 

「さてはこの前のハンゲーでボッコボコにしての根に持ってるなーっ!?」

 

 

―――それは訓練と言うよりも、兄妹のじゃれ合いだった。

けれども、ユニにとってはとても楽しくて、それでいてレベルアップを実感できる一時。

徐々にユニも白斗の動きの法則性や、時折飛び出る彼からのアドバイスで徐々に命中精度を上げていく。

やがてインク塗れ、汗塗れ、泥塗れになった二人が訓練場で寝転がる。

 

 

「はーっ……はーっ……! い、今のを積み重ねて行きゃ……ゲホゴホッ!! い、嫌でも動体視力は……ヒュー……ヒュー……み、身につく……」

 

「そ、そりゃ……こほこほっ!! こ、こんなのやって身につかない方が……けほっ!! お、おかしいわよ……」

 

 

既に体力の限界を迎え、クタクタだ。汗を拭く体力すらない。

しかし、その疲労感は心地よかった。

二人で見上げる青空はどこまでも澄み切っていて、どこまでも気持ちよかった。

 

 

「全く……貴方達。 訓練も程々にしとかないとただのオーバーワークよ?」

 

「よ、よぉノワール……。 いつもオーバーワークなお前に言われたら……ゲホゲホッ! 俺達もお終いだな……ゴホッ!!」

 

 

そこへ真上から覗き込んでくる一人の少女。ノワールだ。

どうやらようやく仕事を終えたらしく、その顔には疲労とこれから白斗と過ごせるという期待が見て取れる。

そんな彼女から濡れタオルと飲み物を受け取り、白斗とユニはようやく落ち着けた。

 

 

「っはぁ~……生き返る~……」

 

「生きてるって素晴らしいね……!」

 

「大袈裟よ二人とも。 お風呂沸かしてあるから落ち着いたら入ってきなさい」

 

「お、それはマジで助かる。 んじゃお先~」

 

 

風呂が沸いていることを聞かされて、白斗は迷うことなく自室へと向かっていった。

普通、風呂と聞けば一家に一つ。そしてレディファーストと思い浮かぶようなものだが、白斗が止まりに来る場合はノワールがわざわざ風呂付の客室を用意してくれるのだ。

つまり白斗専用、気兼ねせず入ることが出来る。割り当てられた部屋に入り、服を脱ぐ。

 

 

「~~~♪ 風呂は人類にとって最も偉大な発明の一つだよな~」

 

 

まるで女子のようなセリフを吐きながら浴室のドアを潜った。

温かな湯気が体を包み、それだけで疲労で凝り固まった体を解してくれる。

軽くシャワーを浴びて汗や泥を落としてから湯船に入る。心地よい湯加減と、高級な入浴剤のお蔭でまさに天にも昇る心地だ。

 

 

「あぁ~……やべ、とろけるー………」

 

 

普段の白斗からは想像できないほど抜けた声だ。

しかし、それほどの快感が襲っているのだから無理もない。と、そこへ。

 

 

『は、白斗。 湯加減はどうかしら?』

 

「ん、ノワールか。 ああ、もう最ッ高だ! ありがとな」

 

 

扉の向こうから声が聞こえた。ノワールのものだ。

何の前触れもなくこちらに来たので少し驚いたが、かと言って慌てるほどの事でもなく気楽に返事した。

実際、今日の風呂ほど心地よいものはなく白斗は感謝の極みであった。

 

 

『そ、そう……な、なら………入るわ、よ』

 

「おー。 ………………ンン!!? ちょ、ちょっと待――――」

 

 

つい、疲労と心地よさで生返事してしまった。

だが気付いた時にはもう遅い。少し控えめなドアの開閉音と、ヒタヒタとタイルを踏む音が聞こえてきた。

湯気の中現れたのは―――バスタオル一枚に身を包んだノワールだった。

まさに女神と言わんばかりの美しい肌、整ったスタイル、タオル越しでも分かる胸のふくらみが目を惹きつけて離さない。

 

 

「の、ノワール!!? 何やってんの!!?」

 

「か、勘違いしないでよね!? いつもお世話になってるから、その……たまには背中流してあげたいなーとかそんなんじゃないから!!」

 

「どう見ても模範解答ですありがとうございます。 じゃなくて!!」

 

「今更貴方に拒否権なんか無いわよ! さっき言質取ったし、ネプテューヌやマベちゃんとも入ったし!! おまけにマベちゃんに至っては二度も!!」

 

「その節は誠に申し訳ございませんでした」

 

 

ぐうの音も出ない正論とはこのことか。

迫力を伴った声に叩きのめされ、白斗はタイルに額をこすり合わせて顔を上げない。そう、顔を上げないのである。

何故こうも、連続して混浴イベントが起きてしまうのか、謎の作為を感じてならない白斗だった。

 

 

「悪いと思っているならつべこべ言わず背中流させなさいっ!! 大丈夫、ネプテューヌ達よりも断然上手だからっ!!」」

 

(うぅ……このままだといたちごっこ確定、か……ノワールも風邪ひいちまうし……仕方ない、覚悟を決めるか……)

 

 

はぁ、と溜息を付きつつ白斗はとうとう覚悟を決めた。

 

 

「……分かった。 けどバレたら大変だから手短に済ませよう……」

 

「安心して。 これでも私、ちゃんと勉強したのよ」

 

 

違う。心配なのはそこではない。

 

 

「ちょーっと待ったぁ!! アタシも混ぜなさーい!!」

 

「ゆっ、ユニ!? 何でアナタまで!!?」

 

 

だが、まだ終わらなかった。あろうことかユニまで同じくバスタオル一枚で突撃してきたのだ。

ノワールに比べればプロポーション自体は劣るかもしれないが、まだ残るあどけなさが逆に男の劣情を煽ってくる。

 

 

「お姉ちゃんズルい!! アタシだって白兄ぃの背中流してあげたいのに!!」

 

「あ、貴女はさっき一緒に訓練したからいいでしょ!?」

 

「むむむ……じ、じゃぁ一緒に流そうよ!! それに……お姉ちゃんとお風呂なんて、初めてだし……」

 

「うぅっ!? ……そ、それもそうね……なら一緒に白斗の背中を流しましょう」

 

「やったぁ!! お姉ちゃんありがとう!!!」

 

(ねぇ、俺の意見は? 俺の意思は? 俺の要望は?)

 

 

一切なかった。こうしてラステイションの女神姉妹が白斗を座らせ、二人で背中を洗うというとんでもない展開が繰り広げられることに。

 

 

「あ……白斗、傷だらけ……」

 

「……まぁ、あんな事があったからな」

 

 

しかし、これまで白斗と混浴できるとはしゃいでいたためかここで初めて気づいた。

白斗の体が傷だらけであることに。それも一つや二つではない、何十と言う古傷が。

彼の言う「あんな事」とは、父親からの過剰な虐待や暗殺者にさせるための過酷なトレーニング、そして組織からの逃亡生活。

白斗の古傷は、彼の壮絶な過去を物語っていた。

 

 

「まぁ、その……気持ち悪いもの見せて、ゴメン」

 

「気持ち悪くなんかない!! ……私は好きよ、白斗の背中が」

 

「アタシも。 温かくて、強くて、優しくて……嫌いになれって方が無理だよ」

 

「……ありがとな。 んじゃ、改めてお背中流してもらおうかな!」

 

「「ええ!」」

 

 

ノワールとユニが優しく触れてくる。労わるように、傷を癒すように、白斗を受け入れるように。

そんな二人の優しさに触れ、白斗も先程までの緊張が嘘のように和らいだ。

ならばノワールとユニにこの背中を任せよう。

 

 

「んっしょ……白斗、痒いところはない?」

 

「ん~……痒いところっていうか、二人とももうちょっと力入れてくれる?」

 

「力を入れるって言うと……こんな感じ?」

 

「おお、ユニ! そんな感じ!」

 

 

仲睦まじく、二人でゴシゴシと背中を洗ってくれた。

思えばネプテューヌやマーベラスもここまでさせたことはない。他人に背中を洗ってもらうなど、今日が初めてだ。

だから、知らなかった。こんなにもくすぐったくて、それでいてどこか温かくなる。

 

 

「ほーら、腕も洗ってあげるから伸ばして」

 

「お、おう……」

 

「おぉ……白斗って細身だけど、しっかり筋肉ついてるのね」

 

「まぁ、クエストのためにも鍛えないといけないんで……」

 

 

とは言えやはり落ち着かない。

ノワールに腕を現れる間、しっかりと触られる。体の隅々、ラインや肉付きまで把握されるのは正直恥ずかしいものだった。

何故、と問われると出てこないがとにかく恥ずかしい。

 

 

「最後に水で流して……はい、綺麗になった!」

 

「うんうん、アタシとお姉ちゃんのフォーメーションスキルでピッカピカよ!」

 

「あ、ありがとう。 それじゃ俺はそろそろ……」

 

「「待って!!」」

 

 

ようやく終わった、と安堵の息を吐く。

この上ない心地よさだったのだが、それ以上に精神が持たない。汗も流し、体も綺麗になった。もうここに留まる理由もない。

なるべく二人の体を目に入れないように浴室を出ようとした―――その時。白斗の手頸がノワールによって掴まれた。

 

 

「ど、どうした?」

 

「……ねえ、白斗……」

 

「今度は……アタシ達の背中、洗って欲しいな……」

 

「………ゑ?」

 

 

潤んだ瞳と、誘うような声色、そして赤く染まった顔。しかしながら手首を握るその力はさすがは女神、非常に強い。

色んな意味で逃れられぬこの状況下、とんでもない発言を理解するのに白斗は数秒の時間を要するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やぁ白斗、随分長い風呂だったね。 ……さて、一体何をやっていたのか他国の女神達と協議してみたいと思うのだが……あ。 でもその前に君に依頼したいことがあってね」

 

「何なりとお申し付けくださいケイ様ですからどうか女神様にはチクらないでください死んでしまいます千の風になってしまいますからお願いしますどうかそれだけは」

 

「必死か」

 

 

ケイにはしっかりバレていたようです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――それから少しして、ノワールの部屋。

 

 

「いいわね白斗!! パイナップル頭軍人のコスプレ超似合ってる!!」

 

「そ、そうかな? で、これで俺はサマーソルトでもやればいいの?」

 

「やって!! 超ネイティブな発音で!!」

 

「じ、じゃあ……サマソッ!!」

 

「カッコイイ!! さっすが白斗、もう最高っ!!!」

 

 

白斗とノワールがコスプレに興じていた。

元々ノワールの趣味であるコスプレが白斗に発覚した際、彼を巻き込む形でコスプレさせたのが始まりだ。

以来、白斗がラステイションへ遊びに来た際は時間があれば彼女の趣味であるコスプレや台本読み合わせに付き合っている。

 

 

「ふぅ……もう十着くらいは来たよな? さすがに疲れてきた……」

 

「どうしてそこで諦めるの!? もっと熱くなるのよ!!」

 

「お前そんな熱血キャラだっけか!?」

 

 

好きなものの前ではハッスルする。ノワールも案外普通の女の子だった。

いや、この熱意は普通と言っていいのか微妙な所であったが。

 

 

「あ、でもそろそろ夕食の支度しなきゃいけない時間ね。 今日は私が作るから!」

 

「おお、ノワールの手作りか! 何作ってくれるんだ?」

 

「カレーよ。 勿論メシマズ設定は無いから安心してね」

 

 

裏ではこういったコスプレ趣味の一面があるものの、基本的にノワールは真面目な性格である。

それ故に白斗のもてなしという絶対に気の抜けない場面で味見をしないなどのお約束をするはずがない。

 

 

「しっかり者のノワールにそんな心配してないって。 ……あ、俺も手伝おうか?」

 

「白斗はゆっくりして……いえ! そうね、一緒に作りましょ!!」

 

「お、おう……よろしく……」

 

 

最初は白斗の手伝いを断ろうとしたノワール。しかし、ふと気が付いた。

これは所謂、傍から見ればカップルで料理を作るという乙女なら一度は憧れるシチュエーションではないか。

一気に掌を返して厨房へと案内する。

 

 

「それじゃ私が味付けとかするから、白斗は食材とか切って頂戴」

 

「了解。 切り方とか拘りあるか?」

 

「特にないけど、ユニやケイも小食だから少し小さめに切ってね」

 

「小さめね。 ラジャー」

 

 

そこから先はまさに息の合ったコンビネーションだった。

あれこれ言わずとも白斗が食材を切り分け、ノワールが切り分けられたそれを順に炒めていく。

逆にノワールが食材や器具を探していると白斗が瞬時にそれを察知してノワールに手渡していく。

この何気ないやり取りでも、互いの心が通じ合えていると感じられる。だからノワールは尚更嬉しくなった。

 

 

(ふふっ♪ それにしても、まさかこんなにも白斗に夢中になっちゃうなんてね……女神も虜にさせるなんて、本当に罪な人なんだから♪)

 

 

何故彼を好きになったかと言えば、その全てがだ。

さり気ない気遣いをしてくれるところも、誰かのために必死な所も、常に支えてくれるところも、相手を思いやってくれる優しさも。

そんな人と一緒に料理を作れることが、どんなに幸せか。

―――その後もリズミカルな音と共にどんどん調理は進んでいき、やがて薫り高いカレーが出来上がった。

 

 

「さぁ皆! 私と白斗の自信作、どうぞ召し上がれ!」

 

「おかわりもあるからな! ジャンジャン食べてくれ」

 

 

午後七時、夕食のため食堂にやってきたユニとケイを迎えたのは家庭的ながらも食欲をそそる匂いのカレーだった。

更には添えられたサラダと言ったアラカルトも尚更目を惹かせてくれる。

激務や訓練で空腹だったユニとケイも、遠慮なくカレーを一口。

 

 

「……ほう。 家庭的ながらもしっかりとした味わい。 まさに『我が家のカレー』だね」

 

「むむ! 悔しいけど美味しい……!」

 

 

極上のカレーを食べたことで、シニカルな言動が目立つケイも珍しく手放しで褒めてくれる。

一方、一緒に料理などという楽しいイベントに参加できなかったユニは少々不満げだったが、カレーを一口食べればそんな不満もすぐに引っ込んだ。

そんな二人の反応を見て白斗とノワールは拳を軽く付き合わせる。

 

 

「大成功ね!」

 

「ああ。 んじゃ、俺らも食べますか」

 

 

この反応を見て自信がつかないわけがない。

二人も席に座って自ら作ったカレーにありつく。当然味見もしたのだが、その時よりも更に美味しく感じられたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――楽しかった食事も終え、寝る前にゲームで一騒ぎした。

生真面目なノワールとユニも、やはりゲームは大好きであり、さすがに毎日では無かったがあらゆるジャンルのゲームをプレイしているとのこと。

今回は余り対戦の機会がなかった白斗とノワールの対戦が主だったのだが、相手はゲイムギョウ界の女神様。白斗が一方的にあしらわれる結果となってしまった。

 

 

 

 

そんな楽しい時間は、あっという間に過ぎていくもの。気が付けばもう日付を跨いでおり、今日はもう解散ということで白斗は自室に戻った。

それから更に寝静まった時間帯、午前二時。

 

 

(……さて、ここからが本題よノワール。 白斗がちゃんと眠れてるかどうか……!)

 

 

白斗の客室の前に、ノワールが来ていた。パジャマ姿で、愛用している枕を抱えたまま。

そもそも本日、白斗をラステイションへ招いたのは彼と過ごしたかったのもあるがそれ以上に白斗をリフレッシュさせてあげたかったからだ。

ネプテューヌによればここ最近、嫌な夢を見るが故に寝不足だとのこと。だから彼がしっかりと眠れているかどうかチェックするのは当然の義務。

 

 

(べっ、別にあわよくば白斗と添い寝したいとか思ってるわけじゃないんだからねっ! 四女神中、まだ私だけ白斗と添い寝してないのが悔しいとかじゃないんだから!!)

 

 

別に誰も聞いてないのに、勝手に心の中で言い訳してしまう。

今、ノワールの心臓は何度も何度も白斗への想いで叩かれており、鼓動がどこまでもうるさく反響している。

緊張で手も足も震える。けれども、白斗のためにも退くという選択肢はない。

ゴクリと固唾を飲み、ドアノブに触れようと手を伸ばした―――と思いきや、触れたのは別の誰かの手。

 

 

「え? ………お、お姉ちゃん!?」

 

「ゆ、ユニ!? 貴女までなんでここに!?」

 

 

そう、それはユニの手であった。

緊張と暗がりの所為で分からなかったが、彼女もすぐそこまで来ていたのである。

 

 

「……白斗?」 

 

「……白兄ぃ。 え、白兄ぃ?」

 

「白斗……」

 

 

白斗の名前だけで互いの言いたいことが分かってしまう。

要するにどちらも白斗の事が心配でこちらにやってきただけなのだ。あわよくば「添い寝したいから」というやましい目的があるわけではないのだ。

 

 

「……ここは一時休戦ね」

 

「うん。 白兄ぃに迷惑はかけたくないから……」

 

「それに騒ぎすぎると白斗に察知される可能性もあるしね。 それじゃ開けるわよ」

 

 

目的は同じ、白斗の力になりたい気持ちも同じ。ならば互いを拒む理由もない。

ノワールは懐からマスターキーを取り出すと、静かに鍵を開ける。

本来なら、危機察知能力の高い白斗にはさっきのやり取りだけで気づかれそうなものだがそれでも咎めてこない辺り、本当に熟睡しているのかもしれない。

カチャリ、と微かな音を立ててロックが解除される。高鳴る心臓を押さえつけ、固唾を飲みながら扉を押し開けた。その先に待っていたのは―――。

 

 

「……う、ぅッ……ぁ、っ……はぁ、はぁ……ぅぅう………!」

 

「白斗!?」

「白兄ぃ!?」

 

 

明らかに魘されている白斗だった。

苦しげな表情を顔に刻ませ、口からは荒い声と吐息が漏れ出ており、汗も凄まじい量が噴き出ている。

藪医者でも、これを「問題なし」とは看過できない。

 

 

「白斗! しっかりして!!」

 

「起きて白兄ぃ!!」

 

「う、ぐ、あ、ぁっ………はっ!!? はぁ……はぁ……お、俺……は……!?」

 

 

やはりネプテューヌの報告にあった通り、悪夢を見ているらしい。これ以上悪夢の中に放置しておけないと急いで起こしに掛かる。

必死に揺さぶられ、必死に声を掛けられて白斗はようやく目を覚ました。余程壮絶な夢を見たのか、すぐに視界が定まらずに呼吸も安定していない。

 

 

「白兄ぃ!! 大丈夫? アタシ達が誰だか分かる!!?」

 

「……ゆ、に? のわ……る………?」

 

「ほっ……ええ、そうよ。 ユニ、私は水を持ってくるから貴女は汗を拭いてあげて!!」

 

「わ、分かった!」

 

 

そこから先も大慌てだった。

ノワールは水を取りに行き、ユニは部屋に置いてあったタオルで白斗の汗を優しく拭き取る。

 

 

「あ……ユニ………悪いな……」

 

「いいんだって。 それよりも凄い汗……ホントに何があったの……?」

 

 

白斗を見つめるユニの瞳はどこまでも真っ直ぐで、それでいて柔らかい。

綺麗な指先が汗塗れの頬に触れ、柔らかなタオルでそっと汗を拭き取ってくれる。ゆっくり、優しく、労わるように。白斗の呼吸が徐々に落ち着いていく。

やがてノワールも水差しとコップを用意して戻ってきてくれた。

 

 

「はい、お水。 ゆっくりでいいから飲んで」

 

「あ、ああ……。 あり、がとう……」

 

 

良く冷えた水を受け取り、白斗はゆっくりとそれを喉に通す。

冷水が喉を駆け抜けるごとに、体温が徐々に下がっていく。

―――そう言えば、ネプギアが悪夢を見た時も似たような事をしてあげたっけ。そんな事を思っているうちに、気分も落ち着いてくる。

 

 

「一先ず汗は拭き終わり! でもパジャマはグッショリね……なら軽くシャワー浴びてきて!」

 

「え。 いや、でもこんな真夜中に……」

 

「このままだと風邪ひいちゃうでしょ! いいから入ってきなさーい!!」

 

「はっ、ハイイイィィッ!!」

 

 

女神姉妹にどやされて、白斗は浴室に駆け込んだ。

さすがに湯船に浸かるほどでは無かったため、ノズルを捻ってシャワーを浴びる。その間、ノワールが新しいパジャマを用意してくれていた。

汗を拭き、水を飲み、シャワーを浴びたことでさすがに体も心も静まることが出来た。

 

 

「二人とも、ありがとう……。 お陰様で落ち着いた」

 

「どういたしまして。 ……やっぱり悪夢見ちゃうのね」

 

「ネプテューヌから聞いてたのか。 まぁ、今日になって急に『ラステイションへ行け!』なんて言われたし、気を遣わせちゃったな……」

 

「やっぱり気付いてたの?」

 

「あからさまだったしな。 けど、こうして皆が気を遣ってくれてるってのに、俺と来たら……」

 

 

どうやら白斗は今回ラステイションへ送り出されたその意図を理解していたらしい。

だからこそ、いつもとは違って悪ノリに近い感じでハッスルしていたのだろう。

自分自身のストレス解消のために、そして女神の心遣いに応えるために。しかし、結局はその悪夢を振り払うことが出来なかっ―――。

 

 

「……白斗。 本当は悪夢の原因……分かってるんじゃないの?」

 

「え?」

 

「でも、私達を気遣って言い出せない……ってところでしょ」

 

 

ズバリ、言い当てられた。

ノワールは静かに目を閉じながら、確信したような口調でそう語りかけてくる。

そんな真っ直ぐな瞳と言葉を向けられては、白斗も隠そうとはしなかった。

 

 

「……驚いたな。 ノワールはエスパーか?」

 

「女神様よ。 それに……白斗だって、こうしてくれたから」

 

 

他人とは何かと壁を作りがちだった、あのノワールが白斗の心情を読み解いてくれた。

嘗て白斗が、ノワールにしてあげたように。彼女もまた、彼の心に寄り添ってくれる。

情けは人の為ならずという言葉があるが、それはまさに今の白斗の状況を刺している言葉であった。

 

 

「白兄ぃ、何でも話してよ。 自分一人で溜め込んだっていいこと無いって……教えてくれたの、他でもない白兄ぃだよ?」

 

「大丈夫よ、何だって受け止めてあげるから。 遠慮なく来なさい」

 

 

―――嘗て、白斗は絶望の淵に立たされた時、同じ言葉をネプテューヌから掛けられたことがある。

あの時は自分自身が弱かったばかりに弱音を吐けなかったばかりか、ネプテューヌを追い込ませてしまうという失態まで犯してしまった。

だが、あの時と今では違う。もう、白斗は一人ではないのだ。

 

 

「……この前、さ。 俺……マジェコンヌに攫われたろ?」

 

「っ……ええ、忘れるわけがないわ」

 

 

あの日の出来事は、ノワール達にとってもトラウマになっている。

身動きが取れないまま、目の前で白斗が傷つき、倒れ、更にはマジェコンヌによって連れ去られてしまった。

更にはその後、白斗はモンスター化して女神達と戦わせられるという最悪の状況だった。

まだあの日の傷が癒えていないのか、と納得しかけたノワールとユニだったが、どうやら違うようだ。

 

 

「……けどさ、あの時。 俺をモンスター化したのはマジェコンヌじゃない……俺の、親父だ」

 

「え!? 白兄ぃの親父って……あの!?」

 

 

ユニが悲鳴にも近い声を上げた。

白斗の父親、それは彼女らにとって好意を寄せる人の父親という温かい見方ではない。寧ろその逆、大好きな人を傷つけ続けた最低最悪の怨敵だ。

そしてそんな彼が、白斗にモンスター化の処置を施したということは。

 

 

「まさか……貴方の父親が来てるの!? この世界に!?」

 

「……らしいんだ。 マジェコンヌがそう言ってた。 それに……俺の姉さんも」

 

「お姉さんって……香澄さんも!?」

 

 

彼の過去の記憶を除いた二人は知っている。父親がどれだけ悪辣で、白斗にとってトラウマな存在であるか。

逆に不治の病に侵されたまま冷めない眠りについたままの姉が、白斗にとってどれだけ大切な存在であるか。

そして愛憎混ざったその二人が―――このゲイムギョウ界に来ていることを。

 

 

「……そう考えたらさ。 一時期姉さんの事も忘れてノコノコと生きてた俺って何なのかなとか考えちまって……今更だけど、密かに捜索隊とかも出してもらって、でもどれもこれもスカで……仮に見つけたとしても、姉さんにも……皆にも顔向けできないなって」

 

 

どれほどの葛藤を抱えていたのだろうか、暗く沈んだその表情から嫌でも伝わってくる。

―――だから、ノワールとユニに出来ることは。

 

 

「えっ……」

 

 

白斗を、優しく抱きしめてあげることだった。

 

 

「……もう、そう言う時は遠慮せずに言ってよね。 私達だって、幾らでも協力してあげるから」

 

「でも……辛かったよね。 苦しかったよね。 ……白兄ぃ、もう……大丈夫だから」

 

 

幾らでも支えて、幾らでも助けて、幾らでも抱きしめる。

人の心はふとしたことで弱ってしまう。それは女神であっても同じ。そしてそんな彼女達を同じように支えてくれたのは白斗だ。

だから彼女達も、同じように―――いや、それ以上の想いで白斗を支える。

 

 

 

「………はは、俺は何を一人で悶々と悩んでたんだろうな。 ……初めから、こうしてもらえばよかった……のかな」

 

 

 

―――ようやく、白斗の心が本当の意味で軽くなった。

きっと一日中、どれだけ体を動かしても、どれだけ遊んでも、どれだけ美味しいものを食べても。

一度作ってしまった心の突っかかりは簡単には消えてくれなかった。なのに、二人の女神の優しさに触れることであっさりと消えてしまう。

 

 

「そう言うことよ。 ……さ、もう三時回ってるわ。 早く寝ましょう」

 

「そうそう! 今度はアタシ達も一緒に寝てあげるから!」

 

「……お願いします、女神様」

 

 

いつもならばこういったことには難色を示し、断固として固辞する白斗だが今日は珍しく素直に添い寝を受け入れた。

さすがに一人用のベッドであるため三人が入るには手狭だが、その分密着度が増している。

左右からの温もりと柔らかさを感じては熱くもあるが、心が安らぎもした。

 

 

「ふふ……白兄ぃ、温かい……」

 

「やっと私も白斗に添い寝出来た……。 もう、ネプテューヌ達ばかりズルイのよ……」

 

「……何だか二人とも、今日はやけに素直だな?」

 

「たまにはこういうのもいいでしょ? ……い、言っておくけど!!」

 

「常にこういう事考えてるとか、そんなんじゃないんだからねっ!?」

 

「あ、いつもの二人だ。 やっぱり落ち着くわー……」

 

「「それで落ち着くなっ!!」」

 

 

しかし、白斗の前だと大分素直になれるのもまた事実。

いつものやり取りをしたことで白斗もやっと調子を取り戻し、安心して瞼を閉じれる。

 

 

「……ユニ、ノワール」

 

「ん?」

 

「何?」

 

「………おやすみ」

 

 

そう言って、白斗は瞳を閉じた。

するとあっという間に寝息を立て始める。相当疲れていたのか、緊張の糸が切れたのか。しかし、先程の様な寝苦しさは欠片も無い。心から安心した寝顔。

それを見た二人の女神は、穏やかな表情を浮かべて。

 

 

 

 

「「…………おやすみなさい。 ちゅっ」」

 

 

 

 

左右から、彼の頬に口付けを一つ落としてから、夢の世界へと飛び立つのだった。

どんな強い人も、心が弱ってしまう時がある。

いや、人はふとした時に弱くなってしまう生き物なのかもしれない。強い人とは、そこから立ち上がれる人の事を差すのではないだろうか。

―――白斗のように、誰かに支えられてまた立ち上がれるのもまた強さの一つなのだとしたら。

彼はまた一つ、強くなれた……のかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

ただ一つ言えることは。―――一人の少年と、二人の女神はとても幸せそうに寝ていた。

 

 

 

 

 

 

続く

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やぁ、白斗。 昨夜はお楽しみだったね。 ……あー、何だか君に仕事を頼みたい気分だなー」

 

「犬めとお呼びくださいケイ様」

 

 

 

 

 

 

 

 

………本当に続く




と、いうことで少ししんみりとしながらもラステイション姉妹のイチャイチャ話でした。
今までのお話でちょっとノワールやユニ成分が足りないなーということでお鉢が回ってまいりました。
白斗に限らず、ノワールやユニって彼氏彼女の関係になればツンデレっぷりもあって普段はあーだこーだ言いながらも、いざとなれば互いに息ピッタリ。そんな関係が築けるのではないかなと思っている今日この頃です。
ついでに四女神の中でまだノワールだけ添い寝していなかったので今回を以てコンプリート。恐ろしい奴よのう。
さてさて、次回ですがギャグよりなお話を投稿予定です。
タイトルはズヴァリ、「女神様だ~れだっ!!」。 ……はい、ラノベとかでも割と定番なあのゲームのお話です。でも一番焦点を当てるのは……あの子にしようかな?
では次回もお楽しみ!!感想ご意見お待ちしております!
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