恋次元ゲイムネプテューヌ LOVE&HEART   作:カスケード

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第四十八話 ねぷのなつやすみ~海水浴編~

―――白斗の慌ただしい一日は、女神の一言から始まる。

 

 

『白ちゃん! 海に行きませんか?』

 

「今回はベール姉さんからか、珍しいパターンですね」

 

 

ナイフの手入れをしていたところ、ベールからの通信が入った。

応答してみれば満面の笑顔を画面いっぱいに広げているベールがいた。「嗚呼さらば、何でもない一時よ」と心の中で呟いたのは内緒である。

 

 

『いや、もう夏ですし白ちゃんとはまだ海で遊んでいないのでひと夏の思い出をと思いまして』

 

「ふーむ、でも海か……」

 

『あら、海水浴はお嫌いですの?』

 

「別に泳ぐのは嫌いじゃないけど……なぁ……」

 

 

白斗は自分の体に視線を落とした

彼の体には機械の心臓が埋め込まれている上に体中に古傷を幾つも残している。どれも父親によってもたらされた呪い。

だが、海ともなればこの体が他の観光客や女神達の目に入ってしまう。白斗としても、それはいい気分ではなかったのだ。

 

 

『……大丈夫ですわ。 私達は貴方の傷なんて怖くありませんから』

 

「え?」

 

 

すると、そんな彼の心情を見透かしたかのようにベールが言葉を掛けてくれる。

白斗が自らの傷が原因で渋ることを予想していたらしい。

 

 

『それに、今回はとあるリゾート地の一角を貸し切りにしていますの。 ですから周りの目なんて気にしなくても大丈夫ですわ』

 

「か、貸し切り……!? わざわざ!?」

 

『こういう時くらい職権乱用するものですわ。 さ、どうしますか?』

 

 

それだけ白斗と一緒に過ごしたいというベールの思いが見て取れた。

ここまでされて断るほど、白斗は悪人になれない。

 

 

「……ありがとう。 なら、お言葉に甘えるとしますかね」

 

『その言葉を待っていましたわ! ではまず日程ですが……』

 

 

先程とは打って変わっての晴れやかな顔で承諾した。そんな白斗にベールは大喜びだ。

何せ心許した弟分にして、慕っている兄貴分にして、何より誰よりも大好きな想い人とひと夏の素敵な思い出を築けるのだから。

日程などの詳細を伝えようとした―――その時。

 

 

「ねぷー! いいですなー、海! 私も行きたーい!」

 

『ね、ネプテューヌ!? 何故貴女がここにいるんですの!?』

 

『あら、奇遇ねー! 私も今丁度休み取れたしご一緒しようかしらー!?』

 

「の、ノワール!? 当たり前のように回線ジャックを……」

 

『海なんて久しぶり。 どんな水着を着ようかしらね』

 

「『ブランまで!?』」

 

「わ~! みんなで海水浴~! 楽しみ~!」

 

「『ぷ、プルルート……』」

 

 

女神様大集結だった。まるでタイミングを見計らったかのようにネプテューヌとプルルートが扉を開け放ち、回線に割り込んでノワールとブランまで現れた。

明らかに盗聴なりしていたとしか思えないタイミングの良さである。

 

 

『皆さん邪魔しないでくださいまし! これは私と白ちゃんの思い出ですのよ!』

 

『いいじゃないのベール。 その思い出に私達が加わるだけだわ』

 

『そうそう、固いこと言わないの』

 

『お堅い代表のノワールには言われたくありませんわー!』

 

 

通信回線で喧嘩を始めてしまうベール達。

ノワール達からすれば邪魔はしないが、肖りたいというニュアンスらしい。それがベールにとっては邪魔以外の何者でもないが。

 

 

「ネプテューヌ、お前は大丈夫なのか? 仕事とか仕事とか仕事とか」

 

「どれだけ私を仕事漬けにしたいの!? でもだいじょーぶ! だっていーすんがお休みくれたんだもーん! 夏休みなんだもーん!」

 

「え!? イストワールさんが!?」

 

「そうだよ~。 ついでにあたしも行ってくださいって~」

 

「ネプテューヌ! お前何をネタにイストワールさんを強請ったんだ!? 怒らないから正直に言いなさい! 優しく叱ってあげるから!」

 

「全然信じられてない~! 後それ結局怒ってるパターン!」

 

「まぁ冗談だ。 イストワールさんが言うからにゃ、何か考えがあるんだろうし」

 

 

一方白斗は真面目にネプテューヌが参加できるのかどうかを心配していた。

何せ不真面目で仕事も溜まりがちな彼女がそう易々と自由の身になれるとは思わなかったからである。

しかしそんな彼女とプルルートを快く送り出したのがなんと他ならぬイストワール。彼女が許可を出したことに驚きつつも、その考えを尊重する白斗。

 

 

「それに、俺もネプテューヌ達と海水浴とかしてみたかったしな」

 

「白斗……! うん、楽しい思い出……いっぱい作ろうね!」

 

『コラー! 私が白ちゃんを誘ったんですのよ! 甘い空気にならないでくださいまし!』

 

 

良い雰囲気の所、猛抗議の声を上げるベール。元は彼女からの誘いなのだ、抗議の声を上げるのも無理もない。

 

 

「まーまー、無理言ってる分費用とか私達の方で折半するからさー」

 

『費用はいらないから白ちゃんとの一時をください。 ……と言いたいのですが、これ以上は折れる気配も無さそうですわね……』

 

 

これ以上ないくらい重い溜め息をつくベール。

拗ねてしまった時の彼女は宥めるのが大変だと、今度は白斗が頭を抱える羽目になった。

ベールも白斗にとって大切な人。彼女にこんな気分を抱えさせるのは男のすることではない。

 

 

「姉さん、みんなと過ごしたいのも本音だけど姉さんと特別な一時を作りたいと思うのも事実だよ。 だから……向こうに行ったら時間貰うぜ?」

 

『は、白ちゃん……! そ、そういうことであれば仕方ありませんわね!』

 

 

白斗の男気溢れる宣言にベールはご満悦だ。

一方、他の女神達は一気に不機嫌な視線が背中に突き刺さるのだが今回は無理を言っている手前、我慢することに。

 

 

「それで、どこの海に行くんだ? リーンボックス?」

 

『ふふ、今回はちょっと違いますわ。 極上のリゾート地、その名も―――』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

眩しい太陽、輝く砂浜、吹き抜ける夏の風、どこまでも澄み切った空、そして一面に広がる青い海。

まさに南国リゾート地と言う他ない、常夏の島。訪れる多くの観光客が身なりの整った、所謂セレブに値する人達。ここに来るまでも、飛行機やヘリコプターをチャーターする必要があるのだ。

まさに極上と言うの南の島、その名も―――。

 

 

『―――R-18アイランドへようこそ!』

 

 

空中に浮かぶ画面、そこに表示される案内。

ここは、リーンボックス近海に浮かぶ島。その名も「R-18アイランド」。

名は体を表す通り、18歳未満は入島が出来ず、ドレスコードは水着がオールヌード。そんな、どこか卑猥な響きがする島の受付に海パン一丁となった白斗が訪れていた。

 

 

「……海パンオンリーってのも落ち着かないな……。 こう、ナイフとか銃とかワイヤーとか持ってないと、収まりが悪い……」

 

 

人、それを職業病という。

 

 

「こらこら、折角南の島まで来たっていうのにそんな物騒なこと言わないの」

 

「お、ネプテューヌも来た……か……」

 

 

そこに聞こえてきた凛とした声。女神パープルハートのものだ。

振り返ったその先には、魅惑の肢体を揺らしながらこちらへと歩くビキニを華麗に着込んだ女神様がいた。

白く美しい肌が輝きを見せ、その魅力を白斗の網膜に焼き付けられる。

 

 

「ど、どうかしら……? 白斗、似合ってる……?」

 

 

女神化した彼女は常に堂々と、それでいて冷静でまさに「格好いい女性」となるネプテューヌ。

それが白斗と言う男の前では、顔を赤らめてもじもじとしている、可愛らしくて尚且つ魅力的な姿を晒している。

これを前にしてどうして生唾を飲むなと言えようか。

 

 

「……す、すっげぇ似合ってる……。 と、いうか……ヤバイ……」

 

「ほ、本当!? ふふ、冒険した甲斐があったわ♪」

 

 

水着姿を褒められたネプテューヌは本当に嬉しそうだった。

何せ大好きな人からそんな好評価を貰ったのだから、はしゃぐなと言う方が無理だ。そしてそんなギャップがまた可愛らしくて、白斗は密かに悶えてしまう。

 

 

(にしてもネプテューヌはこんだけ綺麗だってのに、俺と来たらまぁ……)

 

 

そして、どうしてもネプテューヌの美しい体と自分の傷だらけの体を比べてしまう。

虐待や任務などで生々しい傷の数々に加え、機械の心臓が埋め込まれたこの体が女神様の傍に相応しいわけが―――

 

 

「大丈夫よ、白斗」

 

「え……?」

 

 

すると、ネプテューヌが突然白斗の手を取ってきた。

その目は慈しんでくれているかのようにとても真っ直ぐで、柔らかくて、温かい。

 

 

「私はこの体に何度も助けられて、守られて、そして救われてきたの。 だから私は、絶対に拒絶なんてしない。 貴方も、自分を卑下しないでね」

 

「……敵わないよ、本当に」

 

 

どうやら白斗の不安を見抜いていたらしい。

女神化しても、ネプテューヌの本質は変わらない。明るくて、優しくて、人を包み込んでくれる不思議な力がある。

そんな彼女に幾度となく救われてきたのは自分の方だと思いながら、白斗もようやく自分の体に自信を持った。

 

 

「コラそこっ! 二人だけでいい雰囲気を作らないの!」

 

「白ちゃんってば、本当に困ったお人ですわね」

 

(こ、今度はノワールにベール姉さんか……)

 

 

更に現れる二人の女性。声からしてノワールとベールだ。

声色から察するに彼女達も女神化をしているらしい。ただでさえ、ネプテューヌであれだけの魅力と破壊力があったのだ。

そんな二人の水着姿に期待を寄せられないはずもなく、白斗が振り返る。

 

 

「……な、何よ……。 何か言いなさいよ……」

 

 

そう言いながら胸を抱えて恥ずかしがるノワールこと女神ブラックハート。

彼女の水着は白地に赤の縞模様が入ったビキニ。スラリとしたラインに程よい膨らみの胸、美しい銀髪を棚引かせるその姿はまさに傾国の女神。

彼女のために一国を捧げる男がいても、白斗は決して軽蔑しない。

 

 

「……素敵だよ、ノワール」

 

「う、嘘じゃないわよね……? 白斗、よく他の子にそういう台詞を言うし……」

 

「確かに我ながら考え無しだなーとは思うけど……嘘はつかない」

 

「……そ、そう……。 ありがと……」

 

 

ノワール相手の場合は堂々と言い切る。彼の迷いなき言葉を受けて、ノワールの心臓は爆発するのではないかというくらいに高鳴った。

それを悟られたくないと顔を逸らしてしまうが、少しだけ素直になってお礼を言う。

 

 

「ふふ、では白ちゃん。 私は?」

 

「……美しい……」

 

 

次に声を掛けられたのはベールこと女神グリーンハート。

ベールは女神の中でも最も豊満な体を持ち、彼女の女神化はそれこそ水着と変わらない露出度の高い姿になるのだが、それでもやはり水着の破壊力は凄まじいの一言に尽きる。

男を惹きつけてやまない体つき、美しい白い肌、それらを引き立たせるパレオ。美の化身以外の何者であろうか。

 

 

「あらあら、貴方からそんなお言葉を頂けるなんて女神冥利に尽きますわね」

 

「……それ以外の何だって言うんだよ……」

 

 

今度は白斗が照れ臭くなって目を逸らしてしまった。

こんなにも美しい存在が白斗の隣を占領しているというのだから。

当然、そんな光景を面白く思わないのはネプテューヌにノワール。そして―――。

 

 

「ったく、お前はどうして歯の浮くようなセリフがポンポンでるんだ……この女誑しめ」

 

「みんな~。 お待たせ~」

 

 

ブランこと女神ホワイトハート、そしていつもの姿とぽわぽわな雰囲気を振りまく女神ことプルルートも現れた。

まず姿を見せたのはホワイトハート。白と水色を基調とした水着で、女神としては最も控えめなスタイルながらも、その小柄さが寧ろ可憐さを引き立たせている。

 

 

「……ブラン、可愛いな。 それに綺麗だ」

 

「かっ、かわっ……!? きれっ……!? お、お前なぁ……他の奴にもどーせ同じような台詞言ってるんだろ……っ」

 

「これはブランへの素直な気持ち。 誰がどう言おうと覆さないぞ」

 

「~~~っ……!! そ、そうか……なら、いい………」

 

 

それに可愛らしさだけではなく、女性としての美しさと色気もあった。もし白斗に鉄壁の理性が無ければ、美しいその肌へと手を伸ばしてしまっていたほどに。

そんな彼女を抱きしめたい衝動を抑えて、その代わりに言葉を尽くす。白の女神は、あっという間に頬やら肌を赤くさせ、しかしながら幸せそうに顔を緩めた。

 

 

「ねーねー、白く~ん。 あたしは~?」

 

 

そして残りは神次元から来た女神、プルルート。

彼女は髪型はそのままに、黄色のビキニを身に着けている。普段はふんわりとした服を着ている彼女なだけに、意外な大胆さと美しさが引き出されている。

因みに彼女だけ女神化していないのは―――お察しください。

 

 

「おー、プルルートの水着姿も素敵だな。 まさに女の子って感じで可愛いよ」

 

「わ~い! 白くんに褒められた~!」

 

「ってちょっと!? 引っ付くなって!! ああ、女神様が恐ろしい形相に!!?」

 

 

大喜びのプルルートが、無邪気に白斗の腕を絡めとってしまう。

彼女は他の女神達のようにまだ彼に対して明確な女としての好意があるわけではない。だからこその大胆な行動に女神達はやきもきせざるを得ないのだ。

 

 

「と、とにかく! これで全員揃いましたし入島審査を始めますわよ! 事前に説明した通り、このR-18アイランドは18歳未満が入ることが出来ませんの」

 

「だからみんな女神化してきたんだよな」

 

 

そもそも、何故ネプテューヌ達が女神化しているのかと言うと年齢制限をクリアするためだ。

普段の姿は残念ながらどうみても18歳以上に見えないネプテューヌ。だが女神化すればそれはもう素敵な女性となる。

 

 

「……まぁ、怪しいのが若干二名いますが」

 

「おいゴルァ! 今私の胸を見てせせら笑いやがったなぁ!?」

 

「お、落ち着いてブラン! 女神に年齢なんて関係ないから!」

 

 

ベールの何とも言えない哀れみの視線にホワイトハート様がブチ切れた。そんな彼女をネプテューヌが大慌てで宥める。

因みに怪しいもう一名ことプルルートも大変不服そうである。

 

 

「まぁ、当たって砕けろですわ。 入島審査をお願いします」

 

『ようこそ、R-18アイランドへ! 問おう、あなたはオトナか?』

 

「当然ですわ」

 

 

早速ベールが金属探知機のようなゲートの前に立ち、案内に従ってパネルに触れる。

当然と言わんばかりにベールは審査をパスし、悠々とゲートを潜った。

 

 

『以上で入島審査は完了です! それでは、R-18アイランドをどうかお楽しみください!』

 

「これだけ、ですわ。 簡単でしょう?」

 

「パスポート申請とかしなくていいのはラクだな。 んじゃ俺も」

 

 

続いて白斗もパネルに触れ、審査を済ませた。

ネプテューヌとノワールも問題なくクリア、残るはベール曰く「怪しい二名」ことブランとプルルートだ。

 

 

『あなたは18歳以上ですか?』

 

「…………はい」

 

「は~い」

 

 

緊張を含んだブランに対し、プルルートは陽気にパネルに触れる。そして返ってきた答えは。

 

 

『ホントに?』

 

 

疑惑を含んだ、とても失礼な再確認だった。

 

 

「ハイだっつってんだろ! このこのこのっ!」

 

「疑われてるぅ~……」

 

 

当然ブランは怒り、そしてプルルートは泣きながら再びパネルに触れる。

それでもシステムは彼女達を受け付けてくれず、それどころか。

 

 

『ホントは幼女でしょ?』

 

「幼女じゃねーよっ!!」

 

 

女神様に対するものとは思えない、無礼千万な決めつけが待っていった。

怒り心頭でブランはパネルを殴りつけてしまい、画面が一瞬ブレる。それでもシステムは正常に作動し続け―――。

 

 

『その胸で?』

 

 

言ってはならない一言を、言ってしまった。

 

 

「キ~~~~~~ッ!! クソがああああああああああああああッ!!!」

 

「ああっ!? ホワイトハート様がご乱心!!?」

 

 

とうとうブランも大爆発。アックスを取り出し、パネルを一刀両断してしまった。

機械は警告音を発しながら彼女達を止めようとするが、ブランはアックスで大本のコンピューターを叩き壊してしまい、システムをダウンさせてしまった。

 

 

「あ、当たって砕きましたわね……」

 

「ま、まぁまぁ。 ブランとプルルートなんて魅力的な女の子を入れないシステムの方がおかしいしな! うん!」

 

「当然だ。 ホラ、さっさと行くぞ」

 

「わ~い、みんなで海水浴だ~!」

 

 

まさに力業としか言いようがない突破方法にベールはドン引きだ。後で修繕費がどれだけ掛かることやら。

一方、これ以上二人を不機嫌にさせないためにも白斗が必死のフォローを入れて二人を落ち着かせる。

ブラン達も無事(?)入島したことで、ようやく本当の夏休みが幕を開けるのだった。

 

 

(……すまんな、ネプギア達よ。 ピーシェのことは頼むぞ……)

 

 

ただ、ビーチに向かう直前。

白斗はお留守番をしている妹分達に手を合わせて謝った―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃、プラネタワーにて。

 

 

「もー! お兄ちゃんもお姉ちゃんも酷いっ!」

 

「全く失礼な話よね! アタシだって立派なレディーなのに、どーしてお留守番しなきゃなんないのよーっ!」

 

「そーだそーだ! フコーヘーよ、こんなのー!!」

 

「わたし達……子供じゃないもん……!(ぷんぷん)」

 

「ぴぃもいきたいーっ!」

 

 

お留守番を言い渡された白斗の妹分達たる女神候補生とピーシェがこぞって文句や抗議の声を上げた。

R-18アイランドは何度も言うように18歳未満が入れない領域で、どこの国とも違う自治体の管理下にある。

よって女神やその候補生だとしても年齢という絶対のルールを厳守しなければならないのだが、だからと言ってはいそうですかと受け入れられる彼女達ではない。

 

 

「私、女神化すれば18歳以上だもん! アニメだと行けたもん!」

 

「ネプギア、それ何の話よ? でもホント有り得ないっ! 女神化したらアタシだけ軽量化するから認められないとか、それこそ認められるかぁーっ!!」

 

 

特にネプギアとユニが怒り心頭である。本来ならばネプギアも女神化すれば18歳以上として扱われるのだが、有事に備えてここに残った方がいいという判断から残されてしまった。

因みにその有事とはピーシェのお守りである。

そんな彼女達の反応を見かねて、やれやれと言った様子でイストワールが近づいてくる。

 

 

「皆さん、落ち着いてください。 そう言われると思って屋上にビニールプールをご用意させていただきました」

 

「わー! ぷーるだ! やったーっ!!」

 

「さっすがイストワール、気が利いてるーっ!」

 

「わぁ……! わたし達の貸し切り……!(きらきら)」

 

 

屋上に設置された、大き目のビニールプール。

それを目の当たりにするや否や、ピーシェにロムラム姉妹が目を輝かせて近づいた。さすがはちびっ子、この手のものに対する興味は津々である。

 

 

「うーん、これかぁ……アタシ達大人のレディーにはキツイわね。 大人のレディーには本当にキツイわね!」

 

「ユニちゃん、二回言わなくても……。 でもこうなったら泳がなきゃやってられないよ!」

 

「……それもそうね。 ええい、なら徹底的に遊んでやるわぁっ!!」

 

(……徹底的に遊ぶってどういうことでしょうか……)

 

 

呆れながらもイストワールはプールではしゃぐ女の子達を見守った。

女神候補生などと言われているが蓋を開ければ誰もが可愛らしい女の子。そんな彼女達が水飛沫煌くビニールプールで遊ぶ姿はとても輝いている。

 

 

(……でも、今日くらいはいいですよね。 これも、大切な思い出になる……思い出にしなければいけないのですから……)

 

 

そして、少しだけ暗い視線をピーシェに向けてしまうのだった―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時と舞台は戻り、R-18アイランドにて。

 

 

「よっ、と。 ふぅ……パラソル設置完了!」

 

 

炎天下の日差しの中、白斗はパラソルを立てていた。

柔らかい砂浜にパラソルを固定させるのは意外に大変で、それを四本分も立てていたのだから彼の汗や苦労も滲み出るというもの。

パラソルが生み出す日陰の中に荷物やシート、チェアを広げ、いつでもくつろげる体勢を整えておく。

 

 

「白ちゃん、ありがとうござます」

 

「お、一番乗りは姉さんだったか」

 

 

するとそこへベールが現れた。のだが、女神化は解除していつもの姿に戻っている。

現在女神達は元の姿に戻っての水着着用のため一旦その場を離れていたのだ。

しかし、それでも理想にして魅惑のスタイルは男の視線を惹きつけてやまない。正直貸し切りで良かったと白斗は安心する。

もし、ここに他の男が存在すれば間違いなくベールに近づいていただろうから。

 

 

「すみません、パラソルついでにもう一つお願いしたいのですが」

 

「いいよ、何かな?」

 

 

何やらもう一つ頼みごとがあるらしいが、特に問題は無いと白斗は安請け合いをしてしまう。

するとベールは広げられたシートの上に寝そべり。

 

 

「サンオイル……塗ってくださいます?」

 

「何ですと……!?」

 

 

とんでもない提案をしてきたのだった。

背中だけとは言え、その美しい肌とヒップラインを如何なく見せているベールの姿はまさに甘美なる罠。

胸もまるでクッションのようにシートに広がっており、見るだけでも目の保養になってしまう。

そんな中、サンオイルを塗ってしまったら果たして白斗の鋼の理性もどうなってしまうのやら。

 

 

「な、なんで俺!? ネプテューヌ達に頼めばいいじゃん!!」

 

「私の肌は他人に触れさせるほど安くないですわ。 何より……貴方だから、お願いしていますのよ?」

 

「…………ッ!!?」

 

 

何と男殺しな台詞と姿だろうか。

ベールからのこれ以上ない信頼があってこその発現であることは分かる。だから白斗は動揺を露にし、汗も垂らして、機械の心臓を光らせている。

炎天下も相まって早くも喉がカラカラだ。

 

 

「さ、早く塗ってくださいまし。 それとも、白ちゃんは女神のお肌を焼かせるような、罪なお人でしたの?」

 

 

おまけに挑発的な言葉、更には水着のホックまでも外して準備完了だ。

こうなると白斗に逃げ道は無い。

 

 

「……わ、ワカリマシタ……」

 

「ふふ、お手柔らかにお願いしますわ♪」

 

(色即是空空即是色……!!)

 

 

出来るだけ邪な考えを抱かないよう、心の中で念仏を唱え続ける白斗。

しかし、手に垂らしたサンオイルの冷たさが嫌でも意識を現実に引き戻してくる。ゴクリと生唾を飲みながら、リーンボックスの至宝とも言えるベールの肌に触れ―――。

 

 

「ひゃんっ……!」

 

「へ、変な声出さないでクレマスカ!!?」

 

「し、仕方ないじゃありませんの! ……貴方の手が、私に触れていますのよ?」

 

「~~~~~ッッッ………!!!」

 

 

最早頭が逆上せてしまいそうで、白斗は徐々に正常な判断が出来なくなってしまう。

だが、自分の邪念の所為でベールを傷つけることなどあってはならない。その一心で必死に抑え込み、サンオイルを塗り続けた。

 

 

「あんっ♪ 白ちゃんの手付き……気持ちいですわぁ……」

 

(アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア)

 

 

その間、艶めかしいベールの嬌声を必死に耐えていた。

 

 

「ぜぇ……ぜぇ……! ぬ、塗り終わりました……っ」

 

「あら、もう終わりですの……?」

 

(た、耐えた……耐えたぞぉぉぉぉぉっ!!)

 

 

息も絶え絶えに、ついに背中全域を塗り終えた。

勿論手抜かりがないよう、隅から隅まで。決して乱暴ではなく、ベールが心地よく感じるように。

それがお気に召しただけにベールは終わりだと聞かされ、物凄く残念そうにしている。

一方の白斗は暴走しなかった自分の理性に感謝と称賛を送り―――。

 

 

「でしたら、今度は……その……前の方もお願いできればと………」

 

「………へ?」

 

 

今、彼女は何と言った? 前? 前側も塗って欲しいと言ったのか?

前、それは即ち今水着のホックが外されているお腹、そしてその豊満なバストにサンオイルを塗り込めと言っているのか。

再び訪れる、最大の試練に白斗はいよいよ窮地に立たされてしまい―――。

 

 

「はーい、そこから先は私が担当するわねー」

 

「なっ!? の、ノワール!!?」

 

 

そこにガシッと掴まれる無慈悲な握力。ノワールだった。

実ににこやかな顔だったが、目は一切笑っていない。そんな様子を見せられてはさすがの白斗も、ベールも、凍り付くしかなかった。

 

 

「こんな状況でもセクハラパワハラが通用すると知りなさいっ!! ほらほら、こういうのがいいんでしょっ!!?」

 

「きゃああああああああああああああああ!!?」

 

 

その後、ノワールによってベールはサンオイルを塗りたくられた。それはもう、滅茶苦茶に。

 

 

「あー、白斗ってば今残念そうな顔したー!!」

 

「してねぇよ! ってかネプテューヌ達もいつの間に……」

 

「ついさっきよ。 具体的には白斗がケダモノのような顔をしながらベールの背中にベタベタお触りしているところからね」

 

「俺そんな酷い顔してた!?」

 

「白くん、怖かった~……」

 

「やめてプルルート、そういうストレートな言葉が一番傷つくんだよ?」

 

 

そして、白斗から少し距離を取ってネプテューヌ達がこちらを見ていた。

彼女達も全員女神化を解除した状態で水着を着用していたが、誰もが可愛らしくて美しい。

しかし全員不満全開で、白い目で白斗を見ていた。

 

 

「だったら……わ、私達にもサンオイル塗って欲しいな~……」

 

「は?」

 

「そうね。 全員平等、私達にも塗ることで手打ちにしてあげる」

 

「ひ?」

 

「あ、あたしもいいかな~……。 優しくしてね~……?」

 

「ふ?」

 

「白斗ー! 私も後でお願いねー!!」

 

「へ?」

 

 

―――試練は、まだまだ終わらない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う、う~ん……はれ? 俺は……」

 

 

その後、気が付けば白斗はシートの上に寝転がされていた。

ゆっくりと体を起こせば、女神達は皆思い思いに海水浴を楽しんでいる。浅瀬で水の掛け合いを楽しんだり、砂浜でお城を建設していたりと実に様々。

因みにその間の白斗の記憶は飛んでいる。

 

 

「あら、目が覚めた?」

 

「ブラ、ン……? 俺は一体……」

 

 

すぐ傍のチェアではブランが寝そべりながら本を読んでいた。

如何にも彼女らしい過ごし方に少し微笑みを零しながら立ち上がろうとする。

 

 

「無理しないで。 全員の背中を塗り終えた後、キャパオーバーで貴方は倒れちゃったのよ」

 

「……あっ、あー……。 段々思い出してきたぞ……。 ゴメンな、迷惑かけて……」

 

「寧ろ謝るのはこっちの方。 ごめんなさい、ベールが羨ましかったからって、白斗の事も考えずに無理言っちゃって……」

 

 

ペコリと真摯に頭を下げてきたブラン。だが、白斗からすれば彼女達は何一つ悪くないのだ。

慌てて頭を横に振ってそれを止めさせる。

 

 

「あ、謝る必要ないって! 女の子だしサンオイル塗りたくなる気持ちは分かる。 それに俺は気にしてないから」

 

「いや、そうじゃなくて……まぁいいわ」

 

 

見当違いの理解、そして際限ない優しさ。それらに毒気を抜かれ、ブランも引き下がることに。

まだネプテューヌ達は白斗が目覚めたことに気付いていない。それぞれが思い思いの海での過ごし方を満喫している。

 

 

「ブランは泳がないのか?」

 

「白斗の傍にいたかったからこれでいいの。 くじ引きで見事勝ち取ったのよ」

 

「何故そこでドヤ顔……」

 

 

実際、白斗の看病の話になった際は大乱闘寸前だった。

好きな人の看病をする権利、殺してでも奪い取ると言わんばかりの雰囲気の中、プルルートが仲裁案としてくじ引きを提案したのである。

結果、それを見事に手にしたのがブランという経緯だった。

 

 

「ところでブラン、何読んでるんだ?」

 

「ああ、これ? 『海の泣き声』、ヒヤリー・クイーンの小説よ」

 

「あ! 俺もそれ好き! 読んでてさ、水のように沁み込んできていつの間にかついつい引き込まれちゃうんだよな~」

 

「そうそう! それでいて文体が透き通った水のようで綺麗で……」

 

「俺、あのフレーズが好きなんだよな。 『二人の心は海のように広く……』」

 

「『そして、どこへでも繋がっている』……私も大好きなの、その一節」

 

「この小説を一番物語ってる文章だよなー! やっぱブランと俺の好みって合うよな!」

 

「ええ、とても嬉しい……!」

 

 

海水浴に来ているはずなのに、パラソルの陰で小説談義。

けれども、穏やかなこの時間がとても心地良い。こんな過ごし方も、贅沢だと感じていた。

何よりブランにとって、大好きな人と大好きな小説で盛り上がれることが本当に嬉しくて、いつまでも話していたくなる。

 

 

「あー! ブランが白斗と楽しそうにお喋りしてるー!」

 

「白斗ー! 起きたのならこっちに来て遊びましょうよー!」

 

「白ちゃん! 海が綺麗ですわよー!」

 

「あたしの砂のお城も見ていってね~」

 

 

と、そんな楽し気な会話が耳に入ったらしい。

ネプテューヌ達もようやく白斗が起きたことに気付いてこちらへ手招きしている。青い海に、煌く水飛沫、そして女神達の水着姿が本当に眩しい。

 

 

「あら、気付かれちゃった上に大人気ね。 白斗、こっちは大丈夫だから行ってらっしゃい」

 

「ブランはいいのか?」

 

「もうすぐでこの小説を読み終わるから」

 

「そうか、なら遠慮なくっ!」

 

 

ようやく体調も回復し、ようやく水遊びが出来る。

白斗は柄にもなく青い海へと飛び出していった。そんな彼をブランは優しく見送る。

 

 

(本当はもうちょっと話していたかったけど……好きな人の好きなことをさせてあげるのも、貴方の女神たる私の務めよね)

 

 

愛した守護騎士のためなら、待つことも苦ではない。

余裕と理解のある女ことブランであった。

 

 

「みんなー! お待た…………」

 

「今だ総員! 白斗に攻撃せよー!!」

 

「「ラジャー!!」」

 

「ぶわっはぁ!? ちょ、お前らぶほっ!!」

 

 

浅瀬に飛び込んだ瞬間、プルルートを除く女神達の水飛沫が白斗を襲った。

凄まじい弾幕に息苦しささえ覚え、白斗は海に沈んだ。

 

 

「やったー!! 白斗撃沈ー!!」

 

「ふふん、名うての暗殺者様も女神の前には形無しね♪」

 

「ばたんきゅーな白ちゃんも可愛らしいですわね」

 

 

ハイタッチを交わし合うネプテューヌ達。

してやったりな表情や声が、海水の中に沈む白斗にも十分伝わる。やがて白斗は海面を突き破り―――。

 

 

「ドォラァ!! よくもやりがったなコラァ!!!」

 

「きゃ~~~!!」

 

 

勢いよく水柱を上げた。降りかかる大量の水にネプテューヌ達は可愛らしい悲鳴を上げる。

以前、アイエフやコンパとも川で水遊びをしたが楽しかった。その楽しさが今、蘇っている。

 

 

「やったわね~! それそれそれぇ!!」

 

「こちらも負けませんわよ! えいっ、えいっ!!」

 

「べへっ!? こ、こりゃ多勢に無勢だ!! ブラン、プルルート!! 救援求ム!!」

 

「はいはい。 ……守護騎士と組んだ守護女神は無敵よ」

 

「わ~い! ねぷちゃん達覚悟~~~!!」

 

 

それぞれの遊びにも一区切りついたらしい、白斗の救援要請に駆けつけたブランとプルルートも水をかけあう。

真夏の海で、女神達と水遊びをする白斗はとても楽しそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぃー……遊んだなぁ」

 

「そうだね~」

 

 

それからしばらくして、木陰で休む影が二つ。白斗とプルルートだ。

正確には遊び疲れたプルルートを気遣って白斗が傍についていたのである。二人は女神達のはしゃぐ声を聴きながら、二人は穏やかな時間を過ごし続ける。

ただこうして、海と砂浜と空と、そして遊ぶ女の子達を見ているだけでも何だか楽しかった。

 

 

「白くんは泳がないの~?」

 

「一旦休憩。 まだまだ時間あるし、それにプルルートともお話したかったし」

 

「……えへへ~。 嬉しいな~」

 

 

勿論プルルートも、白斗にとって大切な友人にして女神様。だが、普段はネプテューヌ達との会話の割合が多いと言えば否定できない。

だから白斗としても彼女とはもっと話をしたかったのだ。

 

 

「あ、そ~だ。 あたし、砂のお城を作ってる最中だったんだ~」

 

「んじゃ俺も手伝っていいか? 一人より二人、だろ?」

 

「うん! 風雲ぷるるん城を作っちゃお~!」

 

「……名前だけ聞くと柔らかそうだな」

 

 

なんて取り留めもない会話をしながら風雲ぷるるん城の建設予定地に向かう。

そこには何となくこれから城を作るのだろうという、砂の塊があった。

 

 

「ふんふんふ~ん♪」

 

「おお、結構手際良いな。 さすがプルルート、器用だ」

 

 

普段の緩い雰囲気から誤解されやすいが、実はプルルートは裁縫が趣味なのだ。

それに伴い、手先は相当器用。いつも手にしているぬいぐるみや元の世界にいるという友人の服も彼女が作ったものだという。

 

 

「でしょ~? 今度白くんのお洋服も作ってあげるね~。 ふりふりしてて~、ツネミちゃん達が着るようなとぉ~っても可愛いの~」

 

「謹んでご遠慮致します」

 

「え~、可愛いのに~……ぷる~ん……」

 

 

そう、最近のプルルートは白斗に自分作の可愛らしい女の子用の服を着せ、完全体白子にさせることを目下の野望としているらしい。

あの女神様ゲームで白斗の女装姿を目撃して以来、相当お気に召したようで白斗にあれやこれやと可愛らしいアイテムを勧めているのだ。

 

 

「まぁまぁ。 服って言えば向こうの世界にいるアイエフ達にも作ってあげたのか?」

 

「そうだよ~。 後ね~、ノワールちゃんにも~」

 

「え? ノワールに?」

 

 

慌てて白斗は振り返った。

今はネプテューヌと競泳対決をしているラステイションの女神に。普段、プラネテューヌの外へ出ようとしないプルルートにとってそんな友好関係が出来ているとは思ってもみなかったが。

 

 

「あ~、違うの~。 あたしの世界のノワールちゃんだよ~」

 

「え!? そっちの世界にもノワールがいるのか!?」

 

「そうだよ~。 あれ~、言ってなかったっけ~?」

 

「初耳です」

 

 

言っていない。向こうの世界にもノワールがいたなど初耳だ。

しかし、よくよく冷静になってみれば向こうの世界にもアイエフやコンパ、そしてイストワールがいるのだ。

平行世界ゆえに同じ人物がいても不思議じゃない。

 

 

「それにしても向こうの世界にもノワールがいるのか……。 向こうのラステイションは大丈夫なんだろうか」

 

「あー。 あたしの世界のノワールちゃん、まだ女神じゃないの~」

 

「あれ、そうなんだ?」

 

「あたしの世界で女神になるには、ちょ~っとやり方が違うの~」

 

「ふーん、それを聞くと平行世界っぽく感じるなぁ」

 

 

どうやらプルルートの世界「神次元」では女神就任に関するシステムがこちらとは違うらしい。

故にノワールがまだ女神になれていないというのも、納得できる話だ。

 

 

「それじゃ向こうの世界にもユニ達女神候補生や、ブラン達もいるのか?」

 

「あたしの世界にノワールちゃんの妹はいないよ~。 ブランちゃん達にはあったことはないけど、あたしの国以外だとルウィーがあるから多分ブランちゃんはいるんじゃないかな~?」

 

「なるほどなー」

 

 

聞く限りでは、神次元ではプラネテューヌとルウィー以外の国は存在していないらしい。

ただ、ルウィーを治めている女神がいるらしいのでそれがブランである可能性は高かった。

どれだけ推測を重ねようとも、ここでは全く意味がないのだが。

 

 

「……何だか、向こうのみんなにも会いたくなっちゃったな~」

 

「あ…………ご、ごめん……」

 

 

すると一瞬、プルルートが寂しそうな表情を見せた。

彼女が来てもう一ヶ月、確かに元の世界の友達に会いたがっても不思議ではない。

向こうの世界の話題を振ればこうなるのは分かっていたはずなのに。白斗はつくづく鈍感だの何だの言われるが、今回ばかりはその迂闊さを恥じた。

 

 

「あ~、大丈夫だよ~。 戻る目途もそろそろ立ちそうだってい~すんが言ってたし~」

 

「そっか……」

 

「ただ……ねぷちゃんや白くんとお別れになっちゃうのは……寂しいな~」

 

 

そこでプルルートは手を止めてしまった。彼女にとって辛いのは、いつ元の世界に帰れるのかよりも、元の世界の友達に会えないことよりも、この世界で会えた友達と別れてしまうことだった。

その一言で彼女がどれだけ友達思いで、心優しい少女なのかが分かる。そんなプルルートを知ったからこそ、白斗は彼女の肩に手を置き、真っ直ぐその瞳を見つめた。

 

 

「ひゃっ!? は、白くん~~~!?」

 

「……大丈夫だプルルート、約束する」

 

「な、何~~~!?」

 

 

突然の身体的接触。しかも今は水着なので、当然お互いの肌と肌が直に触れ合う。

更には白斗の顔が間近なのも相まって、プルルートの体温は一気に高じる。男子との接触が少ない彼女であれば尚更免疫はないだろう。

それでも白斗は離してくれない。力強い視線がプルルートを捕らえて離さない。

 

 

「……またそっちに遊びに行く。 どれだけ時間が掛かろうとも、絶対に。 勿論ネプテューヌ達も一緒だ」

 

「はく……くん……?」

 

「だからさ、その時はそっちの世界を色々案内してくれよ。 そうだなー、ネプテューヌはスイーツとかに目が無いし、ノワールはファッション、ブランは本、ベール姉さんには勿論ゲーム。 案内忙しいぞ~?」

 

 

また、次の予定を立て始めた。そう、次を思い浮かべると少し楽しくなった。

白斗達が神次元に遊びに来たらどんなことをしようか、どんなところへ案内しようか、どんなゲームを紹介しようか。

あれやれこれやと考えるうちにプルルートは徐々に元気が出てきた。

 

 

「……うん。 い~っぱい、紹介したいの~。 あたしの国のいいところとか~、こっちのい~すん達とか~、楽しいゲームとか~」

 

「だろ? ……だからさ、楽しみにしてる。 プルルートも楽しみにしてくれよ?」

 

「うん! 白くん、約束だよ~? 破ったら~……ふ、ふ、ふ~……」

 

「守ります! 命懸けで!! 絶対に!!!」

 

 

元から破るつもりは無いが、約束を破ったらプルルートがどうなってしまうのか。白斗にも十分鳥肌を立たせた。

だが、こんな他愛もない約束でもプルルートにとっては十分元気が出てくれたようで。

 

 

「……白くん、ありがと」

 

 

いつもの間延びしたような口調とは違う、しっかりとした言葉で白斗にお礼を言うのだった。

元気が出れば、作業も捗る。今度はハキハキした様子で、再び城の建築作業を再開し始めた。

 

 

「……ねぇ、ネプテューヌ。 本当にプルルートって……大丈夫なの?」

 

「もう私的には危ないラインに入っているような気がしますわ……」

 

「うーん、明確に惚れるようなイベント起きてないからまだ大丈夫だと思うんだけど……」

 

 

その様子をハラハラしながら見守っているのばノワールとベール。

まだ恋心にまで発展していないのは見ても分かる。だが、いつそうなってもおかしくないこの状況。

同じ男に惚れてしまったものとして、どうしても気になってしまうのだ。

 

 

「……でも、誰かを好きになるって気持ちは止められないし、止めたくもないって思う。 だから、最終的に白斗が私を選んでくれるように頑張るしかないかなーって」

 

「……それは……確かに……」

 

 

ネプテューヌとしては恋のライバルが増えてしまうこの状況自体はある意味諦めているようなものらしい。

だからこそ、そんな中でも白斗にとっての一番が自分であるように努力する。それがネプテューヌの選択だった。彼女の姿勢はノワール達にも美しく見え、納得させられてしまった。

 

 

「それに白斗は私の守護騎士だしね! 私のルート以外ありえないって~」

 

「おっと、それは異議ありだわネプテューヌ。 白斗は私の守護騎士でもあるの。 最終的に白斗は私と添い遂げるのよ」

 

 

自分の守護騎士であることを理由にネプテューヌは随分余裕だ。だが、その条件で言えばブランも同じ。

すかさず割り込み、彼女もこの恋の戦いにおいて一歩も譲らない姿勢を見せる。

 

 

「ちょっとお待ちを。 貴女達、よく白ちゃんのことを『守護騎士』と仰っていますが何のことですの? ゲーム用語とも違うようですし……」

 

「あ、私も気になってたのよねそれ。 何なの?」

 

 

ジトッとした視線でベールとノワールが二人を見た。

恋敵に余計な情報を与えるのもどうかと思ったが、嫌な女になりたくもないと思ったのかネプテューヌとブランは互いの顔を見合わせて頷く。

 

 

「あのね、白斗がよく『女神と守護騎士』って本を読んでるのは知ってる?」

 

「ああ、確かに白斗って良くその本を読んでるわね。 私は読んだことないけど」

 

「その中に出てくる主人公がまさに白斗のような人でね……。 その人が女神達と恋に落ち、女神達と添い遂げるために守護騎士という存在になって幸せに過ごすという物語よ」

 

「まぁ、まさに王道ファンタジーのようで素敵ですわね」

 

 

話のさわりだけを話したが、この部分だけでもノワールとベールの興味を惹いたようだ。

恋物語というのは女の子にとって魅力的な部分であり、その主人公が白斗に似ているとなれば尚更説得力を増すだろう。

 

 

「……って、ちょっとお待ちになって! で、では守護騎士というのは……!?」

 

「そ! 私が真っ先に白斗と誓いを立てたんだよ~! 私の傍にいて欲しいってお願いして、白斗も真剣に受け止めてくれて……あ~、もう幸せだったなぁ~……」

 

「私は二番目だけど、だからこそ濃密な時間を過ごしたと主張するわ。 現にその本だって私がいたから出会えたようなものだし」

 

「む、むむむ~~~………ッ!!」

 

 

そこでようやく合点がいった。

その本における守護騎士が、恋に落ちた女神達にとってどういう存在なのかを。そしてそれをごっこ程度でしかないとは言え、実際にそういう誓いを立てたのだと。

思えばそう呼び合うようになってから、ネプテューヌやブランの親密さが増したような気がする。

それを聞かされては、ノワールとベールも目に涙を溜めて頬を膨らまさずにはいられない。

 

 

「まぁ、誓いを立ててくれるかどうかは白斗次第ね。 私達がやったのは本の真似事だからかもしれないけど、白斗にとっても、私達にとっても、相手を命を懸けてでも守るという本気の誓いだから。 生半可な覚悟では立ててくれないわ」

 

 

ブランはパラソルの陰で本を捲りながらそう答えている。

生半可ではない覚悟とは白斗自身だけではなく、誓いを立ててもらう女神達にも向けられている。

白斗にとっての女神とは自分が命を懸けてでも守りたい存在。逆に女神達はそれだけの覚悟を見せてくれる人を、何よりも大切に思うということ。

互いが、互いの命を懸けるほどに相手を想い、守り、そして愛すること。ブランとネプテューヌにとっては、少なくともその覚悟があった。

 

 

「……なら見てなさいよ。 私の覚悟を、そして想いを!! もう大分後れを取っちゃったけど、白斗への想いは誰にも負けないんだから!!!」

 

「私も同じですわ。 この程度で退くほど、私の覚悟も想いも安くはありませんのよ」

 

 

ノワールは焼き尽くすかのような豪華の如き裂帛、ベールは静かに燃ゆる揺ぎ無き闘志をそれぞれ見せつける。

遊びでも、一時の迷いなどでもない。最初にして最後の、本気の恋。だから諦めない。それがノワールとベールにとっての覚悟だった。

 

 

「そう、なら頑張ることね。 そうね、まずはバーベキューの用意を完璧にこなして白斗への誠意と好感度を見せるところから始めるのがいいんじゃないかしら」

 

「ほいキタ! 任せなさーい!」

 

「それからそれからー、お肉とかの味付けも白斗好みにするとグッドなんじゃないかなー」

 

「味付けは私にお任せ! たぁぁぁぁぁっ!!」

 

 

ブランとネプテューヌのアドバイスに唆され、ノワールとベールがバーベキューの準備を始める。

用意されていたコンロに火をつけ、更には各種食器などの準備。ベールは肉や野菜の下拵えなどを手際よく進めていった。

 

 

「作戦」

 

「成功だね! ねぷーっ!」

 

 

尚、これは楽をしたいがためにブランとネプテューヌが結託した作戦だったことはここだけの秘密である。

 

 

「こーらっ、こういうのは準備するのも大切なんだろーがっ」

 

「ねぷっ!?」

「きゃっ!?」

 

 

コツン、と軽く拳骨。振り返れば意地悪気な表情で微笑んでいる白斗がいた。

どうやらバーベキューの準備をしているところを目撃、加勢に来たようだ。彼の背後にはプルルートも控えている。

 

 

「ねぷぅ……酷いよ白斗ぉ……」

 

「女神様の頭を小突く守護騎士がいるのかしら……?」

 

「いるんです、ここに」

 

 

目尻に涙を浮かべてネプテューヌとブランが睨み付ける。

しかし、当の白斗は素知らぬ顔だ。

 

 

「ダメだよ白くん~」

 

「止めるなプルルート、こういうのは……」

 

「こ~ゆ~のはねぇ~……てって~てきになるものなんだよぉ~?」

 

「「今すぐ準備しますッ!!」」

 

 

プルルートの陰りが入った笑みを見て、二人が震え上がり準備に加わる。

そんな彼女達の様子を見てプルルートは普段の顔色に戻り。

 

 

「良かった~。 分かってくれて~」

 

「…………ソウデスネ」

 

 

そんな事を呑気に呟く少女に、白斗君は末恐ろしいものを感じたという―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほーら、お肉焼けたわよ~!」

 

「こっちのお野菜もいい感じですわ!」

 

「おお、またバーベキューにありつけるとは! それじゃ、まずは……」

 

 

そして、とうとうバーベキューが始まった。

今回は串に通すのではなく普通に網の上で焼くという、所謂焼肉に近い形となっている。しかし、誰かがバーベキューと言い張ればこれはもう立派なBBQである。

早速白斗が肉に手を伸ばそうとした、その時。

 

 

「白斗! こっちの牛タンとか出来てるわ!」

 

「行けませんわよ、まずお野菜から。 ということで、こちらのカボチャをどうぞ!」

 

「ねぷー! 二人ともずるいよー! 白斗、あーん!」

 

「ダメよ、そっちのお肉はまだ生焼け。 このお肉なら安全よ、白斗」

 

「白く~ん、これとか美味しそうだよ~」

 

「は、ははは……。 あ……ありがとう……」

 

 

そう言えば、以前もこんな光景があった。あれはリーンボックス逗留最終日、ベールからの誘いで皆でリーンボックスの山にキャンプに行った時だ。

あの時は串焼きだったが、そこでもバーベキューを楽しんだ。今回の騒がしさはその時の比ではなかったが、楽しさも段違いだった。

 

 

「それにしても、ホント綺麗だよなこのビーチ。 なんて名前だっけ?」

 

「ヒワイキキビーチですわ」

 

「聞くんじゃなかった……」

 

 

時折他愛もない話題を振ったりして一笑いが起こったりと、笑顔の絶えない空間だった。

だが、会話が弾めば食事も進む。人数を考慮して大量に持ってきたはずの食料が、あっという間に底を突いてしまった。

 

 

「ねぷっ!? もうお肉無くなっちゃった!」

 

「野菜もですわ……。 量が少なすぎたのかしら……」

 

「いやいや、結構量あったぜ。 でも少し食べ足りないか?」

 

「幸いここは海。 魚を釣って焼くと言う手も……」

 

 

ここ、ヒワイキキビーチはとても綺麗な海が広がっている。つまり、それだけ魚にとっても住みやすい環境となっているはず。

釣りをするのも一興かとブランが竿を取り出そうとした時だ。

 

 

「ふっ、何だ貴様ら。 食い物に困っているのか? ならばこれを食うといい。 至高にして究極の果実をな!」

 

 

どこか陰りのある女性の声が聞こえた。

誰もが一瞬首をもたげる。無理もない、どこかで聞いたことのある声色だからだ。と、疑問に思う間もなく金網からいい焼き音も聞こえる。

 

 

「ねぷ? 何か野菜が追加され……ぎゃあああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアなすぅうううううううううううううううううううううううううううううううううううううううう!!?」

 

 

ネプテューヌがこの世の終わりにも近い絶叫を上げ、倒れた。

慌ててプルルートが介抱に向かうが目を渦巻きにして、口から泡を吹き、皮膚には発疹とまさに体中が悲鳴を上げている。

ナス、そしてこの女性の声。もう間違いないだろう。

 

 

「……何やってんの、マジェコンヌ?」

 

「それはこっちの台詞だ。 小僧は兎も角、女神共が揃ってこの南の島にバカンスか? 全く、女神とはお気楽なものよな」

 

 

相変わらず女神には辛辣な魔女、マジェコンヌだった。

一応R-18アイランドなので彼女も黒のビキニを着こんでいる。正直、誰得なのか。作者も何故こんな描写を必要としたのか分からない。

 

 

「オイ! 地の文までメタってどうする!!」

 

「何の話だ?」

 

「こっちの話だ。 それより貴様らはどうしてここに?」

 

「南の島に来たからにゃバカンスに決まってるでしょ。 そっちこそ、バカンスってワケじゃなさそうだが」

 

 

唯一彼女に対し、まともな会話が出来る白斗が間に立つ。

何せ、女神達からの彼女に向ける嫌悪感が半端なものではないからだ。何を隠そう、このマジェコンヌこそ世界征服を企み女神を排除しようと様々な悪事を働いた人間。

だが何においても、女神の愛する少年こと白斗を一度誘拐し、モンスターの姿に変えた一人。

彼女達にとって、正直憎悪を押さえろという方が難しいだろう。

 

 

「見れば分かるだろう。 ナスの行商だ」

 

「南の島で何故ナス!?」

 

 

ドヤ顔で背負った籠を見せつけてくるマジェコンヌ。

その中にはツヤのいいナスがぎっしりと詰め込まれていた。確かに一つ一つ見れば丹精込めて育てられた立派なナスだろう。

しかし白斗と女神達には、このナスがこの南の島においてどんな商業効果を齎すのかがさっぱり理解できなかった。

 

 

「こんな風にバーベキューしている奴らに売りつけるためだ。 安心しろ、小僧に免じて今回のナスはタダにしてやる。 だが確信しているぞ……貴様らはこのナスの虜になり、必ずやリピーターになってまでナスを求めに我が元へ首を垂れるのだと!」

 

「マジでお前にとってナスって何なの!?」

 

「世界だ。 世界はナスで一つになる。 そうすれば全てが平和になるのだ!」

 

「違う意味で心入れ替えちゃってるよコレ!? 食べて大丈夫なのコレ!?」

 

「まぁ、騙されたと思って食ってみろ。 その瞬間、貴様の世界が変わる」

 

「余計怖いわ!!」

 

 

白斗のツッコミの嵐が止まらない。真夏の太陽の下なのに、違う汗が出てきてしまった。

 

 

「とにかく、折角焼いているんだ。 残さず食えよ。 ではな、フハハハハハ……」

 

 

ご機嫌に鼻歌を歌いながらマジェコンヌは去っていった。

鼻歌がシャンソンとは正直、年齢を疑いたくなってしまうが。

 

 

「……そもそも南の島でナスなんて傷むだけでしょーが……」

 

「第一、ここ貸し切りで私達以外にお客はいませんのに……」

 

「ぶっちゃけ無駄ね。 何もかもが無駄」

 

「マジェコンヌさん敗北者じゃけぇ~」

 

「一番プルルートが酷ぇな。 知ってたけど」

 

 

女神達からの評価は散々だった。弛まぬ努力も弛んだ思考回路が全て台無しにしてしまっているからだ。

白斗も同情を通り越して哀れにすらなるが、だからと言って助け舟を出せる雰囲気ではなかった。

 

 

「あーもーっ! 折角の楽しい気分がマジェコンヌとのエンカウントで台無しよっ!」

 

「……でも、このナスどうしよ~……」

 

「食い物残すってのも確かにな……。 仕方ねぇ、俺が処理する。 少なくとも毒物ってことはねぇだろ、あれでもナス農家だからな」

 

「もう白ちゃんの中ではナス農家認定なのですわね……」

 

 

誰もが怨敵のナスなど食いたくなかった。しかし、食べ物に罪はないのも事実。

これも一応彼女とは親しくしている身の責任として、白斗が処理することに。

しっかり焼き色が付けられたナスを口に頬張り、ゆっくり租借。

 

 

(……美味ぇぞ畜生が……)

 

 

確かに、味自体はリピーターが出るほどだろう。それを認めるのが癪な白斗であった。

兎にも角にも、もう食事を続ける雰囲気ではなくなってしまったので片付けに入ることに。

 

 

「さて、正直もうバーベキューはいいだろ。 片付け片付けー」

 

「ねぷちゃ~ん。 お片付けしないと~」

 

「うーん、ナス……ナスが、白斗を……バーニング……。 あ、ああぁぁぁ……」

 

「コイツは一体どんな面白可笑しな夢を見ているんだ……」

 

 

未だにナスの恐怖に囚われてしまったネプテューヌは眠りから覚める気配がない。

プルルートが必死に揺すっても、意味不明なうわ言を述べているのみ。彼女はしばらく休ませた方がいいだろう。

その間、白斗達はテキパキと片づけを進めていく。

 

 

「よっし、ゴミも全て回収。 立つ鳥跡を濁さず」

 

「だ、だったら白斗! ちょっと私に付き合ってほしいんだけど!」

 

「ん? どうしたノワール?」

 

 

片づけを終えてすぐ、誰よりも早くノワールが白斗の腕を取った。

これにはブランとベールも鋭い視線を向けたが、それに臆することなくノワールは震える体と心を りつけ、震える声ではっきりと告げた。

 

 

「そ、その……あそこに貸しボートあるらしいから……二人で一緒に、沖まで行かない!?」

 

「おう、良いぜ」

 

 

あっさりと許可が出た。

貸しボートの大きさからして二人しか乗れない仕様。つまり、これで白斗と二人きりになれる。

泳ぐ前に周囲を入念に下調べしておいてよかったとノワールは心の中で密かにガッツポーズ。

 

 

「なら善は急げ! 行きましょ!」

 

「ちょ、引っ張るなって! ボートは逃げやしねぇから!」

 

「時間が逃げちゃうのよ♪」

 

「どっかで聞いたぞこのやり取りー!?」

 

 

白斗の手を取り、そのままビーチへと駆けだしていった。

小屋からボートを借り受け、透き通るような海水の上に浮かべる。二人が乗り込んだところで白斗がオールを漕ぎだすと、小舟はゆっくりと揺られながら進みだした。

 

 

「何だか良いわね、こういうのも。 ……あ、白斗! みてみて、サンゴ礁よ!」

 

「え、どれどれ? おお、綺麗だ!」

 

 

少し漕ぎだすだけでも色んな発見があった。底まで透き通るほどの美しい海水、綺麗なサンゴ礁の上を舟が漂うという、どこか幻想的な場所。

サンゴ礁の合間を縫うように泳ぐのは、色鮮やかな魚達。

 

 

「ノワール、折角だからここらで泳がないか?」

 

「いいわね! それじゃ一緒に!」

 

「おう!」

 

 

こんな綺麗なところで泳がないなど勿体ない。

貸しボートに備え付けられていた碇代わりの重石を落とし、ゴーグルを装備して準備完了。

二人してクリスタルのような青く、透明な海に潜り込んだ。

 

 

(わぁ……綺麗……! まるで浮いているようにすら感じる……)

 

 

余りにも綺麗な海だから、まるで空中に浮いているような感覚にさえ陥る。

それだけ幻想的な空間なのだ。そんな彼女の手を、温かく力強い手が握られる。

 

 

(ノワール、あっちに綺麗な魚がいっぱい集まってるぞ!)

 

(白斗……。 ええ、行きましょう!)

 

 

想い人こと白斗の手だった。こんな美しい海の中、白斗と二人きりで泳げているというこの事実にノワールは嬉しそうに目を細める。

魚達も白斗やノワールを怖がるどころか一緒になって泳いでくれたり、綺麗なサンゴ礁の傍まで寄ってみたり、水中で鬼ごっこをしたり。

それはもう、楽しい時間が過ぎていく。だが時間も空気も限界があるもので、二人は休憩がてら小舟に上がり込んだ。

 

 

「ぷはぁっ!! ふーっ……めっちゃ楽しいな!」

 

「ええ! こんな夏休み、生まれて初めて!」

 

 

小舟の淵に背を預け、お互いに満面の笑顔を見せる。

特に白斗の方は本当に楽しそうで、今までにないくらい朗らかな表情だった。

 

 

「俺も! 初めての海水浴、しかも皆と……ノワールと一緒に綺麗な海を泳げるなんてな!」

 

「……白斗……」

 

 

そう、白斗にとってはこれが正真正銘、生まれて初めての海水浴だった。

しかもその初めての海水浴が、まさに幻想的と言う程美しい海で、更にはその相手がノワールという美少女、しかも女神様。

白斗にとってまさに極上の思い出以外の何者でもない。でも、そんな彼だからこそノワールは強く惹かれてしまう。

 

 

「……私も、こんな素敵な思い出……。 白斗と一緒に作れて、本当に良かった」

 

「……ノワール……」

 

「あー、白斗照れてるー」

 

「てっ、照れてねぇよ!!」

 

「嘘つかないの、心臓が光ってるわよ」

 

「だぁーっ!! あのクソ親父め、いらん機能を付けやがってぇ!!!」

 

 

ツンデレぼっちと名高いノワールも、白斗の前では少し素直になれる。

その少しのデレが、白斗の胸を高鳴らせた。その様子は彼の機械の心臓が告げてくれる。

体も心も、嘘はつけないのだ。

 

 

「……それって……わ、私が……白斗にとって、魅力的ってコト……なのかな……」

 

 

―――これだけは、どうしても聞きたかった。

唐突な告白まで踏み切るまでにはいかなくても、自分が白斗にとってどういう存在なのか知りたかった。

膝を抱え込みながら、顔を赤らめて少しだけこちらを見るその姿はとても可愛らしくて。白斗はそっぽを向きながら、しかし顔を赤らめて。

 

 

「―――それくらい、素敵な人……。 女神様だよ」

 

 

そう、白斗にとってノワールとは女神様だった。

例えこの世界で女神として生を受けていなくても、もし信仰心を失って彼女が女神の座を降りたとしても。

白斗にとってノワールとは、女神様なのだ。

 

 

「……ありがとう。 嬉しい……」

 

「俺が勝手に思ってるだけだからお礼なんて要らないってーの。 全部ノワールがそうさせてるんだってーの」

 

 

今度は白斗がツンデレっぽくなってしまった。最近の白斗は感情表現豊かである。

もし、父親の虐待にあっていなければこんな少年だったのかもしれない。だからこそノワールは彼と接する度、新しい一面や意外な一面が見られて、尚更それに惹かれていく。

白斗にとってノワールは女神で、そしてノワールにとって白斗は―――。

 

 

 

 

「……白斗……。 あの、ね……一つ、お願いがあるんだけど―――」

 

 

 

 

―――彼女のその“お願い”は、白斗を大きく驚かせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(……はぁ、今頃白ちゃんとノワールは……“誓い”を立てているのでしょうか……)

 

 

その頃、ベールはパラソルの陰で陰鬱な溜息を付いていた。

折角の常夏の空も、彼女にとっては今となっては鬱陶しいものとなってしまっている。

何せ、弟分でもあり、兄貴分でもあり、そして想い人でもある白斗が今ノワールというライバルと共に楽しく小舟で遊覧しているからだ。

 

 

(そもそも、今回の海水浴だって私と白ちゃんの思い出になるはずでしたのに……)

 

 

また溜め息が出る。

そう、本来ならばここには白斗と二人きりの予定だったのだ。それがあれよあれよという間に他の女神達もついてきてしまった。

しかも話を聞けばネプテューヌとブランはごっこのようなものとはいえ、白斗と特別な関係を結んでいて、更にはノワールに先を越されそうになっている。

これが憂鬱以外の何であろうか。

 

 

(い、いえいえっ! これくらいでへこたれてはいけませんわベール! 私の想いはこの程度で折れてしまうような情けないものですの!?)

 

 

と、心に差した影が脳内を支配しそうになった瞬間。必死に頭を振り払った。

一国の女神として、柔い心の持ち主では無かった。しかし女神だからとて、いつまでも耐えられるような少女でもなかった。

 

 

(……はぁ、白ちゃん……)

 

 

本日何度目かになるかも分からない重い溜め息。

さすがにネプテューヌ達も迂闊に声を掛けられる状況でもなく―――。

 

 

「姉さん、何やってんの?」

 

「ひゃぁっ!? は、白ちゃんいつの間に!?」

 

「いや、ついさっきだけど……」

 

 

否、一人だけ違った。彼女の心を悩ませている張本人こと白斗だった。

ベールの背後から覗かせた彼の表情は柔らかい。いつも通りの白斗だ。だからこそ、ベールはドギマギしてしまうのだ。

 

 

「わ、私の事はいいですからノワールの方へ行って差し上げては?」

 

「そっちは終わったよ。 ノワールもこっちに来てくれるの許してくれたし」

 

「え……? あ、あんなに楽しそうにしていたのに?」

 

 

女神として、姉として、妹として。これ以上の醜態は見せたくないとノワールの下へ行かせようとする。

だが、その彼女からお許しが出たという。もし、ベールが彼女の立場だったらこの絶好の機会を逃さないというのに。

 

 

「それに約束しただろ? 後で時間を貰うって」

 

「そ、それはそうですけど……」

 

「約束した以上拒否権は無しだぜ。 ……“ベール”」

 

「ひ、ひゃぁっ!?」

 

 

ベール、そう呼ぶときは白斗が兄として振る舞う

すると白斗は強引に腕をベールの足に潜らせ、もう片方の手で背中を抱え込む。

その状態で腕に力を込めて持ち上げれば、彼女の体が白斗の腕に収まった状態で持ち上がる。

―――そう、所謂お姫様抱っこである。

 

 

「ち、ちょっと!? は、恥ずかしい……!!」

 

「貸し切りなんだろ? 大丈夫大丈夫ー」

 

「そういう問題ではありませんわー!!」

 

 

ベールをお姫様だっこしながら砂浜を駆け抜ける白斗。

そんな普段とは立場逆転の状況にネプテューヌ達は目をパチクリと瞬かせている。

いつもならベールが扇情的な言動で白斗を惑わし、それに戸惑った白斗がツッコミを入れて振り回されるというのが日常なのに。

 

 

「な、なんだろ……白斗、凄いね……」

 

「あんなベールの姿は初めてね……。 あ、でもロムとラムの相手をしている時の姿に似てるわね、白斗」

 

「あ~。 ピーシェちゃんと遊んであげてる時もあんな感じだよ~」

 

「なるほど、お兄ちゃんとして接してあげてる時ってワケか。 私もそうしてみようかなー?」

 

「でも、妹としてしか見られないというのも……うーん……」

 

 

あんなにも強引で、でも積極的で、存分に甘えさせてくれる関係は憧れてしまう。

しかし彼氏彼女ではなく、兄妹として見られるのはそれはそれで面白くなかったので踏み出せないでいるネプテューヌ達であった。

 

 

「も、もう……兄様ってば……」

 

「ホントはこうして欲しかったくせに。 で、どうする? このまま俺が抱えてこの島一周ってのもありだけど。 折角だからマジェコンヌとかにも見せつけるか?」

 

「い、いえ!! で、でしたら……その……」

 

 

ここまで積極的に接されては理性も緩くなる。

ならば、自分も積極的にならざるを得ないとベールが結論付けた。真夏の日差しと、肌から伝わる白斗の温もりによる二重の暑さで頭をやられてしまったのだろうか。

 

 

「……波打ち際で、一緒に寝転がりません?」

 

「……いいぜ」

 

 

遊ぶでもなく、景色を見るでもなく、ただ寝転がるだけだという。

でも、ベールがそれを望むなら白斗に反対する理由など無い。彼女を下ろし、波打ち際に寝転がった。

海水を吸った砂はまるでウォーターベッドのように柔らかい。静かに押し寄せる海水が清涼感を与え、暑さにやられることは無い。

背中側が海水に沈んだ状態で、二人は真夏の空を見上げる。

 

 

「……なんかこうしてると、リーンボックスでキャンプした時の事思い出すな」

 

「ええ。 私、普段はアウトドアなんてあまりしませんでしたけど……白ちゃんとまた、あんな素敵な時間を過ごしたいなって思っていましたの」

 

 

寧ろゲーム廃人という究極のインドア派だからこそ、こういったアウトドアに憧れるものなのかもしれない。

今のベールはゲームをしている時以上に爽やかで、幸せな顔をしていた。

そんな可愛らしく、しかし美しい女神の隣を占領していた白斗はつい魔が差してしまったのか―――彼女の手を、取った。

 

 

「えっ!? は、白ちゃ……!?」

 

「兄様、だろ? ベールはこういうの……嫌い、か?」

 

「い、いえっ!! そ、そんなことは……でも、あの、その……ぁぅ……」

 

 

完全にマウントを取っている白斗。と言っても、彼の顔も赤い。

しかし、恥ずかしさ以上に幸せだった。素敵な女性―――素敵な女神様の隣をこうして独占できていることが、白斗にとってどれだけの喜びであるか。

もう腕だけではない、少し身を寄せれば足も体も触れられる距離。ベールの鼓動は更に高鳴っていく。

 

 

「……あの、ですね。 こういうのは……大切な人にしてあげるもの、ですのよ?」

 

「だからしてる」

 

「……ノワールは?」

 

「ノワールも大切だけど、今はベールが大切だ」

 

「……ふふ、呆れた返答ですこと」

 

 

出来ればその愛を自分だけに向けて欲しかったが、こちらにも彼なりに全力向き合ってくれている。

器用なのだか不器用なのだか、しかし白斗と言う男はいつだって真剣そのものだ。

そんな彼だからこそ、その全てを自分に向かせたい。尚更ベールの想いは固まっていく。

 

 

「……ねぇ、兄様……。 いえ、“白斗”」

 

「え? ち、ちょっとベール!!? 引っ付き過ぎだろ!!?」

 

 

すると、これまで妹モードだったベールが急に名前を変えてきた。

ただし白斗を弟として見てるのではない、増してや兄として見ているのでもない。

今の彼女はベールという一人の女神―――そして、一人の女性として白斗に接していた。

それだけではない、白斗の腕を全身で絡めとり、体ごと擦り寄せてきた。今は水着、ベールの肌や胸と言った魅惑の肢体が、嫌でも当てられているのだ。

 

 

「貴方だからここまで出来ますの。 ……私にとって、貴方はそれだけの人ですのよ?」

 

「………っ」

 

 

先程まで余裕があったはずの白斗だが、すっかりそれも崩れてしまっている。

この二人の関係はいつもこうだ。どちらかがマウントを取っては取り返されて、でもそれが楽しくて。

何より相手を大切だと意識していて。

 

 

 

「ねぇ、白斗……貴方にとって、私は……そんな女神に……なれてますか?」

 

 

 

そして耳元で囁かれる、甘い吐息と言葉。

まるで淫靡な毒のように脳内がクラクラしてしまう。こんなゼロ距離を超えた密着で、まるで彼女から誘っているとしか思えないこの言動と目線。

いつもの白斗なら、お約束の鉄壁の理性を働かせていただろう。――しかし、今日に限ってはこの常夏の日差しと、ベールの情熱的な誘いに理性を溶かされたのか。

 

 

 

 

「……俺はいつでも、貴女の望む俺でありたいと思っています。 だから……どうかいつまでも、俺を想っていてください」

 

 

 

 

そう言って、彼女の体を抱きしめた。

水着というほぼ肌が隠せていない彼女を抱きしめるということは、国の至宝とも言える女神の肌そのものに触れていることに他ならない。

不敬罪に問われても文句は言えない。でも、白斗はこうしたかった。彼にとって、ベールとはそういう人なのだ。

 

 

「……ええ。 私も……貴方には、ずっと傍にいて欲しいですわ。 弟でも、兄でも、それ以上でも構わない……。 だから、私……貴方ともっと特別な関係になりたい……」

 

 

ベールは白斗の逞しい腕に抱かれたまま、けれどもそれを受け入れていた。

彼になら、この女神の肌も、髪も、体も、唇さえ捧げられる。そしてそれだけの関係を求めた。

告白とも取れるこの言葉。それに対して、白斗は。

 

 

「……ならベール。 今日の夜にまた……時間を貰えるか?」

 

「夜ですか? ……ええ、構いませんわよ」

 

「それと、予め誤解されると嫌だから言っておくけど……ノワールも一緒だ。 それで構わないか?」

 

「あら、ノワールも一緒ですの? ……分かりましたわ、ではまた夜に」

 

 

夜にまた会いたいという申し出をした。ただ、ノワールも一緒らしく告白ではないらしい。

そこだけは不満だったが、それでも白斗の目は真剣だ。応えない方が失礼に値するとベールは約束を取り付ける。

 

 

(ふふ♪ 今、この瞬間だけでも幸せなのに……夜になったらどうなってしまうのかしら♪)

 

 

―――それでも夜が待ち遠しいくらいに浮かれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――それからも、常夏のビーチを遊びつくした。

3対3のビーチバレーで激闘を繰り広げ、プルルートが建設した風雲ぷるるん城に対抗して女神達も砂の城を作り始めたり、スイカ割で盛り上がったりと一つ一つが眩しい思い出となる。

白斗にとっても、女神達にとっても。こんな素敵な夏休みは初めてだった。

そんな楽しい時間を過ごしていれば、当然時間も過ぎ、あっという間に太陽は水平線の向こうへと沈んでしまう。

 

 

「……あっという間だったな」

 

 

誰もいなくなった夜の砂浜を、白斗は一人木陰から眺めていた。

月と星が空で輝き、その輝きを静かな海面が映し出している幻想的な景色。遊びつくしたと言っても、白斗はまだ遊び足りなかった。

もう少しこの砂浜で遊んでいたかったとも思うが、明日には戻らねばならないと考えると寂しい気持ちになってしまう。

 

 

「白斗ー!」

 

「お待たせしましたー!」

 

「お、来た来た」

 

 

すると背後から聞こえてくる女性二人の声。ノワールとベールだ。

現在女神達はコテージで宿泊している。そこから走ってきたノワールとベールは水着の上からシャツを着た、ラフな格好になっている。

夜になってまで水着とはこれ如何にと思うかもしれないが、この島のドレスコードが水着かオールヌードだというのだから仕方ない。

 

 

「ネプテューヌ達は?」

 

「今はゲームで盛り上がってるわ」

 

「でも、どちらかと言うと気を利かせてくれたみたいですけれど」

 

「なるほどね」

 

 

本当はネプテューヌ達が何をしているかなんて白斗も把握している。

ただ、これからする話がとても緊張するものだけに白斗も何気ない話題で間を持たせたかっただけなのだ。

 

 

「それで、お話とは何ですの?」

 

「あれ? ノワールから聞いてないの?」

 

「聞いておりませんけど……ノワール?」

 

「予め教えていたら嬉しさ半減でしょ。 デキる女神の気遣いに感謝して欲しいくらいだわ」

 

 

非難がましい視線を投げつけるベールだが、対するノワールはふふんと何故か得意げな顔になっている。

彼女なりに気遣ってのことらしいので、ベールも頬を膨らませつつもそれ以上は追求しなかった。

 

 

「それで、さ。 これは、その……俺からのお願いってのもあるんだけどさ……」

 

 

照れ臭そうに頭を掻いている白斗。

思えばこの「お願い」をする時はいつも女神様からだった。だから、どうお願いすればいいのか凄く悩んだ。

けれども、白斗は“それ”を望んだ。ならば自分の言葉で言わねばならない。

 

 

「……ノワール、俺にとって貴女は魅力的な女神だと答えた」

 

「……ええ」

 

「そしてベール。 貴女にも、ずっと想ってて欲しいと言った」

 

「はい……」

 

 

こうしてみれば、複数の女性に声を掛けている不誠実な男と受け取られても仕方がない。

でも、白斗にとって女神様はそれだけの人。ずっと傍にいたいし、居て欲しい。

だから、二人の目を真っ直ぐ見て、「貴女」と畏まって言い方になる。

 

 

「……俺、時々『女神と守護騎士』って本を読んでるの……知ってるかな?」

 

「勿論よ」

 

「私達も、ブランに概要を教えて貰いましたから」

 

「そっか。 でさ……俺、その本に肖ってネプテューヌやブランと守護騎士の誓いなんてのを交わしたりしたんだ」

 

 

この辺りも既に聞いたこと、故に気にしていない―――と言えば嘘になる。

しかし、ここでは二人とも顔には出さないように必死に己を宥めていた。

 

 

「俺にとって、女神様達はみんな素敵で、大切で―――だからこそ守りたい。 傍にいたい。 傍に……いさせて欲しい存在なんだ。 だから……」

 

 

この一言だけで、白斗の中がどれだけ女神で占められているかが分かる。

寧ろ白斗にって女神とは己の全てであり、生きる意味そのものなのかもしれない。だからこそ、彼は。

 

 

 

「……どうか俺を……女神様の守護騎士として、誓いを交わしてください。 どうか俺と……一緒にいてください」

 

 

 

波の音が砕け散る三人だけの砂浜。彼らを見守っているのは優しい月明かりだけ。

神秘的な雰囲気の中、月光に照らされた白斗はとても美しく、凛々しかった。

女性関係で奥手な白斗が、自分から求めてくるというこの光景にノワールとベールの心臓は大きく高鳴り。

 

 

「……ありがとう、白斗。 嬉しい……!」

 

「私も……貴方の気持ち、受け取りましたわ。 こちらこそ、よろしくお願いします……!」

 

 

二人は涙ながら微笑み、その手を差し出した。どうやら誓いの交わし方についてもブランから教わっていたらしい。

女神達の想いに応えるかのように白斗は二人の手の甲に、誓いの口付けを落とす。

その手の甲に熱い口付けが落とされた瞬間、二人の体に痺れるような快感が駆け巡った。

 

 

「……やっと、貴方の女神になれましたわ……」

 

「ホントに……もう、遅いのよ。 私はこんなにも白斗を想ってたのに……」

 

 

これで正式に―――と言っても、やはり本の真似事でしかないが―――白斗は二人の女神の騎士として新たに迎えられた。

白斗も、そしてノワールとベールも幸せそうに微笑んでいる。

 

 

「……待たせてゴメンな、二人とも。 でもビックリしたよ、ノワールから二人同時にしてくれなんて言われてさ」

 

「あらノワール、そんなことを?」

 

「ええ、何だかベールを仲間外れにするのって感じ悪いなーって思ったから。 その代わり、ちゃんとベールの気持ちを確かめてからねって条件付けたけど」

 

「それでまぁ、ちょっと強引に誘ってみました……なんてね」

 

 

種明かしを終えるとベールもようやく腑に落ちたようだ。

白斗にしては珍しく強引な誘いだったが、それもベールに認められたかったからなのだ。

 

 

「もう……そんなことなんてしなくても、私の気持ちなんてとっくに決まってましたのに!」

 

「もごっ!?」

 

「ちょっ、ベール!? 何やってるのよーっ!!?」

 

 

嬉しさが抑えきれなかったのか、ベールは堪らず白斗を胸に抱き寄せた。

豊かな双丘が優しく白斗を圧迫し、優しく呼吸を奪う。

羨ましさの余りそれまで穏やかだったノワールもさすがに抗議の声を上げたのだが。

 

 

「ねぷーっ!! こらベール、お触りは事務所的にNGだよー!!」

 

「たまには花を持たせてやろうとしたら結局これかよ!! 白斗もいちいち幸せそうな顔してんじゃねーぞ!!!」

 

「そ~だそ~だ! あたしだけ仲間外れは酷いよ~!」

 

「んなっ!? み、みんな……見てたのか!!?」

 

 

すると近くの茂みから三つの顔が出てきた。ネプテューヌ、ブラン、そしてプルルートだ。

どうやら彼らが何かしようとしているのを感じ取ってコテージを抜け出してきたらしい。

 

 

「当り前だよ! っていうか私が一番最初に誓い交わしたんだから、私を通してくれなきゃ色々ダメー!! とにかくダメー!!」

 

「順番なんて関係ねぇ!! とにかくベール、白斗を離しやがれぇ!!」

 

「白く~ん! あたしにも何かして~!」

 

「ち、ちょっと貴女達! 今は私と白ちゃんの時間ですのよ!? ノワール公認で!」

 

「何言ってるのよ!? 私が許可したのは誓いを交わすまでよ! そこから先はダメ!!」

 

 

そしてまた始まる、女神達による白斗争奪戦。

全員が水着の中、女神達の柔肌に包まれた白斗はもみくちゃにされ。苦しさと気持ちよさの間に挟まれ続け。

 

 

 

(…………ああ、そう言えばあの本の中もこうして女神様達が主人公を奪い合ったっけな……これが、守護騎士の特典……なん、つって…………ガクッ)

 

 

 

 

―――とうとう、気絶してしまうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてあっという間に次の日を迎え、女神達は己の国へと帰還する。

全員が常夏のビーチで極上の思い出を築けたことで大満足と言わんばかりに。やがて白斗とネプテューヌ、プルルートも住まいとしているプラネタワーへと帰ってきた。

 

 

「ただいまーっと」

 

「はいはーい! ネプ子さんがログインしましたー!」

 

「みんな~。 ただいま~」

 

「あー! みんなお帰りー!!」

 

「おかえりー!!」

 

 

真っ先に出迎えてくれたのはネプギアとピーシェ。

一日だけとは言え離れ離れだったのが相当寂しかったらしく、すぐに三人の胸へと飛び込んできた。

 

 

「お、おいおい二人とも。 引っ付き過ぎだって」

 

「だって寂しかったんだもん!」

 

「もーん!」

 

「あはは~、ごめんねピーシェちゃん~」

 

 

特にネプギアの甘え方が凄まじい。

普段はしっかり者のネプギアだが、お姉ちゃん大好き、そして白斗大好きという彼女はまだまだ子供っぽさも残る女の子だった。この辺りはネプテューヌの血筋だろうか。

 

 

「皆さん、お帰りなさい」

 

「いーすんただいまー! しっかり楽しんできたよー!」

 

「それは何よりです。 ……………」

 

「ん? どうしたのいーすん?」

 

 

続いて姿を見せてくれたのはイストワールだった。

礼儀正しい彼女らしく、優しく皆を迎えてくれる。だが、その表情がどこか暗い。

それに気づいたネプテューヌがワケを聞き出そうとする。

 

 

「……実はですね、そろそろ繋がりそうなんです。 神次元との繋がりが」

 

「え? 神次元って……まさか……!?」

 

 

神次元、それはプルルートとピーシェが住んでいた世界。

忘れがちかもしれないが、二人はこの世界の住人ではない。今までは時空間の乱れから中々元の世界に帰れないという事情があったのだが、ようやく繋がりそうだとのことだ。

それが意味するものとは、即ち。

 

 

 

 

 

「……はい。 そろそろお二人を……元の世界に帰さなくては、いけないんです」

 

 

 

 

 

 

―――唐突ながらも、いつか必ずやってくる別れだった。




サブタイの元ネタアニメネプテューヌ新作OVA「ねぷのなつやすみ」より。


大変長らくお待たせして申し訳ありませんでした!
ということで約三週間ぶりの更新、今回は海水浴ということでR-18アイランドのお話でございます。
アニメねぷでも出てきたR-18アイランドですが、今回は女神様との思い出作りに焦点を当ててみました。私もこんな夏休みを過ごしたかった……;
その中でも今回はノワールさんとベールさん中心で動かしました。そしてこれで四女神も守護騎士の誓いコンプリート。ヒロインたちとの関係も次なるステップへ進んだかな?
さて、とうとう配信となりました「ねぷのなつやすみ」!当然先行配信見ました!もう最高!!
今回はネプギア中心かなと思いましたがネプテューヌも大人ネプも、そして女神の皆も素敵!!やっぱネプテューヌ達はいいですね~。
アニメ第二期も期待していいんですよね!?待ってますよスタッフ―!!


そんなOVAに肖ったような今回のタイトル。OVAは山でキャンプのお話だったので、今回は敢えて海水浴にしてみました。
そして今回が海水浴編だったのなら、当然次回もねぷのなつやすみでお送りします。ズバリ、夏祭り編!更にとうとうやってきてしまった、プルルートとピーシェの別れ……どうかお楽しみに!!
感想ご意見、お待ちしております!!
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