恋次元ゲイムネプテューヌ LOVE&HEART   作:カスケード

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第四十九話 ねぷのなつやすみ~夏祭り編~

「そろそろお二人を……元の世界に帰さなくては、いけないんです」

 

 

常夏リゾートから帰ってきて早々イストワールから告げられたその一言は、ネプテューヌ達から言葉を奪うには十分すぎた。

その話題が出た途端、ピーシェとプルルートの顔色が悪くなる。

イストワールの話に出てきたお二人と言うのが、何を隠そう神次元という別世界からやってきたこの二人なのだから。

 

 

「え……? ぴぃ、ねぷてぬたちとおわかれしなきゃいけないの……?」

 

「すみません。 ですが、今を逃すと次繋がるのがいつになることか……しかも神次元とこちらの間の時間は不安定です。 ひょっとしたら向こうに戻った時、10年くらい経ってたということにもなりかねません……」

 

 

ピーシェの潤んだ表情にイストワールも心を痛めながら、それでも告げる。

ここまで次元間移動が手間取った理由が、双方の時差にある。どうも時間の流れが不安定らしく、こちらにとっての一日が向こうにとって一年になる場合もあれば、こちらにとっての一年が向こうにとっての一日になる場合もある。

故に、この機を逃せばリアル浦島太郎のようになってしまいかねない。逆を言えば、一度戻ってしまえば次にこちらへこれるのがいつになるかも分からない。

 

 

「…………そっか~。 戻らないと……いけないんだね~……」

 

「プルルート……」

 

 

プルルートも意気消沈していた。

昨日、あのリゾートで彼女が寂しがらないよう白斗と約束を交わした。「また遊びに行く」という約束を。

だからと言って寂しくないわけがないのだ。

 

 

「い、いーすん! それっていつになるの?」

 

「……計算上では明日のお昼です。 そこでゲートを繋ぐ予定です」

 

「明日!? 急すぎるよ!?」

 

「す、すみません……」

 

 

思わず悲痛な声を上げてしまうネプテューヌ。そして申し訳なさそうに頭を下げるイストワール。

だが白斗は、どちらの気持ちも理解できた。

もっと早く言ってくれれば思い出作りに勤しめたのに。しかし、イストワール視点からすれば急に繋がったのだろう。だから彼女自身にもどうしようもない。

 

 

「ぷるると……ぴぃ、かえるのやだ……」

 

「……ピーシェちゃんの気持ち、すっごく分かるよ~? でもね……あたしは帰らないといけないんだ~。 ピーシェちゃんは……ここに残る~?」

 

「やだ! ぷるるともいっしょがいい!」

 

「ピーシェちゃ~ん……」

 

「やだ! やだったらやだなのー!! ぷるるとも、ねぷてぬも、おにーちゃんも! みんな……みんないっしょがいいのー!!」

 

 

別れたくない余り、我儘を言い出すピーシェ。しかし、誰もがその気持ちを理解している。

まだ幼過ぎる彼女にいきなりの別れなど覚悟できるものではない。だから頭ごなしに押さえつけることも出来ず、どうしたものかと顔を見合わせる一同だったが。

 

 

「……大丈夫だよ、ピー子」

 

「そうそう、ネプテューヌの言う通りだ」

 

「ねぷてぬ……おにーちゃん……?」

 

 

俯くピーシェの頭を優しく撫でる手が二つ。ネプテューヌと白斗だ。

二人は優しく、温かい微笑みを向けながらピーシェに語り掛ける。消して彼女の想いを否定しないように。

 

 

「ほんのちょっとの間、遠い場所にいくだけだから。 大丈夫、奇跡を起こすのが主人公ですから! っていうか起こさなきゃこの小説エタってるし」

 

「メタ発言やめろよ! ……とまぁ、そんなに心配しなくてもすぐ会えるさ。 それにしばらくして会えた時の方が嬉しさ倍増ってモンよ」

 

「……ホントに……?」

 

 

視線を潤ませるピーシェに白斗も力強く頷いた。

ピーシェはまだ不安がっている。しかし、ネプテューヌ達の言葉も信じたくもある。後もう一押し、彼女に勇気づけられる何かがあればいい。

その何かとは―――。

 

 

「……ピーシェちゃん~。 二人を信じてあげよ~?」

 

「ぷるる、と……?」

 

 

彼女の家族でもある優しき女の子、プルルートだった。

プルルートもまたピーシェの頭を優しく撫でながらいつも通りのほんわかとした口調で諭していく。

 

 

「だって~、白くんがあたしにも約束してくれたの~。 必ず会いに来るって~。 ……あたしはね~、白くんやねぷちゃんを信じるよ~。 ピーシェちゃんはどうかな~?」

 

 

口調こそ普段通り間延びしたものだったが、内容自体はとても真面目で、その語り掛ける姿もまさに女神様の如き優しさと美しさがあった。

陽光に照らされながら聖母―――いや、女神としてのその姿にピーシェも涙を止めてその姿に魅入った。

やがてピーシェは俯きながらも弱々しく唇を開く。

 

 

「……ねぷてぬ……。 まってたら……ぴぃ、いいこかな……?」

 

「うん! ピー子は元々いい子だから!」

 

 

さも当然と言わんばかりにネプテューヌがドヤ顔を披露する。

けれども、彼女のそれが今日はいつにも増して眩しく、そして力強く見えた。

 

 

「……いいこにしてたら……おにーちゃんも……ほめてくれる……?」

 

「勿論! 今度会った時、ピーシェのお願いたーくさん叶えてやる!」

 

 

少しだけ頭を乱暴に掻き回す白斗は、しかしどこまでも安心できて、信じられた。

 

 

「……ぷるると。 ぴぃと……ずっといっしょにいてくれる……?」

 

「うん~。 あたしと~、ピーシェちゃんは~。 ずっと一緒だよ~」

 

 

そして、ピーシェを探しにこの次元まで来てくれた家族であるプルルートが優しく抱きしめてあげた。

自身の言葉を証明するかのように、もう離さないと言わんばかりに。

 

 

「……おにーちゃん! ねぷてぬ! やくそくだよ! ぜったい……ぜったいまたあそんでね! ねぷのぷりんたべさせてね!」

 

「ああ!」

 

「寧ろ私から食べさせに行くからねー!!」

 

 

白斗やネプテューヌは悲しさを一切出さないよう、必死に明るく振る舞った。

本当ならば二人とも、家族のように長い時間過ごしてきたプルルートやピーシェとの別れは泣くほど辛い。しかし、ここで悲しさを表に出せばそれが二人にも伝播してしまう。

だから二人は一切悲壮感を出さない。また会えると信じて、そしてまた会えると信じてもらえるように。

 

 

「でしたらネプテューヌさん、本日のお仕事はこちらで片づけておきますので今夜の『アレ』に連れて行ってあげてください」

 

「ほいキタ! 任せてー!」

 

「ん? ネプテューヌ、アレって何だ?」

 

 

そして今日の仕事もイストワールが引き受けてくれた。

今にして思えば、昨日のR-18アイランドへ行くことを許可してくれたのも思い出作りをさせるためなのだろう。

ただ、彼女達の言う「アレ」が白斗には分からなかったが。

 

 

「ふっふっふー! それはねー……」

 

 

いつも以上のドヤ顔を見せつけたネプテューヌ。そして彼女が告げる「アレ」とは―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――心を震わせる太鼓の音がプラネテューヌの夕焼けに響き渡る。

その音色に誘われて外に出れば提灯の光が幾つも煌いていた。そして辺り一面から漂う、食欲をそそる匂い。

誘惑に負け、足を運べば数々の屋台へと辿り着く。プラネテューヌの街並みはそうした人々でいっぱいになっていた。

 

 

「……まさか今日が夏祭りだったとはなぁ」

 

 

カランと下駄の音を響かせた白斗が屋台立ち並ぶ街を白斗は驚きながら見ていた。

そう、今日はプラネテューヌで夏祭りが行われる日だったのだ。

遊ぶこと大好きなネプテューヌが企画していたらしく、溢れ返った人々は屋台の出し物や食べ物、そして踊りや音楽にと心から楽しんでいた。

 

 

「にしても昨日は水着、今日は浴衣……俺、ダサくないかな……?」

 

 

夏祭りと言えば浴衣。そんなネプテューヌからの一言で今日の夏祭り参加者にも浴衣の着用が義務付けられた。

白斗も用意された浴衣に袖を通し、下駄を履いてみたのだが何しろ初めてだらけなので落ち着かない。

因みに白斗の浴衣は青色を基調とした、落ち着いた色合いと模様が特徴的な一品である。

 

 

「ダサくないよ! 寧ろカッコイイ!」

 

「うんうん! お兄ちゃん素敵だよ!」

 

「お、ネプテューヌにネプギアも来たか……おお……!」

 

 

そこに聞こえてきた可愛らしい女の子二人の声。

同じく下駄の足音をカランカランと鳴らしながら歩いてくる、このプラネテューヌの二人の女神。ネプテューヌとネプギア、その二人も浴衣姿で歩いてきた。

姉は濃い紫色、妹は薄い紫を基調とした浴衣だ。

 

 

「……二人とも、可愛いよ」

 

「ホント!? やったやったー!! 水着に続いて浴衣でもドキッとさせられたよー!!」

 

「ありがと、お兄ちゃん!」

 

 

褒められた二人は嬉しそうに飛び跳ね、白斗の両腕に抱き着いた。

浴衣と言うとても薄い布で作られた服で抱きつかれては、その独特のふくらみが良く伝わるというもの。

水着ではないだけまだマシ―――いや、違う意味で破壊力があった。

 

 

「コラー!! アタシ達だっているの忘れるんじゃないわよー!!」

 

「そうだそうだー! わたし達、キュートな妹達を除け者にするなー!!」

 

「お兄ちゃん、浴衣似合ってる……?(きらきら)」

 

 

そこへ駆け寄ってきた三つの下駄の音。

振り返るとそこには、各国の女神候補生達であるユニ、そしてロムとラムが並んでいた。

ユニはやはりと言うべきか黒色、ロムとラムはそれぞれ水色と桃色の浴衣を着こなしている。

 

 

「お、三人ともいい感じじゃないか。 ちょっと大人っぽくて綺麗だぞ」

 

「き、綺麗……! ふふん、さっすが白兄ぃは分かってるわね!」

 

「えへへ、お兄ちゃんありがとー!!」

 

「お兄ちゃんに浴衣、褒めてもらっちゃった……♪(るんるん)」

 

 

まだまだあどけなさが残る女神候補生らにとって、大人の女性とは憧れてしまうもの。

故に慕っている白斗から大人に近づけていると言われて嬉しくないわけがない。

可愛らしく喜んでいる少女三人はまさに絵にしたくなるような光景だ。

 

 

「にしてもノワール達も来れたらよかったんだけどなー」

 

「まぁ、お姉ちゃん達だけR-18アイランド行っちゃった分仕事が溜まってるから。 仕方ないわよ、うん仕方ない!」

 

「ユニ……ビミョーに私怨篭ってないか?」

 

「気のせいよ白兄ぃ」

 

 

そう、今回他国から来られたのは女神候補生であるユニ達だけだ。

ノワール達は先日のバカンスのために無理矢理スケジュールを空けており、その分の仕事に忙殺されている状況なのだ。

代わりにと派遣されてきたのはユニ達であるが、ユニは昨日連れて行ってもらえなかった不満があるためか、妙にスッキリしていた。

 

 

「さて、残るは本日の主役二名だけど……」

 

「あ! 来たよお姉ちゃん!」

 

 

そして残る待ち人は二人。

紫の女神姉妹が手をかざしながら辺りを探していると、ネプギアが見つけた。

一人は薄紫色の柔らかな浴衣を着こんだ少女、もう一人は快活さ溢れる黄色い浴衣に身を包んだ幼い女の子。

 

 

「ぷるる~ん! ピー子! こっちだよー!!」

 

「みんな~! 待たせてごめんね~」

 

「おまつりだー!! やっほー!!」

 

 

本日の主役ことプルルートとピーシェだった。

この世界における思い出作りとして参加する夏祭り。特にピーシェは大盛り上がりだ。

 

 

「それじゃ早速回るか。 はぐれるなよー」

 

「はーい! それじゃまずはタコ焼きー!!」

 

「あ! クレープもあるよお姉ちゃん!」

 

「ねぷてぬ! ぷりんあるー!?」

 

「お祭りといったらりんご飴よね、ロムちゃん!」

 

「うん! でも、チョコバナナもいいよね……☆(きらきら)」

 

「って言った傍から早速散らばるなよお前ら!?」

 

 

白斗の指示も空しく、皆が思い思いに散らばってしまった。

まだ幼くて好奇心の強いロムとラム、ピーシェならまだ分かるが、その中に年長者であるはずのネプテューヌやしっかり者であるはずのネプギアまでもが混ざっているのだ。

肩を落とす白斗を慰めるようにユニとプルルートが寄り添う。

 

 

「ま、まぁまぁ元気出して白兄ぃ!」

 

「それより皆がはぐれちゃうよ~」

 

「そ、そうだ! 俺はロムちゃんとラムちゃんに着くから、二人はピーシェの傍に!」

 

 

大慌てで指示を飛ばした。今となっては、白斗が保護者。幼い子達に危険を及ぼしてはいけない。

咄嗟に向かった先は宣言通りりんご飴の屋台。小さなリンゴにコーティングされた飴の輝きに見とれて、目をキラキラさせていた。

 

 

「こーら、二人とも。 はぐれちゃダメって言ったばかりだろ?」

 

「あ……ごめんなさい……(しゅん)」

 

「反省してます……」

 

「うん、しっかり反省したならご褒美。 俺が買ってあげるよ」

 

「「やった~~~!!」」

 

 

幼い二人は表情をころころ変えてくれる。

白斗が叱責すれば顔を項垂れるし、白斗が許せば顔を明るくする。

そんな二人が可愛くてついつい財布の紐を緩めてしまうのはきっと仕方のないことだろう。

店主からりんご飴を二本受け取り、それを二人に手渡す。

 

 

「ん~っ、甘くておいしい~!」

 

「りんご飴、最高……!(ぺろぺろ)」

 

(うーむ、確かに可愛らしい光景だが……どこかイカン空気になるのは気のせいか……?)

 

 

今なら少しだけトリック・ザ・ハードの気持ちが分かってしまうかもしれない、などと情けないことを考えている白斗だったが。

 

 

「お兄ちゃん! わたし達のりんご飴あげる!」

 

「一緒にぺろぺろしよ♪(るんるん)」

 

「なん……だと……」

 

 

思わず固まってしまった。

言わずもがな、先程二人がペロペロしたりんご飴をである。これに反応してしまうのは、心が穢れているのからなのだろうか。

とは言え、受け取らないと二人が泣きそうな顔になるので。

 

 

「あ、ありがとな。 んじゃ失礼して……」

 

「お兄ちゃん、美味しい?」

 

「お……おお、案外な。 俺、夏祭り自体が初めてだから……」

 

「そうなんだ。 良かったね、お兄ちゃん♪(きらきら)」

 

(……ああ、確かに美味しいけど心も視線も痛ぇ……)

 

 

決してやましい思いなど抱えてない―――そう自分に言い訳しつつ、りんご飴を二人に返却。

ロムとラムの手を繋ぎながら残りの面々を探す。

 

 

「お~い、白斗~!」

 

「あ、ネプテューヌ! お前年長者なんだから率先してはぐれるなよ……って何だその食い物の量!?」

 

 

やっとネプテューヌらとも合流した白斗達。

しかし驚くべきは彼女が抱えていた食べ物の量だ。たこ焼き、焼きそば、肉の串焼きにフランクフルト、焼きもろこしにチョコバナナとかなりの数だ。

因みに傍にいるネプギア達はわたあめ一本だけ握っている。そしてピーシェは可愛らしいキャラの袋にわたあめを詰めてもらったらしく、ご機嫌だった。

 

 

「おにーちゃんみてみて! これかわいいのー!!」

 

「よ、良かったねピーシェ……で、ネプテューヌはどうしたんだそれ……」

 

「いやー、お祭りってハイになるじゃん? だからこれだけ買わないとやっていけないって! ってことで白斗、ちょっと持ってー」

 

「はいはい……。 羽目外すのは良いけどもうちょい計画的にな」

 

 

相変わらずネプテューヌのお気楽さに毒気を抜かれるが、そんな彼女に付き合うのが楽しくて仕方がないとも感じる今日この頃。

とりあえず持ち切れない分の食べ物を持って上げた。

 

 

「白斗ー! たこ焼きー!」

 

「へいへい。 ふー、ふー……ほい、熱いから気を付けて食べろよ?」

 

「もぐもぐ……ん~っ、美味い! 次チョコバナナナー!」

 

「たこ焼きの後にバナナってのも組み合わせ悪い気が……ほらよ」

 

「まぐまぐ……次フランクフルトー!」

 

「はいよ。 って口元汚れてるぞ、ふきふき……」

 

「あはは、白斗ってばロムちゃんの癖が伝染ってるー」

 

 

あれこれと世話を焼く白斗。彼女の口にご所望の食べ物を運んだり、口元を拭いてあげたり。

それこそ、傍から見れば彼氏彼女の様な―――。

 

 

「白く~ん! 今日はあたし達の思い出作りなんだから除け者にしないで欲しいな~!」

 

「え? い、いや除け者にしたつもりは……」

 

「だったらあたしにも~」

 

「……了解です。 それじゃクレープ」

 

「あ~ん。 ん~、美味しい~♪」

 

 

プルルートが何やらご不満そうだったので、同じように甲斐甲斐しく世話をする。

クレープを彼女の口元に運ぶと、プルルートは幸せそうな顔でそれを一齧り。

ほんわかとした笑顔を見せてくれたことで白斗も心安らぐのだが。

 

 

「あーっ! お兄ちゃん、私にもお願いします!」

 

「え?」

 

「白兄ぃ! べ、別に白兄ぃがしてあげたいっていうならアタシにもしていいわよ!?」

 

「え? え?」

 

「おにーちゃん! ぴぃにもー!!」

 

「え? え? え?」

 

「あー、ズルイー! わたし達が先よ! ねー、ロムちゃん!」

 

「え? え? え? え?」

 

「お兄ちゃんに、食べさせて欲しいな……(わくわく)」

 

「え? え? え? え? え?」

 

 

―――人気者は辛い、辛いからこそ人気者だと白斗君は自分を鼓舞させたそうです。

さて、祭りの楽しい所は何も食べ物だけではない。遊びを目的とした多くの露店が出ていることも醍醐味の一つ。

その中でも代表的な遊びと言えば。

 

 

「白兄ぃ! あそこ、射的あるよ!」

 

「射的に反応する辺りユニらしいな。 うっし、いっちょ荒らしてやりますか!」

 

「うん! 折角だからどっちが多く落とせるか競争しましょ!」

 

「面白い、受けて立つ!」

 

 

ユニが見つけたのは射的屋。銃をこよなく愛する彼女らしいセレクトと言えよう。

対する白斗も銃の扱いに関してユニの師となっている存在。互いに自信しかない中、店主に金を払って数分。

 

 

「……ちぇっ、あと一個で勝ってたのに……店の親父め。 出禁にしやがって……」

 

「ホント、懐狭いよねー……。 あと一個で白兄ぃに勝ててたのに……」

 

 

店の商品と言う商品を撃ち落とし、涙目の店主から出禁を食らってしまった。

卓越した射撃の腕を持つ二人にとって、最早射的などお遊戯同然だったのである。

ただ、二人としては引き分けに終わってしまったことが残念でならない。

 

 

「まぁいいや。 ほーれ、賞品は山分けだー」

 

「皆、好きなの持って行っていいわよ」

 

「やったー! あ、私はこの古いゲームソフト!」

 

「それじゃ私はユニちゃんが落としたこのデジカメ!」

 

「ぴぃ、このおにんぎょうー!!」

 

「あたしは~……このぬいぐるみ~! ふかふかしてる~」

 

「わたしはこの絵本! 表紙が可愛いの!」

 

「新しいクレヨン……お兄ちゃん、ありがとう……!(るんるん)」

 

 

そして手にした山の様な賞品は皆にお裾分け。

嬉しそうに皆が自分が望むものを手に取ってはお礼を言う。案外賞品の質が高かったのも功を奏した。

勝負こそ引き分けだったが、皆の笑顔溢れる光景に満足した白斗とユニだった。

 

 

「おにーちゃん! ぴぃもなにかあそびたいー!」

 

「お、ピーシェも何かするか? んー、メジャーなのは金魚すくいとかだが……」

 

 

辺りを見回して白斗が考える。

金魚すくいは夏祭りの定番だが、明日になればプルルートとピーシェは帰ってしまう。となれば生き物を手に入れられるような遊びは避けた方がいい。

ヨーヨーだとすぐに割れてしまう、かと言って先程の様な射的だとピーシェには難しい。

 

 

「あ、お兄ちゃん。 スーパーボールすくいがあるよ」

 

「ん? おお、ナイスだネプギア」

 

 

するとネプギアが「スーパーボールすくい」という屋台を見つけた。

名前の通り金魚すくいのようにポイでスーパーボールを掬い上げるという屋台だ。

これならばピーシェでも楽しめるだろう。

 

 

「ねぷてぬ、すーぱーぼーるって? すっごいぼーる?」

 

「うん! 良く跳ねる、スーパーなボールだよ!」

 

「間違ってないのに……何だか釈然としねぇ……」

 

「で、そのボールが浮かんでるからこのポイで掬ってやるの。 こんな風に!」

 

 

ネプテューヌがお手本を見せる。

水にふわふわと浮かんだスーパーボール一つに狙いを定め、なるべくポイの淵に引っ掛けながらボールを跳ね上げた。

後は落ちてくるボールの真下にお椀を添える。こうしてスーパーボールを一個手に入れて見せる。

 

 

「おおー! ねぷちゃん上手~!」

 

「遊ぶことのプロフェッショナルですから! で、これをポイが破れるまで続けるんだよ」

 

「おもしろそう! ぴぃもやるっ!」

 

「ピー子! なるべくポイを濡らさないで、淵に引っ掛けるのがコツだよ!」

 

 

こうしてネプテューヌの指導の下、ピーシェもスーパーボールすくいに挑戦してみることに。

最初こそは破れまくり、泣きそうになっていたもののネプテューヌのアドバイスやプルルートの応援で何とかコツを掴み、達人の域には達していないものの2、3個は掬えるようになっていた。

 

 

「やったー! ねぷてぬ、ぷるると! すくえたよー!」

 

「ピー子凄い凄い! もうこんなに掬えちゃうなんて!」

 

「よく頑張ったね~、ピーシェちゃん~」

 

 

二人の良き姉に頭を撫でられ、ピーシェもご満悦だ。

勿論スーパーボールが手に入ったのもあるのだろうが、それ以上に大好きな姉二人から頑張りを認めて貰えたことが何より嬉しかったのだ。

そんなピーシェの嬉しそうな表情を見られただけでも、夏祭りに来てよかったと白斗は思える。

 

 

「ふふ、今お父さんのような目になってたよ。 お兄ちゃん」

 

「……最近、それでも悪くないかなと思い始めている俺」

 

「そうなんだ。 それじゃ……わ、私が奥さんとかどうかな~……?」

 

「ってネプギアさん!? 何してらっしゃるのですか!?」

 

 

するとネプギアが片腕に抱き着いて頬を擦り寄せてきた。

ネプギアも妹扱いしているとはいえ女神様にして美少女。白斗もドキリとしないわけがない。

 

 

「たまには役得! はい、あーん」

 

「むぐっ? た、たこ焼きか……はぐはぐ……」

 

「ふふっ、こうしてるとホントの夫婦みたいで……『ガチャッ』……ガチャ?」

 

 

その姿勢のまま白斗にたこ焼きを食べさせてあげる。

傍から見ればまさにバカップルとして思えない光景だが、周りの客も割と似たようなことをしているので案外目立たたなかった。

このまま一気に好感度を高めようとした矢先、ネプギアの後頭部に冷たい何かが押し当てられる。

 

 

「ネプギア……脳幹撃ち抜かれたくなかったら今すぐ白兄ぃから離れなさい……!」

 

「い、いいじゃないのユニちゃん! 私だってお兄ちゃんに甘えたいもん!」

 

「それは甘えすぎだっての! いいから離れなさーい!!」

 

「ひゃあああああああああああ!?」

 

 

ユニが銃を取り出していたのだ。

慌てるネプギアだが一向に離れようともしないため、ユニが掴みかかって引き離す。

因みにこんな往来だがくじの景品などでエアガンなども結構飾られているため、ユニの銃についてはお咎め無しだった。

 

 

「やれやれ……ってロムちゃんとラムちゃんは!?」

 

「「あっ!?」」

 

 

思わず夢中になってしまっていた。

好奇心旺盛な二人は一ヵ所に留まるということを知らない。こんな夏祭りの場であれば尚更だ。

慌てて周りを振り返ると、幸いにも近くの屋台で金魚すくいをしていたのだが。

 

 

「あぅ……破れちゃった……(しくしく)」

 

「うー、すぐ破れちゃって救えない~……」

 

「はっはっは、まだまだ下手っぴっちゅね」

 

(ん? 『ちゅ』って語尾……まさか……?)

 

 

思いのほか救えず悪戦苦闘で涙目の二人。

お小遣いも尽きてしまい、これ以上手出しが出来ない。ただ、白斗はその店主の声色、そして語尾に聞き覚えがあった。

店を覗き込んでみるとそこに座っていたのは。

 

 

「……何やってんだネズミ」

 

「げぇっ!? は、は、は、白斗っちゅかぁ!!?」

 

 

ネズミことワレチューだった。

どうやら彼も祭りに託けて出店を出していたようだ。それ自体は別に咎めるところではない。

しかし、彼は白斗の登場にやたら慌てている様子だ。何か後ろめたいことがある、そう感じ取った白斗は。

 

 

「……俺にも一回やらせな」

 

「し、仕方ないっちゅね……まぁ、掬えるはずもなし。 ほれ、ポイっちゅよ」

 

「お兄ちゃん! わたし達の敵討ち頼んだわよー!」

 

「お兄ちゃん、頑張って……!(フレー、フレー)」

 

 

白斗はコインを支払ってワレチューからポイを受け取る。

だが彼は金魚を掬おうとせず、それどころか受け取ったポイを凝視していた。

 

 

「……ははーん、和紙に良く似せたオブラートか。 随分姑息なマネしやがるなぁオイ?」

 

「ぢゅぢゅぢゅっ!?」

 

 

指摘された途端、ワレチューはこれでもかというくらいのオーバーリアクションを取った。

どうやら当たりらしい。

 

 

「お兄ちゃん、オブラートって……?(はてな)」

 

「すっごく水に溶けやすい膜のこと。 こんなんじゃ水に浸けた途端、溶けちまうわな」

 

「ってことは……インチキじゃないの! お金返せー!!」

 

「い、インチキとは失礼っちゅね! そ、そういうポイだって探せば……」

 

「ねぇよ、ポイってのは和紙かモナカかって決められてんだよ」

 

「ぢゅ~~~!?」

 

 

完全に論破され、逃げ場を失うワレチュー。

あの騒動以降、女神排除などの危険思想からは足を洗ったといえどまだ小悪党からは脱却しきれていないらしい。

と、その時。地を震わせるような足音がズシンと後方で響く。何事かと白斗が振り返ると。

 

 

「……私の国の夏祭りでインチキして、ロムちゃんとラムちゃんを泣かせたって……?」

 

「ね、ネプテューヌ……?」

 

「アタイのことは姉御と呼びな、白斗」

 

「へい、姉御」

 

 

いつもの天真爛漫さの欠片もない、怒りのオーラを噴き上げさせているネプテューヌだった。

このオーラの前にはピーシェは勿論、プルルートも怖気づいている。

口調まで変わっており、白斗も従わざるを得ないほどの迫力があった。

 

 

「あ、あれはまさか……!!」

 

「知ってるのかネプギア!?」

 

「お姉ちゃん、遊ぶことに関しては真剣で……あんな風にインチキして人を泣かせちゃったりするとすっごく怒っちゃうんです……!!」

 

 

なるほど、それであんなに怒っているのかと白斗も納得した。

遊ぶこと大好きで、何より心優しいネプテューヌだからこそ許せないこの悪逆非道。

さすがのワレチューも震え上がって逃げることすら出来ない。

 

 

「ぢゅ、ぢゅぢゅぢゅ~! 許して欲しいっちゅ~! 出来心だったんちゅよ~!!」

 

「アタイの国でこんな不届き千万しておいて許せだぁ……? この悪逆非道、お天道様が許しても、このネプ子さんは許しゃぁしないよォ!?」

 

 

腕を組み、鋭い視線を投げつけるネプテューヌ。

最早別キャラだとしか言わんばかりの変貌ぶりだが、余りの迫力に白斗も口を挟めない。

―――この人物を除いては。

 

 

「……あきまへんなぁ、お嬢ちゃん」

 

「げ!! その声はまさか……!!」

 

 

白斗が嫌な声を聴いて振り返る。

思えばワレチューがいたのだ。“彼女”もいて然るべきだと思っておくべきだったのだ。

 

 

「お、オバハン~!」

 

「ウチの子分がえらい世話になったようやなぁ。 せやかて今日はお祭り、無礼講……ちょっとの出来心くらい見逃して然るべきとちゃいますかー?」

 

「その出来心で幼子泣かせてちゃぁ世話ないって言うてるんや」

 

 

その声の出どころはとある出店。

そこにいるであろう上司に泣きつくワレチュー。もう正体自体は割れている。だが、ネプテューヌは一歩も引けを取らず啖呵を切る。

 

 

「祭りやで? そないケチケチしたってしゃぁないやろ? それにウチらも一家の生活……何よりナスによる世界征服が懸かってるさかい」

 

(ってかなんでアンタまで口調変わってんの……?)

 

 

ユニのツッコミも何処へやら、二人の闘争は高まっていった。

散らされる火花、それに触発されたかのように店主も重い腰を上げて姿を現す。

 

 

 

 

「……邪魔は……あきまへんでぇ!!」

 

「……やっぱお前かよマジェコンヌ……。 つーか昨日はR-18アイランドにいたよな……?」

 

 

 

姿を現した魔女―――マジェコンヌが太々しい面を見せた。

昨日まで南の島でナスの行商をしていたはずが、今日はこちらで出店を構えているらしい。

商魂たくましいといえばそれまでだが、尚更ネプテューヌの視線は強まる。

 

 

「うおおおおおお!! 喧嘩だ、喧嘩ぁ!!」

 

「祭りの華じゃぁ!!!」

 

「ええで二人とも!! 思う存分盛り上がれやぁ!!!」

 

 

この二人のボルテージを受け、周りは盛り上がる。

あっという間にネプテューヌとマジェコンヌの喧嘩を受け入れてそれを楽しんでいる辺り、さすがプラネテューヌ国民と言うべきか。

 

 

「せやかてワイも大人……女子供も力比べしようなんてアホやおまへん」

 

「ほぉー……逃げ口上だけは随分立派やのォ」

 

 

互いに皮肉を叩き合う。

とりあえず互いに武力行使をするつもりはない。それはそれで一安心なのだが、ならば何で決着をつけるのか?

 

 

「元は出店のケチで始まった諍いや。 ……ウチの出し物で決着つけまひょか?」

 

「望むところや。 ……アタイが買ったら、ロムちゃんとラムちゃんのお金は返しな」

 

 

ネプテューヌは敢えて提案に乗り、要望を出す。

今回の被害者であるロムとラムの事を慮り、二人の仇を取ろうとする。

 

 

「ええでっしゃろ。 ほな、ワイが買った暁には……そこの小僧!!」

 

「へ? 俺!?」

 

「そや! アンタを今日一日売り子、そして半年の間ウチのナス畑の作業員としてこき使ったるさかいなァ!!!」

 

「なっ!? なんでや!! 白斗関係ないやろ!!」

 

 

どうやらマジェコンヌは白斗の事を大層気に入っているらしく、彼をしばらくこき使いたいと言い出したのだ。

この要求にはさすがのネプテューヌも焦りを見せる。

勿論負けるつもりはないが、自分の口一つで白斗の今後が決まってしまうのだ。軽々しく、頷けるはずも―――。

 

 

「……いいぜ。 俺の首、ネプの姉御に預けた!!」

 

「は、白斗!? ダメだよ、そんなの……!!」

 

 

何と白斗は逃げるまでもなく、文句を言うでもなく、その場にどっかりと座り込んでしまった。

一切逃げようともしないその姿勢は、完全にマジェコンヌの要求を呑むということである。

思わず取り消そうとするネプテューヌだが、白斗はそれを手で遮る。

 

 

「……俺は知ってるぜ? 俺の女神様は……ここ一番でやってくれるお人だってな」

 

「……白斗……」

 

「だからケチケチせず、ドカッと行けや! 一点賭け上等!! 不利な時ほどアタリがデカイってなモンよ!!」

 

 

ネプギアも、ユニも、プルルートも。皆が皆、白斗を心配していたが対する彼は悲壮感など全く抱えていなかった。

どこまでもネプテューヌの勝利を信じて疑わない。愛する人からの叱咤激励を受けて、やる気になれない女などいるだろうか?

―――いや、いない。

 

 

「……白斗の命……確かに預かった!! マジェコンヌ、決闘成立や!!!」

 

「ええ覚悟や! 尤も……それは勇気じゃなくて蛮勇……否、ただの無謀やけどなァ!!」

 

 

改めての決闘成立に周りの興奮も最高潮に達する。

互いに逃げ場も、逃げるつもりもないこの勝負。ネプテューヌの瞳には勝利の炎が灯っていた。

 

 

「それで、アンタんトコの出し物って何や?」

 

「フフフ……私と言えば……ナスに決まっているだろう!!」

 

「ぎゃあああああアアアアアアアアアア!!? ナスぅううううううううううううううう!!?」

 

「ええっ!? さっきまでのやる気はどうしたのお姉ちゃん!?」

 

 

出店に案内されるなり、ネプテューヌが恐れ飛びのいた。

なんとそこにあるのは―――水に浮いたナスだからだ。

 

 

「これぞ新感覚の遊び、『ナス掬い』!! 自在に動かない分、金魚よりも優しい難易度! 救ったナスはその場で焼いて食べられるサービス!! 新感覚だろう!!!」

 

「因みに売れ行きは?」

 

「全く良くありません(泣)」

 

 

白斗からの一言にヨヨヨと泣いて見せるマジェコンヌ。

発想自体は悪くないのかもしれないが、遊ぶにしては地味すぎる。商魂たくましいが、商才はそこまでではないのかもしれない。

だが、白斗はそれ以前にネプテューヌが心配で仕方がなかった。何せ彼女は大が付くほどのナス嫌いなのだから。

 

 

「う………うぷぇ………ナスの匂いが……」

 

「ハーッハッハッハッハ!! ルールは簡単、このポイ一つでナスを一本掬って焼いて食べればOK!! 勿論ポイが破れても、ナスを食べきれなくても失格だ!!」

 

 

ルール面に関してもネプテューヌに圧倒的不利である。

彼女の技術ならナスを掬うこと自体は可能だろうが、ナスの匂いでパワーダウンさせられている以上持ち前の集中力が発揮できるかも怪しい。

何より掬ったナスを食べなければならないなど、彼女にとっては拷問にも等しい。

 

 

「潔く負けを認めるが良い女神よ! そして小僧、貴様は晴れてナス農家に就職だ!! 貴様にも見せてやる……世にも美しい、ナスの地平線を……!!」

 

「お前の思想がぶっちゃけワケ分からんが……ネプテューヌを見くびるんじゃねーよ」

 

「ふん、ナスに怯え苦しむ無様な小娘を見くびるななどとそれこそ無理な……」

 

 

などと一笑に付したその時、ネプテューヌの目元に陰りが入った。そして。

 

 

「チェストぉおおおおおお―――――っ!!!」

 

「なっ!? 何ィ!!? 掬っただとおおおおおおおおおおおおっ!!?」

 

 

ポイの膜を破ることなく、淵に引っ掛けるようにして見事に掬い上げた。

パシャッ、と音を立てて一本の艶のいいナスがネプテューヌが手にするお椀の中へと吸い込まれるように落ちる。

 

 

「ぐ……ッ! だがまだだ!! そのナスを焼いて食べるまで勝利とはならん!! ナスを拒絶する貴様に、そんな真似ができるはずが……っ!!?」

 

 

マジェコンヌの言葉は、そこで詰まった。

何と彼女は臆することなく、用意された網の前に立った。そしてその上にナスを置き、綺麗な焼き色が付くまでじっくりと焼く。

 

 

「……確かに、ナスに負けるだけなら簡単だよ。  私だって、嫌なことは嫌。 お仕事とか嫌いなことからは逃げ回ってきたよ」

 

「……ねぷちゃん……」

 

 

心配そうに見つめるプルルート。

彼女もネプテューヌのナス嫌いは良く知っている。だから本当にナスを食せるのか怪しかったのだが―――。

 

 

「でもね……私にとってはナスなんかよりも……白斗が取られる方が嫌なのっ!!! だから、どんなに辛くても……私は白斗にために頑張れるっ!!! もぐもぐッ!!!」

 

「た、た、食べたっちゅううううううううううううううううううう!!?」

 

 

しっかりと冷ましてから、ネプテューヌは一気にそれを口の中に押し込んだ。

きっと彼女の中で想像を絶する吐き気などが襲い掛かっているのだろう。それでも彼女は食べきった。

ロムとラムのために、そして何よりも白斗のために。

不俱戴天の仇とも言えるナスに真正面から立ち向かい、見事に食して見せた。

 

 

「……ねぷてぬ……! カッコイイ……!!」

 

「いや水を差すようで悪いんだけど、ただナスを食べてるだけよね……?」

 

「ユニちゃん、言わないお約束だよ」

 

 

ユニの発言はともかく、その姿はピーシェにも眩しく映った。

やがて見事に食べきった彼女は拳を天高くつき上げ。

 

 

「―――アタイの勝ちじゃあああああああああああああああああああっ!!!!!」

 

『『『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお―――――ッ!!!』』』

 

 

高らかに、勝利宣言をしてみせたのだった。

それに沸き立つ観客たち、がっくりと膝を落とすマジェコンヌ一派、そして白斗は勝利したと知るや否や立ち上がり、崩れ落ちそうになるネプテューヌを支えた。

 

 

「……ありがとな、ネプテューヌ。 カッコ良かったぜ! さすが俺の女神様だ!!」

 

「……えへへ、でしょ……?」

 

「これ、さっきの出店で買ってきたプリンクレープだ。 これでお口直ししてくれ」

 

「わ~い!! プリンだプリン~~~!!!」

 

「で、すぐ復活するのは如何にもお前らしいな!?」

 

 

プリン一つで完全復活する辺りさすがネプテューヌだろうか。

何はともあれネプテューヌの体調面も問題はなし。残す問題は―――。

 

 

「……また、負けた……か。 私は……結局女神には勝てぬ宿命なのかも……な……」

 

「マジェコンヌ……」

 

 

膝を付いたマジェコンヌは最早立ち上がれもしない。

絶対に勝利できると思ったこの勝負でさえ、負けた。ネプテューヌの白斗を想う気持ちに勝てなかった。

それがマジェコンヌを失意のどん底に突き落としていたのだ。

 

 

「……約束だ。 そこのちびっ子に金を返そう……」

 

「ふ、ふーんだ。 最初っからこうしていれば良かったのよ!」

 

「もう、悪いことしちゃダメだよ……!(ぷんぷん)」

 

 

少しだけ鼻息を荒くして怒るロムとラム。けれども余計に可愛らしかったといいます。

 

 

「……敗者に弁はない……。 行くぞ、ネズミ……」

 

「分かったっちゅ……うう、一儲けしてコンパちゃんをデートに誘う作戦がぁ……」

 

 

泣きながらも店をたたもうとしているマジェコンヌ達。

だが、それを止める影が一つ。

 

 

「待ちな! 何か勘違いしとるとちゃいますか?」

 

「ね、ネプの姉御……?」

 

 

なんと他でもない、ネプテューヌがそれを止めたのだ。

何を言い出すのかとマジェコンヌ達も作業の手を止めて、女神の言葉を待つ。

 

 

「アタイがつけた条件は二人に金を返すことだけよォ……。 それと、もうインチキなんぞしねぇって約束すんならアタイから言うことは何もねぇ……」

 

「な、情けのつもりか貴様!?」

 

「アホ抜かせ。 ……お祭りの大原則、それは皆で楽しむことや。 皆で楽しむために決まりっちゅうモンがあるんや。 そしてその皆の中にアンタらもおる……それだけや」

 

 

―――何という懐の深さ。

これこそ、ネプテューヌという女神を作る魅力の一つ。どんなに敵対した者でも、最低限の道さえ踏み外さなければまだ受け入れる。

マジェコンヌ達だけではない、白斗達にも、そして周りの客達にも衝撃と尊敬を与えた。

 

 

「……後始末くらいはしっかりせぇや。 後……二度と白斗を巻き込まんといてぇな」

 

(お姉ちゃん……カッコイイ!! けどいつまで続けるのその口調?)

 

 

キラキラと尊敬と愛情の眼差しを送る一方、しっかりとツッコミ役は果たしているネプギアさんであった。

 

 

「……さて、これで悪は滅びた!! 夏祭り再開だよっ!」

 

「お、ようやく口調もいつも通りに戻ったか」

 

「ねぷちゃん、お疲れ様~」

 

 

白斗とプルルートが激闘を制した女神を労う。

ここからは、再び思い出作りのための楽しい夏祭りの再開だ。

 

 

「あ、白くん~。 あっちで踊ってるみたいだよ~」

 

「ん? ああ、盆踊りか。 つーかこっちにもあったのな、その踊り……」

 

「ね~、踊ろうよ~」

 

「おう、いいぜ」

 

 

その後もかき氷やらイカ焼きやらを楽しんでいると、プルルートが浴衣の裾を引っ張ってきた。

指を差した先には太鼓を積んだ櫓の周りで盆踊りをしている人々がいる。

こうしてゆったりと踊るのも一興かと、白斗もその誘いに乗ることに。

 

 

「えへへ~、こんなにゆっくりだったらあたしにも踊れる~」

 

「はは、プルルートらしいな」

 

「うんうん。 白くんも一緒だしね~」

 

「それは光栄なことで」

 

 

どうやらゆったりとしたリズムの盆踊りはプルルートの肌に合ったらしく、楽しそうな表情で踊っていた。

白斗もプルルートという美少女と一緒に踊れて、夢見心地さえ覚えてしまう。

 

 

「……白くん、昨日の続きになっちゃうけどね~」

 

「ん?」

 

「……あたし、ねぷちゃんや白くんと色んな楽しいことしたいんだ~。 だから……また一緒に遊ぼうね~」

 

「……ああ、勿論だ」

 

 

そして夢見心地だったのは、プルルートも同じだった。

この世界に来て、ネプテューヌ達という新しい友達を得て。何より白斗と言う初めて親しくなった男の子も得て。

プルルートにとっても、楽しいことだらけだった。だからその楽しい思い出を、今日で終わりにしたくなかった。

 

 

「ふ~! 踊った踊った~!」

 

「だな。 ただの盆踊りでも、案外楽しいモンだ」

 

 

それから一頻り踊ったプルルートは本当に満足そうな笑顔を浮かべていた。

笑顔が何よりも素敵なのは、どの世界のプラネテューヌの女神様共通なのだろうか。

そんなことを思っているとネプテューヌがこちらへ駆け寄ってくる。

 

 

「お~い! そろそろ移動するよー!」

 

「ん? 移動って……どこ行くつもりだ?」

 

「ふっふっふ……地元民しか知らない、とっておきのスポットだよ!」

 

 

何やらこの場から移動するらしい。

まだ出店などを味わい尽くしていないはずだが、彼女が言うからには何かあるのだろう。

一同は女神の誘導に従って移動する。そこは祭り会場から少し離れた、小高い丘の上。

 

 

「ねぷちゃ~ん。 何するの~?」

 

「ここからだとね、最高に良く見えるんだよ!」

 

 

一体何が見えるのだろうか。こんなにも高く、周りに人もいない状況では女の子のスカートの中なども見えはしない。

などと馬鹿なことを考えていると、ヒュ~という笛にも似た音を立てて、何かが天高く昇り、心震わせる爆音と共に―――夜空に炎の華が咲いた。

 

 

 

「花火……! すげぇ綺麗だ……」

 

 

 

白斗も、ユニも、ロムとラムも、そしてプルルートとピーシェも。

天に咲く大輪に目を奪われていた。まさにこの国の女神で、この国の事を知り尽くしているネプテューヌ達だからこそ案内で来た、最高の花火スポットだ。

 

 

「やったね、お姉ちゃん!」

 

「うん! さぁ、まだまだ花火は打ちあがるよ! たーまやー!!」

 

「この世界でもその呼び声あるのな……」

 

 

しかし、それ以上のツッコミは野暮だった。

彼女に倣ってロムやラム、ピーシェ達も「たーまやー」と言い出したのだ。こうやって皆で花火を楽しむのも、大切な思い出。

白斗もネプギアから団扇を受け取り、パタパタと仰いで涼みながら色取り取りの花火を見上げる。

 

 

「わ~。 プラネテューヌの花火、迫力あって凄いね~」

 

「ぷ、プルルートさん! ラステイションの花火も凄いから!! 20連射とかあるから!!」

 

「何で対抗意識を燃やしちゃうのかなユニちゃん……」

 

 

なんて、他愛もない会話でも楽しかった。

花火と共に思い出話や自慢話も咲かせて、皆が笑顔になって。みんなで楽しんで。

―――やがて最後の大玉と共に、花火大会も終わってしまう。

 

 

「あれ……はなび、もうおわりなの……?」

 

「みたいだね。 ……でも、まだ延長戦があるっ!!」

 

 

そう言ってネプテューヌは背中から何かを取り出した。

何も仕舞えないはずの空間から取り出されたそれは、数々の手持ち花火セットである。

これも夏の定番の一つだった。

 

 

「さ、私達だけの花火大会はこれからが本番!! まだ遊び足りないっしょー!!」

 

「用意がいいな、さすがネプテューヌ」

 

「でしょー? さ、ピー子も遠慮せずじゃんじゃん遊んじゃって!!」

 

「わーい!! ねぷてぬ、ありがとー!!」

 

 

この事態を見越して花火セットを買っていたらしい。

皆に配り、チャッカマンで先端に火をつければ綺麗な火花が吹き出す。

白斗の世界でも手持ちの花火はとんと見なくなってしまったが、それでもこうして皆で花火をすればとても楽しく、美しいものとなっていた。

 

 

「皆ー、花火で遊ぶのは良いけどそれ持って振り回したりとかするなよー」

 

「白斗見て見てー! ネプ子さんのファイアーダンス~♪」

 

「このおバカさんのようにな!! ってか率先して危ないことするな駄女神!!」

 

 

花火を持ったまま踊ろうとするネプテューヌを慌てて止めた。

やりたい気持ちは分かるが、危険なことはやめましょう。

―――こんな馬鹿騒ぎも含めて、何もかもが楽しかった。こんな楽しい時間だからこそ、やがて終わってしまうもので。

 

 

「あ……お姉ちゃん、もう花火が少ないよ」

 

「ありゃ……残るは線香花火だけか……」

 

「なら、これが正真正銘の最後だな」

 

 

残るは下に垂らすように持ち、パチパチと火花が散る線香花火。

この花火大会のシメとしては相応しいものかもしれない。丁度本数も人数分ある。

それを全員に配り終えると、ユニが一つ提案する。

 

 

「あ、そうだ! 誰の線香花火が最後まで生き残るか、競争しましょ!」

 

「面白そう! わたしもやる!」

 

「わたしも……負けないから……!(わくわく)」

 

 

誰の線香花火が長持ちするか、これも定番の遊び方だ。

ロムとラムを初め、誰もがその提案に乗った。全員が同時に火をつけ、勝負の火ぶたが切って落とされる。

けれども勝敗そのものよりも、全員で線香花火を楽しむこの時間が何よりも心地よかった。

 

 

「……線香花火って、なんだか切ないですね……」

 

「でも、綺麗なんだよね~……」

 

 

ネプギアとプルルートが、しんみりとした表情で自分の線香花火を見つめ続ける。

派手さはない、どこまでも静かで、しかし綺麗なその輝きに目を奪われてしまう。

やがて花火の先に火の玉が大きく膨れ上がっていき、それは静かにポトリと地面に落ちてしまう。

 

 

「ねぷぅ!? 主人公たる私の花火が真っ先に終わったー!?」

 

「あー……わたしのも落ちちゃったー……」

 

「わたしのも……(ぐすん)」

 

 

真っ先に脱落したのはネプテューヌ。それを皮切りにロムとラムの線香花火も落ちてしまった。

花火が消えるにつれ、周りの明るさも徐々に暗くなっていく。それがより一層切なさを演出していた。

 

 

「あ、私も落ちちゃった……」

 

「ふふん、今回はアタシの勝ちねネプギア! って、アタシのも終わりか……」

 

「あたしも~……。 何だか、寂しいね~……」

 

 

ついでネプギア、ユニの花火も落ちてしまった。

加えてのらりくらりと保っていたプルルートの花火も消えてしまう。これで残るは白斗とピーシェの花火のみ。

 

 

「お兄ちゃん、頑張れー!!」

 

「ピー子も負けるなー!!」

 

 

二人の花火を応援する一同。

でも―――できるならずっと、花火なんて落ちなければいいと思っていた。そうれば、この穏やかで幸せな時間がずっと続くから。

 

 

「…………おっと、俺のも落ちちまったな」

 

「ってことは、ぴぃのかち!? やったー!!」

 

「おめでと~、ピーシェちゃん~」

 

 

最後まで残ったのは、ピーシェの花火だった。

勝利したピーシェは大層嬉しそうにはしゃいでいる。あまり騒ぎすぎると折角の花火も落ちてしまうので、ほどほどにと宥め全員が残ったピーシェの花火を見つめる。

 

 

「……ねぷてぬ、おにーちゃん!」

 

「ん? なーに、ピー子?」

 

「ぴぃ、みんなとわかれるの……いやだよ」

 

「……そうだな。 俺も嫌だよ」

 

 

やはり、幼い彼女にとって一時期であろうと親しくなった人と別れたくないもの。

白斗もネプテューヌも、最早家族のように接してきた二人と離れ離れになってしまうのは嫌だった。

 

 

「……でも、ねぷてぬ。 きらいななす、がまんしてたべてた」

 

「まーね。 白斗が懸かってたし」

 

「ねぷてぬ、えらい! だから……ぴぃもがまんする!」

 

「……そっか。 えらいな、ピーシェは」

 

 

どうやらあのナスとの死闘を制したネプテューヌの姿に感銘を受けたらしい。

ピーシェも、彼女なりの覚悟が出来たようだ。

そんな彼女の成長が嬉しくて白斗とネプテューヌ、そしてプルルートがその小さな頭を優しく撫でてあげる。

 

 

「だから……また、すぐにあそびにきてね! やくそくだよっ!」

 

「うん! 約束!」

 

 

笑顔で頷き、約束するネプテューヌ。

こんな場に涙は似合わない。二人の間にあるものは、この眩しいばかりの笑顔で十分だ。

ひと夏の終わり、少女達は少しだけ成長した。

 

 

 

 

 

 

(……あーあ、終わっちゃうなー……私達の……。 ぷるるんとピー子との、夏休みが……)

 

 

 

 

 

 

そして―――ポトリとピーシェの花火も落ち、夏休みの終わりが告げられた。




大変お待たせして申し訳ありませんでしたっ!!
それもこれもファイアーエムブレム風花雪月ってゲームの所為なんだっ!!あのクオリティでしかも時間を捧げないといけない神ゲーが悪いんだっ!俺は悪くねぇ!!
とまぁ、どこぞの親善大使のようなセリフはおいといて改めて遅くなって申し訳ありませんでした。
今回は前回の続きで、夏祭り編です。前回は四女神が中心でしたので、今回は女神候補生達に焦点を当ててみました。
こういった夏祭りだとネプ子さんの独壇場だと思ってやまない今日この頃。気が付けばあんな展開になっていました。そして私の中ではマジェコンヌは最早ネタキャラ認定なのか?
前回もそうでしたが、色んなキャラを出すにあたって全員に等しく出番を与えるのってかなり難しいことでして。それが出来ていたら幸いです。

さて、次回はついにピーシェとプルルートが……更には新章突入!どうかお楽しみに!
感想ご意見、お待ちしております!

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