恋次元ゲイムネプテューヌ LOVE&HEART   作:カスケード

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第五十二話 女神メモリーを求めて三千里

―――ネプテューヌのため、そしてノワールのため。

女神化できるアイテムこと「女神メモリー」を探しにメモリーコアと呼ばれる場所にやってきた白斗達一行。

プルルートの案内の元、辿り着いたそこは相当に廃れた古代遺跡のような場所だった。

 

 

「ここがメモリーコアなんだって~」

 

「うわぁ、如何にもなダンジョン……ここに出会いを求めるのは間違ってるのだろうか」

 

「間違ってない。 それでプルルート、この遺跡のどこに女神メモリーがあるんだ?」

 

「分かんない~。 メモリーコアの領域ならどこに出来るかも不明なんだって~」

 

「虱潰しに探すしかねぇってことか……」

 

 

白斗とネプテューヌも、この広大な敷地の遺跡に目を奪われる。

壮大さは勿論だが、入り口からちらりと覗くだけでも複数の通路が入り組んでおり、かなり複雑な構造をしていることが見て取れる。

少し踏み込んだだけで方向感覚すら狂いかねないこの遺跡、この中から女神メモリーを探し当てるのは確かに困難だろう。

 

 

「それでも私はやるわ。 絶対に女神になってやるんだから……!」

 

 

女神メモリーを求めて幾星霜、最早ノワールはその程度では諦めなかった。

彼女の女神化に対する思いは紛れもなく本物である。

この信念の強さは向こうのノワールと同じだと白斗は気高さすら感じた。

 

 

「んじゃ、ノワールのためにも頑張っちゃいますか!」

 

「ああ。 とりあえずはぐれないように。 特にプラネテューヌの女神様」

 

「だってー。 言われてるよぷるるん」

 

「ねぷちゃんのことだよ~」

 

「お前らのことだ、アホ二人」

 

「「どうして~~~!!?」」

 

 

白斗からの手厳しい言葉にプラネテューヌの女神様二名は大いに不満を漏らした。

 

 

「馬鹿やってないでさっさと行く! 本当なら手分けしたいところだけど、逸れるのは火を見るよりも明らか……一塊になっていくわよ!」

 

「おう。 ネプテューヌ、戦闘準備」

 

「ラジャー!」

 

 

白斗は袖からナイフと銃を、ネプテューヌは虚空から太刀を取り出した。

ザクザクと草を踏み越えながら進んでいく一同。と言っても警戒態勢に当たってるのは専ら白斗とノワールだけで、ネプテューヌとプルルートはお気楽だ。

 

 

「いやー、この世界における初めてのパーティ! 初めてのダンジョン! 初めての冒険! 何だかオラ、ワクワクすっぞ!」

 

「……本ッッッ当にお気楽ねぇ、貴女の女神様とやらは」

 

「まぁな。 それが欠点でもあるっていうか……魅力でもあるっていうか」

 

 

特にネプテューヌの能天気さは底抜けだ。

わざと空気を読まずにボケをちょくちょくかましてくる辺り、生真面目なノワールの苛立ちも少しずつ募っていく。

少し皮肉を白斗にぶつけてみるが、白斗からすればそれがネプテューヌの魅力なのだからと取り合わない。

 

 

「はぁ……使い物にならないようなら置いていくわよ。 こっちは本当に余裕なんて―――」

 

「―――ノワールっ!! 伏せろォッ!!!」

 

「ひゃっ!?」

 

 

突然、白斗が叫びながらノワールを押し倒す。

―――直後、ノワールがいたすぐ真横の壁が粉砕された。瞬く間にどこかのんびりした雰囲気など文字通り粉砕されていた。

 

 

「わぁ~!? 何々~!?」

 

「ノワール!! 白斗ぉ!! 大丈夫ー!?」

 

「わ、私は大丈夫よ!」

 

「おう! こっちも大事ない! それよりも……」

 

 

舞い上がった粉塵に遮られ、二人の安否が確認できなかったがネプテューヌの呼びかけにはすぐ応じてくれた。

咄嗟に白斗が庇ったおかげでノワールにもダメージは無かった。だが、やがて粉塵の中から覗かせた赤い光、そして巨大な影を認識した瞬間、一同に更なる緊迫感が訪れる。

巨大な影は、それに見合った剛腕で砂塵を振り払う。姿を現したのは、所謂オークと呼ばれるモンスターだった。

 

 

「あらら……こりゃ随分な大物が来たな」

 

「よっしゃ、新章突入してからの初戦闘!! 白斗、こいつねっぷねぷにしてやるよー!!」

 

「了解!」

 

 

人体を遥かに凌駕する巨躯の持ち主だったが、臆することなく白斗とネプテューヌが武器を手に取る。

ネプテューヌは太刀を、白斗はナイフと銃を手にモンスターに飛びかかっていく。

 

 

「そらっ!! まずは俺からだ!!」

 

「グアゥ!?」

 

 

白斗がオークの顔面に向けて銃を連射する。

たまらずオークは顔を手で覆い尽くし、目などをやられないようにガードする。だがそんな守り方では見ることは勿論、動くこともままならない。

 

 

「ナイス白斗! たあああぁぁぁぁっ!!」

 

「ガァッ!?」

 

 

その隙にネプテューヌが踏み込み、一閃。

普段からのお気楽さからは全く想像できないほどの力強く、鋭く、美しい一太刀にオークの腹は切り裂かれてしまう。

激痛によろめき、オークが膝ついて大地を揺らした。

 

 

「隙だらけだッ!」

 

「グ、ギャガァァァァァアアアアッ!?」

 

 

更に寸分の隙も与えず、白斗が飛びかかった。

ナイフを構え、オークの手首に突き刺して捻る。手首が使い物にならなくなり、オークは血を揺るがすほどの悲鳴を上げた。

凄まじい激痛にオークは剛腕を振るうが、それより早く白斗は飛びのいて距離を取っている。

 

 

「こっちだウスノロ!!」

 

 

間髪入れず白斗がワイヤーを伸ばし、壁に引っ掛けた。

後はそれを収納すれば、白斗の体は持ち上がり一気に空中へと跳び上がる。そんな彼の姿を目にして思わず目を奪われ、手を伸ばすオーク。

だが、当然それは盛大な隙を晒すこととなり―――。

 

 

「もらったぁー!! ねぷねぷスラーッシュ!!!」

 

「グガァァアアアァァアァアァァァアア―――――――!!?」

 

「いやなんだその技名!?」

 

 

白斗のツッコミはさておき、華麗なる一閃が決まった。

綺麗に切り裂かれたオークは上半身と下半身が綺麗に泣き別れ、ズルリと滑り落ちた後、電子の塵となって消え失せる。

 

 

「イッエーイ! ビクトリー!!」

 

「さっすがネプテューヌ、やる時はやってくれる女神様だ」

 

「いやいや、白斗の援護があったからだよ。 ありがと!」

 

 

戦闘を終えるや否や白斗とネプテューヌはハイタッチを決めて勝利を喜び、互いを労いあう。

その様子をノワールはただ、茫然と眺めていた。

 

 

(な、何なの一体……? あんなにおちゃらけてたネプテューヌは強いし、白斗も特別強いわけじゃないけど……ネプテューヌが活躍できるよう上手く立ち回ってる……。 何より、二人の息の合いよう……完璧だった……。)

 

 

個々人の戦闘力は勿論の事、特筆すべきは二人のコンビネーション。

白斗は小技が優れている分、火力は無いらしく、そのため相手の注意を惹きつけたり防御を崩したり、逆にネプテューヌから攻撃を逸らせるような立ち回りを演じていた。

その隙にネプテューヌが必殺の一撃を、安全かつ確実に叩き込んでいく。これをコンビネーションと言わずに何といおうか。

 

 

「……負けてられないわ。 私だって……私だって女神になるんだからぁっ!!」

 

「ノワールちゃんファイトぉ~!」

 

「ってプルルートもちょっとは戦いなさーい!!!」

 

「ノワール、ふざけてる場合じゃねぇぞ!! 地元の皆さんが団体でお越しだ!!」

 

「ふざけてなんかないわよー!! それに、私なら一人で十分っ!!」

 

 

いまいち締まらないこのパーティ。だが、誰もが実力は折り紙つき。

オークの消滅を感じ取ったのか、今度は小型のモンスターが徒党を組んで現れる。

白斗やネプテューヌに対抗心を燃やしながらノワールが片手剣を取り出し、勇敢に切り込んでいく。

真面目な彼女は日々の訓練を欠かしておらず、ネプテューヌに負けず劣らずの太刀捌きを見せながら、幾重にも剣を閃かす。

 

 

「ふふん! 女神を目指して今日まで特訓してきたのよ! こんなモンスター達、私一人で十分なんだから!!」

 

「お、おいノワール!? 突っ込み過ぎだって!!」

 

「手出しは無用よ! これも女神になるための試練、一人で熟さなきゃいけないの!!」

 

 

確かにノワールの実力は、白斗の見立てでも人間としてはトップクラスに強い。

ネプテューヌほど高い攻撃力は無いが、その分スピードとテクニックで補い、圧倒的手数で攻め立て、敵を次々に切り裂いている。

現在無双状態を築き上げているが、あの調子ではすぐに力尽きてしまうだろう。しかし、白斗の申し出を持ち前の強情さが跳ねのけてしまった。

 

 

「あ、これはノワール死ぬパターンですなー」

 

「えぇ~!? ノワールちゃん死んじゃうの~!?」

 

「いやいや、さすがにそんなテンプレをノワールがするわけ」

 

「のわぁ~!? 囲まれたー!!?」

 

「俺の信頼を2秒で裏切らないでくれるか!?」

 

「あーもー、言わんこっちゃない!! 白斗、ノワール諸共ねっぷねぷにしてやんよ!!」

 

「いやノワールもねっぷねぷにすんの!? まぁ、援護しねぇとなっ!!」

 

 

こちらのノワールは、恋次元側のノワールに比べてやや調子に乗る傾向がある。

それが災いして早速孤立無援の窮地に陥ってしまった。見かねたネプテューヌと白斗がそれぞれの得物を手にモンスターに立ち向かう。

二人の刃が華麗に舞い踊り、モンスター達を切り裂いてデータの粒子に還していった。

 

 

「ふぅ、粗方片付いたな。 大丈夫かノワール?」

 

「……ふ、ふん! 貴方達の助けなんか無くても、私一人でどうにか出来たわよ!! で……でもまぁ、一応お礼は言ってあげるわ」

 

「はい、テンプレ的ツンデレ発言頂きました! これがないとノワールじゃないよね~」

 

「分かる~」

 

「う、うるさいっ!! ホラ、さっさと行きましょ!!」

 

「行くのは良いが単騎特攻はナシだぞ。 さっきので嫌でも学習したろ?」

 

「わ、分かってるから一々言わないのっ!!」

 

 

わいのわいのと騒ぎながらも、一同はダンジョンを進んでいく。

始めは心許しておらず、表情が硬かったノワールも、戦闘を経て幾分か表情が和らいだ。

まだまだ垢抜けない印象はあるが、時折白斗やネプテューヌともコンビネーションを合わせるようにもなってくれた。

正確に言えば、二人がノワールの隙を埋める形でフォローしているのだが。

 

 

「ふぅ……ノワールのフォローは疲れるよ~。 白斗は大丈夫?」

 

「元の世界で慣れている方だが……こっちの方が落ち着きがない分、大変だな」

 

「だよねー。 なんていうのかなー……余裕がない?」

 

「多分それだ。 俺達の世界だと、ユニとかケイさんとか助けてくれる人がいたし、何より元から女神だったからな」

 

「なるほどー。 まぁ、神経質な点は変わらないけど」

 

「あれだな、根本的な所は同じだが置かれる環境が違うと為人が違ってしまうって奴だ」

 

(でも、一番の違いは……白斗の存在なんじゃないかなー)

 

 

ずんずんと進んでいくノワールの背中を追いながら、白斗とネプテューヌはそんなことを話しあっていた。

恋次元のノワールはユニという妹やケイという優秀な補佐、ネプテューヌ達という同じ女神という立場のライバルにして友達、何より白斗という最愛の理解者。それらの違いがあった。

プルルートという親友こそ得ていたが、女神とそうではない者という違いを感じていたからか、こちらのノワールはとにかくピリピリしていたのだ。

 

 

「ごめんね~、二人とも~。 あたしのノワールちゃん、悪い子じゃないんだけど……」

 

「分かってるって。 プルルートは何も心配しなくていい」

 

「そーそー。 白斗とネプ子さんにお任せだよ!」

 

「……ありがと~。 ノワールちゃんも、きっと喜ぶよ~」

 

 

どうやらプルルートも、ノワールのことを心配していたらしく二人に申し訳なさそうな顔をしていた。

この世界におけるノワールの唯一の親友として、彼女を御せなかったところに負い目を感じていたのかもしれない。

しかし、白斗とネプテューヌにとってそんなことなど大した問題では無かった。

 

 

「貴方達! お喋りばっかりしてると置いていくわよ!」

 

「悪い悪い。 っとノワール、そっちの道は通ったばかりだ。 行くならこっち」

 

「え? そ、そう?」

 

「わ~、白くん凄い~。 道覚えてるんだ~」

 

「脳内マッピングはお任せあれ、ってね」

 

 

何気なく、パーティーの舵を取っている白斗。

大方の行動方針はノワールらに合わせているが、彼女達だけに任せては同じところをぐるぐる回ってしまいかねないのでさり気なく誘導する形で。

やがて辿り着いたのは、他の場所に比べて開けている、崩壊した部屋だった。他のエリアに比べればどこか厳かで、どこか立派な部屋である。

 

 

「さて、この辺りが探して無いエリアになるが……正直ここで見つからなかったら今日は撤収するしかないな」

 

「あ、見て見て! 玉座があるよ! 女王ネプテューヌ、爆誕!」

 

「すぐに王政が崩壊しそうだな。 嘗ては城か何かか?」

 

「昔存在した国があったらしいわよ。 尤もそれ以上は分からないわ。 ホントならプルルートが調査団を派遣なりしなきゃいけないんだけど……」

 

「まぁ、プルルートからすれば興味ないわなー……って、あれ? プルルートは?」

 

 

すぐ近くにいるプルルートに話題を振ろうとしたその時。彼女の姿が見えないことに気付いた。

人一倍、安否に気を遣う白斗ですら察知しきれなかったらしく一気に一同は大慌てだ。

 

 

「うそ!? ぷるるん、さっきまでそこにいたのに!?」

 

「あー……あの子、目を離すとすぐ迷子になっちゃうのよねー」

 

「いつもの事ってワケか……だとしてもこの迷宮だ、すぐに合流しないと……!」

 

 

これだけ複雑に入り組んだ迷宮で迷子になっては、下手をすれば互いに擦れ違ってばかりで永遠に合流できないかもしれない。

ならばと白斗が崩壊している壁によじ登り、高所からプルルートを探そうとした―――その時。

 

 

「あれ? 白斗、そこに何か光ってない?」

 

「ん? ホントだ、なんだこのクリスタル……2個あるけど。 でも今はンなことより、プルルートを探さないと―――」

 

 

するとネプテューヌが何かに気付いた。

彼女が指を差した先は、玉座の裏側。そこに光っていた、菱形のクリスタル。それも二つ。

淡い光で輝き、地面から浮いているクリスタル。明らかに普通の代物ではなさそうだが、白斗にとって重要なのはこんな結晶よりもプルルートの安否―――。

 

 

「あああああああああああああああああああああああっ!!!」

 

「ねぷぅ!? な、なんなのノワール、そんなモンスターじみた声あげて!?」

 

「モンスターは余計よ!! で、でも……それよ!! それが女神メモリーよ!!」

 

「え!? これが!?」

 

 

白斗も目玉をひん剥いて飛び上がりそうになってしまった。

このダンジョンにきた目的にして、数百年に一度しか生成されないという女神になるためのアイテム―――女神メモリー。

それが今、あっさりと見つかってしまったのだ。それも都合よく二つも。

 

 

「おぉっ! 私の分まである! さっすが主人公の私、ご都合主義が付いて回ってるー♪」

 

「嘘……あれだけ探しても、見つからなかったのに……!」

 

「そりゃ、ノワールはラック値低いもんねー」

 

「傷つくこと言わないでくれる!?」

 

「まぁまぁ、幸運の女神たる私と一緒で良かったねノワール! それじゃ、私がお先に―――」

 

 

抜け駆けしようとネプテューヌが女神メモリーに手を伸ばした―――その時。

 

 

「―――っ!!? ネプテューヌ、伏せろおおおおぉぉ――――ッッッ!!!」

 

「ひゃっ!?」

 

 

白斗が必死の形相で、ネプテューヌに抱き着いてきた。

彼に抱きしめられてネプテューヌは一瞬顔を赤くしたが、直後壁を粉砕し何かが一直線に飛んできた。

長い縄のような影はそのまま女神メモリーを二つ纏めて巻き取り、引き寄せてしまう。

 

 

「あ!? 女神メモリーが……!!」

 

「んもーっ!! またこのパターン!? 同じようなエンカウント演出は読者に飽きられちゃうんだからね!! まぁ、白斗に抱きしめられて良かったけど……」

 

「なんでお前はちょっと嬉しそうなんだ? それより、何なんだ一体……!」

 

 

三人が臨戦態勢に入りながら粉砕された壁の方向を睨み付ける。

あの向こうにいるのだ、明らかな敵が。

やがて粉塵の中に映し出されたシルエットは、少し小柄な人影が一つ。そしてそれよりも遥かに大きい、巨大なカエルのような影が一つ。

 

 

「アククク……これが女神メモリーか。 仕事はこれで果たした、さっさと帰って幼女成分を補給しなければ……!」

 

「アンタ、寝ても覚めても幼女の事しか頭にないッスね……」

 

「…………ん? この声…………まさかっ!?」

 

 

白斗には、聞き覚えがあったその声。

どちらもあまり思い出しくない声色だ。そんな彼の声に気付いたのか、影の持ち主たちは粉塵を掻き分け、その姿を現す。

 

 

 

 

 

「おやぁ~? 誰かと思えば……貴様はあの時、俺様の幼女ペロペロを邪魔した不届き者ではないか……アクククク!!」

 

「んな!? な、なんでテメェまでこの世界にいやがんだよ!!?」

 

「……やっぱりテメェらか。 トリックとかというクソガエルに下っ端」

 

 

 

 

 

一人の名は、トリック・ザ・ハード。

嘗てルウィーの教会に殴り込み、ロムとラムを誘拐しようとした幼女大好きのペロリスト。彼女達を助けるために駆けつけた白斗とブランにぶっ飛ばされて以来、行方不明だった。

そしてもう一人は嘗てマジェコンヌらに雇われ、こき使われていた下っ端らしき女。名前は―――忘れた。

 

 

「何よ、あれもアンタ達の知り合い?」

 

「思い出したくもない知り合いだよ! どっちも白斗を傷つけた悪者なんだからー!」

 

「悪者は貴様らの方だ! 俺様の幼女ペロペロを邪魔する方が万死に値する……!!」

 

 

相も変わらず身勝手で、幼女の事しか考えていないトリックだった。

当然白斗の怒りのボルテージは上がっていく一方なのだが、同時に気になる点もあった。

 

 

「……その台詞からしてテメェら、こっちの世界の住人じゃなくて俺達の世界から来たのか? どうやって来た?」

 

「ハッ、テメェなんぞに教えてやる義理はねぇっての!!」

 

「ア゛?」

 

「すみません変な男によって突然こっちの世界に飛ばされたんですそれ以上は分かりません話せることは全部ですからどうかそんな目で睨舞でください怖いです怖いです怖いです」

 

「アッサリ喋ってるーっ!? どれだけ白斗にトラウマ植え付けられたのよ!?」

 

 

そしてこちらも、相変わらず白斗によって刻まれたトラウマが癒えていない下っ端だった。

しかしこれで一つの確信が得られた。白斗達の事を知っていることから、嘗て白斗の世界で暴れていた二人と同一人物である。

それがとある人物によって、こちらの世界に来てしまったとのことらしい。

 

 

「”変な男”……? キセイジョウ・レイって女の仕業ではなさそうだが……まぁ、いいか」

 

「キセイジョウ・レイ……? 何故そこで、俺様達、“七賢人”の一人が出てくる?」

 

「七賢人……!? アンタら、七賢人なの!?」

 

「そうとも! 抜けてしまった魔女とネズミの代わりとして声を掛けられ、今や俺様は七賢人での幼女保護担当となったのだ!! アクククク!!」

 

(抜けてしまった魔女とネズミ……ああ、マジェコンヌとワレチューか。 しかもキセイジョウ・レイが七賢人……? こっちのキセイジョウ・レイってことか?)

 

 

しかもどうやら、トリックと下っ端は今となっては七賢人の一員らしい。

嘗て在籍していたマジェコンヌとワレチューの抜けた穴を埋める形で参入したのだろう。更にはその七賢人の中に、白斗達を飛ばしたあの「キセイジョウ・レイ」がいる。

彼らのいうレイはこの神次元側の住人なのだろうが、謎自体は更に深まっていった。

 

 

「アンタらの身の上話はどうでもいいわよ!! それよりも女神メモリーを返しなさい!! それは私達が先に見つけたのよ!!」

 

「へへーんだ、これはアタイらが先に手にしたんだ! つまり、アタイらのものなんだよ!!」

 

「ねぷーっ!! ドロボーはいけない事なんだよ!! 悪い子はこのネプ子さんが月に代わってお仕置きしちゃうよー!!」

 

「アククク……この世界では女神になれていない貴様が、俺様達をお仕置きだと? 片腹痛いわ、アククク!!」

 

 

ノワールとネプテューヌが睨み付けるも、全く意に介していない下っ端とトリック。

確かに二人は強いが、あくまで一般人に比べればの話。真の力たる女神化がまだ出来ない以上、苦戦は免れない。

おまけに今はプルルートとも逸れており、戦力が不足している状況だ。

 

 

「正直、貴様らに構っている暇など無いが……小僧!! 貴様の所為であの日の屈辱が時たま蘇ってしまい、幼女タイムを落ち着いて堪能できなくなった……。 お前を粉々にしなきゃ、俺様の腹の虫が収まらねぇ!!」

 

「ンな身勝手な都合、知るかっつーの」

 

 

どうやらトリックの憎悪は白斗に向けられているらしい。

確かに因縁と言えば因縁だが、自業自得。白斗からすればいい迷惑だった。だが、逃がしてくれそうにもない以上、相手をするしかない。

白斗は袖からナイフを取り出し、その切っ先を向ける。

 

 

「アククク……おい、下っ端! お前は先に女神メモリーを持って退却していろ! 俺様は小僧共の相手をする!!」

 

「だーかーらー!! アタイはリンダって名前……って言ってる場合じゃネェな!!」

 

「ま、待ちなさ……!!」

 

 

投げ渡された女神メモリーを受け取った下っ端は、トリックの命令に従ってその場を走り去ってしまう。

後を追おうとしたノワールだったが、トリックの巨漢がそれを阻む。

 

 

「おおっとぉ!! 貴様らの相手は俺様だ!! 正直幼女以外の相手などしたくもないが、俺様の至高たる幼女タイムのため……ここで散れェ!!!」

 

「そんなカッコ悪い台詞で散る主人公なんかいないんだからねー!! 行くよ、白斗!!」

 

「おう!!」

 

 

異世界の地、古代遺跡の一角でペロリストとの死闘が今、幕を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――一方その頃、この世界のぽやぽや女神様はと言えば。

 

 

「も~……みんな、どこに行ったのかな~」

 

 

絶賛、迷子になっていた。

 

 

「み~んな、迷子になっちゃうなんて……仕方がないなぁ~」

 

 

しかも、自分の方が迷子であることを全く自覚していない。

更には方向感覚が緩いこともあり、同じ個所をぐるぐる回っていることにすら気付いていない有様である。

それでもふらり、ふらりと迷宮の中を歩いていると。

 

 

「……あれ~? 誰かいる~? ここに住んでる人かな~?」

 

 

プルルートの前方に、誰かが歩いていた。

(まずあり得ないのだが)このダンジョンの住人ならば、逸れてしまったネプテューヌ達の事も知っているかもしれないと思い、早速近づいてみることに。

さて、前方を歩いていたその人物とは。

 

 

「えぇ~っと、この道がこうで、さっき来たから……ああああもう!! ワケわかんネェ!! クソめんどくさいんだよこのダンジョン―――!!!」

 

 

先程の下っ端だった。

トリックから女神メモリーを託されたはいいものの、どうやら道に迷ってしまったらしい。

だがどれだけ泣き言を吐こうが、道が開けるわけでも―――。

 

 

「あの~、すいませ~ん」

 

「アァン!?」

 

 

苛立っているところに、のほほんとした声が掛けられ、余計に苛立ちを煽ってくる。

威嚇を込めて振り返ると、そんな粗ぶった声にも意にも介さずにのほほんと微笑んでいる少女が一人。

そう、プルルートである。だが下っ端は彼女が誰かも知らずに荒んだ声をぶつけていく。

 

 

「あの~、ねぷちゃん達を知りませんか~?」

 

「ねぷちゃんだァ? そんなの知るワケねー……って“ねぷ”? まさか……ネプテューヌって奴のこと……じゃネェよな……?」

 

「わぁ~! ねぷちゃんを知ってるの~? なら、白くんやノワールちゃんも一緒~?」

 

 

白くんにノワールちゃん、名前の響きからして前者は白斗、そして後者はこの世界におけるノワールのことだとすぐに分かった。

彼らの事を知っている少女がこう言っている以上、下っ端の目付きは苛立ちから嫌悪へと変わっていく。

 

 

「……まさかお前、あいつらの仲間か? へっ、だったらあいつらのことは諦めな」

 

「え~? どうして~?」

 

「あいつらなら今頃、トリック様によって粉々に砕かれてるからさ! あいつら……特に白斗っていうクソ野郎の無残な姿を見られネェのが残念だぜ、ハッハッハー!!」

 

 

白斗によって刻まれたトラウマが、相当堪えているらしい。

下っ端はまさに痛快と言わんばかりに笑い声を上げる。だが、そんな事を聞かされて黙っていられるほど、プルルートは呑気でもなかった。

 

 

「……なにそれ~? 白くん達をいじめてるの~?」

 

「ああそうさ! いい気味ってなモンよ! テメェにも見せたかったぜ、女神メモリーを目の前で掻っ攫われて悔しそうにしているあいつらの姿……堪んネェぜ!!」

 

 

―――はい、画面の前の皆さん。きっとこう思ったことでしょう。

「あ、コイツ死んだわ」、と。

 

 

「……あのね~? ノワールちゃんも~、ねぷちゃんも~……何より白くんも~。 あたしの大事なお友達なんだ~……」

 

「アン?」

 

「……あたしの大事な人に……酷いことをするならぁ~…………!!」

 

 

その瞬間、プルルートの怒りは頂点に達し。

彼女の姿は光に包まれて―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……貴女も……酷い目に遭う覚悟は……出来てるわよねぇ……?」

 

「へ? な、何……を………ヒッ!? ひぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして場面は戻り、玉座の間―――。

 

 

「アククク!! 女神化も出来ない小娘風情など恐れるに足りん!! 俺様を倒したくば、見た目年齢8年くらい若返ってからにするんだなぁ!!」

 

「何その意味不明な台詞ー!?」

 

「でもこいつ……攻撃が効かないのはマズイわ……! このままじゃ……」

 

 

ネプテューヌ達は思いの外、トリック・ザ・ハードに苦戦していた。

しかし、それも無理もない話。今のネプテューヌとノワールは女神化が出来ない。そんな状態では叩き出せる火力にも限度があり、トリックが張る障壁を破れなかったのだ。

攻撃が効かない相手にはじり貧もいい所で、徐々にネプテューヌ達の体力は削られていく。

 

 

「チッ、仕方ねぇ……ネプテューヌ!! “アレ”やるから、追撃頼むぞ!!」

 

「えっ!? そ、そんなのダメだよ!! それをやったら白斗が……!!」

 

「他に手がねぇんだ、ならやるしかねぇだろ!!」

 

 

となれば、残されている手段は一つしかない。

白斗は覚悟を決めてネプテューヌに指示を出す。彼女には理解できる、白斗の「アレ」が何を意味し、そしてそれがどんなに危険なことか。

白斗を危険に晒したくないと止めに掛かるが、白斗は聞く耳を持たずに己の心臓に手を当て。

 

 

 

「久々にぶっ飛ばすぜ……オーバーロード・ハート起動ォ!!」 

 

「んなッ!? そ、それはまさか……!!」

 

 

左胸から輝きが溢れ出した。

その輝きに一瞬、ネプテューヌも、ノワールも、そしてトリックも目を奪われる。トリックにとっては忌々しい輝きだったが。

と、次の瞬間。白斗は目にも止まらぬ速度で地を蹴り―――。

 

 

「オオオオォォォォォォッ!!!」

 

「グゴォ!?」

 

 

その拳で、トリックの障壁を突き破りながら彼の顔面を殴りつけた。

余りの威力にトリックは背中から倒れ込み、のたうち回っている。先程まで全く破れなかった障壁を、一般人のカテゴリでしかない白斗が突き破った光景にノワールは驚きを隠せない。

彼の常軌を逸した力も、何より左胸から溢れている輝きにも。

 

 

「な、何アレ……!?」

 

「白斗の奥の手だよ! 白斗の心臓は機械で出来ていて、それを使って無理矢理パワーアップしちゃうの!!」

 

「だ、大丈夫なのそれ!?」

 

「大丈夫じゃないよ!! 白斗、それを使ったら反動で死に掛けちゃうんだから!!」

 

 

白斗の左胸に埋め込まれている、機械の心臓。

それを過剰に稼働させることで所謂ドーピングにも近い作用を齎し、身体能力を極限まで引き上げる。

無論、これでも女神よりも戦闘力は格段に下だが、これでトリックとも互角に渡り合える。

しかし、その代償も凄まじく体全体と機械の心臓にダメージを与えるため全身を引き裂くような激痛が襲い掛かるのだ。

彼に想いを寄せているネプテューヌからすれば、当然容認できるものではないが。

 

 

「グゥゥウウゥゥッ……こっ、小僧ォ!! 相変わらずの自爆覚悟かァ!!?」

 

「ここでテメェをぶっ倒さなきゃ、ネプテューヌ達が危ないんでなァ!! だったら迷わず自爆してやるぜ、俺はよォ!!!」

 

「ゴアァッ!!?」

 

 

トリックの舌を強化されたフットワークとスピードで避けながら、白斗が懐に潜り込む。

そして天を穿つような鋭いハイキックでトリックの巨体を、僅かに浮かせた。

 

 

「っ、チャーンス!! どりゃああああああああああああ!!!」

 

「ウギャアアアアアアアアアアアッ!!?」

 

 

障壁さえ破ればこちらのものだ。

白斗が作り出した隙を見逃さず、ネプテューヌが地を滑りながら太刀で一閃。

鋭く、強力な斬撃がトリックに浴びせられた。

 

 

「まだまだァァァアアアアアアアアアアアアっ!!!」

 

「グボボボボボボボォォォォォッ!!?」

 

「隙ありっ!! チェストぉおおおお――――っ!!!」

 

「がああぁあぁあぁぁあああああぁぁぁ!!!」

 

 

更に浴びせられる、拳のラッシュ。

雨あられのように降り注ぐ拳にトリックも堪らず防戦一方となってしまう。そして崩れた所にネプテューヌの更なる一閃。

今まで圧倒されていたというのに、今ではコンビネーション込みとは言え逆に圧倒して見せているこの現状に、ノワールは一瞬呆けていたが。

 

 

「っ!! ひ、怯んでる場合じゃないわ!! 私だってぇぇぇっ!!」

 

「ぎぎゃぁっ!!?」

 

 

更に隙だらけとなったトリックの背中を、ノワールが片手剣で切り付けた。

オーバーロード・ハートで半ば暴走状態のようにも見える白斗だが、頭は存外冷静でしっかりと自我も保っている。

故に身体能力が上がった分、コンビネーションの質も高まってきていた。

 

 

「ぐ……こ、このおおおおおぉぉぉっ!!!」

 

「きゃ……!?」

 

 

こうなっては多勢に無勢、さすがのトリックも不利を悟り、まずは数を減らそうと武器である自分の舌を伸ばした。

岩をも砕く舌の一撃、標的のなったのはネプテューヌ―――。

 

 

 

「触れんじゃねぇええええええええっ!!」

 

「がぁッ!? き、貴様ァ…………!!」

 

 

その瞬間、彼女の前に白斗がすかさず割り込み、拳を振るってトリックの舌を弾き飛ばした。

岩をも砕く剛撃を生身の拳で弾いて平気なはずもなく、白斗の拳から血が滴り落ちる。

だが白斗は全く痛がる素振りを見せず、寧ろより殺気を込めてトリックを睨み付けた。

 

 

「は、白斗……!!」

 

「テメェ……そのクソ気持ち悪ィ舌でネプテューヌに何しようとしやがった……? テメェみてぇなクソ野郎が……俺の女神様に触れんじゃねぇええええええええッ!!!」

 

「誰が幼女でもない奴に好き好んで触れるか! ……いや、後8年若ければワンチャン……」

 

「ねぷぅっ!? 私をロックオンしないでよ!! 私に触れていいのは白斗だけなんだから!!」

 

「フン、興味など無いと……いや、折角だ。 あれを試してみるか」

 

 

するとトリックは何かを思いついたらしくどこからか古めかしい壺を取り出す。

その壺を舌で巻き付けると勢いよく振るって、何かの液体を辺り一面に撒き散らし―――。

 

 

「っ!! ネプテューヌ、危ないッ!!! ……ぐおぁぁぁぁぁっ!!!」

 

「きゃっ!? は、白斗!!?」

 

 

余りにも液体の量が多すぎて、避け切れない。

これが毒薬だった場合、ネプテューヌが死んでしまうかもしれない―――白斗は迷うことなく彼女を突き飛ばし、液体の範囲から逃れさせるが、白斗は避けることが出来ず液体を大量に浴びてしまうこととなった。

 

 

「ぐ、うううぅっ……!!」

 

「白斗っ!! 白斗ぉ!! しっかりしてぇ!!!」

 

「チッ、小僧のみか…余計なことをしやがって!!」

 

「アンタ!! 一体何の液体を振りかけたのよ!?」

 

 

涙目になりながらネプテューヌが駆け寄り、白斗を抱え起こす。

もしあれが本当に有害な液体なら、白斗の身が危ない。そんな光景に、ノワールは怒り心頭で片手剣を構えた。

 

 

 

 

 

「アククク……聞いて驚け!! なんと若返りの薬だぁ!!!」

 

「……………………………………は?」

 

 

 

 

 

先程までのシリアスな空気が、一気にぶち壊された。

 

 

「俺様は七賢人における幼女保護担当!! 故に新たなる幼女の可能性を見出すため、通販で若返りの薬を買ってみたのだ!!」

 

「なんてくだらないもの持ち歩いてるのよ!! しかも出どころが通販!? 明らかに詐欺じゃないのソレ!!?」

 

「そんなことはない!! 見ろ、現にあの小僧が今にも生意気なクソガキに……」

 

 

ロリコンかつペロリストであるトリックらしいといえばらしい、分かりやすい願望だった。

確かにハイレベルな美少女は数多くあれど、成長してしまっては元も子もない。ならば若返らせて幼女にしてしまおうという、なんともしょうもない野望だった。

その薬の効能を証明するため、浴びせられた白斗を指差すが。

 

 

「……体は熱いが、何ともねぇぞ?」

 

「……は? そんなワケが……」

 

 

そう言いながらも不安を感じ取ったトリックが壺に掛かれている取り扱い説明書に目を通す。

するとそこには。

 

 

「何々……? 『女性に振りかけると数時間若返らせますが、男性の場合ですと数か月の間、成長を止めるだけになりますのでご注意を』……って成長を止めるだけかぁ!!?」

 

「しかも若返りもたった数時間だけ……明らかに低レベルの詐欺ね」

 

 

典型的な詐欺に引っかかったことによる怒りで、トリックは壺を地面に叩きつけた。

粉々になった壺の破片を更にその足で踏みつけて粉末にしている辺り、相当腹が立ったらしい。

 

 

「ハハッ、笑えるクソみてぇなオチだな」

 

「黙れぇ!! 貴様こそ、そろそろ笑えるオチの時間じゃないのかぁ!?」

 

「あ? 何を言って………グッ!? ウ、ウゥゥゥウウゥゥ……ッ!!?」

 

「は、白斗!? 大丈夫!!?」

 

 

突然、白斗が心臓を押さえて苦しみだした。

間違いない、オーバーロード・ハートによる反動が今になって襲い掛かってきたのだ。ネプテューヌが慌てて抱きしめるも、それだけで白斗の苦しみが和らぐはずもない。

 

 

「アククク!! 本当に笑えるオチ担当は貴様だったな小僧ォ!! 自分の非力さを嘆きながら、我ら七賢人が作る幼女の国……その礎となギャガァッ!!?」

 

 

 

舌を振り上げ、白斗を叩き潰そうとしたその瞬間。トリックは突然の激痛に呻いた。

鋭い何かが鞭のように飛来し、トリックの顔を抉ったのだ。

良く見るとトリックの顔面には切り傷が刻まれている。鞭のように飛ぶ刃―――否、“蛇腹剣”と言えば―――。

 

 

 

「だぁかぁらぁ……その子達はみぃんな、あたしの大切な人なのよ……。 それを、あたしの許可なく傷物にしちゃって……どうなるか分かってるのかしらぁ?」

 

 

 

蝶の様なウィングを展開し、蛇腹剣を鞭のように引きずって地面を抉り、ハイヒールでコツコツと地を踏んでいる妖艶な女神様。

ボンテージの様なプロセッサユニットに、女王様を思わせるような艶めかしく、だが威圧感MAXなこの口調と声。

―――見間違う筈も、聞き間違う筈もなかった。

 

 

「ぷ、プルルート!!? なんでまた女神化しちゃってるのよぉ!!?」

 

「し、しかも……何だそのズタボロにされた下っ端は……?」

 

「ああ、この子ぉ? 何だか生意気言うからオ・シ・オ・キ、してあげたの」

 

 

そして蛇腹剣を握る手とは逆の手で引きずる物体。それはズタボロにされ、見るも無残な姿となってしまった下っ端の姿だった。

気絶しているのではなく―――。

 

 

「あ、あヒヒ…………あふへへへへはァ…………」

 

「しかもなんかイッちゃってるよ!? 何したのぷるるん!?」

 

「あらぁ? そんなに知りたいなら教えてあげるわよぉ? ねぷちゃんのカ・ラ・ダに」

 

「い、いいいいいええええええ!! 結構ですぅぅぅぅぅぅぅっ!!!」

 

 

完全に精神崩壊してしまった下っ端を見て震え上がったネプテューヌ。

だが、それも無理もない話。短い時間で精神崩壊させるようなお仕置きなど想像も出来ないし、想像したくもない。

いつもならばアイリスハートを嗜める白斗も、これにはただ恐怖するばかりだ。

 

 

「そんなことより、白くん大丈夫ぅ? これで少しは楽になれるかしら?」

 

「ん? この光……回復魔法? プルルート、回復魔法使えたのか!?」

 

「意外でしょ? プルルートって、本当に器用なのよね……」

 

 

傷ついている白斗を見て、プルルートが手を伸ばす。

掌から溢れ出た優しい光が、白斗の傷や苦しみを癒していく。これは回復魔法だ。

ノワールの言う通り、女神化したプルルートはどちらかと言えば魔法剣士に近い戦闘スタイルになるらしく、彼女の持ち前の器用さと―――優しさが表れていた。

 

 

「はい、オシマイ。 無茶しちゃダメよ。 白くんに手を出していいのはあたしだけなんだから」

 

「ちっがーう!! 白斗は私のだもん!! ぷるるんには譲らないよ!!」

 

「二人とも、ワケの分からんことで喧嘩してる場合じゃねぇぞ!! 奴が起きる!!」

 

 

ネプテューヌとプルルートで白斗争奪戦が勃発しそうだった寸前、白斗の大声で思考が遮られてしまう。

彼の声に反応して振り返れば、プルルートの蛇腹剣で倒れ込んでしまったトリックが再び起き上がろうとしていたのだ。

 

 

「グ、グググッ……!! 何をしやがるこの熟女がァ!!!」

 

「あ゛? おい、クソガエル……プルルートに暴言吐くんじゃねぇよ、死にてぇのか……」

 

「幼女以外、皆死んで良し! それが真理!! 第一、女神化も出来ぬ小娘や小僧如きに殺される俺様ではぬぁい!!」

 

 

アイリスハートの一撃を受けて尚、怒りを漲らせるトリック。

中々の度胸ではあるが、白斗にとってはそれこそ殺意しか湧かない発言だ。それでもトリックは身勝手な理論をかざし続けるが、対するアイリスハートは余裕を崩していない。

 

 

「へぇ? じゃぁ、ねぷちゃんとノワールちゃんが女神化出来ればいいのよねぇ?」

 

「フン、やれるものならなぁ!!」

 

「あらぁ、言っちゃったわねぇ。 それじゃぁ聞くけど、これ……何かしらぁ?」

 

 

嗜虐心溢れる笑みを浮かべながらプルルートが何かを取り出す。

それは電源マークが描かれた、菱形のクリスタル―――。

 

 

「あっ!? それ、女神メモリー!?」

 

「そ。 この子が持ってたんだけど……聞けば奪ったものらしいじゃなぁい? だったら、あたしが奪い返したって文句は言わないわよねぇ!?」

 

「グッ、グググ…………!!」

 

 

そう、下っ端を叩きのめした際にしっかりとプルルートが回収していた女神メモリーだ。

後はこれをネプテューヌとノワールが食して女神化すれば、嫌でも形勢逆転できる。

さすがのトリックも、この展開には大慌てだ。

 

 

「でかしたわよプルルート! それじゃ早速私達に―――」

 

「あらぁ? ノワールちゃんってば、おねだりの仕方も分からないのかしらぁ?」

 

「へ?」

 

「こういう時は……『お願いします女神様!』……でしょぉ?」

 

「こんな時にマニアックなプレイ要求しないで!? 分かる!? 絶賛ピンチなのよ私達!?」

 

「別にあたしはピンチじゃないしぃ」

 

 

しかしそこはアイリスハート様、ただでは差し上げない。

このマイペースさは変身前と何ら変わらない、プルルートらしいといえばらしいのだが。

とは言えノワールの言う通りこんなことをしている場合ではないだろう。

 

 

「ヤダ……ぷるるんってば、私の瑞々しい体を要求してくるなんて……。 いいよ、ぷるるんになら私の体、委ねちゃう……」

 

「うっふふ! 良いわねぇ、ねぷちゃんのカラダ……なんてステキな提案なのかしら!!」

 

「ねっぷぅーっ!? 冗談真に受けられちゃった!? ダメだよぷるるん、私の体は白斗のものなんだから!!」

 

「誤解招くようなこと言わないでくれるか!?」

 

「え~? でも、一緒にお風呂入ったんだしー」

 

「ギャアアアアアア!!? お前、俺の精神にエグゼドライブかますなよ!? ああ、ノワールの表情が青・緑・紫と顔色悪しのオンパレードに!!?」 

 

 

そしてネプテューヌのおとぼけ発言から連鎖される大騒ぎ。

白斗までもが巻き込まれ、最早オーバーロード・ハートの反動で苦しんでいる場合ではなくなった。

だが、それを聞いてプルルートは一気に不機嫌になる。

 

 

「……ねぷちゃんとお風呂? 白くん……」

 

「聞いてくださいアイリスハート様ッ!! わ、私は無実でしてね……!!」 

 

 

さすがの白斗も、不機嫌全開なアイリスハートには恐怖するしかない。

思わず敬語を使いながら、それでも言い訳を続けようとすると。

 

 

「……あたしには、そういうことしない癖に……」

 

「へ? 何か仰いましたか?」

 

「っ!? な、何でもない。 それより、気が変わったわ……白くん、何でも一つ言うことを聞いてくれるなら許してあげるし、女神メモリーもねぷちゃん達に上げてもいいわよぉ?」

 

「へっ? 俺?」

 

 

要求の矛先が、ノワール達から白斗に向けられるのだった。

何故そうなったのかもわからないまま、どうしようかと白斗が渋ろうとすると。

 

 

「「是非それで」」

 

「なっ!? ネプテューヌにノワールよ、それはご無体では!?」

 

「安い犠牲よ。 私が築き上げる未来の礎となりなさい、白斗」

 

「ノワールさん、屍を積み上げた末の未来はロクでもないものですよ」

 

 

白斗の瞳からほろりと、切ない雫が一筋流れ落ちた。

 

 

「お願い白斗!! 今度、白斗の大好きなお料理いっぱい作ってあげるから!!」

 

「ネプテューヌよ。 問題はね、そのお料理を俺が食べられそうにないってことなんだよ? 生存確率的な意味で」

 

 

更にはネプテューヌからのお願い。

確かに彼女の料理は白斗にとっても嬉しいものだが、自分の命と秤にかけるようなものかと言えばそうでもない。

するとネプテューヌは上目遣いの上、目尻に涙を少しだけ浮かべて、切なさも入り混じった甘い声色で。

 

 

「白斗ぉ……」

 

「ぐ……っ!? そ、その顔と仕草と声は卑怯だろッ……!?」 

 

 

これが対白斗用エグゼドライブ。女神様からの、涙交じりの上目遣い。

例え本気でなくとも、まさに女神としか言いようがない可愛らしさに白斗の心もノックアウト。

顔を紅潮させながらも、はぁと深く息をついて。

 

 

「……あーあ、ったく俺の一番の弱点突かないでくれよ……。 仕方ねぇ……いいぜプルルート。 お前のお願い、何でも聞いてやるから二人に女神メモリーを!!」

 

 

そんな在り来たりな攻撃に敗北してしまう自分を情けなく思いつつも、ネプテューヌの可愛らしい顔が見られたので顔を緩めてしまう。

そして覚悟を決めて、プルルートに頭を下げた。

 

 

「……ねぷちゃんのためってのがシャクだけど……まぁいいわ、今日の所は白くんに免じて許してア・ゲ・ル。 さぁ二人とも、受け取りなさぁい」

 

「やったー!! ありがと、ぷるるん!! 白斗!!!」

 

「ええ、本当にありがとう二人とも!! やっと……やっと私も女神に……!!」

 

 

アイリスハートから女神メモリーが放り投げられ、それがネプテューヌとノワールの手に収まった。

神秘的な輝きを放つクリスタルに目を奪われながらも、これで二人はやっと女神化出来ることを喜び―――。

 

 

「……ってクソガエルよ、なんでテメェは傍観してんだ?」

 

「貴様が悪ふざけに付き合いながらも全く隙を見せないからだろうが」

 

「まぁな。 俺の命に代えても、ネプテューヌ達には指一本触れさせねぇから」

 

 

だが、ここで一つ疑問が浮かび上がる。

ネプテューヌとノワールの女神化など、トリックにとっては最悪の展開。何としても阻止したいところだろう。

にも拘わらず、幾ら白斗が警戒しているからとは言え何のアクションも見せないことに不気味さを感じずにはいられなかったのだ。

 

 

「それに俺様が手を下すまでもない。 どうせ、醜いモンスターになるのがオチだからな……アクククク!」

 

「化け物……だと? どういうことだ!?」

 

「んん? 知らないのか……女神の資格無き者が女神メモリーを食べると女神になれないどころか、醜いモンスターになってしまうのだ! アクククク!!」

 

「何だと!!?」

 

 

思わず驚いてしまった白斗。

まだ、トリックの虚言の可能性がある―――のだが、一瞬躊躇ったノワールの表情が、それが嘘ではないことを物語っていた。

 

 

「あ…………。 た、確かに……そうだけど……」

 

「プルルートとか言ったな? 貴様も止めなくていいのか? 大事なお友達が醜いバケモノになってしまうのかも知れないのだぞぉ?」

 

「うふふ、あたしは二人がどんな姿になろうが愛してあげるから」

 

「ケッ、これだから幼女を辞めた女は……。 小僧、貴様はどうだ?」

 

「確かにモンスター化するのは驚いたが……俺は二人が成功するって信じてるから」

 

 

ここで二人を信じないで、友を名乗れはしない。

何だかんだで二人に深い友情と信頼を抱いている白斗とプルルートは、慌ても騒ぎもしなかった。

―――そんな二人の想いを受け取ったネプテューヌは。

 

 

「なら、白斗のご期待にお応えして一番ネプテューヌ!! いっきまーす!!」

 

「なっ!? え、ええいままよ!! もぐっ……!!」

 

 

躊躇うことなく女神メモリーをを口に含んだ。

そんな彼女に負けていられないと、ノワールも勢いに任せて女神メモリーを口にする。

瞬間、二人の体が光に包まれ―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ふぅ、この姿も久しぶりね。 いえ、プロセッサが少し変わってるわね」

 

「……なれた……。 女神に……女神になれた!!」

 

「な、何だとォオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

紫と黒、二人の美しき女神が降臨した。

紛れもなく成功の証たる女神化したその姿に、とうとうトリックも冷静さを失ってしまう。

 

 

「あっははははは!! 私は女神―――ブラックハート!! この姿になったからにはもう恐れるものなど何もないわ!!!」

 

 

凛とした声色に変わったブラックハートことノワール。

恋次元と違うのは、髪型は銀髪のツインテールであること、プロセッサが黒に加えて灰色を主体にしている点だろうか。

それに加えてより好戦的になっているらしく、片手剣を取り出して鋭く薙ぎ払う。

 

 

「―――そして女神、パープルハート降臨。 この新しいプロセッサ……名付けるならロストパープルってところかしら?」

 

「さすがあたしのお友達ね。 二人とも、素敵な女神様よ」

 

「ありがとう、ぷるるん。 貴女のお蔭よ」

 

 

一方のネプテューヌが女神化した姿、パープルハート。

変身前と違い、可愛らしいというよりもまさに美女という容姿、女神としてのスタイル、落ち着いた性格になるというギャップが最大の特徴なのだが、それに加えてプロセッサが少し変わっていたのだ。

黒一色のレオタードだったプロセッサに紫色のラインが加わっている他、へそのラインまで見えるようになっており、より刺激的な姿になっている。

 

 

「……白斗、新しい姿になったけど……似合ってる……?」

 

「……ああ。 素敵だよ、ネプテューヌ」

 

「ほ、本当に? ……ふふっ、ありがとう。 貴方のその一言で、私は無敵になれる……!」

 

 

変身前と色々変わってしまうネプテューヌだが、変わらないものが一つある。

それは白斗に対する想い。少し顔を赤らめて想い人に新しい姿を見せるべく、くるりと一回転する。

その美しさに見惚れてしまった白斗が、ぽろりと素直な感想を口にした。

好きな人からそんな一言を貰えて、嬉しくならない乙女がいようか―――喜びの笑みを浮かべながら、ネプテューヌは大太刀を手に取り、その切っ先を向ける。

 

 

「白斗が傍にいてくれるから、私は負けない。 ―――女神の力、見せてあげるわ!!」

 

「ここまでの私達への“非礼”……何千倍にもして返してあげる!! 覚悟なさい!!!」

 

「グッ…………グヌヌヌヌヌヌッ………!!!」

 

 

新たに降臨した二人の女神から刃を向けられたトリックが後ずさりする。

だが、次の瞬間には痩せ我慢とでも云わんばかりに不敵な笑みを浮かべて見せた。

 

 

「だ、だが女神の力の源はシェア……人々の信仰心だ! 女神になりたての貴様らにシェアなどあるはずが……」

 

「だったら……試してみる? それっ!!」

 

「ンギャァッ!!?」

 

 

確かに彼女達はこの世界においては生まれたて、シェアなどあるはずもない。

しかし、そんな細かい理屈をも超えるのが女神たる所以。ブラックハートの姿が一瞬ブレたかと思うと、瞬時にトリックの懐に潜り込んで斬り上げていた。

 

 

「それそれそれええええええええええええええっ!!!」

 

「ゴガガガガガッ!!?」

 

「吹き飛びなさい!! トルネードソード!!!」

 

「ガギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」

 

 

圧倒的なまでの速度、手数、そして威力。

トリックの頼みの綱である障壁が全く意味を成さず、ブラックハートの嵐のような斬撃をただただ浴びるばかり。

そして烈風を伴う斬撃で、トリックの巨体がひっくり返ってしまった。

 

 

「うッ、グ、がぁ……!! こ、こうなれば……小僧ォ!! 貴様を人質にしてやるゥ!!!」

 

「なっ!?」

 

 

信仰心など無いはずのブラックハート一人に圧倒されるトリック。

このままでは勝ち目がない―――ならばと目を付けたのがまだオーバーロード・ハートの反動で蹲っている白斗だった。

白斗を人質に取るべく、長い舌を伸ばす―――。

 

 

「させないっ!!」

 

「いぎっ!?」

 

 

しかし、それを鋭い斬撃で弾いたものがいた。

女神パープルハート、変身前の緩さは欠片も無くなり、美しく、凛とした眼差しでトリックを睨み付けている。

 

 

「白斗に手を出すことはこの私が許さないわ。 女神の逆鱗に触れたこと……後悔しなさい!!」

 

「ヒィッ!?」

 

 

愛する者を人質にするなど、ネプテューヌにとって絶対に許せないものの一つ。

激しい怒りを伴ったその気迫に気圧され、トリックが怯む。

直後、ブラックハートに勝るとも劣らない速度でパープルハートが間合いを詰めた。

 

 

「クロスコンビネーション!! たああぁぁぁぁぁぁッ!!!」

 

「おっ!! ゴッ、ガ!! ギャァァァッ!!?」

 

「あらぁ、ねぷちゃんってば情熱的な剣技ねぇ。 惚れ惚れしちゃうわぁ」

 

 

美しい太刀筋が、トリックに叩き込まれる。

初めてネプテューヌ達と共にクエストに訪れた際、彼女が見せてくれた剣技。女神の圧倒的な力に加え、その美しさに白斗は見惚れていた。

女神の斬撃は、醜悪なる魔物を決して寄せつけはしない。

 

 

「デルタスラッシュ!!」

 

「グゴォォッ!! ガ……お、俺様は七賢人の幼女保護担当だぞ……!! こんなところで、俺様の幼女ペロペロ計画を潰えさせるワケには……!!」

 

 

更に体勢が崩れた所に飛ぶ斬撃を打ち込まれた。

女神の技を浴び続けたトリックは既に肩で息をしており、まともに立ち上がることすら困難だった。

目の前の圧倒的存在―――女神に、膝を折りそうになっていたのだ。

 

 

「私は女神。 邪を切り払い、人々を……白斗を守る存在!! 女神の一太刀をその身に浴びて思い知りなさい!!!」

 

「ヒッ!!? ま、待て待て待て!! 俺様はただ、幼女をペロペロしたいだけ……!!」

 

 

ネプテューヌが剣を天に向かって掲げる。

すると彼女の頭上に巨大な刃が生み出され、その切っ先がトリックに向けられた。

すっかり怯えてしまうトリックだったが、そんな情けない命乞いなど通るはずもなく。

 

 

 

 

 

 

「罪を断ち切る、女神の剣!! 32式………エクスブレイドォオオオオオオオオオオ!!!」

 

 

 

 

 

 

断罪の刃が、降り注いだ。

 

 

「ンギャアアアアアアアァァァ――――!!? 幼女に栄光あれェエエエエエエェェェ…………」

 

 

刃が大地に突き刺さり、激しい爆発を起こす。

その爆風に巻き込まれ、巨躯のトリックも天に瞬く星となってしまった。

 

 

「ふぅ、久々だからハッスルしちゃったわね。 やっぱりこの姿は疲れるわ」

 

「でも、相変わらず凄いなネプテューヌは。 やっぱり俺の女神様は最高だ」

 

「ふふ、当然よ。 貴方がいてくれれば、私は無敵だもの」

 

 

普段は「疲れるから」という理由で変身したがらないネプテューヌだが、白斗がいてくれるなら話は別だ。

好きな人からの言葉を受けて、あの美しく、それでいて冷静な表情が緩んでしまう。

これを恋する乙女と言わずに何と言おうか。

 

 

「やれやれ、お熱いわね。 ま、私も念願の女神になれたし良しとしてあげるけど」

 

「あたしはちょーっと不満ねぇ。 さっきのねぷちゃんの攻撃で下っ端ちゃんも吹き飛んじゃって、楽しみが減っちゃって満たされてないのよねぇ」

 

「しれっとフェードアウトしてたのかよあの下っ端……。 まぁまぁ、俺もプルルートとの約束は守るからさ、ここは収めてくれよ」

 

「……ま、白くんに免じて許してあげるわぁ。 フフフッ!」

 

 

一方のブラックハートことノワールは切望していた女神化を手に入れ、この上なく嬉しそうだった。

今、彼女の脳内では思い描いていた夢に対する希望で溢れているのだろう。

プルルートも友人二人が女神化を果たせたこと、そして白斗にお願い出来る約束を取り付けたことで上機嫌になってくれる。

 

 

「さて……それじゃ帰りましょうか。 あたしの教会へ。 ねー、白くんっ!」

 

「ああ、そうしますか……って、うお!? どうしたプルルート!? 俺を抱えて!?」

 

「なっ!? ぷ、ぷるるん何を!?」

 

 

するとアイリスハートが白斗を急に抱え込んだのだ。

所謂抱き着いている状態に近いため白斗は大いに顔を赤くし、ネプテューヌは大いに青ざめる。

 

 

「モ・チ・ロ・ン……このままご招待よぉ!!」

 

「う、おわああああああああああああああああ!!?」

 

「ま、待ちなさいぷるるん!! それは私の役目なのよ!! 白斗を離しなさーいっ!!」

 

「ち、ちょっと貴女達!! 私を置いていくんじゃないわよーっ!!!」

 

 

白斗を抱きかかえたアイリスハートがそのまま大空へと駆けあがり、白斗を取り返さんとパープルハートが飛び立つ。

置いていかれそうになったブラックハートも翼を引遂げて舞い上がった。

三人の女神が描く美しい奇跡は、この異空のゲイムギョウ界に新たな光を齎していた―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてそれから三日後。

今やすっかり居つくことになってしまった神次元のプラネテューヌ教会で。

 

 

『そ、それでは白斗さんとネプテューヌさんは……プルルートさんの世界に行ってしまったということなのですか!?』

 

「すみませんイストワールさん……どうやらそういうことに……」

 

「いーすん、やっぱり前作った道って出来ないの?」

 

 

この世界のイストワールの力を借りてようやく、恋次元側のイストワールと連絡を取ることが出来た。

連絡が取れるや否や、白斗とネプテューヌは置かれた状況を説明するのだが対するイストワールは困ったような表情を浮かべておろおろしていた。

 

 

『すみません、あの道は相互間のシェアエナジーを利用して作ったものです。 あの一件で我が国のシェアも大幅に消費してしまいましたし、すぐには……』

 

「ねぇいーすん、それっていつぐらいに出来そう?」

 

『そうですね、何とか頑張って三日……以上は掛かりますよ?』

 

「今回は三日で保証してくれないんだね……神次元側のいーすんは処理能力低くて、こっちのいーすんは時間掛かるのが難点で……どうしてこう、いーすんは……」

 

『そもそもの原因はネプテューヌさんでしょう!? 神次元に飛んでしまった事はやむなしとして、シェアについては日頃頑張ってくれればすぐにでも取り掛かれましたのに!!』

 

「うわ!? 藪蛇だー!!」

 

 

相変わらず口論を始めてしまうネプテューヌとイストワール。

今となっては久々に見れたこのやり取りが、白斗にとっても、ネプテューヌにとっても、そして内心イストワールにとっても、嬉しいことであった。

 

 

「落ち着け二人とも。 ネプテューヌもこっちの世界で女神化出来るようになりましたし、俺も頑張りますから」

 

『はぁ……本当にお願いしますね白斗さん。 貴方が戻ってこないとネプギアさん達が大変なことになるでしょうから……』

 

「じ、尽力します。 ただシェアはそう簡単に集まらないでしょうし、こっちとの時差が約一ヶ月くらいあることを考えると少なくとも三か月以上はこっちの世界で過ごすことになるかと」

 

『計算上では恋次元の一日が、そちらでの一ヶ月になるのですね。 ですが、女神であるネプテューヌさんは兎も角として人間である白斗さんは大丈夫ですか?』

 

「それなんですが……女神メモリーの一件で敵から受けた薬品が原因で、しばらく肉体の成長が止まったとかなんとか……」

 

「つ・ま・り、これで白斗はしばらく私達と一緒で年を取らないってこと! ご都合主義ー!!」

 

『ね、ネプテューヌさん……。 まぁ、どうにかなるならそれでいいんですが』

 

 

不真面目なネプテューヌが絡むと話がいつまで経っても進まないため、白斗が進行役として簡潔かつ分かりやすく、そして今後の方針や近況を伝える。

イストワールとしても少しは安心したのだが、ネプテューヌの方はと言えば。

 

 

(できれば私はこっちの世界に長居したいなー。 ぷるるんやピー子とも一緒だし……何よりこっちの世界にライバルはいない!! 今の内に白斗と仲良くなって恋人に……ねぷーっ!!)

 

 

案外こっちでの生活を満喫する気満々のようだった。

 

 

『しかし白斗さん、シェア確保の宛はあるのですか?』

 

「はい。 言い方としては悪いですけど、グッドタイミングでノワールが女神化してくれましたし」

 

『そちらの世界のノワールさんですか? それはどういう……』

 

「白く~ん、ねぷちゃ~ん。 そろそろ行こうよ~」

 

 

何やら白斗にはシェア確保のための作戦があるらしい。

一体どうするつもりなのかと聞こうとしたその時、プルルートが話しかけてきた。彼女のすぐそばにはアイエフやコンパ、それにピーシェもいる。

 

 

「おにーちゃん、ねぷてぬ! はやくいこー!!」

 

「あ、ゴメンゴメ~ン。 それじゃいーすん、また後でねー!!」

 

『え!? ちょ、ネプテューヌさ―――』

 

 

プツン、と通信を閉じてしまったネプテューヌ。

やれやれと肩を竦めながらも、白斗も出掛ける準備を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

「んじゃ、行きますか。 ―――こっちのノワールの女神デビューに」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――ここは、プラネテューヌの西側にある未開の地。

未開と言っても、人々は住んでいる。だが、まだ国として名乗ることが出来ないその土地に今、ある少女が壇上に上がっていた。

多くの人々が見守る中、その少女はマイクを手に高らかに宣言する。

 

 

『この地に住まう皆さん、初めまして。 私が新しい女神、ノワールです』

 

 

多くの人々が見守る中、少女―――ノワールは堂々と宣言した。

そう、今日はノワールが女神となったことを公表し、新しい国を作る記念すべき日。この地に住まう人々は勿論の事、多くの招待客に見守られていた。

その正体客の中には当然、プルルートらの姿もある。

 

 

「あ~! ノワールちゃんだ~!」

 

「おー! のわる、かっこいい~!」

 

「ほうほう、中々サマになってるな。 物怖じせず、人々にも好印象を与えてるな」

 

「分かる、ネプ子さんには分かる。 あれは影でこっそり練習してきたんだよ、きっと」

 

「ああ、ノワールならそうするよな……」

 

 

来賓席ではネプテューヌ達が思い思いに話している。

神次元でのノワールの性格を考えると、恐らく女神になることを夢見て、ずっと密かに準備していたのだろう。

彼女の努力と想いが今、実ろうとしていた。まさに晴れ舞台だ。

 

 

『そして―――括目せよ!! 貴方達を守り導く、女神の姿を!!!』

 

 

何よりも人々を納得させられるもの。それは女神の力と姿だ。

ならば迷うことなど無い。ノワールはその身にシェアエナジーを纏い、女神化を果たす。

 

 

『―――女神ブラックハートよ!! 私は女神としてこの地に国を作り、この国に生きる人を守り、発展に導く!! 国の名は理想を実現する国、ラステイション!! 志高き者のため、このゲイムギョウ界最高の国にすることを―――ここに誓うわ!!』

 

 

美しき女神の姿と、力強い宣言、何よりも掲げられた気高い思想に傍聴人の興奮は最高潮だった。

誰もが新しき女神の誕生を祝福してくれている。

ノワールは、自分の夢の実現に向けて改めて手応えを感じていた。

 

 

「さて、ネプテューヌにプルルート。 ここから俺らも忙しくなるぞ」

 

「え? なんで?」

 

「ノワールちゃんのお仕事、手伝うつもりなの~?」

 

「当り前だろ。 お前らが形式上先輩なんだし、これがシェア稼ぎの第一歩なんだから」

 

「そ、そんな~! 折角白斗と一緒に過ごして仲を深めていく計画だったのにぃ~……」

 

 

まだまだここをラステイションにすると喧伝しただけで、実際にまともな国となったわけではない。

ここからあらゆる建物の建築、人材の獲得やシステムの確立などやるべきことは山のようにあるのだ。それを手伝うことこそ、白斗が言うシェア獲得の第一歩。

ネプテューヌは白斗と過ごす時間が結局短くなることに不満を垂れていたが。

 

 

 

 

 

 

 

「さ、頑張ろうぜ! 俺らのためにも、ノワールのためにも!」

 

「……うん! そうだね!」

 

「みんなで頑張ろ~!」

 

 

 

 

 

 

 

 

それでも、誰もが笑顔で取り組んでくれるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――それから忙しい日々が続いていき三ヶ月後、物語は再び動きだす。




サブタイの元ネタ「母を訪ねて三千里」

またまたお待たせしてすみませんでしたっ!!
でも仕方ないんだ……風花雪月にルナティックなんて追加されるから……!
ということで今回は女神メモリーゲッチュのお話でした。そしてマジェコンヌとワレチューに変わり新たに七賢人となったのはトリックとリンダのお二人。
またして彼らがどんな騒動を起こしていくのか。……厄介事しかないね、うん。
さてさて、最後の方にノワールの建国の様子を少しだけ描写してみました。実際女神が国を作る時ってどんな感じなんでしょうね?
mk2とかだと先代女神から引き継いだという感覚なのでしょうが、ネプテューヌの時とかだと人々に一種の不安と、それでも笑顔を齎してそうですね。今後のネプシリーズでもそういう描写とかあるのかな?忍者ネプテューヌも控えてますし、楽しみです。
さて、次回のお話は久々の再会ということでプルルートのお話にしようかなと思います。この神次元編はズバリ、プルルートがメインヒロインなので!
それでは次回もお楽しみに!感想ご意見、お待ちしております!!

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