恋次元ゲイムネプテューヌ LOVE&HEART   作:カスケード

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第五十五話 突撃!隣のルウィー

「絶対、ルウィーの女神の所為よッ!!!」

 

「「「…………はぁ」」」

 

 

プラネテューヌの教会で盛大に吠えているのは、ノワールだった。

そんな彼女に嘆息せざるを得ない白斗とネプテューヌ、そしてプルルート。

何せ彼女がこの教会に押し入ってからこの話題しか口にしないからだ。いや、口にしないというよりも愚痴にしているのだが。

 

 

「とにかく、ノワールの言い分としてはこうだな? 先日の七賢人の破壊活動に、ルウィーの女神が一枚噛んでいると」

 

「ええ、100%確信しているわ!! だって前回の工場襲撃なんて明らかにタイミング見計らわれてたし、七賢人の逃走ルートは決まってルウィーを通る道なんだから!!」

 

 

先日の破壊活動。ラステイションのゲーム機製造工場を七賢人の一員であるコピリーエースが暴れまわり、工場内を徹底的に破壊し尽くした事件の事である。

何とかコピリーエースは撃破したものの、被害は相当なものとなっており、それ故に事件を引き起こした七賢人、そしてそれに関与していると思しきルウィーに怒り心頭なのである。

ルウィーへの怒りは言いがかりではなく、ノワールなりの調査をした上での結論らしいが、プラネテューヌの女神様からは首を傾げられた。

 

 

「でもぉ~、ブランちゃんはそんなことをする子じゃないよぉ~」

 

「それは恋次元側の話でしょ!? こっちとは別人よ!!」

 

「はぁー……ノワールってば、さっきから堂々巡りだよぉ……」

 

 

同じような愚痴を繰り返すノワールに、さすがのネプテューヌも呆れ気味である。

頭に血が上っていることに加え、確証を得ているからこその激昂ぶりは止まる気配を見せない。

 

 

「大体、そのルウィーが逃走ルートってのもグーゼンじゃないの? そこを通っていたとしても、ブランが関わってるとは限らないんじゃ……」

 

「それが、ちょーっと苦しいことになってるのよねぇ」

 

「あ~、アイエフちゃん~。 お帰り~」

 

 

そこに現れたのはこの神次元におけるアイエフだった。

別世界と言ってもその容姿、性格、そして仕事内容の精確さは恋次元の彼女と全く同じ。

アイエフはふぅと一息つくと、書類の束を白斗に渡した。

 

 

「はい、白斗。 やっぱアンタの睨んでた通りだったわ」

 

「そうか……やっぱりかぁ……」

 

「ねぷ? 白斗、何の話?」

 

「実は俺も気になっちまって、アイエフにルウィーの警備状況の調査を頼んだんだよ。 七賢人は基本女神に敵対している組織、表立って関所とか通れないだろ?」

 

「でも、諜報部の調査によれば七賢人が逃走している時間帯は見事に無防備になっているらしいのよね。 つまり、誰かがルウィー側の、それも大きな権力を持っている誰かが手引きしているってワケ」

 

 

白斗の予感は最悪の形で的中してしまったということだ。

要するにルウィーの権力者がわざと警備に隙を作り、七賢人が安全に通れるルートを手配しているということに他ならない。

 

 

「そら見たことか! やっぱりあの女神の仕業よ!!」

 

「落ち着けって。 確かにルウィー側の関与は疑うべくもないが、ブラン……ホワイトハートの仕業だと決めつけるには早い。 第三者の可能性だって……」

 

「それって要するにあいつの部下でしょ!? 部下の責任は上司である女神の責任よ!」

 

「いや、そうなんだけど……困ったなぁ……」

 

 

だからと言って、ブランが全て仕組んでいたとは到底思えない白斗がとりあえず宥めようとするも、ノワールは聞く耳持たず。

確かに彼女は被害者故にこの状況に怒るのも無理はないのだろうが、このままヒートアップし続けるのも良くないと頭を抱える。

 

 

「それだけじゃないわ!! 七賢人やルウィーの妨害工作が日を増すごとにエスカレートしてるんだから!!」

 

「妨害工作っていうと?」

 

「ただのCDを黒く塗ってウチのソフトだって露店販売したりとか、展示品のコントローラーの差込口に爪楊枝差し込んだりとか……」

 

「ただのイタズラじゃん……」

 

「挙句私のポスターに落書きとかッ!!!」

 

(怒りの度合い、そこが大きいのね……)

 

「とにかく!! こんなことが国中で引っ切り無しに起こってるのよ!!!」

 

 

どうやら破壊工作だけに留まらず、嫌がらせが多発しているようだ。

一件一件はまさに子供の悪戯レベルなのだろうが、それが国中からほぼ毎日のように繰り返されるというのだから、確かにストレスのたまる話だ。

 

 

「ああもうっ!! 腹が立つーっ!!!」

 

「ノワールさん、怒ってばかりだとストレスが溜まるだけですよ?(´・ω・)」

 

「のわる、おちつこ?」

 

 

そこへお茶とお菓子を持ってイストワールとピーシェも現れる。

正直な所、今のノワールは迷惑な客のそれと変わりない。さすがの二人もうんざりしたかのようにノワールにそれらを刺し出したのだが。

 

 

「落ち着いていられるかってんですかッ!!」

 

「「ぴっ!!?」」

 

 

怒号と共にテーブルに拳を叩きつけ、二人とお茶を震え上がらせる。

とにかく怒りのはけ口が欲しいらしいノワールは尚も留まる気配を見せなかった―――のだが、この一幕が“決定打”となってしまった。

 

 

「あ、あのー……ノワール? そろそろやめておいた方がいいんじゃ……」

 

「ネプテューヌの言う通りだ! さっさと謝ってこの場を収めろ!! でないと……」

 

「はぁ? 何で私が謝る必要があるワケ?」

 

 

ネプテューヌと白斗が慌てて謝るように促す。

しかし、この時のノワールはもっと周りを良く見るべきだったのかもしれない。

そうすれば、“彼女”が我慢の限界だったことにも気づけたはずなのに。

 

 

「……ノワールちゃん~……?」

 

「何よプルルート!! 話の腰を折ら……ない……で…………?」

 

 

―――もう、遅かった。

今、プルルートは不機嫌の頂点に達していたのだ。それが何を意味するか―――彼女の恐怖を知っている者は、皆震え上がる。

 

 

「あ、あぁ……ぷるるんが……ぷるるんがぁ……!!」

 

「……今回は止めんぞ。 つーか止められません、ハイ……」

 

「あわわ……だから言ったのに……!!(゚Д゚;)」

 

「プルルート様やめてください怖いんです恐怖なんですお願いですお願いお願いやめて怖い怖い怖いあああアァアァアアアアァァァァァアアアアアアアアアア」

 

 

ネプテューヌは震え、白斗は匙を投げ、イストワールは震え上がり、アイエフは発狂する。

そう、普段はのほほん、ぽやぽや、ふわふわとした印象のプルルートだが怒りや我慢が限界に達すると―――怖いのだ。

それもう物凄く、ヤバく、CERO審査に引っかかるほどに。

 

 

「あのね~……そんな嫌なお話、聞かせるためだけに来たのかな~? あたし~……そういうのすっっっごく不愉快なんだけどぉ~……」

 

「え……あ、ああ……!! ご、ごめんなさいプルルート!! 言い過ぎたわ!!」

 

「折角遊びに来てくれたと思ったらグチグチグチグチグチグチグチグチ……。 楽しくないっていうかぁ~……イライラするっていうかぁ~……!!!」

 

「ご、ごめんなさいってば!! 許して!! ね!?」

 

「しかも……いーすんやピーシェちゃんにまで八つ当たりしてぇ~…………」

 

「ヒ、ヒイイイイイィィィ…………!!!」

 

 

ゴゴゴ、と周りの空気すら揺らいでいるような気がする。

見るからにプルルートの目が座り、ぷるぷると不機嫌で震えていた。これは彼女を知る者ならば誰でも分かる。

―――とても危険な兆候だと。

 

 

「わ、私お茶のお代わり入れてきますねっ!(;>Д<)」

 

「あーっ!! いーすんズルイー!!!」

 

「わ、私も白斗から追加調査頼まれてたの思い出したっ!! 行くわよピーシェっ!!」

 

「う、うん! ぴぃ、きょうはあいえふとあそぶっ!!」

 

「待てアイエフ!! 俺そんなの頼んでないんだが!!?」

 

 

そそくさと出て行ってしまったイストワールにアイエフ、そしてピーシェ。

誰もがこの後起こるであろう惨事に巻き込まれたくない一心で必死に逃げている。

残された傍観者は白斗とネプテューヌのみ。

 

 

「……そ、それじゃ俺も新しいケーキを焼こうかなー……」

 

「逃がすかぁッ!!!」

 

「ぐぇっ!!! HA☆NA☆SE、ネプテューヌっ!! 後生だから離してくれぇ!!!」

 

「こういう時は白斗が抑止力なの!! いつもみたいにぷるるんを止めて!!!」

 

「無理無理無理!! 今回は理由が理由だけに俺が止められる気配がしない!!!」

 

「なら私と一緒に死んで!!! 白斗と一緒なら本望だから!!!」

 

「お前それでも女神かぁああああああああああああああああ!!?」

 

 

さすがの白斗も今回のプルルートには恐怖が先行して止められないようだ。

普段であれば女神化した彼女とも対等に話しあえるのだが、それはあくまで彼女を宥めなられる材料があればの話。

今回はノワールに責があるので、白斗に止められる要素がないのである。

 

 

「ちょっと貴方達!! 漫才やってないで助け……!!」

 

「ノワールちゃん~……そんなに怒ってるんなら~……!!」

 

 

遂に堪忍袋の緒が切れたらしい。光の柱を噴き上げて―――。

 

 

「―――直接本人に言ってやればいいんじゃないかしらねぇ!!?」

 

「「「で、出たぁ――――――――!!!」」」

 

 

アイリスハート様、ご降臨。例のBGM、流れてます。

 

 

「……ねぷちゃん、白くぅん?」

 

「「ハッ!! 何でございましょうか!!?」」

 

 

世界の歴史に刻まれるほど綺麗な敬礼。今、この場においてカーストとして頂点に立っているプルルートだった。

 

 

「あたし、これからノワールちゃんと二人っきりでお話したいの。 悪いんだけどぉ、しばらく外に行ってくれるらしらぁ?」

 

「あ、いいの? それじゃ行こうか白斗!!」

 

「だ、だな。 プルルート、お土産に美味しいケーキ買ってくるから……その、程々に……」

 

「それはノワールちゃんの性根次第かしらぁ? フフフ……」

 

 

―――どうやら、ノワールが無事に済む確率は限りなくゼロに近いらしい。

それは嗜虐心溢れるアイリスハートの笑みからも見て取れる。

 

 

「……すまん、ノワール。 骨は拾っておく。 ……さらばだ」

 

「ノワール……生きて会えたら一緒にケーキ食べようね~!!」

 

「ち、ちょっと二人ともぉーっ!!?」

 

 

二人に逃げられ、半ば絶望するノワール。

そんな彼女の目の前に立つのは、その絶望の化身たる女神アイリスハートである。

ペロリ、と舌なめずりをしながら歩いてくる彼女にノワールは最早逃げることすら出来ない。

 

 

「それじゃぁ始めましょうか……一人で文句も言いに行けない……臆病でぇ、チキンでぇ、腰抜けで腑抜けでヘタレで肝っ玉の小さいノワールちゃんにはぁ……」

 

「あ……あぁ……ああああああ………!!!」

 

 

絶望が近づいてくる。コツコツと、音を立てて近づいてくる。

冷たい指がすぅっと、ノワールの首筋をなぞり上る。恐怖で鳥肌が立ち、黒の女神は最早涙目となっていた。

怜悧な瞳がノワールを捉えて離さず、口元を不気味に歪めて。

 

 

 

 

 

 

「たぁ~っぷり……お説教してあげなきゃねぇ!? うふふ……あーっはっはっは!!!」

 

「い……いいいいいやああああああああああああああああああああああああ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

―――ノワールの断末魔が、プラネテューヌの大空に響き渡るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――それから少しして、プラネテューヌの街中。

少々罪悪感を抱えつつもプルルートを宥めるべく、お土産を見繕っていた白斗とネプテューヌ。

そんな中、ネプテューヌの携帯電話が震えだした。

 

 

「ねぷ? メール…………あ、白斗! ノワールからメールが来たよ!!」

 

「何!? まさか、生き延び―――」

 

“たすてけ”

 

「……きっと、“助けて”って打ちたかったんだろうなぁ……」

 

「だねぇ……」

 

「「……合掌」」

 

 

―――二人に出来ることは、ノワールの冥福を祈るくらいだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……さて、かれこれ二時間は経過したワケですが」

 

「戻ってきてみたら静かだもんなぁ……これはこれで不気味だ……」

 

 

十分に時間を取ってから教会に戻ってきた白斗とネプテューヌ。

しかし、耳に痛いほどの静寂が教会を支配しており、それが却って不気味さを醸し出していた。

 

 

「……し、仕方ない。 俺が入ってみる」

 

「は、白斗!? 危険だよ!?」

 

「百も承知よ。 ……いや、ホントはちょっと怖いけど……ここで尻込みするわけにも……」

 

 

ノワールの事も心配である以上、逃げ出すわけにはいかない。

勇気を振り絞ってゴクリと固唾を飲みながらドアノブに手を掛け―――と思いきや、なんと扉の方から開いてきた。

 

 

「「うひゃあああああああああ!!?」」

 

 

手に触れる直前、勝手に回りだしたドアノブ。

緊張感が高まっていただけに突然動き出した扉に慌てて飛び跳ねてしまう白斗とネプテューヌ。

震え上がり、互いの体を抱き合う中、扉の向こうから出てきたのは。

 

 

「あ、ねぷねぷに白斗さん。 お帰りなさいです……ってなんで抱き合ってるですか?」

 

「ああ、お二人もようやく戻ってきましたか……。 それにしても帰宅して早々に見せつけてくれますね、お二人は……(;´Д`)」

 

「へ……? こんぱに……いーすん?」

 

 

この教会の住人であるコンパと、教祖イストワールだった。

イストワールは元々お茶を入れるとか適当な理由をつけてアイリスハートから逃れていたのだが、コンパは病院からの勤務帰りらしい。

 

 

「お、驚かせないでくれよ……。 ところでノワールとプルルートは?」

 

「あー……ぷるちゃんにノワールさんですか……」

 

「……この部屋に入れば分かりますよ(-_-)」

 

「へ? どゆコト?」

 

 

どうやら二人はこの部屋の中にいるらしい。そしてコンパとイストワールが無事に出てきたということは、とりあえず当面の危険はない。

のだが、二人は微妙そうな顔をしている。首を傾げたまま、今度こそ恐る恐る扉を開いてみると。

 

 

「ルウィーニ、イキマス……チョクセツ、モンクイッテキマス……ルウィーニ、イキマス……」

 

「「何があったああああぁぁぁ――――――――っ!!?」」

 

 

壊れた機械のように、同じことを繰り返しているノワールの姿があった。

顔は生気を失っており、目は焦点が合っておらず、声色も抑揚が無い。これを“壊れた”以外になんと形容すればいいのだろうか。

 

 

「あ~。 白くんとねぷちゃんお帰り~」

 

 

そして傍らには満足そうにしているプルルートがいた。

女神化も解除しており、どうやらフラストレーションは発散できたようだ。―――代わりに壊れてしまったノワールがいるわけなのだが。

 

 

「ぷ、プルルート!! お前ノワールに何やったんだ!!?」

 

「ノワールが壊れたレェィディオゥみたいになってるけど!?」

 

「ん~? 二人にも同じことしてあげたら理解できるかも~?」

 

「「やっぱり結構ですぅーッ!!!」」

 

 

また二人して震え上がった。精神が壊されるような所業など、誰が受けようか。

 

 

「とにかく~、ノワールちゃんがルウィーに行くって言ってるし~。 ねぷちゃんと白くんが行くならあたしも行くけど~……いいよね~?」

 

「……まぁ、この流れは私達も行かないとね」

 

「だな……。 その前に、ノワールの回復が先だが……」

 

 

正直、気乗りはしないがこれもノワールのため、プルルートのため、そしてとばっちりを避けるためだ。

二人もやれやれと肩を竦めながらルウィー行きに加わることとなったが、肝心のノワールが回復しないことには旅立てもしない。

その間、お土産に買ってきたケーキなどに舌鼓を打つこと一時間。

 

 

「ルウィーニイキマス……ルウィーニ…………ル……………………あれ? 私は……?」

 

「あー!! ノワール、元に戻ったぁー!!」

 

「大丈夫か!? 俺達の事が分かるか!?」

 

「え? は、白斗にネプテューヌ……え? え? 何、何なのこの状況……?」

 

 

ようやく精神が回復したらしい、ノワールが元に戻った。

まるで「死人が生き返った」や「ク〇ラが立った!」と言わんばかりの感動により、白斗とネプテューヌも涙を誘われる。

一方のノワールは恐怖故に記憶を封印してしまっているからかプルルートからの「オシオキ」のことを覚えていないようだ。

 

 

「あれ? ノワール、覚えてないの? これからルウィーに行くんでしょ?」

 

「ルウィー……うっ、頭が……!! そ、そうよ……私はルウィーに行かなきゃいけない気がするわ……!! でないと、大変なことに……っ!!!」

 

「……一応聞くが、目的は覚えてるよな?」

 

「え? えーと…………そう! ルウィーの女神に文句を言いに行くのよ!!」

 

「ノワールちゃん、良く出来ました~。 ぱちぱち~」

 

 

朧気ながらも記憶が蘇ってきたようで、とりあえず主目的であるルウィーの女神に抗議しに行くところまでは思い出せたようだ。

その後、プルルートを見ると寒気なり顔を青ざめるなりするノワールであったが。

 

 

「ただまぁ、本当にホワイトハートの仕業でなかった場合はラステイションにダメージが行くかもしれない。 あくまで目的は事実関係の調査……でどうだ?」

 

「……そうね、白斗の案に賛成するわ。 ただし、本当に裏が取れた場合は……」

 

「はいはい、その時は抗議なりお好きにどうぞ」

 

 

何かと暴走しがちなノワールを止めるため、白斗が先手を打った。

本当に女神ホワイトハートの指示なのかどうかを調べ、その証拠を掴んでから判断する。

プルルートの説教が効いて幾分か冷静になっているらしく、今回は聞き入れてくれたノワール。

 

 

「あ、お話は纏まりました?(^▽^;)」

 

「あ、いーすんにこんぱ! 私達、これからルウィーに行ってくるから!!」

 

「やっぱりそうなっちゃうですか……。 留守はお任せくださいです!」

 

「はーい、それでは行ってらっしゃい(^▽^)ノシ」

 

 

こうして女神達ルウィー行きご一行様は北の国、ルウィーへと向かうことになるのだった。

―――後にメールで、アイエフとピーシェに大量のお土産を買う羽目になったが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――そしてそれから更に数時間後。ここは北の国、ルウィーへと至る洞窟。

神次元においてもルウィーはやはり北国、雪国であり、それ故に気温が氷点下に達するほどの寒さに包まれた国だった。

当然、そこへと至るこの洞窟も最早冷凍庫並みの寒さなわけで。

 

 

「うううぅぅ…………寒い~~~っ!!」

 

「だから防寒対策してこいと言ったのに……ジャージワンピなんて薄着してるから……」

 

「ぷるぷる……こ、凍えちゃう~……」

 

「あーもー、プルルートまで言わんこっちゃない……向こうに着いたらまず服を買うか」

 

 

揃いも揃って薄着である女神達は身を震わせる。

ネプテューヌはジャージワンピという、半袖のミニスカートと薄着だ。寒さを感じない方がおかしい。

プルルートもまさに部屋着としか言いようがないほどのふわふわとした服であるため、こちらも寒さがダイレクトに襲い掛かっている。

 

 

「……で、なんでノワールまでいつものへそ出しルックなんだよ!?」

 

「こ、この程度の寒さで音を上げていたらラステイションがルウィーに屈したことになるじゃないいいいいい……ルウィーなんかに負けないィィィ……はっくちゅっ!!」

 

「敗北者じゃけぇ」

 

 

そして意地っ張りな質が災いしたらしく、ノワールもいつもの恰好で闊歩していた。

神次元におけるノワールの衣服はまさにアイドルといったような服装でへそ出しルックのミニスカート。

男だけでなく、冷気も呼び込んでしまうことこの上ない。どうしたものかと頭を悩ませていると、白斗のコートをくいくいと可愛らしく引っ張る存在が。

 

 

「ネプテューヌ、どうした?」

 

「ううぅ……もう限界~……。 白斗ぉ~、あっためて~……」

 

「仕方ないなぁ……ほら、俺のコート羽織ってろ。 少しはマシに……」

 

「ダメダメ! それじゃ白斗が凍えちゃうよ!」

 

「んじゃどうしろと……」

 

「こうすればいいんだよっ!!」

 

 

するとネプテューヌは白斗に飛び込み―――そのコートの中にすっぽりと納まった。

顔だけひょこっと覗かせてが、とても温かくて幸せそうである。

そう、この状況は所謂二人羽織りに近いか。

 

 

「おわっ!? ね、ネプテューヌ!!? 何を…………!?」

 

「ねぷ~……白斗、あったかぁ~い……。 幸せだよぉ~……」

 

「ちょぉっ!? 恥ずかしいし歩きにくいわ!! 離れろって!!!」

 

「白斗ぉ……」

 

(うぅっ!? 涙目+上目遣いのコンボ……ッ!! ダメだ、可愛すぎる……っ!!)

 

 

ただでさえ可愛らしい顔立ちなのに、涙目で上目遣い、更には顔だけひょっこりと覗かせるという怒涛の攻撃に白斗の理性も陥落。

わざとらしくため息を付きながらも、寧ろネプテューヌをその腕で抱き寄せ。

 

 

「……なら、しっかりくっついてろよ。 風邪くらいなら、守ってやるから」

 

「……えへへ。 白斗、ありがと」

 

 

腹を括ってルウィーまでこの状態で行くことに。

速度は一気に下がるものの、こんな幸せそうな女神様の顔を見ればどうでもよくなるのだった。

 

 

「むむむ~……! 白くん~! あたしも~!!」

 

「ちょ、ぷるるん!? 定員オーバーだって!!」

 

「イけるイける~。 お邪魔しま~す」

 

「うお!? ぷ、プルルートまで……」

 

 

ところがこの光景を見て羨ましくなったのか、プルルートまでもが潜り込んできたのだ。

ネプテューヌの静止も聞かず、同じようにコートの中に潜り込んで顔だけひょっこりと出す。

 

 

「わぁ~! 白くん、あったか~い……」

 

「お、お前らなぁ……可愛い女の子が男に引っ付くんじゃないの」

 

「白斗だからいいの!」

 

「いいの~」

 

「……ホント、敵わねぇなぁ……」

 

 

可愛らしい女の子二人から抱き着かれ、嬉しくない男がいようか。

結局のところ、白斗は女神様に勝てるはずもなかったのである。

 

 

「………………」

 

「ん? ノワールも入るか? ここまで来たら後一人増えても一緒だ」

 

「誰が入るかっ!! さっさと行くわよっ!!!」

 

(あー、これ……大親友のプルルートを取られてちょっとヤキモチかね?)

 

 

 

何にせよ、今一番気が立っているのはノワールだ。

先日の破壊活動から街中で蔓延る悪戯と、建国下手のラステイションとしては相当頭に来る嫌がらせを受けている。腹に据えかねているのも、無理もない話だ。

そんな彼女のためにも、抱き着かれるのは程々にして速度を上げる白斗だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――国境の長いトンネルを抜けると、そこは雪国だった。

否、恋次元のルウィーに比べると積雪そのものは少ない。代わりに目の前に広がっているのは色鮮やかな―――紅葉だった。

 

 

「ヤッホー!! ルウィー到着――――!!! …………さッッッむ~~~い!!!」

 

「やれやれ、相変わらずネプテューヌは元気だな……。 にしてもこの世界のルウィーは和風テイストか……綺麗だな」

 

 

木材建築、屋根瓦、石垣、城の造りに堀。

そう、この神次元のルウィーはまさに和の国といっても過言では無かった。

道行く人も着物を着こなし、唐傘を差しているなどこの国独自の文化が広がっている。この神次元では勿論、恋次元でも見られなかった光景に白斗とネプテューヌは目を輝かせていた。

 

 

「見て見て白斗!! 着物だよ着物!! 私、ゲーム以外だと初めて見た!!」

 

「ホントだ。 喋り方も京都弁……まさに芸子さんだ」

 

「キョウトベン? 何のお弁当なの?」

 

「ああ、ゴメン。 俺の世界に京都ってトコがあってな、さっきの人の喋り方をその場所の名前を取って京都弁って言ったりするんだ」

 

「へー、関西弁みたいなものかー」

 

(何で関西弁は通じるんだ……?)

 

 

あれやこれやとネプテューヌは楽しそうにはしゃいでいる。

もし特に目的もなくルウィーを訪れていたら、きっと二人で楽しく観光でもしていただろう。

そんな雰囲気の二人にゴホン、とわざとらしい咳払いが。

 

 

「あ・の・ねぇ!? 私達は遊びに来たワケじゃないっていってるでしょーが!!!」

 

「もー分かってないなぁノワールは。 これも調査の一環だよ」

 

「何が調査の一環よ!?」

 

「っていうかノワールみたいに大声で叫べばフツーに他国の間者だってバレちゃうよ?」

 

「うぐっ!? ね、ネプテューヌの癖に正論を~……っ!!」

 

 

この国に来たのはあくまで非公式。

当然他国の、それも女神であると発覚すれば調査どころでなくなってしまう。

幸いにも街行く人たちはこちらの話までは聞いていない、或いは気にも留めなかったのでこちらの正体まで知られることは無かった。

 

 

「まぁ、ここはネプテューヌの言う通りだな。 ぼちぼち観光しながら情報収集しよう」

 

「うんうん、白斗分かってるー! それじゃーぷるるん、一緒に服を見に……あれ?」

 

 

女の子の嗜みと言えばショッピング、そして女の子のショッピングと言えば服。

仲良しなプルルートと共に服屋に行こうと声を声を掛けた―――のだが、肝心のプルルートの姿はどこにもなく。

 

 

「ぷ、ぷるるんがいなーい!!?」

 

「な、何ィッ!? 妙に静かだと思ったらまた迷子になったのか!!?」

 

「あの子……また……」

 

 

白斗もそれなりに注意していたはずなのに、まるで手品のように消えてしまっていた。

この国は歴史あるだけにとても広い。以前のダンジョンほど複雑ではないが、その分広大な敷地になっているので逸れれば面倒になる。

白斗達は急いでプルルートと合流するべく辺りを走り回るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――一方その頃、プルルートさんは。

 

 

「も~。 ま~たみんなが迷子になってる~」

 

 

少し開けた―――都会で言うところの繁華街に位置するのだろうか―――ところでプルルートは辺りを見回していた。

これから自分達にはルウィーにて女神及び七賢人について調査しなければならないというのに、ネプテューヌ達が傍にいないのだ。

尚、彼女は相変わらず自分の方が迷子になっているという自覚は無いのです。

 

 

「しょうがないなぁ~。 みんなを探さないと~……あれ?」

 

 

どうにかしてネプテューヌ達を見つけ出さないといけない。だが、彼女は初めてこのルウィーに来た身。

土地勘などあるはずもなく、どうしたものかと辺りをキョロキョロしていると見覚えのある人影が見えた。

 

 

「あ~! あの人は~……待って~!」

 

 

見えたその人影に希望を見出し、走り出すプルルート。

やがて追いついた、その人影は―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほうほう、ここがルウィー……確かに歴史を感じさせる国ですわね。 数日間見て回ったくらいですが、確かに長らく大陸に存在していただけありますわ」

 

 

数分前、その金髪の美女はグラマラスなボディを揺らしながら道を歩いていた。

優雅に、上品に、エレガントに。完璧な歩き方で隙すら伺わせない。

そんな美女が、綺麗な青目で街を見渡していればどうなるか。

 

 

「……それにしても、やけに視線を感じますわね。 ふふ、そんなに私が気になるのかしら」

 

 

緑色を基調としたドレス、優雅なハイヒールの靴音、そしてぼいんぼいんという効果音まで出そうな巨乳。

まさにパーフェクトな美女が歩いていれば、男の視線を惹きつけてやまないというもの。

スリットから伸びる、綺麗で肉感的な太ももを少し晒しただけで面白いまでに人の視線を操作できる。

 

 

「ですが……あまり注目を集めすぎてお仕事に支障が出るのも困りものですわね。 何せお忍びですから。 まぁ、私の事を知る人なんて……」

 

 

どうやら余り人目には着きたくないらしいが、それでも余裕を振りまいている。

誰もが彼女の事を「知らない」と確信しているからこそ―――。

 

 

「お~い、ベールさ~ん!!」

 

「え……?」

 

 

―――いた。自分の事を知っている人が。

思わず震え上がってしまう美女―――否、“ベール”。

 

 

「い、いいえ。 きっと聞き間違いですわ……それか同名の別人……」

 

「やっぱりベールさんだ~! 酷いよぉ~、あたしのこと無視しないでよ~」

 

「―――じゃありませんのっ!?」

 

「わひゃぁ!? 無視した上に吠えられた~!」

 

 

必死に聞き間違い人違いだと思い込もうとしたものの、それは空しい抵抗だった。

一人の少女―――プルルートが遠慮なくベールの手を取ってきたのだ。

驚きながら振り返ってみると、ふんわりとした紫色の髪に服に喋り方に雰囲気の美少女。

こんな可愛らしい女の子、ベールにとって忘れられないはずだがやはり記憶にない。

 

 

「む、無視したワケじゃありませんわよ! そもそも私、貴女の事は存じ上げませんのに!」

 

「え~? でも、ベールさんだよね~?」

 

「そ、それは……っ」

 

 

ここで認めてはならない。もし認めれば、自分の正体が周りにバレてしまう。

話し方からして、この少女は自分が「ベール」であると確信しているが、今は所謂潜入調査中、公に正体が露呈する事態だけは避けたかった。

だが、悩めば悩むほど事態は悪化の一途を辿る。

 

 

「ネプテューヌ、こっちだ! 確かにこっちからプルルートの声が聞こえた!」

 

「どれどれ……あー!! ぷるるんいたー!!」

 

「もー!! 相変わらず勝手にほっつき歩く子ね!!」

 

(あれは……この子のお仲間、でしょうか?)

 

 

どうやらこの少女ことプルルートを探していたらしい少年少女達。

どこか鋭さを纏っている黒コートの少年に、快活な印象があるジャージワンピの紫の少女に、気高さを感じさせる黒の少女。

中々個性的な面子だと、ベールは顎に手をやった。

 

 

「あ~、みんな~! も~、勝手に離れちゃダメだよぉ~」

 

「いやいや、迷子になってたのはぷるるんだって」

 

「え~!? あたしが迷子だったの~!?」

 

「自覚ナシとは……って、あれ? ベールじゃん!!」

 

「ん? あ、ホントだ!」

 

(んなっ!? こ、この子達まで私の事を!?)

 

 

すると、紫の少女ことネプテューヌがこちらを指差してきたではないか。

しかもはっきりと「ベール」という名前まで口にしてしまっている。そして同調するように黒コートの少年も目を瞬かせていた。

 

 

「何よ、知り合い?」

 

「ああ、この人はベール。 リーンボッ『きゃあああぁぁ―――っ!!』んむむ~~っ!!?」

 

 

危うく自身最大の秘密まで口にしそうになった。

咄嗟に少女の声を掻き消すような悲鳴にも近い大声を上げ、口を塞ぐ。

 

 

(お、お願いですからその先は言わないでくださいまし!!)

 

(え~? なんで?)

 

(私にも色々事情があるんですの!! それに、ここは画面の前の皆様が『この美女は一体誰だ!?』とワクワクドキドキさせるべき場面ですのよ!!)

 

(いやいや、もうバレッバレなんだけど……って締まる締まるーっ!!!)

 

 

何が何でも正体をバラされたくないらしい。

ここまでのやり取りを見て、白斗はベールの目的を感づいた。ネプテューヌを解放するためにも彼女に近づき、そっと耳打ちする。

 

 

(失礼、ベール様……いえリーンボックスの女神様といった方がよろしいですか?)

 

(べ、ベールで結構ですわ! あの、お願いですから……)

 

(はい、正体は明かさないようにします。 ……それにしても女神様も大変ですね。 直々にルウィーの調査に来られるとは)

 

(はぁ……やっぱり目的もバレていますのね)

 

(まぁ、こちらも似たようなものですし。 お互い騒がれるのは避けたい身……そこで、お互い余計な詮索は無用、情報は共有し合う……で、どうでしょう?)

 

(それでお願いします……お話が分かる方がいて安心ですわ)

 

 

はぁ、とようやくベールはネプテューヌをホールドから解放した。

その後、ネプテューヌとプルルートにとりあえずベールの正体は明かさないようにと再三釘をさしておくのだった。

これでようやくノワールにも彼女を紹介できる機会が訪れる。

 

 

「で、その人……ベールでいいのかしら?」

 

「ええ、お見知りおきを。 私、ルウィーの外に住んでいまして……観光で来ましたの」

 

「ふーん。 で、なんで白斗達は知ってたのよ」

 

「お前と同じ理由だよ」

 

「私と同じ……? ……ああ、そういうことね」

 

 

短い言葉でも、ノワールはすぐに理解してくれた。

ノワールと同じ―――つまり、恋次元にも同じ姿と名前を持つ人物がいることを。

尤も彼女が女神であることまでは伝わってはいなかった。だがベールとの協定を果たすならば、この方が都合がよいだろう。

 

 

「それじゃ改めて私、ネプテューヌ!! プラネテューヌの女神だよー!!」

 

「あたしはプルルート~。 同じくプラネテューヌの女神をやってるの~」

 

「え? あ、貴女達がプラネテューヌの女神……? しかも二人も!?」

 

 

一方、堂々と女神であることを名乗るネプテューヌとプルルート。

しかもどちらもプラネテューヌの女神と付け加えたため、ベールの困惑が増す一方だ。

無理もないが、これを上手く説明するのは骨が折れそうである。

 

 

「あー……これにはまぁ、複雑な事情があって……おっと、失礼。 俺は黒原白斗です。 今はネプテューヌ達の補佐官……みたいなものをやってます」

 

「違うよー! 私の騎士様だよっ!!」

 

「わ、分かったからお前は俺の腕を絡めとるなっちゅーに!!」

 

「白く~ん! あたしを除け者にしないで~!!」

 

「してないから!! 離れろっての!!」

 

 

まるで自分のものであることを主張するかのように白斗の腕を抱き寄せるネプテューヌ。

それに頬を膨らませたプルルートが反対側の腕を絡めとった。

最近の二人は何故かこんな風に白斗を巡って言い争うことが多い。でも仲は良いのだ。

 

 

(あらあら、どちらも乙女ですわね。 ……しかし白斗君、でしたか? 確かに戦闘は出来るようですが、特別強いわけでも無さそうですわね……)

 

 

これでもベールは女神、ある程度の戦闘力を体つきなどで判別は出来る。

そこから導き出した結論は、「白斗は戦闘が出来ないわけではないがそんなに強くもない」という評価である。

実際の所、的を得た見解だ。

 

 

(……しかし、まさかプラネテューヌが私の事を調べ上げているとは。 最近盛り返しているとは聞いていましたが……弱小国家だと少々侮っておりましたわ)

 

 

そして謎の勘違いから警戒心を強めてしまうのだった。

 

 

「ところで……そちらのお二人が女神ということは、貴女も?」

 

「あら、察しが良いわね。 私はノワール、ラステイションの女神をしているわ」

 

「ラステイション……あの新興国の! お噂はかねがね、とてもいい評判が流れていますわ」

 

「ありがとう。 もし良ければラステイションにも立ち寄って頂戴。 ゲイムギョウ界一の国よ!」

 

「……ゲイムギョウ界一、ね……」

 

 

 

一部はお世辞なのかもしれないが、それでも自分の治める国を褒められると良い気もするというもの。

ノワールはつい調子に乗って一言付け足してしまうが、「ゲイムギョウ界一」というフレーズには少し反応を示すベールであった。

尤も、それに気づいたのは白斗だけであったが。

 

 

「それで女神ご一行様は何故ルウィーまで?」

 

「かくかくしかじか!」

 

「……なるほど、七賢人やルウィーの女神が妨害工作を行っているかもしれないと。 その裏付けの調査のために来たということですのね」

 

「ネプテューヌ、“かくかくしかじか”って便利な言葉だな」

 

「でしょー?」

 

 

ここまで来たら、こちらの目的も包み隠さずベールに伝える。

僅かでも隠し事があれば不審がられるが、隠し事がなければ信頼は得られる。

特に裏がある様子もないと理解してもらえたらしく、ベールも納得してくれた。

 

 

「次はベールさんの番だな。 この街に来て数日とのことだが……」

 

「ええ、この街ですが……お話にあったラステイション程派手な被害はありませんわ。 ただ、噂では教会の方に何やら働きかけがあるとか……」

 

「穏やかじゃない情報が出てきたな……」

 

 

表立って七賢人の被害を受けていない、一方で裏で教会に何らかの接触があるかもしれないという情報。

これは取り引きで関係を築いていると思われかねない情報だ。

具体的には「ルウィーには手を出さないでやるから七賢人に便宜を図れ」といったところか。

 

 

「ぷるぷる……白く~ん、寒い~……」

 

「プルルート、大丈夫か? そうだな、立ち話も何だからどこかで宿をとるか」

 

「さんせーい! ノワールもいいよね?」

 

「ええ、問題ないわ」

 

「でしたら私もご一緒しましょう」

 

 

とりあえず話の続きは宿で行うことにした。

因みに宿代はベールの分も含めて白斗持ちである。こうして白斗は寒くなる己の懐に少しだけ涙を流したそうな。

そしてその涙が、ルウィーの冷気で凍ったとか凍ってないとか。

 

 

「わぁ~、畳だ~! ごろごろ~♪」

 

「おおー! 囲炉裏って奴かなコレ! オリエンタルですなー」

 

「ア・ナ・タ・達ぃぃぃいい…………これから作戦会議やるんだから真面目にしなさーい!」

 

 

宿に到着するなり通された部屋。

そこは畳が敷き詰められ、囲炉裏も備え付けられていた。白斗の視点で言えば「昔懐かしの日本家屋」といったところか。

 

 

「ふふ、中々愉快な子達ですわね」

 

「ええ。 ……まぁ、そこがいいんですけど」

 

「ふぅん……?」

 

 

女三人寄れば姦しいなどというが、そんな彼女達を白斗は温かい眼差しで見ていた。

白斗は女神達に救われ、今こうして生きている。だからこそ女神様が自分らしくあることが一番だと、誰よりも想い、願い、信じている。

そんな彼の姿を見て、ベールは面白そうな顔つきになった。

 

 

「さて、私が知っている情報ですが……七賢人絡みは先程お話しした通りですわ」

 

「ならこの国そのものは?」

 

「ルウィーへの評価、ですか……。 確かに歴史を感じさせる国ではありますが、女神の対応が拙いと言いますか……」

 

「拙い、か……」

 

「ええ、しっかりと書類に目を通して置けば解決できそうな問題が起こっていますし、それに逐一対応している間に更なる問題が発生。 産業について、ゲームの質は悪くないのですが……売り方や国民への周知の仕方などが正直宜しくないというのが本音ですわ」

 

 

この国に来たばかりのベールにすらこの言われようだ。

白斗は前回の邂逅した時の情報と合わせ、ブランへの考察を深めていく。

 

 

「先日の様子だと、ブラン……ホワイトハートは自分の国を誇りに思い、大切にしている。 問題発生にも逐一対応していることから少なくともネプテューヌ達みたいに不真面目じゃない」

 

「酷っ!? 何でそこで私達を引き合いに出しちゃうのかな!?」

 

「そ~だそ~だ~! 酷いよ白く~ん!」

 

「(無視)ただ、国営について悪戦苦闘しているのは間違いないな。 何ていうか、センスがないというよりも……国営のやり方そのものすら熟知していない節がある」

 

「そこは私も白斗と同意見よ。 ま、そこを勉強するのが女神の仕事なんだけ」

 

 

白斗の見解にノワールも同意を示してくれた。

彼女は元から女神を目指していた身、来るべきに備え国の運営方法など勉強を怠っていなかった。

故にラステイションは建国して僅か三ヶ月にも関わらず、凄まじい発展ぶりを見せている。

だがブランに関してはその真逆のようにも感じた。まるで女神になったことで、国営などを勉強しているかのような―――。

 

 

(……この国には女神様を助ける人がいないのか?)

 

 

何より白斗が気になったのは、公私ともに女神を支える人物の存在が感じられないことだ。

前回見たブランは精神的に余裕が無いということだ。

もし彼女を支える誰かがいたのなら、あんな行動や様子は見せなかったはず。それがないからこそ、ブランは―――ある意味でノワール以上の孤独なのかもしれない。

 

 

「さて、情報共有したワケだけど……これは教会そのものを調べる必要があるわね」

 

「ひょっとして潜入捜査~? わぁ~、スパイみたいでカッコイイ~!!」

 

「でもノワール、現実問題それ出来るの?」

 

「う……そうね……。 それが出来れば苦労しないんだけど……」

 

 

ノワールの言う通り、真偽を確かめるには一度ルウィーの教会に潜入調査でもしないといけないだろう。

だが、ここで言う教会とは女神様の住居にして国政の中心。つまり警備は万全。

生半可な腕の諜報員を潜らせたところで、すぐ失敗してしまうだろう。

 

 

「……なら俺が行こう」

 

「白斗!? 危険だよ!?」

 

「なぁに、腕に覚え在りよ。 大丈夫、目的果たしたらすぐトンズラするから」

 

「うぅ……白斗、いっつもそうやって危険なことするんだから~……!」

 

 

ぷくぅ、と頬を膨らませたネプテューヌ。既に涙目だ。

さすがに見つかって即処刑、とまでは行かないだろうが相手は切れやすいことで有名なブランことホワイトハートだ。油断はできない。

彼に危険な真似はさせたくないとネプテューヌは尚も反対意見を通そうとするが。

 

 

「なら代替案を聞こう。 それが有用ならそっちを採ればいい」

 

「う! ……それを言われると……」

 

「ない……ですわね。 これはもう、白斗君に頼った方がよろしいのではなくて?」

 

 

だが代わりの意見を求められると急には出てこない。

ベールも、白斗を犠牲にしようとしているわけではないが苦々しい顔つきでそう告げている。

 

 

「白くん~……」

 

「プルルート、そんな顔するなって。 マジでヤバくなったらすぐ逃げるし、潜入には一日も掛からない、夜で切り上げて戻ってくるよ」

 

「……約束だからね。 後……」

 

「おう。 ……プラネテューヌに戻ったら、たっぷり遊ぼうな。 二人とも」

 

「「…………うん!」」

 

 

約束だけではなく、心配をかけた分の埋め合わせも忘れない。

二人との遊び―――女神達からすればデートだが―――の約束を取り付けたことで、機嫌も幾分か直る。

 

 

「それじゃ善は急げ。 早速潜って……」

 

「待ちなさい白斗。 その恰好で入るつもり?」

 

「いや、さすがにどこかで男物の服を買おうかと」

 

 

腰を浮かせた途端、ノワールがストップをかけてきた。

白斗の恰好はいつもの黒コートに黒ズボンという、暗闇ならまだしも和風テイストな建物の中ではこれ以上ないほど浮いてしまう格好だ。

さすがに白斗もそこは考えており、この国の雰囲気に合わせた格好を用意するつもりでいたが。

 

 

「白く~ん! あたしにいい考えがあるよ~」

 

「プルルートさん、その前の一つ宜しいでしょうか。 ……何でしょうか、その手に持ってるの」

 

 

何やらプルルートに考えがあるらしい。

だが、白斗は冷や汗が滝のように流れて仕方がない。その手に持っているもの……否、その『服』は―――。

 

 

「あたし謹製のめいどふく~! 白くんなら絶対似合うからって作っておいたの~!」

 

「アホかぁ!! すぐバレるわぁ!!」

 

「いや、白斗。 イケる」

 

「ネプテューヌゥ! お前は何を以てイケると確信したんだ!?」

 

 

どうやらプルルートによる白斗女装計画はまだ潰えていなかったらしい。

以前、白斗の女装姿を目にしたプルルートはそれ以来白斗の女装を気に入ってしまったらしく、事あるごとに白斗に可愛らしい女の子の恰好を勧めていた。

確かにメイド服は可愛らしいし、教会であれば雇っているメイドもいるはずだ。変装としては寧ろ最善策である―――のだが白斗の理性が拒んでいた。

 

 

「とにかく普通の恰好を……」

 

「ノワールちゃん~。 ご~!」

 

「任せなさい♪」

 

「ぐおわっ!? は、HA☆NA☆SE、ノワールッ!!」

 

「いやよ、こんな面白…………有益な手段逃す理由がないじゃない」

 

「今面白そうって言いかけたなコラァ!!」

 

 

逃げようとした瞬間、ノワールに羽交い絞めされてしまった。

幾ら華奢な女の子の体といえど相手は女神様、しかもノワールは毎日の訓練のお蔭で体も出来ている。

所詮一般人にカテゴライズされる白斗では抜け出せるはずもなかった。

 

 

「ねっぷっぷ……なら、着せ替えはネプ子さんにお任せ!!」

 

「白く~ん! 可愛いアクセサリーもちゃ~んと用意してるから~!」

 

「なら私はお化粧してあげる!! (コスプレ趣味故に)結構自信あるのよね♪」

 

「でしたら私がメイドの心得を教えて差し上げますわ。 うふふ……♪」

 

「お前らこういう時だけ結束するのな!!?」

 

 

一世一代の面白イベントに誰もが目を輝かせている。

ワキワキと手を動かしながら白斗ににじり寄る女神達。さすがの白斗も恐怖で動けず。

 

 

 

 

 

 

 

「あ………あ………いいぃやああぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

―――男のくせに甲高く、そして情けない悲鳴を上げるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――翌日、ルウィー教会内。

朝早くは極寒の冷気が支配するルウィー教会だが、廊下を歩く男性職員はホットな視線を帯びていた。

というのも、れっきとした理由がある。

 

 

「おい、何だあのメイド? あんなのいたか?」

 

「新人さんだろうか……? にしても……可愛い……」

 

 

何を隠そう、道行く見慣れないメイドに目を奪われていたのだ。

早朝の仕事という気怠さと不機嫌さを煽る要素も撥ね退けるほどの可憐さにテンションを高めていた。

だが、その人物からすればその高評価こそ苛立たしいものはない。

 

 

(……チックショ……どうしてネプテューヌ達はこういう時に限って本気出しちまうんだ……)

 

 

そう、そのメイドこそが変装した白斗である。

ネプテューヌ達の本気を詰め込んだことと、女神様曰く「素材が良い」ことも相まって良くも悪くも受け入れられていた。

 

 

(しっかし、警備が思いの外ザルだったな……。 職員や軍部もチラッと見た限りだがやる気無さそうだし……大丈夫なのか?)

 

 

だが、それとは別に白斗にはどうしても引っかかることがある。

それは教会に務めている人間の質であった。十人十色とは言うが、職員たちはやる気を見せなかったり、人格的に問題があったりととても質が高いとは言えない。

プラネテューヌの教会職員も必要以上の仕事はやりたがらないなど、どこかプルルートに似た所はあるものの人柄はいい。それ故にこの人材の質の悪さが尚、浮き彫りになっていた。

 

 

「む? そこのメイド……新入りか?」

 

「あ、はい。 そうですが……貴方様は?」

 

 

と、ここで白斗に声を掛ける者が一人。

低い男性の声だと思い振り返ると、眼鏡を掛けた小太りな中年がそこにいた。

当然潜入捜査だとバレるわけにはいかない。白斗は極めて穏やかな態度で応対する。

因みに女装ということで声も相応に甲高くしていた。

 

 

「そうか、私はこの国の大臣じゃ。 女神様の補佐をしておる。 しっかり働いてくれ」

 

「はい、お任せください」

 

「……とは言うものの、お前さんはいつまで保つかのぉ……。 この前のメイド達も、一ヶ月足らずで辞めてしまったし……」

 

(……一ヶ月以内に辞めちまうのかよ。 大丈夫なのか、この国……?)

 

 

大臣と名乗った男ははぁ、と溜息を付きながらその場を去っていった。

残された白斗は顎に手をやりながら廊下を歩いている。

 

 

(……ルウィーから流れ出た国民やシェアが、プラネテューヌとラステイションに流れている。 それだけ信仰を落としてしまっているということ……。 恐らく、問題解決の稚拙さが露呈するうちに国民や部下が呆れてしまっている……ということなのか?)

 

 

もしそうなら、ブランの余裕のない態度にも説明が行く。

彼女本人は必死にやっているつもりなのだが、それが上手く伝わらず、彼女の問題点しか見ていない国民や部下が、勝手に離れている―――という状況なのかもしれない。

 

 

「おい、そこの新人メイド! 今暇か?」

 

「あ、はい。 すみません、来たばかりで何の仕事をすればいいのか……」

 

「なら早いトコ、書庫の掃除しててくれ。 あそこ女神様のお気に入りだからな」

 

(……こっちのブランもやはり読書好きか。 根っこは変わってないんだな)

 

 

書庫がお気に入りということは、それだけ本が好きということ。

やはり根本的な部分は、白斗のよく知るブランなのだとある意味安心感を覚えた。同時に掃除を押し付けられたがこれはチャンスでもある。

書庫はいわば情報の塊、潜入捜査には打って付けである。早速指定された書庫に足を運んでみると。

 

 

(おお、さっすが読書好き。 ありとあらゆる本が詰め込まれてるな。 ただこの規模は……すぐに終わりそうにないなぁ……)

 

 

高い本棚は最早巨大な壁としか言いようがなく、そこに数多くの本が詰め込まれていることで「本の壁」とでも言うべき規模になっていた。

そんな本の壁が十数列はある。本好きのブランのためにあらゆる書物が集められているらしく、今も尚増設に向けての動きがあるとかないとか。

 

 

(ん? この辺りの本、新しいな。 けれども読み込みが凄いのか、かなりページがよれている……何々、これは……過去のゲイムギョウ界の国の……国営記録か?)

 

 

それは国営のための資料だった。

過去、ゲイムギョウ界にどんな国が存在していたのか。またその国がどんな運営をして、そのためにどんな制度や法律を作ったのか。

それが真新しいものであるにも拘らず、かなり読み込まれていることから導かれる結論。

 

 

(なるほど……今でもブランは国営の勉強をしているってことか。 あいつ、ラノベとかも好きだろうに、それすらも後回しにして……)

 

 

少し埃をかぶってしまった、ラノベのある棚を見つめて白斗はようやく見たかった一面を見られたような気がした。

ブランはノワールとは違い、国営に関する知識も持たぬまま女神になった可能性が高い。

だからこそこうして日々勉強に励んでいるのだ。それこそ、彼女が読みたいであろうラノベなども我慢しながら。

 

 

(それで余裕がなくなって、七賢人に隙を付け込まれた……ということなのだろうか。 だとしたらブランに全く責任がないわけじゃないが……余りにもあんまりだろう……)

 

 

少しずつだが、背後関係が浮き上がってきたのかもしれない。

周りに助けてくれる人がいなかったブランは、ルウィーと国民という自分の大切なものを守るためあらゆるものに手を出さざるを得なかった。

勉強にも、七賢人との取引にも。そう考えると、尚更ブランという少女にどうしてもやるせなさを感じてしまう白斗だった。

 

 

(……っと、掃除はキッチリしとかねーと。 仕事不十分で即刻クビ、なんて笑えないからな)

 

 

その後も白斗は掃除を続けながら情報収集を可能な限り行った。

因みに掃除に関しては、過去の父親に強制された経験から割と手慣れている部類であり、少し埃っぽかった書庫の空気も一転した。

 

 

「ふぅ……どれだけ掃除されていないのやら。 ブランも相当我慢してただろうな……」

 

 

さすがに汗が噴き出るほどの重労働となってしまった。

流れ出る汗を拭いながら、それでも白斗は書庫を綺麗にしたことによる充足感を得ている。

やはりこの男、社畜のきらいがあるのかもしれない。

 

 

「……あれ……? 今日の書庫、綺麗になってる……。 貴女がしてくれたの?」

 

「! ブラン様、おはようございます。 僭越ながらこの白子がお掃除させていただきました」

 

 

そこへ入ってきたのは、他でもないこの国の女神。ホワイトハートことブランだった。

やはり基本的な顔立ちは恋次元と一緒だが、来ている服は巫女服のような和服。そして紅葉を思わせる赤と雪のような白を織り交ぜたデザインである。

履物も下駄であるなど、この国に合わせたスタイルだった。

 

 

「貴女、新人さん……? なのに、この書庫をこんなにも綺麗に?」

 

「ええ、私お掃除は得意ですし。 何より埃っぽいと本が可哀想ですしね」

 

「あら、貴女も本が好きなのね。 ありがとう、お蔭で私もゆっくり本が読めるわ」

 

 

読書家として最高の回答を貰えたブランは上機嫌だ。

だがそう言いつつも手に取ったのはやはり国営に関する本。

ここまで勉強尽くめなのは、新興国であるラステイションの建国や勢いを増しているプラネテューヌに対する焦りなのかもしれない。

 

 

「ブラン様、失礼ですがこんな朝早くからお勉強ですか?」

 

「ええ、こういう時間じゃないと出来ないし……。 ……女神だから」

 

「……そうですか……。 でしたらまた後でお茶をお持ちしますね」

 

「いえ、いいわ。 少ししたら執務室に籠らないといけないから」

 

「畏まりました。 また何かあればお申し付けください」

 

まだ朝も早い時間帯。ネプテューヌなどはまだぐっすり寝ている時間帯であるにも拘らず、こんなにも小さな少女が女神であることを理由に勉強のために時間を費やさなければならない。

彼女の本当の姿を少しみたことで白斗の遣る瀬無さは更に大きくなっていく。

 

 

(―――さて、あれから時間が経ったワケですが。 そろそろブランは執務室か……なら覗かねばならない。 ブラン、ゴメンな)

 

 

言葉だけ聞くとまさにスパイそのもの、しかし白斗は潜入捜査のために教会に潜り込んだのだ。

真相を得るためにもやらなければならない。心の中でブランに謝りつつも、掃除の際に得ていた情報を元に天井裏に忍び込み、執務室の真上に到達する。

和風な造りだけあって、気分はスパイというよりも忍者であったが天井の板を少しだけずらせば、その姿が見えてきた。

 

 

(あれはブラン……それに大臣、か。 仕事の話をしている……がどっちも苦い顔してんなぁ)

 

 

眼下にいたのはブランと大臣。

二人が話すようなことと言えば仕事以外にない。だが、その表情に苦々しさから芳しいものではないことだけは伝わってくる。

全神経を集中させ、聞き耳を立ててみると。

 

 

「シェアも国民も、徐々にラステイションとプラネテューヌに取られておりますな。 ゲーム産業については『目新しさがない』という意見も続出しており……」

 

「………………」

 

(うーわ……聞けば聞くほど不機嫌になっていくブラン……大臣も可哀想だな、これ)

 

 

朝一番からブランにとって一番聞きたくない報せであろう、それを耳にしたことでブランの顔は明らかに重くなっていった。

ただここで大臣に怒るのも筋違い、ブランは必死に怒りを堪えている。

 

 

「ルウィーがこの先、生き残るためには……やはり何か新しいものを作らねばなりません。 国民の目を惹くような……」

 

「……そうね、その通りかもしれない」

 

「? お、お言葉ですがブラン様……今までしたら一蹴されていたのに……」

 

「……さすがに現状維持で解決できるとは思っていないわ」

 

 

とはいうものの、ブランは以前不機嫌のままだ。

彼女の様子から見るに自分なりの考えで国民を思っての国家運営をしていたが、それが国民には良く思われていなかったということなのだろう。

それをまざまざと見せつけられ、ショックを受けている―――無理もない話だ。

 

 

「そう、ですか。 でしたら七賢人の件……如何いたします?」

 

(七賢人……!! ブランも、その存在を認知してたってことだよな……)

 

 

だが、ここである意味聞きたくもあり、同時に聞きたくもない情報が飛び出してしまった。

七賢人―――その単語が耳に飛び込んだ瞬間、さすがの白斗も固唾を飲んでしまう。

 

 

「……分かってるわ。 貴方の方で話を進めて置いて頂戴」

 

「畏まりました」

 

「ただし、分かってるとは思うが……国民に迷惑をかけるような真似だけはするんじゃねーぞ。 分かってんだろうな……?」

 

「も、勿論です」

 

 

七賢人と話し合いの場を設けている―――つまり、これは取り引きであることに他ならない。

ただ、彼女は国民を守ることを宣誓させていた。

その迫力は、ただ怒りっぽい彼女だからこそ出せたものではない。国と国民を愛しているからこそ出せるものだった。

 

 

(……全ては国を守るためだった、ってことか……)

 

 

七賢人との繋がり、その致命的とも言える証拠を白斗は握ってしまった。

けれどもそれら全てを悪と断ずるほど、白斗は単純でもなかった。寧ろその逆、ブランの想いを知ってしまったからこそ、悪だとは言い切れなかった。

 

 

(……なら、俺に出来ることは……)

 

 

目を伏せた白斗。だが次に見開いた彼の目には、決意の炎が灯っていた。

―――それから小一時間して、大臣が退室した後。執務室の襖がノックされた。

 

 

「……はい?」

 

『ブラン様、お疲れ様です。 お茶とお菓子をお持ちしたのですが……』

 

「その声……新人のメイド? 確か白子だったかしら……いいわ、入って」

 

『失礼します』

 

 

入室が許可されると、襖を開け、丁寧に一礼。開かれた襖の向こうにいた白子こと白斗は、左手一本で数々の茶器や茶菓子を乗せたトレーを手にしている。

足音は愚か、移動の震動でも茶器が擦れる音すら立てず、丁寧な所作でブランの目の前にティーセットを並べていく。

 

 

「……驚いたわ。 新人なのに、まるでパーフェクトメイドね」

 

「ありがとうございます。 師匠にみっちり仕込まれたもので」

 

「そうなの……。 会ってみたいわね、あなたのお師匠さんに」

 

(こっちのベール姉さんなんだけど……爆乳故にまーた苛立つんだろうなぁ……)

 

 

紅茶を注ぎながら、そんなことを考えていた。

やがてブランの目の前に差し出されたカップに鮮やかな色合いの茶色が広がり、心安らぐ優しい香りが広がる。

 

 

「……いい香りね」

 

「カモミールティーでございます。 お菓子のスコーンと一緒にご賞味ください」

 

(スコーン……白斗にお土産で手渡されて以来ね)

 

 

このルウィーは和の国だ。故に食べられるお茶やお菓子も和風に限定されがちだ。

おまけに他国を敵視している関係上、輸入に頼ることも出来ず、結果スコーンという洋菓子など口に出来る機会もなかった。

どこか心を躍らせつつ、まずは乾いた喉を潤すため紅茶を一口―――。

 

 

「…………え?」

 

「どうかされましたか? お口に合いませんでした?」

 

「い、いえ……美味しいけど、このスッキリとした後味……」

 

 

美味しい。確かに紅茶は美味しいのだ。

紅茶素人の自分でも分かるくらいに美味しい。けれど、この後味は―――。

 

 

「ああ、それですか。 紅茶自体はごく普通のものですが、カップの淵に柑橘類から搾った汁を塗っておりまして。 それが爽やかな後味を残すのです」

 

(あの日の……白斗と、同じ淹れ方……!?)

 

 

ふふ、と得意げに笑うメイドにある予感を覚える。

似ている、酷似している、似通っているという次元の低い話ではない。全く同じなのだ。

あの日の邂逅で、彼が自分達のために淹れてくれた紅茶―――それと全く同じ淹れ方に。

 

 

「スコーンもどうぞ。 乾きものですから、紅茶との相性抜群ですよ」

 

「……え、ええ……」

 

 

勧められたスコーンを、戸惑いながらも一口。

―――けれども、やはり同じ味だった。あの日、手土産で渡されたスコーンと全く同じ味。

間違うものか、あの後気に入ってしまってじっくり味わっていたのだから。

そして、全く同じ味を出せる人など、一人しかいない。

 

 

 

 

「…………貴方、どういうつもりなの? 黒原白斗……」

 

 

 

 

少しだけ声を低くし、視線を強める。

睨まれたメイド白子こと白斗はこれ見よがしに肩を竦めると、甲高くしていた声色を元に戻して。

 

 

「あーあ、バレちまいましたか」

 

「ワザとバラしたんだろ……? どういうつもりかって聞いてんだよ……」

 

「すみません、潜入調査してました」

 

「……ッ! そんなことを聞いてんじゃねぇ!! 潜入調査なら、なんで自分から正体バラすんだよ!? しかも一日目で!!」

 

 

思わず素が出てしまったブラン。

だが、そこに込められているのは怒りではない。寧ろ戸惑いの方が大きかった。

まだ信頼関係が築けているわけではないので、裏切られたという感覚は小さい。しかし、解せないのもの事実だった。

 

 

「望んでいる答えは手に入った。 これが一つ」

 

「……もう一つは?」

 

「……どうしても、伝えられずにはいられなかったんだ。 貴女に」

 

「わ、私に……? 何を……」

 

 

思わず聞き返してしまった。

すると白斗は顔を俯かせながら、言葉を絞り出している。

 

 

「今回の潜入の目的は、ルウィーと七賢人の繋がりを調べること。 そして結果はクロだった」

 

「………………」

 

「正直、ネガティブな感情があるけれど……でも、どうしても俺……貴女の事が嫌いになれない。 憎いわけでも、怒っているわけでもない……ただ、悲しいって思ったんだ」

 

「か、悲しい……? 誰、が……」

 

「貴女が、です」

 

 

七賢人との繋がりは、否定できない。

物証を持たれているわけではないが、確信を得られてしまっている以上ブランはただ黙っていることしか出来なかった。

けれども、白斗の口からは怒りなどではなく、ただ悲しみだけが出てきた。

 

 

「お節介なのも分かる。 偽善だのなんだの言われても仕方がない。 ただの自己満足でしかない。 でも、俺は……それを伝えたかった。 それだけ、です」

 

「……そんなことのために、わざわざ……正体を明かした、の……?」

 

「ええ。 ただ、俺はネプテューヌとプルルート、ノワールの仲間です。 この情報は持って帰らないといけない……。 それでも、貴女が嫌いになれなかった」

 

 

これが、白斗の偽らざる思いだった。

ほんの数時間しかブランを見ていないが、それでも彼女が根っからの悪人だと断ずることなどやはりできなかった。

単なる自己満足でも、偽善でも、それを伝えたかったのだ。

 

 

「以前仰らせていただいた通り、俺には貴女の苦悩全てを理解するなんて出来ない……。 でも、それでも貴女なりの考えで国を守ろうとしたことは分かりました」

 

「………………」

 

「ホント、分からないモンですよね。 自分がどれだけ必死にやっても、周りには伝わらないで、周りは言いたい放題で」

 

「…………ホントに、ね」

 

 

少しだけ寂しそうに、けれどもブランは言葉遣いを戻して、そう呟いた。

今まで女神として他者に弱みなど見せられなかった彼女の―――本当の姿が少しだけ、見えた気がした。

 

 

「小説なんかでもそうですよね。 単なるアンチだったり、読解力の低い人が勝手な解釈や風変わりな読み方して、見当違いなコメント残したり……」

 

「ああ、全くだッ!!」

 

「何故そこだけ力強い同意が!?」

 

「あ、き、気にするな……。 続けてくれ……」

 

(……こっちの世界でもラノベ書いたりしてるんかね?)

 

 

それはさておき、コホンと咳ばらいを一つした白斗が改めて向き直る。

 

 

「……だから、貴女にも偏見とかが付きまとっているかもしれない。 でも、俺は……貴女が悪い女神だなんてどうしても思えなかった。 それだけは……伝えたかった」

 

「……ふふっ、貴方……馬鹿ね。 それでお人好し」

 

「そうでしょうか? 案外、人殺しの悪人かも知れませんよ?」

 

「少なくとも、単なる悪人じゃないわ。 私にとっては、ね」

 

 

自分にとって致命的な秘密を握られたというのに、ブランは少しだけ心が軽くなった。

弱音を、本音を少し見せたからだろうか。

 

 

「……それで白斗、貴方が来ているということは他の女神達も来ているのね?」

 

「ええ。 先日の七賢人の破壊活動にルウィーが関与しているかもってノワール……ブラックハート様がカンカンでしてね」

 

「それでわざわざ抗議に来たってワケね」

 

「そういうことです。 ……俺はこれからこの情報を持って帰ります」

 

「……きっと、私は貴方を捕まえられないのでしょうね」

 

「まぁ、逃げることが取り柄ですし。 それにあなたが悪い人ではないとは言いましたが、全く責任が無いワケでもないとも思っていますので」

 

「ハッキリ言ってくれるのね」

 

「ま、そこは公私の分別付けないと」

 

 

つまり、女神の付き人たる白斗の立場としては今回の件は苦々しいと思っているが、個人の白斗としてはブランを悪く思っていないということだ。

単純な味方ではない。けれども、自分の事を理解しようとしてくれている人がいる―――それが孤独だったブランの心に、深く突き刺さった。

 

 

「……そうだブラン様、今回の手土産にこの紅茶とスコーンと……それからこの本を」

 

「これは……本? やたら古びているけど……」

 

「俺の大好きな物語、『女神と守護騎士』です。 面白い本なんで、是非読んでもらいたい」

 

 

紅茶やスコーンと共に渡された一冊の本。

それはこの世界に飛ばされても尚、白斗が後生大事にコートに仕舞い込んでいた本、『女神と守護騎士』という物語だった。

 

 

「え……い、いいの? 確かに興味惹かれるけど……」

 

「勿論。 ただ、勘違いしないで欲しいのはこの本は上げるんじゃなくて“貸す”だけです」

 

「貸す……?」

 

「そ。 貸したんだから、ちゃんと返してくださいよ? そして返すためにも……」

 

 

白斗は差し出した『女神と守護騎士』をブランの小さな手に握らせる。

そして優しく微笑むと。

 

 

 

 

「……お互い、今回の一件にケリ付けて……気軽に貸し借りできる関係でありたいですね」

 

「…………ええ、そうね……」

 

 

 

 

―――そんな彼の願いに、ブランは小さく頷いた。

 

 

「……紅茶や本のお礼よ、貴方の事は追わないわ。 抗議についても午後からなら時間が出来るから、その時に来なさい」

 

「ではありがたくそうさせてもらいます」

 

「……だが、私はこの国の守護女神なんだ。 謝りはしねぇし、尚更他国に舐められるワケにもいかねぇ。 来るなら、相応の覚悟をして来い」

 

「……ちゃんと伝えておきます」

 

 

白斗の思いも、ブランは感じてくれた。

一方で女神としての立場がそれを許さなかった。白斗に危害は加えないが、もしこの教会に女神が足を踏み入れれば、彼女達には相応の対応をする。

やはりか、と苦虫を嚙み潰したように渋面を作りながら白斗はその身を翻した。

 

 

「……それに……」

 

「それに?」

 

「……何でもねぇ。 いいからさっさと行きやがれ」

 

「分かりました。 あ、午後までにその本読んでおいてくださいよ」

 

「……分かったよ」

 

「良かった。 ……では」

 

 

今度こそ、白斗は出て行ってしまった。といっても扉からではなく、天井裏から。

ここまでの手際の良さから、きっと追手を出したとしても巻かれてしまうだろう。

尤もブランは約束を違える気など、全く無かったのだが。

 

 

 

「……プラネテューヌを倒したら、シェアも、あいつも……手に入るのかな……って何言ってんだ私はぁ!!?」

 

 

 

―――あの時、つい口に出さなくてよかった。

そう思わずにはいられないホワイトハート様でありました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――やっぱりルウィーの仕業だったのね!!?」

 

 

それから小一時間後、宿屋にて。

早くも潜入活動から帰還した白斗の報告に、ノワールが吠えた。

因みに白斗の隣は、しっかりとネプテューヌとプルルートによって固められている。

 

 

「落ち着け。 確かに七賢人はルウィーとの接触があったが、ラステイションでの破壊活動を指示した訳じゃない」

 

「そんなの嘘に決まってるでしょ!! やっぱり何もかもあの幼女女神の……」

 

「ノワールちゃん~……? 少しは白くんの話を聞こうね~……?」

 

「あ、ハイ。 ス、スミマセンデシタ……」

 

 

暴走しがちなノワールの抑止力はプルルートが。

彼女が陰りを帯びながら微笑めば、恐怖が蘇りノワールは大人しくなってくれる。

 

 

「サンキュ、プルルート。 ……ただまぁ、抗議する必要はあるだろうが手荒な歓迎が待ってるかもよ。 どうする?」

 

「私は行くわよ。 今日をルウィー最後の日にしてやる!!!」

 

「あーもー、ノワールが危ない人になってるなぁ……。 仕方ないから私もついていくよ」

 

「ねぷちゃんとノワールちゃんが行くならあたしも~」

 

「なら、俺も一応ついていこう。 言っておくが、戦闘はあくまで最後の手段。 まずは交渉担当の俺が通す。 ……いいな? 特にノワール」

 

「分かってるってば」

 

 

そして午後からの抗議についてはやはり参加することになった女神達。

ほぼほぼノワールについていく形になるが、仕方がないと白斗も重い腰を上げた。可能ならば不要な戦闘は避けたいところ。

そのためにも舌も手も頭もフル回転させるつもりでいる。

 

 

「あ、お待ちになって。 私もよろしいかしら?」

 

 

と、ここで名乗りを上げる女性が一人。

 

 

「ベール、まだいたの?」

 

「いますわよ最初から……メタ発言はやめてくださいまし」

 

「すんません、この子メタ発言がトレードマークみたいなもので……。 それで、理由は?」

 

「いえ、これも後学のためですわ。 それに女神同士の会談を見られるなんて中々あるものでもありませんし。 勿論、手も口も一切出しませんから」

 

「……分かりました。 なら今回の情報提供のお礼という形で」

 

「ありがとうございます。 ふふ、白斗君は話が分かるお方で助かりますわ♪」

 

 

ベールもついていきたいと言い出したのだ。

明らかにノワールは目で「反対!」と言ってはいるものの、白斗は悩んだ末に同行の許可を出した。

これにはさすがのネプテューヌも首を傾げたらしく、白斗を引っ張って部屋の隅に連れ出す。

 

 

(白斗、いいの? ベールのことだから、なーんか裏があるっぽいけど)

 

(裏でコソコソされるより、近くに置いた方が安心できるかと思いまして)

 

(あ、なるほど)

 

 

物凄く納得できる理由だった。

あっと言う間に納得したネプテューヌは白斗を解放し、宿屋を後にする。

 

 

「さぁ、目指すはルウィーの教会よ!! 覚悟しなさい、ルウィーの女神!!」

 

(明らかに武力行使する気満々だな……はぁ、どうなることやら……)

 

 

完全に抗戦するつもりでいるノワールに、白斗だけではなくネプテューヌとプルルートも呆れ気味だ。

一抹の不安を抱えながら、寒さの残る街道を歩いていく。目指すは城のように荘厳に聳える建物、ルウィーの教会だ。

 

 

 

 

 

 

 

―――そして、その天守閣から見下ろしている少女が一人。

 

 

 

 

 

 

 

「……やはり来るかよ。 いいぜ、見せてやる……この世界にあるべき女神の力を。 どちらが不要で、どちらが必要とされているかをな……!」

 

 

 

 

 

 

 

言葉を強めながら、その少女―――否、女神は覚悟を決めたのだった。

激戦となる、覚悟を。




サブタイの元ネタ「突撃!隣の昼ご飯」

ということで今回はルウィーへ行くお話でした。
このままVSブランとのお話に行くには余りにも駆け足過ぎるんじゃないかなということでワンクッション入れることに。
そしてどちらかというと白斗がただただ被害を被ったお話でした。(
が、実はあいつも何だかんだで女装を楽しんでいるんじゃなかろうか。やはり業は深い。
余談ですが神次元のブランってノワール以上に孤独だったと思うのですよ。それをより深く描写出来ればなと思い、今回のお話に組み込んでみました。
因みにぼっちという表現は使いません。だってあれはノワールの専売特k(殴

さて、次回こそいよいよVSブラン。
黒と白の女神の激突が齎す、ルウィーの未来とは……。次回「白黒付ける時」、どうかお楽しみに!
感想ご意見、お待ちしております!!
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