恋次元ゲイムネプテューヌ LOVE&HEART   作:カスケード

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突然ですが、番外編やります。
何故このタイミングでこのお話なのか。是非とも読んで、ご理解いただき、そして楽しんでいただければ幸いです。
因みに時系列に関しては考えるな、感じろ。それではどうぞ!


番外編その3 I'm happy to see you

―――これは、白斗がゲイムギョウ界に来てかなりの月日が経った頃のお話である。

 

 

「ん……ふぁぁ~……ね~ぷぅ~……」

 

「おいおい、随分と眠そうだなネプテューヌ。 もう朝の九時だってのに」

 

 

このプラネテューヌの守護女神、ネプテューヌが眠そうに眼を擦っていた。

目の下に隈を張り付けており、明らかに寝不足である。

隣で書類を纏めていた異世界から来た少年―――黒原白斗も心配そうに顔を覗き込んだ。

 

 

「わひゃぁ!? ち、近いよ!?」

 

「こうしなきゃ良く見えないだろ。 ……つーかここんところ、常に寝不足だな。 夜更かしでもしてるのか?」

 

「んー……まぁ、そんなトコー……」

 

(夜更かししてまでゲーム……にしてはいつもと様子が違うような?)

 

 

ネプテューヌが夜更かしをすることは割と日常茶飯事だ。

大抵その内容はゲームか、深夜アニメかのどちらかである。

いつもなら夜更かしなど悪びれず、ゲームやアニメの内容を嬉々として語っているのだが。

思えば夜更かしの理由を尋ねても曖昧な返事しか来ないのも気掛かりだ。

 

 

「あ、お兄ちゃん。 おはよ……ふぁ…………」

 

「おう、ネプギア。 おはようさん……ってお前も夜更かししたのか?」

 

「んー……まぁ、そんなトコー……」

 

「姉妹揃って同じ返しを……」

 

 

そこへフラフラと現れたのは、この国の女神候補生にしてネプテューヌの妹ことネプギアだ。

不真面目なネプテューヌの妹とは思えないほど真面目で、とても素直な良い子なのだが、彼女も珍しく夜更かしをしたらしく、欠伸をしては目尻に涙を浮かべていた。

 

 

「ネプテューヌかユニに夜通しプレイでも誘われたのか?」

 

「ううん……それとは別件……」

 

(別件……にしては二人揃ってというのが腑に落ちんが……)

 

 

姉妹揃って何かしているのだろうか。だが、こんなところで嘘をつくようなネプギアではない。

夜更かし自体は認めているので、これ以上嘘のつきようもないのだが。

そんな二人は今にも落ちそうな意識を何とか保ちつつ、朝食を食べ終えると。

 

 

「ふぁぁ~……そろそろクエスト、行かなきゃ……」

 

「私も……付き合うよ、お姉ちゃん……」

 

「お、おい? ここ最近のお前達大丈夫か? ネプギアはともかく、ネプテューヌがここまでクエストに精を出すとは……」

 

 

そう、最近の二人はとにかく様子がおかしい。

ネプギアは真面目な子なので仕事の一環としてクエストはよく引き受けていたが、仕事嫌いで有名なネプテューヌすらもクエストに励んでいたのだ。

それが何日も続いているので白斗としては異常状態だと感じざるを得ない。

 

 

「とにかく、そんな疲れ切った体じゃ心配だ。 俺も一緒に……」

 

「ダメ! これは私の力でやらなきゃダメなの!」

 

「お姉ちゃんの言う通り! お兄ちゃんは家でパフェでも作ってくれたらそれでいいの!」

 

「相手を慮るようで割と図々しいお願いだな……。 別にいいけど……」

 

「それじゃー、よろしくねっ! 行こ、ネプギア!」

 

「うん! それじゃ行ってきます!」

 

 

朝食を食べ終えたことでようやくエンジンがある程度かかったらしい。

少々エネルギッシュにネプ姉妹はプラネタワーを飛び出していった。

 

 

「……イストワールさん、何なんですかアレ」

 

「さぁ、何でしょうね」

 

 

同じく朝食を食べ終えたイストワールに訊ねるも、彼女は知らぬ存ぜぬと返す。

のだがどこか含み笑いをしており、事情は知っている模様だ。

 

 

「あ、そうです。 白斗さん、明日ですけれど何か予定は?」

 

「いえ、今のところは特にありませんけど」

 

「そうでしたか。 もし予定が入っていれば教祖権限でそれらをキャンセルさせなければならないところでした」

 

「ちょっと教祖様? 職権乱用はよろしくないと思うんですけど?」

 

 

いつになく強引なイストワールだ。

清楚な微笑みを浮かべている分、迫力があるからタチが悪い。

そんな彼女の謎の迫力に気圧されつつも、とりあえず手が空いていることを伝えるとイストワールも一安心したかのように頷いた。

 

 

「それで、何かお仕事ですか?」

 

「ええ。 と言ってもモデルのお仕事です。 色んな服を着ての写真集を出したいと」

 

「モデル!? 写真集!? ちょ、なんで俺なんかが!?」

 

 

大袈裟なまでに白斗は飛びのいた。

あがり症という程ではないが、それでも白斗はモデルのような人前に姿を晒すことをどちらかといえば好まない。

そもそもネプテューヌ達女神様ならアイドルのような存在として取材を受けたり、写真集を出したり、特番を組んでのテレビ出演も多々あるが、白斗はあくまで立場上は女神様達の一部下でしかないはずだが。

 

 

「何を仰ってるんですか。 ツネミさんや5pb.さんのライブに出演したり、以前行った映画撮影にその後の活躍もあったりと……知名度が無いワケがないでしょう」

 

「う……で、でもライブは時たまだし、本職じゃないし……」

 

「それを言い出すならネプテューヌさん達もです。 とにかく、これもネプテューヌさん達のためだと思ってお願いしますね」

 

「うぐ……! それを言われると弱いんですよ俺……」

 

 

ネプテューヌ達のため、それは女神に尽くす白斗にとって絶対の力を持つ言葉だった。

無論、明らかに騙そうとしている魂胆なら白斗は持ち前の勘でそれを見抜き、断るか逆に騙そうとした相手を懲らしめるのだが相手はイストワール。

信頼している相手から、説得力のある説明をされては断れるはずもなく引き受けてしまうののだった。

 

 

「お願いしますね。 それと今日の午後入っていた打ち合わせの件ですが、先方の都合でキャンセルになりましたので白斗さんは午後から上がってくださって大丈夫ですよ」

 

「そうなんですか? でも暇ですし、何かあれば手伝いますよ」

 

「最近の白斗さんは働き詰めです。 たまにはゆっくり羽を伸ばしてください」

 

「……分かりました。 なら、お言葉に甘えて」

 

 

少々腑に落ちなかったが、ここで意地を張ろうとするとイストワールが怒ってくるのだ。

ならばここは素直に引き下がるのが得策。

さて、これでも手際は良い白斗。与えられた書類仕事も片付け、ネプ姉妹の要望通りパフェの下拵えも終わらせば、本格的に暇を持て余してしまう。

 

 

「はーあ。 どうするかねぇ……」

 

 

こういう時、白斗は時間の使い方が分からない。

元の世界では幼少期より姉の世話を強要され、成長するにつれ傲慢な父親に姉と自分の心臓を人質にされたことで様々な命令を強いられてきた。

そして、この世界では―――もちろん、白斗自身が望んでだが―――自分を救ってくれた大切な女の子達のために生きている。

そう、この男の人生は徹頭徹尾「他人のために生きてきた」と言っても過言ではないのだ。

そんな白斗が急に一人で過ごせと言われても、時間の使い方など思いつくはずもなかった。

 

 

「……誰かと遊ぶか。 そうだな、アイエフやコンパなら今日は仕事無いって言ってたし、誘えば来てくれるかな」

 

 

一人で遊ぶという発想が出ない以上、身近にいる誰かと過ごすことにした。

まずプラネテューヌにいる仲の良い人物、と聞いて真っ先に思い浮かんだアイエフとコンパ。

電話を掛ければ、すぐに出てくれた。

 

 

『もしもし、白斗どうしたの?』

 

「おう。 実は俺、午後から暇になったんだ。 で、アイエフやコンパの都合が良ければどこか遊びにでも行かないかって思ってさ」

 

『ありがとう。 でもごめんなさい、私達は逆にちょっと用事が出来ちゃったのよ』

 

「達、ってことはコンパもか。 悪いな、邪魔して」

 

『いいわよ。 また誘ってね、それじゃ!』

 

「おーう。 ……はぁ、二人がダメとなると……ベール姉さんとネトゲでもするか。 この時間帯なら多分、いつも通りゲームしてるだろうし」

 

 

アイエフやコンパは比較的、白斗からの誘いに乗ってくれることが多いのだが今回は空振りに終わった。

ならばとこの世界における白斗の姉さんことリーンボックスの女神、ベールに声を掛けることに。

普段はベールの方からネトゲの誘いが多いので、こちらから誘えばほぼ確実に付き合ってくれるだろう。そう踏んで連絡してみることに。

 

 

『もしもし白ちゃん? どうされましたか?』

 

「ん? その声色……女神化してるの?」

 

『よくお分かりになりましたね。 実は今、クエストの最中でして』

 

「そっちもか。 いや、午後から暇になるからネトゲに誘おうとしたんだけど……都合悪いならまた日を改めるよ」

 

『ごめんなさい、そうしてくれると助かりますわ』

 

「いいって、それじゃ。 ……はぁー、姉さんもダメ……ツネミや5pb.はライブやってるって言ってたしなぁ……」

 

 

ベールに電話を掛けてみたものの、どうやら彼女も仕事中らしい。

仕事に勝るものなし、白斗も強引に誘うこともなく会話を打ち切った。

彼女もダメとなると、プラネテューヌやリーンボックス方面での知人は全滅だ。

 

 

「ぬ、ぬぬぬ……! こうなりゃヤケだ!! 誰か一人くらいはツモれるだろ!!」

 

 

何故か意地になってしまった白斗は携帯電話を取り出し、知人に片っ端から連絡してみることにした。

下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる、そんな言葉を信じての行動だったが。

 

 

「ブラン? 午後から時間あったりする?」

 

『……ごめんなさい白斗……今、追い込まれてるのよ……』

 

「うお!? 地獄のように低い声!?」

 

『徹夜しててね……。 後……後もう少しで……』

 

「す、すまんかった!! んじゃ……」

 

『一応言っておくけど、ロムとラムもダメよ。 あの二人も大切な用事があるから』

 

「おうふ! さ、先回り……」

 

『それ、じゃ…………ガクッ』

 

「ぶ、ブラン!? 起きろブラン!! 寝るならせめてベッドに……ああもう! ミナさんに連絡して寝かせてもらわないと!」

 

 

こんなひと騒動があったものの、ルウィー方面は全滅。

落胆と疲れも隠せず、それでも白斗は次なる知人に連絡を取ってみる。次に選ばれたのはラステイション方面。その国の女神候補生こと、ユニだった。

 

 

『白兄ぃ? 何か用事? 悪いけどこれからネプギアとクエストに行かないといけないから、手短にしてもらえると助けるんだけど』

 

「あ、ネプギアと一緒の予定だったのか……。 悪い、ならいいや」

 

『そう? それじゃまたね』

 

「ああ、それじゃ……。 むむむ……なら次はノワールだ! 仕事中だろうけど、いつもみたいに手伝いって言えば……」

 

 

ユニも会えなく却下。となれば彼女の姉にしてラステイションの女神、ノワール。

彼女は最も仕事に真面目な女神であるため遊びの誘いは中々受けてくれないが、白斗が手伝うと言えば何だかんだで許可してくれるのだ。

今回もその手で乗り込もうと思ったのだが。

 

 

『もしもし白斗!? ごめんなさい、仕事の手伝いだったら来なくていいわよ!』

 

「だからなんで先読みしてんの!?」

 

『イストワールから連絡があったのよ。 白斗が暇になるからそっちに行くかも知れないって』

 

「グググ……!」

 

『とにかく折角のお休みに仕事なんかさせられないわ。 私のことなら大丈夫だから、白斗は自分の時間を大切にしなさい。 それじゃっ!!』

 

「あ、ああ……。 お、おのれ……こっちもダメか……」

 

 

こうしてこのゲイムギョウ界が誇る四ヶ国は全滅となった。

残る知人はどこにも属していない女の子達となるのだが。

 

 

「よぉマーベラス。 もし良かったらだが午後から……」

 

『ご、ごめんね白斗君!! 私、今手が離せないの!』

 

「……さいですか。 な、ならプルルート……」

 

『おかけになった電話の相手は、現在お昼寝中です。 御用の方は日を改めて……』

 

「留守電まで徹底してんのかよ!? つーか日改めるとか長すぎるだろお昼寝!?」

 

 

あらゆる相手に掛けてみたものの、無しの礫。

結局この日は一人で過ごす羽目になった。

 

 

「……なーんか皆、最近付き合い悪いな。 いや、偶然なんだろうけどさ……」

 

 

そう。ここ最近の彼の知人たちは皆、時間が合わなかったり、予定が入っていたりと白斗と行動を共にすることが少なかったのである。

皆事情があると頭では理解しても、やはり心では寂しいと感じる白斗だった。

 

 

(こういう時は大抵サプライズパーティーが定番……でも俺、誕生日が近いワケでもないし)

 

 

ゲームや漫画等を通じて、そういう「お約束」があるのは理解できた。

だが白斗の誕生日が近日にあるわけでもない。故にここまで引き離される理由が全く思い浮かばなかった。

そして考えれば考えるほど、纏まらずに逆に調子を崩していくような気さえしてくる。

 

 

「……ゲーセンにでも行くか」

 

 

これ以上悩んでも仕方がないので、一人でプラネテューヌの街を歩くことにした。

プラネテューヌは今日も相変わらず晴天で、平和そのもの。街行く人たちもいつも通りの日常を、いつも通りに過ごしている。

だからこそ、一人悶々としている白斗は浮いているような感覚を覚えていた。

 

 

(……いつもだったらネプテューヌやネプギア……いや、誰かが隣にいてくれてるのに……)

 

 

ふと、寒ささえ感じる自分の隣を見た。

いつもならば誰か(主にネプテューヌ)が傍にいてくれた。遊びにせよ、仕事にせよ。彼女達に引っ張られたり、逆にこちらが連れて行ったり。

表面上は呆れていても、内心は嬉しかった。けれども今、それが無い。

 

 

(……何考えてんだろうな俺は。 別に蔑ろにされてるわけでもないし、夜になればまた会えるっていうのに……)

 

 

寂しさを自覚したのは確かについ最近のことだが、それでも白斗と少女達の仲が悪くなったわけでないことはよく分かっているつもりだ。

夜になれば皆で食卓を囲み、楽しく談笑もする。その瞬間、白斗の心は確かに安らいでいる。

 

 

「……あれこれ考えても仕方ない、か。 今日は憂さ晴らしにゲーセンの記録を塗り替えてやるとしますかね」

 

 

そうこうしているうちにゲームセンターの前へと来てしまった。

正直気乗りはしなかったが、引き返したところで無聊を囲うだけ。ならば少しでも気を紛らわせたいという一心で自動ドアを潜り抜ける。

 

 

 

 

 

 

―――その後、白斗は割と好調なスコアを叩き出して周りの注目を集めた。

のだが、ちっとも心に響かなかった上に―――まったく楽しくなかった。

 

 

「……もうこんな時間か。 そろそろ帰るか……ん? 着信……イストワールさんからだ」

 

 

震える携帯電話を取り、相手を確かめると表示されたのはこの国の教祖様。

彼女自ら連絡を掛けてくる時は重要な案件であることが多い。

先程までの鬱屈とした表情も消え、真剣さを帯びた表情で通話に出る。

 

 

「もしもし、イストワールさんどうされましたか?」

 

『ああ、白斗さんすみません。 晩御飯なんですけど外で食べてきてもらえないでしょうか?』

 

「え? 別に構いませんけど……どうしたんですか?」

 

『……その、ネプテューヌさんがお料理してたんですけど……鍋は焦げ、フライパンは文字通りひっくり返り、レンジは爆発……』

 

「本当に何があったっ!!?」

 

 

何があったかと思えば外食してきて欲しいという要請だった。

少々肩透かしを食らったが、一応理由を尋ねると想像を絶する惨状になっていたらしい。

しかもその原因がネプテューヌにあるというから更に驚きだ。

 

 

「何故そんな大惨事に……あいつ、そんな料理下手じゃないはずなのに……」

 

『それが連日の無理が祟って疲れがたまっていた様子で……』

 

「注意力散漫になってミス連発、と。 片付けなら俺も……」

 

『それはこちらで何とかしますから! 白斗さんは外食してきてください!』

 

「おわっ!? わ、分かりました……」

 

 

凄い剣幕で却下され、頷かざるを得ない。

勢いのまま通話を切ってしまった白斗だが、携帯電話から漏れ出る通話終了の効果音にまた寂しさがぶり返してしまう。

 

 

「……晩飯まで一人、かぁ。 ハァ……相当毒されてるなぁ、俺」

 

 

この世界に来るまで、寧ろ一人が当たり前であったはずなのに。

誰かから命令を与えれて、誰かのために生き、誰かのために死ぬことを強要されても彼の心は孤独そのものだった。

けれども、このゲイムギョウ業界に来てからそれは変わった。女神達に救われ、女神達と触れ合う内に白斗の心は孤独ではなくなった。

それが白斗にとって何よりも幸せで―――だからこそ、今の白斗には堪えるものだった。

 

 

 

 

 

 

 

「マスタ~ぁ……マンハッタン、もう一杯~……」

 

「おい坊主、ただでさえ未成年飲酒を咎めないでやってるってのにまだ飲む気か……しかも強ェのを……」

 

「浴びるほど飲みてェ時だってあるんだよぉ……ヒック」

 

「ったく、仕方ねェな……俺も付き合ってやるよ。 愚痴聞き上手のお前ェでも、愚痴りたい時くらいあるだろうしな」

 

「ありがとぉますたぁ~……」

 

「ハァ、もう呂律も回ってねェ……いよいよヤベェなコレは」

 

 

 

 

 

 

―――その後、ヤケ酒してきた白斗の帰りは日付を優に超えており、さすがにイストワールからしっかりと怒られたそうな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――次の日、白斗の気分は色々な意味で最悪だった。

 

 

「うぇ~……俺としたことが寝過ごしちまうとは……」

 

 

いつもなら早起きする白斗だが、昨日の深酒が祟って二日酔いとなってしまい、珍しく遅起きとなった。

脳内が鈍痛で響いている上、少し平衡感覚も崩れており、何よりも昨日は酒に頼っても寂しさが解消されることなど無かった。

それに加えて―――。

 

 

「……起きてみたら誰もいないんだもんなぁ。 メシは用意してくれてるけど」

 

 

いつもならば騒がしい食卓も、誰もいないということでガランとしてた。

机の上にはコンパお手製らしい、朝食がラップされていた上で置かれていた。しかも胃の消化に優しいおかゆである。

手紙も添えられており、柔らかくも丁寧な字で書かれていた。これはコンパの文字である。

 

 

『白斗さんへ 

 

おかゆを作ったので食べて欲しいです! 

これに懲りてもうお酒なんて飲んじゃダメですよ? 

それから今日は皆用事があるので不在になるです。

白斗さんもモデルのお仕事、頑張ってくださいです!

 

―――コンパより』

 

 

「……ありがとな、コンパ」

 

 

ちゃんと自分の事を想ってくれている。

それはこのコンパの手紙で感じることが出来た。少し心が軽くなった白斗はコンパお手製のおかゆを一粒残さず食し、片付けも綺麗に済ませた。

二日酔いの薬を飲んで、少し寝れば体調自体は幾分か回復する。

 

 

「……さて、昼飯は外で食って……それからお仕事に行きますかねっと」

 

 

起き上がればいい頃合い。

のっそりと起き上がった白斗は自身の体調を確認した上で外に出た。

プラネテューヌの街並みは昨日と何も変わらず、至って平和で、至って呑気だ。

けれどもこんな平和を作り上げているのは女神様―――それもネプテューヌなのだから、頭が下がる思いである。

 

 

(俺の世界じゃ、こんなに呑気な所なんて少なかったしなぁ……)

 

 

血生臭い世界に身を置いてきた白斗だからこそ分かる、平和の尊さ。

それを改めて実感しながらハンバーガーショップで軽く昼食を取った。因みに白斗の最近の拘りはベーコンなのだとか。

サクッと食べ終え、取材と撮影のために指定された場所に向かう。そこは、プラネテューヌで最も売れている週刊誌を出す会社のビルである。

 

 

「ようこそお出でくださいました、黒原白斗さん!」

 

「本日は取材を引き受けてくださり、感謝の極みです!」

 

 

出迎えてくれたのは二人の少女。

一人は金髪のポニーテール、ハーフパンツ、何より腰に提げている謎の人形が特徴的だ。

もう一人の少女は橙色のポニーテールで、王冠のような髪留めやスカートと相方と対照的になっている。

 

 

「どうも、こちらこそよろしくお願いします。 それで、貴女達が取材するんですか?」

 

「そうです! あ、申し遅れました! 私、デンゲキコといいます!」

 

「私はファミ通! 新進気鋭、今一番ホットなジャーナリストです!」

 

 

どちらも元気かつ爽やか、そして礼儀を弁えつつも快活さもある挨拶。

白斗はどちらかといえばマスコミ嫌いではある方だが、彼女達にはまだ好感が持てた。

―――のだが、デンゲキコとなる少女が突然ピクリと眉を持ち上げたかと思うと。

 

 

「むむ……? ちょーっとファミ通さん? ジャーナリストのクセに嘘は良くないと思うのですが?」

 

「嘘? 何のことかな? ジャーナリストとして真実を常に伝えているんだけど?」

 

「“今一番ホットなジャーナリスト”……? それは私のことです、今すぐ訂正してください」

 

「嘘でも何でもない、燦然たる事実だよ? ……ああ、デンゲキコさんの場合はアレかな? 炎上するジャーナリストという意味だったら一番ホットかも」

 

「……ふふ、抜かしてくれますね……。 今回の白斗さん特集も私が目を付けたところなのに、貴女は姑息に割り込んできただけですものね?」

 

「違うよ。 デンゲキコさんがインタビューだけ、なんて地味な発想するからそこに写真撮影っていう彩りを持たせてあげたんだよ。 着眼点はいいんだけどね」

 

(……え、何この空気。 この二人、険悪……っつーよりライバル関係なの?)

 

 

ピリピリとし始める二人の空気に白斗も目を白黒させる。

どうやら二人は所謂ライバル関係であるらしく、相容れない雰囲気を醸し出していた。

お互いを憎み合っているワケではなく、あくまで「良き好敵手」という関係なのがまだ救いか。

 

 

「……あ! すみません白斗さん、お待たせしてしまって! ファミ通さんが変なことを言いだすから……」

 

「いやいや、デンゲキコさんが変な言いがかりをつけるのが……」

 

「……お邪魔でしたら帰りましょうか、俺?」

 

「「すみませんでしたっ!!」」

 

 

また言い争いを始めそうになるので少しだけ声色を低くすると、二人がビクリを跳ねあがった。

それだけの迫力があったということだが、二人にはいい抑止力となったようでコホンと咳ばらいをする。

 

 

「では改めまして、私デンゲキコが白斗さんへのインタビューを担当させていただきます」

 

「私は撮影担当だよ! お任せください、ジャーナリストですので」

 

「はぁ……では、お願いします……」

 

 

悪い子達ではない、のだが彼女達で大丈夫なのだろうかと不安になってきた。

正直イストワールからの依頼と言えど、安易に引き受けてしまったのは失敗だった気がする。

不安を拭い去れないまま、白斗はデンゲキコとファミ通の案内の下、日当たりのよい部屋へと通された。

 

 

「では初めに! 白斗さんを一躍有名にした事件と言えばツネミさんの新たな門出を祝うライブでの飛び入り参加! お噂ではツネミさんの新事務所設立やライブ手配、果ては悪徳プロデューサーを追い詰めた件にも関与しているとか……」

 

(あー、アレかぁ……。 アレはツネミにとっちゃ嫌な事件だからな、無論真実を大っぴらにするつもりはないし、このデンゲキコという子……確信を得ているフリしてカマかけてるな)

 

 

精々お応えできるのはライブ関係についてだ。

ツネミを傷つけた悪徳プロデューサーの件は触れない方向で答えることに。世間一般では、ツネミとそのプロデューサーの件は無関係ということになっている。

これ以上彼女にあらぬ誤解を与えたくないと表向きは爽やかかつ簡素に答えていく。

 

 

「パシャリ! 白斗さん、もーちょっと笑顔が欲しいのでお願いね!」

 

「え、笑顔って自然と意識すると難しいんだけど……こ、こうですかっ?」

 

「うーん、それはお茶の間にお見せ出来ない笑顔だねぇ……」

 

「そんなに酷いの!?」

 

 

自然に笑顔と言われても、意識すると案外難しいものだ。

どちらかと言えば気難しい案件を担当したり、ネプテューヌ達のためならば命懸けの行動をすることも多い白斗。

故に笑顔を自然と浮かべるのは、彼にとって結構な難題だった。

 

 

「……そうだ! これは取材とは関係ないお話になりますが、女神様達とは結構仲がよろしいそうですね? 今回もイストワール様を通じてでしたが、教祖様とも親交があるとか」

 

「仲がいい……というよりも、向こうが絡んできているだけですけどね」

 

「ほうほう。 なら、できれば女神様との馴れ初めをお聞きしたいなーと。 無論、メモには取りませんから!」

 

「レコーダーには録ってるんでしょ? お答えしません。 ファミ通さんもですよ」

 

「「はぅ!!?」」

 

 

ポケットにレコーダーを忍ばせる、なんて子供騙しな手法は白斗には通じない。

だがバレていると思わなかった二人の少女はビクリと肩を震わせた。

 

 

「ご、ごめんなさい白斗さん! ホラ、この通りレコーダーのスイッチ切ったから……」

 

「ファミ通さん、靴底に隠した盗聴器もお忘れなく。 まぁ、答えませんけど」

 

(なんでバレてるのっ!!?)

 

(―――って顔してんなぁ。 悪いね、職業柄そう言ったモンの気配には敏感になっててな)

 

 

暗殺者として、父親のボディーガードをやらされた身として、そして女神様の身辺を守る者として。

身近に仕掛けられた罠や盗聴器、盗撮カメラの存在を見逃すことは無かった。

現に最近でもそう言った“悪意ある行為”は続いているので、白斗が見つけては逐一除去している。

 

 

「うぐぐ……白斗さん、やり手ですね……! これは逆にジャーナリスト魂が燃えてきましたよ!」

 

「燃やすのはご自分の記事だけにしてくださいね」

 

「私の記事は炎上させませんからっ!! そ、それじゃ今度は女神様についてお聞きしてもいいでしょうか?」

 

(方向性を変えてきたか。 ボロを出さないようにしなきゃな)

 

 

謎のやる気を燃やしながらデンゲキコが問いかけてくる。

白斗自身の事は話さないとなると、彼と近しい女神達の方面から斬り込んでいく作戦だろうか。

表面上は笑顔を浮かべている白斗だが、自分の話は勿論、女神様にマイナスイメージを与えるような話だけは避けねばと気を引き締める。

 

 

「実は私達、これでもネプテューヌ様達とは親交がありましてね。 時たまですけど、取材もさせてもらっているんです」

 

「へぇ、そうなんですか」

 

(お、少し食いつきが良くなりましたね! やはり何だかんだ、女神様の事を大切に想っているのは覆せませんね!)

 

 

白斗自身は普通にしているつもりだが、ネプテューヌ達との仲の良さを上げれば白斗の声色や表情も少し好意的なものに変わった。

無論、デンゲキコやファミ通は俗にいう悪徳ジャーナリストではないので友好関係を悪用するつもりは無かったが、このチャンスを逃すわけにはいかない。

 

 

「うん! この前もクエストの様子を取材させてもらったんだよ! あ、デンゲキコさんが四女神様の担当で」

 

「ファミ通さんが女神候補生の担当でしたね。 いやー、あれは良い記事になりますよ!」

 

「クエスト……最近の話ですか?」

 

「そうだよ! あ、特別についこの間出来た初稿を見せてあげるね! 勿論タダで!」

 

「……タダより高いものは無いと言いますが」 

 

「今回、私達の言い争いを目撃させてしまって不愉快な思いをさせちゃったからね! そのお詫びという形でどうかな?」

 

「落としどころを探すのは上手いですね、んじゃそう言うことなら」

 

 

白斗も納得できる理由付けだった。交渉術の上手さはさすがジャーナリストと言うべきだろうか。

さてファミ通に見せ貰った記事だが、女神特集だけあってカラーかつ大々的に特集しており文章や写真、どちらをとっても女神様の魅力がこれでもかと詰め込まれていた。

凛々しく戦うネプテューヌら女神達や、ネプギア達女神候補生らが描かれている。ただ―――。

 

 

「……あいつら、無理してるなコレ……」

 

「え? 私が見た時は結構エネルギッシュでしたが」

 

「それが問題。 普段、皆が戦う時は少し余裕があるっていうか……そうだ。 笑顔を見せてるんですよ」

 

「……あー。 確かにその時の女神様は効率重視っていうか……とにかくスピーディーでしたね」

 

「女神候補生達も同じかな。 その時は、候補生だから焦ってるのかなーって思ってたけど」

 

 

記事の出来栄えとしては、確かに女神の偉大さを見せつけるには十分すぎるだろう。

ただ、白斗の知るいつもの女神達とは少し違っていた。

それが彼にとっては、尚更心配の種となってしまう。

 

 

(……最近皆の付き合いが悪いことと関係があるのか? でも、他国は兎も角ネプテューヌはシェアなんてそっちのけだったし……)

 

「……白斗さん? 何か心当たりでも?」

 

「いえ、お気になさらず」

 

「そう? だったら、普段の女神様達の様子を教えて欲しいな。 言っておくけど、これはガチで取材抜き! 私達も、女神様の事は心配になっちゃうんだよ」

 

 

ファミ通だけではない。デンゲキコも同じ眼差しだ。

親友とまでは行かないかもしれない。けれども彼女達もゲイムギョウ界の一員にして女神達の為人を知る者達。

純粋に女神の事を敬愛している以上、彼女達に関する情報は彼女達のために使いたい。

―――白斗は知っている。その目は、自分と同じだったから。だから、離すことにした。

 

 

「……そう、ですね。 まずノワールは四女神の中で一番真面目で、でもそれ故に一番大変な子でして……だから、何事にも全力で取り組む姿が凄いって言うか……綺麗っていうか」

 

「ほうほう、それではユニちゃんは?」

 

「ユニはノワール以上の努力家で、どんな失敗も最終的に乗り越えて行ける強さがある子です。 で、それを達成すると大はしゃぎして……でもそれが可愛いんですよね」

 

 

自慢ではないが、恐らく白斗は一般人の分際でありながら女神様の一番傍にいる少年である。

だからこそ、彼女達の偽らる姿と本当の魅力を誰よりも知っているつもりだった。

 

 

「ブランは静かだけど、キレると手が付けられないんですよね。 でもそれがまた“らしい”って感じで……何より、そんな彼女だからこそロムちゃんやラムちゃんを凄く愛していて。 二人もそんなお姉ちゃんが大好きで……姉妹っていいなっていつも思わせられます」

 

 

人前で見せない姿を、白斗は伝えていく。

ありのままに、偽りなく、良い所も、悪い所も。それが何一つ欠けてはならない、大切な人達の魅力だから。

 

 

「はぇ~……それじゃ、ベール様は?」

 

「いつもゲーム三昧のマイペースなお方。 だけど、包容力は誰よりもあって、いつも頼ってばかりになって……だから支えたくなる人、かな」

 

「おぉ……ベール様のゲーム好きは知ってましたが、なんていうか意外な一面と、やっぱりなって思う一面……いいですねぇ!」

 

 

そんな人たちの姿を知る度、デンゲキコとファミ通は感激すら覚えた。

女神様と聞いて、やはり一線を引きたがる人もいる。けれども、本質的には一般人のそれとは変わらないのかもしれない。でもやはり、女神たる力を誰もが持っている。

だから、そんな彼女達の女神たる一面を知ることが出来て純粋に嬉しいのだ。

 

 

「それじゃ次プラネテューヌ! ネプギアちゃんは?」

 

「ネプギアはまさに見た目通りの素直な良い子です。 それ以上でもないけど、それ以下でもない。 だから、あの子はその人柄でこの国を導いていける女神様になれるって信じてます」

 

「では最後、ネプテューヌ様は?」

 

「ネプテューヌは……」

 

 

そして最後の一人、ネプテューヌ。

この世界に来て、うっすらと覚えている程度だが。白斗にとって彼女は初めてゲイムギョウ界で出会った一人。

白斗を受け止めてくれて、自分の教会に連れてきてくれて、そして自分に笑顔を見せてくれた人。

そんな彼女に、白斗は。

 

 

「……お気楽で、サボり三昧のゲーム三昧で、誰よりも駄女神」

 

「ええっ!? ここに来て辛辣!?」

 

「―――でも」

 

 

頬杖を付きながらも、白斗は愛おしそうに笑っていた。

 

 

 

 

 

「誰よりも優しくて、誰よりも元気で、誰よりも好きになれる……まさに女神様、ですね」

 

 

 

 

 

―――その自然と出た笑顔に、一瞬時が止まった。

少なくとも、ファミ通とデンゲキコはそう感じた。しかし、すぐに我に返ったファミ通は、この“チャンス”を逃しはしない。

 

 

「パシャリ! ―――白斗さん、今の笑顔……凄く素敵だったよ!」

 

「え? そ、そうですか?」

 

「はい! ふふ、女神様の話をしている時の白斗さんは幸せそうでしたねぇ!」

 

「うぐッ……!!?」

 

 

急に体中の血液が熱くなっていくのを白斗は感じた。

まさかこんな方向で墓穴を掘ることになろうとは。慌てて白斗は目を逸らす。

 

 

(まぁ、それは女神様にとっても同じでしたけど☆)

 

(そうだねぇ。 白斗さんの話を振ると、女神様達イキイキしてたからね)

 

 

何となくだが、二人は察した。

女神達と白斗の本当の関係性を。でも、それを記事にするほど二人は野暮でも何でも無かった。

 

 

「さ! 白斗さんのギアが入った所で取材再開です!」

 

「根掘り葉掘り、あること無いこと書いちゃうよ~!」

 

「やっぱり一度燃えた方がいいんじゃないでしょうかねぇ。 このビルごと」

 

「ご心配無用! 爆破させられるのはバンブー書房だけで十分ですので!」

 

 

―――こうして白斗に再び質問攻めと写真撮影の同時進行が行われることになった。

けれども、女神の話を振られた時の白斗は、とても楽しそうにしていたという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――それから日は沈み、午後7時前。

 

 

「いやー、今日はありがとうございました! お陰様で白斗さんの特集記事、バッチリです!」

 

「今更ですけど俺みたいなパンピーで売れるんですかね?」

 

「最早白斗さんはパンピーじゃないんだってば! いい加減自覚しなよ!」

 

「ぜ、善処します……」

 

 

デンゲキコとファミ通の二人に見送られている白斗がいた。

見送りはいらないと言ったのだが、「無理な取材に付き合わせたので」と言って聞かなかった。

律義さと強引さが織り交ざった、二人の性格が良く表れている。

で、どこまで着いてくるのかと言うと―――。

 

 

「おお、着きました! プラネタワー!」

 

「けど、何だか少し寂しい感じだね? 何でだろ?」

 

「多分、ネプテューヌ達がいないからでしょ」

 

 

白斗は居住スペースを見上げた。

普段は例え日付が変わろうともワイワイ騒いで、明かりがともっているリビングルーム。だがその部屋の電気は落ちている。人気がない証拠だ。

 

 

「そうですか。 では我々はこの辺で!」

 

「白斗さん、またすぐに会いましょうね」

 

「はいはい。 それじゃ、お疲れ様でした」

 

「「お疲れ様でした!」」

 

 

二人の挨拶を受けながら、白斗はプラネタワーの中へと歩いていく。

教会職員や警備兵は勿論いる。けれども、今傍にいて欲しい女神達は―――いない。

 

 

「……何日続くんだろうな、こんな状況」

 

 

エレベーターの中、ふと息を付く。

一体いつからこんな状況になったのだろう。一体いつから耐えられなくなったのだろう。

そんな自分の心の弱さを嘆いている。

 

 

(情けねぇな……皆に会いたくて会いたくて、仕方ないなんて……まるで中毒じゃねーの、俺)

 

 

そして部屋の前へと辿り着いた。

誰もいないなら、挨拶も不要だろう。現にドアの隙間から光は漏れ出ず、冷たい闇が見えている。

はぁ、とまた溜め息を付きながら白斗はドアを開き―――。

 

 

 

 

 

 

パンパン!! パァ―――――――――ン!!!

 

 

 

 

「うおわあああああぁぁぁぁっ!!?」

 

 

 

 

突然、火薬が弾けたような音が聞こえ、白斗は思わず腰を抜かしてしまった。

けれども数秒遅れて襲ってきたのは鉛玉―――ではなく、色とりどりのカラーテープと紙吹雪。

そして―――。

 

 

 

『『『『『白斗! お帰りなさ――――い!!!』』』』』

 

「……へ? み、みんな……?」

 

 

 

温かな、“みんな”の声だった。

そう、ネプテューヌ達四女神やネプギア達女神候補生、それだけではなくイストワールを初めとした各国の教祖達、アイエフやコンパ、ツネミと5pb.、マーベラス達、異空の旅人。

更には、プルルートとピーシェの姿までもが。そう、そこにいたのは白斗の愛する人たち全員なのだ。

 

 

「も~。 白くん遅いよぉ~」

 

「おにーちゃんおそいっ! ぴぃ、ぱーてぃーしたくてまちきれないっ!!」

 

「ぱ、ぱーてぃー……?」

 

「そうだよっ! 白斗をお祝いするためのパーティーなんだから! さ、入って入って!!」

 

「お、おい!!?」

 

 

未だ腰を抜かして、現状を把握しきれない白斗。

そんな彼に痺れを切らしたネプテューヌとプルルートが手を引いて無理矢理立ち上がらせ、中へと連れ込む。

リビングルームは煌びやかそう装飾が施されており、更には数々の眩しい料理が所狭しと並べられていた。

 

 

「どう? 私達の本気のデコレーションと料理よ!!」

 

「ええ。 白斗を祝うためのパーティー……私達の全力を尽くしたわ」

 

「白ちゃん、今日は心行くまで堪能してくださいまし!」

 

 

ノワール、ブラン、ベールら女神様も得意げな顔を隠そうともしなかった。

眩しいばかりまでの笑顔だが、未だに白斗は腑に落ちない。

今まで素っ気ない―――というよりも、何かをしていたのはまさにこのパーティーのための準備なのだろう。

だが、白斗にはここまで祝われる理由が分からなかった。

 

 

「あの、皆……。 お祝いって、俺……今日、誕生日でも何でもないんだけど……」

 

「え? お兄ちゃん、理由分かってないの?」

 

「あ、ああ……」

 

「白兄ぃにしてはニブいわね。 ちょっと考えればわかるでしょ?」

 

「ならクイズよ! お兄ちゃんにもんだーい!」

 

「今日は、何の日でしょう?(はてな)」

 

 

女神候補生達が一斉にこちらを見つめてくる。

これだけ本気の準備をしてくれたということは、白斗にとっても彼女達にとっても大切な日なのだろう。

しかし、考えても誕生日以上の理由が分からない。これには呆れたような視線を送るアイエフとコンパだった。

 

 

「白斗、本当に分からないの? 相変わらず自分の事には疎いわね」

 

「あ、ああ……本当にサッパリ……」

 

「でも、白斗さんあの時気絶してたから仕方ないかもです」

 

「気絶? 益々分からんぞ……!?」

 

 

これまで無茶をしてきた白斗にとって、気絶することは多々あった。

だからこそ分からなくなる。一体いつ気絶したら、記念日になるのだろうか。

 

 

「やれやれ、これは正解を発表するしかないですなー」

 

「だね。 ネプちゃん、答えをどーぞ!」

 

 

痺れを切らしたらしい、ネプテューヌが肩を竦めながらも答えを言ってくれることに。

マーベラスがドラムロールを鳴らす中、彼女は満面の笑顔を浮かべて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「正解はね……白斗が初めて、この世界にやってきた日だよ!!!」

 

「……あ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――思わず、カレンダーを見た。

そう、白斗がこのゲイムギョウ界に来て随分と月日が経ったとは冒頭で言ったが、今日で丁度、一年が経っていたのだ。

白斗を愛する少女達にとって、これはまさに誕生日にも匹敵するお祝いだった。

 

 

「はい。 ボク達は後で知ったけど……白斗君は、ボク達にとって誰より大切な人だよ」

 

「白斗さんが、この世界に来てくれた……そんな日を祝わない理由なんてありません」

 

 

5pb.とツネミも、そう頷いてくれた。

何度も言うように、白斗は異世界人だ。一つボタンを掛け違えば、この世界には来なかった。

それは白斗の幸せな日々も―――そして、少女達にとっての幸せな日々も、無かったということだ。

だから感謝していたのだ。誰もが、白斗という大切な人がこの世界に来てくれたことに。

今まで心を縛っていたモヤモヤが晴れていく。そして、呆けている白斗にネプテューヌが“いつものように”、彼の胸に飛び込んできて。

 

 

 

 

「だからね……ありがとう白斗!! この世界に来てくれて……私達と出会ってくれて!!」

 

『『『『『ありがとう!!』』』』』

 

 

 

 

―――ネプテューヌの言葉と共に、誰もが最大級の感謝と愛で、白斗に言葉を掛けてくれた。

 

 

「……な、んだよもぅ……。 それで、最近素っ気なかったってのかよ……」

 

「すみません白斗さん、私は止めたのですが……」

 

「いーすんさん、自分だけ無実になろうとしたら大間違いですよ。 いーすんさんだって最後はノリノリで手配してましたからね。 お兄ちゃんを外に行かせる口実を作ったりとか」

 

「ってことは今日の取材の話も全部仕込みってか……なーんだ……」

 

 

どうやら、イストワールも結構加担していたらしい。

確かにこれだけ派手な装飾や料理を秘密裏に用意しようと思えば、白斗がこのプラネタワー内にいてはならない。

取材の話も、いな、それまでの少女達の準備も全ては今日、この日の―――白斗を祝うため。

白斗のため―――。

 

 

 

 

「……こっちこそ、ありがとう……!! みんな……!!!」

 

 

 

 

余りもの嬉しさに、白斗は涙しながら、最高の笑みを見せてくれた。

自分は本当は、愛されていなかったのではないか―――どこかで湧き出た不安が馬鹿馬鹿しくなり、そして尚更ネプテューヌ達の事を―――愛してしまった。

だからこそ、涙が止まらない。

 

 

「白斗、泣かないの。 イイ男が台無しよ?」

 

「そうです! 私達も腕によりをかけてご飯を作ったので食べて欲しいです!」

 

 

アイエフがハンカチで優しく涙を拭き取ってくれた。

そしてコンパが手を伸ばした先には、皆で作ったという料理の数々。

ローストビーフ、ターキー、サラダ、パエリア、唐揚げなどパーティーを代表する料理が所狭しと並んでいた。

 

 

「そう言えばノワール、料理と言いましたが肝心のケーキはどうしましたの?」

 

「まだ来てないわね。 貴女が手配してくれると聞いたのだけれど」

 

「え、ええ。 そろそろの筈なんだけど……」

 

 

ベールとブランの視線を受けてノワールが少し焦りだす。

どうやら肝心要のケーキがまだ届いていないらしい。どうしたものかと連絡を取ろうとした、その時。

 

 

「アニキ、ノワール様!! 遅くなってすまねーッス!!」

 

「その分、味には自信アリだぜ!!」

 

「大分遅刻しちまったけど……アニキ!! おめでとさん!! そしてありがとう!!!」

 

「お、お前ら……リョウにケン、それにハリー!? 懐かしのサブキャラたちが!!?」

 

「「「サブ言うなッ!!」」」

 

 

現れたのは三人の青年、皆さんは覚えているだろうか。

彼らは白斗がラステイションへ旅行に来た時、5pb.に絡んでいた元不良達だ。

その時助けに入った白斗の制裁と、そして彼の提案によって更生の機会を与えられ、現在はパン屋の店員として就職することが出来た。

人生のどん底にいた自分達を救ってくれたと、白斗を慕っていたのだ。

 

 

「もしかして、ケーキって……お前達が作ってくれたのか!?」

 

「おうよ! 水臭ェじゃねぇの、アニキ!!」

 

「そうだそうだ! 恩人たるアニキを祝わないなんて弟分失格だっつーの!!」

 

「いやー、女神様があれこれリクエストするから苦労したぜ! でもそれを見事にやり切った……俺達は今、すっげー充実してんだ!! これもアニキのお蔭よ!!」

 

 

そういって持ってきた箱の梱包を解く。そこから姿を見せたのは、ざっと十人前はあると思われるほどの巨大なホールケーキ。

チョコレートや砂糖菓子、フルーツは勿論プリンやらアイスクリームまで山盛りだ。

彼らはあくまでパン屋、ケーキなど専門外の筈なのにそれでもやり遂げてくれたのだ。他ならぬアニキこと、白斗のために。

 

 

「……ありがとうな、お前ら」

 

「良いってことよ! んじゃ俺達はこの辺で!」

 

「ちょっと、貴方達も料理を食べていきなさいよ。 白斗を祝う場よ?」

 

「え? で、でも俺達お邪魔じゃないッスか……?」

 

「いいんだよ。 ボクも皆に白斗君を祝って欲しいんだ」

 

「ふぁ、5pb.ちゃん……ノワール様……! 分かりました、ならお言葉に甘えて!」

 

 

こうしてズッコケ三人組もパーティーに参加することに。

だが、これだけではまだ終わらない。

 

 

「はいはーい、お話は纏まりましたね!」

 

「ではここからは私達のお仕事ターイム!!」

 

「え!? ファミ通さんにデンゲキコさん……何で二人が!?」

 

 

更に現れたのは、つい先程別れたばかりのデンゲキコとファミ通の二人。

いつの間にかその手には分厚い本のようなものを抱えている。

 

 

「ふっふっふ、今回の仕掛け人の一人ですよ。 勿論白斗さんとは今日、初めてお会いしたばかりですが!」

 

「女神様のご友人とあっちゃ祝わないワケにはいかないからね。 なので、私達からは細やかなプレゼント! はい、どーぞ」

 

「うお、重っ!? これ……アルバム?」

 

 

手渡されたそれは、雑誌ではない。

まさにアルバム―――思い出を写真として納めていく、大切な人生の宝物だった。ページを開けてみると。

 

 

「これ……俺の写真?」

 

「勿論、私達との分もあるよ!」

 

「あたしやピーシェちゃん、神次元の時のもあるよ~」

 

 

ネプテューヌやプルルートがページを捲っていく。

そこに収められていた写真は、白斗一人から誰かとのツーショット、ツネミや5pb.とのライブ中の写真まで様々だ。

 

 

「俺の……思い出……。 この世界での、皆との……思い出……!」

 

「いやー、個人で撮った写真を現像するだけならまだしも、ライブ中の写真とかを集めるのは苦労しましたよ!」

 

「でも、だからこそ最高の出来栄えになっていると思います! そしてこの最高の宝物を、より最高にするためにも……皆さん集まって笑って!」

 

 

この二人に声が掛かった理由の一つがジャーナリストであるからだ。

ライブや映画撮影など、公的な場で動く白斗の写真のデータを集めるのに協力してくれたらしい。

だからこそ、これだけ充実したアルバムとなっている。だが、まだ足りないらしい。

すると女神達は一斉に白斗を抱き寄せて。

 

 

「ちょ、皆!?」

 

「ホーラ、白斗! 笑って笑って!!」

 

「行きますよー! はい、チーズ!!」

 

 

ファミ通の掛け声とともに誰もが笑顔でカメラに目線を送った。

彼女の手に握られていたストロボカメラが光り、すぐさま写真を現像する。そこに映し出されたのは、大切な人達に囲まれている幸せそうな白斗の姿。

 

 

「ありがと二人とも! で、後はこの写真を収めて……これで私達と白斗の、大切な思い出が増えたね!! それでもっと分厚く! もっと重く! もっと素敵にしていこ!!」

 

「……ああ……ああ!」

 

 

この女神様達は、どれだけ自分を喜ばせてくれるのだろう。

サプライズパーティーだけでも嬉しいのに、こんな素敵な思い出までプレゼントしてくれるのだから。

 

 

「さ、そろそろ食べないと料理が冷めちゃうわ」

 

「白ちゃん、遠慮せず食べてくださいな」

 

「……うん! それじゃ、いただきまーす!!」

 

 

年甲斐にもなく、白斗はターキーにかぶりつく。

とてもジューシーな味わいが、肉汁と共に口の中に幸せとして広がっていく。

―――誰もが、このパーティーの成功を確信した瞬間だった。

 

 

「それでは、料理を食べながら白斗さんにプレゼントを手渡していきましょう」

 

「プレゼントまで……何から何まで、本当に……」

 

「寧ろ、私達の方が白斗に貰ってばかりだもん! 白斗だってこれくらいされるべきだよ!」

 

「お姉ちゃんの言う通りです!」

 

 

そうして類を見ない規模の、プレゼント手渡しが始まった。

最近皆の付き合いが悪かった理由の最大の要因が、このプレゼントを用意するためであった。

ある者は手作り、またはその材料を揃えるためだという。

 

 

「お兄ちゃん! 私はお兄ちゃんのバイクをスペシャルに改造したの!!」

 

「その資金捻出のためにクエストを受け捲くってたってことか……? で、夜には改造のお時間と……」

 

「そういうことだよ! 最高速度、耐久力、ステアリング! 全部最高クラス!! そして何より極めつけはビームが出るの!!」

 

「やっぱりビームありきなのね!?」

 

 

ネプギアは、白斗が所有していたバイクをバッキバキに改造してくれた。

何やら少々オーバーキルも否めなかったが、それでも彼女がここまでしてくれて白斗は純粋に嬉しかった。

次にやってきたのは、アイエフとコンパの二人だ。

 

 

「それじゃ次は私達ね。 私からは最新のスマホ! 最先端の技術が詰め込まれた、白斗だけの専用携帯スパコンよ」

 

「オーバーテクノロジー来ちゃったよ!? どうやって入手したんだ!?」

 

「取引先にお願いしてね。 ま、そこは気にしないで頂戴」

 

「……ありがとな、アイエフ」

 

「どういたしまして。 ……こっちこそありがとう、白斗」

 

 

アイエフから手渡されたスマホは、最早スマホの形をしたスパコンだという。

下手をすればこれ一台で大規模なハッキングが行えるかもしれない代物に戦慄すらしたが、それでも嬉しかった。

彼の微笑みに負けないくらいの可愛らしい笑みを返してくれるアイエフ。その笑顔は、大好きな人にしか見せないものだった。

 

 

「私からは手編みのマフラーです! 最近寒くなるから、これであったまって欲しいです!」

 

「手編みのマフラー……コンパの温かさを感じるな」

 

「~~っ!? は、白斗さん!! 恥ずかしいこと言わないで欲しいです!! でも……私だと思って、大切にしてくださいね」

 

「ああ。 ……スゲェ温かいよ、コンパ」

 

 

コンパからは手編みのマフラーを渡された。

ベタかもしれないが、とても嬉しい贈り物だ。大事そうに首に撒く白斗だが、コンパの温かさに溶かされていくようだった。

 

 

「それじゃ次は私達ラステイション姉妹ね!」

 

「お、ノワールのは……これ、アミューズメントパークの年間フリーパス?」

 

「ええ。 私の国が誇る遊園地で存分に遊んで欲しいの。 だ、だから……結構な頻度で、ラステイションにも来なさいよ……」

 

「……はは、こりゃ是が非でも行かないとな」

 

「アタシからはコレ!! オススメのFPSのゲーム!!」

 

「FPSをチョイスしてくる辺りがさすがユニ。 でもこれ、何だかポップな感じだな?」

 

「うん! なんでもイカがインクを撃ち出して塗り合う、新感覚のFPSよ!」

 

「すんごい発想だな!?」

 

「でもすっごく面白いの! だから……ちゃんとアタシと遊びなさいよ、白兄ぃ!」

 

「ああ。 しっかり腕を磨いておくさ」

 

 

年間フリーパス、そしてゲームソフト。

どちらも白斗と過ごしたいという想いの元、選ばれたチョイスだ。そんな彼女達の想いに触れながら、白斗は大事そうに仕舞い込む。

 

 

「次は私ね……。 白斗、これ……」

 

「ブランのは……小説か。 ん、この文体……まさかブランのか!?」

 

「さすが白斗ね。 私の全力を込めた物語……貴方だけの、物語よ」

 

 

軽く見た程度だが、いつも彼女の創作活動に付き合っていた白斗には分かる。

これはブランが書いたものだと。白斗に喜んで欲しくて、毎晩睡眠時間を削ってまで書いてくれたのだろう。

 

 

「それで、私達からはこれよ! 喜んで……くれるかな?」

 

「ロムちゃんとラムちゃんのは……俺の絵か!」

 

「分かってくれるの!?(きらきら)」

 

「分かるって。 だって、二人の兄ちゃんだからな。 ……嬉しいよ、二人とも!」

 

「「わーい!!」」

 

 

そしてロムとラムは、白斗の似顔絵を描いてくれたという。

二人もまた、大好きなお兄ちゃんのために時間を削って描いてくれた渾身の力作。クレヨンのタッチが、二人の優しさと温かさを感じさせてくれる。

 

 

「むー……」

 

「ん? ピーシェ、どうしたんだ?」

 

「ぴぃ……ぷれぜんと、かぶっちゃった……」

 

 

ピーシェの後ろには、画用紙が丸められていた。

どうやら彼女も白斗の絵をかいてくれたらしい。しかしロムとラムに先を越され、出しづらい様子だ。

 

 

「なーに言ってんだよ。 そら、貰いっ!」

 

「あーっ!?」

 

「お、この絵は……俺とプルルート、ネプテューヌにピーシェだな? みんな幸せそうで、素敵な絵じゃないか」

 

「……ほんと? おにーちゃん、嬉しい?」

 

「ああ。 ピーシェが俺のために一生懸命書いてくれたんだもんな! 俺の宝物だよ!」

 

「……うん!! たいせつにしてね!!」

 

 

ここは敢えて強引に奪い取る白斗。

そこに書かれていた絵は、当然ロムとラムと同じものではない。彼女が願う幸せ、大好きな人達が一緒にいる絵を、一生懸命書いてくれた。

これが白斗にとって嬉しくないわけがない。―――因みにこの後、この絵を収める額縁を買う白斗の姿があったそうな。

 

 

「では次は私ですわね。 私は最新のゲーム機とゲームソフト!!」

 

「さすがベール姉さん、ブレねぇ……」

 

「なら続けてあたしも~。 あたしのぬいぐるみ~! 白くん、あたしだと思って抱いてね~」

 

「それはそれで色々マズイっすよ!?」

 

 

更にて渡されるベールのゲーム尽くし、そしてプルルートのぬいぐるみ。

どちらも二人らしいプレゼントだったが、だからこそ嬉しかった。

 

 

「姉さん、これどこにも発売されてない奴だろ? わざわざ俺のために集めてくれたんだな」

 

「ええ。 何よりも……大切な人ですもの」

 

「ありがとう。 プルルートも、結構勇気が要ったろうに」

 

「も、も~! 口に出さなくてもいいってば~!」

 

 

二人に対するコメント、そしてそれに対する二人の反応。

どちらも二人らしく、それでいて魅力的だった。

 

 

「それじゃ次はマベちゃんの出番! と言っても物騒になっちゃうんだけど……」

 

「マーベラスのは……短剣?」

 

「そ。 アタシの大切な人の形見だよ」

 

「お、オイ!? いいのかよ!?」

 

「いいんだよ。 それが、私の覚悟と想いなんだから」

 

 

手渡された短剣、それは今は無きマーベラスの大切な人の形見だという。

当然それには大慌てする白斗だったが、マーベラスは優しく首を横に振る。

自分の命に匹敵するくらい大切なものだから、自分の命より大切な人に持っていてもらいたいという彼女の覚悟と想いの表れだった。

 

 

「……分かった。 謹んでお受けします」

 

「うん! 白斗君は、絶対に私が守るからね」

 

「頼りにしてるぜ、俺のくのいち。 ……なーんてな」

 

 

元気な忍者娘も、白斗の前では恋する女の子。だが一度戦場に立てば、敵を瞬時に屠る影の忍となる。

そんな彼女と魂の契約を交わし、マーベラスはこの上なく幸せであった。

 

 

「それじゃ、ボクとツネミさんはペアで行くよ!」

 

「はい。 白斗さんのためだけの新曲、白斗さんのための生ライブ……楽しんでください!」

 

「マジで!?」

 

 

そして、今を生きるトップアイドルことツネミと5pb.からは新曲が送られた。

勿論この場には他の少女達もいるのだが、あくまで白斗にだけ向けられたもの。

切なく、しかし力強く。美しく、それでいて快活なハーモニーが、白斗の目の前で歌われる。アイドルの生ライブなど、ファンならば命懸けで手に入れたい代物だろう。

それを、白斗のためだけにしてくれる―――。歌姫たちの最高の贈り物に、白斗も大感激だ。

 

 

「―――ありがとう、二人とも。 また一緒にライブやろうな」

 

「はい! 是非!!」

 

「それと、これが今の曲のCD! 勿論白斗君だけにプレゼント♪」

 

 

勿論CDも忘れずに貰った。

因みにこれを羨ましがった5pb.の大ファンことリョウ、ケン、ハリーが物凄い目でこちらを見ていたがさすがにこれを他人に聞かせられはしないと白斗は必死にスルーした。

 

 

「さぁ、最後は真打ち! この小説の主人公にしてメインヒロインのネプ子さんだよ!!」

 

「はは、なんとなく最後に来るだろうって思ったよ」

 

 

そして残すはネプテューヌのみ。

数々のプレゼントが送られた後でもこの堂々とした態度、相当自信があるらしい。

 

 

「さて、私からのプレゼントだけど……変身ーっ!!」

 

「って女神化!!?」

 

 

いきなり光に包まれるネプテューヌ。

やがて現れたのは小柄な少女などではなく、この国の守護女神たる女性、パープルハート。

今日も凛とした佇まいと透き通るような瞳、そして女神様としか言いようがない女体。

何もかもが美しかった。

 

 

「ふふ、驚いたかしら白斗?」

 

「いや、女神化しただけじゃ驚かないけど……」

 

「でしょうね。 だからこそ……えいっ♪」

 

「むぎゅ!?」

 

「「「「「ああぁぁ――――っ!! 抱きしめたぁ!!?」」」」」

 

 

ネプテューヌの行動に、少女達は悲鳴を上げた。

その豊かな胸に白斗を抱きしめたのだ。余りの突然な行動なので、白斗も回避することが出来なかった。

 

 

「ぷはっ! ちょ、ネプテューヌ! 何を―――」

 

 

そして幸せな圧死から何とか逃れ、顔を上げた所に――――。

 

 

 

 

 

 

 

「…………ちゅっ」

 

「っっっ!!?」

 

 

 

 

 

 

 

―――女神様の口付けが、落とされた。

 

 

 

「……ふふっ。 これが私のプレゼントよ、気に入ってもらえた?」

 

「………………………」

 

 

白斗は、放心していた。

きっとそれは一秒にも満たないキスだった。けれども、永遠にすら感じられるほどの幸せな感触が、確かにあった。

脳裏に刻まれたその幸せに、白斗はもう理解が追い付かない。と―――。

 

 

「……ね、ネプテューヌ……なるほど、そう来ちゃうのねぇ……!?」

 

「テメェ……私達の前で堂々とやりやがるとはいい度胸してんなぁ……!?」

 

「渡しませんわよ……白ちゃんは、私の大好きな人なんですからッ!!!」

 

 

ノワールが、ブランが、ベールが。おどろおどろしいオーラを纏いながらふらりと前に出た。

否、女神様だけではない。ネプギアも、ユニも、アイエフもコンパも、プルルートも、マーベラスも、ツネミと5pb.まで。

目の間で愛しい人の唇を奪われて我慢できようか―――否。

 

 

 

 

 

 

「「「「「「「「「私達もする――――――っ!!!!!」」」」」」」」

 

「ちょ!? み、皆落ち着……どわああああああああああああああああああああああ!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

――――そして、この瞬間もまたファミ通によってシャッターが切られた。

阿鼻叫喚の中、収められたその一枚。これもまた、白斗にとって大切な思い出だ。

色々あったけれども、今日この日。誰もが彼に対して、こういうのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――I'm happy to see you,HAKUTO.(白斗、貴方に会えて私は――幸せです )




はい、ということで突然の番外編。いかがでしたか?
そう、今日この日をもって「恋次元ゲイムネプテューヌ LOVE&HEART」は丁度一周年なのです!
まさに白斗にとっても、そして私にとっても、皆様にお会いできた記念日でした。
ここまで続けてこられたのは偏に見てくださった皆さまがいてくださったからこそです。これからも皆様に楽しんでいただけるようなお話を書いていければと思います。
さて、お話の流れとしてはベタだったかもしれませんが王道だからこその良さを私は敢えて提唱したい。
本当の幸せに捻くれたあれこれなんかいらない。ただ、ストレートに伝えたい……ってキザか私は。キザな台詞が似合うのはどこぞのバーローか怪盗1412号だけでいいのです。
さて、ギャグにバトルに恋愛に。これからも「恋次元ゲイムネプテューヌ LOVE&HEART」は頑張っていきます!
それでは皆様、今後ともよろしくお願いします!!

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