恋次元ゲイムネプテューヌ LOVE&HEART   作:カスケード

6 / 69
第五話 ベールさんといっしょ

暗殺未遂事件を受け、護衛目的で四女神がこのプラネテューヌの教会でしばらく生活することになった。

一見楽しい共同生活にも思えるが、実際国を司る女神ともなればその仕事は多忙オブ多忙。

時にクエスト、帰って書類仕事、そしてまたクエスト―――。そんな日さえあった。

それだけに、女神を守ると決めたこの男もそれ以上の多忙を極めた。

 

 

「たっだいまー! エンシェントドラゴン討伐ー!」

 

「やれやれ、さすがにあれにはビビったぞ……」

 

 

ネプテューヌと白斗が、クエストから帰ってきた。

白斗はまだまだ対モンスター経験が浅いため、主に後方支援とネプテューヌの護衛という形でクエストに同行していたのだ。

 

 

「お疲れ様ですお二人とも……って白斗さん? どこへ行くんですか?」

 

「え? 何言ってるんですかイストワールさん。 周辺見回ってくるに決まってるっしょ」

 

「貴方こそ何言ってるんですか! ここの所働き過ぎです! 昨日だって夜通しで警戒してたでしょう!?」

 

「ねぷーっ!? 白斗ー! また無茶したなー!?」

 

 

白斗もまた、クエストや仕事を手伝っては夜通しで警備に当たっているという始末。

実際、これで昨夜も不審者を捕えたという実績があるのが尚もタチが悪い。

尤も、昨日の不審者は暗殺目的ではなく、「女神のパンツしゃぶりたい」というまごうことなき変態だったのだが(因みにこの変態は白斗がその場で半殺しにしたらしい、南無)。

 

 

「白斗、私達を守ってくれるのは嬉しいけど自分を大事にしてって言ってるでしょ?」

 

「……私も、心配になって寝られないの。 無茶はやめて……」

 

「あ、あはははー……そこはご愛敬ということで一つ」

 

「「良くない!」」

 

 

ノワールとブランも、非難交じりの視線を投げつけてくる。

この二人とネプテューヌに関しては、あの夜から急接近したと言っても過言ではない。そんな様子を、どこか羨望と嫉妬の混ざり合った目で見る美女が一人。

 

 

「……はぁ、私も白斗君とお話したいですのに……」

 

 

リーンボックスの女神、ベール。

普段は押せ押せというタイプではないため、きっかけのあった三人に比べて白斗との接触が少ないのだ。

それに加えて―――。

 

 

「あ、白斗さん帰ってきたです! 今日こそしっかりした治療を受けてもらうです!」

 

「白斗さん! この銃の雑誌、メッチャカッコ良くて面白いんですよ!」

 

「あの、白斗さん! ちょっと機械整備を手伝ってもらえたら……」

 

「お兄ちゃ~ん! お絵描きしよ~!」

 

「あのね、お兄ちゃん……絵本、読んで欲しいの……(にこにこ)」

 

 

彼を追いかけ回すのはネプテューヌ達女神だけではない。

ネプギア達も、それぞれの用事で白斗に事あるごとに声をかけてくるのだ。しかも白斗自身、律儀にも一件一件ちゃんと付き合っているというのがまたタチが悪い。

更にはベール自身が、大人っぽい雰囲気と考えをしていることもあってより機会が減ってしまっていたのだ。

 

 

(異世界からの訪問者とご一緒出来る機会なんて滅多にありませんのに……ゲーム談義とかしてみたいですわ……)

 

 

彼女も白斗には興味がある。

何故だか、初めて彼とファーストコンタクトを取ったあの日から。

今までの触れ合いから、白斗が好感を持てる人物だと分かってのだから猶更である。

白斗はそうしていつものように、誰かの護衛に着いていく―――。

 

 

「……そうですわ! いいことを思いつきました……♪」

 

 

少し、悪戯っ子のような顔つきになるベール。

果たして何を思いついたのやら。続きはWebで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

CM 12月20日:ネプテューヌシリーズ最新作「勇者ネプテューヌ」発売!!

皆も買おうね!(露骨なダイレクトマーケティング)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――翌日。

 

 

「ふぁぁ~……おはようございまふ……」

 

「うーす、ネプギア。 おはようさん」

 

 

朝早く、ネプギアがリビングに入ってきた。

まだ眠気が抜けきらない彼女を出迎えたのは、タオルで汗を拭いている白斗だった。

 

 

「はれ? はくとさん……どーしたんですか? そんなあせ……」

 

「朝トレ。 見回りがてら走り込みをな」

 

「みまわり……? あーっ!! また貫徹したんですね!?」

 

「おう!? しまった、ついウッカリ!?」

 

 

白斗の発言で一気に意識が覚醒するネプギア。

それらに追いかけ回される白斗。そのドタバタで起こされる周りの面々、そして皆もこのドタバタに巻き込まれ、最後には皆で楽しく食事へ。

 

 

「はい、今日の朝食は白斗さんのリクエストにお応えして納豆を用意しました」

 

「お! さっすがイストワールさん、分かってる~」

 

 

今日の朝食は和風。

炊き立ての白米に味噌汁、漬物。そして納豆。

中でも納豆は白斗の好物だったらしく、上機嫌だったのだが女性陣は皆、納豆と言う未知の領域に恐れおののいていた。

 

 

「白斗~! なんで納豆なの~?」

 

「そうよ、朝だったら普通にベーコンに目玉焼きとか、和風なら焼き魚とかあったじゃない!」

 

「美味しいじゃん、納豆。 ぐるぐるぐる、ねば~」

 

 

納豆に手を出したことがないらしい、ネプテューヌとノワールからは文句の声が上がる。

確かに納豆は独特の見た目や触感、匂いから敬遠する人も多い食べ物だから無理もない。

対する白斗は慣れた手付きで納豆をかき混ぜ、糸を引かせる。

 

 

「わ~! 楽しそう!」

 

「楽しいぞ~? ロムちゃんとラムちゃんもやってみ?」

 

「うん……♪ ぐるぐるぐる~♪」

 

「「「ねば~♪」」」

 

 

好奇心旺盛なロムとラムは、案外納豆を受け付けたようで白斗の真似をして楽しんでいた。

三人で仲良く納豆をかき混ぜる姿は、本当の兄妹のようだ。

 

 

「ロム、ラム……はしたないから……」

 

「はしたなくなんかないぞ? と、ブランに隙あり! 納豆イン!」

 

 

まだ眠気が覚めないらしい、どこか覚束ないブラン。

そんな彼女に納豆の素晴らしさを味わってもらうべく、油断していたブランの白米に納豆が注がれた。

 

 

「あ! 白斗! テメェ、人のご飯に何ネバネバしたモンぶっかけてんだ!」

 

「ちょ、ブラン!? それ聞こえようによっては危ないんだけど!?」

 

 

注:この小説は健全です

 

 

「まぁまぁ、騙されたと思って食べてみそ?」

 

「ったく……覚えてろよ……。 ぱく……ん!? おいひい……」

 

「でしょ~?」

 

 

嫌々で一口食べてみると、これが意外。

ご飯の甘味に、納豆と醤油、辛子がマッチングし絶妙な味わいに。熱々のご飯に絡みつく納豆のネバネバが寧ろ食欲をそそり、更なる食欲を与えてくれる。

あっという間にご飯が進むこの現象に、ブランは一種の感動を覚えていた。

 

 

「納豆は疲労回復にも、美容にも良いって聞くぞ。 良かったろ?」

 

「……うん、美味しいわ。 ありがとう、白斗……」

 

「どういたしまして」

 

「「……むぅ……」」

 

 

本格的に彼女達と関わるようになってからと言うものの、白斗はやんちゃぶりだけでなく飄々とした面も強く表れてきた。

きっとそれだけ彼女達を信頼し、心を許しているからなのだろう。

だからか、この白斗とブランの気兼ねない会話がまるでカップルのように聞こえて仕方ない。

そう聞こえては、ネプテューヌとノワールは不機嫌になる一方だ。

 

 

「何をー! 私だって、納豆なんかに……ブランなんかに負けないんだから!」

 

「ラステイションの女神が、納豆なんかに臆するもんですか! むしゃむしゃ……あ、美味しい」

 

 

案外、女神様も気に入ったようです。

 

 

(……あらあら。 白斗君ったら、すっかり皆の人気者ですわね)

 

 

そんな光景にも、いつもの通り淑やかな雰囲気で過ごしているベール。

だが、彼女の計画はこれからが本番だった。

 

 

「うっし、後片付け終わり。 さて、次の予定はっと……」

 

 

朝食を終えると、後片付けや洗い物は白斗が担当する。

住まいを与えてくれたのだからこれくらいやらせてほしいと申し出たからだ。護衛は勿論、クエストや仕事の手伝いをしてくれているイストワールからしたら、オーバーワークにも感じられたが、身の危険を感じさせるようなことよりかはマシだと納得してしまったのだ。

そんな彼が洗い物を終えてキッチンから出てくると。

 

 

「白斗君、お疲れ様です」

 

「ベールさん? あれ、お出掛けですか?」

 

 

ベールが玄関から出ようとしている場面に出くわした。

手には少量とは言え、荷物を抱えている。

 

 

「ええ、ちょっとリーンボックスに戻らなくてはならない用事が出来てしまって」

 

「んな!? ちょ、ちょっと待ってください! 今日は皆、教会から出る予定は無いな……よし、俺も同行して護衛しますんで少々待っていただけますか!?」

 

 

ベールの外出の予定は、白斗も初耳だった。

護衛を請け負うと豪語してからは前日の内に皆の行動余地を大体聞いて、そして彼女達の邪魔にならないように行動するというのが白斗のスタイルらしい。

女性陣達も最初は遠慮がちだったのだが、案外べったりという程でもなく、時に買い物の荷物持ちやお手伝いをしてくれるということもあり、評判は上々だった。(無茶を除いて)

 

 

「えー!? 白斗、ベールと出ちゃうのー!?」

 

「……折角、一緒に本屋に行こうと思ってたのに……」

 

「ちょ、私だって白斗と買い物に行こうと……イヤイヤ!? 荷物持ちをしてもらおうと……」

 

「今はベールさんのお命最優先! いいですね!? カギはキチンとかけて、単独行動厳禁、迂闊に窓を開けない、何かあれば俺に即連絡!! それじゃ!!」

 

 

向こうの部屋から、ネプテューヌ達の文句の声が上がる。

しかし白斗はそれを正論でねじ伏せると、ずかずかと部屋から出てきた。

 

 

「すみません、お待たせしました!」

 

「ふふ、私をエスコートしてくださるんですの?」

 

「当然です! ベールさんだって、俺が守りたい人なんだから!」

 

 

身支度を整えながら、そんなセリフをサラッと言ってのける白斗。

思わず、ベールの胸がときめいてしまった。

 

 

(あ、あらあら……意外と情熱的な人なのですね……。 でも、これで狙い通りですわ!)

 

 

大人びている、と言っても彼女もまた女の子。だが、これくらいであっさり陥落してしまっては女神の名折れ。

コホン、と呼吸を整えて心の中で勝利のガッツポーズ。

こうして外出してしまえば、白斗は嫌でも着いてくる。それを利用した外出計画だった。

 

 

「では、リーンボックスへ向かいましょう。 今回は定期船で向かいますわよ」

 

「了解です。 でも、女神化はしないんですね?」

 

「女神化はシェアエネルギーを使いますもの。 大事以外では消費したくないのですわ」

 

「なるほど~」

 

 

前述の通り、白斗とベールはまだ親密とは程遠い関係だった。

にも拘らず、いざ話してみれば会話が進んでいる。

そんな会話を繰り広げながらプラネテューヌの教会を後にする二人に対し、残された女神三人はジト目でそれを見送った。

 

 

「ねぷぅ……。 ベール、まさかわざとやってないかな?」

 

「ありえそう……いや、絶対そうだわ!」

 

「白斗……ダメよ。 ベールの胸に惑わされないで……!」

 

 

ヤキモチが止まらない三人。

しかし、彼女達は何故そうなってしまうのか。まだ、彼女達には分からない―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――プラネテューヌ発、リーンボックス行定期船。

白斗の世界で言う飛行機に相当する乗り物の中、ベールと白斗は周りに人の居ない、所謂ファーストクラスのような席でゆったりと空の旅を楽しんでいた。

 

 

「ふぁー……俺、こんな席初めてだ……」

 

「お気に召していただけて何よりですわ」

 

「にしてもいい船ですね。 リーンボックスまで2時間、速度も中々!」

 

 

窓から見える景色。

雲海が広がり、プラネテューヌがあっという間に遠くなる。目を凝らせば西に雪国であるルウィー、東には重厚感溢れる国ことラステイションが見えている。

 

 

「この定期船は各国の要素が詰まった、平和の架け橋なんですのよ。 技術はプラネテューヌ、素材はラステイション、燃料はルウィー、そして操船はリーンボックス。 四ヶ国の要素を詰め合わせたこの船は、ある意味友好条約の目玉でもありますの」

 

「全ての国、女神の想いが詰まった船か……」

 

 

こういった平和の象徴は、分かりやすいものがいい。

四つの国の要素が掛け合わさったこの船は、まさにシンボルとなるべきものの一つだろう。

 

 

「本当は皆やネプギアちゃんとも来たかったのですが、状況が状況ですし」

 

「そう言えば、ベールさんはネプギア押しですよね」

 

「ええ! もう、あの子が私の妹だったらどれだけ良かったか……!」

 

「……ネプテューヌには聞かせられんセリフだ……」

 

 

たはは、と白斗は乾いた笑い声を出す。

しかし、彼女はことあるごとにネプギアとスキンシップを取っていた。それは寂しさからくるものだと理解している。

白斗も、“姉を失った”のだから―――。

 

 

「はぁ、妹でなくてもいいですから……なんていうか、親密になれる人が……」

 

「……俺じゃ、ダメですか?」

 

「え……?」

 

 

そんな言葉が、何故か出てしまった。白斗にも分からない。

ベールが聞き返してくるので、まだ形になっていない自分の正直な気持ちを何とか口に出してみる。

 

 

「……俺、男ですけど……。 ベールさんの寂しい気持ちを、少しでも埋めてあげられたらって思う。 こうやって護衛してるのは仕事なんかじゃない。 俺が……そうしたいからって思ってるからでして……ってああぁ~~ッ! 何言ってんの俺!? 馬鹿なの俺!? 死ぬの俺!?」

 

 

言えば言うほど、ドツボにハマっていく感覚。

正直に口にすれば口にするほど言葉にならなくなり、顔が紅くなってしまう。恥ずかしさの余り頭を掻きむしっていると。

 

 

「……ありがとう、白斗君……」

 

「っ!? い、いえ……」

 

 

ベールが、顔を赤らめながらも美しい微笑みを返してくれた。

ネプテューヌといい、ノワールといい、ブランといい。どうして彼女達は、いざと言う時に女神様の顔をしてくれるのだろうか。

白斗の心臓が、激しく打ち鳴らされる。“こんな心臓”なのに。

 

 

「さて、ここは特等席ですしそう簡単に賊は入りませんわ。 というワケで白斗君、ゆっくり羽を伸ばしてくださいな」

 

「へ? いや、でもそう言った油断が……」

 

「空の密室に閉じ込められてしまった以上、ジタバタしても仕方ありません。 でしたら、休める時には休まないと損しますわよ?」

 

 

正論オブ正論。

人差し指を唇に押し当てられ、白斗はぐうの音も出ない。やがて両手を上げて降参の意を示した。

 

 

「……初めからそのつもりでしたね」

 

「あら、何のことでしょう?」

 

「幾ら何でも、直前でファーストクラス二人分とか取れるワケが無い。 俺の分まで用意してたってことは、初めからこうする予定だったってことでしょ?」

 

「気付かないようじゃ白斗君もまだまだですわ。 ほら、ちゃんと休んでくださいまし」

 

 

完敗だ、と白斗は悟ってしまった。

悔しさもあるが、それ以上に何故かベールには勝てる気がしないのだ。

 

 

「……仕方ない、ですね。 ま、何かあったら……起き……ます……んで……」

 

 

与えられた休息に戸惑いつつも、うつらうつらと舟を漕いでいく白斗。

やがて微睡の中に落ちていき、安らかな寝息を立て始めた。

時に凛々しく、時に怜悧な空気を放っていた少年も、今では年相応の寝顔になっており、思わずベールは微笑みが漏れてしまう。

 

 

「ふふ、こうしていると可愛いのに……確かまだ18歳、でしたよね。 そんな人が、まるで命のやり取りに長けたような生き方……辛かったでしょうね」

 

 

ベールはまだ、白斗の全てを知ったわけでもない。

そもそも密な会話すら、今日が初めてなのだ。だが、今までの彼の生き方を見れば明らかに普通ではない。

つまりは、普通ではない生き方を強いられたということに他ならない。

 

 

「おやすみなさい、白ちゃん。 なんちゃって……」

 

 

そんな彼の癒しになれればと、何故か読んでみたくなった渾名。それと同時に髪を撫でてしまう。

けれども、ベールはとても満足だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒い、靄の中。靄は気持ち悪く、少年に纏わりつく。

いつもそうだ、夢の中でこうして現れては少年にいつも与えてくる。

父親の理不尽な怒り、不条理な罵倒、そして理由もない暴力の数々。それらがいつも少年を叩きのめしてきた。

 

 

―――白斗、ごめんなさいね。 お父さんが、貴方に酷いことばかり……。

 

 

それは、少年の夢と言う名の過去。過去と言う名の記録。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――でもね、貴方の一番の魅力は、どんな状況でも人に優しくなれるところなの。

 

 

その記憶にいつも出てくるのは、彼の“姉”。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――だから白斗、この先どんなことがあったとしても……それだけは忘れないで。

 

 

悪夢にも、拷問にも思える記録の中で。彼女だけが、救い“だった”。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――そうすれば、貴方にも出来るはずよ。 貴方を支えてくれる、素敵な人が―――

 

 

そして、姉はいつも。少年の傷ついた体と心を、その優しく柔らかい手で―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……―――と君! 白斗君!」

 

「……う……?」

 

 

不意に、体が揺り動かされる。

目を開けてみると、目の前に美しい女性の顔が心配そうにこちらを覗き込んでいる。

顔も、声も、髪の色も。全く違うはずなのに、少年―――白斗には、その姿がまるで―――。

 

 

「……ねえ、さん……?」

 

「え……?」

 

 

そう、呼んでしまった。

だが、徐々に視界が晴れることで気づく。目の前にいた女性は彼の姉ではない。リーンボックスの守護女神、ベールであったことに。

 

 

「………んぁ………? ……う、うおわあああああああああ!!?」

 

「ひゃっ!?」

 

 

ベールの顔が、近かった。

女性に全く免疫のない白斗はそれだけで素っ頓狂な声を出してしまう。ベールも慌てて白斗から離れてしまった。

体中の血液が沸騰するかのように熱く、心臓の鼓動が嫌にうるさい。足はガクガクと震え、息は荒かった。

 

 

「べ、べべべーべ・べーるさん!?」

 

「何ですの、その漫画のキャラっぽい名前は。 もう、心配しましたのよ。 もう到着するから起こそうと思ったら、涙を流してうなされていましたし……」

 

「え? 涙……うなされてた……?」

 

 

慌てて白斗は頬に手を当てる。

確かに、涙と思わしき筋が出来上がっていた。すぐに袖で顔を拭い、何事も無かったかのように振る舞おうとする。

 

 

「す、すみません! 何か、変な夢見ちゃったみたいで……」

 

「そうですか? 嫌な夢というのは、現実で起こった出来事を再生している場合もありますの。 余りにも酷いようでしたら、誰かに相談してくださいね?」

 

(……心配してくれてありがとう。 でも、こいつだけは言えないんだ……ごめん、ベールさん)

 

 

だがその強がりも、ベールには見抜かれていたようだ。

とは言え無理に聞き出そうとすることもない。そんな彼女の気遣いに感謝しつつ、白斗はあくまで虚勢を張ることを選んだ。

それは単なる、男の意地だった。

 

 

「それで白斗君、私の事を姉と……!?」

 

「へッ!?」

 

 

ベールにとって重要なのはそこだった。何やらテンションが上がっておられる。

 

 

「……い、いえ……。 その、俺……姉が一人いたんです……。 あ、今はもういないんですけどね」

 

「え……? あ、す、すみません……」

 

 

今度は慌ててベールが謝った。

彼の言葉から、姉が大切な人で、しかしもう存在しないということが分かってしまったから。

白斗にとっては間違いなく、心の傷とも言えるそれに触れてしまったことに、ベールが申し訳なさそうに目を伏せる。

 

 

「い、いえいえ。 今は何とか立ち直ってますから。 で、そのですね……ベールさんが……」

 

「……私が?」

 

「……ベールさんの雰囲気が、なんていうか……姉さんに重なっちゃって……」

 

 

照れ臭そうに頬を掻きながら、目を逸らしてしまう。

こんなカミングアウトをしてしまって、ベールは何と反応するのだろうか。呆れるのだろうか、それも気持ち悪く思うのだろうか。

恐怖しながら何となく目をやると、彼女の体がわなわなと震えている。

 

 

「……あ、あのベールさん……?」

 

 

気味悪がられてしまったのだろうか。それでも大切な恩人にして女神さまだ。

最後まで向き合おうと恐る恐る白斗が声をかけると―――

 

 

「……白斗くうぅぅうううん!!」

 

「むぎゅっ!? ふ、ふぇえええええ!!?」

 

 

何と、ベールが抱き着いてきたのだ。

しかもその豊満な胸で白斗の顔を埋めている。

 

 

「もう大丈夫ですわ白斗君! ……いえ、白ちゃん!」

 

「白ちゃん!?」

 

 

何故か突然の愛称。しかもセンスが微妙。

 

 

「ええ! 今日から、私が貴方の姉になって差し上げますわ!!」

 

「………は?」

 

 

何を言っているのでしょうか、この女神様は。

 

 

「……言っておきますけど、誰でもいいなんて言うほど尻軽ではありませんわ。 白ちゃんが可愛くて、守ってあげたくて……一緒に居たくなるから言ってるんですのよ?」

 

 

なるほど、と白斗は思う。彼女は大人びた性格でありながら、時には甘えられ、逆に甘えさせてくれる家族の様な人がいない。

だから、どこか寂しさを感じていたのだ。

 

 

「白ちゃん! 私を姉と呼んでくださいまし! さぁさぁさぁ!」

 

 

これ以上ないくらい、キラキラとした目を向けていた。

本当に、彼の姉として接したいのだと嫌でも伝わってくる。

白斗も、そんな彼女を支えたいと先程告げたばかり。それならば―――。

 

 

「……ベール姉さん……で、いいかな……?」

 

 

素直に、甘えてみた。

するとベールの顔が、みるみる内に喜びで満たされていき。

 

 

「~~~~~白ちゃああああああああああああん!!!」

 

「へ、へぶんりいいいいいいいいいいいいいいいい!!?」

 

 

喜びと感謝と念願叶ったりのハグを繰り出したのだった。

―――リーンボックス到着まで、後10分―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――ベールと姉弟関係を結んだ後、定期船はリーンボックスへ到着した。

入国審査を済ませて外に出れば、また一味違った景色が白斗を迎えた。

 

 

「おおー! ここがリーンボックスか~!」

 

 

整備された街に道路と、プラネテューヌに似た雰囲気はある。

しかし最大の違いは、自然を取り入れていることだ。人々を豊かにする科学と、人々を支える自然を融和させた街。

プラネテューヌほどの利便性は無いかもしれないが、それとはまた違った魅力がこの国にはある。

 

 

「リーンボックスへようこそですわ、白ちゃん。 このリーンボックスは緑の国、自由とスケールの大きさ、そして豊かな自然が国の特色ですの」

 

「だからそれを壊さない程度の科学を取り入れてるのか」

 

「その通りですわ。 そのためリゾートなどの観光業が盛んで、休暇に遊びに来る人達も多いんですのよ」

 

 

振り返ってみれば、定期船の利用客は想像以上に多い。

プールや登山客らしき人々も多く見受けられ、ベールの発言を裏付けるものとなった。

 

 

「他にも有名なのは、武器の生産と輸出なんですの」

 

「おろ? 意外だな、平和な国かと思ってたけど」

 

「恥ずかしながら、モンスターの影響です。 モンスターの危機に対抗するために、質の高い武器を欲しがる冒険者や軍関係者が多くて」

 

 

これまた納得のいく答えだった。

よくよく考えれば、女神だけで全てが賄いきれるはずがない。アイエフも武器を装備していたが、そういった人達の存在がリーンボックスの一面を作ったと言える。

 

 

「さて、お勉強はこれくらいにして教会にご案内しますわ」

 

「はーい。 よろしく、ベールさん」

 

「もう、白ちゃん。 違いますわよ」

 

 

ぷくぅ、と頬を膨らませて拗ねるベール。

無論白斗はわざとやったのであるが、ベールの可愛らしい反応が見られただけでも良しとする。

 

 

「ごめんごめん。 ……それじゃ改めてよろしく、ベール姉さん」

 

「~~~っ! はいっ!!」

 

 

今度は、満面の笑顔を向けてくれた。

普段の落ち着いた雰囲気はどこへやら、まるで女の子そのものと言わんばかりのハイテンションで白斗の手を引き、走り出す。

 

 

 

 

 

 

 

―――そして到着した、リーンボックスの教会。

当然守護女神であるベールと、その付き人である白斗はほぼ顔パスで中に入ることが出来た。

そうして案内された広間では。

 

 

「……と、いうことでチカ! 私の弟のですわ!」

 

「ど、どうも~……黒原白斗です……」

 

 

自慢のように紹介してくるベール。照れ臭そうに頭を掻く白斗。

二人の目の前に居るのは、この教会の教祖である箱崎チカ。

やってくるなり突然そんな紹介をされた彼女は唖然、焦燥、震えの段階を経て―――。

 

 

「ンンンだとコラアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!?」

 

「ひいいいいいいいいいいいいいっ!!?」

 

 

怒りが爆発した。

 

 

「お姉様!! アタクシのお姉様があああああああ!! こんなインモラル野郎に汚されるなんてええええええええええ!!!」

 

「怒りと共に何妄想爆発させてんのアンタ!?」

 

 

この数秒のやり取りだけで分かった。

チカはベールが大好きらしい。そしてベールもそれなりに可愛がっているようだが、尚も愛に飢えているようだ。

そんな彼女の前にいきなり、彼女の一番の隣ポジションをぶん取る白斗が現れればキレるのも無理もないのかもしれない。

 

 

「こら、チカ。 白ちゃんに何なさいますの」

 

「白ちゃ……白ちゃッ……!? 白ちゃんちゃんちゃんちゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!?」

 

「最早意味☆不明!?」

 

 

奇行種としか言いようが無いその吠え方に白斗が恐怖を通り越してツッコミに回ってしまう。

人は追い詰められればここまで変わるのか。

 

 

「お姉様……! アタクシのお姉様!! お姉様はアタクシのお姉様であって貴様のお姉様ではなあああああああああああいっ!!!」

 

「ヤベェよ!? この人ヤベェよ!? まず会話が成り立っていないもの!!」

 

 

余りにもヒステリーを起こすチカに白斗も手が付けられない。

言葉では全く受け取ってもらえず、かと言って女性相手であるため実力行使も出来ない。

余りの面倒臭さに白斗もいい加減泣きたくなったころに。

 

 

「チカ、ダメです。 ていっ」

 

「きゃん!?」

 

 

ベールの鋭いチョップが。

日頃おっとりした性格でも、チョップの鋭さは白斗も捉えるのが困難なほどだ。さすがは女神様ということだろう。

 

 

「チカ、驚かせてごめんなさい。 でも、決して貴方を嫌いになったワケではありませんの」

 

「お、お姉様~。 ゲホゲホ……」

 

「もう、体が弱いのに無理するから……。 貴方も、大切な家族ですから」

 

 

折檻はチョップ一発のみ。その後、溢れる包容力でチカを包み込んだ。

先程のヒステリーも吹き飛び、チカは幸せで顔を蕩けさせている。白斗もその包容力の餌食になっただけに、理解は出来た。

 

 

「ただ、白ちゃんが好きになっただけですわ♪」

 

「ソレガ許センノジャアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」

 

「ひいいいぃぃぃぃッ!? だからこっち見ないで!!?」

 

 

何故、この女神様は業火の中にダイナマイトを放り込むような真似が出来るのだろうか。

チカの怒号を受けつつも、何とか持ちこたえる白斗。

それに、いつまで経ってもベールの庇護下にいたのでは男が廃るというもの。

 

 

「ち、チカさん……でしたっけ? あの、お話を聞いてほしいんです。 お義姉さん」

 

「キサマニ『お義姉さん』ト呼バレル筋合イハネェエエエェエエエエエエ!!!」

 

「ですよねぇ!? 言いたいことは分かりますけども……けども!!」

 

 

ただ、これだけは伝えたい。

チカ自身、ベールが大好きなだけであることは承知している。

だから白斗も無理に言葉を荒げず、対話だけは諦めなかった。

 

 

「……俺は、新しい姉さんが出来て……ちょっと恥ずいけども、嬉しいんです。 それだけは……譲れません」

 

「「……っ」」

 

 

自分の意思を告げる、これが白斗なりの筋の通し方だった。

ベールは白斗の格好良さに、チカは折れぬ彼の心に息を呑む。

これから先、気恥ずかしさはあっても彼自身、姉が出来たことは本当に嬉しくて、そしてそれを辞めることは無いのだろう。

悔しそうに歯嚙みしていたチカも、諦めたにドッと息を吐いた。

 

 

「……はぁあああぁぁぁ……いい!? 何があっても、お姉様を守りなさいね!? 仮にも弟を名乗るならねぇ!!」

 

「ひぅ!? イエス、マム!!」

 

 

また鬼のような形相で白斗に迫る。

正直、幾多もの修羅場を潜り抜けてきた白斗でも怖かったのだが、男の意地で何とか耐え凌ぎ、精一杯の返事と敬礼をした。

 

 

「……はぁ。 お姉様、くれぐれも甘やかしたりしませんように。 では」

 

 

それだけを言い残し、チカは去っていった。

彼女が部屋から出たことでようやく白斗はへなへなと崩れ、敬礼も解除する。

 

 

「ふへぇ~……チカさん、マジで怖かった……」

 

「ごめんなさいね白ちゃん。 でも、チカを認めさせるとはさすがは私の弟ですわ!」

 

「恐るべき承認試験……合格率1%にも満たないなコレ……」

 

 

まずベールにお近づきになるにはチカの承認というプロセスを踏まなければならない時点でどうにも無理ゲーに思えてならない。

だが、それでも白斗はやり遂げたのだからベールは鼻高々だ。

 

 

「さ、白ちゃん。 そろそろ私の部屋に案内しますわね♪」

 

(あ、そうだ……そもそも姉さんは仕事のために帰郷したんだ……。 これからがある意味本番、だよな……)

 

 

体力的にも精神的にも疲れが湧いてきたが、泣き言など仕事の言い訳にならない。

疲労感の残る体を何とか叩き起こし、ベールの後についていく。

教会の中を歩いて辿り着いた、一際立派な部屋。

 

 

「ここが私の部屋です。 言っておきますけど、チカだってそう簡単に入れる場所ではありませんのよ」

 

「お、おう……」

 

 

無駄に緊張してきた白斗。

これまでにもネプテューヌやネプギアの部屋にお邪魔したことはあったが、他の女性の部屋に入ったことは無い。

女性にあまり免疫のない白斗からすれば、固唾を飲まずにはいられない。

意を決して開けてみると。

 

 

「こ……これはお部屋ではない! 汚部屋!?」

 

「酷いですわ!?」

 

 

数々のゲームが、散乱していた。

ゲーム機やモニター、パソコンと言ったありとあらゆる機器のコードが複数絡み合っていて、本棚にはお気に入りの漫画やラノベが詰め込まれている。

壁にはゲームのポスターらしきものがズラリと飾られ、サブカルチャーで埋め尽くされていた。

 

 

「……ベール姉さんってさ、結構ゲーム廃人?」

 

「褒め言葉ですわね!」

 

「褒めてませんよ」

 

 

ある意味生活感満載の部屋に白斗も声を失う。

女性らしさや綺麗さという意味ではまだネプテューヌの部屋の方が幾分マシだ。

けれどもゲーマーたる彼女からしたら廃人という称号は寧ろ誇れるものらしく、全く気にしていなかった。

 

 

「さ、白ちゃん! そんなことはさておき、やりましょう!」

 

「やるって……何を?」

 

「ゲーム、ですわ♪」

 

「はがっ!?」

 

 

意気揚々と取り出したのは、ゲーム機のコントローラー。

思わずずっこけてしまう白斗。

 

 

「ちょ、姉さん!? 仕事は!? 仕事のために帰ってきたんじゃないの!?」

 

「いいえ。 第一私、仕事でなんて言ってませんもの」

 

 

やられた、と白斗は自らの額を叩く。

確かに「外出する用事がある」とは言ったが、仕事のためとは言っていない。

 

 

「姉と弟……そのスキンシップの第一歩! それがゲームなのですわ!」

 

「すげぇ極論!?」

 

 

予め、ネプテューヌ達からはゲーマーだと聞かされていたがこれほどとは。

思えば今までの会話の端々にもゲーム用語が出てきたような気がする。

それだけ、彼女にとってゲームとは人生そのものなのだろう。

 

 

「あらあら、それとも白ちゃんは姉からの誘いを断っちゃうような子ですか?」

 

「ムムム……ええい、ままよ! こうなったらボコってやるわぁ!!」

 

「ふふふ、やってごらんなさい!」

 

 

こうも煽られて引き下がっては漢が廃るというもの。

半ば奪い取るようにコントローラーを手に取り、どっかりと座り込んだ。

そのまま格闘、レーシング、スポーツ、RPG、果ては何故か恋愛などなど、ありとあらゆるジャンルのゲームに興じるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……っはぁー、疲れたぁ~」

 

「そうですか? 私はまだまだ足りないと思ったくらいですが」

 

 

日も沈んで夕方。気が付けば、もうこんな時間だ。

しっかり者の白斗ですら時間の経過を忘れてしまう程の熱中ぶりと、楽しさだった。

だが何時間もゲームに興じていればさすがに疲れを感じる彼に対し、ベールは元気溌剌、意気軒高、お肌つやつやと言った様子である。

 

 

「くぅ~、結局姉さんにいいようにされっぱなしだったぜ……」

 

「ふふ、リベンジでしたらいつでも受け付けて差し上げますわよ」

 

「っしゃぁ! 絶対、絶対ギャフンって言わせてやる!」

 

 

珍しく負けず嫌いな面を押し出す白斗。

いや、これが本来の彼なのかもしれない。飄々としていて、ちょっと負けず嫌いで、でも優しくて、誰かのためにどこまでも本気になれる。

理由は分からないが、白斗はそれを押し隠そうとしている。それを少しでも取っ払えばと思っていただけにベールも嬉しそうだった。

 

 

「……でも姉さん、ゲームしたいなら別にプラネテューヌの教会でも出来たんじゃ?」

 

 

思わず疑問を口に出してしまう。

ベール程ではないとは言え、ネプテューヌも相当なゲーマーだ。実際、皆で対戦したこともあるのだからゲームがしたいならそう言えばいいはずだ。

 

 

「いえ、他人の家でやるゲームと自分の家でやるゲームとではまた違った味わい方がありますの!」

 

「熱弁ですか、そうですか」

 

 

熱く語りだすベールに、白斗は苦笑いするばかりだ。

 

 

「それに……」

 

「それに?」

 

 

だが、まだ何かあるらしい。

少し前に踏み出たベールが振り返ってくれる。夕焼けに照らされた彼女の振り返った顔が、とても美しく、その瞳に焼き付けられる。

 

 

「……白ちゃんと、過ごしてみたかったんですもの」

 

 

―――全部、白斗のためだった。

それを知った瞬間、白斗の中で想わず込み上がる“何か”。

けれども、照れ臭そうに顔を逸らしながら白斗は誤魔化し続けるのに精いっぱいだ。

 

 

「……やっぱり、敵わないな。 姉さんには」

 

「ふふ、でしょう? やっぱり白ちゃんは可愛いですわ~!」

 

「ちょ、くっつき過ぎだって……」

 

 

白斗の台詞は、「貴女が姉で良かった」と言っているようなものだ。

感極まったベールが、白斗の腕に抱き着いてくる。愛分からずのボリュームを誇る双丘に身悶えしつつも、定期船の発着場へ向かう。

その最中―――。

 

 

「おやおや、友好条約まで日が無いと言うのにリーンボックスの女神様はお暇そうですなぁ。 羨ましい」

 

 

そんな、姉弟の会話に無理矢理割り込んできた陰気な声。

ベールも、冷静な白斗も思わず頭に来て振り返ってみると小太りな、しかし上質なスーツを身に纏った男がいる。

傍らには黒服のボディーガードまで雇っているところを見ると、相当な金持ちか、或いは権力者であると白斗は推察した。

 

 

「姉さん、この人は?」

 

「ウサン・クセイ議員。 ルウィーでの大物政治家ですわ」

 

 

なるほど、と白斗は腑に落ちた。

政治家らしい嫌味たっぷりな発言と態度に、眉をしかめている。だが聞くところによると、彼の出身はここリーンボックスではなく、ブランの治めるルウィー。

そんな人物が、何故ここに来ているのか。

 

 

「ウサン議員、本日は対談のご予定では無かったはずですが」

 

「手厳しいですなぁ。 ただ、仕事の関係でこちらに立ち寄っただけですよ。 我が崇高なる女神、ホワイトハート様のために!」

 

「分かりましたわ。 とにかく、私たちは失礼致します」

 

「おや? 教会は逆方向ですよ?」

 

 

どうやらベールはウサン議員の事を好いていないらしく、先程までの色めき立った空気もどこかへと置き去り、素っ気なく接する。

言動から察するに、恐らくはブラン以外の女神に対しては全員ああいった傲慢ちきな態度をとっているのだろう。

白斗も嫌悪感がすぐに生まれてしまったため、さっさと立ち去ろうとする。

 

 

「ところで……そちらの少年は?」

 

「貴方には関係ありません」

 

「おやおや、卑しい身分の小僧を侍らせるようになったとは……グリーンハートともあろうお方が落ちぶれましたなぁ」

 

 

瞬間、ベールの眉がピクリと持ち上がり、動きが止まった。

自身に対しての嫌味に反応したのではない。今となっては愛する弟、白斗に対する侮辱が許せなかったのだ。

 

 

(……白ちゃんを馬鹿にするなんてっ……!)

 

 

激怒とは無縁であるはずのベールが、自覚するほどにまで激怒した瞬間。

虚空から槍を取り出し、警告がてら突きつけようとするのだが。

 

 

「―――申し訳ありません。 下賤の身でありながら、横槍を入れる無礼をお許し願いたい」

 

「は、白ちゃん!?」

 

 

それよりも先に、白斗が頭を下げてきたのだ。

直角に体を折り曲げ、相手を常に上に置こうとする姿勢にウサン議員は満足そうに頷く。

 

 

「おやおや、立場を弁えているねぇ君は。 で、何だい?」

 

「この度は、私如きの者がお傍に控えていた所為であります。 故にグリーンハート様が貶される言われは一切ございません。 いかなる罵倒も、グリーンハート様にではなくこの私めに向けていただきたい」

 

「は、白ちゃん! ダメですわ! そんな……」

 

 

この発言、ただ謝罪してのご機嫌どりではない。

直訳すれば「ベールに嫌味言うなこの野郎」である。

それを理解したベールが慌てて止めようとするが、大物政治家だけあってそういった言葉遣いに敏感であるウサンが威圧感たっぷりの目をこちらに向けてくる。

 

 

「ほぉ……度胸だけは一人前だな」

 

「度胸だけで生きてきた人生ですので。 大物政治家程度には負けませんよ」

 

 

わざと煽るような口調になった。

これでウサンの標的はベールから完全に白斗へとロックオンされる。

 

 

「……その生意気な面だけは覚えておこう」

 

 

面白くなさそうに鼻を鳴らして、ウサンは去っていく。

その間も白斗は決して顔を上げることなく、頭を下げたままウサンを見送った。

 

 

「白ちゃん、どうしてあんな無茶を……!? あんな発言、余裕で流せますのに……!」

 

 

心配の余り、咎めるような口調になってしまうベール。

これでは今後、白斗がどのような嫌がらせを受けるかも分からない。それを心配していたのだが、ようやく上げた彼の顔は、とっくに覚悟を決めていた。

 

 

 

 

 

「姉さんが馬鹿にされてるってのに、我慢できる弟がいるかって話だ。 ……貴女は、俺の恩人で、姉で、守りたい人なんだから」

 

 

 

 

 

―――今度は、ベールの胸が高鳴る番だった。

夕焼けに照らされ、風に吹かれる彼の姿が、ベールの胸に温かく沁み込んでいく。いつの間にか、彼女の顔がほんのり赤く染まってしまっていた。

 

 

「……それに、俺がタダでやられるわけないっしょ?」

 

「え? それって……?」

 

「いいからアレ、見てみ?」

 

 

いつの間にか、ナイフを握って弄んでいる白斗。

彼の視線の先には、どかどかと歩いていくウサン議員の姿。ようやくその姿が見えるか見えないというところで、彼のズボンがずり落ちた。

 

 

「げぇっ!? 何だこれはぁ!!?」

 

 

街中でステテコパンツを晒すという、議員にあるまじき失態。

当然道行く人々もクスクスと笑い声を立てている。よくみると、ベルトがすっぱりと切れていていた。

それが白斗の仕業であると分かった瞬間、ベールが思わず笑ってしまう。

 

 

「……ぷっ、あははは! 最高ですわ、白ちゃん!」

 

「でしょー? 姉さんを馬鹿にしたら俺が許さない、ってね」

 

 

これだけ離れれば、さすがに向こうも白斗の仕業だと気づくことは無い。

彼の悪戯大成功に笑いあう白斗とベール。

こんな手際を見せられては、信じるよりほかはない。

 

 

 

 

 

「……ありがとう、白ちゃん。 貴方が弟で、本当に幸せですわ」

 

 

 

 

 

―――リーンボックス、本日最後の思い出。

それは緑の女神様の、飛び切りの笑顔を見られたことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――そして夜。

プラネテューヌの教会に帰ってくるや否や、ネプテューヌを始めとした女性陣が一気に出迎えた。

 

 

「白斗、遅ーい!」

 

「ホントよ! ……まぁ、どうせベールのゲームに付き合わされていただけなんでしょうけど」

 

「全く、白斗は付き合いが良すぎるのが難点だわ……」

 

「あ、あはは……ごめんごめん」

 

 

帰ってくるなり、三女神から非難轟々だった。

彼女達も、本当は白斗と遊びたかったのだから当然と言えば当然かもしれないが。

 

 

「こーら。 白ちゃんを虐めてはメッ、ですわ」

 

「ん? 白ちゃん?」

 

 

まさかの愛称にノワールの目が点になる。

実を言うと白斗自身もこの呼び名自体は微妙だと感じているのだが、ベールがお気に召しているため敢えてスルーしていた。

 

 

「白ちゃん、晩御飯にしましょう! 今日はあ~んして差し上げますわ~♪」

 

「ちょ、姉さん!? 人前でそれは恥ずかしいから―――って殺気!?」

 

 

―――三女神に電流走る。

そして、不穏な空気が一気に立ち込めた。殺意、それに敏感な白斗が思わず戦慄してしまう。

何を隠そう、発生源はネプテューヌ達からだった。

 

 

「白斗……姉さん、ってなんなのかしら……?」

 

「ぶ、ブラン……? いえ、ブランさん?」

 

「しかも、何この甘々な空気……。 正直、色々粉☆砕したくなるんですけど」

 

「ノワールさん……? いえ、ノワール様?」

 

「私も……白斗とはじっっっくり語り合いたいなぁ~…?」

 

「ね、ネプテューヌ様? いえ、ネプテューヌ女王陛下?」

 

 

徐々に迫ってくる三女神。

後ろは壁、救援も無し、肝心のベールはさっさとリビングへ直行。

―――詰んだ。そうとしか思えない白斗は、恐怖で顔面蒼白に。

 

 

 

「「「は・く・とぉ~~~~~~~~~!!!」」」

 

「ぎゃあああああああああああああああああああああああああ!!?」

 

 

 

―――嫉妬の炎が吹き荒れるプラネテューヌの教会。

一方、そうとは知っては知らずか、上機嫌のベールはらんらんと鼻歌を歌いながら食卓で夕飯を待っていた。

その間に再生されるのは、今日一日の―――白斗との触れ合い。

 

 

 

 

 

(……白ちゃん、素敵でしたわ……。 でも、何でしょう……。 念願の弟が出来たのに、この言いようのない……この胸の鼓動は一体……?)

 

 

 

 

―――その感情の名前を知るには、もう少し時間が必要なのはまた別のお話。




と言うことでベールさんとのお話でした。
ほんわかポヨヨン女神様というキャッチコピーな雰囲気を出せていたらと思います。
余談ですがブランの納豆の下り、あれドラマCDネタだったりする。気になる方は是非聞いてみてね!
次回のお話は妹達がメイン張っちゃいます!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。