恋次元ゲイムネプテューヌ LOVE&HEART   作:カスケード

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ルウィー編、完結!
ということで結構詰め込みました。少々長いですが、是非とも楽しんでくださいませ!
それでは本編どうぞ!


第五十六話 白黒付ける時

―――先日の七賢人による、ラステイションでの破壊活動並びに各種妨害工作。

その騒動にルウィーが一枚噛んでいる可能性があることからノワール、並びにネプテューヌ達はその事実関係を調査することに。

途中、神次元のベールとも合流を果たし、白斗の(女装での)潜入調査の甲斐あってその裏付けが取れてしまった。

そのため、もう遠慮はいらないとばかりにノワールはルウィーの教会へと殴り込むのであった。

 

 

「―――というワケで、ルウィーの教会までやってきたワケですが……」

 

「わぁ~! お城だ~! カッコイイ~!」

 

「ア・ナ・タ・た・ち、ねぇぇ……これから悪の本拠地に殴り込むってのに本ッッッ当にお気楽すぎなのよぉぉぉぉぉぉッ!!!」

 

 

荘厳なルウィーの教会。白土で塗り固められた壁に積み上げられた石垣、屋根に敷き詰められた鬼瓦など、歴史の重みをずっしりと感じさせた。

こんな立派な、まさに城を目の当たりにしてはネプテューヌやプルルートが見上げてしまうのも無理もない。

 

 

「ノワール、悪の本拠地って決めつけるなよ」

 

「何言ってるのよ!? 向こうは七賢人と繋がってたんだから悪決定よ!!」

 

「だーかーらー、そうやって喧嘩腰だと向こうも相応の態度を取っちまうんだってば。 まずは俺が交渉してみるから、それまでは押さえてくれ」

 

「白斗君の言う通りですわよ。 下手な発言は自分の首を絞めるだけですわ」

 

 

ノワールはそんな二人にお冠だったが、白斗が必死に宥めている。

何しろ白斗は潜入調査の結果、このルウィーとブランが抱える問題点や苦悩を目の当たりにしてきた。故にブランを一方的な「悪」と見做すことが出来ず、あくまで落とし所を探させるように誘導している。

ベールもご立腹なノワールを落ち着かせようと、柔らかく声で、しかし鋭い言葉を入れてきた。

 

 

「既に向こうが喧嘩腰でしょ!? それにこっちは被害者なのよ!! まずは文句の一つくらい言わないと気が済……」

 

「プルルート、GO」

 

「ノワールちゃん~……? 白くんの言う事、聞こうね~……?」

 

「すみませんでしたぁぁぁぁぁああああッ!!!」

 

 

親友とは何だったのか、悲しきパワーバランスによる抑止力が行使される。

 

 

「やれやれ……プルルート、悪いがノワールの手綱握っててくれ」

 

「え~? ノワールちゃんに首輪付けてリード引いてていいの~!?」

 

「おk」

 

「おkじゃなーい!!!」

 

 

結局騒がしくなるのはどちらなのか。

やれやれ、とネプテューヌまでもが呆れ果てていると、固く閉ざされた教会の扉が開き、一人の小太りな中年男性が姿を見せた。

 

 

「失礼、そちら……プラネテューヌとラステイションの女神ご一行様でよろしいですかな?」

 

「あ、うん。 そうだけど……オジサンは?」

 

「ワシはこの国の大臣を務めさせていただいている者です。 女神ホワイトハート様より、皆様をお連れするよう言付かっております」

 

 

小太りの中年男性、それは女神の補佐役とも言える大臣だった。

今朝見た時と変わらず眼鏡を光らせ、ふくよかな体格ながらも年季の入ったベテランの風格を窺わせる。

 

 

「ありがとうございます。 用向きは……いう必要は無さそうですね」

 

「ええ。 では、立ち話も何ですしご案内いたします」

 

「お願いします」

 

 

誰かが何かを言い出す前に白斗が素早く前に立ち、大臣と話をする。

お気楽なプラネテューヌの女神様では話が進まず、怒り心頭のラステイションの女神様では余計な一言を言ってしまいかねないからだ。

大臣も白斗の対応に敬意を見せ、表向きだけでも爽やかに案内してくれる。ギシギシと床板を軋ませながら、一同はまさに日本庭園とでも言うべき美しき庭を眺める。

 

 

「わぁ~! 素敵なお庭~!」

 

「ねぇ白斗! こういうのプラネテューヌにも作ったら観光名所になるんじゃない?」

 

「んー……予算的にも厳しいし、プラネテューヌの気質的にも合いそうにないなぁ……」

 

「あら、ホーホケキョとは……変わった鳴き声の鳥ですわね」

 

「ちょっと、この床軋み過ぎでしょ? ちゃんとした整備してないの!?」

 

「ノワール落ち着け、それは鴬張りっていうれっきとした仕掛けだ。 で、ベールさん。 あの鳥こそウグイスで……」

 

 

しかし、黙ったままでいられないのがこの女神様達。

新しく見るものに興奮するネプテューヌにプルルート、見たことのない鳥に強い興味を示すベール、怒り心頭のノワールは微かな刺激にも敏感。

それら全てに応え、かつ必死に抑えようとしている白斗はまさに苦労人だった。

 

 

「……白斗殿、でしたな。 貴方も苦労されるようで」

 

「大臣殿も」

 

「ええ、全くです。 ……さぁ、着きますよ」

 

 

大臣にシンパシーを抱かれる中辿り着いた部屋。

一際立派な襖に囲まれ、何より溢れ出る威圧感も段違いだ。心なしか、大臣も強張っている。

間違いない、この先に―――女神ホワイトハートが。ブランがいる。

 

 

「……おふざけはここまでみたいね。 みんな、準備は良い?」

 

「あのー、ノワール? なーんかボス戦前みたいな空気出してるけどさー、白斗が何度も言ってるように、あくまで抗議だからね?」

 

「分かってるわよ。 さすがに私自身もいい加減しつこいと感じてきたわ」

 

「ノワールちゃん~……青筋、浮かべてるよ~……」

 

「……これは雲行きが怪しいですわね。 白斗君、しっかりお願いしますね」

 

「へーい……。 あー、気が重い……」

 

 

襖の向こうから漏れ出る威圧感とは別に、白斗は気苦労によって足取りが重くなる。

だが、どちらにせよ行くしか道は無い。覚悟を決めて、白斗は襖に手を掛けた。

襖の先に広がる光景、それは上質な畳が敷き詰められた部屋。その壇上に―――その女神は座っていた。

 

 

「……来たわね白斗。 そして、ラステイションとプラネテューヌの女神達……」

 

「あら、折角来てあげたっていうのにお茶の一つどころか丁寧なあいさつも出せないのかしら。 マナーのなっていない女神は嫌われるわよ?」

 

「もー、ノワールってばそう言うこと言わないの。 ヤッホー、ブラン久しぶり!」

 

「遊びに来たよ~」

 

 

剣呑な雰囲気を放つブラン、対するノワールは涼しい顔をして皮肉を言う。

そんな空気に居心地の悪さを感じたネプテューヌは普段通りのお気楽な挨拶、プルルートは普段通りのほんわかとした挨拶を交わす。

しかし一向に良くなる気配のない危険な空気に、言わんこっちゃないと白斗は額を叩きながらも前に出る。

 

 

「はいはい、ちょっと黙ってくださいね!? 失礼しました、ホワイトハート様」

 

「……構わないわ。 ただ見慣れないのが一人いるみたいだけど」

 

「あら、私の事でしょうか? 私はただの見学、口も手も出しませんのでどうかお気になさらず」

 

「……爆乳……ッ! ……何もしないならそれでいいわ、大人しくして頂戴……っ」

 

「ええ、勿論ですわ」

 

 

ベールに気づいたブランが、じろりと睨む。

ボンキュッボンと出るところは出て、引っ込むところは引っ込む、まさに理想の女体。

特に爆乳としか言いようがないその胸に凄まじい憎悪を見せたが、何とか彼女を意識の外に飛ばすことで平静を保った。

 

 

「……少し話がそれてしまったけど、私はそちらの身勝手な抗議に応じるつもりはないわ」

 

「……言ってくれるわね。 アンタ達の所為で、ラステイションは大迷惑してるってのに」

 

「具体的には?」

 

「アンタと手を組んでる七賢人が工場を破壊したり、街中で商品に悪戯を繰り返したり……! そしてこっちが捕らえようとしてもルウィーが逃走経路を用意したりね!」

 

「それは私の指示ではないし、七賢人そのものに抗議すべきね。 だから貴方がどれだけ大迷惑したとしても、こちらは補填のしようもない」

 

「よくもまぁヌケヌケと……!!」

 

「ノワール、ストップだ! ……失礼しました、ブラン様」

 

 

危ない空気になると白斗が慌てて仲介に入る。

正直、どっちもどっちな主張だが、戦闘行為だけには持ち込ませないように必死に二枚舌をフル回転させる。

 

 

「白斗、貴方は敬語なんて使わなくていいわ。 気楽にして頂戴」

 

「……ならお言葉に甘えて。 だが、ルウィーに疑いが懸かっているのも事実。 このままだと双方に悪影響を与え続けるのも無理もないかと」

 

「白斗の言う通りだよ。 ここはお互いに協力してさー、持ちつ持たれつな関係にした方がいいんじゃないのー?」

 

「そうだよ~。 みんな仲良くしようよ~」

 

 

白斗の言葉に同意しながらネプテューヌとプルルートも頷いた。

言い方こそ悪いが、主に争っているのはルウィーとラステイション―――否、ブランとノワール、二人の女神の不仲が原因なのだ。

ならばとそれを解消すべくあれこれと提案してみるのだが。

 

 

「……仲良くだ? こっちの気も知らねーで、勝手なことを抜かしてんじゃねぇ!!」

 

「「わひゃぁ!!?」」

 

 

「仲良く」、そんな在り来たりにして当たり前のワードが、ブランの逆鱗に触れた。

ここまで口調だけでも穏やかだったのに、それすらもかなぐり捨てて吠えている。

 

 

「ポッと出のテメーらに何が分かる!? そんな甘いことしか言えない奴が女神に相応しいワケがねぇ!! やっぱり……テメーらと仲良しごっこなんざ出来ないんだよ!!!」

 

「交渉決裂、ね。 分かり切ったことだけど」

 

「ブラン!! ノワールもやめろって!!!」

 

「白斗、こればかりはお前の頼みでも聞けねぇな。 これは国の問題……個々人がどうこう出来る話じゃねぇんだよ」

 

「今回ばかりはあいつの言う通りね。 白斗、もう口出しは無用よ!! どっちが女神に相応しくないのか、思い知らさなきゃこの場は収まらないわ!!」

 

 

ヒートアップも最高潮に達し、既に爆発して炎上してしまっている。

白斗も頭では止まらないことは分かっていた。それでも一縷の望みに掛けて二人を必死に留めようとしている。

だが悲痛な願いも空しく、ブランの怒りに満ちた眼差しはネプテューヌとプルルートにも向けられた。

 

 

「そういうことだ。 ……プラネテューヌの女神も纏めて掛かって来い!!」

 

 

次の瞬間、ブランの体光に包まれ―――正真正銘、このルウィーの守護女神ことホワイトハートへと変身した。

その手に握られた重厚な斧、何より視線が本気であることを物語っている。

 

 

「ちょ!? なんで私達まで巻き込んじゃうのかなユー!?」

 

「しらばっくれやがって……プラネテューヌも最近になって盛り返してるじゃねぇか。 いつテメーらがルウィーに牙剥くかも分からねぇなら、ここで叩き潰すに越したことはねぇ」

 

「わ、私達はそんなことしないよ~!」

 

「だからテメーらは甘いんだよ……! 例えテメーらがそうでも、国民はそうは思わねぇ!! いつも不安に思って! 迷って!! 求めてるんだよ!! 絶対の女神って奴を!!!」

 

(……ブラン……)

 

 

まるで胸中に溜まったものを吐露するかのように叫び出すブラン。

その姿は怒っているようにも、追い詰められているようにも、そして悲しんでいるようにも見えた。

痛々しさすら感じるその姿に白斗も何も言いだせないでいると―――。

 

 

「ガラッ!! 話纏まったー? もー、いつまでこのアブネスちゃんを待たせてるのよー」

 

「全くだ。 アタイ達だって暇じゃねぇのに……」

 

「あれ~? 下っ端さん達~? なんでここにいるの~?」

 

「だからアタイは下っ端じゃねぇって言ってんだろ!!」

 

 

襖の向こうから二人、姿を現した。

明らかに幼女としか言えない風貌とフリルたっぷりの衣装着こんだ七賢人の一人アブネスと、同じく七賢人の一人にして下っ端のリンダである。

いきり立つリンダなど歯牙にもかけず、プルルートはのほほんと首を傾げた。

 

 

「別に不思議ってことはないでしょ。 こいつらがグルなのは分かり切ってたことだし」

 

「人聞きわりーな。 ちっとばかし協力してやってるだけだ」

 

「フン、グルってことに変わりはないでしょ。 こんなのと手を組むなんて、あなたの方が女神に相応しくないんじゃない?」

 

 

これはもう、七賢人と一種の協力関係であることを公に認めたようなものだ。

ノワールの言は尤もであるようにも思える。だが、ブランはそれを自覚しているからこそ、その手から血を滲ませながらも、斧を強く握りしめる。

 

 

「……テメーらに……テメーらに何が分かるってんだ!!? 私はな!! ただ一人の女神で……長い間この大陸に一つしかない国を、ずっと守り続けてきたんだ!!! そのためなら……どんな手段だって……っ!!!」

 

「……一つしかない国、唯一の女神……ですか。 ふふ……」

 

 

感情の赴くままに斧を叩きつけ、床が、畳が、激しく抉られた。

それはまるでブランの心情を表すかのように。やり場のない思いが生み出した、彼女の孤独な胸中を表している。

そんな彼女に対し、ここまで特に口を挟んでこなかったベールが何やら含み笑いを浮かべた。

 

 

「はぁ~……やっと始まるのね。 下っ端、カメラの準備OK?」

 

「だからアタイは下っ端じゃ……ああもう!! いつでも始めやがれ!!」

 

「なら、コホン。 あー、あー……ヤッホー☆ テレビの前のみんなー! 愛と真実と幼年幼女の伝道師! 七賢人のアブネスちゃんだよー☆」

 

「な!? お前ら、何を……!?」

 

 

と、ここで七賢人の二人がカメラを回し始めた。カメラマンはリンダ、リポーターはアブネス。

どうやらこの場の映像を生中継するつもりらしい。

白斗は慌てて止めようとするが、なんとそれをブランが手で制したのだ。

 

 

「見ての通りだ。 これからテメーらぶっ倒して世界中に見せつけてやるんだよ。 この世界にあるべき女神が誰なのか……生中継でな!!」

 

「えええええ!? ブラン、それはやりすぎじゃないの!?」

 

「これくらいでもしねーと分からねーんだよ。 テメーらも、七賢人も……国民も!!」

 

(ブラン……そこまで追い詰められていたのか……!?)

 

 

七賢人と繋がっていた事実もそうだが、こうして女神同士の戦いを生放送するなど普通では考えられないことだ。

だが、今の彼女はその普通ではないことをしなければならないまでに追い詰められている。

そうでもしないとシェアが、国民の信仰が―――彼女自身の未来が、得られないと。

 

 

「フン、分かりやすくていいじゃない。 意図せずしてルウィー最後の日ね!!」

 

「あーもー……変身までしちゃって……。 ノワールってば……」

 

 

向こうが女神化するなら、こちらも女神化するしかない。

シェアエネルギーを身に纏ったノワールが黒の女神、ブラックハートへと変身する。

手に握った片手剣の刃が鋭く煌き、今にも目の前のブランを切り捨てそうなほど危ない輝きを放っている。

 

 

「……白くん~。 これ~……寧ろ一発ガツンってやらなきゃブランちゃんもノワールちゃんも分からないんじゃないかな~?」

 

「…………すまん、俺の力不足だ」

 

「気にしないで! 白斗は何も悪くないし、正直気乗りはしないけど……ここからは私達の仕事だから!!」

 

「うん~! それじゃ~……へんし~ん!!」

 

 

結局戦いを回避できなかったことに白斗は不甲斐なさを感じるが、ネプテューヌとプルルートはそんな白斗を責めることなく優しく微笑んだ。

そして信仰の光たるシェアエネルギーを身に纏い、紫の女神ことパープルハートとアイリスハートへと変身する。

 

 

「……白斗、後は任せて頂戴。 私もブランやノワールには仲良くして欲しいから……私に出来ることを、全力でするわ」

 

「ネプテューヌ……頼む。 プルルートも」

 

「ええ! ……ブランちゃんにあ~んなコトやこ~んなコトもぉ……。 フフフ……」

 

「ブラァァァァン!! 止められなくてマジでゴメェェェエエエン!!!」

 

「うお!? な、何泣きそうな勢いで謝ってんだお前は!?」

 

 

白斗の想いに応えようとする真剣なパープルハートに対し、アイリスハートは嗜虐心溢れる冷笑を浮かべながら舌なめずり。

これからブランに襲い掛かる数々の恐ろしい事態を思い浮かべると、寧ろブランの心配をしてしまう白斗だった。

 

 

「とにかく、これで役者は揃った。 おい、白斗と……そこの巨乳女は戦いに手を出すな。 隅に退避してろ」

 

「……分かった……。 ベールさん、行きましょう」

 

「ええ。 ……白斗君、落ち込まないでくださいな」

 

 

肩を落とした白斗を慰めながらベールが部屋の隅へと移動させようと促す。

それでも何とかして被害を最小限に出来ないだろうかと頭を働かせていると。

 

 

(……! みんな、こっちを向かずにそのまま聞いてくれ)

 

(白斗? どうしたの?)

 

(そこの真四角に区切られた畳の所。 ……落とし穴になってる)

 

(え!?)

 

 

そこを通った時、足の裏から伝わる僅かな感触で気づいた。

畳の下が空洞であり、それ故に僅かながらも畳が曲がり、軋む感触と音。更に注視ししてみれば、ドビラの開閉が出来るような蝶番も確認できた。

 

 

(落とし穴ですって? ……卑怯な真似してくれるじゃない……!)

 

(でもコレ、ブランちゃんの仕業かしらぁ? あたし達飛べるから落とし穴なんて意味ないのに)

 

(単なる侵入者避けなのか、七賢人の仕込みなのかはわからないが一応気を付けてくれ)

 

 

落とし穴の存在を認識した女神達は、その存在を頭の隅に置きつつ、臨戦態勢を整える。

しかし、落とし穴なんてものがある以上この戦いにきな臭さを感じるのも事実。他にも罠が仕掛けられていないか確認しながら白斗は部屋の隅へと歩いていく。

その先には、これから実況・解説をするべく机に座っているアブネスとカメラを回しているリンダがいた。

 

 

「ゲッ!? なんでこっち来るのよ!?」

 

「お前らの監視」

 

「失礼ね!! 私達七賢人は公明正大!! クリーンな反女神団体よ!!」

 

「その謳い文句の時点で信頼ゼロですわね」

 

 

呆れながら彼女達の隣を陣取る白斗とベール。

無論、あの落とし穴がアブネス達の仕業たる証拠はない。だが、彼女達の今までの所業を考えれば手放しに信用も出来ない。

七賢人に手出しはさせないと、最大級の警戒を張り巡らせながらも白斗は女神同士の戦いを見守る。

 

 

「ハッ、よーやく覚悟は出来たみてぇだな」

 

「ブランちゃんこそ、覚悟はいいのぉ? フフフ……負けた暁にはどんなことをしてもらおうかしら……楽しみねぇ!」

 

「ちょっとプルルート、貴女がその姿で暴れると国民から苦情来るわよ……ハッ!」

 

 

と、暴走しかけるアイリスハートを止めようとしたノワール。

最初こそ親切心のつもりだったのだが、ここであることに気付く。

 

 

(このままプルルートが大暴れしたらプラネテューヌに苦情→プラネテューヌのシェアガタ落ち→結果ラステイションがシェア独占して完全勝利!?)

 

「あ、ノワール様ー。 卑劣なことを考えてるようでしたらクローゼットの奥の隠し扉のことバラしますんでそこんとこよろしくー」

 

「なんで白斗が知ってるのよぉ!!? っていうか何で分かって……な、何でもない何でもない何でもないいぃぃぃ――――っ!!!」

 

(ま、こっちのノワールは分かりやすいからなぁ。 クローゼットの奥のコスプレ衣装については……企業秘密ってコトで)

 

 

中々あくどいことを考えているノワールの牽制もしっかり忘れない白斗だった。

 

 

「漫才は済んだか? しっかり堪能しておけよ……これが最後になるんだからなぁッ!!!」

 

「貴女こそ、この光景をしっかりと焼きつけなさいよ……。 今日が女神としての命日になんだからねっ!!!」

 

 

剣が、斧が、ぶつかり合った。

凄まじい衝撃が巻き起こり、畳を、襖を調度品を吹き飛ばす。部屋の隅に退避している白斗達にも風圧となって襲い掛かる。

 

 

(ぐおっ……す、すげぇ衝撃波……!! 後数歩でも前に出てたら、衝撃波で壁に叩きつけられてたなコリャ……!!)

 

 

小柄なアブネスやリンダですら近くの机や柱にしがみつかなければ吹き飛ばされてしまう程の衝撃。

当然白斗もナイフを床に突き立て、それを留め具にして耐え凌いでいる。

 

 

「きゃ……!」

 

「ッ!! ベールッ!!」

 

 

当然、幾ら女神と言えども女神化もしていないベールが耐えられるワケもない。

咄嗟に手を伸ばした白斗が、彼女を抱き寄せる。

 

 

「あ、ありがとうございます……。 ところで今、私の事を呼び捨てに……?」

 

「……すいません、つい」

 

「い、いえいえ。 ……今後とも気安く呼び捨てにしてくださっても構いませんわよ」

 

「それはご遠慮します。 ……この呼び方は、俺にとって特別な意味があるんでね」

 

「あらあら、それは残念ですわ」

 

 

彼にとっての特別な意味とは、恋次元にいるベールのことだ。

普段は姉と呼ぶベールだが、白斗は時に彼女の兄となり、またある時は兄以上の親密さを込めて「ベール」と呼び捨てにする。

目の前にいる彼女が、白斗にとっての「ベール」ではない以上、気安く呼ぶことは出来ない。

 

 

「……白斗ってば……まさかこっちのベールにまでコナ掛けるつもりなの……っ!!」

 

「ふ、フフフ……。 ブランちゃんの次は白くんをオシオキしなきゃねぇ……!?」

 

 

だが当然、それらは全てネプテューヌとプルルートに目撃されているわけで。

二人は嫉妬で怒りのボルテージを上げていき、どす黒いオーラを身に纏わせる。

 

 

「おいテメェら!! 余所見とは随分余裕じゃねぇか!! メツェライシュラーク!!!」

 

「ッ!! クリティカルエッジ!!!」

 

「大人ってのは余裕を振りまかなきゃねぇ……ドライブスタップ!!」

 

 

数合ノワールと打ち合った後、ブランが紫の女神二人目掛けて突っ込んでくる。

破壊力満載の戦斧の一撃を、ネプテューヌの鋭い太刀捌きと、プルルートの斬撃からの蹴りで受け止める。

 

 

「ブラン! 私もぷるるんも、白斗も争いなんて望んでないわ!! すぐにやめて!!」

 

「何度言やぁ理解しやがるんだテメェは!! 戦いだって女神の義務だ!! テメェも女神なら覚悟を決めて戦いやがれぇ!!!」

 

「……ホンット、聞き分けのない子ねぇ……!!」

 

 

女神二人のフルパワーで、やっとブラン一人と拮抗する力だ。

それだけブランの力が凄まじいということだ。元々女神ホワイトハートは小柄な体格に似合わない重装甲タイプ。

圧倒的防御力で全てを防ぎ、圧倒的攻撃力で全てを砕く。

それに加え、ここはルウィー。彼女のホームグラウンドだけあって、直接得られるシェアの量も相当なものとなっている。

 

 

「それに、よぉ! テメェ、いつも白斗を傍に置いてるみてぇだが……どういう関係だ?」

 

「白斗は私の騎士よ。 いつも傍にいて、いつも支えてくれる……私の大切な人よ!!」

 

「……やっぱそうか。 正直羨ましいぜ、テメェがよぉ。 私には……そんな奴、いなかったからな……」

 

「……ブラン……」

 

 

寂しそうに呟いたブラン。

そんな声色から、ネプテューヌは彼女の孤独を感じ取った。

 

 

「だから……こそっ!! テメェらをブッ倒す意味があるんだよぉっ!!!」

 

「きゃっ!?」

「くぅっ!?」

 

 

だが次の瞬間、力強く見開いたブランが全てを吹き飛ばす。

まるで嵐のような暴威に堪らずネプテューヌとプルルートも飛びのき、体勢を立て直した。

 

 

「テメェらを倒せば、何もかもが手に入るんだ!! シェアも! ルウィーの安泰も!! ……私を理解してくれる人だってッ!!!」

 

 

追い詰められたからこそ、ブランはこの一戦に全てを懸けている。

己の誇りも、ルウィーの未来も、自身の心の在処も。

必死であれば必死であるほど痛々しく映るその姿に、ネプテューヌとプルルートは哀れみすら感じてしまった。

 

 

「手に入らないのは、アンタが弱いからよッ!! ボルケーノダイブっ!!!」

 

「弱ぇのはテメェだぁ!!! ゲッターラヴィーネッ!!!」

 

 

そこへ爆炎を伴ったノワールが迫りくる。

業火とスピードを乗せたその一撃を、ブランの斧が迎え撃った。

 

 

「ぐ……ッ!! く、腐っても女神ね……パワーだけは一丁前だわ」

 

「当然だ!! この国は……この世界は! 私がずっと一人で守ってきたんだ!! 私一人で得た力なんだ!!! それを……ぽっと出の奴が超えられるかってんだよぉ!!!」

 

(……ブラン……っ)

 

 

真上からの奇襲すら撥ね退けるブランのパワーに、ノワールも吹き飛ばされる。

彼女の言う「ずっと」は、本当の意味で「ずっと」なのだろう。それこそ、何十年にも及ぶかもしれない。

孤独と必死に戦い、得てきた力。彼女にとっては、これ以上に縋れるものはない。

そんな彼女を白斗は、ネプテューヌは、プルルートは。―――もう見ていられなくなった。

 

 

「……ネプテューヌ、プルルートっ!! ブランの苦悩を……断ち切ってくれ!!!」

 

「分かってるわ白斗。 ―――貴方の望むままに」

 

「ふふ、白くんのお願いなら応えないワケにはいかないわねぇ。 ……全力で行くわよぉ!!」

 

 

白斗の願いが、二人に届く。

たった一人の想い、けれどもそれは二人にとって何物にも代えがたいシェアとなる。

あの人が、白斗が信じてくれている。その想いがあれば、ネプテューヌ達はどこまでも戦えた。

 

 

「……ブラン……。 貴女がそこまで言うのなら……一人の限界を教えてあげる!!」

 

「やってみやがれ! お気楽女神がぁ!!!」

 

 

彼女を本当の意味で救うためにも覚悟を決め、太刀を掲げる。

その先から生み出される、巨大な刃―――。

 

 

「受けなさい!! 三十二式―――エクスブレイドォ!!!」

 

「なッ!!? ぐ―――うううううううううううううううううぅぅぅぅぅぅぅぅッッッ!!?」

 

 

余りにも巨大な刃を、咄嗟に受け止めるブラン。

だが、押される。押される、押される、押される。どこまでも押し返されてしまう。

パワー自慢なのに、そのパワーで負けそうになっている。

 

 

(な、なんだこのパワーは……!?)

 

「ブラン……この力は私一人のものじゃないわ。 ぷるるんやノワール、私達を信じてくれている皆……何より、白斗の想いがくれたものよ」

 

「っ!! だっ……たらぁ!! それを打ち砕くまでだああああああああぁぁぁっ!!!」

 

 

ネプテューヌの言う想い―――シェアが、ブランを上回りそうになった。

決してそれを認めるわけにはいかないブランが、全力を込めてエクスブレイドを撥ね退けた。

だが、それだけ。そこから先は、何もできない。

 

 

「うっふふふ!! 隙だらけよぉ……ブランちゃん!!」

 

「がぁっ!!?」

 

 

瞬間、雷鳴が幾つも轟いた。

飛び上がったプルルートが魔法陣を展開し、そこから迸る紫電がブランを捕らえ、辺りを焼き尽くしていく。

更には巨大な雷の塊が形成され―――。

 

 

 

 

「とぉっておきのをお見舞いしてあげる……。 ―――サンダーブレードキックッ!!!」

 

「ぐ―――ああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁッ!!?」

 

 

 

 

それを、蹴り飛ばした。

凄まじい爆発がブランを飲み込み、全てを吹き飛ばす。爆風と共に広がる彼女の悲鳴が、その威力の甚大さを物語っていた。

 

 

(うおぉぉっ!!? な、なんて破壊力だ……!! さすがのブランも、これは……!!)

 

 

プルルートが「とっておき」と称するだけある、必殺技―――エグゼドライブ。

この教会そのものの安否すら揺るがしかねない破壊力に、さすがの白斗も勝負が決まったものと思った。

やがて衝撃音と煙が晴れる中、彼女は―――女神ホワイトハートは。

 

 

「…………ま……だ、だ……っ!! まだ……わた、しは……私はッ!! 負けちゃいねええええええええええええええええええッ!!!」

 

「ま、まだ立つのかッ!!?」

 

 

倒れては、いなかった。

斧を支えにしながらも、震える両足で立っていた。その目はまだ闘志を宿している。

しかし、既にプロセッサユニットはボロボロだ。体中も傷だらけ。誰が見ても、限界である。

 

 

「そう……。 まだ負けを認めないのなら―――ラステイションの女神の力!! 見せてあげないとねっ!!!」

 

「なッ!!?」

 

 

だが、まだいた。まだノワールは倒れていなかった。

シェアエネルギーをフルに発動させ、ウィングの推進力を上げる。

次の瞬間、彼女の体は霞のようにぶれて―――ブランに一閃。

 

 

「はああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

「ぐ、あ、あ、あ………!!!」

 

 

斬る、斬る、斬る斬る斬る斬る斬る斬る。飽きることなく四方八方から切り付けてくる。

疲弊しきったブランに、高速移動と共に放たれる斬撃の嵐を防ぐ術があるはずもない。

 

 

 

 

「逝きなさい。 ―――インフィニットスラッシュ!!!」

 

「うわあああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」

 

 

 

 

 

指を一つ鳴らし、更に無数の剣閃。

今度こそ、決まった。まるで断末魔とも聞こえてしまうような悲鳴を上げ、ブランが吹き飛ぶ。

激しく畳みを転がり、壁に打ち付けられた。

 

 

「はぁっ、はぁっ……! ど、どんなものよ……!!」

 

「それにしても、さすがブランね……。 3対1でここまで追い詰められるなんて……」

 

「ホント、汗びっしょりぃ……」

 

 

何とか勝利をもぎ取ったノワール達だが、誰もが疲弊しきっていた。

それだけブランが強く、本気であったからこそだ。

凄まじい激闘の余波に当てられ、白斗も、ベールも、そして七賢人の二人もしばらく黙りこくっていたが。

 

 

「や……やっと決着……? コホン……えー、画面の前のみんなー☆ ついに決着だよー! 結果はルウィーの女神の惨敗でぇーす☆」

 

「なっ!? おい!! もう決着はついた、カメラを止めろッ!!!」

 

 

何とか我を取り戻したアブネスが高らかにブランの敗北を宣言する。

だが、その言葉一つ一つが悪意に満ちていた。これ以上はやり過ぎになる。慌てて白斗が中継を止めようと声を張るも、アブネスは無視し続けた。

 

 

「いやー、あれだけ大見得を切って宣言したのに幼女女神の敗北で終わっちゃいました! ま、これにこりて幼女は幼女らしく―――」

 

「―――やめろっつってんだろうがぁッ!!!」

 

「「わぎゃああああああああああああ!!?」」

 

 

負けて尚、ブランの名誉を傷つける言葉を吐き続けるアブネスに、白斗の我慢は限界だった。

その瞬間、我を忘れて下っ端のカメラを掴み、地面に叩きつけて粉々にする。

 

 

「な、何すんだテメェ!!」

 

「ブラン!! しっかりしろ、ブラン!!」

 

「こっちの話を聞けえええぇぇぇぇっ!!!」

 

 

余りもの猛攻を加えられたブランは、命にこそ別状はないようだがそれでも立ち上がれないくらいのダメージを受けていた。

下っ端の罵声も無視して白斗は彼女を抱き起こす。しかし―――。

 

 

「う……あぁ……。 ち、力が……シェアが……なく、なっ……て……」

 

 

あの荒々しく、力強い戦い方をしていたブランとは思えないほどの弱々しい声音。

やがて彼女の体が光の玉が幾つも漏れ出し始め、そして次の瞬間―――彼女の女神化は解除され、普段通りの巫女服を着こんだ姿へと戻って、白斗の腕の中に納まった。

 

 

「め、女神化が……解けた……!?」

 

「シェアが失われたってコト。 国民の誰もがこの女神の敗北に呆れちゃったってコトよ。 ま、トーゼンよね。 生中継でド派手に、無様に、負けちゃったんだもの」

 

 

白斗の驚愕を知ってか知らずか、アブネスが得意げに語る。

このルウィーでは、ブランへの信仰心―――シェアは低下しつつあった。それを回復させようと生中継での決闘を画策したのだが、それが裏目に出てしまった。

敗北した女神を見放したかのように、国民たちはブランへの信仰を辞めてしまったのだ。

こればかりはあのアブネスの悪意に満ちたコメントがなくとも、止められはしなかっただろう。

 

 

「あ……わた、し………。 わたし……」

 

(く……ッ!! 確かに、こうなるのは火を見るよりも明らかだった……! でも、こんなの……こんなのっ!!)

 

 

負ければどうなるか、それはブランが良く知っていたはずだ。

そして負けたのだから、国民からの信頼が失わるのも無理もない話だ。だが、誰一人彼女を助ける者がいないのはどういうことか。

余りにも無力で、余りにも孤独で、余りにも酷い有様の少女を白斗は放っておくことが出来ず、ただ労わるように抱きしめることしか出来なかった。

 

 

「プルルート、ブランに回復魔法を!! ネプテューヌ、包帯巻くの手伝ってくれ!!」

 

「オッケーよ」

 

「分かったわ。 ノワールも手伝って頂戴」

 

「な、なんで私が……ああもう、仕方ないわね! もう決着はついたんだし……」

 

 

兎にも角にも、傷ついたブランをこのままにはしておけない。

彼女の治療を始めるべく女神達を呼びよせた―――その時。

 

 

「……やれやれ、負けてしまいましたな。 ブラン様」

 

「だい……じん…………」

 

 

現れた一人の中年男。この大臣としてブランに仕えている男だった。

彼女を憐れむような重苦しい声に、ブランが呻きながら手を伸ばす。まるで縋るかのように。

 

 

「どう……しよう……。 この、まま……じゃ……国が…………ルウィー、が……!」

 

(ブラン……こんな姿になってまで、この国の事を……) 

 

 

今も尚、激痛で苦しいはずなのに。

自身の進退よりも国の行く末を案じていた。この時ばかりはカメラを壊してしまったことを白斗は死ぬほど後悔する。

この姿を国民が見れば、多少なりとも彼女を想う人だって現れたはずなのに。

 

 

「まぁ、こうなることも予想済み。 後はこの私めにお任せください」

 

「……大臣……!」

 

 

まだ、希望はある。大臣と言う忠臣に望みを託し、ブランの強張った表情も少しだけ緩んだ。

 

 

「……そう、この国は……ワシの好きなようにさせてもらうからなぁ」

 

「え……? 大、臣……?」

 

 

だが、その希望はすぐに打ち砕かれた。

今まで丁寧だった口調は崩れ、声色は黒く染まっている。ぐふふ、と下卑た笑い声を交えながら話すその姿に、あの忠臣の面影など欠片もなかった。

 

 

 

 

「大臣? 違うなぁ……ワシの名は……七賢人が一人、アクダイジーンじゃぁっ!!!」

 

「え!? あ、あなたが……七賢人……!?」

 

 

 

 

今までルウィーの大臣として仕えてきた男。その正体は、七賢人の一人こと「アクダイジーン」だった。

その衝撃の正体に誰よりも驚いていたのは、他ならぬブランである。

どうやら七賢人との繋がりは認識していても、この男が七賢人だとは知らなかったらしい。

 

 

「……つまり、七賢人の一人を知らずに部下として重用していたってこと?」

 

「呆れた。 完全に自業自得じゃないの」

 

「ふぉっふぉっふぉ……女神共、貴様らには感謝せねばならんな。 もし貴様らが負けておったなら、またこの小娘に頭を下げる日々が続くところじゃったわい」

 

 

この展開にネプテューヌは驚き、ノワールはこれ見よがしに溜め息を付く。

確かに注意深く調べれば、この男の正体くらい掴めそうなものだが。

しかし、これで白斗の中の疑問が全て解けることとなった。鋭い目つきと共に、言葉を投げかける。

 

 

「……なるほどな。 七賢人の逃走ルートの手配、ラステイションでの妨害工作も全部テメェの指示ってコトかよ、クソ野郎……!!」

 

「クソ野郎は余計じゃが、その通りじゃ。 この小娘を欺くのはラクじゃったわい」

 

「……て、めぇ……!! 絶対に……許さねぇ!!!」

 

「ブラン!? 待て!!」

 

 

騙され、弄ばれ、利用されていた。

怒りが原動力となり、白斗の静止も振り切ってブランがアクダイジーンに掴みかかる。

しかし、それはあっさりと撥ね退けられ、逆に掴み返されてしまった。

 

 

「フン! 傷つき、シェアを失った貴様など正真正銘、無力な小娘! そこで転がってるのがお似合いじゃわい!!」

 

「きゃ!!」

 

 

女の子に対する仕打ちとはとても思えない、乱暴な投げ方。

そうして投げつけられたところは―――あの“四角に区切られた畳の上”。

アクダイジーンはすぐさまジャケットから何かのボタンを取り出すと。

 

 

「もうその面も見たくないわ。 さっさと落ちるがいい」

 

「あ……」

 

 

ポチリと押した。

瞬間、白斗が睨んだ通り落とし穴が発動。畳が開かれ、小柄なブランは奈落の底へと―――。

 

 

「さ、せ、る、かあああああああああぁぁぁぁぁっ!!!」

 

「「白斗!!?」」

 

 

 

落ちなかった。

咄嗟にアクダイジーンの行動を察知した白斗が飛び込み、ブランを抱えたのだ。

このままでは二人とも落ちるとブランも、ネプテューヌも悲鳴に近い声を上げそうになる。

しかし、白斗は袖から伸ばしたワイヤーを天井の木材に括りつけることで落ちることなく釣り下がった。

 

 

「はぁ、はぁっ……! ふぅ……だ、大丈夫かブラン……?」

 

「……はく、と……。 なん、で……?」

 

「理由なんざ後回しだ。 とにかく待ってろ、すぐに引き上げて……」

 

 

このままでは宙ぶらりんではあったが、白斗の袖口に仕込んだワイヤーには巻き取りするためのモーターも取り付けられている。

後はワイヤーを巻き取れば二人の体は落とし穴から這い上がれる―――はずだったのだが。

 

 

「おっとぉ、そうはいかねェんだよなぁ。 チョキンと♪」

 

「なぁッ!!?」

 

 

なんと、リンダがいつの間にかニッパーを手に近寄っていたのだ。

ハサミでは切れない鉄線も、ニッパーなら寧ろ専門分野。チョキン、と小気味いい音と共にワイヤーが切られ―――。

 

 

「し、下っ端ァァアアアアア!! てめええええええぇぇぇぇぇぇ……………」

 

「きゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…………………」

 

「白斗!! ブラン!!」

 

 

奈落の底へと、真っ逆さまになってしまった。

急いで飛び込もうとしたネプテューヌだがその前に落とし穴は固く閉ざされてしまう。

 

 

「やったぜェ!! ザマァ見ろってんだ、あのクソ野郎!!」

 

「いやー、下っ端やおっさんも偶にはいい仕事するじゃない! アブネスちゃん、スッキリ☆」

 

 

白斗に苦い思いをさせられた下っ端とアブネスは大喜びだ。

それだけ白斗に対するヘイトがあったのだろう。

だが、ネプテューヌとプルルートにとってそれが腹立たしく映ってしまう。

 

 

「貴方達ッ!! 白斗とブランをどこへやったの!? 事と次第によっては………!!!」

 

「安心せい、命までは取っておらん。 一足先に地下牢へ送っただけじゃ」

 

「……とは言ってもこの高さだものねぇ……。 もし、白くんに怪我でもあったらぁ……!!」

 

 

今にも殺しに掛からん勢いでネプテューヌとプルルートが睨み付ける。

しかし、同時に今は白斗とブランが人質に取られているも同然。迂闊に手を出せば、二人が、白斗がどうなるか。

それを理解しているアクダイジーンは尚もぐふふ、と下卑た笑いを浮かべる。

 

 

「そんなに確かめたければお前さん達も入るが良い。 下手な抵抗はせぬ方が身のため、あの小僧のためじゃぞ? ……お前達!!」

 

「「「「「ハッ!!」」」」」

 

 

アクダイジーンが指を鳴らせば、まるで示し合わせたかのように軍服を着こんだ男達がずらりとネプテューヌ達を取り囲む。

誰もが銃を携帯しており、体格も良かった。

 

 

「これは……ルウィーの衛兵達!?」

 

「……軍権まで握られてたの? どの道長くなかったわね、この国」

 

「この人数を相手にするのはさすがに疲れるわね」

 

「あらぁ? ねぷちゃんってば大胆ねぇ。 この人達のお相手をするなら、白くんは私が頂いちゃっていいかしら?」

 

「ダメに決まってるでしょうッ!! 例えぷるるんでも、白斗は渡さないわ!!!」

 

「ってアンタ達!! こんな時まで漫才するなぁーッ!! 」

 

 

取り囲まれても尚、平常運転なプラネテューヌの女神達にノワールが吠える。

激戦の後ではあるが、それでもまだ体を動かすだけの余力はある。

刃こぼれすらしていない刃を構え、ノワールが今にも切りかかろうとしている。

 

 

「ああもう!! こうなったら強行突破するしか……」

 

「やめてノワール!! 下手に暴れたらブランも……白斗も!! 危険に晒されるのよ!?」

 

「ノワールちゃん、お願い。 ……二人を危険に晒したくないの」

 

「う……! ……まぁ、あの女神は兎も角、白斗には世話になってるし……何より人を見捨てるのは女神とは言えないわよね……」

 

 

抵抗の意を見せようとしたノワールだったが、ネプテューヌの悲鳴にも近い声によって遮られてしまった。

そしてプルルートも珍しく真剣な表情と声でノワールを止める。

白斗が危険に晒されることは、ネプテューヌにも、プルルートにも耐え難いことだった。

ため息交じりながらもノワールも刃を下ろし、手を上げて降伏の意を示した。

 

 

「ふふふ、それでよい。 これでルウィーはワシのもの……否! プラネテューヌとラステイションも我が手に落ちたも同然じゃ!!」

 

「……アクダイジーン、だったわね。 言っておくけど、もし白斗に何かあれば……」

 

「その時は……虐めてあげない。 ……徹底的に、嬲ってあげるわ……!」

 

「フン、お前達を封じられるのならば寧ろ願ったり叶ったりじゃわい」

 

 

何かあれば抵抗して見せる。そう遠回しに告げてはいたが、アクダイジーンは勝利を疑わず、有頂天になっている。

尤もそれは、アブネスと下っ端にも言えることだった。

 

 

「おっさん、今回はご苦労様! それじゃアブネスちゃんはお先にー!」

 

「んじゃ、アタイは牢屋にいるあいつを笑いにでも……」

 

「ああ、待った。 下っ端、お前さんにはもう一働きしてもらおう」

 

「え!? まだ何かやらせるのかよ!?」

 

「うむ、この後政見放送をせねばならん。 ワシがこのルウィーの新しい首長となったのじゃからなぁ……」

 

 

着々とルウィーの本格支配に乗り出しているアクダイジーン。

この手際の良さ、前々から計画していたとみて間違いないだろう。尤も拘束されているネプテューヌ達にはもう、どうしようもないが。

 

 

「あー……。 でも、カメラはあいつに壊されちまったし……」

 

「政見放送のセッティングが終わるまでに手配してくれればよい。 その間じゃったらカメラなり何なり揃える時間くらいはあろう」

 

「め、メンドクセー……おい、アブネス……ってアイツもういねェし!! ん……? いねェと言えば……あのおっぱい女神もいねェ!?」

 

(ベールがいない!? いつの間に……いえ、この抜け目のなさはさすがかしら)

 

 

そして気が付けばベールも姿を消していた。

ブランとの決着がついた直後はいたはずだが、アクダイジーンが正体を現した辺りからその気配を消していた。

自分までも拘束されるわけにはいかないと離脱する手際の良さに、パープルハートは呆れを通り越して賞賛すらした。

 

 

「ん? あの金髪女か……確かにおらんが、まぁ、あ奴に何が出来るわけでも無し」

 

「ま、そうッスね。 んじゃさっさとカメラとか用意してくるぜ」

 

「うむ。 お前達、女神達を地下牢に案内して差し上げろ。 ふぉっふぉっふぉっふぉ……」

 

 

己の勝利を確信したアクダイジーンは有頂天に達している。

高らかに歌うように、笑い声を上げながら奥へと消え、入れ代わるようにしてネプテューヌ達は地下牢へと連行されるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――それから数十分後、冷たいルウィーの地下牢にて。

 

 

「ドゥルルル、ドゥルルル、ドゥルル~♪ ドゥルルル、ドゥルルル、ドゥルル~♪」

 

「………………」

 

 

目覚めた白斗を出迎えてたのは―――こちらを覗き込んでいる、黒いグラサンとマイクを装備したネプテューヌだった。

 

 

「ドゥル……もがっ!?」

 

「起き抜けになーにをやってるんだねチミは」

 

「おはよーございま~す、ネプリさんです。 元気ですか~?」

 

「世にも奇妙なネタかますんじゃねーよ!! 分かりづらいわ!! それと元気です!!」

 

 

腹が立ったので彼女の頬を潰すように掴かむも、ネプテューヌは平常運転。

そんな彼女にツッコミを入れるため上半身を起こしてみて、ようやく状況が理解できた。

 

 

「……ここは牢屋、か?」

 

「そうだよ~。 白くんおはよ~」

 

「おはようさん、プルルート。 ノワールも……ってあれ、ベールさんは?」

 

 

冷たい鉄の部屋、冷たい隙間風が吹き抜ける鉄格子、冷たい気遣いしか感じられない僅かばかりの毛布。

誰がどう見ても牢屋としか言いようがない。鉄格子という点も、またレトロな神次元らしいというべきか。

ただ、その中に放り込まれている面々の中にベールがいなかった。

 

 

「ベールは逃げたみたいだけど、私達はこうして捕まってるわ。 ……どこかの誰かさんの所為で、ね!」

 

「………………」

 

 

明らかにご立腹な様子でノワールが睨み付けたその先。

牢屋の隅の方で蹲っている少女―――ブラン。

ノワールの不躾な物言いにも怒らず、悲しまず、ただただ黙ってそれを受け入れていた。

 

 

「ノワール、やめてくれ。 今一番傷ついているのはブランなんだ。 それにノワールだって、一歩間違えれば立場が逆転してたかもしれない」

 

「う……。 まぁ、今は言い争ってる場合じゃないしね……」

 

 

調子に乗る傾向かがある神次元ノワール。

今回、ノワールは被害者側なので確かに文句を言う権利はあるかもしれないが、このままエスカレートすれば余計にブランを傷つけてしまいかねないので釘を刺して置く。

ノワールも性根は優しい少女なので、ちゃんと言い聞かせれば口を噤んでくれる。

 

 

「……ブラン、怪我は……無いみたいだな。 良かった」

 

「……貴方こそ大丈夫なの。 私を庇っておいて」

 

「え?」

 

 

白斗が膝を付きながら彼女と同じ目線で語り掛ければ、ブランはようやく口を開いてくれた。

彼女の安否を確かめるが、逆に心配されてしまった。

 

 

「……覚えてないの? 貴方がクッションになってくれたお蔭で私は無事だったのよ」

 

「ん? あー……そういやそうだったかなぁ。 咄嗟だったから良く覚えてねーや」

 

「もー白斗ってば……。 まぁ、白斗らしいと言えばらしいけど」

 

 

ブランに怪我が一つも無かったのは白斗が庇ったからだ。

下っ端によってワイヤーを切られた後、白斗はそれこそ無意識にブランを抱きしめ、自分がクッションとなるように落ちていった。

その結果が―――今のこの現状というわけだ。

 

 

「それにしてもどうやって脱出しよっか? 女神化してエグゼドライブ連発してみる?」

 

「やめとけ。 アクダイジーンは最初からブランをここに閉じ込めるつもりだったんだ。 つまり女神の攻撃を想定して設計されてるはず……無駄な攻撃は力の浪費だ」

 

 

ネプテューヌが力尽くで牢屋を破ることを提案するが、ここまで用意周到なアクダイジーンのことだ。

女神対策も織り込み済みだと白斗が制し、力を温存するように伝える。

だが、このまま手をこまねくことも出来ないのも事実。とにかく知恵を必死に搾り出す面々だったが、その中でただ一人蹲ったままのブランに対し、ノワールの眉根が持ち上がる。

 

 

「……ちょっとアンタ。 いつまでそうやってウジウジしてんのよ」

 

「………………」

 

「元はと言えばアンタの所為なのよ! ちょっとくらい知恵を出すなり何なりしなさいよ!!」

 

「はいはいストーップ! もー、神次元のノワールはこの辺りの手加減を知らないんだから」

 

 

相当苛立っているらしく、すぐにブランに掴みかかってしまう。

何とかノワールを落ち着けさせようとネプテューヌが必死に宥めようとすると。

 

 

「…………ぐすっ…………」

 

「うぇ!? な、なんで泣き出すのよ!?」

 

 

ブランが僅かばかりに鼻をすすり、けれどもはっきりと涙を浮かべていた。

今まで強気しか見せなかったブランの、初めて見せる弱々しい姿にノワールは大慌てになる。

結局のところ、ノワールは他人の涙を放っておけない優しさの持ち主なのだ。

 

 

「う……ぐすっ、ひっく……!」

 

「あーあ。 ノワールってばホントにやりすぎるんだからー。 せんせー、ノワールちゃんがブランちゃんを泣かしましたー!!」

 

「わ、私だけ悪者にしないでくれる!!?」

 

「でもノワールが泣かせたじゃん。 悪者じゃん」

 

「そもそも元を辿ればコイツが……!!」

 

「……ネプテューヌ、ノワール。 頼む、ちょっと静かに」

 

「二人とも~……? 白くんの言う事……聞こうね~……?」

 

「「スミマセンデシタ」」

 

 

今は泣いているブランをどうにかしなければならない。

放っておけば騒がしくなるネプテューヌとノワールの二人に釘を刺し、白斗とプルルートが部屋の隅に蹲っているブランへと近づく。

 

 

「……ブラン、大丈夫か?」

 

「ブランちゃん~。 泣かないで~」

 

「っ!! 触らないで!!」

 

「あだっ!?」

「いたぁ~!?」

 

 

ブランを気遣って手を伸ばした二人だが、その手が振り払われてしまった。

二人の痛がる姿にブランは一瞬だけ怯えを見せたものの、また強がりな表情と涙を浮かべて顔を背けてしまう。

 

 

「っ!! アンタねぇ!! 二人はアンタを気遣って……」

 

「大丈夫だノワール。 仕方ないんだ、今のブランはそれほど傷ついてるんだから」

 

 

二人の気遣いも振り払ってしまったブランにまたも怒りを爆発させるノワール。

しかし、白斗には彼女の気持ちが分かっていた。この僅か数時間で、ブランは様々な裏切りに合ってしまった。

大臣、七賢人、そして国民。ブラン自身にも全く問題が無かったわけではないが、それも全ては国のために必死に頑張ってきたが故。

それが今、最悪の形で裏切られたのだ。荒れるのも無理もない。

 

 

「……う、ひっく……あ、あなたたち……が、所為で……わたし、ずっと……一人でずっと……頑張って……うぐ……」

 

「……そっかぁ。 がんばってきたんだね~」

 

「ああ、そりゃ辛いよな。 一人で……本当に凄いよ、ブランは」

 

(え!? ぷるるんに白斗……あの状態のブランの言葉が翻訳できるの!?)

 

(み、みたいね……。 ちょっと様子を見てみましょう)

 

 

泣きじゃくりながら思いの丈をぶつけるブラン。

涙交じりの上、嗚咽の所為で言葉が途切れ途切れになっておりネプテューヌとノワールには何と言っているのかが良く分かっていなかった。

だが白斗とプルルートは彼女が発する単語と、それに乗せられた感情から、ブランの言いたいことをくみ取っていた。

 

 

「だって……ひっく、この大陸……女神が……えぅ、わたし、しか……だからっ……!」

 

「うんうん~」

 

「お手本とか……相談できる人とか、全然……なりたくて、なったんじゃないのに……。 でも、なっちゃったから……一人でいっぱい、勉強して……!!」

 

「ああ。 それは今朝も見た。 ……全部、みんなのためだったんだよな」

 

 

彼女の想いに相槌を打ちつつ、彼女の話を聞いていく。

ブランはどうやらプルルートのように偶然女神になってしまったらしく、しかも長い間大陸唯一の女神として君臨してしまった。

だからこそ誰にも頼れず、一人で勉強して、一人で頑張ってきた。

 

 

「長い間……ずっと、色々考えながら……でも、ルウィーがイヤだって人、いっぱいいて……でも、どうにもできなくて……!」

 

「……人の心って、ままならないよな」

 

「七賢人にも……嫌がらせとか、我慢とか……いっぱい……。 幾つか、妥協しちゃって……でも、こんな……!!」

 

「……辛かったね~。 でも、ブランちゃんは本当によくがんばったよ~。 えらいえらい~」

 

「ずっと……そうやって、一人で……何もかもを犠牲にして、国を……。 でも、あなたたちは……簡単に……!」

 

「そっかぁ~。 それで怒ってたんだね~」

 

「苦しかったよな……。 そりゃ、苦しいよな……」

 

「そうよ!! でも、それももうおしまい……わたしは、もう……」

 

 

したいことも、沢山あっただろう。したくないことだらけで、逃げたかった時もあるだろう。

そんな辛い気持ちを抑え込み、滅私奉公で国のために尽くしてきた。長い間、たった一人で。

しかしそんな時、プルルートが、そしてノワールが女神として誕生してしまった。それもブランのように孤独ではなく、しかも苦しさを抱えることなく。

それがブランにとっては、何よりも腹立たしかった。けれどもそんな嫉妬心から始まった騒動は、ブランのシェアが失われるという形で終わろうとしていた。

 

 

「……でもぉ~。 それって楽しくないよね~?」

 

「……たの、しく……?」

 

「だな。 ブランは気苦労ばかり背負い続けて、自分を追い込み続けるばかりだ。 少し、力の抜き方が分からなかっただけなんだよ」

 

「楽しいとか、力を抜くとか……そんなの、女神には……!」

 

 

しかし、そんな彼女の生涯において一番の問題点は何か。

それはプルルートが言うように、ストレスを昇華することが出来なかったことだ。

女神であることを第一に考え続けた結果、彼女は常に仕事モードのように張り詰めているばかり。

そんな状態では休まることも、増してや楽しむことも出来るはずもない。

 

 

「あたしは~。 女神やってて楽しいよ~?」

 

「え……?」

 

「ねぷちゃんやノワールちゃん、いーすんにピーシェちゃん達……それに白くんにも出会えて、毎日が楽しくて~……幸せなんだよ~」

 

「……それは、あなたが周りに恵まれてるだけで……! 私には、何も……!!」

 

「だったら~。 そこにブランちゃんも入ればいいんだよ~」

 

「何……それ……意味が分からないわ……」

 

 

だが、プルルートは違った。

同じく、思いもよらない形で女神になったものの、彼女は気楽に、けれども楽しく女神としての人生を過ごしていた。

理知的な分、余計に彼女の言葉の意味が理解できないらしいブランが混乱していると。

 

 

「え~? ん~……なんて言うかなぁ……。 ねぇノワールちゃん~、変身していい~?」

 

「へ? どうぞどうぞ……ってダメよ!! アンタが変身したら……!!」

 

「おう、いいぞプルルート。 俺が許可する」

 

「ねぷぅっ!? ちょっと白斗さん!? それはマズイんじゃございませんか!!?」

 

 

プルルートが女神化しようとした。

慌てて止めるノワールだが、なんと白斗は許可を出してしまう。これにはさすがのネプテューヌも焦って留めようとするが、無理もない話。

何せ彼女が変身すれば、あのドSなアイリスハート様となる。今の傷心中のブランにとってトドメを差しかねないものであるはずなのだが。

 

 

「ありがと白くん~。 それじゃぁ――――………これでぇ、じぃぃっくりお話しできるわねぇ……ブランちゃん……。 うっふふふふ……!!」

 

「ひ、ひぃっ!? な、何……!? 物凄い悪寒が……っ!!」

 

 

二人の懸念を他所に、とうとうアイリスハートへと変身してしまったプルルート。

先程まで戦っていた時はまた別ベクトルの危険な雰囲気を感じ取り、ブランが怯える。

無論、ネプテューヌやノワールも例外では無かった。

 

 

「ど、どーするの白斗!? 今のブランはドSぷるるんにとって格好の餌食だよ!?」

 

「お前らはプルルートを何だと思ってるんだ……。 まぁ、確かにちょっぴり……いや大分……メチャクチャ過激だけれども……」

 

「過激ってところは否定しないじゃない!!」

 

 

確かにアイリスハートとなれば過激な部分が目立つ―――というよりも過激さ90%に見えてしまうのは否定できない。

ただ、白斗としては苦笑いを浮かべながらも一切焦った様子はなく。

 

 

 

「ただ、あいつは理不尽な理由で変身したりはしないぞ? ……信じてみようぜ、な?」

 

 

 

最後には爽やかな笑顔と共にそんな一言をつけ足してきた。

まるで親友であるノワールやネプテューヌに以上に彼女の事を理解しているようなその一言に、二人は頬を膨らませながらもとりあえずは従う。

 

 

「あらあら、ブランちゃんってばぁ。 おめめを真っ赤っかにさせちゃって……」

 

「な……なんだよ!? て、てめーなんか……てめーなんか怖かねぇ!!」

 

「ふふ、可愛いわねぇ。 ……そうやって“虚勢”を張る姿も。 でも分かっちゃってるから、そんなに肩肘張らなくていいのよぉ?」

 

「き、虚勢だと!?」

 

 

ブランは言葉でこそ否定しているが、誰がどう見ても大当たりとしか言わざるを得ないほどの動揺っぷりだ。

そんな彼女の反応に確信を得たアイリスハートは、尚も優雅に、けれども少し声色を柔らかくして語り掛ける。

 

 

「そぉ。 本当のブランちゃんは、弱気で内気でうじうじした可愛らしい女の子……。 虚勢を張って国を守ってきたけれど、それが無くなったから泣き虫な素顔が出てきちゃってるのよねぇ」 

 

「な、泣き虫じゃねー!! 勝手に人の分析すんな!!」

 

「いいのよぉ? あたしたちの前では素顔を晒しても……」

 

「馬鹿にしやがって……! やっぱり、てめーらに私の気持ちは……!!」

 

 

強がりも徐々に弱くなってきている。

そんなブランの肩に、白斗は優しく手を乗せた。

 

 

「……ブラン、今のままだと絶対後悔するぞ」

 

「白斗……? な、何だよお前まで……!」

 

「それにな、お前はもうおしまいなんて言ったけど……これは新しいスタートを切るチャンスでもあると、俺は思うんだ」

 

「新しい……スタート……?」

 

「ああ。 今までのやり方でダメだったなら、新しい一歩を踏み出すしかない そして新しい一歩を踏み出したいなら、自分を変えなきゃいけない……これはそのチャンスなんだ。 だから、まずはプルルートと向き合ってくれ。 ……自分を変えるためにも」

 

「………………」

 

 

やはり怒りっぽいブランではあるが、その本質はプルルートの言う通り内気で、可愛らしく、そして理知的な女の子でもある。

しっかりと彼女と向き合い、道理に沿った言葉で語り掛ければブランも無碍にしようとしない。

幾分か落ち着いたらしく、少々頬を膨らませながらもプルルートに向き直る。

 

 

「ありがと、白くん。 ……さて、ブランちゃんはさっき、自分の気持ちなんてわからないなんて言ってたけど……それってアレでしょう?」

 

「あ、アレって何だよ……?」

 

「自分は苦労して頑張ってるのに、他の子達は仲良く楽しそうに、簡単にやっちゃうのが気に入らないっていう……あははは。 凄く子供っぽいヤキモチよねぇ!」

 

「ぐッ…………!?」

 

 

図星だったらしい。グサリと突き刺さるプルルートの言葉に、ブランが凄い顔を差せながらも口を噤んでいる。

人間も女神様も、誰でも痛い所を付かれると案外言葉が出なくなるものだ。プルルートはその痛い所を見抜くのが得意にして趣味の、まさにドSであった。

 

 

「本当にお子様よねぇ。 そんなんだから他の国に簡単に追いつかれたり、一度負けただけで国民から見捨てられたり、終いには悪い大人に騙されて国を奪られちゃったりするのよぉ?」

 

「ぐ、ううう……うううぅぅぅ……!! う、うぅぅー………」

 

「あわわわ……!! ブランが泣いちゃう……白斗!! さすがに止めた方が……!!」

 

「…………大丈夫だって、見てみ」

 

 

確かに慰めるには少し言葉が過激だろう。

だけれども、必要なことだと白斗は敢えて動かなかった。それだけ、プルルートという女神様を信じているから。

そして、彼が信じた女神様は―――。

 

 

 

「だぁかぁらぁ……あたし達がお友達になってあげる」

 

「え……?」

 

 

 

優しい言葉と共に、温かい手を伸ばした。

 

 

「今日からあたし達はお友達、みんな一緒よぉ。 もう羨ましがる必要なんてないわ」

 

「ああ。 この国に不足してる部分も、皆でフォローしていけばいい。 その代わり、ブランも時々助けてくれると嬉しいな」

 

「や……なんで、いきなり……?」

 

 

ブランは戸惑っていた。つい一時間前までそれこそ殺し合いと言われても否定できないほどの勢いで戦っていた相手が、「友達になろう」と手を伸ばしているのだから。

けれども、まるでそれが当たり前だと言わんばかりにプルルートが、そして白斗が微笑む。

 

 

「いきなりじゃないわよぉ。 あたし、元からブランちゃんは悪い子じゃないって知ってたしぃ、寧ろ気に入っちゃったわ。 ダメかしらぁ?」

 

「ダメ……じゃない、けど……でも、いきなり……」

 

「……ブラン。 ここが、新しい一歩を踏み出せる分水嶺だ。 確かに怖いかもしれないけど、案ずるより産むが易し。 ……何も考えず、踏み出してみなよ」

 

「……白斗……」

 

 

ここは寧ろ勢いに任せた方がいい。

尚も二の足を踏んでいるブランの肩を、白斗が優しく押した。少し手を伸ばしただけで届く、女神の温かな手。

それに吸い込まれるように、ブランはおずおずと、だが少しずつ手を伸ばし―――。

 

 

「……プルルート、だったわね……。 あの、その……よ、よろしく……」

 

「ええ! あたしとお友達になってくれてありがとぉ、ブランちゃん」

 

 

―――プルルートと、友達になったのだった。

 

 

「……こっちこそ……あ、ありがとう……。 それから、白斗も……」

 

「俺は何もしてない。 やったのはプルルート、そしてブラン自身だよ」

 

「もぉ、白くんてはちょっとくらい恩着せがましくしてもいいのにぃ。 ……さぁてノワールちゃん、ねぷちゃん、白くぅん?」

 

「は、ハイッ!?」

 

「何でございましょうか!?」

 

「あたしぃ、お友達の国を取り返してあげたいの。 当然、協力してくれるわよねぇ?」

 

「ああ、寧ろ協力させてくれ」

 

「ふふ、白くんは確認するまでも無かったわね。 ……ねぷちゃんは?」

 

「ハッ! 仰せのままに!! まぁ、私もブランとは仲良くしたいからねー♪」

 

「……ネプテューヌも……その、ありがとう……」

 

 

ブランと友情を結べば、そこから先は早い。

友達のために協力を募るプルルートに、白斗とネプテューヌも快諾してくれた。

 

 

「……ち、ちょっと! そこまでしてやる義理は……」

 

「ノワールちゃぁん……?」

 

「ヒッ!? ま、まぁ……七賢人よりもルウィーの女神の方がマシだし……仕方ないわ、私も協力してあげる。 か、勘違いしないでよね!! アンタのためじゃないんだからね!!」

 

「はい、ノワールのテンプレツンデレ頂きましたー!」

 

「……あなた達……」

 

「それじゃ~、ブランちゃんのためにみんなで頑張ろ~!」

 

 

ノワールも、快く快諾してくれた。(プルルート曰く)

それに満足したのか、いつの間にかプルルートも女神化を解除しており、緩く拳を突きあげる。

 

 

「待って! まぁ、方向が固まったのは良いんだけど……どうやって脱出するのよ? 私達今、絶賛投獄中よ?」

 

「はいはい、そこはお任せあれ。 ……神次元がアナログで助かったぜ」

 

 

これで残る問題は、どうやってこの牢屋から脱出するのか。

誰もが固まりそうになるが、白斗が軽いノリで前に出た。やがて袖口から取り出したのは、針金や細いドライバーのような工具が数本。

 

 

「白斗、それって……ピッキングって奴?」

 

「ピッキングって奴。 カチャカチャカチャーン、ほい開いた」

 

「早!?」

 

 

鉄格子の隙間から手を伸ばし、鍵穴に針金や工具を差し込んで弄ること十数秒。

軽快な音と共に重く閉ざされていたはずの扉は、あっさりと開いてしまった。

 

 

「さっすが白斗! 私の騎士様だね!」

 

「ピッキングできる騎士もどうかと自分で思うけどな……。 ま、戦闘で役立たずなんだからこれくらいはやらないと」

 

「じゃれつくのは後よ! 今は先に進みましょう! いつ衛兵が来るか……」

 

「あれ~? でも衛兵さん達寝てるよ~? お昼寝中なのかな~?」

 

「はぁ? そんなワケ……って気絶してるわね、誰がやったのかしら……?」

 

 

扉を出れば、迅速な脱出が求められる。

後は追ってくるであろう衛兵を捌くだけ、かと思いきやその衛兵たちは既に倒されていた。

 

 

「疑問に思うのは後だ! 俺が殿を務める、先に行け!!」

 

「白斗!? それ死亡フラグだよ!?」

 

「メタ発言やめろ!! 安全確認したらすぐに行く、さっさと行け!!」

 

「白くん~、すぐ来てよ~!」

 

「はいはい、良いから行けって!!」

 

 

白斗を残したくないネプテューヌとプルルートが悲し気な表情を作るものの、無論白斗としては死ぬつもりもなければここで死ぬ要素もない。

ネプテューヌ達を先に行かせ、周りを見渡すと。

 

 

「―――すいませんね、ベールさん。 お手数おかけしまして」

 

「あらあら、お気づきでしたの?」

 

 

白斗が見つめた柱の影。そこから姿を見せたのは、なんとベールだった。

その手には銀に光る鍵の束が握られている。

 

 

「見事なお手並みでしたわ、白斗君。 正直私要らずでしたわね」

 

「いえ、貴女が衛兵を倒してくれたおかげでネプテューヌ達は安全に脱出出来ました。 皆に変わり、お礼を申し上げます」

 

「そんなに畏まらなくても。 もしかして、私にお礼を言いたいがためにわざわざ残ってくださったんですの?」

 

「はい。 ……ちゃんとお礼言っておかないと、後でどうなるか」

 

「ふふ、よく分かっていらっしゃいますのね。 何はともあれゆっくりはできません、貴方も早くお行きなさいな。 私でしたら大丈夫ですから」

 

「分かりました。 このお礼はまた、紅茶やお菓子と一緒に」

 

「あら、それは楽しみですわね。 それでは」

 

 

交わした言葉こそは短いものの、改めてベールは白斗がどういう人間なのか知った。

白斗もまた、ベールがこの世界においても気配りができる女神だと感じ、また会おうと約束してその場を去る。

 

 

「……さて、私もお暇しましょうか。 この大陸の女神の実力もしっかり計れましたし……とは言っても白斗君、ですか……。 戦闘力こそないものの、侮れませんわね……。 ですが、それさえどうにかしてしまえば全て私の……ふふふ♪」

 

 

白斗が去った後に訪れた静寂の中で、ベールは楽しそうに微笑み、そのまま何処かへと姿を消すのだった―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――地下牢を出れば、氷に覆われた洞窟へと繋がっている。

少し進んだ開けた場所に、ネプテューヌ達は待っていた。

 

 

「すまん、待たせた!!

 

「もー、心配したんだからねー!」

 

「悪い悪い、今度プリン作ってやるから機嫌直せって」

 

「プリン一つと白斗の命は等価じゃないんだからねっ!」

 

「分かってるって。 で、脱出したは良いがこの後の方針はどうする? ルウィーを取り返すにしても、現状はあのデブ中年が乗っ取っちまってるワケだが」

 

「う~ん、あのおじさん……ブランちゃんに酷いことしたから同じことしてオシオキしたいな~」

 

「ぷるるーん、発想がドS過ぎるよ……。 最近素の状態でもSッ気が混ざってない?」

 

 

再会を喜びたいネプテューヌ達だが、まだこの国を、ルウィーを取り戻す大仕事が残っている。

今、この国の首長は一時的とはいえアクダイジーンが握っている。どうにかして、あの男の権力を失墜させると同時にブランの権威を回復させないといけないのだが。

 

 

「同じこと……? そうよ、同じことをしてやればいいんだわ!」

 

「え!? ノワールまでぷるるんのドSが感染したの!?」

 

「違うわよ!! あの大臣、確か政見放送をやるって言ってたわよね!?」

 

「政見放送……なるほどな! 当然生放送……ならそこで奴をボッコボコにして、ついでに悪事も白日の下に晒しちまえば!」

 

「ええ! 一気に状況は好転……いや、逆転するわ!」

 

 

ブランはあの生中継で自分の敗北を晒し、国民からの信仰を失ってしまった。

ならばその逆、政見放送中にアクダイジーンを懲らしめ、彼の悪事を国民に知らせれば今度はアクダイジーンの権威が失われる。

ノワールらしい鋭い着眼点に、白斗も文句のつけようがなかった。

 

 

「なら決まりだね! 今準備中だろうし、このまま殴り込んじゃおうよ!」

 

「お~!!」

 

「ああ。 ……ブラン、もうすぐだぞ」

 

「え? ええ……そう、ね……」

 

 

しかし、進んでいけば進んでいく程、ブランの表情が重くなる。足取りも。

白斗はその事実に気づいていたが、敢えて口には出さなかった。どれだけ重いものを背負っていても、今は前へ進むしかないのだから。

やがて氷の洞窟を抜ければ目の前に広がる、和と雪に溢れた白の国が。

 

 

「やっと抜けたな。 それじゃ俺が先行して偵察してくる、探し物も出来たしな」

 

「……白斗、気を付けてね」

 

「ああ。 ……さぁて、俺の本領発揮と行きますか!」

 

 

潜入、内偵、そして探知。どれも白斗の得意分野だ。

ネプテューヌの声を受け、白斗は迷うことなく教会内へと飛び込んでいく。既に一度潜入している関係上、障害物や監視などあってないようなもの。

数十分後、ネプテューヌのスマホに白斗からの通信が入る。

 

 

『お待たせ、こっちの仕事は完了した。 今から言うルートで入れば監視の目に引っかからないから、その通りに突入してくれ』

 

「おっけー! さっすが白斗、仕事が早いね!」

 

『光栄の至り。 ……っと、そろそろ奴の政見放送が始まっちまう、こっからはスピード勝負だ』

 

「分かったわ。 さぁ、行くわよ!!」

 

 

ノワールの合図と共に全員が掛けだす。

最早形振り構っていられないほどの速度での駆け足だったが、白斗の指示は正確無比でその間、敵兵に遭遇することは無かった。

お蔭で、その現場に立ち会うことが出来たのは、本当にすぐの事だった。

 

 

「おーい、おっさーん……。 まーだ始まらねェのかよ……」

 

「ええい、待たんか。 髪型が整わなくてのぉ……娘たちも見てるんじゃ、無様な格好は出来んのじゃよ」

 

「へェ、娘なんていたのか。 知らなかったぜ」

 

「ああ、そう言えばお前さんにはまだ紹介していなかったの。 とてもいい子達でなぁ……」

 

「その前振りは長くなるフラグ!! とにかくさっさと帰りたいんだよ!! あのドS女神達が牢屋から脱出したらと思うと……!!」

 

「何を馬鹿な。 あの牢屋は対女神用に拵えたもの。 脱出できるはずが……」

 

 

中庭ではすでに政見放送の準備が整えられていた。

その舞台裏ではアクダイジーンと下っ端が何やら話し込んでいる。完全に勝利を確信し、油断しきっている。

だからこそ、彼らには迎撃の準備など何一つ整っているはずがなかった。

 

 

「あ~! 下っ端ちゃん達見つけた~!」

 

「げぇーッ!? やっぱりいいいいいいいいいい!!!」

 

「ばっ、馬鹿な!? あの牢屋を抜け出してきたというのかぁ!!?」

 

「まー、牢屋に閉じ込めたって時点で二次創作的には脱出フラグ立ててるよねー」

 

「し、しまったぁ!! ワシとしたことが何と迂闊な……!!」

 

 

プルルートとネプテューヌの気の抜けた挨拶に酷く怯える七賢人たち。

下っ端は以前プルルートに植え付けられたトラウマが蘇り、アクダイジーンは相当自信があった牢屋をあっさりと破られたことに驚愕している。

 

 

「や、ヤベェヤベェヤベェ!! は、早く逃げ―――」

 

「ダメよぉ、下っ端ちゃぁん」

 

「ンギャー!? いつの間にか女神化した上に回り込まれたァ!?」

 

 

トラウマによって発狂、錯乱状態に陥った下っ端が逃げようとするもその首根っこが掴まれた。

いつの間にか女神化していたアイリスハートの手によって。

 

 

「知らなかったのぉ? ……女神からは、絶対に逃げられないのよぉ」

 

「は、離せェ!! これは生放送だ、アタイみたいなか弱い女の子を虐待……」

 

「しないわよぉ。 ただ、さっきみたいにカメラを回して欲しいだけ。 ……逃げたりしたら」

 

「ハッ!! 仰せのままに!!」

 

 

トラウマによって従順なペットに成り下がっていた下っ端に反抗心などあるはずもなく、それはそれは見事な敬礼を披露してアイリスハート様の指示に従うのでした。

 

 

「大臣……! 覚悟しろ……てめーだけは絶対に許さねぇ……!!」

 

「おぉ、これはブラン様。 怖い顔をなさって……しかしあれほど忌み嫌っていた女神達と手を組むとは、堕ちるところまで堕ちたものですなぁ」

 

「うるせぇ!! こうなったのもてめーの所為で……!!」

 

「ちょっと待ちなさい。 私はコイツに協力したつもりはないわ。 ―――ただ、貴方をぶっ飛ばしたいだけよ!!」

 

「まさか、女神四人を相手にして勝てるなんて思っていないでしょうね?」

 

 

更には女神化したノワールとネプテューヌも迫ってくる。その手に刃を握って。

一瞬、アクダイジーンも焦った。あの体つきからして、アクダイジーン自身に戦闘力などあるはずもない。

女神一人だけでも歯向かえば身の破滅。しかし、突然彼は落ち着きを取り戻し。

 

 

「……女神四人? 三人の間違いじゃないのか?」

 

「は? 何を言って……あ」

 

 

まるで負け惜しみのように聞こえたのか、ノワールは呆れたように返した。

だがそれも一瞬の事。すぐに思い当たる。

この場において、女神でありながら女神化出来ないその存在を。

 

 

「……変身、出来ない……」

 

「じゃろうなぁ。 先程の生放送を見て、貴様を信仰する物好きなど一人もおるまいて」

 

 

ブランだった。

女神の力の源はシェア―――人々の信仰心だ。誰もがブランを信仰しなければ、変身するための力すら生まれない。

 

 

「まぁ、別にこっちは三人でアンタをボコしてもいいんだけど?」

 

「待ってノワール! そうなったら、国民は私達三人の誰かを信仰することになってしまうわ。 そうなればルウィーは自然消滅、ブランは完全に女神の力を失ってしまう……」

 

「ぐふふ、プラネテューヌの女神は案外聡いのう。 さぁ、好きにするがいい……女神自身の手でルウィーの幕を下ろしたいのならなぁ!!」

 

 

これでは事実、ブランを人質に取られたようなものだ。

刃を振り下ろすまでもない、拳一つだけで目の前の中年親父は倒せるというのにそれすらもままならない状況。

どうすればいいのかと攻めあぐねていると。

 

 

「―――じゃぁ、信仰する物好きがいればいいんだな?」

 

「白斗、遅かったじゃない!」

 

「悪い悪い。 あの後、衛兵に見つかっちまってな。 黙らせるのに手古摺っちまった」

 

 

黒コートをはためかせながら天井裏から一人の少年が舞い降りる。

今まで潜入していた白斗だった。

衛兵と戦闘をしてきたらしいが、多少服に切れ目が入っているだけで特に怪我とかはしていないらしい。

 

 

「小僧……! どういうことじゃ?」

 

「子供でも分かる簡単な話だよ。 耄碌ジジイには分かんないだろうけど、なぁプルルート?」

 

「ふっふふ、さっすが白くん。 あたしの考えをよく理解してくれてるわぁ」

 

 

アクダイジーンの動揺には大して取り合わず、彼の目線はプルルートに注がれた。

妖艶に微笑んだ彼女は、ブランに手を伸ばすと彼女の小さな手を優しく取り。

 

 

「……ブランちゃん。 あたし達が、貴方を信仰してあげる」

 

「え?」

 

「内気でウジウジしてて、弱気で泣き虫だけど可愛いくて大切なあたしのお友達を信仰する……別に変じゃないでしょぉ?」

 

「ああ、俺もだ。 弱い自分を奮い立たせて、それでも懸命に頑張り続けた努力の女神、ホワイトハートに、惜しみない信仰を」

 

 

更に白斗も、その手を重ねてくれた。

ただひたすら女神のためにどこへでも向かい、何でもやって、いつでも女神の手を取る男。

その彼の手も力強く、大きく、けれども優しかった。

 

 

「私も信仰するわ。 力強く、荒々しくも頼もしい、信頼のおける友人を。 さぁ、ノワールも」

 

「わ、私も? ……まぁ、これでも長い間先輩女神として頑張ってたわけだし。 そういう意味では……信仰してあげるても、いいわよ?」 

 

 

普段はお気楽だけれども、友を想う気持ちは誰よりも強いネプテューヌも。

自他共に厳しいが、心ねは優しいノワールも。

皆がブランのために手を重ね、彼女を信じ―――信仰してくれる。その信仰は優しい光となって溢れ出し、ブランの中に注ぎ込まれる。

 

 

「力が……! 少し、だけど……これなら!!」

 

 

今のブランに恐れなど無い。

友達が自分を信じてくれる。まだ、彼女は国のため、友のため、そして自分のために戦える。

その嬉しさと共に、信仰の証たるシェアエネルギーを光として身に纏い―――。

 

 

 

「―――変身、出来たぜ!!」

 

「な、なんじゃとおおおおおおおおおおおおおおおおお!!?」

 

 

 

―――巨大な斧を携えた鉄壁の女神、ホワイトハートが降臨した。

 

 

「は……ははははは!! これで遠慮なくテメーをぶっ飛ばせるぜ!!」

 

「全く、世話が焼けるんだから。 ……でも、ようやくね!!」

 

「これで正真正銘、女神四人よ」

 

「だな。 年貢の治め時って奴だなぁ、クソジジイ」

 

「うふふ……下っ端ちゃぁん、ちゃんとカメラ回してるわよねぇ?」

 

「ハッ!! バッチリです!!」

 

「ぐ、ぬぬ……! よもや、このような事態になろうとは……!!」

 

 

女神四人、そして白斗が刃の切っ先をアクダイジーンに向ける。

おまけに下っ端はすっかりアイリスハートの下僕、全く加勢してくれる気配がない。

 

 

「じゃが!! 窮地と好機は表裏一体……ここで女神四人を全員葬れば、全ての国がワシのものとなる!!」

 

「出来もしねーこと口にしてんじゃねーぞ。 てめー、戦闘なんか出来ねーだろ」

 

 

だが、アクダイジーンはまだ諦めなかった。

それどころか、この絶体絶命の状況をひっくり返すつもりでいるらしい。ブランは呆れ果てるが、虚勢にしてはどこかおかしい。

 

 

「それはどうかのぉ? ワシには切り札がある……国家予算を横流しして作った、究極のパワードスーツがなぁ!!」

 

「な、何だと!?」

 

「……あなた、国家予算まで使い込まれてたの?」

 

「さすがに、管理が杜撰すぎるわね」

 

「……ブラン、この次はそこも勉強していこうな。 ネプテューヌと一緒に」

 

「ちょっと白斗! 私だってやる時はやるんだから! ……極たまに」

 

「極いつもの時はやってくれないってことじゃねーか!!」

 

 

アクダイジーンが指を鳴らせば、地面が突如せり上がる。

そこから現れたのは、不細工ながらもかなりの大きさのあるロボットだった。

こんなロボットを作れるだけの金が使いこまれていたことにも気づかないことにネプテューヌ達も呆れてしまう。

 

 

「フン、漫才かましてるお前達には衛兵の相手でもしているがいい! お前達!!」

 

「「「「「は……ハッ!!」」」」」

 

「ネプテューヌ、俺達は雑魚処理と行こうか」

 

「ええ。 ブラン、こっちは任せて」

 

「アンタ自身のケジメよ。 さっさとその男ぶっ倒しちゃいなさい!!」

 

「うーん、こんな人たちじゃ物足りないけどぉ……美味しいところは譲ってあ・げ・る」

 

 

更に、今となっては大臣の部下となった衛兵たちがブランの周りを取り囲む。

しかし悪辣なアクダイジーンの部下だけあって衛兵の質は決して高いとは言えず、ネプテューヌ達が武器を構えるだけで怯んでいた。

 

 

「ああ。 ……アクダイジーン、覚悟は出来たか……?」

 

「貴様こそ!! 幾ら女神化出来たとはいえ、たった四人分の信仰!! そんなちっぽけなシェアで、このワシに敵うわけがなかろう!!!」

 

 

すぐさまアクダイジーンはスーツに乗り込み、起動させる。

起動音、足踏みによる振動音、そして振り回される剛腕。以前戦ったコピリーエースの技術が応用されていると考えれば、確かにパワーは凄まじいのかもしれない。

それでも、ブランは怯まない。揺るがない。恐れを全く抱いていない。

 

 

「……不思議なモンだな。 ちょっと前の私だったら、きっと怖気づいちまったかもしれねぇ」

 

「今も、の間違いじゃないのかぁ?」

 

「ああ、今は全く怖くねぇ。 ……今なら分かる、私に必要なのは上っ面だけのシェアの量なんかじゃない……私を信じてくれている人に応えたいって想いだ!!」

 

「何かと思えば今更精神論!? 片腹痛いわぁ!! 死ねぇ!!!」

 

 

ブランの想いを全否定するかのように襲い掛かる機械の剛腕。

それに対し、白の女神は避けるでも、迎撃するでもなく―――。

 

 

 

 

「う……おおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!」

 

 

 

 

真正面から―――受け止めたのだった。

 

 

「な、な、何じゃとぉおおおおおおおおおおおおおお!!?」

 

「……これが、私の想いだ。 それにな、今の私は……嬉しいんだ」

 

「何が!!?」

 

「この力で、信じてくれている人に応えられる。 この力で、国を取り返せる。 この力で―――私の大好きなルウィーを、国民を……守れるからだぁ!!!」

 

 

すると今度は受け止めただけではなく、アクダイジーンのパワードスーツを押し返した。

単純な力だけで。機械の剛腕が、少女の細腕に負けている。

何もかもが理解できないこの状況に、いよいよアクダイジーンの余裕も失われた。

 

 

「馬鹿なことを!! 貴様はさっきまで国民に見捨てられた!! 自分を見捨てた愚か者共を、それでも愛するというのか!!?」

 

「ああ、そうだよ!! 辛いことも、苦しいこともあったけど……嬉しいことだってあったんだ! 皆が私を認めないっていうなら、認めさせる!! それが私の覚悟だ!!!」

 

「ぐ、ぬぬぬううぅぅぅぅぅぅ!!!」

 

 

どんな言葉を投げかけても、ブランは一切揺らがない。

揺らいでいるのはアクダイジーンの方だ。押し返すために出力を上げても、女神ホワイトハートの力は常に上回っている。

寧ろ無理に出力を上げたために、パワードスーツの方が限界を迎えていた。

 

 

「し、知っておるぞ!! 貴様は好きで女神になったワケではない!! 嫌々女神をやったところで長続きするものか!! またいずれ、今日みたいに……!!!」

 

「確かに好きで女神になったワケじゃねぇ。 それでも……今は! 私は女神でいられて幸せだって思えるよ」

 

「な……!?」

 

「そして私を女神にしてくれているのは……この国、国民、そして私の友達だ!! そんな私の大切な宝物のために―――戦いたいんだぁあああああああああッ!!!」

 

「ふざけるな、ふざけるな、ふざけるなあああああああああああああああッ!!!!!」 

 

 

どれだけ虚勢を張ろうとも、既に勝敗は見えていた。

オーバーヒートを起こしたパワードスーツはあちこちから煙が上がり、火花が弾け、外装が剥がれてきている。

出力も落ち、何よりも自らの肉体で戦えないアクダイジーンに勝機などあるはずもなく。

 

 

「どおぉぉおおりやああああああああああああああああああああッ!!!!!」

 

「ひ―――あぎゃあああああああああああああああああああああああああッ!!?」

 

 

―――ブランが豪快に、パワードスーツを投げ飛ばした。

こんな巨体が放り投げられるとは想定していなかったらしく、満足に着地も受け身もとれぬままアクダイジーンはパワードスーツごと地に沈む。

ルウィー全土を揺るがすこの地鳴りが、決着の合図でもあった。

 

 

「へッ、良かったな。 望み通り、生中継されてるぜ。 てめーの醜態が、な」

 

「ぐ、ぐぐぐッ……! おのれぇ……!! だ、だがまだじゃ……まだ……!!」

 

 

動かなくなったパワードスーツの下からアクダイジーンが這い出てきた。

やはり衝撃によって相当なダメージを受けたらしく、しかしその目はまだ諦めていない。

野望の炎が未だに灯るアクダイジーン。それにトドメをさすのは。

 

 

「おっと、断罪はこれからだぜ。 おっさん?」

 

「こ、小僧……!? 衛兵共は!?」

 

「もう皆倒したわ。 体力と白斗さえ戻れば、あんな連中取るに足らないもの」

 

 

白斗だった。

そしてネプテューヌが指差す先には、山のように積み上げられた衛兵たちの気絶した姿が。

一部はアイリスハートの椅子なり犬なりになっているのは、ご愛敬。

 

 

「お、おのれぇ……!! じゃが貴様に何が出来ると!?」

 

「例えば……これ。 ブランの指示を捻じ曲げて国民からの税収をネコババした帳簿とか」

 

「なっ!?」

 

 

白斗が黒コートから取り出したもの。それはアクダイジーンによる不正の証拠だった。

彼がここに潜入する際に言っていた「探し物」とは、まさにこれだったのである。

 

 

「これは……賄賂の記録か、これは国民からの要望書を握り潰した後、んでこっちは情報の改ざん記録に……」

 

「や、やめろお!! やめてくれえええええええええええッ!!!」

 

 

何度も言うように、これは生放送だ。

どれだけアクダイジーンが放り投げられる書類の数々を奪おうとも、その存在が露呈すればどうなるか。

既に国民の信頼は失われ、彼を首長と認める者はいない。

 

 

「あらぁ? 何を情けないことを言ってるのかしらぁ? これからが本番なのにぃ」

 

「へ?」

 

「そうだな……これからが始まりだってのに、音を上げてくれるなよぉ……?」

 

「え? いや、あの……え?」

 

 

だが、これだけで終わるはずもなく。

―――ゆらりと怪しい雰囲気を湛えたプルルートとブランが、近づいてくるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい、というワケでルウィー特設会場から私、ネプテューヌと……」

 

「ノワールでお送りしているワケですが……」

 

 

それから少しして、気まずそうにマイクを手にするネプテューヌとノワール。

だが無理もない話だ。何せカメラの先には―――。

 

 

「ずびばぜんでしたああああああ!! ワシが悪うございましたああああああああ!!!」

 

「声が小せぇ!! もう一回だぁ!!!」

 

「ひぃ!! やめて!! 大きい音立てないで!!」

 

「あっははは!! 生意気に人間の言葉なんか使っちゃってぇ……豚は豚らしく鳴いていればいいのよぉ!!!」

 

「やめて!! 爪先でつんつんしないでええええええ!!! も、もう勘弁してくださあああああああああああああああい!!!」

 

 

女神様二人から、それはもう熾烈なお仕置きを受けているアクダイジーンの姿があった。

頭を抱えて小さくなり、震え上がるアクダイジーンだが、それを止めることも出来なければ、止める道理もない。

 

 

「えーと、先程から放送している通り、これまでの騒動は全て七賢人の企みによるものでして」

 

「一見力尽くで言わせているようにも見えますが、これは事実で……いいのよね白斗?」

 

「はい、不正の証拠は全て搔き集めてきました。 国民に寄り添ったブラン様の政策を、この男は自分の都合のいいように捻じ曲げていたワケです」

 

 

お茶の間に流すにはさすがに苛烈すぎるが、もう止めようがない。

微妙な空気を醸し出しながらも、ネプテューヌ達はリポートを続ける。ついでに白斗はアクダイジーンの悪事を徹底的に暴くと同時に、ブランの権威回復に努めていた。

せせこましくはあるが、ブランの印象を少しでも良くするためだ。

 

 

「し、下っ端ぁ!! 助けてくれぇ!! 武士の情けじゃぁ!!」

 

「アタイ、アイリスハート様の忠実なしもべ故」

 

「はぁい、良く出来ましたぁ。 それに比べ、こっちの豚はぁ……!」

 

「やめて! 髪の毛一本ずつ抜かないで!!! ワシの微かな希望を摘み取らないで!!」

 

 

―――地味ながらも精神に大ダメージを与えるお仕置きが尚も進行中。

血飛沫が飛ぶようなR-18Gの光景ではないとは言え、これはお子様にはよろしくない。

 

 

「お、おーい二人とも。 これ以上やるとさすがにその……じ、時間押してるからそろそろ終わりにしてくれー……」

 

「フン、仕方ねぇ。 これくらいにしてやるか」

 

「あらぁ、ブランちゃんはもういいの? それじゃぁ、あたしはこの後も……♪」

 

「そ、そんなぁ!!?」

 

 

アクダイジーンのためではないが、これ以上は国民に悪影響を与えかねない。

さすがに白斗も小声で止めに掛かるが、プルルートは個人的な嗜虐を続けるつもりらしい。

まだまだ終わらないお仕置きに、アクダイジーンは泣き喚いた。

 

 

「おいテレビの前のてめーら! 二度と私への信仰をやめようとおもうんじゃねーぞ!! そん時は、コイツと同じ目に遭わせてやるからな!!」

 

(あれー……? ちょっと前まで感動的な台詞を言ってたよねー……?)

 

「そぉれ! そぉれ!! そぉれぇええええええええええええええ!!!」

 

「だ、誰か助けてえええええええええええええええええええええええ!!!!!」

 

 

 

―――ブランの威圧、プルルートのお仕置き、そしてアクダイジーンの悲鳴。

三者三様の叫びが、ルウィーの空に溶けていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――さて、その後は色々大変だった。

まずアクダイジーンの悪事の事後処理として、関連書類及び彼に加担した者達の処分。

それらを手伝っている内に、早くも一日が過ぎていった。

 

 

「あ、白斗! お疲れ様! はい、お茶」

 

「おう、ありがとなネプテューヌ。 ……ところでプルルートは?」

 

「それがぷるるんってば、オジサンと下っ端が逃げちゃったことに不満タラタラで」

 

「あいつらも懲りないねぇ……」

 

 

ブランの手伝いをしていた白斗にお茶を手渡すネプテューヌ。

仄かな香りと苦みを味わいながら、白斗は思い返していた。

ブランの手伝いをしている間に隙を見てアクダイジーンと下っ端は牢屋から逃げ出し、彼らにお仕置きを続けるつもりだったプルルートはむくれていたというわけである。

 

 

「みんな~、お待たせ~。 こっちは終わったよぉ~」

 

「……白斗、プルルート、それにネプテューヌ。 ありがとう……もう、大丈夫だから」

 

「お、ブランにプルルートもお疲れ様」

 

 

そこへ現れたプルルートとブラン。

お仕置きを続行できなかったフラストレーションを仕事にぶつけていたらしく、思いの外仕事が捗ったようだ。

 

 

「ちょっと、誰か一人忘れてないかしら?」

 

「ノワール……あなたにだけはお礼は言わない」

 

「んなっ!? ……フン、まぁしおらしくお礼なんて言われても気持ち悪いだけだし」

 

「んだとぉ……!?」

 

 

しかし一方で相変わらず折り合いの悪いノワールとブラン。

この世界における二人の関係性は―――「喧嘩するほど仲が良いライバル」、だろうか。

そんな二人に苦笑いしながらも、プルルートと白斗が止めに掛かる。

 

 

「ダメだよぉ~。 仲良くしなきゃ~」

 

「二人ともー。 プルルートの餌食になっても知らないぞー?」

 

「「ヒッ!?」」

 

「それで止まらないでよぉ~!」

 

 

ドッ、と笑い声が沸き上がる。

その中心にいるのはネプテューヌで、それにつられて白斗も、ノワールも、そしてブランもついつい笑ってしまう。

今の彼女に、もう孤独は無い。改めて、女神としての本当の一歩を踏み出せる。

 

 

「もうブランは大丈夫そうだね! なら、そろそろ自分の国に戻ろっか!」

 

「だな。 いい加減ピーシェ達も首を長くして待ってるだろうし」

 

「アイエフちゃん達へのお土産買っていかないとね~」

 

「やれやれ……ちょっと抗議してすぐ戻るはずだったのに、とんだ大冒険だったわ」

 

 

立て直しにまだまだ時間はかかるだろうが、今のブランなら立派な女神としてやっていける。

自分の国や、家族の事もあるので一旦戻ることにしたネプテューヌ達。

 

 

「あ、待って! ぷ、プルルートに白斗……」

 

「え~? な~に~?」

 

「おう」

 

 

いざ帰路へ、とその直前。ブランが声を掛けて一行を止めた。

中でも名指しでプルルートと白斗の名前を呼ぶ。今回の騒動で、最も世話になった二人だからだ。

 

 

「……しばらくは、立て直しだとかでばたばたしてるだろうけど……その、時間を作るから……あ、遊びに行っても……いい?」

 

「うん~! 約束だよ~」

 

「……ありがとう。 それから、白斗……この本、すっごく面白かった……! また、私のお勧めの本……持っていくから……!」

 

「ああ。 ……やっと、気軽に貸し借りできる仲になれたな」

 

 

すっかりプルルートに懐いたブランは、プラネテューヌに遊びに行くと約束した。

そんな彼女との約束に、プルルートもふんわりとした微笑みで応える。一方白斗に差し出されたのは、「女神と守護騎士」という白斗の愛読書。

一時期彼女に貸していたものを、気楽に返せる仲となれたことに白斗も嬉しそうだ。

 

 

「む……! 白斗! そろそろ行こっ!!」

 

「プルルートも! いつまでも話し込んでるんじゃなーいっ!!」

 

「わ!? ちょ、ネプテューヌ引っ張るなって!!」

 

「ぶ、ブランちゃん~! またね~!」

 

 

何やらネプテューヌの想い人が、ノワールの親友が奪われそうになっていることにジェラシーを感じた二人が腕を引っ張ってくる。

結局最後まで慌ただしいまま、ネプテューヌ達はルウィーを去っていった。

まるで風のように現れて、風のように去っていく不思議な女神達に目をぱちくりさせながらも、ブランは手を振り続け。

 

 

 

 

 

「……またね……か。 ……よし、頑張ろっ」

 

 

 

 

 

 

―――心からの笑顔で、前を向くのだった。

その後、ルウィーは改めて白斗達の協力を得てプラネテューヌやラステイションと国交を結ぶ。

時にはライバルとして、時には助け合う友として。

ルウィーの伝統を守りつつ、新しい文化を受け入れる、荒々しくも力強い国民の守護女神として、ブランは受け入れられることになる。

 

 

 

 

そして、その立役者ともなったプラネテューヌの評判も更に上がり、シェアも増加するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ほほう、この事件を解決したばかりか白の女神とも絆を結びますか……。 本当に干渉力高いですねぇ、さすが私が見込んだ“騎士殿”!」

 

 

―――“彼”は、誰とも知らない物陰からそう呟く。

誰にも聞こえず、しかし“貴方”には聞こえるように。

 

 

「この分ですと、シェアが溜まるのも時間の問題……ふふ。 ですが、終わらせるにはまだ勿体ない……もう少し、踊っていただきましょう」

 

 

帽子を押さえながら、男は廊下を歩き出す。

鴬張りの廊下ですら軋みを一つも立てることなく、まるで存在が影そのものであるかのように、体重を一切感じさせることなく。

そして彼は誰とも知らず、語り続ける。

 

 

「“彼女”だけでは面白くない……“変化”を付けるなら……更なる役者を追加しましょう。 ふふ……どんな物語になるのか、この“ジョーカー”……語り部として楽しみです」

 

 

ローブをはためかせながら、男は影に溶けていく。

―――彼の名は、“ジョーカー”。自らを「語り部」と称する、謎の人物。

その存在を知るのは、“貴方”だけ―――。




大変お待たせしました。ルウィー編、完!
本当はアクダイジーンの下りで後編に入っても良かったかなーと思ったのですが、話数を増やしたくないためにこのような形に。
さて、改めて神次元のブランちゃんですが相当大変だったと思います。今回は彼女の女神に対する姿勢や想いを中心とした物語だったので、それに対しネプテューヌ達や白斗はどう向き合い、関わっていくのかを意識しました。
そしてこの神次元編は原作よりなストーリーでしたが、ここから更に物語はまた新しい展開や役者を迎えて行きます!
次回はなんとあの子“達”のターン!?果たしてこの神次元でどうなってしまうのか、お楽しみに!
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