恋次元ゲイムネプテューヌ LOVE&HEART   作:カスケード

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第五十九話 リーンボックスの女神とその妹。え、妹って何?

―――ベールから叩きつけられた挑戦状。その内容は、自分のゲームを大陸に流すことでシェアを得ようとするものだった。

ところがベールの見通しは甘く、彼女のゲームは大不評。それに憤ったベールは白斗を攫うことで無理矢理戦闘する理由を作り出し、女神達をリーンボックスへと誘き寄せた。

無論それを許せるネプテューヌ達ではなく、リーンボックスへ向かう船の中で―――。

 

 

「皆、一人一殺。 それで白斗取り返すよ」

 

「「「「「「「了解」」」」」」」

 

「了解、じゃなーい!! 何物騒なこと言ってんの!? 後敵はベール一人だけ!!」

 

 

いつもは能天気なネプテューヌから殺気がダダ洩れだ。

彼女だけではない、女神候補生達やプルルート、挙句ブランまで。唯一平静を保てているノワールがツッコミ役に回るが、到底追いつかない。

 

 

「それにしても向こうは一人だけなのに女神四人を敵に回すと来た……何かしら勝算があるのかしらね?」

 

「普通に考えるなら白斗を人質……だけどベールとて女神、自分から威信を損ねるような真似はしないはず」

 

「拉致監禁って時点で既にアウトな気もするけど」

 

 

とりあえず白斗には手を出さないと公言していたので、彼を巻き込むような戦いはしないはず。

とは言え、女神全員を敵に回せると思ってもいないはず。

一体どんな策を立てているのか全く読めなかったが、ネプテューヌ達はそんなことなど全く気にしていなかった。

 

 

「んじゃ確認するよ。 まず私が窓を突き破ってベールや衛兵の注意を惹きつつ」

 

「私やユニちゃんが裏口からお兄ちゃんを奪還、了解したよお姉ちゃん!」

 

「ふふふ~。 ベールさん……どんな風にオシオキしてあげようかなぁぁぁ~?」

 

「……アンタ達、本当に白斗狂いね。 いや、何も言うまい」

 

 

いつになく綿密かつ妙に殺気が高い作戦を立てているネプテューヌ達。

白斗が絡めばここまでになるのかと、ノワールは呆れたような、戦慄したような、複雑な思いを抱いていた。

 

 

「でも今回に限っては仕方ないですよ。 お兄ちゃんがまた誘拐なんてされたら……」

 

「また? 過去にもあったの?」

 

「はい。 私達、それがトラウマになってて……なので今回は絶対に許せないんです!」

 

 

一度、白斗はマジェコンヌの手によって徹底的に痛めつけられ、そして連れ去られてしまった。

よりにもよって女神達、ネプテューヌ達の目の前で。

目の前で想い人が救えなかったという絶望に打ちのめされた心の傷は深く、今も時たま夢に見てしまうほどだ。

だからこそ、例え戯れだとしても白斗を攫うことなどネプギアは、少女達は許せなかった。

 

 

「さぁ皆、円陣組んで! ベールとの対決だけど、私がまず、ネプギアにパスを回す。 その後ユニちゃんとぷるるんでミスディレクションを掛けて、スリーポイントを狙って」

 

「ってなんでバスケの話になってしかもアンタ達は当たり前のように円陣組んでるのよーっ!? あーもーツッコミが追い付かない!! 白斗早く帰ってきてぇええええ!!!」

 

 

どうやら白斗がいなくなったことで誰もが心の平静を保てていないらしい。

しっかり者であるはずのネプギアやユニまでもがネプテューヌのボケに乗っかってしまっている。

ツッコミ不在の恐怖を味わい続けるノワールの胃は、既にボロボロだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――その頃、リーンボックスの教会にて。

 

 

「あのー、ベールさーん?」

 

「はい、何でしょうか?」

 

 

黒原白斗は、全く状況が呑み込めなかった。

確かいきなりベールがプラネテューヌの教会に殴り込んできたと思ったら煙幕を撒き、換気のために窓に手を掛けた途端彼女に口元を押さえられて、気が付けばリーンボックスの教会。

ただ、一つだけ思うことは。

 

 

「これ、監禁ですか?」

 

「ご招待、ですわ~♪」

 

「の割にはメッチャ楽しそうですね……分かりました。 お招き頂きありがとうございます」

 

「ふふ、理解力のある殿方で嬉しいですわ」

 

 

ご招待と言う名の拉致監禁であった。ただ、女神であるベールがそれを認めれば、女神としての威信が失墜してしまう。

故に表面上はお招きされて、白斗もそれに応じたということにしなければならない。

無用なトラブルを避けるためにも、白斗もとりあえず口裏を合わせた。

 

 

(縛られてもいなければ、特に見張りを付けているわけでもない。 周りに防犯装置……くらいはあるか。 でも本当に自由……みたいだな)

 

 

まずは現状の確認。白斗自身は拘束されておらず、周りにはゲームや紅茶、お菓子がある。

気配を探ってみても扉の前に衛兵の存在もなく、白斗を閉じ込めるという意識すら感じられない警備体制である。

 

 

「まずは謝罪を。 無理矢理招待して申し訳ありません」

 

「招待……は、まぁ良いとして……俺を縛ったりしないんですか?」

 

「当然ですわ。 招待した客人にそんな失礼なことは致しません。 例え貴方がどんな行動を採ろうと、法を犯さない限り危害は絶対に加えませんわ」

 

(拉致監禁って言葉知ってますか? と言うと拗ねるからやめておこう……)

 

「その代わり、貴方は他国の女神達が迎えに来るまでの間、ここで好きに過ごしていただいて構いません。 紅茶もお菓子も自由、ゲームし放題ですわ! 勿論対戦相手は私が務めさせていただきます!!」

 

(というよりもベールさんが俺とゲームしたいだけじゃないのかコレ)

 

 

どうやら自分はネプテューヌ達を誘き寄せるための餌としてここに連れてこられたらしい。

そして目論見通りネプテューヌ達がこちらへ向かっている以上、白斗をどうこうするつもりもないようだ。

寧ろベールはもてなしたくて仕方がないという顔をしている。

 

 

「それと、お詫びとして私が出せる範囲で好きなものを差し上げますわ」

 

「へ? 好きなもの、ですか?」

 

「ええ、ご迷惑をおかけしましたもの。 これくらいはさせてくださいな」

 

 

客人待遇どころかタダで物をもらえるとは破格にも程がある。

しかし、普段から他人のためにと生きてきた白斗に物欲など備わっているはずもなく、必死に考えこむも全く思い浮かばない。

 

 

「…………といっても、急には浮かばんぞ。 うむむ……」

 

「あらあら。 私のカラダ、とか言い出すかと思ったのですが」

 

「非常に魅力的だとは思いますが、相手の気持ちガン無視は俺自身好かないんで」

 

「ふふ、紳士的ですわね」

 

「ヘタレ、なんて良く言われますがね。 なら、皆が喜ぶものが良いかな……」

 

(そして基準は自分より他人、ですか。 これが白斗君というお人……なのですわね)

 

 

さすがに冗談の類だったようだ。

白斗も本気では無かったので、改めて真剣に考えている。白斗自身、余り物欲が無かったのでならばとネプテューヌ達が喜ぶものを基準で考える。

そしてネプギア達の顔を思い浮かべた瞬間―――閃いた。

 

 

「……あ、そうだ。 女神メモリーって……余ってたりしません?」

 

「へ? 5つほど余っていますけれど……まさか白斗君、女神になりたいのですか!?」

 

「俺じゃねェ!! ネプギア達に女神メモリーをあげたいの!!」

 

「ネプギア達……? また聞き慣れない名前ですわね」

 

「まぁ、色々ありまして……ネプテューヌ達の妹です。 合計で四人」

 

「あらまぁ! あの子達、妹がいたんですの!? なんと妬ましい……!」

 

(こっちでも妹欲しい願望はあるのな。 業は深いねェ……)

 

 

そしてこの神次元においても、ベールは妹を欲していた。

言動もまさにお姉様という彼女だが、妹と言う存在がいて初めてお姉様と言われるのかもしれない。

こちらの世界でもネプギア達に目を付けそうだ、と苦笑いしながらも今は女神メモリーを手に入れるために交渉を続ける。

 

 

「ですが分かっていますか? 女神メモリーは……」

 

「素質のない人間が食べると化け物になる、でしょう? でもあいつらなら大丈夫ですので」

 

「……信じていますのね。 まぁ、約束ですし女神メモリーは差し上げます」

 

(おお、やった! 言ってみるモンだな! 5つ余ってるって言ってたし、数も問題無し!)

 

 

百年に一度生成されるという幻のアイテム、女神メモリー。

希少品であるにも拘らず、ベールは譲ってくれると約束してくれた。これには思わずガッツポーズを取ってしまう白斗―――だったが。

 

 

「た・だ・し! これは女神を作り出すアイテム……おいそれと外部に漏らすわけにはいかないのです。 価値自体も非常に高く、今も尚闇ルートで違法売買されているとか」

 

「だからベールさんがわざわざ管理しているんですね」

 

「その通りですわ。 ですから、差し上げられるのは一つまで」

 

(むぐ、そう来たか……! 一つだけ手に入れても寧ろ喧嘩の種になっちまう……しかし、ベールさんの言うことも尤もだ……)

 

 

確かに好きなものをくれるとは言ったが、複数上げるとまでは言っていない。

屁理屈をこねれば無理矢理引き出せそうだったが、彼女とて女神としての立場がある。

無理な交渉で機嫌を損ねたくは無いと、白斗も強気に出られずにいた。

 

 

「ですから、白斗君自身が示してください。 女神メモリーを託されるに相応しい存在だと」

 

「と、言いますと?」

 

「差し上げられる女神メモリーは一つまで。 それ以上欲しければ、私から力尽くで奪ってみせなさい、ということですわ! ゲームで!!」

 

 

しゃきーん!と謎の効果音を轟かせながらベールがコントローラーを手にした。

どうやら複数手に入れたければゲームで勝て、ということらしい。

 

 

「対戦するゲームは貴方が選んでくださいな。 格ゲー、FPS、レースにスポーツに恋愛ゲームタイムアタックなどなど! リーンボックスのゲームを堪能してくださいまし!」

 

(何かに託けて俺とゲームしたいのね……。 とは言え、相手は並のプロゲーマー涙目のゲームの鬼。 まともにやり合って勝てるとも……いや、待てよ?)

 

 

苦笑いしながらも白斗は真剣に考える。いつもであればベールとはガチで対戦しつつも楽しくプレイしていたが、今回はネプギア達のためにも勝ちに行きたい。

間違いなく自分より腕の勝るベールに勝つにはどうすればいいのか考えていると、ある一つの作戦―――と呼ぶには些か怪しいが―――が浮かんだ。

 

 

「このFPS、やたらリアルですね。 これで対戦したいです」

 

「あら! それを選んでいただけるとはお目が高い! 我が国で一番の人気作ですわ!」

 

「ただ少しお試しプレイしていいですか? 操作とか慣れておきたいんで」

 

「勿論です。 ついでに白斗君のお手並み拝見ですわ」

 

(どれどれ……おお、俺の良く知ってるゲームに近いな。 これならイケるかも)

 

 

恋次元でベールが愛好していたFPSと、かなり似通っているゲームを見つけた。

試しに触れて見ると自分とベールで良く遊んでいたものと操作感覚も近い。

これならば“あの策”が成功するかもしれないと、これに賭けて見ることに。

 

 

「さて、さすがにこのままでは私が有利過ぎるのでハンデを差し上げますわ。 私はナイフ一本でお相手します」

 

(このハンデの付け方もベール姉さんと同じだな)

 

「白斗君から何かありますか?」

 

「いえ、ただ真剣勝負を演出したいので3点先取の一本勝負で!」

 

「その意気や良し! 異存はありません、ゲームスタートですわ!」

 

(さぁ、打てる手は全て打った。 後は俺自身が死力を尽くすのみ!!)

 

 

ベールが嬉々として試合開始のボタンを押す。

画面に展開されるは戦場と化したため廃墟となった市街地。そこに白斗とベールのキャラがランダムで降り立つ。

ここからは障害物などに身を隠しながら相手の裏をかき、相手を3回仕留めた方が勝者となる。

 

 

(ふむふむ、白斗君は取り回しがしやすいハンドガンですか。 しかしそれはシンプルな武器ゆえに何よりもエイム力が試される武器ですわ)

 

(―――なーんて思ってんだろうなぁ。 で、ベールさんはナイフ一本、俺の隙を的確に突く必要がある武器。 となれば前と同じよう少しだけ雑な動きを見せれば……)

 

 

この手は以前、恋次元でも使った手口だ。

ベールはとにかく正確無比なプレイが出来る。逆を言えば、彼女の癖や思考を完璧に把握していればどこから攻撃が来るのか手に取るように分かるのだ。

 

 

「っ!! そこで―――」

 

「そこだっ!」

 

「あっ!?」

 

 

物陰から飛び出してきたベールのキャラを、白斗のハンドガンが撃ち抜いた。

綺麗に眉間をヘッドショット、一発KOである。

 

 

「わ、私の動きを読んでくるとは……ぐぬぬ……!」

 

(露骨な隙だとバレるからな、操作ミスを装ったプレイを心掛ける……これまさしくベール姉さんからの教えなんだよなぁ、すげぇ面白い状況)

 

 

ベールから教わった技術を、別のベールに見せている。

平行世界だからこそ実現する奇妙なシチュエーションに白斗は思わず笑みを漏らさずにはいられない。

 

 

「隠れてるのはその辺かな? 手榴弾ポーイ」

 

「なっ!? 何故バレて……!!」

 

「そして焦って出てきたところをシューティング!」

 

「くぅっ!? 何故こうも手の内を読まれていますの!?」

 

(そりゃぁもう、体中に刻み込まれてますから。 ベール姉さんとの死闘が)

 

 

つまるところ、白斗は既にベールの手の内を知り尽くしているも同然なのだ。

所謂徹底したメタ戦法。白斗としては全神経を使い、相手の思考を読み切ればいいだけなのである。

これでは逆にワンサイドゲームもいい所で。

 

 

「こ、この私が……三タテ……タテタテタテ……! も、もう一勝負! もう一勝負……ってそう言えば一本勝負でしたわー!?」

 

(ふぅ、面目躍如! ベールさんが別の武器一つでも持ってたら俺がボロ負けだったろうし、いやー何とかなるもんだ!)

 

 

この戦法はベールがナイフ一本で戦うと申し出てくれたから出来たものだ。

例えばもう一本ナイフを持っていただけで白斗の計算は瓦解する。

また一瞬の判断ミスで一気に逆転されるのも目に見えていたので、全神経を集中させていた白斗は心地よい疲労感に包まれていた。の、だが―――。

 

 

「ズルイですわズルイですわー!! ハンデつけるとかズルイですわー!!!」

 

「ええ!? そっちから申し出ておいて!?」

 

「知りませんわ存じませんわー!! とにかく、私が勝たなきゃイヤなんですのー!!」

 

(こっちの姉さんも負けず嫌いだけどめんどくさい方向にウェイトが偏ってんのかよ!?)

 

 

なんとベールが子供の様に泣きだしたのだ。

恋次元のベールも、白斗にしてやられると不機嫌にして勝つまで挑んできたのだがこちらのベールはまた反対方向に厄介なタイプだった。

ただ、“ベール”をあやすのは最早白斗にとっては手慣れたものである。

 

 

「あー……確かにハンデを付けて貰ってデカイ顔をするのは違いますよね。 すみません」

 

「え? あ、いや……こ、こちらこそすみません……」

 

「いえいえ」

 

 

しゅん、と暗くなった顔を向ければ、さすがに言い過ぎたと感じたのかベールも正気に戻って謝ってくれる。

負けず嫌いではあるが同時に高潔なゲーマー、対戦後の雰囲気を悪くしたくないという思いもあるからだ。

 

 

「約束ですし、女神メモリーは四つ分頂ければと思うのですが、このまま何もしないというのもモヤモヤする話。 何でしたら執事の真似事でもしましょうか?」

 

「え? 執事……ですか?」

 

「以前ルウィーの件でお礼に紅茶でも振る舞うってお話でしたし。 それに今だけ、あくまで真似事ですがネプテューヌ達が来るまでご要望通り執事になりますよ」

 

 

ここで白斗が予想外の申し出をしてきた。何と数時間の間だけだが、ベールの執事になってくれると言い出したのだ。

確かにベール自身、有能な白斗を雇いたくはあったがこんな形で実現するとは夢にも思っていなかった。

 

 

「で、ですが今の貴方はお客様……そんな失礼なことをさせるには……」

 

「ならお客様命令。 執事になりたいんじゃオラ、美人女神様におもてなしさせろやゴラ」

 

「ぷっ……ふふふっ! なんですの、その口調! ……なら、どうぞお好きに。 キッチンも使って構いませんわ」

 

「ありがとうございます。 なら、ついでにケーキも少し焼きますねーっと」 

 

 

そして白斗は柔軟さも兼ね備えていた。

退いて駄目なら押してみよ、ということで丁寧な口調を崩して似合わない厳つい口調で話せばベールも面白がって許可を出してくれた。

 

 

(ちょっとは機嫌直してくれたかな? さて、作るケーキは……紅茶とよく合うチーズケーキにでもするかな。 ベール姉さん、上品な味が好みだったし……腕が鳴るぜ!)

 

 

ゲームの腕や生活の様子、更には置かれているお茶や茶菓子の種類から彼女の好みも恋次元と大体同じだと把握できた。

ならば恋次元のベールが大好きだったチーズケーキならきっとお気に召してもらえるだろう。

腕が鳴ると言いつつ、指を鳴らす白斗。一方その頃ベールは。

 

 

(少し口調も砕けてきましたわね。 心を許してくれた……ということでしょうか? それにしても私のゲームにここまで付き合えて、仕事も出来て、気遣いが出来る殿方……本当に惜しいですわね。 こんな素敵な人が既に他の女神のものだとは……)

 

 

実際の所、ベールは白斗を気に入りつつあった。

異性として、と聞かれるとまだまだ首を傾げるところだが少なくとも仕事でもプライベートでも傍に置けば充実すると確信している。ネプテューヌ達を見れば、確信せざるを得ない。

だからこそ、ベールは尚更負けられない意志を固める。

 

 

 

「……これは、絶対に負けられない戦いですわね。 ふふふ……」

 

 

 

ベールは脳裏に思い浮かべる充実した未来を描くため、一人闘志を燃やし続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから時は経ち、リーンボックスの港町にて。

 

 

「オラオラァ! ベールはどこじゃオラー!! パラリラパラリラー!!」

 

「出せ~! 白くんを出せ~!!」

 

「アンタらヤクザか何かか!?」

 

 

船から降り立つなり、ネプテューヌ達は荒れていた。因みに天気は快晴です。

そんな青空の下、港町のど真ん中で叫んでいるものだから通行人の目を惹くこと惹くこと。

ノワールも慌てて止めに掛かるが。

 

 

「気合が足りんわオラァ!! これ以上白斗がベールの手によって染め上げられる前にネプ子色で染め上げにゃならんのじゃワレェ!!」

 

「ああ、もうっ……ツッコミが、追いつかないッ……! ツッコミ不在の恐怖ッ……!」

 

 

意味不明な力強い言葉で無理矢理ノワールを捻じ伏せるネプテューヌ。

疲労とストレスで痛む胃を押さえながらノワールは泣いた。

 

 

「それでオジサン! 白兄ぃはどこにいるの!?」

 

「ぐ、グリーンハート様からお預かりしたメッセージですと、北側の森でお待ちしているとのことです。 あそこなら国民を巻き込む心配はないからとのことで……」

 

「弁えているところは弁えてるのね。 ……お蔭でこちらも気兼ねなく戦える」

 

 

どうやらベールは森林で一同を迎え撃つつもりらしい。

無関係な人間を巻き込まないこと、そしてベールが最低限の常識を持つ女神であることににブランは安心するとともに尚更戦意を漲らせた。

 

 

「行くぞ野郎共ー!! ここにいるの女の子ばっかりだけどー!!」

 

「「「「「「おおぉぉ――――!!!」」」」」」

 

「お、おぉ~……」

 

 

ヒートアップするネプテューヌを始めとした六人の女神様達。ただ一人冷静でいるが故に逆に浮いてしまっているノワール。

何とも言えないカオスな面々は、指定された森を突き進んでいく。

独創する緑の大地を謳うだけあって自然豊かで、空気も澄んでいたが今の怒り心頭な面々にそれを気にするだけの余裕はない。

柔らかな木漏れ日を突っ切った先に―――二人はいた。

 

 

「ふふふ、お待ちしておりましたわよ皆さん」

 

 

テーブルを広げ、優雅にティータイムを楽しんでいるベールと。

 

 

「お嬢様、こちらアッサムになります」

 

 

新しい執事服に身を包んで給仕している白斗だった。

以前のアフタヌーンティーの時と同じように優雅に、綺麗に、美しい所作で。

白斗を取り返すと息巻いていたネプテューヌ達も、これには大口を開けて唖然としていた。

 

 

「って白斗ぉー!? 何やってるのー!?」

 

「まぁ、色々ありまして……。 その代わりと言っちゃなんだが、女神メモリー四つ分。 せしめてきましたぜ」

 

 

当然抗議の声を上げるネプテューヌだが、テーブルの上で光る四つの輝きに言葉を失った。

電源マークが刻まれた菱形のクリスタル。紛れもなく、女神メモリーである。

 

 

「え、ウソ!? 女神メモリー……しかも四つも!?」

 

「私からの提供ですわ。 言ったでしょう? お土産を持たせるって」

 

「お兄ちゃん! それってもしかして……」

 

「ああ、ネプギア達の分だ。 これで神次元でも女神化出来るぞ!」

 

 

今度はネプギア達が目を光らせた。

女神の力を与える奇跡の結晶。これを飲めば、自分達も女神化が出来る。

いい加減女神化したいと思っていたネプギア達にとっては、最高の贈り物だった。

 

 

「あ、お待ちくださる?」

 

「え? どうしましたかベールさ……」

 

「今は?」

 

「……ベールお嬢様、どうかなされましたか?」

 

「よろしい。 勿論約束通り四つ差し上げますが、今この場で渡せるのは一つまでですわ」

 

「え? 何で!?」

 

 

早速四つとも渡そうとする白斗だったが、それをベールが静止した。

自分達の目の前で白斗が、ベールの執事になっていることに頬を膨らませるネプテューヌ達恋する乙女だが、ベールは知ってか知らずか立ち上がる。

 

 

「もし素養の無い者が女神メモリーを服用すれば醜い化け物になってしまうのですわ。 それを四人全員が一気に服用したら……想像できます?」

 

「う!? そ、想像できないし想像したくない……」

 

「でしょう? ですから大事を取って、まずは一人実験的に服用してもらうということですわ。 白斗君は皆さんなら大丈夫と仰いますけど、さすがに心配ですし」

 

 

女神メモリーの副作用の話になった途端、ネプギア達は足踏みした。

恋次元では女神として生まれてきた以上、資格がないはずがない。のだが、それでも不安は拭えないのも事実。

そんな女神候補生達を、ノワールは改めて見渡。

 

 

「……こればかりはベールの言う通りね。 で、どうする?」

 

「こ、ここは勿論ネプギアが!」

 

「ちょ、ユニちゃん!? ユニちゃんだって早く女神化したいって言ってたよね!? だったらまずは私じゃなくて……!!」

 

「ネプギア。 この中のリーダーはアンタなのよ。 だからリーダーらしく、責任取りなさい」

 

「何でこういう時だけリーダー扱いなの!? うう、ユニちゃんが意地悪になっちゃった……」

 

「文句なら白兄ぃに言ってよね。 多分白兄ぃの影響だろうし」

 

「お兄ちゃぁぁぁん……」

 

「お、俺は悪くねぇ! 俺は悪くねぇ!! でもむくれてるネプギアも可愛いぞ」

 

「ありがとう! 許します!」

 

「許しちゃうの!? ……お兄ちゃんは心配です……」

 

 

と、テンポのいい漫才が続いたものの哀れな最初の実験台はネプギアに任命された。

白斗も戸惑いながら彼女の掌に女神メモリーをポトリと落とす。

女神の力を齎す神秘の輝きも、この時に限っては悍ましく映ってしまう。

 

 

「それじゃ~、ぎあちゃんが女神メモリーを食べるんだね~。 大丈夫~、どんな姿になってもあたしはぎあちゃんを可愛がってあげるから~」

 

「ぷ、プルルートさんにだけはご遠慮願いますっ!!」

 

「ネプギア! わたし達は、ネプギアを信じてるから!!」

 

「ネプギアちゃん、頑張って……(きらきら)」

 

(うぐっ!? ロムちゃんとラムちゃんまで……!? さ、さすがにこの二人に押し付けるわけにはいかないし……ブランさんが凄い目でこっちを見てるし……!!)

 

 

万が一化け物の姿になってプルルートに可愛がられるとしたら、それはそれで悲劇だ。

かと言って自分より幼いロムとラムを身代わりにさせるほど、ネプギアは非道ではない。

尤も、この世界における姉代わりとなっているブランがそれを許さないだろうが。

 

 

「ネプギアの~! ちょっといい所見てみたーい!!」

 

「「そーれ一気! 一気!! 一気~っ!!!」」

 

「お姉ちゃん!? それにプルルートさんまで!? もぉ~……えいっ!!」

 

 

更にはネプテューヌまでもが飲ませに掛かってくる。しかも掛け声が、完全に飲み会のそれである。皆さんは酒の一気を強要しないようにしましょう。所謂アルハラです。

それはさておき退くに退けなくなったネプギアは意を決して女神メモリーを口に含み―――。

 

 

 

 

「……なれました!! 女神パープルシスター、参上です!!」

 

 

 

 

 

眩い光の中から、白きプロセッサを纏った女神。

パープルハートの妹こと、パープルシスターが降臨した。

 

 

「おーっ! さすが私の妹! フラグなんて撥ね退けちゃったね!」

 

「しかし、ビックリするほど変わってないわね……。 ただプロセッサ纏っただけにも……」

 

「まー、ネプギアは普通が個性だからねー」

 

「酷いよお姉ちゃん! 私にだって豊かな個性があるもん!」

 

「え? それってなーに?」

 

「え? えーと、えーと…………………」

 

 

ネプギア は 普通属性 を 手に入れた!

 

 

「またこのスキル発動しちゃったー!? っていうかそんなの要らないからラーニングなんてつけられたんじゃないのー!?」

 

「一々騒がないの。 でもお蔭で私も自信が持てる! 白兄ぃ、次はアタシが……」

 

 

ネプギアの成功を見てようやくユニが名乗りを上げた。

この後ロムやラムも我先にと女神メモリーを手にしようと近づいてくる。が、それよりも先に前に出てくる人物が一人。

 

 

「ふふふ……女神に、なりましたわね」

 

「あ、ベールさん! ありがとうございます!」

 

「いえいえ、礼には及びませんわ。 何故なら……」

 

 

何故かベールが嬉しそうに、しかし不気味に微笑む。

そして彼女が薄く口を開くと。

 

 

 

「ネプギアちゃん。 これで貴方は……私の妹となったのですから!!」

 

「「「「「「………………へ?」」」」」」

 

 

 

余りにも突拍子もない言葉が飛び出してきた。

これには女神達のみならず、白斗も茫然となってしまう。しかし数瞬の後、わなわなと震えだしたネプテューヌが堪らず飛び出した。

 

 

「ちょっと待ったー!!」

 

「あら、伝説のちょっと待ったコール。 レアですわね。 どうでもいいですが」

 

「どうでもよくなーい!! ネプギアは私の妹なんだってばー!!」

 

「そ、そうですよ! 私はネプテューヌお姉ちゃんの妹なんです! 大体妹って……」

 

「ふふふ、同じメモリーコアから生み出された女神メモリーを口にし、女神となった者は姉妹となるんですのよ! ネプギアちゃんの女神メモリーも当然リーンボックスのもの……つまり、私の妹ということですわ!!」

 

「何だその屁理屈超えたこじつけは!?」

 

 

凄まじく突き抜けた理屈にネプギアは勿論白斗も遺憾の声を上げた。

ただ、こんな会話を聞いてしまったものだから天然なプルルートが思わず声を上げる。

 

 

「って言うことは、ねぷちゃんやノワールちゃんもあたしの妹になるの~?」

 

「へっ!? わ、私がプルルートの……!?」

 

「ん~……でも、ねぷちゃんやノワールちゃんはお友達でいたいなぁ~」

 

「そ、そう……? 嬉しいような悲しいような、複雑な気分ね……」

 

「じゃー、試しにぷるるんをお姉ちゃんとしてと呼んでみようか。 ぷるるんお姉ちゃーん!」

 

「わぁ~! お姉ちゃん……ステキな響き~!」

 

「お前らお馬鹿な会話してる場合かっ!? ンなことしてる間にネプギアが……!」

 

 

気が付けばお馬鹿な会話を繰り広げる、それがネプテューヌ達クオリティ。

だがそんなことをしている間に、徐々にネプギアが揺らぎ始める。

 

 

「わ、私がベールさんの妹……。 ベールさんの……でも……」

 

「こちらに来れば白斗君も付いてますわよ。 二人でしっかりしっぽり、ネプギアちゃんを愛でてあげますわね」

 

「お兄ちゃんが!? お兄ちゃんが……私だけのお兄ちゃんに……!」

 

 

必死に耐えていたネプギアも、白斗の名が出た途端あっさりと折れ始めた。

 

 

「待ってネプギアさん!? 俺、ベールさんの部下になってないからな!?」

 

「何言ってますの? 私の執事になってくれると仰ったではありませんか」

 

「ネプテューヌ達が迎えに来るまでの話っしょ!?」

 

「その彼女達が敗北すれば関係なくなりますわ。 それにこんなことをしている内に……」

 

 

唐突に次ぐ唐突に白斗でさえも冷静な思考を保てない。

そして話をはぐらかすのはベールの得意技。見事に時間を稼がれている間に、ネプギアは徐々に落ち着き出す。―――悪い方向へと。

 

 

「私はベールさんの妹……。 そして、お兄ちゃんも私を……私だけのお兄ちゃんに……」

 

「ま、まずいよ!? ネプギアって思い込み激しいところあるから……!!」

 

 

ネプギア は 寝返り属性 を 手に入れた!

 

 

「やっぱりー!? ちょっと白斗ぉ!! どうしてくれるのー!!?」

 

「こ、これは俺も想定外だぞ!? つーか想定できるかこんなのォ!!」

 

 

何とネプギアがベールの方へとついてしまった。

白斗も思わず執事服を着ていることも忘れて声を荒げてしまう。

 

 

「な、何やってるのよネプギアー!! 自分だけ白兄ぃとイチャイチャできる立場にいるなんてズルイズルイズルイー!!」

 

「ちょっとユニさん? 気にするところは寝返りではなくそこですか!?」

 

「そこなのよ! 裏切りの件はボッコボコにすることで手打ちに出来る!! けど、白兄ぃとの蜜月の時間だけは……ッ!! 絶対に許さんッ!!!」

 

「お願いです、話を聞いてください。 蜜月なんてしませんから」

 

 

白斗のツッコミは止まるところを知らない。

そしてさり気なくネプギアはボコられること確定らしい。これにはネプギアも震え上がる。

 

 

「さぁ、これで4対2ですわ。 おまけにここは私に有利なフィールド。 つまり……」

 

 

ネプギアという戦力を得、女神の力はホームグラウンド補正で飛躍的に上昇されている。

これ以上ないくらい勝利を確信したベールの体が、神秘の光に包まれた。

やがて光の柱から姿を現したのは、美しい翠の髪を持つ、美しき女神―――。

 

 

 

「私達、姉妹の勝利に揺るぎはありませんわ!!」

 

 

 

女神、グリーンハート。白斗の知る彼女と、全く同じ顔と体格の女神だった。

ただ違うのはプロセッサの色。露出の高さこそ共通しているが、恋次元側のプロセッサは白だったのに対し、こちらは黒色である。

 

 

(こ、こっちの女神化も露出高いなぁ……。 というかプロセッサの色が黒な分……その、色気というかなんというか……)

 

「あーっ!! 白斗、今ベールを変な目で見てたでしょ!?」

 

「み、見てねぇですわよッ!?」

 

「ホーラ、動揺の余り変な言葉になってる! もーネプギアの件含めて色々怒ったぁ!!」

 

 

この数時間の間で白斗絡みの事件が目白押しだ。

ベールに白斗は攫われ、成り行きとは言え白斗はベールの執事になり、更にはネプギアが白斗という条件に引っ掛かってベールの側に。

さすがのネプテューヌも怒りを爆発させ、シェアエネルギーを身に纏う。

そして降臨する。美しき紫の女神―――パープルハートが。

 

 

「こうなったらユニちゃんの言う通り……ネプギア! せめて姉である私の手で、あの世に送ってあげるわ!!」

 

「お、お姉ちゃん!? 私、そこまでする気はないんだけど!?」

 

「安心して、言ってみただけだから。 ただ……私の白斗に色目を使おうとしたことについては有罪ね。 ―――控訴は許さないわ!!」

 

「お、お兄ちゃんはお姉ちゃんのじゃないよ!? ……こ、こうなったらヤケですっ!! お姉ちゃんに私の力、見せつけちゃいます!! ……そしてお兄ちゃんと……えへへ♪」

 

(え、何この流れ? 何で姉妹喧嘩になってるの? 何でガチな雰囲気になってるの!?)

 

 

互いに刃を構え合う紫の女神姉妹。

何故こんな本気の姉妹喧嘩に発展してしまっているのか、白斗には理解が及ばない。

ある意味で、全てはこの男の所為でもあるというのに。

そしてネプテューヌが戦闘態勢に入ったものだから、プルルート達も迷うことなく女神化する。

 

 

「ふふ、ここまで来たらもう戦争よねぇ!?」

 

「散々私達を舐め腐ったんだ……覚悟は出来てんだろうなぁ!?」

 

「ふっふふふ……ぎあちゃぁん……。 この戦いが終わったら、あたしの手でたぁっぷり可愛がってア・ゲ・ル♪」

 

「ひっ!? と、特にプルルートさんの殺気がヤバい!?」

 

「問題ありませんわ。 ……私達姉妹は、無敵ですもの!!」

 

 

ネプテューヌだけではない、他の女神達も殺る気満々である。

特に嗜虐心漲らせるプルルートにネプギアは震え上がるも、寧ろ余裕を振りまくベール。

決して交わらない水と油のような展開に、ユニ達も我慢の限界だった。

 

 

「お姉ちゃん達ばっかりに任せていられない! こうなったらアタシ達も!!」

 

「おっと、ユニ達はまだ女神化出来ないだろ? それにこれは女神同士の戦い、ここはネプテューヌ達に任せてやってくれ」

 

「え~? ここでもわたし達の出番お預けなの~?」

 

「そりゃそうだ。 皆はその……アレだ! 切り札だ!! だから温存するの!!」

 

「切り札……! カッコイイ……!(きらきら)」

 

 

あわや女神候補生達まで参戦しそうになったが、さすがに白斗が止めた。

まだ女神メモリーを与えられていない彼女達では勝負にすらならないからだ。加えてこれは女神同士の、ある意味外交上の問題。当人たちが決着をつけるよりほかはない。

 

 

 

「それでは白斗君、審判をお願いしますわ!」

 

「え? え~……。 そ、それではー……はじめー……」

 

「「「「「「「戦じゃああああぁぁぁ――――っ!!!」」」」」」」

 

 

 

超絶やる気のない掛け声に反して、女神達は超絶殺る気。

誰もが武器を振り上げ、殺気を微塵も隠すことなく全力で突撃に掛かる。

戦争、いやカタストロフィーの幕開けか。白斗はいよいよ涙を流した。

 

 

「先制攻撃は優雅に、華麗に! シレットスピアー!!」

 

「そんな爪楊枝がどうしたぁ!! テンツェリントロンベ!!」

 

 

グリーンハートが描く魔法陣。そこから巨大な槍が飛び出した。

対するホワイトハートが巨大なアックスを振り回し、その絶大な破壊力を持って巨大な槍をへし折って見せる。

 

 

「プルルート、速攻で片づけるわよ!! トルネードソード!!」

 

「オッケーよぉ! ファイティングヴァイパー!!」

 

「甘いッ!!」

 

 

凄まじい風圧を伴う斬撃、そして勢いよく伸びる蛇腹剣が飛ぶ。

それらをグリーンハートは、愛槍を高速回転させることで全て弾き飛ばした。

理屈は分かるのだが、女神の攻撃を、しかも二つとも弾いて見せるその力量。リーンボックス領内だから得られるシェアが大きいとはいえ、彼女の女神の力は本物だった。

 

 

「その程度ですの? キネストラダンス!!」

 

「「「ああぁぁっ!?」」」

 

 

そそいてベールは高速で駆け抜け、槍を振り抜く。

すると無数の斬撃が、女神三人を襲った。全員致命傷を避けているとはいえ、受けたダメージは小さくない。

 

 

(やっぱりこっちの世界でもベール姉さんは強ェ……! んで、ネプ姉妹は……)

 

「さぁ、来なさいネプギア!!」

 

「い、行きます! てやーっ!!」

 

「だああああもおおおおおっ!! ガチバトル展開してるしーっ!!」

 

 

紫の太刀と、電光の刃がぶつかり合う。

火花散り合う鍔迫り合い。力で惜しかったパープルハートが、妹を弾き飛ばした。

 

 

「クロスコンビネーションッ!! でやあぁぁぁぁっ!!」

 

「っ、くぅっ!! ミラージュ・ダンスッ!!」

 

 

機を見て敏に動く。ネプギアの体勢が崩れた所へ、ネプテューヌが果敢に切り込んだ。

ネプギアもすぐさま刃を振り回して応戦する。

 

 

「せぇいっ!!」

 

「ああぁぁぁっ!?」

 

(つっても、ネプテューヌは強い……。 力強さもさることながら、太刀筋の鋭さ……何よりも迷いがない。 稽古試合ならまだしも、これネプギア大丈夫か……!?)

 

 

ネプギアは女神化を獲得して、強くなった。

だがネプテューヌは普段はお気楽でも、やる時はやる女神。何より女神としての年季が違う。

白斗も、彼女がまだ“本気で”攻撃していないと分かっていても緊張が解けない。

 

 

「ハァ……ハァ……! やっぱり、お姉ちゃんは強い……」

 

「それは貴方もよ、ネプギア。 ……数回打ち合っただけなのに、手が痺れてるわ」

 

(でも、こっちはもう限界寸前……! だったら、今の私の全力の必殺技をお姉ちゃんに叩き込むだけ!!!)

 

 

打ち合ってまだ一分も経過していない。

それでも、刃を通じて体に跳ね返る衝撃は二人の体にダメージを与えていた。ただ、華奢であることとまだまだ未熟であることからネプギアの体力はごっそり持っていかれている。

ならば、長期戦よりも短期決戦。今、自分が持てる全てをこの一刀に全て懸けるのみ。

 

 

「これが私の―――全力全開っ!! リミッター解除、ビーム出力最大っ!!!」

 

「ちょ、ネプギア!? お前それエグゼドライブじゃ!!?」

 

 

本気の必殺技―――即ちエグゼドライブ。

こんなものまともに受ければ、ネプテューヌと言えど無事では済まない。

対するネプテューヌと言えば、ただ真っ直ぐに愛刀を構えているだけ。真っ向から受け止めるつもりらしい。ネプギアの全てを、自分の全てを持って。

 

 

「いっっっ…………けええええええ!! プラネティックディーバ!!!」

 

「ぐぅっっっ!!?」

 

 

力の限り刃を振り抜き、受け止めたネプテューヌを吹き飛ばす。

そこへ無数の斬撃を叩き込み、全身全霊の突きを放って彼女を先に天空へと突き飛ばした。

 

 

 

「そして!! 好機は逃さない!! M・P・B・L(マルチプルビームランチャー)!!!」

 

(んなっ!? 最近ネプギアも狙撃フォームを俺から教わること多いなーって思ってたけどこういう局面のためかよ!!?)

 

 

 

 

更には衝撃で身動きの取れないネプテューヌ目掛けて極太のビームを放つ。

天空を貫く、紫色の光線。白斗直伝の狙撃技術で狙いは正確、体勢的に防御も回避も間に合わない。

初めて、大好きな姉に勝てる―――そう思っていた。

 

 

「……凄いじゃない、ネプギア。 ―――でもね」

 

(え!? すぐに動けるなんて……も、もしかしてあの斬撃……受け切られてた!?)

 

 

迫りくる奔流に対し、ネプテューヌは静かに刃を構える。どうやらネプギアの太刀筋を完璧に見切り、防御に徹していたようだ。

確かに手応えは皆固く、肉体に及びはしなかった。それでも衝撃によるダメージはあった。

そう思っていた。だが、ネプテューヌは―――彼女の想像を軽く跳び越えていたのだ。

 

 

 

「私だって本気なのよ。 本気であの人を……白斗を守りたい。 だから―――絶対に、負けはしないッ!!! せやあああああああああッ!!!」

 

 

 

―――一閃。

女神の刃が、光線を真っ二つに断ち切った。

 

 

「え……ええぇぇぇぇぇっ!?」

 

「ま……マジ、か……!?」

 

 

天空を貫く光線を、たった一刀。たった一閃で、断ち切って見せた。

この力強く、鋭く、美しい太刀筋にネプギアも、白斗も、驚きの声を上げるしかない。

そしてネプギアは今の一撃に全てを込めた。まともに動けるはずもなく―――。

 

 

「はい、チェックメイトよ」

 

「ひゃっ!? こ、降参!! 降参しますー!!!」

 

「ふぅ……。 今回は私の勝ちだけど……強くなったわね、ネプギア。 ふふっ♪」

 

 

刃の切っ先が突きつけられ、目の前で鋭い光がネプギアを捉える。

こうなっては勝ちの目のなくなり、ネプギアはあっさり降参してしまった。だが、ネプテューヌは素直に妹の成長を喜んでいる。

何れはプラネテューヌを―――ゲイムギョウ界を背負っていくに相応しい女神になれると。

 

 

「ね、ネプテューヌちゃん……凄い……(ドキドキ)」

 

「さすが、お姉ちゃんと同じ守護女神……まだまだ格の違いを思い知らされるわね……」

 

「ふ、ふーんだ! わたし達だって、ネプテューヌちゃんに負けないくらい、すっごい女神になるんだから!」

 

 

一方、この激闘を目の当たりにした他の女神候補生も、興奮で心臓が高鳴っていた。

ネプギアが弱いとは誰も思わなかった。寧ろ、現役の守護女神についていけるだけの実力はあったのだ。

ただ、それを上回ったネプテューヌの凄さに、感嘆せざるを得なかった。

 

 

「ね、ネプギアちゃん!?」

 

「あらぁ? 戦闘中に余所見だなんてぇ……優雅とは言えないんじゃないかしらねぇ!?」

 

「くッ!?」

 

 

早くも戦線離脱してしまったネプギア。

気に掛けようとしたベールに、蛇腹剣が鋭く伸びてくる。咄嗟に槍で受け止めるも、緑の女神は堪らず後退してしまう。

 

 

「……こちらの動きに早くも対応してくるとは……!」

 

「ええ、あっちこっち飛び回って捕まえるのがもっと大変な子がいるもの。 それに比べたら楽チンよぉ。 ……ねぇ、外出の行き先は大抵女の子な白くぅん?」

 

「ハッハッハ。 何ヲ仰イマスカ、プルルート様。 オ戯レヲ」

 

 

プルルートから刃に負けないくらいの鋭い視線を投げつけられた白斗は、上擦りながらもなんとか言葉を絞り出した。

否定したいところだが、否定できなかったのである。

 

 

「そういうことならご安心を。 白斗君は私の所に腰を落ち着ける予定ですのでっ!!」

 

「そんな予定……断じてッ!! 認めないわッ!!!」

 

「あぅっ!?」

 

 

わざと煽るような言葉をぶつけるベール。だが、その内容が悪かった。

激しい怒りと言う名の炎に油を注がれたプルルートが刃を力任せに振るった。憤怒を込められた刃は、それまでの妖艶な女王様から一転、激怒の女王へと変貌を遂げた。

猛烈なパワーに吹き飛ばされたベール。その先には。

 

 

「ノワールちゃん!」

 

「任せなさいッ!! インフィニット・スラッシュ!!」

 

「ッ!! き、キネストラダン………ぐうううううううっ!!!」

 

 

ブラックハートが待ち受けていた。

神速の刃と槍が振るわれるも、攻撃速度は間合いを詰めれば剣の方が上。

幾重にも切り付けられ、グリーンハートがよろめいた。

 

 

「ブラン!! 仕上げは譲ってあげるわ!!」

 

「恩着せがましいんだよ一々っ!!」

 

 

そこへ斧を手にしたホワイトハートが迫りくる。

込められている力は尋常ではなく、このリーンボックスの大地が揺れていた。

 

 

「女神を叩き潰す、戦斧の一撃ッ!!」

 

「馬鹿正直に付き合うと……!!」

 

 

さすがにパワー自慢であるブランの一撃を受けるわけにはいかない。

攻撃の軌道を見切り、後方へ飛びのこうとしたのだが。

 

 

「いーえ、これまで散々絡まれたんですものぉ」

 

「最後まで付き合いなさいよねっ!!」

 

「く!? こ、の……っ!!」

 

 

黒の刃が、紫の蛇腹剣が。ベールの退路を断ってくる。

飛びのいた先にノワールの斬撃が待ち構え、それを防げばプルルートの刃が伸びてくる。

それを躱せば―――もう既に、ブランの斧が眼前に迫っていた。

 

 

 

 

「終わりだぁ!! ハード………ブレイクッッッ!!!」

 

「き――――やああああああああああああああああああああああああっ!!!」

 

 

 

 

直撃だけは避けようと必死に動く。

だが、全身全霊の一撃は凄まじい衝撃波を生み出し、ベールの体を容赦なく吹き飛ばした。

強烈な威力にリーンボックスの大地が揺れ、緑の女神は激しく転がる。

揺れが収まった頃には、すっかり体力を失い、まともに立ち上がることすら出来なかった。

 

 

「さ、さすがお姉ちゃん……相変わらずのパワー……」

 

「良くあんなの喰らってベールさん、五体満足でいられるわね……」

 

「わたし達もお姉ちゃん怒らせたら、ああなっちゃうの……!?(ぶるぶる)」

 

「ロムちゃんやラムちゃんにはあんなことはしない。 俺だったらされてる(ガクブル)」

 

「白兄ぃ!? メッチャ青ざめてるんだけど!?」

 

 

この激闘を最後まで見届けた女神候補生達、そして白斗は興奮―――を通り越して恐怖すら覚えていた。

やがては自分達もあれだけの力を手にしなければならないのかと、自分達が目指す背中がまだまだ遠くに感じられてしまう。

何はともあれ、女神同士の戦いもこれにて決着である。

 

 

「そっちも片付いたようね」

 

「あうぅ……負けちゃいました……。 その上、ユニちゃん達の視線が痛い……」

 

「覚悟の上なんでしょ? ネプギア♪」

 

「お、お姉ちゃん!! 弁護をお願いします!!」

 

「……まぁ、多少は交渉してあげる」

 

 

そこへネプテューヌも妹を連れて合流する。

その様子はさながら喧嘩してしまった妹を友達の前に連れてきてあげる姉のようであった。

 

 

「ふぅ……てこずらせてくれちゃって。 でもこれで決着よ」

 

「へっ、デケー割には耐久力ねぇな。 情けねぇ」

 

「でぇもぉ、これであたし達の勝ぁち♪ ねぷちゃんも、ぎあちゃんに勝ったみたいだし……文句は言わないわよねぇ? 惨めに地べたを這いずり回ってるベールさぁん?」

 

「う、うぅう……」

 

 

そしてプルルート達の前には、まさに敗者として蹲っているベールがいる。

愛槍も折れ、体力も尽き、ネプギアと言う戦力まで失った。まさに完全なる敗北。

それらを突きつけられたベールは女神化を解除し―――。

 

 

「認めませんわ認めませんわー!! こんなの絶対認めませんわー!!」

 

 

また大泣きしてしまうのだった。

 

 

「わ!? ガキみたいに泣いてんじゃねーよ、みっともねぇし可愛くねぇんだよ!!」

 

「……そう言えば、向こうのベールも負けず嫌いだったわね。 ここまで極端では無かったけど」

 

「ああ、ゲーム対決の時も大変だったんだよ……」

 

「白斗、お疲れ様……」

 

 

女神の中では一番大人な雰囲気を醸し出しているベールなだけに、この子供のような喚きっぷりに一同は困惑していた。

先程までの白斗との対戦後と全く同じな喚きようなので、彼も辟易としている。ネプテューヌ達も同情の視線を禁じ得なかった。

 

 

「大体四人がかりなんて卑怯ですわー!! 再戦を要求しますわー!!」

 

「四人がかりって言ってきたのそっちじゃないの!!」

 

「知りませんわ存じませんわー!! とにかく、私が勝たなきゃイヤなんですのー!!」

 

「……胃が、胃が痛いですッ……」

 

「白斗、今日はおうどんにしましょうか」

 

 

尚も止まらないベールの我儘に白斗はどう宥めたものかと胃を痛めている。

そんな白斗が余りにも可哀想なので、美味しいうどんを振る舞おうとネプテューヌは固く誓うのであった。

 

 

「あの様子じゃ、ベールさんはしばらく使い物にならないしぃ……ぎあちゃぁん?」

 

「ヒッ!? ぷ、プルルートさ……あの……ごめ……!!」

 

「あたし達を裏切ったんですものぉ……覚悟は出来てるわよねぇ?」

 

「出来てませんっ!! お、お姉ちゃーん!! お兄ちゃーん!!」

 

 

その間、プルルートの標的は寝返ったネプギアに向けられる。

蛇腹剣を舌なめずりするプルルートは妖艶で、危険だった。余りの恐怖に涙を零しながらネプギアは姉と兄に助けを求める。

さすがに見ていられなくなったのか、白斗がプルルートに詰め寄った。

 

 

「ぷ、プルルート! その、ちょっと手心をだな……」

 

「当て身っ!!」

 

「ゴふっ!?」

 

 

しかし高速の拳が白斗の腹を捉え、彼を昏倒させた。

一瞬で白斗の意識が刈り取られたことに誰もが恐怖を隠せないでいる。

 

 

「白くんは働きすぎよぉ、しばらくお寝んねしてるといいわぁ。 ……ねぷちゃんは?」

 

「……程々にね」

 

「お姉ちゃぁーん!!?」

 

 

とうとう姉からも見捨てられたネプギア。

一応ネプテューヌの顔には苦悩と申し訳なさが浮かんでいたが、そんなものでネプギアを救えるはずもなく。

隠してネプギアへのお仕置きが始まり、散々にいぢめられるのであった。

 

 

「はぁ……はぁ……! イケナイ子ねぇ、ぎあちゃんったら……! もうこんなにしちゃってぇ……」

 

「いーやー!! たーすーけーてー!!!」

 

「……とまぁ、ああして酷い目にあってるわけだから……ネプギアの事は許してあげてね? ユニちゃん達もそれでいいかしら?」

 

「ハイ……というか、さすがにネプギアが可哀想になってきた……。 いや白兄ぃを独占しようとしていたことを考えるとあれで等価……!」

 

 

一体どのようにしていぢめられているのか、余りにも可哀想なので描写できません。

ただ、それをまざまざと見せつけられているネプテューヌ達は青ざめていたのだから、その凄惨さは推して知るべし。

このカオスな状況にさすがに疲れてきたのか、ネプテューヌは女神化を解いてベールに話しかける。

 

 

「ほらほら、ベールもいい加減泣き止んで。 でないと、ベールもああなっちゃうよ?」

 

「うっ……! それは、さすがにご遠慮しますわ……」

 

 

ネプテューヌが優しく宥めながら、いじめられているネプギアを指差した。

あんな酷い目に遭いたくはない

 

 

「はぁっ!! さっぱりしたわぁ~」

 

「うぅ……もう、お嫁にいけないよぉ……」

 

「俺が気絶している間に一体どんなオシオキを受けたんだネプギア……」

 

 

その間、白斗も何とか目を覚ました。

彼を待ち受けていたのはスッキリした表情のアイリスハート様と、さめざめと泣くネプギア。

思わず訊ねるや否や、ネプギアが詰め寄ってきた。

 

 

「お兄ちゃん!! こうなったらお兄ちゃんが責任を取って私をお嫁」

 

「ネプギアー……? まだぷるるんのオシオキを受け足りないのカナー……?」

 

「ひぅっ!? じ、冗談ですーっ!!」

 

 

瞬間、殺気が放たれた。

パープルハート様のマジギレと、脅し文句に恐怖してネプギアは飛びのく。とうとうネプギアもプルルートによる被害者の一人と相成ってしまうのだった。

 

 

「さて、こっちはまぁ一応決着として……ベール姉さんの方は……」

 

「ぐすっ、酷いですわ……私を蔑ろにするなんて……。 こうなったらネプギアちゃんと白斗君に慰めてもらうしか……」

 

「ベールさぁん……? 貴方もオシオキされたいのかしらぁ……?」

 

「うっ!? ま、まぁこの件については保留にいたしますわ」

 

「諦めてない辺りがベールらしいね……」

 

 

諦めが悪く、尚も野望を抱き続けるのは恋次元でも神次元でも共通らしい。

しかしネプテューヌは呆れ果てながらも、訊ねなければならないことがあった。

 

 

「で、どうするのベール? ハードでもバトルでも負けちゃったワケだけど」

 

「くっ……! ですが、ここで私が諦めては国が……リーンボックスが……!」

 

「それもこれも力量差を弁えず喧嘩売ってきたアンタの責任よ。 甘んじて受けなさい」

 

 

一番の問題となるのが戦後処理。

女神が直々に武力衝突し、明確な決着がついた以上どこかで落としどころを探さなくてはならない。

だが国のトップたる女神が軽々と頭を下げては威厳が損なわれ、国自体が崩壊してしまいかねない。だからと言って責任を一切取らないという無責任な真似も出来ない。

どうしたものかと双方悩んでいると。

 

 

「お嬢様……いえ、ベールさん。 どうか落ち着いてください」

 

「……! 白斗君……?」

 

「今回の敗因は敵方の分析不足ではなく、自分自身の分析不足です。 貴方が優秀であることは疑いようはありません。 ただ、ほんの少し足りなかっただけです」

 

 

ハッキリと敗北と告げるが、彼女の怒りを煽らないように慎重に言葉を選ぶ。

穏やかな声で、自尊心を傷つけないように相手の表情を、目を見ながら。

 

 

「ゲームでも同じ。 自分の何が悪かったのか受け止めなくては、いつまで経っても対戦相手に勝てないのと同義です」

 

「うっ……物凄く理解できる例えだけに反論できませんわ……」

 

「ですから、今後は切磋琢磨していけばいい。 ここにいる皆と一緒に、ね」

 

 

特にゲーマーであるベールは、ゲームを例えに用いれば理解してくれることが多い。

元々、見た目的には女神の中でも一番大人なのだ。正しい言葉を正しいタイミングで用いれば、大きな反発を見せることなく受け入れてくれる。

 

 

「各国ともリーンボックスとの流通を盛んにすることで今回は手打ちにしましょう。 賠償などは一切求めません。 皆もそれでいいな?」

 

「え? いや、でも……」

 

「まぁまぁ。 今回の件、表沙汰になって困るのはベールさんだし」

 

「うぅ……いぢめないでくださいまし……」

 

 

制裁にしては余りにも温過ぎる処置。

皆仲良しがモットーのネプテューヌやプルルートは実にニコニコしていたのだが、ノワールやブランからは不満そうな目を向けられた。

 

 

「というかブランは協調性無さすぎて前回痛い目見たんだし」

 

「うぐッ!?」

 

「ノワールだって、少しは素直にならないと明日は我が身かもしれないし」

 

「んなッ!?」

 

「ネプテューヌとプルルートは……ハァ……(´Д`)=3」

 

「なんで~!? なんでそんな深いため息吐くのぉ~!?」

 

「白斗ぉ!! そんないーすんみたいに顔文字使ってまで呆れないでよーっ!!」

 

 

皆優秀だがどこか欠点のある女神達。だからこそ、誰かが支えてねばならない。

すっかり世話好きとなってしまった白斗が決意を新たにベールに向き直る。

 

 

「ま、こんな人達ですから。 ベールさんも、力を貸してくださいませんか?」

 

「……私、が?」

 

「はい。 貴方の計画性と要領の良さは既に見せつけてくれていますし。 足りなかった部分は他国が補います。 で、その中で競っていけばいいと思うんですけど……どうかな?」

 

 

最後には少し砕けた口調で、白斗が問いかけてくる。

これは「友達」に近いポジションになったということ。距離感が縮まったからこその柔らかい物言いに、ベールも大きく息を吐いた。

 

 

「……そうですわね、今すぐ焦る必要はありませんもの。 ただ……」

 

「いつか寝首を掻きに来るかもって? ノワールとブラン、そして俺はそんな隙見せるほど、甘くはないですよ?」

 

「はーくーとぉー!! どーしてそこで私達の名前を挙げないのかなー!?」

 

「そ~だそ~だ~!! イジメは良くないんだよ~!!」

 

「(無視)では契約成立ということで。 ……よろしくお願いするぜ、ベールさん?」

 

「仕方ありませんわね……。 白斗君に免じ、仲良くして差し上げますか」

 

 

差し伸ばされた白斗の手を、ベールの綺麗な指先が握り締めてきた。

そして彼の力強くも優しいエスコートで痛みもなく立ち上がる。

次にベールが見せてくれた笑顔は、大人の余裕を振りまきながらもとても美しい、まさに女神様としか言いようのない素敵な表情だった。

 

 

「やっぱり上から目線……一度シメておかないと……」

 

「落ち着けっての。 これから外交でたっぷりシメ上げればいいじゃないか。 出来るんならな」

 

「ムカッ!! 私を舐めてるのね!? いいわよ、やーってやろうじゃないの!!」

 

(ノワールはホント乗せられやすいなぁ……。 大丈夫だろうか、コレ)

 

 

すっかりノワールのあしらい方を覚えてしまった白斗が、上手い事彼女を誘導する。

これが大きな隙とならなければいいのだがと白斗はついつい心配してしまった。

 

 

「でもさすがお兄ちゃん! 落としどころを探すプロだよね! これで全部―――……」

 

「丸く収まった―――なぁんて甘いこと言わないわよねぇ、ネプギア……?」

 

「ヒッ!? ゆ、ユニちゃん!!」

 

「そうだそうだー! お兄ちゃんを独占しようとしたネプギアには!」

 

「わたし達からの、お説教があります……!(ぷんぷん)」

 

「ご、ごめんなさーい!!」

 

 

事態の収束を宣言しようとしたネプギア。彼女の肩に、ひんやりとした手が乗せられた。振り返れば、不気味な笑顔を張り付けているユニがいる。

流されてしまったとは言え、裏切った事実は事実。当然ロムとラムも激おこであり、ネプギアの受難はまだまだ続くようだった。

 

 

「ま、何はともあれこれで無事に一件落着―――……」

 

「グリーンハート様ぁ!! た、大変ですぅ!!」

 

「……と、ならないのがゲイムギョウ界だよねー。 良くも悪くも」

 

 

やっとこの騒動にも決着かと思われた矢先。

リーンボックスの衛兵がかなり焦った様子でこちらへと走ってきた。ただ事ではないと感じ取ったベールがすぐに表情を切り替えて報告を聞く。

 

 

「どうなさいましたの?」

 

「し、七賢人と名乗る変なロボットと肌色の悪い女がゲーム生産工場で暴れまわっています!!」

 

「「「………………はぁぁ、またあいつらかー………………」」」

 

 

一体誰の事か、すぐに察してしまう白斗とネプテューヌ、そしてノワール。

何せ一度対峙した事のある相手なのだから。

ブランもそのロボットについては心当たりはなかったが、七賢人と来ればもうろくでもない相手だとすぐに理解できる。

 

 

「なっ!? わ、我が国のゲームを……破壊……!? デストロイですわ、今すぐにっ!!」

 

「……こーなりますわな。 しゃーない……皆ー、早速一仕事だぞー」

 

「「……おぉー……」」

 

 

当然自国に、何より愛するゲームを作る神聖なる工場を破壊されたとあってはベールは黙っていられない。

協力関係が結ばれた途端、早速やってきた初仕事。

正直疲れが拭えないながらも、重苦しい声を上げながら工場へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――その後、女神達全員を相手取った七賢人の二名はこう語る。

 

 

「いやぁ、負けた負けた! 何か色々増えていたが、強敵と書いてともと読む!! 今後も、お互いに切磋琢磨していきたいなぁ!! アッハッハッハ!!!」

 

「……アタイ、貧乏くじとしてこの神次元編に出されたのか? そうなんだな!? そうなんだろぉチキショーめぇ!!」

 

 

尚、実名は伏せさせていただきます!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――そして数日後。プラネテューヌの教会にて。

 

 

「ん~! ネプギアちゃんとピーシェちゃんは本当にカワイイですわね~!」

 

「べ、ベールさん引っ付き過ぎです~!」

 

「ぴーっ!! べるべる、くるしい~!」

 

 

すっかりネプギアと、「べるべる」という愛称で呼んでくれているピーシェを気に入ってしまったベールが、彼女達を抱きかかえていた。

あれからもネプテューヌ達の仲間として同行するようになったベールだが、専らここに入り浸るようになっている。

 

 

「こーら、ベール! ネプギアとピー子が苦しそうにしてるじゃない!!」

 

「いいじゃありませんの、その内安らぎに変わっていきますので」

 

「許容できないーっ! はーなーれーろー!!」

 

 

当然妹分二人を取られてしまっているネプテューヌが引き剥がしに掛かる。

しかしベールの力は尋常ではなく、ネプテューヌの細腕では微動だにしなかった。

そんな二人に嘆息しながらも、紅茶を優雅に注ぐ少年が一人。

 

 

「ベールさん、程々に。 二人が苦しがっています」

 

「あら、でしたら白斗君が我が教会に来てくだされば万事解決ですのよ? 私、ここに来ているのは貴方目当てでもありますのに」

 

「勧誘なら何度もお断りしているでしょう」

 

「つれないですわねぇ……。 そちらの世界のように、私の事をお姉さんと呼んでくださって結構ですのよ?」

 

「そうするとこっちのベール姉さんが拗ねまくって面倒になるので」

 

 

そしてベールは、白斗の事も諦めていなかったようだ。

行動を共にするようになって数日、仕事にゲームに紅茶にと付き合っていたのだがそれが尚更ベールにとっては嬉しかったらしく、勧誘行為はエスカレートしていた。

 

 

「ベールっ!! いつまで引っ付いてるのさーっ!!!」

 

「ずーっと、ですわ~♪」

 

「むむむ~……! そうくるなら……私が白斗にぎゅーっ!!」

 

「っとぉ、甘いですよネプテューヌさん! 白兄ぃの胸はアタシのものですっ!!」

 

「んな!? ユニちゃん、いつの間に!?」

 

 

いい加減我慢の限界になったネプテューヌが、いつものように大好きな少年の胸に飛び込もうとした。

だがそれよりも早く、教会を訪れていたユニがちゃっかり占領してしまっている。彼の足元には更に幼い双子が、これまた可愛らしい音を立てながら白斗に引っ付いていた。

 

 

「いつもネプテューヌちゃんばかり、お兄ちゃん独占してズルイ……!(ぷんぷん)」

 

「お兄ちゃんは今日、わたし達と遊ぶもんね~!」

 

「ちょ!? ユニちゃんにロムちゃん、ラムちゃんもずるいよ~! 私もお兄ちゃんに……」

 

「アンタにはベールさんがいるんでしょーが!! さー白兄ぃ、今日もアタシとガンショップ巡りに行きましょ!!」

 

「ダメ―!! お兄ちゃんはわたし達とお絵かきするのー!!」

 

「それからおままごと、かくれんぼ、お昼寝……!」

 

「白く~ん! お昼寝だったらあたしも~!」

 

「だあああああ!! プルルートまで引っ付くな……うぐほォ!!?」

 

 

更に妹達に紛れてプルルートまでもが引っ付いてきた。

幾ら女の子とは言え、四人も全力で抱き着いてきては白斗一人では支えきれるはずもなく、絨毯の上に転がってしまう。

 

 

「ぷはっ!! ぴぃ、べるべるよりにおにーちゃんがいいっ!! どーん!!!」

 

「ゴハァ!!? ぴ、ピーシェェェッ……飛びつくときは、もっと、慎重にッ……」

 

「わ、私もお兄ちゃんに抱き着いちゃいます~!!」

 

「はぐぉ!? ね、ねぷぎあぁぁ…………こ、これいじょうは……」

 

「まだまだ!! メインヒロインことネプ子さんがログインしましたーっ!!!」

 

「がはあああああああ!!! あ、オオォ……た、しゅけ……」

 

「では、折角ですから私も白斗君の抱き心地を確認しておきましょうか♪ えいっ♪」

 

「こぺっ!? …………………………………」

 

 

更に次から次へと乗っかってくる女の子達。

とうとう白斗も潰され、助けを求めるべく天へと伸ばした手は、力なく床へと落ちていった。

 

 

「その後、白斗の行方を知る者は誰もいなかった……」

 

「いや行方知ってるから。 犯人も知ってるから」

 

 

そんな様子を、傍から眺めているのはノワールとブラン。まったりとお茶をしばきながら、どこか微笑ましい表情でネプテューヌ達を見守っている。

本当にこういう時だけは二人の息は合っていた。

 

 

 

 

 

「ああ、やっと戻ってきたと思ったらこのドタバタ騒ぎ……いつになったらこのプラネテューヌに平穏が訪れるんでしょうか(ノД`)・゜・。」

 

 

 

 

 

 

当分は訪れないようです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く




ということでベールさん加入のお話でした。
意外とトラブルと言いますか、厄介事を持ってくるのって四女神の中ではネプテューヌやベールさんなんですよね~。
でもいつも皆に「まぁ、この二人だから」と言えば許される説得力。恐ろしや。
神次元のベールさんはより子供っぽくて負けず嫌いなので、これはこれで可愛い。
そこへ女神候補生達が加わるものだからカオスは加速する。そしてさり気なくそれを止めようとして止めきれない白斗君の存在。次元を超えた白斗合戦の行方や如何に。

さて次回ですが、番外編と言いますかベールが抗議に来るまでの一週間の間にあったある出来事のお話になります。
ヒントは前のお話に。“彼女”だってヒロインなんですっ!
では次回もお楽しみに!感想ご意見、お待ちしております!
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