恋次元ゲイムネプテューヌ LOVE&HEART   作:カスケード

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番外編その4 敏腕メイド、ネプギアです!

「…………はい?」

 

 

それは、ワケの分からないタイトル―――否、宣言から始まった。

ネプギア達女神候補生がこの神次元にやってきて早四日。夕食後、突然メイド服を着込んだネプギアが両手で握り拳を作りながら、そう言ってきた。

一方、告げられた白斗は事態を飲み込めないでいる。

 

 

「敏腕メイド、ネプギアです!」

 

「二回言わんでいい。 だから、どういうことやねんと……第一どうしたんだそのメイド服」

 

「これ? プルルートさんに仕立てて貰ったの! いいでしょ?」

 

 

くるり、と一回転するネプギア。するとスカートの裾がふわり、と持ちあがる。

きっちり整えられた黒と白のメイド服。エプロンドレスとでも言うべきか。

一方で胸元の露出は少し高い。メイドの証たるホワイトブリムも完備。確かに見てくれだけならばどこに出しても恥ずかしくないメイドだろうが――。

 

 

「確かに可愛いし綺麗だが……なんだその、首輪に鎖って危ないオプションは……」

 

「お姉ちゃんの知り合いのメイドさんにこういう人がいるって」

 

「おいゴルァ駄女神ィ!! 実の妹に危ないファッション勧めてんじゃねぇええええ!!!」

 

「い、いやいやいや!! ホントにいたんだって!!」

 

 

影でこっそり様子を窺っていたネプテューヌの頭を鷲掴みにする。

首輪に、短くされているとは言え鎖など、誤解を与えかねないデザインだ。だがネプテューヌの言動を見るからに本当にそんなメイドがいたらしい。

 

 

「大体、どういう経緯で知り合ったんだ? そのメイドさんって」

 

「それがね、私が別世界に飛ばされたところで出会ったんだけど」

 

「ああ……お前のトラブル体質は昔からか……。 それで?」

 

「で、そこで出会ったのかクールで上品でパーフェクトで声がネプギアそっくり(CV:堀江由衣)なメイドさんなんだよ!」

 

「ほほー、パーフェクトメイドかつ声がネプギアそっくり(CV:堀江由衣)か。 そりゃ印象に残っても不思議じゃない……のかな?」

 

 

相当インパクトのあるメイドだったらしい。

ネプテューヌのスマホを見て見れば、確かに容姿端麗としか言いようのない美人メイドである。

胸の露出が高いのは彼女が巨乳だった名残だろう。ネプギアには、少々持て余しているかもしれないが。

 

 

「あー! 今白斗、このメイドさんによくじょーしたな!?」

 

「し、してねぇわ!! ……で、ネプギアよ。 それでメイドになりたいと?」

 

「うん! お兄ちゃんの専属メイドに! おはようからおやすみまでお世話します!」

 

「お、俺ェ!? おはようからおやすみまで!?」

 

「うん! ダメ……かな……?」

 

「うぐゥっ!?」

 

 

最後には涙目で上目遣い。既に使い古された攻撃だが、白斗はこの必殺技を耐え凌いだ試しがない。

何より、びっくりするほど女の子に耐性がなく、それでいて甘い白斗である。断る、などと言う選択肢はとうの昔に吹き飛んでおり。

 

 

「……分かった分かった。 ただし明日一日、試用期間として様子見な?」

 

「ほ、ホント!? やったぁー!! お兄ちゃん、私精一杯頑張るからねっ!!」

 

「ああ、楽しみにしてるぞー。 ま、出来が悪かったらクビだけど」

 

「絶対に!! 認めさせますから!! ふんす!!!」

 

 

やる気120%と言わんばかりにネプギアは大はしゃぎして、彼女に宛がわれた部屋へと戻っていった。

しっかり者と言えど、ああやってはしゃぐ姿はネプテューヌに通ずる者がある。

さて、彼女が去ると同時にネプテューヌは機嫌が悪くなり、頬を膨らませながら白斗を睨み付ける。

 

 

「はぁ~くぅ~とぉ~……!!」

 

「何だよ、ネプギアにあの服勧めたのネプテューヌだろ?」

 

「まさか白斗のメイドになるなんて言い出すとは思ってなかったもん! ノワールみたいなコスプレ趣味かなーって!!」

 

「まぁ、一回限りにするには惜しいほど可愛かったけど」

 

「むむむ~っ!! この浮気者ぉーっ!!」

 

「いてててっ!? 何だよ浮気者って!? それにどうせ、すぐに音を上げてやめるって」

 

「ぷー…………」

 

「……はいはい、今度どこか遊びに行こうな。 スイーツ巡りとか」

 

「許す!」

 

 

どうやらネプギアとの距離が縮まることにネプテューヌは大層ご不満らしい。

しかし、大抵は白斗と二人きりのお出掛けの約束を取り付けると嘘のように顔を綻ばせる。

ネプギアのメイドも長続きしないだろうと踏んで、そのままネプテューヌやプルルートを交えてのゲーム合戦に興じるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――なーんて、お兄ちゃんは思ってるんだろうけど……私は本気だもんっ!」

 

 

随分質素にして普通な、私部屋。

そのベッドの上で、私は枕を抱きしめながら決意を新たにしました。そう、私にはやらねばならない理由があるんですっ!

 

 

「お兄ちゃんってば、最近はお姉ちゃん達ばっかりに構ってるし……」

 

 

この神次元に来てから早四日。私は焦っていました。

まずお兄ちゃんは、お姉ちゃんやプルルートさんと行動を共にすることが多いのです。普段お仕事を真面目にしないお二人のフォローに回っているからなんですけど……。

それをいいことにお姉ちゃんとプルルートさんもお兄ちゃんに甘えまくります。で、お兄ちゃんもなんだかんだでそれを受け入れているという悪循環!許せません!

 

で、その次に行くのはラステイション。主にお仕事の打ち合わせ。

こっちの世界のノワールさんはお兄ちゃんの事を恋愛対象だと見てはいないようなんですが、比較的仲は良いです。

ですがお仕事で訪れたことを口実に、ユニちゃんは猛烈にアタックしてくるんです!

やれ特訓だの、やれ勉強会だの、やれガンショップ巡りだの!ズルイです!

 

更にはこれまたお仕事ということでブランさんの治めるルウィーにもよく顔を出します。

こっちのブランさんは……お兄ちゃんの事が気になるようです。ま、まずい……っ!!

で、ロムちゃんとラムちゃんはこれまたお兄ちゃんに甘えまくるんです。ついでにお兄ちゃんはちびっ子同士ということでピーシェちゃんも良く連れてくるので、てんてこ舞い。

 

 

 

 

つ・ま・り……私との時間が殆ど取れてないんですっ!!!

 

 

 

 

「でも……メイドさんなら、お兄ちゃんの傍にいられるっ!!」

 

 

 

 

私は考えました。

お兄ちゃんがあちこちに飛び回るのなら、お兄ちゃんの傍にいられる理由を作ればいい。

それがこのメイド!お兄ちゃんのメイドなら、おはようからおやすみまでお兄ちゃんの傍にいられます!

 

 

「それにお兄ちゃん、他人を甘やかすばっかりで全然誰かに甘えるなんてことも出来てない……お兄ちゃんに足りないのは、癒しなんです!! 私と言う名の!!!」

 

 

そう!ここの所、お兄ちゃんはしっかり者故に誰かに甘えるということが出来ていません。

だから、「私に甘えてくれてもいいんだよ?」的なノリで頼れるメイドさんになれば、お兄ちゃんも私に甘えてくれるはず!

つまり!ネプギア、完全勝利です!

 

 

「絶対に……絶対に、お兄ちゃんの隣をゲットしてみせますっ!!」

 

 

さぁ、ここからが本番です。

お兄ちゃんのサポートやお世話を完璧にこなさないといけません。そして、私の覚悟は決して軽くはない!

覚悟してくださいね、お兄ちゃん!……ふふふっ♪

 

 

 

ネプギア は 妄想属性 を 手に入れた!

 

 

「ってまだ続いてるのこのスキルー!?」

 

 

お約束ですから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――翌日、AM5:00。

 

 

「さて、と。 いつものランニング行きますかねーっと」

 

 

まだ朝日すら昇り切っていない時間帯。ネプテューヌやプルルートは勿論、真面目なアイエフすらまだ寝ている時間帯に、黒原白斗は起きていた。

元の世界からの習慣であった体力づくりの一環として、走り込みを行っているのだ。それはこの神次元に飛ばされてからも変わらない。

今日もいつも通り、走り込みの後、軽い戦闘訓練でも行おうとしていたのだが。

 

 

「おはようございます、ご主人様♪」

 

 

扉を開けた先に、彼女は経っていた。

暗闇の中でも笑顔が眩しい、素敵なメイドさんが。

 

 

「ね、ネプギア!? お、おはよう……は、早いな……」

 

「当然です! ご主人様のお世話をするのがメイド、寝坊なんてしちゃいけないんです!」

 

「でも、眠いんだったら無理しなくても……」

 

「言いっこなしです! さ、朝のランニングですよね? 行きましょう!」

 

(こ、こりゃぁ……ネプギアの覚悟を舐めていたなぁ俺……!)

 

 

どうせ「ごっこ」とか、「お遊び」だとか、軽く考えていた自分を恥じた。

ネプギアは本気で白斗のお世話をしたがっている。ならば、彼女の本気に答えてやらねばならない。

 

 

「……分かった、なら改めて頼むぜ。 俺のメイドさん」

 

「~~~っ!! ……はいっ!!」

 

 

まだ起きてから5分も経っていないが、今日一日彼女を自分付きのメイドとして認めた。

認められたことにネプギアは大喜びだ。

しかし、これが終わりではない。寧ろ始まりだ。ここから白斗が大満足するようなサポートを出来るか否か、ネプギアの本気が試される。

 

 

「んじゃ、最初はタイム計測頼む。 この区画を3周してくる。 一周に付き10分目安、もしそれより遅れているようだったら言ってくれ」

 

「分かりました。 では、よーい……ドン!」

 

 

ストップウォッチを手渡され、ネプギアが合図を送る。

それに合わせ、白斗は意気揚々と走り込んでいった。日々のトレーニングの成果か、あっという間に背中が見えなくなるほどの速度で走り込んでいる。

ここでネプギアに求められているのは、単なるタイム計測だけではない。

 

 

「準備をしなきゃ! スポドリ良し、タオル良し、酸素スプレーよし……」

 

 

ランニングを終えた後の、白斗のケアをするための準備に取り掛かる。

クーラーボックスから凍らせておいたスポーツドリンクを取り出し、走り込みを終えることにはある程度溶けているように調整。

濡れタオルも用意し、酸欠を起こした時に備えての酸素スプレーも抜かりなく。

 

 

「到着! 28分32秒です!」

 

「ふぅー……はぁー……き、昨日よりタイム伸びてないな……」

 

「大事なのは無理に早めることじゃなくて、タイムを維持する持久力だと思います。 はい、ネプギア特製スポーツドリンクです!」

 

「お、サンキュ。 ……ん~っ、くぁ~っ!! 体に染み渡るわぁ~……」

 

 

受け取ったスポーツドリンクを一気に飲み干す。

計算通り、いい具合に溶けた冷え冷えの特性ドリンクが喉を潤し、火照った体を冷ます。

味も美味で、飲みやすかった。

更には濡れタオルで汗も一通り拭き取り、体をサッパリさせる。

 

 

「さて、戦闘訓練ならぬシャドウボクシングのお時間だな」

 

「それでしたらご主人様。 私と模擬戦をやってみませんか?」

 

「へ? ネプギアと?」

 

「はい、これでも戦えますから!」

 

 

これも想定済みだったらしい、ネプギアの手には日本の木刀が握られている。

白斗の戦闘スタイルは銃やナイフ、ワイヤーとまさにアサシンスタイルではあるが時たま剣を使うこともあった。

これは戦闘指南をしてくれたノワールの影響でもある。

 

 

「……そうだな。 俺の力がどれくらいネプギアに通用するのか試すのも悪くない」

 

「では参ります。 手加減無用で!」

 

「上等!」

 

 

可愛らしい声と共に木刀を構えるメイドさん。

だが、これでもネプギアは女神候補生。何よりも真面目で努力家な一面もある。

白斗は一切油断することなく挑みかかった。

木刀同士がぶつかり合う乾いた音が数回プラネテューヌの街中に響き渡り、そして。

 

 

「ぐおわぁあああああああっ!!」

 

「あっ!? ご、ご主人様!? 大丈夫ですか!?」

 

 

盛大に白斗は吹き飛ばされるのだった。

 

 

「だ、大丈夫だ……。 ッキショー……正面戦闘になると勝てねぇなー……」

 

「ご主人様は不意打ちに長けたスタイルですからね。 相手の攻撃を防ぎ、相手を攪乱して必殺の一撃を叩き込むスタンスがいいかと」

 

「同じようなことをノワールにも言われたなー……。 頑張るー……」

 

 

書類に交渉に根回しにと口八丁手八丁な白斗だが、そんな彼も小細工無しの正面戦闘はかなりの難題であった。

元より暗殺者として不意打ちに長けたスタイルを身に着けさせられた彼には、正面戦闘における立ち回りが出来ていなかったのである。

勿論これが何でもありな「殺し合い」になれば結果は違ってくるのだが、小細工ありきの強さでは限界がある。己の無力さを、白斗は実感していた。

 

 

「しかし、ネプギアも強かったよ。 さすが」

 

「えへへ。 だったらもっと私を頼りにしてくださいね、ご主人様♪」

 

「ああ、頼りにしてるよ」

 

 

今回の特訓で自分の課題と共に、ネプギアの強さを改めて認識する。

だが、負けてしまったとはいえ白斗とて一方的では無かった。攻撃力はネプギアの方が上だが、手数では勝っていた。

故にネプギアも息を少し乱しながらも、白斗の強さを実感している。

 

 

「そろそろ戻りましょうか。 お姉ちゃん達を起こさなきゃいけませんし、朝ご飯の準備もしなきゃいけませんから」

 

「朝飯もネプギアが作ってくれるのか?」

 

「勿論です! お昼ご飯も、晩御飯も私が作っちゃいます!」

 

 

そしてメイドたるもの、料理も出来る女でなければならない。

最大とも言えるアピールポイントに、ネプギアは十分なやる気を見せる。過去、当番で料理した時も十分美味しかったと記憶しているので白斗も特に心配することなく、寧ろ一味違う朝食に想いを馳せながら教会へと戻った。

 

 

「あら白斗、お帰り。 ホントに毎日鍛錬してるのね」

 

「アイエフ、おはようさん。 まぁ、昔は体が資本みたいな生き方だったからな」

 

「健康的でいいわね。 プルルート様やネプ子にも見習ってほしいわ。 で、ネプギアは昨晩の宣言通りホントにメイドになっていると……モテる男は違うわね~」

 

「そこそこ懐かれてるようで、男冥利に尽きますよ。 全く……」

 

(いや、懐かれてるというレベル超えてるんだってば。 はぁ……あの子と言い、ネプ子と言い、プルルート様と言い……難儀な相手に惚れちゃったのねぇ。 ホントに)

 

 

帰ってきたところ、出迎えてくれたのはこの神次元プラネテューヌの教会で家族として暮らしているアイエフだった。

どうやら髪を梳いていたらしく、寝癖一つもない。

こちらのアイエフは白斗に対しては仲のいい友達と言った関係。故に互いに軽口を叩き合える仲となっている。

 

 

「ご主人様! 朝ご飯の用意が出来ました! お姉ちゃん達も待っていますよ」

 

「え? お姉ちゃん達って……ネプテューヌがもう起きてるのか? 珍しいな」

 

「お姉ちゃんだけじゃなくてプルルートさんも席に付いてますよ」

 

「ぷ、プルルート様が!? 嘘でしょ!!? 何の前触れなの!!?」

 

「……驚愕するのも無理もないですけど、事実です……」

 

 

他愛もない会話を続けている内にネプギアが声をかけてくれた。

だが、いつもならばまだお眠なはずのネプテューヌやプルルートが既に起きているらしい。

戦慄を隠せないまま白斗とアイエフがダイニングルームへと足を運ぶと、確かに二人とも席に座っていた。

イストワールやコンパ、ピーシェも既に着席している。

 

 

「あいちゃん、白斗さん! おはようです」

 

「おにーちゃん、おはよー!!」

 

「白斗さん、おはようございます! ネプギアさんのメイド姿もいいものですね!(^▽^)」

 

「お、おう。 コンパにピーシェ、イストワールさんもおはよう」

 

 

この三人は朝に相応しい爽やかな挨拶を返してくれる。

しかし、問題はその反対側に座る妙なオーラを放っている女神様二人。

 

 

「ね、ネプテューヌやプルルートも……その、お、おはよう……」

 

「「オハヨウ」」

 

(こ、コンパ? ネプ子にプルルート様、一体どうしちゃったの!? ちょっと不機嫌?)

 

(あはは……どうも、ぎあちゃんのメイド作戦が面白くないみたいです……)

 

(……白斗、本当に罪深い男ね)

 

 

尚、恋次元においてはアイエフとコンパも修羅場に加わる模様。

そうこうしている内に、ネプギアが食卓に料理を並べる。

 

 

「お待たせしました! 銀シャリにイクラ、納豆もあります!」

 

「待て、朝飯だよな? 納豆は納得だとして、銀シャリにイクラ!?」

 

「おかずは鮭のハラミ! 脂マシマシです!」

 

「ネプギアさん? 鮭のハラミってとんでもなく美味すぎる意味でヤバイんですが?」

 

「お吸い物はアワビで出汁を取ったお味噌汁! 渾身の出来栄えです!」

 

「マジで待って!? 朝メシにどんだけ贅も沢も尽くしてんの!?」

 

 

並べられた朝食に白斗達は戦慄した。

銀色の輝きを放つほかほかの白米、供えられたイクラの宝石の如き光沢、脂が汁となって蕩けている焼き鮭、更には濃厚な香りを放つ味噌汁。

高級ホテルと言わんばかりの気合の入れように寧ろ一同は箸をつけづらくなったが。

 

 

「……そ、それでは……いただきます」

 

(((ゆ、勇者白斗ー!!)))

 

 

白斗が意を決し、先陣を切った。

無謀と受け取られかねないその勇気ある行動に、誰もが彼を勇者と称える。

一般人ではお目に掛かれない豪華な朝食。まずは作り手の味が顕著に出る味噌汁を軽く啜る。

 

 

「ゴクリ……! ど、どうですか、ご主人様……!?」

 

「……ん! 美味い!! メッチャ濃厚で、染み渡るわぁ~……!」

 

「ほ、ホント!? やったぁー!!!」

 

 

忌憚のない、心からの絶賛。

高級食材をふんだんに使っているのは勿論、食材や調味料が喧嘩し合うこと無い絶妙なバランスで、濃厚な味わいが広がっていく。

 

 

「それじゃ私も……ん~っ! 美味しいよネプギア~!」

 

「お魚もとろっとろ~!」

 

「イクラもしっかり味付けされてますね! 今日は良い一日になりそうです(*´ω`*)」

 

「ご飯もふっくらしてるわね~。 こんな朝食毎日食べられたらいいんだけど……」

 

「ぴぃ、ねぷぎあのあさごはんまいにちたべたいっ!」

 

「……ま、負けたです……。 私の数少ないアイアンティーがですぅ……」

 

「コンパ、それアイデンティティーな。 鉄のお茶って何やねん」

 

 

ネプテューヌ達も口を付けて見れば、誰もがその味に舌を蕩けさせる。

紛れもなく大成功だと、ネプギアもガッツポーズ。

 

 

(やった! 皆にも喜んでもらえてる! こ、これで上手くいけば……三大告白とも言われるあの台詞をお兄ちゃんから……!!)

 

「ネプギア。 ご飯、お代わり」

 

「えっ!? 何ですご主人様、毎日お味噌汁ですかっ!!?」

 

「い、いや。 お米のお代わり頼んだんだが……」

 

「ふぇ? あ、ああ!! ご飯ですねすみませーんっ!!!」

 

 

慌てて白斗からお椀を受け取り、ペタペタと盛り付ける。

因みにネプテューヌとプルルートはジト目だった。それもそのはず、ネプギアが白斗から「毎日味噌汁を作ってくれ」という妄想でも繰り広げていたのだろうと見破っていたのだから。

 

 

(えへへ……でも嬉しいなぁ。 お兄ちゃん、私のお料理気に入ってくれてるみたいだし……これはもうお兄ちゃんの胃袋ゲットも同然かも♪)

 

「……ア! ネ……」

 

(でもこれはまだ序の口! お昼ご飯や晩ご飯ももっと素敵なものを……ふふふっ♪)

 

「―――ギア! ネプギアってば!!」

 

「っひゃぁ!? お、お兄……じゃなかった。 ご主人様どうされたんですか?」

 

「どうされたんですかはこっちの台詞だ! そんなにご飯盛られても食いきれないぞ!?」

 

「へ? ってひゃああああああああ!!? 何、この量!!?」

 

「いやいや、お前が盛り付けたんだからな!?」

 

 

慌てて白斗の言葉を受け、視線をお椀に映す。

するとそこには凄まじい高さまで盛り付けられたご飯の山。思わず

 

 

「うわーお、山盛り……。 いーすん二人分くらいの高さあるんじゃない?」

 

「というよりもこの量、明らかに炊飯ジャーの量に収まり切ってませんよね!? 質量保存の法則どうなってるんですか!?(゚Д゚;)」

 

「すご~い! 白くんってば食いしん坊~!」

 

 

思わずネプテューヌ達も目をひん剥く。(約一名天然な反応を見せている子がいたが構っていられるだけの余裕はないのでスルー)

明らかに人間一人分の胃袋に収まりきらないその量に、ネプギアは戦慄した後。

 

 

「…………どうぞ」

 

「ちょっとメイドさん? これを食えと? 最早納豆すら掛けられない高さと角度の、このご飯の山を綺麗に食して見せろと?」 

 

「ご主人様ならイケます。 どうぞ」

 

「何の信頼だそれ!?」

 

「どうぞ」

 

「いや、だからな―――」

 

「ど   う   ぞ」

 

「………………ハイ」

 

 

―――尚、腹がはち切れそうになったものの見事に食して見せたという。

皆さんも出されたお料理はきちんと完食してあげてくださいね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「げぇふっ……ヤベ……、さすがに腹がヤベェ……」

 

「ご、ご主人様。 大丈夫ですか?」

 

「……思うところは色々あるが、大丈夫だ……。 それより、本日のお仕事始めますよっと」

 

 

膨れ上がった腹を押さえながら執務室へとやってきた白斗とネプギア。

執務室と言っても、教会の規模が規模なのでリビングルームに近い。何とアットホームな職場か。(尚女神様二人がお仕事してくれないので漏れなくブラックに近い。でも仕事しなくても案外国は運営していけるらしいので案外ホワイトかもしれない)

 

 

「さぁ、ここからが敏腕メイドに一番期待したいところだ。 サポート頼むぜ?」

 

「お任せください!」

 

 

メイドの仕事と聞いて何を思い浮かべるかと言えば大抵はご主人様のお世話と、仕事の補佐。

まさにネプギアの能力が試される場面。と言っても、白斗としてはそんなに心配などしていなかった。

 

 

「大丈夫ですか? ネプギアさんはお姉さんと違って真面目そうですけど(゜_゜)」

 

「心配しないでください。 ネプギア、まずは国民からの陳情書を捌いていくぞ」

 

「うん! いつも通りでいいかな?」

 

「ああ、ネプテューヌとプルルートの判断が必要な奴とそれ以外で分けてくぞ」

 

 

山のように積み上げられた国民からの陳情書。

それを手に取るや否や、二人はそれを重要なものかそうではないものかに分けていく。

ネプギアは真剣に読み込み、一枚一枚丁寧に。白斗はそれ以上の速さと正確さで取り分けていく。

 

 

「は、早……!?(゚Д゚;)」

 

「恋次元じゃ俺とネプギア、イストワールさんとアイエフでほぼほぼ捌いてましたからね。 このくらい手慣れたもんです」

 

「ふふ、やっぱりお兄ちゃんと一緒だとお仕事が捗ります♪」

 

「おいおい、今のお前はメイドだろ? お兄ちゃんはいけないなぁ」

 

「あぅ、すみませんご主人様……」

 

(と、言ってる間もお二人の手は止まってません……何という能率……!(;・∀・))

 

 

会話しながらの仕事も慣れたもので、二人は次々と陳情書の山を崩していく。

能率としては白斗が上であったが、ネプギアも彼に食らいつこうと必死だ。

その甲斐あって、一時間も経たないうちに山のように積み上げられた陳情書は綺麗に整理された。

 

 

「ふぅ、分けてみれば案外細かい案件が多かったな。 女神クラスの案件も少なかったし、この国が平和な証拠だな」

 

「それじゃ私はこの数枚をお姉ちゃんとプルルートさんに届けてきますね」

 

「ああ、二人が渋るようなら俺のプリンを引き合いに出してくれ」

 

「は~い」

 

「そしてネプテューヌさんとプルルートさんへの対応も手慣れてますね(^▽^;)」

 

「慣れてますから。 さ、後は残った山を各部門に分けて、それぞれの部署に届ければOKと」

 

 

陳情書を整理する際のコツは、どれを、どこに、誰に任せるか。

勿論白斗一人で解決できない案件も多々ある。そういう時は、教会や国政に携わる部署に陳情書を届けて解決に当たらせる。

所謂適材適所を体現したやり方で、白斗はそれをキッチリ分けた。

 

 

「よーし。 残りのホントにどうでもいい案件は俺の方で終われせればよし」

 

「では次はこれを届けてきますね。 あ、お姉ちゃん達もお仕事やってくれてます!」

 

「ネプギア、ご苦労さん。 あの二人はやる時はキッチリ、素早く、正確にやってくれるしやる気出してくれてるなら問題ないな」

 

「……ほ、ホントに凄いですね……。 あの山、私やアイエフさんが担当するだけでも一ヶ月は掛かるはずなのに……(;´Д`)」

 

「仕事は適材適所に振り分けてこそです」

 

 

決して他者に押し付けるわけではない。しかし、国営はワンマンでやれるほど甘くはない。

国営に限らず仕事とは、専門部署に、如何に適切な仕事量とやる気、そして見合った報酬を与えられるかである。

 

 

「本当に白斗さん、お仕事手慣れていますね。 まだお若いのに(゚ω゚)」

 

「まぁ、恋次元じゃネプテューヌやノワールの補佐したりもしましたから。 それに……」

 

「それに?(゜_゜)」

 

「……まぁ、経験則って奴です」

 

 

つい、言いかけてしまった。

過去、白斗は暴虐的な父親によって理不尽な目に遭わされてきた。父親のボディーガードをやらされたり、手伝いの一環として大量の書類を始末させられたり。

手際の良さと処理能力はそれらによって培われたものだが、愚痴のように零すものではないと理性を保たせて堪えた。

 

 

「んじゃ、俺らで残った奴を捌いていきましょうか。 この量ならお昼までに終わるっしょ」

 

「で、ですね……。 ところでネプギアさん、中々戻ってきませんけど?(・ω・)」

 

「ああ、ネプギアでしたら」

 

 

語るまでもないと言わんばかりに肩を竦める白斗。その視線の先には。

 

 

「ぷるるーん! 書類も捌いたし、ゲームしよっか!」

 

「いいよ~。 あたし、負けないから~」

 

「お姉ちゃーん、プルルートさーん。 約束通り、お兄ちゃんのプリンですよ~」

 

「「わ~い!!」

 

 

数枚の書類を片付け、堂々と遊び呆ける女神様二人と、そんな彼女達を甲斐甲斐しく世話する女神な妹がいた。

 

 

「……あんな風に、甘やかしているワケで。 全く……」

 

「と言ってますけど、一番甘やかしているのはお二人に最低限の仕事しか与えず、面倒ごとはほぼ自分で引き受けて、尚且つお二人をのびのびさせている白斗さんです(;一_一)」

 

「え!? そ、そんなはずは!! ただ、二人に無理矢理仕事させても能率上がらないし、拗ねちまうし、ネプギアだってネプテューヌと一緒にさせてあげたいなーって思うだけで」

 

「そこで私情を挟んでいる時点で甘やかしているんですー!! もう、白斗さんといいネプギアさんといい、甘すぎですっ!!<(`^´)>」

 

「す、すみません……」

 

「これ以上は時間の無駄ですからお仕事は片づけますけどね!(-_-メ)」

 

 

手のひらサイズの小さな妖精さんからお叱りを受けてしまう、情けない男の姿がそこにあった。

だが結局は白斗の言い分を飲んでしまう辺り、イストワールも随分甘い方である。

 

 

「ふぅ、終わりましたね。 これで数日くらいはゆったり仕事出来ますよ」

 

「……ちゃんと成果上げている分、タチが悪いですね。 必要以上に怒れない……(;´д`)」

 

「仕事なんてそんなものですから」

 

 

その後、二時間くらい書類を整理しているだけで凄まじい達成感に包まれた。

お蔭で面倒ごとが一気に解消され、白斗の言う通りストレスの原因が取り除かれイストワールの精神状況としましては、かなり晴れやかである。

 

 

「さ、お待ちかねお昼ご飯だ。 敏腕メイドネプギアよ、昼食は何かね?」

 

「こちらです、ご主人様っ」

 

 

わざわざ白斗の前にクロッシュで覆われた皿が運ばれる。

可愛らしい手つきで銀のクロッシュを開けると、ぼわっと湯気が広がった。食欲をそそる香りと共に現れたのは。

 

 

「おお、オムライスか」

 

「うん! この小説だと何かと出番の多いオムライスです!」

 

「ネプギア、最近姉に毒されてないかね? メタ発言多いのだが?」

 

 

確かに食べる回数自体は多いオムライスだ。

しかし、白斗もオムライスは好物に入る部類で、いくら食べても飽きないので大歓迎ではある。

 

 

「た・だ・し! 私のオムライスは一味違います!」

 

「ほほう、面白い。 何が違うというのかね、ネプギア君?」

 

「というか何ですか白斗さん、さっきからその口調……(;^ω^)」

 

「ご主人様っぽい振る舞いとして偉そうにしてみました。 さてネプギア君、チミはどんな一味を見せてくれるのかね? このオムライス、何もソースがないのだが」

 

 

そう。このオムライス、なんとケチャップどころか他のソースさえ掛かっていないのだ。

卵に包まれているチキンライスも、味の一つではあるのだがこれでは物足りなく感じてしまう。

だが敏腕メイドネプギアにはその程度の質問はお見通し。秘密兵器をすぐに取り出す。

 

 

「こ、これです! じゃ~ん!」

 

「……ケチャップ? 結局かけるのか?」

 

「はい! そ、それでは……っ。 ご主人様も、一緒に美味しくなる呪文を唱えてくださいねっ」

 

「へ? 呪文?」

 

「お、美味しくな~れ、萌え萌えキュン☆」

 

「ごぼはァッ!!!」

 

 

ネプギアが、ケチャップで「ご主人様LOVE♡」と書き出したのだ。

確かにこれはある意味メイドらしいと言えばらしいのだが。

 

 

「ネプギアぁ!! それ違うメイドさんや!!!」

 

「えっ? で、でもノワールさんがこれがメイドのお務めだって」

 

「あんのコスプレ趣味がァ!! 偏った知識与えがやってェ!!!」

 

 

とりあえず犯人たる黒の女神様には後でお仕置きしなければ。

 

 

「と、とにかくやるからには最後までやり遂げます! ご主人様も覚悟決めてくださいっ!」

 

「なんでご主人様まで一緒にゴートゥーヘルさせちゃうのかなこのメイドさん!? こんなのメイドじゃなくて冥土だろうが!!」

 

「白斗さん、寒いです(゜_゜)」

 

「真顔ヤメテ!!」

 

 

イストワールから絶対零度の視線を受けつつ、白斗はオムライスをと向き合う。

目の前の黄金色の輝きに包まれたオムライスはふんわりとしていてとても美味しそうだ。

これほど見事な一品を作り上げるのにネプギアは相当な練習を重ねたはず。であれば、恥ずかしがってやらないのはネプギアに対して失礼というもの。

 

 

「も、もう一度行きますよ~! 美味しくな~れ、萌え萌えキュン☆」

 

「……お、美味しく……な~れ……」

 

「もっと声を大きく! テンポよく!

 

「お、美味しくな~れ! 萌え萌えキュンッ!!」

 

「もっと可愛らしく!!」

 

「美味しくな~れ、萌え萌えキュンっ☆」

 

 

ネプギアに釣られてウィンクをパチリ。

可愛らしいイントネーションと仕草まで付け加えた。そして白斗は。

 

 

「……負荷、大。 ぐぼああぁぁ!!!」

 

「ご、ご主人様ぁ――――――っっっ!!?」

 

 

己の吐血で、ケチャップを真っ赤に染め上げるのだった。

必死に唱えたそれは、美味しくなる呪文などではなく死の呪文だったという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――さて、阿鼻叫喚の昼食を終えて昼休憩。

白斗とネプギアの大活躍により午後からはかなりの空き時間があった。

この教会の主たるプルルートはいつも通りお昼寝、もう一人の女神ことネプテューヌはメイド姿のネプギアが気になるのか、こちらをチラチラ覗いている。

 

 

「そうだな……ネプギア、午後から付き合ってくれるか?」

 

「ふぇっ!? つ、つつつつ付き合……っ!!?」

 

「ネプギア、ベタ過ぎるけど多分白斗の用事に付き合えってことだよ?」

 

「……はっ!? い、いやいやお姉ちゃん! 私はちゃんと分かってるからね!?」

 

 

ネプギア は ベタ属性 を 手に入れた!

 

 

「い、いいじゃない! ベタな展開があったって!」

 

「メイドさーん? 人の話聞いてるー?」

 

「ご、ごめんなさいご主人様!! それで用事というのは?」

 

「ああ、ホラースポット巡り。 自殺のメッカとかな」

 

「ひいいいいいいいいいいいっ!!? や、やだぁ……!!」

 

「ゴメンゴメン、冗談だよ。 ちょっと買い物に付き合って欲しいんだ」

 

「酷い……ぐすん。 お夕飯や間食でしたら既に材料を買ってきていますよ?」

 

 

この辺は抜かりないネプギアだ。晩御飯の献立も既に決まっている。

だが、白斗がしたい買い物はそうではないらしく、かぶりを振る。

 

 

「違う違う。 お土産とか買いたいんだ、その上でネプギアの意見も欲しい」

 

「お土産……ですか? とにかく、お買い物もお任せくださいっ」

 

「頼りにしてるぜ? それじゃ行こうか」

 

「はいっ!」

 

 

思えば、こうして外出する主人にぴったりと寄り添い、共に買い物をするのもメイドらしいとネプギアはウキウキしながら外へ出た。

背後からはネプテューヌの恨みがましい視線が突き刺さったが、何とか耐える。

さて、意気揚々と街へ出て見たものの突き刺さった視線はネプテューヌのものだけではなく。

 

 

「うっ!? な、何この視線の数々……!?」

 

「そりゃそうだ。 こんな可愛いメイドさんを侍らせてんだ。 お前に見惚れてる人もいれば、俺に嫉妬してる奴もいるんだろうな」

 

「も、もうご主人様ってばぁ……。 ところで何をお買い求めに?」

 

「恋次元で待ってくれてる皆へのお土産だよ。 手ぶらで帰ってきたら怒られそうだしな」

 

「あ、なるほど」

 

 

言われてみて納得した。どうやら白斗は恋次元に取り残された知人たちへのお土産を探しているらしい。

こちとら旅行気分で神次元へと来たわけではないのだが、手ぶらで帰ってくるのも気が引けるという白斗の気遣いだ。

 

 

「そこでネプギアには神次元特有かつ、女の子受けするものを一緒に考えて欲しいんだ」

 

「……ご主人様の知人と言えば可愛い女の子オンリーですものね」

 

「人聞き悪いこと言うなこのメイドさんは」

 

「メイドジョーク、ブラック編でございます。 つーんっ」

 

「笑えるジョークを頼むぜ。 苦さはいらない」

 

 

などと軽いやり取りをしながら二人はデパートへと辿り着く。

以前プルルートが自慢していた品揃え抜群の百貨店で、今日も今日と色取り取り、大小様々、千差万別な商品が陳列されている。

 

 

「さて、まずはノワールだな。 あいつと言えば服か?」

 

「ご主人様、服もいいかもしれませんが日用品とかどうですか?」

 

「日用品?」

 

「はい、ノワールさんはとても真面目ですから普段から結構窮屈な思いをされてると思うんです。 だから、コインケースとか、万年筆とか、自分がいつも使うようなものくらいは愛着が湧くようなものを選びたいと思うんです」

 

 

なるほど、と顎に手をやる白斗。

女神、真面目、堅物と三拍子揃ったノワールはどこかでは気を抜いたり、落ち着けたいと思うことも確かにあるだろう。

ならば自分の使っているものにくらい、気を許したいと思うことも多いはず。ネプギアの分析は的確と言えよう。

 

 

「よし、その案採用。 となると……万年筆で行くか。 あいつ、結構書類にサインすることも多いからな」

 

「では文房具屋へ行きましょうか」

 

 

早速文房具を取り扱っているスペースへと向かう。

木材で作られた文房具屋は高級感溢れる雰囲気を醸し出しており、中々上質なものが売られている。

その分、お値段も中々だったが。

 

 

「ご主人様、このインクとかどうでしょうか? 万年筆はインクも必要ですし」

 

「インクか。 何か特別なのか?」

 

「何でもこっちの世界だけで咲くお花のエキスを使ったものだとか。 いい香りですよ!」

 

「お、なるほどな! いい香りがするならあいつも仕事しやすいだろうし、神次元特有って感じもするし。 君に決めた、っと!」

 

 

ネプギアが勧めてきたインクと、そこそこのお値段かつ手触りの良い万年筆を購入。

余り高すぎるものを選ぶと、ノワールが遠慮がちになると考え、敢えて値段に糸目をつけた。

 

 

「後はブランさんとベールさんですね」

 

「ブランは勿論本だ。 俺がこっちの世界に来てから面白いと思った本を既に買い込んでる」

 

「そうなりますよね。 ベールさんは……ゲームで?」

 

「いや、姉さんはこっちの世界で売られてる紅茶だ。 味も香りも一級品、こっちは結構拘ったぞ」

 

 

どうやらブランとベールのお土産は既に決まっているらしい。

好みがはっきりしている分、特に迷いもなかったようだ。

 

 

「なら残るお土産を買わなきゃいけない人は……」

 

「恋次元のイストワールさん、それとアイエフにコンパ、ツネミに5pb.、マーベラスだな」

 

「……見事に女の子ばかりですね」

 

「急にトゲのあるトーンにならないでください……」

 

 

そもそも今までの贈り物も、親しいとはいえ恋次元ゲイムギョウ界が誇る女神様全員である。

ネプギアが妙にむくれてしまうのも仕方のない話だ。

 

 

「まずはツネミと5pb.だな。 二人にはリラックスできるようなものを贈りたい」

 

「リラックス?」

 

「ああ、アイドルは体力仕事だって良く言ってるからな。 だから疲れが取れるようなものがいいと思うんだが……女の子の体のケアはよく分からん」

 

「でしたら入浴剤とか、アロマオイルとかどうでしょう?」

 

「お、これまたいいアイデアだな。 さっきみたいに神次元の花を使った奴とかならお土産としても申し分無し」

 

 

次に向かったのは、土産物を重点的に扱う店。

観光客に向けての品は色々あるが、リピーターを増やすために様々なジャンルに手を伸ばしていることが多い。

お目当てのものは、すぐに見つかった。

 

 

「あったあった。 これとこれ、だな」

 

「何を選んだんですか?」

 

「両方とも入浴剤だ。 ツネミには活力が湧いてくる効能、5pb.にはしっとりとした気分になれる奴をな」

 

「わざわざ分けて?」

 

「ああ。 ツネミは最近、明るい歌が歌えてないことに悩んでたみたいだし、5pb.はその逆。 だったらこれがちょっとでも手助けになれたらなーって。 気休めかもしれないけど」

 

 

こんな時でも、白斗は自分の周りにいてくれる少女達の事を想っていた。

さりげなく零した話題も鮮明に記憶し、その人物の悩みや課題にも一緒に、真剣に考えて導いてくれる。

―――そんな白斗だから、女の子達は皆夢中なんだろうなぁ。とネプギアは深いため息を吐いてしまう。

 

 

「さて、ケアついでにイストワールさんだ。 前にアロマ贈ったが、今回はどうしようかな……」

 

「何も癒しはアロマだけじゃないですよ。 視覚的に癒されるとか」

 

「猫とか犬とか? イストワールさんの体格だと、じゃれてるうちに潰されそうだな……」

 

「あはは……確かに……。 なら、ヒーリングミュージックとかどうですか?」

 

「ヒーリングミュージックか。 イストワールさん、余り音楽聴かなそうな印象だが……確かにそういう変わり種もいいかもな」

 

 

ということで早速CDショップへ。

イストワールの音楽の趣味は分からなかったが、白斗は真剣に悩んだ末に宇宙をイメージしたというヒーリングミュージックのCDに手を伸ばした。

 

 

「ご主人様、どうしてそれを選んだんですか?」

 

「ん? いや、いつもプラネタワーは大騒ぎだから静かな音楽の方がいいかなって。 それに水や風の音って人によっては騒がしく聞こえるから、敢えてそれを外しただけ。 まぁ、これもハズレかもしれんが」

 

「そんなことないですっ。 ご主人様の選んだものなら、いーすんさんも大喜びです!」

 

「ははは、メイドさんが言うなら間違いないな。 さて、後はマーベラスとコンパか」

 

「あれ? アイエフさんは?」

 

「アイエフはこっちの世界でしか手に入らないケータイだ。 ケータイ好きのあいつだからな、喜んでくれるといいけど」

 

「わ、わざわざ買ってあげたんだ……」

 

 

例え通信契約を結んでいなくても本体料金で相当な額になるはずなのに。

一度尽くすと決めた相手にはとことんまで尽くすのが、白斗の長所にして短所だった。

今回の買い物とて、相当な出費になるはずなのに。

 

 

「さて、マーベラスは……靴とかがいいかな」

 

「靴? ご主人様からファッションな発想が出るとは……」

 

「ちょっとメイドさん? 少ーし口が悪くなってるんじゃございませんかー?」

 

「気の所為ですっ。 それで、どういう意図で?」

 

「忍者にとって足は命だからな。 ちょっとでも力になってくれたらいいなと」

 

「本当、目の付け所が良すぎるんですから……でもマベちゃんさんの靴のサイズってご存じなんですか?」

 

「何だよ、マベちゃんさんって……。 知ってるぞ」

 

「……なんで知ってるんですかねー、女の子の数値は機密情報なのに」

 

「……き、企業秘密です」

 

 

そんな数値を知るくらい親密な関係であることにネプギアは大層不満な目を向ける。

じくじくと痛みだす心を押さえながら白斗は靴屋へと赴く。

今回は機動性とデザインの両立を兼ね備えたものを選んだ。勿論、この神次元限定のブランドものだ。

 

 

「ふぅ、靴も結構いい値段するもんだ」

 

「ご主人様、お金の方は大丈夫ですか?」

 

「こういう時のためにせっせとクエスト熟してきたからな。 さて、最後はコンパか」

 

「……最後って言いますけどお兄ちゃん、私には? 可愛い妹達には?」

 

「メイドの言動崩れてるぞ。 それにお前らはリーンボックスん時で散々飲み食いしたろーが」

 

「うぐぅっ!?」

 

 

勿論、彼女達がこの世界に飛んでこなければお土産を用意するつもりだったがこうして神次元まで飛んできた以上、用意しても仕方がない。

理屈は分かるが、ネプギアとしては納得したくは無かった。

 

 

「んー……コンパ、何でも喜んでくれそうだが、だからこそ中途半端なものを贈りたくはない」

 

「でも拘り過ぎて捻くれちゃうのもどうかと」

 

「そうなんだよなぁ。 どうしたものか……」

 

「根を詰めすぎると却ってドツボにハマっちゃいます。 ここは休憩でどこかカフェにでも寄っていきませんか?」

 

「……それもそうだな。 少し休憩すっかぁ」

 

 

コンパへの贈り物、そのアイデアが中々纏まらない。

疲れで凝り固まった頭や体を解すべく、デパートから出て手頃な喫茶店へ行くことにした。

 

 

「おっと、ここは俺が仕切っていいか?」

 

「ご主人様? どこか行きたいところがあるんですか?」

 

「ああ。 オススメの場所がな」

 

 

そうして案内したのは、隠れ家的雰囲気が漂う喫茶店。

相変わらずハードボイルドな雰囲気を漂わせるマスターがコップを磨いている。彼らの入店に「いらっしゃい」と呟いたきり見向きもしなかった。

 

 

「こんなところがあったんですね……」

 

「女の子連れ込むにゃちょっと無骨かもしれないけどな」

 

 

二人で開いている席に座り込む。

以前、プルルートとのデートで教えてもらった喫茶店だ。男受けするような環境だが、味は女の子も認めるほどのものを提供してくれる。

 

 

「メニューも俺が頼んでいいか?」

 

「そこまで仕切っちゃうんですか? なら、お任せします」

 

「ありがとう。 それじゃマスター、注文!」

 

 

ネプギアはちょこんと席に座りながらも、純粋に楽しみにしていた。

女性経験値が少ない白斗がわざわざ選び、案内し、そして注文まで仕切ってくれる。一体何が来るのだろうかと、ワクワクしながら待っていると。

 

 

「お待たせした。 ブレンドコーヒーとショコラ。 ミックスジュースと、モンブランだ」

 

「来た来た。 ネプギアはこっちのミックスジュースとモンブランな」

 

「わぁ! 美味しそう!」

 

「美味しそうじゃない、美味しいの」

 

 

これ見よがしに白斗はカップの中の黒を啜り、美味そうに喉を鳴らす。

相変わらずのコーヒー好きである白斗だが、自然に漏れ出た笑みからその美味しさが嫌でも伝わってきた。

ネプギアも彼に釣られてミックスジュースをコクリと一口。

 

 

「……美味しい! 色んな果物の風味がバランスよく合わさって、でもスッキリしていて……」

 

「だろ? 味もしつこくないから、甘さ全振りのケーキがよく合うんだ。 コレが」

 

「それじゃ、モンブランの方も……んん~! 絶品です~!」

 

 

ミックスジュースは甘さだけではない、酸味な苦味も適度に混ぜられていた。

それが後味のしつこさを打ち消し、モンブランもより美味しく頂ける。

甘いものを口にしている時のネプギアはメイドということも忘れた、まさに女の子。極上の笑顔に白斗もつい顔を綻ばせる。

 

 

「へへ、良かった。 ネプギア、こういう味が好きだと思ったからさ」

 

「ありがとう、お兄ちゃん! じゃなかった、ご、ご主人様!」

 

「おやおや、まだまだ妹気分が抜けないようですなー。 このメイドさんは」

 

「もーもーもーっ! そんなこと言っちゃうと、晩御飯にレバー追加しちゃいますよっ!」

 

「ぬあっ!? わ、悪かった!! 勘弁してくれぇ!!!」

 

 

白斗の大嫌いなものをちらつかせれば、あっという間にマウントを取り返せた。

因みに白斗がレバーを好まない理由はどうも彼の凄惨な過去が関係しているらしいのだが……それはまた別のお話。

 

 

「やれやれ、メイドさんにこうもしてやられるとはな……ん? この写真……前、こんなの飾ってあったか?」

 

 

やるせない思いを抱えて、ふと視線を壁側に向けると綺麗な風景写真が飾られていることに気付いた。

緑煌く草原、広がる澄み切った青空、天と地を繋ぐ山々。世界の美しさを切り取ったその一枚に、白斗もネプギアも一瞬目を奪われた。

 

 

「ははは、実は最近写真撮影が趣味でね。 休日に出掛けてはこんな綺麗な写真を撮ってくるのが最近のマイブームさ」

 

「これ、マスターが撮ったの? 凄いな……」

 

「ま、これもちょっとした経営戦略さ。 この店に来て良かったって思えるようにな」

 

「綺麗ですね~。 これ見てると旅行した気分になっちゃいます」

 

 

確かにな、なんて笑っていると白斗の中にある光明が差す。

瞬間、体が電撃に貫かれたかのように震え上がり―――。

 

 

「……そうだ! これだ!」

 

「え? ど、どれですかご主人様っ?」

 

「コンパへの最後のお土産、決めたってことだよ!」

 

「「???」」

 

 

ネプギアと、そして事情を知らないマスターが揃って首を傾げた。

けれども、そんなことつゆ知らずと言わんばかりに白斗の顔は晴れやかだ。

まるで、ずっと空を覆っていた暗い雲が吹き飛ばされ、一気に晴天になったのように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし! 写真集ゲーット!」

 

「神次元の風景写真ですか。 それをコンパさんに?」

 

「ああ。 神次元はこんな世界だって伝えりゃ、コンパも面白がってくれるかなって」

 

 

数十分後、白斗とネプギアは書店から出てきた。手には一冊の分厚い写真集が握られている。

神次元に来れなかったコンパだからこそ、例え写真だけでも白斗達が旅した世界の事を知って、土産話と共に楽しんで貰いたい。

そんな白斗の想いが込められた一冊だった。

 

 

「さて、これで買い物は終わりだ。 ネプギア、マジで助かったよ」

 

「いえいえ。 ご主人様に喜んでいただくことがメイドの務めですから!」

 

「頼もしいねぇ。 なら、晩飯でも喜ばせてくれるのかな?」

 

「勿論です! 最高のハンバーグをご用意します!」

 

「おっ、そいつは期待しちゃうね」 

 

 

今日一日で恋次元にいる皆へのお土産は全て用意できた。

少々張り切り過ぎるきらいはあったものの、ネプギアは実に的確かつ精力的にサポートしてくれた。

白斗としても感謝の念でいっぱいだ。

―――そしてこれは後の話になるが、今回のお土産はみんなに喜んでもらえたという。

 

 

「えへへっ。 期待しててくださいねっ!」

 

 

スキップしながら振り返った、その眩い笑顔。

笑顔が素敵なのは、プラネテューヌの女神の特徴と言えるだろう。

その笑顔を例えるなら、ネプテューヌは太陽のように人々を分け隔てなく照らしてくれる。プルルートの笑顔は、ふかふかの毛布のように見る者を癒してくれる。

そして彼女、ネプギアの場合は―――。

 

 

「……惹きつけてやまない一輪の花……かな」

 

「え? 何のお話ですか?」

 

「なんでもない。 さ、帰ろうぜ。 腹ペコで仕方ない」

 

「えぇ? さっき喫茶店で一服したのに?」

 

「育ち盛りだからな。 待ち切れないんだ」

 

 

柄にもなく、白斗は浮かれていたのかもしれない。

女神で、妹で、可憐な花でもあるネプギアの手料理が食べたい。―――いや、彼女の魅力にもっと触れてみたい、などと。

今なら不敬罪で掴まってもいい。そうとすら、思えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして時は経ち、三日月が天頂に上る時間帯。

 

 

「ふぅ……ハンバーグ美味かったなぁ。 ネプギアめ、腕を上げおって」

 

 

などと言いながらも、満面の笑みを浮かべて白斗はベッドに寝転がった。

ネプギアの手によって洗濯されたベッドシーツや毛布からはフローラルな香りが漂い、枕はふんわりと頭を包み込んでくれる。ベッドメイキングも完璧だ。

満腹と疲労とが合わさって、今にも瞼が重くなる。

 

 

『ご主人様、お風呂が沸きましたよ』

 

「ん? そうか、ありがとう。 悪いな、わざわざ入れ直してもらって」

 

『私達は構わないっていつも言ってるんですけどね……』

 

「いやいや、男の残り湯を女の子に使わせるわけにもいかんし、女の子の残り湯を男に使われたくないだろ?」

 

『もうっ、そんな変な気遣いはいいんですっ』

 

 

今では家族の様にひとつ屋根の下で暮らしている白斗だが、服や洗濯については可能な限り線引きをしていた。

風呂は勿論レディーファーストから。湯も張り直して、ネプテューヌ達に不快な思いを与えないように白斗のものは彼自ら掃除、洗濯、入浴まで熟してきた。

今回はメイドだからという強引な理由で、ネプギアがその作業を請け負ってくれた。

 

 

「ん~っ!! あ~……いい湯加減だ……」

 

 

わざわざ白斗のために張り直された湯に、遠慮なく浸かる。

溢れ出す湯と共に、今日一日の疲れも流れ出そうだ。

 

 

『ご、ご主人様。 湯加減どうですか~?』

 

「ん? ネプギアか、最高だぜ。 ありがとな」

 

『い、いえいえ! これからが本番ですからっ!』

 

「本番ねぇ……。 ……ってちょっと待て、この流れ、ノワールんところでも―――!?」

 

 

湯によって蕩けきった理性が、致命的な遅れを生じさせてしまった。

確か白斗が悪夢を見続けて弱った時、ノワールとユニが湯船に突撃してきたことがあった。

ドア越しに聞こえるネプギアの声。これが意味するものは。

 

 

「め、メイドのご奉仕の極み! お背中お流ししますっ!」

 

「だああああああ!! やっぱりかああああああああああああ!!!」

 

 

タオル一枚のみを纏ったネプギアに、思わず湯船から飛び出そうになった。

でなければ、“男の狂気にして凶器”をネプギアに向けてしまいそうだったからだ。

今のネプギアは、一言で言うなら―――美しい。

普段は決して見せない腕や肩、それに胸元の肌が露になっている。姉よりもはっきりとした胸のふくらみ、大事な所をギリギリ隠しているラインのタオル、スリットから見える太もも。

今の彼女はまさに、「女」を見せつけていた。

 

 

「が、頑張ります! ご主人様、そこに座ってくださいっ!」

 

「頑張らなくていいからッ! 無茶すると火傷するのはお前の方―――」

 

「大人しくしないとM・P・B・L(マルチプルビームランチャー)ですよ?」

 

「物理的に俺を火傷させる気か!? つーかご主人を脅迫してきやがったよこのメイド!?」

 

 

何やら武力行使する気満々らしく、その手には充填完了の砲身付きブレードが握られていた。

真夜中に煌くお星さまにはなりたくない。風呂場であるにも関わらずぶるっ、と身震いした彼は観念して席に座る。勿論腰にはタオルを巻いて。

しかし、機械の心臓は正直なもので先程から光り輝いている。今にもショートしそうだ。

 

 

「……な、なっ、ならッ、お頼み……申し上げましてよ?」

 

「ぷっ! ご主人様なんですかその口調っ……あっ、あはははっ!」

 

「べ、べっ、別に! き、緊張してるとかそんなことじゃないんだからねっ!」

 

「うーん、ご主人様のツンデレはインパクト弱いですね」

 

「そうか……。 やっぱりノワールやユニの足元にも及ばんな……」

 

 

空の向こうから黒の女神姉妹が猛抗議の声を上げた気がするがきっと気のせいだろう。

 

 

「そ、それではお背中流しますねっ! わぁ……おっきな背中……」

 

(そう言えば、前ネプギアが風呂場に突撃してきた時は未遂に終わったっけ……)

 

 

思えば、こうして女性と風呂を共にするのも何度目だろうか。

恋人関係でもないのに混浴、世間に発覚すれば極刑もやむなしと白斗は覚悟している。しかも相手は女神様だ。

だが当のネプギアは彼の心境など全く知らず、逞しい背中にうっとりとしていた。ただ、同時に幾つも刻み込まれた古傷の数々に心を痛めてもいた。

 

 

「ごつごつしてて固い……。 でも、傷もいっぱい……。 お背中、痛くない……ですか?」

 

「あぁ、古傷だけど気にしないでくれ。 ……って、言われても怖いわな」

 

「そんなことないですっ! ……私は、この背中が大好きです」

 

 

大慌てで白斗の言葉を打ち消すように、けれども彼を労わるようにネプギアが抱き着いてきた。

……素直な好意は嬉しいのだが、その、如何せん……柔らかいものが当たっている。

 

 

「あ、ありがとう……」

 

「い、いえいえ! では、ゴシゴシしますね。 うんしょっと……」

 

 

つい、“二重の意味”でお礼の言葉が出てしまった。男と言う生き物はどうして単純なのかと、つくづく考えさせられる。

 

 

「痛くないですか?」

 

「くすぐったいくらいだ。 もうちょっと強くしてくれていい。 ユニもそうだったが、俺を気遣いすぎ―――ハッ!?」

 

「……そこでどうしてユニちゃんの名前が出たのか、後でじっくり聞かせていただきます」

 

 

男という生き物はどうして単純なのかと、またまた考えさせられた。

 

 

「でもでもっ! ゴシゴシは私の方が上手です! そうですよね!?」

 

「あー、うん。 上手上手ー」

 

「情感が足りませんっ! もっと労いと感謝と愛を込めて!!」

 

「割と図々しいなこのメイドさん……」

 

 

なんて軽口を叩かないと、白斗の機械の心臓が持たない。ランプの光が目に痛い。

明らかに興奮しているとネプギアも察してしまっており、口では文句を言いつつも表情が緩みっぱなしである。

 

 

「ふふふっ、ご主人様? 素直にならないと体を悪くしちゃいますよ?」

 

「俺は悪い子だからいいの」

 

「なら、そんなご主人様を良くしてあげるのもメイドの務めですよね」

 

「……据え膳食わぬは男の恥っては言うけどな、ネプギア」

 

「はい?」

 

「どうやら我々は調子に乗り過ぎたようだ」

 

 

急に白斗の体温が冷えてきた気がする。湯冷めしてしまったのだろうか。

否、彼はあるものに怯えていた。震える指が指し示した先には。

 

 

 

 

 

「ねぇぇぇぷぅぅぅぅぎぃぃぃぃあああぁぁぁぁぁぁぁぁ?」

 

「ふ、ふふふ~……白くんとお風呂なんて~……あたしもまだなのに~……」

 

 

 

 

 

 

―――悪鬼羅刹。否、女神様がそこにいた。

 

 

「…………お、お姉ちゃんは一度お兄ちゃんと混浴したじゃない!」

 

「……ね~ぷ~ちゃ~んんん~~~?」

 

「ひいいいいいいっ!!? 裏切りのぷるるん!? ちょ、どこに連れて――――」

 

 

しかし咄嗟に放ったネプギアのクロスカウンターが炸裂。

結果、プルルートの怒りの矛先はネプテューヌに向けられ、彼女はあえなく制裁された。

何やら「ねぇぷぅぅぅぅぅぅ!!」という他にない断末魔が上がったような気がする。

 

 

「……こ、これ以上ややこしくならないうちに出ようか」

 

「そ、そうですね……」

 

 

興覚めならぬ湯冷めしないうちに二人は湯船から出ることにした。

余談だが廊下では何故かネプテューヌが生気を失った目で放り出されていたとかいないとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――そして波乱万丈の入浴を終え、後は寝るのみとなった。

さすがにここまで来たら、メイドとしての仕事はほぼ無いも同然。明日の準備も済ませ、白斗は一人ベッドに寝転がって天井を見上げていた。

 

 

「やれやれ、変な疲労が溜まる一日だったなぁ……って、いつもの事か」

 

 

実際、物凄く疲れていた。

のだが今は眠くならない。というよりも、まだ寝るべきでは無かった。

まだ、“彼女”が来ていないから。

 

 

『……ご、ご主人様。 もうお休みになられましたか?』

 

「いーや、お前を待ってたよ。 俺のメイドさん」

 

『な、なら失礼しますっ』

 

 

ノックは控えめ、しかし部屋に入る際には隠し切れない喜びのオーラを発しているネプギア。

小躍りするかのようにステップを踏みながら白斗の前に立つ。

 

 

「えへへ、えへへへへ……♪」

 

「なんだなんだ、メチャご機嫌だな」

 

「だって、さっきご主人様が『俺のメイドさん』って……これって、もう公認ですよね!? 私、ご主人様の正式なメイドさんですよね!?」

 

「正式なメイドにするとネプテューヌ辺りが喚きそうな気もするが……そうだな。 実際、今日は大助かりしたし、たまにならこういうのも……いいかな。 立派なメイドだったよ、ネプギア」

 

 

ネプギア は メイド属性 を 手に入れた!

 

 

「やったー!! このラーニング、初めてまともなのがついたー!!!」

 

「初めてのまともな属性がメイド……いいのかそれで……」

 

「いいんですっ! それに言質も取りましたし!!」

 

「まぁな。 っと、後5秒」

 

「え? 後5秒って、一体何の……」

 

 

タイムリミットだろうか、そう問いかけようとした瞬間5秒は経ってしまい、甘い空気を吹き飛ばすかのようなアラーム音が鳴り響いた。

 

 

「はい、日付変わりました。 ―――メイドタイムはここまで、お疲れさん」

 

「え、えぇー!? だったら延長!! 延長を申請しますっ!!」

 

「駄々こねるのクライアント側じゃなくて労働側かよ……。 言ったろ、たまにならって。 毎度毎度は恥ずかしいし、お前にだって別のお仕事割り振らなきゃいけないし」

 

「むむむぅ~~!! お兄ちゃん~~~っ!!!」

 

「はっはっは、やっぱりネプギアは妹だよなぁ。 可愛い可愛い」

 

 

すっかりネプギアもメイドモードをやめて思い切りむくれている。

可愛いと言ってもらえるのは嬉しいが、完全に妹扱いだけというのは面白くない。

折角女の子としていい所を見せたのに……と頬が破裂しそうになったところで。

 

 

「だが、労働には対価が付き物。 今日一日、しっかりメイドとして役割を全うしてくれたネプギアには報酬があります」

 

「え……? な、何かな……?」

 

 

不意に、白斗から今回の報酬が提示される。

ご褒美とくればさしものネプギアもすっかり機嫌を直し、期待に満ちた眼差しを向けてくる。

やがて差し出されたのは、一枚の紙切れ。

 

 

「ええと、これ……“白斗一日使い放題券”……? って、お兄ちゃんコレ……!!」

 

「一日、俺に尽くしてくれたからな。 俺も同じくらいお前に尽くさないと。 ……何なりとお申し付けくださいませ、お嬢様」

 

 

恭しく一礼。けれども、ネプギアを想う彼の気持ちが伝わり、ネプギアの心を温かく溶かす。

たった一枚の紙切れが、こんなにも嬉しくなるとは夢にも思わなかった。

 

 

「―――ありがとうっ!! だったら、いざという時に使わせてもらうからね!!」

 

「お前は後にとっておく派か。 まぁ、らしいっちゃらしいな」

 

「ふふふっ! あ~、何だか使うの勿体なく感じちゃうよ~!」

 

「これが俗に言うラストエリクサー症候群か……」

 

 

だが、ネプギアの心は有頂天に達している。

この券はホワイトデーの際にネプテューヌにのみ贈られた代物だ。ネプギア達恋する乙女にとっては、喉から手が出るほど欲しかったもの。

それが今、手に入った。好きな時に白斗を独り占めできる―――なんて幸せなことだろうか。

 

 

「……あ、いけない! そろそろ寝ないと!」

 

「そうだな。 んじゃネプギア―――」

 

 

と、その瞬間。ネプギアの腕が伸び、白斗の首元に抱き着いてくる。

かと思えば、白斗の顔を引き寄せ―――彼の頬で「ちゅっ」と水音が上がった。

 

 

「…………んなっ!? な、なっ!? なぁっ!!?」

 

「―――おやすみのキス、です。 おはようからおやすみまでが、メイドの仕事ですからっ!」

 

「お、お前なぁ……! もうメイドの時間は終わったって……」

 

「おやすみなさいませ、ご主人様っ♪」

 

 

白斗の言葉など一切耳を貸さず、ネプギアは勢いよく部屋を出て行ってしまった。

最高の仕事を果たし、最高のご褒美をもらった上、最高の気分に浸れた彼女はきっといい夢を見るのだろう。

けれども、徹底的に尽くされた白斗としては。

 

 

「……どうしてくれんだよ。 こんなの……寝れねぇに決まってんだろうが……」

 

 

体中が燃えるように熱くなり、結局まともな睡眠がとれないのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――そして、翌日。

 

 

「さぁ、本日も敏腕メイドネプギア出陣します! 早速この券を使って、今日もお兄ちゃんに尽くしちゃいます!」

 

 

今日も今日とて、エプロンドレスに身を包んだネプギアがそこにいた。

すっかり味を占めてしまったらしく、やる気は十分だった。

 

 

「…………な・の・に…………っ!!」

 

 

が、次の瞬間青筋を浮かべてしまう。

と言うのも、その原因は目の前に広がる光景にあった。

 

 

「ご主人様ー! 今日は敏腕メイドネプ子さんがご奉仕してあげるからね~!」

 

「か、勘違いしないでよね白兄ぃ……じゃなかったご主人様! アタシの方がメイドとして凄いってところ見せたいだけだからね!」

 

「今日はわたしがお兄ちゃんのメイドになる! ネプギアちゃんばっかりズルい!(ぷんぷん)」

 

「わたしだってメイドやるー! ロムちゃんと一緒で百万馬力よ!」

 

「ラム、それを言うなら百人力よ。 ……こ、この子達が心配だから私もご奉仕……してあげるわ」

 

「ご主人様~。 お昼寝しよ~」

 

「ええい、メイドさんが増殖しおった! ってかプルルートに至っては仕事する気ナッシング!」

 

 

なんとネプテューヌを初め、白斗を想う少女達がメイド服に着込んでご奉仕しようとしていたのだ。

あろうことか、神次元のブランまで混ざっている。

ネプギアは瞬く間にぷるぷると震えだし―――。

 

 

 

 

 

「―――そんなのダメーッ!! お兄ちゃんのメイドは、私なんだからぁーっ!!!」 

 

 

 

 

 

 

想い人のメイドの座をかけての火蓋が今、切って落とされるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

続く




大変お待たせしました!
今までの番外編はネプテューヌが最後のトリを飾ることが多かったのですが、今回はネプギアがメインのお話でした。
V本編だとちょっと不憫な目に遭っていたので、こっちでは役得させてみたり。
そして今回はメイドさんのお話になりました。可愛い女の子のメイド服っていいですよね。
ご奉仕とか憧れちゃいます。
全女神の中でも最もメイド服が似合うのがネプギアかなと思って今回の話が生まれました。
うん、ネプギアが可愛すぎるのがいけないんだ。可愛いは罪にして正義である。
因みにメイド服の元ネタは……はい、中の人ネタです。気になる人はアズールレ……いや何でもない。

では今回はここまで!読んでいただきありがとうございました!
感想ご意見、お待ちしております!
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