恋次元ゲイムネプテューヌ LOVE&HEART   作:カスケード

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第六十一話 白斗だけがいない一日

プラネテューヌのとある昼下がり。

最早これが日常と言わんばかりに、執務室では白斗が大量の書類を始末していた。

書類に目を通し、サインや却下の印を押したりして仕分ける。

そんな見る者を惚れ惚れさせるような手の動きに見惚れながらも、本に座った小さな少女ことイストワールが上機嫌な笑顔で語り掛けてきた。

 

 

「凄いです白斗さん! プラネテューヌのシェアが少しずつですけど増えてますよ!(*´ω`*)」

 

「ツネミと5pb.のお蔭で宣伝が上手くいってますからね。 これで後はネプテューヌとプルルートが積極的に仕事してくれたら言うこと無しなんですケド」

 

 

書類を纏めながら、白斗はリビングで遊んでいるであろうプラネテューヌの女神様二人に苦笑いを浮かべる。

今日も今日とて彼女達はピーシェやネプギアを交えてゲームをしながら遊んでいるのだろう。その間、書類仕事はほぼすべて白斗が片付けている。

アイエフも手伝ってくれることはあるのだが、彼女は諜報員としての仕事もあるため頻度は低い。となれば白斗一人の手で片づけるしかないことも多いのだ。

 

 

「ですが……本当に大丈夫ですか白斗さん?(´・ω・)」

 

「何がッスか?」

 

「いえ、ここ最近白斗さんは働き過ぎです。 いつか倒れてしまうのではないかと(-_-;)」

 

「ま、俺はこんなデスクワークしか出来ませんから。 さて、これからラステイションとリーンボックスへ行ってきます」

 

「回答になってませんよ……。 それぞれお仕事でしたね(;^ω^)」

 

「ええ、ノワールや5pb.と打ち合わせしてきます」

 

 

当たり前、と言わんばかりに白斗はデスクから立ち上がった。

余程のことが無い限り、黒原白斗は自ら遊びに行こうとはしない。

ネプテューヌ達に尽くすことが生き甲斐と言わんばかりに仕事をしていることが多いのだ。

街に遊びに行くとすれば、それこそ少女達に付き合うという形が殆どだった。

 

 

「おっと、その前にこっちの決済やって……」

 

 

ふら。

 

 

「あー、そうだ。 ツネミのライブの手配とかもやらないと」

 

 

ふらふら。

 

 

「えーと、それから貿易関係の書類をブランに送信して……」

 

 

ふらふらふら。

 

 

「これで良し……っと危ねぇ、ギルドにクエスト完了の報告書も送らないといけない。 マーベラスもクエスト手伝ってくれてるし、追加の報告書も仕上げないと……」

 

 

ふらふらふらふらふらふらふらふらふら。

 

 

「って白斗さん!? これはもう大丈夫という域を超えてますよ!?(゚Д゚;)」

 

「大丈夫ですって、人間死ぬ気でやりゃ大抵のことは出来ますから」

 

「死んだら手遅れなんですっ!!(;>Д<)」

 

「さすがにそれくらい自己管理できますから。 あ、今日の帰りは遅くなるんですみませんが晩飯はコンパ辺りに頼んでください。 それじゃ」

 

 

イストワールの必死な叫びに取り合うこともなく、白斗は出て行ってしまった。

足取りこそしっかりしていたものの、その背中には疲労を背負っているかのように重いものを感じさせる。

 

 

「……いけませんねこれは。 仕方ありません、プルルートさん達にお灸を据える意味でもやらねばいけませんねっ<(`^´)>」

 

 

腰に手を当てて、イストワールは嘗てないやる気を見せた。

今まで肝心な実務などは白斗頼りだったが、本来女神の補佐や仕事は自分が請け負ってきたことだ。

今こそ教祖としての能力を見せる時―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから日は沈んで夕刻。

水平線に沈む夕日、そして茜色の光に染められたリーンボックスの街並みは尚も美しい。

と、茶化している場合ではない。約束の刻限に遅れないよう、白斗は全力で走っていた。

 

 

「はぁ、はぁ、ふぅ……ご、ごめん5pb.!! 待たせた!!」

 

「白斗君!? ちょっと、待たせたってまだ三十分前だよ!? 早すぎるって!!」

 

「そんな俺より前に辿り着いているお前こそ何なんだよ……」

 

 

前の仕事が思ったより長引いてしまい、予定の時刻より遅れてのリーンボックス入りとなってしまった。

無論、かなり余裕をもっての入国だったので約束の時刻には間に合っているのだが彼酔いも先に5pb.が待っていたのだからさぁ大変。

 

 

「とにかく待たせて悪かった。 この後はベールさんを交えてイベントの打ち合わせだな。 行こうか」

 

 

各国との調整役及びプラネテューヌの宣伝大臣(ネプテューヌ達が勝手に任命)を賜っている白斗の仕事の一つ。

こうして各国の女神や要人たちと様々な交渉を行い、向こうに利益を与えつつプラネテューヌが不利益を被らないように立ち回り、同時にプラネテューヌの宣伝を各国に盛り込ませるように交渉する。

5pb.も現在はリーンボックスの歌姫として神次元でも活躍している。そんな彼女にプラネテューヌとの合同イベントを催すためにベールを交えての打ち合わせの予定―――なのだが。

 

 

「……あの、白斗君っ!」

 

「えっ? ど、どうした?」

 

 

不意にレストランへと向かっていた白斗の足が止まった。

背後から伸びた5pb.の手が、白斗の手を引いていたからだ。

歌姫の綺麗な手は、ファンたちの間でも握手会でしか触れられない神聖なる手。それが彼女自ら握ってきたとなれば、白斗としても胸が高鳴ってしまう。

 

 

 

「……も、もう……こんな生活なんて捨てて……ぼ、ぼぼぼ……ボクとっ!! ボクと一緒に逃げてッ!! そ、そそそして、ふ、ふた、二人だけけけののの……はひゅう~!!!」

 

 

 

唐突に、そんなことを言ってきた。

間違いない、これは駆け落ちの時の台詞だ。だが、今時ドラマでも聞かないようなセリフでもある。

しかし、言いきれない内に5pb.は緊張が最高潮に達してしまったのか、失神してしまった。

そんな彼女を受け止めるも、を聞かされた白斗本人としては。

 

 

「………………はい?」

 

 

思い切り、首を傾げるしかないのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――それから日は昇り、日付も変わる。

さて、プラネテューヌの教会は騒がしくも楽しく穏やかないつもの朝を迎える……はずだったのだが、今日は違った。

 

 

「白斗ー! 白斗ぉー!!」

 

「白く~ん、どこ~?」

 

 

ネプテューヌとプルルートが、大声で教会内を探し回っていた。

いつもなら想い人こと白斗が優しく起こし、美味しい朝ご飯を皆で一緒に食べるはずだったのだが、今朝から白斗の姿が見えないのだ。

そのため急に寂しくなってしまった二人が、こうして探し回っているというわけである。

 

 

「あ、お姉ちゃん! お兄ちゃん、いた?」

 

「こっちはいないよ。 ぷるるんの方は?」

 

「あたしのところにもいないよ~。 白くん、どこに行っちゃったんだろ~……?」

 

 

そこに同じく捜索に向かっていたネプギアが加わる。

彼女は教会周辺を探し回っていたのだが、梨の礫である。

三人の女神が肩を落として深い深~い溜め息をついていると、ふわふわと飛ぶ可愛らしい影が一つ。

 

 

「あ、いーすんだ! おーい、いーすん~!!」

 

「いーす~ん~! 白くんがどこにいるか知らない~?」

 

 

ネプテューヌとプルルートが慌てたようにパタパタと走り込む。二人の後を、ネプギアがトコトコと着いてきた。

そんな少女達を前にやっとかと言わばんばかりにイストワールがこれ見よがしに溜め息を付くと。

 

 

「……白斗さんなら、駆け落ちしましたよ(゜_゜)」

 

「「「…………ゑ?」」」

 

 

可愛らしい姿と声に似合わぬ残酷な回答。

穏やかな朝が、一瞬にして凍り付いた。

 

 

「あ、あぁー。 あのサスペンスドラマとかで夕日の崖を背景に探偵と犯人がやり取りした後にやる奴?」

 

「それは崖落ちです。 と言うか、それだと白斗さん死んでるじゃありませんか(-_-;)」

 

「ま、まさか……お兄ちゃんが悪の道に!?」

 

「それは悪堕ち( 一一)」

 

「じゃぁ~、夢から覚めちゃうあれ~?」

 

「それは夢オチ。 じゃなくて駆け落ち、愛の逃避行とも言いますね( `ー´)ノ」

 

 

堂々と言ってのけるイストワール。

やがて三人は顔をこれ以上ないくらいに青ざめさせ。

 

 

 

「「「…………えええええええええええええぇぇぇ―――――ッッッ!!?」」」

 

 

 

この世の終わりを思わせるような叫び声を上げるのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――そして場所と時は戻り、昨日の夜のリーンボックス。

とりあえずとミーティング会場となるとあるレストランの個室。

完全個室でプライベートが約束されている、信頼のおける店。要人が会合をする際にもよく利用される店ということで白斗が予約を入れていたのだが、今回はどうやら違う用途で役だったらしい。

 

 

「……それで5pb.よ、急に駆け落ち宣言とはどうした。 それにベールさんも一枚噛んでいらっしゃるご様子で」

 

「あら、さすが白斗君。 私の弟ですわ」

 

「誰が弟か」

 

 

白斗の目の前では、悪戯っ子のような笑みを浮かべているリーンボックスの女神様がいた。

因みに5pb.は白斗の隣で顔を赤くして縮こまっている。どうやら先程の駆け落ち宣言が今になって恥ずかしくなってきたらしい。

 

 

「つれないですわ。 恋次元では私が貴方の姉なのでしょう?」

 

「確かに恋次元にいるのは俺にとっての姉、ベール姉さんですけど貴女とは別人です。 一緒にしてしまうのはお二人に失礼ですので」

 

「遠慮なんてしないでくださいまし! 何でしたら私の事はお姉ちゃんと!」

 

「そっちの方が恥ずいわ!!」

 

 

そしてこっちのベールも白斗をいたく気に入っている様子だった。

彼女からすれば時に弟の様に愛で、時に兄の様に愛でて貰え、尚且つゲームでも楽しく遊び、仕事面でもこれ以上ないくらい支えてくれるまさに最高の相方だ。

今の所、こちらのベールは恋次元のベールのように恋心を抱いているわけではないが、5pb.としては面白い話ではなかった。

 

 

「とにかく、そんなことはどうでもいいんです! 5pb.、一体どうしたよ?」

 

「あ、あの……その……あううぅぅ~っ!!」

 

 

なるべく白斗が穏やかに語り掛けてくる。

こうなってしまった5pb.は誰もが憧れる歌姫ではなく、恋に恋する乙女である。想い人の温かな眼差しと穏やかな声、そして優しい手に触れられて平気でいられるはずもない。

 

 

「そこから先は私がお答えしますわ。 実はイストワールからの要請なのです」

 

「イストワールさんからの?」

 

「ええ。 聞きましたわよ白斗君、貴方は最近ロクに休んでもいないと」

 

 

うっ、と白斗が声を詰まらせた。

仕事に出掛ける前に散々イストワールから問い詰められていたことだ。

のらりくらりと躱していたのだが、彼女は諦めておらず、こうして先手を打ってきたということらしい。

 

 

「ですから無理矢理にでも休ませてほしいという要請があったのです。 そこでリゾート地を有し、島国でレジャー施設もあり、更には最も美しい女神がいるリーンボックスが選ばれたというわけなのですわ! どやっ!」

 

(……最後の“最も美しい女神”の下りは多分イストワールさん言ってないんだろうなぁ)

 

 

ともあれ、納得のいく人選ではあった。

事実ベールは気配り上手で、体を休めるようなプランを手配してくれるだろう。

 

 

「ボクも丁度、そのお話を聞いてしまって……だから、白斗君に無理して欲しくなくて……」

 

「勢いのままさっきの宣言をしちまった、と」

 

「で、5pb.ちゃんが貴方のお世話をやりたいと言い出してきたのですわ。 アイドル活動をしてくれているお礼と、健気な想いにお応えしてお世話役を任せましたの」

 

 

そして白斗に想いを寄せる5pb.としても聞いてしまった以上見逃せるはずもない。

何せその恋心でこの神次元へと飛んできてしまったようなものなのだから。

そんな彼女の熱意に根負けし、ベールも潔く彼女をお世話役に任命したということらしい。

 

 

「そして私からはホテルなどの手配をさせて頂きますわ。 明日一日、しっかりと遊んで休むようにしてくださいな」

 

「で、でも……」

 

「費用などは心配ありませんわ。 白斗君も仕事を手伝ってくれているのですし、そのお礼という意味もあります。 プラネテューヌに関しても、あの子達にお灸を据える意味でも任せた方がいいとイストワールが仰ってますし」

 

 

あの子達、とはネプテューヌ達のことだろう。

確かにここ最近甘やかしすぎた節がある。たまには彼女達の方から仕事をしてくれないと困る。

だが、と口を挟もうとしたところで。

 

 

「……白斗君、お願い……します……。 明日一日だけ、ぼ、ぼ、ボクに……つ、付き合ってくださいッ!!」

 

 

ガチガチに震え、顔を真っ赤にさせながらも精一杯のお願いをしてくる5pb.がいた。

彼女は本来人見知りで、どちらかと言えば奥手なタイプだ。

幾ら想いをを寄せる白斗相手とは言え、いやだからこそ、こんなお願いをするのはきっと文字通り必死なのだろう。

そんな彼女の精一杯のお願いを聞かされては、白斗の心は決まってしまう。

 

 

「……ここで断っちゃ、男が廃るわな。 分かった、明日一日よろしくな5pb.」

 

「~~~~っっ!! はいッ!!!」

 

 

優しい笑みを向けられれば、5pb.に桃色の電流が流れる。

きっと今見せた笑顔は、ステージの上で咲かせるそれよりも遥かに眩しく、幸せそうなものだった。

 

 

「決まりですわね。 では貴方の名前で大体の施設やお店を押さえておきますので、好きに遊んでくださいな」

 

「すみませんベールさん、わざわざ……」

 

「いえいえっ! 弟のためのなのですから!! 可愛い弟の!!」

 

「………………こほん」

 

 

どうやらこれも白斗獲得計画の一環らしい。

咳払いはするが、それでも感謝の念は尽きなかった。

これにより、明日どの施設でも遊べるというまさに権力のなせる業。余り大仰なことはしたくないが、使うべき時にはしっかりと使わせてもらおうと心に決めた。

 

 

「そ、それじゃぁっ!! 明日を楽しく遊ぶためにも!!」

 

「今日一日はお仕事、頑張りましょうか。 ね、5pb.ちゃん?」

 

「は、はいっ!! 粉骨砕身、頑張りますっ!!」

 

 

明日一日遊ぶともなれば、その分仕事を頑張らなければならない。

意気揚々と食事を口にしながら行われる打ち合わせは、とても捗った。

そんな心地よい疲労を抱え、白斗はリーンボックスのホテルで寝泊まりするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――そして次の日。

リーンボックスは快晴。対するプラネテューヌは土砂降りらしいが、そんなことがどうでもよくなるくらいの気持ちの良い天気。

煌く太陽の下、綺麗な虹を映し出す噴水のすぐ近くに彼女はいた。

 

 

「あ。 あいつまた三十分以上早く着いてる……おーい、5pb.ー!!」

 

「あ! 白斗くーん!!」

 

 

出来るだけラフな格好で向かった先に、これまたおめかしした5pb.が立っている。

今日の彼女は白色のつばの広い帽子にワンピースと清楚なお嬢様な格好をしていた。

元より物静かな5pb.、その服装はまさに深窓の令嬢の如き可憐さと美しさとなっている。

 

 

「悪い、また待たせてしまった」

 

「い、いいよ! ボクが早過ぎただけだし! そ、それよりその……どう、かな……?」

 

「どこの大貴族のご令嬢かと思ったよ。 凄い綺麗だ」

 

「そ、そうかな!? えへへ……」

 

 

どちらかと言えばアイドルとして「可愛い」や「素晴らしい」と言った意見は良く貰う。

でも、こうして面と向かって綺麗だと言われることは少ない。増してや想い人相手なら尚更だ。

一日が始まって早々、5pb.はテンション爆上がりである。

 

 

「思えば白斗君にこんな格好見せるの初めてだね」

 

「そうだな。 恋次元じゃ知らぬ者はいない超人気アイドルだし、遊ぶにしても一々変装が必要だったもんな」

 

「そういう意味じゃ神次元に来れてよかったよ」

 

「なら、気兼ねなく遊ぶとしましょうか。 さ、お嬢様。 どちらへ向かわれます?」

 

 

そう言ってわざとおどけながらも手を差し出す白斗。

5pb.はもとより積極的に動けるタイプではない。だからこそ、白斗がリードする必要がある。

けれども彼女の望みを優先にしてあげることも忘れず。

細かな気遣いが嬉しくて、うっとりしながら5pb.は差し出された手を取る。

 

 

「だったら、早速行ってみたい場所があるんだ! こっちのベール様オススメの場所!」

 

「OK、ならまずはそこへ行こう」

 

 

そうして向かった先には、横にだだっ広い建物があった。

だが外装や内装の立派さから所謂上流階級御用達施設であることは見て取れる。

本当にここに入れるのかと白斗は恐る恐る受付に自分の名前を出してみた所、あっさりと通され、これでもかと言うくらいの手厚いもてなしを受けた。

まさにVIP待遇。慣れぬ贅沢に寧ろ戸惑いを覚えつつも、その数十分後。

 

 

「―――ぷはぁっ!! あー、気持ちいい!!」

 

「だな! いやー、さすが高級スパ! 何もかもがリッチだ」

 

 

二人は水面を突き破り、爽快感を身に浴びた。

そう、ここはリーンボックスが誇る高級スパ。議員や大会社の社長などのまさに上流階級の人間が挙って利用している。

そんな施設だけにプライベートが漏れる心配もなく、タレントなどの有名人が思う存分スパを満喫している。

ここで遊んでいることは決して漏らさない―――それが暗黙の了解である。

 

 

「んーっ、こんな風に気兼ねなく遊べるのって本当に久しぶり!」

 

「俺も割とネプテューヌ達に振り回されてっからな……って急に膨れっ面?」

 

「むー、白斗君減点です。 ボクとのデート中に他の女の子の名前を出すなんて」

 

「えッ!? あ、その、ごめんなさーい!!」

 

 

相変わらずの朴念仁で女の扱いは下手な男だった。

それでも少女を大切にしようと必死になっていることは嫌でも伝わってくるのだから、5pb.としては苦笑いせざるを得ない。

 

 

「ダーメっ。 許してほしいなら……ぼ、ボクをマッサージで気持ちよく……してくれるかな?」

 

「んグッ!?」

 

 

いつの間にか5pb.はプールサイドに設置されていたチェアに寝そべり、その背中を見せつけていた。

歌姫として磨き上げてきたシミ一つない美しい肌、そして水着越しでも分かる形の良い尻のふくらみ。何と扇情的なことだろうか。

 

 

(くああぁぁぁぁッ!! 色即是空空即是色…………!!)

 

 

白斗の常套手段発動。

羞恥が限界に達しそうになると、必死に念仏を唱えながら一心不乱に作業を行うのだ。

果たして今、海の向こうに言うネプテューヌ達はどうしているのか―――そんなことを頭の片隅に置きつつ、白斗は誠心誠意のマッサージを行うのだった。

 

 

 

「ふぁっ!? あ、あ……ああぁぁああぁ~~~~!!」

 

 

 

……悩ましい5pb.の嬌声が、リーンボックスの大空に溶けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、その頃のプラネテューヌ教会では既にイストワールが疲労でぐったりしていた。

 

 

「―――と、いうワケです。 すみません、駆け落ちはちょっと言い過ぎでした……。 でも、これで納得して頂けましたか……?(-_-;)」

 

「「「……うん、ぐすっ……」」」 

 

 

と言いつつも、涙や鼻水を啜るネプテューヌにネプギア、そしてプルルート。

いつもサボってばかりの女神二人(ネプギアは完全にとばっちりだが)にお灸を据えようと白斗が駆け落ちしたと言ったところ、三人は絶望の余り大泣きしてしまったのだ。

その凄まじい泣きっぷりにイストワールもさすがに罪悪感が天元突破、泣きじゃくる三人を必死に宥めてようやく理解してもらえたというわけだ。

 

 

「とにかく、白斗さんは最近無理をし過ぎです。 そしてその原因は間違いなくネプテューヌさんとプルルートさんにもあります。 こんな生活を続けていたら、本格的にどこかに鞍替えしてしまうかもしれませんよ?(´・ω・)」

 

「「「そんなのヤダ~~~!!!」」」

 

「ああ、もう泣かないでくださいー!! とにかく、白斗さんに愛想をつかされないためにもたまには皆さんだけで頑張ってみては如何でしょうか(=゚ω゚)ノ」

 

 

多少でも自主的に仕事をしたりすれば白斗の負担は間違いなく減る。

確かにここ最近彼に甘え捲くりだったとネプテューヌ達はしきりに反省した。

白斗との温かな日々を取り戻すためにも、ここが正念場。三人は袖を捲くってやる気を見せた。

 

 

「とーぜん! 私達だってやれば出来るってところ見せてやるんだから!」

 

「その意気だよお姉ちゃん! 私も頑張るから!」

 

「あたしも頑張る~!」

 

「やっとやる気になってくれましたか……。 これがずっと続けばいいのですが(;´д`)」

 

 

壮大な手順を経てやっと仕事に手を付けてくれるネプテューヌとプルルート。

疲労に押しつぶされそうになりながらもイストワールも補佐のために仕事に向かった。

 

 

「……時にいーすん、白斗が今どこにいるか知ってるー?」

 

「………………し、知りません(;一_一)」

 

「あ~っ! その顔は知ってる顔だ~! 白くんはどこ~!?」

 

「こんな風に暴れ出すから言いたくないんです~!(;>_<)」

 

「いーすさん、私なら暴れませんから! ……で、お兄ちゃんはどこデスカ?」

 

「ヒィィィッ!? ネプギアさんまでー!?(゚Д゚;)」

 

 

―――と思いきや一難去ってまた一難。

いつになったら仕事が始まるのかと嘆き、そして意を痛めるイストワールであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふはぁーっ。 気持ちよかったな、プール」

 

「うん! だけど、一気に疲れが溜まっちゃうね」

 

「案外全身を使うからな、アレで。 そりゃダイエットとかにも効果的なワケだわ」

 

 

それからしばらくして、二人はスパを後にした。

リーンボックスの強い日差しが降り注いでいるが、存分にプールで体を冷やしたおかげで気分は爽やか。

だが、体を動かせば当然腹も減ってくるわけで。

 

 

「昼はどうする? この分だとどこでも入り放題だし、折角だから高級レストランとかにもいってみるか?」

 

「実は恋次元でも付き合いとかで良く行ったりするから今回は良いかな。 白斗君、オススメって何かある?」

 

 

さすがはトップアイドル、付き合いとは言え存外舌は肥えているようだ。

ならばここは格式ばったものよりも、寧ろアイドルだからこそ普段いけない店がいいだろう。

 

 

「オススメ……うーん……。 なら、アイドルだと中々いけない店に行ってみるか」

 

「え、何それ楽しみ!」

 

 

どうやら何か考えが浮かんだらしい。

彼の自信満々な顔に期待を寄せる5pb.。全てを彼に委ねてエスコートをお願いする。

お洒落な路地から離れ、少しダーティーな雰囲気が漂う道へと案内される。

少しばかりの不安と、だからこそ沸き上がる好奇心。ちょっとした探検に心を躍らせていると、白斗が迷うことなく一軒の店に入る。

そこに掛けられていた暖簾を潜ると―――。

 

 

 

「へい、らっしゃっせー! カウンターへどぞー!!」

 

 

 

むわっと広がる熱気と湯気、そして溢れる匂いに店員の活気のある声。

既に席に着いている客たちは丼の麺を啜り、濃厚なスープを味わっている。

そう、ここは。

 

 

「わぁ、ラーメン屋だ! 超久しぶり!」

 

「あれ、来たことあるのか?」

 

「あのね、ボクを貴族のご令嬢か何かだと勘違いしてない? アイドル始めてから確かに中々いけてなかったけど、それまでボク一般ピープルだったんだからね?」

 

「そうだったな、悪い悪い。 まさにお嬢様な格好なものでつい」

 

 

デートとしては色気のない、だが誰もが愛する食べ物。それがラーメンである。

5pb.もアイドルになってからは中々訪れる機会がなかったので、顔を輝かせている。

どうやら最適解だったようだ。

 

 

「よっと、俺はとんこつラーメンだ。 お前はどうする?」

 

「断然塩ラーメン!」

 

「お、通だねぇ。 オヤジー、とんこつと塩! あ、とんこつはバリカタで!」

 

「はいよー!!」

 

 

カウンター席に座り込んで、それぞれ注文する。

どうやらラーメンの味には拘りがあるタイプだったらしく、注文に迷いはなかった。

因みにバリカタとは麺の硬さである。

 

 

「思えばラーメンの好みって結構分かれるけど戦争になることないよな。 なのにきのこたけのこ戦争は……」

 

「白斗君、その話題凄く危険。 下手をしたら血を見る……ぼ、ボクと白斗君が……敵対、しちゃう……」

 

「そこまでか!?」

 

「なーんて冗談冗談!」

 

「んぐ!? あ、アイドル……手強いじゃねぇの……!!」

 

 

さすがはアイドル。これまで多くのドラマにも出演してきただけあって演技力も折り紙つきだった。

頬を引きつらせながら他愛ない会話を楽しんでいると、食欲を刺激する香りと湯気を放つ丼が二つ、目の前に差し出された。

 

 

「へい、お待ちー! とんこつと塩ね!」

 

「あざッス。 んじゃ、頂きます」

 

「いただきます!」

 

 

パンと互いに手を合わせ、パキッと割り箸を割る。

そしてズルズルと麺を啜れば、喉越しの良い麺に濃厚なスープが絡み、口の中に深い味わいが広がっていく。

 

 

「ん! 美味しい! 何これ、こんなラーメン初めて!」

 

「だろ? 俺の一番のオススメだ。 この味を再現したくて割と通い詰めてるんだが、オヤジの口が堅くてな……」

 

「ったりめぇよ! スープはラーメンの味、即ち命! 麺はラーメンのコシ、即ち骨! どこに命を晒そうってバカがいるかよ!」

 

 

厨房で湯切りをしている、べらんめえ口調ながらも気のいい店主が豪快な笑顔を見せた。

白斗は悔しくてぐぬぬと歯嚙みしている。白斗も料理好きで皆に振る舞うことも多いのでこの味を何としても盗みたいらしいが、残念ながら口を割るまでには至らないらしい。

ただ、店主の言うことも尤もなので5pb.も頷いている。

 

 

「ごくっ、ごくっ……ぷはぁ! ご馳走さん!」

 

「ご馳走様でした! 美味しかった!」

 

「な、美味しかっただろ? 気に入ったら出前取ってみるといいと思うぞ」

 

「したいところだけどボクはこうして店の中で食べる方が好きなんだよね。 麺だって伸びちゃうし」

 

「そっか。 なら、出来るだけ時間を作らないとな」

 

 

ともあれ満足してもらったらしく、5pb.は破顔していた。

美味いラーメンで腹を満たしたおかげで5pb.の機嫌は最高潮だ。

 

 

「んじゃ次はどこ行こうか?」

 

「あ、ボク遊園地に行きたい! 恋次元だとロケ以外で行けないし」

 

「そうか。 なら……おおっ!? ちょ、引っ張るな!!」

 

「早く早く! 今日と言う時間が終わらない内に!」

 

「へいへい、お付き合いしますよお姫様ー!」

 

 

華奢な女の子とも思えぬ凄いパワーで引っ張り回される。

けれども、白斗はこれが性に合っていると感じながらお嬢様の我儘にどこまでも楽しんで付き合うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃プラネテューヌ教会では。

 

 

「あー……うー……」

 

「ね、ネプテューヌさん。 どうされたんですか?(^▽^;)」

 

 

妙に生気のない顔でネプテューヌが項垂れていた。

彼女のすぐそばにはサインされた書類の山が築かれている。

白斗に愛想をつかされないようにと仕事を頑張り、お昼も先程皆でカレーを食べた所だ。食後のデザートとしてプリンも食べた。

にも拘らず、ネプテューヌはすっかりやつれている。

 

 

「白斗が……白斗がいないの……」

 

「ですから、駆け落ちは冗談ですって。 第一、今までも白斗さんが別行動をすることなんてザラじゃないですか(;一_一)」

 

「違うの……。 今までは白斗が、ちゃんと帰ってきてくれるって分かってるから笑顔で送りだせたの……。 でも、今頃誰かと楽しく遊んで本当に逃避行しちゃったら……」

 

(こ、これはすごい白斗さん依存症ですね……。 仕方ありません、正直仕事の進捗としては大進歩ですし、今日はもう切り上げさせますか……(;´д`))

 

 

余りにもネプテューヌが可哀想で見ていられないとイストワールは何も言わないことにした。

せめてもの景気づけにと傍に新しいプリンを置いておく。一秒もしないうちにそれはネプテューヌの口にちゅるんと吸い込まれる。

……ちょっとしたホラーな光景だったが、ネプテューヌの気は晴れることは無い。

 

 

「し、仕方ありませんね。 ネプギアさん……(;´・ω・)」

 

「お兄ちゃん……寂しいよぉ……」

 

「こっちまで白斗さんシックに!? ってことはプルルートさんは……(; ・`д・´)」

 

「白くぅん~……どこにも行かないでぇ~……」

 

「やめてください!! そんな土砂降りの中捨てられた子犬のような顔ーっ!(; >д<)」

 

 

全員が全員、白斗欠乏症になっていた。

昨日まで白斗と楽しく過ごしていたにも拘らずだ。いや、だからかもしれない。つい先程まで当たり前のように傍にいてくれた存在が急に射なくなるかもしれないという恐怖。

それがこんなにも心を蝕んでしまうのだと。そしてそれだけ皆、白斗が大切なのだと。

 

 

(これは私の失策ですね……。 アイエフさんやコンパさんを呼び戻してお仕事手伝っていただきましょうか……トホホ(T_T))

 

 

恋の病とは良く聞くが、これでは本物の病気ではないか。

三人の余りにも辛そうな姿を見てはイストワールも強く言えず、アイエフとコンパが来るまで耐え凌ぐしかないのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――そんな阿鼻叫喚の状況を知ってか知らずか、白斗と5pb.は遊び続けた。

遊園地で人目を憚ることなく遊ぶ。まだこの世界において知名度の低い5pb.だからこそ出来る荒業だった。

コーヒーカップを勢いよく回しすぎて二人で目を回したり、ハイクオリティなお化け屋敷で二人して震え上がって、凄まじい速度が出るジェットコースターで叫びまくった。

 

 

「へへ……アトラクション楽しんでるだけでも結構疲れるモンだな……」

 

「だねぇ……。 でも、すっごく楽しい!」

 

「そうだな。 で、どうする? 閉園時間まであとちょっとあるが」

 

 

白斗が指を差した先には時計。

確かにもうすぐで閉園時間、この遊園地を出なければならない。

だが、急げばまだ何かしらのアトラクションには乗れそうだ。

 

 

「……だったら、最後に行きたいところがあるんだ」

 

「いいぜ、どこだ?」

 

「遊園地で男女が最後に乗るものと言ったらアレしかないよ!」

 

 

指を差した先には、遊園地を象徴するアトラクションがあった。

ただ乗るだけ、だが密室で男女が二人きり。しかも閉園間際で夕焼けと宵闇が混ざ士合わさった美しい空。

それらをゆっくりと堪能できるアトラクションと言えば、一つしかない。

 

 

「……観覧車か」

 

「うん。 ……ダメ?」

 

「なワケないだろ。 ご一緒させていただきますよ、姫君」

 

「くすっ。 はぁい」

 

 

そんな仕草と声をされて断れる男がいるものか。

白斗は穏やかな表情で歌姫に綺麗な手を取り、優しく観覧車までエスコートする。

ベールの手配のお蔭で特別に少しだけ閉園時間が過ぎても乗せて貰えることになった。本当に二人だけの世界が作られ、ゴンドラはゆっくりと上がっていく。

やがて見下ろせる世界は、茜と闇と綺麗な星を思わせる灯火が広がっていた。

 

 

「わぁ……! 見て見て白斗君っ! 街が凄い綺麗!!」

 

「おお……ホントだ、すげぇ綺麗! これが100万ドルの夜景って奴かね」

 

「100万度……?」

 

「ああ、ゴメン。 俺の世界の話だよ。 ドルって金の単位があってな、そんぐらい金掛けなきゃ見れないような美しい景色を言うんだ」

 

 

ついつい口走ってしまった慣用句。

時々忘れがちになるがゲイムギョウ界における金の単位はクレジットである。

だが、そんな他愛ない話もすごく楽しく感じられ、二人して笑いあう。

 

 

(……ああ、幸せだなぁ……)

 

 

ずっと、この時間が続けばいいのにと5pb.は思う。

白斗と出会って、彼に助けられて、彼の優しさに触れて、そして―――白斗に恋して。

どれだけ幸せなことだっただろうか。夢だったアイドルの仕事を守ってくれて、そして自分の「女」として部分を大事にしてくれた白斗との出会いが。

 

 

「……5pb.、今日はありがとな。 あちこち動き回ったけど、お蔭さまで楽しくてリフレッシュできたよ。 難しいだろうけど、また一緒に遊ぼうぜ」

 

 

今、白斗の目には夕日に照らされている歌姫の姿がある。

決してステージの上でも、テレビの中でも見ることが出来ない、世界でただ一人白斗にだけ見せる素敵な表情。

顔が赤く染まっているのは、きっと夕日に照らされたからだけではないだろう。

 

 

(ああ……やっぱり、ボク……白斗君の事が好きなんだなぁ……。 どうしようもないくらいに……どうにかなっちゃうくらいに……)

 

 

溢れ出す想いで鼓動が速まる。心臓が突き破ってしまいそうだ。

勢いに任せて、ここでこの想いを告げてしまおうか。

受け入れられても、拒まれても。その瞬間はきっと後悔しない―――

 

 

(……でも、ダメだよね。 こんな抜け駆けみたいなことしたら……皆は認めてくれない。 白斗君だって、悩んで苦しんじゃう)

 

 

だが、今回こうして二人きりのデートをしているのは「白斗の休養のため」なのだ。

白斗を仕事から解放したくて、もっと少年らしいことをして欲しくて。その一心で世話役を買って出たのだ。

だからこれ以上はいけない。これ以上は、ダメだ。

 

 

「? どうしたよ?」

 

「なーんでもない。 白斗君の朴念仁っ♪」

 

「はぁ?」

 

 

本当にどこまでも女の子の心の機微に疎い少年だ。

でも、そんな欠点だって魅力の一つだ。誰が何と言おうと、彼の近くにいたい。

だから、彼を独り占めできるこの時間が愛おしかった。

 

 

「そうだ。 白斗君、今日ホテルで泊まるんだよね?」

 

「ああ。 昨日からそこに世話になってる」

 

「……ボクも、一緒にお泊り……したい、なぁ……」

 

「…………What!?」

 

 

潤んだ瞳で、とんでもないことを提案してきたのだった。

結局その日の晩飯はどこかで外食などもせず、ルームサービスに任せるという形で5pb.は白斗が宿泊する部屋へと転がり込んだ。

本来一人で借りている部屋に他人が寝泊まりするなど問題行為なのだが、そこはベールの手配が効いたのか、あっさりと通してくれた。末恐ろしい。

 

 

「白斗君、このお肉美味しいよ! は、はい、あーん…………!!」

 

「凄い顔を赤くして腕をプルプルさせないでくれるかな!? 食いづらいわ!!」

 

 

部屋に戻れば隔絶された空間であることをいいことにあの手この手で5pb.が誘惑してくる。

しかし、積極的な割には凄まじく緊張している。

大方ベール辺りから口説き方でも伝授されてそれを実行に移しているところか。

 

 

「な、何だったらワインのボトル空けちゃう!? お酌するよ!?」

 

「マジでそれはやめとけ!! アイドルを密室に連れ込んで酒飲ませるとか完全に悪徳プロデューサーの手口だから!! 俺もう二度とお天道様拝めなくなるから!!」

 

「もう似たようなものじゃない? ここまでボクを連れ込んでおいて」

 

「お前が転がり込んだんだからな!? でも、それを拒絶できなかった俺は結局か……」

 

 

性犯罪者になるつもりはなかったが、今この場を押さえられたら言い訳のしようがない。

例え事に及んでいようがいまいが、今の白斗は立派な犯罪者だった。

そんな彼の姿が少し面白くて、小悪魔ような笑みを浮かべて耳元で囁く。

 

 

「それとも……二人で堕ちていく?」

 

「駄目だ。 お前は日向にいてこそだ」

 

 

5pb.は何もかも白斗に捧げるだけの覚悟はある。だが、白斗はそれを良しとしなかった。

そのために彼女の人生を棒に振らせるつもりはさらさらない。

もし白斗のために彼女がとんでもないことをするつもりでいるなら、それよりも先に縁を切ってでも彼女を日向に残す。

誰が相手でも、白斗は常にその覚悟を持っていた。

 

 

「だったら白斗君も一緒じゃなきゃダメだよ。 それとお酒の件は嘘だから」

 

「……ホント、凄い演技力だこと」

 

「はい、正真正銘のジュース。 ボクこの味好きなんだ」

 

「どれどれ……。 おお、優しい口当たりだな」

 

 

今度は疑うことなくグラスに注がれた美しい色合いの液体を口にする。

ほのかな甘みと優しい口当たりが広がり、心を解してくれた。

美味しい料理に舌鼓を打ち、時には軽い会話を肴にして、あっという間に並べられた皿は綺麗になった。

 

 

「ご馳走様! ホテルの料理も馬鹿に出来ないな」

 

「ボクは割とこういう晩御飯の日々になりがちだけどね」

 

「お、アイドルらしいな今の発言」

 

 

こうして話しているとアイドル生活の裏事情とかも時々聞けたりする。

ライブに出たり、彼女の仕事を手伝ったりは時たまする白斗だったが生のアイドルがどんな生活を送っているのかは実に興味深い話なのだ。

と、会話が盛り上がってきたところでバスルームから「お湯が張れました」と実に機械的に、実に事務的な報告が飛んでくる。

 

 

「……5pb.、先に風呂入ってくれ」

 

「…………あ、あのっ!」

 

「言っておくが『お背中お流しします』はNGだ! 酒以上にマズイ!!」

 

「…………………………ぅー」

 

 

こんな状況、何度も経験してきたらさすがに鈍感だの朴念仁だの言われ続けてきた白斗でも先読みできる。

最大級の地雷を回避しつつ、けれども5pb.からの未練がましい視線を浴びながらもなんとか崩壊する理性を押さえつけ、彼女を風呂場に向かわせた。

 

 

「……あ、あがった……よ?」

 

「お、おう……んじゃ俺も入ってくるわ……」

 

 

湯上りの5pb.の姿は―――とても美しかった。

綺麗な肌が火照っており少し赤みが出ている。下ろされた髪に潤んだ瞳、そして纏われた湯気。

以前ツネミの家にお邪魔した時も彼女の風呂上り姿を見たことがあるが、それとはまた別ベクトルの美しさである。

 

 

(だあああああああああッ!! どうして俺の周りの女の子はもっとこう、自分を大切にしないのかな!? こちとら傷つけないよう必死に理性を押さえているというのに!!!)

 

 

―――そして度重なる女の子との接触で白斗の鉄壁と言われた理性にもガタが見え始めていた。

シャワーを浴びながらも頭を冷やして気持ちを落ち着け、白斗も短パンにタンクトップ一枚と楽な格好になった。

 

 

(わぁ……白斗君の風呂上り姿……! 細身だけど逞しい……。 傷だらけなのは“そういうこと”なんだろうけど……でも、ワイルドだなぁ……)

 

 

うっとりと白斗の肉体美を眺めている歌姫だった。

因みに白斗が入浴している間にホテルの従業員が訪れたのか、夕食は綺麗に片付けられていた。

 

 

「……そ、それで……もう、寝るか?」

 

「そんな勿体ないよ!! まだまだ夜はこれから、フィーバータイム!!!」

 

「ははは、5pb.ってば意外にやんちゃだな」

 

 

水滴をタオルで拭きながら白斗は椅子にどっかりと座り込む。

髪もドライヤーで乾かし、歯磨きもし終え、後残すは。

 

 

「……そ、そうだ白斗君っ!!」

 

「ん? なんじゃらほい」

 

「み、み、み!」

 

「…………ミミズ?」

 

「違うっ!」

 

「じゃぁ寝耳に水?」

 

「そうじゃなくてっ!! ……み、耳掃除……して、あげるっ!」

 

 

顔を真っ赤にしながらも必死に叫ぶ5pb.。

クリアに聞こえる歌姫の声が、すっと脳内にしみこみ、

 

 

「……は!? み、耳そう……ま、待て!! 俺の耳には水もミミズも溜まってないぞ!!」

 

「まだ引っ張るのそれ!? じゃなくてボクがしてあげたいの! だから早く膝枕されて!」

 

「それこそ寝耳に水なんだが!? ってか力強っ……うおぉぉっ!?」

 

 

余りの気恥ずかしさに白斗が混乱していると痺れを切らした5pb.が白い腕を伸ばし、彼の手を引いてきた。

華奢な女の子とはとても思えないパワーで白斗をベッドに寝かし、すかさず自身の膝を、彼の頭の下になるよう滑り込ませる。

 

 

「そ、それじゃ耳掃除するから……じっとしてて、ね?」

 

「……もう、好きにしてください……」

 

 

膝枕と言うシチュエーション自体は過去数度あったが、耳掃除してもらったことは一度もない。

なので白斗も生返事を返すのがやっとである。

出来れば過剰に動いているこの心臓の駆動音が届かないようにと祈りながら、白斗は歌姫の耳掃除を受け入れる。

 

 

「し、失礼します!! ……乾坤一擲……!!」

 

「待って!! 全てを賭けないで!? そんな勢いよくやったら俺の鼓膜突き抜ける!!」

 

「ハッ!? ご、ごめんね!! それじゃ改めて……」

 

 

5pb.も当然こんなシチュエーションなど初めてであり、心臓は既にバックンバックンとうるさく鳴り響いている。

それが男の人、それも好きな相手ならば尚更だ。

思わず狂いそうになる手元と思考を押さえ、改めて耳掃除に臨む。

 

 

(あ、何これ……太もも柔らけぇし……手付きが、気持ちいい……)

 

 

さて、された側の心境としてはまさに天にも昇る心地だ。

歌姫の太ももはとても綺麗で、尚且つ柔らかい。極上の柔らかさと言っても過言ではないのだ。

どこまでも自分を優しく包み込み、解してくれる。そんな柔らかさだった。

更には頭に乗せられた手や耳に入り込む耳かきの何と優しいことか。思わず意識が微睡んでしまいそうだ。

 

 

「……ふふっ、実は憧れだったんだ。 こうやって大切な人の耳掃除してあげるのが」

 

「……そっか、そりゃ良かったな」

 

 

5pb.も膝や手を通じて感じる白斗の感触に心を躍らせていた。

いつも自分を助けてくれて、守ってくれて、こんなにも幸せにしてくれる人が自分の膝の上で、優しい顔をして耳かきを受けている。

こんなシチュエーション、恋する乙女としては幸せ以外の何だというのか。

 

 

「わ、結構出てくるね」

 

「これでも体のケアには結構気を使ってる方なんだけどな。 元職業柄」

 

「そう言う自虐ジョークはしないでいいのっ。 ……ふふ」

 

「ホントご機嫌だな、5pb.」

 

「うん! ボク、今までで一番幸せかも……」

 

「……なら俺、5pb.を幸せに出来てるってことなのかね」

 

「そうだよ。 今日だけじゃない、初めて出会って、リーンボックスで助けてくれて、それからも一緒に色んな事したりして……ずっと、ずっと。 ボク、幸せだったんだよ」

 

 

耳掃除をしながらも5pb.は今までの思い出を振り返る。

初めて出会ったのはラステイション。そこで不良に絡まれたと思いきや、颯爽と助けてくれた。

更にはその後リーンボックスで再会、ストーカー事件も解決してくれた。そこから恋心を自覚して、それからも色んな思い出を作って、その想いは益々強まった。

誰が何と言おうと、この気持ちは変わらない、

 

 

「ララ~ラ~♪ ラララ~……」

 

「……ふぁ、ヤバ……。 そんな優しい歌聞かされたら眠くなっちまう……」

 

「寝てていいよ。 今回は白斗君の休日なんだし」

 

「そうか? ……そうかもな」

 

 

上機嫌の余り、5pb.が即興の歌を奏でた。

歌詞もない単なる歌声だったが、彼女の想いが優しい歌声となって白斗に届く。

歌姫としてエネルギッシュな曲だけでなく、こうして心を癒してくれる優しい歌まで披露してくれる彼女は間違いなく歌姫だ。

そんな歌声を間近で聞かされては白斗も思わず眠気が刺激されてしまう。

 

 

「……実は俺も幸せだ。 こうして耳掃除してもらうなんて今までなかったから」

 

「だったら、今度からもっと他人に甘えてね。 ボクじゃなくても、ネプテューヌ様達がいるんだし、皆白斗君を助けたいって願ってるから。 いつも、いつまでも」

 

「はは、そりゃありがたいな」

 

「だから白斗君も無理なんかしないで。 ネプテューヌ様達だってちゃんと言えばお仕事してくれる……確率は上がると思うんだ」

 

「そこで『確率』とか『上がると思う』と言われる辺りが悲しいッス」

 

 

とは言え、今頃教会ではネプテューヌ達も参っていることだろう。

イストワールの目的であるお灸を据えることも達成され、明日からは少しくらいは仕事してくれるはずだと白斗も僅かながら期待を寄せる。僅かながら。

 

 

「でも、白斗君に無理をさせたくないって絶対に願ってる。 だから白斗君も気負い過ぎず、少しくらい力抜こうよ。 今日みたいにサボったりしたっていいんだし」

 

「そうだな。 今度は『こんな生活棄てて、ボクと一緒に逃げて』って誘うとするよ」

 

「はうぅぅっ!? そ、それ昨日のボクの台詞ー!!」

 

「ははは、ゴメンゴメン」

 

 

ちょっとからかうと、凄くオーバーなリアクションで返してくれる。

それが面白くてつい笑ってしまう。

5pb.も少しむくれたが、再び奏でられた子守唄の前にとうとう瞼が重くなってしまった。

尚も耳かきの手付きは優しい。今までの疲労も相まって、いよいよ眠気は限界だ。

 

 

「…………ぐー……すー…………」

 

「あれ? 白斗君……寝ちゃった? ……ふふ、可愛い寝顔♪」

 

 

安らかな寝息が聞こえてきたので歌も耳かきも止める。

普段、女神の付き人として常に気を張っている少年が滅多に見せない寝顔に5pb.は胸をときめかせた。

 

 

「そうだ。 今度、子守唄風の曲でも作ってみようかな。 でも、今は……」

 

 

白斗が寝てしまえば、つられて5pb.にも眠気が訪れる。

常にアイドルとして歌って踊って演技もしてと常に体も神経も使い、今日とてリーンボックスのあちこちを回りながら遊んだのだ。

疲れも湧いて出てくるというもの、5pb.はリモコンで部屋の明かりを消し、白斗を抱きながらベッドに横たわった。

 

 

「明日はどちらが起きるのが先かな? ボク……だったら嬉しいな……」

 

 

白斗の寝顔はめったに見られるものではないが、同時にアイドルの寝顔も滅多に見せるものではない。

彼が早起きすれば、自分の気の抜けた寝顔が目撃されてしまうだろう。でも、それはそれでいいかもしれないと5pb.は嬉しそうに微笑む。

 

 

「……おやすみなさい。 ボクの……大好きな、白斗君……」

 

 

きゅっと優しく、想い人の頭を抱きしめる。

いつまでもこんな日々が続くようにと願いながら。続かないのなら、またこんなことが出来ますようにと願いながら。

歌姫の安らかな寝息と、少年の寝息が重なり合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――翌日。

 

 

「うう、結局寝顔見られちゃった……」

 

「早起きで俺に勝つなんて百年早い。 ま、俺も寝顔を見られたんだしお相子ってことで」

 

 

結果は白斗の勝ちだった。

疲れていたとはいえ、生活リズムを整えているのだから目覚ましなど仕掛けなくても早起きしてしまう。

結果、一時間くらいたっぷりと寝顔を見られた挙句コーヒーまで用意されていた。

 

 

「と、ところで寝顔とか……写メしちゃった?」

 

「してないけど?」

 

「してよ!! そこはしっかりと保存してロックも掛けてよ!!」

 

「何で怒られるの!?」

 

 

実に難しきは乙女心なり。

 

 

「それで白斗君、もう……帰っちゃうの?」

 

「いや、ベールさんに一言挨拶してからだ。 あの人にも世話になっちゃったし」

 

「そうだね! それじゃ……」

 

 

まだ、白斗と一緒に過ごせる。まだ彼との一時は終わらない。

それを知るだけで5pb.は眠気も吹き飛んでテンションマックスだ。今日の運勢など見ずとも気分も機運も最高潮。

朝食がてらどこでデートしようか―――と幸せな妄想に浸ろうとしたその時。

 

 

「「「うわああああああああああああん!!!」」」

 

「「へ!?」」

 

 

小柄な影が三つ、ドアを突き破って白斗に突撃してきた。

三人分の重さを受けてはさすがの白斗も踏ん張れるはずもなくベッドへと倒れ込んでしまう。

可愛らしい泣き声と共に抱き着いてきた影の正体は。

 

 

「ね、ネプテューヌにネプギア!?」

 

「それにプルルート様まで……!?」

 

 

そう、プラネテューヌの女神様三人だった。

どこから白斗の居場所を聞きつけたのか、脇目もふらずにこちらへと突撃したらしい。

公共施設の中でなんと迷惑なことか、と思ったが泣きじゃくる女の子三人を見ては邪険に扱うなんてとても出来なかった。

 

 

「うわあぁぁ~ん! ごめんね白斗ぉ!! ネプ子さん比較的良い子になるから! だから、駆け落ちなんてしないでぇ~~~!!」

 

「私も! 私ももっとお兄ちゃんの力になるから! だから、だから~!!」

 

「白く~ん!! もうどこにも行かないでぇぇぇ~~~!!!」

 

「お、落ち着いて!! ホントに悪かった、もう勝手に出て行ったりしないって!!」

 

 

大粒の涙を滂沱のように流しては白斗の胸元にすり寄る少女達。

ここまで本気で泣かれては寧ろ白斗の方に罪悪感が湧いてしまう。

さて、こうなると分かっていながらこの三人に情報提供したのは誰なのか―――犯人は、ドアの向こう側から申し訳なさそうにこちらを覗いている女神が一人。

 

 

「ベール様……バラしちゃったんですね」

 

「も、申し訳ありません。 今朝突撃されたと思ったら本気で泣き始めるものですから……」

 

 

5pb.が苦笑いで見つめる先には心の底から頭を下げているベールがいた。

何しろ、白斗の休日を手配した人物なのだから彼の居所は知って当然といえる。ただベールに辿り着くまで時間が掛かったらしく、それで今朝になって突撃してきたということらしい。

確かにこんなにも泣かれては、素直に吐くしかないだろう。

 

 

「……こりゃ、今日一日は」

 

「皆のご機嫌取りに費やさないと、だね」

 

 

白斗と5pb.は互いに見合わせて苦笑い。

まずはこの泣きじゃくる女の子達をどう宥めようか―――そんなことを考え合っている間も、不思議と笑みが漏れる。

結局のところ、白斗に静かな一日など無理なのだ。何せ周りにはこんなにも姦しく、それでいて可愛らしい女の子達でいっぱいなのだから。

 

 

 

(……でも、昨日の白斗君はボクだけのものなんだからね♪ ふふっ♪)

 

 

 

そして昨日までのあらゆる思い出が詰まった携帯電話をそっと胸に抱く5pb.なのであった。

―――後日、彼女が出した新曲「ボクだけの☆Holiday」は神次元を代表するほどの曲として広まったという。

 

 

 

 

 

 

続く




サブタイの元ネタ「ぼくだけがいない街」。

大変お待たせいたしました。ということで白斗と5pb.ちゃんが駆け落ち気味デートするお話でした。楽しんでいただけたら幸いです。
極度の人見知りということで有名な5pb.さんですが一度勢いづくと結構グイグイくるんじゃないかなって思っています。慣れた相手には積極的に誘ってきますし。
これまで多くのデート話を書いてきたのでどう魅せようかなと悩んだ結果、敢えて王道のデートと言う形にしてみました。
そしてデートの定番こと遊園地と耳かき。ギャルゲーだったら一枚絵ついてますね。
そういう意味では5pb.ちゃんは結構ストレートに書ける子だなと思っています。奇をてらう必要のない良い子です。

さて、次回はツネミさんとマベちゃんを巻き込んでネプ子達が女子力修行!? まぁ、きっととんでもないことになってしまうんでしょうね。
次回もお楽しみに! 感想ご意見、お待ちしております!
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