恋次元ゲイムネプテューヌ LOVE&HEART   作:カスケード

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第六十二話 うわっ、私の女子力…低すぎ…!?

午前七時半。ここは神次元プラネテューヌの女神ことプルルートの部屋。

国家元首たる女神ともなれば、こんな時間からでもバッチリ目を覚まして仕事をする―――はずもなく、彼女は安らかな寝息を立てていた。

 

 

「すぴぴ~……すよよ~……」

 

 

なんと柔らかく、それでいて幸せそうな寝息なのだろうか。

顔もまさに女神の寝顔と言うべき可憐さと美しさ。無暗に手を出すこと自体が罪と言わんばかりの幸せそうな寝顔。

―――なのだが、だからと言って白斗はいつまでもこのままにしておけるはずもなかった。

 

 

「おーい、プルルート起きろー。 朝メシ出来たぞー」

 

「うぅ~ん……おきてる~……。 zzz……」

 

「はいはい起きてない起きてない。 まずは顔を洗いましょうか」

 

 

やはり朝が弱いプルルート。未だに寝ぼけ眼で起きる様子がない。

けれども既に朝食は用意しているし、食卓には皆が集まっている。

朝食も皆も待たせるわけにはいかない。白斗は水に濡れた手拭いを取り出すと、プルルートの顔を優しく洗ってあげる。

 

 

「わぷぷ……! もぉ~、冷たいよぉ白く~ん」

 

「でも綺麗になった。 うんうん、プルルートには綺麗な顔が一番だ」

 

「う!? うぅ~……」

 

 

しかし、いの一番にそんな言葉を掛けられてはときめいてしまうというもの。

ボッ、と赤くなった彼女にも気付かず白斗はカーテンを開け放って部屋を朝日で満たす。

 

 

「ほら着替えた着替えた。 朝飯冷えちまうぞ」

 

「わ、分かったからお部屋から出てよ~!」

 

「ん? ああ、ゴメンゴメン。 それじゃ、また後でなー」

 

「もぉ~……」

 

 

などと赤くなった顔を毛布で隠しながらもプルルートは着替えた。

足元に置かれたスリッパを履いてパタパタとダイニングルームへ向かう。

 

 

「あ、ぷるるんおはよー」

 

「プルルート様、おはようございます」

 

「ぷるちゃん、おはようです!」

 

「みんな~、おはよ~」

 

 

食卓には既にネプテューヌやアイエフ、そしてコンパが着いていた。

反対側の席にはイストワールとピーシェ、ネプギアがいる。

 

 

「お兄ちゃん、手伝うよ。 最近働き過ぎってことで駆け落ち騒動があったんだし」

 

「いや、あれは……まぁいい。 ならフォークとナイフを配ってくれ」

 

「ぴぃも! ぴぃもてつだうー!」

 

「お、良い子だなピーシェ。 ならピーシェはこのお皿を持っていってくれ。 危ないから転ばないようにな」

 

「はーい!」

 

 

今日の朝食担当は白斗。相変わらずの働き者だとプルルートは感心するが、そうこうしている間にネプギアとピーシェが手伝いを申し出てきた。

白斗はピーシェの頭を撫でつつ、二人に配膳の手伝いをお願いする。

些細なことだが、二人にちゃんと仕事を与えつつ、それでいてちびっ子であるピーシェを褒めて、尚且つ的確な仕事を割り振っている。

 

 

「……白くんって、いいお母さんになれるよね~」

 

「その褒め言葉は嬉しくねぇ……」

 

「じゃあ家政婦さん~」

 

「まず俺を男だって認識してください……。 ほい、ベーコンエッグおまちどおさん」

 

 

苦笑いしながらも、白斗は焼き立てのベーコンエッグが盛られた皿を配っていく。

カリカリに焼かれ、しっかりと味付けされたベーコンに加え目玉焼きは絶妙な半熟。料理上手のコンパも一目置く腕前だからこそできる芸当だった。

更に白斗特製のオニオンスープも配られ、たち込める匂いが食欲を刺激する。

 

 

「ん~! このスープ、美味しい~!」

 

「えへへ、私白斗のオニオンスープ大好きなんだよね~! これがあると今日一日頑張れるって感じなの!」

 

「ネプテューヌさんはそう言ってお仕事しないことが殆どじゃないですか……。 でも、白斗さんの料理は私も大好きです!(*‘∀‘)」

 

「こ、このままじゃ……私の、私の鉄のお茶がピンチですぅ~~~!!」

 

「いやコンパよ、だからそれはアイデンティティーな? アイアンティーにすんなよ?」

 

 

こんなにも笑顔に囲まれた朝食は中々お目に掛かれない光景だ。

その輪の一員となれていることに白斗はふと幸せを感じてしまう。

 

 

「ご馳走様でした。 毎度毎度ありがとね、白斗」

 

「お粗末様でした。 アイエフ、食器はシンクに置いてくれ。 後で纏めて洗うから」

 

「洗い物なら私がやるわよ? 白斗に家事押し付けるのも悪いし」

 

「いいって、趣味みたいなモンだから」

 

「ホントに白斗ってワーカーホリックよねぇ……」

 

 

食事を用意したのなら後片付けまでしないと気が済まない性分。

これをワーカーホリックと言わずして何と言おう。

白斗自身苦にもならないので特に気にする素振りを見せることもなくテキパキと食器を洗い、布巾で水分を拭き取って綺麗にしていく。

 

 

「まぁ、昔っからこういうのやらされてきたからな」

 

「それって恋次元の話? ネプ子ってば、白斗に押し付けてばっかりなんじゃないの?」

 

「いや、恋次元に来る更に前の話だから気にしないでくれ」

 

 

ついつい過去を愚痴ってしまいそうになる。

だが、気持ちのいい話ではないため慌てて飲み込んだ。昔の生活に比べれば、今の生活の何と幸せなことか。

だが、それでも白斗には気掛かりというべきか、心残りが一つあった。

 

 

(……ホントは、この輪の中に姉さんも入って欲しかったんだけどな)

 

 

姉さん、それは恋次元で待っているベールの事ではなく、正真正銘血のつながった彼の姉、黒原香澄のことである。

過去極めて重い心臓病を患い、父親の保身に走る余り杜撰な対応をしたことで今も尚昏睡状態に陥ってしまっている。

突然ゲイムギョウ界に飛んできてしまったために姉に一言掛けることすら出来ないままだったが、手に入れた情報によれば彼女もまた自分に暴虐を働いたあの父親と一緒に恋次元に飛んでいるという。

いつかは彼女を探し出し、ゲイムギョウ界の技術を以て姉を治療し、そしてこの笑顔溢れる空間で共に過ごしたい―――それが白斗の望みの一つだった。

 

 

「……そうだ。 今日の昼飯はカルボナーラにするかな」

 

「え、お昼ご飯まで作るつもりなの? 少しは休んだら?」

 

「ありがとう。 でも何だか食べたくなったし……作りたくなったんだ」

 

「作りたく……? ……そう、分かったわ」

 

 

料理を食べたくて作るのは分かるが、作りたいから作るというのは正直神次元のアイエフには分からなかった。

けれども、理由自体があるのは何となく察せた。だから、昼食も白斗に任せることにしたのである。

 

 

「さて、仕事仕事……」

 

「はいアウト―! 白斗しばらく仕事禁止令言い渡されてるでしょー!!」

 

「うお、急に沸くなよネプテューヌ!? 仕方ない、なら掃除くらいはしておくか」

 

「え? なんで掃除?」

 

「ツネミとマーベラスが遊びに来るんだ。 さっき急にオフになったらしくてさ。 だから少しくらい綺麗にしとかないと」

 

 

そう言ってツネミとマーベラスからのメッセージを見せる。事実のようだ。

そしてこの教会は元気なちびっ子ことピーシェは勿論、割とネプテューヌやプルルートがはしゃいで物を散らかすことが多い。

来客を気持ちよく迎えるためにも掃除は急務と言える。

 

 

「ピーシェ、使った玩具はちゃんと箱にしまおうな? それと本もちゃんと本棚へ、んで掃除機で埃を吸い取ってから雑巾で水拭き。 お米のとぎ汁を使うとより綺麗に。 んで窓は新聞紙で拭くことでピッカピカ。 それからそれから……」

 

 

玩具や本の整理整頓から始まり、掃除機、雑巾がけ、窓ふき等々。

これまたテキパキという効果音が聞こえんばかりに白斗は手際よく掃除を進める。

米のとぎ汁や新聞紙を使うことでインクの脂などがコーティングの役割を果たすという生活の豆知識をフル活用している辺り、かなりの掃除上手である。

 

 

「わ~! 床も窓もピカピカ~!」

 

「ふう、綺麗な家の方が気持ちがいいな。 ってネプギア、肘の部分が少しほつれてるぞ」

 

「え? あ、ホントだ!」

 

 

掃除に使った道具を片付けていると白斗が目敏くネプギアの肘部分のほつれを見つけた。

お洒落に気を遣う女の子としてはこのほつれはいただけない。

 

 

「貸してくれ。 この程度だったら修繕できる」

 

「え、お兄ちゃんお裁縫出来たの?」

 

「元の世界でもやってたし、こっちに来てからもプルルートからちょこちょこ教わってるんだぜ」

 

「そうなんだ! じゃあ、また後で渡すね」

 

「おう。 さて、そろそろ昼食とデザートの下拵えと参りますかねーっと」

 

 

どうやら裁縫技術も身に着けたらしい。

となれば白斗に頼まない理由など無い。さすがに今この場で脱いで渡したくないので後で手渡すと約束してネプギアは部屋へと戻っていった。

しかし、肝心の裁縫の師匠であるプルルートは不満を頬に詰め込ませて思い切りむくれていた。

 

 

「むむむ~っ! 白くん~、お裁縫だったらあたしだって出来るもん~!」

 

「プルルートはその前に寝ちまうだろ」

 

「……………………………そ、そんなことないもん~」

 

「はい、今たっぷり空いた間が動かぬ証拠です。 これにて閉廷」

 

 

ズバッと正論を切り込まれ、プルルートはぐうの音も出なくなってしまった。

裁縫の腕前で言えばプルルートの方が上である。だが、彼女はモチベーションの高低が激しく、モチベーションが低い時は仕事が非常に遅いスロースターターだ。

何故か白斗関連のことになれば割と早く手を付けてくれるのだが。

 

 

「おじゃましまーす!」

 

「ネプテューヌ様、プルルート様、そして白斗さん。 お邪魔します」

 

「お、マーベラスにツネミ。 いらっしゃい」

 

 

そうこうしているうちに本日のゲストことツネミとマーベラスがやってきた。

マーベラスは相変わらずの明るい笑顔で、そしてツネミは表情に乏しいながらもしっかりとお辞儀する。

そんな二人も、白斗の顔を見るや否や更なる笑顔を見せてきた。

 

 

「さて、今日は俺の得意料理ことカルボナーラだ。 しっかり味わってくれよ」

 

「わぁ……! いい匂い~!」

 

「カルボナーラ……確か白斗さんのお姉さんの大好物でしたね」

 

「お、良く覚えてるなツネミ。 だからこそ味に自信ありだぜ」

 

 

白斗のカルボナーラを初めて目の当たりにするマーベラスとツネミは大喜びだ。

そして白斗にとってカルボナーラとは今は離れ離れになっている大切な姉のために頑張って覚えた料理。

言い方は少し語弊があるかもしれないが、白斗にとって思い出の料理であり姉の形見みたいなものである。

 

 

「白斗のカルボナーラ、いつ食べても美味しい~!」

 

「ん~! お口の中がハッピーだよ~!」

 

「味も舌触りも最高! 何杯でも食べちゃいたい!」

 

「……ですが、卵にチーズ、そして炭水化物……これ以上食べたら、カロリーが……!」

 

 

ネプテューヌ達も加え、皆でカルボナーラを啜る。

パスタに絡みつくチーズと卵のクリームソースが濃厚かつ奥深い味わいを口いっぱいに広げてくれる。

誰もが美味しいといってくれるのだが、ツネミは食事量をセーブしている。アイドルとして体型維持は義務、カルボナーラはまさにカロリーの塊なのだから臆するのも無理もない。

 

 

「はっはっは、遠慮なく食え食えー。 そして肥え太れー」

 

「白斗さんチーズをちらつかせないでください! そんな悪魔の誘惑しないでくださーいっ!」

 

 

そこへ白斗が追加用のチーズと、それを削るための器具を手にした。

ただでさえ美味しいカルボナーラに、削ったチーズを追加する―――それだけでどれだけ美味しく、同時にカロリーが追加されてしまうのか。

余りもの悪役じみた所業にツネミは涙目、そしてそんな彼女が面白おかしくてネプテューヌ達はついつい笑ってしまうのだった。

さて美味しく、それでいて楽しい昼食の時間は終わりを迎える。

 

 

「うおりゃー! ネプ子さんの超絶テクを食らえマベちゃん!」

 

「っく! この、ネプちゃんのバージルは良く動く……!」

 

「お姉ちゃんファイト~!」

 

「マーベラスさん、諦めないでください! ワンツー、ワンツーです!」

 

 

そして昼食を食べ終えればゲーム大会の時間。

このゲイムギョウ界においては日常の光景である。やはりと言うべきかネプテューヌの腕前が群を抜いており、しかし中々どうして、マーベラス達もしっかり食らいついている。

白熱した試合が刻一刻と進む中、壁に掛けられていた時計がボーンとレトロな音を奏でる。三時のおやつの時間だ。

 

 

「ほーい、デザートおまちどおさん。 今日は俺の本気、宇宙パフェだ!」

 

「宇宙パフェって……わ!? 何これ!? 凄い綺麗~!」

 

 

白斗がお盆に入れて運んだのは大ボリュームのパフェだった。

大部分は宇宙をイメージした青色のゼリーで、ソーダ味らしい。最下層部分は地表の山をイメージしたゼリー、上に行けば行く程宇宙の青が濃くなる仕様だ。

星の瞬きを表現するために食用の緊迫みたいなものを散らし、月をイメージしたアイスも乗せられていると、まさに贅沢を突き詰めた一品。見た目も綺麗で、女の子達はすっかり釘付けだ。

 

 

「ホントはフォンダンショコラにするかどうか迷ったけどな。 折角だから凝ってみた」

 

「え、名前からして難しそう」

 

「ところがどっこい、超簡単。 チョコレートと小麦粉とバターと卵を混ぜて焼くだけなのだ」

 

「え、名前に反してメチャ簡単」

 

「ただ、カロリーもえげつないからな。 こっちはごてもりだけどカロリーも控えめにしてあるぜ」

 

「え、何その気遣い」

 

 

ネプテューヌも軽く驚きつつ全員がパフェを口にする。

ゼリーの甘さ自体は控えめだったが、生クリームやチョコ、アイスなどのトッピングが絡み合い口の中に甘い宇宙が広がっていった。

 

 

「ほわぁ~! 美味しい~!」

 

「見た目も綺麗だし、もう最高! あ、これ写メってユニちゃんに自慢しちゃおうかな♪」

 

「コンパちゃんのデザートも美味しいけど、白斗君のお菓子って結構凝った感じだよね。 それがまた最高なんだけど」

 

「白斗さん、私今度スイーツ紹介の番組に出るので一緒に出演してください」

 

「おいおい、そんな口々に言われたって分からないって」

 

 

誰が言った言葉だったか、女の子は甘いもので出来ている。実際その言葉通り、女神達は白斗のスイーツを口にしては目をハートマークにして喜んでいる。

幸せそうな女の子の姿に白斗も釣られて笑った。

 

 

「ごちそーさま! ぴぃ、おそとであそんでくるー!」

 

「待てピーシェ、一人だと危ないぞ。 俺も行く」

 

「えぇー? 白斗も私達と一緒にゲーム大会しよーよー」

 

「ピーシェ放っておけないだろ? それについでに食材も買ってこようかなと」

 

 

ゲームには興味なかったのか、ピーシェが外で遊ぶと言い出した。

だが、幼い子供を一人で行かせるのは忍びないと白斗も同行を申し出た。ついでに買い出しにも向かうつもりらしい。

するとマーベラスが目を輝かせて鋭く手を上げた。

 

 

「だったら白斗君、私ついていくよ!」

 

「ついてくるのは構わないけどなマーベラス、ピーシェにも付き合えってことだぞ?」

 

「…………………き、今日は大人しく皆と遊んでまーす……」

 

「懸命だ。 まぁ、晩飯までには戻ってくるから」

 

 

後ろでぐるんぐるんと腕を振り回しているピーシェを見て、すごすごと引き下がったマーベラス。

何せピーシェは女神顔負けのパワーを誇る幼女なのだ。遊びとは言え、全力でじゃれてこられようものなら、女の子の華奢な体などあっという間にへし折れてしまうだろう。

―――とは少し言い過ぎかもしれないが、ピーシェを御せる白斗ならばその心配もない。

 

 

「やったーっ! おにーちゃんとおでかけだー!」

 

「おいおい、はしゃぎすぎるなって。 ホラ、逸れないように手を繋いで行こうな」

 

「わーい! ぴぃね、ねぷのぷりんほしい!」

 

「ピーシェは口を開けばプリンしか言わないよな、ホント」

 

「ちがうよー。 ねぷのぷりんだよー!」

 

「ははは、ゴメンゴメン。 それじゃ兄ちゃんの言うことしっかり聞いたらご褒美に買ってあげよう」

 

「うんっ! ぴぃ、いいこにするっ!」

 

 

軽い掛け合いをしながら手を繋いで出掛ける二人の姿は、兄妹を通り越して親子のようだ。

誰もが微笑ましく思いながら送り出した―――のだが。

 

 

「…………」

 

「ん? ツネミ、どったの?」

 

 

ツネミは白斗の姿が見えなくなった途端、物憂げな表情になるアイドルが一人。

始めは白斗がいなくなって寂しくなったのかと思いきや、そうではない。

寂しいというよりも考え込んでいるという感じだった。訝しんだネプテューヌが、友人の顔を覗き込む。

 

 

「いえ……白斗さんって、女子力の塊だなと思いまして……」

 

「あー、確かに料理も洗濯も上手だし」

 

「お裁縫もあたしから習ってるし~」

 

「ピーシェちゃんみたいな小さな子の扱いも上手いし」

 

「何より女装すると可愛いし!」

 

「「「「うんうん」」」」

 

 

乙女たち五人が頷く。

常に他人を気遣い、的確なフォローをしてくれる他、サボり魔の巣窟となっているこの教会において白斗が家事を担当することが多い。

ピーシェにロムとラムと言ったちびっ子達にも懐かれており、そして女装すれば一気に可憐となる。

本人が聞いたら拗ねるだろうが、確かに女子力に溢れていた。

 

 

「おまけに一度攫われるというヒロイン属性も獲得してるし……白斗ヤベェ……」

 

「……で、そこで思い当たったんです。 じゃぁ、私達は? って……」

 

「ぇ……」

 

 

そしてツネミが告げた質問。

白斗には女子力がある。だが、自分達にはどうなのか。

 

 

「……お、お料理ならそこそこ」

 

「あ、あたしだってお裁縫できるもん~!」

 

「わ、私だって家事とかそこそこ出来ますっ!」

 

「……でも、白斗君と比べると……」

 

 

そう、彼女達は決して何もできないわけではない。

だが肝心なところを白斗に押し付けっぱなしで、その道を究めているかと言えば答えはNO。

白斗に比べると―――それが齎す結論、それは。

 

 

 

「「「「「……うわっ、私の女子力……低すぎ……!?」」」」」

 

 

 

―――きっと今の彼女達は、ガラスの仮面で覆い隠さないといけないようなショッキングな顔つきになっていることだろう。

さぁっと青ざめた乙女たち、次の瞬間には烈火を瞳に宿した。

 

 

「こ、こうしちゃいられない! 白斗と新婚生活を送ることになったとしても、白斗ばっかりに家事を押し付けるような女の子になるわけにはっ!」

 

「お姉ちゃん、さり気なくお兄ちゃんと結婚する前提で話を進めないでね?」

 

「け、結婚はともかく……あたしだってやればできる女なんだから~!」

 

 

ネプテューヌのアホの子発言はともかく、一同が危機感を抱く。

いや、実際の所ネプテューヌとプルルートに至っては色々白斗に押し付けては食っちゃ寝の自堕落な日々を過ごしていたのだが。

 

 

「こうしてはいられないね! 皆、ここは一時休戦! 協力し合わなきゃ!」

 

「ですね。 私達全員で花嫁修業……もとい女子力修行をしましょう!」

 

「「「おおぉぉ―――っ!!」」」

 

 

拳を天高くつき上げる乙女たち。

仕事など放りだす女神も、恋に恋すれば壮絶なやる気を見せる。

隠して乙女たちによる女子力修行が今、幕を開けたのであった。

 

 

 

 

 

 

STEP.1 お裁縫を覚えよう! 講師プルルートさん

 

 

「お裁縫と言えばあたし~。 みんな~、針と糸は持った~?」

 

 

意気揚々と針と布を手にするプルルート。守りたい笑顔とはこのことだろうか。

普段は眠たげな彼女も趣味の裁縫とあればやる気を漲らせている。白斗のための女子力修行と言えば尚更だ。

 

 

「持ったよぷるるん。 で、近くに綿もあるけど?」

 

「今日はシンプルにクッション作ってみよ~」

 

「あ、いいですね。 簡単にできますし」

 

 

どうやら今日は練習がてら皆でクッションを作ってみようということらしい。

布を縫い合わせて袋状にした後、綿を詰めて後は最後に縫い合わせるだけ。

確かに裁縫の入門編としては適している。なるほどとネプギアも手を合わせて納得した。

 

 

「それじゃ~、あたしがお手本やるから見ててね~?」

 

 

と、プルルートが見せた手捌きは―――鮮やかかつ迅速だった。

普段のんびりした口調と緩慢な動作から想像も出来ないような手つきで、布と布を縫い合わせていく。

綿も詰め、最後にしっかりと縫えばクッションの出来上がりだ。

 

 

「ぷ、ぷるちゃん……相変わらずお裁縫になると凄い腕前だね……」

 

「もうぷるるんなんて気安く呼べないよ……ぷるるん大先生だよ!」

 

「ネプテューヌ様、それ結局言ってますから……」

 

 

ともあれ、普段見せることのないプルルートの得意分野に誰もが拍手を送っている。

実際彼女が抱えているクッションは雑な部分が一切見受けられない。綿の詰め方も完璧で、これのために500クレジットを出してもいいと思えるほどの出来栄えである。

褒め殺しの応酬にプルルートも可愛らしく鼻息を鳴らしてドヤ顔を浮かべ、胸を逸らして得意げにしている。

 

 

「えっへん~! じゃあ、みんなもやってみてね~」

 

((((……いや、あの。 今の手付きが早過ぎて全然分かんないんですが……))))

 

 

普段がのんびりしているだけに、いざその手並みを見せられると目で追うのも大変である。

裁縫こそプロ顔負けの腕前だが、それを他人に伝えるのは難しい。そして他人がそれを理解するのも相当な苦労を要する。

 

 

「痛ぁーッ! 指やっちゃったぁ……」

 

「あはは、ネプちゃんドジっ子ー。 その点私はンギャ――――ッ!?」

 

「ひゃんッ! 私もやっちゃいましたぁ……痛ぁい……」

 

「あぅッ!? 痛っ! きゃんッ! ひぃぃぃんッ!!」

 

「……ツネミは一旦落ち着こうか、うん」

 

「あわわ~! 大変~~~!!」

 

 

その懸念は大当たり、誰もが針を指に突き刺してしまう。

特に経験のないツネミは大苦戦で事あるごとに悲痛な声を上げる。

慌てて回復術を使えるプルルートが皆に治療を施して事なきを得た―――のだが。

 

 

「疲れちゃった~……。 おやすみ~……」

 

「「「「待たんかい」」」」

 

 

さすがに回復術を使い過ぎた故に疲労が溜まってプルルートが寝始めてしまった。

何とか起こすも、今の彼女達では裁縫を極めるのは難しいと悟る。

 

 

「……さ、裁縫は……ホラ! 緊急性が少ないじゃん? だから時間はある、これからゆっくり学んでいけばいいんだよ!」

 

「そ、そうだね! お姉ちゃんの言う通りだよ!」

 

 

ネプ姉妹の言葉にツネミとマーベラスも全力で頷いた。

尚、あったらあったらで役に立ち、無かったら無かったらで困るスキル。それが裁縫である。

やがて彼女達もいつかそれを知る時が来るのだが、それはまた別のお話。

 

 

 

 

 

 

STEP.2 美味しいお菓子を作ってみよう! 講師コンパさん

 

 

「わ、私ですか? 正直最近、白斗さんの登場でアイデンティーが崩壊しそうです……」

 

「お願いこんぱ! こんぱしか頼れないの!」

 

「コンパちゃん~、お願い~!」

 

「後コンパさん、惜しいです! アイデンティティーです!」

 

 

講師を頼まれた少女、神次元のコンパは正直やる気―――というよりも気乗りがしなさそうに見えた。

どうも最近、料理の腕で自分と双璧を成す白斗の存在に拗ねているらしい。

アイデンティティーが崩壊しそうになる、その葛藤は理解出来なくもないがそれでも彼女にしか襲われないと誠心誠意頭を下げて頼み込む一同。

 

 

「ほ……ホント、です……?」

 

「ホントだよ! コンパちゃんのお菓子だって美味しいじゃん!」

 

「そうです。 白斗さんのお菓子も、コンパさんのお菓子も、それぞれ違った良さがあるんです。 ですから無理に比べて自分を卑下する必要なんて皆無なんです」

 

「そーそー。 白斗は凝った感じだけどこんぱのは皆が安心して食べられるって言うか、優しい味だし私は大好きだよ。 こんぱの味!」

 

「ねぷねぷ……みんな……! 大好きですぅ~~~!!」

 

 

そう、白斗が率先して働くだけでコンパの腕前とて一級品なのだ。

表裏のない温かな言葉にコンパは感極まって大粒の涙を流してしまう。

一頻り涙を流せば、代わりに溢れてくるのはやる気。今のコンパは燃えていた。

 

 

「そう言うことならコンパにお任せです! それで始める前に皆さん、お菓子作りで一番大切なことって分かりますか?」

 

 

張り切ってレクチャーをするコンパ。

ここにいる少女達はネプギア以外、料理経験こそあれどお菓子作りはそこまで経験がなかったはず。

とりあえずどこまで理解しているのか、プルルートとツネミ、そしてネプテューヌが張り切って答える

 

 

「愛情~」

 

「ど、努力?」

 

「勝利!」

 

「寝言は寝ていってほしいです♪」

 

「ねぷっ!? こんぱが辛辣な発言を!? これは間違いなくぷるるん譲り……!」

 

「ねぷちゃん酷~い!! あたしの所為なんかじゃないもん~!!」

 

(いや、間違いなくプルちゃんの影響だよ……)

 

 

コンパは笑顔でバッサリ切り捨てた。

こちらの世界のコンパはプルルートによって幼少期から育てられてきた。育ての親である彼女の影響を色濃く受けてしまうのは当然だと、マーベラスも頷いた。

……決して口には出さなかったが。

 

 

「はい! 正解は、ちゃんとレシピ通りに作ることです!」

 

「ギアちゃん正解です!」

 

「え? そんなこと?」

 

「そんなことじゃないんです! とっても重要なんです!」

 

 

ネプギアが手を上げて、ハキハキと正解を述べる。

さすがにお菓子作りを経験しているネプギアには簡単な問題だった。

 

 

「お料理みたいに勝手なアレンジを加えたりすると失敗しちゃうです。 だからレシピ通りに作らないとダメなんです」

 

「逆に言えばレシピ通りに作れば、誰にでも出来る……ということですか?」

 

「ツネミさん、大正解です! だからみんなもすぐに出来るようになるです!」

 

 

余計なことをせず、何もかもを忠実にやり遂げる。

一見簡単に見えて難しい。けれどもそれをやるだけで誰でも美味しく出来上がる。

それがお菓子作りの魅力の一つでもあった。

 

 

「それじゃ、今回はパンケーキを作ってみるです!」

 

「おー、みんな大好きパンケーキ! 生地捏ねて焼くだけ、お手軽ですなー」

 

「ふっふっふ、甘いですよねぷねぷ。 パンケーキよりも甘いです。 そしてお菓子作りは甘くないんです」

 

「へ? どういうこと?」

 

「パンケーキは火が強すぎても弱すぎてもダメ。 シンプルな分、繊細さが必要なスイーツなんです。 だからこそ、お菓子作りの入門にピッタリなんです!」

 

 

確かに生地を作って焼くだけのパンケーキ。しかし、それを美味しくふっくらに焼き上げたいならばレシピ通りに忠実に作る必要がある。

お菓子作りの基礎を学ぶ上でも確かに適しているといえよう。

 

 

「それじゃ始めるです まずは小麦粉と砂糖、ベーキングパウダーをよく混ぜ混ぜしてー」

 

「混ぜ混ぜ~」

 

「そこに溶き卵と牛乳を入れて粉っぽさが無くなるまで混ぜ混ぜするです!」

 

「混ぜ混ぜその2~」

 

「それで、出来上がった生地を少しだけ寝かせてー」

 

「ぐーすくかぴー」

 

「最後にその生地をフライパンで焼いて、完成です!」

 

「マジで簡単!」

 

 

ここまでの手順を流れるように熟すコンパ。

緩い口調とは裏腹に手付きはキビキビとしていて、見る者を惹きこませる。

やはり料理上手なだけあってお菓子作りも一級品。彼女が手掛ければ、お菓子作りが本当に簡単に見えてしまいそうであった。

 

 

「ではぷるちゃん達もやってみるです!」

 

「りょ~か~い!」

 

 

コンパがこれだけ簡単そうにしてみせているのだから、きっと自分達にも出来る。

お菓子作り未経験なプルルート達も張り切って準備に取り掛かった。

各々が生地作りに差し掛かる中、一際手際のよい者がいた。

 

 

「ギアちゃん、上手です!」

 

「えへへ、恋次元でも時々お姉ちゃんにプリンとか作ってあげてましたから」

 

 

安定と信頼のネプギアだった。

元より真面目で素直な彼女にとってお菓子作りにおける「基本を忠実に守る」こととは相性が良く、大好きなネプテューヌの笑顔も見られるということでネプギアもよく作っていたのである。

本人曰く、「別の世界に姉が飛んでいった時、向こう側にいた声が私に似ているメイドさん(CV:堀江由衣)にプリンの作り方を伝授した」とかなんとか。

 

 

「私も完成~! マベちゃん特製パンケーキ! では試食……ってあれ? なんだかコンパちゃんのと食感が違う……。 なんていうか、未熟感半端ない……」

 

「マベちゃんのは焼き上げるのが早過ぎです。 ツネミさんのは逆に焼き過ぎです」

 

「うう……火加減が難しいです……。 コンパさんと同じだったはずなのに……」

 

「生地の厚さで焼き加減も違ってきますから」

 

 

ふんわりとした話し方が特徴のコンパも、得意分野ともなれば流暢になるというもの。

キビキビと指導していくその姿は、とても生き生きとしていた。

 

 

「こんぱー。 私のはー?」

 

「ねぷねぷ、いい感じです! 後はひっくり返すだけです」

 

「ひっくり返すか……そう言えば白斗、フライ返し使わないでひっくり返せてたなー」

 

「確かに、お兄ちゃんってフライパン振るだけで綺麗に裏返せてたよね。 こんな風に」

 

 

一方二人の失敗から学んだネプテューヌは絶妙な火加減でパンケーキの片面を焼くことに成功する。

ネプギアのものと合わせ、後は裏返すだけである。

しかし、女子力を高めようという意識からか、はたまた白斗絵の対抗意識か。ネプギアが調子に乗ってフライ返しを使わずにフライパンを振って裏返そうとする。

 

 

 

―――ところで画面の前の皆さんは覚えているだろうか。このネプギア、第五十八話で「うっかり属性」なるものを手に入れてしまったことに。

 

 

 

 

「って、あああっ!? 私のパンケーキがっ!?」

 

 

 

そう、火加減は上手くいっても力加減を誤ってしまったのだ。

よって空中へ放り出された熱々のパンケーキは華麗に宙を舞いながら、大好きなお姉ちゃんことネプテューヌの頭へ。

 

 

「あぢゃぢゃぢゃああああああああああああッ!!?」

 

「わ~!? ねぷちゃんの頭にパンケーキが~!?」

 

「た、大変ですぅ!! お、お水でねぷねぷを冷やさないと……きゃああぁぁ~~~!?」

 

「今度はコンパちゃんが転んじゃった~!?」

 

 

一度トラブルが発生するとさぁ大変、まるで連鎖するかのように今度はコンパが慌てだしてしまった。

そして冷静さを欠いた状態で行動を起こしたのがまずかった。何かに躓いて転んでしまい、そのまま近くに置いてあった小麦粉やベーキングパウダーを盛大にひっくり返してしまう。

 

 

「けほけほっ! こ、コンパさん落ち着いて……!!」

 

「た、大変大変ッ! えーと、こういう時は……風遁の術、最大出力ッ!」

 

「マーベラスさんダメですッ! こんなところで最大出力だなんてひゃあああ~~~!!?」

 

 

今度は粉を吹き飛ばそうとマーベラスが慌てて忍術で風を巻き起こす。

しかし、彼女も存外パニクっていた。出力調整を誤り、まるで暴風のような風が発生してしまったのだ。

厨房の何もかもを巻き込む嵐が止むのは数十秒の事だったが、それだけの時間があれば厨房の様子がどうなっているのか―――語るまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

STEP.3 掃除が出来る女になろう! 講師アイエフちゃん

 

 

「……で、この惨状をどうにかするために私が呼ばれた、と」

 

 

痛む頭を押さえつつ、アイエフは辺りを見回した。

粉で真っ白になった床、床の上で崩れ落ちたパンケーキの生地、そしてマーベラスの忍術で吹き散らされた数々の器具。

ありとあらゆる惨劇を引き起こした張本人ことネプテューヌ達は服を盛大に汚しながら床の上に正座していた。無論コンパもである。

 

 

「あいちゃん、ごめんなさいですぅ……」

 

「気にしないでいいのよコンパ。 いいわ、折角の機会だしネプ子達にお掃除の仕方を教えてあげる! 大丈夫、誰が今までプルルート様を育ててきたと思ってるの!」

 

「アイエフちゃん酷い~! 私が育ててきたんだよ~!?」

 

 

確かに彼女が幼少期の頃はプルルートが育ての親だった。

だが、いざ成長すればのんびり屋さんのプルルートをお世話してあげるのはしっかり者のアイエフらしいといえばらしかった。

ありありと浮かぶその光景にネプテューヌ達はただただ苦笑いするしかない。

 

 

「とにかく! 私が掃除のコツとか教えてあげるから! ネプ子達もそれでいいわね?」

 

「「「「オネシャス!」」」」

 

「返事だけは一丁前ね……。 それじゃ始める前に一言。 余計なことはするな、以上」

 

 

そもそもこの惨劇も余計なことをしたことが発端である。

ネプギアを始め、皆が「うっ」と言葉を詰まらせた。

 

 

「まずはこの粉を何とかしましょう。 本当だったら掃除機で吸いたいんだけど、小物とかも散らかってるから箒で掃くわよ」

 

 

さすがに手慣れたもので、まずアイエフはゴミとして出せない器具や皿などを搔き集め、次に箒を手に華麗に粉やらゴミやらを掃除する。

力加減も絶妙で粉が舞い上がらないように優しく掃いていた。

ある程度掃き終えたら今度は水に濡れた雑巾で床を磨けばアイエフが担当したエリアはピカピカの輝きを放っている。

 

 

「おおー! さすがあいちゃん!」

 

「感心してないでネプ子達もやるの。 分からないことがあったら必ず呼んで頂戴」

 

「「「「はーい」」」」

 

「本当に返事だけは一丁前ね……」

 

 

呆れながらもアイエフの指導は的確かつ熱心だった。

ここまで惨劇続きだったので彼女もあらゆる事故の可能性を見逃さず、つぶさにフォローを入れてくれるのだ。

 

 

「ネプギア、そんなに力まなくていいわ。 プルルート様は逆に力抜き過ぎです! ……ってマベちゃん!? その洗剤は床に使っちゃダメ!! ツネミも慌てなくていいから!」

 

 

……こんな具合である。

そんな彼女の懇切丁寧な指導を受けているものだから、皆も自然とコツを掴めてくる。

プロ並み、とは程遠いが少なくとも素人臭さは抜け、それぞれの持ち場が眩い輝きを放っている。

 

 

「わぁ~! ピカピカ~!」

 

「スッキリしましたね。 やはり綺麗なお部屋が一番です」

 

「そしてトラブルもなく解決! さすがあいちゃんです!」

 

「さすがに私はコンパと同じ轍は踏まないわよ。 ……にしたも、何だって急に家事なんてやりたいって言いだしたの?」

 

 

緊張の糸が切れたらしく、どっかりとソファに座り込むアイエフ。

辛うじて無事だったパンケーキを報酬として差し出せば彼女もさすがにご機嫌だ。

美味しそうにコンパ特製パンケーキを頬張る中、ふと湧いてきた疑問を投げかけてみる。

すると誰もが顔を赤らめて「あー」だの「うー」だの言いながら指やら髪の毛やらを弄っていた。

 

 

「実はですね……かくかくしかじかです」

 

「なるほど、女子力修行ねぇ……。 ネプ子達はともかく、プルルート様まで……」

 

「な、何~? あたしが女子力上げたらいけないの~?」

 

「いえ、そうではなくて……あのプルルート様が男のためにって考えたら何だか感慨深いなぁって思っちゃって」

 

 

これでも幼い頃から家族としてプルルートを見続けてきたアイエフだ。

彼女の身近な人間は全て女性だったし、教会の職員や国民と話をすることはあっても男女の仲にまで発展することなんて全くなかった。

要するに男の影なんて微塵もなかったのだ。だからこそ、そんな彼女がこれほどまでに男の―――白斗のために頑張ろうとしているのが意外なのである。

 

 

「いつでもマイペースなプルルート様で三度のご飯よりお昼寝な人でしたからまさかここまで男に夢中になるなんて思わなくて」

 

「う!? うぅ~……いじめないでよアイエフちゃん~!」

 

「イヤでーす。 いつもしてやられてるお返しですー」

 

「……アイエフちゃ~ん~……? あたし~……変身していいかな~?」

 

「ひッ!? ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

 

「ねぷっ!? あいちゃんが大変なことに!!」

 

 

プルルートの意外な弱点が出来てアイエフは嬉しそうである。

……まぁ、こうしてやりすぎてはプルルートから威圧されるまでがお約束なのだが。

はてさて、こうして空気も切り替わったところでネプテューヌが前々から募らせていた疑問をぶつけてくる。

 

 

「あ、あの……さ。 ぷるるん……一つ聞いていいかな?」

 

「ねぷちゃん、どうしたの~?」

 

「前々から聞こうと思ってたんだけど……ぷるるんって、白斗のこと―――」

 

 

そう、ネプテューヌが聞きたいのはプルルートの、白斗に対する気持ちの正体だった。

プルルートは白斗に対しては割と直球に甘えてくる。だが、それが友達としてなのか、或いは女の子としての恋なのか、それが判別つかないのだ。

友達としてこの機に聞いておきたい。そんな緊張の一幕は。

 

 

「ただいまー。 悪いな遅れて、今夜はすき焼きだ!」

 

「ぴぃ、すきやきはじめてー!!」

 

「「「「「ひゃああああああああぁぁぁぁ――――――っっっ!!?」」」」」

 

 

―――当事者の登場によって唐突に幕切れとなった。ならざるを得なかった。

しかも驚きの余り、ネプギアやらマーベラスやらがひっくり返ってしまい、折角片付けた厨房の器具やらがまた盛大に散乱する。

 

 

「どぉぅわぁ!? お前ら、暴れるなって……あああ!! 部屋が滅茶苦茶に!?」

 

「ちょっと!? 折角片付けたのに台無しじゃないのー!! 白斗の馬鹿ッ!!」

 

「俺の所為か!!?」

 

「白斗君の所為だよっ!!」

 

「そうです! 白斗さんはもっとタイミングというものを考えてくださいっ!!」

 

「今この上なく理不尽なことを言われたんですけど!?」

 

 

アイエフのみならずマーベラスやツネミからも謂れのない説教を受けてしまい、白斗としてはただただ涙目である。

かくして白斗も加わって再び片付けが行われ、皆ですき焼きにありつけたのは数時間後の事。

胃はとっくに限界を迎え、色々疲労が溜まったおかげで正直楽しい食卓とは言えなかった。

 

 

(……ねぷちゃん、何を言いかけたんだろ~……?)

 

 

その最中、プルルートはふとネプテューヌに訊ねられたことを思い返していた。

「白斗の事」、と聞かされ頬が赤く染まる。

いつもそうなのだ。白斗の名前が出る度、心臓が一際大きく跳ねる。けれども、心の内はいつもぽかぽかしていて、それは幸せな鼓動で―――。

 

 

「ご馳走様でした。 さて、風呂入れてくるよ」

 

「は、白斗さん。 今日は私がお掃除しますっ」

 

「……ツネミよ、申し出てくれるのは有難いのだがキミ達は本日前科持ちだということを忘れていないかね?」

 

「………………お、汚名返上して見せますっ!」

 

「汚名挽回しなきゃいいけどな……。 わかった、なら頼む」

 

 

少し緊張した面持ちでツネミが風呂場の掃除を買って出てきた。

正直白斗としては不安だったのだが、ここはツネミを信じてあげようと彼女に汚名返上の機会を与えることにした。

ツネミが嬉しそうに、それでいて気合を入れて握り拳を作る中、ネプテューヌ達は羨ましそうにツネミを見つめている。

 

 

「はい、お任せくださいっ! それと、風呂が湧いたら白斗さんから先にお入りください」

 

「いいって。 レディーファーストで……」

 

「白斗君、こういう時は素直に受けておくものだよ。 変な気を遣わなくていいから」

 

「そうです! 遠慮されるのはつらいんです!」

 

 

マーベラスやネプギアからも同意見が飛んできた。

こうなれば断るとより面倒な状況になるのは既に学んでいる。

 

 

「……なら、お言葉に甘えさせていただきますか。 アイエフとコンパもいいか?」

 

「ええ、白斗、いつも苦労してるんだもの。 気兼ねしないで頂戴」

 

「白斗さん、私達に遠慮してシャワーだけ浴びちゃダメですよ?」

 

「ははは、見抜かれてら。 それじゃお言葉に甘えますかねっと」

 

 

アイエフとコンパも特に気にした様子はなく、白斗に一番風呂を譲ってくれる。

ならば遠慮することは無いと白斗は先に自室に戻って準備を使用としてきた矢先。

腰の辺りに可愛らしい握力を感じた。

 

 

「おにーちゃん! ぴぃといっしょにはいろ!」

 

「んぇッ!? ぴ、ピーシェ! 女の子がそんなこと言っちゃダメだかんな!?」

 

「そうだよピー子! 白斗は私と入るの!」

 

「ネプテューヌも何言ってんだ!? 入るワケねぇだろ!?」

 

「えー? 前、お風呂であんなことやこんなことまでしたのに……」

 

「捏造すんな!? あん時はマーベラスも一緒だったろ……って殺気ッ!?」

 

 

マーベラスと一緒に入った、その一言でとある人物から凄まじい威圧感が漏れ出る。

白斗に恋する乙女にしてこの中でまだ白斗と混浴経験がないツネミだった。

 

 

「……白斗さん、私がお背中お流しして差し上げますね♪」

 

「つ、ツネミさん!? ダメです! あなたアイドルなんですから!!」

 

「この際知ったことではありません。 私だけそんなことしていないなんて、そんなの……」

 

「変なマウント取ろうとすんな! 女の子なんだからもっと自分を大切にしなさい!」

 

「白斗さんは大切にしすぎる余り、踏み込んでくれないんですっ!」

 

「踏み込み方が斜め上過ぎんだろ!? とにかく、風呂湧いたなら呼んでくれ!!」

 

 

これ以上話を続けると危ない。色々危ない。

美少女たちと過ごし続けていい加減学んできた白斗は離しを無理矢理に打ち切り部屋に籠ってしまった。

ツネミは大層不服だ。目に涙を、頬に不満を溜めている。

―――そして、もう一人。

 

 

 

(む…………むむむぅぅぅ~~~っ!!!)

 

 

 

ここにもいたのだ。まだ、白斗とそんなイベントを体験していない女の子が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ツネミの気配は……ネプテューヌ達の部屋か。 ちょっと声も聞こえてくる……多分総出で押さえてるんだろうなぁ……」

 

 

その後、ツネミから連絡をもらって白斗は一番風呂を堪能することにした。

いつも風呂の順番を最後にしている白斗ので一番風呂を頂けるのは稀有にして新鮮である。

一方でツネミの気迫から彼女が突撃してくるのではと白斗は持ち前の気配察知能力でツネミの居所を探ったが、どうやらネプテューヌ達によって阻止されているらしかった。

 

 

……因みに以下は、その部屋での会話を抜粋したものである。

 

 

『ネプテューヌ様、お放しください! 皆さんだけずるいです! 私だって、私だって……!』

 

『それを理由にしてみすみす恋敵に塩を送れるネプ子さんじゃないんだなーコレがー』

 

『そうだよ! 第一ツネミちゃんだって割とずるいじゃない!』

 

『ですですっ! お兄ちゃんって割とツネミさんに甘いし、ツネミさんだってアイドルならではのスタイルでよくくっついてます! 混浴くらいしなくたって充分ですっ!』

 

『………………そ、そんなことは』

 

『はい今どもったー! 皆の衆、ツネミを拘束せよー!!』

 

『ひゃ、ひゃあああああぁぁぁぁ~~~~~!!?』

 

 

―――この後、くんずほぐれつの艶めかしい光景が繰り広げられたとかなんとか。

さて、そこまで知る由もない白斗は気兼ねすることなく風呂場で背を伸ばし、体を洗おうとした―――その時。

 

 

「―――ッ!! 何奴!!」

 

 

慌てて振り返った、風呂場の扉。

向こう側に気配を感じたのだ。湯気と擦りガラスで姿は見えないが―――誰かがいる。

まさか、ツネミがネプテューヌ達を振り切って辿り着いたのだろうか。

 

 

『うふふっ、さすが白くんねぇ。 あたしに気付いてくれるなんて、運命を感じちゃうわぁ』

 

「へ? そ、その声……!?」

 

 

その声、その呼び方、その気配。

教会の中でその条件を満たす人物は一人しかいない。

“彼女”は白斗に許可を取るまでもなく堂々と扉を開けてきた。

 

 

「お邪魔しまぁ~す。 って、あらぁ? これから体を洗おうとしているのぉ? ……ふふっ、グッドタイミングって奴よねぇ?」

 

「ぷ、プルルートぉ――――――っっっ!!?」

 

 

そう、この教会の主にして女神ことプルルート。

だがいつもと違うのはまず女神化してアイリスハートとなっていることだった。

しかも、いつもの露出の高いボンテージ風のプロセッサユニットではなく、バスタオル一枚というこの上なく男の劣情を煽るものだった。

 

 

「さぁ~て、ここからはあたしの時間よぉ。 白くんにあたしの、とっておきの女子力というものを見せてア・ゲ・ル♪」

 

「女子力とかなんのこっちゃ!? ってか待て待て待てェ!!」

 

「待たないわよぉ! 男なら覚悟を決めなさぁい!!」

 

 

相手は見目麗しき女性とは言え女神様。

速度や力で敵うはずもなく、抵抗空しく白斗は座らされてしまうのであった。

 

 

 

 

 

STEP.EX ご奉仕してあげよう! 受講者:アイリスハートさん

 

 

 

 

「へぇ……これが白くんの背中……。 な、中々ワイルドじゃなぁい」

 

「……今一瞬どもらなかった?」

 

「き、気の所為よぉ。 それより、やっとあたしがお背中お流ししてあげられるのねぇ!」

 

 

いつもは余裕たっぷりなアイリスハート。

だが、彼女は何故か白斗が関わればその余裕が少しだけ崩れてしまう。

その姿は妖艶な女神様から、可愛らしい女の子に戻ってしまったようで―――否、断じて否。

いつもぽやぽやしているものの、他人に舐められることは大嫌いなアイリスハート様である。

そう、これはいつも余裕そうにしていて、それでいて自分の心を幸せに掻き乱してくれる少年に一泡吹かせたいだけなのだ。きっとそうなのだ。

 

 

「……なぁ、プルルート。 どうしてそこまでするんだ? 皆への対抗心ってだけでこんなことをしたら―――」

 

「そんな軽い気持ちじゃないわよ! ……軽い、気持ちじゃ……」

 

 

それだけは断言できる。

幾ら親しいだけでは、皆への対抗心だけでは、ここまで大胆な行動はしない。

それだけ白斗に対する想いは大きいのだ。―――何に大きいのだ?

 

 

「い、いいから黙ってあたしのご奉仕を受けなさぁい! 女神様からのご奉仕なんて、一生かかっても受けられやしないんだからぁ」

 

「うっ!? せ、背中に極上の柔らかさが……ッ!?」

 

 

むにゅん、と極上の音を響かせて白斗の背中にアイリスハートの巨乳が押し当てられる。

ネプテューヌとは違う張り、柔らかさ。彼女とは違ったベクトルで、女神様の乳である。

機械仕掛けの心臓がいきなり激しい光を吹き上がらせている。正直、この一幕だけで心臓の耐用年数が一気に削られたことだろう。

 

 

「サ、サービスよ。 さ・ぁ・び・すぅ♪」

 

「サービスってここはそういう風呂屋じゃねぇぞ!?」

 

「いいからいいからぁ。 それじゃ次は背中を流してあげるわねぇ」

 

 

さすがにプルルートも羞恥で心臓が脈打っている。だがそれ以上に温かで幸せな想いが、心臓を突き動かしてもいた。

ネプテューヌ達が白斗と一緒に入りたがる訳が良く分かる。

なればこそ、彼のこの逞しい背中を流してあげなければ。

 

 

「ど~ぉ? 痛くないかしらぁ?」

 

「あ、ああ……力加減が絶妙だ。 上手いなプルルート」

 

「でしょぉ? アイエフちゃんやコンパちゃん、ピーシェちゃんのお世話だってしてあげてたんだから当然よぉ」

 

「あ~、なるほどな」

 

 

嘗ては幼子だったアイエフ達を世話してきたのはこのプルルート。

赤ん坊であれば一人で風呂に入ることも出来ない。となれば彼女達の体を洗ってあげることだって当然あった。

小さな女の子達を壊さないように手加減必要もあったのだから、上手くもなるというものだ。

 

 

「それにしても凄い傷ねぇ……話には聞いてたけど……」

 

「まぁ、昔のやんちゃが原因だからな」

 

「隠さなくていいのよ。 ねぷちゃん達から大体聞いてるから」

 

 

プルルートも既に白斗の過去は大まかにだが知っている。

聞いていて気持ちのいい内容では無かったので白斗も特に話すこともないと決めていたのだが、白斗の事を良く知りたいプルルートが方々聞いて回ったのだ。

 

 

「……あたしは白くんの過去を見たわけではないから何とも言えないけど……一つだけ言えるのはね。 “この傷”なんかであたしはあなたを嫌ったりしない。 それだけよ」

 

「……それな、俺にとっての一番の殺し文句なんだぜ?」

 

「あははっ! 殺し屋さんに殺し文句言ってやったわぁ!」

 

「参りましたよ、いや全く」

 

 

どうしてこう、周りの女の子達はこんな自分を避けないのだろうか。

今でも疑問は尽きないが、それが白斗にとって何よりの救いなのだ。

 

 

「だぁ、かぁ、らぁ……そんな白くんには目一杯サービスしちゃうわねぇ!」

 

「まだ上があると!?」

 

「え? そ、そぉねぇ……」

 

 

思わず聞き返した白斗だったが、そこでプルルートは言葉を詰まらせた。

どうやら勢いで言ってしまっただけらしく、これ以上のことを思いつかなかった。

まさか布一枚だけ隔たれただけで、ほぼ裸の若い男女が体を寄せ合っている―――正直な所、白斗だけでなくプルルートとて心臓が痛いくらいに鳴り響いていた。

 

 

「な、なら……あたしの体を洗わせてあげる、ってのはどうかしらぁ?」

 

「やめとけお前が後悔するだけだぞ!」

 

「へ……へぇ~? 後悔させられるのかしらぁ? それはそれで楽しみねぇ、うっふふふ!」

 

 

何かと扇情的かつ挑発的言動をとるプルルート。

大抵の相手ならば彼女の恐ろしさを知っているが故に引き下がり、距離を空けようとしてしまう。

だが、この男だけは―――白斗だけは違った。

 

 

「……いいぜ。 なら、後悔させてやろうじゃねぇの」

 

「え? ひゃぁっ!?」

 

 

一瞬の出来事だった。

アイリスハートの視界が一転したと思いきや、いつの間にか白斗と位置が入れ替わっていたのだ。

つまり今、アイリスハートが座らされていて、白斗が自分の背後に立っていて―――。

 

 

「お覚悟はよろしいですねアイリスハート様? ―――返答は聞きませんが!!」

 

「ち、ちょっと白くん!?」

 

「タオルがあってはお背中お流しできませんねぇ! 失礼!!」

 

「きゃんッ!?」

 

 

自分のみを覆い隠していた白いバスタオルが一瞬にして剥ぎ取られた。

きめ細やかで、存在そのものが国宝としか言いようがない白くて美しい肌が晒されている。

辛うじてプルルートの長い髪の毛が背中を覆い隠しているものの、大きく丸いお尻が否応なしに露になっていた。……もっとも普段のプロセッサがTバック前提なのだが。

さしものアイリスハートですら怒涛の展開に脳が処理しきれず、白斗にしてやられっぱなしだ。

 

 

「随分可愛らしい声ですね。 それに美しい肌……美味しそうなお尻……」

 

「い、一々実況しないで頂戴よぉ!!」

 

「そうは参りません、お背中お流しする権利を賜った以上、某が全力を尽くさぬ道理はござりませぬが故」

 

「っていうかさっきからなぁに!? その口調!?」

 

「マジレスするとこうでもしてないと俺マジで理性が持たねぇ」

 

 

白斗らしからぬ行動と口調。それも彼が緊張の限界を迎えている証拠でもあった。

これでもまだ理性を辛うじて保たせている方らしい。

それでもアイリスハートに一泡吹かせるため、彼は心を鬼にする。

 

 

「では行くぞ。 ゴシゴシーっと」

 

「ひゃぁぁ………っ!?」

 

 

洗剤を付けたタオルが、アイリスハートの背中に触れた。

瞬間、女神の全身に快楽の電流が駆け巡る。

 

 

「プルルート、痛くないか?」

 

「い、痛くないどころか……んんぅ……! き、気持ち良すぎて……んぁぁ……!」

 

「それは良かった。 時々ネプテューヌ達にマッサージしてあげてるんでそれをちょっと応用してみたんだがお気に召したようで何より」

 

「お気に、召す……どころか……これ、だめぇ……!」

 

 

そう、白斗の手付きやタオルが気持ち良すぎて女神の理性を蕩けさせていた。

何だかんだで女性の肌に触れる機会が多くなった白斗はその経験を活かし、マッサージの方法やコツを会得していたのである。

それを応用しアイリスハートの背中を流してあげれば、それはもうまさに極上の一時。

プルルートも事あるごとに艶めかしい嬌声を上げてしまう。

 

 

「ん、んぅ……。 は、ぁ……! あぁぁ……」

 

「……なぁ、大丈夫だよな? この小説R-15タグまでしかついてないけど、これ大丈夫だよな? ハネられないよな?」

 

「い、今更怖気ついちゃうのぉ……?」

 

「それはお前次第だな! さぁ、ギブアップしちまえよ!」

 

「イヤよ……! あたしは、いつだって本気よ……! 絶対に、負けないんだからぁっ……!」

 

「この負けず嫌いめ……! いいだろう、我が秘伝の技巧をお見せする時が来た」

 

「って、まだ上があるのっ!?」

 

「今のはメラゾーマではない、メラだ……」

 

 

何やらメタな会話が流れた気もするが、一々気に留めていられるほど二人に余裕なんてありはしない。

互いに負けを認めぬ以上、白斗も本気を出さざるを得なかった。

これ以上を受けてしまえば、アイリスハートは―――プルルートはどうなってしまうのか。

 

 

「……い、良いわよ……。 白くんになら、何されたって―――」

 

「―――っと、言いたいところだがこれ以上はマジでシャレにならねぇ。 万が一でも間違いが起きたら皆に申し訳ないしな」

 

「ふぇ? ……白くぅん……女の子の純情を弄ぶなんてサイテーよぉ……?」

 

「ははは、ゴメンゴメン」

 

「許さないわよ。 ……だから……」

 

 

単にからかわれただけだと知ったプルルートは怒りよりも落胆の方が大きかった。

あのまま白斗のなすがままにされていたら、きっと自分達は―――その先を考えるだけで恥ずかしくて、でも幸せで、死んでしまいそうになる。

だから彼女はお詫びを要求しながら再び光を身に纏い、元の小柄な少女の姿に戻った。

 

 

「……あたしの髪、洗って欲しいな~」

 

「おろ? 変身解除してまで……でもそっか。 普段はこっちの髪だもんな」

 

「うん~。 白くん、お願い~」

 

「正直、初挑戦だが……仰せのままに、女神様」

 

 

髪は女の命とも称される。プルルートとて女の子、髪の毛の手入れはこれでも日々念入りにしている。

それを他人に、増してや男の人に委ねることがどういうことか。互いに分からないわけがなかった。

だからこそ白斗も半端な気持ちではなく、真剣に応える。

 

 

「ん~……! 今度は何だか、ふわふわしてて気持ちいい~……。 白くん上手~」

 

「そりゃ良かった。 誰かの髪を洗うのは初めてだったけど」

 

「そっかぁ~、初めてだったんだぁ~! ふふふ~!」

 

 

わしゃわしゃと沸き立つ泡の下でプルルートが大喜びしている。

髪は女の命、だからこそ優しく丁寧に、しかし僅かな汚れ一つも見逃すことなく丹念に、それでいてプルルートにも喜んでもらえるように。

白斗が持つ彼女への思いを込めて洗ってみたが、存外喜んでもらえたようだ。

もっとも、彼女が喜んでもらえた理由は“それだけ”ではないのだが。

 

 

「最後に洗い流して……はい、お終い!」

 

「ふぁ~……! 何だかいつもより髪がふわふわ~!」

 

「シャンプーの仕方もコツがあるらしい。 髪の手入れの仕方を応用してみたが、割と上手くいったようだな。 今度教えるよ」

 

「そ~なんだ~……って、白くん~? なんで白くんが女の子の髪の手入れなんて知ってるのかな~?」

 

「…………黙秘します」

 

 

お風呂場で女の子の髪の毛を洗うなんて行為は初めてだが、時々ネプテューヌやネプギアにせがまれて髪を梳いたりしていることは……敢えてこの場では言うまい。

 

 

「だったら~……またあたしの髪を洗ってね~?」

 

「また!?」

 

「そうだよ~! OKしてくれるまで離さないんだから~!!」

 

「おわあああぁぁぁッ!? ぷ、プルルート!! お前引っ付くなって!!」

 

 

ぷにっ、と微かに柔らかい感触が白斗の腕で弾ける。

思わず頭がショートしてしまいそうになるが、何とか理性を保たせた。咄嗟にタオルでガードしていなければ危ない所だったが。

さすがは女神様、小柄で慎ましいといえど持つべきものはお持ちだ。

 

 

「そ、それよりさっさと湯船に入らないと風邪ひいちま……おや? 今なんだかゾクリとしたぞ? 俺まで湯冷めしちゃったのか?」

 

 

何とかさっさと入浴を切り上げようとした矢先。謎の悪寒を感じて鳥肌が立った。

最初こそ湯冷めしたのかと思ったが、違う。

これは―――殺気だ。恐る恐るさっきのする方向、浴室の扉に目を向ければ。

 

 

「「「「<●><●>」」」」

 

「「きゃああああああぁぁぁぁぁぁ――――――ッ!!?」」

 

 

悍ましい視線を投げつけ、べったりと浴室の擦りガラスに張り付く四人の少女がいた。

余りの恐ろしさに白斗とプルルートは抱き着き合って叫んでしまう。

 

 

「はぁーくぅーとぉー……どーしていつもいつもお風呂イベントなんてことをしっかりしっぽりとやらかしちゃうのカナー……?」

 

「お兄ちゃん♪ とりあえずプラネティックディーバだねっ☆」

 

「白斗君っ! この世界にはお風呂に入る時は仲のいいくノ一と一緒じゃなきゃダメだって法律があるの知らないの!?」

 

「プルルートさんズルいですズルいです私まだ白斗さんとお風呂に入っていないのに私が取り押さえられていることを言いことに抜け駆けですかそうですか白斗さんも何を鼻の下伸ばしてデレッデレしてるんですかいいですそういうのがお好きなら私にだって考えがありますから覚悟してくださいねフフフフフフフ」

 

「どいつもこいつもヤベェよ!? それとマーベラス堂々と嘘を吐くなッ! 後ツネミは単純にメチャクチャ怖ェ!!!」

 

 

何とかツッコミでその場を乗り切ろうとするが、明らかに聞き流している。

怒り心頭の恋する乙女たちの勢いは止まることを知らなかった。

こうなると、さすがのプルルートも強く言えない。

 

 

「「「「ちょっとこっちにキナサイ」」」」

 

「ま、待て!! これにはバスタブ並みに深いワケが……ちょっと引っ張らないで! ってか力強ッ……!? せめて! せめてタオルを……んぎゃああぁぁぁ―――ッ!!?」

 

 

―――結局白斗は、腰にタオル一枚巻いた姿のまま、嫉妬に狂う乙女たちに引っ張られてしまうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「女子力修行ぉ~?」

 

「うん……」

 

 

乙女という名の花が咲き乱れる寝室。

合計五名もの美少女のネグリジェ姿を前にして、白斗は訝しげな声を上げた。

目の前で力なく項垂れるネプテューヌを初め、ネプギア達も本日の芳しくない成果に肩を落としている。

あの後、白斗は着替えさせられた後この女子の寝室にまで連れ込まれてしまい、ならばと今日の大騒動のわけを聞き出してみたところ―――現在に至る。

 

 

「無理して身に着ける必要はないだろ」

 

「それだと負けちゃうもん! 白斗に!」

 

「俺の何に女子力見出してんだよお前ら!? ってか、こんなにも可愛い美少女たちだろ? そういう意味じゃ女子力カンスト勢じゃないか」

 

「でもでもでもっ! もっとお兄ちゃんに頼られる素敵な女の子になりたいんですっ!」

 

 

何せ最大の比較対象にして超えるべき壁が白斗なのだ。

大好きな人の前で不甲斐ない女の子にはなりたくない―――そんないじらしい乙女心が立ち止まることを許さなかった。

 

 

「正直、何故なのかはサッパリ分からんが……まぁ、そう言うことなら頑張れとしか言いようがないな……。 でも実際のところ今日はドジっただけでみんな筋はいいんだよなぁ」

 

「え? ホント?」

 

「ああ、俺が太鼓判を押す。 継続して頑張ったらみんないい嫁さんになれるぞ」

 

「「「「「ほ、ほわぁ~~~………!!」」」」」

 

 

実際の所、彼女達とて女子力が全くないわけではない。

それは白斗も認めるところだった。

何せ彼だって彼女達の一挙一動に胸をときめかされているのだから―――決して口にはださないがな!と羞恥心故にすまし顔を必死に作っている白斗だった。

 

 

「で、では白斗さんっ! せ、せせ折角なのでこのまま私達の修行にお付き合いくださいっ!」

 

「この流れでまだやるのかツネミよ……。 ってかもう夜遅いし、明日にしたら?」

 

「いえ、今この瞬間でないと出来ないんですっ! ………えいっ!!」

 

 

ところがツネミはまだ続けたいという。

ここ最近白斗との一時を過ごせていないフラストレーションからか、いつになく駄々っ子である。

そんな彼女の我儘も珍しいな、なんて思っていたところ。なんと普段は奥手なツネミが、白斗目掛けてダイブ

 

 

「「「「あああああぁぁぁぁぁ――――――っっっ!!?」」」」

 

「ど、どうしたよツネミ!? 急に抱き着いてきたりして!?」

 

「ま、マッサージしてあげます! ご奉仕の修行です!」

 

「なんじゃそりゃ!?」

 

「ズルイよツネミ~!! 私だって白斗にマッサージしてあげたーい! ねぷねぷしてあげたーい!」

 

「ここまで皆さん美味しい思いをしてるじゃないですか! 私はまだなんです!」

 

「ちょっとツネミちゃん!? マベちゃんだってまだしてないよ!?」

 

「マベちゃんさんは第六十話が個別回みないたものですっ!」

 

「ちょっとツネミさん? アンタまでメタ発言しだしたらもうツッコミが追い付かないんだけど!?」

 

 

ツネミの大暴走で阿鼻叫喚。

この中では常識人であるはずの彼女までツッコミ放棄すれば止められる人などいるはずもなく。

こうして彼女の大暴走の末―――最後の修行が行われることになった。

 

 

 

STEP.EXその2 マッサージで癒してあげよう! 講師:ツネミ

 

 

 

「……で、ツネミよ。マッサージの仕方なんて知ってるのか?」

 

 

 

勢いのまま押し切られた白斗が、布団に寝そべりながら訊ねる。

アイドルとして多忙な生活を送っている彼女がこんなことを勉強している暇など無いと思っていたのだが。

 

 

「ご心配なく。 白斗さんにして差し上げられればと思って日々勉強してましたから」

 

「何のやる気だよそれは……。 まぁいいか、ならお手並み拝見と行きますか」

 

 

だがそこは恋する乙女。

白斗へのご奉仕の一環として寝る間も惜しんで勉強してきた。

文献やネット、映像媒体などで既に知識はインストール済み。ネプテューヌ達も見守る中、白斗はとりあえず彼女を信じて自分の背を見せた。

 

 

「では指圧します。 うんしょ、うんしょ……」

 

「おッ? お、おぉ…………? こ、これは……キク……!」

 

 

はたして、ツネミの細く、綺麗な指先が白斗の背に触れた。

すると彼女の力を込めた指圧が、白斗のツボというツボを刺激していく。

凝り固まった疲れなどが解されていくのがよく分かった。

 

 

「あ゛ぁ゛~、き゛も゛ち゛い゛い゛~、き゛も゛ち゛い゛い゛よ゛ツ゛ネ゛ミ゛さ゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛」

 

「は、白斗が……今までに出したことのない声を出してる……!」

 

「……でも白斗君の濁声の所為で不思議とエロくないね」

 

 

正直、マッサージにかこつけたくんずほぐれつを予想していたネプテューヌ達も呆気にとられた。

白斗も思った以上のマッサージだったので今まで溜まりに溜まった疲労などを思わず声色に出してしまう。

だがそれはツネミにも確かな手ごたえを感じさせた。

 

 

「本当ですか!? 良かった……必死にお勉強してきた甲斐がありました」

 

「お゛っ゛、そ゛こ゛そ゛こ゛、あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛キ゛ク゛ぅ゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛」

 

「白くん、すごい声出してる~……」

 

「でも、それだけお兄ちゃんがリラックスしきってるってことですよね……」

 

 

これはこれで羨ましいと感じなくもないプルルート達である。

何にせよ出遅れているのは否めない。このままでは終われぬと、せめて出番を作ろうとするマーベラスの姿があった。

 

 

「そっ、そうだ! 折角だからマベちゃん特製のお香も焚いちゃうね!」

 

「お香~? マベちゃん、それなぁ~に~?」

 

「アロマ、って言ったら分かりやすいかな? こうやって焚くとリラックス成分のある匂いをだしてくれるの!」

 

 

どこからか器とそれに盛られたお香を取り出し、忍法火遁の術で軽く火を起こす。

するとほのかに甘い香りが漂ってきた。

 

 

「お、おぉ~……? いい匂いまで……してきたぁ……」

 

「むむっ、やりますねマーベラスさん……。 ですが、私の指圧に勝るものなしで……ん?」

 

 

この匂いは白斗もお気に召したらしい。

これ以上ないくらい蕩けきった声を出している白斗に、いつもの凛々しさは無い。

負けてはならぬと白斗の反応を見ながらツネミが更なる指圧を開始しようとした時―――何か違和感が漂った。

 

 

「……ぁ、あれ……? なんだか……ふわふわ、してきたぁぁ~……?」

 

「白斗が今まで見たこと無いくらい蕩けきってる……! って、幾ら何でも蕩けすぎじゃない?」

 

「そりゃくノ一秘伝のお香だからね! こんなこともあろうかと調合しておいて良かった!」

 

「忍者がお香って何に使うんですか……」

 

「例えばこのお香だと惚れ薬に近い成分が入っててね、これで男を無理矢理篭絡させて情報を吐かせるとか」

 

「汚い! さすが忍者汚い!」

 

 

ネプテューヌがとりあえず言いたかった台詞をぶち込んでみるも、マーベラスからすれば負け犬の遠吠え同然である。

誇らしげに自慢の一品を堂々と掲げて見せた。

 

 

「まぁ、私もこれは最終手段として調合しただけだから。 リラックス用のお香と篭絡用のお香一つずつだけだし。 このリラックス用のお香もまた作っておかないとね」

 

「へぇ、私にも作れるかな……って、あれ?」

 

「ぎあちゃん~? どうしたの~?」

 

 

その時、ネプギアの顔が青ざめた。

彼女は見てしまったのだ。リラックス用と称されたお香に―――火が灯っていないことに。

 

 

「……あの、マーベラスさん……? この火が付いていないお香がリラックス用なら……今、焚いてるお香は……?」

 

「だーかーらー、これは篭絡用の……お、香…………あああああああああああああッ!!?」

 

 

そう、彼女はやってしまったのだ。

今焚いているのは、男を篭絡させるための惚れ薬と同様のお香だった。

既に匂いは充満していて白斗は思い切りそれを吸い込んでいる。不幸中の幸いと言うべきか、女性には効果が無いのかネプテューヌ達は何ともなかったが、肝心の白斗は―――。

 

 

 

「は、はれ……? からだが、アツイ……。 なんだか、ふわふわしててぇ……」

 

「は、白斗さん……?」

 

「……なんだか、つねみがおいしそうだなぁ……」

 

「ふぇ!?」

 

 

―――マズイ。このままではツネミが色んな意味で“食べられてしまう”。

恋する乙女としても、それは看過できることではない。

 

 

「ちょっとマベちゃん!? どうしてくれるのこれェ!!?」

 

「ど、どうしようどうしようどうしよう!? 解毒剤なんて無いし!!!」

 

「ダメですダメですダメですっ! この小説はR-15まで何ですからこれ以上お兄ちゃんを暴走させたら大変なことになっちゃう~~~!!!」

 

 

阿鼻叫喚の女子部屋。

どうにかする方法が見つからないまま、白斗は緩くなった理性に心を支配されそうになる。

 

 

「……って、な、何言ってんだ……俺はぁ……ッ!? ぐ、ううぅぅ……ッ!!」

 

「は、白くんが耐えてる~!!」

 

 

しかし、そこは鉄壁の理性の持ち主である黒原白斗。

お香一つで大切な女の子を傷つけるわけにはいかないと何とか振り切り、必死に抑えていた。

だがお香の効能に抗うことは強烈な負担だったらしく、頭が痛みだし、ぶわっと汗が噴き出ている。それでも、それでもツネミを傷つけるわけには―――。

 

 

「は、白斗さん……! 私なら、大丈夫です……!」

 

「へ……?」

 

「白斗さんになら……何をされてもいいです……! 寧ろ、何でもしてください……! わ、私は……私は白斗さんなら―――」

 

 

ツネミは寧ろノリノリだった。

辛そうな白斗を見ていられなくなったのだ。……無論白斗とそんな関係になりたかったこともあるのだが。

恋する乙女として、愛する人の全てを受け入れる覚悟がある。そんな彼女の言葉に突き動かされ、白斗は―――。

 

 

「……白くん~、折角だからあたしも“まっさ~じ”、してあげるね~……」

 

「へ? ぷ、ぷるるん!? 今はそんなことをやってる場合、じゃ…………?」

 

 

するとプルルートがゆらり、と立ち上がった。

彼女まで居ても立ても居られず、マッサージに託けて白斗とくんずほぐれつしようというのか。

阻止しようとネプテューヌまで参戦しそうになったが、彼女は見てしまった。

プルルートの顔から笑顔が消えたばかりか、目元が影で覆われていたことに。

 

 

「――――ぜぇい!!!」

 

「ゴガァ!!?」

 

 

到底女の子が出してはいけない怒声と共に、手にしたぬいぐるみが白斗の脳天に叩きつけられた。

絶命的な悲鳴を上げ、白斗は凄まじい一撃を受けて文字通り床に沈んだ。

衝撃で教会が揺れ、減り込んだ彼の頭を中心に抉られたかのようなクレーターが出来上がる。

……白斗は、ピクリとも動かなくなった。

 

 

「良かった~。 白くんぐっすりしてくれた~」

 

「……ぐっすりですね。 永遠に」

 

「って、言ってる場合じゃないよ!? 白斗ぉ~!! 死なないでぇ~~!!!」

 

「は、白斗さぁ――――――んっっっ!!?」

 

 

涙ながらに駆け寄り、白斗を助け起こすネプテューヌとツネミ。

幸いにも息はあったが、目を回しており目覚めそうにもない。

 

 

「大丈夫だよぉ~。 ちゃんと寸止めしたからぁ~」

 

「いやしてないよね!? モロにダイレクトアタックぶち込んだよね!?」

 

「それよりもぉ~……マベちゃん~? ツネミちゃん~? なんてことしてくれたのかなぁ~?」

 

 

―――プルルートはその可愛らしい顔に闇を張り付けながら、にっこりと笑った。

否、あれは「にっこり」などではない。「に゛っ゛こ゛り゛」、だ。

過失とは言えやらかした張本人であるマーベラスと、白斗を助けるためとは言え一線を超えそうになったツネミは恐怖で震えあがる。

 

 

「え、あ、ひ、い、ぃ………っ!! ぷ、プルちゃん! わ、ワザとじゃ……!!」

 

「ご、ごめんなさいプルルート様……! で、出来心だったんです……!」

 

「ワザとじゃなくても、出来心でも……。 こんな形で、白くんに手を出しちゃダメだよねぇ~……? ふ、ふふふ~……!!」

 

「「い…………いやあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~!!?」」

 

 

満月が天頂で輝く時間帯。可憐な少女達の悲鳴が、夜空を突き抜けた。

折檻されていないネプ姉妹も、顔を青ざめながらその凄惨な光景を抱き合ってみることしかできない。

……こうして、ハチャメチャな女子力修行は終わりを迎えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――そして次の日。

 

 

「なぁ、ネプテューヌ。 昨日って俺、どうしてたっけか? 昨日の記憶が丸ごと無いんだが」

 

「さ、さぁ……? 私にも分からないなぁ~……」

 

 

白斗が朝食を並べてながら、そんな疑問を珍しく早起きしていたネプテューヌに投げかけた。

彼女曰く、昨日は「恐怖を目の当たりにした」とのことで全く寝付けなかったらしい。

そんな彼女なら白斗の記憶がすっぽりと抜け落ちている理由も説明できるのではないか、そんな淡い期待はすぐに消え去った。

……彼女のやたら青ざめた表情と震える小さな体が解せなかったが。

 

 

「そうか……。 だとしたら、この巨大なたんこぶは一体……」

 

「それより白くん~、もう食べようよぉ~。 お腹ペコペコだよぉ~」

 

「だ、だな。 ……マ、マーベラス~? ツネミ~? 朝ご飯ですよ~……?」

 

 

目が覚めたら頭に出来ていた巨大なたんごぶをさすりながら白斗が振り返る。

その先にいたのは昨日から泊まり掛けで遊びに来ていたマーベラスとツネミがいた。

 

 

「「………………………………………………」」

 

 

 

―――すっかり魂が抜け落ち、精神崩壊して真っ白になってしまっていたが。

一体何があったのか、苦笑いしながらもコンパとアイエフは何となく悟った。

 

 

「これは……ぷるちゃんの、アレですね……。 あいちゃんと同じ状態になっちゃってるです」

 

「……まぁ、プルルート様達に女子力修行は無理ってことね」

 

 

こんな惨劇しか生まないのなら、もう女子力修行は諦めた方がいいだろう。

その説得に掛かる労力を思い起こすと、アイエフとしては頭痛が酷くなる一方だった。

 

 

「今日一日は二人の心リハビリかなぁ……。 兎にも角にもまずは朝メシだな、それじゃ……っと、アイエフ」

 

「ひゃ!?」

 

 

まずはエネルギー補給のためにも丹精込めて作った朝食を召し上がってもらわねば。

そう思った矢先、白斗の指先がアイエフの髪に伸びた。

これにはアイエフからも可愛らしい悲鳴が漏れ、ネプテューヌは思わず嫉妬に立ち上がる。

 

 

「ち、ちょっと白斗ぉ!? 私という者がいながらこっちの世界のあいちゃんにまで堂々と手を出しちゃ……ねぷ? 白斗、それ何ー?」

 

 

叱りつけようとしたその時、ネプテューヌはそれが白斗の悪ふざけではないことを知った。

彼の指先に、小さな黒いゴミ―――否、豆粒よりも小さい機械があったのだから。

 

 

「こいつは盗聴器だな。 アイエフのリボンに仕掛けられてた」

 

「え!? 嘘!? 私に!?」

 

「プラネテューヌの諜報員ともあろう者が盗聴されてどうするよ……。 っと、電源が落とされた……? ああ、これはリモコン式の盗聴器だな」

 

 

いつの間にかアイエフのリボンに盗聴器が仕掛けられていたらしい。

情報を司る諜報員としては、屈辱ものにして憤慨ものである。

盗聴器が正常に作動していれば逆探知で犯人を特定できたかもしれないが、残念ながら犯人は用意周到だったらしくすぐに盗聴器は電源を切られてしまった。

 

 

「やれやれ、最近多いなぁこういうの。 また厄介事の予感だよコレ……」

 

 

それでも証拠にはなる。潰したい気持ちを押さえ、白斗は指先に張り付けた盗聴器を苦々しい表情で見つめた。

これから来るであろうひと騒動にげんなりしながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ~らら、まーた阻止されちゃったわねぇ。 白さん……だったかしら? 本当に抜け目ないコト」

 

 

某国某所、その人物はコンピューターの前で怪しく微笑んでいた。

と言っても、その表情は機械のスーツに覆われて一切読み取ることが出来ないのだが。

―――アノネデス、七賢人の一人でもあるオカマだった。

 

 

「どうもレイちゃんの隠し事ってプラネテューヌに関係してるのよねぇ……。 だから探りを入れたいのに、彼の所為でこのままじゃ埒が明かないわぁ」

 

 

ここ最近、七賢人の会議中でも「とある話題」になると一応のリーダーであるキセイジョウ・レイの様子がおかしくなる。

それは他のメンバーから見ても明らかだったが、彼女がビクビクオドオドするのはいつもの事だと思ってスルーしてしまうのだ。

だがこのアノネデスは違う。いつものような動揺ではないことを見破っていた。

 

 

「でぇ、もぉ。 ……乙女って詮索好きだから。 こうまで阻止されると逆に燃えるのよねぇ♪」

 

 

だからこそこうしてあの手この手で情報取集を続け、ようやくレイの隠し事がプラネテューヌ付近にあることを突き止めた。

ならばと情報の塊とも言えるプラネテューヌ教会にアクセスを試みた。のだが、肝心のコンピューターには仕事関連の情報は詰まってても、レイに関する情報がない。

盗聴器などを仕掛けてみても、白斗が逐一阻止してしまう。ここまでアノネデスが手を拱くこと自体が稀有だ。だからこそこのオカマは燃えていた。

 

 

 

 

「だったらここは白さんを引き離すとしようかしらぁ。 ………フフフ………」

 

 

 

 

騒動は起こる。

それが悪意を秘めたものなら、尚更――――。

 

 

 

 

 

 

 

続く




サブタイの元ネタ「うわっ、私の年収…低すぎ…!?」

大変お待たせして申し訳ありませんでした。ですが楽しんでいただけたら幸いです。
ということで今回は皆でハチャメチャ女子力修行のお話でした。
女の子が女の子している描写を意識して書くのって実は結構難しいけど楽しいです。女の子同士でわちゃわちゃしてるのを眺めるのもネプテューヌシリーズの醍醐味にして魅力である。
実際今回のメンバーの中ではネプギアが一番安定しているように思います。次点でツネミかなぁ……。その辺りの加減も難しいですね。
けどこんな真面目なメンバーでもネプ子が絡めばさぁ大変になってしまうのがお約束。
因みに白斗君は他人のお世話をするのが好きなので現状維持希望派。なんと奥ゆかしいに見えて強欲なことか。

さてさて、そろそろ次回から神次元編のメインストーリーを動かします。
各国で巻き起こる大騒動、どうかお楽しみに!
感想ご意見、お待ちしております!

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