恋次元ゲイムネプテューヌ LOVE&HEART 作:カスケード
―――某国某所。
冷たい鉄でできた円卓の間にて、七賢人は会議を行っていた。
七賢人と言っても、今出席しているのは三名のみである。
「……と、いうワケよ。 そこでコピリーちゃんとアーさんには出張ってもらいたいの」
「俺様は構わんぞ! 気持ちよく暴れられるのならな!」
「ワシも構わん。 娘達が退屈していたところじゃったからのぉ」
機械のスーツを身に纏ったオカマ、(自称)彼女が指示を与える人物は二人。
コピリーエースとアクダイジーンだった。
どちらも暴れる理由があるからとオカマからの指示を快諾する。
「では俺様は早速行ってくる! 朗報を待っていてくれよぉ!!」
エネルギッシュなコピリーエースは早速アクセル全開。
床を削ることも厭わず飛び出していってしまった。
……向こう側から幾重にも聞こえてくる破壊音と衝撃は気にしないことにする二人である。
「やれやれ、コピリーは相変わらずじゃのぉ。 まぁ、前よりは御しやすくなったが」
「これもアタシのお蔭よねぇ」
「まぁ、お前さんは七賢人の中である意味一番の働き者かつ有能じゃからのぉ。 さて、ワシも行くとするか……」
ある意味七賢人で最も得体の知れないロボットスーツのオカマを見やるアクダイジーン。
だが、幾らその人物を見ても一切変わり映えのない鉄の仮面がそこにあるだけだ。表情など全く読み取れない。
これ以上相手をすることもないと席を立った。
「ああ、その前にアーさん。 あの子達も連れていくのかしら?」
「勿論じゃ。 少しずつ意思疎通できるようになったからのぉ、たまには運動をさせてあげねば不健康になってしまうしな」
「なるほど、当人達がいいならアタシからは言うこと無いわ。 無理だけはしないでね」
「言われずとも。 さぁて、忌々しい女神へ復讐してやるかのぉ……!!」
下卑た笑みを浮かべながらアクダイジーンは部屋を出る。
その名の通り悪人気質であるため、女神達への逆恨みは未だに晴れていなかった。
後に残されたオカマは、仮面の奥からくぐもった含み笑いを浮かべる。
「それじゃ、アタシも行かなきゃねぇ。 裏方担当だけれども、デキる女はたまには前に出なくちゃ……楽しみだわぁ!!」
七賢人が動く時。それはこの神次元ゲイムギョウ界に、騒動が巻き起こることを意味している。
☆
―――神次元プラネテューヌ教会。
ここでは今日も今日とて各国の女神が集まっていた。
「はい、松に鶴。 これで三光よ。 こいこい、っと」
「ぐ、ぬぬ……! 俺が逆転するに花見で一杯やるしかないのか……!」
現在、白斗とブランの白熱した試合が続いていた。
と言っても今回はテレビゲームではなく、ブランの国ではポピュラーなカードゲームでもある花札で遊んでいた。
ルール自体は白斗の世界にもあったそれと同じだったためすんなり遊べているのだが、状況は御覧の通り白斗劣勢。
因みに白斗の言う「花見で一杯」とは絵札の桜と菊に杯を組み合わせた役である。
「酒さえ……! 酒さえあれば……ッ!!」
「白斗、お酒だよりになるからそうなっちゃうんだよ? これに懲りたらお酒なんてやめようね」
「え~? 白くん、お酒飲んでるの~?」
「そうなんです。 お兄ちゃんってば……」
「へぇ、意外。 しっかり者の白斗にも欠点があるだなんてね」
「白斗君、お酒は成人してからですわよ?」
当然それを傍らで見守るのはネプテューヌを初めとしたこの世界の女神達、そしてネプギア。
これほどの美少女に見守られるのは正直悪い気はしない―――のだが、白斗の数少ない趣味である飲酒に関しては苦い顔をしている。
特に白斗の健康面を気遣いたいネプテューヌは、不真面目な彼女にしては珍しくこの手の話題で白斗に説教する立場である。
因みにこの神次元に来てからというもの、白斗はピーシェらに考慮して一切酒を口にしていないとのことだ。
「ええい! 外野、シャラップ! 見てろ、こっから俺が怒涛の逆転劇をだなぁ……って外したぁっ!?」
「それじゃ私ね。 菊に杯で月見で一杯が成立……あ、捲れて桜。 これで花見で一杯ね」
「あーお客様、お酒飲み過ぎです! あーお客様、当店に桜は持ち込まないでください! あーお客様、月が綺麗ですねぇ!?」
「おおう、怒涛のオーバーキル。 白斗、15年地下施設行き」
「ヤメロー! シニタクナーイ!! シニタクナーイ!!!」
これ以上ないくらい最悪の役が作られ、白斗に逆転の目は無くなった。
カックリと項垂れる少年に対し、完勝したブランはブイ、と珍しくドヤ顔。
この世界のブランは和服を着こんでいるだけあって、和をテーマとしたゲームでは無類の強さを誇っていた。
「フッ、圧倒的勝利の後では何もかもが虚しい……」
「おのれブラン……調子に乗りおって……! 見てろ、俺の仇はノワールが討ってくれる!」
「そこは私任せなの!? まぁいいわ、正直面白そうだったし相手してあげる」
「望むところよ。 ……今日こそ決着を付けてやる……!」
白斗からバトンを託されたノワールが座布団に座る。
黒と白の女神の間で散らされる火花が、勝負の緊張感をより高める。
ファーストコンタクトから事あるごとに競い合う二人だったが、こんな平和な勝負なら止める必要は無いとネプテューヌ達もまったり観戦ムードである。
「わ~! ノワールちゃんとブランちゃんの対決だ~!」
「盛り上がる対戦カードですなー! 白斗、この勝負どう見る?」
「どう見るって言っても、花札って結構運に左右されるからな。 ただブランは当然慣れてるし、場を読む力は誰よりも上だな。 ベールさんの見解は?」
「そうですわね……後はこいこいのタイミングとかでしょうか。 ノワールがどんな駆け引きを見せてくれるか、そこによると思いますわ」
今では純粋に観戦を楽しんでいるネプテューヌ達。
ここ最近は七賢人やジョーカーからのアクションがなく、なんてことのない平和な日々。
女神達がこうして気兼ねなくゲームを楽しめることこそが、何者にも代えがたい平穏―――だが、それはノワールの着メロが破壊することになる。
「あ、ごめんなさい。 もしもし、ユニ? どうしたの……ってハァ!? ハッキングによる通信障害!?」
どうやらラステイションの教会で待機しているユニからの連絡らしい。
すぐさま出てみれば、何やらのっぴきならない様子だ。これには対戦していたブランも含め、全員が何事かと目を瞬かせている。
「ノワール? どったの?」
「何でもウチの通信システムにハッキングが仕掛けられて、そのせいでラステイションのネットワークが大混乱っていうのよ!」
「ラステイションの通信システムにハッキングだと……!?」
白斗もその報告を聞いた途端、驚きで目が点になる。
前々からノワールが自国のシステムについて自慢していたお蔭でその高度なセキュリティを知っていたからだ。
「信じられない……! あれは我が国の技術の結晶、最高峰のセキュリティで誰にも破られたことのない鉄壁のシステムなのよ!?」
「最高だとか鉄壁って付くと大体破られるフラグ」
「お姉ちゃん、またメタな……。 でも実際問題、ラステイションのネットワークにハッキングが仕掛けられたってことはその人は相当なハッカーってことですよね……」
「そう言うことよ! とにかく急いで戻らなきゃ! それじゃね!!」
かなり大慌てしながらノワールは教会を飛び出し、女神化して飛んでいってしまった。
あれほど焦った彼女は見たことが―――いや、実際あるのだが。それでもラステイションを思うが故の焦りであることは誰から見ても明らかだった。
「大変ね、ノワールも」
「ブランは余裕そうだねー」
「まぁ、私ほど長く女神をやっていれば泰然自若としていられるわ」
(その割には前、七賢人にいいようにされてたー……なんて言うと泣き出すからやめとこ)
広げた花札を片付けながらブランは余裕の表情だ。
そんな彼女も孤独だったが故に大変な目に遭ってきたはずだが、それを指摘するとどうなるか……友達思いのネプテューヌとしてはさすがに茶化す気にはなれなかった。
のだが、そんな最中にイストワールが慌てて飛んできた。
「た、大変ですブランさんっ!!(; ・`д・´)」
「いーすん~? そんなに慌ててどうしたの~?」
「今、ルウィーの方から緊急連絡がありまして! 何でも七賢人と名乗るロボットが大暴れして破壊活動を行っているとか!!(; >д<)」
「な、何だとっ!?」
「あー、やっぱ余裕ぶってると自分にも降りかかるってフラグだね」
「……ここの女神様はみんなフラグ回収するのがお好きなのか」
どうやらルウィーでも問題発生らしい。
内容から察するに七賢人と名乗るロボット―――恐らくコピリーエースが性懲りもなく暴れているのだろう。
ここまで綺麗なフラグ回収にネプテューヌは勿論、白斗も呆れ気味だった。
「今すぐ戻って欲しいとのことですっ!!(; ・`д・´)」
「言われるまでもねぇ!! すぐに戻ってそいつをブチのめさねーと!!!」
大慌てでブランもその場から去っていった。
あの一件を経てブランは尚更愛国心が強まっている。故に国の危機とあれば見過ごすわけにはいかない。
「ブランちゃんまで行っちゃった~……」
「これで残るはベールだけかー……。 チラッ」
「な、何ですのその意味ありげかつワザとらしいチラ見は……」
「いやー、ここまで来たらベールの国でもトラブル発生して欲しいなーって」
「嫌ですわネプテューヌったら。 最も優雅な女神であるこの私が――……」
ピピー、ピピー、ピピー。
緊張感あるコール音が、ベールの端末から聞こえてきた。明らかに緊急性のある着信音である。
瞬間、ベールは凍り付いた。
「………………」
「出なさいな、受け止めなさいな、己の業を」
「言わないでくださいまし! も、もしもし……?」
正直ブッチしたい衝動に駆られたがそうも言っていられない。
白斗に促されるまま、ベールは渋々端末を手に取り通話する。
「……えっ!? ワケの分からないモンスターが暴れている……!? 分かりましたわ、貴方達はすぐさま包囲網を敷いて! 決して国民には手出しさせぬよう! いいですわね!」
しかしそこはリーンボックスの女神。
一度スイッチが入れば、女神の名に恥じぬ的確かつ鋭い指示が飛ぶ。
通話を終えるなり彼女もまた、ノワールやブランとさして変わらない焦燥ぶりで立ち上がった。
「申し訳ありませんわ! 私にも急用が出来てしまっての出これで失礼いたします!」
「じゃーねー! ……あー、何だか急に静かになっちゃったなー」
「呑気してる場合か。 この流れ、俺達んトコにも何かしら来るぞ? お前らの国なら尚更」
「「それどういう意味~!?」」
ここまで来ると一周回って白斗は冷静だった。
三ヶ国に来てプラネテューヌにも事件が発生しない道理があろうか。
特にトラブルメーカーとも名高い女神が治める国ならば尚の事だ。だが、意外にも空中でふわふわと浮いているイストワールが可愛らしくかぶりを振ってみせた。
「いえ、それが今のところプラネテューヌ内で目立ったトラブルはありません( ・ω・)」
「おっ! さっすが平和を司る女神たる私の加護!」
「ネプちゃんすご~い!」
「テキトーこくなっての。 ……けど、なんでプラネテューヌだけ……? いや、時間差で何かしらあるかもしれないが……」
安堵どころか益々不安が募る一方の白斗。
そんな彼に対し、ネプギアは可愛らしく首を傾げてみる。
「お兄ちゃん、どうしたの?」
「さっき、七賢人が暴れてるって話があったろ? そしてこれだけ狙いすましたかのように各国でトラブル……残り二カ国でのトラブルも明らかに七賢人の仕業だとしか思えない。 にも関わらずプラネテューヌにだけ何もしてこないなんておかしいんだよな……」
「あ、確かに」
ルウィーで暴れているのは七賢人、そして同時期に他の国でもトラブルが発生したともなれば十中八九七賢人の手によるものと見るべきである。
だからこそプラネテューヌに何かしらのアクションをしてもいいはずなのに、未だに音沙汰無しというのは解せなかった。
「でもでも、私達の手が空いてるならみんなの手助けをしないと!」
「……だな、そこはネプテューヌの言う通りだ」
「じゃぁ、みんなのお手伝いだね~。 でも~、どこから行くの~?」
しかし、白斗達がフリーになっているのも事実。となれば、他の女神達の手助けをした方がまだ有意義だ。
一方でプルルートの言う通り、どこから手助けするかは悩みどころである。
しばし頤に手を当てた後、白斗は決断した。
「……個人的にはルウィーから行くことを提案したい」
「どうしてルウィーから?」
「ラステイションのトラブルはハッキング……正直、俺らが行ったところで手伝えることはない」
「そうだね、私はソフト面には疎いし……」
ラステイションのトラブルは特殊な部類である。
サイバー専門家は生憎このメンバーにはいない。ネプギアもメカ弄りこそ趣味ではあるがプログラミングはそこまで得意では無かった。
となれば、今ラステイションに言ったところで時間の無駄である。
「そしてベールさんの所はまだ軍を動かせるだけの余裕はあるようだった。 ピンチだとすればあの鉄クズが暴れてるルウィーの方が危ないだろう」
「て、鉄クズって……でも確かに、ブランの所が一番苦しそうだね」
「それじゃ~、あの鉄クズさんにお仕置きだ~! わ~い!!」
「ぷ、プルルートさん!? 最近Sッ気隠そうともしてませんよね!?」
元より悪人なので七賢人に対する同情はないものの、プルルートの暴走が目に見えて顕著である。
一度お仕置きを受けた身としてはどうしても戦慄せざるを得ないネプギアである。
「いーすん、私達出てくるね~!」
「けどもしプラネテューヌで何かしらトラブルが発生したらすぐ連絡を。 陽動の可能性もありますので」
「分かりました。 プルルートさん達が留守の間はアイエフさん達と協力しますのでお任せください! 白斗さん達もお気を付けてっ!!(`・ω・´)ゞ」
こうして白斗達は各国の女神に助力するため、プラネテューヌ教会を後にするのだった。
☆
―――ルウィー、鉱山地帯。
ここはこの雪国が誇る鉱山資源の採掘所である。寒冷地であるルウィーにおいて、ここから採掘される石炭や宝石などはゲーム産業に次ぐ国の大事な資金源。
そんな大事な場所で、七賢人の一人が暴れているという情報が入りネプテューヌ達はそこにやってきた。
「まさか来てくれるなんて……その、みんな……ありがとう……」
「いいっていいって! 困った時はお互い様!」
「そうそう~。 遠慮なんかしないでね~」
少し照れ臭そうに、けれでも申し訳なさそうにブランが頭を下げる。
ネプテューヌ達との交流を経て大分素直になってきたらしく、白斗もうんうんと頷いてしまう。
「ロムちゃんとラムちゃんは……お留守番ですか?」
「ええ。 こんな状況にあの子達を連れ出すわけにはいかないわ」
「賢明な判断だな。 それでブラン、被害状況は?」
「表で暴れた結果、怪我人が数名出てるわ。 今はこの奥にいるらしいの」
「危険ですね……。 この坑道、かなり掘り進められてるみたいですしここで暴れられると崩落の危険性も出ちゃいます」
ネプギアが不安そうに辺りを見回す。
彼女の言う通り、ここから先は坑道、即ち洞窟内。あのコピリーエースが適当に暴れてしまえばいつ崩落してもおかしくない。
「そうなんだけど……ちょっと困った事態になっててね……」
「ねぷ? まだ何かあるの?」
「百聞は一見に如かず。 ついてきて」
だが、何やらニュアンスが違うような言い回しをしてくるブラン。
全員が首をもたげつつもブランに案内されるまま坑道の奥へと歩を進める。
―――そこにあったのは、信じがたい光景であった。
「フンフンフフーン♪ こんな感じでどうだ?」
「おお! さっすがコピリーさん! あの岩盤がこんなにもアッサリと!」
「まぁな! 破壊活動なら俺様に任せて置け! ハッハッハ!!」
((((なんか採掘作業してあげてる―――――っっっ!?))))
ブランを除く全員が衝撃の余り、あんぐりと口を開けてしまった。
それもそのはず、数々の怪我人を出したコピリーエースが人助けをしており、更には周りの作業員が挙って感謝しては打ち解けていたのだから。
「どうしてこうなった……」
「私が問いたい気分よ……。 一度話を付けに行ったんだけど、周りの作業員があいつを庇っちゃってね……」
「なるほど、それは出づらいわな。 でも……」
だからと言って見逃すのは間違っている。
何せ彼は七賢人として数々の犯罪行為をしてきた。しかも今日に至っては怪我人まで出しているのだ。
おまけにおだてられて採掘作業に力が入り過ぎている。このままでは崩落の危険も―――。
「……しゃーない、か。 俺が出る。 みんなは一切出ないでくれ」
「え!? は、白斗!?」
「お兄ちゃん!? 危険だよ!?」
思わずネプ姉妹が悲鳴を上げる。
無理もない、白斗はこと戦闘に関してはこの中の誰よりも弱いのだ。
あくまでモンスターと戦えているのも体が出来ていることと相手の隙を突くような、まさに「暗殺」に近いことをやっていたから。正面戦闘ともなれば、一気に戦えなくなってしまう。
「だとしても男にはやらなきゃいけない時がある。 今回、女神様が出張るとマズそうだしな」
「白くん~……」
「大丈夫だよプルルート、勝つ算段はちゃんと考えてるって」
「……私は大反対。 例え算段があったとしても、貴方を危険に晒すのは……」
「ブランも心配してくれてありがとな。 でも、今回ばかりは俺がやる」
プルルートとブランはそれでも白斗を心配するあまり、死にそうな顔になっていた。
女神様にそんな顔をさせてしまうのは男として情けないがそれでも今回ばかりは白斗だけでやらなければならない理由がある。
決して引かない姿勢を見ると、女神達は全員目に涙を浮かべて。
「……デート三回」
「私は一日中メカの調整」
「あたしとい~っぱいお昼寝して、い~っぱい遊んだりしてね~……?」
「……オススメの本10冊」
「委細承知」
心配を掛けさせたお詫びを約束させる。白斗はそれを快く承諾した。
「おっと、その前に……ネプテューヌにブラン。 貸して欲しいものがあるんだ」
「ねぷ?」
「貸して欲しい……もの?」
そしてそれを実現させるためにも。
最後の一準備を終え、いよいよ白斗は物陰から飛び出した。
「さぁて!! 一気にフルスロットル!! こんな岩盤など、俺様のタックルで……」
「おおっと、そこまでだコピリーエース」
「んん!? その声は……」
コピリーエースにとっては忘れられない声が聞こえた。
他の作業員たちもなんだなんだと声の下方向に振り返る。
そこに立っていたのはやはり、鋼鉄の男からすれば屈辱にして因縁の相手。
「お前か!! あの時の少年……確か白斗と言ったな!!」
「少年って……ホントにお前、無駄に爽やか熱血キャラになっちまったな」
「まぁ色々あったのさ! それより、お前が来たということは……」
聞かれるまでもない。
白斗から漂う剣呑な空気にコピリーエースのみならず、周りの作業員までもが狼狽える。
「ま、待て小僧!! まさかお前もコピリーさんを捕えようってクチか!?」
「まさかもまさか。 女神様とは別口だけど、な」
実際は女神と共にコピリーエースを拘束する側である。
だが、敢えて白斗は女神とは無関係だと言い放つ。
そのおかげで“狙い通り”、作業員たちのヘイトが一気に白斗に向いた。
「ふざけんなよ!? この人が何やったっていうんだ!!」
「いやいや、各国で破壊活動やってきたし、直前で大暴れして怪我人出したそうじゃないか」
「そ、それは……」
「それにこれ以上ここで暴れたらマジで崩落の危険がある。 とっととお縄に着いてもらおうか?」
正論をぶつければ、それこそ白斗に掴みに掛かろうとしていた男達の足も止まってしまう。
何にせよ目の前のロボットを逃がすわけにはいかないのだ。
一縷の望みに掛けて、これ以上の抵抗をしないように勧告する。
「……それは出来ん。 お前達を見かけたら倒せと言付かっているからな……」
「こ、コピリーさん……?」
「俺様は七賢人の一員、コピリーエース!! 仲間の優しい心で蘇らせてもらった義理も恩もある以上、俺様はあいつらを裏切ることは出来ん!!」
「やっぱそうくるか……なら、仕方ない。 今までのケジメをとってもらおうか……この場で」
だが、返事は予想通り拒否だった。
ならば白斗としては仕方がない、腹を括るだけ。―――この場で、“白斗だけの力で”コピリーエースを倒すしかないのだ。
「出来るのかな……? お前自身、前回を忘れているわけじゃぁないだろう?」
「ああ、卑怯の限りを尽くしたな。 確かに俺はあんなことをしないとお前に勝てない無力で情けない、最低の人間だよ」
「まぁ、あれもお前の実力で俺様の未熟さでもある。 今の俺様は咎めるつもりはない」
「寛大なお心遣いどうも。 でも、今回はマジで俺単騎でやらないとダメなんでな」
自嘲しながら、白斗は己の過去を鑑みる。
前回のコピリーエースとの戦いではあれ以上の被害を出さないために卑怯の限りを尽くして彼を無力化し、そのまま撃破という性格が悪いと言われても仕方ないことをした。
それ以前に白斗は“人殺し”だ。最低な人間だという認識は今でも変わっていない。
だが、それを決して“言い訳”にしない。それが「黒原白斗」という男でもあった。
「……正真正銘、一対一の決闘だ。 女神様にも手出しはさせない」
「……どうやら、今回は本当にマジのようだな。 受けて立とう!!!」
これでもコピリーエースは七賢人きっての武闘派だ。
白斗の覚悟を感じ取ることは出来る。改めて、白斗からの決闘を受けて立った。
「こ、コピリーさん……!!」
「おい小僧!! マジでやめろ!! コピリーさんはな、今の俺達にとって大切な……」
「だからってケジメつけなくていい道理なんてねぇ!!! コイツの所為で俺の大切な人がどれだけ迷惑被ったか……いつまでも逃がしていいワケがないんだよ!!!」
これ以上コピリーエースを庇い続ければ物理的にも、法律的にも作業員たちが巻き込まれる可能性がある。
白斗は敢えて彼らを乱暴に突き放した。
「……まぁ、それは俺にも言えることなんだけど。 俺にもいつか報いが来るんだろうさ」
「? 何か言ったか? ものを言う時は腹の底から大声を出すべきだぞ!!」
「あー、何でもねぇ。 ただの“弱音”だよ」
(白斗……そんなこと無いって、言ってるのに……)
ただ、それは白斗自身にも突き刺さる盛大なブーメラン。
また自嘲しながらも、白斗は決して逃げることなくこれから戦うべき相手を睨みつける。
過去の罪に身を焦がす白斗を、ネプテューヌ達はそれでも「違う」と断じて、白斗を見守っていた。
今すぐ彼に駆け寄って抱きしめたい衝動を何とか抑えながら。
「ハッハッハ、弱音とは情けない!! それで本当に勝てるのか!?」
「情けないのは事実だが……勝つつもりしかねぇよ!! オーバーロード・ハート!!!」
だが、白斗の全ては女神達のためにある。
彼女達のためにも勝つしかない。だから彼は最初からフルスロットルで―――機械の心臓を過剰稼働させ、一気に身体能力を引き上げた。
「ぜやあああああああああああッ!!!」
「がッ!!?」
更にその手に太刀をコールさせ、一気に肉迫する。
相手を侮っていたコピリーエースはその動きを捉えることが出来ず、白斗の力任せの一線を受けてしまった。
(は、速い……!! それにあの太刀は確か、プラネテューヌの女神の武器……!!)
普段白斗が使う武器はナイフや銃。だがそれではこのロボットには大したダメージにはならない。
だからこそ白斗は今回は攻撃力重視の装備で挑むことにした。
ネプテューヌの愛刀は、まさに打って付けである。
「ふ、フハハハハハ!! やるじゃぁないか、これは評価を改めないとなぁ!!!」
「どーも……と言いたいが固すぎだろそのボディ……!!」
「これが俺様の持ち味だからな!! 今度はこっちの番だあああああああああ!!!」
大声を上げながらコピリーエースはアクセル全開。
下半身のタイヤが地面を砕きながら、白斗へと突撃する。
この速度―――避けることは出来ない。受け止めるしかなかった。
「グッ!! オオオオオオオオオオオォォォォッ!!!」
「おおぉぉっ!! まさか真っ向から受け止めるとは!! ハハハ、本当はお前もかなりの男気があったんだな!!!」
「ぐッ、オオオオォォ……!! いや、俺とて……ホントはお前のこと、悪く言えるほど……真っ当な人間じゃ、ねぇよ……!!!」
衝撃で全身が押しつぶされるような激痛が走り、口から血が漏れた。
思わず女神達が悲鳴を上げ、腰を浮かそうとする。
それでも白斗は背中で語り掛けた。「出てくるな」と。
そんな最中でも、やはり白斗は己の所業を自覚している。自覚しているからこそ。
「でもな……ッ! 俺がどんだけクズ、だったとしてもッ……!! ネプテューヌ達のためならッ……!! なんだって受け入れてやるさっっっ!!!」
(白斗……!)
(……なるほど、前回のあの立ち振る舞いもあくまで女神達のことを考えて、か)
ようやくコピリーエースも黒原白斗という男を理解する。
確かに彼は卑怯な男かもしれない。だが非情では無かった。
彼にとって何よりも大切な女神達のために、どんなことでもしてみる覚悟を持った戦士だったのだと。
「いいじゃないか!! ハハハ、お前の事を見直したよ!! 決めた、もう俺様にとってお前は立派な漢だ!!! 他の誰にもお前のことを悪く言わせはしない!!!」
誰かのためならばどんな悪名だろうと、どんな痛みだろうと受け止めて見せる。
そんな白斗の姿にコピリーエースは感激していた。
「だからこそ!! お前を全力で倒すッ!!! そぉらっ!!!」
「ぶッ!!?」
しかし、遂に取っ組み合いも均衡が崩れた。
コピリーエースが拳を振り上げ、白斗の横っ面を豪快に殴りつけたのだ。
何せ鉄の塊を思い切り受けてしまったようなものだから、白斗はすさまじく後方へと滑らされ、頭から血が川の様に流れ出る。
ネプテューヌ達は最早いつ飛び出すかも分からないほどに震えていた。
「げほっ、ぐッ……!! あー……首の骨折れるかと思った……」
「ハッハッハ、お前こそ中々頑丈だな!! だがそんな頑丈な体でも、オーバーロード・ハートだったか? それに長時間耐えられまい!!!」
何とか気合で持ちこたえた白斗だったが、このままでは負ける。
今、何とか食らいつけているのは機械の心臓を過剰作動させているお蔭だがそれ故に体の負担が凄まじいのだ。所謂ドーピングにも近い。
白斗もいつ倒れてもおかしくないほどの激痛が体を駆け巡っていた。
「だからこそ!! 今、楽にしてやる!!!」
「……来いよ」
また必殺の突進を繰り出すつもりだ。
だが白斗は逃げる素振りを見せず、またもや受け止める姿勢を見せた。
「喰らええええええええええええええええええええええええッ!!!」
渾身のタックル、あらゆるものを砕くコピリーエースの必殺技。
それを白斗は受け止めることが出来ず空中へと弾き飛ばされた。
「ガハァッ!!!」
「は……白斗ぉおおおおおおおおおおおおッ!!?」
口から盛大に血を撒き散らし、体は錐揉みしながら坑道の天井近くへと打ち上げられる。
今度こそ女神達も悲鳴を押さえられず、白斗を救おうと飛び出―――
「待ってたぜ……この瞬間をよォ!!!」
「何ッ!!?」
―――それこそ、白斗が待っていた必殺の瞬間でもあった。
コピリーエースのタックルによって白斗は“狙い通り”天井へと打ち上げられる。
そして天井に足を付け、「オーバーロード・ハート」の脚力で天井を蹴った。まるでミサイルの如き勢いで、コピリーエースの頭上へと迫る。
「コール!! ハンマー!!」
「んなぁッ!!?」
だがそれだけではない。今度はその手に、ブラン愛用のハンマーを取り出したのだ。
これこそが彼女から借りていたもの。重く、隙も大きいが一撃一撃の破壊力はまさに必殺級。
そう、コピリーエースの鋼鉄の装甲だろうと叩き壊せるほどの重量。
オーバーロード・ハートによって高められた腕力、更には空中からの重力落下に加えて天井を蹴った勢い。
それら全てを乗せた、白斗の必殺の一撃が何の縛りも受けない空中から―――。
「ぜぇえええええええええええええええええええい!!!」
「グガァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!?」
コピリーエースの脳天に、叩き込まれた。
凄まじい衝撃波が彼の頭を突き抜け、数秒もしない内に亀裂が走る。
当然、ロボだろうが人だろうが急所である。こんな時でも、白斗は最大の持ち味である「急所を突く」ことを発揮したのだ。
「ガ、ァ…………ッ!! ……見事……だ……」
「ハァッ、ハァッ……ったく、これだからメカ野郎は苦手なんだよな……ゲホッ!!」
頭部が潰され、爆発する寸前のコピリーエース。だが、今度は素直に白斗を褒め称えた。
しかし、今回勝てたのはネプテューヌ達から武器を借り、人造機械という邪道な手段を用い、周りの地形や相手の攻撃を120%利用したからだ。
どれか一つ欠けても勝利を掴めなかった辺り、まだまだ黒原白斗と言う人間の弱さを思い知る。
「それでも……お前は、勝った……完敗、だよ……。 今度……俺様が、生まれ……変わったら、その時は……友、と……して…………ごばらばぐっしゃぁっ!!!」
コピリーエースはそれでも白斗という漢を認め、そして爆散した。
辺りに彼の残骸が飛び散り、白斗もやっと脱力して腰を下ろした―――瞬間。彼に詰め寄る影が複数。
「てめぇ!! よくも、よくもコピリーさんをぉぉぉッ!!」
「あんなになるまでやる必要無かったじゃねぇか!! このクソ野郎ォ!!!」
「ケジメつけろやクソガキィ!!!」
(はー……まー、こうなるわな。 ネプテューヌ達を出張らせなくて正解だったわ)
それは戦いを見守っていた作業員たちだった。
先程まで親しくしていたコピリーエースは彼らにとってまさに友。その友を爆散させた白斗は、仇以外の何者でもなかった。
もしネプテューヌ達が彼を倒していたらこの憎悪は女神達に向けられていたはずだ。だからこそ白斗は彼女達を下がらせ、汚名を被る覚悟で戦いを挑んだのである。
はたして、狙い通り彼らのヘイトは白斗ただ一人に向けられていた。
「待ちなさい、貴方達!!」
(ブラン!? 皆も……おいおい、出張るの早過ぎだって!?)
その瞬間、ついに我慢できなくなったブラン達が飛び出してきた。
自分達に代わって死闘を戦ってくれた白斗が暴言に晒される―――心優しき少女達がそんな理不尽に耐えられるはずもなく、白斗を気遣ったのだ。
今の段階ではまだ作業員たちのヘイトが女神に向く可能性があることを白斗は懸念するが。
「……不幸中の幸いか、そこのロボットの残骸は大き目だわ。 全て回収すれば修復できるかもしれない」
「め、女神様……! ホント、ですかい……?」
「手は尽くすわ。 その上であのロボットには罪を償わせる。 だから彼を……白斗を責めることは許さない! 彼はやるべきことをやっただけ……彼を責めるのは筋違いよ」
本当は全力で白斗を守りたかったが、それをすると余計に白斗への悪感情が向くかもしれない。
だからこそブランは必死に言葉を選んだ。
これまでを通じて学んだ知識や経験が実を結んだのか、作業員たちの雰囲気がみるみる萎んでいく。
「……割り切ってやる。 だが……納得はしてねぇからな」
「ああ、それで……いい……。 お、ぉっと……?」
「白斗っ!!」
ようやく剣呑な空気が収まったことで緊張の糸が切れたのか、白斗が崩れ落ちる。
咄嗟にネプテューヌ達が白斗を抱きかかえ、優しく地面に下ろした。
「白くん~!? 大丈夫~!?」
「お、おぉ……だいじょうぶよ……」
「そんな死にそうな声と顔で言っても説得力無いよお兄ちゃん! 私も最近ヒール覚えたから、今治してあげるね!」
「あたしも~!! 白くん、元気になって~!!」
「……ありがとな」
すぐさまネプギアとプルルートが優しい光で白斗を照らしてくれる。
徐々にではあるが傷口が塞がり、痛みも和らいできた。
骨の罅までは即座にとはいかないが、ある程度受け身を取ったおかげで骨折は無い。二人の回復魔法と合わせて完治するはず。
恋次元にてノワールと特訓した日々が活かされていると、白斗は彼女に絶えず感謝した。
「もぉ~!! こんなにボロボロになっちゃってぇ……!!」
「全くだ!! こっちがどれだけ寿命を削ったか……とりあえずこの後はウチの教会で絶対安静にしてもらうから覚悟しとけ!!!」
「ネプテューヌにブランも大袈裟……あ、すいません。 マジで安静にするので涙ぐまないで」
凄い剣幕で捲し立てられたと思いきや目に涙をいっぱい浮かべる女神達。
女の涙に何よりも弱い白斗としては素直に白旗を上げるしかなかった。
直後、凄まじい疲労と鈍痛により意識が落ちてしまい、白斗はしばらく眠ることとなった。
☆
「……あー、暇だ。 暇だ暇だ暇だぁ」
白斗は布団にくるまれながら、独り言ちていた。
目覚めたら木造の天井。左右を剥けば襖や畳が広がる部屋。
そう、ここは神次元のルウィー教会の一室である。あの後気絶した白斗をネプテューヌ達はここまで連れてきたらしい。
眠っている間に粗方の治療は終わり、大事を取って安静……ということらしかった。
「なぁロムちゃん、ラムちゃん。 お兄ちゃん暇だから外出てきていい?」
「ダメー! お兄ちゃんを見張れってお姉ちゃんがから言われてるんだからー!」
「お兄ちゃん、無理しないで……(うるうる)」
「……はい、すんません」
しかし、存外堪え性が無いのか外に出たがる白斗。
そんな彼を引き留めているのはロムとラムであった。今回待機を命じられた二人だが、白斗を出させまいと懸命に叱りつけている。
幼女に叱られるとは何とも情けない……と、白斗は肩を落とす。
(はぁー、ネプテューヌ達どうしてんのかなぁ……。 ベールさんの手伝いに行ってるってことらしいけど、大丈夫なんだろうか……)
現在ネプテューヌ達はここにはいない。
白斗が安静にしている間、リーンボックスのトラブルに救援に駆けつけているとのことだ。
リーンボックスでは何でも「不気味なモンスターが暴れており手が付けられない」とのことらしいので、白斗も手伝いたかったのだが。
「えぇっと、今リーンボックスではどうなってんのかな……ポチっと」
さすがにそのままでは退屈死しかねないので、リモコンを操作してテレビを点ける。
やがて画面に映されているのは、今最も知りたいリーンボックスのニュースである。
『では次のニュースです。 先程までリーンボックス郊外で暴れていたモンスター群ですが、ベール様らの活躍により撃退されたとの報告がありました』
「お、撃退できたのか。 良かった良かった」
どうやら事件は無事解決を迎えたらしい。
ニュースには今回の事件の顛末を伝えるベール達の姿も確認できた。特に大きな怪我も負っていないらしい。
ならば連絡しても問題ないだろうと白斗は端末を用いてネプテューヌに連絡を取る。
数秒もしない内にネプテューヌ達が画面いっぱいに映し出された。
『白斗! もう大丈夫なの?』
「おう、元気有り余って退屈なんだよ。 それよりもそっちでの事件は解決したみたいだな。 お疲れ様」
『まーね! まぁ今回のモンスター、強くは無かったんだけど……』
「けど?」
『固すぎで中々倒れないし、見た目すごく気持ち悪いし、しかもあのアクダイジーンのおじさんが邪魔して結局逃げられちゃったんだよねー』
「アクダイジーン……やっぱ七賢人の仕業か」
白斗の予想は当たっていた。
ルウィー、リーンボックスの事件も七賢人の仕業ならば残るラステイションのハッキング騒動も七賢人が引き起こしたものと見て間違いないだろう。
そこへベールが通信に割り込んできた。どうやら白斗と話をしたかったらしい。
『しかもその男、やたらそのモンスターを可愛がっているみたいなのですわ』
「可愛がって……? また妙な話だな」
『ええ。 娘、とも呼んでおりましたわ』
「……娘?」
何か引っかかりを覚えた。
普通なら常人には理解できない性癖の持ち主で片づけてしまうところだろう。
丁度テレビの画面に映し出されたモンスターこと「ひよこ虫」なる、確かに身の毛がよだつような風貌のそれを可愛がるなど到底ありえないのだが。
(……何だ? 何だか妙な胸騒ぎがする……)
何故か白斗はこの件を切り捨てられないでいた。
直接相対していないため、その胸騒ぎの答えは見つけられずにいる。だが、このまま放っておいてはいけない。
長年積み重ねられてきた彼の直感が、警鐘を小さく、しかし絶え間なく鳴らし続ける。
『それより白斗! 事後処理終わったらすぐに戻るから!』
『あんせーにしててね~』
『ロムちゃん、ラムちゃん! お兄ちゃんのこと、頼んだからね!』
「「らじゃー!」」
「信用ねぇなぁ、俺ェ……」
なんて言いつつも、双子の隙あらば飛び出したい衝動に駆られる、とことん困った男である。
この場にノワールがいてくれたらきっと白斗の援護に……否、彼女もなんだかんだで白斗を心配してネプテューヌ達の側に回っただろう。
と、そんな事を考えていたからだろうか。
「……そういやラステイションの方はどうなってんだろうな」
『実はさっきから電話してるんだけど、一向に繋がらないの』
「やっぱりまだハッキング騒動は続いてるのか」
ネプギアが明らかに困ったような顔色と声色で告げてくる。
繋がらない、ということは件のハッキング騒ぎによるネットワーク障害がまだ終わっていないということだろう。
新興国であるラステイションにとって長時間騒動が収まらないというのは信用を落としかねない一大事。ノワールも恐らく今頃頭を抱えているだろう。
『ラステイションの情報はあれから一向ni入 ※k なイn#■ド――――』
「ん? ネプギア? みんな、聞こえるか!?」
しかし、ネプギアとの通信中。急に彼女の声にノイズが掛かりだしたのだ。
声だけではない。映像も揺らぎ、途切れ、そしてノイズが走り始める。
これではまともな通信が出来ない。既に音声だけでは何を言っているのかも分からない状況だ。
(まさか、件のハッキングの影響か!? だとしたらどんだけなんだよ、今回のハッカーって奴は!? とにかく、もう声じゃ何を言っているかも分からねぇ!! なら―――)
一刻も早くこの騒動を解決する必要がある。そのためにはラステイションへ行かなければ。
だが声ではもう意思疎通が出来ない。一方、映像では画像に乱れがあるものの、まだ何とか相手の顔や表情は辛うじて読み取れるレベルだ。
ならばと白斗は近くのメモと筆記用具を取り、急いで書き殴る。
『ラステイションで落ち合おう』
メモの内容は何とか伝わったらしい、ネプテューヌ達が頷く姿が辛うじて確認できた。
直後、映像が途切れる。どうやら通信そのものが遮断されてしまったらしい。
とは言え、これで最低限の連絡と指針は伝えられただろう。
「あわわ……大変……!(あわあわ)」
「な、何がどーなってるの!?」
「こりゃラステイションの騒動を解決しないとダメっぽいな。 そういうワケだから行ってくるね」
「え? あ、はーい」
あまりにも自然な動きで白斗が立ち上がり、スタスタと歩いていってしまう。
トラブルに次ぐトラブルで、幼き双子の処理が追い付いていなかった。
だから、つい見逃してしまったのだ。
「……ら、ラムちゃん? お兄ちゃん、行っちゃったけど……(おろおろ)」
「…………あーっ!? やっちゃったーっ!?」
大慌てで白斗を探しに出るも時すでに遅し。
フットワークの軽い白斗の姿があるはずもなく、茫然自失となってしまうロムとラムであった。
襖を開けた向こうに残された一枚の書置きだけがある。そこには「帰ってきたらお土産あげるからね」というしょうもない一文だけだったという―――。
☆
「あーもーっ!! 誰よ私の国をメチャクチャにしてる奴はっ!!」
「お、お姉ちゃん落ち着いて……」
その頃、ラステイション教会の執務室でノワールが怒りのままに机を叩いていた。
衝撃で机の上に乗っていたペン立てやらの小物や書類の束、のみならず傍に控えていたユニの華奢な体までもが震え上がる。
ラステイションに帰還してからというもの、ずっとこの調子なのでユニもほとほと困っていた。
「はぁ、どうしたらいいのよコレぇ……」
実際のところ、八方塞がりだった。
ラステイションは新興国、その支えとなっていたのが最先端技術の導入である。
即ち高性能なパソコンやネットワークの普及で国を発展させていたのだが、問題は敵側が人間業とは思えないハッキング能力で完全にネットワークシステムを掌握されてしまっていることだ。
お蔭でこちら側はパソコンを使った対策が打てず、人海戦術だけではどうにも時間が掛かってしまうのである。
「落ち着けよユニ、そう言う時のために俺らがいるんだ」
「え? 白兄ぃ!?」
するとユニの背後から温かい男性の声が。
思わず嬉しそうに振り返れば、想い人にして頼れる兄貴分こと黒原白斗が立っていた。
「なーにカッコつけちゃってんの! この重傷人がー!」
「お姉ちゃんの言う通りです! 私達、ぷんすこなんですよ!」
「白くん~! あたしだって激おこなんだからね~!」
「え、ええと……ネプギアにみんな?」
それだけではなく、ネプテューヌ達プラネテューヌ勢までもが来ていた。
皆、絶対安静と言われた白斗が抜け出してきたことにご立腹の様子であったが。
「わ、悪かったって! お蔭で犯人の手掛かり掴んだんだからお相子にしてくれよ、な?」
「犯人の手掛かりですってぇぇぇッ!?」
「ぬおわッ!? ノワール、噛みつくな!!」
ぬっ、とノワールが白斗に噛みつかんばかりの勢いで迫りくる。
その眼は血走っていた。どうやらストレスが限界に来ているらしい。
彼女のためにも、犯人の元へ導かなくてはと白斗は咳払い一つして姿勢を正した。
「大体手掛かりって、どうやって掴んだの?」
「何、単純にネットワークの混乱が起きていない場所を探しただけだ」
白斗が自分のスマホがら画像を表示する。
そこに映し出されたのは、このラステイションにおける地図だった。
なのだが、至るところにビッシリと赤い×による消込がされている。
「まずハッキング騒動だが、他国では発生していない上に新興国ラステイションは他国とのネットワーク回線をそこまで繋げていない。 つまり他国からのハッキングとは考えにくい」
「ハッキング犯はラステイション内にいる、ってことだよね」
「そう。 んで、俺達でハッキングの被害が出ている地域を虱潰しに探してみたってワケ」
どうやらこの赤い×印は被害があった地域を表しているらしい。
ラステイションのほぼ全域だけに地図が赤一色に染まっている。
―――ただ一ヵ所の例外を除いて。
「更にこの辺りの地域で既に企業などが入っているビルなどを除いた、怪しい建物が……この一軒ってワケだ。 聞けばここは無人だが、電気メーターなども動いているみたいだ」
更にスマホに浮かび上がった画像、そこに映し出された怪しげな雰囲気の建物。
立地も悪くなく、ハッキング用の機材を設置するには十分なスペースもあるといった点が信憑性を高めていた。
「どうだノワール? 素人の推理だが……ここでくすぶっているよりは賭けてみる価値はあると思うが」
「ええ、ナイスよ白斗……。 やっと、やっと……フ、フフフ……」
目を血走らせたノワールは不気味な笑い声を浮かべながら愛用の片手剣を研ぎ始めた。
完全に犯人を血祭に上げるつもりらしい。正直、周りの誰もがドン引きしていた。
「ノワールちゃん、怖いよぉ~……」
「やれやれ、これはお目付け役が必要かな」
「白くん~……?」
「ぷ、プルルート睨まないでくれって。 あくまで後方支援、戦闘にはもう加わらないから」
ここに来てまだ白斗も作戦に加わるつもりらしい。
プルルートのみならず、周りの少女達も白斗に冷たい視線を送り続けた。
実際、この面々は抜けているネプテューヌにプルルート、そして殺意の波動に目覚めたノワールと凡ミスをしかねない。
何かしらのフォローは必要だと白斗は譲らなかった。
「それに、恐らく七賢人の最後の一人が絡んでいるはず。 ここまで来たら俺もツラくらいは拝んでおきたいんだよ」
何より、今回の騒動は全て七賢人が絡んでいる。
そして今までのメンバーにハッキングが得意な者がいなかった。となるとまだ見ぬメンバーの仕業のはず。
今後のためにも顔くらいは把握しておきたかったのだ。
「はぁ~……こうなった白斗は聞かん坊だからなぁ~」
「迷惑かけるな、ネプテューヌ」
「そう思うんならやめて欲しいんだけど!? もういい、こうなったら白斗は私が守るから!」
「男女逆じゃね!? 」
断固たる決意を固めたネプテューヌ。
彼女の騎士として、男として、本来なら白斗が彼女を守るべきなのに。
しかしくどいようだが、事実正面戦闘では白斗は驚くほど役に立たない。いざとなれば足を引っ張る可能性も否めなかった。
「お姉ちゃん、大丈夫だよ。 お兄ちゃんは私が守ります!」
「ネプギアじゃ役不足よ! 白兄ぃはアタシに任せなさい!」
「妹達まで参戦しちゃったよ!? 後ユニ、役不足は意味が違うからな!?」
「白くん~! あたしも守ってあげるからね~」
「プルルートまで……ああもう、頼りにさせてもらいますよ」
ネプテューヌにだけいい格好はさせないとネプギア達も名乗り出てくる。
いい加減疲れてきた白斗は、いっそ彼女達に任せようかと投げやりながらも護衛を任せることにした。
―――無論、有事には自分が率先して動くつもりだが。
「漫才はそこまで!! さぁ、とっととこのバカ騒ぎを終わらせに行くわよぉ!!!」
そんな和気藹々の一時は、怒りに満ちたノワールの一喝で途切れるのだった。
☆
―――白斗の案内の元、辿り着いた建物。
テナント募集中の建物で無人であるはずなのに今でもメーターが凄い勢いで回っている。
恐らく、ハッキングのための機材に使っている電力が馬鹿にならないのだろう。
「間違いないわね。 人の気配もある」
「出入口もこの扉一つだけだ。 ……みんな、準備は良いな?」
「「「「お~!!」」」」
唯一の出入り口となる扉の前で白斗達は固まっていた。
既に各々が自らの得物を手にしている。接近戦のスペシャリストに狙撃のスペシャリストが勢揃いしており、更にはこの建物を取り囲むように白斗がブービートラップを始めとした罠を各種設置している。
七賢人最後の一人、絶対に逃がすわけにはいかないという固い決意の表れだ。
「行くわよ。 3、2、1……突入!!」
ノワールの合図に合わせて一斉に扉へ突進を仕掛ける。
如何に華奢と言えど女神五人分と男一人のタックルを受け切れるはずもなく、扉は無残にも破壊された。
その先に広がっているのは薄暗い部屋の中、計器類の光が怪しげな星のように光る光景。
そしてそれに向き合う、ロボットのような人影。
「貴方ね、ラステイションを混乱させたハッキング犯は!? もう逃がさないわよ!! 大人しく手を上げなさい!!」
「つーかまたロボットかよ。 コピリーといい、七賢人はメカ好きか?」
計六人分の殺気を叩きつけられて、ロボット姿の人物はゆっくりを手を上げる。
やがて椅子を回転させてくるり、と女神達に向き合った。
無機質さしか漂ってこないその風貌に誰しもが息を飲んだ。
「あら失礼ねぇ。 これは高性能スーツ、アタシはれっきとした人間よぉ?」
「ねぷぅっ!? 実は人間だった上にその声、オカマさん!?」
「益々失礼ねぇ。 アタシの心はれっきとしたオトメよぉ?」
「オカマであることは否定しないのな……」
しかし、そのスーツの下から飛び出してきたのは甲高い男の声。
オカマとしての言動に思わずネプテューヌはずっこけてしまった。
白斗とて七賢人への怒りも一瞬だけ忘れて呆気に取られてしまう程である。
「初めましてになるわね。 アタシが七賢人最後の一人にして裏方担当、スーパーハッカ―のアノネデスちゃんよぉ!!」
七賢人最後の一人の名に恥じない、中々強烈な個性の持ち主が出てきたものだと、誰もが顔を引きつらせている。
確かにハッキングが得意そうな見た目ではあるが、それ以上のインパクトがあった。
「そ、そんなことより!! ハッカーってことはやっぱり私の国をメチャクチャにしたのはアンタの仕業だったのね!!」
「酷いわノワールちゃん、そんな人を犯罪者みたいに呼ばないで頂戴」
「犯罪じゃないの!! 大体なんでラステイションを狙ったのよ!? ネットワークって意味ならプラネテューヌやリーンボックスだってあったでしょ!!」
「お、お姉ちゃん……それって他の国が標的だったら良かったって意味……?」
ハッキングを仕掛けたアノネデスへの怒りの余り、とんでもないことを言いだしているノワール。
彼女の言は兎も角、確かにわざわざ新興国であるラステイションを狙ったことに意味があるのだろうか。
「それじゃダメなのよ。 アタシ、ノワールちゃんの大ファンなんだから」
「だ、大ファン……?」
「そうよぉ!! 美しく、可愛く、努力家で才能溢れるノワールちゃんのファンになっちゃったのよアタシ!! その証拠にホラ、アタシのとぉっておきのコレクション大公開~!!!」
指を鳴らしたアノネデス。
それに合わせて、空中に幾つもの画面が投影された。
だが目を惹いたのはその技術力ではない。その画面に映された―――ノワールがコスプレをしている姿の写真、その数々である。
「のっ、のっ、のっ……のわあああああああああぁぁぁぁぁ~~~~~~!!?」
「あーあーあー……コスプレ写真大流出だよコレ……」
折角隠し通してきたのにとノワールは涙目で必死に画面を隠そうとする。
だがあれは光が生み出した虚像、触れられるはずもなくノワールの必死な手は虚空を切るばかり。
これには白斗も同情を禁じ得なかった。
「あ、ユニちゃんとノワールさんが仲良くしてる写真まで!」
「ええ! 異世界からの妹って聞いたけど、姉妹同士のカラミも中々オツじゃない? まぁ、アタシはノワールちゃんがいればいいから、ユニちゃんなんてアウトオブ眼中だけど」
「な、なんですってぇ!!?」
そして写真の中にはノワールとユニの姉妹の画像まであった。
だがアノネデスの目的はあくまでノワール、ユニは特に興味がないようだ。
ぞんざいな扱いをされたとあってはユニも怒り心頭になってしまう。
「うっふふん、気に入ってくれたかしらぁ?」
「こ、こ……このぉッ……!!」
ノワールは既に血管という血管を浮き上がらせている。
あれがいつブチ切れるかわからない。そうなれば、ノワールは大爆発してしまうだろう。
その烈火の如き怒りは恐らく、アイリスハートの比ではない。
確かにアノネデスはやり手だ。おまけにレスバトルも強いと来た。
それだけにこの男―――黒原白斗にはどうしても違和感が拭えなかった。
「それだけか、アノネデス」
「あらぁ? 白さん……だったかしら、どういう意味?」
「そのままの意味だ。 ノワールにアピールするためだけに各国で騒ぎを起こし、挙句ノワールを引っ張り出してきたワケじゃねぇだろ」
白斗はこれまでの観察結果から、このアノネデスという人物がエキセントリックながらもかなりの知能犯だと確信している。
だからこそ、このオカマが何の意味もなく仕掛けたとは思っていない。
「……さっすが、アタシの盗聴を悉く防いできただけあるわね」
「盗聴……って度々ウチに仕掛けられてた盗聴器、あれはお前の仕業か!」
「そうよぉ、でももういいわ。 だって、“貴方達がここに来た時点でアタシの勝ち”なんだから」
プラネテューヌでは度々盗聴器などが仕掛けられることがあった。
それらは白斗が持ち前の危機察知能力や経験則から即座に発見、処分してきたのだが、全てこのアノネデスによるものだった。
全ての点と点が繋がり、一つの綺麗な線となる。
「……まさか、プラネテューヌで騒ぎを起こしたのは俺達を引っ張り出すためか!?」
「正確には白さんよぉ。 貴方がいるとロクに調べ物が出来ないんだもの。 でもそれももうオシマイ、欲しい情報は手に入れたしぃ。 あ、今のところ誰かに直接手を出してるワケじゃないからそこは安心して頂戴」
そして今回の騒ぎの目的、それは白斗をプラネテューヌから離れさせることだった。
白斗がいなければ情報収集は捗る。事実、アノネデスは目的を果たしてしまったらしい。
やはり油断ならない知能犯だと、白斗はナイフと銃を握る手に力を更に込める。
「やぁねぇ、皆してそんな殺気を漲らせないで頂戴よぉ。 アタシは裏方担当、戦闘は専門外なんだからぁ」
「その割にはお前、やる気じゃねぇか」
「だぁってぇ。 やる気を出さないと……逃げられないじゃな―――い!!!」
アノネデスが腕を広げるや否や、ノワールの画像を映し出していたディスプレイが一斉に襲い掛かってきた。
一つ一つが物理的攻撃力を持っているらしく、しかもその殆どが白斗目掛けて飛んでくる。
「白斗っ!!」
「危ないっ!!」
避けようにも数が多く、更には白斗の体は未だ本調子ではない。
すぐさま女神化したネプテューヌとプルルートが刃を振るって飛んでくる画面の数々を叩き落とした。
「率先して白斗を狙うなんて……! でも、私達がいる限り白斗には指一本触れさせない!」
「正直、オカマさんは全ッ然好みじゃないんだけどぉ……白くんを狙った報いは受けてもらわなきゃねぇ!?」
「ネプテューヌ……プルルート……!!」
これまでどちらかと言えば呑気にしていたプラネテューヌの女神二人だが、白斗に攻撃の矛先が向いたことですっかり剣呑な雰囲気となっている。
刃の切っ先を倒すべきアノネデスへと向けるが、当の本人は楽しそうに笑うばかり。
「アッハハハ!! 乙女ねぇ、アタシそういうのすっごく大好き!! もっともっと見せて頂戴、乙女は恋バナで盛り上がるんだからぁ!!!」
「調子に乗ってんじゃないわよぉ!! トルネードソード!!!」
尚も嵐のように襲い掛かるディスプレイ。
それらをノワールの斬撃が吹き飛ばした。剣の一振りで嵐のような風圧が巻き起こる。
「私達だって!!」
「忘れてもらっちゃ困るわよ!!」
「俺だって守られたままってのは性に合わねぇよ!!」
次いで女神化したネプギアの刃、ユニの弾丸も炸裂し、ディスプレイを一つ一つ破壊していく。
白斗も負けじとナイフと銃を手に、迫りくるディスプレイを撃破していった。
だが如何せん数が多い。壊せども壊せども一向に数が減る気がしない。
「あらあら……さすがに数の暴力ねぇ。 まぁいいわ、ここは大人しく負けを認めましょ。 女神化して戦うノワールちゃんの写真も頂いたしぃ? エクスクルージング!!」
「待ちやが……グッ!? クソッ、何が戦闘は専門外だ!!」
だが決め手に欠けているのはアノネデス側も同じらしく、逃走を宣言した。
ここで逃がすわけにはいかないと彼の元へ向かおうとしてもディスプレイが的確に襲い掛かってくる。
これだけの物量かつ精密な攻撃、戦闘が苦手な人物には到底できない芸当である。
「逃げられると思ってんの!? 外は既に……」
「白さんの罠で固めてるって? そんなの想定内に決まってるじゃなーい」
余裕を一切崩さないアノネデスが指を鳴らす。
すると床がまるでハッチのように開いた。その下には階段が続いている。
「んな!? 隠し通路!?」
「これくらいの改造は朝飯前よぉ。 それじゃぁね、ノワールちゃん達ぃ。 もうすぐ、アタシ達がこのゲイムギョウ界に最高にアメージングなショーを見せてア・ゲ・ル♪ バイバ~イ♪」
まさか建物を無断拝借した挙句無断改造するとまでは思っていなかった。
当然隠し通路なんて把握しているわけがないので、その先に罠なども設置できるはずもなく。
大量のディスプレイに阻まれている間に、アノネデスは悠々と地下通路へと潜っていってしまった。
直後、ハッチは固く閉ざされる。
「あ、アイツううううぅぅぅぅッ!! 逃げやがったああああああああああッ!!!」
「の、ノワールさん落ち着いてください! こうなればハッキング及びこのディスプレイ生産機の元を断ちましょう!」
「元……となると、あのバカでかい機械ね!」
ネプギアとネプテューヌの視線が一つに注がれる。
それは先程までアノネデスが操作していた大型のコンピューターだ。
自動操縦になっているらしく、本人が不在の今でもハッキングは尚続けられ、それを守ろうとディスプレイが生み出される。
確かにあのコンピューターを破壊しなければ進展はしない。
「ああもう、しつこいわねぇ……!! あたし、ムシャクシャしてるしぃ……纏めて薙ぎ払ってあげるわぁ!!」
「プルルートの言う通りね!! 大技で一気に切り伏せるッ!!」
「それしかないな!! ユニ、トリは任せたっ!!!」
「っ!! ラジャー!!」
こうなればやることは一つ。高威力、広範囲の大技の連発で一気に敵を薙ぎ払うのみ。
そして白斗がトドメに任命したのが、この中で精密射撃が可能で、尚且つ高出力の銃撃が出来るユニことブラックシスターだ。
白斗に大役を任されたとあっては、ユニも張り切るしかない。
「焼き尽くしてアゲル……!! サンダーブレードキック!!!」
アイリスハートが放つ、無数の落雷と強烈な蹴りによる爆風が当たりを焦がし、吹き飛ばす。
これだけでもディスプレイは相当数減ったが、それでもまだ数がある。
「粉微塵になっちゃいなさい!! インフィニットスラッシュ!!」
そこに迸る、ブラックハートによる無数の剣閃。
彼女の視界に入るもの全てが細切れにされた。それでもディスプレイは際限なく生み出されていく。
「決めるわ!! ネプテューンブレイクッ!!!」
しかし、ネプテューヌの高速斬撃が嵐のように閃いた。
それはディスプレイの生産速度を上回り、遂にはその数を徐々に減らしていく。
「ユニちゃんに道を!! ―――
次いでネプギアが、剣先から極太の光線を放った。
全身全霊の光線は真っ直ぐにコンピューターへと飛んでいく。ディスプレイ達は自らを縦にして光線を受け止めた。
だが、遂にそれが決定的な隙となる。
「ユニ、今だっ!!!」
「はいっ!! いっけえええええええええええええッ!!!」
ユニを狙おうとするディスプレイは白斗がナイフやワイヤー、銃を用いて叩き落す。
何人たりとも女神に触れさせない。
皆が作り出してくれた一瞬の道筋を得て、ユニが手にしたブラスターから全力の弾丸を放つ。
弾丸はディスプレイ達の僅かな隙間を縫ってコンピューターへと突き刺さり―――数瞬遅れて炸裂し、大爆発を引き起こした。
「やったぁ!! やったわ、白兄ぃ!!」
「お見事だ。 こりゃ、とっくに俺なんざ超えちまってる。 さすがは女神ブラックシスターだよ」
「ふふん、当然よ! でも、まだまだ白兄ぃからは教わりたいことがあるんだからね!」
「へいへい。 お付き合いしますよ」
元々女神としての素質や彼女の努力が実を結び、ユニの狙撃能力が開花した一幕であった。
尤もユニとしては白斗との一時を失いたくないので、まだまだ特訓に付き合わせるつもりでいるようだが。
そんな和気藹々とした場面を眺めていると、ノワールの通信端末に連絡が入った。
「……そう、分かったわ」
「あら、ノワールちゃん。 通信が回復したってことは……」
「ええ。 今、ハッキングが解除されて全てのネットワークが元に戻ったそうよ」
「ならこれで一件落着……にはならないわね」
「そうだね。 肝心のアノネデスさんが逃走したままだから……」
一先ずハッキングは収まったようだ。
しかし、肝心のハッカーことアノネデスは以前逃亡したまま。またハッキングを仕掛けられる恐れがある。
一応追跡はさせているらしいが、何かと逃げ足の速い七賢人のことだ。また逃げられてしまうのがオチだろう。
「……しかしアイツ、プラネテューヌで一体何を調べてたんだ? 何を狙っている? 何だ……この胸のざわつきは……?」
だが、白斗はそれとは別にアノネデスが一体何を調べていたのか、何をしでかすつもりなのか。
ただ、漠然とした不安を覚えるばかりだった。
☆
―――某国某所。
ここは七賢人の会議室。いつもは何だかんだで騒がしいこの会議室も、二人の人物しかいない。
先程帰還したばかりのアノネデスと、この七賢人の一応リーダーことキセイジョウ・レイである。
「うっふふふ! レイちゃん、どうして黙ってたのかしらぁ?」
「い、いえ! その、黙ってたとかそういうことではなくて……えと、その……!!」
アノネデスが、いつも通りの口調とテンションながらレイを詰問していた。
ただ、このオカマは楽しそうであり怒りや失望と言った負の感情は微塵も感じさせない。
―――代わりに、甘美な毒のような、じんわりとした悪意が滲み出ている。
「ああ、勘違いさせちゃったらゴメンなさぁい。 アタシ、別に怒ってるわけじゃないの。 一応理由を聞いておかないと、皆が納得しないでしょ?」
「そ、それは……」
「一応七賢人は貴女が発足した組織よぉ。 なのに貴女が隠し事して皆に迷惑かけましたー、ごめんなさ~い、で済むワケがないでしょ?」
レイの不安を煽らず、しかし的確な言葉をぶつけていく。
狙い通り、レイは涙目になりながらも反論することが出来ないでいる。
「アタシが適当な言い訳を考えてあげる。 だから、改めて聞かせて頂戴。 プラネテューヌにいる“あの子”が……女神なのね?」
マスクで覆われているが、恐らくその下は口を三日月のように歪ませて微笑んでいることだろう。
確信を得られてしまった以上、レイは観念したかのように口を薄く開き始めた。
「……はい。 数ヵ月前、マジェコンヌさんが適当な子供を連れだした際にあの子がいて、それを私が預かったんですけど……」
「偶然持ってた女神メモリーを、あの子が食べちゃったってワケね」
「はい……。 その後、その子が空間に空いた変な穴に吸い込まれて……それで私、怖くなっちゃって……」
「言うに言えなくなっちゃった、ってワケね。 了解したわぁ、これでスッキリ!」
やっと裏が取れたことで晴々としたような声を出すアノネデス。
レイが一体何を隠していたのか、これまで独自に調べてきたこともあって大体は推理通りだった。
ただ一点、その子供が消えたという部分を覗いて。
(にしても空間に穴、ねぇ? 普通に考えればその子が女神の力を使ったと考えるべきなんでしょうけど……どうにも腑に落ちないのよねぇ。 でもレイちゃんは嘘をついている様子が無いし、多分その子の力じゃない……第三者の介入かしら? まぁ、いいけど)
第三者の事は念頭に置きつつも、今後の方針は決まった。
自分達が探し求めてきた存在が見つかった以上、もう止まりはしない。
「さぁ、兎に角真実が明るみになった以上はやるべきことは一つよ、分かってるわよね?」
「そ、それは……その……」
「レイちゃん、これも貴女の理想のためよ。 確かに怖いでしょうけど、ここで勇気を出さなくちゃ。 大丈夫、アタシ達も協力するわ。 そのために七賢人になったんだから」
アノネデスは決してレイを責めることなく、寧ろ彼女を肯定するような甘い言葉を囁く。
それはまさに毒。レイの耳には心地よく響き、心を軽くしていく。
しかし、じわりじわりと彼女を沈めていく。もう二度と後戻りできないところまで体と心を蝕んでいく。本人が自覚せぬまま―――それが毒の、甘言の恐ろしい所である。
レイは葛藤の末、遂に決断を下した。
「……はい……。 アノネデスさん、お願いします……」
「オッケーよぉ!! さぁ……宣言通り、始めましょ。 アメージングなショーの開演よぉ!!」
自称参謀にして、事実上の七賢人のリーダーが宣言を下す。
既に頭の中で、悪魔とも取れるような計画が描かれていた。後はそれを実行に移すだけ。
アノネデスの心は、まさにフィーバーの如く踊っていた。
「―――おやおや、やっと動き出してくれますか。 さて、楽しみにしてますよぉ。 神次元の物語……起承転結に当たる『転』の盛り上がりを」
しかし。その扉の向こう。
比較的勘のいいアノネデスですら気付くことは出来なかった。
廊下の影で一人ほくそ笑むこの男―――ジョーカーの存在に。そして語り部は一頻り笑い、影の中へと消えていく。
物語は加速する。もう誰にも止められない―――。
続く
サブタイの元ネタ「To LOVEる」
大変長らくお待たして申し訳ありませんでした。
ですがまだしぶとく生き残っています、カスケードです。というワケで久々になりますが、恋次元更新!楽しんでいただけたら幸いです。
今回は一気に物語を動かしました。そしてようやくアノネデス本格登場。実は七賢人の中では割と動かしやすくて気に入っているキャラです。
こういう色物だけと切れ者って実は好きだったりするのです。さすがアニメでも登場しただけはある。
そんなアノネデスが遂に次回、大騒動を巻き起こす。どうかお楽しみに!
……とその前に、次回はまた番外編が一本挟まる予定です。
長らく神次元でのお話をやっているので恋次元の描写も欲しいなーということで恋次元でのお話になります。
年末年始の投稿を予定していますのでお楽しみに!