恋次元ゲイムネプテューヌ LOVE&HEART   作:カスケード

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皆様、大変お待たせして申し訳ありませんでしたッ!!!
色々大変だったリアルを乗り越えて再び投稿再開です!
まずはお口直しの番外編をどうぞ!
因みに時間軸も本編から外れ、白斗たちが恋次元にいる状態でのお話です。


番外編5 ネイティブ発音で人類皆ホスト

―――恋次元の日付を跨いだばかりの時間帯。

若者の街、プラネテューヌもこの時間帯は人を酔わせる怪しげな色合いのネオンで彩られる。

そしてこの世界で生きることになった少年、黒原白斗もそんな妖艶さに引き寄せられ、バーにて酒を煽る一人だった(十八歳未成年)。

これは、そんなある日の事―――。

 

 

「ホストクラブぅ~?」

 

 

琥珀色のグラスを傾けていた白斗が、あからさまに嫌そうな声を響かせた。

彼の隣に座っているのは、必死な形相で頭を下げる顔立ちのいい男である。

 

 

「そうなんだよ白さん! ウチの稼ぎ頭がトラブっちまって働けなくなっちまったんだ! だから、二日間でいいからアンタにヘルプに入って欲しいんだよ!」

 

「そうは言うがねキリューちゃん、白斗さんまだ未成年だぞ?」

 

「いや未成年がバーにいる時点でおかしいから! それでいて何堂々と酒飲んでんの!?」

 

 

などとツッコミを続けるこの男はキリュー。

白斗とは所謂飲み友達と言った関係であり、時たまバーで顔を合わせては互いに情報交換をしたり、他愛もない話をしている。

聞けばホストクラブを経営しているとのことだが、今回は切羽詰まっているらしく頭数をそろえるために白斗に必死に声掛けしているらしい。

 

 

「頼むよマジで! 二日間だけでいいから! 特に明日! 明日はウチの常連さんが来るから外すとウチの信用ガタ落ちしちまう!!」

 

「大体トラブったって怪我でもしたのか? 労災ちゃんと下ろしてあげてる?」

 

「いや、そいつが浮気した女に刺されちまってな。 入院した挙句示談しているとか」

 

「ハイ出たトラブルの巣窟。 女難の相が出ている白斗さんをそんな場所に放り込んでみろ。 次の日には包丁刺されまくってハリネズミになってるわ」

 

 

酒が入っている影響か、白斗のツッコミはいつもよりドライである。

しかし、それでも諦めまいとキリューは尚更縋ってきた。

 

 

「そんなアンタだからこそだよ! 毎日女をとっかえひっかえしても未だに顕在、しかも女神様やハイレベルな女子達、噂によるとトップアイドルとも懇意にしてる! そんなアンタだったら間違いなく乗り切れるって! 報酬も払うし、死んでも生命保険出すから!」

 

「死ぬ前提かよ!? 誰が行くかっつーの! 後、人を女遊びしてるように言うな!!」

 

「事実だろうが! それとも何か!? アンタがこうして酒飲んでることやあることないこと女神様に吹き込もうか!? 女神様とイチャイチャしてることを国民に知らせたろか!?」

 

「何その脅迫!?」

 

 

実際、それをされたら白斗は全国民を敵に回すようなもの。

バレた日には嫉妬に狂ったこのゲイムギョウ界に生きる人間たちの手で無残な最期を迎えることだろう。

この男、なんと恐ろしいことを考えるのだろうか。

 

 

「マジで切羽詰まってるんだって!! 頼むよ、報酬は弾む!! 指名取れたら上乗せもする! アンタだって女神様達と遊ぶのに金が入り用だろ!?」

 

「うぐ! そ、そう言われたらそうだが……」

 

 

白斗も日々女神達と過ごす毎日。当然遊びに出掛けることも多々ある。が、何事にも金が要るこのご時世。

何人もの女の子達と遊びに出掛けていれば、当然金の減り具合は半端なものではない。

現実問題として白斗は金に少々困っていた。

 

 

「受けてやったらどうだい? 脅迫は兎も角、悪い話じゃねぇだろ?」

 

「「ま、マスター!?」」

 

 

そこに意外な助け船が。

白斗が入り浸っているこのバーのマスターである。

今日もダンディズムに溢れ、貫禄たっぷりな雰囲気を醸し出しながらコップを拭いている。

 

 

「何事も経験さ。 お前さんは金が貰える上にタダ酒だって飲める。 それに折角の飲み友達だ、借りくらい作っておいて損はないはずだろ?」

 

「む、むむむ~…………」

 

 

諭すような物言いに、白斗も唸ってしまう。

酒が入っていることもあって理性が多少緩んでいたのだろうか―――やがて嘆息する。

 

 

「…………二日だけでいいんだな?」

 

「う、受けてくれるのか!?」

 

「今回だけだ。 さすがにこれがネプテューヌ達にバレたらマジでヤバいからな」

 

「恩に着るよ白さん!!」

 

 

結局、引き受けることにしてしまった。正直受けてしまってよかったのか、今更になって後悔するが、折角の飲み友達を見捨てたくなかったのも事実。

報酬に釣られてしまったという部分も否定できない。白斗としては覚悟を決めるしかなかった。

 

 

「つってもズブのド素人なんだから指名取れなくても文句は言わないでくれよ。 引き受けるからには俺なりに全力は尽くさせてもらうが」

 

「ああ、それで構わない! マジで感謝だよ、HAKU!!」

 

「何そのネイティブ発音。 ホスト名のつもりか」

 

 

こうして白斗は二日間の間、キリューが経営するホストクラブにヘルプとして入ることになった。

尤も不安しか感じていなかったので、非常に気を重くしていたのだが―――……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――次の日。

少し薄暗く、怪しさとムーディーな雰囲気を醸し出す部屋の中。

二人の男女が酒の入ったグラスを片手に談笑を楽しんでいた。

 

 

「……と、言うやり方もあるわけですよ、お嬢さん。 どうか貴女のお力になれれば幸いです」

 

「あらヤダ! もぉ、HAKUってば凄いわねぇ!! 長年抱えてた悩みも吹き飛んじゃったわ!」

 

 

白いスーツを着込み、女性を惑わせるような色気のある喋り方をするのは黒原白斗ことホスト名「HAKU」。

彼は仕事のストレスを発散するために訪れた女性客の相談に乗り、持ち前のトークスキルで彼女の悩みを聞き、解決案を出して見せた。

 

 

「ははは、それは良かった。 そんな晴々とした貴女の心に、カンパイ」

 

「きゃーっ♪ すみません、ドンペリもう一本~~~~!!!」

 

(天才ホストキタ―――――――――ッッッ!!!)

 

 

若く、頼りになる男からの甘い言葉に乗せられ、女性は気分が良くなってグラスを煽ろうとする。

しかし既に空になっていたのでまた酒を注文した。

この様子をモニタリングしていた店長ことキリューは白斗の素質の高さに驚愕し、喜びに震えていた。

やがて女性は一頻り飲み終え、上機嫌のまま店を後にする。

 

 

「ふぅ、キリューちゃん。 こんな感じで大丈夫だったか?」

 

「ああ、もう最ッ高だよHAKU!! 常連さんばかりか更に二人も指名取っちまうとは! 冗談抜きでウチのNo.1張れるよ!!」

 

「嬉しくねぇ……。 はぁ、ネプテューヌ達に知られたらどうなることやら……」

 

 

白斗はホストとしてはズブのド素人である。

一応キリューからは「好きにやっていい」と言質を取ったので、自身が通うバーのマスターのように女性のストレス発散をさせるようなトークを持ち掛けてみた。

するとこれが大好評。女性は的確かつ合理的、それでいてこちらを気遣う白斗の心に触れ、気分が良くなって酒を煽るといったスパイラルが形成されることになった。

女性を弄ぶような行為に自己嫌悪に陥りつつある白斗だが、それでも引き受けたからには全力で臨み、また同じように女性客を虜にする……無限ループって怖いね。

 

 

「よーし、閉店だ! HAKU……いや白さん、今日はマジで助かったよ!! 明日だけといわずマジでウチに永久就職しないか!?」

 

「どうせ三十路過ぎたらお役御免になるだろ。 それに明日までって約束だ。 これ以上はマジでネプテューヌ達に申し訳が立たない」

 

「はは、操はしっかり立ててるのな。 ……いや、あれだけ女の子との付き合いがあって操が立ってるって言えるのか?」

 

「それを言われたら何も言い返せねぇよ畜生!!」

 

 

後ろめたいところがあるのは自覚しているらしく、痛む胃を押さえた白斗だった。

こんな思いを明日もしなければならないのかと顔をひきつらせたが、それでも約束は約束だ。

仕事内容としては好評だったので、明日もこの調子でやれば乗り切れるだろう。

 

 

「とにかく、ウチはいつでもアンタを迎え入れる体制は整えとくぜ。 んじゃコレ、今日の報酬な。 指名三人もとったから報酬も上乗せしてあるぜ」

 

「どーも」

 

「んじゃ俺は後片付けとか帳簿とかしてるから、白さんはもう帰ってくれていい。 また明日も頼むぜ~」

 

 

上機嫌なまま、キリューは奥へと引っ込んでいってしまった。

掃除も別のスタッフが担当するみたいで、白斗の仕事はもうない。ならばお言葉に甘えて帰らせてもらうのみ。

と、その前に受け取った封筒の中身を確認しなくては。

 

 

「やれやれ、とりま報酬だけ確認しますか。 しかし水商売、どうせたかが知れて………え? 嘘やろ? 何この札束……え? ホストってこんなに貰えるの?」

 

 

出てきたのは札束であった。

下手なクエストの倍以上の報酬に白斗も思わず頭が色んな意味でクラッと来てしまう。

女遊び目当てではないが、報酬目当てでまた仕事を受けてもいいかも……そんな気さえちらりと思い起こさせてしまう程に。

 

 

「…………ま、まぁとりあえず明日だな! 最後だし張り切っちゃおうかなー!!」

 

 

これもネプテューヌ達と楽しく遊ぶため。

白斗も上機嫌に鼻歌を歌いながら帰路へと着くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ねぇぇぇぇぷぅぅぅぅぅ~~~…………!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、油断していたことに加え、酒が入っていた影響だろうか。

白斗は遂に気付くことが出来なかった。深夜に働きに出るという予定を聞かされた故に心配して身に来たこの女神様の存在に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――翌日の夜。

適当な理由を付けて教会を抜け出し、昨日と同じく清潔な白いスーツを身に纏う。

堅苦しい格好を嫌う白斗にとっては息苦しくて仕方がないのだが、これが仕事着なのだから仕方がない。

兎にも角にも今日で終わりだ。意を決してホストクラブへ足を踏み入れる―――のだが。

 

 

「おはようございまー……ん? 何だか慌ただしいな?」

 

 

白斗の担当は接客のみ、つまり開店準備などは他のスタッフに任せることになっていた。

よって彼は開店一時間前に店を訪れたのだが、何やら従業員達が嘗てない大騒ぎに見舞われていた。

店内の装飾も一段と豪華になり、酒類の品質チェックや清掃などもいつもより気合が入っている。

陣頭指揮を執るキリューも凄まじく熱がこもっている様子だ。

 

 

「キリューちゃん、どうなってんだコレ?」

 

「おお、白さん……いやHAKU!! 緊急事態……いや、Emergencyなんだ!!」

 

「一々ネイティブ発音するな鬱陶しい。 マジで何があった?」

 

 

ホストと言えば優雅なイメージが付き纏っている。

だが開店一時間前という土壇場であるにもかかわらず、従業員達は汗を流しながら各種作業に取り組んでいた。

あの様子ではシャワーを浴びる時間もなく、汗臭さを残したまま客の前に出てしまうことになる。

さすがにそれはまずいのでは、と白斗が続けようとした時だ。

 

 

「実は今夜、お偉いさんが来てウチを貸し切りにするんだよ!」

 

「貸し切り……また思い切った真似を」

 

「それだけじゃねぇ!! しかもアンタだけを指名してるんだよ!!」

 

「は!? 俺ェ!? なんで!!?」

 

 

貸し切り、しかも白斗のみのご指名だという。

まだホストを初めて二日目というズブのド素人なのに、と白斗も冷静さをかなぐり捨てて狼狽えていた。

 

 

「ってか誰だよ俺指名したの!? 昨日の客か!?」

 

「いや、そうじゃなくて……まぁ俺が言うのは野暮ってモンだな」

 

「いやいや!? 野暮とかそういう問題じゃなくて!!」

 

「そういう問題なの。 大丈夫、お前ならやれる……寧ろお前だからヤれる」

 

「励ましになってねーんだよ!! 後イントネーションがおかしい!!」

 

 

どうやら相当その客は白斗を気に入っているらしい。

確かに昨日の客には相当喜んでもらえたが……何やら微妙に話がかみ合っていない。

白斗はそこはかとない不安を覚えていた。というか、不安しかなかった。

 

 

「まぁまぁ。 それとこの客だが……多分ホストモードで攻めるよりも、普段通りのアンタのまま接する方がいいと見た」

 

「はぁ? 益々要領を得ないんだが」

 

「とにかくだ! しっかりもてなしてやってくれよ、HAKU!! いざとなればインカムで通信を繋いでくれたらアドバイスないしヘルプに入るから!」

 

「ちょ!? ったく、相変わらず勝手なんだから……」

 

 

などと文句こそ零せど、これも仕事だ。

100%の成果に近づけるように持てる力を尽くして任務に当たるのみ。

他のスタッフと連携をしながら酒類やおつまみと言った軽食の確認や手配をしながら業務をこなしていると、あっという間に開店時間を迎える。

それと同時に扉が開かれた。扉の向こうから現れたのは。

 

 

 

 

「では、どうぞごゆっくりお寛ぎください。 ―――女神パープルハート様」

 

 

 

 

紫色の、露出の高い華やかなドレスを身に纏った美しい女神。

ネプテューヌが女神化した姿こと、パープルハートがそこにいた。

階段を下りる度にハイヒールの靴音が響き渡る。

 

 

「ふふ、素敵な殿方ね。 さぁ、今宵は楽しみましょ――――」

 

「じゃねぇだろオオオオオオオオオ!!? 何やってんだこの駄女神イイイイイイ!!!」

 

 

思わず仕事のことも頭から吹き飛んでネプテューヌに詰め寄った。

だが、この反応自体は正しいものだろう。

 

 

「失礼ね、今夜の私はお客様よ?」

 

「尚更問題だろうがァ!!! お前、この国の女神ともあろう者が夜中にホストで豪遊とか大スキャンダルだぞ!!?」

 

「大丈夫よ、いーすんに頼んで各種隠蔽工作してもらってるから」

 

「隠蔽工作って時点でアウトだろうがあああああああああ!!!」

 

 

今回ネプテューヌはあらゆる手を尽くしてここに来たらしい。

普段は仕事嫌いの女神様も、自分のしたいことに関しては抜け目ないことでも有名だ。

彼女が断言しているからには、今回の訪問に関する対策は完璧なのだろう。

 

 

「それを言い出したら白斗こそ何よ? 連日こんな夜まで女の子連れ込んではお酒飲ませて酔わせて金を巻き上げての女遊びしちゃって」

 

「間違っていないけど言い方!! でも間違ってないから言い返せねぇよ畜生!!」

 

 

指摘されてしまっては白斗もダメージを受けるしかない。

痛む胸を押さえて蹲りそうになり、奥底に封印していた罪悪感が火山の如く噴火する。

冷や汗を滝のように流していると、白斗のスマホにメールが届いた。

モニタリングしているキリューから……ではなく、イストワールからのメールだった。開いてみると。

 

 

 

『キサマヲコロス』

 

 

 

―――呪詛の言葉が書き込まれていた。

普段の彼女なら絶対に言わないであろうその一文、間違いなく今回の件にご立腹である。

白斗の震えが尚更大きくなった。

 

 

「……ネプテューヌ、俺……今夜は帰りたくないなぁ……」

 

「ふぇっ!? も、もう白斗ってば! いきなりそんなドキッとすること言わないで……」

 

 

片や恐怖で、片や歓喜で。震える二人の温度差は激しかった。

何はともあれ、彼女が客として店に来てしまった以上は追い返すことも出来ず。

白斗としても覚悟を決めるしかなかった。……例え、明日の太陽を拝めなくなっても。

 

 

「美しき女神様、ようこそお出でくださいました。 さぁお手を。 ご案内いたします」

 

「……はい」

 

 

いつもとは違う、男としての色気を漂わせる白斗の姿にネプテューヌは目をとろんと蕩けさせる。

既に夢見心地になっているようで、酔ったかのように顔を赤らめながら差し出された白斗の手を取る。

今、この世界には白斗とネプテューヌの二人しかいない。まるでアダムとイヴのような神秘的で、どこか背徳的な雰囲気を味わいながら二人は豪華な部屋へと進んでいく。

 

 

「それにしても女神化した姿で過ごすってのも新鮮な気分だな」

 

「正直、この姿だと疲れちゃうんだけど普段の姿だと受け付けてもらえないのよ」

 

「なら、今日は目一杯楽しんでくれ。 シャンメリーでいい?」

 

「それじゃ女神化した意味ないじゃない。 お酒で大丈夫よ」

 

「……前の大暴走、忘れたわけじゃないよな?」

 

「ふふ、どうかしら? ……確かめてみる?」

 

「おいおい、ここはホストが女を惑わせる場所だぜ? 女がホストを口説いてどうするんだっての。 ……ほら」

 

 

場所が場所だけに白斗は口調だけでも余裕を崩さない。

しかし、その実心臓が破れそうなほど胎動している。汗を押さえるのも限界だ。

もし、汗が一筋でも流れてそれがネプテューヌに知られればどうなるか―――きっとたちまち主導権を握られてしまうことだろう。

知られないようにと願いながら、彼女のグラスに美しい色合いの酒をなみなみと注ぐ。

 

 

「「乾杯」」

 

 

カチン、とグラス同士が透き通った音を鳴らす。

美しい音を合図に二人がグラスに口を付けた。甘く優しい味が喉を通じて体を溶かし、解きほぐしていく。

 

 

「……ふぅ、結構甘いのね。 それに飲みやすい」

 

「ここは会話を楽しむところだかなら。 お酒で早々に酔いつぶすわけにもいかないんだ」

 

「あら、ホストがそんなこと言っちゃっていいのかしら?」

 

「お前相手だから、ついつい口が軽くなっちゃうんだよ」

 

「ふふっ! 本当に白斗ってば!!」

 

 

さすがに女神化すればすぐに酔うということは無さそうだ。

それでもあまり強くは無いのか、目を更に蕩けさせてくる。

まるで誘っているかのような雰囲気に流されないように、けれども美しき女神との会話を楽しむことを忘れず、白斗はネプテューヌと言葉を重ね続けるのだった。

 

 

 

「……いやぁ、さすが白さんだ。 女神様相手でも己を保ち続け、相手を楽しませ、しかしホストとしての一線を忘れてねぇ……本当に欲しくなる人材だ」

 

 

 

一方、別室でモニタリングしているキリューは嘗てない大物こと女神の来訪とそんな彼女とも対等に会話する白斗に震えていた。

ここにいるスタッフでは恐らくネプテューヌ相手に上手く立ち回れなかっただろう。

まさに白斗だからこそ出来た芸当という他ない。

 

 

「正直貸し切りってだけでも相当な利益だし、過度に酒や軽食を勧める必要もないだろう。 後はネプテューヌ様のご要望に合わせていく形に……」

 

「キリュー店長! 大変ですっ!!」

 

 

既に一日の目標売上には達している。

白斗も露骨に酒を売り込まないように気を使ってはいるが、かと言って店の利益を忘れないように立ち回ってくれている。

あれならば女神の顰蹙を買うこともない。白斗の思うままにさせるのが一番だと納得しかけたその時、慌ただしくスタッフが駆け込んできた。

 

 

「どうした?」

 

「それが……つい先程、とんでもない連絡が来て!!」

 

「???」

 

 

首を傾げるキリュー。だが、スタッフからの報告を聞いた途端―――同じように慌てだしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな喧騒を露知らず、白斗とネプテューヌは。

 

 

「―――で、あのゲームはそういう経緯で完成したらしい」

 

「そうなの!? 知らなかったわ……」

 

 

酒を片手に尚も会話を弾ましていた。

今はゲームに関するトークだ。この状態でもやはりゲーマーな女神様だ。たまたま知ったゲームに関する会話は食いつきが良い。

 

 

「背景のロケ地とかもあそこだってさ。 今度二人で聖地巡礼とかしてみるか?」

 

「え……ふ、ふふっ。 白斗からデートのお誘いしてくれるなんて思ってもみなかったわ。 しかも聖地巡礼だなんて、以前の白斗からしたら考えられない」

 

「ま、まぁ俺だって少しは興味あったりするんだよ。 それに、ネプテューヌと一緒だから……ってのは、正直あるしな」

 

 

以前までの白斗ならばドライ、とまではいかないが自分から旅行を計画して誰かを誘うなんてことはしなかった。

それを自分からするようになったのは―――それだけ、ネプテューヌに喜んで欲しいから。そして自分がそれを望んでいるから。

赤くなった頬を掻きながら、白斗も素直に自分の変化を認める。

 

 

「も、もう! ホントにお上手なんだからぁ! って、もうお酒ないわね。 すみませーん、ドンペリもう一本ー!」

 

「お、おいネプテューヌ? さすがにそろそろ危ない…………うおっ!?」

 

 

またネプテューヌが喉を潤そうと酒を注文している。

女神化してある程度耐性を得ているとは言え、彼女は元来強くはない。これ以上のませてはならないと白斗が気遣うのだが、そんな彼の膝にネプテューヌが倒れ込む。

蕩けに蕩け、潤んだ視線を白斗に向けてきた。

 

 

「はぁ……。 誰がこんな風にしたと思ってるの……?」

 

「う、それは……」

 

「でも……私、凄く楽しくて幸せだわ。 このままあなたに何もかも委ねてしまいたい……」

 

 

うっとりと、まるで夢見心地になっているかのように。

もしここがホストクラブでなければ、白斗とてどうなっていたか分からない。

ごくりと生唾が音を立てて喉を通り越した―――その時。

 

 

『おいHAKU!! Emergencyだ!!』

 

「おわ!? なんだよ急に? 後そのネイティブ発音やめろ、腹立つ」

 

 

切羽詰まったキリューの声が、白斗の耳につけてある通信機から聞こえてきた。

折角の甘いムードをぶち壊されてネプテューヌは勿論、白斗とて怒り心頭である。

しかし、ただならぬ様子なのでネプテューヌに謝りながらも少しだけ席を外し、通信に専念する。

 

 

『冗談言ってる場合じゃねぇ!! 超大物がウチに来るんだよ!!』

 

「はぁ? またかよ……ってか既にネプテューヌが貸し切りにしてるんだろ、断りゃいいじゃんか」

 

『それがそうも言っていられない相手で……とにかくもうすぐ来ちまう! このお方もアンタをご指名しているから対応よろしくな!!』

 

「ちょ、待てや!! さすがにそれは身勝手通り越してヤバイだろ!?」

 

 

なんとネプテューヌが貸し切りしているにも関わらず、来客を迎えようというのだ。

どれだけ非常識かは聞くまでもない。だが、相手はその無理無茶も押し通せる存在らしい。

となれば―――白斗は嫌な予感が抑えきれず、やがて二人きりの部屋が空けられる。

 

 

「それではごゆるりとお過ごしください。 ―――ブラックハート様」

 

「ノワールぅうううううううううううううううううううううッ!!?」

 

 

なんと現れたのは、こんなホストクラブからは最も程遠い女神であるはずのノワールだった。

例によって女神化しており、今日はブラックハートとしての姿である。

黒色のドレスが大人っぽさを醸し出しており、怪しい色気を漂わせる。

 

 

「あ、あらぁ~……白斗、偶然じゃない」

 

「何が偶然だ!? 俺ご指名って聞いたぞ、明らかに狙ってきてんだろ!? ってかお前も何やってんの!?」

 

「何よぉ、ネプテューヌは良くて私はダメだっていうのぉ~?」

 

「な、何言って……ってお前既に酒入れてるだろ!? 微妙に呂律が回ってねぇ!!」

 

 

見て見るとノワールの顔は少し赤かった。

どうやら思い切りを良くするために予め酒を飲んで理性を緩ませているらしい。

ここまで来ると、凄い徹底ぶりと言わざるを得ない。

 

 

「ノワールぅ……? 今日は私が貸し切ってるのよぉ? 出て行って頂戴ー!」

 

「そうはいかないわよぉ!! 自分だけ白斗独占しようだなんて、そうはイカの金時計ー!!」

 

「ダメー!! 今日は私が白斗を独占してるのよ~!!」

 

 

当然抗議の声を上げるネプテューヌ。それもそのはず、先約は彼女なのだから。

だがここで彼女に好きにさせてしまえば白斗と行きつくところまで行ってしまうかもしれない―――それに危機感を覚えたからこそ、ノワールはここにいる。

最早互いに、微妙に呂律が回っていないながらもいがみ合っていた。その間、白斗は通信機でキリューに連絡を取る。

 

 

「おいコラ、キリューちゃん!? 貸し切りに無理矢理割り込ませるって信用問題だろ!?」

 

『いやぁ、でもブラックハート様が物凄い声色と金を出すもんで怖くなっちまって……』

 

「アイツ何やってんねん!?」

 

 

確かに国家元首たる女神から直接の申し出ともなれば委縮してしまうのも無理はないのかもしれない。

問題はそれを、真面目が服を着て歩いているようなノワールがやったことであるが。

それでも下手をすればもう二度と営業が出来ないほど信用問題に関わるような反則行為までやってのけてしまうなど、普通では考えられない。

 

 

『正直に告白すると俺も女に刺されそうになってな。 示談金が必要なんだ』

 

「そのままハリネズミになっちまえ」

 

『嫌だ嫌だ嫌だァ!! 俺は人生を謳歌するんだァ!! とにかく、今日一日乗り切ってくれよ、報酬はメチャクチャ弾むから!!』

 

 

みっともない、おっさんの泣き声が通信機を通じて耳いっぱいに響き渡る。

いい加減耳障りになってきたので、後で血祭り確定として、今は話を進めることに。

 

 

「……それで、ノワールで終わりなのか? このパターン、他の女神様達も来ると思うんだが」

 

『てへぺろ☆』

 

「お前を殺す、絶対にだ」

 

 

どうやら他にも女神達からも同じような依頼を受けたらしい。

何処までもいい加減な男に白斗は抹殺を誓うのだった。

と、そこに伸びる美しい女神の手。

 

 

「白斗ぉ~……何こそこそしてるのよぉ?」

 

「女神を放っておいて通信だなんて薄情ねぇ、白斗だけに」

 

「上手くねぇんだよ! ってか二人とも引っ付くなっ!!」

 

「もうこんなもの没収! ポイッ!」

 

「ああっ、通信機がーっ!?」

 

 

白斗の耳に付けられた通信機をノワールが取り外し、放り投げる。

通信機は華麗に宙を舞い、グラスの中へホールインワン。

バチッ、と鋭い音が響いた後、通信機は完全に沈黙してしまった。

 

 

(な、なんてこった……!! ネプテューヌはもとよりノワールも出来上がっちまってる……更には他の女神達も来るかもしれないって状況なのに、通信でキリューちゃんにヘルプも呼べねぇ……!!)

 

 

まさに孤立無援、一方的は強大かつ無尽蔵。

部屋に備え付けられている注文用の電話はあるため、最悪あれで助けを呼べないこともないが、会話内容が筒抜けになってしまうためネプテューヌ達に未然に阻止される。

白斗は、この絶望の中女神達に立ち向かわなくてはならないのだ。

 

 

「そ、そうだな! 二人とも悪かった。 折角の夜だ、もっと二人とお喋りしなきゃな」

 

「私とだけでいいのよぉ~……。 それなのにノワールがぁ……」

 

「ふふーんだ、何だかんだで貴女が抜け駆けするんだからお返しー!! すみませーん、麦しゅわもう一本~~~!!!」

 

(ぐ……女神化している分、酒の耐性も少しついているか……!!)

 

 

ノワールは嬉々として酒を煽る。

彼女も女神化の影響か、多少だが酒への耐性が出来ており、不幸なことにすぐに酔い潰れそうには無かった。

ただ理性は緩んでいるらしく、ノワールらしからぬふんわりとした声である。

 

 

「わはー♪ それじゃ私は白斗の肩いただき~☆」

 

「ちょっとノワールぅ!? そこ私の席よー!? なら反対側の肩を貰うわねー」

 

(ぬおっ!? ご、極上の柔らかさが……これが、女神……!!)

 

 

ノワールとネプテューヌがそれぞれ白斗の両肩に頭を乗せ、腕に抱き着く。

当然、二人の立派なものが白斗の腕に押し当てられる訳で、その極上の感触に白斗の貴重な体力がごっそり削られる。

 

 

「……っと、ノワール。 また無理してんな? 疲れが見えるぞ?」

 

「そんなことないわよー。 このくらい……」

 

「一人で何でもかんでも熟そうとしたら何れガタが来るって言ってるだろ? そういう時こそ周りや俺を頼って欲しいんだ」

 

 

と、そんな時。白斗は顔色からノワールの体調が良くないことを見破った。

これでもノワールは女神として日々美容にも気を使っている。他人には決して見破れないほどの些細な違いだ。

気付けるとしたら、妹であるユニや長く彼女に仕えている教祖のケイ、そしてこの男くらいのものである。

 

 

「……んもー。 この時間作るのに苦労したんだからー」

 

「悪かった……じゃないな。 ありがとう、ノワール。 なら、目一杯労わないとな」

 

「そーよー。 ふふふー、カンパーイ☆」

 

 

あの真面目で厳格なブラックハート様からは想像できないほど緩く、しかし幸せそうな声と顔。

そんな彼女が可愛くて、白斗は彼女のグラスに酒を注ぎ、グラス同士をかち合わせて透き通った音を鳴らす。

甘く、理性を蕩かせるような味が口の中に広がり、喉を通っていく。

 

 

「はぁ……いい味ね、コレ。 それに色も綺麗~……」

 

「良かった。 ノワール好みのものを選んだつもりだったからな」

 

「さっすがぁ、私のこと分かってるぅ~」

 

 

心を許した相手にだけ見せる甘え。

そんな女神様を労わるように、白斗はその頭を撫でていく。すると益々幸せそうに破顔するのだ。

 

 

「白斗ぉ、今は私の時間でしょぉ? ノワールだけ撫でないで頂戴よ~……」

 

「ご、ゴメンゴメン。 ネプテューヌはこの味が好みだろ?」

 

「ふふっ、大正解」

 

 

しかし、ノワールばかりに構っていられない。

反対側からはネプテューヌが抱き着いているのだから。彼女の機嫌を損ねないように適度に酒を勧めて話し相手になる。

 

 

「白斗ぉ~、聞いてよぉ~。 ケイったら最近ね~……」

 

「ノワールのは大分マシじゃない~。 それを言ったらいーすんだって……」

 

(おいおい、これ最早ホストじゃなくて飲んだくれの愚痴を聞く居酒屋じゃねーか!?)

 

 

やがて酒で大分理性が緩んだのもあって教祖に対する愚痴が始まってしまった。

しかし、ここで声を荒げないのが白斗。

こういう時に必要なのは無言の肯定者。相手の話を聞き、相槌を打ち、的確な言葉を返してあげることだ。

 

 

「……って、ケイさんやイストワールさんが二人を褒めてたよ。 何だかんだ二人ともこの上なく信頼されてて羨ましいくらいだ」

 

「もぉ~、ケイったら……そう言うことは直接言わないと伝わらないのに~」

 

「いーすんもいーすんよ~……。 でも、下手に愚痴れなくなっちゃったわね……」

 

 

抱えていた不満がすっかり解消され、ネプテューヌもノワールもすっかり落ち着いたようだ。

これにより酒が回り始め、徐々に瞳がとろんと蕩けてきた。

少し声音も緩い。このままいけば、自然と泥酔してくれそう――

 

 

「コルァ!! そこまでだぁ!!!」

 

「貴女達の時間はもうお終い、ここからは私の時間ですわ!!」

 

「ブランにベール姉さん!? セットで来たのかよ!? とんだハッピーセットだなオイ!? いやハッキョーセットだよコレ!!?」

 

 

と、言うところで更に蹴破られる扉。

その先にいたのは可憐な青白いドレスを身に纏ったブランことホワイトハート、そして緑色の妖艶なドレスを着こんだベールことグリーンハートだった。

 

 

「全く、白ちゃんってばとうとうこんな危なげなバイトにまで手を出すなんて……。 夜のお相手でしたら、私が幾らでも務めて差し上げますのに」

 

「女に飢えてるワケじゃねぇの!! 仕方なくなの!!!」

 

「その割にはノリノリだったと聞いておりますが?」

 

「お仕事だから全力で当たっただけですー! 他意は……他意は、無い! ハズ!!」

 

「そこで言い切れない辺り満更でも無さそうですわね」

 

 

ベールからのジト目にぐらつく白斗であった。

実際、先程まで女神達との会話を楽しんでいたのだから不満があったかと言えばNOになる。

結局のところ、白斗も下衆の一人でしかなかったということか。

 

 

「というかブラン、お前よく入れたな……」

 

「あァ? そりゃどういう意味だコラ? 事と次第によっちゃ、ここでドタマをブチ抜いてもいいんだぞコラ」

 

「いやぁ、こういう店って普通足踏みするんじゃないかなーって意味ッスよ!? 他意はないっスよ!? あはははー!!!」

 

 

危うく、彼女のタブーである幼女の部分に触れてしまうところだった。

何とか勢いで誤魔化したが、実際問題よく彼女の入店を許可したものである。

まぁ、ここまで来たら金と権力で黙らせたと思う他ないのだが。

 

 

「なぁによぉ~、またわたしと白斗のひとときをジャマする気ぃ~?」

 

「いまはわたしたちの時間なんらから~! 麦しゅわもういっぱ~~~い!!!」

 

「はいはい、酔っ払いは寝てなさいな。 後ノワールは麦しゅわ禁止!!」

 

 

更なる恋敵出現に当然我慢ならないのは先程まで楽しくお話していたネプテューヌとノワール。

最早女神化していると思えないほど、べろんべろんになってしまっている。

……この姿を各国の教祖に見られたからには、白斗は明日の朝日を拝めそうにないだろう。

 

 

「オラ、来たからには私達ももてなしやがれ」

 

「ふふ、白ちゃんのお手並み拝見ですわ」

 

「……仕方ない。 覚悟を決めますか……」

 

 

こんなカオスな状況に持ち込んだキリューは後で半殺しにしておくとして、それでも今日の白斗はホスト。

ならばお客様である女神様を、全力でもてなすだけだった。

 

 

「そういや二人とも、今日のドレスは以前見たのとちょっと違うな? どっちも綺麗だ」

 

「あ、ああ。 気付いてくれたか。 その……新しい奴だ」

 

「ええ。 さすがに毎度同じ服では味気ないですもの」

 

 

以前見た、というのは友好条約を結ぶための式典に参加した際の礼服のことである。

実際には条約そのものは結ばれなかったわけであるが、それでも白斗はあの時の女神の美しき姿を今でも脳裏に焼き付かせている。

だから、二人の服の違いにもすぐに気づけたのだ。

 

 

「ブランのフォーマルな格好って中々お目に掛かれないし、凄く新鮮だな」

 

「まぁ、その……私はあんまり格式ばったトコ行かねぇしな」

 

 

ブランはどちらかと言えばアットホームな雰囲気を好み、そもそもあまり外に出たがらないインドア派だ。

故に堅苦しい格好を強要させられるような場所にはあまり出歩かない。故にドレスのような格好を目にすること自体が稀なのだ。

だから白斗は、そんな彼女とも色んな思い出を作りたいと思った。

 

 

「たまにはそういうところ行ってみるか? 案外悪くないかもよ」

 

「うぇっ!? そう、だな。 白斗となら……いい」

 

「ああ、一緒に行こうぜ。 そう言った場所も新鮮だし、何より色んな思い出を作りたいしな」

 

「……へへっ、だな。 なら、エスコートは任せる。 ドジったら承知しねぇぞ?」

 

「仰せのままに」

 

 

着慣れない格好に来慣れない場所。

さすがのブランも聊か緊張気味だったが、白斗の柔らかく、それでいて軽い声音が緊張を適度に解してくれる。

さり気なくデートの約束を取り付けたことでブランは頬を赤らめながらも上機嫌になってくれた。

 

 

「姉さんのフォーマルな服は良く見るけど、普段のと方向性が違うね」

 

「ええ、お洒落自体には気を使いますもの。 出来る女、ですから♪」

 

 

一方のベールは慣れたものと言わんばかりの優雅さを惜しみもなく醸し出している。

普段こそゲーム三昧で引きこもりがちな彼女だが、四女神の中では最も大人な雰囲気を持つ者として礼服などの着こなしは完璧だった。

 

 

「そ・れ・と。 ブランだけお誘いなんてズルイですわ」

 

「ゴメンゴメン。 だけど、姉さんとは堅苦しい場だけじゃなくて色んなところ行ってみたいな。 ゲーセンとか、何の変哲もない公園とか」

 

「……そうですわね。 思えばそう言った普通の場所にこそ縁がありませんでしたわ」

 

「そりゃ姉さんが引きこもってゲームばっかりしてるからっしょ」

 

「あ、あはは……。 そこは、まぁ……善処しますわ」

 

(善処しねぇパターンだなコレ。 俺が引っ張り出さないと……)

 

 

やれやれ、と肩を竦めつつもそんな姉の要望を応えるのも男の器量かと白斗は己を納得させた。

この大らかで、優雅で、大人びているけれどもどこか子供っぽい、美しくも可愛らしい女神様とどんな一日を過ごそうかと頭の中で計画を立てていると。

 

 

「はぁ~くぅとぉ~~~。 私達を無視しないで~~~」

 

「そーよそーよ! ほんろらったらぁ、わたひがかしきりだったんだからねぇ~?」

 

「ノワールぅ~、先客は私なんだからぁ~!」

 

 

そこにネプテューヌとノワールも絡んできた。

特にネプテューヌの不満は尋常ではない。何せ、彼女が本来最初に貸し切りの予約を取っていたのに、キリューのいい加減な判断の所為でこんな状況が出来上がってしまったのだから。

 

 

「……仕方ない。 ほら、二人とも」

 

「ナニコレ……ジェンガぁ~?」

 

 

もうすっかり出来上がっている二人の目には、白斗が何を取り出したのか一瞬わからなかった。

ようやく視界が定まった時、それがくみ上げられたジェンガだと認識できる。

 

 

「勝った方には特別に俺からの奢りでお酌してあげる。 頑張ってくれ」

 

「受けて立つわ!! ノワール、捻り潰してあげる!」

 

「こちらの台詞よぉ!! 覚悟なさぁ~い!!!」

 

(よーし、これで二人はしばらくジェンガに夢中になる。 後はブランとベール姉さんの相手に専念し、何とか無力化するのみ……!)

 

 

苦肉の策にもほどがある、と白斗は自分で自分を情けなく思う。

だが、時間は稼げた。

こうなれば早い所ブランとベールの二人を酔い潰し、無力化させれば後はタイムアップを待つのみ。

 

 

「二人にはこれ、果実酒。 まろやかだけど飲みやすいんだ」

 

「オイ白斗、ワザと度が低い奴勧めてねぇか? 私が弱いって思ってんのか?」

 

「前の大暴走見て強いとはまず思えないんですけど……。 それに大事なのは酒の強さじゃなくて味、だろ?」

 

 

白斗が二人に注いだのは、ワインでもドンペリでも麦しゅわでもなく、果実酒である。

柔らかな色合いの液体はいかにも甘そうである。

一瞬見惚れていたホワイトハートだが、すぐに不満を露にしたが、白斗に諭され、騙されたと思って口にしてみる。

 

 

「まぁ、そうだが……ん! 何だこれ、甘いけどほんのり苦みがあって……美味しいけど大人、って感じさせてくれる……」

 

「ブラン、それ自分から子供って認めてますわよ」

 

「う、うっせぇな!! そういうベールはどうなんだよ!?」

 

「わたくしはワインも嗜む方ですけれど、これくらいの方が好みですわね。 ふふ、いい香りですし何杯でも飲んでしまいそうです……」

 

 

白斗に勧められるまま、果実酒を煽る白と緑の女神。

二人とも、顔が艶やかに蕩けてきた。少々瞼も重くなりつつある。

 

 

(計 画 通 り! 確かにそれは甘く飲みやすい。 だがその実、度が高ェことでも有名な果実酒! ハマっちまったが最後、泥酔コース確定だぜ!!)

 

 

悪人面でそっとほくそ笑む白斗。

果実酒にも度が高いものは存在する。こんなこともあろうかと白斗はそれを引っ張り出し、二人に飲ませることに成功した。

飲みやすく、しかし酔いやすい酒を次々に体に入れる内に二人の動きも大分鈍くなってきた。

 

 

「ふぁぁ……にゃんだかいいきぶん~……」

 

「でしゅわぁ~……。 はぁ、ふわふわしますわぁ~……」

 

「さて、お酒も入ったところでこっちで話そうか。 このソファふかふかだぞ」

 

 

が、いつまでも酒を飲ませて体を壊させるわけにもいかない。

二人の酔い具合を確認しつつ、白斗が高級感溢れるソファへと案内する。

日々の激務で疲れ切った体に酒が入り、更には雲の上如き柔らかさを誇るソファが二人の体を更に解し―――眠気を誘う。

 

 

「んにゅ……はくとぉ……」

 

「大丈夫、そのまま身を委ねてくれればいいから。 姉さんも」

 

「はぅ~……」

 

 

二人を両脇に置き、寝かせながら頭を優しく撫でる。

どこかの女の子曰く、俺のなでなでは緊張を緩める効果がるとかないとか。

加えて酒が回り始めた二人の瞼が大分重くなってきたようだ。よし、もうすぐ眠って―――

 

 

「こりゃぁー!! 白斗ってば何私を放っておいてイチャイチャしてるのよぉ~~~!!!」

 

「ぐお!? の、ノワール!?」

 

「白斗ぉ! 今日は私が貸し切りなんだから、私を甘やかしなさ~~~い!!!」

 

「ネプテューヌまで!? ええい、お前ら勝負はどうした!?」

 

「「白斗が大事!!」」

 

「だあああもおおおお!!! 嬉しいこと言ってくれるなよおおおおおッ!!!」

 

 

なんとノワールとネプテューヌが引っ付いてきた。

それもそのはず、真剣勝負していた時にふと目をやれば想い人が別の女とイチャイチャしているように映っているのだ。

勝負などやっていられないと、ジェンガも投げ出してきたらしい。

 

 

「……んぉ!? い、いけねぇ……寝ちまうところだった」

 

「ふぁっ? ……いけませんわ、徹夜なんてゲーマーの基本ですのに」

 

(クソッ! 二人も起きやがった!!)

 

 

あまりの騒がしさに白斗の傍で眠りかけていた白と緑の女神も目を覚ましてしまったようだ。

ただ、まだ多少寝ぼけているのか白斗を抱き枕代わりにぎゅーっと抱きしめていたが。

 

 

「あーっ! 二人ともズルイ! 私も白斗にぎゅーっ!!」

 

「ネプテューヌぅ、寄り過ぎよぉ。 私も引っ付けないじゃない~! ぎゅーっ!」

 

「あばばばばばばばば!!?」

 

 

白斗の頭を、柔らかな双丘が包み込む。女神化したネプテューヌとノワールの胸である。

男なら誰もが一度は憧れる状況、しかし常人とは言えない生活を送ってきた白斗にとってそれは全く想像すらしていなかったこと。

故に免疫が低く、一気に彼の頭がオーバーヒートを起こしてしまう。

 

 

「そっちこそ何やってんだ!! 白斗は私の相手をするんだよ!!」

 

「いーえ! 今宵のお相手はわたくしですわー!!」

 

「んふぉっ!?」

 

 

すると彼女達に対抗するようにブランが白斗の顔の真正面、ベールが後頭部を包み込む用意抱き着いてきた。

極上の柔らかさ―――と言えば聞こえはいいが、実際のところ口も鼻も覆われて息が出来ない状態なわけで。

けれどもこの上ない極上の柔らかさなのも事実なワケで。

 

 

(誰か……ヘルプ…………ヘルプミィィィィィイイイイ!!)

 

 

白斗は声にならない叫びを上げた。

とりあえずなんとか呼吸だけでも確保しようと辺りのものをまさぐる。しかし、周りには女神しかおらず、しかも白斗に抱き着くべく姿勢を低くしている。

結果、彼が触れたものと言えば女神、それもきわどい所である。

 

 

「ひゃんっ!? ち、ちょっと白斗!?」

 

「にゃぁっ!? て、てめっ! 何触ってんだ!? まぁ、お前なら別にいいけどよ……」

 

「んーっ!! ンンン~~~~~~~ッ!!!」

 

 

違う、そうじゃねぇ! と言わんばかりにポンポンと触る力を少し強める。

こんな状況下でも決して女神達に傷つけないように配慮している辺り、この男の業の深さが見て取れた。

 

 

「ん~……? あ! 白斗が酸欠になっちゃう!」

 

「は、白ちゃんごめんなさい!」

 

「ぷはぁッ!!! て、天国が見えかけた……」

 

 

ここでノワールとベールが気付いてくれた。

抱き着きを緩めてくれたので、なんとか首の向きを変えて呼吸を確保できた。

 

 

(もたねぇ……こりゃ死んじまうって!! な、なんとか無力化せねば!!!)

 

 

このままでは女神の暴走に巻き込まれて命を落としてしまう――そう悟った白斗は、いよいよ女神の無力化を真剣に狙わなければならなかった。

だは、相手は女神化したことで身体能力が上がり、尚且つ酒が入ったことで理性が狂っている神。

人間――否、羽虫風情がどうやって神に勝てるというのか。

 

 

(否! 羽虫でも毒は仕込める! ……いや、皆を毒殺するわけじゃないけど)

 

 

しかし、羽虫には羽虫なりの戦い方がある。

白斗は覚悟を決め、作戦を実行に移すことに。

 

 

「と、とりあえず皆! さすがに暑くなったろ? 何かジュースでも飲もうぜ」

 

「え~? ジュースぅ~? 麦しゅわがいい~」

 

「これ以上酔われたら情緒もないしな。 後、ノワールは麦しゅわ禁止!」

 

 

余程気に入っているらしい、麦しゅわをノワールから取り上げて白斗は壁の屋内電話からスタッフへ注文を入れる。

一体何を頼んだのか、怪訝そうな、興味深そうな、そんな視線が白斗に注がれた。

 

 

「けど、折角来てくれたのにただジュースを飲むだけも味気ない。 そこでだ……」

 

 

やがてスタッフが、ワゴンを運んできた。

その上に乗せられていたものは、数本の瓶。そして、美しく透き通ったグラスのタワー。

ホストクラブに通う者なら誰もが一度は憧れる光景、それが―――。

 

 

「シャンパンタワー!! ……ならぬシャンメリータワー!!!」

 

「「「「おおおお~~~~!!!」」」」

 

 

天頂のグラスに綺麗な色合いの液体が惜しげもなく注ぎ込まれ、それが溢れ出し、滝のように流れ落ちては次のグラスを満たしていく……この美しさと豪勢さこそがシャンパンタワーの魅力である。

尤も、女神たちに考慮して注がれたのはシャンパンでは無かった。しかし、注いだのは言葉通りのシャンメリーでもなかった。

 

 

 

(……小熊が罠にかかった! 悪いな皆、そいつはシャンメリーによく似た色合いの……テキーラだ!!)

 

 

 

白斗は悪党のような悪い顔を浮かべる。

そう、これこそが白斗の起死回生にして必勝の策。

シャンメリーと偽って油断させたところで女神たちを酔い潰し、朝を平穏に迎えようという浅ましい悪巧みである。

 

 

「「「「「カンパーイ!!!」」」」」

 

 

少年と女神たちがグラスを手に取り、互いに鳴らしあった。透き通るような美しい音が響き渡る。

まず白斗は、これがテキーラだと悟らせないため一気に飲み干した。

酒好きとは言え、体はまだまだ未成年。蒸留酒の中でも度数の高いテキーラを何も割らずに飲んで無事でいられるはずもなく。

 

 

(っぐ!? ごほッ、がぁッ!? さ、さっすがテキーラ……効くわぁ……ァァァ……!!)

 

 

一気に体の内から熱が沸き上がり、脳内を、体全体を揺らしてくる。

それでも飲み切って思考を保つ辺り、白斗も男の意地を見せている。

 

 

(く、くくく……! 勝った! 俺ですらグラつくこの度数! 皆に耐えきれるはずが―――)

 

 

酒好きの白斗ですら揺らぐこのテキーラのキツさ。

女神たちに耐えきれるはずがない―――しかし、彼はこのゲイムギョウ界に生きて随分経つというのに、すっかり忘れていることがあった。

 

 

「なぁにコレ~? パッとしなぁ~い」

 

「こんなのより麦しゅわの方がいい~! 樽一杯分持ってきて~!」

 

「コラァ白斗ォ! こんなの水同然だろうがァ!!」

 

「あはは~! 最高の気分ですわぁ~!!」

 

(全然効いてねェエエエエエエエエエエエ!!?)

 

 

―――フラグを立てることの愚かさを。この世界ではフラグがそれこそゲームのように成立してしまうのだと。

やはりというべきか、女神達は狂ったようにテキーラのグラスを飲み干していった。

否、実際はアルコールが回っているはずなのだが気分が最高にハイになっているためか気にすることなく飲み続けていた。恐ろしい。

 

 

「あらぁ? 白斗ってば酔いが回っちゃったのかしらぁ?」

 

「なんだなんだぁ? 普段は大酒飲みの癖に真っ先にダウンたぁ情けねぇ」

 

 

寧ろグロッキーになっているのは白斗の方。

からかえるチャンスに恵まれたと言わんばかりにネプテューヌとブランが煽ってくる。

 

 

「……言ったなコラ……! 上等だ、こちとら修羅場潜り抜けてきた男! 女神だろうがなんだろうが酒の味もまともに知らねぇ小娘に負けてたまるかぁ!!!」

 

 

白斗にも男の意地がある。

酒が回っていることもあって普段より冷静さを欠きやすくなっていることもあり、あっさりと挑発に乗ってしまった。

こうなれば何が何でも彼女達を酔い潰してやろうと―――。

 

 

 

「あ~ら、面白いことを言うわねぇ。 それならアタシも混ざってもいいわよねぇ……白くぅん?」

 

 

 

―――艶めかしくも威圧感のある女性の声。

知る人ぞ知る、心臓を鷲掴みにするような蠱惑的な言葉遣い。何より、少年を「白くん」と呼ぶこの女性……否、女神は。

 

 

「ぷっ、ぷっ、プルルート!? おまっ、なんでここに……!?」

 

「はぁい、白くん~」

 

 

神次元のプラネテューヌを守護する女神、プルルートが変身した姿であるアイリスハートがそこにいた。

いつもの露出度の高いボンテージ風プロセッサユニットではなく、あやめ色のドレスである。

それでもスリットの開き具合を大きくしたり、背中を大きくはだけさせているなど露出度の高さはさすがの一言。正直、白斗も一瞬だけ釘付けになった。

 

 

「久々にねぷちゃんのところに遊びに行ったら白くんを追いかけてるって言うじゃない。 しかも肝心の白くんの行き先がホストクラブ……じゃあアタシも混ざろうってだけ」

 

 

なんて軽く言うが、彼女の不満は見て取れた。

何を隠そう、女神化しているということはフラストレーションが溜まっていることの証である。

プルルートは普段はおっとりぽやぽやしている、柔らかい雰囲気の可愛らしい女の子だがストレスが溜まると一転、アイリスハートになって苛烈になってしまうお人なのだ。

なので彼女の登場に、ネプテューヌ達も動きを止めて様子を窺っている。

 

 

「良いわよねぇ? 散々女の子に酒飲ませて酔わせて甘い言葉吐きまくって女遊びに現を抜かしていた騎士様ぁ?」

 

「ぷ、プルルート様……怒ってます?」

 

「イヤねぇ、どうして怒らなきゃいけないのかしらぁ? アタシを放っておいてこんなにも美少女たちに囲まれてイチャイチャしていることに……ねぇ……!?」

 

(怒っていらっしゃるうううううううううッ!!?)

 

 

そのストレスの原因は紛れもなく白斗であった。

ネプテューヌ達と同じ。想い人が自分をほったらかしにして女遊びに精を出しているともなれば、怒らぬ乙女がいようか。

何せよ、白斗からすれば更なる増援の襲来にいよいよ打つ手が無くなりそうになる。

 

 

「皆! 聞きなさぁい! 『私のために争わないで!』という言葉があるわ! それの対義語が何か知ってる?」

 

 

突然プルルートがそんな問いかけをネプテューヌ達に投げかけた。

なんのこっちゃ、と言わんばかりに白斗も含め、皆が首を傾げる。

 

 

「答えはねぇ……『争え、勝った者だけを愛してやる』よぉ」

 

「「「「Let's Party!! Yeaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaah!!!!!」」」」

 

「やめてぇー!? 俺のために争わないでぇ――――――!!?」

 

 

プルルートの一言が起爆剤になり、女神達がそれぞれの得物を持ち出した。

悲しきかな、このゲイムギョウ界がつい最近まで女神達が武力行使による争いを繰り広げたこともある。

その守護女神戦争がまた幕を開けようとしていた。

ただ一つの違いは、その原因がシェアではなく白斗と言う一人の男を巡っての骨肉の争いである。

愛はオンリーワンなのだ。

 

 

「ホント単純よねぇ、皆。 勝者に白くんを上げるなんて一言も言ってないのに」

 

「……プルルート、お前ホントに強かだよな。 さっすが仕事をさせれば有能なお方」

 

「白くんから学んだのよぉ? だぁってぇ……」

 

 

するとプルルートが白斗の肩を掴み、凄い勢いで押し倒す。

押し倒した先は柔らかなソファだったので白斗に痛みは襲い掛かって来ない。

白斗の目の前には、アイリスハートが実らせた双丘がメロンのようにぶら下がっている。

しかし、それ以上の白斗の視線を引き付けたもの。それは―――。

 

 

 

「だって……これくらいしないと、貴方と二人きりになれないもの」

 

 

 

いつもは強く、気高く、優雅で余裕たっぷりなアイリスハートの―――寂しそうな顔だった。

彼女にとって白斗と触れ合えないことがどれほど苦しいことだったのか。

それを思い知らされては、白斗としては応えないわけにはいかない。

 

 

「……ごめんな、寂しい思いさせて」

 

「だったら、今夜くらいは甘やかして頂戴」

 

「俺、割とプルルートは甘やかしてる方だと思ったんだけどなぁ」

 

「ダメ。 全然足りないわ」

 

 

普段は恐れられている女神アイリスハート。だがどうしたことか、白斗の前では毒気が抜かれてしまう。

白斗の方も(相当苛烈にならない限りは)アイリスハートともごく普通に、誰との差を感じることもなく接することが出来る。彼からしてみれば、彼女もまた女の子だ。

そんな二人の相性はこれ以上なく気安い関係である。

 

 

「つーか、お前こそ酒大丈夫なのか? ブラックコーヒー飲めないお子ちゃまが」

 

「言ってくれるわねぇ。 なんなら、ここで大暴走してもいいのよぉ?」

 

「すみません、この口が悪うございました」

 

 

なんて軽口を叩けば、女神の綺麗な指先が白斗の頬をつねる。

しかしながらそんな他愛もない会話が楽しい。不思議な距離感、関係性の二人である。

ただ、いい加減この姿勢になって白斗はいよいよ見逃せないことが一つある。

 

 

「と、ところでプルルート。 そろそろこの体勢はその、色々マズイと思うんですが?」

 

 

そう、プルルートの表情が楽しそうになったことで再浮上してきた問題。

今、女神化したプルルートは白斗に覆いかぶさるようにしている。

つまりそれは、白斗の目の前にぷるるんと実った女神の巨乳が目の前にぶら下がっているわけで。

 

 

「あらぁ? 白くんってば照れてるのぉ? 女神化したねぷちゃん達に抱き枕にされていたくせにぃ?」

 

「それとこれとは別なの! ってか触れてない分こっちの方が色々ヤベェんだわ!!」

 

 

なんなら鼻先を掠めそうなくらいに胸が揺れているのだ。

白斗は確信した。プルルートはわざとやっていると。

そしてこんなにも女の武器を押し出してくる辺り、やはり酒が回っているようだ。

 

 

「ふふふ、アタシ相手でも臆さない白くんが照れてくれてるのねぇ! だったらぁ……こうしてア・ゲ・ル」

 

「むぎゅっ!?」

 

 

なんとプルルートはそのまま白斗の上に圧し掛かってきた。

当然、白斗の目の前でぶら下がっていた二つの双丘も白斗の顔にむにゅっと圧し掛かり、白斗は極上の柔らかさに埋まった。

 

 

「ふふふ、どぉ? アタシからの大サービスよぉ」

 

「~~~~ッ!!」

 

 

口元や鼻を塞がれているわけでない。呼吸は出来た。

しかし、鼻腔を通じてアイリスハートの酔わせてくるような甘い匂いが伝わってくる。酒以上に白斗の脳内が揺らされた。

何より、目の前にはアイリスハートの豊満な胸が広がっている。未成年の脳が破壊されそうになるほどの極上の感触だった。

 

 

「ちょっとぷるるん!? 何してるの、それこそ戦争よっ!!」

 

「あ~らぁ? そういうねぷちゃんこそいつも白くん独占してるんだから、これくらいお目こぼしして頂戴よぉ」

 

 

と、ここでプルルートの行動を嗅ぎつけたネプテューヌがひったくるようにして白斗を抱きしめる。

それを目の前でされては今まで上機嫌だったプルルートもむすっと頬を膨らませてしまう。

 

 

「お目なんか零さない! 白斗は私のなのっ!!」

 

「勝手なこと言わないで~!! 白斗は将来ラステイションで私と……」

 

「いい加減にしろよテメェらぁ!! たまには私に持たせろォ!!」

 

「いい加減にするのは貴方の方ですわ! 隙あらば白ちゃんに引っ付く癖に! わたくしだって、白ちゃんとずーっとゲーム三昧していたいのに~!!」

 

 

ネプテューヌだけではない、残る三女神も集まってきた。

しかも各々が武器を取り出して、殺気まで漲らせている。

さしもの白斗も、いよいよヤバイと判断せざるを得なかった。

 

 

「「「「「Let's Party!! Yeaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!」」」」」

 

「やめてぇー!!? 俺のために争わなボガハッ!!?」

 

 

止めようと飛び出した矢先、衝撃の余波で白斗は吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。

そうして彼の意識は刈り取られてしまった。

 

 

 

(……やっぱり、ホストなんてやるんじゃなかった…………グフッ)

 

 

 

今更当たり前の後悔をしながら、白斗の意識は闇に落ちていくのだった―――……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――後日の話。

女神五人が大暴れをしたため、ホストクラブはあわや物理的に崩壊しそうになる。

が、寸での所で全員に酔いが回り、そのまま白斗を抱き枕にして全員が眠りこけてしまった。

壊れかけたホストクラブについては各国協会から弁償という形を取り、また教祖たちが隠蔽工作に八方手を尽くしたため表沙汰にならずに済んだそうだ。

因みに諸悪の根源ことキリューは後々白斗から制裁を加えられたそうな。死んでいないけど。

 

 

……そして残る女神たちはと言えば。

 

 

「き、きぼぢわるい~~……」

 

「もー、麦しゅわなんてこりごりよぉ~……」

 

「……お酒ネタ、二次創作において扱いやすい反面、諸刃の剣……うぷっ」

 

「頭痛いですわぁ~……。 でも、各種デイリーとミッションをこなさないと……ぉうっ」

 

「くーすかぴー……うっぷ」

 

 

散々二日酔いに悩まされた挙句、教祖たちや女神候補生、恋敵でもある少女たちからお説教を頂いたとのこと。

そんな彼女たちが最後に思う事は。

 

 

「「「「「もーお酒なんてコリゴリ~~~~~!!!」」」」」

 

 

……皆さんも、安易なお酒はやめましょう。

 

 

 

 

 

 

つづく

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――で、終わりだと思いませんよね? 諸悪の根源よ」

 

「イストワールさぁぁぁぁぁん!? すみませんでしたァ!! だからっ、だからこの十字架から解放してええええええええええええええええええ!!!!!」

 

 

その頃、白斗はどこかの薄暗い部屋にして拘束されていた。

立てられた十字架に縛り付けられた挙句、その下には薪がくべられている。

周りには各国の教祖が何やら怪しいローブを纏って白斗を取り囲んでいた。しかも、ミナに至っては松明を手にしている。

 

 

「幾ら言っても聞かない白斗さんのために、スペシャルなオシオキを用意しました」

 

「ミナさぁん!? 俺は信じてますっ! 貴女が!! 貴女がそんな残虐な行いを好まない、それこそ女神に相応しい心優しきお方であると―――」

 

「ファイア」

 

「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」

 

 

ごうっ、とそのまま白斗は炎に包まれるのであった。

……しっかりとウェルダンされた後、解放されたらしいがこの一件は白斗にとって間違いなくトラウマとなるのであった。

やがて黒焦げになった白斗の上にイストワールが座り込み、ふんわりと微笑む。

 

 

 

「画面の前の皆さんも安易なお酒はやめましょう。 さもなくば……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……この愚か者と、同じ運命を辿っちゃいますよ?」

 

 

 

 

―――本当に続く




サブタイの元ネタ「銀魂」のエピソード「アルファベット表記で人類皆ホスト」より

ということで皆さま、改めてお待たせして申し訳ありませんでした。
色々あって倒れていました。その間に忍ネプまで発売されているし……。もちろんプレイ済みです(オイ
それらを乗り越えて投稿再開! ですが本編はシリアスモードに突入する予定ですのでいきなりの再開がそれではと思い、ギャグ満載の番外編でお送りしました。
またまた白斗くんの酒ネタです。こやつ、結局凝りておりませんでした。こういうところはガキだとしか言いようがない。
ですがこれもまた、女神との触れ合いにより年相応になってきたことの証ということで……年相応が未成年飲酒ってどういうこっちゃ(

けれども改めてネプ二次創作やリハビリがてらネプシリーズのゲームをしたり、他社様のネプ作品に触れてみると、やっぱりネプテューヌ達が可愛いのなんの。
本当にこの子たちが好きで好きでたまらない。この気持ちは永久に不滅だなぁと感じております。
さて、次回ですが改めて本編の方を進めたいと思います。亀更新になってしまうかもしれませんが、どうか長い目で見守っていただけましたら幸いです。
それでは、またお会いしましょう!感想ご意見、お待ちしております!

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