恋次元ゲイムネプテューヌ LOVE&HEART   作:カスケード

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第八話 友好条約締結……のはずが、踊る!白斗大捜査線!?

―――友好条約締結記念式典。

その前日、プラネテューヌの教会は大慌てだった。

 

 

「おい! こっち椅子の数足りねぇぞ!」

 

「ネプテューヌ様達にお出しする料理の手配は!?」

 

「来賓の方々の状況はどうなってる?」

 

「ここ警備の穴があるぞ! ああもう、急いで配備しろ!!」

 

「誰か! 誰か助けてください! 式場の中心で助けを叫ぶ!!」

 

 

阿鼻叫喚、地獄絵図。

衛兵たちだけではなく、様々な業者が出入りし、当然その業者自体も厳正なチェックが入る。

それら全てを指揮するのはこの国の女神、ネプテューヌ……ではなく、教祖であるイストワールがあれやこれやと指示を出している。

 

 

「え、ええとですね……今、こっちの手配はあれで……ああああああああああ!?」

 

「アカン!! イストワールさんがキャパオーバーしてる!! 俺らもヘルプに入るぞ!!」

 

「「り、了解!!」」

 

「あ、ありがとうございます皆さん~~~~~!!」

 

 

見るに見かねて白斗、そしてアイエフとコンパがそれぞれの手配に入った。

ひったくるようにして資料を手に取り、目を通す。

各々の得意分野で受け持てば、何とか回せるはずだ。

 

 

「よし、警備については俺が担当しよう。 ……ん? 三番隊、この建物の屋上には誰かついているのか?」

 

「い、いいえ!」

 

「何やってんだ! この建物、如何にも狙撃できる位置取りと高さだろうが! さっさと押さえて来い!」

 

「は、はいいいいいいいいいいい!!」

 

 

警備に関しては、白斗にお任せという状況だ。

彼の実力自体は既に衛兵に知れ渡っており、同時にネプテューヌ達からも絶対の信頼を得ているため白斗の指示に従う衛兵が殆どだ。

彼の迫力ある言葉に押され、急いで手配に向かう。

 

 

「なら来賓関係は私が受け持つわ。 ……こちらのウサン議員は私から連絡するから、貴方達はリーンボックス方面をお願い」

 

「はっ!!」

 

 

アイエフもネプテューヌの親友、そしてプラネテューヌ諜報員を務めているだけあって衛兵の信頼も厚い。

慣れた手付きで指示を出し、アイエフは愛用の携帯電話で各方面に連絡を入れる。

 

 

「でしたら私はお料理のチェックをするです! 食材とか見せてもらっていいですか?」

 

「は、はい! こちらになります!」

 

 

コンパも料理は得意という分野から、せめて力になろうと申し出た。

今は全てにおいて手が足りない、誰か一人でも力を貸してくれるならと衛兵たちもありがたく手を借りて案内する。

そんな様子を、ネプテューヌは目の当たりにして涙していた。

 

 

「う、うう~……。 みんな私達のために……持つべきものは友達だねぇ……」

 

「「「「お前も働けこの駄女神!!!!!」」」」

 

「ねぷぅーっ!? は、はいいいぃぃぃぃぃ!!!」

 

 

全員のお叱りを受けて、ネプテューヌも走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜、ようやく全ての手配と確認が終わり、落ち着くことが出来た。

と言ってももう既に日付が変わる夜の12時。

白斗はプラネテューヌの教会にして、この国のシンボルでもあるプラネタワーの屋上まで足を運んでいた。

 

 

「……この景色は凄ぇな……」

 

 

本来、ここは夜になれば一般人は立ち入ることは出来ない。

しかし教会関係者であれば、来ることは可能だ。そう、今の白斗はまさにその関係者中の関係者。

そこから見下ろすプラネテューヌの夜景は格別だ。

 

 

「ふふ、驚いたかしら? 我が国自慢の夜景は」

 

「ネプテューヌ?」

 

 

後ろから凛とした声が。

振り返るとそこには女神化したネプテューヌが、優雅に歩いてきた。

 

 

「珍しいな、女神化してるなんて」

 

「ええ、明日の段取りとか諸々やっていたんだけど……」

 

「けど?」

 

「みんな、缶詰で離してくれないって言うから逃げてきちゃったのよ」

 

「おいおい……」

 

 

変身前のテンションが嘘のように冷静になり、立ち振る舞いも美しくなるパープルハート。

けれどもやはりその本質は変わっていない。

仕事を抜け出したのは叱るべきなのだろうが、それを再認識すると安心してしまう白斗がいるのもまた事実だ。

 

 

「……しゃーねーな。 こーんなところに女神様がいるワケないし、きっとこれは幻覚幻聴幻影なんだろうなー。 俺は何も見てないし聞いてないー」

 

「ありがとう、白斗。 理解力のある人は好きよ」

 

 

ネプテューヌは女神化を維持したまま白斗の隣に座り込む。

その仕草の一つ一つが艶っぽくて、思わず白斗の心臓が大きく打ち鳴らされた。

この世界に来て、初めて出会った女神様。あの美の化身とも言える存在がこうして自分の隣にいること自体が、今でも信じられない。

 

 

「で、明日のスピーチは完璧なのか?」

 

「はぁ……正直全然ね。 直前で丸々内容変わっちゃったし」

 

「オイオイ……暗殺とかそれ以前の問題で不安になってきたぞ……」

 

「心配しないで。 これでも私、やる時はやるんだから」

 

「……信じてますよ、女神様」

 

 

今度は二人で、プラネテューヌの夜空を見上げる。

下はネオンによる光の海、上は満点に輝く星のパーティー。白斗の居た世界では、こんな幻想的な世界は見たことが無い。

 

 

「……いよいよ明日か」

 

「ええ。 ……白斗、本当にありがとう」

 

「ん? 何だよ、突然」

 

 

明日、いよいよ友好条約締結の記念式典がこのプラネテューヌで行われる。

このタワーの真下には式典会場がある。

そのための準備や手配などは全て行った。後は当日を迎え、最後まで完璧にやり遂げるだけ。それを意識した途端、ネプテューヌが感謝の言葉を告げてくれる。

 

 

「突然じゃないわ。 ……ここまでずっと、私達を守ってくれたんだから」

 

「……どういたしまして。 ただ、俺も……こうしたかったからな」

 

 

なるだけ平静を装っているが、内心バクバクで息も上がりかけだ。

何せ、ネプテューヌほどの美女が隣にいて、こうして自分だけに言葉を、微笑みを向けてくれるのだから。

今ならば、信者達が自分を憎んでも仕方がないと白斗は思う。

 

 

「でもまだ明日がある。 まだ俺は務めを果たしちゃいないさ」

 

「そう思ってくれるのは嬉しいけど、白斗だって大切な来賓なのよ。 ちゃんと休んで、私達の勇姿を特等席で見て欲しいわ」

 

「ああ。 ただ……まさかの最前列とはなー」

 

「ふふ、私も特等席から白斗のカッコイイ姿を見てるからお相子ね」

 

「全然相子じゃない」

 

 

うげぇ、とまるで不味いものを食べたかのように舌を出す白斗。

以前から公言している通り、公の場や堅苦しいパーティーは大の苦手だと言う。けれどもそんな彼の反応が可愛らしくて、ネプテューヌはついついからかってしまう。

 

 

「ネプテューヌ! こんな所でサボり……ってなんで白斗までいるの!?」

 

「テメェ!! ちゃっかり抜け駆けか!?」

 

「私の弟に不埒な真似を……!! 許しませんわよ!!」

 

「えっ!? み、みんな!?」

 

 

そんな空間に、三人の女神が飛んできた。

ノワール、ブラン、ベール。皆女神化を果たしており、それぞれが独自の美しさでこの闇夜でも輝いている。

そして、三人の怒りも実に映えていらっしゃる。

 

 

「んじゃ、俺はお邪魔みたいだしそろそろ明日に備えて寝るかー」

 

「ま、待って白斗! 助けてくれると嬉しいのだけど!」

 

「自分で蒔いた種でしょーが。 でも……」

 

 

さすがに助ける気にはなれない。ただ、発破をかけてあげることは出来る。

白斗は去る直前にネプテューヌの耳元で囁いた。

 

 

「……俺、ネプテューヌの一番の晴れ舞台……楽しみにしてるから。 頑張って」

 

「…………!!」

 

 

皮肉でも何でもない、純粋な期待。

それを言葉に乗せて、彼女に送った。去る直前、ちらりと彼女の顔を見て見るとあの凛々しく、冷静で、美しいパープルハートの顔が紅くなっている―――ような気がした。

 

 

「……みんな、こんなところで休んでいる暇はないわ!! 明日に向けて最終調整よ!!」

 

「「「お前が言うなー!!!」」」

 

 

何やら張り切ってくれたネプテューヌ。

女神達のツッコミを受けながらも、これまで以上に真剣に取り組んでくれるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――そして、夜は明け――――

 

 

 

 

 

 

 

「白斗さーん! 急いでくださーい!!」

 

「もう始まっちゃいますよー!!」

 

「わ、分かってらぁ! ええい、ネクタイとかクソ面倒なんだよ……!!」

 

 

朝の八時だというのに、やはりプラネテューヌの教会はバタバタとしていた。

白斗の部屋の前では、既に着替えを済ませているネプギアとユニが呼びかけていた。

 

 

「お兄ちゃん早く早くー!」

 

「お兄ちゃんのお洋服……早く見たい……♪」

 

 

期待に期待を寄せているロムとラムも既におめかし完了だ。

四人とも、あのデパートで受け取った礼服に身を包んでいる。

彼女達は国の代表側であるため少し緊張しているものの、それ以上に姉の晴れ舞台を見れることに大はしゃぎだ。

 

 

「わ、悪い! 待たせた!!」

 

 

焦りに焦った白斗が、ドアを勢いよく開け放った。

いつもの黒コートとは違い、黒い礼服に身を包んだ白斗の姿はとても凛々しかった。

落ち着いた雰囲気と共に、どこか騎士を思わせる鋭さ、大人の男性としての色気。

目の当たりにしたネプギア達はと言うと。

 

 

「「「「きゅうぅぅ~~~ん!!!」」」

 

「きゅん?」

 

 

胸に来ていた。

 

 

「い、いえいえ! とてもカッコイイです!」

 

「おう、ありがとな。 ……あー、一刻も早く脱ぎ捨ててぇ……」

 

「ダメですよ! 脱いじゃ!」

 

 

褒めてくれたことは嬉しいのだが、やはり礼服の堅苦しさは苦手らしくネクタイに手を掛けようとする。

慌ててユニが止めたものの、ちょっと目を離せば服装を崩してしまいそうだ。

 

 

「あぁ、ネクタイが乱れちゃいました……。 白斗さん、こっち向いてください」

 

「え? い、いいよそれぐらい……」

 

「いけません、白斗さん目を離すとすぐに楽な格好になっちゃうんだから……」

 

 

今のでネクタイが少し乱れてしまい、見るに見かねたネプギアが整えるべく手を伸ばしてくる。

気恥ずかしさから思わず遠慮してしまうが、控えめな彼女にしては珍しく押し切る形となり、結局は彼女が結び直す形に。

―――つまりこの状況は、白斗とネプギアが正面を向き合い、彼女がそれを締め直してあげているという状況なのであって。

 

 

(……こ、これって……所謂その……)

 

(……新婚さん、なのでは……?)

 

 

意識して、互いの目を見合わせた途端、爆発したかのように頬が赤く染まる二人。

ネクタイも締め直したことで、ネプギアが慌てて目を逸らす。

 

 

「あ、あああああ! す、すみません!!」

 

「い、いえいえ! こっちこそ……!!」

 

 

白斗もまた、どこか熱いものを感じてしまいネプギアの目をまともに見られなくなってしまう。

ここ最近、白斗は周りの女性陣の行動に胸が高鳴りっぱなしである。

 

 

「ふ、ふわ~! ネプギア大胆……! でも、何故だか面白くない……」

 

「ネプギア! 新婚さんみたい!」

 

「お兄ちゃんがお父さんで、お姉ちゃんがお母さんだったらなぁ……(わくわく)」

 

 

ユニ達の反応は様々だ。

女の子が夢見るシチュエーションに興奮する者、どこか嫉妬する者、誰かに置き換えて幸せな未来を想像する者。

いずれにせよ、白斗とネプギアの熱が下がることは無かった。

 

 

「ふふ、お熱いですね。 お二人は」

 

「い、イストワールさん。 すみません、お待たせして」

 

 

そこに現れたのはいつもの通り、可愛らしく浮いているイストワール。

彼女も式典に参加するため、当然ながらいつもの服とは違い白を基調にしたドレスを身に纏っている。

まさに妖精と評されてもおかしくない可憐さだ。

 

 

「いえいえ。 では、私達も向かいましょうか」

 

「「「「「はい!」」」」」

 

 

既にこの教会にはもう、ネプテューヌ達四女神はいない。

会場へと足を運んでいたのである。

あの不真面目なネプテューヌですらこうして迅速に行動しているのだから、この式典がどれだけ重要な意味を持つのか、嫌でも理解させられる。

式典会場はプラネタワーの真下、つまり教会周辺。

 

 

「うおお……! 凄ぇ人の数……!」

 

 

外に出て見れば、普段は静かなプラネタワー周辺も人で溢れていた。

式典会場まで足を運んでいるのは、招待された客のみだ。教会関係者、国の大物政治家、女神が普段世話になっている者達など錚々たる顔ぶれである。

周りを警備する衛兵も、四ヶ国の選りすぐりの猛者達で固められており、各国の本気を窺わせた。

 

 

「はい、誰もが国政に携わる重鎮の方々です。 決して失礼のないようにお願いします」

 

「り、了解ー……」

 

 

つまり何かしら粗相をしでかせば、それぞれの国で大混乱が起きかねないということだ。

イストワールに言われてはさすがの白斗も緊張せざるを得ず、出来るだけ重鎮たちから離れて行動することに。

 

 

「あ! 白斗さん、やっと来たです!」

 

「ん? おお、コンパか……んんん!?」

 

 

声を掛けられて振り返ってみれば、そこにいたのはコンパだ。

柔らかい生地のドレスが、彼女が常に周りに与えてくれる優しさを引き立たせてくれている。

しかしそれ以上に目を引いたのは―――揺れる胸。こちらに駆け寄ってくる度に揺れるその姿は男には勿論、女性にも刺激が強い。

 

 

「あ、あわわ……ベールさんに隠れがちだけど、コンパさんも凄い……」

 

「く……ペッタンフレンドにとって仇敵ね……!」

 

 

思わず自分の胸と比べてしまうネプギアとユニ。

今着ている服がドレスという体のラインが強調されてしまう服装だけに、どうしてもその胸囲の格差社会が露呈してしまう。

 

 

「わぁ~! 白斗さん、カッコイイです!」

 

「あ、ありがとな……。 コンパも、その……よく似合ってる」

 

「ありがとうです~!」

 

 

コンパも白斗の礼服がお気に召したようで褒めてくれる。

しかも彼女の場合は、ロムやラムとは違ったストレートさがあるため余計に意識してしまうのだ。

互いに褒め合うその姿は、まるで―――。

 

 

「こういう状況……なんていうのかな、ラムちゃん?」

 

「えーとね……彼氏彼女かな、ロムちゃん」

 

「「えっ!?」」

 

 

同じく純粋なロムとラムからそんな感想が飛んでくる。

思わず顔を見合わせては、照れてしまう二人。

そんな白斗とコンパが初々しくてイストワールはくすくすと笑ってしまうが、ネプギアとユニの心中は穏やかではない。

 

 

「……むぅ~。 さっきは私がネクタイ締めてあげたのに……」

 

「ネプギアはまだいいじゃん。 アタシなんてCGが付きそうなイベント、まだ起こってない……」

 

 

ぷくー、と頬を膨らませて不満をアピールする二人。

何か別の話題を探して話をすり替えねばと模索していると、あることに気づいた。

 

 

「ん? そうだ、アイエフは?」

 

 

コンパと言えば、いつも親友であるアイエフとセットで出てくるイメージがあった。

逆に仕事の関係でアイエフだけが顔を出すことはあるのだが、その逆は無かったのだ。

 

 

「あいちゃんはさっきまでいたんですけど、急にお仕事の電話が入ったみたいで」

 

「電話? ってことは式典に出られないのか?」

 

「いえ、すぐ戻ってくるって言ったきりです」

 

 

どうやら電話のために少しの間だけ席を外しているらしい。

特に問題ないと判断し、白斗も一安心だ。

 

 

「あ、そうでした! 私、あいちゃんを探してる途中だったんです!」

 

「確かに、そろそろ戻らなきゃいけない時間だよな。 俺達もアイエフ探しておくよ」

 

「お願いするです! それじゃ!」

 

 

コンパはドレス姿にも関わらず、慌ててその場を離れていった。

余程彼女を心配しているのだろう。

 

 

「それでは、まずはネプテューヌさん達に挨拶しましょうか。 控室はこちらですよ」

 

 

イストワールに案内され、会場の裏側へと移動する。

そこには警備兵で固められた豪華な部屋が。

どうやら四女神が一同でそこに控えているらしく、警備体制も尋常では無かった。

ただ、さすがに教祖たるイストワールがいれば半ば顔パスで通してもらえた。

 

 

「白斗にいーすん……それにみんなも。 いらっしゃい」

 

「よう、ネプテュー……ヌ……」

 

 

真っ先に出迎えてくれたのはネプテューヌ。

式典直前もあって既に女神化を果たしている。だが、白斗の言葉を失わせたのはそれでは無かった。

―――言いようのない美しさを纏った女神様が、そこにいたのだから。

 

 

「あら、白斗? 私のドレス……そんなにおかしいかしら?」

 

「い、いや! 逆だ!! その……とても、素敵です……」

 

 

思わず敬語になってしまう白斗。だが、そうさせてしまうだけの魅力がネプテューヌにはあった。

彼女のイメージカラーたる紫色のドレスが落ち着いた雰囲気を醸し出し、更には露出の高いドレスが、彼女の魅惑のボディラインを描いている。

まさに女神、そうとしか言えない美しさが白斗を飲み込んでいた。

 

 

「……ありがとう。 ふふ、照れている白斗も可愛いわね」

 

「か、からかうなよ……!」

 

 

平時であればいつもは主導権が白斗が握っているはずだが、女神化すれば立場は一気に逆転する。

先程のコンパとは違った、仲睦まじさにまたもやネプギア達がジェラシーを抱きそうになるが、それよりも遥かに段違いな威圧感が舞い込んできた。

 

 

「こら、ネプテューヌ! 貴方、友好条約前に戦争を起こしたいの!?」

 

「白斗も白斗だ。 ……ちゃんとこっち、見てくれよ」

 

「全くですわ。 姉を無視するなんて白ちゃんもいけずです……」

 

 

それは同じ控室で待っている、三女神だった。

既に彼女達もそれぞれドレスに身を包んでおり、準備は万端だった。

 

 

「は、白斗……。 その……どう、かしら……似合ってる……?」

 

「……似合ってるなんてモンじゃねぇ……。 すげぇ、大人っぽい……」

 

「そ、そうかしら!? もう、白斗ってば上手ね~」

 

 

ノワールは黒いドレスを身に纏い、大人の女性の魅力を引き立たせている。

普段の厳格さだけではない、人々を導く力強ささえ感じさせた。

 

 

「ブランはまるでお姫さまだな。 綺麗で、神秘的で……」

 

「お、おう……そうか。 へへ、お姫様か……♪」

 

(……守りたくなる、なんて言ったら怒るだろうか)

 

 

白のドレスに身を包んだブランは、可愛いらしさを抑え、美しき姫君のそのもの。

思わず手を取りたくなるような、可憐さと美貌は、心が現れるようだ。

 

 

「白ちゃん。 私にも気の利いた言葉が欲しいですわ」

 

「ベール姉さんは……なんだかカッコイイな。 憧れの女性って感じだ」

 

「あらあら、綺麗とは良く言われますがカッコイイ……悪くないですわね」

 

 

ベールのドレスは、胸を揺らしているものの露出を控えめにしているおかげか高貴さも併せ持っていた。

その気高さも、女神の側面の一つと言えよう。

 

 

「……よく白斗さんはポンポンと歯の浮くようなセリフが出てきますね」

 

「女誑し」

 

「ばっ!? 人聞きの悪いことを言うなァ! 俺の偽りのない言葉なんだから!!」

 

 

ジト目によるネプギアとユニの発言が胸に刺さる。

白斗とて恥ずかしさをこらえての、精一杯の感想だったのだ。だからこそ、女神達の心には余計に深く沁み込んでいるのだが。

 

 

「歯の浮くようなセリフ、ね……。 それはあいちゃんとこんぱにも言ったのかしら?」

 

「コンパさんにも言ってたよお姉ちゃん! アイエフさんはまだ見てないけど」

 

「え? あいちゃん、まだ来てないのかしら」

 

「電話のために一時席を外したんだって。 だからそろそろ二人揃って……」

 

 

挨拶に来るだろう、とネプギアが言いかけたその時だった。

控室の外で何やら騒ぎが起きているらしく、衛兵と少女の揉めるような声が。

 

 

―――ちょ、待ちなさい君! 中には女神様と来賓の方々が……

 

―――ねぷねぷに会わせてほしいんですぅ! 今すぐ!!

 

「ん? 今の声……」

 

「こんぱ? 衛兵、今すぐ通しなさい!!」

 

 

聞こえてきたのはコンパの声だった。

さっきまでの穏やかな声色ではなく、必死な声だ。

親友の危機だと察したネプテューヌの声が響き渡る。その声に怯み、衛兵の手が緩んだ隙にコンパは半ば突き破るようにして控室に転がり込んできた。

 

 

「はぁっ……はぁっ……! ね、ねぷねぷ……白斗さん……!」

 

「こんぱ!? どうしたの、こんなに慌てて……」

 

「アイエフは? まだ一緒じゃないのか?」

 

 

倒れ込んでしまったコンパを慌てて抱き起こすネプテューヌ。

そして今も尚、アイエフの姿は無い。

未だに姿が見えない親友、そしてコンパの焦りと涙が、決して良く無い報せを持ち込んできたことを嫌でも悟らせる。

 

 

「あいちゃんが……あいちゃんが! いなくなっちゃったんですぅ!!」

 

「あ、あいちゃんが……!?」

 

 

その一言は、この控室にいた全員を戦慄させた。

よりにもよって、式典開催まで時間がないこのタイミングで、だ。

お化粧しているにも関わらず、コンパは涙でその顔をドロドロにしてしまう。何とか宥めようとネプテューヌとイストワールが近寄った。

 

 

「コンパさん、何かの間違いではないですか? アイエフさんの携帯とかには……」

 

「さっきから連絡しても全然繋がらなくて! あいちゃんのお仕事先に連絡してみても、『知らない』の一点張りで……!!」

 

「何……!?」

 

 

まさか、その呼び出しの電話すら偽りだったというのか。

アイエフは元々真面目で、友達思いの娘だ。ここに来て式典を抜け出すとは考えにくい。

となると残された可能性は―――。

 

 

 

「……まさか、アイエフを誘拐してその騒ぎで式典ぶっ壊そうってのか……ッ!!」

 

 

 

白斗の歯軋りが、苛立ちに任せた拳の音が、そして怒りに満ちた声が。

控室内にいる全ての者を震え上がらせた。

しかし、その怒りは誘拐犯に対してだけではない。白斗自身に対してのものだった。

 

 

「クッソ……!! 何て間抜けだ俺は……!! ネプテューヌ達を守ることばかり考え過ぎて、アイエフのこと……全然考えてあげられなかった……ッ!!! アイエフだって、大切な仲間で……守るべき女の子なのにっ!!!!!」

 

 

怒りの余り、唇を噛み切り、血が流れだす。

拳がわなわなと震え、また何かに拳を打ち付けそうになるが僅かに残った理性でそれを抑えようとする。

そんな彼の手を、ブランは優しく包みこんだ。

 

 

「落ち着けよ。 お前の所為なんかじゃない。 ……それに今やるべきなのは、アイエフを助けることだろ?」

 

「ブラ、ン……。 ……ああ、そうだな。 ごめん、冷静じゃなかった」

 

「そんな弟を支えるのも私たちの役目ですわ。 とにかく今は一つでも多くの情報を!」

 

 

女神の友は彼女達にとっても友。

ベールの的確な指示に従い、衛兵たちが一斉に動き出す。

 

 

「……よし、イストワールさん! コンピュータールームお借りします!」

 

「え? 白斗さん何を!?」

 

「監視カメラの映像などでアイエフの足取りを追います! ネプギア、手伝ってくれ!」

 

「わ、分かりました!!」

 

 

情報収集は衛兵たち、映像分析は白斗たちが担当することになった。

急いでコンピュータールームに駆け込み、送られてきた映像ファイルを展開していく。

 

 

「コンパ! 最後にアイエフを見かけたのはいつ、どこだ!?」

 

「え、ええと……30分前、会場の入り口です!」

 

「と、なると……みんな! この時間帯の映像をチェックしてくれ!!」

 

 

白斗もまた的確な指示を出し、一斉に映像分析が始まる。

まずは会場入り口の映像、確かにコンパとアイエフが映っており、肝心のアイエフは携帯電話を片手に式典の外へと走り出した。

携帯電話を耳に当てていることから、会話しながらであることは間違いない。

 

 

「電話している人の心理としては、会話ってあんまり他人に聞かれたくないもののはず。 諜報員という仕事をしているなら尚更、そしてアイエフに所縁のある場所……バイクを停めている駐輪場とかか?」

 

 

論理的な思考から、白斗は駐車場・駐輪場関係の映像をピックアップする。

以前、アイエフと会話した時に彼女の趣味はバイクだと言っていた。愛車と豪語していたのだから、親友であるネプテューヌやコンパの次に落ち着ける場所だろう。

そう思って開いていたのだが。

 

 

「……あっ! アイエフだ!」

 

「ホントです! あいちゃんが駐輪場に……!」

 

 

ビンゴ、推理通りアイエフの姿を見つけた。

次に追うべきはここからの足取りだ。

映像を早送りして、アイエフの出入りがあるかどうか確かめることに。

 

 

「……車が一台出ただけで、アイエフは一向に出ないな。 ネプテューヌ、この駐輪場だが他に出口あるのか?」

 

「いえ、あいちゃんが入ってきたこの一ヵ所だけよ」

 

「……つーことは」

 

 

白斗は何度も映像をチェックし、そして断定する。

先程の映像、アイエフが入った時間帯に出ていった車はこの一台のみ。黒色のワゴン車というあからさまに怪しい車体だ。

 

 

「この角度じゃ中が見えないな……みんな! 今度はこの車を探してくれ!」

 

 

白斗の更なる指示で道が見えてくる。

ネプギアとイストワールもサポートについて、映像分析を進めてくれる。

ネプテューヌ達もとにかく映像を見て手掛かりの一つでも見つけようと必死だ。すると、ノワールがある映像に目をつける。

 

 

「……待って! ネプギア、この映像巻き戻して!」

 

「え? これですか?」

 

 

ノワールの指示に従ってネプギアが映像を逆再生する。

その後はコマ送りで少しずつ進めていくと―――。

 

 

「……ストップ! この車! さっきのと同じじゃない!?」

 

「それだ! ナイス、ノワール!」

 

 

間違いない、車体もプレートナンバーも同じだ。

ここから先はネプギアの出番。何度もクリックして、解像度を上げながら映像を拡大していくと車の窓に人影にしては何か違和感のある影が映った。

更に解像度を上げて分析していくと―――。

 

 

「「―――あいちゃんっ!!」」

 

 

コンパとネプテューヌが、悲鳴にも近い声を上げた。アイエフが車に乗せられていたのだ。

しかもご丁寧に猿轡まで噛まされている。

明らかに誘拐としか思えない、この映像一本だけで充分証拠になり得る。

 

 

「誘拐を許しちまったのはクソッタレだが、車体もプレートナンバーも把握済み! ……ここから先は俺の仕事だ」

 

 

ポケットから手袋を取り出し、深く填め直す。

直前まで温和だった白斗の表情が、刃の如き冷たさと鋭さへと変わっていった。

 

 

「白斗!? また一人で乗り込むつもりか!?」

 

「今回に限ってはそれしかない。 ここで女神様が動いたらそれこそ一大事だ。 かと言って大勢で乗り込めば敵に察知され、アイエフがより危険に晒される」

 

「だから単独で潜入……理に適ってますが、白ちゃんだって危険ですのよ!?」

 

 

いつものように、いや、いつも以上の怒りを胸に白斗が救出に赴こうとする。

理屈は分かっても、女の心理としてそんな危険な場所にはいかせたくない。

ブランとベールが必死に止めようとするが、白斗はその眼光だけで引き下がらせた。

 

 

「だからなんだ? 今、辛い思いしてるのはアイエフなんだよ! ここで引き下がっちゃ仲間でも……漢でもねぇ!!」

 

 

女神をも震撼させたもの、それは覚悟。

白斗は持ち前の技術と度胸、そしてこの覚悟で幾重もの窮地を乗り切ってきた。

そんな彼だから、信じられる―――。

親友であるコンパ、そしてネプテューヌは人前であるにも関わらず頭を下げてきた。

 

 

「……白斗さん、お願いするです……!」

 

「私からもお願い。 ……あいちゃんを、どうか……!」

 

「ああ、必ずアイエフを無事に送り届けるさ」

 

 

可愛い女の子二人に頭を下げられて断るようでは漢ではない。

白斗は飛び切りの笑顔と共に親指を立て、約束した。

 

 

「白斗さんが行くのは分かりましたけど、この車の行く先は?」

 

 

ユニの心配は尤もだ。

この映像だけでは車の詳しい行方は分からない。

けれども白斗はそんなことは想定済みらしく、特に慌ててもいない。

 

 

「それについては考えがある。 イストワールさん、住民とかのデータってここで管理してたりするんですか?」

 

「え、ええ……国の大方針を決めるのは女神ですから。 基本的なデータは地理、気象、経済まで一通り……」

 

「ならそれを俺のケータイに送ってください! 今すぐ!」

 

 

白斗の指示を受けてイストワールがデータを躊躇いなく送る。

本来、個人情報を扱っていい立場などではないのだが今の白斗はそれらを託されるに値するだけの迫力と信頼があった。

 

 

「ネプテューヌ! 悪いがちょっとだけ式典開催を遅らせて貰えないか?」

 

「あいちゃんを助ける時間を稼ぐのね。 分かったわ」

 

「よし、これで何とかなる。 ……さて、やりますか!」

 

 

作戦も方針も固まった。

後はただ、彼がやるのみ。堅苦しいネクタイとジャケットを脱ぎ捨て、白斗は会場を後にする―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「離せっ! 離しなさいよ!!」

 

 

―――とある物件の一室。

そこは明かりも点いておらず、カーテンすら閉め切っている。唯一の光源は部屋に設置されたテレビの光のみ。

今、テレビではこれから行われようとする友好条約記念式典の生中継番組が映されている。

そんな殺風景な部屋の中で、アイエフは縛られた上で床に転がされていた。

 

 

「離してやるさ。 ただしもう少ししたら、ね」

 

「……アンタ、なんでこんなことを……!」

 

 

この部屋にいるのはアイエフ、彼女を取り囲む5人のガードマン。

そして彼らの雇い主であるこの男。

直接的な面識はないが、アイエフは彼を知っている。それは有名人だからだ。

 

 

「……ルウィーの大物政治家、ウサン議員の名が泣くわよ……!!」

 

 

目の前に居たのは、ウサン・クセイ議員。

ルウィーで活躍する大物政治家。そしてその影響力はルウィーに留まらず、他国にまで轟かせるほどだ。

そして大のホワイトハート信者としても有名。そんな彼が、こんな誘拐と言う不埒な真似をするとはさすがのアイエフも予想外だった。

 

 

「ご忠告どうも。 ……ああそうさ、私はもうオシマイだ」

 

「……何ですって……!?」

 

 

自らの進退が極まったことを悟るウサン。

それでも、彼は余裕を崩さず愛飲している葉巻を取り出して火をつける。吹かれた煙の臭いが鼻につき、アイエフは咳き込んでしまう。

 

 

「私には覚悟がある。 命を投げ捨てる覚悟が。 その覚悟と……君の死を以て、こんな欺瞞に満ちた友好条約などブチ壊してやるのさ」

 

 

ウサンの手、そして彼が雇っているガードマンの手にも銃が握られていた。

更には撮影するためのカメラまで用意してある。

それ以前に、この「友好条約を破壊する」ことに対する執着―――。

 

 

「まさか……ノルスを雇っていたのもアンタなの!?」

 

「そうだ。 尤も、使えん馬鹿共の所為で、こうして私自ら手を下す羽目になった」

 

 

この数日間、ノルスの連中は女神を狙って暗躍していた。

だがその目的は彼の雇い主が友好条約を破壊したがっているからという白斗の推測は、やはり正しかった。

だからこそ、アイエフはその怒りで歯軋りを抑えられない。

 

 

「……アンタの、アンタの所為で……女神様が……ネプ子が!! どれだけ危険な目にあったか!! 苦しい思いをしたのか分かってるの!!?」

 

「分からんなぁ!! 特にこのパープルハートなどと言う、上っ面だけの平和主義者の言うことなど畜生にも劣る!!!」

 

 

この友好条約、発端はネプテューヌだった。

確かに彼女は不真面目だが、思いやりの塊と言ってもいい。そんな彼女の努力と想いの結晶とも言えるこの式典を破壊しようとするこの男が、アイエフには何よりも許せない。

親友の想いを、壊そうとしていることの男が憎くてたまらない。

 

 

「だから! 一刻も早く我が崇高なる女神……ホワイトハート様には目を覚まさせていただかねばならんのだ!!」

 

「……ブラン様、ですって……!?」

 

「そうだ! だがあろうことか、ホワイトハート様は他の女神共に誑かされ、こんな偽りの条約など結ぼうとしていらっしゃる……それはルウィーの、あのお方のためにはならんのだ!!!」

 

 

動機は単純、ホワイトハートへの歪んだ忠義ゆえらしい。

確かに思い返してみれば、ネプテューヌやノワールは命を狙ったのに対し、ブラン自身には何もせず、ロムとラムも誘拐だけを指示していた。

 

 

「まだ電源をオンにしていないが……このカメラの映像は、式典会場へと生中継される手筈になっている。 もし、堂々と女神達が宣言している中、来賓である私がこの条約の理不尽さを語りながら君を殺したら……どうなるかなぁ?」

 

 

余りの悍ましい計画に、アイエフは震えた。

もしそうなってしまえば、式典どころではない。忽ち友好の意味は失い、場合によっては国家間の戦争すら勃発しかねない。

少なくとも、数年間は平和的な歩み寄りは出来なくなってしまう。

 

 

「……アンタは政治家でも何でもない……ただの悪魔よ!!」

 

「フン。 うるさい小娘だ……どの道殺すつもりではいたが、然るべき時まで黙っていてもらおうかな」

 

 

こんな男の思い通りにはなりたくないと、アイエフが騒ぐ。

しかしウサンには耳障りになってしまったようで、彼女に銃口を突き付けた。突き付けた先は太腿だが、これから襲い掛かる激痛を想像すれば、身の毛がよだつ。

 

 

「ひっ……!? な、何よ……怖くなんか……怖くなんかないんだから!! ネプ子がしてきた思いに比べれば、こんなの……!!」

 

「そうか。 なら味わってみてくれ……あの小娘を恨みながらな」

 

 

引き金を引こうとするそのモーションが、やたら遅く、長く感じられた。

だがアイエフは動けない。縛られているからではない、恐怖故にだ。

せめて耐え抜こうと瞼を力の限り閉じ、歯を食いしばる。

 

 

 

 

そして―――銃声が轟いた。

 

 

 

 

 

「ぐうッ………!?」

 

 

何故か、ウサン議員が転がっていた。

銃口からは硝煙が上がっている。弾丸は放たれた。

ポタ、ポタと血の滴る音も聞こえる。けれども、アイエフの体にはいつまでたっても痛みは来ない。

それどころか、優しい温もりまで感じた。

違和感の連続に恐る恐る目を開けてみると、そこには―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……おい、アイエフに何してんだ。 クソ野郎が……」

 

「は、白斗……!?」

 

 

 

 

 

 

 

白斗が、アイエフを守るように抱きしめていた。

どうやら銃弾が貫いたのはアイエフの足ではなく、彼女を庇った白斗の腕。

今日の式典のために来ていたワイシャツに、赤黒い血が広がっていく。

 

 

「よぉ、アイエフ。 無事で何よりだ。 それと服、似合ってるぜ」

 

「何言ってんの!? あ、アンタ……! 腕、腕が……!」

 

「んー? ああ、これか……お前に当たらなくて、ホントに良かった」

 

 

綺麗な白が、悍ましい緋色に染められていく。

そんな痛々しい光景に、アイエフは涙してしまうが対する白斗はそんな彼女を安心させようといつもの笑顔を浮かべている。

激痛が走っているはずだ。顔には汗だって浮かんでいる。それでも彼は、アイエフのために懸命に笑顔になっていた。

 

 

「ごめんな、アイエフ。 ……俺が甘かったせいで、怖い思いをさせちまった」

 

「わ、私の事はいいから早く逃げて!!」

 

 

先程突き飛ばしてみて分かった、ウサン自体は戦闘力は無い。

だが彼の雇ったガードマン達はそうではない。その役職から戦闘力が低いはずもなく、全員がぎらついた殺気を放ってくる。

それでも白斗は全く余裕を崩さなかった。

 

 

「そうは行かねぇ。 ……お前を“無事に”送り届けるって、親友二人に約束しちまったんでな!」

 

 

無事に、それは傷一つなくという意味。

白斗はコンパのため、ネプテューヌのため、そしてアイエフのため。その約束を果たそうとする。

例え四方八方から撃たれそうになっているこの状況であっても。

 

 

「き、貴様ぁ……っ!!」

 

「どーも、いつぞやぶりですなぁ。 えーと、ハクサイ議員?」

 

「ウサン・クセイだ!! 貴様は確か、グリーンハートと一緒にいた生意気な小僧……! どうやってここが分かった!!?」

 

 

ウサンは、この隠れ家に自信があった。

何せつい先日購入したばかりの一軒家だ。しかも窓は全て締め切っており、誘拐に使用した車もガレージに隠してあるはずなのに。

 

 

「車の移動先、そしてその先の地域にある最近購入された物件を検索しただけだ。 そうやってものの見事にヒットしたのがココってワケだよ、おバカさん」

 

「相変わらずのクソ生意気……! だが丁度良かった、貴様も許せんと思っていたところだ!!!」

 

 

やはり白斗も抹殺対象に入ってしまったらしい。

この状況に割り込んできたことに加え、以前彼に対し喧嘩を売ったにも等しい行動をしている。

ラステイションの事件で毒を盛られた件も、ここに由来するのだろう。

 

 

「許せないだぁ? それはこっちの台詞だ、クソ野郎。 ……よくも、よくもアイエフを……!」

 

(は、白斗……)

 

 

怒りと同時に、アイエフを想う気持ちで、彼女を抱きしめる腕の力が強くなる。

逃げてと泣き叫びたいのに、どうしてかアイエフは白斗に頼ってしまいたくなる。

こんなにも強く、こんなにも守ってくれて、こんなにも彼女のために怒ってくれている彼に。

危機的状況であるにも関わらず、彼の腕の中で落ち着いている彼女がいる。同時に―――胸が熱くなっているアイエフがいた。

 

 

「お前達!! 殺れ!!」

 

「アイエフ、ちょっとゴメンな。 ……すぐ、片付ける」

 

 

ウサンの指示でガードマンが一斉に銃を構える。

そんな状況でも白斗は焦ること無く、一旦アイエフを優しく床に下ろす。

心臓に手を当て、あの起動コードを唱える―――。

 

 

「ぶっ飛ぶぜ! コード、オーバロード・ハート起動!!」

 

 

白斗の心臓が、光に溢れる。

瞬間、彼は跳躍し、五人のガードマン全てに体術を叩き込んだ。

拳、肘、蹴り、膝、踵―――。

 

 

「ぐ!?」

「ぶっ!」

「げぼっ!?」

「がぁ!?」

「ぐォ!!」

 

 

まるでそれは、アニメや映画の様な光景だった。

屈強な男達が、一瞬にして薙ぎ倒されるというとんでもない光景。アイエフはそれを初めて目の当たりにしたが、だからだろうか。

彼の姿が―――輝いて見えた。

 

 

「……ば、化け物……化け物がああああああああ!!!」

 

「お前ほどじゃね……さっ!!」

 

 

ウサンも引き金を引こうとするが、それよりも早く白斗が肉迫する。

銃を持つ手を蹴り上げ、壁に突き飛ばし、ナイフの切っ先を眼前に突き付ける。

 

 

「ひ、ひいいぃぃぃぃ………!?」

 

「……さっきの話は聞いていた。 ネプテューヌ達を襲ったのも、お前の指示だな?」

 

「……そ、そうだ! 全ては崇高なるホワイトハート様のため……ぐえ!!?」

 

 

その言葉を吐いた瞬間、彼を押さえつけている白斗の足の力が強まった。

まるで圧し潰してくるようなその力と威圧感に、ウサンの呼吸は困難になる。

 

 

「何がホワイトハート様のため、だ。 ……結局テメェはロムちゃんとラムちゃんを傷つけ、そして二人を愛するブランを傷つけたんだ……テメェが忠臣を名乗る資格はねぇ!!!」

 

「だとしてもッ!! 我が魂はあの純然なロリたるホワイトハート様のためにある!! 例えあのお方に処刑されようとも、寧ろ望むところだぁ!!!」

 

 

全く悪びれもしないどころか、寧ろ誇ろうとするウサン。

しかも結局はタダのロリコンだというのだから始末に負えない。だが、そんな彼にトドメをさすのは白斗ではない。

白斗は懐から自らの携帯電話を取り出し、ウサンに投げつけた。

 

 

「な、何だ……?」

 

「出ろ」

 

 

顎で誰かと通話しろと指示を出す。

どうやら既に通話中らしく、ウサンは恐る恐る耳を当ててみる。

 

 

『……よぉ、ウサン。 随分と派手にやってくれたじゃねぇか』

 

「ほ、ホワイトハート様……ッ!!?」

 

 

通話の相手は、ホワイトハートだった。

そう、既にここで起こった一部始終は音声として彼女達の下へ届けられている。

当然暗殺の件も、ロムとラムの誘拐未遂の件も。

 

 

『勝手な理屈をグダグダ並べても、結局テメェがしたことは畜生にも劣る行為だ……テメェみたいなのを信じてた私が馬鹿だったぜ』

 

「お、お待ちください!! わ、私は……全て貴方様のため……」

 

 

それでも尚、自らの忠誠を知ってもらおうとする男。

きっと彼にはそれが信念なのだろう。それが彼なりの愛なのだろう。それが彼なりの信仰心なのだろう。

しかし、そんな歪んだ信念も忠義も愛も、ブランに届くはずがなかった。

 

 

 

 

『テメェの声なんざ聴きたくもねぇ。 二度と口を開くな』

 

「あ……」

 

 

 

 

氷のように冷たい声が、ウサンの心を凍てつかせた。

恐怖、失意、そして絶望。

全てを失ったウサンは、無様に這いつくばり、動かなくなった。

 

 

「失意に落ちたか。 ざまぁねぇな……と言いたいが!」

 

「う、ぐ……!? ひ、いいいぃぃぃいい……!!?」

 

 

項垂れているウサンの胸倉を掴んで持ち上げた。

その腕から伝わる白斗の怒りと殺意が、男を震え上がらせる。

 

 

「テメェはここまで散々傷つけてきたな……アイエフを、ベール姉さんを、ブランを、ノワールを……そしてネプテューヌを!!」

 

「や、やめろぉ!! やめ………!!!」

 

「こんなもの、あいつらのためにすらなりはしねぇが……! 俺個人としちゃぁな!!」

 

 

拳を振りかざす白斗。

そんな彼の姿が、ウサンにとっては―――死神にすら見えて。

 

 

 

 

「許せねえええええええええええええええええ!!!!!」

 

「グぼおぉぉおおおおおおおおおおおおお!!!?」

 

 

 

 

渾身の一撃で、殴り掛かった。

ウサンは壁に叩きつけられ、その衝撃で壁が砕かれる。

痛快な音を立てて破砕する壁、そしてその向こう側へと吹き飛ばされたウサンはすっかり伸びてしまっていた。

その光景を見聞きしていたアイエフは開いた口が塞がらない。

 

 

「……ごめんなブラン。 嫌な役回りさせて」

 

『いや、元はと言えばこいつの本性を見抜けなかった私の責任だ。 ……白斗にも、アイエフにも、悪いことしちまったな……ごめん』

 

「あ、謝らないでください! 私には怪我一つありませんから!」

 

『そうか。 ……っと、待ちきれねぇ奴がいるみたいだから代わるぜ』

 

 

白斗が携帯電話を拾い上げると、ブランの声が聞こえてきた。

アイエフにも謝罪を入れたいようなので彼女の縄を解いて携帯電話を手渡す。

そこから聞こえてきたホワイトハートの声は、先程の様な冷たさはない。女神そのものと言うべき慈愛に満ちた声だ。

 

 

『あいちゃん!! 無事でよかったですぅ!!』

 

「こ、コンパ!? ……ええ、大丈夫よ」

 

『本当に良かった……! ごめんね、あいちゃん。 私が油断したばかりに……』

 

「ネプ子まで……何しおらしくなってるのよ! 今からアンタの晴れ舞台でしょ? シャキッとしなさい!」

 

 

そして出てきたのはやはりと言うべきか、親友であるコンパとネプテューヌだった。

二人とも焦りと喜びに満ちた声で、彼女の無事に安堵してくれている。やっと任務を果たせたと、白斗も大きく息を付いた。

 

 

『白斗、あいちゃんを助けてくれて本当にありがとう! ……でもごめんなさい……また白斗に怪我を……』

 

「って、そうだ! 白斗、アンタ腕が……!」

 

 

携帯電話から聞こえてきた、ネプテューヌの感謝と心配の声。

アイエフが我を取り戻したかのように振り返れば、やはり白斗の腕は銃弾によって貫かれていた。

今も尚、出血が収まらず、その上心臓を暴走させたことによる反動で蹲っている。

 

 

「お、俺はいい。 それよりもアイエフ、表にお前のバイク停めてあっからそれで会場まで行け。 今なら、まだ……」

 

「何言ってんの! アンタを置いていけるわけないじゃない! 待ってて、今止血するから……!」

 

 

するとアイエフは、自分のスカートの裾を引きちぎった。

千切ったそれを包帯代わりにして、白斗の腕へと巻き付ける。

 

 

「お、おい!? それお前の服……」

 

「服が何だって言うの! ……私の……私の所為で、白斗が……こんな目に遭っちゃったんだもの……ぐすっ、ぅ、ぅぇ……」

 

 

思わず涙ぐんでしまうアイエフ。相当責任を感じているのだろう。

素直で心優しい彼女らしい反応だと、白斗も苦笑いだ。

 

 

「気にすんなってーの。 可愛い顔が台無しだぞー?」

 

「……っぐ、ひぐっ……アンタの歯の浮くようなセリフ……他の子達にも言いまくってるから、信用ならないんだもん……バカー……」

 

「ひでぇなそれ!?」

 

 

涙を流しながらも、文句を言いながらも、アイエフは白斗の手当てを続けてくれる。

やがて結びきったそれで白斗の止血は完了した。

 

 

 

「……でも、ありがと……白斗」

 

 

 

手当てを終え、感謝の言葉を告げてくれたアイエフはまだ涙が止まらないものの、笑顔を向けてくれる。

もう、大丈夫だと白斗は確信した。

 

 

「……こっちこそ、ありがとなアイエフ。 さ、会場に向かうぞ」

 

「ええ。 ……ところで白斗、私の愛車には鍵をかけておいたはずなんだけど?」

 

「……緊急事態ってことでお目こぼしを……」

 

 

どうやら白斗がピッキングで無理矢理こじ開けたらしい。

エンジン始動のためのキーはその手のツールを使ったのだろう。

当然多少怒りも湧くが、アイエフはすぐに溜め息をついて向き直る。

 

 

「……ま、助けてもらったのだから仕方ないわね。 それじゃ白斗、アンタは後ろに乗りなさい」

 

「へ? タンデムで行くのか?」

 

「そうよ。 言っておくけど、愛車の後ろに乗せるのはコンパかネプ子くらいしかいないんだからね!」

 

 

もう開幕まで時間がない。パトカーのサイレンも近づいてきた。ここに留まる理由もない。

白斗とアイエフは急いで表に出、バイクに飛び乗った。

タンデムなので当然白斗が後ろから抱きしめる形になる。少し恥ずかしさを覚えるアイエフだが、どこか嬉しくもあった。

 

 

「そんな特等席のお誘い、お断りするのは勿体ねーな。 んじゃ、よろしく」

 

「よろしくされたわ。 ……私もぶっ飛ばしていくわよ!!」

 

 

二人は微笑み合い、バイクは発進する。

以上、ゲイムギョウ界に吹く一陣の風の異名通りというべきか、バイクの速度はそこら辺のものとは段違いだ。

あっという間に式典会場近くの駐輪場へと戻ってくると。

 

 

「あ! 白斗さんとアイエフさん!」

 

「あいちゃーん!! 良かったです~~~!!」

 

 

ネプギアとコンパが待っていてくれた。

来賓である彼女達が、まだ始まっていないとは言え長らく席を外していると後々立場が悪くなると言うのにそんなことはお構いなしと言わんばかりに待っていてくれた。

ネプテューヌの姿は無い、もう式典が始まる直前だからだろう。

 

 

「コンパ! ごめんなさい、心配かけて……。 私は大丈夫だけど、白斗が……」

 

「はい! 白斗さん、ちゃんとした治療を受けるですぅ!」

 

「替えのワイシャツと脱いだジャケット、ネクタイもあります! さ、行きましょう!」

 

「結局堅苦しいコース一直線なのね……トホホ」

 

 

どうやら白斗が怪我をして帰ってくることも織り込み済みだったらしい、コンパが救急箱から消毒液などを取り出して的確に治療。

銃弾による傷は一朝一夕では治らないため、再度包帯を巻き、後は替えのワイシャツに着替えてジャケットを羽織る。

 

 

「ごめんなさいです……本当だったら、白斗さんを病院に送らなきゃいけないんですけど……」

 

「大袈裟だったつーの。 ……ちっ、それよりもネクタイってのは鬱陶しい……!」

 

「白斗さん腕動かしちゃダメです! また私が……」

 

 

後はネクタイを結ぶだけなのだが、社会人の多くがネクタイ結びに時間をかける。

かと言って、社会人の顔ともいうべきネクタイはまさに外してはならない要素。曲がったネクタイを公の場で晒せば笑い者どころではない。

当然片腕を怪我している白斗ではどうにもならないため、ネプギアが締めてあげようとすると。

 

 

「もう、仕方ないわねっ! ……はい、これでいいでしょ」

 

「お、おう? アイエフ……ありがと……」

 

 

割り込んで、アイエフが締めてくれた。

今朝もそうだったが、この面と向かってネクタイを締めてくれる光景は傍から見なくても、男女の顔が近くなる瞬間であった。

白斗は顔を赤らめて逸らしてしまうが、アイエフは顔を赤らめながらも逸らさずにくすりと微笑む。

 

 

「ふふっ。 カッコイイわよ、白斗」

 

「……一本取られたよ、ったく……」

 

 

ネプギアは新婚、コンパは彼女のようだと評された。ならば今のアイエフとの関係は―――周りが例えるならこれから始まる幼馴染、のような関係だろうか。

それに気づいてしまったコンパはともかく、ネプギアの心中は穏やかではない。

 

 

「は、白斗さん! そろそろ入りましょう!」

 

「そ、そうです! ねぷねぷ達も開始を遅らせてくれているけどもう限界ですぅ!」

 

「っと、そうだな。 行こうアイエフ!」

 

「くすっ……はいはい」

 

 

もう本格的に余裕がない。

慌てる余り白斗はアイエフの手を引いて会場へと駆け込む。彼に手を引かれ、アイエフはどこか幸せな表情だった。

周りから突き刺さるような視線を感じながらもそそくさと白斗たちの席へと潜り込み、それを確認し終えたかのように。

 

 

 

『―――ゲイムギョウ界に遍く生を受けし皆さん、大変お待たせしました』

 

 

 

式典が、始まった。

凛と透き通るような声で響くこの国の守護女神、パープルハートの声。

 

 

『新しき時代にその第一歩を記すこの日を、皆さんと共に迎えられることを喜びたいと思います』

 

 

衛兵たちが槍を次々と開け、主の道を作る。

その道から美しく表れた女神パープルハート。あの白斗の目を惹きつけさせたドレス姿と、刻まれるハイヒールの足音、そしてその美貌。

女神以外の何であろうか。

白斗だけではない、彼女の国民も、そして他国の民も、息を呑んでいる。

 

 

『ご承知の通り、近年世界から争いが絶えることはありませんでした』

 

 

彼女の一挙一動が、全世界に映し出されている。

今、全ての目が彼女に注がれていると言っても過言ではない。それだけの視線と重圧を受けて尚、パープルハートの歩みは揺らがない。

 

 

『女神、ブラックハートの治めるラステイション』

 

 

ラステイション陣営に待機していたブラックハートが、華麗にローブを脱ぎ捨てる。

パープルハートに負けず劣らずの美貌と凛々しさで、彼女の陣営が一斉に立ち上がる。

 

 

『女神、ホワイトハートの治めるルウィー』

 

 

悠然とカーペットを踏みながら歩いてくる女神、ホワイトハート。

あんな事件の直後であるにも関わらず―――いや、だからだろうか。今の彼女の顔は、覚悟を固め、全てを背負う強さがあった。

可憐さと美しさ、その強さにルウィーの民は起立した。

 

 

『女神、グリーンハートの治めるリーンボックス』

 

 

美貌と気高さを兼ね備えた女神、グリーンハートも優雅に歩を進める。

ゲイムギョウ界に吹く新しい風を一矢に受けてポニーテールが靡くも、それすら彼女の美しさを際立たせていた。

そんな彼女に惹かれしリーンボックスの民たちも、女神の後を追うかのように立ち上がる。

 

 

『そして私……パープルハートの治める、プラネテューヌ』

 

 

一切の乱れなく、プラネテューヌの民たちが立ち上がった。

白斗も、段取りだからではない。女神の言葉に従い、立ち上がったのだ。

それだけの力を彼女は持っている。何度も自覚され、何度でも驚かされる。彼女は、女神様なのだと。

 

 

『四つの国が、国力の源であるシェアエナジーを競い、時には女神同士の戦いにすら発展してきた歴史は、過去のものとなります』

 

 

舞台中央に近づき、止まる女神達。

すると彼女達の足元が光の足場で形成され、空中へと舞い上がる。プラネテューヌの科学力と、女神の神秘さが生み出す光景に白斗は思わず眩しささえ感じた。

 

 

(……そうだ。 この友好条約で、新しい歴史が始まるんだ……)

 

 

そんな歴史的瞬間を、少しでも守れただろうか。

ならば少しでも誇らしくなれると白斗は胸が熱くなる。

 

 

 

 

 

 

けれども、そこから先は誰もが予想していないことが起こった。

 

 

 

 

 

 

 

『だからこそ、ここに我ら四ヶ国の女神は……友好条約を結びません』

 

「………え?」

 

 

思わず、白斗が声を漏らしてしまった。

友好条約を結ぶべき式典のはずなのに、堂々とそれを結ばないと宣言したのだ。各陣営からも動揺の声が上がり。どよめきが止まらない。

唯一平然としているのは、四女神だけだった。

 

 

『……私は今まで、この条約を結び、武力によるシェアの奪い合いを禁じることで世界は平和になると考えていました。 ですが、それだけでは駄目だったのです』

 

 

人々の動揺の中、皆を導く女神の声が響き渡る。

その声で、辺りは静まり返った。

 

 

『私達は、これまでこの友好条約に反対する者達と対立することもありました。 その結果、この友好条約そのものが破棄せざるを得ない事態になったこともあります。 ですが、私達の大切な人が……それを必死で守ってくれました』

 

 

―――俺だ。白斗は心の中で呟いてしまう。

こんな公の場で、名前こそ出さなかったがグリーンハート、ブラックハート、ホワイトハート、そしてパープルハートはちらりと白斗を見ては微笑みを向けてくれた。

彼女達からの、せめてもの感謝の気持ちなのだろう。

 

 

『ですが、僅かな問題が発生して揺らぐような友好条約に意味はないと痛感しました。 そして、条約と言う名の法で押さえつけるだけの平和は、ただの偽りでしかない。 ……だからこそ、私達は条約を無しにここに誓います』

 

 

空中で、女神達が近づく。

その距離は手を取り合えるほどに。

 

 

『私達女神は、人々を守り導く存在です』

 

『だからこそ、私達を繋ぐのは形だけの条約ではない。 平和を願う想い』

 

『その想いと共に、私達はこれから互いを認め合い、競い合い、この平和を守っていく。 そして、民たちにもそれを伝えていきます』

 

 

女神達は、手を握り合った。

段取りだからではない、真に平和を願うからこそ手を取り合った。今ここに、友好条約などという法律は結ばれていない。

だからこそ、その法律無しで手を取り合い、互いに誓い合う姿が―――美しく見えた。

 

 

『ゲイムギョウ界の皆様、本日は突然の宣言で混乱させてしまったことでしょう。 だからこそ、私達はここに誓います。 条約だけではない、守られるだけではない。 私達女神が守り、培い、伝えていく―――真の平和を』

 

 

彼女達は、決して白斗の頑張りを蔑ろにしてきたわけではない。

寧ろその逆、白斗のあの姿を見たからこそ、願ったのだ。条約だけでしか成り立たない平和よりも、決して脅かされることのない真の平和を。

ゲイムギョウ界のために、自分たちのために、そして白斗のために。

それを知った白斗の目からは―――感動の涙が、溢れ出た。

 

 

 

(……最高だよ。 俺の女神様達……)

 

 

 

白斗は、微笑み返していた。他の誰でもない、女神達だけの笑顔として。

それを見てくれた彼女達からも、また微笑みが溢れてくる。そして手を取り合ったまま、自分の言葉で思いを紡いでいく。

 

 

 

 

 

『『『『私達は過去を乗り越え―――希望溢れる世界を作ることを、ここに誓います』』』』

 

 

 

 

―――その言葉の意味は、きっとこの日大きく変わったのだろう。

打ち鳴らされる拍手も、打ちあがる花火も、そして巻き起こる歓声も。

それらを祝福し、受け入れた人々の答え。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この日、ゲイムギョウ界には友好条約は結ばれなかった。だが、それ以上の繋がりが今―――ここに生まれたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――その夜、プラネタワーの特設パーティー会場。

ここに集っているのは今日の式典に集まった中でも、女神に近しい者達ばかりだ。仕事関係、交友関係などで固められている所謂一つの社交界。

そんな会場から抜け出していた白斗は、一人バルコニーでグラスを傾けていた。

 

 

「……まさかこんな展開になるとはな」

 

「あら、白斗。 一人なの?」

 

 

そこに近寄ってきたのは、アイエフだった。

少しだけ服が変わっているのは、あの時の止血のために服を千切ってしまったからだろう。

 

 

「よ、アイエフ。 今日はホントに大変だったな」

 

「ええ、でもあなたを見ていたら弱音なんか吐いてられないわ」

 

「ハッハッハ、俺みたいなレアケースなんて滅多にないから悲観しなくていいぞ」

 

「寧ろあってたまるかって話よ、本当に」

 

 

普段であればコンパもセットで来ているはずなのだが、そのコンパはと言えばロムやラムに絡まれている。

中々見ない組み合わせだと、遠目から見ている白斗も苦笑いだ。

またグラスを揺らしながら傾けていると、その芳醇な香りがアイエフにも伝わってくる。

 

 

「……ところで飲んでるの……ひょっとしてお酒?」

 

「よく分かったな」

 

「アンタ、まだ18でしょ? 未成年じゃない」

 

「もう18だ。 俺の所では18から酒が飲めてな……」

 

「流れるように嘘つくんじゃない。 もう、悪酔いしたら許さないんだから」

 

 

さすがに咎めるような物言いだが、取り上げるようなことはしない辺りアイエフは理解が早い。

白斗も、まだ未成年でありながら酒には強い性質らしく、それを味わうだけの余裕があった。

 

 

「お前はいいのか、パーティー」

 

「あら、言ってなかったかしら。 私、堅苦しいのは実は好きじゃないの」

 

「奇遇だな、俺もだ」

 

 

各界の大物たちが何やら雑談やらビジネスやらの話をしているこの会場内。

さすがの女神達も、要人たちに挨拶ラッシュに巻き込まれ、中々抜け出せない雰囲気だ。

元よりこういった場を好まない白斗は早々に抜けてきたわけだが、おかげでこうしてアイエフと話し合える時間が出来た。

 

 

「……白斗、今日は本当にありがとう。 貴方がいなかったら、私……」

 

「気にすんなって」

 

 

―――何度でも、助けてみせる。

口にこそ出してはいないが、そう言っているように聞こえた。

 

 

「……白斗、これ」

 

「ん? 銃、か……?」

 

「ええ、私の武器。 受け取って頂戴」

 

 

この世界では、護身用の武器として銃を携帯している人物は珍しくない。

けれども、白斗から見てもこの銃は性能も値段も高いことが伺えた。

拘りの強い彼女が携帯していたものだから、それこそ貴重な品であるはずなのに。

 

 

「……お守り替わりよ。 私には、こういうことくらいしかできないんだから……せめてこれくらいは、させてよね」

 

「……ありがとよ。 でも、これくらいなんて思っちゃいないぜ」

 

 

銃を受け取り、懐に仕舞い込む白斗。

その手付きは非常に手慣れたものだ。暗殺者だった過去から銃を持っていたこともあったのだろうか。

けれども、アイエフは目の前にいる少年が暗殺者など全く思えなかった。寧ろその逆―――。

 

 

「さて、私は戻るわ。 ネプ子達のこと、よろしくね」

 

 

白斗と会話が出来て上機嫌になったらしい、アイエフにしては珍しく鼻歌を歌いながららんらんと会場へ戻っていく。

 

 

(……よろしく、か。 友好条約も結ばれなかったことで、暗殺など起こしても無意味と来た。 となりゃ、俺はもう……)

 

 

白斗は一人、己の存在意義を考えていた。

これからはさすがに暗殺など起こす輩もめっきり減ってくる。であれば、もう自分がしつこく守る意味もない。

これからの身の振り方を考えていると、アイエフと入れ違いに一人の女性が現れる。

 

 

「あら白斗、あいちゃんとのお喋りは楽しかったかしら?」

 

 

式典の時と全く変わらないドレスと美しさに身を包んだ女神、パープルハートだ。

どうやらようやく挨拶ラッシュから解放されたらしく、待ち望んでいたかのように白斗の傍へ歩み寄る。

 

 

「ネプテューヌ……まぁな」

 

「……妬けちゃうわね」

 

 

今度は彼女が、白斗の隣に腰かけた。

バルコニーの壁に背を預けている彼女の姿は、どこか妖艶だ。

 

 

「それにしても驚いたぞ。 結局形だけでも条約は結ばないと来たから」

 

「ふふ、あれ決めたのは直前だったの。 尤も、ノワール達も感じていたことだから決議自体はあっさりだったけど」

 

「ああ、それで昨日直前で内容が変わったとかボヤいてたのか」

 

 

昨夜の会話の中、スピーチの内容が覚えられないだのなんだのと言った愚痴を聞いていたが、ここに繋がると思っても見なかった。

あればかりはクールな白斗でも呆気に取られてしまったものだと苦笑いである。

 

 

「白斗、ごめんなさい。 貴方に相談もなく……必死に守ってくれたのに……」

 

「俺が守りたかったのはネプテューヌ達だ。 だから皆が無事で本当に良かったし……正直、俺もこっちの方が良かったって思うから」

 

「……白斗……」

 

 

ネプテューヌは、今まで白斗が守ってきてくれたことが無駄になってしまうのではないかと罪悪感を感じていた。

だが、白斗は気にしていない。寧ろ肯定してくれる。

そんな彼が向けてくれる笑顔が、言葉が、女神パープルハートにとっては嬉しくてたまらない。

 

 

「……全部、白斗のおかげよ。 本当にありがとう」

 

「いやいや、俺は別に……むぐっ?」

 

 

大したことしていない、そう言いかけたがネプテューヌの指先が白斗の唇に当てられていた。

 

 

「この式典を守ろうとしてくれた、優しくしてくれた、楽しく遊んでくれた、あいちゃんを助けてくれた、そして……私を命懸けで守ってくれた……。 まだまだあるわよ、私の指が足りなくなっちゃうくらいに」

 

 

受けた行動の数以上に、思いが募る。

心なしか、彼女の頬が赤く染まっている―――ようにも見えた。

美しき女神のそんな姿を見ては、白斗も喉がカラカラになるほど緊張してしまう。

 

 

「……今まで、色んな人に出会ってきたけど……ここまでしてくれた人なんていないの。 貴方だけが……私を、私達を……守ってくれた。 私は、それが……嬉しい」

 

「……ネプ、テューヌ……」

 

 

溢れる想いを留めようと、ネプテューヌは自分の胸を押さえた。

普段は明るく元気、女神化すれば凛々しく力強い、そして今では―――息を飲むほどの美しさと可愛らしさ。

白斗はすっかり、ネプテューヌという女性の魅力に飲まれてしまっている。

 

 

「あら、言っておくけど私達も同じよ」

 

「ノワール? みんなも……」

 

 

そこへ更に現れたのはノワール、だけではない。

ブラン、ベール、そして女神候補生たちも皆集まっていた。

誰もが白斗を慕い、白斗を想ってくれているからこそ、彼の傍に来ている。

 

 

「ああ、ロムとラムを……私の想いも守ってくれた。 私のために怒ってくれた」

 

「私の弟で、私のために啖呵を切る姿もカッコ良かったですわ」

 

「白斗さん、いつも助けてくださいますし」

 

「そうよね。 それに、白斗さんとのガントーク楽しいし!」

 

「お兄ちゃん、優しくていつも遊んでくれるから大好き!」

 

「私も……お兄ちゃん、大好き……♪」

 

 

皆、白斗との思い出を大切にしてくれている。

一人一人が笑顔に溢れ、その笑顔が集うことで周りの空気が明るく、幸せになる。そんな幸せに包まれて、嫌になる人物がどこに居ようか。

 

 

「ね? 白斗はこれだけのことをしてくれたの。 だから、もう……私達から離れちゃダメよ?」

 

 

隣には、静かに微笑んでくれるパープルハート。

もう彼女達にとって黒原白斗は掛け替えのない存在、大切な人、そして必要とされている少年なのだ。

先程まで、身の振り方を考えていたのが馬鹿らしくなってくる。身の振り方なんて、もうとっくに決まっていたのだから。

 

 

「……女神様にそうお願いされちゃ、離れるなんて選択肢ねーわな」

 

「安心して。 何度『いいえ』を押しても無限ループしてあげるから」

 

「迷惑仕様だなそれ……」

 

 

と言いつつも迷惑だなんて欠片も思ってもいない。

寧ろ、嬉しさしかなかった。

こんな素敵な女神様達にここまで思ってもらえるなんて、この世界にくる数瞬前。あの父親に殺されそうになっている場面からは全く想像できなかった。

皆一人一人が飲み物を手にしている。彼女達の意図を汲み、白斗はグラスを持ち上げる。

 

 

 

(……何故、この世界に来たかは分からない。 でも、もしこんな素敵な女神様達のために来たのだとしたら……ホントに幸せものだな、俺は。 暗殺者の癖に……)

 

 

 

そんな素敵な世界で生きていこう。素敵な女神様のために生きていこう。

今の白斗の中では、それが全て。

彼にとっての全てとなっている人たちとこんな記念すべき日を迎えられたことに今を楽しむ。それこそ、全力で。

 

 

 

 

「みんな、私達の大切な人―――白斗のおかげでこの良き日を迎えられたことに、乾杯!」

 

「「「「「乾杯!」」」」」

 

 

 

 

 

そのグラスが告げるは、新しき世界の始まり――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――同時刻。某国某所―――。

 

 

「………ここは、どこじゃ………?」

 

 

その頃、人里離れた山奥である白衣の男は佇んでいた。

見た目は初老に近いが、白衣を着こんでおりそれからは薬品の匂いも漂わせる。そして彼の周りは、つい数秒前までとは全く違う景色が広がっていた。

 

 

「……ほう、あの不愉快な“声”の情報通り……変な男がいたものだ」

 

「誰だ!?」

 

 

白衣の男の真後ろから、重苦しい女性の声。

振り返った先には、まさに魔女としか形容するしかない女性が一人“浮かんでいた”。

 

 

「……浮かんでいる!? どういう仕掛けだそれは……!?」

 

「仕掛けとはおかしな話だ……私の魔力で浮かしているに決まっている。 そして浮いていた方が強キャラ感が出るだろう」

 

「魔力……だと……!?」

 

 

どうやらこの科学者然とした男は魔力の存在を知らないらしい。

無理もない、何せ彼の世界では魔力など“存在しなかった”のだから。

 

 

「ふん、そう事を急くな。 ……貴様の素性については大体は理解しているつもりだ」

 

「お前が私をここまで呼び寄せたのか……!?」

 

「私ではない、何者かは私も知らん……。 だが、まずは名乗るとしよう」

 

 

妖艶な魔女は、狂気を帯びた笑い声をあげる。

 

 

 

 

 

 

 

「……我が名はマジェコンヌ。 この世界から女神を排除し、新しき支配者となる者だ。 さぁ、次は貴様の番だ……“異世界の狂気の科学者”……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………………“黒原才蔵”殿?」

 

 

 

 

 

 

―――新たな世界の始まり、それは新たな戦いの始まりでもあった。




サブタイの元ネタ「踊る!大捜査線」

と、言うわけでアニメでは最早お馴染み友好条約のシーンでしたが今回は敢えてこちらを序盤の山場に持ってきました。
こんな展開も新鮮かなと思いまして。
今回焦点を当てたのはアイエフちゃんですが実は私、あいちゃん大好きなのです。女神の次に贔屓しちゃおうかしらってくらいに(ぇ
あ、今後の予定としてはメーカーキャラを二名ほどヒロイン追加予定です。既にパイオニアも存在する以上、少し似たような展開になりがちなのが悩みの種ですが私自身好きなキャラで、好きな展開をしていくスタンスは崩したくないので今後も生温かい目で見ていただければ幸いです。
さて、今回で少しだけ投稿間隔を落ち着かせようと思いますがご了承を。では次回から新展開、どうかお楽しみに!
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