舞鶴第一鎮守府の日常   作:瀬田

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UA1000超え記念、後篇です。
どうぞお楽しみください。

※上陸はしません


第十話 東奔西走!クリスマス島上陸作戦(後篇)

来たるその日、12月24日。

〇五〇八。

日の出を迎えたすぐ後。

旗艦の長門から、間もなく帰還予定との入電があった。

 

「う···っ、寒いな」

 

手がかじかんで、なかなか辛い季節。

 

「お···あれは」

 

しかし、水平線の彼方からやがて見えてくる彼女達の姿に、そんなことは忘れてしまったのだった。

吹雪だろうか、少し背の低い艦娘が、旗艦である長門の後ろで、手を振っている。

 

「提督、作戦部隊六隻、帰還した」

「おお。お疲れ様。寒いだろ、早く入渠してくれ」

「朝風呂ですか。何だか楽しみですね」

 

作戦直後だというのに、他愛のない会話。

弛みきっていると、お偉いさんはお怒りかも知れないがこちらは寒さでどうしようもないのだ。

ましてや、補給があったとはいえ一週間の連続任務。

これで部下を労らないのは、人間でない。

 

「司令官、吹雪帰投しました!」

「ああ。おかえり吹雪」

 

頭を撫でてやると、吹雪は恥ずかしそうに両手を振って離れようとする。

 

「あ、だ、ダメです!艤装展開中とはいえ1週間も出ずっぱりでしたし」

 

※艤装展開中は艦娘の身体に発汗を始めとする生理現象は起こることがない(但し大規模な損傷時は除く)。

 

「何言ってるんだ。たった一人、駆逐艦の身で頑張ってくれたんだ。たまには労わせてくれ」

「あ、あうぅ···」

 

頬を真っ赤に染めて吹雪は俯いた。

 

「そうだな。夜戦では赤城を守る大活躍だった」

「ええ。何度も助けられました。ありがとう吹雪さん」

「え、えと···!」

 

嬉しさのあまり、恥ずかしいのか、吹雪は目を回していたのだった。

 

「とにかく、これで安心してこの日を迎えることが出来た。明日に備えて各自入渠後、しっかりと休むように」

「了解!」

 

──────────────────

 

執務室。

「さて、X作戦後方部隊の諸君」

この言い方をすると、くすっと笑い声があがる。

言うまでもなく前線部隊とは長門以下6人のことだ。

種明かしをすると、後方部隊の参加者というのは、艦娘のうち、「信じているか否か」で決まる。

要はプレゼントを渡す側になったかどうかということだ。

更に、「信じている」艦娘たちへのプレゼントを準備する間、哨戒部隊に加え、敵遊跋艦艇の殲滅部隊が必要とされる。これはつまり、翌日のクリスマス、そのパーティーを催す間、鎮守府が手薄になってしまうからだ。

もちろん、索敵機数の増員、近隣鎮守府への増員要請など、できる限りの手は尽くすのだが。

 

「協力ありがとう。今年もあの子たちへプレゼントを用意することができた」

 

そう言って、軽く頭を下げる。

 

「僕たちの力なんて些細なものだよ」

「そうですね。提督が頑張ってくれたお陰です」

 

時雨と鳥海が謙遜して言う。

 

「いや。君たちがいなければどんなプレゼントを用意すればいいのかなんて分からなかっただろう。まあ、とにかくだ。見てくれば分かる通り、君たちにもそのお礼を兼ねて、クリスマスプレゼントを渡そうと思う。

迷惑でなければ、受け取ってほしい」

「「ん···!?」」

 

艦娘たちは提督の指で示した方向────隣の会議室だ─────を向き、そして目を疑った。

 

「んんん!?」

 

提督が開いた扉の向こう側には、部屋から溢れ出しそうなプレゼント箱。

 

「これから一人ずつ呼んでいく。順番は…そうだな、着任順にしよう。鳳翔」

「は、はい!?」

 

普段は淑やかで、大和撫子の鑑のような鳳翔の表情がこれ以上ないくらい赤く、驚きに染まる。

 

「そんな訳で、前の番の子が呼びに来るまで暇を潰しててくれ」

「りょ、了解です!」

 

艦娘たちはにやにや顔で、執務室から退散、心の中は浮ついていた。

 

────────────

 

「最後は···親潮だな。まだこの鎮守府に来たばかりで慣れないとは思うが、困った時は陽炎や不知火、俺を頼ってくれ。···じゃあこれ、プレゼントだ」

「は、はいっ!恐縮です···わ、わっ。マフラーですか」

「ああ。陽炎や黒潮たちとお揃いの柄にしてある」

 

個人個人で好みが把握できればいいのだが、なかなかそういう訳にもいかない。

そういう時は、このようにプレゼントを選んでいたりするのだ。

どちらにせよ、彼がそういう風に真剣にプレゼントを選んでいたことに、艦娘たちは満たされる思いだった。

 

「あ、ありがとうございますっ!」

「ああ。これからもよろしくな」

 

そんなやりとりを他所に、プレゼントを受け取った艦娘たちは──────

 

「はうう···」

「や、大和?···あ、あかん、意識が逝っとる」

「うふふ···その気持ち、榛名も分かります。 提督のプレゼント、とっても嬉しいですから」

「全く···すまんな、姉が」

「いえ。武蔵さんは、何を頂いたのですか?」

「私か?私はコレだ」

「それ···プロテインやんけ!?」

「ああ。上物だ。中々手が届かなかったが、これはありがたい」

「そ、そうなのでしょうか···」

 

放心状態の者もいれば呆気に取られる者や、心底嬉しそうに飛び跳ねるものもちらほら。

親潮に渡し終わった後、提督が言う。

 

「それでは、みんな。二三〇〇に再び集合だ。頼むぞ 」

「「了解っ!」」

 

艦娘たちの声が響く。

 

 

 

そんなこんなで、翌日午前1時。

全員の枕元にプレゼント箱が配られたのを確認した後、

もう一度深々と提督が頭を下げてお礼をし、お開きとなったのだった。

 

「ふぅ···」

 

どうやら、彼の元にはサンタクロースはやってこなかったらしい。

 

(夜更かしをする悪い子だからかな)

 

特に意味はないが、苦笑して筆を置く。

X作戦の遂行に執務の時間を割いていたとはいえ、残っていたのは僅かな財務関係の仕事と、X作戦での長門たちによる出撃の処理だけだった。

何はともあれ、これで一件落着。

明日の朝が少し楽しみだったりする。

 

「···少し寒いな」

 

それもその筈、窓の外を見ると、雪がしんしんと降り積もっている。

冷気は部屋の中まで浸透してくるようで、二重窓に床暖房がないとこの季節は辛い。

 

「明日は雪かきが必要だな」

 

眠りにつくまで、この景色を眺めていようと思い、ホットワインを用意する。

生姜シロップを一匙加え、シナモンの粉を軽く振る。

 

「···ほぅ」

 

一口飲むと、少し熱めの葡萄酒が、体の芯を温める。

凍りついていたものが溶けていくようだ。

 

(今年ももう終わりか···)

 

雪の純白は、光に照らされることなく、闇に呑み込まれていく。

何だかそれが酷く物悲しく、同時に恐ろしく思った。

 

(···駄目だ。酒が入ったからか)

 

弱々しくなった思考は、アルコールだけのせいではないだろう。

 

「···独りでは、ないはずなのになぁ」

 

ポツリと零れた、そんな言葉。

きっと、疲れているのだ。

 

この世界に希望をもたらす艦娘たち──────

彼女らが光ならば、それを指揮する自分は、一体何なのだろうか。

同じ世界を救うという意味では、光なのかも知れない。

 

(···違う)

 

けれど、鈍った思考でも、それは許さない。

 

(俺は)

 

「影···か」

 

光がなければ、影は生まれない。

全てが闇に飲み込まれた時、自分は生きられない。

 

「そう···か」

 

何かに納得したような気になって、結局はそれを理解していないのだと分かると、不思議と笑いがこみ上げてくる。

 

「よし···もう寝よう」

 

厚い羽毛布団は、冷気を遮断し、確かな温もりを与えてくれる。

 

「···おやすみ」

 

微睡み、落ちていく意識の中、その温もりは、真っ暗な意識の中でも、確かに存在していたのだった。

 

────────────

 

「やったあ!これ欲しかったんだよね」

 

皐月が電子ゲームを手にして嬉しそうにしている。

 

「ひえー、これエプロンですかね···えへへ、これでまた料理に気合い、入れて頑張れます!」

 

向こうには、エプロンに目を輝かせて張り切る比叡。

 

「なんと···瑞雲抱き枕カバー···これは昂るな」

 

表情はいつもと変わらないが、明らかに喜びの感情がそのキラキラから読み取れる日向。

 

「ふおおお···て、提督写真集だ···す、すご、こんな所まで···ふおおおお!?」

 

朝っぱらから鼻血を出す蒼龍。ちなみに彼女の鼻を拭こうとした飛龍も同様である。

 

「ふいー、いい仕事しましたねえ」

「お疲れ様ですー、喜んでもらえて何より」

 

夕張と明石は何やら達成感に満ち溢れている。

 

「···皆さん、喜んで頂けたようですね」

「ああ。良かった良かった。翔鶴もお疲れ。今日は秘書艦だけど、夜はパーティもあるから、気にしなくていいんだぞ」

「いえ、提督もお疲れでしょうから。お手伝いさせて頂きますよ」

「···そうか。ありがとう」

 

今日の執務は残り僅か。

それを一人が背負うより、二人で分け合った方が、仕事は早く終わる。

 

「ええ」

 

そんな風に考えたのだろうか、翔鶴は澄んだ笑顔を見せるのであった。

 

「提督さーん、あ、翔鶴姉!」

「ん···?おお、瑞鶴」

 

少し離れた場所から、瑞鶴の快活な声が聞こえた。

 

「どうしたんだ?」

「えっと、はいこれ、プレゼント」

「···?」

 

何のことか分からず、翔鶴の方を窺う。

 

「瑞鶴、何のプレゼントか言わないと、提督が困っちゃうわ」

 

くす、と笑みを零した翔鶴。

 

「あ、そうだった。これ、提督さんのクリスマスプレゼント!」

「!」

 

大きい包みの正体にようやく気がついて、目を見開く。

 

「あれだけ頑張ってた提督に、プレゼントが無いのはおかしいからねっ!」

「ふふ···私たちのことはいつもよく見てくださるのに、ご自分のことは気付かれないのですね」

 

最も、それが彼を彼たらしめているのだが。

「そ、そうか···ありがとな」

 

まだ少し驚きの表情が隠せない提督に、鶴姉妹は、顔を見合わせて笑った。

 

「もー、提督さんは頑張りすぎ!ほら、間宮さんのとこ行きましょ!」

「そうね。提督ともお話したいことがあるものね」

 

瑞鶴に引っ張られ、翔鶴に背を押される。

「お、おう···」

「今日はみんなのクリスマスなんだから!」

 

瑞鶴が無邪気にもそう放った一言が、心に強く響く。

 

「···そうだな」

「あっ、でも七面鳥はだめだからね!」

 

笑顔が伝播する。

因みに、彼女たちからのクリスマスプレゼントは、何と妖精さん謹製の和弓。

この弓でもまた色々と騒動が起こるのだが、それはまた別の話。

その雪の日、舞鶴第一鎮守府には笑顔が絶えなかったという。

 




登場する艦娘に偏りがあるかも知れませんが、それは作者の性癖です(迫真)

海外艦、もし追加するなら初登場は

  • ドイツ艦
  • イタリア艦
  • ロシア艦
  • アメリカ艦
  • イギリス艦
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