舞鶴第一鎮守府の日常   作:瀬田

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短めですみません。隔週投稿分です。


第十四話 鳳翔、発熱ス

「提督、艦隊が帰投したわよ!」

 

暁が元気よく、執務室の扉を開けた。

 

「おう、お帰り。暁」

 

そう言って彼女の頭を撫でる。どうやら無事そうなのでホッとする。

 

「んへへ···って!そうじゃなくて報告よ!」

 

何故怒っているのかはよく分からないが、とりあえず報告の記録を鳳翔に頼もうと振り向くと、感じる違和感。

 

「···鳳翔?」

「···っ、はい!」

 

虚ろな目が、ふと開いて、また薄くなる。

 

「だ、大丈夫か?」

「···え?わ、私ですか?」

「···暁」

「ええ···おかしいわ。いつものおか···鳳翔さんじゃない」

 

明らかに余裕のない表情。鳳翔にしては非常に珍しい。

 

「暁、被害は?」

「えっと···熊野さん、陸奥さんが中破、摩耶さん、赤城さんが小破。私と如月は無傷よ」

「そうか。よくやってくれた。順次入渠させて身体を休めてくれ。あと、大和を呼んで貰えるか?」

「ええ、もちろん。鳳翔さん、今日はしっかり休んでね!」

「い、いえ!私は元気ですから···この通り···っ」

 

足をふらつかせる鳳翔を、咄嗟に慌てて抱きかかえる。

 

「ほ、鳳翔さん!」

「大丈夫か?取り敢えず、大和を頼むぞ」

「え、ええ!」

 

駆けていく暁を見送ってから鳳翔に視線を戻す。

 

「て、提督···まだ仕事は残っていますし、それだけでも···!」

「落ち着け。もうほとんど残ってないから、明日やっても終わるよ」

「い、いえ、提督に仕事を押し付けては···」

 

(これは本来俺の仕事だけどな)

 

心なしか、彼女はこういうこととなると元気になっている気がする。

 

「大丈夫だって。とりあえず、俺の部屋でいいか?散らかってるが···」

「へ···ひゃっ」

 

そう言って両腕で彼女を持ち上げる。相変わらずその容姿に違わず軽い身体。

しかし日頃の彼女の仕事量を考えると、如何せん細すぎるのでは、と思ってしまう。

 

「ちょっと我慢してな。すぐ着くから」

 

彼らしい、謎の謙遜を入れて自室へ向かう。

 

 

 

「···鳳翔さん!」

 

猛烈な勢いで飛び込んできた大和。

やはり、鳳翔に対する信頼は、相当なものなのだろうと感じる。

 

「···大和さん」

「すまんな、大和。急に呼び出して」

「いえ···それより、鳳翔さんは?」

「ああ、ここに寝かせてる。微熱があるみたいだけど、たぶん疲労だ···ここの所、居酒屋も忙しくて、遠征もあったからな···ただでさえ普段から他の艦娘の世話もしていたんだから、当たり前か···」

 

そう言いかけて、激しい後悔の念に襲われる。

 

「こんなんじゃあ。俺もまだまだ駄目だ···」

 

ぽつりと零れた言葉に反応したのか、二人は、提督の手を握った。

 

「すまん、弱音を吐いてしまった」

「いいえ、提督にはいつも助けて頂いているのですから···」

 

疲労を顔に出すまいと、微笑んで言葉を紡ぐ鳳翔。

 

「むしろ、私たちがお二方に頼りすぎなのです···」

 

責任を感じさせないように、努めて明るく語る大和。

 

「みんなで一緒に、この鎮守府を支えていきましょう」

 

二人の手を握り返す。

 

「二人とも···ありがとうな···本当に」

 

心から、良い艦娘たちに恵まれたと感じた。

 

────────────────────────────────

 

「それじゃ鳳翔。ゆっくり休んでな」

 

鳳翔不在の穴を埋めるため、大和や長門に協力を頼んで、職務に戻ろうとする提督。

 

「···ええ、提督に大和さん、ありがとうございました」

「···」

 

そんな提督を見つめる鳳翔の瞳の寂しさを、大和は見逃さなかった。

 

 

『でも、それじゃみんなが大変じゃないか?』

『長門と陸奥にも応援を頼みます。この機会ですし、提督もゆっくりして下さい。···鳳翔さんを任せましたよ?』

 

 

そう言って鳳翔にウインクをして去っていった大和。

当の鳳翔と言えば、ゴニョゴニョと布団に隠れて赤面するのみだった。

 

(て、提督と二人きりだなんて···)

 

顔を赤くする鳳翔。日常生活には決してないであろう体験に、思考が回らない。

 

「···鳳翔?」

「へっ!?あ、は、はい!?」

 

提督としては、体調の心配から少し顔を覗き込んだだけであったのだが、予想外の反応に、戸惑うばかりだ。

 

「···うん、顔が赤い。熱かな···ちょっと失礼」

「ふぇっ!?て、提督···!」

 

提督としては、体調の心配から互いの額を合わせただけであったのだが、予想外の(ry。

 

「だ、大丈夫か···?とにかく、しばらく横になっていた方がいい···咳も痛みも無さそうだから、風邪じゃないのかな?」

「は、はい···」

 

彼の一挙一動が、鳳翔の心拍数を上げていく。眠れそうもない。

 

「···眠れないか?」

「い、いえ!だ、大丈夫ですから」

 

遠慮がちに言う鳳翔の表情に、提督は思い悩む。

 

(やっぱり気を使わせてしまったか)

 

いつも通りの方向へ思考が向かいそうになって、頭を振る。

 

『鳳翔さんを任せましたよ?』

 

大和に任された以上、ここで退出するのは良くない。

 

(何か···何か鳳翔をリラックスさせられることは···?)

 

「いいえ···大丈夫ですよ···って提督!?」

 

瞬間、鳳翔は発熱する。

 

「···少し、我慢していてくれ」

「こ、これは···!」

 

慌てに慌てる鳳翔。目が回っている。

 

「嫌かも知れないけど···これで眠れると、思うんだ」

 

添い寝をして、軽く鳳翔を寄せながら、優しくその背を叩く。

 

「···あ···」

 

(温かい···ですね)

 

更にゆっくり頭を撫でていると、自然と彼女の身体がこちらへ預けられる。

力が抜け始めているのだ。

 

「···眠る前に、聞いてほしい」

「···はい··」

 

鳳翔は瞼を少し開いて、彼の次の言葉を待つ。

 

「鳳翔と出会って、もう何年も経った」

「ええ···」

「この鎮守府で、俺は途中からだけど···それなりの時間を君と過ごしてきたつもりだ」

「幾つもの思い出と、君の姿が、焼き付いてる」

「···」

 

瞼はもう、閉じられようとしている。

 

「けど、どんな鳳翔も、絶対に他人に弱い所を見せようとはしなかった」

 

ぐっと、背中に回した腕に力がこもった。

 

「よく、頑張った···だから、もう大丈夫なんだ」

「···ぁ」

「少しでもいいんだ···鳳翔の感じている責任を、俺にも負わせてくれ」

「···て、いとく」

 

過去の自分を縛っていた、その鎖。

遠い海に繰り出し、傷つき、あるいは帰ってこない仲間をただ見ていることしか出来ない、その悔しさ。

 

(私は、皆さんのために────)

 

それが、暗闇の中で鳳翔が見出した結論であった。

かつての鎮守府の提督が去ったとしても、自分は、見守らねばならない。

例え、どんな苦境が自らを待ち受けようと、乗り越えなければならない。

この鎮守府は、在りし日の彼女らの、墓標なのだから────

その思いは、決して揺らぐことはない。

ただ、目の前のその人が、傍で自分を、支えてくれる。

自分の愛する、その人が────。

 

「ありがとう、鳳翔」

 

提督が精一杯の笑顔を浮かべる。

 

『ありがとう、鳳翔さん!』

 

鳳翔が、眼前で見たものは、あの日の記憶と重なっていた。

 

「ていとく···私、も────」

 

全身を包む温もりに、意識はゆっくりと溶けていった。

 

────────────────────────────────

 

「···っ」

 

朝日が眩しい。一体、どれくらい眠っていたのか。

身体は既に、軽くなっていた。

 

「···鳳翔、起きてるか?」

 

ふと降ってきたノックの音に、慌てて答える。

 

「は、はい」

「お、もう身体は大丈夫か」

「ええ、お陰様で···その、提督、私はどのくらい寝て···?」

「ん···と」

 

彼は腕時計を見やって答える。

「そうだな···昨日の一五〇〇頃からだから···大体半日ってとこか」

「へ···?」

 

みるみるうちに、鳳翔の顔が青冷めていく。

 

「こ、こうしてはいられません···!」

 

がばっと起き出した鳳翔を、提督は慌てて止めた。

 

「ま、まあ落ち着け。念のため、今日は休暇にしたから」

「しかし────それでは」

 

···くぅぅぅ

 

そう言いかけて、腹の音が鳴ったのに気付いて、鳳翔は赤面する。

 

「その···とりあえず風呂に入って汗とか流してきたら?」

 

苦笑している提督を睨みつつ、羞恥に悶える鳳翔なのであった。

 

「···おいしいです」

 

提督の手作りだという粥は、湯船から上がって、冷えた鳳翔の体によく効いた。

 

「そりゃあ良かった。本職に褒められるのは嬉しいよ」

「···」

 

ふと、鳳翔は意識を逸らす。

これからのことを考えて、心に不安の影が差したのだ。

 

「···提督」

 

自分は、果たしてこの鎮守府で、役に立つことができるのだろうか。

目の前の人は、自分の傍に、立っていてくれるのだろうか。

 

「···心配するな」

「え────」

 

ふと、顔を上げる。気付けば、声に出ていたのか。

 

「鳳翔が必要とするなら、いつでも助けになるよ。貰ってばかりじゃあ、男が廃るよ」

 

そう言って微笑む提督。

 

「···提督」

「ほら、お代わりもあるから、どんどん食べてくれ。元気な顔の方が、俺は好きだ」

「げほっ!げふっ!」

「···大丈夫?」

 

最後の爆弾に、思わずむせてしまった。

 

「え、ええ···大丈夫です」

 

顔が赤い。

 

「────ふふっ、いくら鳳翔さんでも、提督には敵いませんね」

 

部屋に入ってきた赤城が、ニコニコ笑顔でそう告げる。

 

「おう、赤城」

 

その顔が、今は恨めしい。

 

(鳳翔さん、昨日はよかったですね···!)

(な、なんでそれを···!)

(大和さんから聞きましたよ···とってもほぐれたお顔だったとか···)

 

「っ~!」

 

顔を寄せた赤城との会話。提督はそれを不思議に思いつつ、窓に見える空を見上げる。

 

「もう、秋か···」

 

夏は終わりを告げ、風は新たな季節を運ぶ。

 




空母の話を書くことを…強いられているんだッ!

海外艦、もし追加するなら初登場は

  • ドイツ艦
  • イタリア艦
  • ロシア艦
  • アメリカ艦
  • イギリス艦
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