舞鶴第一鎮守府の日常   作:瀬田

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シリアス回。前半は短めの導入部なのでコメディです。


第十七話 過去(前篇)

眠りから目覚め、ゆっくりと瞼を開く。

その日は、気持ちの良い、澄んだ群青が広がっていた。

 

「···は?」

 

ただ、そんな空の色も、今の彼にとっては皮肉か何かの程度のものに過ぎない。

動かすのは、ダボダボの寝間着の袖に包まれた細い腕。

彼はぎょっとしたような、全く信じられないといった風に自分の身体を眺めていた。

 

「これは···」

 

眼前に広がる、いつもとは少し違う私室の光景。

質素な色合いの壁や、妖精さん謹製の家具たちがなんだか大きく見える。

否、実際に手が届かないのだ。

 

「なんてこった···」

 

────そう。彼の身体は一回りも二回りも、その大きさを縮めていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────という訳だ」

「···」

 

朝餉の終わった食堂。幼い提督は艦娘全員を集めて事の顛末を語った。

唐突のメルヘンに首を傾げ、あるいは目を点にする艦娘たち。

 

「ど、どういうこと···?」

「全く分からない。ただ、朝目が覚めたらもうこうなってたんだ」

「け、今朝榛名が起こしに行った時にはもう···」

 

榛名は、気が動転しているのか、落ち着きがない。

 

「···というより、なんで榛名は提督を起こしに行ったデース?」

「そっ、それは···えと···その···」

「案外侮れないわね、あの子も」

「そうね。でも加賀さん、その眼はやめて?駆逐艦の子が号泣してるから」

「やりました」

 

(···全く···なんてことだ)

 

榛名の疑惑、そして加賀の脅迫めいた一連の会話は、まるで提督の耳には入ってこない。というより、それほど意識を思考に集中させていただけ、ともいえるが。

 

「··で、でも、なんか新鮮ですね!」

 

艦娘たちが思い思いにその原因を口にするなか、あまりの非常事態に秘書艦に任命した吹雪がフォローに回る。

彼女の方を向けば目線が合わさって、丁度同じような身長になっていることが、改めて実感できる。

 

「···そうだなぁ。まあなけなしの威厳が限りなく消滅したけども」

「あはは。今は可愛いからいいんじゃないですか?」

 

お肌もきれいになってますよ、と自分の頬に指先でつんと触れた吹雪に、思わず自らの腕や足を見る。

思い返してみれば、身体が縮んでしまったとはいえ、身長以外で困ったことはなかった。

 

「···ちょっといいか?」

「へ?···わっ」

 

吹雪を両手で抱き抱える。感じる軽さを鑑みるに、どうやら筋力は変わっていないようだ。

 

(···おかしくないか?これじゃあ、筋肉が凝縮してるじゃないか)

 

その軽さを不審に感じる。色々と不可解な点が多く、解決にはまるで至りそうにもない。

 

(しょうがない)

 

「···とりあえず、数日様子を見る。大本営には病気だと伝えておくが、みんなの演習や出撃のスケジュールに特に大きな変更はない。よろしく頼む」

「は···はい」

 

頬を赤くしながら、呆けたように吹雪は言った。

 

「みんなも、特に変わらずに過ごして欲しい。朝会は以上だ。総員解散」

「はい!」

 

それだけ言うと、彼はいつものように、執務室へ向かうのだった。

 

(···とは言ってもねえ···)

 

────そんな考えをしている艦娘がいるとも知らずに。

 

 

 

(直で仕事···と行きたいけど、最近徹夜続きだったからな···風呂に行くか)

 

因みに、彼は鳳翔に過剰執務を禁じられている。

···最も、それが出来ればいいのだが。

 

(まあ、バレてないならいいか)

 

若干の申し訳なさを感じつつ、私用の浴場(つまり男湯だ)に向かう。

必然的に女世帯になる鎮守府のことだから、土地面でも金銭面でもシャワールームだけでいいと言ったのだが、何故か大型浴場が付いてきてしまった。

 

「···ふぅ」

 

更衣室の鏡に映る肌は白く、どちらかといえば貧弱そうな体つきをしている。

 

「一体どうしたんだろ···」

 

考えていても仕方がない、と風呂場への扉を開く────

 

「「「いらっしゃ────い!」」」

 

─────寸前に閉める。

 

「ちょっとお!司令官さん!待つっぽい!」

「何やってるんだよ···」

「そ、その···夕立がどうしてもっていうから···」

 

(嘘くせぇ···)

 

普段の表情とは似ても似つかない、時雨のにやけ顔に呆れる。

 

「しれえ!一緒にお風呂入りましょう!」

「不知火もご一緒致します」

「お前らもか」

 

いつの間にか回り込んでいた陽炎型に驚いて後ずさる。

 

「ていとくっ!」

「おわあ!」

 

そろりと背中に触れた手は、島風の手。

 

「こんなにちっちゃくなっちゃって···私の方がお姉ちゃんなんじゃない?」

「し、島風か」

 

重なる視線。それどころか、少し背の高いくらいの島風が、どこか新鮮で、焦りを隠せない。

 

(不味い···!こうなったら)

 

「吹雪、電」

「はい!」

「はいなのです」

「こいつら大人しくさせて、後で間宮に行こう」

「了解しました!」

「なのです!」

「うわあ!裏切りやがった!こいつらああああああ痛い痛い!」

「司令官とのお時間は誰にも邪魔させないのです!」

 

そんな深雪らの断末魔を尻目に、こっそりと湯を浴びたのだった。

 

 

 

「ふぅ···」

 

目の前の書類が片付くと同時に、思わず溜息を漏らす。

 

(特に、どこもおかしくない)

 

体力はそのままだが、先刻更衣室でこっそり量った体重は、ごっそりと減っている。

 

(見た目と身長と体重が戻って、後は元通り···?)

 

もう色々と訳が分からない。

こなすべき書類はもう残り僅か。日頃コツコツとやっていたことが功を奏したのか、暫くの間はゆっくり出来るかもしれない。

 

「···もう昼か」

 

思考の纏まらない頭を抱え席を立つ。

身長の届かない扉を押して外へ出ると、近くにいた艦娘から歓声が上がる。

 

「司令官、可愛い〜!」

「提督って昔はこんな感じだったのかなぁ···」

「アオバ、キニナリマス!」

「···はぁ、見世物じゃないんだけど···」

 

乾いた笑いを含ませ、とりあえずこの場から去ることにした。

 

────────────────────────

 

「疲れた···」

 

彼が感じているのは、もちろん精神的なそれだろう。

折角のカレーも喉を通らない(とは言いつつ残さないのだが)。

 

「て、提督。お疲れですか?」

 

そんな時、横から声を掛けたのは翔鶴だった。

 

「おう、お疲れ。翔鶴」

「提督こそ···」

 

おずおずとした様子とは裏腹に、内心で理性が崩れている翔鶴。

 

(か、可愛い···!いつもの凛々しい提督もいいですが、これはこれで···!)

 

「···翔鶴?」

「はっ、はい!?」

 

欲望に塗れた表情(本人には伝わっていないが)を不思議がる提督。

 

(あああ首傾げていらっしゃるううう可愛いいい!)

(···一体どうしたんだろう)

 

両手で顔を抑え、悶える翔鶴が、不思議でしょうがない提督であった。

 

「───そ、それは大変でしたね···」

「全くだよ」

 

うんざりした表情でスプーンを口に運んでいく幼い提督。

 

(とは言ったものの···羨ましいですね···)

 

しかし、まさか目の前の空母までもが例の一味だとは知る由もない。

 

(···そうだ)

 

「提督、お疲れでしたら···」

 

名案を閃いたと言わんばかりに、翔鶴は提案するのだった。

 

 

 

「──────で」

「わー!提督ちっちゃーい!」

 

小さい背を、思い切り抱きしめる蒼龍。

 

「痛い、腕が痛いよ蒼龍」

 

(ついでに心も痛い···もう少し自分の凶器に気付いてくれれば···)

 

若干の申し訳なさを覚えるが、呑気にしている余裕はない。

 

「ほんと、可愛いねぇ。これがあのいつもの提督?」

 

そう言って頭を撫でる飛龍。

 

「ちょ···あんまり慣れてないから···そういうのは勘弁してくれ」

「か、可愛い···」

 

頬を染める幼子。普段とのギャップに、飛龍の心はときめく。

 

「いいじゃないの?提督さんも、普段はあんまりこういうことないだろうし」

 

傍の瑞鶴も、同調するように翔鶴から提督を両腕で受け取る。

 

「普段からこういうことがあったら困るんだけど」

 

頭を撫でられ、不満そうなむくれ顔をすると、二航戦が微笑む。

 

「な、なあ···」

 

困り顔で顔を引き攣らせて笑うと、五航戦はニヤニヤ顔で自分を抱き締める。

 

「諦めて観念しなさいな。いーっぱい、ぎゅってしてあげる」

 

頭上、瑞鶴の声に、嘆息して呟く。

 

「···お手柔らかに頼むよ···」

「「やったー!」」

 

途端に覆い被さる四人に、ただ声を上げることしか出来ない提督だった。

 

「お、おい!ちょ、ちょっと──────!」

 

────────────────────────

 

「う、うーん···」

 

ゆっくりと目を開くと、そこには姉と二航戦、加えて幼い少年の姿が。

翔鶴に抱きかかえられるようにして、すやすやと寝息を立てていた。

 

(私も寝ちゃってたのか)

 

頬についた畳の跡が、熟睡の証拠だ。

押入れからタオルケットなどを探そうと立ち上がると、ふと、何か光るものに気付いた。

 

「···提督?」

 

それは紛れもなく、彼が流す涙だった。

 

「なんで泣いてるんだろ···」

 

欠伸で流れるそれとは違い、下がった眉からはその悲しみの深さが伺えた。

 

(提督が泣いてるの見たの、初めてかも)

 

優しくそれを指で拭うが、溢れ出すように涙は流れ続け、次第に苦しみに呻くような、そんな声が漏れ聞こえてくる。

 

(悪い夢でも見たのかな···?)

 

頭を撫でると、少しは和らいだように見えたのだが、依然として、悲しげな表情は、変わらなかった。

 

「しょうがない、取り敢えずお布団を···」

 

そう思って立ち上がる時に、その声は聞こえたのだ。

 

「──────か、あさん···」

 




ショタだから何でも許される風潮大好きです。

海外艦、もし追加するなら初登場は

  • ドイツ艦
  • イタリア艦
  • ロシア艦
  • アメリカ艦
  • イギリス艦
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