舞鶴第一鎮守府の日常   作:瀬田

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島風のお話の続編になります。

この後のお話に続く数話が、UA5000記念の作品となります。
このお話は通常の日常回としてご覧下さい!


第二十一話 お悩み相談室 <第二講>

「···という訳で、少しだけ任されてほしいんだ」

「はあ」

 

加賀は不思議そうに、短く返事をする。

 

(提督は今までこの仕事を···?)

 

要は艦娘たちのメンタルケア。

 

島風を筆頭として個人的な悩みを聞いていた提督は、出張となるこの2日間のその仕事を、一航戦加賀に一任しようと言うのだ。

ちなみに、お悩み相談室は大人気も大人気、今では予約表に記入しなければいけないほどだ。

 

「まあ、面倒かも知れないが、他ならない君にやってほしい。もちろん、報酬というかお礼はするよ」

「···報酬というのは」

「え?ああ、常識の範囲内ならなんでm」

「やりました」

 

────────────────────────

 

ガラッ、と戸を開ける音がする。

 

「···あれ、加賀さん?」

 

戸の入口には、初期艦である吹雪が立っていた。

 

「へえ、提督の代わりにですか?」

「ええ、何故私なのかは分からないのだけれど」

「きっと提督の信頼が厚いんですよ!」

「···流石に気分が高揚します」

 

頬を紅く染める加賀を微笑ましい目で見ている吹雪。

 

「···ところで、今日は何の用で?」

 

見られていた気恥ずかしさを振り払うように、加賀は話題を変えた。

 

「あ、そうなんですよ」

 

吹雪は思い出したように言う。

 

「···実は、陽炎ちゃんを見て思うことがあって···」

「陽炎を?」

 

数の多い陽炎型の、その長女である一番艦陽炎。

 

「ええ。あの子は妹たちの世話だけじゃなくて、駆逐艦の子を上手くまとめてくれたりして···とっても尊敬してるんです」

「···確かにそうね」

 

見た目相応の年齢だとすれば、なかなかに聡明な子なのであろう。

 

「···でも、だからこそ同じ長女で、しかも初期艦の私が何も出来ていないのが、本当に申し訳なくて···」

なるほど、と加賀は思った。

「それで、貴方はどうしたいの?」

「···どう、なりたいかですか」

 

吹雪は答えに詰まり、俯いた。

 

「···ごめんなさい、流石に答えを急ぎすぎたわね」

 

考えてみれば、吹雪ほどの年齢──────見た目中学生にも違わぬ少女が扱うには重い問題かも知れない。

 

「い、いえ···」

「少しずつ、自分の望む姿を作って行きましょう」

「はい!」

 

元気よく、吹雪は返事をして笑った。

 

 

 

「···」

 

というのがつい三時間ほど前の話。

吹雪と一緒に戦術や人体科学の座学、防空の演習、体術の訓練に励んだ加賀は、補給を済ませ、シャワーを浴び、昼食を摂り、吹雪と別れ、元の部屋で鎮座していた。

 

(これはなかなか楽しいものね)

 

吹雪と共にこなした練習の中に、加賀自身も勉強になる内容がかなり含まれていたということは、強く感じていた。

練習中も顔色一つ変えず、懸命に努力を続けた吹雪を優しく撫でた時の、嬉しそうな彼女の表情を思い出して微笑みが零れる。

 

「···さて、次はどの子かしら」

 

記入されている時間帯は、間もなく訪れる。

やたらと夜間に多いその予約に顔を顰めていると、丁度ドアがノックされる音が聞こえた。

 

「はい」

「···失礼します」

 

戸をあけたのは瑞鶴だった。

完全匿名制の予約表だけに、誰が来るのかすら分からないものだから、それが瑞鶴だと知った加賀は内心不安で一杯だった。

 

(···何か、あの子に負担を掛けてしまったかしら···)

 

もしそうだとしたら、瑞鶴は驚いた表情をして、遠慮がちにこの部屋を出ていくだろう。

 

(あの子に申し訳ないことをしてしまいました)

 

「···加賀さん?」

「っ、は、はい」

 

ネガティブな方向へむかって行く思考の外から、不思議そうな顔をする瑞鶴が垣間見える。

 

「大丈夫···?」

「え、ええ···」

 

(取り敢えず、話を聞かないと始まりません·· もし何かしてしまったなら、それは反省すべきことです)

 

覚悟を決めたように、加賀は口を開く。

 

「···今日は出張の提督の代わりに私が相談役を務めるのだけど···よかったかしら」

「ええ、丁度加賀さんに言いたい事があったのよ」

 

心臓に氷柱が突き刺さったようだった。

想像される瑞鶴の罵詈雑言の数々。

 

『加賀さんホントウザいんだけど』

『あんな沈み方しておいて、それはないわー』

 

───────────

 

「は、はいなんでしょう」

 

若干涙目になっている加賀にギョッとする瑞鶴。

 

「ちょ、な、なんで泣いてるの? 大丈夫なの!?」

「···あ···はい、ごめんなさい」

「なんで謝るの···」

 

挙動不審な加賀を訝しげな表情で見つめる。

視線が重なる度に加賀は、躊躇いがちに俯く。

 

「···その、ず、瑞鶴」

「あ、そうそう。ごめんなさい、話したいことなんだけど···」

「は、はい···」

 

緊張の一瞬。

その緊張のあまり、更に涙目になる加賀に構っていられず、瑞鶴は切り出した。

 

「うちの加賀さんってさ、なんで私達五航戦のこと、バカにしないの?」

「しゅ、しゅみましぇ···え?」

 

咄嗟に出た謝罪の途中、言葉の意味を理解出来ずに加賀は顔を上げた。

 

「···え?」

 

もしかしてその手の趣味の子だったのか、と怪しい目で彼女を見ると、その彼女は慌てて両手を振り否定する。

 

「ち、違うのよ···!その、演習で他の加賀さんが艦隊にいる時、加賀さんは決まって私たちにそんな感じのことを言うから···」

「···?」

 

そのことを理解するには多少の時間を要したが、大体分かった。

 

「···私は、ほかの加賀とは違うのかしら···」

「まあ、うちの加賀さんは高練度だし···艦娘としての経歴が長いほど、性格に個性が表れるそうだから」

 

つまるところ、比較的新任の瑞鶴、又は五航戦が今まで演習で相見えた加賀も同じく新任だったのではないか、ということだ。

 

「本来の私の口癖、ということかしら···」

 

ごめんなさいね、と素直に謝ると、瑞鶴はまた、両手を振る。

 

「あ、いや···そういうことじゃないの!うちの加賀さんはいつも優しいから···だから気になったの···本当は演習相手の加賀さんと、同じことを思ってるんじゃないかって···」

 

済まなさそうに瑞鶴は笑う。

 

ごめんね、と言わせない。

その言葉をを聞きたくない。

 

そんな思いが咄嗟に湧いてきて、気付けば身体は動いていた。

 

「そんなことは、ないわ」

「へ···ちょ、ちょっと」

 

肩を掴まれ、静かに抱きすくめられて目を回す瑞鶴に、加賀は語る。

 

「私は─────私達、と言った方がいいのかしら─── 比較的早く着任して、この鎮守府の制空を担ってきたわ···艦娘として備わった心に、貴方達の記憶はないけれど、おそらく、貴方の言う通り、無意識の中に、そういった口癖はあったのでしょう···それでも、艦としての記憶を思い出した時、とても、貴方達を悪く言うことなんてできなかったわ」

 

抱きしめる両腕に、更に力をこめて続ける。

 

「そうやって、一年ほど前には、貴方達が来てくれた···とても嬉しかったわ。けれど、それと同時に、軍艦としてのあの戦いの中で、貴方を置いて先に沈んだという事実に、私は耐えられなくて···そのことを恨まれているものだと···思っていたの」

 

加賀の肩に乗せた瑞鶴の顔に、涙が零れた。

 

「そんな訳···ないじゃない」

 

加賀の髪を撫でて、瑞鶴は続ける。

 

「あの時、加賀さんが沈んだ事を聞いて···本当に悲しくて···それでも、私たちはこの国を護るために、闘わないといけなくて···レイテで沈んだ時、加賀さんは私を許してくれるのか、不安だったの」

 

その不安は、水底に沈んだ艦船の瑞鶴の魂を呼び起こし、艦娘という形をとって、特別海域を進攻中の舞鶴第一鎮守府、第一艦隊の前に現れたという。

 

「だから、私も···また加賀さんや翔鶴姉に会えてほんとに嬉しかった···!でも、あのことをずっと聞き出せなくて···こんな言い方になっちゃって、ごめんなさい」

 

目を瞑って、加賀の腕の中へ顔を埋める。

 

「いいのよ···ありがとう、瑞鶴」

 

ふっと零した笑み。

 

(あ、ああの加賀さんの笑顔···!)

(ほわあああ···浄化されるうう)

 

うっすらと開いた扉から覗いた五航戦の片割れと二航戦組が悶絶していることなど露知らず、加賀は慈愛に満ちた目で瑞鶴を撫で続け、その膝元で瑞鶴は眠るのであった。

 

 

 

「ん···」

 

泣き疲れか、それともずっと隠していた感情を吐露し、それが受け入れられた安心からか、加賀の膝の上で眠りに落ちた瑞鶴が目覚めたのは、夕暮れ時であった。

すっかり傾いた日は部屋の隅々を橙色に染めていた。

 

「あ···寝てたんだ···私」

 

目を擦り大きく伸びをしていると、ちょうど部屋の戸が開かれた。

 

「···起きたみたいね、瑞鶴」

 

加賀は、いつもと同じような無表情で、瑞鶴にそう告げる。

 

「加賀さん」

 

けれど、瑞鶴の目には、彼女の表情が、確かに、はっきりと映っているのだった。

 

「明日帰ってくる提督のお疲れ会の準備をするそうです。瑞鶴も行きましょう」

「う、うん」

 

そう言って扉を開け、先を行く。

その加賀の手を追いかけて、瑞鶴は強く握った。

 

「···?」

「わ、私、これからも頑張るから!そ、その···よろしく、お願いします···加賀、さん」

「···ええ、こちらこそ」

 

繋いでいた右手を握り返して、加賀は微笑む。

今度こそこの子を守り抜くという誓いと覚悟を胸に。

 

────────────────────────

 

 

 

「それでね!あの時の加賀さんの顔ったらほんとに可愛くて···!」

「へえ···」

「やっぱり一航戦の先輩方は違います!格好良くて可愛いなんて犯罪です!瑞鶴も可愛かったけど!」

 

食い気味に執務室の机に寄りかかった例の三人組。

話を聞きつつ提督は、話題の人物の意外な一面に驚いていた。

 

「ところで、その二人なんだが···」

 

遠慮がちに笑った提督。

それもその筈、三人組の後ろには、例の二人の正規空母が厳しそうに立っていたからだ。

 

「ん?どうしたの···ひぃっ!」

「ヒィィィィィィィィィィィィィィィィ!」

「あれ···ちょっと?ず、瑞鶴?ね、ねえ何故無言で···あえええっ!?いはい!いはいはら!」

「···提督」

「どうした?」

「···聞きましたか」

「え?」

「あの二人から、何か、聞きましたか」

「え···いや、な、何も」

 

漂う一航戦ならではの殺気に身震いして、首を横に振る。

 

「そう、ならいいわ」

「良くないわよ〜!提督さんに全部聞かれてたなんてぇー!」

 

翔鶴の頬を抓りながら、瑞鶴は羞恥に悶えて叫ぶ。

 

「ず、ずいひゃふ···しょろしょろ···」

「翔鶴姉は黙ってて!」

「ひゃい」

 

その様子に苦笑しつつ、仲裁の弁を述べる。

 

「ま、まあまあ···別に悪い話じゃないんだし、 翔鶴にも悪気が···あった訳でもないんだし」

「···ほんと?翔鶴姉」

「ほ、ほんひょよ!」

 

ジト目の瑞鶴。

 

「···提督さんに免じて許してあげるけど次やったら縁切るから」

「えええ!?」

 

あと一回だけでもと縋る翔鶴が一蹴される様に、どちらが姉なのやらと思う。

 

「···やれやれ」

 

額に手を当てる加賀も、同じことを思っているようだ。

 

「···それで、相談室は上手くいったのか?」

「ええ、提督。しかしやはり聞いていたんですね」

「それは悪かったよ。ただ、このことはあいつも気にしてたんだ、勘弁してくれ」

「そう、なのですか」

 

彼は申し訳なさそうに微笑む。

 

「そうそう。ご褒美の件なんだが」

「っ···」

 

思い出したように口を開き、ポケットから取り出す。

 

「これで、どうかな」

 

取り出したのは、二対の花飾りだった。

 

「···これは」

「欲しいものを聞いてから買っても良かったんだけど、これが売っているのを見ると、どうしても買わずにはいられなかったんだ」

 

まあ造花なんだけど、と頬を掻く。

 

「この花はゴデチアって言って、その花言葉が、『変わらぬ親愛』って言うらしい···ほら、瑞鶴」

 

瑞鶴を近くに呼び、二人の髪に花飾りをつける。

 

「わっ···提督さん、これ何?」

「二人が素直になれたご褒美だ」

 

瑞鶴が花飾りに夢中になっている間に、加賀に向き直って、提督は言った。

 

「大丈夫だ。これまでもこれからも、お前たちの関係は変わらない。艦隊を支える空母としても、鎮守府の大切なメンバーとしても、瑞鶴を支えてやってくれ」

「···はい」

 

加賀は感情を表に出さない艦娘である。

ただ、この時だけは、その嬉しさを、精一杯の笑顔で表現していたのだった。

 

「···あ、電話」

 

瑞鶴が気付いて側にあった音の鳴った受話器を取る。

 

「はい、こちら舞鶴第一鎮守府です···はい、今代わります」

「おっ、来たか」

「···?」

「どうしたのでしょうか」

「さぁ?」

 

二人を(ニヤニヤして)見守っていたその三人組も、首を傾げる。

 

「さっきも言っただろ?ご褒美だ」

 

そう言って、彼は悪戯っぽく笑みを浮かべた。

 




この先のお話を書く前に、もうUAが6000を突破しててびっくりしました。
本当に感謝です…。

来週(今週)の平日は、特別枠を毎日投稿です。お楽しみに。

海外艦、もし追加するなら初登場は

  • ドイツ艦
  • イタリア艦
  • ロシア艦
  • アメリカ艦
  • イギリス艦
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