舞鶴第一鎮守府の日常   作:瀬田

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UA5000記念一発目。平日18時更新です。
会社、学校の帰りなどのちょっとしたお楽しみにしていただければ嬉しいです。


第二十二話 鎮守府旅行編 #1

「慰安旅行···?」

 

執務室、瑞鶴はきょとんとして言った。

 

「そうだ。大本営からの褒賞らしい」

 

みんなのお陰だ、と朗らかに笑う提督に、正規空母の面々は混乱する。

 

「···?」

「褒賞なんてありましたか···?」

 

実の所、艦娘には作戦の成功に対する報酬が手配されない。

というのも、人間か兵器か、その定義付けにくい不安定な存在に報酬を与えたところで、という意見が、古参の軍人がまだ多数を占める海軍司令部において、非常に強く見られる。

 

「まあ、貰えるって言うならありがたく頂くけど···」

 

艦娘側もそれが当たり前の事だと感じているから、その事実に対して何ら不満を抱くことはなかった。

 

(···というより、むしろ)

 

加賀は思考する。この待遇に隠されている真実について。

作戦を実行するのは艦娘だが、全員分だときりがないし、功労者が分かりにくい。

 

(ということは──────)

 

はっとして顔を上げて、その人物を凝視する。

そう。

むしろ、報賞を受け取るのは──────

 

「···加賀?」

 

提督は、こちらをひたすら睨む一航戦の片割れに、不思議そうに問いかけた。

 

「なんでしょう」

「どこに行きたいか、って話なんだけど···どこがいいかな···?」

 

きょとんと問いかけてくるその男。

その表情は、加賀の内心を察しているのないないのか、ともかく、加賀は呆れて言うのだった。

「それなら…」

 

 

 

「それでは〜ッ!今から『ドキドキ!バス席くじ大会』を始めたいと思いまーす!」

 

──────鎮守府食堂。

 

提督禁制のその部屋では、舞鶴第一鎮守府所属艦娘の面々が、一世一代の大イベントに、瞳を燃やしていた。

 

「···流石に気分が高揚します」

 

その集団の先頭の加賀は、そう呟いて司会の青葉の隣、壇上へと足を進めた。

 

「皆さん、お疲れ様です。今回の作戦報酬について、伝えておかないといけないことがあります」

「···?」

 

頭上に疑問符を呈する艦娘たちに加賀は、あくまで冷静に伝える。

 

「恐らく、今回の作戦褒賞は私達のものではありません」

 

そう切り出した加賀に、聴衆はざわつき始める。

 

「どういうことだ、加賀」

 

我らが連合艦隊旗艦、戦艦長門は、唐突なそれに疑問を返す。

 

「おそらく褒賞はなんでも良かったのでしょう。資源でも、新装備でも、果てには昇進までもが叶うそうです」

 

どこで知ったのか、その情報をありのままに伝えると、艦娘の中には、申し訳なさそうな顔をする者も現れた。

 

「なん···だと···提督っ···!」

 

その筆頭が、先程の長門であった。

 

「わざわざ我々のためだけに、昇進を無碍にするなど···!」

 

酷く後悔したように叫んだ長門を横目で見つつ、加賀は言葉を続ける。

 

「···とにかく、折角の褒賞を私達のために下さったのは事実だとして、卑屈になるよりは楽しむべきです」

「そうですね。その方が提督も喜んでくれますし」

 

近くにいた古鷹がそれに賛同すると、小さく頷く者が現れる。

 

「という訳で、私達は今回の旅行において、提督の迷惑になる行動をしない、更に積極的に全員が楽しめるように行動することを心掛けます。異論はありませんね?」

「「はいっ!」」

 

弾かれたように答える艦娘の面々。

澄まし顔の加賀はそれを見渡し、青葉に目配せした。

 

「···と、いうことでぇ~、はいっ!」

 

ゴソゴソと青葉が用意してきたのは、それなりに大きい、鋼鉄の箱。

両手で抱えてちょうどいいそのサイズの箱には、全員分の席番号が書かれたくじが詰まっている。

 

「今からバス座席の抽選会を行います」

 

そう言い放ちながら、加賀はその表情に僅かな緊張を含ませた。

しかし、それは加賀に限った話ではなさそうだった。

 

「···あ、あの、その」

 

おどおどとした仕草で、羽黒は手を挙げる。

 

「質問を許可します、何ですか」

「その···て、提督はどこに···」

 

瞬間、その場の空気は凍りついた。

 

「ひっ!?」

 

羽黒が短く悲鳴をあげるのも無理はない。

物理的限界の絶対零度をも上(下)回るほどに、数メートル四方のその密室は、冷めきっている。

 

「ま、まあまあ···それで加賀さん、提督はどの席なんですか?」

 

すっかり怯えてしまった妹に見かねた妙高が、話を進めた。

 

「···こほん、提督は余った席に座られるとの事です」

 

あまりにも彼らしいその解答に、くすくすと笑い出す者もいた。

 

「···全く、最後まであの方らしいな」

「そうねえ。謙虚というか、なんと言うか···」

 

長門が隣の陸奥に語りかけると、彼女も同じように笑みを浮かべる。

 

「それはそれとして、くじの順番はどうするんです?」

 

企画しておきながらそれを決めていないことに気付いた青葉が加賀に尋ねる。

 

「それに関しては、各艦種代表の皆さんで決めてもらいます」

 

あくまで澄まし顔の加賀だが、その熱視線は正規空母代表の瑞鶴へ注がれていた。

 

(頼むわよ···瑞鶴)

(まっかせといて!)

 

それを受け取った瑞鶴は自信たっぷりに腕を構えた。

 

「さあ!行くわよ!かかってきな···」

「雪風、参ります!」

「さ···」

「瑞鳳!抜錨しちゃいます!」

「い···」

 

彼女らの阿鼻叫喚の様子を見て鳳翔や間宮が苦笑いするのは、今に始まったことではない。

 

 

 

「···どうやら私たちの戦艦、第二グループは後手のようだな。今籤を引いている駆逐艦たちのグループで大分くじは引かれてしまうことになるが···」

 

隣の戦艦、武蔵は少しにやけてそう言った。

大方、こちらの心境を見透かしてからかっているのだろう。

 

「だ、大丈夫よ!さ、さっきだって瑞鳳さんと握手してきたし···」

 

内心焦ってそう答えると、若干武蔵が引いている。

 

「お前···何してるんだ···」

 

どおりで先程から、瑞鳳や初霜が苦痛の悲鳴を上げている訳だと納得している武蔵に、慌てて弁解を試みる。

 

「だ、だって!お、思わず握っちゃったんだもの···」

 

思い返す瑞鳳の表情。

それに少ししゅんとして俯くが、今はそんな場合ではないと考え直す。

 

「だ、大丈夫よね···!お祈りも運を上げるための準備もばっちりだし···!」

「お前は努力の方向を間違ってるな···」

 

武蔵の呆れ顔に少しムッとするが、全く間違っていないのが腹立たしい。

 

「···私だって、偶には提督のお側に··」

 

大和型一番艦、大和。

世界最強の名を欲しいままにした、その圧倒的火力を備えた戦艦は、先の大戦では日の目を見ないまま坊ノ岬に姿を消した。

蘇る過去の記憶に、彼女は艦娘として、不安を覚えることが多かったのだ。

そんな中、彼はいつもと変わらぬ微笑みのまま、彼女に語りかけるのだった。

 

「提督···」

 

思いを馳せるのは、艦隊の帰りを待つ凛とした表情。

すっかり恍惚としてしまった姉に、武蔵はやれやれと溜息をつきながら、電子掲示板に表示されるバス座席と番号を見ているのだった。

 

「吹雪さん、三号車二二番」

「えっと···隣は睦月ちゃん?」

「にゃしい!お隣が吹雪ちゃんでうれしいよっ!」

「────夕立さん、二号車四〇番」

「ぽいいいっ!?い、一番後ろっぽいいいい!」

 

人数的に40人ずつのバスでは、かの鎮守府では1台で収まる筈もなく、軍本部より支給された資金をそちらに削ることとなった。

因みに、宿泊施設など艦娘達へのサービスを設定しすぎたせいで、旅行費の一部が提督の収入から出ているのはお決まりのことだ。

帰りのバスでそれが発覚して騒動になるのは置いておいて、肩を落とす夕立に苦笑して綾波がその隣の票を見せていた。

 

「···不幸だわ」

 

そんな夕立達の後ろでは扶桑、山城、翔鶴、大鳳など、悲しいかな運の低い者が集まって体育座りをしている。

その様子たるや、暗澹という言葉では表現出来ないほどであった。

 

「まさか、皆で集まってしまうなんてね···」

「ええ···まあ、嬉しいのだけれど···ね」

 

三号車の最後部からまるで狙ったかのように五人の席は決まり、そしてその周囲は既に埋まっている。

 

「何てことでしょう···」

「ああ···不幸だわ···」

「あ、あらら···」

 

その様子を、雪風が引き攣った笑みを浮かべながら見ている。

因みに雪風の両隣四方は未だに埋まらず、くじの多くが引かれてきた後半戦、かなり有利であることは間違いないのだった。

 

「瑞鶴さん、一号車六番」

 

どよめく観衆達。

 

「き、来た!雪風の隣なら···!」

 

真ん中の通路が席を分け、バスの前方右側から横に数えていくそのクジ。

六番ということは、右二列目の通路側となり、雪風の七番の席の、通路を挟んで隣となる。

どちらにせよ、近くがまだ埋まっていないため、残りの提督の席が近くになる可能性は十分にあった。

 

「ずい、かく···よかったわね···げふっ!」

「しょ、翔鶴姉ー!?」

 

吐血して倒れ込んだ翔鶴を横目に見つつ、瑞鶴の嬉しそうな顔が、緊張を更に加速させる。

 

(私には···)

 

胸の高鳴りを感じる。

決して自分は、運の高い方ではない。

そもそも、正体の知れない運がこのくじ引きの結果に影響を与えるのか、ひいてはそもそも“運”など存在しうるのだろうかと、脳内では様々な言い訳が生まれる。

 

「···はいっ!それでは次は、長門型、金剛型、大和型の皆さんですっ!」

「···行ってくるわ」

「だ、ダメだって加賀さん!いくら元戦艦でも!」

「は、離して頂戴飛龍···私には使命が────」

「あ、あの···隣が私じゃ、だめでしょうか···」

「やりました」

 

前列では、緊張した面持ちの神風を加賀が抱きしめている。

武蔵や霧島などはそれに苦笑しているが、長門や金剛はそれどころではない。

 

「いいいいいい行くぞムツゴロウ、私に続けぇ!」

「誰よそれ···」

「いっちょやったんぞー!」

「お姉様っ!?」

「だ、誰なのでしょうか···」

 

阿鼻叫喚の戦艦勢力のトップバッターは、勿論この人。

壇上、皆の視線を一身に集め、大和は固まっていた。

 

「や、大和さん、どうぞ?」

「っあ!は、はい!」

 

くじ箱の置いてあるテーブルへと、歩みを進める。

艦娘たちは息を飲み見守っているが、右手と右足が同時に動いていた。

 

(緊張しているなぁ···)

 

特別海域最深部の戦闘時よりも険しい表情をしている彼女を窺い、武蔵は呆れるばかりであった。

 

「さあどうぞ!」

「···っ」

 

来る。

この中に、あの人の隣の席があるかも知れない。

見える。

もしかしたら、あの人の隣に、いられるかも知れない。

 

「い、行きますっ!」

 

思い切って、箱の中に手を入れる。

確かな感触。

心が、それだと叫んでいた。

 

「こ、これで···お願いします」

 

クジを持つ右手が震える。

 

「は、はい···えーと、大和さん···一号車、三二番です!」

 

おおっ、と歓声が上がり、瞬時に電光掲示板の方を仰ぎ見ると、周囲の席はまだ空いている。

更に、もう残りの席は少なくなっており、三号車の一部と、一号車前方、そして大和のいる一号車後部を残すくらいだった。

 

「よ、よし···!」

 

思わず、拳を握り締める。

「こ、これで提督と···!」

誰もが、彼女の勝利を確信した瞬間であった。

「──武蔵さん、一号車三三番」

「え?」

「金剛さん、一号車二一番ですっ!」

「Nooooooooo!」

「長門、一号車三七番だよお」

「何···だと···っ!」

「え?」

 

偶然の悪戯というものだろうか。

あっという間に、大和の四方は固められてしまった。

 

「え?」

「ま、まあまあ···戦艦の親交を深めるという意味でも、悪くはないのではないか?」

「え?」

「や、大和···?」

「え?」

「お、おいやめろ!隣だからって私に提督の制服を着せるんじゃない!大和ォ!」

 

駆けつけた妖精さんに取り押さえられ、執務室に突き出されて提督が頭を抱えることになるのは、また別の話である。

 

 

 

──────旅行当日

 

「よし、全員乗ったか?」

 

朝日の眩しい九時過ぎ。

天候にも恵まれ、秋晴れとなった空を見上げる。

 

「二号車四〇名、全員揃っています」

 

非常用の携帯無線からは、神通の声が聞こえてくる。

 

「三号車四〇名、確認しました司令官!」

続けて、吹雪の声が聞こえる。

 

「了解。大丈夫だろうけど、バスの中での行動は、二人に任せてあるからな。頼んだよ」

「「はいっ!」」

「···そんな気を張らなくてもいいんだぞ?」

 

普段から戦艦や空母の艦娘たちが、日常生活の指揮を執ることの多いという話もあったため、このような形を取り、非常時の作戦行動に備えたりすることもある。

特に心配はしていないが、あるとすれば、二人がこの旅行を楽しめればいいということくらいだ。

 

「じゃあまた後で。楽しんでくれ。通信を終わる」

 

スイッチを切り、艦娘たちの乗ったバスの搭乗口、運転手に挨拶をする。

 

「それでは、よろしくお願いします。」

「はい、こちらこそ。短い時間ではありますが、どうぞ旅をお楽しみ下さい」

 

初老の男性が帽子を取り、頭を下げる。

姿勢や物腰には気品があり、帝国海軍の洗練された気風を感じさせた。

 

(さて···)

 

車内に入り、運転手は中の艦娘たちに向かった。

 

「舞鶴第一鎮守府の皆様、おはようございます。この度は、帝国交通をご利用頂きまして、誠にありがとうございます」

 

恭しい一礼の後、通信機器についての説明があった。

どうやら全てのバスの間で中継をすることができるそうで、各々の席から、チャットやテレビ電話に近いものができる。

 

「それでは、狭い車内ではございますが、旅をお楽しみください。」

 

こちらを一瞥し、笑みを浮かべていた運転手から、マイクを差し出される。

 

「提督の方からも、一言頂きましょう。ねえ?」

「え···」

 

その言葉に、艦娘たちは沸き立つのだった。

 

「提督ー!いっちょよろしくぅ!」

 

囃し立てる隼鷹。

 

「諸注意などもありますでしょうし···」

 

賛同する鳥海。

 

「テイトクー!愛してるデース!!」

 

なんだか分からない金剛。

 

「···ああ、提督···うふふ···」

「ひいいいっ!?しょ、翔鶴さんがぁ···」

 

端末の中で病み始める翔鶴に、泣き叫ぶ潮。

そんな混乱した様子にぽかんとしていたが、我に返る。

 

「···ええと。皆、少し聞いてほしい」

 

その言葉に、車内は静まり返る。

 

艦娘たちの目線は、彼に集中していたのだ。

 

「この旅行は、皆の頑張りを評価して、大本営から贈られた報奨になっているけれど、俺は、このくらいじゃ恩返し出来てい

ないと思っている···だから」

 

少し緊張した面持ちで、我らの提督は言葉を紡ぐ。

 

「どうか皆、楽しんで欲しい。もちろん、そのために俺ができることなら何でも言って欲しい」

 

ぎらりと目を輝かせた一部の艦娘がいたのは今更か。

 

「改めて、今まで俺を、この鎮守府を支えてきてくれて、ありがとう」

 

伝わったかどうかは分からなかったが、自分の思いを、精一杯込めたつもりだ。

そしてそれは、次の瞬間の、艦娘たちの拍手とともに、確信に変わった。

 

「提督!かっこよかったでち!」

「これからもよろしくなの!」

「···ありがとう。それでは、よろしくお願いします」

「はい」

 

あくまで静かに、けれど運転手は、微笑んでいた。

 

「···ふう」

「提督、お疲れ様でした」

 

そう言って少し頬を桜色に染めて言ったのは、自分の隣の席である2番に座っていた艦娘。

 

「ああ。まあ月並みだったかも知れないけどな」

 

そう言いつつ、その艦娘の元に歩いていく。

 

「今日はよろしくな」

 

秋空の中、バスはゆっくりと走り出した。

 




まだ旅行してないっていう…。
くじ引き回は、割とこの作品を構想する前から妄想してたりしてました。はい。(阿武隈

海外艦、もし追加するなら初登場は

  • ドイツ艦
  • イタリア艦
  • ロシア艦
  • アメリカ艦
  • イギリス艦
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