舞鶴第一鎮守府の日常   作:瀬田

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第二十三話 鎮守府旅行編 #2

「提督!こちらです」

「ああ。ありがとう」

 

どうやら隣に座るのは、濡羽色の長髪をした榛名という艦娘らしかった。

挨拶を終え、一抹の緊張から脱した後に視線が合わさると、彼女は小さく笑みを浮かべていた。

 

(どうやらそこまで迷惑には思われてないかな)

 

何度自戒したつもりであっても、無意識のうちには卑屈な思考が芽生えてくる。

特にこの手の話題とあっては、この男はいつも以上に慎重になるのだから、これに恋慕する艦娘の諸姉も報われないというものだ。

 

「結局席はくじで決めたのか?」

「はい!皆さん食堂に集まって···」

 

例の籤騒動が三日前のことだ。

今回の旅行の為、大量の煩わしい職務と対峙していた彼からすると、一夜にして艦娘たちのcond値が急変(ほぼ急落)していたこたは驚愕すべき事項であり、実に摩訶不思議なことであった。

 

「なるほど。すまんな、わざわざ俺の隣なんかに」

 

一人で座っても良かったんだけどと付け加えると、ふと榛名のむくれた表情が目に入る。

 

「···どうした榛名?」

「提督は、榛名の隣、お嫌いですか」

 

頬を膨らませた顔はまさに駆逐艦のそれと同じだった。

 

「ま、まさか。寧ろ座ってくれて嬉しいくらいだ」

 

たじたじでそう答えた時には、既に榛名の表情は絶妙な笑顔へと変わっていたのだった。

 

「そうですか。榛名も提督のお隣で嬉しいです!」

「···そっか」

 

バスはそんな会話をよそに走り出した。

 

 

 

「む〜」

「···文月ちゃん?」

 

一号車後列。

 

「あたしも司令官の隣がよかったよぉ〜」

「うわっ!?ま、まあまあ。また今度行こうよ。もしかして、私の隣、嫌だった···?」

「んーん!阿武隈さんの隣も好き〜」

 

文月が阿武隈の膝に覆い被さる。

実に微笑ましいの光景なのだが、それにも関わらず阿武隈の表情筋を引き攣らせている理由は、前方のどす黒い空間にあったのだった。

 

「「···」」

「や、大和···?」

「こ、金剛さん···?」

 

それぞれ隣の武蔵や白雪が慌てている理由は、もちろん前方で光り輝くあの席にあった。

 

「提督、昨日はよく眠れましたか?」

「うーん、微妙かな。昨日はいろいろと執務に手配が立て込んでいてね、朝方までかかってしまった」

「お体は大丈夫なのですか?」

 

心配そうな視線を向けた榛名の頭を撫でる。

 

「大丈夫だ。実は今日が楽しみで眠れなかったくらいだよ」

 

唐突な彼の照れ顔に、榛名は硬直する。

 

「しょ!しょうですか!は、榛名もですぅ!」

 

がたがたと音を音を立てる後部座席。

 

「mmm…!はーるーなー!が羨ましいデース!」

 

ワタシなんて滅多に撫でてもらったことないのニー!と叫ぶ金剛を、白雪が抑える。

 

「お、落ち着いてくださいぃ!ふ、吹雪ちゃん助けてぇ!」

「て、提督がわ、私と旅行楽しみって…うぇへへ」

「戻ってこい大和!現実を見るんだ!頼むからシートベルトを外そうとするなあぁ!」

 

甘い雰囲気の前方座席と、修羅場のような後部座席。

一号車の艦娘たち(榛名、金剛、大和除く)は、その気圧差に圧迫され続けるのだった。

 

────────────────────────

 

「て、提督!」

 

隣の榛名が、なぜか意を決したような表情を浮かべる。

 

「な、なんだ?」

「その、私、お弁当を…っ」

 

榛名がそう言いかけた途端に、ぐううっ、と音が聞こえた。

 

「…」

「ああ。もう昼だな。って今の音は…」

 

音の発信源と思われる榛名を伺うと、おなかを抱えて何やら悶えている。

 

「えっと…榛名…」

「わ、忘れてくださいぃ!」

 

真っ赤な顔で焦る榛名がなんとも微笑ましいが、女性からすると相当恥ずかしかったのではないか。

 

「だ、大丈夫だ。聞こえてないから。それより、えっと…」

 

手元の鞄を探り、目当てのものを取り出す。

 

「ほら、これ。一応、作ってきたんだ。」

「え…も、もしかして、お弁当ですか!?」

 

驚いた表情を見せた榛名。やはり、作って来たのは不味かっただろうか。

 

「ああ。あ、要らなかったら無理に食べなくても…」

「頂きます!!」

「お、おう」

 

やけに目を輝かせて弁当を見つめているのは、彼女なりの優しさだろうか。

 

「そ、それじゃあ、その…榛名のお弁当も…」

 

おずおずと差し出された、可愛らしい弁当箱を見て合点がいく。

 

(なるほど。さっきはこれを…)

 

「わざわざ作ってきてくれたのか。ありがとう。じゃあ、交換だな」

「はうぅ…」

 

(こ、《交換》…は、榛名、こんなに幸せでよいのでしょうか…!)

 

なにやら悶え続けている榛名の弁当箱を開けると、色とりどりの具材が。

 

「おお。これはすごい。全部榛名が作ったのか?」

「はっ!え、ええ。少しお姉さま方にアドバイスを頂きながら」

 

実のところ、血涙を流す金剛に試食してもらうのは気が引けて、比叡と霧島に味見してもらったのだが。

 

「榛名、料理が得意ではないので、お口に合うか分からないのですが···」

 

不安げな榛名をよそに、燦然と輝く卵焼きを一口。

 

「ん、美味いな。甘みがある」

「そ、そうですか!?」

 

乗り出してきた榛名に苦笑する。不安だったのだろう。

 

「ああ。味付け自体は甘い卵焼きじゃないから、素材を上手く料理出来てることが分かるよ」

「はうっ」

 

自然な笑顔に絆されて、思わず俯く榛名。

一つ後ろの席に座る瑞鶴と涼月が隙間から覗き見ると、口角が上がりっぱなしの珍しい榛名が見られたそうだ。

 

「さあ、俺の弁当も食べてみてくれよ。なにぶん長く料理してなかったから、食べにくかったら言ってくれ」

「あ、はい!頂きます」

 

周囲の目線を一身に集めながら、しかし彼らはそれに気付かず、お互いの弁当をひたすらに褒め合っていたという。

 

 

 

バス車中。

可動式の席を回し、向かい合った提督・榛名・瑞鶴・初霜。

埋め込み式の台を立てて、カードゲームを始めていた。

 

「ウノ!」

「わっ、もう残り一枚ですか瑞鶴さん?」

「ふふん。やっぱり瑞鶴には幸運の女神が─────」

「ウノは運じゃないぞ。ほいD2」

「私もです」

「あ、私も」

「···」

 

数字でしか上がってはいけないこのゲームでは、残り一枚は攻撃の餌食だと自称するようなものである。

偶然(?)から生まれた超弩級の攻撃を受けて、涙目の瑞鶴はやむなく山札を引いた。

 

「うう···ひどい」

「まさに頭脳戦だな。瑞鶴はともかく、榛名と初霜は手強そうだ」

「提督こそ」

 

初霜は静かに、意味深な笑みを浮かべながら、しかし内心はその何億倍も喜びを感じていた。

 

(き、期待はしていたこととはいえ、本当に提督とお話出来るとは)

 

ニヤニヤしそうになるのを間一髪で堪えながらも、目の前の手札と周囲のメンツのカードを伺う。

 

(す、少しでもこの時間を長引かせるため···あわよくば提督と一対一になるため···ここは慎重に行きましょう!)

 

ゲームの勝ち負けとはなんの関係もなく気合を入れて、鼻息荒く初霜は黙考する。

 

(···なんてこと考えてそうね)

(ええ)

 

鋭くアイコンタクトを取る瑞鶴と榛名。

一体何をどうやってそれを行っているのか、皆目見当もつかないが、ここに一つの同盟が生まれた。

 

(暫くは共同戦線よ、榛名)

(ええ。榛名でよければ、お手伝い致します)

((我が野望のため!!!))

(うおっ、なんか皆、目つきが鋭い···!これは俺も頑張らねば)

 

ウノ海峡の戦い、勃発。

 

────────────────────────

 

「すぅ、すぅ···」

「···寝ちゃったか」

 

結局、数回の戦闘を挟み、ウノはお開きになった。

その後は、榛名や雪風たちと談笑して盛り上がっていたのだが、喋り疲れたのだろうか、榛名は提督の肩を枕に、眠りに落ちてしまった。

 

(弁当も作ってくれてたもんな···夜遅かったのかもしれない)

 

かかった髪を左右に寄せ、少し頭を撫でていると、運転手からアナウンスが掛かった。

 

「お疲れ様でございました。バスは間もなく、京都市内、帝国ホテル前に到着致します。皆様、お降りになる際のご準備のほ

ど、よろしくお願い致します」

 

(もうそんな時間か)

 

楽しい時間は一瞬である。距離は近いとはいえ、ついさっきこのバスに乗ったと思えば、あっという間に京都市内だ。

 

「榛名、起きれるか」

「ん···」

 

軽く肩を叩くと、榛名が薄く目を開けた。

 

「ふぁ···」

「おはよう。気分は大丈夫か」

「え···」

 

提督が覗き込んだ榛名の顔が、茹でダコの如く赤くなっていたことは、言うまでもない。

 

 

 

「吹雪、神通。そっちに何か異常はないか」

「二号車、異常ありません」

「三号車も大丈夫です!」

 

元気の良い声が端末を通して聞こえてくる。そこに、少しの安心を覚えた。

 

「よし。それでは、これから宿泊所に荷物を預けた後、集合時間までは自由行動とする。班分けはしてあるが、基本班員の誰

かとの行動、もしくは班長へ連絡した上での行動であれば問題ない。それでは皆、この旅行を楽しんでくれ」

「「了解!」」

 

艦娘たちはそれぞれに、意気揚々と返事をする。

元気の良い姿を見て安心すると同時に、またそれぞれがこの地で良い体験ができるよう、期待するばかりであった。

 

「それでは、総員解散!」

 

その敬礼は、かつてないほどの統一感を見せたのであった。

 

 

 

古都、京都。

溢れる歴史の香りを楽しみつつ、その時代に生きた人々、伝統、生活を間近で、実際に見ることも出来る。

そんな魅力を提督は感じつつも、ゆっくりと、夕暮れのその街を彷徨い歩いていたのだった。

 

(一時休息だな)

 

京都から嵯峨嵐山駅までを三〇分電車に揺られ、一人降り立った提督は、丸太町通を横切って北に、甘味処に腰を落ち着けた。

甘味が疲れを癒すのを感じながら、ゆったりと夕日の落ち行くのを眺める。

 

(···至福だ)

 

ホテル(旅館)のチェックインを済ませ、諸連絡を終えて出てきた頃にはすっかり昼を回ってしまっていた。

日暮れも短いこの季節、昼飯を食って旅館を発つ頃には、もう夕方になりそうであった。

それはしょうがないとして、どうも一人で回るのは寂しさを感じる一方で、気楽さを覚えている自分がいることも事実。

この際、目一杯楽しんでやろうという提督なりの魂胆である。

 

「···はっ」

 

ついうとうとしてしまいそうになったが、気がつけば時刻は集合時間まであと3時間を切っていた。

 

「いかんいかん。そろそろ行かないと」

 

椀の茶を飲み干して外へ出る。足取りは至って軽い。

 

────────────────────────

 

「ふむ」

 

道をさらに東、そしてまた北の方向へ進み、とある寺に辿り着いた提督。

借景を存分に楽しめる池を敷地内に持ち、この寺には、幾度となく訪れたいと思っていたのだ。

広い境内の回廊を進んでいくと、狩野山楽の襖絵や、障壁画が現れる。スケールの大きさに、ただ圧倒されるばかりだ。

 

「おお···」

 

そして、一番に彼が感動したのが風景。

山あいに吹く涼やかな秋風が、何とも嵯峨野の紅葉の風景を引き立たせる。

日本を千年間見つめ続けたこの寺は、今でもその原風景を留めてくれていたようだ。

 

(どうか、この場所がいつまでも守られ続けますように)

 

その使命を感じつつ、決意を新たにした提督だった。

 

 

寺を西に行きつつ、道を戻る形で清凉寺付近へ。

近くの湯豆腐屋へ入る。

 

「おお、これは旨そうだ」

 

思わず垂涎してしまいそうになるその料理の煌びやかさ。

秋の美しさのせいにして、すっかり堪能してしまった。

 

 

さらにさらに、清滝道を進んで愛宕念仏寺(愛宕に写真を撮ろうとして、後々波乱を呼ぶ)、祇王寺、常寂光寺と南へ下る。

残すは天龍寺と、大河内山荘庭園と天龍寺を結ぶ竹林の道である。

 

 

 

──────竹林の道

 

天龍寺の大パノラマを楽しんだ提督は、この季節、時間限定でライトアップされている竹林の道へ足を踏み入れた。

 

「おお···」

 

息を呑む美しさに感動する。

 

(心に沁みるなぁ···)

 

無機質な直線や、文明的な数字では表せないであろう(個人的な私怨も入っているのだろうが、主に書類)その風景美に心打たれる。

人も居らず、この眺めを独り占めしている気になって、少し嬉しく思っていた、その刹那。

 

「ひっ、ぐすっ···」

 

先の見えない竹林の向こうから、すすり泣く声が聞こえてきた。

 

「···!おいおい、流石に幽霊はNGだぞ···」

 

その手のものは苦手ではないが、この町ではあながち信じられないことでもないというのがネックである。

恐る恐る近づくと、灯篭の光が、妖しげに泣く子を照らし出していたのだった。

 

「ひぐっ、ううぇ···」

「大丈夫か?」

 

やはり古都とはいえ幽霊ではなかったと、見当違いな安心感を抱きながら顔を覗き見ると、見知った顔であることに気付く。

 

「···て、提督」

「や、山風じゃないか」

「て、いとくぅ···」

 

山風は大泣きで抱きつかれ、狼狽する提督。

 

「迷子になったのか」

「ひとりは、さびしい···!」

「···大丈夫だ。俺がいるから」

 

抱きかかえ、背を撫でてやる。

しばらくすると安心したのか、泣き疲れて眠ってしまった。

 

「山風の班は白露型の一部だったよな···」

 

職務用端末の、班員一覧をまとめたページを開く。

そこには、海風、江風、涼風、そして山風の文字が。

 

「なるほど。二十四駆か」

 

史実での関係が今も強く残っている艦娘も多い。

何はともあれ、残りのメンバーが彼女を探して慌てている可能性もあるので、連絡を入れることにした。

 

────────────────────────

 

場所は変わって、嵯峨嵐山駅。

 

「おいおいマジかよ···どこ行っちまったんだァ!?」

「竹林の道入るまでは一緒だったんだよな。やっぱりあそこのどこかで道を間違えたんだろ。出る時にはいなかったから」

 

冷静に話す江風の意見が正しいだろうと、海風は一人黙考する。

 

「山風も駅に向かっていると思ったのですが···まだ居ないようですね···端末も反応がありませんし」

「ま、まさか誘拐とかかァ!?」

 

慌てふためく涼風を諭すように江風は言う。

 

「それはないぜ。その気になりゃあ妖精さんの判断でも、勝手に艤装展開出来る。むしろそうなったら危険なのは誘拐犯さ」

 

艦娘の装備展開に関係すると思われている妖精は所謂彼女らのボディガード。

もとより運動能力の高い彼女らを、さらに粒子から成る艤装を展開させることで、陸地での警護を固めている。

装備は初期のものになるが、それでも海上に立つ推進力や、敵艦を穿つ破壊力は、一人の人間ではまず及ぶことがない。

加えて、艦娘の体内に影響するであろう菌類や物質も完全にシャットアウト、それ以前に侵入したものに関しても消失させる能力を持つので、どうあがこうと彼女らをどうこうすることは、現代科学の全ての能力を結集しても不可能である。

欠点は唯一渡り合える存在の、深海棲艦でしかないのだ。

ともかく、彼女の身に危険がないとしても、端末の返信がないのは心配である。

繰り返し掛けてはいるが、返答のない自分の端末を見つめて、海風は不安げな表情を浮かべた。

 

「心配すんな。とりあえず、竹林の道に戻りつつ探そうぜ」

「え、ええ。ありがとう江風」

「いいってことよ!ほれ、行くぞ涼風」

「おう、待ってろよ山風!」

 

江風に励まされ、少し笑顔を取り戻した海風の端末が鳴り響く。

 

「え···」

 

表示には山風の文字が。

 

「噂をすれば、だ!出てくれ」

「はい!···もしもし!?山風なの!?」

 

念のため聞き落としのないように、スピーカーに切り替えて電話に出る。

 

『海風か。こちら提督だ。山風のケータイ借りてるぞ』

 

「へ···?」

 

素っ頓狂な声を上げる海風。

 

「提督か?なんでまた···」

 

思わず聞こえていた江風が問う。

 

『江風もいるか。山風だが、竹林の道で迷っているところを見つけて連れ帰ってるよ。今どこにいる?』

 

それに答えるように、提督は告げた。

 

「そ、そうなのですか。ありがとうございます···」

 

へなへなと力が抜けるようにして座り込んだ海風。

 

「今は嵯峨嵐山駅の前です。この後行くルートは共有してありましたので、山風がここを通っているかと思って···」

『なるほど。もうすぐ俺たちもそっちに着くから、少し待っててくれないか』

「は、はい。本当に申し訳ございませんでした」

『まあ山風が無事だったから大丈夫さ。俺も偶然通りかかっただけだからな。んじゃあ、また後でな』

「ええ。ありがとうございます。失礼致します」

 

切れた電話を見て、ほっと長いため息が出た。

 

「よかったな無事で。というか、提督がいてよかったなァ」

「全くだ」

 

腕を組んで涼風に首肯する江風。これで一安心である。

 

 

 

「···ん、あれ提督じゃないか」

 

先程の電話から5分ほど経って、彼らが現れた。

 

「山風っ!」

 

思わず駆け寄った海風らに、提督は人さし指を立てた。

 

「しーっ、今眠ってるんだ」

 

見ると、彼の背には、静かに寝息を立てる山風がいた。

 

「ったく、こっちはどれだけ心配したか」

「まあ、無事で何よりだ」

 

苦笑する江風と涼風を置いて、海風は一人、俯いていた。

 

「···申し訳ございません、提督」

「ん?仕方ないさ。山風も端末で連絡できなかったことは、冷静さが足りていなかったからしょうがない事だし」

「それでも、もし提督が通りがかっていなかったら···」

「大丈夫だ。山風も海風も、きっとそれぞれが考えて動いて、時間はかかっても解決していただろう」

「そ、そうでしょうか···」

 

憂いた表情の海風であったが、提督はその背中を軽く叩いた。

 

「大丈夫さ」

そんな彼に、思わず微笑んだのであった。

 

 

 

夕暮れの嵐山を離れゆく電車。

開いた車窓からは、涼しげな風が流れ込んだ。

 

「んむ···」

 

提督の膝の上で目を覚ました山風。

 

「お、起きたか」

「あれ、ここ···海風姉、江風、涼風も」

 

目を擦りながら、彼女はゆっくりと起き上がった。

 

「ああ。みんな山風を探してくれていたみたいだ。必死に」

 

その証拠か、はたまたその安心感からか、三人は心地よい電車の揺れに、深く眠ってしまっていた。

 

「···あたし、端末も見ずに一人で勝手に泣いてるだけだった」

「まあ、一人で迷子になったら寂しいのも分かるよ」

 

頭を撫でて言う提督、しかし決意を込めてこう言った。

 

「だけど、一人じゃないってこと、忘れないで欲しい。 いつも、いつでも、きっと山風を見てくれている人がいる。

だから、迷っても、暗くても、それを信じて前に進めるんだ」

「···あた、しを?」

「ああ」

 

振り返れば、すやすやと眠る海風たちの姿。

 

「それを忘れないでくれ」

 

そして、微笑んだ提督の姿。

落陽の光に照らされ、なんとも幻想的に映ったその車内。

山風はそこに、一粒の涙を零したのだった。

 

───慰安旅行は、まだまだ続く。

 




山風に甘えたい。

海外艦、もし追加するなら初登場は

  • ドイツ艦
  • イタリア艦
  • ロシア艦
  • アメリカ艦
  • イギリス艦

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