舞鶴第一鎮守府の日常 作:瀬田
一八〇〇、京都市内帝国ホテルロビー
「そうですか…」
「誠に申し訳ございません。混雑時季ということもあり…」
(なんてこった)
提督は驚きつつ、そして一抹の焦燥感を覚えていた。
簡単にこの件を説明すると、睦月型の一部が宿泊予定であった部屋が、清掃員の不手際により水浸しになってしまっており、ホテル側もこの状態で客を泊めさせることはできないと判断した。
当然のことながら自分の部屋を譲った彼は、一転して京都への流浪人と化してしまったのである。
「空き次第すぐに手配致します。重ね重ね申し訳ございません」
ホテル側の処置は、空き部屋へ最優先で入室させてもらえることと、ラウンジ等の設備を自由使用させてくれるとのことなの
で、ホテル(旅館)内での娯楽などに関しては事欠かないが、何分、行楽の季節ということもあり、部屋、つまるところ今日の寝床がないのである。
「まあ、しょうがないですよね。宿泊に関しては私の方で探してみますんで大丈夫です。他の艦m…部下たちの部屋の方は特に何も起きていないでしょうか?」
「は、はい。そちらは」
もし艦娘の部屋だけであったら、自分の部屋を譲れば、少し部屋は狭くなるが何とかなるだろうが、両方が被害を受ければどうだろうか。この時期に京都市内で当日二部屋、それも信頼できる宿を確保するのは、とてつもない労力が必要だろう。
(まあ、そう考えれば最悪野宿(最悪)でも平気な分、楽だったか)
流石に軍属の者としては、みっともない行動は控えなければならないだろうが、もちろん極論の話だ。
「良かった。なら特に問題はないです。とりあえず、明日の晩までに部屋の方を使用させて頂ければ、と思うのですが、可能でしょうか」
「も、勿論でございます。可能な限り早急に…」
「いえ。明日の夜に泊まれれば大丈夫なので、よろしくお願いします」
そう言い残して、ホテルを去ろうとすると、スタッフに呼び止められる。
「お、お客様!?」
「部屋、探してきますんで。宴会の方は、三時間後にお願いします。」
(とは言ったものの…どうするか)
すっかり暗くなった京都市街の空を見上げ、提督は一つ、ため息をついた。
────────────────────────
「提督の部屋がない!?」
「そ、それは本当なの!?」
ホテル内の大浴場、貸し切りとなった浴場で夕張は言った。
「え、ええ。どうやら睦月型の皆さんのお部屋が漏水だとかで」
「にゃ、にゃしい!?」
「ぼ、僕たちのせいってことかい!?」
夕張、それにその場に居合わせた睦月と皐月が目撃者の青葉に詰め寄り、肩を揺らす。
「うえぇえ!そ、それは偶然ですし、提督もお考えになったうえでの判断だと思いますけど…」
「そうよ。あの提督のことですもの。私たちだけ別の宿泊所にするくらいだったら、自分が野宿するくらい喜んでする人よ。あの人は」
「き、如月」
その話を聞いていたのか、からからと戸が開く音がして、如月が浴場へ足を踏み入れた。
「確かにそうだね…でもそれこそ不味いんじゃ」
「そう。そんなことにはさせないわ」
「そうだね。睦月たちの部屋が原因なんだし、何とか解決方法を考えよー!」
「「おぉー!」」
「私も、微力ながらお手伝いしますよ」
「私も。提督だけ別なんてダメよね。」
青葉と夕張も、睦月型に同調した。
「でも、具体的にどうするのさ」
皐月が、現実的な解決策を見出そうと切り出す。
「そうなんですよねぇ。現状、ホテルのキャンセルはないそうなので、やはり新しい部屋は確保できないようですし」
提督とスタッフの話を聞いていた青葉が、頭にタオルを乗せて答えた。
「一部屋あたりの宿泊人数を変えて、一部屋空けるとか」
「それも微妙よね。このホテル、旅館ぽいところもあるし、予約している部屋によっては和室もあるのかも知れないけど」
実際にその通りで、希望した鳳翔や那智、長門などの数部屋は和室になっているようだ。
最も、元から定員オーバー気味でもあるので、なかなか一部屋分を空けるのは厳しいようだ。
「洋室だとベッドなので、一人一つで人数は変えられませんしね」
「なにより、それだとあまり提督は了承してくれなさそうね」
如月が、苦笑しつつも言った。
「まったく、自分のこととなると途端に無関心にゃし」
「ふふ、そうですねぇ」
朗らかに笑った青葉だったが、内心、結構心配していたりする。
「そうなると、本格的にどうするか難しいわね」
そう結論付けた夕張の隣で、皐月たちは唸っていた。
「···あ、そうか」
「なに?何が分かったにゃし?」
ふと皐月が閃いて呟いた。
「ぼくたちの部屋に提督を招待すればいいんだ!」
「え··」
「「えええええっ!?」」
「何やら騒がしいな」
隣の男湯は、男性が提督だけのため、貸切ではない。
が、時間帯のこともあり、人はまばらだ。
「ていとくさん」
「おお、妖精さんか」
ふよふよと近づいてくる妖精さんに、近くにあった小さめの桶を湯に浮かべた。
人も少ないし、気にする人もいないだろう。
「おつかれさまです」
「妖精さんこそ。日々の疲れを存分に癒してくれ」
「ええ。ちんじゅふのおふろもいいですが、さすがていこくほてるですな」
湯は少し熱め、様々な効能を持つ、伝統的な温泉だそうだ。
「全くだ。いやあ、喜んでもらえて良かった」
「ところでていとくさん」
「ん?」
「なんでも、きょうのおへやがないとかなんとか」
情報が早速漏れていることに驚く。
「バレていたか。ちなみに、情報元はどこだ?」
「こじんじょうほうほごのかんてんから」
「高級和菓子、抹茶もつけよう」
「あおばさんが、ていとくがはなしているところをきいていたそうです」
「青葉か···」
ため息をついて、提督は厄介事になると予感した。
恐らく、彼女らで気を配って一部屋空けてくれたりするのだろうが、直前に宿泊人数を変更したりすると、彼女らだけではなく、ホテル側にも迷惑を掛けることになるので、あまり望ましくない。
「かんむすたちも、どうにかしてていとくとこのおやどにとまりたいのです」
真剣な眼差しで、妖精さんたちは語るものだから、つい提督はたじろいでしまった。
「む···気持ちはとても有難いんだが···起こってしまったことはしょうがないからなぁ。とてもホテルの方々に無理強いする訳には」
「こちらはきゃくですし、もんだいありませんよ」
そもそも今回の問題の責任はホテル側にあると、妖精さんは言いたげだった。
「恐らく、清掃には専門業者を呼んでいるんだ。管轄が違うから、部屋の構造とかも知らない。だからこういう事故もあるんだろうな」
それだけに、あまりホテル側を責め立てるのは筋違いだというものだ。
「そうでしょうか」
「ああ。それに、責任を問うてばかりでは問題は解決しない。艦娘たちのためにも、それは勘弁してくれないか」
何故か提督が謝る形になって、妖精さんたちは慌てた。
「あやまらないでください。しかし、わたしたちも、ていとくさんといっしょにとまりたいのです」
「うーん…」
果たして、艦娘たちも自分がここへ泊ることを望んでいるのだろうか。
確かに、彼女らの好意を受け取ることは最近になってようやく慣れてきたというところだ。
「ていとくさんも、かんむすも、われわれも、みんながいてこそのまいづるちんじゅふです」
「…」
それだけに、彼女らがこうして自分のためにしてくれていることは、あくまで上司への配慮という理由からであって、自分への好意からだとは、とても信じられない自分がいるのだ。
現にそういう艦娘もいることは確かだろう。
自分がもしここへ泊まるとして、迷惑に思う子がいたとしても、それは不思議ではない。
(いや…違うな)
提督の胸中には、一つの自戒と、新たな決意が生まれていた。
(艦娘のせいにしてはいけない。きっと俺は、自信がなくて、怖いんだ)
それは勿論、艦娘たちに嫌われてしまうことが。そして、その可能性があることが。
更に胸の奥を突き詰めると、それは、いつか艦娘たちが自分を必要としなくなってしまうのではないかという不安に帰結した。
「ていとくさん」
手元では、決死の表情をした妖精さんが自分の指を掴んでいる。
自信に満ち溢れているようで、その実、少し怯えている。
それはきっと、妖精も、提督も、そして艦娘も、心情は一緒だった、ということだろう。
「…ああ。そうだな」
まだ、それは単なる予想でしかなかったけれど、提督は、妖精に微笑んで言った。
「ありがとう。おかげで決心がついた」
「そ、それでは」
「ああ。艦娘たちに、受け入れてくれる部屋がないか頼んでみるよ」
「おおぉ…」
隠れて見ていたのか、話していた妖精の近くの岩の影から、他の妖精が歓声を上げて殺到してきた。
「やりましたねたいちょう」
「しんじてました、はい」
「ていとくにもたいちょうにも、いっしょうついていきます」
しらじらしい言葉を掛けられ隊長妖精は不満げであったが、どこか嬉しそうでもあった。
その姿を見つつ、提督は湯から上がる。
「艦娘たちには俺から話す。他言無用だ」
「「りょうかい」」
涙を流す妖精たち。提督とともに長年の鎮守府運営を支えてきた隊長妖精は、その潤んだ瞳で、若い提督の成長に感動していたのだった。
(ついに、ですか…)
──────帝国ホテル内、宴会場
風呂や身支度、そして欠員がないことを確認した艦娘たちは、予定通り旅館内の宴会場へ集まりつつあった。
部屋は広く、100人を超える大所帯もすっぽりと覆ってしまうほどの大きさ。これを貸し切ることがどれほどの事なのか、艦娘たちは見当もつかないでいた。
「···何?」
各部屋の点呼状況を確認していた長門は、睦月型長女から件の話を聞き、顔を顰めた。
「これは大変なことになったわね」
同伴していた陸奥も、普段の冷静さが隠れ、明らかに焦りの色が浮かぶ。
「まさか部屋が漏水で使えないとは···。仕方ない、神通」
「ここに」
作戦時のような真剣な表情に応えるように、どこからともなく神通が長門の背後に現れる。
「各艦の点呼が確認でき次第、手筈通りに艦娘を配置。我々艦隊司令部はこの案件を緊急のものとし、宴会開始までの残りの
時間で解決法を探る。現場は任せた」
「承知致しました。お任せ下さい」
そう言って、音もなく姿を消した神通。
相変わらず、彼女を相手にはしたくないものだ。
「···それで、司令部ってのは?」
陸奥が尋ねる。真剣な面持ちなのは、彼女も変わらない。
「ああ。それは無電で知らせる。陸奥、お前も来い」
「ええ、勿論」
翻し、踏み出した長門の足取りは重く、この事態が艦娘たちにどれほどの影響を与えるかを示しているようだった。
────────────────────────
「···そんな、まさか」
集められたラウンジ内、大淀が驚愕の表情で呟く。
「全くの予想外だ。提督から我々艦娘の誰にもその情報が伝わっていないことを鑑みると、このままどこか別の宿へ宿泊する可能性が高い」
長門が悔しそうに口にする。集められた精鋭の艦娘たち、通称司令部に焦燥感が高まる。
「そんな訳にはいかないデース!せっかくの慰安旅行なんだから、提督が楽しめないなんテ」
金剛型からは長女と末妹が。金剛に同調するように、霧島は眼鏡をクイッと上げる。
「しかし、どうしますか。提督も恐らく無理やり自分が泊まることを望んではいらっしゃらないのでは」
「ええ。あの提督のことですものね···」
深刻そうに、第一航空戦隊からは赤城、加賀が頭を悩ませる。
「とにかく、既に提督が行動に出ていると打つ手がない。事情を詳しくお聞きするのだ」
「そうね。そして、今の私たちで、提督がここに泊まることできるように、できる限りの最善策を用意する···でしょ?」
「ああ」
長門の考えを汲み取った陸奥がウインクする。
「それなら、やはり皆さんに伝えることも必要ですわ」
「はい。それは私たちに任せて下さい!」
「僕も微力ながらお手伝いするよ」
最上型の熊野、そして初期艦の吹雪、白露型からは時雨が頷く。
「よし。それでは、作戦立案を大淀の進行のもと我々長門型、金剛型が担う。提督を探し出し、詳しい経緯の報告任務に一航戦があたり、集合場所の神通の援護と艦娘たちへの連絡は熊野、吹雪、時雨に任せる。それでは···総員散開ッ!」
次々と飛び出す艦娘たちは、その使命に燃えていたのだった。
──────帝国ホテル内、大浴場・更衣室入口付近
「ふぅ···」
髪をかきあげ、浴衣に着替える。
ひんやりとした空気が湯で火照った身体に心地よい。
とはいえ、湯冷めしてはいけないのでと、妖精さんがわざわざ羽織ものを運んできてくれていたらしい。
(後でお礼しないと···色々と)
妖精さんのお陰で、踏ん切りがついた。
本心を言うとやはり少し不安があることは否めない。けれど、もし、彼女たちが自分の思いを受け入れてくれるとしたら。
それは彼にとって、何よりも嬉しいことなのだ。不安はあるが。
艦娘たちにどのように切り出そうかと考えながら入ってきた男湯の暖簾をくぐると、右手の女湯の方から走ってきた少女にぶつかった。
「むぐっ」
「おうっ」
胸元に激突する少女の威力に、何故か島風のような声が出てしまった。
「···いてて···おお、君は」
「あっ、す、すみません!って、司令官!?」
少女は、我が鎮守府の艦娘であった。
「大丈夫か、綾波。不注意だった。すまない」
「い、いえ!私の方こそ、廊下を走るのは良くないですよね。申し訳ありません」
ぺこぺことお互いに頭を下げ合う謎の儀式を一通り終えると、二人は顔を見合わせて笑った。
「ふふ。まあ、綾波自身も怪我をしなくて済むからな。特に公共の場では気を付けよう」
「はいっ!」
敬礼した綾波の頭を撫で、同時に降って湧いた疑問。
「ところで、急いでどうしたんだ?」
「···あっ、そうでした!し、司令官が···!」
思い出して慌てた綾波は、提督の顔を見て、目を丸くした。
「し、司令官!」
「お、おう。俺が、どうした?」
「み、皆さんが探しているんです!今日のお部屋が漏水で使えないって、本当なんですか!?」
ぴょんぴょん跳ねる綾波をどうどうと落ち着かせつつ、提督は答える。
「ああ。その事か。どうやらそうなんだ、宴会の時に、皆に連絡しようと思っていたんだが」
「とっ、とりあえず、こちらへ!」
自然に綾波に手を引かれ、廊下を進んでいく。
この後彼を待ち受けるであろうあの混沌を、提督は未だ知らずにいたのだった──────
「あっ、提督!」
綾波と共に進んだ廊下の先、ラウンジ前には赤城と加賀が。
「綾波さん、ありがとう」
「いえいえ。偶然居合わせたので。携帯で回ってきた連絡を見て、私もビックリしました」
綾波が微笑んで話す内容に衝撃を受ける。
「そのことがもう伝わっているのか」
「ええ。皆知っているでしょうね」
すまし顔で言う加賀。
「提督、もう隠せませんからね。私たちにも協力させて下さい」
同調するように、赤城が少し強めの口調で言った。
「隠すつもりはなかったんだが···実のところ、俺も何とかここへ泊まらせてくれないかとみんなに頼む予定だったんだ。だから、そうしてくれると何よりだ」
その言葉に、一航戦と綾波はきょとんとするばかり。
「···どうした」
「て、提督が積極的だなんて」
「これは変ね。いつもの提督ではないわ」
訝しげな(実のところは嬉しさに震える)目線を送る面々。
「あ、あぁ···やっぱり泊まるのは流石に我が儘だったか」
曲解しそうな提督の手を取って、綾波は紅潮した面持ちで言った。
「そ、そんなことありません!綾波もそれが良いですっ」
「そうなのか?」
一航戦の方を振り向くと、彼女らははっとして頷くばかり。
「も、勿論です」
「そうね···まさかこうくると思ってはいなかったけど···むしろ好都合です」
加賀の、後半の台詞は聞き取れなかったものの、どうやら了承は取れそうな感じではあると安心する。
「とにかく、長門さんのところに参りましょう。少し話し合いを」
「話し合いまでしてくれているのか。気を遣わせて済まない」
「この件は仕方の無いことよ。気にしないで」
いつの間にか隣にいた加賀が、ぶっきらぼうに言う。
「···そうか。ありがとう」
────────────────────────
「おお!提督、探していたぞ」
卓上に手をついて立ち上がった長門。
他の面々───隣に座る陸奥と、金剛に霧島、そして大淀が起立し、敬礼を見せた。
「作戦中でもあるまいし、敬礼はいいさ。どうか楽にしてくれ。 詳しい話は 赤城から聞いている。俺も、何とかここへ泊まれないかと思っていたんだ。夕食前に時間を取って君たちに聞くつもりだった」
そう言うと、長門たちは揃って赤城たちと同じ表情をした。
皆が同じく目を丸くしているものだから、少し笑ってしまう。
「やっぱり似合わないことを言ったようだ、赤城」
「ええ、普段の提督なら絶対に言わないようなことですし···」
それでも皆さん嬉しいんですよ、と付け加え、朗らかに笑う赤城。
「···何か心境の変化でも?」
長門が真剣にそう言うから、更に笑いがこみ上げる。
「大したことはない。ただ、妖精さんと少し話してな」
恐らく、彼らの存在がなければ今ここに自分はいないだろう。
一歩踏み出す勇気をくれた妖精さんには、感謝しかない。
「君たちさえよければ、なんだが」
「そ、それはつまり···」
垂涎しかける金剛の口元を拭く霧島。
「いいいい、一緒の部屋に···、ってことですかぁ!?」
ちゃっかり付いてきていた綾波が、顔を真っ赤にした。
「落ち着け。一部屋分の艦娘たちを、それぞれ他の部屋に割り振るということも出来る」
冷めやらない綾波の興奮を抑えるように長門が言った。
しかし、彼女の内心もまた、金剛同様に穏やかではない。
(相部屋···か。胸が熱いな」
「本音ダダ漏れじゃない···あ、私はもちろん歓迎よ?」
陸奥がウインクする。その目線は当然提督に向けられていた。
「まあ、そうなれば俺は床にでも寝させてもらうさ。簡単に言えば、泊まるところだけあればいいからな」
勿論、先程長門の言った案も視野にはある。
迷惑な話ではあるが、後日お詫びとして届く、このホテルの宿泊券があるようなので、部屋を譲ってくれた艦娘たちにはそれを渡そうかと考えていた。
「oh、そんな事言わずに是非ワタシと一緒のbedでああああぁァ!!」
霧島に締めあげられる金剛。
「全く···」
「ま、まあそこまでいかなくても、余分な布団くらい用意できると思いますよ?」
呆れる加賀と、困ったように笑う赤城。
「となると、やはり部屋に提督を招く形で、そして余分の布団を用意できる和室の方がよろしいですか?」
「ああ。もしそれでも良い子たちがいれば、そうさせてもらおう」
提督は少し、安心していた。
非常識な頼みであることは分かっていたのだが、やはり今まで良好な関係を保ってやってきた艦娘たちにこの件で気を遣わせて、嫌な思いをさせることは堪える。
言葉だけでは分からないとは言いつつも、見たところ艦娘たちの中に本気で嫌がっている子はいないようだ。
「では、そうしよう。それでは、どの部屋にするか、だな」
「ここで決めてしまうことも出来るけど···。」
陸奥がちらりと金剛の方を覗く。
「ガルルル···」
そこには文字通り金剛力士像のような目をした金剛が。
「ひっ」
綾波が怯える。
「こら、やめないか。提督、夕食前の一言の時間にでも」
「ああ、そうしよう。恐らくあまりいないと思うが···もし複数いたら、決め方はどうする?」
「それこそ、バスの座席と一緒で籤にしましょう」
「そうね。部屋の代表が引きに来る形で」
大淀の提案に頷く一同。
そんな風にして、風雲渦巻く一大決戦が、この京都の地に幕を開けたのである。
──────帝国ホテル内 宴会場
夕食の時間、艦娘たちは吹雪たちの指示のもと、既に宴会場に集合ししていたのだった。
「静粛に。提督から一言頂く。一同、敬礼」
色とりどりの浴衣に身を包んだ艦娘の視線が、上座に集まる。
「ああ、皆、今日は楽しめただろうか。残りの二日、この旅行で日頃の疲れを取って欲しい。それでは、グラスを」
艦娘たちは提督のするように、手元のグラスを手に取った。
「いつもお疲れ様、乾杯」
「「かんぱーい(っぽい)!」」
艦娘たちの元気な声が部屋に響く。
提督としては彼女らの笑顔が何よりであった。
冷えた麦酒やら、駆逐艦らはサイダーやらを一口、口に運ぶ。
「「っはー!」」
皆が皆、同じように言って笑う。そうして食事が、始まる筈だった。
「静粛に。まだ話が終わっていないぞ」
長門の声に、艦娘たちは不審な目を向けた。
「まだあるのかい?」
「あれ、なにか忘れてたことあったっけ」
「むー、早く飲ませろってぇ」
不思議そうにする者から、不満を垂らす者。
全ての者をこの一言で、長門は沈黙させた。
「提督の今晩の部屋のことであるが」
────────────────────────
現在、二三三〇。
ぎりぎりまで入室を控えた提督が、少し遠慮がちにその艦娘たちの部屋に足を踏み入れた。
「あっ!提督、いらっしゃいです!」
「お邪魔するよ。今晩はすまんが厄介になる」
「厄介なんてとんでもない。災難だったな」
「···」
妹たちが提督と言葉を重ねるのを、彼女はどこか緊張した面持ちで眺めていた。
「···秋月姉さん?」
「ひゃ、な、なに?」
妹の涼月が、不思議そうに訊いてきた。
「大丈夫ですか?体調が悪いのかしら」
「あ、だ、大丈夫大丈夫···」
自分の額に手を当てる天然な妹。
大丈夫だと言ったものの、実のところ大丈夫ではない。
鎮守府の防空担当として、凛々しい姿を見せてきた秋月ではあるが、素顔はなんのことはない、ただの恋する美少女である(初月談)。
秘密裏に取引される提督君グッズは数知れず、部屋のベッドの布団の中にはぬいぐるみがあり、本棚の奥の方にはブックカバーに包んだ写真集が入っている。
比較的大人しく、天然な照月と涼月は未だにそれには気付いていないものの、普段の反応を見ていればバレバレである。
妹として、姉の体裁を守るのは義務だと考える初月はそのことを内緒にしてはいるものの、肝心の本人の恋心が丸見えな以上
(提督本人には隠せているのが不思議で仕方が無いが)、果たしてそのことに意味はあるのかと一人思案していたりする。
「···」
(姉さん、ここがチャンスだぞ···)
提督から目線を姉に向けるが、やはり顔を真っ赤にするだけだ。
焦れったいが、少しずつ慣らすしかないだろう。
(姉の恋路を成功させるのも、妹として一興だな)
内心苦笑して、今日ばかりは彼女に手を貸すことにした。
この間の初秋イベで秋月型をコンプしました。
冬月なんて実装された日には、史実公認の涼×冬百合カップルが爆誕してしまう…(期待)
海外艦、もし追加するなら初登場は
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ドイツ艦
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イタリア艦
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ロシア艦
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アメリカ艦
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イギリス艦