舞鶴第一鎮守府の日常 作:瀬田
「それにしても、漏水とはね」
「ええ。こんな由緒正しいホテルでもあるんですね」
「まあ、滅多にないだろうな。今回ばかりは、山城に慰められてしまった」
「まあ、うふふ。あの山城さんが」
「意外ですねぇ」
宴会後、許可を得て(内心断られるかとびくびくだったことは言うまでもない)提督は秋月型の部屋で泊まることになった。
日付も変わろうとしている二三四五、四姉妹に提督を加えて話は盛り上がっていた。
「初月は着任したばかりだが、なにか困ってることはないか」
「ああ。姉さん達もいるし、なによりこの鎮守府の皆は優しい」
どうやら遠慮しているわけでもなさそうだ。
その自然な表情に、提督は安心するのであった。
「それは良かった。うちは対空戦が得意な艦娘が少ないから、初月も気づいたことがあったら積極的に言ってくれ」
「ああ。任せてくれ。対空射撃は僕達の仕事だからな。なっ?秋月姉さん」
「···ふぇっ!?な、なに!?」
ぼうっとしていたのか、不意打ちをくらったように慌て出す秋月。
「大丈夫か?」
「もー、秋月ねえ、バスの中であんなに寝たのにまだ眠いの?」
「あ、ああ!気にしないで下さい、少し考え事をっ」
両手を振って誤魔化す秋月。どこからどう見ても顔が真っ赤だ。
「···?」
「提督が来て緊張しているんだ、気にしなくてもいい」
「へあっ!?」
「気を使わせてたらすまんな、嫌な思いをしていたらすぐに言ってくれよ」
「いいいいいいえ!私は大丈夫ですう!」
ますます不自然に慌てふためく秋月に、こりゃダメだと初月が額に手をやった。
──────――――――――――――――――――――――――――――――――――
日をまたいでも、秋月型の姉妹の話は尽きないようだ。
「提督って、いつもお仕事してるけど、いつ休日なんですか?」
「いつもってことは無いぞ。最近は皆のお陰で日曜が休みになることか多くなった。感謝だな」
「つまり、それ以外は仕事してるんだろう?」
「この前の秘書艦業務は、日曜日もありましたから···毎週という訳ではないようですし···」
苦笑する初月と涼月。
「こ、この秋月もお手伝いしますから!いつでもお呼びくださいっ」
「おう、助かるよ。ありがとう」
時間も経ち、漸く秋月も慣れてきたようである。
(その調子だ秋月姉さん)
目線で親指を立てる初月に、秋月は緊張の面持ちで頷いた。
「むー、折角の旅行なんだし、お仕事のことは忘れましょう?」
「それもそうか」
「そうだな···そうだ、僕は提督に聞きたいことがあるんだ」
「ん?何だ?」
初月は至って笑顔のまま、爆弾を投下する。
「提督の好みのタイプが知りたい」
「!?」
その時、空気が凍てついた。
「お、お初さん、それって···」
「いいねー!そういうのそういうのっ!」
といっても、天然娘の照月は意に介していないようだ。
「こ、答えなきゃダメか」
「うんっ!照月、知りたいかなって」
「艦娘たちの中でも話のタネだ。僕も知りたいな」
「こ、こら!提督がお困りだからいい加減に…」
「そ、そうですよお初さんに照月姉さん…」
流石にと思った秋月たちが止めに入るが、口元が緩み切っているので、何というか、止め方が適当である。
(日頃あれだけ真面目な秋月ですらこうだしなぁ…やはりもう少し艦娘たちの距離を縮めるべきなのだろうか)
全く見当違いな思考を進める提督であったが、何はともあれ四姉妹の思惑通りにコトが進むようだ。
「ええと、それは艦娘の中で、ってことか」
「っ、提督ぅ!?」
秋月が思わぬ一言で喜びの驚嘆句(言葉にならない)を漏らす。
「そ、それはっ…!」
意外に思ったのは他の三人も同じなようで、皆一様に目を大きく開いて、輝かせていた。
理由はそれぞれ違うようだが。
「えーっ!?提督、好きな人いたのぉ!?」
うそーっ、というように照月が口元を両手で覆う。
「意外だ。提督は恋愛に疎そうなイメージだったが」
初月までもが、耳をぴょこぴょこさせて詰め寄っている。
「ざ、残念ながらそういう子はいないぞ。仮にも部下であり、大切なお国の艦だからな」
焦りと困惑混じりの笑みを返した提督。
「なんだ、そっかぁ…」
「だと思ったよ。お前はそういうタイプではない」
心底残念そうにする理由が分からないが、青葉に似たような、ゴシップ好きな女の子らしい側面からなのだろうか。
「流石にな。これはどこの提督も同じだと思うぞ」
なんとかやり過ごした提督。
呉の提督が浦風と大本営公認の恋仲であることを思うと、彼女らがそのことを知らない比較的新参で助かった。
「でもでもっ!」
しかしまだ追撃の手を緩めない照月。
「もし私たちが艦娘じゃなくて普通の女の子だったら、どう?」
「!?」
とてつもない爆弾が投下された。
「え、っとだな…」
「心配するな提督。ここで言ったことは絶対に僕たちだけの秘密さ。約束する」
なっ、皆と初月が周りの三人に確認すると、照月は笑顔で、秋月と涼月は神妙に頷いた。
「くっ…」
提督は、焦る。
この空気では、自分が答えない限りこの場が収束することはない。
対人、もっと言えば対女性会話の少ない提督にも、これだけははっきり言えた。
(落ち着け…落ち着け。可能な限り彼女らに不快な思いをさせず、かつ場が白けない方法を考えろ…!)
まず、彼女らについて言及するのは避けた方がいいだろう。
直接そういう風に言われるのは、たとえ自分に対して反感や嫌悪感を持っていなくても困るだろう。
(艦娘はみんな性格や見た目も良い。ここはなんとか凌げる筈だ)
なけなしの語彙を振り絞って言葉にする。
「そ、そうだな…」
「「ごくり」」
顔を寄せる秋月型の圧力にたじろいでしまうが、続ける。
「た、例えば大和は、振舞にも気品があって、大和という名前に負けない大和撫子っぷりだよな。魅力的だと思うよ」
「気品…なるほど」
秋月が奥でメモを取っている。
「他にはっ!?」
尚も詰め寄る照月。
「う、えーと…ず、瑞鶴は普段から元気いっぱいだ。日頃の所作も溌剌としていて、力をもらうよ。魅力的だな」
「溌剌としていて、元気がある…なるほど」
涼月が奥でメモを取っている。
「ふむ…他には」
初月は追撃の手を緩めない。
「そ、そうだな…鳥海のように、戦闘時と変わらない凛々しさと、気配りができる優しさがあると、こちらも励みになるな。魅力的だ」
「凛々しさ…」
「気配り…」
秋月と涼月はメモと対峙するばかりで、なかなか戻ってこない。
ただ、聞き耳は立てているようだ。
「えへへ、提督のタイプ、いっぱい知っちゃったね」
「そうだな。意外なところもあったし、男性は鎮守府には少ないから参考になったな」
「俺個人の意見だからな…?ただ、みんなそれぞれ魅力を持っていると思うぞ?」
「「そ、そうでしょうかっ!?」」
超速度で反応した奥の秋月と涼月が、他の姉妹を押しのけて瞬時で提督に迫った。
「お、おう…?」
思いっきり反り返る提督は、何が何だか分からず、また、好みを暴露してしまったことに恥ずかしさを覚えるばかりである。
「そうだ」
ふと、思いついて意地悪な笑みを浮かべる初月。
「な、なんだ…?」
嫌な予感を感じつつ、冷や汗をかきながら提督は訊いた。
「僕たちのなかで、一番お前の好みに合うのは誰なんだ?」
秋月たちが思わぬ発火剤で沸騰したのは、言うまでもない。
「あー!、それ気になるぅ~っ」
瞳を更に輝かせて照月は同調する。
女の子たちの会話の盛り上がりは、ひとたび火がついてしまうとなかなか鎮火できないようだ。
「「…っ!」」
秋月と涼月は、ただただ期待と不安の入り混じった表情でちらちらとこちらを覗いては、赤面するだけである。
「そ、それは難しいな…さすがに」
「何だ?それは僕たちに女性としての魅力が無い、ということか?」
「ひどーい!照月たち、駆逐艦だけど結構やるのよ?」
抗議の目線を送る照月と初月。
後方では秋月・涼月たちの涙目援護射撃付きだ。
距離を詰め続けられる提督はたじたじである。辛うじて少ない言葉を紡いでいく。
「そ、そんなことはない。さっきも言ったが、みんな女の子として魅力的だと思う。た、ただ、その、優劣というか、順番をつけるのは…」
「そうか。みんな一様に好きだということだな?」
「お、おう…?」
「嬉しいですけど、何か物足りないよね?秋月姉さん」
「へっ?そ、そうなの!?」
「ああ。涼月も不満そうな顔だ」
「ええっ!?そ、そんなことは…っ」
「…ど、どうすればいいんだ」
結局俯いてしまう秋月たち。
それがいったい嫌悪感からくる行動なのか、その他に何か思うところがあってなのか、彼の知りうるところではない。
「そ・れ・じゃ・あ…私たちの魅力について、一言ずつもらうっていうのは?」
「おお、いいな。是非聞きたいな」
「ちょ、ちょっと初月…」
「そ、そうですよお初さん、さすがに提督のご迷惑に」
「はいはい。二人共、悪いがさっきと表情が何も変わってないぞ。本当は嬉しいんだろう?」
「「っ!?」」
「何で分かったのって言いたげだけど、バレバレだよ…」
コントのような話を続ける四人組の傍ら、提督は一人焦燥感を募らせるばかり。
(何の罰ゲームだコレは…心臓が持たん)
言葉を選び、慎重に発言してきた提督にとって、一連の詰問はただの拷問なのであった。
決して彼女らとの会話が嫌なわけではないのだが、精神的疲労が甚大である。
すでに半分ほど撃墜されたマインド艦載機たちに最後の攻勢をかける。
「さあ。提督」
「わ、分かった。い、言うよ…」
せめて彼女らが最小限の不快感を感じるくらいで済むようにと、もてる語彙力を総結集して提督は重い口を開く。
「えー···と、じゃあ照月はだな」
「まずは照月か?」
「お~!照月からですか?、嬉しいです!」
改めてこの状況を俯瞰すると、色々不味い。見る人が見たら間違いなく罰せられるだろう。
そんな謎の背徳感と緊張感とを彼は背負っていたのだった。
「そうだな…照月は、天真爛漫っていう言葉がぴったりだと思う。さっき言った瑞鶴に似ているかも知れないけど、仕事で疲れているときも、照月が秘書艦でいてくれたら、俺も頑張ろうって思える。何というか、励まされるんだな」
「そうかなぁ?私はいつも通りなんだけど」
首を傾げる照月へ、更に言葉を繋いでいく。
「素でそういれることが何より凄いことだぞ。愚痴を零したり、辛そうな表情ひとつ見せない、ってことは大人でもなかなかできることじゃない。ただ元気でいることなら多くの人が出来るかも知れないが、照月はそうじゃない。そう見えて、実は周りの人間の表情をよく読んでいるんだ。相手が何を考えているか、自分なりにしっかり考えて、適切な言葉を選んでいる」
「そ、そうなのか!流石は僕の姉さんだ」
「え、えへへ…なんか恥ずかしいです」
提督の語る言葉は、決して嘘ではなかった。それは日頃艦娘たちと接する中で彼が感じたことそのものであり、艦娘たちを心の底から理解しようとしていることが、照月をはじめ四人に伝わっていたのだった。
「ああ。でも初月だって良いところが沢山あるぞ。まだ会ってから日は浅いが、秋月型としての艦隊の役割を考え、時には榛名や吹雪に外からの意見を取り入れて努力し続けている。自分が強くなる為に、そして艦隊を守ることに一途だ。尊敬しているよ」
「むっ…そ、そうだな。僕はここに着任してからも、あの戦争を戦っていた時も、秋月型としての誇りと使命を忘れたことは一度もない。艦隊の盾になるこの誇り高き大命、それこそが僕の存在意義だ」
「まあ、俺としてはもう少し肩の力を抜いてほしいところではあるが…話は戻るが、初月はそういう愚直さがなによりの長所だ。信頼できるし、一緒にいて安心できるんだよな」
提督の心には、妖精さんの言葉が何度も反芻されていた。
「ていとくさんも、かんむすも、われわれも、みんながいてこそのまいづるちんじゅふです」
多少の恥ずかしさを覚えていたにせよ、提督にもはや躊躇いはなかった。
「そ、そうか…なかなか分かっているじゃないか」
胸を張る初月。なかなか満足そうである。
きっと、思ったままでいいのだ。
「これからも期待しているぞ」
「っ…ああ!」
初月の肩を軽く叩く。今まではきっと躊躇っていただろう。当たり前だ。会って間もない男に肩に触れられて、いい気はしないのは当然だ。
しかし、艦隊を指揮する立場としても、一人の人間としても、自分は、きっとこの魅力的な艦娘と話をしたいと思う。
正直になること。
思い切って、近づくこと。一歩踏み出すこと。
妖精さんは、その勇気をくれた。
間違いを恐れてはいけないということを、教えてくれたのだ。
「さ、さて!次は涼月姉さんだ。提督、頼むぞ」
「ええ!?ちょ、ちょっと待っ…!」
「そうだな、涼月は…」
考え始める。
涼月の普段の姿、何気ない姿。
それは提督自信が思い浮かべる姿であって、涼月本人のもつ「自分」だとか、艦娘にとっての「涼月」ではない。
それでも、一人の人間として、一人の涼月と対峙した時、話した時に感じた、この思いを伝えたい。
涼月が知らない自分自身を、伝えてあげたい。
「艦としてのことはよく知っている。あれだけの苦しい闘いを、よく乗り越えてくれたな。本当にありがとう」
「えぇっ?あ、ありがとう、ですか!?」
「ああ。それが今、ここにいる君を形作っている。人一倍強い心を持っているから、優しさも人一倍になる。知っているぞ。秋月たちや霞、初霜たちにしょっちゅう料理してくれているんだろ?特に朝潮型なんかは練度が高いから、任務も多くて、疲れて帰ってくると霞以外部屋にいない、なんてこともある。そんな時に、涼月が来て、一緒に料理を食べてくれる…本当にありがたい、嬉しいことだと、霞は言っていたよ」
霞らしくないその言葉に、照月は驚いた顔をしている。着任して間もない初月も同じだ。
「そ、そうなのでしょうか…私はただ皆さんのお役に立てればと…霞さんもあまり」
「あれは照れ隠しだろうな。ここだけの話、涼月の話をする時の霞は、笑っているんだ」
「えっ!?あの霞ちゃんが?」
一体霞の艦娘のイメージはどうなっているのか気になるが、おそらく悪いものではないだろう。
それは誰よりも自信を持って、提督としての自分が言えることだ。
「ああ。いつもありがとうって伝えたいけど、どうにも恥ずかしいみたいだけどな」
「へぇ···いいこと聞いちゃったかも」
「そうなのですか···迷惑じゃなかったようで、一安心です」
涼月は、ほっと胸を撫で下ろしていた。
その姿が、言葉が、かつての自分と重なる。
「大丈夫さ。涼月の料理が嫌いな奴なんて、いないと思うぞ」
「そうさ。姉さんの料理は鳳翔さんのとも引けを取らない。この初月が保証しよう」
「み、皆さん···」
「料理は真心が肝要というからな。涼月が料理を作る人のことをしっかり考えて、真正面から向き合ったからこそ、皆が美味しいと感じるんだ」
家族が作る料理なんて、資格を持つ凄腕の調理師に敵わないのが当たり前だ。専門職ではないのだから。
だが、その差を埋め、そして超えるものがあるとすれば、間違いなく届ける人への愛情だろう。だからこそ、それを食べた人は美味しく思える。そして、ふと思い出すと、どうしようもなく懐かしくなるのだ。
「私も手伝えるようにするわ。いつでも言ってね、涼月」
「は、はい」
「涼月の料理、美味しいよねぇ。また食べたいな」
「ああ。今度は僕らも手伝おう」
「うん!私もお料理できるようになりたい!」
三人には、涼月の味がすっかり染み込んでいる。
きっと、作り手のように、体を常に労わってくれる優しい味なのだろう。
「これだけの証人がいることだ。涼月の芯の通った優しさと、どこまでも真摯なところが魅力的なのは、嘘なんかじゃない」
「~~っ」
提督はそう言い切って、涼月に微笑みかけた。
嘘偽りなく放った言葉が涼月の言葉にどう響いたのかは分からないが、それを聞いた涼月本人は耳まで赤くして布団に包まるのだった。
「あ、ありがとうございますっ」
「す、涼月?」
「あれは喜びに打ち震えているんだ。今はそっとしておいてやってくれ」
「そ、そうなのか?とにかく、これは俺の本音だ。お世辞なんかじゃないということを、涼月に分かって欲しかったんだが」
「充分すぎるほど伝わってますっ!やっぱり提督のおっしゃることは違いますなぁ」
「て、照月…涼月!これは本当のことだぞ!嘘じゃない!涼月は本当に誰にも優しくできて──────」
「わ、分かってますぅ!分かってますからぁ!ありがとうございますうっ!」
「…?」
「お前、涼月を殺す気か?」
「な、何故そうなる」
ジトっとした目線を提督に送る初月であったが、呆れたように嘆息するばかり。
照月に聞こうにも、あまり彼女は飲み込めていない様子だった。
「…まあいい。それでは最後は秋月姉さんだ。提督、ぶちかましてやってくれ」
「ええ!?」
「表現が悪いな…えっと、秋月はだな」
「ひゃいっ!?」
提督と視線が重なる。秋月は、心の奥を射抜かれたようで動けない。
彼の言葉を、固唾を飲んで今か今かと待ち受ける。
秋月にはそれが、永遠のように感じられたのであった。
────────────────────────
「う…ん」
秋月は、薄く目を開けて、ゆっくりと起き上がる。
ふと布団が掛っていることに気が付く。
(あれ…私、いつの間に寝てたんだっけ)
部屋の電灯は消されており、隣で寝ているのであろう妹たちの、静かな寝息が聞こえてくる。
すぐ隣の照月の、なんとも心地よさげな寝顔に和んでしまうが、問題はそこではない。
「っ、そうだ、提督は」
辺りを見回すが、この部屋にはいないようだ。
「─────ああ。お陰でうまくいったよ」
その時、部屋の奥、窓側から提督の声が漏れ聞こえた。
(提督の声…しかし誰と)
そっと、向こうの間を遮る障子の近くへ足音を忍ばせて近づく。
純粋に、彼が誰と話しているのか気になったからだ。
「…おっ、秋月か」
「ひゃっ!?」
と、一瞬で看破されてしまった。
「な、どうして分かったんですか?」
「ああ。彼らさ」
「彼らって…あ、妖精さんでしたか」
彼と酒を酌み交わし談笑していたのは、どうやら妖精さんだったらしい。それも一人だ。
「あきつきさん、こんばんわ」
「こ、こんばんは。ところで、お二人は何を話されていらっしゃったんですか?」
「せけんばなしをしょうしょう。なんでもないはなしです」
「酒もあることだしな。少し思い出話も」
「そうなんですか」
「ああ。秋月もどうだ。確か酒は飲めたんだったか」
「えっ!?あ、はい!喜んで…と言いたいですけど、お酒はちょっと苦手で」
「あるはらはいけませんよ」
「流石に心得てるよ。確か冷蔵庫に何か」
「そ、そんな、贅沢ですよ!」
「こんな時くらい気にするな」
ジュースの小瓶を冷蔵庫から取り出した提督。
妖精さんが渡してくれた栓抜きを使って、グラスに注ぐ。
「あんまりみためがかわりませんね」
「確かに···」
「丁度いいだろう。ほら、乾杯」
「かんぱーい」
「あ、ありがとうございます」
規則正しい生活を送る秋月は、このような深夜の珍しい体験に、神妙な面持ちだった。
「それにしても、ていとくがほめちぎりすぎたせいで、さいごまですずつきさんはふとんのなかでしたね」
「そのまま寝たんだっけか。特にゲームとかはしなかったな」
「そ、そうでしたね···って、妖精さんも聞いてたんですか!?」
聞き捨てならぬ妖精さんの口ぶりに、秋月は触れた。
提督の放った言葉の、内容が内容だけに慌てていたのだ。
「ええ。もちろん、あきつきさんのときも」
「そ、そんなぁ···あうう」
寝る前に聞いた提督の言葉を少しずつ思い出し、羞恥に身悶えする秋月。頭を抱えている。
「謙遜するなよ。嘘じゃない。長女としての心構え、そして責任感。どの艦娘に接する時も、それを感じさせる。普段からそう心がけることが当然になっているからこそ、皆から尊敬が集められるんだ」
「は、はいぃ···」
たじたじになっている秋月。
そんな彼女を認め、称える提督の言葉は、確かな温もりを感じさせた。
もちろん、少し酒が入っていたこともあるが、そこには嘘偽りなどない。
「あまりながすぎると、あきつきさんがはっかします」
「発火か。それは困るな」
「そ、そうかもです···」
「それでは、短くまとめるとするか」
「そうですね···って、まだあるんですか!?」
「当たり前だ。着任した時から秋月はそういう姿勢を崩さなかった。だからこれは、やっぱり秋月本人の確かな自覚と、信念に因るものだ。俺はそういう、艦娘たちの向上心を支えたいと思っていて───」
この後も、酒とジュースを交えつつ、幾度となく提督の艦隊と秋月の自慢話は続いた。
普段は見られない提督に新鮮味を覚えている秋月だったが、やはり褒め殺しされるのは慣れていないようで、彼女が悶えに悶えて、妖精さんがそれに苦笑する光景は、想像に難くないのであった。
────────────────────────
「···おっ、つきです。まんげつ」
「丁度雲から顔を出したんですね。とっても綺麗です」
「本当だな。やっぱり京都で見るからか、なんだか鎮守府よりも輝いて見えるな」
ふと窓から見える雲間から姿を覗かせた月の輪が、眩しく市街を照らす。
妖精さんが渋い顔で日本酒を啜っているのはなんだか一周回って風雅さすら感じさせる。
勢いよく杯を呷った妖精さんがぽつりと零す。
「あきつき、ですね」
「はい?」
「秋の月という意味だろ?」
「あ、そういうことですか。確かに」
言われてみれば、という表情の秋月。
視線を移すと、妖精さんがかなり酔っているようだ。持っている杯の酒が波うっている。本人もかなりぐらぐら来ている様子だ。
「…大丈夫ですか?」
「仕方ない。用意してきたものがある」
そう言って、部屋の奥に置いてあった提督バッグから、小さなカゴを取り出した。
中には小さめの毛布などなど。
「ほれ、水も傍に用意しておく。入ってくれ」
「ありがたきひあわへ」
呂律の回らない妖精さん。
布団に入ると秒もしないうちに寝入ってしまった。
「は、早い…くしゅん」
「少し寒いか。もういい時間だしな、そろそろお開きに…」
「だ、大丈夫です!も、もう少しお話ししましょう!」
「そ、そうか。でもとりあえず羽織着てくれ。ほら」
ここぞとばかりに初月から教わったハングリー精神を発揮する秋月。
深夜テンションに飲み込まれた秋月は無敵だった。
「…そうだな。俺が話し出すとまた自慢話になってしまうからな。何か最近あったことと言えば」
「あっ、それならお聞きしたいことが。最近加入された酒匂さんなんですけど、初めて会った時に、提督が担がれていたのって、どうしてですか?」
「ああ。それはだな。海域で助けたときに意識がないって言うから、急いで医務室まで運んだんだが…何のことはない。運んでる時にやたら低い音がすると思ったら、お腹が空きすぎて意識がなかったらしい」
「うふふ。酒匂さんらしいです。この間もですね…」
二人の四方山話が終わりを迎える頃には、夜も明けて綺麗な秋空が広がっていたという。
次回最終回です。
海外艦、もし追加するなら初登場は
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ドイツ艦
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イタリア艦
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ロシア艦
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アメリカ艦
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イギリス艦