舞鶴第一鎮守府の日常 作:瀬田
瑞鳳回です。なんか外国の本みたいなサブタイトル…
出来るだけ甘く仕上げようとすればするほど、自分の文才のなさを痛感する今日この頃です。
──航空母艦寮、祥鳳型の一室。
「ふふふーん」
思わず鼻歌も出てしまうくらいに、自室でスキップする瑞鳳。
その小さな体躯で目一杯の期待と、少しの緊張を表現していた。
「ご機嫌ね、瑞鳳」
そんな妹を微笑ましそうに見つめるのは、夕飯を作り終え、エプロンを脱いだ祥鳳だった。
「わ、分かるかな」
「勿論。姉じゃなくても分かるわ」
冗談ぽく口にしたが、あながち間違いでもない。
彼女がここまで機嫌が良い理由は、明日の誕生日(進水日)が秘書艦としての仕事の日と被ってしまったことを苦慮した提督が、秘書艦を交替させてやれない代わりに、せめて祝うくらいはさせてほしいと言ったからである。
むしろそれを誕生日のご褒美と思っていた瑞鳳にとっては、願ってもいないサプライズだったのだ。
そんなこんなで、これ以上ないくらいにハイテンションな状態に彼女が昇り詰めているのは仕方ない訳である。
「えっ、そ、そうなのぉ!?」
慌てて顔を両手で覆う瑞鳳。
「照れなくてもいいじゃない」
「は、恥ずかしいよぉ…」
指の隙間から、ちらりと上目遣いでその片目を覗かせる瑞鳳。
男性心理を手玉に取る(?)あの足柄を以てあざといと言わせた所以がハッキリとわかるようで、祥鳳はそれが少し羨ましく思うと同時に、瑞鳳に言った。
「嬉しいならちゃんと、嬉しいって言ってあげた方が、きっと喜ぶわ」
「そ、そうなのかな!?」
先程とは打って変わって食い気味に迫る瑞鳳に苦笑するのだった。
「ええ。さあ、話しながらでもお夕飯にしましょう。ゲン担ぎに卵焼きとカツを作ったわ」
「わーいっ、ってそれあたしの料理ぃ!」
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「うーん…」
「瑞鳳、大丈夫?」
翌日、朝。
テンションが上がりすぎた為か、瑞鳳は大熱を出して寝込んでしまっていた。
「ぐすっ、うえぇ…」
「あらあら、どこか痛むの?」
「ちがうぅ、てーとくが、せっかく用意してくれてたのにぃ」
その熱の高さもさることながら、それだけ瑞鳳のショックが大きいということは自明であった。
「大丈夫よ。また治ったらお祝いしようって、提督もおっしゃってたから」
妖精さん謹製の冷えピタシートを瑞鳳の額に貼り、祥鳳は続ける。
「今日はお姉ちゃんで我慢して頂戴。秘書艦は、吹雪さんが入ってくれるそうよ」
「うう…ありがと、祥鳳、吹雪ちゃん…」
頭を撫でられながら、瑞鳳は悔し涙を流して眠るのだった。
「瑞鳳さん、大丈夫ですかねぇ」
書類がひと段落して、吹雪は緑茶を啜りながらつぶやいた。
窓の外には大きな雨粒と紫陽花が見えており、風情を感じるが、緑茶の熱さに驚く。
「っああ、祥鳳からは、今は落ち着いて、眠っていると連絡があったが」
「相変わらず猫舌なんですね。氷を持ってきます」
「い、いや、大丈夫だ」
「瑞鳳さんたちの部屋にも届けるので、ついでですよ」
全く、初期艦殿には敵わない。
今日だって、休暇のはずなのに、彼女は二つ返事で受けてくれた。
彼女にも後で何かのお礼をしなければと考えつつ、残りの仕事に目を通し始めたのだった。
「提督、失礼致します」
執務室の扉を開いた祥鳳に、提督は口元に親指を立てて応じた。
「あら…」
「疲れていたみたいだ。もう仕事も終わっているし、少しここで寝かせている」
ソファで横になる吹雪にタオルケットを掛けてやり、祥鳳に向き直る。
「ここでは何だ。置き手紙をしておくから、どこか移動して話そう」
そうして向かったのは、上階のラウンジ。
運動などができる運動場や体育館、武道場に加えて映画、インターネット、ゲームなどを楽しむ視聴覚室と併設のトイフロア。
ここは、単純な艦娘たちのコミュニケーションの場として活用されている。
「瑞鳳の調子はどうだ?」
「熱もだいぶ引いたみたいです。明日は復帰できるかと」
「そうか」
祥鳳が欲しがったカフェオレの缶を手渡して、自分のブラックを一口。
「今やっている仕事が夕方には片付くから、夕食を持っていくついでに部屋に寄らせてもらうよ」
冴え渡る苦味を感じながら、そう口にした。
「ありがとうございます。瑞鳳も喜びます、きっと」
祥鳳は微笑んで言った。
「祥鳳も風邪には気をつけてな。看病で疲れも溜まると思うし、今日は早く寝なさい」
いつも妹の瑞鳳に目が行きがちだが、彼女も充分幼げな身であることを、提督は知っている。
特に、秋刀魚漁支援任務の時にはそれを強く感じた。
「は、はい。お気遣いありがとうございます」
「何だか父親みたいな台詞だな」
心配性なもんで、気にしないでくれと伝えてみるものの、祥鳳の不思議そうな表情は変わらない。ひょっとしたら、気を悪くさせてしまったのではないかと思った。
(提督が父親かぁ···それはそれで···っ)
「···祥鳳?」
「は、はい!なんでもありません!」
一瞬違う世界に入り込んでいた祥鳳だが、夢から覚めたように向き直った。
「あと、瑞鳳のことなんだが」
提督は少し考えるようにして言った。
「やはり秘書艦の日に合わせて、お祝いに別の日を用意した方がいいか」
「い、いえ。たまたまだった訳ですから···」
その所作が何となく大げさな気がして、祥鳳は苦笑した。
「他の皆さんのローテーションを乱す訳にもいきません」
「そうか?あんな仕事、面倒なだけだと思われてるんだとてっきり」
「まさか。大人気ですよ、取り合いになるくらいです」
「本当か」
何が良いのかわからない提督は、ひたすら疑問を抱くばかりなのであるが、それが祥鳳にはおかしく見えて、静かに笑っていたのだった。
「曙や霞には面倒がられるのだが、他の子はそうなのか」
「あー···」
何となく、どころかはっきりとその光景が、祥鳳の脳裏に浮かんでは再生された。
多方、照れ隠しにそんなことを言ってしまったのだろうが、きっと内心はスキップを踏んでいたに違いない。
「とにかく、一九〇〇には向かうようにするから、祥鳳も休む用意をしててくれ。それで良いか?」
「りょ、了解しました」
小さく敬礼をして、飲み干したブラックをゴミ箱に投げ入れ、提督は去っていった。
見送る背中が小さくなること、彼を見つけた吹雪が頬を膨らませて彼に迫ったところも、きっちり祥鳳は見ていたのだった。
「···んん···」
薄く目を開く。
部屋は薄暗く、夕方であることが感じられた。
(結構寝ちゃってた···)
布団の中で大きく伸びをして、ゆっくりと起き上がろうとする。
「うわ、ベタベタ···」
相当の汗をかいていたらしく、とても気持ち悪い。
立ち上がろうとして、ふと手のひらに何かの感触を感じた。
「え···」
繋いでいた、その手は──
「て、ていとく···!?」
その男のものであった。
「···zzz」
「~っ!」
左手を繋いだまま、布団を被る。
(にゃ、なにこれぇ!?て、提督がなんでここに!?)
「…はっ!ね、寝てしまってたか」
「うひゃああ!?」
跳ね起きた提督に心臓が弾けそうになる瑞鳳。
異性の手を握ったことは勿論、そのまま一緒に眠るなどという経験は、彼女にとってこれ以上ない緊張(興奮していたとは口が裂けても言えない)の原因となっていた。
「お、おお瑞鳳。熱は大丈夫か。少し様子を見ていたんだが、その、なかなか手を放してくれないようだったから」
遠慮がちに提督が目線を向けるのは、瑞鳳が握った彼の左手。
「わひゃああ!ご、ごめんなさい!」
「だ、大丈夫だ。というか、俺ですまないっていうくらいなんだが」
「い、いやいやいや!だ、大丈夫でしゅ!」
胸の前で大慌てで手を振って否定する瑞鳳。この分だと、熱は下がっていそうだ。
「お、おう。熱はもう大丈夫そうか?」
「う、うん。おかげさまで」
「ならよかった。一応、スポーツドリンクとか買っておいたから、しばらくは安静にして身体を休めてくれ」
「あ、ありがとう…」
気遣いが身に染みる。事実、自分の何倍も忙しい彼が他でもなく自分のためにこの場に来てくれていることに、瑞鳳は、失礼と感じながらも、確かな嬉しさを噛みしめていた。
「ああ、それと、今日の件なんだが」
ふと、瑞鳳は我に返り、顔が青白くなった。
(そ、そうだったあああっ!)
「ご、ごめんなさい!」
平身低頭、勢いよく頭を地に打ち付ける瑞鳳。
「そ、そういう訳じゃないんだ。それに体調不良なら仕方ないさ」
「そ、そうなの…?」
拭えぬ罪悪感と、溢れ出る後悔の念。
「ああ。この間から言ってた通り、今日は瑞鳳の誕生日だろう?風邪が治ったら、皆でお祝いしようと思ってさ」
「え…」
彼の発言を一文字一文字、ゆっくり咀嚼し、瑞鳳は先程の自分の思考を恥じた。
貴重な時間を削って、一部下である自分の誕生日を祝ってくれる上司がいるだろうか。
ただ、その純粋な好意にただ浄化されるというか、瑞鳳には、その言葉が何よりも愛おしく感じられた。
「だめか?小沢艦隊の皆も呼ぼうと思っているんだが」
おそらくきっと、彼は、彼一人とでは嫌だろうから、他の面々を呼んだり、豪華なプレゼントだって用意してくれるのだろう。
それは、彼が大切にしている他の艦娘にだって、同じようにしているんだろう。
けれど、本当は。
瑞鳳が本当に欲しかったものは、そういうことではないのだ。
「…」
「瑞鳳?」
「…っ、て、ていとくっ」
今だけは、私が提督を独り占めしているんだ。
彼の好意も、目線も、全部。
そう考えると居てもたってもいられなくなって、瑞鳳は抱きついていた。
「うお、ず、瑞鳳?」
「…」
恥ずかしいことをしている自覚はあったのだが、それを上回るように、溢れ出る気持ちが止まらない。
更に強く、腕に力を込めると、次第に彼の体躯の大きさと感触がはっきりと自分に伝わる。
元々赤かった顔が、ますます熱っぽくなって赤くなる。
「…瑞鳳?」
流石に気になった提督に、瑞鳳は掠れた声で答えた。
「…誕生日プレゼントの、前借り」
「えっ?」
「プレゼントなんて、いらないから…そ、その」
提督の胸元、決心を固める瑞鳳。
「わ、私のトクベツに、なってくだしゃい!」
「…瑞鳳」
目を見張る提督。
瑞鳳はわずかに涙を滲ませ、小さく震えているようだった。
──そんな彼女に微笑んで、提督は耳元に顔を寄せるようにして呟いた。
「ちょっとだけだからな?」
「~~~~っ!」
瞬間、瑞鳳の身体を駆け抜けていく痺れ。
鼓動はピークに達し、もはやその小さな体では受け止めることができなかった。
「はうっ」
「…瑞鳳?」
腕の中、彼女は沸騰して我を失った。
────────────────────────────────────────
「それじゃあ!」
「瑞鳳っ」
「「お誕生日おめでとう!」」
同時にクラッカーが弾け、会場である間宮のテラスは盛り上がった。
「みんなぁ、ありがと~」
「さぁ、ロウソクの炎を消して、瑞鳳」
祥鳳が差し出したケーキには、『82』の数字が。
「ふーっ、ってこの数字って…」
「おめでとう瑞鳳!めでたく82歳ねっ」
瑞鶴がウインクして親指を立てる。
「そ、そんなぁ、私おばあちゃんじゃない!」
握った手を振って、抗議の目線を送る瑞鳳であったが、微笑ましく見守る瑞鶴・翔鶴、千歳に千代田に伊勢や日向にとっては全てが可愛く映るばかりであった。
「まあまあ。進水日からってことで許してくれよ」
「う…提督が言うなら…」
はにかむ提督の笑顔には勝てなかったのか、瑞鳳は顔を赤らめてそっぽを向いた。
「あれあれぇ?瑞鳳ちゃん提督には怒らないのぉ?」
その光景を、にやにや顔で目ざとく伊勢が指摘する。
「無理もない。提督は瑞鳳にとって『とくべつ』だからな」
「にゃっ!?なんで知ってるのぉ!?」
硬直する瑞鳳を尻目に、祥鳳は手を挙げる。
「ごめんね瑞鳳。お姉ちゃん見ちゃった」
「しょ、祥鳳!?」
「まさか瑞鳳ちゃんがあんなに積極的だなんて」
「そうね。普段真面目な子ほどって言うし?」
悪びれもせずにさらりと暴露した姉が憎らしくて仕方ないが、今はそれどころではない。
「あ、あうう…提督」
「その辺にしといてやれ。瑞鳳だって風邪で心が弱ってたんだ。しょうがないさ」
瑞鳳の頭を撫でて、提督は苦笑しながら言った。
またこの男は、変な方向へ誤解していたらしい。
「ま、このくらいにしておきますか。さ、ケーキ食べよケーキ!日向、切り分けてよ」
「ああ。瑞鳳にはイチゴが多く乗ったのをやろう」
「もーっ!たっぷりにしてくれなきゃ許さないよぉ!」
誕生日会の場に、どっと笑いが起こる。
その場にいた皆が、混じりっけなしの笑顔で笑っている。
もちろん、提督も。
「ほれ」
「ん、俺か?」
「そうではない。瑞鳳に食べさせてやってくれ」
日向がサムズアップして言う。
「ち、ちょお!?」
焦る瑞鳳の肩を、祥鳳がしっかりと押さえる。
「そら、男なら潔く行け」
「ほ、本当に良いのか?」
「提督さん、ズバッとやっちゃって!」
「ほら、瑞鳳口開けて、あーんって」
「ふええええぇ!」
なんだかんだ波乱はあったが、このように瑞鳳の誕生日会はしっかり行われた。
笑顔が溢れ(本人は心臓が飛び出そうだったと語る)、皆が彼女の誕生を祝っていた。
誕生日。
それは自分が今、この場所に存在することを感じられる日。
そして、大切な人々とのつながりを、また強く、大切にしようと思える日。
今年の誕生日が、瑞鳳の記憶に強く残ったのは言うまでもなく。
彼女は気持ちを新たに、再び舞鶴での日々を送るのであった。
最近、めでたく瑞鳳改二乙がレベル99になりました。
うちは単婚主義なのでケッコンはしない予定ですが、射程長のせいか、MVPをどんどん取っているところを見るとなかなかもったいなく感じますね。。。
海外艦、もし追加するなら初登場は
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ドイツ艦
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イタリア艦
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ロシア艦
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アメリカ艦
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イギリス艦