舞鶴第一鎮守府の日常   作:瀬田

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第四十話 作戦前夜

夜が明けた。

朝日は鎮守府全体を照らし出す。

 

「…ふあぁ」

「あっ、起きた?おはよ」

「んん…おはよっぽい」

 

白露型の部屋で、夕立は目をこすって、隣で布団を畳んでいた姉の村雨に挨拶をする。

 

「ようやく明日ね」

「っぽい…ちょっと楽しみっぽい?」

「うーん…本当は楽しみって言っちゃいけないんだけど…そうなのかも」

 

夕立は、起きぬけながら姉の纏う雰囲気がいつもと違うことを感じ取っていた。

流石は姉妹艦というべきか、時雨、夕立に続く形で村雨も白露も武闘(夜戦)派艦娘であることを忘れてはならない。

演習でこの鎮守府と当たった時は、航空ロングレンジで損傷を与えて夜戦には持ち込まないのが、他鎮守府の常套手段となりつつある。が、それも対空番長の摩耶や秋月によって悉く墜とされてしまうのだ。

 

「とりあえず、朝ご飯にしない?もう白露姉さんも起きてるよ」

「ふふん。朝四時起き。いっちばーん」

「ふふ、暑苦しいよ」

 

窓を開けて苦笑する時雨。彼女もまた、翌日の作戦に参加予定だ。

 

「ほらー!みんな起きて!」

「んが…っ!?な、なんだァ!?地震かァ!?」

「ねむい…ぐぅ」

 

涼風や山風が五月雨や海風に揺すられ、寝ぼけ眼を覚ましている。

作戦に備えた訓練は熾烈を極めたため、睡眠時間は増す一方だ。

 

「今日は総員起こしがないけど…まあ習慣化した方がいいよね。明日も大体この時間だし」

「うん。多分村雨と春雨、海風たちはその時間に出撃だろうからね」

 

白露型のお姉さん、白露と時雨がそんな言葉を交わしている。

作戦開始の一週間ほど前になると、戦闘訓練の時間が減り、代わりに作戦計画概要をとことん頭に叩き込む。その上で作戦時間帯に体を慣らす必要があるのだ。

頭も体もフル稼働させた白露型姉妹にとって、朝の五時はまだまだ眠いのであった。

 

「ひゃあ!?江風、また私の布団に入ってるんですか!?」

「んあー、眠いぜ姉貴…」

 

江風はいつの間にか姉の布団に潜航していたようだ。

 

「…ん、あたしも」

「や、山風まで!?ひゃっ!?も、もう!」

「…姉妹仲が良いのは何よりだけど、もう行くよ」

「そうそう。ほれ、こちょこちょこちょ~」

「んひぅ!?や、やめろォ!う、うひひひひ!」

 

白露が江風の腋に手を突っ込んで起こしている。

時雨が満面の笑みを浮かべているのを見て、同様の被害を咄嗟に察知した山風は布団から脱出した。

 

「さあ!まずは朝ごはんだよ!」

 

艦娘たちの朝は、ちょっと特別な形で始まった。

 

 

 

 

 

食堂の前、榛名は、廊下から駆けてくる比叡に手を振った。

 

「お姉さま、こっちです!金剛お姉さまも霧島も待ってますよ!」

「ひええ、ご、ごめんなさーい!」

 

乱れる髪もほどほどに、比叡は食堂に向かって走る。

あと五分、を三回ほど続けられた霧島が呆れて、置いて行ってしまったらしい。

 

「皆さんお待ちかねですよ」

「はぁーっ、はあ、すみませんお姉さま」

「Oh!比叡が来たヨ、霧島」

「全く…遅すぎます」

「あ、あはは…ごめん」

 

頭の後ろに手をやって比叡は謝る。

彼女の妹は、艦隊の頭脳などと呼ばれている割には割と脳筋なところがある。それだけに、怒らせてはならないということを知っていた。

 

「提督はどうされるんですか?」

「そうそう。さっき何やら用事があったとかで遅れるッテ…」

 

金剛がそれを思い出す前に、提督が現れる。

 

「あーすまん、ちょっと遅れたか」

「あ、提督。丁度比叡お姉さまも寝坊で遅れていましたので、大丈夫ですよ」

「うぐっ…お、おはようございます」

「そうか。よし、それじゃあ頂こう」

 

そうして手を合わせる前に、隣の金剛が目を輝かせていることに気付く。

 

「Good morning!ところで提督、どうしてApronをしてるノ?」

「あっ、本当ですね。もしかして」

「ああ。作戦前日だからな。間宮と伊良湖、それに大鯨が戦闘糧食の準備と調整をしてくれているらしいから、鳳翔の手伝いで朝ごはんを作ってたんだ」

「提督がですか!?」

 

霧島が驚いた顔をしている。金剛と比叡も続いて目を見開いた。

 

「意外か?でも安心してくれ、多少は料理の経験があってな」

「提督はお料理がお上手なんです!お弁当、美味しかったですし」

 

榛名がやや興奮気味に、そして自慢げに話す。

先の鎮守府総出での慰安旅行では、彼女が見事提督の隣の席を勝ち取り、お弁当を交換することができたのだった。

 

「mmm…榛名だけずるいデース!」

「まあ待て金剛。そんなに欲しいんだったら、また今度作るよ」

「そ、その時は私も…!」

 

嫉妬の炎を燃え上がらせる金剛を宥める。

向かいの席では、比叡がおこぼれにあずかろうとしていたのだった。

 

「榛名もお願いします!」

「榛名はもう食べたんでショ!?」

「わ、分かった分かった。とりあえず食べよう」

「そうですよ。お姉さま方は朝から元気良すぎです…では提督」

「ああ。それじゃ」

「「いただきます!」」

 

 

 

朝食後、提督は秘書艦の長門を伴って工廠にいた。

作戦で使う装備と妖精たちのコンディションを一通り確認するためだ。

 

「おはよう、明石」

「あっ、おはようございます提督、長門さん。装備の点検は昨日までに済ませていますよ」

「ありがとう。明日は海域中部までの制圧に留めるから、大型艦の出撃は少ないと思う。陸上機の方は。搭乗員妖精さんたちが空母寮で会議中だ。もうすぐ戻ってくるだろうから、編成を確認しておいてくれ」

「了解です!夕張ちゃんとも確認しておきますね」

「ああ。頼むよ」

 

そう言って、部屋の奥へ進んでいく。

長門が兵装のメンテナンスをする妖精を見て呟いた。

 

「ふむ…何だか士気が高揚しているようだな」

「一応休暇をな。働きづめは戦果にも影響すると思って」

 

提督を見つけて、大騒ぎで駆け寄ってくる妖精たち。

微笑ましいその光景に、厳格な性分の長門も頬を緩めたようだった。

 

「人間も艦娘も妖精も、そう変わらないのだな」

「ああ。というか、妖精さんの方が軍人よりずっと人間らしいよ」

 

肩へ登って胸を張る妖精たち。

羨ましそうに見つめる一人の妖精を掌上へと誘って、提督は苦笑したのだった。

そんな彼の表情を見て、長門は少し不安を感じていた。

 

「…提督も、休めているか」

「ぼちぼちだな。今日はできる限りの作業を済ませたら大淀と交替するよ」

「うむ…。ならば、いいんだ」

 

流石の提督も、作戦時とあっては体調管理に努めるようだと判って、安心する。

日頃から鉄仮面のイメージを抱かれていることの多い彼女だが、なんのことはない、普通の女性とも同じように美容に気を遣ったりすることもあるし、今のように誰かを心配することもある。

縫いぐるみが好きなのは横須賀の長門だ。

 

「心配かけてすまないな。だが、作戦は任せてくれ。必ず、誰も欠けることなく勝利しよう」

「…その言葉が聞けるだけで、有り難い。私も全力で艦隊を勝利へ導く」

 

主砲艤装の上にいた妖精が、長門の肩口へ飛び乗ってサムアップする。

二人は顔を見合わせて笑ったのだった。

 

 

 

「なにやってとるん、磯風?」

「…ああ、黒潮姉さん」

 

隣部屋の壁を(武蔵が)ぶち抜いて作った陽炎型の部屋。

窓際で磯風は一人、夕暮れの水平線を見つめていた。

 

「改装はもう終わったのか」

「ついさっき。これでウチも改二や!」

 

後期型駆逐艦の設計図を完成させるには多大なコストがかかるため、大本営の方も開発に対して慎重になる。

それでも、一度実装されてしまえば規定練度を超えることは容易い(主に川内型教官のせいで)ので、古参の黒潮はすぐに改装となった。

 

「羨ましいぞ。私は二次改装といっても、臨時改装だからな」

「まあ、その辺はお姉ちゃんやから堪忍な?…っというより磯風、まだお風呂入ってないん?今日の就寝は早いから、夕食前に済ませたほうがええよ」

「…ああ」

「どうしたん?自作料理でお腹壊したとか?」

「ちっ、違う!」

 

そう言って茶化した黒潮は悪戯っぽく笑みを浮かべる。

比叡よろしく料理の腕は絶望的なので、邂逅から日の浅い提督が床に臥せったことは完全に黒歴史と化していた。

ちなみに比叡の不味さとは、また違うらしい。

 

「あっはは。冗談やって。んじゃーなんや?」

「…それは」

 

口数の少なくなった妹を見て、黒潮は何かを察する。

こんなタイミングなのだから、明日からの作戦が関わっていることは確かだ。

 

「司令はんから聞いたで。最終海域やろ?」

「うっ」

 

黒潮がそれとなく(尋問に近い)提督から聞いたところによれば、磯風など、史実に基づいた艦娘の攻撃力が異常に高くなっている可能性が指摘されているという。

萩風や嵐は舞鶴には未着任なので、最大火力が期待できるのは彼女のみとなり、敵侵攻艦隊の迎撃部隊本隊に抜擢されたという。

 

「お姉ちゃんには何でもお見通しや!」

「…全く、敵わないな」

 

苦笑した磯風は、ぽつり、ぽつりと語りだす。

 

「…不安なんだ。私は主力部隊の中では練度が高い方ではない。それこそ姉さんや陽炎姉さんが担うべき大役を、私は任されている」

「何言うてんねん。磯風やから…あんたやからこそ任されたんやで。確かに、『磯風』としての活躍を期待されてる部分もあうるのは確かなのは認めるわ。でも、司令はんは絶対にそれだけで出撃させたりせえへん」

「っ…そう、なのだろうか」

「そうや。ウチが保証したる。それとも、あんたは信じられへんか?」

「ま、まさか。黒潮姉さんの言うことだ」

「ウチやない。司令はんのことや」

「…そうだな」

 

目を瞑って、あの人の姿を思い浮かべる。

執務を行う穏やかな表情。指揮を執る真剣で厳格な表情。

明らかに失敗作である手料理を完食し、苦悶をおくびにも出さず真面目に料理の評価をする彼の表情。

彼を信じようと決めたのは、他でもない自分ではなかったか。

 

これは、彼への信頼を証明するための戦いだ。

自分を信じてくれた彼に報いるための戦いだ。

 

(私は…何を迷っていたんだ)

 

意を決して、俯いていた顔を上げる。

握られた拳は固く、そして瞳は燃えていたのだった。

 

「…大丈夫そうやな」

「ああ。黒潮姉さんと…司令の、お陰だ」

 

紅く火照った顔を自覚して、照れ笑いする磯風。

揺らぐことのない覚悟を胸に秘め、彼女は海を駆けていく。

 

 

 

 

 

「よし…っと!」

 

鹿島は、満足げな表情で筆を置いた。

A4の紙束をトントンと机で揃えて、クリップで挟む。

昨日と今日の演習で行われた『最終練度調整表』が全艦娘分書き終わった。

 

「あら、終わったの?」

「うん!香取姉もチェックしてくれてありがとね!行ってきます!」

「あまり走ると転ぶわよ。行ってらっしゃい」

 

スキップしそうな勢いで機嫌よく部屋を飛び出していった妹に苦笑する。

初めて自分が責任を持って完成させた仕事だけに、嬉しさもひとしおなのだろう。

 

(…まあ、本命はおそらく提督でしょうけど、ね)

 

そんな姉の思惑などいざ知らず、一目散に執務室を目指すのであった。

 

「提督、失礼します」

「おう。鹿島か…そうだ、調整表だな」

「はいっ!完成しました!」

 

自信満々な表情で敬礼を見せる鹿島。

どうやら調整表が完成したらしいと提出された紙束を見る。

 

「ふむ。じゃあ少し確認させてもらおう。参加練度基準に届かなかった艦娘はいたか?」

「いえ。前回の第二次欧州支援作戦と同じく、いなかったようです」

 

練度不足による轟沈を防ぐため、相当の練度がないと作戦には参加できない。

新米鎮守府の司令官たちは、徹底した支援作戦に駆り出されるのがオチだ。

 

「よし、ちょっと待っててくれ。一旦部屋に戻っても良いぞ」

「いえっ!お待ちしてます!」

 

目が輝いている。期待の表情だ。

提督は苦笑して席を立ち上がった。

 

「じゃあコーヒーでも淹れよう。そこの机で待っててくれ」

「あっ、私が…」

「さっき磯風が来てたからな、用意は出来てるんだ。…あ、紅茶の方が良かったか」

「あっ、ならアールグレイを…って!自分でやりますぅ!」

 

わたわたする鹿島を尻目に、提督は調整表に目を通しつつ紅茶を入れるのであった。

 

 

 

 

 

「…うん、良く出来てる」

 

そう言って提督が調整表から目を離したのは、わずか十五分後のことだった。

それでも緊張からかそれが長く感じられたようで、彼を真剣な眼差しで見つめていた鹿島は、その言葉を聞いて跳び上がった。

 

「ほ、本当ですか!?」

「あ、ああ。書式についてはルール通り修正すれば問題ない。中身は充分だと思う」

「や…」

「や?」

「やったあああ!」

 

変わらず跳びはね続ける鹿島に、提督は思わず苦笑する。

しかしながら、この仕事にそれだけのやりがいを感じてくれていたということだろう。それが嬉しくもあった。

 

「特に映像観察と聞き取りがしっかりしているな。各艦の行動の目的がすっきり見やすくなっているのも良い。これを見れば、作戦時の目的意識の重要性が皆に伝わるだろう」

「えへへ。香取姉からアドバイスをもらったんです。『艦隊行動で必要なことを整理できるような表を作りなさい』って」

「なるほど。着眼点が鋭いな。流石は香取だ」

「…むぅ」

「も、もちろんそれを自分なりに判断して表を作った鹿島も素晴らしい」

 

慌ててフォローを入れつつ、再び表に目を向ける。

色使いも多すぎず少なすぎず、非常に視覚的理解が進む。

思考のプロセスを段階ごとにはっきりさせているため、その筋道が手に取るように分かる。

また、艦娘たちの報告書に基づいて反省ポイントを用意してあるため、指揮者が彼女らへ指示を出すときに参考になった。

艦娘にも提督にも分かりやすい報告書としてまとまっている。

 

「お疲れ。研修があったとはいえ、ここまで仕上げてくるとは思わなかったよ。これからもこの質を維持しながら、香取たちのアドバイスも取り入れつつ頑張ってくれ」

「っ…はい!」

 

鹿島は余程嬉しかったのか、感動のあまり半泣きである。

少し驚いたが、それほどまでに懸命に仕事に向き合ってくれたのだろう。提督としても胸が熱くなった。

 

「明日の作戦でも、これを使わせてもらう。鹿島のやってきたことが活きることを信じているよ」

「あ、ありがとうございます…っ!」

「うん。明日の出撃予定はないが、対潜哨戒で力を借りることもある可能性がある。配備済みの対潜装備をチェックしておいてくれ」

「りょ、了解です!失礼いたしました!」

 

涙を拭って姿勢良く敬礼を見せる鹿島。

提督は返礼し、退室しようとする彼女を呼び止めた。

 

「少し待ってくれ。渡したいものがある」

「え!?あ、はいっ」

 

何を期待したのか、固まって直立不動の鹿島に、提督は紙袋を渡した。

 

「余っていてな。香取と食べてくれ」

「へ…これって」

「間宮羊羮だ。大本営に行った時に多目に貰ってな」

「あ、ありがとうございます」

 

何とも言えない鹿島の表情。

 

「赤城辺りに取られる前に配らないとな。じゃあ、お疲れ」

「は、はいっ。お疲れさまです!」

 

トリップから正気に戻った鹿島は赤面する。

ひょっとしたら彼の懐から小箱が出てくるかも知れなかったのだ。どうかご容赦願いたい。

 

(わ、私ったらあんな妄想を…)

 

式は洋装がいいな、とまで想像を広げていた彼女は、今はただ嬉しさと恥ずかしさに襲われながら廊下をひた走るしかないのだった。

 

「う、うわあああん!」

「は、走ると危ないぞー…」

 

突如狂奔した練習巡洋艦に驚きつつも声をかけて、訳もわからず提督は執務室の扉を閉めた。

 

 

――――――――――――――――――――――――――

 

 

水平線の向こうに太陽の光は届かない。

ただ、薄ら明るい紺の空が広がっている。

 

「…第一艦隊、揃ったか」

「はい!第一艦隊、中部ソロモン輸送艦隊。旗艦『響』『睦月』『如月』『江風』『村雨』、出撃準備完了しています」

「よし…」

 

提督は外套を羽織り、冬空の下、秘書艦の吹雪を伴い、桟橋を伝って限界まで海に浮かぶ彼女らに近づいた。

 

「輸送作戦部隊の諸君、聞こえるか」

『はいっ!』

 

インカムの向こう側、彼女らの決意を秘めた声が伝わってくる。

練度も充分、そして熱意は溢れている。

 

「これよりソロモンにおける諸作戦を開始する。その先陣が、舞鶴の精鋭駆逐隊である君たちだ。空母でもなく、戦艦でもない。この輸送作戦こそ、この戦いを完遂する上で最重要と考えてもらいたい」

『…』

「戦闘に際し、決して臆するな。しかし、命は一つしかない。この言葉の意味を、深く噛み締めて欲しい」

「君たちには還る場所がある…俺は提督として、全員の生還だけを求める」

 

一度言葉を切る提督。

気がつけば、隣の吹雪だけではなく、多くの艦娘たちが集まり、遠くの彼女らを見つめていた。

 

「…作戦開始まで、残り二分」

 

吹雪が無電にて告げる。

 

「各艦、天祐を確信し、出撃せよ。暁の水平線に、勝利を」

『了解』

 

艤装の起動音が静かな海に響く。

静寂は破られ、緊張が高まっていくのが分かる。

提督と吹雪は、目配せをしてインカムを耳に押し当てた。

 

「残り一分」

「各艦抜錨準備」

「抜錨準備始め!」

『了解、抜錨準備始め。…抜錨準備、完了しました』

「司令官、抜錨準備完了しました。残り十五秒」

 

吹雪の言葉を聞き終わらないうち、提督はインカムのマイクを切る。

ただ、静かに腹の底へ力を溜める。

 

「残り五秒…、三、二、一、今」

「作戦開始!各艦抜錨せよッ!」

「各艦抜錨!」

『了解っ!』

 

海の向こうまで轟くような大声で叫び、振り上げた腕を、垂直に大きく振り下ろす。

雷鳴のような叫びに乗せて、情熱の電流が艦娘に伝わっていく。

彼女らの瞳には、何の迷いもなかった。

姿を見せた朝日の光を受け、瞳は燃えている。

 

提督は静かに祈る。

海の向こうへ行く、彼女らの無事を。

 

「…全軍に告ぐ。貴艦らの生還を祈る」

 

旭日の輝きを受け、敬礼を映した影が、すっと海へ伸びた。

 




気がつけばもう四十話。
ここまで読んでくださった方々、本当にありがとうございます。

これからも、どうかよろしくお願い致します。

海外艦、もし追加するなら初登場は

  • ドイツ艦
  • イタリア艦
  • ロシア艦
  • アメリカ艦
  • イギリス艦
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