舞鶴第一鎮守府の日常 作:瀬田
艦娘の背は完全に主観ですのでご了承ください。
「おおおっ!」
二航戦の二人は、新たな後輩の姿に感嘆の声を漏らした。
工廠から出てきた二人は、新しい体に戸惑いつつも、目が合うと照れくさそうに笑った。
「すっごーい!てかカタパルトながっ!?」
「なんだか二人共凛々しいというか…しっかりしたねぇ」
飛龍は腕を組んで、うんうんと頷く。
蒼龍は翔鶴のカタパルトに興味津々なようで、ペタペタとその材質やらを触って確認している。
「二人とも、元々装甲化を決定していたからな。改二を飛ばしてしまったが、その分成長したのがはっきり分かる」
「そうだねぇ。もう練度も90超えちゃったし」
「私たちも負けてられないね、飛龍」
「そ、そんな。先輩方に比べれば私なんて…」
謙遜して、両手を振って否定しようとする翔鶴。
そんな彼女の肩を掴んで、瑞鶴は言う。
「私たちだって、いつまでも後輩のままじゃいられないからねっ!」
「その意気だ。最近は雲龍型の着任も報告されている。二人も先輩になる日が近いぞ」
「そ、そうなのですか…?」
提督の言葉に少し驚いた表情をする翔鶴型姉妹。だが、すぐにそれを改めて、決意を固める。
「…よっし、私たちも頑張ろうね、翔鶴姉」
「ええ。これからは先輩方を支えられるように頑張りましょう」
「ううっ、泣かせるねぇ」
感動のあまり涙を堪える仕草をする飛龍に、思わず笑いが込み上げる一同。
そんな彼女らを見つめていた艦娘が、もう二人。
「翔鶴、瑞鶴…!」
「あっ、先輩方…ってええ!?」
「ちょ、ちょっと赤城さんに加賀さん!?」
赤と青、対の色をした袴を着た一航戦の二人は、もはやとどまることを知らないまでに流れる涙を隠さずにやってきた。
驚愕と困惑のあまり口が塞がらない二航戦と五航戦。
「大丈夫か、二人とも」
「ええ…しかし、教え子がこんなに立派になった姿を見ると、感動のあまりですね…ううっ」
「…」
「か、加賀さんは何もしゃべらないの?」
「もはや、言葉は要りません…」
その場に泣き崩れる赤城と、直立不動で涙を流し続ける加賀。
嬉しいような困ったような、なんとも言えない雰囲気が工廠前の雰囲気を支配していた。
「…俺はお邪魔のようだ。また今度様子を見に来るよ」
「あっ、ちょっと提督さん!?」
「こんな収拾のつかない現場を置いていかないでぇぇ!」
ダッシュでその場を離れる提督。
今となっては鎮守府随一の調停役はいなくなり、残された正規空母四人の困惑は深まるばかりだ。
「…しょうがない。とりあえず泣き止んでください、二人とも」
「そうそう。このままだと翔鶴たち、困っちゃうよ?」
自分たちの使命だと観念したのか、飛龍は赤城、蒼龍は加賀をそれぞれ泣き止ませる。
これではどちらが先輩かなど分かったものではない。
「ううう…っ!」
「泣き声なのそれ…とりあえずハンカチで涙拭いてください」
「加賀さんもっ!黙ったまま泣かないで」
「あ、ありがとうございます」
「に、二航戦の子たちも、こんなに優しい子になって…!」
「ちょっ!今度は私たちぃ!?」
しばらく泣き止まない一航戦の面々に、五航戦はただ苦笑することしかできないのであった。
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「ようやく落ち着いたね…」
「す、すみません。あまりの嬉しさに激情の奔流が抑えきれなくてですね」
「…?」
「赤城さん、あまり難しい言葉は…。瑞鶴が置いてけぼりです」
「なっ!?わ、分かってますよっ」
「そうそう。蒼龍のことも考えて」
「ちょっ!」
空母部隊は五航戦姉妹の改二(甲)祝いに、間宮を訪れていた。
今日は調理場に鳳翔も参戦し、涙ながらにその腕を振るうという。
「と、とにかく、そんなに喜んでいただけて私たちも幸せです」
「翔鶴は88で、瑞鶴に至っては90の高練度だもんねぇ。そりゃー育てた本人の感動もひとしおって訳かあ」
「育てたなんてとんでもないですよ。二人は二人の力で、努力を続け、この改装を勝ち取ったのです」
「そうね。元々素質もある子たちでしたし、こうなることは十分わかっていたとはいえ…ここまで成長するまでには、数々の苦しい思いを乗り越えてきたに違いありません」
「そ、そんな」
「そうですね…武勲艦としての輝きがあります。立派だわ、二人とも」
「え、えへへ…」
「せ、先輩方」
まさかここまで褒めちぎられると思っていなかったためか、次第に顔を赤く染める鶴姉妹。
翔鶴などは耳まで赤くして俯いている。
「…加賀さんが饒舌だね」
「ね。もう一週間分はしゃべっちゃったかも」
「ふふふ…」
普段には見られない加賀の姿に目を丸くする二航戦と、笑いを堪えるあまり小さく震えている赤城。
「心外です」
そう言って不満そうに半目で睨む加賀もまた、彼女たちにとっては珍しい光景なのであった。
「ごめんなさい加賀さん…珍しいものですから」
「そうそう」
「あはは…というか、今気づいたけど翔鶴も瑞鶴も、なんだか背が高くなった感じするよね」
ふと、蒼龍がそんなことを口にした。
途端に視線が絶賛紅潮中の五航戦姉妹に集まる。
「そうですね。まさか座高だけ伸びたわけではないでしょうし」
「いいなぁ。脚長くて…」
「いいじゃん、蒼龍は胸あるし」
「ド直球かよ!?…いや、けど空母のみんなは割と…はっ!?」
背筋に這う寒気に目を見開く蒼龍。
正面の席に若干一名、さらに仕切りを隔てた向こうに約二名の殺気を感じる。
「…」
「い、いやほら!それも個性の一つだから…えっとその」
「一長一短?」
「そうそれ!」
「ということは…胸がないのが個性ですか?」
「ちょ、赤城さんそんな身も蓋もない…ず、瑞鶴、私は瑞鶴も充分魅力的だと思うわっ」
「うええええん!翔鶴姉が憐みの目線で見てくるぅ!」
ドストレートに放たれた言葉の刃が刺さり号泣する瑞鶴。
隔たりの向こう側では、血涙を流す瑞鳳と龍驤がいた。
「加賀さん慰めてえええ!」
「ちょ、瑞鶴…って高い!」
オロオロしていると、突然の瑞鶴が縋りついてきて動揺した加賀であったが、間もなく彼女の身長が予想以上だったことがそれを助長した。
「ほ、ほんとだ。加賀さんに覆いかぶさってるじゃん」
「覆い被さるは言い過ぎだけど…ってことは、翔鶴も?」
「私も加賀さんと同じくらいですから。翔鶴さん、ちょっといいですか?」
「あっ、はい」
席を立った赤城の横に並ぶ翔鶴。
やはり加賀と瑞鶴の身長差と同じように、翔鶴の身長は赤城より頭一つ分高いようだ。
「大きくなったね翔鶴も」
「やっぱりIF改装だからかな?
「そうですね。なんだか新鮮です」
照れからか小さく笑う翔鶴。
そんな彼女を見上げつつ、赤城は再び感慨の涙を流す。
「こ、こんなに大きくなって…!」
「ちょっ!?あ、赤城さんまたですか!?」
「あーあー…」
「うえええええん!よく考えれば加賀さんも結構あったぁ!」
「ず、瑞鶴、抱きすくめるのは良いのだけど…息が…」
涙もろすぎる赤城にわたわたと慌てる翔鶴と、絶望のあまり泣き叫ぶ瑞鶴に強く抱きしめられすぎて窒息寸前の加賀。
もはや収拾は不可能であった。
「…なにこれ」
「艦これ」
理性を脱し、瞳からハイライトを消した二航戦。
騒ぎを聞いて駆け付けた鳳翔に一同が絞られるのは、また別のお話。
「うんしょ…っと!」
皐月は、背伸びをして身長計の測定部を移動させる。
ゆっくりと降ろされたそれは、もふっと音を立てるように三日月の頭部に着地した。
「三日月は…133センチ、ってとこかな」
「わあー、三日月ちゃん、背が高いんだねぇ」
「伸びたわけではありませんけどね。でも、第二次改装に期待です」
医務室には執務室に連結した提督私室や給湯室のように、更なる小部屋が続いていて、艦娘の身体検査はそこで行われたりする。
もっとも、改装以外で見た目の変わらない艦娘の検査は、通常は滅多に行われることはないのだが。
因みに、ただいまの時間帯には某軽空母たちが激しい頭痛を訴えて寝込んでいる。
「僕も文月も改二が近いからね。身長伸びるかなって話してたら、提督が買ってくれたんだ」
だからこそ、皐月や艦娘たちが見慣れないものに関心を持つのも必然といえよう。
そのあたりの事情を察した提督は、迷わず購入を決意したという。
「これって、士官学校にあったのと同じですよね。個人で買えるものだったんですか」
「司令官にありがとーって言わなくちゃ」
笑顔いっぱいの文月に癒されつつ、三日月は皐月と場所を変わった。
「んっ…皐月は135センチですね」
「わあ、皐月ちゃんもすごーい」
「ふふん。お姉ちゃんだからね」
瞳を輝かせる文月に胸を張る皐月。ほとんどどんぐりの背比べではあるが、三日月は苦笑しつつ黙っていた。
「文月は130センチだったよね」
「もっと背が高くなりたいなぁ」
「大和さんとか長門さん、かっこいいもんね」
腕組みをして、うんうんと頷く皐月。
彼女らにとって、戦場で勇ましく活躍する大和ら戦艦たちの存在は、憧れにも近いものになっていたのだった。
「ふふっ…。でも、この前大和さんがおっしゃってましたよ。“私たちが戦場で満足に戦えるのは、駆逐艦や軽巡洋艦の皆が遠征をこなしてくれているお陰です”って」
「あー。そういえば、あの時三日月って大和さんに頭撫でてもらってたよね」
「わあ、うらやましいなー」
恐らく大和が撫でたであろう三日月の頭を、文月が撫でる。
「…文月?」
「えへへ」
文月がしようとしていることは分かっているが、なんとなく照れくさくなって三日月は訊いたのだった。
「三日月ちゃんも、いつも頑張ってるよねぇ。お疲れさま」
「…文月もです」
文月は少し背伸びをして、三日月は少し屈むように。
お互いがお互いの色の違う髪を撫でる。
「…んん?」
一人、首を傾げる皐月は、訳も分からずに頭を傾げたままであった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「おお~!」
「遂に、なのだな」
工廠前では、文月と皐月を除いた睦月型の九名が集結していた。
「ああ。睦月と如月に続いて二人も改二実装だ。…よし、もう出られるか?」
「はあい!」
「皐月、出るよっ!」
勢いよく扉を開いて出てきた二人は、少し背の伸びた出で立ちであった。
「おおっ!なんかかっこいいにゃしい」
「私たちの制服と少し似てるわね?」
はじめに二人に駆け寄った長女と次女は、妹たちの
他の妹たちの見せる羨望と尊敬の眼差しとはまた違って見える。
「でも、お月さまのバッジは健在だね」
「ふむ。私たちも後に続かねばな」
「おめでとー。…ふあぁ」
長月や菊月は彼女ららしく、至って真面目である。
望月も、興味なさげではあるが、目線はしっかりと二人の艤装に注がれていた。
「っと、ほらほら弥生、早くするぴょん」
「う、卯月も持ってよ」
「おお、来たな」
弥生と卯月がなにやら持ってきたようで、姉妹と提督は一斉に後ろを振り向いた。
「皐月、文月」
「改二おめでとうっぴょん!」
「ええっ!?それって…」
「もしかして、プレゼントぉ?」
他の姉妹を掻き分けて駆け寄った皐月たち。
弥生と卯月、二人で運んで丁度良いサイズのその大きな箱は、真っ赤なリボンで覆われていた。
「…うん、そう。皆で用意したの」
「さささ、今すぐ開けるっぴょん!」
「おおお…ありがとねみんな!」
「すごーい。ありがとねえ」
嬉々として、するするとリボンを解いていく。
「よおし、じゃ、開けよっか文月」
「うん!せえの…」
二人が勢いよくプレゼント箱の蓋を開ける、まさにその刹那ーー
「「うわあ!?」」
箱からは、卯月似の妖精さんが飛び出してきた。
驚いてのけぞる二人。
「ぷっぷくぷーっ!ドッキリ大成功だぴょん!」
「…ごめんね、二人とも」
してやったりのどや顔を披露する卯月と対照的な、懺悔の表情を浮かべる弥生。
呆気に取られる文月と皐月。
「も~!びっくりしたあ」
「これはどういうことかなあ…う・づ・き?」
「ガチギレにゃしい」
「あら~」
そんな雰囲気も束の間、皐月が卯月の方へにじり寄っていく。
本当のプレゼント箱を用意していた睦月と如月は、傍観に徹することを決めたのだった。
「な、なんで弥生はお咎めなしぴょん!?」
「どうせ卯月が巻き込んだんだろぉ!?」
そのうち大脱走劇を開始させた卯月を追うように、皐月が走り出す。
二人の描く周回コースの中心で、弥生がオロオロとしている。
「あの…その…」
「もぉ、弥生ちゃん困ってるよぉ」
「…睦月、長女としてこの鬼ごっこを止めてくれ」
「対価としてマカロン十個を要求するにゃしい。ピ〇ール・〇ルメの」
「手厳しいが…それも致し方ないか」
ここぞとばかりに足元を見てくる睦月のしたたかさを感じつつ、ここは仕方ないと嘆息する提督。
ちなみに、プレゼント箱の中身はお手製ホールケーキと、夜でも光る、工廠特製睦月型バッジ。
後の輸送作戦では、蓄光塗料を光らせた睦月型が夜戦で大活躍するのであった。
作者の背は170と少しある程度なので、大和や武蔵なんかには抜かされてそうですごい劣等感を覚える今日この頃です。
海外艦、もし追加するなら初登場は
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