舞鶴第一鎮守府の日常   作:瀬田

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UA30000、本当にありがとうございます。
あと、更新遅れてごめんなさい。隔週水曜枠は厳しいかもです…。


第四十五話 銀雪と恋

「うわあ、すごい雪」

 

呉で行われた会議の帰途、舞鶴へとひた走る鈍行列車の中、由良はそう呟いた。

 

「山中だからな。峠越えか」

「今どの辺りかしら…っていうか、段々速度下がってる?」

 

窓辺に眺める景色がゆっくり流れていく。

提督と由良がこの鈍行に乗っているのは、できるだけ秘匿して移動せよという本部の命からであった。

 

というのは恐らく口実で、この後執務ではないことを知っていて、この際だから新幹線ではなく鈍行で移動させ、経費削減しようという見え透いた魂胆が窺えるのだが…。

 

「ん?確かにそうだな」

 

周囲の乗客はまばらで、この列車がたとえ鈍行だということを差し引いても異常な乗客の少なさであった。

 

「積雪中の上り坂にしても不思議なくらいだ…」

 

窓から顔を出すわけにも行かないので、張り付くようにして雪景色を眺める由良。

既視感を覚える光景に苦笑して、同じように窓を覗く。

 

「あっ…」

「ん、相当だな。これは納得だ」

「え、ええ」

 

不意に近づく両者の距離に、思わずぱっと顔を赤らめて目を逸らした由良には気付かず、提督は窓の外に広がる銀世界を眺め続ける。

一方由良はと言えば「んもうっ…」と一人抗議の目線を向けていたが、届く由もなかった。

 

「…おいおい、相当酷くなってきたな。日本海側に出た途端これか」

 

次第に強まる降雪はまさに怒涛と言わんばかり。

豪雪に子供心を喜ばせるのもたかが一週間の内で、提督や初期着任の艦娘たちは、冬場の雪がもたらす雪かきの圧倒的労働苦を知っているので、ただ嘆息するばかりである。

…という風にうんざりしていたのも束の間、車内のスピーカーから、車掌のものと思われる声が響いてくる。

 

『…お客様にご案内です。只今豪雪の影響の為、次駅からの運転見合わせが決定致しました。お急ぎのところご迷惑をおかけしまして、大変申し訳ございません――』

 

「…え?」

「と、止まったってことか」

 

全車両を合わせても一桁ほどの乗客が悲報にざわめく。

豪雪は鎮守府外でも害を及ぼしてくるらしく、次駅以降の運行が取り止められた。

隣に座る由良も他の乗客と同様の反応を見せていた。

 

「ど、どうしよ湊」

「こら…湊はせめて鎮守府内にしてくれ。仮にも軍装なんだから」

 

素が出ると名前で呼んでくるのは昔からの癖だ。鎮守府では呼ばれることもなかったので、なんだかくすぐったくなってしまう。

とはいえ、由良の着任以降妙に名前で呼んでくる艦娘が増えたように思う。

 

「あ、ごめん…なさい。でも、じゃあ今日は」

「駅の近くのホテルで一泊だな…。しかし、こんな山間部に泊まるところあったかな…?」

 

急いで持ち合わせていた携帯端末で周辺の宿泊施設を検索していく。

余談ではあるが、鎮守府ではスマートフォンの操作がまともにできる者は極端に少ない。

当たり前と言えば当たり前なのだが、彼女らには約一世紀の文明のブランクが存在しているので、その超科学ぶりに苦しむ者も多いという。

 

「お、意外とあるみたいだな。よし、予約を…と」

 

空室のマークを確認して、手続きを進める提督。

そこへ、無情にもアナウンスが続く。

 

『…お客様へご案内です。只今周辺地域に暴風雪警報が発令されており、外出は大変危険です。降車後は速やかに駅舎内へ移動し、天気の回復をお待ちください』

 

「えええ!?…ちょっと、大丈夫なのよね、ね?」

「…だいじょばないかもな」

 

吹雪と言えば某初期艦のイメージがあるが、地吹雪ともなれば相当な狭視界をもたらし、交通網は麻痺するだろう。駅舎内への誘導は正解と言える。

慌てた様子で袖を引っ張る由良に目をやると、いつもの制服に一枚薄いコートを羽織っただけである。艦娘は体が丈夫とはいえ、見ているこちらが寒くなるくらいだ。

 

(…とりあえずは防寒具が必要になるかもな)

 

寒さの恐ろしさを身をもって体感している彼は、揺らされる頭の中で駅に到着してからの行動を組み立てていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お…ここが」

「よかったあ…」

 

電車を降りると、一瞬にして身体が吹き飛ばされそうになるほどの暴風が二人を襲った。

その勢いに驚きつつも、慌てて駅舎に入ってみれば、係員の誘導が行われているようであった。

話を聞いてみれば、どうやら併設の宿泊施設が臨時開放されていて、そこに泊まることが出来るようであった。

 

「申し訳ありません。軍人さんがいらっしゃることが分かれば、私たちももう少しお出迎えする準備が出来たのですが」

「いえ、お気遣いなく。どうぞ私たちも、一般の方々と同じようにして頂ければ」

 

仮にも軍属の者ということで、予定を変更して宿泊する場合は本部と所属鎮守府、そして宿泊施設の担当者には連絡をする規定が存在している。

管理人である初老の男性は訳を話していくと驚いた様子ではあったが、どこか嬉しそうにしていた。

 

「国防を担われる御方ですから、日々お疲れでしょう。本日は狭い宿で恐縮ですが、ゆっくりお休みになって下さい」

「ありがとうございます」

 

恭しくお辞儀をして、二人は管理人から話を聞いていく。

駅舎に併設された、同鉄道会社の後援するこの施設には、一通りの設備が整っているらしく、電車はそれを見越してここまで運行してきたとのこと。

自然災害や戦災などの被災時への備えとして、避暑地として人気を集める夏に得られる利益でこの施設を経営しているらしい。

 

「まだまだ設備も最低限のものしか揃っていませんが、今晩だけならばどうにかなるかと」

「とんでもない。乗客も少ないとはいえ、このような設備を無償で提供して下さるというのは、大きな安心となります」

 

近くに湧く温泉を引いた風呂や、小規模ではあるが食堂、そして個室もあって、十分快適に過ごせるだろう。

 

「ありがとうございます。しかしながらこの後停電の見込みなのです。非常用電源では暖房や照明が制限されるでしょうから、お客様には心苦しい思いをさせてしまうかと」

 

この寒さを乗り切るために使われる電力だけでなく、乗客個人が消費する電力量も考えると厳しい。

 

「非常時ですし致し方ないでしょう。乗客の方々にも消費電力削減を心がけてもらえるよう、呼びかけるのも手です」

「そうですね…」

「私たちにお手伝いできることがあれば、仰って下さい」

「由良もお手伝いします」

「これはこれは。ありがとうございます。そちらの方も軍人さんですか」

「ええ、まだまだ新米ですがね」

「…むぅ」

 

頬を小さく膨らませる様子に、管理人は軍人らしくない一面を感じたのか苦笑する。

「これでも期待の新人でしてね」と加えた提督は、話を一区切りさせようと、由良を見やった。

 

「それでは、とりあえず部屋の鍵を頂いても宜しいですか。お手伝いできることがあれば、ご連絡下さい」

「はい。…ええと、これですね。7号室になります」

「え?」

「…はっ」

 

管理人の渡した鍵は、一部屋分だった。

それはつまり、そういうことではないかと由良が勝手に想像して赤面する。

 

「部屋は…一つですか?確か申請書には」

「生憎、この停電で計画的に使用できる暖房設備が、丁度七部屋分までしか用意できず」

「そ、そうなんですか…それじゃあ、私は夜警でも…」

「べっ、別にいいんじゃない?ねっ?」

 

早くも逃げ腰の提督に待ったをかけるかのように、由良は言った。

若干強迫めいた声色の「ねっ?」は、かつて聞いたことがあるような響きであった。

 

「そうですな…仮にも男女ですし、部下の方なのであれば、尚更そうした方がよろしいですか」

「い、いえいえお気になさらず!由良たち、実は幼馴染でして」

「お、おい由良」

「そうでしたか。旧知の仲ならば、特に咎められることもありませんかな?」

「そっ、そうですねっ、ねっ!?」

「…由良」

「ね?」

「…はい、そうさせて頂きます」

 

勢いと恐怖に流されてしまう提督。

そんな二人の過去を知らない管理人は、仲の良い上司と部下の様子に和んで微笑んでいるだけなのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えええええ!?停電で外泊ですか!?」

 

電話の向こう、吹雪は仰天して叫んでいた。

耳を(つんざ)く叫び声に思わず目を瞑ってしまう提督。

 

「…おう。あまり電源を使えないから手短に話すが、とにかく移動できるとすれば明日以降になる。また明朝、〇六三〇から〇九〇〇の間に連絡を入れる。その時間帯はいつでも着信を受け取れる状態で人員を配置しておいてくれ」

「りょ、了解です」

「艦隊指揮権は吹雪、熊野、大淀に移譲する。それじゃあな」

「はい!…って、そうじゃなくて──」

 

吹雪渾身の「はい!」で電話を切った提督は、目の前の光景に苦悩の嘆息を漏らした。

それはつまり、この軽巡洋艦と同室になっているということで──。

 

「吹雪ちゃん、驚いてたね」

「…ああ」

 

もう今更になって部屋を変えるだとか、暖房なしで別部屋に泊まるだとか言うつもりはない。

これ以上忙しい管理人に迷惑をかける訳にもいかないし、この寒さで暖房なしの氷点下部屋に泊まることは即ち死を意味する。

 

「…それにしてもだな」

 

加えて、彼女とは見知った仲であることを熟知しているつもりではある。

けれど憂慮する気持ちが消えるわけではない。

 

「な、なによ」

「本当によかったのか?相部屋で」

「だ、大丈夫よ!あなただってそうでしょ?」

「俺は構わないが…」

 

今更遠慮し合うような仲ではないし、それも彼女はわかっているだろう。

士官学校の奇妙な関係が、ここまで続いてきていることが不思議で仕方がなく思えたりする。

 

「じゃ、大丈夫よ。ね」

 

上着をハンガーに掛けて振り返る由良。薄桃色の、長く束ねられた髪が揺れる。

含み笑いにいったい何が込められているのか、彼は知る由もない。

 

「…分かったよ」

「それじゃあ、今日は(みなと)って呼んでも」

「それは流石にな…」

「けち」

 

しかめっ面をする由良の表情は、過去の記憶の中に映る彼女とそう変わらない。果たして、彼女から見て、自分は変わったように映っているのだろうか。

 

「それで?『提督さん』、この後はどうするつもりなの?」

「ああ、電力節約のために就寝時間帯までは個室の設備使用が制限されているようだ。つまり、基本はロビーや食堂を使うことになるな」

「そうなのね。…あっ、じゃあ晩ごはんでも探さない?お昼軽かったから、由良お腹空いちゃって」

「行くか。軽食くらいならあるだろ」

 

荷物を部屋の隅にまとめて置いて、よっこらせと立ち上がる。

そのまま扉に向かおうとして、袖が何かに引っ張られてつんのめる。

 

「…?」

「…えへへ、いいでしょ?」

 

後ろで腕を掴んだ由良が、隣に飛び出してきてにへらと笑う。

もはや訂正も改めさせることも出来ないので、思わず苦笑いが滲んでしまった。

 

「あー、お気の召すままにどうぞ…」

「お言葉に甘えます、ねっ」

 

不適な笑みを浮かべる由良は、自信満々にそう呟いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふう…」

 

地元自慢の天然温泉に浸かり、冷えた身体を温めた乗客たち。

提督もそのご多分に漏れず、底冷えする館内の寒さをもろともせず、未だ湿った髪をかき上げた。

 

「あっ、みn…提督さんも上がったのね」

「おう」

 

首に掛けたバスタオルで髪を拭いていると、後ろから見切った声が聞こえて振り返る。

 

「お…」

 

小さく、彼は感嘆の声を上げる。

眼前に佇む由良は、部下としての『由良』の、髪を長く束ね、軍装を纏った姿ではなく、かつての級友としての『海咲(みさき)』の姿で現れた。

 

「えへへ、なんだか久しぶりかも」

「懐かしいな」

 

髪を緩く二つ結いにして、左右に垂らす。ツーサイドアップとでもいうのだろうかと思案した。

鹿島のような髪型に近いが、彼女よりは長めだろうか。

 

「お湯、結構熱めだったね。少しのぼせちゃったかも」

「体も相当冷えていたからな。それでもいい湯だったよ」

「…うん」

「?」

 

湯に浸かって逆上せかけたせいか、どこか由良の頬が赤い。

それにしては赤すぎると、提督が疑問を抱く一方で、由良は見慣れない彼の姿に慌てていた。

 

(な、なんだか湊、見ないうちに大きくなってる…!)

 

出会った当時は十五歳かそこらであり、五年という年月は彼を成長させるのに充分であった。

艦娘となり、身体の成長が止まった由良から見れば、面影こそ感じるものの、隣に並べば身長差もあり、その大きさに驚くのであった。

よって、そのギャップに彼女が驚愕し、そして心拍を弾ませていたのも当然でーー。

「さあ、早いところ部屋に戻ろう。もう廊下の電力も制限されるからな」

「…うん」

 

(…なんだか素直だな、珍しい)

 

つかみどころのない彼女が今日は大人しくて、提督が少し驚いていたのも当然だといえよう。

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

「ご飯、コンビニのだったけど美味しかったね」

「保存食もあったしな。案外何とかなるものなんだな」

 

施設に併設されていたコンビニエンスストアが一通りの食事と生活用品を提供してくれていたお陰で、難を逃れることができた。

いざという時の便利さが有り難く、やはり災害時にはこうした準備が活きるということが身に沁みて理解できた。

 

「あっ、そうだ…借りたお金」

「気にすんな。どうせ経費で落ちるんだろうし」

 

財布を探し出す由良を制し、それでも尚遠慮する彼女に、提督は「これからの活躍に期待してる」と笑って言った。

 

「そうなの?」

「ああ。それに、まあ昔のよしみだ。これくらいはさせてくれ」

「ふふっ、なにそれ」

「その髪型を見て、少し昔を思い出してな」

 

提督は椅子に腰掛け、小さく笑った由良を横目で眺めて目を瞑る。

瞼の裏に浮かんでくるのは、なけなしの青春の日々。

 

「懐かしいな…半べそかいてる()()に勉強を教えたこともあったっけ」

「な、何でそんなこと覚えてるのぉ!」

 

恥ずかしい記憶を掘り起こして欲しくないのか、由良は拳を握って腕をぶんぶんと振る。

そんな幼馴染の抗議に苦笑して、あえて更に提督は続ける。

 

「お前は、学術よりは体術だったな。艦娘の適正がある人間としては、そっちの方が好都合か」

「そんなこともなかったかな…全然体術も楽じゃなかったし」

「…まあ、そうじゃないと教官に怒鳴られて半泣きで居残りになることもないか」

「もぉーっ!そういう湊だって、目が死んでてやる気がないって、体術の教官にげんこつされてたじゃない!」

「あれはしょうがないだろ…っていうか、体術の教官って確か…」

「「権田(ごんだ)」」

「…ふっ」

「ふふっ」

 

些細な思い出話も、彼らにとっては宝物のように感じられてならなかった。

思い出が宝物なのではなく、それを目の前の親しい友人と共有できることそれこそが、彼らにとっては永久に続くような、長い時間を苦しみと闘ってきた者にとって、大切に感じられたのだ。

 

「…もう四年か。随分経ったな」

「でも意外と覚えてるものよね。…あー、また戻ってみたいかも」

「また補習だぞ?」

「次はうまくやるわ!…たぶん」

「多分かよ」

 

そんな他愛ない思い出話に、どうしようもなく、由良は心が暖かくなって止まらなかった。

きっと、彼には彼の世界があって、自分のように、目の前の旧友に憧れ、そして想い続けている訳ではないだろう。もしそうだとしたら嬉しいことに変わりはないがーー。

 

(それでも…貴方と、湊とまた会えて良かった)

 

憧れていた。

どんな苦しみにも立ち向かい、必死に、過酷な現実と、残酷な過去に向き合って、闘い続けていた彼に。

支えてあげたいと思った。

身も心も、ボロボロになってしまった彼を。

孤独じゃないってことを、伝えてあげたかったーー。

 

「…さっ、明日も早いし、もう寝ましょ?」

「おう。結構寒いからな…ふあぁ」

 

由良の決心は、揺らぎようもなかった。

頑張れない理由がなかった。

これからは、隣に居てくれるから。そして、共に戦うことができるから。

 

「そういや、勉強会の後もこんな感じだったか」

「寮室に戻るのも疲れちゃって、そのまま眠っちゃったりしてたね」

「気付いたら朝だったりな…」

「そうそう」

 

雪のせいではあるが、久しぶりに執務から手を離してこの時間帯に眠りにつく提督は、既に眠たげに、小さく呟いた。

横目で彼の虚ろな目を覗いた由良は、ふふっ、と笑みを溢した。

 

夢の中で、ずっと追いかけた姿がここにある。

あの日、桜の木の下で、本当は縋りついても引き留めたかった想いが、この瞬間に叶った気がした。

 

「…ねえ、()()()()

「ん…」

 

既に、彼は眠っていた。

微かな寝息が、暖房をものともしない冷たい空気の中に、細く流れるだけだった。

それを知って、由良は彼に顔を近づけた。

不自然に伸びた、右の額にかかる髪をかきあげて、自分を守って付いた古傷を撫でる。

 

「好き、よ」

 

胸一杯に溢れ出る想いをこらえて、短い言の葉に全ての感情を注ぐ。

一度言ってしまうと、愛しさが込み上げて、ともすれば泣いてしまいそうだった。

 

吹き付ける風も、積もり続ける雪も、今は止んで、月の光と静寂だけが、二人を包んでいたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…んへへ」

 

吹雪から一転、翌朝は昨日の荒天が嘘のように、太陽が晴天に顔を覗かせた。

鎮守府への帰投の目途がつき、帰り支度を始めようとする提督に頼み込んで髪を梳かしてもらいながら、だらしなく緩んだ口元を隠そうともせず、由良は心地よさそうに笑っていた。

 

「なんだその笑い方…っと、こんなもんか」

 

長髪をポニーテールにして結わい、リボンで巻いていく。

どこで艦娘の標準軍装が定められたのかは分からないが、こんな髪型を指定してくるあたり大本営も何を考えているのか見当もつかない。

由良や阿武隈の朝の苦労が偲ばれる。

 

「んっ…ばっちりよ、ありがとう!」

 

ぱっと輝くような笑顔で感謝する由良。

幼さやあどけなさは、士官学校の級友としての面影を感じるが、過去の彼女とは全く違う何かを提督に感じさせていた。

 

「…?」

「ん…どうしたの?」

「いや、気のせいだな」

「んん?」

 

そんな提督の疑問に気付くはずもなく、由良は至ってご機嫌な様子で、提督のブラッシングを堪能している。

最後に毛先を整えていると、仕事用の提督の端末がけたたましく鳴り響く。

 

「お…鎮守府からだな。由良、電話に出るからこれくらいでいいか?」

「はいっ!ありがとう提督さん」

「どういたしまして…っと、もしもし」

 

通話のボタンを押すや否や、一人や二人ではない人数の叫び声が聞こえてくる。

『しれー!』やら『テートクゥゥゥ!』やら種類様々ではあるが、ともかく吹雪や熊野だけではないことだけが分かった。

 

『司令官に由良さん!なんとかして早く帰ってきてくださいよぉ!』

『ちょっと由良ぁ!あんたまさか提督と…っ、何にもしてないでしょうね!』

『ともかくテートクを出すデース!Hurry up!』

 

「うわあ…」

「おいおい、耳が潰れそうだ」

 

そんな元気いっぱいの鎮守府の面々の様子に、提督と由良は顔を合わせて苦笑する。

由良は髪をまとめ終えると、「ちょっと貸してっ」と提督の携帯を手にして、ぽそぽそと何か呟く。

 

「お土産、買って帰りますね。それと、昨日の夜の話は…」

「帰ってからの、お楽しみです!」

 

『ええええええええええ!?』

 

「…おい、何を言ったんだ」

「うふふ。ちょっとした事前連絡よ」

 

口の前で人差し指を立てる由良。そんな様子は、四年前と何も変わっていない。

 

「…そうか」

 

(何を言ったのか分からないけど…あの艦娘たちの叫びようだと、これは帰ったら大変だな)

 

嘆息はするが、特に憂鬱ではない。

気分を一新して、またこの旧友と、頑張ろうと思えた。

 

「よし、なら電車も来ることだし、行こうか」

「ええ、行きましょう!」

 

はにかんで笑う由良。

白銀の雪が照り返す日の光が、彼女の笑顔を明るく彩るのであった。

 




由良は上司として、旧友としてという風に提督に対する言葉遣いを変えています。
少し納得のいかない部分もあるので、ちょいちょい修正を繰り返してはいますが…。

海外艦、もし追加するなら初登場は

  • ドイツ艦
  • イタリア艦
  • ロシア艦
  • アメリカ艦
  • イギリス艦
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