舞鶴第一鎮守府の日常 作:瀬田
このネタ好きです。
──────鎮守府食堂
「今日は急な頼みを手伝ってくれてありがとう。お礼に奢らせてくれ」
「ほんと? ラッキー!それじゃ、お言葉に甘えて···」
陽炎はにこにこ顔で注文口の大鯨へオーダーする。
「司令って、結構秘書艦の子にお昼ご馳走してること多いわよね?」
「そういえばそうかもな。いつも使わないからか、余ってくるんだ」
財力にものを言わせるようで少しばかり心象が良くないが、流石は提督職の給料。
どうせ使われないならと、艦娘たちの為に使うことが多い。
例えば今日は、臨時秘書の仕事を頼み込むと、快く承諾してくれた陽炎に昼を奢っている。
最近では何かにつけて鎮守府へ自分の給金を入れるようになっているが、その度に他の艦娘に咎められてしまう。
「艦娘の給金だけじゃ足りないだろう。やりくりはしてるんだが」
それも、艦娘たちへの対価の為だったりする。
散々艦娘達を兵器でなく人間と扱っておきながら、給料の一つも支払わないようでは、それは綺麗事と謗られても文句を言えないのである。
そう考えた提督は、着々と準備を進め、ようやく去年の夏頃に、給金制度の実現にまで漕ぎ着けた。
既に呉を始めとして、他の鎮守府にも考えが広まっているようである。
「いやー、そんなことないと思うけどねぇ…そうそう、秋雲とか時津風なんて無駄使いしてばっかだし」
「…そうなのか?」
なかなか幼い駆逐艦の艦娘たちには、給金制度は難しいようだ。
駆逐艦や軽巡洋艦たちの長女に聞き取りをして、なにかしら対策をした方がいいのだろうか、と考えてみる。
「まあ、駆逐艦だけに限らないけどね。赤城さんは食費、武蔵さんはトレーニング用具…」
「…ただでさえ深海棲艦との戦闘でこの国を救ってくれているんだ。こんなのでは足りないさ 」
そうは言ってみたものの、彼女らのお財布事情が気になって仕方がない。
遠い目をしていたら、何やら騒ぎ声が聞こえてきた。
「はぁー、あったかいね天津風は〜」
「ちょ、ちょっと時津風!?や、やめてってばっ」
「むー、いいじゃんいいじゃん〜。ほら、神通さんも」
「い、いいのでしょうか···あっ、本当に暖かいですね」
「な、何なのぉ〜!?」
「···あれは、天津風か?」
「そうみたいね」
どうしたのかしら、と首を傾げる陽炎。
天津風の周りには、続々と艦娘たちが集まっている。
「あっ、陽炎ねえにしれえ!お疲れ様です!」
「ん?雪風じゃない。出撃終わったの?」
何があったのか気になっていると、雪風がトレーを持って歩いてきた。
「はい!今日は雪風、MVPを取りました!」
「おおー。偉いじゃない」
「えへへ」
陽炎に髪を撫でられて、少し恥ずかしそうに笑う雪風。
なんとも姉妹らしいやり取りに、思わず頬が緩んだ。
「お疲れ。南西諸島派遣の水雷戦隊だな」
「はい!川内さんが夜に報告書を提出するから、待っててとおっしゃってました」
「夜っていうか…」
「深夜だなそれは…」
どうやら陽炎と考えていることが同じだったようだ。
まあどうせ今日も残業だし良いか、と自分を納得させていると、先程の話を思い出した。
「そうだ。天津風の周りに皆がいるのはどうしてなのか知ってるか?」
「はい。天津風ちゃん、船の時代の特徴を受け継いでいて、体温が高いみたいです」
「ああー…そういえばそんな話も聞いたことがあるわね」
提督の脳裏には、あの大戦での天津風の姿―もちろん写真ではあるが―が浮かんでいた。
「新型高圧缶…400℃だったか」
新式のボイラーの試験運用によって、天津風の蒸気温度は高い。
つまり排熱時に溜まる体温も高い、という訳だ。
「陽炎型の標準が350 ℃だったはずよね。艦娘…っていうか人間の身体にしてみれば、単純計算で40℃以上ってことかしら」
「40℃…温かいですね!」
恐らく計算の内容は雪風に伝わっていないようだが、まあ天津風は温かい、ということが分かってもらえればよい。
「冬場には大活躍だな」
最も、活きるのは本人にではないのだが。
(夏場は気を使ってやらないと)
心の中にメモをしていると、食堂がさらにざわつく。
「何かしら、みんな騒がし…って、うわっ!」
もう一度意識を外側へ向けると、前後、艦娘の塊のような者が現れた。
背中には霰、両腕には文月を抱えているのは、栄光の第一航空戦隊──────加賀である。
「か、加賀さんでしょうか」
目を丸くした雪風、陽炎と目を合わせて軽く頷くが、未だに信じられないといった表情である。
それもその筈、性格は鎮守府毎にそれぞれ違っても、あくまでも加賀はクールビューティ。
鎮守府の面白お姉さんではない。
「いかにも、加賀です」
子育て真っ盛りの主婦のような格好で加賀はそう言った。
聞こえていたのか、というような顔をして、なおも驚き気味の提督に代わって答える。
「おう、お疲れ。それにしても、何事だそれは」
胸元に抱えた文月は熟睡しており、背中にしがみついた霰はどこか満足気な笑みを浮かべていた。
「冬はよくあることです···あの子も」
困惑気味に、二水戦の面々から逃げ回る天津風を一瞥する加賀を見て、合点がいく。
「なるほど」
いつぞやの春の一件を思い出す。
「…ああ、加賀もだな、そういえば」
「ええ。
何気なく、彼女が差し出した掌を握ると、明らかに温度が違う。
灼熱地獄とまで呼ばれ、乗組員を苦しめたといわれる『加賀』の艦内温度。誘導煙突の採用により居住性は言わずもがなであり、それが彼女の体温にまで表れているのだろう。
「おお、温かいな···ってすまん、触れて良かったのか」
冬場でしかも体温の低めな自分の手は恐らく冷たいだろうし、そもそもよく知らない男に(以下略)申し訳なく思う。
「ええ…大丈夫です」
「…むう」
いつも通りの自虐思考の提督の傍ら、何やら不満そうな目つきをして見つめる陽炎には気付かない提督なのであった。
「…でね、全く時津風ったらもう」
「そ、そうなのか」
「…」
執務中の提督の膝の上には、天津風が乗っている。
提督も困惑気味ではいるが、一番納得がいかないのは隣の席に座る陽炎のようだ。
「んで、天津風は何やってんのよ」
「え?…だって提督が執務中に暖を取りたいって」
「…ちなみに、それは誰に言われたんだ?」
「時津風だけど…はっ!?」
すっくと立ちあがる天津風。見るからに慌てている。
そんな彼女に、陽炎が呆れたように言う。
「あんたまた騙されたの…」
「くっ…!」
とは言いつつ、再び提督の膝に座りなおしてしまう天津風。
妹の、本能との葛藤を感じる陽炎は思わず失笑してしまった。
「あ、天津風…無理しなくていいんだぞ」
「こ、こうなったら騙されついでにあなたの湯たんぽ代わりになるわよ…」
腕を背に回して、提督の胸へ密着する天津風。
煙突からはハート形の煙が排出されており、傍から見ると恋人たちの抱擁でしかない。
「ちょっとお!?」
「あ、天津風。それは少し…少しどころじゃなくマズいから…って熱っ!?」
胸元でもぞもぞと動く天津風は流石の体温であり、触れた肌から伝わるその熱量に驚いて筆を落としそうになる。
すると、執務室の扉が勢いよく開き、三人の駆逐艦が顔を覗かせた。
「…何してんの?」
「はわあ、天津風ちゃん大胆です!」
「だ、騙されてるどころじゃない…!」
執務室を訪れた十七駆の面々は、それぞれが驚愕と羞恥に顔を赤く染めていた。
「あんたたちも天津風を止めて!司令が火傷しちゃう!」
「「了解っ」」
若干の羨望の眼差しで飛び込んでいく陽炎型。
引き剥がした頃には提督は汗だくであり、天津風は目を回していたのだった。
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「…てな訳で、時津風、何か司令に言うことは?」
「ごめんなさーい…」
陽炎に襟首を掴まれた時津風は、項垂れて言った。
因みに天津風はといえば、傍らのソファーで氷枕と氷嚢を溶かしながら目を回して眠っている。
「嘘は程々にな…ところで、時津風たちは何の用で来たんだ?」
「そういえばそうね」
「そこのむっつりツインテを探しに来たのよ」
「島風ちゃんと一緒に鬼ごっこするんです!」
ふと湧いた疑問に答えるのは初風と雪風。
天津風の合流により、史実編成が可能になったため、主に北方アルフォンシーノ方面の作戦を遂行しながら練度を高めている。
「むっつりツインテて…」
「呼び名は人それぞれだが…ともかく遊んでいたんだな。納得だ。それにしても、天津風は物凄い体温だな。いつもこんな感じなのか?」
「はいっ!寝るときは初風ちゃんと一緒に寝てます!」
「ちょ、それは言わない約束だったじゃない!」
「ほぉー、お姉ちゃん知らなかったなぁ」
「ひ、秘密にしなさいよ!?」
意地悪そうな笑みを浮かべる陽炎に、顔を真っ赤にして詰め寄る初風。
そんな二人の隣には、事情をよく呑み込めていない雪風と、陽炎に引っ掴まれながらもけらけら笑う時津風。
陽炎型は人数が多いが、姉妹仲は他の駆逐艦たちとも負けていないようで何よりだ。
「ん、んん…」
「お、起きたか天津風」
「あれ…?私、執務室で何やってたんだっけ…っ!?」
天津風は起き抜けに見た提督の顔で全てを思い出したのか、また顔を真っ赤にして布団に潜った。
脚をばたばたとでたらめに動かしている。
「…これは当分尾を引くわよ」
「ちょっと、今夜どうしてくれんのよ」
「てへぺろー」
「初風ちゃんは雪風と一緒に寝ましょう!」
それぞれの勝手な方向に話が進んでいくので流れが掴めない。
そんなところも陽炎型の特徴なのだろうかと、提督は提督で一人思案していた。
「…という訳だ」
「へえ。役得やん、提督」
「それは肯定してしまっていいのか」
天津風たちとの一件について一通り話すと、黒潮はにやにや顔で応えた。
隣に同行している陽炎は疲れたのか、溜息をついている。
「ま、天津風もあれはあれで隠しきれてるつもりやねん。それに乗ったってな」
「ん、何をだ?」
「…ほんまに分かってないんか?」
疑念たっぷりの表情で提督の目を覗き見る黒潮だったが、「そういやこういう人やったな」と嘆息する。
陽炎も陽炎でうんざりした目線を向け、再び溜息をつく。
「ふ、二人とも…?」
「「はぁ…」」
何が起こっているのか、事態の進行が全く理解できない提督はきょとんとして陽炎型を見つめている。
「まあそれはそれとして、よ。天津風があんなだし、今加賀さんが大変なんじゃない?」
「確かにそうやな。食堂行ってみるか?」
「もういないんじゃないか?今日は確か非番だったと思うから、この雪だし外には出てない気がする」
そう言って二人を引き連れ、執務室の外へ出る。
扉を開けた途端、何やら騒ぎ声が聞こえてくる。
「…ん、何だこの声」
「寮室の方ね」
艦娘寮に接続する渡り廊下へ近づいていくにつれ、次第に大きくなる声。
一度外に出てしまうと冷たい風が三人を吹き付けた。
「わっ、さっむ!」
「ううう…なんだってこんなところにいるのよぉ…」
提督につかまりながら、苦渋の表情をして歩く陽炎たち。
間もなく、廊下の向こうから見える艦娘たちの姿が。
『まてぇー!!!』
『…!』
「な、何事や!」
「鬼ごっこにしては苛烈すぎるわ」
「く、来るぞ。先頭にいるのは…加賀か!?」
充分に近づいた距離から見える艦娘は、紛れもなく加賀。
普段からの無表情に焦りが滲んでいる。
「か、加賀さん!?」
「ちょちょちょ、止まらんかい!!」
猛然と走る足を止めない加賀は、そのままの勢いで提督たち三人へ向かう。
咄嗟に陽炎と黒潮が前に出て、提督を護るように立ち塞がった。
「と、止まってぇっ!」
最悪の事態が頭に過り、思わず目を瞑る陽炎。
提督も二人を庇うように自身に抱き寄せた。
「「つーかまえたっ!」」
「…え?」
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「…んで、群がるみんなに耐えられず、逃げ出したと」
「ええ…」
「てっきり鬼ごっこかと思って…」
陽炎と黒潮に提督、そして彼の背に隠れる加賀に向かって、何人かの駆逐艦と瑞鶴が正座している。
彼女らの保護者である綾波、時雨、翔鶴は、にこやかかつ凄まじい怒気を孕んだ笑顔で囲んでいた。
「駆逐艦はいつものことだとしても、なんで瑞鶴さんまで?」
「い、いや、なんだか羨ましくてつい…」
「“なんだか羨ましくて”?瑞鶴、どういうことかしら。お姉ちゃん怒らないから言ってみなさい?」
「ひいぃ!」
提督の側からは翔鶴の表情が読み取れないが、瑞鶴の怯えようを見れば一目瞭然である。
陽炎たちも苦笑の裏に戦慄を隠せないでいる。
(翔鶴さん怖え…)
事の顛末を説明すれば、文月たち同様、他の駆逐艦たちにも大人気の加賀であったが、流石に四六時中誰かに引っ付かれていたら本人が暑くてたまらない。
思わず逃げ出した彼女を追った駆逐艦プラス瑞鶴と、ガチ追いかけっこを展開していたという訳だ。
「ほんで、秋雲たちも瑞鶴さんと同じ理由なん?」
「わ、私は同〇誌のネタになるかなって同行してただけで…」
「は?それで止めなかったのかい?」
「ヒイィ!!」
時雨も時雨で、提督に表情を見せない角度で秋雲を覗く。
滅多に怒ることがない彼女だけに、本気で怒ったときの恐ろしさは推して知るべしだ。
「い、いいのよ…。元はといえば私が逃げ出してしまったのが悪いのだし」
「加賀さんはなにも悪くないですよ。ほらっ、卯月ちゃんに響ちゃん、初雪ちゃんも謝って」
「う、うーちゃんは文月に勧められただけで…」
「やはりソ連艦とはいえど冬の寒さは厳しい…その点加賀さんは
「冬はこたつと加賀さんが居れば…大丈夫だ、問題ない」
「あ・や・ま・っ・て?」
「ごめんなさい」
「Извините」
「本当に申し訳ないと思っている」
三者三様に謝ったようだが、根底にあるものは、鬼神綾波に対する恐怖で一致している。
傍から見れば地獄絵図。提督を含める四人は茫然とするしかないのだった。
「まあまあ、皆謝っているようだし、加賀も納得しているようだし」
「ええ。綾波、時雨、翔鶴さん、その辺で勘弁してあげて」
「ビビりすぎて固まってるで…」
悪いことをしたときには、叱ることももちろん大切だろう。
しかしながら今回ばかりは三人への恐怖が反省心を上回っているようだった。
「そうですか?提督と加賀さんがそう仰るのなら」
「仕方ないね」
「分かりました。瑞鶴、後でお話ししましょうね」
「うわああああ!提督さん助けてぇ!」
「こ、個人的指導は程々にな…」
冬、という季節ならではの鎮守府の光景を再発見した提督。
人気者の苦労を知る一方、教育の大事さについても認識させられるのだったとさ…
気づけばもう夏なのに去年の冬書き始めた話を投稿する怠慢さに涙が出てきます。
いつもありがとうございます。
海外艦、もし追加するなら初登場は
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ドイツ艦
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イタリア艦
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ロシア艦
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アメリカ艦
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イギリス艦