舞鶴第一鎮守府の日常   作:瀬田

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一体何が書きたいのか分からなかったまま、最後まで書き上げてしまいました、いつも以上に訳の分からない話で申し訳ない。。。


第五十五話 夜明けの雨

「雨か…」

 

夜闇の中で、机上の電灯一つでは降り始めたそれに気が付かなかった。

しかしながら言葉を漏らさない限り、全くの沈黙が部屋中を支配しているので、光量の少ないなかでも感じ取ることはできたのだった、と心の中で結論付ける。

 

水平線の先の先を見つめていると、空が薄ら明けようとしているのが分かる。徐々に激しさを増すこの雨では出撃は難しいだろう。ただし、念のために警戒は行うべきなのだが。

荒天時航行は、実は艦娘にとって重要なスキルだったりする。荒波を乗り越え、雨天でもリズムを崩さずに行動できることは大きな強みだからだ。

 

「…夜間哨戒の子たちが集まってくるな」

 

日没後に出撃して行った第五戦隊との交代で出た第六戦隊が帰投してくる予定である。今度は第七戦隊、三隈・最上の第一小隊と、水雷戦隊旗艦である能代に率いられた白露、五月雨、春雨が続く。

目頭を押さえながら撥水性の上着を羽織り、積み上げられた未記入の書類の山の中から哨戒部隊に関するものを引き抜く。

雨音を聞きながら廊下へ続く扉を開き、真っ暗闇の足元へ電灯の光を照らす。

 

(この雨の中出撃してもらうのは申し訳ないが、後で何か、お礼になるものを…)

 

街中とは隔絶されている(軍事施設という側面ももちろんその理由の一つだが、この立地自体が既に未開の地だと主張する者もいる)鎮守府の中では、懐中電灯を使ってもまともに前が見えたものではない。

遠く、母港前の集合場所の灯りに向かって足を進めていると、何やら後ろから自分を呼び止める声が聞こえた。

 

「ま、待ってくださぁい」

「ん…?」

 

振り返ってそちらを照らすと、大変長い髪を揺らしながら涙目の艦娘が走り寄ってくる。

 

「うわっ!?」

 

急に明るい光源が目に飛び込んできたからか、驚いて目を覆ったその艦娘は、大きくのけぞると同時に足を滑らせてひっくり返りそうになる――

 

「おっと」

 

その前に、咄嗟に出した両腕が彼女の背を支えた。完全にコケたと思っていたのだろう、ぎゅっと瞑られた両目が恐る恐る開かれて、それと同時にきょとんとした表情を彼女――五月雨は浮かべる。

ドジっ子とはよく言われているのを耳にするものの、それは何事にも一生懸命で張り切りすぎてしまう結果なのだという風に解釈していた。

 

「大丈夫か」

「はっ!て、提督!?ど、どうもすみませんっ」

「俺の方はなんともないから平気だ。それより、この時間だから少し静かにな」

「そ、そうでした…むぐっ」

 

手で口を塞ぐ仕草をする五月雨。きっとこれも大真面目にやっていると考えると、とても良い子なのだと思う。

少し頬が緩むのを感じながら、そうこうしてはいられない時間であることに気付く。

 

「もう〇三三〇だな。今朝はどうしたんだ?」

「も、申し訳ありません…懐中電灯の電池が切れてしまっていたみたいで迷ってしまって」

「なるほど。そういえば、昨日江風がつけっぱなしで置いて行ってたからな。残りが少なかったのかも知れない」

「いえ…残量を確認しなかった私にも責任がありますので」

 

躊躇わずに自らの非を認め。妹である江風を庇うところにも彼女の誠実さが感じ取れる。

「間に合うだろうし、問題ない」と五月雨を落ち着かせて先を急ぐと共に、そんな彼女をすっかり応援したくなっているのだから、これでは鈴谷や夕雲にまるで父親だと指摘されるのにも納得してしまうのだった。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「もーっ、遅いぞ五月雨」

「ご、ごめんなさいっ」

 

小走りで母港前の待機所に向かうと、白露が両手を腰に当てながら妹を待っていた。どうやら春雨も一緒らしく、自分の後ろに五月雨の姿を認めると、ホッと息をつくのが見て取れた。

引率の能代を含め、半ば責めるような目線を感じたので、ここは弁明してやらねばと思って口を開く。

 

「電灯の電池が切れていたみたいでな。昨日少し使いすぎていたみたいで、気付かなかったのも無理がない」

「て、提督」

 

少し驚いた様子の五月雨を一瞥して、続けて彼女らに語りかける。

 

「あっ、それで司令官に会ったんですね」

「なんだ、それならそうと言ってくれればいいのに」

「あ、そ、その」

 

今まではきっと、彼女も自分の責任だと言い聞かせてきた部分はあるだろう。多くの場面で沈黙は金であるが、言うべきところを見極めて発言するのも大事なことだ。

 

「さ、それくらいにしてそろそろ出撃準備はじめるよー」

「「了解っ」」

 

用意された艤装が集められた隣の兵装庫前で、旗艦の最上が呼びかける。

それに応えて白露たちがばたばたと駆け寄る前に、あえて彼女の名を呼んだ。

 

「五月雨」

「は、はいっ」

 

ぴくっ、と肩を震わせて振り向いた五月雨に苦笑してしまう。

多分、これが『五月雨』の持つ性格なのであり、それは決して悪いことではないのだろう。

一人だけ作業が遅れてしまっても、彼女は自分の時間を削って丁寧に任務をこなすだろうし、たくさん失敗しても、その分人より多く学んでいるから、次はミスしない。

当たり前のことを、当たり前にこなせるように、彼女は努力を惜しまないのだ。

 

そんな思いで、出撃前の彼女へ向けた言葉を紡いでいた。

 

「大丈夫、普段通りの五月雨で行ってこい」

「…はいっ!」

 

曖昧な言葉の意味が伝わったのか、それは分からないけれど、雨の中でも彼女は元気いっぱいに笑っていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さてさて…」

 

第七戦隊の面々を見送って、積まれていたタスクを片付けたのち今に至る。

残念ながらその多量さに完膚なきまでに叩きのめされてしまったため、多忙のあまり彼女らを迎えにいくことは出来なかったのだが、そのお詫びに彼女らの朝食を「鳳翔さんの朝食券」で豪華にしておいた。

初めて食卓に並んだときは、ここは旅館かどこかだという錯覚に陥るほどであったので、おそらく満足して頂けると思う。

 

「今朝はずっと動きっ放しね。大丈夫かしら?」

「ああ。溜まっていたのも今日で終わる見通しが立ってるからな」

「終わる、というより()()()()()でしょ?んもう」

 

これでも食べて、と言いながら本日の秘書艦、村雨がおにぎりの乗った皿を差し出した。

 

「ありがとう、どうにも手を離せなくてな」

「部下の朝食を豪華にする前に、まずは自分が朝食を食べないとね」

「それを言われると痛いな」

 

最もなことを言われてしまったのだが、こちらの事情もよく知っているらしく、村雨は笑っていた。

おにぎり一つとっても塩加減といい料理上手なのが伝わってくるが、果たして彼女は駆逐艦なのか、それともこちらの駆逐艦に対するイメージが幼すぎるのかは分からないが、ともかく自分の幼いころと比べてすっかり感心してしまっていた。

 

「うお、酸っぱい」

「あっ、それ大当たりよ。朝の遠征に出る時雨ちゃんたちに作ったうちの一つ」

 

こうやって子供っぽく笑うところは年相応なのであるが、なんて考えているそばで雨音が強くなるのが感じられた。

窓辺の様子を窺えば、雨粒は第七戦隊を見送った時よりも大きく、そして激しく降り注いでいた。

 

「でも旨いぞ。結構好きだな」

「えっ、ほんと?自分で言うのもなんだけど、かなり酸っぱいわよそれ」

「自家製なのか?」

「ええ。まだまだ初心者だけどね」

 

(本当にこの子は駆逐艦なのか…)

 

えっへん、とおどけて胸を張る村雨にただただ感嘆の視線を送る。戦闘ができるだけではなく梅干しまで作れる艦娘、もとい女性はそうそういないのではないだろうか…。

 

「それにしても、ひどい雨ね…あっ、そうそう。五月雨たちの見送り、ありがとね。傘も置いて行ってくれたから助かったって言ってたわ」

「この雨の中の出撃だからな。それくらいはさせてくれ」

「ふーん、優しいじゃない」

「どこの司令官も同じだと思うけどな」

「じゃあ、村雨が出撃するときにもよろしくね」

「もちろん」

「んふふっ、やったあ」

 

喜びを全身で表現するように、小さく跳ねる村雨。そう思ってくれているのであればありがたいことこの上ない。

最後のおにぎりを食べ終わって、「ごちそうさま」を言うと、彼女は真っすぐに満面の笑みを見せるのだった。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「よし、できた…」

 

村雨のお手製朝食を頂いてからかれこれ二十時間。日は暮れても雨は降り続け、もう第七戦隊を見送ってから一日が経とうとしているのだ。

その間働きづめという訳ではないが、ほぼ書類には触れていたような気もする。これに付き合ってくれた村雨はもうすっかり眠ってしまっていた。

 

「村雨、起きれるか」

「んう…」

 

寮室で眠るように勧めたのだが、「これも秘書艦の務めよ」と言って譲らなかった。お陰でかなり助かったが、ここまで付き合わせてしまったことには申し訳なく思う。

外ではバケツをひっくり返したような勢いの猛烈な雨が降るようになっており、本棟と接続していない白露型の寮室に彼女を担いで移動するのも一苦労な予感がした。

 

「あれ…私、寝ちゃってた!?」

「うおっ」

 

突然、勢いよく起き上がった彼女を間一髪で避ける。

 

「あ、ああ。だけど、手伝ってくれたお陰でかなり助かった。ありがとう」

「いえいえ…っていうか今何時なの?」

「あー…二時ちょうどだな」

「これ、私が帰ってたらまだ掛かってたかもってことでしょ?」

「そ、そういうことだな」

 

まったく彼女の言う通りで、咎めるような目線からついつい目を逸らしてしまう。残業を抑えるようになったとはいえ、(不本意ながら)やることは結局変わっていないというのが現状である。

 

「もうっ、無理はしないでって言ってるじゃないですか。寝ておいてなんだけど」

「すまない。どうしても間に合わなくなってしまって」

 

尚も頬を膨らませている村雨に、必死の弁明も試みるも無意味なようだ。ほのかに灯っていた明かりがもたらす陰影でくっきりした目のクマがバレバレである。

それを証明するように、彼女の指が目元をゆっくりとなぞっていく。

 

「明日は…というか今日は見送りを止めてもう寝たほうがいいですよ」

「いや、そういう訳にも…」

「むう…」

「…そうだな。また朝からの執務もあるし」

 

目線を感じながらも、ここは体調第一、素直に従っておくことにする。

村雨に背中を押されながら気付いたが、よく考えれば彼女は寮室に戻れるのだろうか。ふと、それを口にしてみる。

 

「村雨」

「はぁい?」

「この雨だが、外は大丈夫か?戻れるか?」

「え?」

 

そう言って村雨の覗き見る窓の向こうでは、豪雨といって差支えないほどの雨が今も降り続く。恐る恐る横目に見る本棟の仮眠室への廊下は真っ暗で、月明かりも雨雲に遮られて届かなかった。

 

「…提督のお部屋、借りてもいいかしら」

「もちろん」

 

時折光って鳴る雷の音に肩を震わせる彼女に、子供らしさの一片を感じられて何故か笑いが込み上げてくる。

彼女といい時雨といい、出会ったときよりもすっかり大人っぽくなった駆逐艦は多い。それを考えると、まだまだ芯の部分は変わっていないようでなんだか安心してしまう。

部屋に入って電灯を点けると、へたへたと村雨が座り込んだ。

 

「はあぁ…怖かったぁ」

「大丈夫か。何か温かいものでも用意しよう。その間にシャワーでも浴びてきたらどうだ?」

「そうさせてもらいます。あっ、でも着替えが」

「そうだったな…ん?」

 

一番重要なポイントを忘れていたので困っていると、ふと袖を引く感覚に気付いて振り向く。

いつの間にか部屋に潜入していた妖精さんが、自信満々の表情をしてサムアップしていた。

 

「あら、この子確か入渠ドッグの…」

「はい、ぎそうのしゅうふくたんとうです。むらさめさんのせいふくもなおしてます」

「なるほど。その力を貸してもらえる訳だな」

「ええ。ねまきくらいなららくしょーです」

 

そう言った妖精さんが、村雨に向き直ってなにやらにやにや顔を向けた。

 

「なにかあるといいですね」

「ちょっ…もうっ!」

「…どうした?」

「な、なんでもないです!」

「もがが」

 

何を言ったのかは分からなかったが、とにかく村雨が妖精さんの口を塞ぎながら、異様に顔を赤くしていたことだけは分かった。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「はぁー…温まりますねぇ」

「間宮に入れ方を聞いたんだが、市販のものでも時間を掛ければイケるんだな」

「うんうん。甘くて美味しいですっ」

 

一口飲むごとに脚を伸ばしてパタパタ振る村雨。妖精さんも一緒である。

 

「落ち着いたか。外はまだひどい雨だが」

「どうしよう…ね、妖精さん」

「わたしはもうねむいのでおやすみします」

「ここに住んでたんだな…」

 

居住者もびっくりな真実を告げてふよふよと飛んでいく彼女を見送りながら、提督も一口啜る。

激しい雨によって気温は大きく下がり、早くも冬の訪れを感じさせるほどであった。

 

「寝床はすまないが俺のベッドを使ってくれ。あと、寒かったら暖房も」

「でも、それだと提督はどうするんですか?」

「ソファーだな、執務室のブランケットもあるし」

「そ、それは村雨的に良くないかも」

 

わたわたする村雨に手を振りながら歩いていく。こうなったのも彼女に部屋に戻るよう説得しなかった自分の責任なのだから当然だ。

底冷えしてきた晩秋の夜、確かにこれは厳しいかもしれないが、昔のことを思えばどうとでもなるというのが素直な感想である。

 

「さあ、もう寝よう。明日に響くと悪い」

「…もん」

「?」

「提督が自分のベッドで寝てくれないと、私も寝ないもん」

「お、おいおい」

 

そう言って、村雨はベッドから起き上がると、一瞬のうちに強引に腕を引き寄せた。思わず膝をついた提督の顔が、至近距離で映って顔が赤くなるのが、自分でも分かる。

ここが正念場だと言い聞かせるように、というか言い聞かせて加速する鼓動を抑えようとする村雨であった。

 

「ねえ、こうして一緒に寝ればいいでしょう?」

「ほ、本当にいいのか?迷惑じゃないか」

「それは、私が聞くべき台詞なんだけど…」

 

提督は、引っ張られるままにして寝床へ身体を収める。

布団を掛けて、今度は村雨がベッドの隅に手をついて提督に問う。

 

「私もご一緒しても、いいかしら?」

「ああ。もちろん」

 

一種の悲痛ささえ感じさせるその視線、そしてその表情には、もはや駆逐艦らしいあどけなさなど見る影もなく、ただアダルティに、左右で互い違いの色をした瞳を潤ませた村雨が、ココアを飲んでいた先程とまるでは別人のように思われた。

降りしきる雨音の中、布がこすれる音が響いて、彼女も同じように寝台へその身を委ねる。

 

「ん…しょ」

 

備え付けのベッドはやや大きめではあるが、二人が寝るには狭い。寒さも相まって、温もりを求めて自然と寄り添う形になる。

 

「狭くないか」

「うん…あ…っ」

 

意図せずして、至近距離で視線が絡み合った。意表を突かれて、しどろもどろしてしまう村雨。

 

(ちょっ、まっ…!むむむ無理かもぉっ!)

 

この状況を自らが望んだとはいえ、圧倒的経験値不足によって心拍的にもたなさそうだ。

 

(緊張しているか…誘われるがままだったが、あれはやはり遠慮しようとしていたからで、こうなるのも不本意だったのか)

 

そんな村雨をよそに、通常通り斜め下へ思考が傾いていく提督の眉が曇る。

彼としては艦娘の望まないことはしたくないのだが、それがこのような場合はどう接すれば良いのか、途方に暮れていたのだった。

 

「あの…ね」

「ん?」

「今日も…多分、明日も提督は頑張ってて…それで、きっと邪魔になっちゃうと思うんですけど…それでも、執務のお手伝いをしたり、今夜みたいに、一緒にお話ししてくれると、嬉しい…ですっ」

「…!」

 

意を決するように見上げた彼女の目線を見て、提督は理解した。

見た目や仕草がどうであれ、村雨の中核を成すものはその言動、そして心に表れている。とりとめのない会話をし、その時間を共有したいという彼女の言葉は疑いようもなく真だろう。それ故に、ただ彼女は、自分や艦娘たちとの出会いを大切にし、またより親しくなれるように歩み寄ろうとしてくれているのだと推察したのだ。

 

「邪魔になんてならないさ」

 

そこで一度言葉を切り、俯いていた村雨の頭を緩く撫でる。

なにやら小さく声を上げたようだが、概ね彼女は心地好さそうにそれを受け入れていたようだった。

 

「…今みたいにすること、迷惑じゃないか」

「ええ。もちろん」

「まあ、毎度のことで申し訳ないが…俺は、これだけ生きていても、まだ自分が生きる意味だとか、それに代わるものを見つけられないでいる。それで、君たちと触れ合い、関わり合うことに対して、相応しくないのではないか…そう思うんだ」

 

情けない話だが、とさらに呟いた提督を、村雨はじっと、神妙そうに見つめていた。そんな目線に提督が気付くのとほぼ同時に、彼女は両手で頬を包んだのだった。

 

「…提督は、本当に真面目なんですね」

「こういう性分なのは重々承知しているが…こればかりは譲れないんだ。過去の英霊を引き継ぐ艦娘たちに、生半可な覚悟で接してはいけないと思う」

 

目を伏せるとともに、少し後悔した。弱弱しい自分をこうも簡単に彼女に見せてしまっても良いものだったのだろうかと思った。

しかし、そんなことは些細な問題だというように、村雨は微笑んで、ぎゅっと片腕を抱き締めた。

 

「そんなに考え込まなくてもいいんですよ…って言っても、多分提督は納得してくれないだろうから…」

「?」

 

胸元に擦り寄って、顔を埋めてくる。村雨のもてる最大限の勇気を振り絞ってのことだった。それほどまでに、伝えたい言葉があったからだ。

 

「私が戦う意味は、提督に生きて欲しいから。提督が提督として、私たちと一緒に戦って欲しいから。それが、あなたの生きる意味になるなら…村雨、とっても嬉しいです」

「…参ったな」

 

初めは冗談かとも思ったが、その目を見、そして村雨の覚悟を感じ取って、とてもそれが嘘だとは言えなかった。

同時に、それに応えたいと思ってしまう自分がいたのも事実で、現に今もその思いは覆りそうにないほどに、胸の情熱は冷めることがなかった。

 

「ずっと思ってたこと、言っただけですよ?」

「そうなのか…それは、とても嬉しいことだ」

「そ、それで…どうですか。私の質問」

「ああ、もちろん――」

 

差し出された手を取り、緩く握る。ほぼ答えは出たようなものだったが、敢えて告げた。

 

「村雨たちと、これからを生きていきたい。その真っすぐな思いに応えるために」

 

――長雨が、その一瞬だけは止んでいるような気がした。

 

 

 




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