舞鶴第一鎮守府の日常   作:瀬田

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遅れに遅れてすみません。
ついでに小説中の季節も遅れておりますが、記憶を巻き戻してご覧ください(白目)




第五十九話 秋と鎮守府

「ったく…折角高練度になったってのに、近海任務だけってどういうことよ」

 

曙は、すっかり涼しくなった風の吹く海上で声を荒げた。

手元に握られているのは竿であり、ついでに提督に「これでも着ていくといい」と勧められた釣り用のジャケットをしぶしぶ(本心はお察し)着用している。

 

秋季恒例となったF作業であるが、舞鶴は割と気合いが入っているようだ。

北方部隊に率先して立候補した響と那智などは、文字通り酒の(さかな)目当てに連続出撃を敢行。那智は戦艦に負けず劣らずの砲撃で敵艦隊を近づけず、響はその卓越した腕前で抜群の釣果を発揮し、不漁という言葉を感じさせないほどであった。

 

「荒れておりますなぁ、ぼのたん」

「ぼのたんって言うな!」

 

そんなこんなで、彼女が日頃のツンデレ以上に不満そうな表情をしているその様子は、なにも払暁ギリギリの早朝からの任務で低血圧だからではない。高練度組に混じって敵艦隊と戦い、戦果を挙げて褒められたいという野望が潰えたからである。

駆逐艦は主に対潜処理、そして機動力を活かした釣りを行う任務を命じられており、どちらかといえば釣果(サンマ)を期待されている。

 

そんな曙とは対照的に、同じ任務に就いている後続の漣はすこぶる快調であり、さらにその後方で真剣に竿を振った朧、同様に竿を持ちながら焼き芋を頬張る潮と、その軍人としての艦娘らしさについては置いて措くとして、今日も艦娘たちはおしなべて元気なのであった。

 

「まあ、深部は空母の先輩に任せて、肝心の()()は私たちでなんとかしなきゃ」

「そ、そうだねっ。はむっ」

「なんでそんなやる気なのよ…ってか、まだ食べてるの潮!?」

「潮たん、それ何個目?」

「えっ!?えーとぉ…」

 

目を泳がせながら誤魔化すように笑う潮に、曙は白眼視するばかり。

元々よく食べる子だとは思っていたが、それでも太らないのが羨ましい。

 

「太らなくて羨ましい…とか思ってるでしょ?」

「お、お、思ってないわよ」

「噛みすぎだぞ~?」

「うっさい!」

「おごぉ!?」

 

曙の見事なエルボーが炸裂するのと、「や、焼いてるからゼロカロリーだよねっ」などと供述しつつ食べ続ける潮をぼーっと眺めていた朧の竿が、くいっと引かれる。

 

「おっ、かかった…!」

 

勢いよく引いた竿に伸びる釣糸の先、再び水面へ落下してきたそれを朧が手に取る。

 

「…どちらさま?」

 

()()は、例年彼女たちが目にする秋刀魚という魚よりも一回り小さいサイズをしていた。

朧は、ピチピチと跳ねるその未知の生物を前にして、小さく首を傾げるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「不漁です…」

「あっ、お疲れ様です加賀さん…って暗っ!」

 

第一声に敵艦隊の報告をしないということは、もう海上には敵戦力は残っていないということだろうが、そんなことは些細なことのように、加賀は顔面蒼白だった。

 

「なになに?また食糧(ボーキ)が底ついたの?」

「違うよ漣ちゃん…今年は秋刀魚が不漁なんだって」

 

話を割と真面目に聞いていた潮によると、今年はどうも例年に比べて秋刀魚の漁獲高は低いとのことであった。

そんな彼女の言葉を甚だ不本意に肯定するように、同じく顔面蒼白な赤城がやってくる。

 

「そうなんです…これじゃあ今年の秋を越せません」

「ま、まだ漁獲時期は始まったばかりですし…ねっ、みんな?」

 

後ろを振り返る潮。しかし、同僚の三人は図らずもその意見に同調してくれるわけではなかった。

 

「んー、まあ漣的には別にOKですね。メシがうまければなんでもっていうか」

()城さんなのに顔色は青い…ふふっ」

「わ、私は別にクソ提督に持っていく秋刀魚がないからって心配なんかしてないし!」

「…」

 

すっ、と目の輝きを失った潮は、「うん、そうだよね」と言って、それ以上考えるのをやめた。

 

「ああっ、潮たんの目が灰色に」

()ライトってとこだね」

「ぼーろ…流石に激寒だぜそのギャグは」

 

もはや収拾のつかない事態と相まって、ストッパー役を代行した漣も同様の表情になりそうであった。

しかし、ふとした瞬間に、先ほどの釣果を思い出した。

 

「あっ、そーだ。ぼーろ、さっき釣ったのが入ってるクーラーボックスは?」

(はい)、これ」

「もうええわ!…んしょ、赤城さん、加賀さん、これ見てちょ」

「なんです?それ」

 

落ち込んでいた赤城は、不思議そうに漣の抱えるバッグの内側を覗くと、目を見開いた。

 

「わっ、とんでもない釣果じゃないですか!」

「…しかし、秋刀魚ではないようですね」

 

氷の浮く水の中には、魚の群れがゆったりと泳いでいる。しかし、加賀の漏らした言葉の通り、それは彼女らや艦隊司令部の目的とする魚、秋刀魚ではないようだ。

 

「これ、鰯よ多分」

「おっ、ぼのたん知ってるの?」

「ぼのたんって呼ぶな!…少し前、間宮さんにフライのレシピを教わりに行ったことがあるの」

「へえ…私、知らなかった」

 

目を見開く潮。それは他の二人も同じようで、仲間の意外な一面を知ってか「ほおー」やら「今度作ってよ」やら口々に感嘆の声を上げていたようだった。

 

「…なによ」

「いや?別に、ご主人様のために頑張るぼのたん萌え~、とか思ってないし」

「口に出して言うなっ!」

「ぐえー、いひゃいいひゃい」

 

横一文字に漣の頬を引っ張る曙。微笑ましい駆逐艦たちの戯れに、気を落としていた赤城と加賀もくすくすと笑っていた。

そんな時、旗艦である加賀の元に一通の電信指令が入った。

 

「ん…皆さん、少しお静かに願います。司令部の大淀さんから」

「帰投指令ですかね?」

「ええ、どうやらそのようです…それと、()()魚のことも」

「それ…ってこれですかい?」

 

漣が抱えるバケツの魚が、加賀たちの視線に晒され、ぴしゃっと小さく跳ねた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…これはまた、一体どういうことなんだ?」

「それが、さっぱりです。海域にも特に大きな変化が見られていないようですし」

 

曙ら、秋刀魚を収集するべく編成された南西方面部隊の帰投を命じた提督は、ひとまず執務を中断し、(くだん)の魚の視察に入った。部隊を指揮していた大淀も同行している。

 

「横須賀からの連絡は?」

「未だありません。ただ、呉からも同様のものが。提督の端末にも送信するとのことでした」

「おお…っと、これか」

 

胸元のポケットから取り出した端末のキーを開き、受信ボックスをスライドさせて確認する。

とても艦娘たちには見せられない大本営からの通知の山を掻き分けていくと、上部に丹羽(にわ)からのメールを確認した。

 

「『今年はイワシの竜田揚げで一杯やるか』…とだけ入ってるな」

「…に、丹羽さんらしいですね」

 

ついでに添付されているファイルを覗くと、調理済みの竜田揚げをにこにこ笑顔で皿に乗せている龍田の写真があった。

舞鶴の彼女同様、笑顔の深奥にある怒りの大きさが見て取れるようで恐ろしい。

 

「あまり参考にはならないが…これはどの鎮守府でも共通の問題となりそうだな。…よし」

 

呉で確認済みの問題ということは。大本営直轄の横須賀はもう先に事態の様相を掴んでいると考えられる。

とすれば、この漁獲に起きた異変に対して未だに特別な指令を受け取っていないということは、大本営(むこう)に言わせれば「構わん、続けろ」ということなのだろう。

 

「烹炊班に無電にて指令。鰯料理のレパートリーを揃えるように」

「りょ、了解しました…って、え?」

「安心しろ、俺もいくつか出来るから手伝わせて貰うつもりだ」

「い、いえ、そうではなくて…え?」

 

呆けた表情の大淀をよそに、提督は早くもレシピを考えつつ、活きの良い鰯とにらめっこを始めていた。

 

「…え?」

 

「そういうこと?」と顔に文字が書いてある秘書艦はただ、首を傾げる他にないのであった。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「たっ、大変…!司令官、追加で十七皿ですっ」

「おう。相変わらず遠慮がない量だな。任せろ」

 

注文を取ったのち、その尋常でない量に驚いて厨房に駆けこんできたのは、最近になって鎮守府に加入した神鷹である。

現在は瑞鳳との猛特訓により護衛空母としての実力を確立し、対潜戦闘の腕を磨いているようだ。

 

「今揚がったのがあるからな、とりあえずこれを」

「だ、大丈夫ですか?まだまだお客さんが途絶えていないようですが」

「大丈夫。まだこんなにあることだし」

 

そう言って、昨晩ほとんど貫徹で下準備をした鰯の山に手を伸ばした提督。

片手間であっという間にその身を両断していくのがどうにも現実の光景とは、神鷹は思えずにいた。

 

「と、とりあえずお届けして参ります。それが終わったらお手伝いいたしますね」

「あんまり焦らずにな、人も多いことだし」

 

ととと、と音を立てながら、メイド姿のスカートをひらひらさせて暖簾をくぐっていった神鷹。

小柄な彼女が大量の小皿を盆に載せていることに気が気でないが、彼女も立派な艦娘であるため、そのあたりの平衡感覚はとても人間と比較できるようなレベルではない、と思い直した。

 

「…俺は俺にできることをするか」

 

次の竜田揚げを揚げつつ、もう片方の手でつみれ用に包丁で叩くその様は、とても軍属の人間だということを想起させなかったし、その出で立ちもエプロン姿であり、もはや休日の主夫のそれである。

厨房でそんな魅力的な彼が孤軍奮闘していることなどつゆ知らず、艦娘たちは各々に例年とは違った海の味覚を楽しんでおり、提督はその様子が見えたり、舌鼓を打つ声が聞こえてくるたびに、頬を緩めるのであった。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「おおおっ、可愛いじゃん!」

「そ、そうでしょうか…?」

 

一方、こちらは竜田揚げを注文した伊勢型のテーブル。姉の伊勢は、提督特製の鰯料理を届けにきた給仕の神鷹のメイド姿に興奮冷めやらぬ様子だった。

 

「うんうん!その緑色も…松葉色って言うのかなぁ。奥ゆかしい感じがしてめっちゃ良いよ」

「あ、ありがとうございます…」

 

照れ顔を盆で隠すようにした神鷹の様子が、伊勢のハートに突き刺さる。

心臓の上で重ねた両手で尊さを押し殺すようにした彼女に、日向が冷めた目線を送っていた。

 

「似合っているのは確かだが…伊勢に褒めてもらっても嬉しくはないだろう」

「何よそれー!」

「そ、そんなことはないです…あの、本当に、嬉しいんですけど…!」

 

すぐさま否定すると、二人の視線が真っすぐに向けられて、また恥ずかしくなってしまう。

元々物静かで照れ屋な節がある神鷹は、両手で抱えていた盆に目を伏せ、瞳だけをちらりと伊勢型姉妹に向けながら言った。

 

「は、恥ずかしくて…つい」

「…これは良いな」

「でしょー!?」

「ああ。ついでと言っては何だが、その給仕服…もしや、瑞雲を意識して…?」

「んな訳ないでしょ」

 

ぺしっ、と伊勢の鋭いツッコミが繰りだされる。日向はどこか心外そうに、伸ばしていた腕を戻した。

 

「しかし、瑞雲は役に立つぞ。事実、この鰯のいくらかは、瑞雲の貢献によって発見されているわけだからな」

「まあそれはそうだよねぇ…私たちは艦戦載せることが多くなったからアレだけど、この秋はどこの海域でも引っ張りだこだし」

「そ、そうなんですか?」

「うん。バシー海峡に行く海防艦の子たちも、すっかり妖精さんと馴染んじゃって」

「彼女の姿を見ないと思って訊けば、今や寝食を共にする仲のようだな」

 

「うむ、良いことだ」と腕組みをして頷く日向。若干呆れ気味の伊勢はいつものことだとして、神鷹は瑞雲の可能性に驚いていたのだった。

実際のところ、対爆射撃を回避できる六三四空の熟練操縦能力、そして彗星艦爆部隊に迫る、水上爆撃機としては驚異の爆撃能力によって大活躍中であったので、日向の鼻が高くなるのも頷けた。

そんな圧倒的カリスマ水上機の搭乗員である妖精さんに目の前にして、海防艦たちの目がきらきらと輝くのが、引率としてよく彼女らの面倒を見ている神鷹には容易に想像できてしまうのだった。

 

「ご、ご迷惑お掛けします…!」

「いーっていーって。そもそも兵装は鎮守府所属のものだしね。飛龍の友永隊じゃないんだし、妖精さんの好きにさせとけばいいよ」

「うむ。自由こそ瑞雲の神髄」

「またテキトーなこと言ってる…」

 

この摩訶不思議な掛け合いも、伊勢型姉妹の個性なのだろうかと思いつつも、神鷹はふと、壁に掛けてある時計の針を目にした。

 

「わっ、大変…!もうこんな時間」

「あっ、そうか。シフト結構忙しいんだっけ」

「引き留めてすまん。急ぎ向かってくれ」

「は、はい。それでは、どうぞごゆっくり」

 

一礼して去っていく神鷹の所作には焦りどころか流麗さが勝っており、一体どのような英才教育ならぬ英才研修が施されたのかと首を傾げる伊勢型姉妹なのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、これで今日は終了だな。皆、よく頑張ってくれた。給与は来月の分に上乗せする形で支払われる予定だ。着替えが終わった者から伊良湖のいるカウンターに寄って、券を受け取ってくれ」

「「了解っ」」

 

遅めの昼食時間帯が過ぎた15時頃、翌日の仕込み分を残して完売となったため、特別料亭は終了。

提督の「それでは解散」の一言で、給仕担当の艦娘たちが一斉に口を開いて歓談を始めた。

赤城が満腹になるのが先か、揚げ物の油が尽きるのが先か、など話題が絶えない中、提督はエプロンの帯を結び直し、一人厨房に向かっていた。

 

「…おっ」

「あら?」

 

カウンター裏手の暖簾をくぐると、すぐ近くで鰯の仕込みを行っている艦娘――間宮、そして神鷹と目が合った。

 

「間宮…と神鷹。もうシフトは終わりだが…」

「あっ、ええと…その」

「ふふっ、手伝いたいって申し出て下さったんですよ」

「そうなのか」

「は、はい。私、なかなかお給仕がうまく出来なくて…だから、せめて仕込みくらいはお手伝いできたらと」

 

どうやら、話を聞いてみれば仕事に慣れないせいで迷惑を掛けてしまったと彼女は感じているようだった。

給仕中の様子を思い返してみても、それほど手こずっているような印象は見受けられなかったのだが、それだけ彼女の職務に懸ける思いが強かったということだろう。

 

「本業でもないんだし、それは当然だろう。それに、神鷹は随分働いてくれていたと思うぞ」

 

なあ、間宮と加えて、提督は微笑んでいた。

間宮も特に否定するようなことはなく、むしろ彼女に感謝するような優しい目線で頷いていた。

 

「い、いえ…そんなことは」

「まあ、手伝ってくれるのは有難いことだ。三人で手早くやってしまおう」

「そうですね。じゃあ、神鷹さん、よろしくお願いしますね?」

「は、はい」

 

未だ、神鷹の胸中では、東雲提督という人間に対してぼんやりとしたイメージが渦巻いていた。それは今この瞬間にもいえて、軍装の上着を脱ぎ捨ててエプロンをつける料理人さながらの格好を見て混乱しているのが好例だろう。

 

「…提督はよくお料理されるのですか?」

「俺か?うーん…そうだな。自炊は士官学校の寮に居たときに覚えてな。()s…由良がまだ同級生だったころによく当番制だったんだ」

「…これは、私も初耳ですね。今度伊良湖ちゃんに教えてあげないと」

「そこまで需要がある話なのかそれは…」

 

もちろん、というように笑みを浮かべる間宮に苦笑いを返す提督であったが、彼らとは別に、神鷹は、一人考え込むような様子だった。

 

(ということは…提督は、たった一人で)

 

勿論、彼が言うように、士官学校での生活に由良という存在がいたことは大きい。自炊だって、寮にいれば必要な場合もあるだろう。

しかし、それでも、それまでは彼は一人だったかも知れない。それはコミュニケーション上の問題ではなく、以前、真剣な面持ちで姉の大鷹から告げられたような、孤独の重みに耐えながら、彼は生活してきたということへの、彼女なりの些細な憂慮だった。

 

「…凄いです。何でもできてしまうなんて」

「そんなことはない。どの料理も間宮や伊良湖には敵わないよ。鳳翔や大鯨にだってそうだ」

「それは、もちろん本職の方ですから。日頃から提督職をやる傍ら、それを両立できていること…尊敬します」

「お、おう…」

「ふふっ」

 

褒められ慣れていない(悲しいことに)提督が、神鷹のあまりの熱心な観察眼にたじろいでいる。

その様子を、間宮が微笑んで眺めていた。

 

「ま、まあ全ては偶然の産物というものだ」

「偶然…ですか」

「ああ」

 

その言葉だけで、神鷹は理解を進められるとは思えなかった。全てを、「偶然」の一言で片付けていいようには、納得出来ずにいた。

そうやって思案する様子に、提督もやっと、思い当たったようだ。

 

「…同情を買おうとしてこうしている訳じゃあない…と言いたいところだが、そう見えているのかも知れない」

「いえ、そんなことは」

「良いんだ。ただ、俺から言えることは一つだけだ。…俺は、君たちとこういう時間を過ごしたい。そのためにはどれだけ損をしてもいい。少なくとも、そう願ってしている…つまり、結局のところは独善(エゴ)なんだが」

 

自嘲するような笑みを浮かべた提督。それでも、決して表情は悲観からくるそれではなかった。

それを察したのか、間宮も言葉を加える。

 

「私は、提督のそういう気持ち、嫌いではありません。…むしろ、好きです。戦闘で疲れた心を癒し、皆で笑いあえる…そんな環境にあって欲しいと思います。もっとも、これは私が非戦闘艦だからそう思ってしまうのかも知れませんが――」

 

鰯の下処理を終えたまな板をよくすすいで、水道栓をきゅっ、と強く締める。

滴った雫の落ちる音が、言葉を切ったあとの沈黙によく響いた。

 

「…神鷹さんは、どう思っていますか?」

「――っ…」

 

いつも通りの、優しい瞳。今、ここで彼女の言葉を否定してしまうことも容易にできてしまうだろう。

けれど、そうは思わない。思えなかった。

二人のそんな表情を前にして、神鷹は艦隊にかける思いの大きさを知ったからだ。

 

「…はい。私も…そうあって欲しいです。そうなっていけるよう、お二人を支えさせて下さい」

「…そう言ってくれるとありがたいよ」

「ええ。一緒に頑張っていきましょうね」

 

間宮と笑いあう神鷹を眺めて、彼女が着任したばかりの頃を思い出す。

懸命に。真剣に任務活動にとり組む様は、今も変わっていないが、心の余裕というものが生まれたのではないかと思う。

そんな純朴さを、大切にしてほしいと、そう願っていた。

 

「神鷹さーん!」

「え…雷さん、電さん」

「司令官さんに間宮さんもいるのです」

「二人とも、ごめんなさいね。今はお店やってなくて」

「そうじゃないわ!」

「さっき神鷹さんがお給仕されてるのを見て…電たちも、お手伝いにきたのです」

「…!」

 

驚いた様子で振り返る神鷹に頷く。

今、自分がこうして生きていられること、提督として、艦隊を指揮する立場にいられること。

仲間がいることは、そこに絶対に必要となるということを、知って欲しかった。

 

「ありがとう。それじゃあ、最後の掃除と後片付けをやってしまおう。終わったら、丁度知り合いから頂いた栗と小豆で、パフェでも作ろうか」

「本当なのです!?」

「やったあ!」

「神鷹と間宮もどうだ?」

「あ、ありがとうございます!頂きます」

「むむむ…手ごわい商売敵ですね。でも、頂きます!」

「よぉし、それじゃあやるわよ!」

 

勢いよく飛び出して掃除用具を取りに行った電たちを追いかけていく神鷹。

「危ないですよ」と注意するのとは裏腹に、その表情は、お礼の和風パフェに期待して話をする彼女らを微笑ましく見つめているのであった。

 

「…提督、後でレシピを教えて頂けると」

「抜け目ないな。まあ、()()()()()なら喜んで協力させてもらおう」

 

苦笑して、窓に目を向ける。切れ目のない青空が、どこまでも続いていたのだった。

 

 

 

海外艦、もし追加するなら初登場は

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