舞鶴第一鎮守府の日常 作:瀬田
という訳でリハビリがてらショートな前編です。妄想垂れ流しなのでテキトーにお読みいただければ。
夏季特別海域の攻略を終えた舞鶴鎮守府。
日ごとに涼しくなる風も、まだまだ熱風に近く冷房は必須である。
「由良、そっちはどうだ?」
「ええ、今ちょうど…っよし!終わりました」
埋めるべき書類の空白を埋め切って、筆を置きながら、秘書艦兼昔馴染みに、提督は声を掛けた。
勿論、声を掛けた彼女というのは
「お疲れさん。結構大変だったろう」
「あなたこそ。また寝てないんじゃない?」
「…海咲のお陰で今日はよく眠れそうだ」
「誤魔化しが下手ですねえ…まあ、名前で呼んでくれたのは嬉しいから、許してあげる」
半目で睨みを効かせてくる彼女から何とか目を逸らすが、追及の視線からは逃れられない。
視界を移し続けても入り込んでくる由良のふくれっ面に幼馴染の面影を感じ取って、つい懐かしくなっていると、執務室の扉が叩かれる音が聞こえた。
「あら、誰かしら?」
「明石です!」
「卯月もいるぴょん」
「入ってくれ」
珍しい組み合わせに、眼前の秘書と顔を見合わせるが、これも激戦のあの時には見られなかった光景だと思い直して、そう口にした。
「しつれいするっぴょん!」
「失礼します」
元気よく入室してきた面々の顔ぶれを見て改めて思い直せば、桃色の髪が揺れる二人は姉妹艦のように思えてきた。
どちらも特別海域では対潜戦闘、泊地修理と自らの任務をしっかりと遂行してくれたのだった。
「おう、お疲れ。今日はどうしたんだ?」
「はい、それがですね…」
「王様ゲームするっぴょん!」
「…え?」
途端に状況が緊迫してくる。それは、見た目小学生の卯月が口にしたワードがあまりにも似つかわしくなかったからでもあり、そしてその言葉の意味――というか危険性というか、概ね大学生特有のモラルの乱れ的なものを気にした由良の顔が青褪めた。
「…どこでそんなワードを」
「そんな、っていうのがどんな意味かは分からないけど、発案は明石さんっぴょん」
「明石さん…」
「ちょちょちょ、誤解させないでよ卯月」
由良の冷ややかな視線に晒されて、明石が焦る。話の全てを見透かしているような、卯月の悪戯っぽい笑みは、彼女らをますます姉妹だと感じさせていた。
苦笑しつつ、このままだと話が見えてこないのを確信して卯月に問う。
「それで、結局どういう話なんだ?」
「いやに冷静ね」
「流石司令官っぴょん。実は――」
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「なるほど…海域制覇のお祝い会のレク、ってことね」
「由良さん、その通りです!」
ずびし、と明石とそれに続いた卯月が由良を指す。
彼女らの話では、毎年恒例の夏季特別海域攻略に伴う宴会のレクリエーションとして、いわゆる王様ゲームをやってみてはどうか、とだれかが提案して、それを明石が具体的な形へまとめてきたようだ。もちろん任意参加である。
「でも…なんだか王様ゲームっていかがわしいイメージがあるわ」
「そうなのか?」
これに対する由良の反応はいまいちだった。表情が不安で曇る。
「提督さん…
「馴染みがない、ってところが哀しいですね…」
「ぐ…まあそれはそれとして、それが何か危なかったのか?」
「見つかり次第軒並み摘発案件よ。ええと、なんというか…王様役にかこつけて女の子に変なこと命令しようとしたのもいたんじゃない?」
「変なことって、なにぴょん?」
「はいはい、卯月はちょっと耳塞いでおくね」
「えー」
話の展開を予測した卯月以外の面々が、彼女の反応に安堵する。どうやらうちの鎮守府の風紀は爛れていないらしい。
「まあ、企画を立ち上げる前にそれも検討したんですけど、冷静に考えて鎮守府には男性は提督しかいませんし」
「何番、って指定して提督さんが当たることもないし、万が一にもその逆もないってことかな?」
「そういうわけです」
なるほどね、と顎に指を当てて考える由良を見て、提督も同様に思考を巡らせる。
(俺が参加しなければいいというのは…まあ折角誘ってもらっているのだから、言わぬが花か)
どういう訳か信頼を寄せられているのはありがたいと今は思っておくことにして、あれこれ話を進める由良と明石を眺める。
――話が煮詰まってくるにつれて、彼女らの眼光が鋭くなって、何やら固い握手を交わしていたのは、この際見なかったことにしておく。
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「という訳で始まりました、王様ゲームっ!!」
「「いえーい!!!!」」
そんなこんなで数日明け、八月の終わりの日。
宴もたけなわとなってきたところで、場所を宴会場からラウンジ横の多目的スペースの一角に移し、待望(?)のそれが開始された。
任意とはいえ大勢の艦娘たちが参加していたので、明石たち企画者らも満足していたようだった。
「司会はやっぱり青葉なんだな」
「はい。こういう時の盛り上げ役にぴったりだと思いまして」
隣に座る彼女の人選は間違っていなかったようで、「王様になりたいかー!?」と呼びかけた青葉に、熱狂的な歓声が返される。
ノリ…というものがあまり提督には(哀しいことに)理解できていなかったが、こういう遊びは盛り上がった方が面白いのだろうということは、なんとなく予想がついた。
「いやあ、すっごい熱気ですねえ。イイ感じですっ!それでは早速、ルールの説明からいっちゃいましょう!」
妖精さん、お願いします!と叫ぶ青葉の後ろ、小さい舞台では電灯が消えて、代わりにスポットライトがその中央を照らす。
探照灯の妖精さんがプロジェクターのスイッチを身体全体を使って押し込むと、そこには簡易的な映像が投射される。
「一般的な王様ゲームといえば、みんなで割り箸を一本ずつ選んで王様を決め、お題を決めますが、うちは大所帯。割り箸一つ用意するのも、『環境保護の観点でうんたらかんたら~』と文句を言われてしまうのが目に見えています」
「世知辛いわね…」
呆れる叢雲が呟く。
「そ・こ・で!このプロジェクターと、妖精さんの出番という訳です!」
「おまかせあれー」
どこかで見たような指さしの先にいた先程の妖精さんが、何やらプロジェクターを操作している。
観衆がそれをじっと見つめていると、突然、部屋全体が暗闇に包まれた。
「な、何っ!?」
「夜戦!?」
「姉さん、違います」
数秒後、舞台側のスクリーンにぱっと映ったのは、仮想的なルーレットとカードの山札。
「これこそ、今回のオリジナル王様ゲームを支えてくれる画期的な舞台装置なのです!」
「ど、どういうこと…?」
「まあ見てて下さい!まずはデモンストレーションからです!妖精さん…スタート!」
「がってんしょうちのすけ」
青葉のゴーサインとともに、ルーレットが開始される。
よくよく目を凝らしてみてみれば、参加者が多いせいか、細くなったルーレットの選択肢を見てみれば、そこには艦娘たちの名前が記されていることに気付いた。
「なるほど。それならあのカードが…考えたな」
「いやあ、苦労して作った甲斐がありましたよ」
ざわついていた艦娘たちの中にも、気付いた者が出てきたらしい。
次第に艦娘たちの視線が舞台側に集中していく。
「それでは…すとーっぷ!!」
青葉の号令とともに、ルーレットの回転が減速していき、やがて一人の人物の名を指した。
「おおっとこれは…吹雪さんだぁーっ!」
「わ、私ですか!?」
画面に大きく表示された名の艦娘――吹雪が立ち上がると、妖精さんがタイミングよくスポットライトを浴びせる。
続いて、画面にはカードの山札から無造作に取り出された数枚が背を向けて並べられた。
「それじゃあ吹雪さん、お題を決めちゃって下さい!」
「え、ええと…それじゃあ、一番右側で」
「了解です!それでは…カードオープン!」
ふわっと、吹雪の指定したカードが浮き上がり、効果音とともに翻る。
そこに書かれていた指示は、『5秒で卯月のモノマネ』だった。
「え?」
「さあカウントダウンスタート!」
「ごー」
「よーん」
「え、えええ!?」
「そこは手動というか妖精さんが声を出すんだな…」
「予算が足りなくて」
吹雪の同様をよそに、カウントダウンは妖精さんの間延びした声に乗せられて進行する。
目を回していた彼女に期待の視線が突き刺さる。
「にーい」
「いーち」
「ふっ、吹雪だぴょんっ!!!」
一瞬の沈黙。ウサギのマネをしたのか、頭の左右に添えられた吹雪の手を含め、時間が止まる。
「「…」」
「う、ううう…!」
そののちに、一人吹雪は顔を紅潮させるのであった。
「いやぁ、可愛かったですねぇ!」
「もうやめてくださいよぉ!」
リアクションは絶大であった。「可愛すぎて心臓が止まりました」とは、妹の白雪や後発組の駆逐艦たちの弁である。
「というか、このゲーム王様を決めるんじゃなかったの?」
「言われてみればそうですね。少し仕様を変更しましょう!」
「わ、私の一発芸は何だったんですかぁ!?」
夕張の指摘を受け、しばしお待ちを!と妖精さんや明石をはじめとする関係者を引き連れて舞台裏へ歩いていった青葉。
抗議虚しく打ちひしがれる吹雪は、綾波や時雨に慰められていた。
「吹雪は大丈夫だろうか」
「まあ、あの子も打たれ強いですから…」
「そうだな」
苦笑したのは、明石とは反対側の隣に座っていた高雄である。
生真面目というか、堅実なイメージを抱かせる職務態度や、会話の節々で感じる実直さから、彼女がこういう催しに参加するのは、はっきり言って意外だった。
「しかし、結構ハードなお題もあるんだな。この調子だと、高雄のウサギのマネを見ることになるかも知れない」
「あら、私は一発芸を披露しにきたのではありませんよ。王様になって、提督や皆さんの素敵な姿を見せて頂くためです」
「勘弁してくれ…」
大胆不敵、挑戦的な口調で微笑む彼女は、なんだか夜戦突入前よりも昂揚しているように感じる。
ソロモン海夜戦で見せた縦横無尽の立ち回りを想起させ、どうかその矛先が自分に向かないことを祈るばかりだ。
「うふふ。まあ、王様になってお題を決めても、指名することが出来ないと意味がありませんが」
「それが新しいルールなのか?」
「そのようねぇ」
ふと、明石の居なくなった席から声がする。高雄の姉妹艦、愛宕のものだった。
「先に例のルーレットで王様を決めて、山札から引かれたお題のうち一つを指定」
「その後で、またルーレットを回して犠せ…こほん、命令の対象となる人を選ぶようですね」
「なるほどな…」
恐ろしい言い間違えはこの際聞かなかったことにして、先程とは少し条件の変わったルールであることを認識する。
吹雪には悪いが、というかあれは彼女だから許されるのであって、自分がやっては色々と法律に引っ掛かって最終的に更迭されそうなので実現しないでほしい。
「お待たせしましたーっ!」
脳内でそんな自虐を繰り広げていると、舞台袖から華々しく戻ってきた青葉が司会進行を復活させる。
同様にプロジェクターをいじる妖精さんを見ていると、どうやら高雄たちの言った通りのルール展開となりそうだ。
「ご指摘によりルールを一部変更しています!第一回目のルーレットではまず何より大切な王様を決めます!掛け声はもちろん、『王様だーれだ!?』でお願いしますっ!」
「次にお題ですね。どんな命令でもできる、という訳ではなく、王様は山札からランダムに生成されたお題のうちから選ぶことになります。…まあ、この理由はお判りでしょうが」
遠い目をして言う明石。その先には、企画立案の段階で相当に欲望に塗れた命令を断行しようとした大和などが居り、もちろん目線を逸らして吹けもしない口笛を吹いていたのだった。
「大和…お前」
「なっなんですか武蔵!?私はこれをいい機会に提督とあんなことやこんなこと…あっいけません提督それ以上はっ!」
「自白を通り越して妄想まで…こいつ、只者ではないな」
「やめなさい長門…それだと尊敬しているように聞こえるわ」
艦隊の華のイメージが急降下していく。
見かねた某軽巡が「早くやりましょう」とため息交じりに促して、ゲーム本番がようやく開始される。
「は、はい…。そ、それでは切り替えてまいりましょー!皆さん、せーのっ」
「「王様だーれだっ!?」」
艦娘たちの掛け声とともに、羅針盤妖精さんが飛び出てくる。
彼女らが手に掛けた運命の針が、今にも回り出そうとしていた。
海外艦、もし追加するなら初登場は
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ドイツ艦
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イタリア艦
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ロシア艦
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アメリカ艦
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イギリス艦