舞鶴第一鎮守府の日常   作:瀬田

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第六十九話 運とは?

──────演習海域。

 

「はあっ!」

 

毎日のように行われる演習。

二隊に分かれて行う模擬海戦において、瑞鶴は、第弐演習艦隊旗艦を務めていた。

 

「っぽーい!」

 

夕立が、見当外れの砲撃を行う。

 

「···ありゃあ、随分と外したね···」

「ごめんなさいっぽい···」

「大丈夫よ。まだまだこれから!」

「はいっ!」

 

すると、途端に風向きが北の方角へ変わる。

 

「あれ···これは···」

 

──────所変わって、翔鶴旗艦、第壱演習艦隊のいる海域。

 

「しょ、翔鶴さん!直上です!」

「···あら?」

 

夕立の砲撃は、翔鶴の元へと吸い込まれるように、風に流された。

 

「きゃああ!」

「だ、大丈夫ですか!?」

 

思わず傍の白雪が駆け寄る。

 

「え、ええ··」

 

『そこまで。第壱隊旗艦中破判定により第弐隊の勝利です』

 

演習の結果を告げるアナウンスが鳴り響く。

 

「やったっぽい!」

「今のは運がよかっただけでしょ···」

 

瑞鶴は夕立に呆れた目線を送るのであった。

 

 

──────入渠ドッグ

 

「はああ···」

「しょ、翔鶴姉、元気出して!?」

「流れ弾に当たるなんて···ついてないわ···」

「ま、まあまあ。時にはこんな時もあるよ」

「時々ならいいんだけど···」

 

うんざりした表情で、ゆっくりと湯から上り、シャワーを浴びようと、水道栓を捻る。

 

「···あっ、そこは···」

「ひゃあああ?!」

 

──────故障により、そのシャワーだけ温水が出なかったと、後に瑞鶴は言った。

 

 

「うう··」

「あわわ···」

 

その後、水の冷たさに驚いた翔鶴は足を滑らせ、転ぶのだった。

 

「つ、ついてないわ···やっぱり被害担当艦だものね···」

「そ、そんなことないよ!たまたまよ!」

 

暗い顔で項垂れる翔鶴を、何とか励ます。

 

「···でも、普段からこんなことばっかりだし···」

「うっ」

 

翔鶴の不運は、今に始まったことではない。

軍艦時代から、妹の瑞鶴が幸運艦とされるのに対し、翔鶴は被害担当艦とされることが多かった。

 

「この名も伊達じゃないわね···はぁ。」

 

(不味い···翔鶴姉がネガティブ思考に···)

 

姉の姿に慌てていると、部屋にノックの音。

 

「おーい翔鶴!今日の午後は秘書艦じゃなかったか?」

「···あっ、そうだった!す、すみませ〜ん」

 

提督に呼ばれ、弾かれたように飛び出していく翔鶴。

 

「大丈夫かなぁ···」

 

そんな姉の姿が、瑞鶴は心配でしょうがなかった。

 

「も、申し訳ありません!」

「大丈夫だって。それより、珍しいな。翔鶴が忘れるなんて」

 

普段から勤勉を絵に書いたような翔鶴のことだ。何かあったのだろう。

 

「それは···えっと」

 

そう言って、翔鶴は今日の成り行きを説明し始めた。

 

────────────────────────

 

「なるほど、ねぇ」

 

見事な不幸っぷりだ、とは言わなかったが、翔鶴らしいといえばそうだ。

 

「普段の行いが悪いんでしょうかねえ···」

 

自嘲気味に薄く笑う翔鶴にたじろぐ提督。幸が薄そうである。

 

「そ、そんなことはないと思うが···もし無理をしてるようなら今日は休んで貰ってもいいけど」

「そ、そういう訳には行きません!」

 

音を立てて立ち上がった翔鶴にたじろぐのだが、それと同時に、深い感慨を覚える。

 

(やっぱり、翔鶴は真面目ないい子だなぁ···何かご褒美あげられないかな)

(数少ない提督との共同作業··!)

 

ややすれ違っているようだが、事務の進行に支障は出ないのだから、不思議である。

 

「···よし、後はこれを資料室に持ってけば終わりだ。翔鶴、これを頼む」

「はい···って、提督の方が多いじゃないですか!」

 

持ちます、という翔鶴に大丈夫だと制する。

 

「階段もあるからな。もし何かあったら危ない」

「そ、それは提督もですよ!」

「心配するな。これでも士官学校時代は鍛えたもんだ。それに、女の子に多く持たせる訳にはいかないよ」

「うう…はい」

 

翔鶴としては、先程の失敗を取り返すためにも、活躍しておきたかった。

しかし提督の笑顔にほだされてしまったようだ。

そうやって会話を続けつつ差し掛かった、2階への階段。

 

(やっぱり提督は、優しいなぁ···)

 

数段上がったところで、翔鶴の足が滑る。

 

「あ──────」

 

途端、逆さまになる視界。

 

(やっぱり私は、不幸艦なんだ──)

 

諦めて自由落下に身を委ねた瞬間、視界の外から腕を掴まれた。

 

「翔鶴!」

「えっ···」

 

それでも、声を出す間もなく、翔鶴は真っ逆さまに落ちていった。

 

「う···ん?」

 

(痛くない?というより、下に誰か···)

 

「いたたた···翔鶴、すまんがどいてくれると助かる」

「きゃっ!ご、ごめんなさい提督!」

 

落ちる翔鶴の身代わりになるように下敷きになったのは、他ならない提督だった。

 

「だ、大丈夫だ。翔鶴は怪我はないか?」

「は、はい···」

 

どうやら翔鶴の踏んだ段が、オイルなどで滑りやすくなっていたようだった。

 

────────────────────────

 

「す、すみません···提督にもご迷惑をおかけしてしまって···」

「事故なんだから気にするな。それより、これから時間あるか?」

「え···?」

「連れていきたいところがあるんだ」

 

階段に散らばった書類を拾い集めた後、提督は翔鶴にそう言った。

 

「ここ、ですか···」

「ああ。本当なら埠頭でもいいんだが、駆逐艦たちがよく来てるみたいだからな。ここは秘密の場所だ」

 

鎮守府から数分歩いたところにある、岬の突端。

埠頭を越えて更に海に近づいて、日本海を一望できるこの場所は、付近随一の絶景スポットだった。

 

「きれい···」

 

夕焼け空。水平線に日が沈んでいく。

 

「そうだろ?俺は昔から、嫌なことがあったら、ここか埠頭に来てるんだ」

「そうなんですか」

 

夕日を真っ直ぐ見つめて、彼は続ける。

 

「忘れられる訳じゃない。慰められる訳でもないけど、この景色を見てると、また頑張ろうって思える」

「···はい」

 

どこまでも真っすぐに生きるそんな姿に、自分は惹かれているのかも知れないと、微笑んだ。

 

「なあ、翔鶴。」

「はい。」

「前世の艦としての記憶とか、運命とかに、自分が抗えないって考えることが、これからあるかも知れない。けどさ、あの時とは絶対に違うものが、お前にはあるだろう?」

「はい···!」

 

妹の瑞鶴だけでなく、一航戦、二航戦の方たちがいる。

 

(そして…何よりも)

 

「···俺も、いるからさ」

「え···」

 

考えが読まれているようで、少し焦る。

 

「加賀や赤城たちに相談できないって思ったら、俺を頼ってくれていい。どんなことだっていいんだ。翔鶴が不安に感じてること、嬉しかったこと。」

 

多少の恥ずかしさを感じているのか、頬をかきながら、彼は笑った。

 

「この鎮守府は皆、俺のかけがえのない仲間だ」

「は、はい···!」

 

気付けば、顔が火照っているのが分かる。

 

「···ん?大丈夫か翔鶴?顔が──────」

「わーっ!な、何でもないですっ!」

「そうか···?」

「そ、それじゃあ提督、また明日···!」

「ああ、そのことなんだが、夕飯、一緒にどうだ?」

「へっ!?」

「あんまり今まで翔鶴と二人で話することもなかったしさ···もし、何か用事があるならいいんだけど」

「よ···」

「?」

「喜んでっ!」

「お、おう···」

 

提督は、ころころと表情の変わる翔鶴に苦笑しつつも目の前の夕日を、暫くの間、眺めるのだった。

 

──────夕飯後

 

「いでででっ!」

「だ、大丈夫ですか司令官···?急に階段で転ぶなんて」

「あ、あはは···ドジっちゃって」

 

(翔鶴にバレなくて良かった···)

 

翔鶴を庇うときに腰を捻りすぎたようだ。

部下を助けるためだからよかったのだが、翔鶴たちにばれないようにしなければ。

吹雪に腰を押してもらいながら、その晩は何かと呻き声を上げる彼の姿が見られたという。

 

「今日は幸せだったわ瑞鶴!」

「気のせいかな···誰かが困ってるような···」

 

運とは、人を巡り巡って様々なことをもたらすものである。

 

(全く、恐いもんだ)

 

そう思いつつ、溜息をつく提督なのであった。

 




この姉妹ホントに好きなんです(大胆告白
また出てくるかもしれないです。他の艦娘が嫁の提督さんには申し訳ないですが…

海外艦、もし追加するなら初登場は

  • ドイツ艦
  • イタリア艦
  • ロシア艦
  • アメリカ艦
  • イギリス艦
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