舞鶴第一鎮守府の日常 作:瀬田
──────演習海域。
「はあっ!」
毎日のように行われる演習。
二隊に分かれて行う模擬海戦において、瑞鶴は、第弐演習艦隊旗艦を務めていた。
「っぽーい!」
夕立が、見当外れの砲撃を行う。
「···ありゃあ、随分と外したね···」
「ごめんなさいっぽい···」
「大丈夫よ。まだまだこれから!」
「はいっ!」
すると、途端に風向きが北の方角へ変わる。
「あれ···これは···」
──────所変わって、翔鶴旗艦、第壱演習艦隊のいる海域。
「しょ、翔鶴さん!直上です!」
「···あら?」
夕立の砲撃は、翔鶴の元へと吸い込まれるように、風に流された。
「きゃああ!」
「だ、大丈夫ですか!?」
思わず傍の白雪が駆け寄る。
「え、ええ··」
『そこまで。第壱隊旗艦中破判定により第弐隊の勝利です』
演習の結果を告げるアナウンスが鳴り響く。
「やったっぽい!」
「今のは運がよかっただけでしょ···」
瑞鶴は夕立に呆れた目線を送るのであった。
──────入渠ドッグ
「はああ···」
「しょ、翔鶴姉、元気出して!?」
「流れ弾に当たるなんて···ついてないわ···」
「ま、まあまあ。時にはこんな時もあるよ」
「時々ならいいんだけど···」
うんざりした表情で、ゆっくりと湯から上り、シャワーを浴びようと、水道栓を捻る。
「···あっ、そこは···」
「ひゃあああ?!」
──────故障により、そのシャワーだけ温水が出なかったと、後に瑞鶴は言った。
「うう··」
「あわわ···」
その後、水の冷たさに驚いた翔鶴は足を滑らせ、転ぶのだった。
「つ、ついてないわ···やっぱり被害担当艦だものね···」
「そ、そんなことないよ!たまたまよ!」
暗い顔で項垂れる翔鶴を、何とか励ます。
「···でも、普段からこんなことばっかりだし···」
「うっ」
翔鶴の不運は、今に始まったことではない。
軍艦時代から、妹の瑞鶴が幸運艦とされるのに対し、翔鶴は被害担当艦とされることが多かった。
「この名も伊達じゃないわね···はぁ。」
(不味い···翔鶴姉がネガティブ思考に···)
姉の姿に慌てていると、部屋にノックの音。
「おーい翔鶴!今日の午後は秘書艦じゃなかったか?」
「···あっ、そうだった!す、すみませ〜ん」
提督に呼ばれ、弾かれたように飛び出していく翔鶴。
「大丈夫かなぁ···」
そんな姉の姿が、瑞鶴は心配でしょうがなかった。
「も、申し訳ありません!」
「大丈夫だって。それより、珍しいな。翔鶴が忘れるなんて」
普段から勤勉を絵に書いたような翔鶴のことだ。何かあったのだろう。
「それは···えっと」
そう言って、翔鶴は今日の成り行きを説明し始めた。
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「なるほど、ねぇ」
見事な不幸っぷりだ、とは言わなかったが、翔鶴らしいといえばそうだ。
「普段の行いが悪いんでしょうかねえ···」
自嘲気味に薄く笑う翔鶴にたじろぐ提督。幸が薄そうである。
「そ、そんなことはないと思うが···もし無理をしてるようなら今日は休んで貰ってもいいけど」
「そ、そういう訳には行きません!」
音を立てて立ち上がった翔鶴にたじろぐのだが、それと同時に、深い感慨を覚える。
(やっぱり、翔鶴は真面目ないい子だなぁ···何かご褒美あげられないかな)
(数少ない提督との共同作業··!)
ややすれ違っているようだが、事務の進行に支障は出ないのだから、不思議である。
「···よし、後はこれを資料室に持ってけば終わりだ。翔鶴、これを頼む」
「はい···って、提督の方が多いじゃないですか!」
持ちます、という翔鶴に大丈夫だと制する。
「階段もあるからな。もし何かあったら危ない」
「そ、それは提督もですよ!」
「心配するな。これでも士官学校時代は鍛えたもんだ。それに、女の子に多く持たせる訳にはいかないよ」
「うう…はい」
翔鶴としては、先程の失敗を取り返すためにも、活躍しておきたかった。
しかし提督の笑顔にほだされてしまったようだ。
そうやって会話を続けつつ差し掛かった、2階への階段。
(やっぱり提督は、優しいなぁ···)
数段上がったところで、翔鶴の足が滑る。
「あ──────」
途端、逆さまになる視界。
(やっぱり私は、不幸艦なんだ──)
諦めて自由落下に身を委ねた瞬間、視界の外から腕を掴まれた。
「翔鶴!」
「えっ···」
それでも、声を出す間もなく、翔鶴は真っ逆さまに落ちていった。
「う···ん?」
(痛くない?というより、下に誰か···)
「いたたた···翔鶴、すまんがどいてくれると助かる」
「きゃっ!ご、ごめんなさい提督!」
落ちる翔鶴の身代わりになるように下敷きになったのは、他ならない提督だった。
「だ、大丈夫だ。翔鶴は怪我はないか?」
「は、はい···」
どうやら翔鶴の踏んだ段が、オイルなどで滑りやすくなっていたようだった。
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「す、すみません···提督にもご迷惑をおかけしてしまって···」
「事故なんだから気にするな。それより、これから時間あるか?」
「え···?」
「連れていきたいところがあるんだ」
階段に散らばった書類を拾い集めた後、提督は翔鶴にそう言った。
「ここ、ですか···」
「ああ。本当なら埠頭でもいいんだが、駆逐艦たちがよく来てるみたいだからな。ここは秘密の場所だ」
鎮守府から数分歩いたところにある、岬の突端。
埠頭を越えて更に海に近づいて、日本海を一望できるこの場所は、付近随一の絶景スポットだった。
「きれい···」
夕焼け空。水平線に日が沈んでいく。
「そうだろ?俺は昔から、嫌なことがあったら、ここか埠頭に来てるんだ」
「そうなんですか」
夕日を真っ直ぐ見つめて、彼は続ける。
「忘れられる訳じゃない。慰められる訳でもないけど、この景色を見てると、また頑張ろうって思える」
「···はい」
どこまでも真っすぐに生きるそんな姿に、自分は惹かれているのかも知れないと、微笑んだ。
「なあ、翔鶴。」
「はい。」
「前世の艦としての記憶とか、運命とかに、自分が抗えないって考えることが、これからあるかも知れない。けどさ、あの時とは絶対に違うものが、お前にはあるだろう?」
「はい···!」
妹の瑞鶴だけでなく、一航戦、二航戦の方たちがいる。
(そして…何よりも)
「···俺も、いるからさ」
「え···」
考えが読まれているようで、少し焦る。
「加賀や赤城たちに相談できないって思ったら、俺を頼ってくれていい。どんなことだっていいんだ。翔鶴が不安に感じてること、嬉しかったこと。」
多少の恥ずかしさを感じているのか、頬をかきながら、彼は笑った。
「この鎮守府は皆、俺のかけがえのない仲間だ」
「は、はい···!」
気付けば、顔が火照っているのが分かる。
「···ん?大丈夫か翔鶴?顔が──────」
「わーっ!な、何でもないですっ!」
「そうか···?」
「そ、それじゃあ提督、また明日···!」
「ああ、そのことなんだが、夕飯、一緒にどうだ?」
「へっ!?」
「あんまり今まで翔鶴と二人で話することもなかったしさ···もし、何か用事があるならいいんだけど」
「よ···」
「?」
「喜んでっ!」
「お、おう···」
提督は、ころころと表情の変わる翔鶴に苦笑しつつも目の前の夕日を、暫くの間、眺めるのだった。
──────夕飯後
「いでででっ!」
「だ、大丈夫ですか司令官···?急に階段で転ぶなんて」
「あ、あはは···ドジっちゃって」
(翔鶴にバレなくて良かった···)
翔鶴を庇うときに腰を捻りすぎたようだ。
部下を助けるためだからよかったのだが、翔鶴たちにばれないようにしなければ。
吹雪に腰を押してもらいながら、その晩は何かと呻き声を上げる彼の姿が見られたという。
「今日は幸せだったわ瑞鶴!」
「気のせいかな···誰かが困ってるような···」
運とは、人を巡り巡って様々なことをもたらすものである。
(全く、恐いもんだ)
そう思いつつ、溜息をつく提督なのであった。
この姉妹ホントに好きなんです(大胆告白
また出てくるかもしれないです。他の艦娘が嫁の提督さんには申し訳ないですが…
海外艦、もし追加するなら初登場は
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ドイツ艦
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イタリア艦
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ロシア艦
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アメリカ艦
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イギリス艦