久しぶりの執筆で文章がずれているかもしれません。どうぞよろしくお願いします。
うちは一族滅亡の情報は瞬く間に里内へと広がった。サスケの存在が判明したときは、多くの忍びが安堵の息を漏らしたものだ。里内には留まらず、他国にまでその名を知られる一族の滅亡が、1人とはいえ生き残っていたのだから当然だろう。
そしてその滅亡理由は、うちはイタチによるものだと上層部には伝えられた。里内の住民や一般の忍びは、一族内のごたごただとしてそれほど問題だとは思わなかった。そうなってしまった背景は、九尾襲来事件にうちは一族が関わっているという噂が、まことしやかに語られていたせいでもある。
両親と一族を失ったサスケとまたしても家族を失ったナルトは、ヒルゼンに引き取られることになり、普段は火影室で生活しているのだった。
「勉強ばっかでつまんねぇってばよぉ」
「くそ、俺は忍術の修行がしたいってのに」
火影椅子の横に設けられた勉強机でナルトとサスケが文句を言っている。その様子を微笑ましそうにしながら事務処理をしているヒルゼンは、どことなく嬉しそうで穏やかである。それもそうだろう自分にとって里の住民は、全員が家族であるのだから。
そのうえナルトは自身の後任であった火影の息子、サスケは
そんな2人が至近距離にいる。それだけでヒルゼンの心は暖かみで溢れていた。普段の事務処理ならばストレスとその量でピリピリしているヒルゼンだが、今は2人がいることでピリピリせずにほくほく顔で作業を進めている。
ナルトとサスケの愚痴も何のその。BGM感覚で聞き流して効率よく仕事を減らしていく。いや、むしろその愚痴がヒルゼンの作業速度を上げているのかもしれない。
「忍びは忍術だけで生きていけぬよ」
「うるさい3代目。脳がなかろうが忍術で勝てばいいだけの話だ」
「ぬふふふふふ。その程度のことで音を上げているとナルトに置いてかれるぞ」
「ああ?ってナルト、何でそんなに進んでやがんだ!」
サスケが愚痴を吐きながらだれている間にも、ナルトはこつこつと夏休みの課題を進めている。ナルト自身も愚痴を吐いてはいるが、動かす手を止めていない。その差が宿題の消費量に表れているのだ。
「オレってば効率悪いから早めに終わらせたいんだ。終わらせれば、あとは忍術の修行に全部時間を割けるから」
「適度に終わらせて修行すればいいと思うのはオレだけか?」
「中途半端にどっちも終わらせたくないってばよ」
ナルトの言葉にサスケは溜息を吐く。その溜息はナルトの考えに納得できないから出たものではなく、その言葉に自身の決心が含まれているのを察知したからである。サスケ自身も自分の考えが浅はかなものであるとわかっている。
それでも〈木の葉最強の一族〉と謳われたうちは一族の生き残りとして、忍術を疎かにしたくないという気持ちがある。知識より忍術面での優位を得ることこそが、〈木の葉最強一族〉の本質であるべきではないのか。
《火》の性質変化を用いて敵を焼き尽くす。《雷》の性質変化を用いて敵を塵に還す。
そんなことを夢見ていた自分の愚かさを、未だ真正面から受け止められない。兄によって家族とその一族を殺されたサスケにとってイタチは復讐するべき敵だ。敵を取ることこそが生き甲斐になるはずだった。
だが今はどうだ。
アカデミーから課された課題を終えることに一生懸命になっている自分がいる。半強制的に強いられているとはいえ、本当に嫌ならば拒絶すればいいだけの話だ。だが、サスケは課題をやめようとはしない。手を動かさないだけでノートを開いて筆記用具を卓上に置いている。
優柔不断であるとも言えるが、ヒルゼンの言葉がある意味正しいことを理解しているが故にやめない。いや、ナルトが横で愚痴を吐きながらも手を動かしていることが影響しているのだろう。義理ではあるが家族として受け入れた存在が、やめることなく終わらせようとしている。
自分より幼く家族を亡くした存在が一心不乱に取り組んでいる。3ヶ月前に家族を失った自分を、対価を要求せずに支えてくれた存在より先に諦めてどうするのか。
見ているとサスケはナルトがいなければ何もできないように見える。だがそれはナルトも同じだ。サスケという自分を受け入れてくれた存在がいるからこそ頑張れる。互いが互いを刺激し合うことで頑張れる。今は互いがいなければできなくとも、アカデミーを卒業するまでに克服すればいいだけの話だ。
10歳にも満たない少年が親の支えなしで生きていくのは無理がある。ナルトとサスケは互いを生きる理由にしながら、ライバルとして認識しながら生きる理由を模索する。たとえどちらかが命を落としたとしても、どちらかがその目的を果たす。
2人は互いが口にしない場所で、自分自身が認識しない心層の奥深くで同じ理想を抱いていた。
「そろそろ今日のノルマを終えてくれないか?サスケ」
「うるさいぞ
2人の背後には、欠伸をかみ殺そうともせずに面倒くさそうに立っているシカマルがいた。片手に将棋の攻略本を持ってはいるが、まったく読む気がないらしく全ページの4分の1程度しか進んでいない。そもそもシカマルも読むつもりで持参したのではなく、死ぬほど暇になれば読もうかと思っていただけである。
「こっちもそろそろ限界なんだよ。チャクラが切れそうだってのに」
「じゃあこのまま切れるのを待てばいいだけの話だ」
奈良一族秘伝の影忍術である《影縫の術》によってはり付けられていたサスケは、どうやら術が切れる瞬間を狙っているらしい。10歳に満たない子供のチャクラ量などたかがしれている。チャクラを練ることで補給することはできても消費量と比べれば微々たるもの。減少させる勢いを少しだけ緩めるのが精一杯だ。
サスケは術が切れれば勉強から解放されると思っているようだが、しかし現実はそれほど甘くなかった。ある程度それを予測していたヒルゼンは、何かが詰まった袋をシカマルに投げ渡した。
「これって」
「兵糧丸じゃ。一時的じゃがそれで凌いでくれんかの?」
兵糧丸は一時的なチャクラの増幅剤だ。味は作る店や人間によって変わり、非常用として長期任務に趣く忍びが携行する代物である。一時的にとはいえ、チャクラを増幅させるのだから大量に製造はされない。希少だからこそ価値があるのだし、これにばかり頼っていては忍びらしくない。
火影や里の上層部によって製造は管理されているので、里中に溢れるほど出回ることがない。戦争中であれば大量に製造されただろうが、今は戦争など五大国の間ではそれほど起こってはいない。例外的に岩隠れの里と砂隠れの里は抗争状態だが。そもそも兵糧丸を製造するための薬草が貴重なため大量生産はできない。
医療忍者による兵糧丸の大量摂取の危険性・上層部による厳格な製造監視・原料の貴重性の3つの観点から、兵糧丸は少量しか出回らなくなっている。だがこれだけ厳しく規制していても金儲けのために、手に入れようとする住民や抜け忍などがいる。
それらを処罰したり捕縛する役目を暗部が担っている。イタチもかつてはこの任務をこなしており、検挙数は圧倒的だったとか。
閑話休題
「面倒くせぇ。けど、火影様のお願いじゃしょうがないか。サスケ、さっさと終わらせねぇといつまで経っても解かねぇぞ」
「ああ、くそ!やればいいんだろ?やればさ!」
兵糧丸の詰まった袋を見たサスケが白旗を揚げた。ちなみにシカマルはこの役目を与えられる前に課題を全て終わらせていた。ついでに言えばこの役目を拒否しなかったのは、修行の一環になると思ったのもあったが、一番の理由はナルトとサスケと一緒にいれることだった。
1時間後、1日のノルマを終えたサスケは短時間集中によって疲労困憊していた。
「ナルト、少しいいかの?」
猿飛家に帰ろうとしたナルトをヒルゼンは引き留めた。ちなみにナルトとサスケは猿飛家に住まう許可を得る対価として、庭掃除などを言い渡されている。今日はサスケの日で、1日の課題ノルマ終了と共に庭掃除を思い出して撃沈していた。
「どうしたんだってばよ」
「3日後に砂隠れの里に用事があっての。一緒に来るか?」
「里の外に出て大丈夫かな」
ナルトの危惧はもっともだろう。五大国はそれぞれが尾獣を保有している。火の国・木の葉の里から人柱力である自分自身が、外出してもよそに迷惑はかからないのかと思っているのだ。休戦しているとはいえ、完全に同盟を結べているわけでもない。
確実に安全と言える里は何処にもない。ナルトにとっての安全区域は木の葉の里だが、全域が安全地帯というわけでもない。ナルトの存在を良く思わない存在が大半である今、ナルトにとって本当の意味での安全地帯は友人たちがいる場所だけだ。
敵地とも言える場所に向かって不安がないはずがない。九尾と和解しているナルトだが、そのことを知っているのはサスケだけだ。シカマルたちもましてやヒルゼンさえ知らないことを、砂隠れの里の住民が知っているはずがない。
もし知っていたならばそれは戦争案件である。何者かが砂隠れの里からスパイとして潜入している可能性、または里内の上層部の誰かが情報を流しているということになるのだから。
「安心せい。里長が他里に行くのじゃから、最大限の安全性をかねて腕利きの忍びがついてくるわい」
「オレってばその人たちにいつもの眼で見られたくないってばよ」
ナルトが成長しているといっても、アカデミーに入学してまだ半年だ。いろいろあったがそれだけで心が大人になれるわけがない。むしろシカマルたちがいることで周囲の視線に敏感になっている。心の拠り所があるが故に周囲の環境に対して敏感になってしまう。
自分の今いる場所との違いが明確にわかってしまうからだ。だがそのことを気にすることはなかった。その不安をサスケやシカマル・チョウジ・いの・サクラが払拭してくれるのだから。何もなかったと思えるほどに支えてくれる。
だがこうして周囲に誰もいなくなると不安が一気に押し寄せてくる。押し潰されそうになるほどの圧力がのしかかっているようで。
「そこもぬかりなしじゃ。儂が信用している忍びを中心に結成しとる」
「余計な労力をさせちゃってる気がするってばよ」
「自己満足じゃから気にせんでいいぞ」
「わかったってばよ」
俯かせていた顔を上げたナルトの表情は、先程とは違ってとても明るい。雲が流れて日光が差し始めたような明るさだ。
「そういえば何でサスケは呼ばなかったんだってばよ」
「3日後は1週間ぶりのサスケが待ち望んどる1日修行日じゃ。そんな日を邪魔させたくないじゃろ?」
「サスケには黙っとくってばよ。じゃまた後でじっちゃん」
笑顔で火影室を出て行ったナルトを笑顔で見送った後、ヒルゼンは厳しく表情を改めた。
「…聞いていたじゃろうな?」
「もちろんです」
ヒルゼンの横に現れた何者かが片膝で頭を垂れている。
「3日後に何があるかわからぬ。里内で儂とナルトを陥れるのか。はたまた道中なのか砂隠れの里内部でなのか。何が起きても問題ないように手を打っておくのじゃ」
「御意」
話し相手が去った後、ヒルゼンは夕焼けが沈み始め夕闇が迫っている里を見下ろす。その瞳に映るのは6年前の惨劇が起きて壊滅した里か。はたまた何も起こらず幸せそうに里内を歩いているナルト親子か。戻ることのない過去と今の里を見比べることで自問自答をする。
今の自分がしていることはナルトを苦しめていないだろうか。ナルトの意に沿った行動ではないのではないだろうか。ナルトを見ている限りではそうではない。だが6年間の誹謗中傷で、本心を仮面の下に隠す術を知っているのではないのだろうか。
「出ぬ答えをいくら考えても仕方ないか。…砂隠れの里の人柱力、ナルトと気が合えばいいのじゃが」
誰にも聞こえない独り言を聞いた者はいなかった。
ヒルゼンの元に現れた暗部は、銀髪であるとしかここには記せない。