Fate/Grand Order ~If Story~ マスターではなく魔術師として   作:神月 咲紅

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第一話 エピローグ

「ここ、何処だ?」

 

この施設が人理継続保障機関フィニス・カルデア通称カルデア。私は、そこに配属されたマスター候補である。

 

しかし、カルデアの中が広すぎて迷ってしまった。困ったことにどこの道を通っても同じ道にしか見えず、目印になるようなものとほとんどない。集合の日よりも一日早く来たのが原因かあまり人がいない。適当にふらふらとしていたら道に迷ってしまっていた。

眠いので早く自分の部屋で寝たいのだが、そもそも自分の部屋の場所がわからない。

最悪の状況だ。しかし、すぐ近くに人の気配がするので、とりあえず先に進んでみることにした。歩いていれば音が出るので誰か気づくだろう。

 

「にしても、広すぎるだろここ」

 

しかし、人の気配がするといっても、壁の向こう側であれば声をかけることは不可能だ。やはり地図を見つける方が早いのだろうか?前に進むことを迷ってしまう。もともと迷っているので、これ以上道に迷うことは無いだろうが。

 

「そこの貴女そこで何をしているの?明日から配属されるマスター候補の子よね?なぜこんな所にいるの?」

 

女性の声がする方に振り返るとそこには銀髪の少女が不審そうな目で私を見ていた。どうやらこの施設の関係者のようだ。私の今の状況を説明して、部屋まで送ってもらおう。ついでに、この施設の地図も貰えるといいのだが。

 

「あの、施設の中を探索してたら迷ってしまって……」

 

彼女と目があった瞬間今まで数回しか感じたことのない不快感に襲われた。しかも、この不快感が私を襲った時に私と目が合っていた人は誰一人としてこの世にいない。

全員1週間以内に亡くなっている。亡くなる原因に統一性は無かった。老衰であったり、病死であったり、はたまた他殺であったり、色々あった。彼女もその1人になるのであろう。

今までの私なら見て見ぬふりをしていた。今回も見て見ぬふりをしようと思った。なのに、何故か私の中の何かが彼女を助けるべきだと囁いていた。

私はその本能に従ってみることにした。

 

「ちょっと!聞いてる!」

 

彼女の一言で私は現実に戻された。

彼女のことは部屋に着いたあとに考えればいい。

今は部屋に帰ることを第一に考えなくては。考え事を始めてしまうと、他のことを忘れてしまうのは私の悪いくせだ。改善しなければいけないな。

 

「すっすみません。えっと、なんの話しでしたっけ?」

 

「だから、貴女、道に迷ったのでしょう?だったら部屋まで送るって言ったのよ。」

 

私にはありがたい言葉だった。もしこの人が私を案内してくれなかったら、そこら辺で寝ようかとまで考えていた。

しっかりとお礼を言わなくては。

 

「ありがとうございます。必ずお礼をしますね。」

 

私は笑顔でそう答えた。

 

部屋に着くまでは彼女のことや、カルデアのこと、サーヴァントのことを聞いた。

何から何まで自分の知らない世界で、聞いていてとても楽しかった。彼女の名前はオルガマリー・アニムスフィア。このカルデアの所長で、魔術師だそうだ。

魔術師としての能力はとても高く将来有望と言われていたが、マスター適性だけがなく、周りは彼女のことを認めなかったらしい。

彼女の境遇を聞いた私はますます彼女のことを助けたいと願った。

だから私はお礼に全ての外傷を1度だけなかったことにできる防御魔法が付与してあるマフラーを渡すことにした。

それは今まで私が大切にしてきた宝物だった。

だが、自分の宝物ひとつで助けたいと願った人を助けられるのなら安いものだと私は思った。

ついでに、マフラー自体にマスター適性を付与して、マスターになれるようにしておこう。

彼女がそれを気に入るかどうかはわからないが、多分何かに役立つだろう。

 

「貴女の部屋はここよ。覚えておくように。また、何かあった場合は部屋の中にスタッフに繋がる回線があるから、そこから連絡しなさい、誰か行くから。それと、食堂は下の階にあるわ。食事はそこで取りなさい。はい、これがこの施設の地図。無くさないように。」

 

「丁寧にありがとうございます。あの、少し待っていていただけますか?渡したいものがあるんです。」

 

そう言って私は自分の部屋に入った。

さっき荷物を置くために1度部屋に来たので、目当ての物はすぐに見つかった。

私は急いでマフラーに情報操作の魔法を付与した。

効果は防御魔法と同じで一回しかない。

しかし、1度発動すれば流石に命の危険はなくなるだろう。

ついでに、マフラーの色を彼女に似合うオレンジ色にして、マフラーに魔法が付与してあることが分からないようにする魔法をかける。

矛盾しているが、魔法とはそういうものなのだ。

これで、彼女も彼女を殺すことを目的にしている奴も気づくことは無いだろう。

彼女も忙しい中私に付き合ってくれたのだ。これ以上待たせる訳には行かないので、早速渡そう。

 

「すみません、遅くなってしまって。どうぞ。道案内をしてくださったお礼です。このマフラー、私より貴女の方が必要な気がします。私はこれでも、魔術師ですので感には自信があります。このマフラーを肌身離さずに付けていれば、貴女が絶体絶命になった時、このマフラーが貴女の代わりになってくれるはずです。どうぞお使いください。」

 

そう言って私は彼女にマフラーを渡した。

彼女は何かを見定めるような目で私の事をじっと見つめたあと、「ありがとう」と言って何処かに行ってしまった。

私は食事をとることも忘れベッドに転がった。

明日は何かが起きるそんな悪い予感がした。

しかし、明日起こることを今考えても仕方がない、明日何かが起きた時に考えよう。

起きたあとでは遅いのはわかっていたが、どうしようもない眠気に襲われた。何かを考える間もなく深い眠りに落ちてしまった。

 

 

 

 

目が覚めると部屋の外では多くの人の足音が聞こえた。

きっと私以外のマスター候補がカルデアに到着したのだろう。

私は寝起きのせいで重い体を無理矢理起こし、さっさと身支度をし、自分の部屋から出た。

今日は確か所長の説明会があったはずだ。急いで向かわなくては。場所は中央管制室だったはずだ。

 

 

中央管制室に着くとそこには沢山の魔術師がいた。私もその中の一人ではあるが、皆プライドが高そうだ。

私にはプライドなんてものは無かったし、必要もなかった。それよりも、明日一日どう生きるかの方が大切だった。

生きるためならなんでもした。盗みもしたし、恐喝もした。魔法も必要だったから磨いただけだし、ここに来たのも生きる為だった。夢なんてものもなかったし、守りたいものもなかった。

でも、昨日彼女をみた時何故か「助けたい」と思った。だから、この気持ちを大切にしたい。

そう思った。

最後のマスター候補が入室したところで説明会は始まった。

予定時刻を少し過ぎていた。

遅刻したマスター候補は1番前の席なのにレム睡眠状態だった。

しかし、所長の平手打ちを食らったあとは真剣に聞いているようだった。

 

所長は昨日渡したマフラーをしっかり首に巻いていた。

やはり、彼女にはオレンジ色がとても似合う。

 

説明会の内容は昨日所長が教えてくれたこととほぼ一緒だった。

2016年以降の未来が全く見えなくなってしまったこと。

その原因を突き止めるために私達は集められたこと。

そして、このカルデアの中での上下関係など。

プライドが高い魔術師達は文句を言っていたが、それでも言うことを聞くしかないようだった。

説明会に出て思ったのだが、所長はとても苦しそうだった。ずっと落ちるか落ちないかの崖の先にいてそれでも落ちないように抗っているようなそんな感じだった。

 

 

説明会が終わり、皆レイシフトの準備を始めた。

遅刻してきたマスター候補は眼鏡をかけた女の子に連れられ、中央管制室から出て行った。別室で待機のようだ。

私は慌ただしい中央管制室こっそり抜け出し、何かが起きるのを待った。

もし、何かが起きた時にコフィンの中にいたのでは何も出来ない。

なら、罰則を承知で抜けだしたほうが百倍マシだ。

幸い私はDチームなので、「御手洗に行っていた」等といって戻ることも可能である。

しかし、罰則のことを考える必要は無かったようだ。

中央管制室から抜け出して30分も経たないうちに施設内で爆発が起きた。

爆発の起点は中央管制室。

これは明らかに故意的な爆破である。

私は中央管制室から走って2~3分の場所で待機していたが防御魔法を使っていたので、何とか爆風を耐えることは出来た。

しかし、この爆発では管制室にいた人たちは無事ではないだろう。

だが、それでも私は管制室行かなくてはならない気がした。

私はその為に管制室から抜け出し、ことが起こるのを待っていたのだから。

 

 

管制室に入るとそこは見渡す限り火の海だった。

幸いカルデアスは無事のようで機能したいた。

念の為に生きている人を探したが私には見つけられなかった。

それでも、生存者がいることを願いながら、出来るだけ消火活動をした。

しかし、その行為は焼け石に水あまり効果はない。

どうしたものかと考えていると、緊急事態へ対してのアナウンスではなく、レイシフトに関してのアナウンスが流れ始めた。

 

「システム レイシフト最終段階に移行します。

座標 西暦2004年 1月30日 日本 冬木

ラプラスによる転移保護 成立。

特異点への因子追加枠 確保。

アンサモンプログラム セット。

マスターは最終調整に入ってください。」

 

もう、レイシフトの準備が整ってしまったのか?早く生存者を見つけなければ。急がなくては。

 

「観測スタッフに警告。

カルデアスの状態が変化しました。

シバによる近未来観測データを書き換えます。

近未来100年において

人類の痕跡は 発見 できません。

人類の生存は 確認 できません。

人類の未来は 保障 できません。」

 

今は人類の未来なんて、どうでもいい。

今救える命を見つけなければ、私がここに来たことは無意味になってしまう。

なのに、なのに、ひとりも見つからない。

これが悔しいという気持ちなのだと初めて知った。

これが悲しいという気持ちなのだと初めて知った。

何もできないことがこんなにも嫌だということを初めて知った。

それでも、諦めきれない気持ちを初めて知った。

 

「中央隔壁 封鎖します。

館内洗浄開始まで あと 180秒です。」

 

もう、逃げ道はなくなった。

最後の最後で沢山の気持ちを初めて知ることができた。

それだけで悔いはないような気がする。

あとは所長が生きていることを願うのみ。

あぁ最後にいい思い出ができてよかった。

今までの人生全てが報われるような気がした。

 

「コフィン内マスターのバイタル

基準値に 達していません。

レイシフト 定員に 達していません。

該当マスターを検索中・・・・発見しました。

適応番号48 藤丸立香 を

マスターとして 再設定 します。

適応番号49 雲母黒江 を

マスターとして 再設定 します。

アンサモンプログラム スタート

霊子変換を開始 します。」

 

この部屋に私以外のマスター候補が入ってきていたようだ。

今からじゃ間に合わない。

私もレイシフトしてしまう。

向こうで会えることを願おう。

見つけられればなんとかなるはずだ。

 

「レイシフト開始まで 3

2

1

全行程 完了。

ファーストオーダー 実証を 開始 します。」

 

そのアナウンスを最後に私の目の前は眩しい光に包まれていった。


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