陽だまりの少女。   作:ぷるぷる、ボクわるい鉄オタじゃないよ。


オリジナル現代/ノンジャンル
タグ:オリジナル
あの夏の日の思い出。

・鉄道
・真夏の田舎
・不思議な女の子
の三つをテーマに書いてみました。

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「――向日葵(ひまわり)、好きなんですか?」

「え?」

 

 振り返った先に、女の子がいた。

 

 人気のない、無人駅のホーム。

 地方のローカル鉄道らしい、草花に埋もれたその駅のホームで。

 生い茂る向日葵畑に思わずカメラを向けていた、その時だった。

 

 随分と古風な格好をした女の子が、僕にそう声をかけていた。

 ――向日葵が好きか、と。

 

「……えぇ、まぁ……」

「そうなんですか! 私も好きなんです、向日葵」

 

 若干生返事のように飛んだ僕の声。それにも関わらず、彼女は嬉しそうに微笑んだ。

 向日葵が咲いたような笑顔だった。

 

 

 ○●○

 

 

「おう、よく来たな!」

「お腹空いたでしょ? お昼、何食べる?」

 

 バス停まで迎えにきてくれた祖父が、着いたばかりだというのに荒く頭を撫でてくる。それを振り払っては祖母の言葉に適当に答えつつ、僕は静かに周囲を見渡した。

 

 田園風景。

 山と空のコントラスト。

 緑と茶色と、ひたすら緑。それを覆い尽くす、どこまでも澄んだ空。

 東京(いつもの街)とは随分と異なる景色だった。

 空気が美味しい、なんて有り触れた言葉は使いたくないけれど。それでもやっぱり、呼吸する度に清々しい思いが僕の中で駆け巡っていく。

 

 両親が、まるで廻り合わせのように、共に海外へ出張することが決まった。

 とはいえそれぞれ別の国への出張で、どちらかについていくというのは、何だか忍びなくて。僕は炙り出されたように、母の実家へと身を寄せることになったのだった。

 

 中学二年の夏休み。

 それを田舎で過ごすなんて、随分と有り触れた話だと、僕は他人事のように感じていた。

 

「でかくなったなぁ。俺のガキの頃にそっくりだ」

「……そう?」

 

 何度振り払っても構わずやってくる祖父の手に、そろそろ僕が屈した頃。

 彼は嬉しそうにそう言った。心なしか、その手の動きが乱雑になってきた。

 

「ここに来たのも、随分久しぶりねぇ。……思った以上に田舎だって、思ってるでしょ?」

「え……そんなこと、ないよ」

「がはは! 無理せんでいいぞ、実際何もないからな! でもまぁ、向こうじゃあまり見られない景色だろ?」

 

 東京の無機質さとは違う、自然に満ち溢れたその光景。

 確かに、都会じゃ見られない景色だ。空気の感じも全然違う。便利さ、という面ではやっぱり見劣りするけれど、それでもここには、あちらにはない何かがあった。

 

「……うん。これがあるから暇はしないと思うし」

 

 そう言いながら出したのは、一枚のフリーパス。

 

「いやはや、こんな地方のローカル線のフリーパスを買うのなんて、お前くらいだろうよ」

「そう? 結構ファンは多いよ。『如月鉄道』って」

 

 祖父母の住むこの田舎を区切る、ローカル線――如月鉄道。

 せめてこれくらいはと両親が置いていってくれたのが、このフリーパス。一ヶ月自由乗車券だ。

 大の鉄道好きの僕は、如月鉄道を好きに乗って楽しむことを条件に、この田舎で過ごすことを受け入れた。

 毎日、好きなように鉄道に乗って、写真を撮り、音を楽しむことができる。それは僕にとってかなり魅力的な条件だったのだ。

 

「ワンマン運転のディーゼル機関車。縦座席(ロングシート)に包まれて、山道を揺られながら走るんだ。時折窓の景色を見ては、山ならではの急流を見下ろして。運転座席の横を陣取ってもいいし、後ろの窓から過ぎていく線路を見るのもいい。それに、何よりあの音だよ。ディーゼル機関特有の重低音が、何ともお腹に――」

「あ、あー、分かった分かった」

「ふふ、相変わらずレールバスが好きねぇ」

 

 祖母は鉄道をレールバスと呼ぶ。

 何だか時代を感じる呼び名だな、と僕は思う。

 

「ささ、取り敢えずお昼ご飯食べましょ」

「おう婆さん、ちょっくら酒買ってくるわ」

「また? もう、三日前にも買ったばかりなのに」

 

 悠々自適の年金生活を送る彼らは、随分とあっけらかんとしている。何というか、都会の人のような息苦しさというものがない。

 そんな様子にちょっと微笑みながら、僕の夏休みは幕を開けたのだった。

 

 

 ■

 

 

 死ぬ気で夏休みの宿題を終わらせた。

 ここに来て、四日目の昼だった。

 

 夏休みの宿題ほど馬鹿馬鹿しいものはそうない。あんなもの、一体何の得があるのか僕には分からない。これからの夏休みを謳歌するために、まず先に終わらせるべき壁だ。

 時刻は約二時半。昼下がりに入りかけた時間でその壁から解放されたのは、何とも幸運だった。

 まだ時間はある。

 鉄道に乗ってくるか。

 

「婆ちゃん、乗ってくる」

「はいはい。七時前には帰ってくるのよ」

「はーい」

 

 

 

 

 

 一両編成の車体が、大きく揺れている。

 如月鉄道は、随分と荒く走っていた。車体の動きに合わせて、僕の体は前後に揺らされる。

 足には、重い駆動音が伝わってきた。凹凸の激しい山々を越える、力強い震動だ。

 

 やっぱり田舎の鉄道はいい。

 まず、景色が何もかも違う。どこまでも見渡せるような、深い奥行きに満ちている。揺れる窓から見えるそれに、夕陽が差し掛かり始める時間帯。まるで絵画のようだと、僕は思った。

 単線型のそれは、走れば走るほど一本の線路を残していく。まるで足跡でも刻むかのように。

 それが伸びる度に、僕は知らない世界に飛び込んでいくような感覚が広がってきて、どうしようもなくわくわくした。あぁ、こんなに心が躍るのなんて、随分と久しぶりだ。

 

 路線図は、あえて見なかった。次の駅がどこかも分からない、未知の旅。

 着いて初めて見える景色と駅名に、僕の心はどうしようもなく躍るのだ。

 

 この路線に一人で乗ったのも、人生で初めてだった。

 この微妙な時間帯に、僕以外にこのダイヤのものを利用する客は誰もおらず。ただ貸し切りのように、この未知の世界を拓いていける。まるで西部劇の世界で、大陸横断鉄道(鉄の馬)の手綱を握っているような――そんな気分だ。

 

「お……サギだ」

 

 誰の目も気にせず、僕はカメラを出した。

 河の上で優雅に佇むサギ。その白い姿に、カメラのフォーカスを合わせる。河に反射する鉄道の姿をさりげなく映しながら、僕はシャッターを切った。

 

「……車影、いいね」

 

 舗装されていない地面を並行して走る、車両の影。

 ピントを調節しながら、その姿を四角の中に収める。凸凹に合わせてその身を揺らす車両は、どこか丸みを帯びたユーモラスな姿をしていた。

 

 

 

 それから、さらに数十分走った頃。

 一面の向日葵畑が、大地を覆い始める。

 

「……わぁ……」

 

 一面、黄色の絨毯だ。駅のホームを囲うようにして広がったその光景は、とても幻想的だった。

 山々に切り取られたような空間。まるで箱庭のような場所だ。

 緑色の壁に隔てられ、その中身を無数の向日葵で埋めている。どこまでも、点在する民家をも埋め尽くすように、大量の向日葵で大地を満たしている。

 その一本一本が、強く逞しい。

 夏の風に揺られながら、それでも負けじと立ち続ける姿は、とても美しかった。

 

 これは是非とも、鉄道を降りて撮りたい。

 車体に向日葵を映しながら、その光景を留めたい。

 

「……降りるっきゃないよね」

 

 僕はそう思って、停車した瞬間にフリーパスを取り出した。

 

 

 

 『弥剣(やつるぎ)駅』。

 それが、この駅の名前だった。

 

 ホームの土台すら向日葵で覆うその姿。

 山々に囲まれたその風景を、ディーゼル機関車は我が物顔で駆け抜けていく。

 それはまるで、チープな映画のワンシーンのようで、そのチープさが逆に心を湧き立たせた。僕なら、もっと上手く撮れるんじゃないかって、そう思わせてくれる。

 だから、カメラにそっと目を当てて。シャッターに指を回し、眼前の風景を切り取ろうとした――その時だった。

 

「――向日葵、好きなんですか?」

 

 鈴の鳴るような声が響いた。

 

 

 ○●○

 

 

 肩まで伸びた黒い髪を、白いリボンでハーフアップに結った少女。睫毛が長い、可愛らしい顔立ちだった。

 年は十六か十七か、そんなところだろう。多分、僕より年上だ。

 そんな彼女が、黄色のワンピースを身に纏って、にこにこと僕を見ている。長いスカートとそのシンプルな柄が、随分昭和っぽい衣装だなぁと僕は思った。

 

「あ……」

 

 その女の子と向日葵に邪魔されて、気付いた時には鉄道は花の彼方に埋もれてしまって。

 残念ながら、ベストショットを逃してしまったようだ。

 

「ここ、ずっと昔から向日葵を育ててるんですよ。夏になると、みんなこうやって花を開いて。とても綺麗だって、色んな人に評判なんです」

 

 気を落とす僕にも構わず、彼女ははつらつと話し始める。

 少しくらい文句でも言ってやろうか。なんて思いながら、彼女の方を振り返るけど。

 視線の先にあったのは、まるで陽だまりのような、温かな笑顔だった。そんな少女を見ていると、怒る気も酷く萎んでしまった。

 

「……ここの向日葵は、あなたが育ててるんですか?」

「んーっと……私の家族の人が、かな。私は見るだけ、てへへ」

 

 恥ずかしそうに笑う姿も、何だか可愛らしくて。僕はカメラをそっと収め、彼女の方をじっと見る。

 

 当たり前だけど、知っている人ではなかった。

 随分と自然に話しかけられたから、もしかして知り合いだったかな、とは思ったけれど。でも、そうでもないようだ。僕には、思い当たる節が全くない。

 

「でも、いつも愛情は注いでますよ! 愛情は!」

 

 きっと人当たりが良いのだろう。

 初めて会う人にでも、フレンドリーに接することができる人。僕はそういうことが苦手だから、なんだか眩しく見えた。

 

「そう、ですか……」

「あなたも、この向日葵を見に来てくれたんですか?」

「はい、まぁ……」

 

 この向日葵を撮ろうとして降りたのは確かだ。

 正確には、この向日葵畑の中を走る鉄道を撮りたかった、であるが。

 

「嬉しいですねぇ。愛情を注いだ甲斐があるってもんです」

 

 むふー、と満足そうに微笑んで。

 かと思えば、少女は思い出したかのように線路を見た。遠く、遠く、あの山の向こうの軌跡へと。

 

「……どうしたんですか?」

「いえ、その……。人待ちをしてるんですが……なかなか来なくて」

 

 忙しない様子でそう切り替えて、しかし少しばかり不安そうな色を見せる。

 きっと、高校生くらいだと思う。友達が、そして恋人がいたって不思議じゃない。そういうことなんだろう、と僕は一人で納得する。

 

「……あ、汽車」

 

 彼女が見ていた反対方向から、鉄道がきた。丁度、祖父母の家へと続く車両が。

 汽車じゃなくて、ディーゼル機関車ですよって。そう訂正しようとしたけれど、初対面の相手にいちいち突っかかるのもどうかと自らに言い聞かせる。

 空を見れば、陽は山の影に潜り込もうと奮闘していた。時計を見れば、もう随分と遅い時刻を示している。

 

「……僕、これに乗ります」

「あ……はい」

 

 そう僕が告げると、彼女は少しばかりしょんぼりとした顔をした。

 

 向日葵畑に、黄色い服。

 少しばかり異色な女の子だ。田舎に住んでる人というのは、みんなこういう感じなのだろうか。こんな、気さくに話しかけてくるものなのだろうか。

 

 不思議なところは、尽きないけれど。

 それでも、鉄道に乗り込みながら思う。

 

 向日葵畑。

 誰かを待つ、可愛らしい女の子。

 向日葵のように眩いその姿。

 

 なんだか、面白い出会いになったなぁ、と。

 

 

 

「……あ、写真撮るの忘れてた」

 

 再びあの荒っぽい揺れが顔を出した頃に、僕はそれを思い出した。窓を見れば、あの向日葵畑は随分と遠いところに過ぎ去ってしまっている。

 まぁ、まだまだ時間はあるんだ。またここに来たらいいだろう。

 

 ――そしたら、もう一度彼女に会えるかな、なんて。

 そんな仄かな期待を抱きながら、僕は自分にそう言い聞かせた。

 

 

 ○●○

 

 

「また見に来てくれたんですね、向日葵」

 

 あれから数日後。

 再びあの駅で降り立った僕に、少女は声をかけてきた。

 夕焼けが山へと手を伸ばす、橙色が眩しい時間帯だった。

 

「……どうも」

「あ、どうもどうも」

 

 また会えた。そんな思いが僕の中で膨れ上がってくる。

 嬉しいような、くすぐったいような。とても奇妙な気分だった。

 おずおずとお辞儀すると、彼女もぺこりとお辞儀を返してくれる。相変わらず、愛想の良い人だ。

 

「この前、写真撮り損ねたので」

「あら……そうだったんですね。それでまた来てくれたっていうのは、何だか……嬉しいですね」

 

 少しばかり目を丸くして、それでいて少女は花が咲くように笑う。

 まるで自分の幸せのように笑うなぁ、と思った。会えば会うほど、引き込まれていくような気分だ。

 

 相変わらず、鉄道は貸し切り状態だった。

 この駅も、彼女以外誰もいない。田舎らしい、寂れた無人駅だ。

 

「今日も、人待ちですか?」

「……うん」

 

 そう尋ねてみると、彼女は少しばかり寂しそうな顔をする。

 

「……帰り、遅いんですね」

 

 少女は、小さく頷いた。

 随分と暗い顔をしている。先日の時間を(かんが)みると、その待ち人は随分と遅い帰りのようだけれど。

 それにしても、友人か何かを待つだけでこんな顔をするものなのだろうか。

 

 ――いや、どうだろう。

 まだ少ししか話してはいないけど、彼女が非常に感情豊かなのは分かっている。喜怒哀楽がはっきりしているなら、こんな顔をすることだって――おかしくはないのかもしれない。

 

「……良かったら、ですけど。その人が来るまで、話相手とか……しましょうか?」

 

 それでも、何だか居た堪れない思いがあって。

 申し訳程度に、そしてダメ元で、僕はそう提案してみた。

 

「……いいの?」

 

 すると彼女は、おずおずと僕を見る。期待するような眼差しで、僕を見た。

 

「あ……その、ここの写真撮りたいですし、あと……門限までしか、いられませんけど」

 

 保身のための理由付け。

 それを付け加えても、彼女は嬉しそうに微笑んだ。

 本当に、感情表現が豊かなんだと実感させられるその表情。この時ばかりは、素直に可愛いと思ってしまった。

 

「嬉しいです、私凄く寂しかったので……っ」

 

 ホームに備え付けられた雑なベンチに腰掛けて。

 日が沈む前に、帰りの鉄道が来るまでの間。

 僕は彼女と、話に耽る。

 

 

 

 それが、この夏休みの密かな楽しみになった。

 日暮れ時に、彼女に会いに行く。他愛のない話をしながら、鮮やかな向日葵を眺めながら。

 

 ――この弥剣駅で過ごす日々。

 それは、鉄道に乗るくらいわくわくする時間なのだ。

 

 

 ■

 

 

 その日は、向日葵の育て方の話を聞いた。

 じっくりと、愛情を込めて。されど肥料は欠かさずに。

 この花畑も、一度豪雨で全滅したこともあったらしい。その声色には悲痛な色が差していて、本当に大変だったって思いが滲み出ていた。

 

 

 その日は、向日葵の面白い話を聞いた。

 なんでも、あの花は日差しに合わせて首の向きを変えるらしい。太陽を追って、少しずつ首を動かすのだ。

 本当なのかな、と少しばかり疑問に感じるけれど。

 今度は、朝からここに来て、本当かどうか確認してみるのもいいかもしれない。

 

 

 その日は、鉄道の話をした。

 少しマニアック過ぎたのか、新幹線や山手線の話はちんぷんかんぷんみたいだったけれど。

 しかし意外なことに、蒸気機関車の話には食い付いてくれた。この話についていけるとなると、なかなか通なのかもしれない。

 僕の好きなことを一方的に話すことも、多かった。それでもしっかりと耳を傾けてくれたのが、何だか嬉しかった。

 

 

 

 

 

「――じゃあ、その人は随分と長く帰って来ないんですか?」

「うん、そうなの……」

 

 何日か経って、一体誰を待っているかを聞いてみた。

 すると返ってきたのは、都会に出た幼馴染という言葉。何でもこの路線を使って上京し、久々に帰省するとの連絡を受けたらしい。

 それで彼女はここで待っているのだが、なかなか帰って来ないのだとか。

 

「待ち始めてから、結構経ってますよね。それでも、他に連絡とかはないんですか?」

「うん……遅いよね」

 

 変な話だ。遅れるなら遅れるで、メールなり電話なりすればいいのに。

 それなのに、何も連絡を寄こさないなんて。まさか、こんな田舎だから電話すら通ってない――とか。いやいや、流石にそれはありえないだろうし。

 結局、他人事だ。自分には何ら関係ない話である。きっと杜撰な人なんだろうな、と僕は思い込むことにした。

 

「……まぁ、口約束って結構あやふやなもんですから」

「……そう……だよ、ね」

 

 何かもっと良い励まし方があるだろ、と心の中でつっこむけれど。それでも人との関わりが薄めな僕には、これが精一杯。

 力になってあげたいものの、何もすることができなくて。ただ一緒に、来ない人を待ち続ける日々が続いた。

 

 

 ■

 

 

「おーう……お前最近、何してんだぁ~?」

「……別に」

 

 祖母が友人と旅行に出掛け、今夜は祖父と二人っきり。

 お咎め役を失って、祖父は浴びるように酒を飲んだ。

 その結果でき上がって、今は御覧の通り。ズボンも履かず、畳の上で大の字になりながらするめを噛んでいる。

 

「毎日毎日汽車乗って、お前は物好きだなぁ~」

「楽しいよ……爺ちゃんこそ、乗らないの?」

「俺ぁ、いい。自分の運転する車の方が、よっぽど安心できるぜぇ~い」

「それ、事故起こす老人の決まり文句だからね。それにもう免許は返したんでしょ?」

「あぁー……車乗りてぇなぁ……」

「田んぼに突っ込むのがオチだからやめて」

 

 酔っぱらって、ご機嫌になって。

 いつも騒がしい祖父は、より一層面倒臭くなる。

 それを適当にあしらいつつ、僕は並べたスーパーの惣菜をつついた。やっぱり、祖母のご飯の方が美味しいや。

 

「汽車乗って、何しとるんだ? 紅葉でも見に行っとるんか?」

「爺ちゃん……まだ夏だから」

「このあたりといったらぁ、紅葉ぐらいしか見所がなくてなぁ……」

 

 確かに、鉄道の雑誌でもよく取り上げられている。

『如月鉄道、車窓から紅葉を添えて』

 そんな見出しに心を躍らせながら、記事の一文一文を読み耽ったことをよく覚えている。

 でも、夏は夏でいいものだ。なんたって、あの向日葵畑があるんだから。

 

「……なぁ、爺ちゃん」

「ん~~?」

 

 日本酒だか焼酎だかよく分からない酒を、ぐびっと飲んでは仰向けに倒れる彼に向けて。

 僕は、ふっと湧いた疑問を投げかけてみた。

 

「弥剣駅って知ってるよね?」

「おぉ~、弥剣なぁ~」

「あそこの向日葵畑だって、綺麗じゃん。あれも有名なんじゃないの?」

「ほぉぉ……向日葵、かぁ……」

 

 まるで反芻でもするかのような声だった。しみじみと、懐かしむようなトーン。

 けれど、そこで終わり。祖父は、その先の言葉を繋げない。

 

「……爺ちゃん?」

「……ふが……ふごごごぉ……」

「……寝たし……」

 

 振り返れば、これまた豪快にいびきをかき始める祖父の姿。

 これが俗に言う寝落ちって奴か、なんて僕は納得しながら。腹を出して眠る彼にタオルケットをかけつつ、今日は早々と寝ることにした。

 

 

 ■

 

 

 夏休みが、残り僅かになってきた。

 フリーパスの期限が、刻々と迫ってきている。

 何だか、大事な何かがなくなってしまうような、そんな奇妙な不安感。それに押し潰されそうだと、車窓を覗きながら僕は思った。

 

 

 

 

 

「……今日も、来てくれたんだね」

「……昨日も、その人は来なかったんですね」

 

 嬉しさと淋しさを混ぜ合わせたような笑顔で、彼女は僕を迎えてくれた。ひぐらしの鳴き声がよく似合う、哀愁に満ちた笑顔。

 彼女がここにいるということは、まだ例の幼馴染が来ていないのだろう。それに少しだけ、僕はほっとする。

 せめて、せめて八月一杯は来ないでくれたらなぁ、と思う。彼女には申し訳ないけれど、今の僕はこの時間が何よりも好きだから。

 

「都会の仕事って、急な変更が多いみたいです。僕の親も、それで出張になりましたし」

「そっかぁ……やっぱり、大変なのね……」

 

 無根拠な話だ。

 けれど、彼女はそれをすんなりと受け入れる。

 何だかずれてるなぁ、とは思った。素直すぎるというか、無知というか。でも、田舎の人はこんな感じなのかな、とも思ってしまう。祖父が、大らかで大雑把なのもあるかもしれない。あれはあれで、度が過ぎているような気もしないでもないけど。

 いずれにせよ、僕にとっては嬉しかった。もう少しだけ、一緒にいられるのが嬉しかった。

 

 

 ある日は向日葵畑を歩いた。

 畑より向こうに行くことはなかったけれど、小さな民家が疎らに建っている。彼女も、ここらに住んでいるのかなぁと、僕は何ともなしに思った。

 向日葵の、鼻を撫でるような香りがずっと残っていた。

 

 

 ある日は、僕の学校のことを話した。

 そんなに友達は多くなくて、でもこれといった不自由のない学校生活を送っていること。

 担任の先生がカツラをつけていること。

 そんな当たり障りのないことでも、彼女は笑ってくれた。

 

 

 ある日は、この田舎にいられる前夜だった。

 彼女と一緒にいられる、最後の日だった。

 

 

 

「……明後日で夏休みが終わるので、僕は明日東京に帰ります」

「……そっか」

 

 そう告げると、彼女は少し寂しそうに笑った。

 いつもより遅くまで、僕は粘る。夕陽が山へと溶けかけているけれど、僕は粘った。

 

「いつも話し相手になってくれて有り難う。楽しかったよ」

「いえ、そんな。僕も……」

 

 寂しさを押し込めるように、彼女は微笑む。あの向日葵のような、温かな表情で。

 

「…………っ」

 

 僕は、息を呑んだ。

 これから、彼女にある質問を向ける。

 その返答次第では、僕は秘めた気持ちを伝えようと決めていたから。

 

 約一ヶ月。

 本当に、ほぼ毎日一緒に夕方を過ごした。

 当たり障りのないことを話しながら。向日葵を飛び交う蜂のように忙しなく。

 その間、彼女の待ち人が来ることは、結局なかった。

 それに僕は、ただどうしようもなく駆られそうになる。

 

 だから、これを今口にするんだ。

 

「……まだ、その人を待ちますか?」

 

 その一言に、彼女は大きな目をまんまるに開いて。

 一瞬の静寂。

 彼女は何も言わず、一度目を伏せる。

 

 けれど、その瞳に強い色を灯しながら。

 彼女は静かに、それでいてはっきりと答えた。

 

「……待つよ」

 

 彼女の心は、向日葵のように温かくて――そして逞しい。

 台風に遭っても折れない、芯の強さを垣間見えた。

 

「どれだけ時間が掛かるかは、分からないけど……それでも私は、彼を待つって決めたの」

「…………」

 

 待ち焦がれても来ない人。

 それよりも、いつも会える隣の人。

 

 そんな、いつかの雑誌で読んだ言葉に駆られたけれど。

 隣の人が、来ない人に勝ることはなかった。

 

「――ふふ、何だかなぁ」

 

 ぐっと、喉の奥の方が塞がれるような。そんな奇妙な感覚に、僕が眉を曲げた頃。

 彼女は、どこかおかしそうな様子で小さく笑った。

 

「何だか、彼と君が凄く似てる気がするの。ううん、あの人はもっと年上なんだけど……雰囲気、かなぁ」

「……似てる?」

「思わず話しかけちゃうくらい、ね。何でだろ……」

 

 不思議そうに、それでいて心苦しそうに彼女は目を伏せて。

 そんな言葉を投げられて、僕はどう答えたらいいか分からなかった。

 

「……何だよ、それ……」

 

 ただ、やりきれない思いが溢れ出す。

 どこか遠いところを見ている彼女を前に、僕はそれ以上の言葉を吐き出せない。

 それでも無理に声に出そうとしたけれど――それは、背後からやってきた重低音によって塗り潰された。腹の奥から込み上げてくるような、ディーゼル機関の鈍い音に。

 

 夜の色を帯びてきた景色に、向日葵は少しばかり下を向いたように見える。

 何だか、彼女が酷く遠いところにいるように感じた。

 いくら自分が手を伸ばしても、決して届かないような。彼女は、今目の前にいるはずなのに。

 だから僕は――それ以上何も言えず、ただ鉄道に乗り込んだ。乱暴に手すりを掴んで、強く段差を踏み抜いた。

 

 そんなこと言われたら、僕は何も言えなくなるじゃないか――。

 

 機関部の音と共に込み上げる思いを、ぐっと噛み締めて。

 窓から見える向日葵畑と、黄色の衣装に身を包む少女をじっと見る。

 目に焼き付けるように、記憶に残すように。

 自らの想いに、強く蓋をするように。

 

 

 

「……あ、写真……結局撮ってなかったな」

 

 あの黄色の絨毯が、山に隠れて見えなくなった頃。僕はようやく、それに気付いた。

 彼女に会いに行く口実。

 会いに行き続けるために、撮らずにおいていた向日葵の写真。向日葵畑の中を駆け抜ける、ディーゼル機関車の雄姿。

 それがカメラのデータを食うことは、結局なかった。

 

 

 

   ◆

 

   ◆

 

   ◆

 

 

 

 僕が再びあの田舎に訪れたのは、あれから五年後のことだ。

 

 高校受験、さらには大学受験を終えて。

 これといって頭が良い訳でも悪い訳でもない大学に入り、ただぼーっと過ごすだけの毎日。

 東京の喧噪に飽き、もっと静かな場所を求めて。

 僕は、一人暮らしの大学生活を細々と営んでいた。

 

 相変わらず、友達は多くない。彼女なんて、夢のまた夢だ。

 ただ適当に単位をとって、暇があったらカメラ片手に電車に乗って。摂った写真は現像し、小さなアルバムに収めていく。そこに刻んだ鉄道の姿を眺めながら、僕はいつの間にか夢への改札を抜けるのだ。

 あの遠い夏休みなんて、既に忘れかけていた頃だった。

 

 ――祖父の訃報が、届いたのは。

 

 

 

「……死因が、交通事故なんて。爺ちゃんらしい、っていうか」

 

 てっきり、勝手に車に乗って事故でも起こしたのかと思った。

 しかし実際には、暴走車に撥ねられたとのことだった。

 ブレーキも踏まずに突っ込んできた車と、その先にいた小さな子ども。その子を庇って、自らの命を散らした祖父。豪快な彼らしい、立派な最期だったと思う。

 

 この田舎の民家に、親戚たちが集まってきた。

 僕の知らない、遠縁の人も何人かいる。祖父の葬式で初めて顔を合わせるなんて、何だか随分と皮肉が効いているように思えた。

 

「この度はうちの兄が……」

 

 初めて会った、祖父の妹だという女性。

 

「不幸な話だったねぇ」

 

 そう言ったのは、祖母の姉らしい女性。

 

 それぞれの旦那や子どもも付き添って、この小さな家は今や人で溢れ返っている。

 僕の父は世話になった義父に向けて、と。母は大事な父のために、と。それぞれの想いを胸に秘めながら、あれやこれやと話し合っていた。思い出話に遺されたものの話と、何から何まで綿密に。

 

 親族が死ぬなんて、僕には初めての出来事だったから。

 いまいち理解も追い付かず、何だか炙り出されてしまったように感じた。奇しくも、五年前の時のような心持ちだった。

 

「…………」

 

 だから僕は、二階へと足を運んだ。

 生前祖父が使っていた部屋へと、何ともなしに足を踏み入れた。

 

 正直な話、そう何度も入ったことがある訳ではなかった。

 ただ、祖父の思い出の品がいくつかあることは知っている。しかし、そのどれもに長ったらしい説明がついてくるから、僕は入るのを避けていた。

 

「……服?」

 

 そんな部屋の壁に、一着の衣服があった。随分と薄汚れた服が、ハンガーにかけられている。

 まるで戦争の映画にでも出てくるような、古びた茶褐色の服。確か、国民服と呼ばれていたものだ。

 

「それね、爺さんが若い頃に着てた服なんよ」

 

 唐突に響く声。振り返れば、祖母が背後に立っていた。

 ただ、懐かしそうに。遠いどこかを眺めるように。

 彼女はそっと歩み寄って、その服を愛おしそうに撫でる。

 

「あの人ね、戦争が始まる前から街の方に出稼ぎに行ってたのよ。これは、その時に着てた服」

「これが……?」

「そうそう。荷物整理してたら、出てきてさ。あたしもう、懐かしくって……」

 

 皺を刻んだ目元が、少しばかり潤っている。

 まるで昔を回顧するようなその素振りに、僕は思わず言葉を失うけれど。

 

「丁度、この服を着て行って、この服を着て帰ってきたわ。帰ってきたのは、戦争が始まってからだったけどねぇ」

「戦争……」

 

 映画に出てくるような服、ではない。

 この服は、正真正銘当時の服なのだ。

 

 爺さんの当時の話は、何度か聞いている。

 といってもそれは生活の大変さの話が多くて、出稼ぎに行っていたなんて話は聞いたことなかった。

 徴兵はされた、らしいけれど。運が良かったらしくて無事生還できた、とか何とか。

 長いから、と遠ざけていた話が今更懐かしくなるなんて。

 本当に、皮肉が効いている。

 

「……確か、丁度アンタくらいの年の頃よ」

「僕くらい?」

「そうそう、二十歳になる前ってところ。……そうだ、アンタその服着てみなさいよ」

「え?」

「こう言っちゃなんだけど、あの人の若い頃と今のあんた、そっくりなのよね。血は争えないわねぇ」

「……爺ちゃんと、僕が?」

「性格は全然違うけど、さ。さぁさぁ、着てみて着てみて。折角だもの」

 

 強引な祖母は、押し付けるようにその服を手渡してきた。

 思ったより重くて、触り心地の悪い服だった。

 

「あ、そういえば昔の写真もあったっけ……ちょっと取ってくるから、その間に着替えといて!」

 

 彼女はそう言って、パタパタと歩き出した。

 本当に、強引だなぁと。僕はしみじみと思いながらも、仕方なく礼服を脱いだ。

 そういえば、昔はよく祖母に風呂に入れられたっけ。嫌がる僕にも構わず、荒っぽく頭を洗ってきて。とても痛かったけれど、何だか酷く懐かしい。本当に、昔から強引な人だ。

 

「……これで、いいのかな?」

 

 いまいち着方が分からないけど、できる限りはやってみた。帽子も被ってみると、いよいよそれっぽくなったように思える。

 何だか、タイムスリップでもしたみたいだ。

 

「……あら! いいじゃない!」

 

 戻ってきた祖母は、嬉しそうに駆け寄ってきた。

 そうして相変わらずの荒っぽい手付きで、よれた部分を直しながら。その瞳に少しばかりの涙を滲ませる。

 

「昔に戻ったみたいだわ。本当にそっくりよ」

 

 しみじみとそう言う祖母。そんな彼女が持ってきた、古ぼけた写真。

 

 そこには、若かりし頃の祖父が映っていた。

 髪こそ短いけれど、顔つきは確かに僕によく似ている。いや、僕が祖父に似ているのか。

 彼らしく、大らかそうで自信に満ちた表情だ。そこばっかりは全然違うけど、顔立ちは本当にそっくりだった。

 

「この写真はあの人が出稼ぎに行く前。みんなで撮ったの」

「へぇ……」

「昔はこのあたりにも大きな工場があってね。帰省と、同時にそこへの転勤が決まってね。あの人は、ようやくここに帰ってきた」

「工場……?」

「当時は戦争だったからねぇ。でも、彼が帰ってくる前に、空襲に遭って焼けてしまったわ」

「空襲……」

 

 何だか、生々しい響きだった。

 今ではただのど田舎だ。けれど、昔は工場があっただなんて。

 この町に昔から住んでいる人たちも、そこで働いていたのだろうか。

 

「……ん?」

 

 祖母が持ってきたその写真。出稼ぎに行く前だというそれには、祖父以外にも、様々な人が映っていることに気付く。

 祖父の父らしい、威厳に満ちた風格の男性。

 祖母の面影を残した幼い少女。

 祖父の妹だろうか、彼のズボンの裾を掴む小さな手。

 ――――そして、どこか見覚えのある女の子。

 

「……この子……」

 

 モノクロの写真だから、色は分からなかった。

 けれど、シンプルな柄にワンピース調の服を着たその少女は。肩あたりまで伸びた髪を、ハーフアップに結っているその少女は。

 どこかで会ったことがあるような、そんな気がした。何だか、随分と懐かしい想いが込み上げてくる。

 

「あぁ……その子はね、爺さんの幼馴染よ」

 

 大きな目をぱっちりとさせたその少女。

 想起しようとすると、頭の中に溢れんばかりの黄色が浮かび上がってくる。

 

「駅近くで向日葵畑を作ってた家の子でね。明るくていい人だった」

 

 向日葵――――そう、向日葵だ。

 あの鼻を撫でる優しい香り。

 太陽に向けて聳え立つ勇ましい姿。

 あの花の姿が、僕の中でゆっくりと芽を出した。

 

「……でも、先の空襲でね。巻き込まれて、帰らぬ人になった」

「――――え?」

 

 拒絶。

 理性がまるで拒絶するように、その言葉の先が理解できない。

 

「丁度、爺さんが帰ってくる直前のことだったわ。帰るって連絡が来て、そしたらこの子、駅まで迎えにいくって」

「…………」

「別に家で待てばいいのにね。頑なに駅で一番に迎えたいってさ。そしたら……」

 

 悲しそうに話す祖母の姿に、僕は焦点が合わなくなっていくのを感じた。

 視界が重なるように、変なずれを描いていって。認めたくない気持ちが、僕の中で膨らんでいく。

 

「……僕、この子に会ったことがある」

「え?」

「向日葵に囲まれた駅で、いつも誰かを待ってた。夕暮れ時に、寂しそうな顔をしながら誰かを待ってた」

「……ちょっと、何を――」

 

 掠れそうな想いを、祖母の疑念が塞ぎ込もうとした。

 困惑に満ちた声が、僕の鼓膜を叩く。

 

 

 ――向日葵、好きなんですか?

 

 

 それよりも強く、あの声が響いた。

 あの鈴が鳴るような声が、頭の中で響き渡った。

 

「――――本当だっ! 本当なんだよ! ずっと長い時間、幼馴染の帰りを待つって、頑なに駅から離れなかったんだ! 僕、中二の夏に会ったんだよ!」

 

 祖母が、困った顔をしている。

 それは僕も、分かっている。

 けれど、込み上げる感情を抑えることはできなかった。

 

 脳裏に溢れ返ってくる、四年前の記憶。

 フリーパスで如月鉄道を楽しもうと、意気揚々と乗車したこと。

 様々な景色にカメラを構え、ゆったりと田園風景を楽しんだこと。

 ふとした時に向日葵畑へと入り、そこを走る鉄道を撮ろうと下車したこと。

 そこで、彼女と会ったこと。

 

 全部、全部本当だ。

 僕は確かに、あの子に会った。祖父の写真に写っていたあの子に会った。

 けれどその子は、祖父の幼馴染だった?

 もう既に、死んでいる?

 

 じゃあ、じゃあ。

 あの時僕が会ったのは――――。

 

 

 

「……アンタ、疲れてるんだよ。爺さんのことでゴタゴタしたから、しょうがないわ。ごめんねぇ、付き合わせちゃって」

「……弥剣駅は?」

「……えっ……?」

「弥剣駅って、婆ちゃん分かるよね? あそこに、あそこにあの子はいたんだよ」

「……アンタ、なんで……」

「僕、その駅で降りて向日葵を見てた。写真は……撮らなかったけど、でも凄くいいとこだったんだ。凄く綺麗なとこだった。ねぇ婆ちゃんっ、婆ちゃんならその駅知ってるでしょ?」

 

 そう問いかけてみると、祖母はいよいよ酷く狼狽したような顔をする。

 困惑と、動揺と、少しばかりの畏怖の念。それらが混ざり合ったような、そんな顔だった。

 

「……嘘、嘘よね……?」

「婆ちゃん……?」

「……弥剣駅なんて、そんな駅はもう存在しないのよ……」

「……え?」

 

 彼女ははっきり、その駅の存在を否定する。

 

「あの空襲で、工場から外れた爆弾に巻き込まれて。咄嗟のことで、警報も上手く作動しなくてね……その時、駅は焼けてしまったの」

「……焼け、た?」

「周りの向日葵畑も、一緒にね……。爺さんをずっと待ってた、あの子ごと」

「――――っ」

 

 僕は慌てて、持参していたパソコンを取り出した。

 即座に起動し、インターネットで『弥剣駅』と検索する。

 数件、該当するものがヒット。震える手で、僕はそれをクリックした。

 恐る恐る、それでいてどこか祈るように。

 

 表示された情報。

 無機質なそれが、僕の目に飛び込んでくる。

 

 

 

 弥剣駅は、現在の○○県△△群□□町にあった、如月鉄道◎◎南線の駅。

 

 現在の◇◇駅と▽▽駅の間に存在した。

 

 駅名は、当時の○○県△△群弥剣村(現・□□町)より。

 

 大正三年六月二日。開業。

 

 昭和十九年。休止。後に廃止。

 

 

 昭和十九年に、休止。

 その後に、廃止された。

 

 そんな機械的な言葉が、はっきりと顔を出した。

 それは、その駅が今は地図のどこにも存在していないことを、如実に表していた。

 

「……それがあって、爺さんは鉄道が嫌になった。だから乗ろうとしなかったのよ。あんたのことだから、何回か誘ってみたことあるでしょ?」

「……うん」

 

 確かに、何回か誘ったことはある。それこそ、あの二人だけで飯を食べた夜とかに。

 僕は惣菜をつつきながら、祖父は酒を注ぎながら。それとなく誘ってみたけど、彼はきっぱりと断った。車の方が安心できると、彼は断っていた。

 

「じゃあ、こんなの……」

「……きっと、あの人からこの話を、昔に聞いたんじゃないの?」

「……え?」

「アンタさ、今日は朝から急いで来てくれたんでしょ? 関東からここまで、夕方になるまで時間掛けてさ」

「…………」

「その上で、知らない人と一気に顔合わせたりしてさ。疲れてるのよ、きっと」

 

 祖母は、申し訳なさそうな様子でそう言った。

 僕のことを案じてくれている顔だ。

 

 ダメだ。本当に情けない。

 今本当に辛いのは、祖母のはずなのに。ずっと一緒に生きてきた祖父を失って、祖母が一番悲しいはずなのに。そんな人に、これ以上心配をかけさせちゃダメだ。

 

「……うん、そうだね……。ごめん、ちょっと混乱しちゃって」

「いいのよ、大丈夫」

 

 優しく撫でてくるその手が、何だか懐かしい。随分としわくちゃになったけれど、相変わらず温かくて、雑な手付きだった。

 不意に、下から呼ばれるような声が響く。

 祖母に「こっちに来て」と呼びかける声。母のものだろうか。

 

「はいはーい! 今行くわー! ……服、無理に着せたりしてごめんねぇ。またかけといて」

 

 祖母はそう言い残し、ぱたぱたと一階へと降りていく。

 突然一人残されて、酷く虚しい気持ちになった。この世にただ一人だけ取り残されてしまったかのような、そんな気分だ。

 

 祖父の服。

 僕と同じくらいの年の頃に着ていた服。

 

 昔の祖父の写真。

 僕とそっくりな顔をした、若々しいその姿。

 

 その写真に写る少女。

 あの駅で、静かに誰かを待っていた少女。

 

 どれもこれも、まるで夢や幻のようだった。

 あやふやで、はっきりとしないもやのようなもの。それに包まれて、まるで化かされているような気分にさえなってくる。

 

 ふと、外を見た。

 時刻は夕方の四時あたり。陽が差して、橙色の光が窓を通して入り込んでいる。

 夕方の色は、何だか気味が悪く見えた。様々な色が混じり合う、不鮮明な時間帯。それを前に一人残され、何だか悪寒のようなものが走る。

 

 怖い、のだろうか。

 

 気持ち悪い、のだろうか。

 

 不安、なのだろうか。

 

 どれもこれもしっくりこない。

 しっくりくるとすれば――――鉄道に乗りたい、だろう。

 どうしようもなくあの駅のことが、あの女の子のことが気になって、居ても立っても居られなかった。

 

 だから、だから僕は。

 

 

 ○●○

 

 

 四年ぶりに乗った如月鉄道は、相変わらず良い音色を奏でている。

 床を伝って足に響く重厚な音。ディーゼル機関特有の、重く響くその音色に、田舎の空が彩られていく。

 山道に合わせて舗装された線路は、曲がりくねった奇妙な形をしていた。それに合わせて車両も揺れ、僕の体も右に左に揺さぶられる。

 車両がカーブすれば、僕の体もそれに流されて。

 車両が止まれば、僕の体はがくんと前に押し出される。

 そんな、相変わらずの荒っぽい運転だった。

 

 居ても立っても居られない。

 本当に、そんなことがあるのだな、と思う。

 祖父の服と帽子をつけたまま、外に出てきてしまった。鉄道に乗り込んで、僕は自らの服装にようやく気付いた。

 

 どうして、どうしてこんなにも駆られるのか分からない。

 けれど今はただ、ただ彼女に会いたい。

 あの時、言いたいことも言えずに背を向けた彼女に、どうしても会いたい。

 

 本当に、彼女はもうこの世にいないのだろうか。

 あの駅は、本当にもう存在していないのだろうか。

 四年前の僕は、確かにあの駅で降りて、彼女と他愛のない話に花を咲かせたはずなのに。

 

 それでも、あの駅はとっくの昔に廃止されたとことになっていて。

 あの女の子は、その時に亡くなったと祖母は断言していて。

 

 じゃあ、僕が見たのは何だったんだろう。

 僕が会ったのは、何だったんだろう。

 

 夢だったのか。

 幻だったのか。

 それとも、幽霊だったのだろうか。

 

 ――――もし、彼女が幽霊なのだとしたら。

 彼女は自分が死んだことにも気付かずに、ただあそこでずっと、来るはずのない人を待ち続けているのだとしたら。

 

「……古臭い恰好だなって思ったけど、本当にそうだったのか」

 

 そう口にすると、少しだけ微笑ましく思った。

 あんな、しょうもないドラマでしか見ないような服を、未だに着続けている少女。そう考えると、滑稽で、何だかいじらしい。

 

 夏休みの間、どころじゃなかったんだ。

 あの子は、七十年近くの間、ずっとあそこにいた。

 ずっとあそこで、若かりし祖父が帰ってくるのを待っていたのだ。

 きっと、今も。

 

 

 

 車窓に、夕陽を帯びる山々が映る。

 それらを乗り越えた先に、ふっと金色の光が差した。

 神々しい、まるで異界の入口のようなその光。安らかで、温かくて、それでいてどこか無機質で。

 

 それに思わず目を細めていると、視界が一転した。

 緑の木々が成りを潜め、あの眩しい色が顔を出す。黄色で辺り一面を覆った、太陽のような絨毯が。

 

 一本一本が、力強く伸びている。

 その先には巨大な花弁を湛えて、自らの存在を強く主張している。

 そんな向日葵が、この大地を覆い尽くさんと言わんばかりに広がっていた。丘も、民家も、全て呑み込もうとするかのように。

 

「次は――弥剣駅。弥剣駅」

 

 車内に響く、機械的な声。

 唐突な車内アナウンスが、僕の耳を駆け抜ける。

 

 今日もまた、僕以外には誰も乗っていない。祖母の家から乗った時は、他にも数人乗っていたはずなのに。

 今では誰も彼もいなくなり、僕だけが残されていた。ただ、世界のどこからも炙り出されたような、そんな感覚だった。

 

「……やっぱり、あった」

 

 車窓から、あの駅が見える。

 ホームの土台に、そこから伸びた太い雑草。地味なベンチと、ボロボロの雨除け。それらを向日葵で覆い尽くす、簡素な無人駅。あの弥剣駅の姿が、そこにあった。

 

 四年前に何度も降りた、弥剣駅。

 戦時中に焼失したというそれが、今そこにある。まるで時間に取り残されたかのように、そこにあった。

 

 僕は立ち上がり、ドアの前へと躍り出る。

 いよいよ速度を落としていき、車窓の流れが緩くなり始めた頃。

 夕陽を浴びて誇らしげに輝く向日葵が、じっくりと見えるようになってきた頃に。

 ホームの向こうの、そのまた向こうまで。どこまでも透き通った景色が、そこにあった。

 

 開く扉。

 重々しい警笛。

 煙が噴き出るような、耳に残る音を響かせるディーゼル機関。

 

 ようやく、その向日葵の世界へと繋げられて。

 僕はそのまま、勢いよく飛び出した。

 あの簡素なホームへと、足を踏み出した。

 

 

 相変わらず、美しい向日葵だ。

 あの時のように、ついついカメラを構えたくなる。四年前から愛用している、このカメラを。

 

 けれど今は、それも置いておきたい。

 向日葵よりも探したいものが、会いたい人がいるんだ。

 

「……あ」

 

 彼女は、いた。

 まんまるの目で、僕の方をじっと見ていた。

 

 肩まで伸びた黒い髪。それをハーフアップに結った女の子。

 向日葵のような黄色の衣装に身を包んで、夏のそよ風に長いスカートを靡かせている。

 

 四年前に、何度も一緒に夕焼けを見たあの少女。彼女が、あの時のままの姿で、そこにいた。

 

 ――――あぁ、やっぱり。

 

 全く変わらない少女の姿を見て、僕はそう察する。

 だから僕は、目深に被っていた帽子をそっと持ち上げた。

 

「……あ、……っ」

 

 期待するような眼差しが、次第に驚愕の色に差し変わっていく。

 じっと僕を凝視して、何度も瞬きをして。そうかと思えば、大きな瞳は大粒の涙を湛え始めた。

 僕はそれに何て返せばいいか分からないから、ただ薄く笑って歩み寄る。

 泣かないで、くらい言えば良かったかもしれない。けれど、そんな気取った言葉を口にできるほど、僕は人馴れしている訳でもなかった。

 

「……久しぶり」

 

 今では、僕の方が年上になってしまったみたいだ。

 彼女の旋毛が見えるくらいに、僕の背丈は伸びている。あの頃のように、背伸びをする必要もない。

 

「あぁ、あぁぁぁ……っ」

 

 彼女は、泣く。ただひたすらに、泣く。

 泣かせてしまったのは、僕の言葉のせいか。それとも、この格好のせいか。

 

 かつての国民服に身を包む僕。

 あの写真と同様のものを着込んだ僕。

 祖父が着ていた服を羽織った、瓜二つの僕。

 

 久しぶり。

 その言葉は、四年前を思った『僕』として投げかけた言葉なのだろうか。

 それとも、祖父と同じ格好をして、『彼を映したようなつもり』で放った言葉なのだろうか。

 それを彼女はどう受け取ったかは分からないけれど――いずれにせよ、彼女はぽろぽろと泣いた。泣いて、すっと僕の胸に飛び込んできた。

 

「……っ!」

「うわあぁぁぁん……っ! 遅いよぉぉ……っ!」

 

 まるで子どものように、彼女は泣く。幼子のように、ひたすらに泣いた。

 彼女は、確かにあの写真の少女のようだった。見れば見るほど、その通りだった。

 本当に、彼女は待っていたのだ。幼馴染が汽車に乗って帰ってくるのを、七十年近く待っていたのだ。

 

「……ごめん。でも、もう大丈夫」

 

 そう言いながら、僕は彼女の体を包み込む。

 華奢で柔らかい、小さなその体。死んでいるとは思えないほどに、温かい。

 

 抱き寄せると、彼女はより一層僕の体に強くしがみついた。

 本当に、本当に待ち焦がれていたんだって。震える肩がそう訴えていた。

 

「ずっと、ずっと待ってたんだよ……っ、早く、早く帰ってきてよ……っ」

「うん……」

 

 彼女の時間が、あの時で止まっていたとしたら。

 僕には、一体彼女がどれくらい待っていたのかいよいよ分からない。どのような気持ちで待っていてくれたのか分からない。

 でもきっと、本当に果てしないものだったんだろう。こんなに、泣くくらいなのだから。

 

「私……ずっとずっと、あなたに会いたかった。あなたが遠くに行ってしまって、本当に寂しかった……」

「……うん、僕も会いたかった」

 

 僕の肩は、それほど広くはないけれど。それでも彼女は、その狭い肩に必死に顔を摺り寄せていた。

 あんなにたくさん笑っていた彼女に、こんな想いが詰まっていたなんて。

 本当に、僕は馬鹿だ。

 何も考えずに、結局自分のことしか見ていなかった。

 

 より一層、僕は彼女を抱き締める。

 とにかく、とにかく彼女の心を癒したい。そんな一心だった。

 

「……えへへぇ」

 

 少女は、嬉しそうに笑った。

 相変わらず涙を溢して、顔をしわくちゃにしていたけれど。

 それでも幸せそうに、笑っている。本当に、感情表現が豊かな人だ。

 

 ――何だか、彼と君が凄く似てる気がするの。ううん、あの人はもっと年上なんだけど……雰囲気、かなぁ。

 

 四年前に彼女が言っていた言葉。

 それが不意に、頭の中で鳴り響く。

 

 似ていると称したのは、本当にその通りだった。

 年上だと言ったのも、その通りだった。

 若い頃の祖父と、今の僕は瓜二つ。

 四年前の僕は、パーカーを着込んだただの子どもだった。髪も長く伸ばした、祖父のような短髪とは程遠い姿だった。

 似ている、とは思われても、こうはならなかっただろう。

 こうなったのは、四年経ったから。

 まるでこの子を解放してやってくれとでも言わんばかりに、祖父が僕をここへ呼び付けたからだ。

 

「……ずっとずっと、待っていてくれて有り難う」

 

 僕は関係ないのに。

 四年前の僕なら、きっとそう言ったに違いない。

 けれど今は、感謝の気持ちしか出てこなかった。

 祖父の気持ちを肩代わりする気なんて、毛頭ない。ただ心の底から、彼女へのそんな思いが溢れ返るのだ。

 

「ううん……いいの」

 

 ようやく涙を流し終えて、少女は僕の肩から頭を持ち上げた。

 結った髪が、夕焼けの空に溶ける。

 目元まで紅く染めた彼女が、夕暮れの日差しに混ざっていく。

 

「帰ってきてくれて、嬉しい。えへへ」

 

 そう言いながら、彼女は僕の手を両手できゅっと握った。

 

 夕ご飯は何を食べたい?

 明日はどんな予定にする?

 まずはゆっくり休む?

 それとも、遊びに行く?

 

 そんな、子どもみたいに無邪気な問いを彼女は並べ立てる。

 夏休みの計画を一緒に立てるような感覚だ。本当に、その先が見えてくるような、そんな気さえする。

 

 ――けれど。

 髪の先が、黄色の服が、長いスカートが。

 彼女の全身が淡い光になって、この黄昏の空に舞い始めていた。

 彼女を縛っていた鎖が解けて、彼女の心は今やっと解放されたのだ。

 

 ようやく遊びにいけると言わんばかりに、わくわくとした表情で顔を満たしながら。

 少女は、夕闇の中へ溶けていく。

 僕の手を握っていた温かな感触が、ゆっくりと消えていく。

 

「……本当に、有り難う」

 

 淡い光は全て風の中に呑み込まれてしまった。

 ただ、足元をすくうような空風の音だけがそこにあった。

 

 沈む陽が、山の影に色濃い闇を描き始める。

 世界は少しずつ眠ろうとしていて、まるで微睡みのような空気へと変わりつつあった。

 ただ、どこまでも澄んだ赤い空が、この無人駅を包み込んでいた。

 

 

 

 

 

 あの向日葵畑は、いつの間にかなくなっていた。

 荒れ果てたような雑草が、どこまでも高く伸びている。

 そんな草木に囲まれたホームは苔だらけで、土台の部分しか残っていない。一緒に座ったあのベンチも、ボロボロの雨除けも。何もかもなくなっていた。

 

 あれはみんな、彼女の記憶だったのだろうか。

 遠い昔に切り取られた時間だったのだろうか。

 

 真相は分からない。

 それに、分からなくてもいい。

 

「……向こうで、君の幼馴染が待ってるよ。見分けがつかないくらいにしわくちゃになってるけど、さ」

 

 僕の手を包んでいた、彼女の手。

 夕焼けの空へと溶けたそれの代わりのように、僕の手には何かが触れていた。

 

 一輪の向日葵。

 この雑草に覆われた廃駅の中で、気丈にも輝き続ける太陽。大事な誰かを待ち続けるような、健気な姿。

 ――でも今は、満足しているように見えた。心の底から、微笑んでくれているような。今の僕には、そう見える。

 

「素敵な思い出を、有り難う」

 

 四年前では撮れなかった向日葵畑。

 今ではもう一輪しか残っていないそれを、僕はカメラのレンズに映した。

 

 

   ◆

 

   ◆

 

   ◆

 

 

 社会人になって、毎日あくせくと働き始めた僕。

 仕事は大変だ。本当に、自宅と職場を行ったり来たりする繰り返し。ゆっくり鉄道を撮りに行く時間すらなかなか取れやしない。

 

 それでも、これまでに撮ってきた写真を見返すことは、今も欠かさず続けている。

 撮りに行けずとも、それを思い返すだけで、僕の心は癒されるのだ。

 

 現像した写真を詰めた、数冊のアルバム。

 僕は思い出したように、その第一号へとそっと手を伸ばした。

 

「……あ」

 

 それを開いた先には、金色に輝く一枚の写真がある。

 雑草の荒波に呑まれ、それでもなお輝き続ける一輪の向日葵。

 僕のアルバムの中で唯一、鉄道を写していない写真。されど、何よりも思い出深い一枚だ。

 

 ――――向日葵の少女、と。

 

 その写真の裏には、下手糞な字でそんなメモ書きが刻まれている――――。

 





閲覧有り難うございます。
元々は匿名チラ裏で上げてたのですが、もったいないとのお声をいただいたので正式に投稿致しました。一部内容改編や設定し直しなどは行なっております。
もうちょっと膨らませたいなとは思いますが、なかなか時間が取れなくて辛い。でも、いつか数話に分けたお話にしたいと思います。がんばろ。そんなことよりモン飯更新しろってそれ一番略


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