そして胃を破壊する……!
──という流れで最後の2vs2の戦いが始まったわけだ。
3000コスのティーガーⅠ(まほ搭乗機)と2500コスのティーガーⅡ(エリカ搭乗機)。
対してこちらは3000コスのIV号戦車(あんこうチーム)と2000コスのカメさんチーム。
なかなかいい戦いになりそうじゃろ?落ちたら復帰できないんじゃよ、フォッフォッフォッ……
さて、ここからどう戦局が動いたかというと、まず黒森峰側が
「エミちゃん、晩御飯できたよ」
「お、わかったよ」
日記と携帯を両方閉じて、エミは椅子からぴょこんと飛び降りるとテーブルの側に駆け寄ってきた。
相変わらず羽のように軽やかな体捌き、すっかり見慣れていたはずだったけど、久方ぶりに目にするとやはり異質に映る。
それだけ、長い間離れ離れだったんだ。
「おぉ、美味しそうだ。 エリカの特製ハンバーグ、食べるの久しぶり」
「私だけ置いてけぼりだったもんね、そりゃそうよ」
「ごめんってばエリカさん……」
冗談よ、と返しながらエプロンを解き座布団の上に腰を下ろす。
左にみほがいて、右にエミがいる。
それだけなのに、心の底から安心感が湧き出してくる。
やはりこれが、私の定位置なんだろう。
「それじゃ、いただきます」
『いただきます』
手を合わせてから、晩御飯に手をつける。
自分で作ったチーズハンバーグに、みほが作ったコンソメスープ、エミが淹れたコーヒー。
特にエミはやたらとコーヒーを淹れるのが上手くて、それが飲めなくなってしばらくはイライラが抑えられなかった。
「ん、美味しいよエリカ」
「えっ、そ、そう」
当たり前の感想を言われて、なぜだか胸が弾んだ。
はしゃぎ過ぎだ、自分。
そう思っても心臓の鼓動が徐々に早くなっていくのを抑えきれない。
久しぶりに、こんな気だるい幸せを味わった気がする。
「それにしても今日は疲れたよね。 今までで一番大変な試合だったよ〜」
「ふふ、私もだよみほ」
しかし話題が切り替わってしまった。
仲睦まじく話す2人を見ながらも、私も今日の最後の戦いを思い出す。
そうだ、互いの全力を出し切った、極限の瞬間を──────
開戦を告げる銅鑼の代わりとなったのは、一発の砲撃だった。
『散開!!』
まほの駆るティーガーⅠから吐き出された火砲が空を穿つ。
それ以前に動き出していた大洗組みはそれぞれ左右に散開。
全く同時にエリカ車のティーガーⅠもキャタピラを駆動させ全車一斉に動きだした。
『エリカ、38tを任せる!』
「了解!」
まほの発言の意図をエリカは一瞬で把握した。
まほとエリカ、2人で揃って敵フラッグ車IV号D型を狙うのはアリと言えばアリだ。
だが、それを指揮するは西住みほ。
たとえ二輌で追ったとしても、容易くは仕留められない。
そしてその間に38tに撃たれる、これが怖い。
ヘッツァー仕様の改装を受けた砲火力は侮れず、何より履帯を破壊されればこの状況ではすなわち撃破されたに等しい損害となるからだ。
足回りがいい軽戦車、この場では警戒対象以外の何物でもあるまい。
「さぁ、こい!!」
みほとまほ、エリカとエミにわかれてそれぞれが
広場にて緩急をつけあったテクニカルな戦いを繰り広げるフラッグ車の戦いに対し、エリカは狭い通路で建物を一つ挟んだ機動戦を展開した。
行間射撃戦の形になるのは想定内だが、まずここからどう仕掛けるかが最初の課題。
(的が小さい、仕留めるのは難しいわ。 相手の方が早く動けるし行進間射撃では幾ら何でも無理がある)
まずは出方を伺いつつ相手の思考を搦めとるところからだとエリカは判断した。
キューポラから出した上半身を大きくひねり進行方向の地形を把握する。
「操縦手そのまま直進。 砲撃手、次のT字路でまずは一発撃ってみなさい」
『了解!』
返答の声を聞きエリカはキュッと手を握った。
まずは相手がどう動くか。
相手の車長は先の雰囲気からすると手練れと言うほどではなかった。
相手の指揮能力や作戦眼を見極める──!
「……ってえーー!!」
炸裂音が鼓膜を揺さぶった。
建造物の陰から姿をさらした瞬間にティーガーⅡの砲が唸りをあげる。
その砲撃が突き刺さった先に、 敵の姿が、ない。
「浅知恵を!砲塔左90°旋回、進行方向と真逆に向けなさい!」
ティーガーⅡの砲塔が真後ろへと向いた瞬間に、ギャリギャリと地面を削りながら姿を現した38t!
悔しそうに歯噛みする相手の車長の姿に愉悦がこぼれだす。
相手の射撃を物陰でやり過ごしてからすぐさま発進し背後を取る、そんなのはすぐに予測できた。
38tの動かない砲塔ではこちらと渡り合うにはそれしかないのだから。
「砲撃来るわよ、操縦手! 側面はなるべく晒さないように! 相手の狙いはほぼ確実に履帯よ!」
履帯は側面の方が被弾面積が大きい、そこを見せなければこちらは早々に落ちず、逆にこちらの砲火力なら相手を一撃で消し飛ばすこともできる。
『撃て!!』
両者の叫びがシンクロし、寸分たがわず放たれた一撃が瞬く間に交差、そしてそれぞれ狙いを外れてその先の校舎を破壊するにとどまる。
(敵装填手はおそらくエミ! 以前と体格が変わってなかったと言うことは体重も軽いまま、機動中の戦車内では相変わらず装填速度が著しく鈍るはず!)
「焦らず装填して! 砲撃手はこちらの指示まで撃たないで!」
エリカは冷静に相手の出方を見た。
足の速さ以外は全てにおいて優っている、一撃で撃破される危険性も少ない。
ならばここはじっくりと見る……
我慢できなかったか、38tがティーガーより早く次弾を放った。
うまく回避したことに胸をなでおろし即座に指示。
「速度落として! 砲撃手、焦らず狙い撃て!!」
ティーガーが速度を落としたことにより彼我の距離が瞬く間に縮まり、相手の表情をくっきりと見えるほどまでに接近する。
驚愕、嘲りが交差し────
砲撃が放たれた。
「わあああああああああ!!!???」
「クッソ!!」
しかしティーガーⅡの必殺の一撃は回避された。
操縦手のとっさの判断か急激なカーブで車線から逃れたのちに小柄な車体を活かしてティーガーが塞ぐ狭い道の脇ギリギリをぶつかりながらも強引にくぐり抜けていく。
情けない悲鳴、獲ったという確信を外された怒りを吐き出しながらもすぐに追撃を指示。
「背中を向けてる38tなんてカモも同然よ!! 追撃して破壊しなさい!」
猛然と発進したティーガーが軽戦車の背を猛追し始める。
一気に形成を手繰り寄せたエリカはしかし慢心せずに次の一手を考え出す。
(この先は左にしか曲がれないはず、そこを狙い打てば……!)
しかしそうはならなかった。
38tの背中から煙幕が吐き出される。
(これは、序盤でこちらの目をくらますために使ってた煙幕!?)
ゲリラ戦に従事していたはずの相手がこんな小道具を積んでいたとは、他車両が落ちた時の保険か、はたまたこの状況を見越していたか。
「後退よ!煙の中に踏み入って建物に突っ込むなんて笑い話にもならないわ!」
エリカの指示に従い来た道を引き返すティーガーⅡ。
ここから相手がとってくる動きはおよそ二つ。
一つは煙幕でこちらの足を止めた隙に角を曲がり切って背後を取られた窮地を脱する安全策。
もう一つは煙の中で反転してこちらに突っ込み奇襲をかける策。
判別がつけられないエリカはそのまま後退速度を維持した。
どちらの方法を取られてもいいように最初に砲撃をしたT字路まで引き返し、今度はそのカーブへと突入し狭い路地を脱出した。
すぐさま周囲を確認、敵影が無い。
(あれだけの煙幕、未だ尾を引いてるはずだけどそれが無いということは、まだ路地から出てきてない?)
であれば敵はおそらく反転しこちらに奇襲を仕掛けてきたか。
砲塔を今出た小道に向けさせながら戦車を広場の中に運ばせる。
どうする、どうするか。
戦況が完全に停滞した。
どくどくと高鳴る鼓動を抑え込みながら辺りを見回す。
遠くまでは移動していないはず、ここからどう探りを入れるか。
ゴクリと生唾を飲み込んだ瞬間に耳を揺らす騒音が再びエリカに届き始めた。
ちがう、38tの音じゃ無い。
「隊長!!」
エリカの立ち尽くしていた広場に二輌の鉄の獣が突入してきた。
互いの車長が一切目をそらさず睨み合いながら、まるで示し合わせたように交差して砲口を突きつけ合う。
そしてそれを待っていたかのように、横道から38tが飛び出してきた。
「38tを撃て!!!」
ティーガーⅡの砲撃手はその叫びに即座に答えてみせて、38tの足元にとっさに砲撃を放った。
興奮がアドレナリンをかき出し血液を沸騰させる。
湯気が立ち込めたようにかすかに白み始めた視界の中で確かに38tの足が止まったのを見た。
「突っ込めぇ!!」
考える前に叫んでいた。
視界の端っこでフラッグ車たちがしのぎを削り会う中で猛虎が猛然と小柄な亀に襲いかかる。
凄まじい衝撃がエリカの体を襲った。
体が放り出されそうな衝撃を必死で堪える、38tが体当たりの衝撃で大きく揺さぶられていた。
ともすれば横転するか。
痛みを覚える中でも確かに頭の中でどうするべきが正解かを考え出す。
「狙い、定めて!」
絞り出した声は38tが吐き出した主砲にかき消されたが、喉仏のタコホーンが確かに車両メンバーに伝えた。
発射したばかりの弾はまだ装填が終わってない。
しかし相手もたった今吐いた弾を盛大に外したばかりだ。
装填速度はほぼ同じだった、ならばこちらの方が
先に装填して先に撃てる!互いにショックで動けていない今なら
動けていない
動いてない
そう、今はティーガーⅡも38tも動きを止めている。
「避け──────!!」
一瞬だけ、38tの主砲が発射されるのが早かった。
38tが咆哮し、エリカが悲鳴を上げてから、ティーガーⅡのとどめの一撃が解き放たれた。
『2秒と経たずに再装填を完了させた』38tヘッツァーの主砲は、確かにティーガーⅡの履帯を破壊した。
一瞬遅れて、比較するのもおこがましいティーガーⅡの主砲が大洗の軽戦車をぶっ飛ばして、白旗を上げさせる。
忘れていた。
エミの装填は戦車の起動中は確かに遅い。
しかし静止中の状態では、
足が死んだ今、ティーガーⅡはもはや固定砲台とかした。
そしてエリカが腰を抜かしてぺたりと車内に座りこむ。
「車長、フラッグ車ともに離れていきます」
「そりゃそうよ。 正真正銘一騎討ちを始めるんでしょう」
「どうしましょうか」
「隊長に託しましょう」
こちらの足が止まったことを察知して即座に距離をとっていくのは流石と言えた。
こちらが最後に一矢報いる隙もあたえない。
昔から普段はすっとぼけているのに戦いとなると抜け目のない子だった。
「やれることはやった。 油断して最後にポカしたけど、互角には持ち込んだ。 最低限の仕事は果たしたとして満足しましょうか」
「……はい」
「ごめんなさい。 最後の最後にやっちゃったわ」
「いえ、これは我々全員の責任です。 エリカさんだけの責任じゃありませんよ」
「……うん」
そんな言葉をかけられて、エリカはふと思う。
もしエミが、あの事件を起こした時。
周りがそんな風に声をかけていれば。
たらればの想像に虚しくなって、エリカは手足を投げ出してグッと伸びをした。
数分経過した頃に、試合終了の合図が知らされた。
キューポラから這い出したエリカは、自分の乗っていたティーガーⅡの鉄の肌に手を置いて、撃ち抜かれた履帯を眺めた。
これが自分の最後の最後に油断した証拠だった。
「はぁーあ」
思わずため息が漏れだして、ふと後ろを振り向くと、横転した38tから転がり出てきた大洗の面々が煤だらけの姿を笑いあっていた。
(引き分けかあ)
目頭がツンと熱くなったのをこらえて、エリカは大洗の選手たちに歩み寄った。
それに気がついた一同の中でも特に小柄なエミがニヤリと一歩前に踏み出してくる。
「エリカ、こっちの勝ちだ」
「はいはい、こっちの負けよ」
差し出されたのは小さくて、でも豆だらけで硬い手のひら。
久しぶりに握ったその手の温もりを感じて、エリカはとうとう心の底から負けを認めた。
去年とは違って、最高に清々しい負けだった。
涙が一粒頬を伝った。
作者ページの活動報告でおまけルートの案を募集してますよ
すでに何件か来てるけどかなり闇が濃いのがいくつか混じってて草生え散らかす
あ、次回最終回です