ゆかエミルート「死にたくない……死にたくないよぉ……優花里さんと離れ離れになりたくないのに、なんで……」
その他ルート「草」
「うーーーーーーーん……」
人生というのは絶え間なく連続した問題集だ。
揃って難問、選択肢は酷薄、おまけに制限時間まである。
一番最低なのは夢のような展開を望み何一つ選ばないことだ……と、とある牧師が言っていた。
この言葉は、俺の人生の指針でもある。
たとえどんなに辛い場面でも、どんなに苦しい状況でも、自分で考えうる限りの最良の選択肢を選び続けなければならない。
少なくとも、自分で選んだ答えであれば反省はするが後悔はない。
だからこそ、俺は今この難問に立ち向かわなければならないのだ。
「どっちがいいんだ……」
俺のそれぞれの手に握られているボコの人形。
左右で種類が違うそれのどちらをみぽりんへの手土産にすればいいのか、俺は悩んでいた。
そう、大多数の人からすればこれはどうでもいいような悩みだが、俺からすればみぽりんのご機嫌取りとは人生において最上位に位置するほどの重要な問題なのだ。
さて、改めて説明しよう、今俺は大洗某所にあるボコミュージアムへとやってきていた。
ボコが好きというわけでもない俺がなんでこんなところにいるかといえば、それはズバリみぽりんに何か贈り物をしたいと考えたからである。
最近俺は悩んでいた、なんだかみぽりんの機嫌が悪い。
なんだか話しかけてもツンツンしてるし、その割にはチラチラ俺の方を見てくるし。
つまり、なんだか怒ってるのだ。
俺が何か不手際をやらかしたのかもしれない、心当たりはないが大天使みぽりえるがぷんぷん丸な理由なんてそれしか思いつかない、ピロシキ案件です。
なのでそれを解消するために、俺は練習試合後の貴重な自由時間にスパッと移動して運よく見つけたこのボコミュージアムで、みぽりんへの贈り物を見繕っているのであった、以上! ss読者向け説明終わり!
まったくss世界の住人ってのは独白が忙しくなるのよ(のび太理論)。
「……どっちも変わらんだろこれ」
しかしここで問題が発生した、俺はボコに詳しくないのだ。
みぽりんがどハマりしてるおかげで一般人よりかは詳しいが、しかし興味がないゆえ調べなかったので俺はボコグッズの価値とやらが全然理解できていないのだ。
足りない脳みそをフル稼働してどうにかこうにかレアもの(って札に書いてあった)二つに絞り込めたが、このどちらにすればいいかがまるでわからない。
「どうする、どうする天翔エミ……」
左手のボコか、右手のボコか。
あいにく予算の都合上どちらか一体に絞らざるを得ない。
必死に考えて考えて考えて、どちらがよりみぽりんが喜ぶかを予想する。
負傷箇所の多い左手側か、装飾と痛々しい部位の怪我が目立つ右手側か。
出航までの時間も残り少ない、早く、早く決めなければ……
「……ん?」
「ぁっ……」
ふと空気の動きを感じたので視線を横にやると、そこには超絶美少女がいた。
ちょっと目を疑うレベルのスーパーウルトラ美少女、色素の薄いモンブラン色の髪をサイドにまとめていて、俺よりもわずかに背が高い。
潤んだお目々は遠慮がちに、俺の手にあるグッズを見つめている。
てかこの子島田愛里寿やんけ。
驚くと同時に、まあなくもないか、と俺は納得した。
原作の様子からして愛里寿はこのボコミュージアムのリピーターであったことは想像に難くない。
俺がたまたま訪れていたこの日に愛里寿もやってきていたのは運命のいたずらとしか言いようがないが、まぁなくはない程度にはあり得る事態と言えるだろう。
で、どうしようこの気まずい空気。
俺はどうリアクションすれば良いかわからず、愛里寿は今にも消え去ってしまいそうなほどにおずおずもじもじしていらっしゃる、可愛い。
いやそうじゃなくて。
まてよ? そうだ、ここはボコのスペシャリストに直接意見を聞くのはどうだろうか?
「あの、君はボコに詳しいのかな」
「ぁ……えと……」
「あぁ、ごめんね、急に。 実は、私の友達がボコが大好きで、お土産になにか買っていこうと思ったんだけど、どっちがいいかわからなくて。 どっちがレアものなのか、教えてもらえないかな?」
「え? えと、その……」
「無理にとは言わないけれど……どうかな?」
「あ、と……そ、それ!」
しばらく押し黙った愛里寿は、ピシッと俺の左手を指した。
なるほど、プロから見るとこちらがいいらしい。
「こっちか、ふむ……わかったよ、ありがとう」
「ぁ、と……その……」
「ん?」
「選ばなかった方私が買います」
……さては、自分が欲しい方が残るようにしたな? このいやしんぼめ! かわいい!!!!
あんたもそう思うだろ?
「ふむふむ、ここにはそんなに前から通ってるんだ」
「私と同じくらいの歳で、ここにきた人初めてみた……」
「は、ははは、随分な穴場なんだねここは」
その後、選んでくれたお礼にと適当に甘そうな飲み物を自販機で奢ってあげたついでにベンチで話し込むこととなった。
金ないのにジュース買ってんじゃねーよハゲと思うかもしれないが、たかがジュース一本程度の値段で愛里寿とお話できると考えてみ?
買うやろ????
「あらためて、アドバイスありがとう。 私は天翔エミだよ。 君は?」
「し、島田愛里寿」
「愛里寿さんだね。 うん、覚えた」
「は、はい」
「……」
「……」
会話が続かない(絶望
ば、ばかな。 この世界に生まれ落ちてからコミュ力に関しては半ば無理を重ねてそれなりのものになったと思っていたが、これほどまでのシャイガールの相手は初めてだ、初対面のエリカの方がまだとっつきやすいぞう! どうする、どうする……
「エミさんは、ボコ、好きなの?」
「お?」
と思ったら向こうから話しかけてきた。
これは僥倖、貴重なチャンスを掴みとれ。
「うーん、私自身は好きと言うほどではないんだ。 さっきも言ったけど、友達が大ファンでね、ここに入ったのも、友達が喜ぶものがあるかもと思ったからなんだ」
「そ、そっか……」
「愛里寿さんは、ボコが好きなの?」
「うん、大好き! どんなにボコボコにされても、絶対立ち上がるから! ……ぁ、その、はい」
一瞬満面の笑みになったけれど、すぐにまたうつむいて、奢りのジュースをちびちびする愛里寿。
あぁ^〜かわええんじゃあ〜、じゃなくて。
「そっか、そんなに好きなんだ。 うん、それは素晴らしいことだ」
「そ、そんなこと」
「いいや、何かを好きって自信を持って言えるのは、とても素晴らしくて、尊いことなんだよ。 胸を張るといい」
「……エミさんは、何か好きなことはないの?」
「戦車道かな」
間髪を容れずに答えた。
正確に言うと戦車道しかやってこなかったのでそれしか語れないともいう。
「周りからやめとけやめとけって言われてるんだけど、どうしてもやりたくて。 思う通りにはいかないけれど、とても楽しいよ 」
「……戦車道、やってるんだ」
「意外かな?」
「うん、すごく」
正直に言われてしまって、俺は苦笑した。
その時、携帯のアラームが鳴る。
そろそろ学園艦に戻らなくてはならない。
「もう行かなくちゃ」
「あ、うん……あの、ジュースありがとう」
「お気になさらず、ステキなアリス。 こちらこそありがとう、君のおかげでいいものが選べた」
「ぁ……」
俺はベンチから立ち上がり、愛里寿に背を向けた。
さて、ここから学園艦まではどの程度の時間がかかるだろう。
方角はわかってるからあとは全部直線で結べる、十分程度で行けるかな……?
「あ、あの!」
駆け出そうとした矢先、後ろから大声が放たれた。
振り向けば、愛里寿が先ほど譲ったボコグッズをこちらに差し出して、目を潤ませている。
「ごめんなさい……さっき、嘘ついたの。 本当はこっちの方が貴重で……私が欲しかったから、つい」
「……そっか」
俺はその言葉を受けて、感動に打ち震えていた。
なんて、なんていい子なんだろうか。
きっと人を騙した罪悪感に耐えられなかったんだろう。
俺が無言で近づくと愛里寿はビクリと震えてうつむいてしまったので、その肩をポンポンと叩いてあげた。
「気にしなくていいよ、それが欲しかったんだよね?」
「ぁ……」
「じゃあ代わりに、次にここにきたときには、一番いいボコグッズを紹介してくれるかな? 学園艦に住んでて普段は来れないから、その時は電話するよ。 連絡先、聞いていいかな?」
「……うん!」
こうして俺は、ボコミュージアムの場所を知り、そしてボコのスペシャリストである島田愛里寿に直々にボコアイテムの解説をしてもらう権利、そして島田愛里寿の電話番号を入手したのであった。
大収穫ってレベルじゃねえぞ!!
ちなみに購入したボコグッズはみぽりんに大変喜ばれるとともに、どこで売っていたのか根掘り葉掘り問い質されるのでしたとさ。
ちなみにテコでも答えなかった、みぽりんがボコミュの存在を知るのは劇場版に入ってからやで。
イギリスにはこんな言い伝えがある。
茶柱が立つとステキな訪問者が現れる。
つい先ほどアッサムはその言葉を車長ダージリンから聞いたばかりだった。
だが、訪れた訪問者はとんだ厄介者であり、ダージリンの顔に泥を塗ってくださった。
吹き出すのを我慢するアッサムの後ろで、ダージリンがふるふると震えながら自分の手の内にあるぐしゃぐしゃにねじ曲がったライフル銃を見つめている。
「驚きましたね、キューポラがノックされたと思ったら彼女がいて、撃とうと銃を構えたら没収されてそのまま原型も残らないほどぐしゃぐしゃに捻じ曲げられてしまうとは」
「笑い事ではないわアッサムっ」
若干涙目になりながらダージリンはライフル銃の残骸を放り捨てた。
その痛々しい姿にアッサムもペコも操縦手も苦笑する。
普段のダージリンでは考えられない姿だが、こと天翔エミリにいっぱい食わされたとなると途端にこの優雅な車長は余裕をなくしてしまうのだ。
「落ち込んでる暇はないわ、所詮私たちの車両がエミリさんを撃破する能力を失っただけよ。 確かにエミリさんは厄介ですが、今は迅速に動き相手のフラッグ車を打ち取ることが先決──」
『ザ、ザザ──あーテステスマイクテース。 聖グロのみなさんこんにちは天翔エミリです! 実は今クルセイダー部隊に属していたローズヒップさんを戦車から拉致ってとある建物の上にて休憩中です! それではローズヒップさん、聖グロの皆さんにコメントをどうぞ、3、2、1──たすけてくださいましダージリン様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! あ、このコーヒー美味しい! でsプツン』
「天翔エミリィィィィィィィぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」
「おお、もう……」
『みほ、こちらエミリ、予定通りダージリンへの挑発行為は終わったぜ』
「ありがとうエミリちゃん。 それでは、これからアツアツ作戦を開始します! 知波単学園の方々も準備はいいですね?合図が出たら突撃です!」
「了解です!!」
主人公プロフィール
名前 天翔エミリ
身長 チビ
体重 軽い
特技 ベンチプレス150キロ コーヒーを淹れること 煽り
名前の由来 転生→テンショウ→天翔
『エ』リカ、『み』ほ、愛『里』寿
↓
天翔エミリ
変わったタイミングはAi HF『パンツァード・コア プロジェクト トランスミグレイション』から
それ以前とおまけは天翔エミである