銃と私、あるいは放課後の時間   作:クリス

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栞が消えてしまった方は申し訳ありませんがもう一度張り直しをお願いします。

※回想の出来事を二年前から三年前に変更


放課後 昔話の時間

 過去は変えられない。どんなに後悔しようとも犯してしまった過ちは正せない。どんなに上塗りしようとも罪は消せない。いつだって、そして今だって。

 

 

 

 

 

 午前の授業が終わりいつものように昼休みが訪れる。私たちはいつものように校庭でランチタイムと洒落こんでいた。木陰に座り空を見上げれば枝葉の隙間から温かい日光と澄んだ青空が顔を覗かせている。

 

「はぁ、やっとお昼だよー」

「確かに今日は体育もあって疲れたな。というかカエデは今日もお菓子だけか。よく飽きないな」

 

 カエデはクリームの詰まったエクレアの袋を開けながら目を輝かせている。美味そうだな……

 

「はい、どうぞ!」

「え?」

 

 そんなことを考えているとカエデが徐にエクレアを半分に千切り私に差し出してきた。いきなりどうしたんだ?

 

「さっちゃんさん、途中から声に出てたよ」

「なっ!?」

 

 顔に血が上る。きっと赤くなっていることだろう。あぁ、恥ずかしい……。なんで私はこう抜けているのか。昔は化物と呼ばれ誰からも恐れられていたのにな。

 

「おーい三人!いっしょに飯食おうぜ!」

 

 不意に杉野の声が聞こえてきた。顔を向ければ杉野と千葉と速水がこっちに向かってきている。珍しい組み合わせだな。特に断る理由もないので私たちは彼等を交えて昼食を取り始めた。

 

 そうやって楽しい時間を過ごしていると杉野が突然思い出したかのように私に話しかけてきた。この顔は恐らくあれだな。

 

「また臼井の武勇伝聞かせてくれよ」

「俺も少し聞きたい」

 

 予想通りだ。これだから男子は。そう思うがこれがここでのデフォルトなので今更気にしても仕方がない。私の経歴がばれてからたまにこうして昔話をせがまれるのだ。聞いても楽しいものではないと思うのだが男子はこういうのが好きだと聞く。きっと血が騒ぐのだろう。

 

「ちょっと、あんた達不謹慎じゃないの?」

 

 速水が珍しく表情を曇らせて杉野達に言い返した。普段は無表情なのでこう言った顔を見るのは珍しい。

 

「そうだよ。祥子話したくなかったら話さなくていいからね!」

 

 カエデも私の腕を掴んで同じようなことを言ってくれた。別に気にしないんだけどな。カエデはどうにも過保護の傾向があるのでいつものことだが速水がああいうのは意外だった。

 

「大丈夫だから。カエデ」

 

 カエデの真っすぐな目が私を射抜く。本当に心配性なんだからこの姉は。私は水筒から水を一口飲み何を話すか考え、そして口を開いた。

 

「あーこれは私の脇腹に残ってる傷跡にまつわる話でな。あれは今から三年前のことだ。中東で仕事をしてい────」

 

 景色が巻き戻されていく。私は記憶を頼りに話を進めた。

 

 

 

 

 

「あとはこの道を真っすぐか」

 

 ハンドルを握りながら独り呟く。空は憎たらしいほど澄み渡り寒々しいほど真っ青な青空と切り立ったパンのような岩山が二色のコントラストを描いていた。

 

「本当に何もないところだ」

 

 運転に集中しつつも周囲の景色に目を配る。景色を見ると言う目的もあるが、それ以上に敵がいないかを探るためであった。事前の情報では向こう10キロは敵がいないと聞いていたが、いったいどれほど信用できるのだろうか。

 

 ボロボロの速度計はピクリとも動かないが、流れ去る景色の速度から大よそ40キロで走っている。これならあと15分ほどで目的地の手前に到着するだろう。横の景色を見た流れで助手席に目をやる。そこには誰もおらず代わりに大きなバックパックとAR-15が寂しく揺れていた。

 

「相変わらず一人か……」

 

 今回の仕事はこの先にあるテロ組織の作った対空ミサイル陣地の偵察、可能ならそれの破壊。依頼主は例によって政府軍に雇われたPMCだ。

 

 要は下請けという形でここにやってきたわけだ。何でも輸送ヘリが何機かやられているらしい。ミサイルや砲撃で潰そうにも山岳地帯に陣取られたせいで砲は展開できずミサイルも届かないそうだ。

 

 そこで身軽で、尚且つある程度の戦闘能力のある私に白羽の矢が立った。拒否権なんてあるわけがなく、また拒否する気もなかったので私はこうして一人車を走らせている。

 

「それでも私一人にやらせるか」

 

 普通ならこんな危険な任務は少なくとも万全のバックアップの下でやるものだが、私の雇い主はコストと社員の命を秤にかけてコストを取ったらしい。高給取りとは言え所詮少年兵、中東の危険地帯で身寄りのない子供が一人死んだところでどうとも思わないのだろう。

 

「まあ、世の中そんなものだ」

 

 ちゃんと給料を払うだけ随分とましなほうだと思う。アフリカにいた頃は本当に奴隷と何ら変わりない扱いだった。いや、奴隷のほうがまだましな扱いだと思う。少なくとも奴隷は地雷原を無理やり歩かされたりしない。

 

 だから働いた分だけ給料が支払われて食事もでるあそこは素晴らしいところだと私は思う。もっとも給料を貰ったところで何に使えばいいのか分からないがな。平和な国の女の子は服やアクセサリーを買うと聞いたがそんなもの何の役に立つのだろうか?

 

 服なんて物持ちが良くて体の動きを妨げなければなんでもいいではないか。平和ボケした連中の考えることはよくわからない。やはり服はデジタル迷彩の戦闘服に限る。私は自分の着ている服を一瞥して確信した。

 

 思考のずれを直すためにおもむろに車に備え付けられたラジオのスイッチを入れる。聞き続けると洗脳されそうなナシードをバックにDJがアラビア語で自分達の活躍を声高に謳いあげる。どうやら政府軍のヘリを落として装備を奪ったことを自慢しているらしい。きっと例のミサイル陣地のことだろう。精々今のうちに自慢しておけばいい。

 

「あれ?どうした?」

 

 そんなことを考えていると車が急に止まった。エンジン音もしない。どうやらエンストしたようだ。鍵を回しエンジンを掛け直す。だがいくら鍵を回してもかすれたセルの音が鳴るだけでタコメーターの針は虚しくゼロを指しつづけるだけであった。

 

「くそ、あのレンタカー屋恨むぞ」

 

 どうやら故障車を掴まされたようだ。どうりで妙に安いと思ったんだ。トヨタだからって安心するんじゃなかった。シフトレバーをパーキングに入れハンドブレーキをかける。そしてハンドルに刻まれたロゴを殴りつけ車から降りた。クラクションすら鳴らなかった。仕方がない。ここから先は歩きだ。

 

「思っていたより寒いな」

 

 標高が高いせいか微妙に肌寒い。思わず身震いする。服のサイズがあっていないせいか隙間から風が吹きこんでくるのだ。苦し紛れに首に巻いた灰色のシュマグをきつく巻き直すが焼け石に水だった。

 

「これが終わったら温かいところにでもいくか」

 

 そうぼやきながら助手席のドアに周りこみ座席に積んだバックパックを背負いAR-15を手に取る。特徴的なフローティングハンドガードがSPR Mk12 MOD0を連想させるが中身は市販のAR-15と何も変わらない。一応パーツは厳選したので精度は他のPMC連中が使っているものよりも数段上だがな。

 

 歩きながらマガジンを抜き残弾を確認、再び装着しチャージングハンドルを引く。金属音と共に弾が装填された確かな手ごたえを感じる。そして安全装置を掛けスコープ、オフセットレッドドットの確認を行う。

 

「問題なしと」

 

 どちらも問題ないことを確認しサプレッサーとバイポッドを触り緩みがないことを確認。スリングを使い肩に掛けホルスターに差し込んだP226を抜き同じように装填を確認。あとは各種グレネード、ナイフ、無線など、大よそ戦うために必要な物を全て確認し準備完了。これでいつでも戦える。

 

 私は死に向けて歩き出した。いつものことだった。

 

 

 

 

 

 いつの時代も兵士ほど長い距離を歩くものはいないだろう。PMCだろうが正規軍だろうがテロリストだろうが皆等しく歩く。直接的な戦闘なんて任務の中のほんの少しの時間だけだ。もっともそのほんの少しの時間で多く者が死ぬわけだが。運が良いのか悪いのか私は今の今まで生き残ってきた。

 

 稜線に作られた道を歩きながらどうでもいいことを考える。私より生きたい人がいた。私より生きるべき人がいた。そのだれもがほんの少しの時間で死んでいった。何故、彼等が死んで私が生きているのだろうか。

 

「どうでもいい。私は戦うだけだ」

 

 ずれた思考を引きずり戻す。何度も同じことを考え何度も同じ答えを出す。どんなに考えたって答えは同じ。戦って殺して死ぬ。それだけだ。無駄なことに割くリソースは存在しない。目の前のことに集中しろ。

 

「あれか」

 

 そうこうしているうちに作戦地域に到達したようだ。視界の先の盆地には煉瓦で出来た建造物が村を構成している。私は腹這いになりながら双眼鏡を取り出し村の偵察を始めた。

 

 敵にとって重要な場所なだけあってか警備は厳重だった。一個小隊近くの民兵に狙撃手、重機関銃を積んだテクニカルまである始末。何とか目当ての地対空ミサイルを見つけたがあれを破壊するのは一人じゃ厳しそうだ。

 

「司令部へこちらハードラック、敵対空ミサイル陣地を発見。繰り返す敵対空ミサイル陣地を発見。オーバー」

 

 トランシーバーを手に取り司令部へと連絡を行う。程なくしてノイズ音と共にってきた。

 

「こちら司令部からハードラックへ、了解。目標の座標と敵の規模は?オーバー」

 

 バックパックから地図を取り出し実際の地形と照らし合わせる。

 

「ハードラックから司令部へ、目標の座標は東経○○、北緯○○、ポイントD-16です。少なくとも二十名以上の武装した民兵に狙撃手が一名、テクニカルも一台見える」

 

 ありのままの情報を司令部へと伝える。さて、どうでるか。まあ、大方予想はつくがな。そしてその予想は本物となった。

 

「司令部からハードラックへ、了解した。そのまま目標対空ミサイルの破壊に移行せよ。繰り返す目標を破壊せよ。オーバー」

 

 期待なんてしていなかったがやはりこうなったか。常識で考えれば援軍を寄こすかそのまま帰還させて後日部隊を送るだろうに。まあ、わかってはいたけど。

 

「こちらハードラック、一応聞きますがが援軍は?オーバー」

「こちら司令部、悪いが援軍は送れない。単独で目標を破壊せよ。まあ、化物のお前なら余裕だろう。これ以上は傍受の危険がある。交信終わり」

 

 その交信を最後に司令部はうんともすんとも言わなくなった。どうやら見捨てられたらしい。非常識極まりないが零細PMCなんてこんなものだ。PMCなんて大層な名前が付いているが所詮は傭兵崩れにすぎない。大手なら違うらしいが私のところはその程度の組織だった。

 

「さて、どう料理するか」

 

 双眼鏡を覗きながらどう行動するべきかを考える。重機関銃を搭載したテクニカルがある以上、迂闊に飛び込めば蜂の巣にされる。迫撃砲でもあれば問題は一気に解決するが生憎と今日は持ってきていない。こんなことになるのなら持ってくるべきだった。

 

「いっそこのまま逃げるか?」

 

 元からあのPMCとは近いうちに縁を切るつもりだった。彼等だって私が任務を達成するなんて期待していないだろうしもし彼らがこれが原因で被害を被ったとしても私には何の関係もない話だ。逃げたことで信頼は落ちるだろうがそんなものはすぐに取り戻せる。

 

「そうだな、それがいい……なんだあれ?」

 

 そんなことを考えていると自動車のエンジン音が村に向かって近づいてくるのを聞き取った。すぐさま双眼鏡を音のする方向に向ける。荷台が幌で覆われたトラックが一台村に向かってやってくるのを確認した。どうやら敵の増援が来たようだ。

 

「いよいよこれは逃げた方が良さそうだな」

 

 レンズの向こうのトラックは村の広場のような場所に停まった。荷台の中身はここからではよく見えない。大方武器か物資だろうと私は考えたがその考えはすぐに覆された。

 

 荷台から降りてきたのは十人ほどの男女だった。年齢はバラバラ。子供も老人もいる。広場にやってきたテロリスト達に銃を向けられれ遠目でもわかるほど怯えきっているのがわかる。

 

 きっと近隣の村から無理やり連れてこられたのだろう。ここではよく聞く話だ。男は奴隷。女は性処理に子供は人身売買か殺されて臓器を売られる。

 

「…………」

 

 トラックから降ろされた人たちはテロリスト達に連れられて村にある比較的大きな家に押し込められていく。恐らく牢屋代わりなのだろう。

 

「気が変わった」

 

 私はそう呟くと村へ向けて斜面を転がるように駆けた。決してあの人たちを助けようとしているわけではない。そんなヒーローのような利他精神なんて持ち合わせていない。ただ状況を考慮して任務遂行が可能だと考えたまでだ。

 

「もう少しこっちにも監視を置いたほうがいいだろうに」

 

 幸いにも私のいる山側の警備は手薄だった。家屋の屋根に狙撃手が一人陣取っているが道の方ばかりに目を向けてこちらを見ようともしない。私はしばらく斜面を駆けちょうどいい大きさの岩の陰に身を潜めた。

 

「まずは目からだ」

 

 プレートキャリアーに括り付けたレンジファインダーを手に取り狙撃手へと向ける。ファインダーに表示された距離は326m。風は体感で西に約4キロ。この銃と私なら問題なく狙える。

 

 腰を下ろしAR-15を構え岩に銃身を委ねる。左手はストックを支え右手はグリップを握りスコープのノブを回し目標に合わせ倍率とレティクルを調節。そして安全装置を解除しスコープのレティクルを狙撃手の後頭部へ合わせた。

 

狙え、そして外すな(Aim small miss small)

 

 軽く息を吸い肺が酸素で一杯になったところで止める。

 

 音はいらない。聴覚が遮断され世界から音が消える。

 

 色はいらない。色覚が遮断され世界から色が消えた。

 

 そして静寂が訪れる。聞こえるのは私の鼓動だけ。

 

「さようなら」

 

 引金を引く。軽い衝撃と共にサプレッサーによって抑制された銃声が鳴り響き排莢口からはじき出された空薬莢が宙を舞い土にめり込んだ。

 

 銃口から飛び出した.223口径の弾丸は緩やかな放物線を描きつつ風によって曲がっていく。

 

 そして命中。弾丸は狙撃手の後頭部から頭蓋骨を突き破り脳を破壊、そのまま延髄を突き抜ける。

 

 スコープの先で狙撃手は糸の切れた操り人形のように崩れ落ちた。あの男はもう二度と動かない。精々あの世で72人の処女と乳繰り合っていればいい。

 

「まずは一人」

 

 敵はまだ仲間が一人死んだことには気づいていないようだ。スコープで村を観察するが警戒するような動きは見られない。だがそれも時間の問題だろう。早いことミサイルを破壊する必要がある。無線で仲間を呼ばれてはたまったものではない。

 

「次は口だ」

 

 いつだって、どこだって私のやることは変わらない。戦って殺して死ぬ。それだけだ。

 

 

 

 

 

 頭を拳銃のグリップで殴られよろめく男の口を左腕で押え右手に握ったナイフを肝臓に突き刺す。肉を刺す鈍い感触と共に男の目が見開いた。

 

「ッ!──ッ!」

 

 まだ足りない。突き刺したナイフを抜き今度は男の喉に突き刺す。その間男の目を見続ける。男はいったい何を考えているのだろうか。死への恐怖か、それとも後悔か。私にはわからないし、わかったところでどうでもいいことだ。

 

「…………」

 

 男は家の壁にもたれかかり力なく座りこむ。男の目から完全に生気が抜け落ちたのを確認し私は男の死体を空き家の中に隠した。

 

 これで四人目だ。村への侵入は容易だった。いくらアサルトライフルや軽機関銃で武装していようともツーマンセルも組んでいない民兵如きでは私の相手にはならない。私と彼等ではかなりの体格差があるが、一度ナイフで刺してしまえばそんなものなんの意味もなくなる。

 

「これであと25人か?」

 

 一方的とはいえ体格差で勝る敵を連続で仕留めるのは流石に骨が折れる。銃を使ってもいいが可能な限り隠密に徹したい。だが、必要なら躊躇しない。

 

「あれが連中の無線か」

 

 P226を構え気配を殺しつつアンテナが設置された家屋に向けて歩みを進める。これを無力化すれば少なくともすぐに増援が飛んでくることはなくなるだろう

 

 家の裏口のそばに身を潜め意識を研ぎ澄ます。呼吸音からして男が一人。対処するのは難しくない。私は意を決して裏口のドアをノックした。

 

『ん、何の用だ?』

 

 男が尋ねるが当然答えは返ってこない。訝しむような声と共に足音が近づいてくる。そしてドアノブが回り扉が開いた。

 

『おい、冗談もそれぐらいッ!?』

 

 開いたドアノブから見える腕を引っ張りそのまま勢いよくドアを閉める。当然腕はドアに挟まれドアの向こうから痛みに悶える声が聞こえた。私はドアの前に立つと手にしたP226をドアの向こうにいるであろう男に向けて発砲。

 

 数にして計五発。ドアの向こうの気配が消えたのを確認した私はそのまま室内に入った。左右を確認、敵影なし。オールクリア。部屋の中では男が仰向けで事切れていた。真新しい血の跡が付いた銃創から察するに胸に三発、頭に二発喰らったようだ。恐らく即死だろう。

 

 部屋を見渡すと無線機が机の上に置かれていた。すぐさま電源ケーブルをナイフで切断し無力化する。これで連中は孤立したわけだ。

 

「あとはミサイルだけだな」

 

 チェックメイトは目前だった。

 

 

 

 

 

「これで良しと」

 

 ミサイルにセットしたC4を見ながらそう呟く。爆薬は十分な量を仕掛けた。あとは起爆スイッチを押せばド派手に爆発するわけだ。目的のミサイルは典型的なセミアクティブレーダー誘導方式の短距離地対空ミサイルだった。恐らく東欧あたりから流れてきたものだろう。連中がどうやってこれを手に入れたか気になるところだがそれは私の管轄外というものである。

 

「喜べ、花火が見られるぞ」

 

 私は物言わぬ死体に話しかける。背中に付いた三つの血のついた直径9mm穴が男がどうやって死んだのかを物語っていた。

 

「まあ、花火なんて見たことないけどさ」

 

 知識では知っているが実際に見たことがないため想像することしかできない。噂に聞けばとても綺麗だと言うが……。駄目だ想像がつかない。

 

「さて、後は安全圏まで退避して起爆するだけだが……」

 

 不意に捕まった人たちのことが頭に過った。きっとあの人たちはこれから死ぬよりも酷いことをされるのだろう。尊厳という尊厳を犯されいらなくなったらゴミのように捨てられるのだ。

 

「どうでもいい。私にはなんも関係もないことだ」

 

 そう、私には何の関係もないのだ。あくまで最優先目標はミサイルの破壊、敵の無力化は二の次だ。少しは減らしたがまだ敵は二十人以上残っている。真正面から戦っても勝てないわけではないが余計なリスクは避けたい。だからここで私が取るべき行動はすぐさま離脱することである。

 

「さて、どうやってここから離れるかな」

 

 胸の中に湧くよくわからないものを押し込め自分が取るべき行動を考える。順当に考えるなら同じように侵入したルートから脱出するのが一番であるが、敵の動きが分からない以上迂闊に動くわけにはいかない。が、あまり長居すると敵も馬鹿ではあるまい、仲間が減っているのに気が付くはずだ。そうなれば脱出はさらに難しくなる。

 

 何はともあれ、

 

「行動あるのみ……ッ!?」

 

 突如鳴り響く銃声、そして大きくなる騒ぎ声。感づかれたか?私はAR-15を構えながら周囲を警戒する。が、すぐに気付かれたわけではないことを知った。銃声と騒ぎはここから100m程離れた広場から聞こえてくる。

 

「何が起きた?」

 

 増援か?私は爆薬をセットしたミサイルから離れ、ちょうど反対側にある家屋の屋根に手をかけ一気に登る。そして腹這いになり銃のスコープを覗いた。村は道路を挟むようにして作られている。ちょうど村の真ん中にある広場には先ほど攫われた村人たちが集められていた。どうやら何かあったらしい。

 

 スコープの先には隊長格らしき髭面の男が村人たちに向けて喚き散らしている。その周りには民兵の持つAKとテクニカルに備え付けられたDShK38重機関銃の銃口が村人たちに向けられていた。

 

「見せしめか……」

 

 商品価値がないと判断したのか、それともただの気まぐれか、どうやら彼らはここで村人たちを始末するようだ。隊長らしき男は下品な笑みを浮かべて村人たちに何かを言っている。スコープ越しに見える村人たちの顔は涙を浮かべるものや諦めて目を瞑るもの。色々な感情に溢れていた。

 

「屑共め」

 

 何が聖戦士だ。聞いて呆れる。堅気に手を出すなど兵士失格だ。確か彼らは天国に行くために戦っているんだったな。

 

「そんなに天国に行きたいのなら私が連れて行ってやる……」

 

 私の呟きは風に流れ消えていった。

 

 

 

 

 

 死は避けられない。生きている限り人は絶対に死ぬ。どんな善人も悪人も等しく死に絶える。それが遅いか早いかの違いしかない。ただそれがいつか分からないだけのことだ。

 

 たが、一つ言えることは今日が彼等の命日だということである。

 

『神は偉大なり!!神は偉大なり!!』

 

 広場のテロリスト共が神を讃える祈りを叫ぶ。私にはそれが神への崇高な祈りではなくただ暴力を賛美しているようにしか聞こえなかった。違うな、彼らは一方的に暴力を振るうことに快感を得ているにすぎない。私と同じように暴力に酔った獣だ。

 

『お、お願いします!こ、子供だけは!』

 

 広場に面した民家の陰に隠れ手鏡を取り出し広場を観察する。目の前にはテクニカルのテールランプと重機関銃を構えた男の背中が見える。耳には女性の悲鳴に近い懇願が入ってくる。そんな母の悲痛な願いは男たちの下卑た笑い声にかき消されてしまう。

 

 いつもの光景、よくみた景色、今からする行動に意味なんてない。ただの条件反射であり善意なんてひとかけらも存在しないないのだ。

 

 足音を消しナイフを構えテクニカルに近づく。目指すは重機関銃の射手。そうして近づいていく間にも村人とテロリストたちの話は進んでいく。

 

『どうかお願いします!お願いします!!』

 

 どうやら女性が男に掴みかかっているようだ。

 

『よせ!俺に触るな!!』

 

 広場に響く肉を打つ音。そして聞こえる悲鳴。子供の叫び。

 

『母さんにいじわるするな!!』

『なんだこのガキ!!クソ!噛みやがったな!』

 

 何やら騒ぎが起きている。どうやら子供が隊長に何かしたようだ。ここからでは良く見えないが声から察するに噛みついたのだろう。大した度胸だ。

 

『このガキがぁ!殺してやる!』

『は、はなせ!!』

 

 声を聞くにきっと同い年くらいだろう。私と違ってちゃんと愛情を込められて育ったようだ。こんな時ですら他者を思いやることができるなんて。私みたいな屑とは比べるまでもない。

 

『地獄で俺に歯向かったことを後悔するんだな!』

『う、うわぁあ!』

『い、いやぁ!!』

 

 テクニカルの荷台に音もなく登る。重機関銃の射手は目と鼻の先だ。

 

『な、なんだアイツ!!』

 

 広場にいた敵の一人が私の存在に気が付く。真後ろに立たれていた射手もようやく気が付いたようで慌てて私の方に振り向こうとする。だがもう遅い。

 

『く、クソッ──』

 

 男の左腕を掴み腋の下を逆手にもったナイフで斬りつける。腋は重要な血管が通った人体の急所だ。そこを7インチの鋭利なナイフで切り裂かれてはたまったものではないだろう。

 

『あ、あがっ!?』

 

 そのまま流れるようにナイフを首に突き刺し押し出すように切り裂く。首がぱっくりと割れ露出した血管からは壊れた水道管のように血が吹き出ている。もう長くはあるまい。

 

 首を抑え崩れ落ちる男を強引にどかしDShK38重機関銃のグリップを握りコッキングレバーを引く。そして12.7mmの銃口を車の目の前にいる運転手らしき男へと向ける。

 

『あ、あああぁ──』

 

 男の悲鳴は12.7mmの徹甲弾によって掻き消え肉片となって重機関銃の防盾にへばり付いた。照準器の隙間から血飛沫が私に降りかかった。だが拭く余裕はない。血塗れの顔のまま敵へ向けて引金を引き続ける。さぁ、ショウタイムだ。

 

『て、敵襲!!』

『畜生!どっから沸いてきたん──』

 

 重機関銃の銃口を広場のテロリスト共に向けて乱射。テクニカルの荷台は瞬く間に熱々の薬莢で埋め尽くされていく。至近距離にいた敵は銃口から発射された航空機すら撃ち落とせる大口径の徹甲弾によって次々に肉片と化す。

 

 ある者は胴体に大穴を開けある者は首から上を吹き飛ばされる。悲鳴と怒号、そして地を裂くような銃声が混ざり合いカオスを作り出す。まさにこの世の地獄であった。

 

『う、撃ち返せ!!早く殺せぇ!!』

 

 隊長格の男は突如湧き出た敵に怯えながらもなんとか指示を飛ばす。その声にまだ生きているテロリスト共が土嚢や家の壁に隠れ銃で応戦を始める。

 

 いくつかの弾が防盾に着弾し火花と金属音をかき鳴らす。どうやらそこそこ根性はあるらしい。もう少し混乱させてやろう。私は応戦しつつポーチに入れた起爆スイッチを手に取りすぐさまスイッチを入れた。

 

 電波によって遠隔操作された信管が起爆しC4爆薬が起爆する。起爆したC4はミサイルの弾頭とロケット燃料に誘爆、そばの予備ミサイルを巻き込みキノコ雲を伴った凄まじい爆発を引き起こした。

 

『ミ、ミサイルが!』

『くそったれ!!なんなんだ!?』

 

 敵は大混乱。蜘蛛の子を散らすように逃げ惑いまともに陣形を維持することも叶わないただ闇雲に銃を乱射するだけの存在と化している。何人かが土嚢や壁に隠れて反撃しようとしているが12.7mmの徹甲弾は容赦なく壁や土嚢を貫通し敵をミンチにしていく。

 

 よほどのことがない限り歩兵が銃座を制圧することは叶わない。それだけの力の差がここにはあった。広場は血と肉が土と混ざりそれは酷い有様だ。

 

 攫われた人たちを横目でみる。突然の戦闘に逃げることもできずその場で蹲っていた。よかった、死んではいないようだ。弾もそろそろ切れるはず。加速した思考で次の行動を選択する。

 

 引金から手ごたえが消えた。弾が切れたようだ。敵は好機とばかりに突っ込んでくるだろう。なら私の取るべき行動はただ一つ。

 

 周囲を見渡す。目標は車から一番近い土嚢だ。近くの気配は四、左右に二人づつだ。AR-15を構え荷台から飛び降りる。

 

 右にいた生き残りが私に向けてAKを構えるが私のほうが早い。銃を斜めに構えオフセットレッドドットの光点を敵の胸に合わせ発砲、射殺する。流れるような動作で隣にいるRPKを構えている男を撃ち殺す。

 

 左側から銃声、車体左側面に着弾。すぐさま身を屈めてエンジンブロックに隠れつつモディファイドプローンに移行。変則伏射で車体下部から左の敵を狙う。銃を撃ちながら近づいてきた男の足に向けてサイティング、そして発砲。

 

 エジェクションポートから弾き出された薬莢がすぐ真下の地面にぶつかり顔に跳ねる。命中を確認、足を負傷し転んだ男の胸に容赦なく弾を二発叩きこむ。

 

『なっ!?』

 

 立ち上がりボンネットを挟んだ先にいる動揺して間抜け面を晒している敵を射殺。これで広場はクリア。直ちに移動を開始する。

 

 全力で土嚢に向けて走る。その間も敵は私を殺そうと雑多な小火器で抵抗するが弾は虚しく私の通った後をすり抜けるだけに終わる。撃ち方がなっていないんだよ。素人め。

 

「こういうのはあまり好きじゃないんだがな!」

 

 スライディングするような形で土嚢の陰に隠れつつ奥へ逃げた敵へと制圧射撃を行う。少し距離があるな。

 

 使用する照準器をオフセットサイトからスコープへと変更、斜めに構えていたAR-15を真っすぐに構え直す。土嚢に銃身を預け50m先の家の陰から上半身を出していた間抜けにレティクルを合わせ発砲。レンズの先で赤い花が咲いた。

 

「やっぱり迫撃砲でも持ってくるんだった」

 

 始めてしまった以上ボヤいてもしかたがない。一度銃を向けたらあとは殺すか殺されるかだけだ。マガジンを交換しボルトキャッチを叩く。

 

 土嚢の横から敵を確認する。20m先の民家の影から足が覗いていた。すぐさま銃のスコープを覗き敵の足首に向けて.223レミントンを叩きこむ。叫び声と共に男が倒れ上半身が露わになった。

 

「そこ」

 

 無防備になった顔に向けて発砲。敵は物言わぬ肉塊と化した。既に結構な数を倒したがまだ反撃の意思は残っているようだ。その証拠に私の隠れている土嚢に容赦なく弾が着弾し石や土をまき散らす。

 

「中々しぶといな」

 

 銃撃の合間を縫って敵のいる場所に向けて制圧射撃を行う。反撃が止まった。この隙に距離を詰める。一所に固まっていては相手に包囲させる隙を与えるだけだ。数で劣る相手に勝負を挑む時の鉄則は絶対に本調子を出させないことである。団結させてしまえばそれだけ相手は強くなってしまう。故に絶対に敵を纏まらせてはいけないのだ。

 

 残る敵は十人弱。敵も当然黙ってはいない。走る私に向けて容赦なく弾丸を叩きこんでくる。しかし構えもなっていないめくら撃ちばかり、弾は私の傍を掠めるだけであった。これなら問題ないな。私は走りながら制圧射撃をしつつ素早くだが確実に敵との距離を詰めていく。

 

『くそ!悪魔め!!悪魔め!!』

 

 家の陰に隠れ弾倉を交換していると向こうの家から悲痛な叫び声が聞こえてくる。巷では私は黒い悪魔と呼ばれているらしい。それも当然か。たった数分で味方が三分の一に減ったのだ。敵からすれば悪夢そのものだろう。噂が独り歩きしている気がしないでもないが名前が売れる分には一向にかまわない。

 

 声のする方向へ銃を撃つ。当然民家の壁に当たるだけだが余程の度胸がない限り数十センチ先に銃弾が着弾して平静を保つことは不可能だ。

 

 敵を足止めしたのを確認しプレートキャリアーに括り付けた手榴弾を手に取りピンを抜き安全レバーから手を離す。二秒ほど待ってから向こうの家の壁に向かって手榴弾を投擲した。

 

『ん……手榴ッ!?』

 

 それが彼の最後の言葉となった。耳をつんざくような爆発音と共に破片をまき散らしながら手榴弾が爆発する。ここからでは見えないがきっと遺体は酷いことになっているだろう。私の知ったことではないがな。

 

『クソ!クソッ!』

『化物だ!殺される!』

『お、おい逃げるな!!』

 

 士気は完全に崩壊。敵は私から逃げるように奥へ奥へと進んでいる。ここで畳み掛けよう。私は発砲しつつ隠れていた民家から飛び出し道の真ん中をスチームローラーをかけるかのようにゆっくりと前進する。

 

『死ねっ──ぐふぉ!?』

 

 健気にも反撃してきた男の胴体に二発正確に叩きこむ。死んだのを確認する必要はない。何故なら私の射撃は完璧だからだ。

 

 残り九人。奥にいた背を向けて走る敵を殺害。その流れで民家の影から僅かに出ていた敵の顔に弾を叩きこむ。まるで熟練のライン工のような正確さで淡々と敵を処理していく。

 

 普通なら道のど真ん中を馬鹿正直に歩いていれば的になるだけだ。相手だって馬鹿ではない。走っているわけでもない近距離の人間を撃ち殺すことなど簡単にできる。

 

 ならなぜ私は生きているのか。答えは簡単だ。敵よりも早く、そして確実に殺しているからに他ならない。身も蓋もない話だがそれを可能にするだけの力の差がここにはある。

 

『こんのッ!!』

 

 右前方15m先の民家の屋根に敵を視認。緑色の弾頭に無反動砲特有の構え。RPG-7だ。加速した思考で瞬時に取るべき行動を選択する。

 

 私が右側の家のドアを突き破り中に飛び込んだのとRPGが発射されたのはほぼ同時だった。凄まじい爆発音と土煙。耳鳴りと衝撃で思考が一瞬だけ断絶される。

 

「うぅ……」

 

 クリアになった思考で自らの状況を診断する。外傷なし、どうやら距離が近すぎて信管が作動しなかったらしい。

 

「危ないなぁ」

 

 まともな訓練を受けていないからこんな危ない真似ができるのだろう。耳鳴りが治まり静寂が訪れる。やったかという敵の小声だけが耳に届く。そして近づく複数の足音。

 

 あんな至近距離から撃ってくるとは思わなかった。が、お陰で敵を一掃するチャンスを得た。これでチェックメイトといこう。

 

『お、おい、死体がないぞ……』

『馬鹿言え!あんな近くでRPGを喰らって生きてる人間がいるか!』

『本当に人間なのか……化物の間違いじゃ……』

 

 散々な言われようだな。まあいいか。私は近づく気配に意識を集中させる。敵の一人がちょうど私の前で止まった。どうやら向こうからは家の中は逆光になり見えないようだ。行くとしよう。AR-15を構え道に向けて飛び出す。

 

『ん?そこッ──』

 

 男が銃を構える前に横から弾を叩きこむ。そのまま崩れ落ちる男にダイビングし地に横に倒れ銃を構える。

 

 視界の先には五人のテロリスト。屋根の上に一人、道に四人。

 

 AR-15をセミオートで二連射、屋根のRPG持ちを射殺。声も出さずに屋根から地面に向けて転がり落ちた。

 

『なっ!?』

 

 人というのは想定外の事態が起きると大抵は硬直する。案の定動きを止めた目の前で硬直している二人組を排除。

 

 超至近距離のガンファイトに私の脳はアドレナリンを放出し心拍数が増大する。鼓動に身を任せ、立ち上がり奥にいた敵へと距離を詰める。

 

『こ、こいつ!』

「遅い!」

 

 突っ込んできた私に敵が発砲するもスライディングしこれを回避。敵の右を通過する際にラリアットの要領で左足を掬いとる。

 

『ぶふぉ!?』

 

 顔を地面に強打し悶絶する男の背中を回転しながら立ち上がり右足で背中を踏みつける。

 

『は、はな──』

 

 喚く男の後頭部に二発発砲。そのまま民家の壁ぎわで硬直していた男に向けて銃を構え引金を引く。

 

「──ッ!」

 

 弾を撃った時のキレの良い感触の代わりに引金から感じたのは鈍い感触。そう、弾切れだ。興奮して残弾管理を怠ってしまったようだ。私もまだまだだな。

 

『はっ馬鹿め!死ね──ッ!?』

 

 なら取るべき行動は一つのみ。瞬時に身を屈めつつ敵に突進、銃身で敵の銃を弾き飛ばし、銃身を敵の胸に突き刺し壁に押し付ける。

 

『ぐぇ!?』

 

 例え銃剣がなくとも硬い金属の筒で胸を強打されれば碌な防具も着てない人間には致命的だ。

 

 銃身を握り逃げ出そうとする男を抑えつつ迅速にマグチェンジ。冷静にボルトキャッチを叩く。薬室に弾が込められたのを確認。男と目が合う。

 

笑えよ糞野郎(Smile you son of a bitch)!」

 

 引金を引く。銃声、そして血飛沫。銃身越しに伝わる命の抵抗はいつの間にか消えていた。

 

「これで終わりか?」

 

 男の死体を一瞥し周囲を見渡す。銃声はしない。人の気配もない。村は先ほどのまでも喧騒が嘘のように静まり返っている。

 

「そして誰もいなくなった……か」

 

 いや、まだやり残したことがある。私は広場へと踵を返した。

 

 

 

 

 

 すっかり地獄のような場所になった広場の真ん中で村人たちは恐怖に震えていた。身体を縛られているためうずくまることもできずただ目を瞑り悪夢が過ぎ去るのを待っている。

 

『ひっ』

 

 近づいてきた私に気が付いた村人がまるで化物を見るかのような顔で悲鳴をあげた。敵意がないことを示すために銃を肩に掛け両手を上げるが大して変化がない。一々弁解しても面倒なのでそのまま近づく。

 

『ば、化物!』

 

 この段階で私は自分の顔が血塗れだったことを思い出した。が、そう都合よく顔を拭くものなど持っていない。悪いがこのまま我慢してもらおう。

 

『く、来るな!!』

『別に殺したりしないよ』

 

 先ほど隊長に反撃した男の子が私の前に出て必死に親を守ろうとする。説明するのも面倒だ。腰のナイフを引き抜く。周囲の空気が氷点下まで下がった。恐怖に足がすくんだのか少年が転ぶ。

 

『う、うわぁあ……へ?』

 

 叫ぶ男の子を無視し彼を縛っていた縄を掻き切る。てっきり殺されると思っていたのだろう男の子は自分の身体が自由になったことに気が付いたのはしばらくたってからのことであった。

 

 放心している男のを横目に見ながら同じように村人たちを解放していく。ん、そう言えばまだ一人残っていたな。いくとするならあそこか?

 

『あとお願い』

『え?ってうわ!』

 

 少年の手にナイフを放り投げ私は無線機の置いてあった家へと向かった。

 

 

 

 

「いた」

 

 私の予想通り無線機の置いてある家の窓から隊長らしき男の背中が見えた。ここからでは何を言っているかは聞こえないがきっと助けを呼んでいるのだろう。もっとも電源ケーブルの切断された無線機で何を呼ぶのかは知らないがな。

 

『クソ!聞こえないのか!!』

『おい!お前の負けだ。大人しく降参するんだな』

『なっ、もう来やがった!!』

 

 私が声を掛けると男は慌ててドアから飛び出し背を向けて走り出した。この期に及んでまだ逃げる気でいるらしい。その根性は評価するが、それはいただけないな。

 

 走りながらも男はこちらに拳銃を撃ってくる。しかし所詮素人の拳銃。それも走りながらの片手撃ち。当たるわけがない。弾は当然のように私から大きく外れて着弾する。

 

「それで終わりか?じゃあ行くぞ」

 

 AR-15を構える。射撃競技で撃つようなしっかりした構えで男の足に狙いを定め安全装置を解除する。軽く息を吸いそして引金を引く。

 

 正しい構え、正しい照準、正しい殺意。当然の帰結として弾丸は命中し男はバランスを崩し盛大に転んだ。

 

『あぁぁ!!』

 

 男が膝を抱え喚き散らしている。膝を正確に撃ち抜いた。仮に生き残ったとしても二度とちゃんと歩くことは叶わないだろう。そんな男に私はゆっくりと近づいた。

 

『くっそ!くそ!!くそ!!』

 

 私に気が付いた男が拳銃をこちらを撃とうと拳銃を構える。が、男が引金を引くよりも早く私のAR-15が拳銃を弾き飛ばした。唖然とする男。これで彼は正真正銘丸腰となったわけだ。

 

『動くな、と言っても動けないだろうがな』

 

 真横に立ち銃を構え男に言い放つ。男の怯えや憎悪の混じった瞳が私を射抜く。さて、彼は次に何を言うのだろうか?どうせ碌なことがじゃないだろうが。彼は私の顔を見て驚きに目を見開いた。

 

『ま、まだガキじゃねえか……』

『そのガキにお前らはしてやられたわけなんだがな。さて、言い残すことはあるか?』

『ま、まて金なら払う!言い値の二倍でも三倍でも払う!だから命だけは!!』

 

 意外と元気だな。まあ大出血しているわけでもないしアドレナリンで痛覚が飛んでいるのだろう。よく見る光景だ。

 

『金なんかいらない。一つ質問に答えろ』

『な、なんでも言う!何でも言うから殺さないでくれ!!』

 

 必死だな。いや、私みたいな異常者でもない限り普通は自分の命が惜しいものだ。死なんてそんな怖い物でもないと思うんだがな。どうせ皆死ぬんだ。遅いか早いかの違いしかないだろうに。

 

『あの連れてきた村人たちをどうするつもりだったんだ?』

『そ、そんなことでいいのか?』 

『つべこべ言わずにさっさと言え。私はそこまで気が長くないぞ』

『お、女は性処理、男は奴隷。子供は売るんだよ。山の向こうの駅で取引するんだ。特にこ、子供は高く売れる』

『その後は?』

『し、知らねえよ。た、たぶん奴隷にするか臓器でも取るんだろ。な、約束通り話しただろ。助けてくれよ!』

 

 私の予想通り、救いようがない屑共だった。私も人のことは言えないが少なくとも自分から民間人に危害を加えたことはない。こいつから聞きたいことは全て聞いた。用事が済んだので徐に男の襟を掴んで引きずり始める。

 

『ど、どこに連れて行くんだよ!約束通り話しただろ!!話が違うぞ!』

『まあ殺しはしない。殺しはな』

 

 喚く男を無視し私は広場へと脚を運んだ。

 

 

 

 

 

 辿り着いた広場では解放された村人たちが自分達の無事を噛みしめるかのようにお互いに抱き合ったり励まし合ったりしていた。

 

『お、おい、来たぞ……』

 

 村人たちは歩いてくる私達に気が付いたようで怯えながらこちらを見ている。あまり気分のいいものではないがいつものことなので無視して彼等の目の前まで進む。

 

『ぐあぁ!足が!!畜生!くそったれ!』

 

 アドレナリンが切れてきたのか男が痛みに顔を歪ませ叫ぶ。その姿を見た村人たちの目が変わった。恐怖から憎しみへ、悲しみから怒りへと。はた目からでもわかるくらいの変化だ。きっと酷い目に遭わされてきたのだろう。

 

『な、なんだよお前ら!あぁ、くそ!』

 

 村人たちの変化に男が戸惑う。男の襟を離し距離を取ると村人たちと目が合った。

 

『向こうに貴方達を連れてきたトラックがあります。鍵はその辺にあるでしょう』

 

 村人たちは黙って頷き、そして次に未だに喚き散らす男へと眼を向けた。言いたいことは分かる。私はゆっくりと頷いた。

 

『どうぞお好きなように』

 

 それだけ言うと私は村人たちの横を通り抜けそのまま自分が乗ってきた車に続く道を歩き始めた。程なくして背後から村人たちの怒号と男の悲鳴が広場に響き渡る。

 

 確かに私は男を殺さなかった。が、その後のことは私の管轄外だ。精々、五体満足で死ねることを祈る。

 

 歩きながらプレートキャリアーのポーチに入れた煙草のケースを取り出し一本口に咥える。持ってきたライターで火を点けゆっくりと煙を口に入れた。

 

 正直にいうと煙草は依存症になっているだけであり、実はそれほど好みではない。だが今は無性に煙草が吸いたい気分だった。

 

「ふぅ……」

 

 指で煙草を持ち煙を吐き出す。不意に後ろから足音が近づいてきた。立ち止まり後ろを振り返る。先ほどナイフを渡した男の子が私に近づいてきた。

 

『まって!』

『なんのよう?』

 

 男の子は徐に私のナイフと手ぬぐいを差し出してきた。そして自分の顔を指さす。拭けと言うことだろうか?

 

 煙草を地面に捨てナイフと手ぬぐいを受け取り顔を拭く。一通り拭き終わり使い終わった手ぬぐいを見る。案の定血がべったりだった。

 

『どうも……』

 

 礼を言い使い終わった手ぬぐいを彼に返そうとするが顔が引きつっていたので止めておいた。どうしようもないのでそのまま折り畳みポーチに突っ込む。後で洗わなきゃな。

 

『多分しばらくしたらまた違う連中が来るだろうから早めにここから出て行ったほうがいいって伝えてくれ。じゃあ私はこれで』

 

 背を向け再び歩き出す。悲鳴はいつの間にか聞こえなくなり村人達の怒号だけが響き渡る。

 

『あ、あの……さっきはありがとう』

 

 私は後ろから聞こえた言葉に聞こえないふりをしてそのまま歩き続けた。私は彼らを一度見捨てようとした。そもそも助けようとすらしていない。成り行きとして彼らが助かっただけだ。それに仮に善意だったとしても、人殺しが礼を受け取る資格なんてない。

 

「さて、次はどこに行くかな」

 

 思わず空を見上げる。空は憎たらしいほど澄み渡っていた。新しい煙草を口に咥え火を点け大きく煙を吸い、そして盛大に咽た。

 

 

 

 

 

「とまあそういうわけでめでたく敵を全滅させたというわけさ」

 

 私は話を終え皆を見た。案の定顔が引きつっていた。わかってはいたが面と向かってそんな顔をされると泣きたくなる。一応オブラートには包んだんだが、流石に刺激が強かったか。

 

「引いたか?」

「い、いやドン引きしたっちゃしたけど、どっちかっていうと……」

 

 速水が言い淀む。その言葉を繋ぐように千葉が口を開いた。

 

「臼井の強さにドン引きした」

「「「うん」」」

 

 カエデと渚と杉野が一斉に頷いた。酷い。あまりにも生々しい話だったから引かれるとは思っていたが想像していたのと別の反応だった。

 

「えっと、敵何人いたんだっけ?」

「流石にはっきり覚えているわけじゃないが三十人は確実にいたな」

「さ、三十人……」

 

 渚が改めて絶句した。思い返すと随分と無茶しているな。

 

「確かに一人で相手するには多すぎる数だが練度も士気も低かったしそこまで苦労しなかったぞ」

「いや、普通は喧嘩売ろうとしないから」

「そう言えばロケットランチャーで撃たれて平気だったのか?」

 

 千葉の指摘に私は笑いながら腹を指さした。

 

「いや、大丈夫じゃないぞ、車を直してる途中に気が付いたんだが、どうやら石か何かの破片がボディーアーマーの隙間を縫って脇腹に突き刺さっていたらしくてな。流石に焦ったよ」

「あ、傷の話やっと出てきた」

「傷って……祥子!大丈夫だったの?」

 

 カエデが心配そうに私を見てくる。いや、見てくるというより掴みかかりそうな勢いだ。私はそんなカエデをなだめながら話の続きをした。

 

「カエデ、顔近いから。というかもう二年も前の話だ。幸い傷も小さかったしそんなんで医者に金を取られるのは癪だったから自分で傷を縫った。知ってるか?皮膚って布みたいに針が通るんだぞ」

「うわぁ……」

「グロ」

 

 自分達が想像したこともない壮絶な話に思わず顔をしかめている。流石に少しえぐかったかもしれない。エクレアを齧りながら昔を思い出す。改めて自分の境遇の異常さに驚く。つい最近まで当たり前だと思っていたがこんなことが当たり前であってたまるか。

 

「もう!今度怪我したらちゃんと病院いくんだよ?」

「分かってるって」

 

 カエデはどうにも信用ならないようで可愛らしい顔を怪訝な表情で歪ませている。

 

「ほんとに?」

「ほんとに」

「……うん、わかった。約束だよ。でもさ……」

 

 今度は一転して少し嬉しそうに顔を綻ばせた。

 

「やっぱり祥子は昔から変わらないんだね」

「変わらない?」

「だよな。なんていうの?ツンデレってやつ?」

 

 杉野とカエデが笑いながら言ってくる。

 

「ほんとそういう時だけ素直じゃないわよね」

「速水がいうな」

「なに?」

「別に」

 

 よくわからないが何だか恥ずかしい。そんな気持ちを隠すようにエクレアを齧る。甘くてほろ苦くて美味しい。というかカエデはどうやってこれを持ってきたのだろうか。こんな暑い時期に。

 

「にしても、さっちゃんさんの血塗れの顔とか想像できないなあ」

「確かに今の臼井じゃな」

「だな」

 

 全員が私を注視してくる。何か顔についているのだろうか。そう疑問に思っているとカエデが自分の口元を指さしてきた。私もつられて自分の口元を触る。皮膚の代わりにべったりとした何かが付着している。

 

「あ、クリームか」

 

 どうやら口にクリームが付着していたらしい。慌ててポケットからハンカチを取り出そうとするがバックパックの中に仕舞ったままだった。畜生。

 

「よかったら使う?」

「あ、ありがとう」

 

 渚から差し出されたハンカチを受け取り口元を拭く。一通り拭いた後、手元にあるハンカチを見て戸惑った。クリームで汚れているからだ。

 

「どうしたの?」

 

 私の動きが止まったのを見て渚が首を傾げる。このまま渡していいものだろうか。ふと先ほど話した過去のことを思い出す。あの時の手ぬぐいは血塗れだった。だが今は……

 

「いや、何でもない。ありがとう」

「どういたしまして」

 

 渚にハンカチを渡すのと同時に予鈴が鳴り響いた。もうそんな時間か。私たちは教室に向かうために各々立ち上がり歩き始めた。

 

「私も行くとするか」

 

 ゆっくりと立ち上がり空を見上げれば澄み渡った青空が私を祝福していた。大きく息を吸う。

 

 確かに過去は変えることはできない。犯した罪をなかったことにはできない。だが、それでも未来は変えられる。右も左も分からないことだらけだがそれだけは確かだ。だから止まるわけにはいかない。

 

「あ、そういえば祥子」

「ん、どうしたカエデ」

 

 私の前を歩いていたカエデが唐突に振り返った。それはそれは綺麗な笑顔だった……何だか嫌な予感がする。思わず足がすくむ。逃げたい。

 

「煙草吸ってた話……後でもっと聞かせてほしいな」

 

 このあと滅茶苦茶説教された。




用語解説

テクニカル
よくあるトヨタのピックアップの荷台に日曜大工レベルの溶接で銃座を取り付ければはい完成。圧倒的な火力と4wd特有の軽快な機動力で戦場を駆けまわる。なお装甲はない模様。凄いのだとヘリのロケットポッドを無理やりつけたりしている。世界のトヨタ()

プレートキャリアー
セラミックなどで出来た防弾プレートを装着するためのベスト。これならライフル弾だってへっちゃら。意外とコンパクト。

レンジファインダー
レーザーの反射を利用して目標までの距離を割り出す道具。ゴルフの必需品。

72人の処女
イスラム教徒の男性は死後フーリーと呼ばれる場所で72人の美しい処女とあんなことやこんなことができるらしい。それなんてエロゲ?でも本当にそんなことが書かれているかは眉唾ものだという。

AK
正式名称AK-47、7.62x39mm弾を使用する自動小銃。安い、頑丈、馬鹿でも撃てるの三点揃った銃器界の牛丼のような存在。派生品、パチモン含めて世界に一億挺以上はあると言われている。

セミアクティブレーダー誘導方式
ミサイルにレーダーは搭載されておらず発射基に装備されたレーダーで標的への誘導を行う。欠点は撃った後もレーダーでロックし続けないといけない点。誤射しても安心。

DShK38
ソ連が開発した12.7x108mm弾を使用する重機関銃。本場ではとっくの昔に退役しているが中国や東欧諸国が作っているコピー品が中東やアフリカで出回っている。対空照準器のついたこれがよくトラックの荷台にくっ付いている。

RPK
AK-47と同じ7.62x39mm弾を使用するマガジン給弾式の軽機関銃。47の後継であるAKMから派生して開発された。長時間の連射にも耐えられるように銃身などを強化している。最近になって米軍も似たようなコンセプトの機関銃を採用しているので古臭い見た目のわりに先進的かも。オタクの前でAK-47と間違えると最悪殺される。

モディファイドプローン
バリケードの隙間やタイヤと車体の隙間などから銃を撃つことのできる撃ち方。ぱっとみ深めの伸脚で前にバランス崩した時みたい。やってみたけど股関節が結構きつい。

.223レミントン
5.56mmNATO弾の市販版。微妙に威力や形が違うので共用することはできない。てか最悪暴発する。
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