京都、この盤の目の街は日本の歴史の中で長い間首都とされてきた由緒正しい街。政治の中心というだけあって数多くの要人がこの地で暗殺され土に還っていったという。潮田曰く「暗殺の聖地」だそうだ。
「へー、祇園って奥に入るとこんな感じなんだ」
「うん、一見さんお断りのお店ばかりだから目的もなくフラッとくる人も少ないし見通しがいい必要もないの」
「なるほど、暗殺するならここがいいというわけか」
「うん、そういうこと」
今日は修学旅行初日。私たちは殺せんせーの暗殺の下見で祇園の裏路地に足を踏み入れていた。私を入れて杉野、潮田、赤羽、茅野、神崎、奥田の7人班。ここに来たのは神崎の提案であった。
「流石にこの大人数だとちょっと狭いね」
茅野の言うとおり。こんなにも人数が多いと襲撃された際に動きづらくなる。本当は嫌なのだが、暗殺のことを考えると無碍にもできない。それに理由を説明したとろこで妄言として一蹴されるだけだろう。
やはり一人で来るべきだったな。烏間先生も最後まで私の提案を受け入れてはくれなかった。こんな入り組んだ街ならいくらでも狙撃するチャンスがあったというのに。仕方ないので大人しく修学旅行に参加したが……
「というか臼井もせっかくの京都なんだからもう少し楽しそうにしろよなー」
「仕事には手を抜かない。常識だろ」
「し、仕事って……」
私達は政府から依頼される形で暗殺をしようとしているのだ。これが仕事じゃなかったら何になるというのか。
「そんなんで人生楽しいかあ?」
楽しいという感情など当の昔に捨て去った。私は兵士として戦うだけ。それ以外のことは考える必要はないし、考えるべきではない。
「生きることを楽しいつまらないで考えたことはない」
「なんだそれ、変な奴」
「渋いねー臼井さん」
茶々を入れてくる赤羽を無視し意識を集中させる。後方5時方向の表通りに複数の気配。数は三……いや四人。
さりげなく手鏡を使い後ろを確認。如何にもチンピラ然とした男どもが下品な笑みを浮かべながらこちらを見ている。
「それよりもだ」
足を止め立ち止まる。皆がそれにつられて立ち止まった。あっちも動いたようだ。足を肩幅に開きいつでも攻撃できるように準備する。
「どうしたんですか臼井さん」
「気付かないのか?」
「だから何だよ臼井」
「つけられてるぞ」
私がそういうのと気配の主たちがこちらに声を掛けてくるのはほぼ同時刻であった。
「ほんと、何でこんな拉致りやすいところ歩くかなあ」
「ほんとほんと、攫ってくださいって言ってるようなもんだぜ」
私達の退路を塞ぐように三人が横並びになって歩いてくる。距離は凡そ3m、武装はとくになし。舐められたものだ。塀の小さな勝手口に隠れている気配はまだ出てこない。おおかた不意打ちでもするつもりなのだろう。
「君達は下がってろ」
「うん、わかった」
「ちょ、カルマ君何言ってんの!」
「まあ、いいから見てなって」
赤羽に言われ皆が下がっていく。これで少しは動きやすくなった。三人のうち、坊主頭の男が私の目と鼻の先に立ちふさがった。どうやら右のポケットにナイフを隠してるようだが……
「素人め……」
「あぁ?何か言ったか。まあいいわ、俺ら嬢ちゃんたちに用があってよ。来てくれるよなあ?」
右手に持ったナイフを取り出しわかりやすい挑発をしてきた。後ろで息を呑む声が聞こえるが、正直言って怖くも何ともない。というか隙だらけ過ぎる。ふざけてるのか?
「これで勘弁してくれないか?」
何にせよ初めは話し合いからだ。ジャケットから二つ折りの財布を取り出し男に突き付ける。金をやるから立ち去れと言う意味だ。それを見た男たちはゲラゲラと笑い始めた。
「ふはははは!こ、こいつこの期に及んで俺達がカツアゲに来たと思ってんのかよ!なあ──」
ゲラゲラ笑いながら後ろのチンピラ仲間を見ようとした隙を狙い、財布で男のナイフを挟み込むようにして奪い取る。大して握りこまれてもいないナイフは簡単に男の手からすり抜けた。
「……え?」
一瞬にして自分の手からナイフを奪われた男の目が驚愕に見開く。挟み込んだナイフを手に持ち観察する。よくある折り畳み式のナイフか。果物を剥くのに向いてそうなサイズだな。
「探し物はこれか?」
男にナイフを見せつけ放り投げる。石畳にナイフの金属音が鳴り響いた。その音に反応して男たちはビクリを肩を震わせた。まあ所詮はチンピラか。
「悪いことは言わない。怪我したくないなら今すぐ立ち去れ」
ほんの少しだけ殺気を込めて言い放つ。要はこういうことだ。次は容赦しない。男たちの目から余裕が消え去り額には脂汗が浮かんでいる。
どうやら緊張しているようだ。緊張は心拍数を上げ、呼吸を乱す。乱れた呼吸は隙を生む。もうこいつらは驚異ですらない。あとはあの隠れている奴にだけ気を付ければいい。
「こ、こいつ……」
さて、出鼻を挫かれたわけだが、どう出るのかな?
「こ、このクソアマッ!!」
逃げると言う選択肢はなかったようだ。逆上し頭に血を登らせ拳を振りかざす。大振りのテレフォンパンチ。当たるほうが難しい。
「遅い」
右腕を左肘で逸らし、がら空きになった顎に掌底を叩きつける。
「か、かはっ!!?」
男は強烈な掌底を喰らい動けない。そのまま両手で右腕と首を掴み股間を蹴りあげる。
ただでさえ上半身を固定され衝撃を逃がすことができない状況。その上喰らった場所が場所だ。きっと想像を絶する痛みが彼を襲っているのだろう。
だがそれで終わらせる私ではない。そのまま倒れ込む男の顔面に四回膝蹴りを食らわし追撃。
「う、あ、あぁあ……」
最後にふらふらになった男の頭に前蹴りを叩きこみフィニッシュ。坊主頭は盛大に吹き飛びそのまま動かなくなった。残るは三人。
「なっ……」
ここまで10秒とかかっていない。男たちの顔が真っ青になる。ようやくチンピラ共は自分達が誰に喧嘩を売ったのか気が付いたようだ。遅いんだよ。
「で、どうする?」
私は反撃以上のことをするつもりはない。十分過ぎる程力は見せつけた。このまま去ってくれるのが一番いいのだがな。
だがどうもそうはいかないようだ。
「臼井後ろ!!」
「死ねぇ!!」
杉野の叫びと隠れていたであろう男の叫びが聞こえたのは同時だった。まあ知っていたが。
振り下ろされた鉄パイプを振り向きながら避ける。完全に頭を狙っていた。どうやら少しはやるようだ。
「避けっ!?」
とはいえ所詮は素人。避けるのはそう難しいことではない。不意打ちが避けられ、バランスを崩すチンピラ。その勢いを利用し足を踏みつけ、腰のベルトを持ち上げるようにして押し出してやればどうなるか。
「のわっ!!?」
答え、受け身も取れずに胸から地面に叩きつけられる。あれは痛そうだ。
「て、てっめぇ!!」
どうやらまだやる気のようだ。敵意に満ちた眼差しでこちらを睨みつける。と言っても四つん這いの姿勢でこちらを睨んでも滑稽なだけだがな。
「あれだけやられてまだやるんだ。臼井さん、手貸そうか?」
「いや、必要ない」
赤羽がニヤニヤしながら聞いてくるが、この程度の相手に助けなんて必要ない。向こうもまだやる気のようだし練習相手になってもらうとしよう。
腰を落とし、両手を頭の高さまで持ち上げる。特に誰かに教わったわけではないが、これが一番しっくりくる。
「おめえらやっちまえ!!」
どうやら不意打ちしてきたオールバックのチンピラがリーダー格のようだ。こいつらを片づけたら締め上げて目的を吐かせよう。
オールバックの声に遅れて反応し二人が私の左右を取り囲む。正直言って攻撃の隙はいくらでもあった。だがここは日本だ。専守防衛といこう。
状況を確認。右には馬鹿の一つ覚えのようにナイフを取り出したチンピラ。左にはリーダーの持っていた鉄パイプを構えたチンピラ。恐らくナイフ持ちが攻撃している隙に鉄パイプで殴る魂胆なのだろう。
「お、おい臼井囲まれてるぞ!行くぞカルマ、渚!」
「う、うん!」
「二人とも、まあ見てなって」
まったく、他人事だと思って……ま、いいか。目の前の戦闘に集中する。仕掛けてくるとしたら先にナイフだ。さて、いつ動くかな。
「死ねやオラァ!!」
お、意外といい殺気だな。と言っても攻撃が単調で避けやすい。突き出されたナイフを先ほどと同じように半身になり回避、左手でナイフを持つ手首を掴む。
「──ッ!?」
相手は身体を左に向けているため直ぐに私を攻撃することが出来ない。がら空きになった顎に拳を叩きこむ。脳をシェイクされふらふらになった隙に手首を捻りナイフを奪い取る。こいつ意外といいの持ってるな。
「いいナイフだな。借りるぞ」
膝に蹴りを叩きこみ姿勢を崩し、掴んだ腕を引き寄せ背中側に捻りあげる。所謂ハンマーロックと呼ばれる関節技だ。
「──ッ!?」
痛みで仰け反ったところに奪い取ったナイフを首筋に突き付け拘束、盾にするように鉄パイプを振りかぶっていた男に向き直る。
「こ、こいつッ……」
「どうした?こないのか?」
ゆっくりと前進しながら肉盾を押し付ける。一歩進むごとに男たちも一歩下がっていく。殴り合いの喧嘩には慣れていてもこうした搦め手は初めての経験らしい。
「ひ、卑怯だぞテメェ!!」
「卑怯?女を攫おうとしといて良く言う」
次は私の番だな。組み付いていた男の後頭部に頭突きを食らわせながら後ろに突き飛ばす。流れるように用済みになったナイフを投げ捨て鉄パイプ持ちに接近。
「こんのッ!!」
遅れて反応し、鉄パイプを振りかぶる男の懐に入り込む。得物を握る手を払いのけ喉笛に手刀。
「うッ!?」
悶絶する相手の腕を掴み足を差し込みながら体重をかけ左側に投げ飛ばす。この時点でまともに立てないだろうが、念のため倒れた男の腕を捻り肘を外し武装解除。
「うわ、いったそ」
赤羽の呟きに心の中で同意する。男の叫びが路地裏に鳴り響くが、すぐさま拳を叩きつけ黙らせる。これで二人。背後に気配、先ほど突き飛ばした男がこちらに接近するのを視認。
「ちっくしょうッ!!」
前進しながら馬鹿正直繰り出された左腕を掴み取り、脇腹、顎に肘を喰らわせる。そして、胸倉を掴み強引に投げ飛ばす!
「ぐはっ!?」
背中から石畳に叩きつけられた男はしばらく口をぱくぱくさせた後、そのまま気を失った。残るは後一人。
「う、嘘だろ……」
先ほどまでの自信はどこにいったのやら、顔を真っ青にしてガタガタと震えている。試しに一歩近づいてやると面白いように飛び跳ねた。
「どうした?かかってこい」
「え、エリート校に何でテメェみたいなのがいんだよぉ!!」
「さぁな」
本当に、何でこんなところにいるんだろうな。
「う、臼井さん大丈夫ですか!?」
「ああ、見ての通りかすり傷一つない」
事が終わったのに気が付いたのか奥田たちが血相を変えて近づいてきた。怪我を心配しているらしいがチンピラ風情に傷を付けられるほど私は弱くない。
「臼井すげーな!!あっという間に倒しちまったぞ!!」
「映画見てるみたいだったね」
よくわからないが褒められているようだ。さて、後はこいつらを拘束して先生達に連絡するか。
「誰か先生に連絡してくれ。それとこいつらの手足を縛るから手を貸せ」
近づいてきた潮田達にいつも持ち歩いている結束バンドを手渡す。さて、他のことは任せて私はこいつの相手をするとしよう。
「おい」
「あ?いてて、いてぇ!!?」
後ろに隠していた手を捻りあげれば案の定携帯電話が手から零れ落ちた。
「なんだこれは?」
画面を見る。どうやら仲間に連絡しようとしていたらしい。小賢しい奴だ。手に力を込め携帯電話を握りつぶす。
「ば、化物かよ……」
目の前で粉々になった携帯電話を見てチンピラは信じられないと言いたげに呟いた。これで連絡手段は断たれたわけだ。流石に何十人も呼ばれたら厳しいものがある。
「では楽しいお話しの時間だ」
「な、なにすん──」
喚く男を無視し首を掴み持ち上げる。絞めてこそいないが足が完全に宙に浮いてるので相当息が苦しいはずだ。
「君達、私はこいつとお話ししてくる後は頼んだぞ」
「あ、あんまやりすぎんなよ……」
女子中学生が高校生を持ち上げているというシュールな光景を目にし、ドン引きしている皆を横目にチンピラ共が乗ってきたと思わしきバンに向かう。後でこの車もパンクさせておこう。
「は、離せ!い、息が……」
「わかった」
私が手を離してやると咳き込みながらバンを背に座り込んだ。まあ休ませるつもりはないがな。今度は髪を掴み持ち上げる。まるで女のような悲鳴を上げながら男が悶えた。
「吐け、何が目的だ」
「わ、悪かったって!もう近寄ら──」
言い終わる前に男の身体を回し額を車の運転席のガラスに打ちつける。大きな音と共にガラスにひびが入り男の額が血塗れになった。
「──ッ!!?」
「お前のランチの予定なんてどうでもいい。聞かれたことだけ言え」
「こ、この野郎!!あとで覚えて──」
この期に及んでまだそんな減らず口が叩けるのか。髪を引っ張りもう一度、今度は後部座席のガラスに顔を叩きつけた。
「さて質問だ。今割ったガラスは二枚目。この車にはあと何枚ガラスが残ってる?」
「わかった!わかったよ!いやぁいいんだろ!!」
クソが、遅いんだよ。ガラスに押し付けていた頭を引っ張り少しだけ楽な姿勢にしてやる。男の顔は血塗れで鼻も折れ曲がり先ほどと同一人物だとは思えない。
「具体的にだ。余計なことはいらん」
「あ、あんたらを車で拉致ってから廃墟に連れ込んで輪すつもりだったんだよ……」
予想通りの答えで安心した。これで心置きなく痛めつけることができる。
「ほぉ、随分と良い趣味じゃないか。他に仲間は?」
「撮影用にあと5、6人呼ぶつもりだった……」
「誰に雇われた」
「はぁ?何の話だよ……」
どうやら本当に偶然目を付けられただけのようだ。まったく、日本は平和な国じゃなかったのか?
「臼井さん……って」
後ろを振り向く。神崎と茅野がこちらを見て絶句していた。まあそれもそうか。私の行動は民家の死角に隠れて見えていなかったはずだ。何かやるとは気が付いていただろうがまさかここまでとは思わなかったのだろう。
「う、臼井さんその人……」
「神崎、今取り込み中だ。悪いが後にしてくれ」
尋問はまだ終わっていない。男に続きを催促する。
「続きだ。何のためにこんなことをした」
計画は聞いた。次は動機だ。まあどうせ碌なものじゃないだろうがな。男も少しだけ余裕が出てきたのか呼吸が落ち着いてきた。これは愉快なことを聞かせてくれそうだ。
「クソ、鼻血が止まらねぇ……理由だと。んなもん簡単さ、エリートぶってる奴を見るとムカつくんだよ。だから俺らと同じレベルに落としてやるのさ」
一応自分のことは屑だと自覚しているのか。いや、開き直っているだけだろうな。
「金持ってそうなサラリーマンには女使って痴漢の罪を着せてやったり、てめぇらみてえなお高く留まった女は拉致ってレイプしてやったり……まあ色々だ」
「最低……」
茅野の言うとおりだ。本当に絵にかいたような屑だな。
「んだよチビ、てめぇもどうせ馬鹿高校だと思って見下してんだろ?いいよなぁ私立のエリートは、人生イージーモードでさ」
「お前はそれで、それだけの理由で何人食い物にしてきたんだ……」
こいつは救いようのない屑だ。そして私も屑だ。だが、屑には屑のルールがある。誇りがある。こいつはそれを平気で破った。
「ちょ、う、臼井さん!?」
「な、なにしやが──ッ!!?」
両腕を使って男の首を締め上げる。もうこいつの言葉なんて一言も聞きたくない。腕に込めた力を更に強める。
「惨めだな人生だな。このまま生きてても辛いだけだろう?いっそ、ここで死んだらどうだ」
「や、やめ……い、息が……」
「この世界はお前の憂さ晴らしの玩具じゃない。みんな必死になって生きているんだ。お前が今まで食い物にしてきた人達だってそうだ。そしてここにいる皆もだ」
騒ぎを聞きつけ男子達も私の前にやってくる。ここにいる皆は私のような屑とは違う。未来に希望を描き、それを叶えるために全力で生きている。
「落ちこぼれと蔑まれ、虐げられ、教師からも見放され、それでも必死に足掻いている。何がエリートだ。何が馬鹿高校だ。下らないな、どうせ腹を裂けばお前も、私も、あそこの神崎も、皆同じ内臓が詰まってる」
「皆……同じ……」
ああ、本当にイライラする。
「いいかよく聞けクソ野郎。落ちるなら一人で落ちてろ。どうしようとお前の自由だ。だがな、私やお前みたいな屑が、這い上がることすら諦めた弱虫が、精一杯努力して生きてる。そんな人達の足を引っ張っていい権利はどこにもない」
更に締め上げる。どうせ聞いちゃいないだろうが言わずにはいられなかった。
「どうだ。わかったか」
「ねえ、臼井さん」
「なんだ。今忙しいんだ」
「そいつもう落ちてるよ」
赤羽の指摘され男の顔を見てみる。案の定泡を吹いて気を失っていた。両腕の力を抜き男を解放する。気を失っているせいかまるで操り糸が切れた人形のように崩れ落ちる。
「はぁ、根性のない奴だ」
「いや、あれ喰らって平気な人の方が少ないから……」
誘拐事件は潮田の突っ込みによって幕を閉じたのであった。
「この浴衣という服は慣れんな……」
非常階段に腰かけ、身に纏った服を撫でながら呟く。結局今日の暗殺は誘拐未遂事件のせいでお流れになりその後はただの観光で一日が終わった。
「あ、臼井さんこんなところにいたんだ」
「む、神崎か」
非常階段の出入り口に立つ神崎が私を見ていた。さっきは女子の部屋で皆と話していたと記憶しているんだが。
「皆のところにはいかなくていいのか」
「うん、ちょっと臼井さんとお話ししたくて」
「礼なら言わなくていいぞ」
誘拐犯をぶちのめしてから皆に礼を言われたが正直あんなものを見てよく礼を言う気になったなというのが正直な感想だ。普通に考えて怯えるだろうに。
「それでも、お礼を言わせて。あの時臼井さんが助けてくれなかったら私達あの後酷いことをされたと思う。だから本当にありがとね」
「勘違いするな。私は自分の身を守っただけだ」
「じゃあ勝手に感謝する。これでいいでしょ?」
そう言われてしまうと何も言えなくなってしまう。というか神崎ってこんなに芯が強い人間だったのか……
「…………勝手にしろ」
「うん!あ、隣いいかな?」
私が返事をする前に神崎が隣に座ってきた。あまり広いとはいえないため必然的に肩が触れ合う。
「臼井さんは皆の所に行かないの?」
「ああいうのは好きじゃない……それに私みたいな不気味な奴がいたら皆に悪いだろ」
「そんなことない、皆心配してたよ」
神崎が悲しそうに呟くが何故そんなことを言うのか分からない。化物呼ばわりされるのが普通だったしここでもそんな認識だと思ったんだがな。
「今日臼井さん言ってたよね。学校なんて関係ない。皆同じだって」
「そう言えばそんなことを言っていたな」
これは私が人を殺し続けて行きついた真理だ。ある意味真の平等主義とも言える。
「私、嬉しかったんだ」
「いきなりなんだ」
「ちょっと、昔話してもいいかな?」
それから神崎は自分の過去について語りだした。エリートの父親の許で育ち、優秀であることを強要され、それから逃げるように姿を変え遊び耽る毎日。そして行きついた先がE組。
「それで自分の居場所が分からなくなっちゃってたんだ……」
「そうか……」
親がいない私に親の重圧なんて理解できない。だが神崎の言うことは間違っている。居場所はあるものじゃない。自分で作るものだ。そして私の居場所は戦場だ。戦場でしか生きられない。だから必死に強くなってきた。
「だからあの時臼井さんがああ言ってくれて、私すごい気が楽になったの。肩書きなんて関係ないんだなって」
「それは君が勝手に気が付いただけだろう?」
「だからさっき言ったでしょ?勝手に感謝するって」
「むむむ……」
私が困っているのが楽しいのか、神崎は鈴を鳴らしたように笑った。ああ、この笑顔が曇らなくて本当によかった。
「でも一つだけ訂正してほしいことがあるの」
「まだ何かあるのか」
そういうと今度はとても優し気な表情で私を見つめた。こんな目で見られたのは初めてかもしれない。
「あの時、臼井さん自分のことを屑って言ったよね。あれは違うと思う」
「そんなことはない。私はく──」
私が言いきる前に神崎が私の両手を握った。またこの目だ。私はこの目が嫌いだ。殺せんせーにも似たような目で見られることがある。これは駄目だ。これは私を駄目にする。
「臼井さんは屑なんかじゃないよ」
「だから、それは──」
「じゃあなんであの時私達を助けてくれたの?臼井さんなら逃げることもできたよね」
「それは……」
否定はできない。私の身体能力なら簡単に巻くことができるだろう。でもそれをするのは私のルールに反する。
「屑に「屑じゃない!」わ、私には私のルールがある。それを守っただけだ」
「そう思えるってことは、臼井さんが優しいからだよ」
「…………勝手にしろ!私は部屋に戻る!」
これ以上は埒が明かない。ここは戦略的撤退を選択する。そんな私の姿面白いのか、神崎はまた笑うのであった。
「じゃあ、本当にいくぞ。ここは冷える。君も長居しないほうがいい」
「あ、待って私も行く!」
「はぁ……」
女子部屋に戻るために二人で歩く。そんな修学旅行の一日であった。
そして、この日を境に神崎は積極的に私に話しかけるようになった。本当にここは変な奴ばかりだ。そう思わずにはいられない。
答え、まあこうなるな
没案を格闘シーンの練習を兼ねて書き直しました。このルートだと主に神崎と一緒に過ごすことになります。話もかなり違ったものになるでしょう。