※主人公がひたすら銃について語るだけの話です。山もないし谷もありません。
※最後にちょっとだけお色気要素があります。
~ARの時間~
「コンタクト!12時方向!」
私の号令と共に速水がプローンポジションを取り、30m先の5つのターゲットに向けて制圧射撃を開始する。
「ムービング!」
制圧効果が続く間にべニア板で作られたバリケードに移動。AR-15のセーフティを解除しレイザーAMGの赤い虚像をターゲットに合わせる。
「レディ!」
制圧射撃を開始。セミオートで弾を効果的にばら撒く。10発撃った段階で持ち手を変えスイッチ。リーンしながらべニア板の左側から射撃を続行する。
「ムービング!」
その隙に速水が私のいるバリケードまで移動。二人で防御線を維持する。だが私より先に発砲していた速水の残弾が尽きる。
「リロード!」
再装填が終わるまでの数秒間、制圧射撃により速水を支援、防御線を張り続ける。横でボルトキャッチを叩く音が聞こえる。
「レディ!」
「ムービング!」
速水が制圧を続ける間に私は斜め前方にあるドラム缶に移動。スライディングしながら目標地点に到達。ニーリングポジションでターゲットに向けて射撃を開始する。
「レディ!」
セミオートで発砲。ただひたすら火力を維持する。
「リロード!」
「カバー!」
制圧、そして移動、歩兵戦術の基本中の基本、ファイア&ムーブメントだ。仮にあのターゲットが私だったら正面からでは反撃もままならないだろう。
「ムービング!」
ターゲットの5mの距離にあるドラム缶に速水が発砲しながら突っ込む。結構な速度で走っているのにも関わらず上半身にはまったくブレがみられない。
「ムービングッ!」
ダッシュ、同じ距離にあるドラム缶へ突っ込む。そして発砲、弾が尽きる。
「リロード!」
「カバー!」
すぐさま再装填。ボルトキャッチを叩き薬室にBB弾を叩きこむ。そろそろ終わりにしよう。
「小隊前進!」
再装填を見計らい、揃って立ち上がりゆっくりと前進。右へ左へと弾を叩きこむながらターゲットに向けて猛攻を掛ける。
「ピストル!」
弾切れを想定し号令、私と速水が同時にライフルを脇にどかしトランジション、ホルスターから1911を引き抜く。速水のレースガン、私のモダナイズド1911がターゲットを徹底的に蜂の巣にする。
「…………」
互いに薬室に一発残し沈黙。銃を構えたまま左右を警戒する。脅威目標なし。
「オールクリア!」
ホルスターに銃を戻し全身に掛かっていたテンションを抜く。よし、完璧だ。いや、その前に弾を抜かなければ。
AR-15の弾倉を抜き、チャージングハンドルを引きながら装填されているBB弾を抜く。実銃と違ってエキストラクターがないから面倒だ。
そうしてしっかりと弾がないことを確認し前方に向けてハンマーダウン。1911も同じように安全確認を行う。
「やっぱ仕事人コンビと臼井は別格だな」
「僕たちじゃまだあそこまでできないよね」
そんな私達のやり取りを横から見ていた杉野と渚が目を見開いて感心していた。
「付き合わせてしまってすまなかったな。ありがとう」
「気にしないでいい。いつもの訓練だから」
すまし顔でそう言う速水に私たちは改めて感心した。私でこれほど息が合うのだから、千葉と速水が組んだらどれほど凄いことになるのだろうか。
「試してみてどうだったの?それは」
「ああ、特に問題なかったよ」
私が彼女に付き合ってもらったのは新しく組み上げたAR-15を試射するためであった。結果は問題なし。これなら実戦でもちゃんと戦えるだろう。
「にしてもやっぱ臼井の銃かっけえよなー。一応俺らが使ってるのと同じなんだろ?」
「もう原型留めてないけどね」
渚の指摘に私は新しく組んだARを眺めた。支給品の太いハンドガードに慣れている皆からすればこのAR-15はとてもスマートに見えるはずだ。
「CQBをメインに組んでみたからな。いつも使っているARよりも軽くて取り回しがいい」
「まあそれだけスカスカだと軽いよな」
杉野が思うのも無理はなかった。ハンドガードにはハンドストップを取り付けたミッドウェストのM-lokハンドガードを使用し細身かつ軽量。ストックもMFTのミニマリストストックだから通常のストックよりも非常に軽い。
サイト周りも予備のマグプルのフリップアップサイト以外はボルテックスのホログラフィックサイトしか取り付けていないので取り回しの良さは段違いだ。
いつもレーザーやらフォアグリップやらウェポンライトやらでゴテゴテになっている私の銃からすれば大変スリムに見えるだろう。
更には大型化したボルトキャッチ及びマガジンリリース、チャージングハンドルエクステンション、ウェポンライト、などなど正にCQBのためのAR-15と言っても過言ではない出来栄えに仕上がった。
本当ならこれの凄さを皆に語りたいところだが、それをするともれなく止められるのを学習しているので我慢する。
ちなみにこう言った私の語りを皆は臼井語と呼んでいるらしい。不破曰く宇宙人と話している気分になるとのことである。ついていけるのは律と殺せんせーだけだ。烏間先生ですら途中でリタイアしてしまった。ビッチ先生も言わずもがなである。
「それ、幾らしたの?」
速水が半目で私の銃を訝し気に眺める。前にさらっとスコープの値段を言ったら凄い顔をしていたので気になるのかもしれない。
「前に買ったホログラフィックサイト以外は持っていたパーツを流用しただけだよ。私達の使っているものは本物のAR-15と同じ寸法だから簡単に移植できるんだ」
頭の上に疑問符を浮かべる渚と杉野を横目に速水はほっと息を吐いた。もしかして前のように散財したとでも思っていたのだろうか。
「例えエアガンだとしても、AR-15は良い銃だ」
「ねぇ、臼井がいつも言ってるAR-15ってなに?」
ライフルに指を指して訊ねてくる。よく見れば渚と杉野も速水に同意するように頷いていた。
「何って言われてもAR-15はAR-15だろ」
「よく知らないけど、これってM4って名前じゃないの?」
ああ、そういうことか。私は渚の言葉にようやく合点がいった。M4、正確にはM16シリーズのカービンモデルこのことだろう。
「私は軍人じゃないからM4とは呼ばん。AR-15っていうのは今私達が使ってるライフルの商品名のことだ。ARってのはアーマライト・ライフルの略で、これを始めに作った会社の名前だな」
普段、それこそ毎日のように使っている銃のことだけあって、皆は興味深そうに私の話を聞いてくれた。いつもは話し出すと止められるのに。
「それでもってM4は軍に採用されたAR-15のカービン仕様の名称、米軍が採用した四番目のカービンライフルって意味だ」
「ん?つまりどういうことだ?」
「出席番号みたいなものじゃないかな。管理しやすいように本名とは別に番号を割り振るやつ」
「まあ、そんな感じだ」
別にM4もM16も一般名詞と化しているのでそう呼んだところで問題なく通じるが、軍属じゃない引け目か、傭兵としての安っぽいプライドのせいか、軍の制式名称で呼ぶのはなんとなく嫌だった。
「この銃はとにかく色々なメーカーで作られてていちいち呼び分けるのが面倒だから私は纏めてAR-15って呼ぶようにしている」
「へぇー」
杉野絶対真面に聞いてなかっただろ。まあいいや。私はこの手の話になると熱くなってしまうから自重するくらいがちょうどいい。
「ちなみにどんな会社が作ってるの?」
「ああ?確か……アーマライトは勿論、コルトにS&Wだろ?それからレミントン、スプリングフィールド、ナイツ、スタームルガー、ダニエルディフェンス、スタッグ、サベージ、JP、ヤンキーヒル、それから──」
「お、多すぎる……」
「どんだけ作ってんだよ……」
使いやすいし最高のライフルだと思うが、だからと言っていくらなんでも作りすぎだろと私も思った。M14だってそこまで作られていないだろうに。噂によるとポンプアクション式のAR-15もあるらしい。世も末だな。
世界で一番作られた銃がAKファミリーなら、さしずめAR-15は世界で一番売れた銃だろう。あと半世紀は現役で行けそうだ。
「ちなみに今言ったのは全部アメリカだ。他にもアメリカにはまだまだたくさんあるぞ。ブラボー、ルイス、アンダーソン、ロックリバー、ウィンドハム──」
「マジかよアメリカ怖すぎだろ」
杉野達の頭にアメリカに対する偏見が植え付けられた瞬間であった。ちなみに速水は途中からいなくなっていた。
~ライフルの時間~
「そう言えば君は新しい銃を使わないんだな」
シューティングレンジで隣になった竹林がターゲットに向けて発砲しながら話しかけてきた。お世辞にも上手いとは言えないが、それでも構えはしっかりしている。後は数を重ねれば上達するだろう。
「ああ、G36のことか」
「確かこれはそう言う名前だったね」
いつの間にか、正確には二学期に入ってからであるが防衛省から支給されるエアガンの中にH&Kの(実際はエアガンだが)G36が混ざっていた。しかもカービンモデルのG36Cだ。
皆はこっちのほうが使いやすいのか、一部を除いて殆どG36に変えている。竹林もそのうちの一人だ。
「その銃は少ししか撃ったことないが良い銃だよ。短銃身だからコンパクトだしポリマーを多用したお陰で軽量。しかも操作系統は完全に左右対称になっているからCQBには打ってつけだ。ARに比べれば拡張性が低いが、元の出来がいいからそれも必要ない」
「その割には一度も使っているところを見たことがないんだが、何か拘りでもあるのかい?」
彼の言う通り私は二学期に入ってから一度もG36を使っていない。一応何度か触ったが結局いつものAR-15に戻してしまった。
「別に拘ってるわけじゃないよ。銃なんてものは所詮弾薬の発射装置。要は撃ちたい時に撃てて狙ったところに弾が飛べばなんでもいい。ただな」
「ただ?」
AR-15のマグウェルに弾倉を挿入、チャージングハンドルを引っ張り薬室にBB弾を叩きこむ。
足を大きく開き身体は斜め45度。ウィークハンドはハンドガード前方を握りしめストロングハンドでグリップを引き寄せバットストックを肩に押し付ける。
背中は大きく丸め頬は形が変わるレベルでしっかりとストックに押し付けサイティング。サイトピクチャーとサイトアライメントにずれがないことを確認しセーフティ解除。
「私にとってAR-15は身体の一部だった」
ホログラフィックサイトの虚像をターゲットに合わせる。ゼロインは既に済ませた。
引金を絞る。ターゲットのど真ん中に穴が開く。いついかなる時もこの銃はいつも私の隣にいた。
「アーマライトと共に生き」
発砲、ど真ん中の穴が少しだけ大きくなる。これから如何に良い銃が出たとしても。
「アーマライトと共に死ぬ」
発砲、穴が広がる。今更他の銃など使わない。
「今は違うのかい?」
構えを解き、もう一度構え直す。拘りなどではない、ただの独りよがりの自己満足だ。
「そうだ」
だがその自己満足もいずれ必要なくなるだろう。
「そうだとも」
発砲、弾がターゲットの穴の向こうに消えていった。
~撃ち方の時間~
「よーい!」
ターゲットの目と鼻の先に立ちホルスターに意識を集中させる。カイデックスホルスター収められた1911には既に14発の6mmボールベアリング弾が装填され、ターゲットへ牙を向く瞬間を待っている。
「はじめ!」
号令。脳が信号を発し筋肉が収縮、目の前のターゲットに拳を叩きつけ1m後退。
後退しながら1911をドロウ。腰を落とし銃を中心に右足を引き両手で銃を胸に押し付けるように保持する。
ダブルタップ、ターゲットの真ん中に風穴を開け、そのまま右隣のターゲットに胴体ごと銃口を向け同じようにダブルタップ。
ポジション変更。腕を持ち上げ銃を斜めに構えサイトを左目の前に持って行く。四連射、二つのターゲットの上部に風穴を開ける。
移動開始、瞬時に銃を左にスイッチ。上体をぶらさず左に小走りしながら横並びになった二つのターゲットに三発づつ叩き込む。
残弾なし、立ち止まり右にスイッチ。手首のスナップをきかせ弾倉を弾き飛ばしフレッシュマガジンを叩き込む。
スライドストップ解除。目線から銃口を僅かに下ろしターゲットを警戒。全弾命中を確認。
胸に二発、頭に一発、お手本のようなモザンビークドリル。これを食らえば如何に超生物と言えどひとたまりもないだろう。
「オールクリア!」
状況終了。セーフティを掛け銃をホルスターにしまう。僅か十秒にも満たない行程だが適切なサイティング、残弾管理、スムーズなスイッチ、リロード等、考えることは多い。私はほっと息を吐いた。
「と、今のがC.A.Rの基本的な動作だ」
「師匠!速すぎて見えませんでした!」
そんな私の動きを体育座りで横から見ていた不破が手を上げながらそう言った。その横には速水と千葉のコンビきょとんとしながら座っている。
というか不破はいつまでそのネタ引っ張るつもりなんだろう。
「教えてくれって言ってきたのは君達だろ」
始まりはいつものように私は至近距離での射撃訓練を行っている最中、速水が私の撃ち方を教えてくれと言ってきたのが発端だった。千葉がいるのはわかるが不破は何故いるのだろうか。まあいいや。
「でもそうだな、一から説明しよう。私が今行った撃ち方はC.A.R、正式名称Center Axis Relockと呼ばれる撃ち方で、主に室内や車内での射撃に念頭を置いて考案されたテクニックだ」
ここまで言い切りホルスターから1911を引き抜き胸に押し付けるように保持する。
「これがハイポジション、ファストドロウや超至近距離で戦う場合のポジションだ。銃を両側から押さえつけるように握り、胸に押し付ける。この際左右の親指の腹を合わせるのがポイントだ」
そのまま真横のターゲットに向けてダブルタップ、銃を押えつけていることもありBB弾は綺麗に同じ場所に命中した。
「普通に構えるのと違ってこれなら肘を相手に向けるだけで照準がすむし胴体を横に傾ければ頭を狙うこともできる」
再びダブルタップ、続けて流れるように胴体を傾け少ない動きでターゲットの上部を撃ち抜いた。
「これは私達とはあまり関係ないが、普通のスタンスと違って銃を奪われる心配が少ない。万が一手を伸ばされそうになっても──」
真横のターゲットに左肘を叩きつけ後退、銃を持ち上げエクステンデッドに移行する。速水達は真剣に聞いているのかじっとこちらを見るだけだ。
「こうやって距離を置ける。ちなみに今の構えがエクステンデッドポジションと呼ばれる構え方だ。ハイポジションから持ち手を少し上にするだけで簡単に移行できる。こちらは少し距離がある場合の構えだ」
足を入れ替え左手にスイッチ。それを見せるように前後に移動しながら何度か繰り返す。本当は真後ろに銃口を向けたいところだが、人がいるので断念する。
「右手なら左目、左手なら右目と、持ち手とサイティングする目が逆になるようにするのがコツだ。だが、これは欠点も多いから個人の自由だな」
「どんな欠点があるんだ?」
「やってるみるとわかるんだがサイティングする側の視界が著しく狭くなってしまうんだ。アイソセレスやウィーバーと違って顔を正面に向けているわけでじゃないからな」
だがその分至近距離での安定感はアイソセレスの比ではない。私はこれが好きで愛用している。エアガンだとホップアップのせいで斜めに構えると弾がおかしな方向に飛んでいくが、それが懸念される距離ではそもそも使うべきではない。
「欠点も多い撃ち方だが、このように瞬時に左右を入れ替えられるからアイソセレスやウィーバーよりも周囲の状況に対応しやすい。なおかつ腕を伸ばす必要がないから至近距離での銃撃や狭い場所では特に有効だ。殺せんせー相手には丁度いいかもしれないな」
「なるほど……」
感心する三人を尻目に右肘を伸ばし銃を捻り出すようにウィーバーに移行する。やはりこっちのほうがしっかり狙えるな。
「ちなみに更に距離がある場合は持ち手の肘を伸ばしてそのまま普通の構えに移行できる。言っておくが最適解というものはない。状況に応じて適切なスタンスを取ることが重要だ」
弾を抜き銃をホルスターに戻す。とりあえず基礎は教えた。使うか使わないかは三人次第だろう。
「ただ、そうだな。そもそもこんなテクニックが必要ないような立ち回りやチームワークを磨く方が手っ取り早い。使う機会も限られているだろうし練習する意味はあまりないな」
「ゆ、夢がないなぁ……」
「実際の戦闘なんてそんなものだ」
居場所のわからない敵に襲われ三十分撃ち続けたがとうの敵はとっくの昔に逃げていたなんてのはざらだ。映画のような華々しい戦闘は現実にはあり得ない。
「まあ慣れないうちはこの撃ち方はお勧めしない。スライドが目にぶつかって危うく失明しかけた馬鹿を知っているからな」
「あちゃー、それは痛い」
不破はその光景を想像してしまったのか顔を痛そうに歪めた。
「ちなみに私だ」
「…………」
~ホルスターの時間~
「おはよー臼井さん」
「おはよ!臼井」
教室の扉を潜る。委員長コンビの片岡と磯貝が今日も私を出迎えた。私は軽くスキップしながら二人の前に躍り出た。
「おはよう片岡!磯貝!」
「あれ?どうしたの臼井さん、なんか嬉しそうだけど」
「いやぁ、新しいホルスターを買ったからつい興奮しちゃってな!実はもう着けているんだ!」
秋にしては今日は少し暑い。上着を脱ぎシャツ一枚になる。そんな私の姿に片岡達は首を傾げた。
「あれ、銃なんてどこにも見えないぞ」
「そう思うだろ?でも違うんだよー」
胸に感じる重みを噛みしめながら私はニヤリと笑った。今の私は丸腰にしか見えないだろう。私の興奮を皆にも知ってもらいたいくらいだ。
「しかもこれは殺せんせーにも効果があるかもしれないホルスターなんだ。凄いだろ!」
「そんなに凄いんだ。よかったら見せてくれない?」
「うん!いいぞ!」
待ってましたと言わんばかりに私はシャツの裾を思いきり捲りあげる。乾燥した空気が素肌を撫でる。皆の視線が一気に私に集まりだす。ざわつく皆を横目に私は下着に取り付けたホルスターから──
「臼井さんストップ!ストップ!!」
「うわっ、何をする!やめ!」
顔を真っ赤にした片岡が慌ててシャツの裾を押えつけてくる。隣にいた磯貝も同じように顔を赤くして動揺しているようだ。
「う、臼井さん!?今何しようとしたの?!」
「何って、下着に取り付けたホルスターからエアガンを……」
「ああもう!見せようとしないでいいから!!磯貝君も向こう見てて!」
「わ、わりぃ!」
もう一度捲って銃を引き抜こうとすると今度はもっと強い力で元に戻される。なんで駄目なんだ……
「お、おい今見えたか!」
「ああ……白だった……」
男子達、特に前原や岡島あたりが妙に血走った目でこちらを見てざわついていた。なんか怖いぞ。
「ちょっと男子!!って言いたいところだけど、今回は臼井さんが悪いから何も言わないでおく……」
私?私がいったいいつ悪いことをしてしまったのだろうか。もしそうなら謝るべきだろうか。
「な、なあ片岡なんでみんなこんなに──」
「臼井さんちょーと一緒に廊下で話しようか」
「あ、ちょ!痛い引っ張るな!」
首を掴まれ猫のように引きずられていく私。そのまま教室の窓から見えない位置まで連れてやっと解放される。
「はぁ……臼井さん、何しようとしたの?もうだいたいわかってるけど……」
「あぁ、烏間先生に頼んだら新しいサブコンパクト型の1911を貰ったからちょうどいいホルスターを探していたんだ」
「それで?」
「な、なんか怖いぞ片岡。それでネットで下着に取り付けるホルスターが売ってたからこれだ!と思って買ったんだ」
これなら服を脱がないかぎり絶対にばれないし殺せんせーは女性の胸に弱いと聞く(渚からの情報だ)これしかないと思ったんだがな……
「これだ!じゃないでしょ……ビッチ先生じゃないんだからさ」
「よかったら着けてみるか?サイズがC以上なら使えるらしいぞ」
偽殺せんせー騒動の時、生徒の名簿に女子生徒の胸のサイズが書きこまれていたが、確か片岡は私と同じサイズだったはずだ。
「いらんわ!はぁ……頭痛くなってきた……」
「そうか、まあいいや。話はこれで終わりか?そろそろ戻らないか?」
その瞬間、片岡から感じる威圧感が途轍もなく大きくなった。こ、これは嫌な予感がする。いつかレストランで一緒に勉強した時のことを思いだし私は身震いした。
「臼井さん」
「な、なんだ?」
「それ使うの禁止ね」
「えっ!?せっかく買ったの──」
「禁止ね?」
「で、でも結構──」
「禁止」
「…………らじゃー」
それ外してから戻ってきてね、と片岡は爽やかな笑みを浮かべ去って行った。仕方ない、トイレで外してくるか……。そう思って後ろに向き直った瞬間だった。
「ねぇ祥子」
背中に悪寒が走る。油の切れた機械のようなぎこちない動きで後ろを向く。そこにはいつの間にかいたっていつも通りのカエデが立っていた。
「ちょっと、お話ししよっか」
顔はニコニコしているのに、目が、目だけが全く笑っていない。こ、怖すぎる……。ここは一旦退却しよう。
「……断る!」
「あ!待ちなさい!」
全力でダッシュする私、そしてそれを追いかける涙目のカエデ。この無益な逃走は数分の間続き結局私が観念することで終息したのであった。
そして私は金輪際カエデの前でこのホルスターを使わないこと誓うことになった。酷すぎる。私はホルスターから銃を抜こうとしただけなのに……
用語解説
レイザーAMG
ボルテックスが開発したホログラフィックサイト、精度問題を引き起こしたEotechに変わり米軍に採用が検討されている。
リーン
銃を構えながら上半身だけ斜めに傾ける構え方。虹の特殊部隊で有名になった。
ファイア&ムーブメント
部隊を射撃班と機動班に分け、片方が敵を抑えている間に移動、それを交互に繰り返し敵の側面や背後に回り込む。現代の戦闘の射撃は殆どこのための制圧射撃。弾薬消費量が半端ない。米軍は一人倒すのに3万発使うらしい。
エキストラクタ―
弾薬の縁に引っかけて薬室から弾を抜きだす役目を果たすパーツ。これによって引き出された薬莢がエジェクターにぶつかって弾き出される。
ハンドストップ
ハンドガードに取り付けるL字状のグリップパーツ。
ミッドウェスト
正式名称ミッドウェストインダストリーズ。主にタクティカル系のライフルのパーツを売っている企業。
M-lok
20mmレイルに変わって最近台頭してきたアタッチメント規格の一つ。米軍でも評価されているらしい。原作でE組が使っているM4のハンドガードも多分マグプルのM-lokハンドガード。
MFT
ミッションファーストタクティカル(なげぇ)ミッドウェストと同じくタクティカル系のホルスターやライフル用アクセサリーを販売している。
ミニマリストストック
MFTが販売しているAR-15用ストック。通常のM4タイプのストックは横から見ると三角形型だがこれはL型。
チャージングハンドルエクステンション
装填するためのチャージングハンドルを延長して操作性を上げるパーツ。炒飯と呼んではいけない。
アーマライト
アメリカを代表する銃火器メーカー、元は航空機メーカの銃開発部門。M16や自衛隊の89式自動小銃の基となったAR-18を作ったことで有名。
AR-15開発メーカー一覧
多すぎて面倒なのでパス。冗談抜きで世界中で作ってる。ほんとに多すぎる。無理書ききれない。
H&K G36
ドイツの制式採用ライフル。口径は5.56mm。映画映えするのでよく見かける。最近熱で命中精度がガタ落ちする問題が浮上してグダグダになってる。
サイトピクチャー
照準時に目に映る映像。要は照準が目標に重なっているか。
サイトアライメント
フロントサイトとリアサイトが一直線になっているかどうか。これがあってないと絶対に当たらない。ホログラフィックサイトやレッドドットはこの問題を解消してくれる。
C.A.R
主人公が鷹岡編や死神編で使っていた撃ち方。解説は本文にて。かっこいい。別に駄洒落じゃない。
ウィーバー
両手での拳銃の構えと聞いてまず連想する構え方。原作でも皆ウィーバー。
主人公のホルスター
正式名称フラッシュバンホルスター、お値段日本円で約五千円。ブラジャーのカップの間に括りつける。撃つ時は胸に手を突っ込んでいるようにしか見えない。ちなみにCカップ以上ないと使えない模様。