オーゼンの拾いモノ   作:ぽぽりんご

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エピローグ

 

 

 今日は天気がいいようです。

 穴の中なのに天気と呼ぶのも妙な気はしますが、わざわざ別の言葉に置き換えるのも面倒なので、いい天気と言わせて頂きます。

 上昇気流が弱いため、巻き上げられる水蒸気や塵が少なく、力場からの光が普段より強く届いています。いつもは湿っている地面(というより、逆さ森の木々)ですが、今日は乾いているため滑りにくく、普段より軽快に進むことができました。

 

「あまり急ぎすぎると転ぶぜ、マルルクちゃん。濡れている場所もあるだろうからな」

「はい、気をつけます」

 

 お散歩についてきてくれた、イェルメさんが注意してくれました。

 彼はお師さまの探掘隊の一員で、シーカーキャンプにいる人たちの中では一番年齢が近いので、よく話をします。

 一緒に散歩に行くのも、一番多いでしょうか?

 大人版の僕を見れるのは散歩の時ぐらいなので、せっかくだから一緒に行きたいんだそうです。

 別に、そこまで珍しいものでもないと思うのですが。

 

 ボクは、人に見られる可能性がある場所に出るときは、姿を変えています。

 二層を出歩いている子供なんて、ホラー以外の何者でもありません。幽霊の噂が立ってしまいます。腕を伸ばしたりなんかするのも、当然御法度です。普通の探掘家のふりをします。普通と探掘家を結びつけるなんて神への冒涜かもしれませんが、とにかくやるのです。

 

 散歩以外でも、月に一度は探掘隊がキャンプを訪れるので、その人たちが滞在している間も大人になっています。

 そう考えると、四分の一ぐらいは大人の姿をしているのではないでしょうか?

 

 面倒なので、大人の姿のままでいいのではとお師さまに提案しましたが「子供は、子供の姿を取るべきだ」と却下されてしまいました。

 なんでも、外見に心が引っ張られるとかなんとか。

 

 なら、お師さまの言動が根暗極まりないのも、その外見に引っ張られているからなのでしょうか。

 だとしたら、説得力が抜群です。

 でも、お師さまが正論を語るとかヘソが茶を沸かすので、なんだか同意しづらいです。

 

「今日は、電報船が見あたらないな」

「そうですね。穏やかな気候なので、墜落していないのかもしれません。無事、一層の上層まで登ってくれるといいんですけど」

 

 ボクたちは、散歩のついでに電報船を拾って飛ばし直しています。

 直接手で持っていった方が確実なのですが、ここから地上に戻る人たちは遺物を山ほど持っているので、運ぶ余裕がないのです。

 確実ではないと言っても、ここから飛ばせば赤笛達の捜索範囲までは届くので、あとは見習いの赤笛達に拾ってもらう運用になっています。

 電報船を拾うと、協会からお金が出ます。

 なんでも、下手な遺物を拾うよりもいい小遣い稼ぎになるのだとか。

 

「にしても、静かすぎねぇか? 鳥の声すら聞こえないぜ」

「言われてみれば、そうですね。なにかあったのでしょうか?」

 

 イェルメさんの言葉に同意します。

 気になるので、調べてみることにしました。

 この辺りを縄張りにしている鳥……ツチバシの巣が近くにあったので、少しだけ意識を同調させます。

 記憶が混線するといけないので、目で見たことを少し覗く程度しかできません。が、それで十分です。

 ツチバシは臆病なわりに野次馬根性が座っていやがるので、なにか変わったことがあったら、ぜったい目視で確認していると思うのです。

 

「ベニクチナワ……?」

 

 やはり、目視していました。

 視界に映ったのは、ベニクチナワです。ヘビのような巨体をくねらせながら、上層まで飛び上がっているようです。どう見ても何かから逃げているようにしか見えないのですが、ベニクチナワが逃げ回る相手なんてどこにも……

 

「……子供、でしょうか?」

 

 よく見ると、ベニクチナワの背中に子供のような人影が見えました。

 しかもその人影は、腕を伸ばしてベニクチナワの体に巻き付け、体を固定しています。

 

 腕が伸びるとは、面妖な。

 妖怪の類でしょうか。

 常識的に考えて、ありえません。

 

 更には、ベニクチナワの尻を叩いて、上に飛ぶよう誘導しているようにも見えます。

 もしかして、ベニクチナワに乗って上層までショートカットしようというのでしょうか?

 とんでもないことをする子供も居たものです。

 アビスで一番の常識人を自称するボクには、考えられない暴挙です。

 きっとボクとは正反対の、粗野で乱暴な性格をした子供だと思います。

 

 

 ボクが見た光景をイェルメさんに語ると、なんだか微妙な表情をされました。

 幽霊でも見たんじゃないの、なんて言い出しそうな雰囲気です。

 失礼な。ボクの、なんだかよくわからない力が信用できないとでも言うのでしょうか。

 

「少なくとも、ベニクチナワが暴れ回っていたのは事実ですよ。そのせいで、この辺りの生き物が隠れてしまったんだと思います」

「なる。静かな理由はそれか……しかし、その子供ってのは何者だ? 滅茶苦茶なことしやがるな」

「ですよねぇ」

 

 異常事態ではあるので、お師さまに報告が必要でしょうか。

 今から知らせても間に合うとは思えませんが、警告はするべきでしょう。

 もしベニクチナワが一層で暴れ回ったらと思うと、ぞっとしません。

 ベニクチナワに乗っていた子供が、きっちり始末を付けてくれることを期待したいです。

 

 

 

 

 散歩から帰ってお師さまに報告を終えると、大事な話があるから後で部屋に来いと言われてしました。

 なんでしょうか。不安です。不吉です。

 ボク、何も悪いことはしていないと思うのですが。

 裸吊りとか、勘弁してほしいです。

 あれ、何の意味があるのでしょう。

 お師さまへの嫌がらせとして、裸吊りされている間はお師さまの姿になるようにしましょうか……いえ、駄目です。絵面がひどすぎます。万死に値しちゃいます。却下です、却下。

 

 

 そんなことを考えていると、時間はあっという間に過ぎてしまいます。

 時間を置いた理由は、地上へ電報船を飛ばすためでしょうから、たいして時間はかかりません。ベニクチナワが一層に上がったと手紙を出すだけです。

 ゆえに、お師さまの部屋にいかねば。

 

 気を紛らわせるために、髪をいじりながらゆっくり歩きます。

 イェルメさんの希望で髪を長くしてみたのですが、けっこう邪魔です。酔っぱらった時のお師さまぐらいうっとおしいです。短い方がいいのでは? イェルメさんの言うことはよくわかりません。明日は短くしようと思います。

 

 

 そんなこんなで、お師さまの部屋に到着しました。

 扉から、謎の重圧感を感じます。

 気分は、さながら魔王の部屋に到着した勇者といった所でしょうか。

 

 扉を開けます。

 そこには魔王がいました。

 魔王は勇者(ボク)の姿を見ると、壁に掛けられていた物をこちらに放って寄越します。

 とっさにキャッチし、恐る恐る目の前にかざしてみました。危険物だと困りますが、どうやら危ない物ではないようです。それは見慣れた物。ここに来る探掘家たちが、身につけているやつです。

 

「……青笛? お師さま、これは?」

「君のだよ。大人の姿ではなく、本来の姿の君の笛だ。十五歳以上という制限はあったけど、私の直弟子ということで、特別に許可がおりたのさ。人前に出る時、いちいち大人の姿を取るのは面倒かろ」

「確かにそうですね。頻繁に姿を変えると、とても疲れます……ずっと、この姿でいいということですか?」

「そうなるね」

「では、お師さまの姿で、代わりに人前に出る仕事も終わりですか?」

「いや、そいつは引き続きやってもらう。私は人前に出るのが嫌いなんだ」

 

 ええ……前言撤回していませんか、これ。

 や、わかっていましたけど。

 

 お師さまは、人前に出るのが大嫌いなのです。

 お師さまの人嫌いは常軌を逸しています。存在自体が常識から逸脱しているので、何をしたって常軌を逸してしまうのは仕方のないことですが、それでも勘弁してほしいというのが正直なところです。

 お師さまの代わりに話をしていた時、油断して流暢に会話してしまい、とても気味悪がられたことがあります。

 普通に会話しただけで、戦々恐々とされるなんて。お師さまは、もう少し自分を省みたほうがいいのではないかと思いました。

 

 

 しかし、青笛ですか。

 青笛と言えば、一人前の探掘家、その代名詞です。

 つまり。

 

「お師さま。お師さまは、ボクが一人前になるまで育ててくれると言っていました。青笛を得たということは、これでボクも一人前なのでしょうか?」

 

 ボクの言葉を聞いたお師さまは、ハッと鼻で笑いました。笑顔が怖いです。お師さまですから。

 

「十年速い。私の弟子なら、黒笛ぐらいはとってみせな。君の素の実力なら、簡単さ」

「そうでしょうか」

 

 黒笛の方々は、皆さんとてもスゴいです。

 あと、とても変わっていらっしゃいます。

 ぼくがその中に入るなんて、想像できません。

 なにしろ、アビス随一の常識人を自称しておりますので。

 

「黒笛になったら、酒を振る舞ってやろう。望むなら、昔の君……あるいは、君の両親について話してやってもいい」

 

 お師さまは、そうおっしゃいました。

 お師さまが昔のことを口にするなんて、滅多にありません。

 だから、結構真剣に話をしているんだろうな、と思います。

 

「……」

 

 お師さまの言葉に、ボクは言葉が出ませんでした。

 

 そんなことを言われると、本当のことが言い辛いです。

 「記憶、とっくに戻ってますけどー」なんて、口が裂けても言えません。

 

 なにしろ、自分自身の体に残った記憶です。読み取るぐらい、わけないです。というか、油断すると勝手に夢に見てしまいます。

 お師さまに拾われてからもう十二年になりますが、三年目には記憶が戻っていました。

 

 ですが、なんだか言いにくいので、いまだに言えていません。

 これは、お師さまのフレンドリーさが足りないことが原因であると思います。

 

 

 なので、これはボクの胸の内に仕舞っておくことにします。

 お酒の力を借りると口が軽くなるという話なので、ボクがお酒を飲めるようになったら、お師さまの恥ずかしいセリフなんかと共に暴露して困らせてやろうかと思います。

 そうしてすっきりしたら、前みたいに自由気ままに話すのもいいかもしれません。自由なのは、少しだけ憧れます。

 

 

 だから、それまでは。

 もう少しだけ、今のままの関係でいようと思いました。

 

 

 

 

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