夢女子の私が悟さんを幸せにします!   作:ピュアウォーター

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※夢小説というのは主に二次元(架空)の男性キャラクターとアバター(自分の分身を投影したもの)との恋愛作品のことです。(あってるよね?


三度目の目覚め。

「フゥー。このアーコロジーは私がもらうよ」

 

 私は葉巻の煙を吹きながら画面越しの肥え太った男にそう言う。彼の顔は面白いほどに歪んでいた。傑作だ。彼とは長い間、共に仕事をさせてもらったが、これでやっと私が主導できる。それに、彼は生理的に受け付けない。下賤な目線。いやらしい手つき。正直言うと彼にはセクハラ受けていたわけだ。いやもう”ゴミ”と呼んでいいかな?まぁ、触った時は容赦なく殴りたくなったがもう我慢しなくていい。清々しい気分だ。この汚物も明日にはアーコロジーの外に出されてすぐ死ぬだろうしもう忘れよう。そのほうが精神的に楽だ。

 

 

 

 ここは数少ないアーコロジーの一つにある巨大ビルの357階の一室。葉巻の火を消し終えた彼女は高級な牛皮を張ったチェアに脚を組みながら座っている。勝利の余韻か、ワイングラスを片手に天然の葡萄酒を飲んでいた。

 

「祖父の夢は叶えた。そして、権力はすべて私のもの。気分がいいわ…」

 

 彼女の名前は六堂紗友里(リクドウ サユリ)。リクドウ財閥の御令嬢で現当主であり複合企業の大株主である。しかも、彼女が関わるほぼすべての企業の株保有量は50%以上であり、経営権は彼女にある。さすがに全ては経営することはできないため社長を雇って代わりに会社を回させているが彼女の言葉は絶対だ。六道紗友里の一言ですべて決定する。

 

 ちなみにアーコロジーとは完全環境都市のことで、地球に舞う死の灰から守られた世界である。そう、今は22世紀初頭。2128年。深刻な環境問題が起こり人が住めなくなった地球。死の星と呼んでも良い。生身の人間が外を歩いただけで肺が毒の空気に侵されすぐに死んでしまう場所なのだから。地表も荒れて、空には常に猛毒の霧が覆い太陽の光を遮る。そのため、農業もできない。それと比べ、空気を洗浄し無害する環境や人工太陽があるアーコロジーは天国である。人間の生存できる場所。これはもはや一つの国と言ってもいい。現にアーコロジーをめぐって戦争が起きてもいる。もはや、政府という概念はなく、完全環境都市を整備できる巨大複合企業が国家を掌握している状況だ。そして、その国を支配しているのは企業の長だった男はいない。今は彼女が王だ。

 

「…違う。これじゃない」

 

 だが、彼女は満たされなかった。すべてを手に入れたはずなのに彼女の心には未だポッカリと穴が開いている。

 

 六道沙友理は天才だ。幼少の頃から学習装置も使わずに全ての教科を暗記でき、しかも応用できた。そのため5歳の時から帝王学を学び、小さな会社の経営を任されていた。もう彼女に手は離れたが大企業として立派に成長している。快挙だ。

 

 財閥ではある日を境に頭角を現していき、16歳で当主になった。

 

 だが、これは偉業すぎた。天才の彼女はうまく行きすぎる現実に飽きてきてしまっていた。だからだろうか、彼女は権力を求めたのは心の隙間を埋めるためのものだったのかもしれない。そして、6年後。22歳でアーコロジーの長になった。

 

 でも、結局は本当にそれを彼女は求めていなかった。

 

 そうだ。これは。一国の女王になることなぞ六堂沙友里の望みではない。それは彼女の祖父。六堂泰然(リクドウ タイゼン)の夢だ。彼はアーコロジーを掌握し、リクドウ財閥を覇権に導き子孫を繁栄させる事が使命だった。

 

 彼女は幼少の頃から祖父に教育を仕込まれている。染められたと言うべきか。六堂沙友里は自分が祖父の夢を叶えるのが当たり前だと思い込んでしまった。それが彼女の全てをカタチどっているのだからごく普通にそう思ってしまうのは当たり前かもしれない。

 

 それに、彼女には父と母はいない。物心がつく前にテロリストの襲撃によって死んでしまったからだ。頼れる親類は祖父しかいない。六堂沙友里は六堂泰然にべったり懐いてしまい彼の言う事ならなんでも聞いてしまうほど慕っていた。でも祖父はもういない。

 

「次は何すれば良いんだろう…。おじいちゃん」

 

 彼女はいつものキリッとした威圧するような口ぶりではなく、童心に帰ったような声でそうつぶやいた。その姿は王ではなく、怯えた子供のようだった。椅子に体育座りでもたれかかった彼女は六堂沙友里という強者の装いはではなく、一人の女の子でしかなかった。

 

 祖父は他界し、夢も叶えた。では次は何をすれば良いのか?答えを導いてくれるものはもういない。彼女の前にはレールはもう無かった。そして、新しい線路を作ることも見つけることもできない。

 

 

 ピコーン。目の前の執務机に内蔵されたスピーカーが更新通知の音を知らせてくれた。部下が終えた仕事が上がってきたという内容のものだ。それを問題ないかを確認し、判断するために彼女は顔を締まらせ、机に置かれた最新型軽量VRヘッドゴーグルを頭につける。いつまでも虚しさを感じてはいけない。進まなければ。今の彼女には仕事が精神安定剤の役目を果たしていた。

 

「ほぉ。あの会社を子会社ごと買収できたか」

 

 どうやらうまく商談がいったみたいだ。臓器関連の新技術を開発した会社でいろんな組織が狙っていて難しい案件だったが彼女の部下は優秀な故上手くいった。

 

 六堂沙友里の元にいる人材はとても優れたものが多い。幹部クラスは富裕層、貧困層を関係なく能力で雇っている。もしこれが普通の企業ならばありえないこと。貧困層は小卒が多い。何故か?意図的に教育のレベルを落としているからだ。それは富裕層の利権を守るため。そして、反逆の芽を摘み取るためだ。弱者は強者に搾取され続ける。それがこの世界のルール。此処は2128年の日本。貧しきものは貧しさから逃れられない。富めるものは富め続ける。

 

 だからこそ、六堂沙友里の行った人事は異常だった。能力主義。能力によって評価し高い給料を払う。それは貧困層が富裕層に仲間入りする可能性があること。今まで敷いてきた政策を無駄にするそれは上級階層に喧嘩を売るようなものだった。彼らはあまりにも保守的で利己的だ。そうでなければ、この星はまだ青かった。そのため、異分子である彼女はかなりの恨みを買っている。まぁその分、賄賂やら権益譲渡などの甘言によって当初よりは敵は少ない。強硬手段を取る敵はもう潰してある。だからこのことに関してはあまり憂いはない。

 

 まぁ、その人事がなければアーコロジーをたかが数年間で手に入れることなどできなかっただろう。いくら小卒でも優秀なものは優秀なのだ。逆に数少ない大学を出ても役に立たないクズもいる。むしろ富裕層である実家の力を頼りに努力せず遊び呆けている無能が多い。それに比べたら貧困層出身の人間は素直で生きるか死ぬかの瀬戸際で仕事の覚えも良い。こちらのほうが遥かに人材として使いやすいのだ。

 

「使えそうなやつはいるかな?」

 

 彼女は買収予定の会社に勤めている社員の個人データをVR空間内で見る。

 

 莫大な量で数人いても確認に一ヶ月かかる情報の数だが、彼女は一人で閲覧する。その方が精査しやすいからだ。彼女の人を見抜く力が秀でているのは自明であろう。でなければこの若さで一国一城の君主にはなれない。そして、六道沙友里にとって確認は苦でもなく短時間で終わるものだ。彼女の天才的頭脳に特別に演算調整されたAIが合わさり超高速で情報処理できるためこの量なら1時間で終わるだろう。ちなみに他の人間が彼女の真似しようとすると脳が焼き切れる。

 

「この女はAR事業の研究で使える。この男は大気汚染除去技術に尽力してもらおう。次はーー」

 

 彼女はAIと言葉を交わしながら人事を決めていく。思ったより使えそうな人間が多かったみたいだ。その証拠に彼女の口元は僅かな笑みを浮かべていた。

 

 順調に進めていき関連子会社まで確認の手を伸ばしあと数分で作業が終わる。

 

 その時だ。

 

「す…鈴木悟?」

 

 その名前から六道沙友理は目が離せなかった。あまりにも平凡。これといって特徴のない男性。

 

 能力も特筆すべきものはない。彼女にとって必要のない人材。無価値なもの。搾取されるべきの存在。

 

 なのに、なのに、なのに目が離せない。

 

「ぇ…ぇ…」

 

 六道沙友理は動揺した。こんなの生まれて初めてと感じるほどに。

 

 胸が高鳴る。かつてない緊張が体に走る。背中が汗ばむ。顔が赤面し熱くなる。

 

 身体の異常を検知したのかヘッドゴーグルの機能が停止し目の前が真っ暗になった。彼女はプルプルと震える手でそれを頭から外し机の上に置く。

 

「…濡れてる?」

 

 手が透明な液体で濡れていた。涙だ。彼女は泣いていた。

 

 なぜ?

 

「あ、ああ」

 

 頭の片隅に霞のような思い出が浮かんでくる。大事な記憶。私が私になる前の記憶。

 

「い、いや。そんなにあるはずがない」

 

 前世の記憶。そんなものあるはずない。荒唐無稽すぎて彼女はそれを否定する。

 

 でも、感情だけはどうすることもできなかった。

 

 恋。かつて、妄想の中だけにあった恋い焦がれた激情だけが六道沙友里の中に残る。何よりも心揺さぶられる思い。心の隙間を埋めるもの。

 

 

 そう、彼女は神に叶えてもらったのだ。

 

 夢の続きを見られるように。

 

 

 

「…モモ×マレ」

 

 

 

 ぇ?そっち?

 

 

 

 

 ……夢の続きを見られるように。

 



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